説明

積層成形品の成形方法並びに成形装置

【課題】樹脂芯材表面に表皮を貼付した積層成形品の成形方法並びに成形装置において、表皮の後貼り加工方式により、表皮の表面風合、ソフト感を良好に維持できるとともに、設備の簡素化及び接着剤廃止により、コストダウンを図る。
【解決手段】第1ステージAに樹脂芯材20を成形する第1の成形金型50を配置するとともに、第2ステージBには表皮30を成形する第2の成形金型60を配置する。そして、第1の成形金型50における下型53と第2の成形金型60における上型62とを樹脂芯材20と表皮30との圧着金型に共用するとともに、第1の成形金型50における上型52の型温を下型53の型温に比べ高温に設定することで、樹脂芯材20の余熱を利用して表皮30と溶着一体化することが可能となり接着剤を廃止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ルーフトリム等、自動車用内装部品に好適な積層成形品の成形方法並びに成形装置に関するもので、所要形状に成形された樹脂芯材の表面に表皮を貼付して構成され、特に、表皮の表面風合、並びにソフト感を損なうことがないように、表皮の後貼り加工方法を採用し、その際、加工設備の簡素化並びに工数を短縮化することによるコストダウン、及び接着剤廃止による良好な作業環境を提供できる積層成形品の成形方法並びに成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は車両のドアパネルの室内面に装着される自動車用ドアトリム1を示すもので、自動車用ドアトリム1は、図11に示すように、所要形状に成形され、形状保持性及びドアパネルへの取付剛性を備えた樹脂芯材2の表面に表面風合及びソフト感を付与する表皮3を貼付した積層成形品が使用されることが多い。そして、この種ドアトリム1のように樹脂芯材2の表面に表皮3を貼付した積層成形品の成形方法としては、量産性を考慮した場合には表皮3を成形型内にセットし、成形型内で樹脂芯材を成形するインサート成形が提案されているが、樹脂芯材2の成形時における樹脂圧により表皮3が過度の圧力を受け、布地仕様の場合には毛倒れが発生し、また、樹脂シートの場合には絞流出等、外観不良を招き易いという欠点が指摘されているとともに、ソフト感を損なう傾向にある。
【0003】
従って、外観性能を良好に維持でき、かつ表皮3のクッション性能を生かすためには、樹脂芯材2を成形した後、表皮3を後貼り加工により貼付する方法が採用されている。すなわち、図12に示すように、樹脂芯材2を射出成形工法、モールドプレス成形工法等により所要形状に成形した後、この樹脂芯材2の表面に接着剤4を塗布・乾燥させ、その後、樹脂芯材2の表面に表皮3を接着剤を介して圧着加工により一体化するという方法が一般的である。この表皮3の後貼り加工方法の従来例については、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−287237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、樹脂芯材2を所要形状に成形した後、表皮3を後貼り加工により貼付するという方法を採用した場合、表皮3の表面風合を良好に維持でき、かつ表皮3のクッション性能を損なうことがないという利点があるものの、製造工程は図12に示すように、樹脂芯材2の成形工程、接着剤4の塗布工程、乾燥工程、表皮3の圧着加工工程のように、4工程を必要とし、工数が多く、かつ工程毎に金型や治具を用意する必要があることから、大幅なコストアップを招来するとともに、特に、接着剤4を使用するため、接着剤4の塗布工程、乾燥工程等、工数の長期化を招くばかりか、作業環境を悪化させるという問題点も同時に指摘されている。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、積層成形品の表面風合、並びにソフト感を維持するために、樹脂芯材の表面に後貼り加工により表皮を貼付する積層成形品の成形方法並びに成形装置であって、設備を簡素化することで大幅なコストダウンを招来するとともに、接着剤を廃止することにより、工数を短縮化でき、かつ作業環境を良好に維持できるようにした積層成形品の成形方法並びに成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意研究の結果、樹脂芯材の成形金型と表皮の成形金型を表皮の後貼り加工の金型に共用することで設備の簡素化を図るとともに、樹脂芯材成形時における上型の型温を下型の型温に比べ高温に設定することで樹脂芯材の余熱を利用して、接着剤を使用することなく、樹脂芯材と表皮の溶着一体化を達成できることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、所要形状に成形された樹脂芯材と、この樹脂芯材の表面に表皮を貼付してなる積層成形品の成形方法において、第1ステージに配置された第1の成形金型における上下型のキャビティ内に樹脂材料を供給し、キャビティ形状に沿って樹脂芯材を所要形状に成形するとともに、上型の型温を下型の型温に比べ高温に設定することにより、表皮対向面を軟化状態に維持する樹脂芯材の成形工程と、第2ステージに配置された第2の成形金型における上下型のキャビティ内に原反シートを供給し、キャビティ形状に沿って表皮を所要形状に成形する表皮の成形工程と、第1ステージにおける第1の成形金型の上下型を型開きし、次いで、下型上に樹脂芯材を保持するとともに、第2ステージにおける第2の成形金型の上下型を型開きし、次いで、上型に表皮を保持した状態で第1の成形金型における下型をスライド操作し、第2の成形金型における上型の直下位置に第1の成形金型における下型を位置決めする成形金型の位置決め工程と、第2ステージにおける第2の成形金型の上型を下降操作し、第1の成形金型の下型上に保持された樹脂芯材の軟化状態の表皮対向面に対して表皮を圧着加工し、接着剤を使用することなく樹脂芯材の表面に表皮を貼付する樹脂芯材に対する表皮の圧着加工工程とからなることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明方法に使用する成形装置は、所要形状に成形された樹脂芯材の表面に表皮を貼付してなる積層成形品の成形装置において、前記樹脂芯材を成形する第1ステージには、第1の成形金型が配置されるとともに、表皮を成形する一方、表皮を樹脂芯材の表面上に貼付する二種類の加工を行なう第2ステージには、第2の成形金型が配置されており、上記第1の成形金型は、上型が第1のプレス機に連結され、所定ストローク上下動可能に支持され、かつ樹脂芯材における表皮対向面を軟化させるために、上型の型温が下型の型温に比べ高温に設定されており、第2の成形金型は、上型が第2のプレス機に連結されるとともに、表皮の成形工程と、表皮の貼付工程とでストロークを相違させて上下動可能に支持され、第1の成形金型の下型と、第2の成形金型の下型が可動テーブル上に固着され、上記可動テーブルが第1ステージと第2ステージとの間を往復し、第1の成形金型における下型が第2の成形金型における上型の直下位置に位置決めできるようにしたことを特徴とする。
【0010】
ここで、積層成形品は、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ルーフトリム等の自動車用内装部品に適用できる。特に、表皮の表面風合が良好でソフト感が要求される内装部品には好適である。
【0011】
積層成形品は、樹脂芯材とその表面に貼付される表皮とから構成されるが、樹脂芯材としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等がある。また、表皮は、トップ層裏面にクッション層を裏打ちした積層シート材料が好ましい。トップ層としては、TPO(サーモプラスチックオレフィン)、PVC(軟質塩ビ)シート等の軟質合成樹脂シートや、クロス、不織布等の布地シートを使用でき、クッション層としては、ポリプロピレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等の発泡樹脂シートが使用できる。
【0012】
そして、第1ステージでは樹脂芯材の成形が行なわれ、第2ステージでは表皮の成形と樹脂芯材と表皮の圧着加工が行なわれる。ここで、第1ステージに配置される第1の成形金型は、第1のプレス機に連結される上型と、上型と型締め、型開き可能な下型とから構成されており、樹脂芯材の材料供給機構としては、下型に射出用シリンダが連結され、この射出用シリンダから下型に設けたマニホールド、ゲートを通じてキャビティ内に溶融樹脂を供給する機構を使用することができるが、上下型の型締め前にキャビティ内にシリンダのヘッドを投入して、下型の型面上にオープン状態で溶融樹脂を供給しても良い。また、樹脂芯材の素材として、熱可塑性樹脂材料をTダイ押出成形機によりシート状に押し出した樹脂シート材料を加熱軟化処理した後、金型内に投入しても良い。
【0013】
そして、第1の成形金型で重要なことは、上型の型温が下型の型温に比べ高温に維持されていることである。このことは、樹脂芯材の余熱を利用して、接着剤を使用することなく表皮との一体化を達成するためである。例えば、下型の型温が40℃であるのに対して、上型の型温を90℃に設定した場合には、樹脂芯材の表面温度を140℃に保つことができ、この状態で表皮と圧着すれば充分に両者を溶着一体化できる。
【0014】
更に、第1ステージにおける第1の成形金型における下型は、可動テーブルに固定されており、可動テーブルは、所定ストローク往復動作することにより、第1の成形金型における下型は第2ステージまで搬送されて、樹脂芯材の表面に表皮を圧着加工する際の圧着金型として共用されることになる。
【0015】
次いで、第2ステージに配置されている第2の成形金型は、第2のプレス機に連結された上型と、この上型とマッチドダイ方式により型締め、型開きされる下型とから構成されており、この下型についても、可動テーブルに固定されており、第1の成形金型における下型が第2ステージまで搬送される時には、第2の成形金型における下型は干渉しない位置まで退避している。そして、第2の成形金型における上型は、表皮を成形した後、表皮を型面に保持する必要があることから、表皮の保持機構を備えているとともに、表皮の成形工程と、樹脂芯材の表面に表皮を圧着する圧着工程では上下型の型クリアランスを相違させる必要があるため、第2のプレス機はストロークが表皮成形用ストロークと表皮圧着加工用ストロークの二段階に制御される。
【0016】
このように構成された成形装置を使用して、積層成形品を成形するには、第1ステージに配置された第1の成形金型により樹脂芯材を所要形状に成形するとともに、上型の型温を下型の型温に比べ高温に設定することで、樹脂芯材の表皮対向面は軟化状態に維持されている。また、第2ステージにおける第2の成形金型により、表皮を所要形状に成形する。
【0017】
次いで、第1の成形金型の下型に樹脂芯材を保持するとともに、第2の成形金型の上型に表皮を保持して、可動テーブルを動作させることにより、樹脂芯材を保持した第1の成形金型の下型を第2ステージまで搬送させて、第2の成形金型における上型と、第1の成形金型における下型とを対応位置に位置決めすることで、樹脂芯材と表皮とを適正位置に位置決めすることができる。
【0018】
その後、第2のプレス機を下降動作させることで、樹脂芯材に対して表皮を圧着できる。この時、樹脂芯材の表皮対向面は軟化状態であるため、樹脂芯材の余熱により表皮の対向面を溶融させて、接着剤を使用することなく、表皮を一体的に溶着することができる。尚、樹脂芯材に表皮を圧着加工する際のプレス圧は0.5kg/cm2 であり、従来のインサートインジェクション工法では300kg/cm2 の樹脂圧が加わっていることを考慮すれば、表皮の表面風合が良好でかつソフト感を良好に維持できることが理解できる。
【0019】
以上の構成から明らかなように、本発明方法によれば、樹脂芯材を成形した後、予備成形した表皮を後貼り加工で樹脂芯材に貼付するため、表皮の表面風合が良好で、かつ良好なソフト感が得られる。更に、樹脂芯材を成形する第1の成形金型と表皮を成形する第2の成形金型の一部を表皮の圧着加工金型として共用することで、金型の個数を減らし、設備の簡素化を達成するとともに、第1の成形金型における上型の型温を下型の型温に比べ高温に設定し、樹脂芯材の余熱を利用して表皮と溶着一体化することで接着剤を廃止することができるため、接着剤の塗布工程、乾燥工程を廃止でき、かつ作業環境も良好に維持できる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明に係る積層成形品の成形方法並びに成形装置によれば、樹脂芯材と表皮を成形した後、樹脂芯材の表面に表皮を後貼り加工するため、積層成形品の風合及びソフト感を良好に保つことができ、製品の品質性能を高めることができるという効果を有するとともに、成形装置の構成は、樹脂芯材を成形する第1の成形金型と表皮を成形する第2の成形金型の一部を表皮の圧着加工金型として共用することで、金型設備を簡素化することができるとともに、接着剤を廃止することで、接着剤の塗布工程、乾燥工程を廃止でき、工数を更に短縮化できるとともに、作業環境を良好に維持できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る積層成形品の成形方法を適用して製作した自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】本発明に係る積層成形品の成形装置の概略構成を示す説明図である。
【図4】図3に示す成形装置を使用するドアトリムの成形方法における樹脂芯材の成形工程を示す説明図である。
【図5】図3に示す成形装置を使用するドアトリムの成形方法における表皮の成形工程を示す説明図である。
【図6】図3に示す成形装置を使用するドアトリムの成形方法における各成形金型の型開き状態を示す説明図である。
【図7】図3に示す成形装置を使用するドアトリムの成形方法における下型の搬送工程を示す説明図である。
【図8】図3に示す成形装置を使用するドアトリムの成形方法における樹脂芯材と表皮との圧着加工工程を示す説明図である。
【図9】本発明に係る積層成形品の成形装置の変形例を示す説明図である。
【図10】従来の自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図11】図10中XI−XI線断面図である。
【図12】従来の表皮後貼り工法を採用したドアトリムの成形方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る積層成形品の成形方法並びに成形装置の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0023】
図1乃至図9は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明方法を適用して製作した自動車用ドアトリムを示す正面図、図2は同自動車用ドアトリムの構成を示す断面図、図3は本発明方法の概要を示す説明図、図4乃至図8は本発明方法の各工程を示す説明図、図9は本発明に係る成形装置の変形例を示す説明図である。
【0024】
図1,図2において、本発明に係る積層成形品の成形方法を適用して製作した自動車用ドアトリム10は、所望の曲面形状に成形され、保形性及びドアパネルへの取付剛性を備えた樹脂芯材20と、この樹脂芯材20の表面に貼付された表皮30とから大略構成されている。尚、ドアトリム10には、各種機能部品が取り付けられている。例えば、中接部ややフロント側にインサイドハンドルユニット11、表面の室内側に膨出するアームレスト12の上面にはプルハンドルユニット13、パワーウインドウスイッチユニット14が取り付けられ、アームレスト12の下方には備品を収容できるドアポケット15、及びそのフロント側にはドアトリム10と一体、あるいは別体にスピーカグリル16が設けられている。
【0025】
本実施例では、樹脂芯材20として、ポリプロピレン樹脂にタルクを混入した材料が使用されているが、使用できる樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等がある。
【0026】
また、表皮30としては、トップ層31として、TPOシートが使用され、その裏面に裏打ちされたクッション層32としては、ポリプロピレンフォームが使用されているが、トップ層31として、塩ビシート、クロス、不織布等の布地シート、また、クッション層32として、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォームを代替することができる。そして、本発明方法を適用して製作したドアトリム10は、表皮30の表面風合が良好、すなわち、トップ層31に形成された絞模様が美麗に現出しているとともに、クッション層32のソフト感が生かされた優れたクッション性能を実現したドアトリム10が提供されている。
【0027】
このように、表皮30の表面風合及びソフト感を良好に保つために、後述するように、本発明方法は、インサートインジェクション工法ではなく、表皮30の後貼り加工方法が採用されている。そして、本発明方法は、表皮30の後貼り加工方法を採用する際、成形装置40の構成を簡素化でき、かつ接着剤を不要とできることが特徴である。図3は、本発明方法に使用する成形装置40の概略が示されており、図3を基に成形装置40の構成及びこの成形装置40を使用した本発明方法の概略について説明する。本発明方法に使用する成形装置40は、樹脂芯材20を成形するための第1ステージAには、第1の成形金型50が配置されているとともに、表皮30を成形するための第2ステージBには、第2の成形金型60が配置されている。
【0028】
まず、樹脂芯材20を成形する時に使用する第1の成形金型50の構成について説明する。第1の成形金型50は、第1のプレス機51に上型52が連結されており、この第1のプレス機51の駆動により、上型52が所定ストローク上下動作を行なう。また、この上型52とマッチドダイ方式により型締め及び型開きする下型53が設けられているが、この下型53は固定盤41に対して図3中矢印方向に往復動作を行なう可動テーブル42の上面に固定されている。
【0029】
従って、上型52は第1のプレス機51により所定ストローク上下動作を行なうとともに、下型53は、樹脂芯材20を保持した状態で可動テーブル42の往復動作に応じて第1ステージAと第2ステージBの間を往復動作する。更に、第1のプレス機51に連結される上型52の型温は90℃に保たれており、下型53の型温40℃に比べ高温に保つことにより、樹脂芯材20の一面(表皮対向面)20aは軟化状態に維持されている。従って、樹脂芯材20の余熱を有効に利用して、接着剤を使用することなく樹脂芯材20と表皮30とを溶着一体化することができる。そして、樹脂芯材20は、上下型52,53で画成されるキャビティ形状に沿って所要形状に成形されるが、樹脂芯材20の樹脂材料の供給系としては、射出用シリンダ54が下型53に連結される。
【0030】
射出用シリンダ54から供給される溶融樹脂Mは、上下型52,53間のキャビティ間に射出充填される。この時、下型53には、マニホールド531、ゲート532からなる樹脂通路が設けられている。尚、射出用シリンダ54に替えて、上下型52,53が型開き状態にある時、下型53の型面に溶融樹脂Mの注入ノズルを通じて供給する方法を採用することもできる。
【0031】
次いで、第2ステージBにおける第2の成形金型60の構成について説明する。第2の成形金型60は、第2のプレス機61に連結された上型62と、この上型62とマッチドダイ方式で型締め、型開きされる下型63とから構成されており、下型63は、可動テーブル42の上面に固着されている。従って、第2ステージBにおいて、表皮30を成形するには、原反シートSを加熱軟化処理した後、第2の成形金型60内に投入し、上下型62,63を型締めすることにより、簡単に表皮30を所要形状に成形することができる。尚、可動テーブル42が往復動作することで、第1ステージAにおける下型53が第2ステージBの上型62の直下位置まで搬送される時には、第2の成形金型60における下型63は干渉しない位置まで退避している。更に、表皮30を成形する機能と、表皮30を樹脂芯材20の表面に圧着させる機能とを備えるように、第2の成形金型60における上型62には、成形した表皮30を保持するための真空吸引機構621が装備されている。この実施例では、真空吸引ポンプから真空吸引力を上型62の型面に作用させて、真空吸引力を表皮30に作用させて保持するようにしている。
【0032】
次いで、図4乃至図8に基づいて、上記成形装置40を使用してドアトリム10の成形方法について順を追って説明する。まず、図4は樹脂芯材20の成形工程を示すもので、第1ステージAにおいて、第1の成形金型50において第1のプレス機51が動作して、上型52が下死点まで下降し、上下型52,53が型締めされる。そして、射出用シリンダ54から溶融樹脂Mが供給され、下型53のマニホールド531、ゲート532を通じて、上下型52,53間のキャビティ内に溶融樹脂Mが射出充填されて、樹脂芯材20が所要形状に成形される。この時、射出用シリンダ54から供給される溶融樹脂Mは200℃であるが、上型52の型温が90℃、下型53の型温が40℃に設定されているため、樹脂芯材20の表皮対向面20aの温度は140℃に保たれ、軟化状態を維持している。
【0033】
次に、図5は表皮30の成形工程を示すもので、第2ステージBにおいて、第2の成形金型60における上下型62,63が型開き状態にある時、表皮30の原反シートS(TPOシート+ポリプロピレンフォームの積層シート材料の原反)を加熱軟化処理した後、第2の成形金型60の型内に投入し、第2のプレス機61を駆動させて、上型62を下死点まで下降することで、表皮30(トップ層31、クッション層32とからなる)を所要形状に絞り成形する。このように、図4に示す第1ステージAで樹脂芯材20が成形されるのと同時に、図5に示す第2ステージBにおいて表皮30が所要形状に成形される。
【0034】
その後、図6に示すように、第1ステージA及び第2ステージBにおいて、それぞれ第1の成形金型50の第1のプレス機51、第2の成形金型60における第2のプレス機61が駆動して、第1の成形金型50及び第2の成形金型60において型開きが行なわれる。この時、第1ステージAにおいては、成形された樹脂芯材20は下型53上に保持されるとともに、第2ステージBにおいては、成形された表皮30は真空吸引機構621の吸引作用により上型62に保持されている。
【0035】
その後、図7に示すように、固定盤41上に設けられた可動テーブル42が矢印方向にスライド動作し、第1の成形金型50における下型53は、第2ステージBまで搬送される。すなわち、第2の成形金型60における上型62の直下位置で第1の成形金型50における下型53が停止する。従って、この状態で、樹脂芯材20と表皮30とは適正に位置決めされることになる。
【0036】
そして、第2ステージBに第1の成形金型50における下型53が搬送されれば、図8に示すように、第2のプレス機61が駆動して、第1の成形金型50における下型53に対して第2の成形金型60の上型62が型締めされ、樹脂芯材20の表面に表皮30を圧着加工する。この時、樹脂芯材20における表皮対向面20aは、略140℃の軟化状態であるため、表皮30におけるクッション層32を溶融させて、接着剤を使用することなく、樹脂芯材20の表面に表皮30を溶着一体化することができる。
【0037】
そして、成形が完了すれば、第2ステージBにおいて第2のプレス機61が上昇し、型開きが行なわれる。従って、ドアトリム10を脱型した後、可動テーブル42がスライド動作して、図4に示す位置まで戻れば良い。
【0038】
このように、本発明方法によれば、樹脂芯材20を成形する第1の成形金型50の下型53と表皮30を成形する第2の成形金型60における上型62を圧着金型として共用するため、従来使用していた樹脂芯材20と表皮30との圧着金型を廃止することができる。また、樹脂芯材20の余熱を利用して表皮30を溶着一体化するため、接着剤の塗布工程、乾燥工程も廃止できるため、設備の簡素化並びに工数の短縮化により大幅なコストダウンを招来できるとともに、接着剤を不要としたため、排気、換気設備の廃止による設備の簡素化及び作業環境を良好に維持できるという利点がある。
【0039】
次いで、図9は本発明の変形例を示すもので、樹脂芯材20の素材として樹脂シート材料を使用するための成形装置40が示されている。この図9に示す変形例においては、第1ステージにおける第1の成形金型50の構成が一部変更されているが、それ以外は全て同じであるため、変更点だけについて説明する。
【0040】
第1の成形金型50は、第1のプレス機51に上型52が連結され、かつ上型52の型温が90℃のように、下型53の型温40℃に比べ高温に設定される点は上述実施例と同一であるが、下型53は加熱軟化処理した樹脂シート材料S1を素材として用いるため、マニホールド、ゲート等の樹脂通路が下型53には設けられておらず、第1の成形金型50における上下型52,53は、上型52が高温に維持されたプレス機能を備えたプレス金型である。この変形例においては、樹脂芯材20を成形するために熱可塑性樹脂をTダイ押出成形機によりシート状に押し出した樹脂シート材料S1を材料として使用しており、この樹脂シート材料S1を加熱軟化処理した後、第1の成形金型50が型開き状態にある型内に投入するが、上述実施例のものでは、下型53と射出用シリンダ54との精度の良い合わせ機構を必要としたが、この変形例では樹脂シート材料S1を使用するため、上述実施例の合わせ機構を不要とでき、廉価に対応することができる。また、この変形例においても、第1の成形金型50で樹脂芯材20を成形するとともに、第2ステージBにおける第2の成形金型60で表皮30を成形し、上型52,62を上昇させて型開き操作した後、可動テーブル42を動作させ、第1の成形金型50における下型53と第2の成形金型60における上型62を使用して、樹脂芯材20と表皮30とを圧着一体化するという工程は同一であり、上述した実施例同様、設備を簡素化でき、かつ接着剤を不要とすることから大幅なコストダウンを見込める。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本実施例では、樹脂芯材20表面に表皮30を貼付一体化したドアトリム10の成形方法に適用したが、ドアトリム10以外の自動車用内装部品はもとより、樹脂芯材20表面に表皮30を貼付した積層成形品全般に適用することができる。また、第1ステージAにおける第1の成形金型50に樹脂芯材20の材料を供給する機構としては、射出用シリンダ54の他に、モールドプレス成形用の注入シリンダ、あるいは樹脂シート材料タイプに適用する等、樹脂芯材20の材料供給形態は、任意に選択できる。
【符号の説明】
【0042】
10 自動車用ドアトリム
20 樹脂芯材
20a 表皮対向面
30 表皮
31 トップ層
32 クッション層
40 成形装置
41 固定盤
42 可動テーブル
50 第1の成形金型
51 第1のプレス機
52 上型
53 下型
531 マニホールド
532 ゲート
54 射出用シリンダ
60 第2の成形金型
61 第2のプレス機
62 上型
621 真空吸引機構
63 下型
A 第1ステージ
B 第2ステージ
M 溶融樹脂
S 原反シート
S1 樹脂シート材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要形状に成形された樹脂芯材(20)と、この樹脂芯材(20)の表面に表皮(30)を貼付してなる積層成形品(10)の成形方法において、
第1ステージ(A)に配置された第1の成形金型(50)における上下型(52,53)のキャビティ内に樹脂材料(M,S1)を供給し、キャビティ形状に沿って樹脂芯材(20)を所要形状に成形するとともに、上型(52)の型温を下型(53)の型温に比べ高温に設定することにより、表皮対向面(20a)を軟化状態に維持する樹脂芯材(20)の成形工程と、
第2ステージ(B)に配置された第2の成形金型(60)における上下型(62,63)のキャビティ内に原反シート(S)を供給し、キャビティ形状に沿って表皮(30)を所要形状に成形する表皮(30)の成形工程と、
第1ステージ(A)における第1の成形金型(50)の上下型(52,53)を型開きし、次いで、下型(53)上に樹脂芯材(20)を保持するとともに、第2ステージ(B)における第2の成形金型(60)の上下型(62,63)を型開きし、次いで、上型(62)に表皮(30)を保持した状態で第1の成形金型(50)における下型(53)をスライド操作し、第2の成形金型(60)における上型(62)の直下位置に第1の成形金型(50)における下型(53)を位置決めする成形金型(50,60)の位置決め工程と、
第2ステージ(B)における第2の成形金型(60)の上型(62)を下降操作し、第1の成形金型(50)の下型(53)上に保持された樹脂芯材(20)の軟化状態の表皮対向面(20a)に対して表皮(30)を圧着加工し、接着剤を使用することなく樹脂芯材(20)の表面に表皮(30)を貼付する樹脂芯材(20)に対する表皮(30)の圧着加工工程と、
からなることを特徴とする積層成形品の成形方法。
【請求項2】
所要形状に成形された樹脂芯材(20)の表面に表皮(30)を貼付してなる積層成形品(10)の成形装置(40)において、
前記樹脂芯材(20)を成形する第1ステージ(A)には、第1の成形金型(50)が配置されるとともに、表皮(30)を成形する一方、表皮(30)を樹脂芯材(20)の表面上に貼付する二種類の加工を行なう第2ステージ(B)には、第2の成形金型(60)が配置されており、上記第1の成形金型(50)は、上型(52)が第1のプレス機(51)に連結され、所定ストローク上下動可能に支持され、かつ樹脂芯材(20)における表皮対向面(20a)を軟化させるために、上型(52)の型温が下型(53)の型温に比べ高温に設定されており、第2の成形金型(60)は、上型(62)が第2のプレス機(61)に連結されるとともに、表皮(30)の成形工程と、表皮(30)の貼付工程とでストロークを相違させて上下動可能に支持され、第1の成形金型(50)の下型(53)と、第2の成形金型(60)の下型(63)が可動テーブル(42)上に固着され、上記可動テーブル(42)が第1ステージ(A)と第2ステージ(B)との間を往復し、第1の成形金型(50)における下型(53)が第2の成形金型(60)における上型(62)の直下位置に位置決めできるようにしたことを特徴とする積層成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−179485(P2010−179485A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22612(P2009−22612)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】