説明

窒化アルミニウム単結晶の製造方法

【課題】 大粒で結晶性の良好な窒化アルミニウム単結晶を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、アルミニウムガスまたはアルミニウム酸化物ガスを発生する原料ガス発生用基板と、
炭素成形体と、
窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶との存在下に窒素ガスを流通して、加熱環境下で窒化アルミニウム単結晶を成長させるに際して、
原料ガス発生用基板上に、炭素成形体を窒素ガス流通方向に対してほぼ平行に間隔を空けて配置し、
窒素ガス流通方向に対して上流側に原料ガス発生用基板を配置し、下流側に窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を配置して、該種結晶に窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性が良好な窒化アルミニウム単結晶の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、高い機械的強度、および放熱性能に優れた材質であるため、フィラー、電子・電気部品の基板、放熱部材として利用されている。特に、AlN単結晶は、格子の整合性および紫外光透過性の観点から、青色可視域−紫外域の短波長光を発する発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等の発光デバイスを構成する基板材料として注目されている。
【0003】
現在、窒化アルミニウム単結晶は、有機金属気相成長法(MOVPE法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)など気相成長法、化学輸送法、フラックス法、昇華再結晶法などの方法で薄膜単結晶やバルク単結晶が製造されている。中でも、化学輸送法、昇華再結晶法によると、板状結晶や針状結晶などの形状の異なる結晶性の高い単結晶が得られるため、様々な検討が行われている。
【0004】
具体的には、アルミナと他の金属酸化物を原料として、窒素雰囲気中、炭素存在下、1650℃以上2200℃以下の温度で加熱することにより、針状、および板状の窒化アルミニウム単結晶を製造する方法(特開2005−132699公報:特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、アルミナ以外の金属酸化物を併用するため、得られる窒化アルミニウム単結晶に不純物が含まれるおそれがあると言う点で改善の余地があった。また、窒化アルミニウムの析出箇所を制御することができず、必要とする部分にのみ窒化アルミニウムを選択的に析出させることが困難であった。さらに特許文献1の方法では、アルミナ等の原料を炭素製るつぼに収納し、蓋をした状態にて窒素雰囲気中で加熱している。蓋により窒素の流通が阻害されるため、窒化アルミニウムの生成効率は不十分と考えられる。
【0005】
特許文献2〜4には、昇華法による窒化アルミニウム単結晶の製造法に関する改良技術が提案されている。昇華法によれば、高品質な窒化アルミニウム単結晶の製造が可能ではあるが、高純度窒化アルミニウム粉末或いは多結晶体を製造し、さらにこれを昇華温度まで加熱して単結晶を成長させるため、製造効率が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−132699公報
【特許文献2】特開2006−27988公報
【特許文献3】特開2007−214547公報
【特許文献4】特開2008−13390公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、結晶性の良好な窒化アルミニウム単結晶を効率よく、簡便に製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
現在窒化アルミニウムとして汎用されている窒化アルミニウム多結晶粉末は、アルミナ粉末と炭素粉末とを窒素雰囲気中で加熱して得ている。この場合、アルミナから生成した原料ガスは、近接した炭素粉末から発生する還元性ガスによって直ちに還元窒化されるため、大粒の単結晶が得られず、多結晶粉末が生成すると考えられる。この考察から、本発明者らは、アルミナ等から発生した原料ガスを、ある程度浮遊状態を保った後に、還元性ガスと接触させることで、窒化アルミニウム単結晶が析出する可能性を見出した。しかし、原料ガス流が乱流となると、炭素源との接触頻度が高くなり、炭素源近傍に窒化アルミニウム単結晶が粒状ないし針状に析出する可能性が高くなり、膜状の単結晶を得ることは容易ではない。
【0009】
そこで、さらに検討の結果、原料ガスおよび還元性ガスの流通環境を一定にして、原料ガスおよび還元性ガスの浮遊状態を保ち、所望の析出部までガスを移送することで、所望の析出部に効率よく均一に窒化アルミニウムが析出され、良好な性状の単結晶が得られる可能性を見出した。上記のような着想に基づいて完成された本発明は、下記事項を要旨として含む。
【0010】
(1)アルミニウムガスまたはアルミニウム酸化物ガスを発生する原料ガス発生用基板と、
少なくとも2つの炭素成形体と、
窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶との存在下に窒素ガスを流通して、加熱環境下で窒化アルミニウム単結晶を成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、
原料ガス発生用基板上に、炭素成形体を窒素ガス流通方向に対してほぼ平行に間隔を空けて配置し、
窒素ガス流通方向に対して上流側に原料ガス発生用基板を配置し、下流側に窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を配置して、該種結晶に窒化アルミニウム単結晶を成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0011】
(2)窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を、非炭素製基板上に載置し、
該非炭素製基板の、窒素ガス流通方向に対して上流側の端面が、原料ガス発生用基板の下方に位置するように配置する(1)に記載の製造方法。
【0012】
(3)炭素成形体の間隔が0.5〜10mmとなるように炭素成形体を原料ガス発生用基板上に配置する(1)に記載の製造方法。
【0013】
(4)炭素成形体の、窒素ガス流通方向に対して下流側の端面から、1〜50mmの範囲に、窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を配置する(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、結晶性の良好な窒化アルミニウム単結晶を効率よく、簡便に製造する方法が提供される。特に本発明の方法によれば、窒化アルミニウムが均一に析出するため、種結晶を成長させて、大粒の窒化アルミニウム単結晶が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】窒化アルミニウム単結晶の製造方法に好適に使用できる単結晶製造装置、および原料ガス発生用基板と炭素成形体と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶との位置関係の一例を示す概略断面図である。
【図2】原料ガス発生用基板と炭素成形体と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶との位置関係の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、その最良の形態を含めて、図面を参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、まず、単結晶製造装置1内に、アルミニウムガスまたはアルミニウム酸化物ガスを発生する原料ガス発生用基板5と、少なくとも2つの炭素成形体6と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7とを所定の位置関係を満たすように配置する。
【0018】
(窒化アルミニウム単結晶製造装置)
図1に、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法に好適に使用できる単結晶製造装置の概略断面図の一例を示す。以下、この図1を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
上記単結晶製造装置1は、上流側に窒素ガスを供給する窒素ガス供給口2、下流側に系内のガスを排出する排出口3を有する反応容器4を具備する。反応容器4内には、原料ガス発生用基板5と、炭素成形体6と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7とを所定の位置関係を満たすように配置する。反応容器4は、ヒーター9で加熱できるようにする。
【0020】
なお、上記単結晶製造装置において、各部材、例えば、反応容器4、窒素ガス供給口2、排出口3は、当然のことながら、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の温度において、十分に耐えうる材質で構成されるものとする。
【0021】
本発明においては、上記のような単結晶製造装置を使用して、窒化アルミニウム単結晶を成長させることができるが、以下に、その方法をより詳細に説明する。
【0022】
(反応容器)
本発明において、使用する反応容器4は、上記の通り、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の温度、具体的には、1500℃以上2400℃以下の温度において、十分に耐えうる材質で構成される。具体的な材質としては、窒化アルミニウム、窒化硼素の焼結体、カーボンなどが挙げられる。中でも、製造する窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、反応容器4は、窒化アルミニウム焼結体よりなることが好ましい。また、窒化アルミニウム焼結体の中でも、焼結助剤を含まないものを使用することが好ましい。
【0023】
反応容器4の形状、大きさは、特に制限されるものではなく、工業的に製造可能な範囲のものであればよい。中でも、反応容器4の製造が容易で、かつ、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際に供給する窒素ガスが反応容器4内に均一に供給し易いという点から、円筒状であることが好ましい。
【0024】
(原料ガス発生用基板)
原料ガス発生用基板5は、窒素と反応して窒化アルミニウムを生成する原料アルミニウムガスを発生させる物質からなる。本発明における原料アルミニウムガスは、アルミニウムガスまたはアルミニウム酸化物ガスであり、アルミニウムガスを発生させるためには金属アルミニウムが用いられ、またはアルミニウム酸化物ガスを発生させる場合には、酸化アルミニウム(アルミナ、サファイヤ)が用いられる。
【0025】
酸化アルミニウムは、アルミニウムが酸化されたものであればよく、市販の酸化アルミニウム、サファイヤや、窒化アルミニウムを酸化させたものを使用することができる。窒化アルミニウムを酸化させたものについては、前記反応容器外で予め酸化させたものを使用することができるし、前記反応容器内で窒化アルミニウムを酸化したものを使用することができる。
【0026】
このような酸化アルミニウムの中でも、より工程を簡略化し、得られる窒化アルミニウム単結晶の収量を高めるためには、窒化アルミニウムを酸化させたものではなく、通常の酸化アルミニウム、または、サファイヤ(以下、窒化アルミニウムを酸化させたものではなく、この通常の酸化アルミニウム、または、サファイヤをAlとする場合もある。)を使用することが好ましい。
【0027】
本発明において、酸化アルミニウム(Al)を使用する場合には、特に制限されるものではないが、得られる窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、純度の高いものを使用することが好ましい。ただし、市販の酸化アルミニウム(Al)を製造する上で不可避的に混入される不純物を除外するものではなく、酸化アルミニウム(Al)の純度としては、99%以上であることが好ましく、さらに99.9%以上であることが好ましい。
【0028】
上記原料ガス発生用基板の形状は、特に制限されるものではないが、特に酸化アルミニウム成形体、具体的にはアルミナプレートを使用することが好ましい。
【0029】
このような条件を満足する酸化アルミニウムは、市販されており、その一例として例示すれば、和光純薬工業株式会社製の酸化アルミニウム和光特級、株式会社高純度化学研究所製の酸化アルミニウムALO01PB、ALO02PB、ALO03PB、ALO16PB、ALO13PB、ALO14PB、ALO11PB、ALO12PBを使用することができる。さらに、株式会社京セラ製アルミナA−479,A−480,A601、同じく京セラ製単結晶サファイヤを使用することができる。また、金属アルミニウムとしては、例えば株式会社高純度化学研究所製のAlEシリーズの板状、箔状の純度99%以上の市販品を使用することができる。
【0030】
(炭素成形体)
本発明では、原料ガスを還元窒化する際の還元剤として炭素成形体6を使用する。炭素成形体6は、有形である限りその形態は特に限定はされないが、好ましくは柱状、ブロック状である。したがって、好ましい炭素成形体としては、たとえばカーボンブラック等の炭素粉末を少量のバインダー樹脂で成形した柱状体、ブロック体、またグラファイト等を削り出して成形した柱状体、ブロック体などが挙げられる。
【0031】
本発明の製法において還元剤として炭素粉末を使用すると、炭素のガス化および還元窒化反応が急速に起こり、反応が十分に進行する前に反応系から炭素が消失したり、また窒化アルミニウムの生成が急速になり、良好な単結晶が得られない。
【0032】
しかし、還元剤として炭素成形体を使用すると、炭素のガス化が成形体表面に限定されるため、炭素の急速なガス化が抑制される。この結果、炭素成形体から生成する還元性ガス(一酸化炭素ガス等)の量が適切になり、還元窒化反応が適度に抑制され、良好な単結晶が得られると考えられる。このような炭素の急速なガス化を抑制するため、本発明で使用する炭素成形体は、その重量当たりの有効表面積が0.5m/g以下であることが好ましく、さらに0.25m/g以下であることが好ましく、特に0.025m/g以下であることが好ましい。また、炭素成形体が大きすぎても、還元力の増大による窒化アルミニウムの不析出等の問題を招くおそれがあるため、炭素成形体の有効表面積は、1.7×10−4/g以上であることが好ましく、さらに2.0×10−4/g以上であることが好ましく、特に2.7×10−4/g以上であることが好ましい。ここで、有効表面積とは、細孔などを考慮しない表面積であって、たとえば直方体の場合には、上下面および4つの側面部分の単位重量あたりの面積をいう。
【0033】
(窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶)
本発明では、上記の炭素成形体の下流側に窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7を配置して、該単結晶7に窒化アルミニウムを析出させ、窒化アルミニウム単結晶を得る。種結晶7は、窒化アルミニウム単結晶が析出しうる構造であり、窒化アルミニウムの析出条件下で耐性を有する材質であれば特に限定はされない。好ましくは窒化アルミニウム(AlN)単結晶、炭化珪素(SiC)単結晶、窒化ガリウム単結晶、サファイヤ、窒化アルミニウム多結晶、炭化珪素多結晶、アルミナ等が用いられる。これらの中でも特に好ましくは窒化アルミニウム単結晶が用いられる。本発明の製法において、窒化アルミニウム単結晶を種結晶として用いることで、種結晶に窒化アルミニウムが均一に析出し、大粒の窒化アルミニウム単結晶が得られる。この大粒の窒化アルミニウム単結晶を所望の大きさ、形状に切断することで、種々の用途に適用可能な窒化アルミニウム単結晶成形体を得ることができる。
【0034】
工業的に製造されている炭化珪素単結晶、窒化ガリウム単結晶、サファイヤを種結晶とする場合、鏡面研磨が施された結晶基板を用いることができ、窒化アルミニウム析出後も下地の鏡面を維持した状態で窒化アルミニウム単結晶が析出可能である。但し、この様な異種材料を基板(種結晶)とする場合、格子定数や熱膨張係数が種結晶とその上に析出させる窒化アルミニウムとの間で差があるため、クラックなどの物理的欠陥が生じる恐れがある。
【0035】
(非炭素製基板)
窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7は、炭素成形体6の下流側に配置される限り、その配置法には特に限定はないが、好ましくは非炭素製基板8上に載置して、炭素成形体6の下流側に配置される。非炭素製基板8としては、加熱環境下において還元性ガスを発生しない材質からなり、窒化アルミニウムの析出条件下において耐熱性を有する種々の基板が用いられる。この基板としては、たとえば窒化アルミニウム多結晶、炭化珪素単結晶、サファイヤ、窒化アルミニウム多結晶、炭化珪素多結晶、窒化珪素多結晶、タングステン、モリブデン等が用いられる。
【0036】
また、非炭素製基板8の形状は板状であればよく、その厚みは前記原料ガス発生用基板5と同程度かそれ以下であることが好ましい。また、非炭素製基板8は、図1に示したように、表面が傾斜していてもよい。
【0037】
(原料ガス発生用基板5と炭素成形体6と種結晶7の位置関係)
本発明では、原料ガス発生用基板5と炭素成形体6と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7とを所定の位置関係を満たすように反応容器4内に配置した状態で窒化アルミニウムの生成を行う(図1および図2参照)。
【0038】
具体的には、図1に断面図、図2に平面図を示したように、原料ガス発生用基板5上に、炭素成形体6を窒素ガス流通方向に対してほぼ平行に間隔を空けて配置し、窒素ガス流通方向に対して上流側に原料ガス発生用基板5を配置し、下流側に窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7を配置する。
【0039】
窒素ガスは、前述したように、窒素ガス供給口2から供給され、反応容器4内を流通して、排出口3から排出される。したがって、反応容器4において、窒素ガス供給口2側を「上流」と呼び、排出口3側を「下流」と呼ぶ。窒素ガスは、上流側から下流側に流通する。反応容器4内には、原料ガス発生用基板5、炭素成形体6、単結晶7が配置されているため、容器4内おけるガスの流通状態は必ずしも一様ではないが、本発明における「窒素ガス流通方向」とは、窒素ガス供給口2と、排出口3とを結ぶ直線によって定義され、実質的には、筒状の反応容器4の軸線と平行である。
【0040】
図2に示したように、複数の炭素成形体6が、原料ガス発生用基板5上にほぼ平行に間隔を空けて配置される。ここで、炭素成形体6の数は2以上であれば良く、反応容器4の容量および後述する炭素成形体6同士の間隔を考慮して、適宜に設定される。また「ほぼ平行」とは、前述した窒素ガス流通方向(図中のA−A線)と炭素成形体6の中心軸とのなす角θが、±25°以下、好ましくは±22°以下、さらに好ましくは±18°以下にあることをいう。炭素成形体6を上記のように配置することで、窒素ガス、原料ガスおよび還元性ガスの流れが整流となり、窒化アルミニウムの無秩序な生成が抑制され、下流側に配置された窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7上に均一に窒化アルミニウム単結晶が析出する。
【0041】
なお、図2では、炭素成形体6が柱状体の例を示したが、複数のブロック状炭素成形体を窒素ガス流通方向に沿って直列に配置してもよい。
【0042】
炭素成形体6同士の間隔は、好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは0.5〜8mm、特に好ましくは0.5〜5mmである。炭素成形体6同士の間隔が狭すぎる場合には、原料ガス発生用基板5から発生した原料ガスの流通が阻害されるおそれがあり、また広すぎる場合には、隣り合う炭素成形体との中間位置に窒化アルミニウムの析出が生じ、種結晶まで原料ガスが輸送されにくくなくなるため好ましくない。炭素成形体の間隔が10mmを超えるとその中間地点に窒化アルミニウムが析出してしまい、目的とする種結晶の成長が阻害される場合がある。この原因は必ずしも明らかではないが、炭素成形体同士の間隔が広すぎる場合には、炭素成形体から発生する還元性ガス量が少なくなり、還元性ガスが炭素成形体同士の中間地点に滞留しやすくなり、この領域での還元窒化反応により窒化アルミニウムが生成するためと考えられる。
【0043】
また、窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7は下流側に配置されれば良い。好ましくは、隣接する炭素成形体同士の下流側端部同士を結ぶ直線の中点を起点とし、窒素ガス流通方向と平行な直線の下流側延長線上に種結晶を配置する。また、該種結晶7を、非炭素製基板8上に載置して反応容器4内に配置する場合には、非炭素製基板8の、窒素ガス流通方向に対して上流側の端面8Aが、原料ガス発生用基板5の下方に位置するように配置することが好ましい。すなわち、非炭素製基板8の上流側端面8Aを、原料ガス発生用基板5の下部に潜り込ませるように配置することが好ましい。このように配置することで、炭素製基板8の上流側端面8Aに窒化アルミニウムが不規則に析出してしまう現象を防止でき、種結晶7上に均一に窒化アルミニウムを析出でき、大粒で結晶性のよい窒化アルミニウム単結晶を得ることができる。
【0044】
何ら理論的に制限されるものではないが、上記のような配置をとることで窒化アルミニウムの不規則な析出を防止できる理由は以下のように考えられる。
【0045】
非炭素製基板8の上流側端面8Aが、原料ガス発生用基板5から離れて露出している場合には、原料ガス発生用基板5から発生した原料ガス、炭素成形体6から発生した還元性ガスおよび窒素ガスが、非炭素製基板8の上流側端面8Aに衝突にして乱流となることがある。この結果、非炭素製基板8の上流側端面8A近傍に窒化アルミニウムが不規則に析出してしまい、良好な単結晶が得られ難くなる。
【0046】
一方、上記のように、非炭素製基板8の上流側端面8Aを、原料ガス発生用基板5の下部に潜り込ませるように配置することで、原料ガス、窒素ガスおよび還元性ガスの流通が滑らかになり、窒化アルミニウムが不規則の析出が抑制され、種結晶上に窒化アルミニウムが均一に析出し、良好な単結晶が得られると考えられる。
【0047】
また、炭素成形体6の、窒素ガス流通方向に対して下流側の端面6Aから、好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは1〜30mm、特に好ましくは1〜20mmの範囲に、窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7を配置することがこのましい。炭素成形体6と種結晶7との距離を上記のように設定することで、原料ガスおよび還元性ガスが一定の浮遊状態を保った後に種結晶7上に均一に析出するため、良好な単結晶が得られ易くなる。
【0048】
(窒化アルミニウム単結晶の成長方法)
本発明では、原料ガス発生用基板5と炭素成形体6と窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7とが特定の位置関係を満たすように配置した状態で、窒素ガス供給口2から窒素ガスを流通して、加熱環境下で窒化アルミニウム単結晶を成長させる。
【0049】
窒素ガスは純窒素を用いても良く、窒素以外の不活性ガスで希釈して流通させてもよい。窒素以外の不活性ガスとしては、たとえばアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスが用いられる。窒素ガスの流通量は、種結晶7上に窒化アルミニウムが生成する量であれば特に限定はされず、また熱処理温度等の種々の熱力学的条件に依存し様々である。しかしながら、反応容器内に無秩序な乱流を発生させず、効率よく窒化アルミニウム単結晶を生成するため、23℃換算で好ましくは0.1cc/分〜100L/分の量、より好ましくは1cc/分〜50L/分、さらに好ましくは30cc/分〜30L/分、特に好ましくは50cc/分〜20L/分の量で窒素ガスを流通させることが望ましい。
【0050】
本発明において、反応容器内の温度は、原料ガス発生用基板から原料ガスが発生し、かつ原料ガスが還元窒化されて種結晶7上に窒化アルミニウムが生成する温度であれば特に限定はされず、また反応系に存在する窒素分圧等の種々の熱力学的条件に依存し様々である。また、原料ガス発生用基板5と炭素成形体6と種結晶7とは互いに近接し、これらの間で温度差は実質的にない。
【0051】
反応容器内の温度は、1500℃以上2400℃以下が好ましい。該温度が1500℃未満の場合は、窒化アルミニウム単結晶が成長し難いため好ましくない。一方、2400℃を超える場合には、温度が高すぎるため、工業的な生産には不向きである。窒化アルミニウム単結晶の工業的生産を考慮すると、反応容器内の温度は、1700℃以上2200℃以下が好ましく、1750℃以上2150℃未満がより好ましく、1750℃以上2100℃以下であることが特に好ましい。
【0052】
本発明において、反応容器内の温度を上記温度範囲に制御することで、温度の上昇とともに、得られる窒化アルミニウム単結晶の結晶性が向上する。また、結晶粒の拡大が見られる。さらに、収量が増大する。
【0053】
(その他の条件)
本発明においては、以上の条件で窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶7上に窒化アルミニウムを析出させ、単結晶を成長させることにより、窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0054】
反応時間(窒化アルミニウム単結晶を成長させる時間)は、特に制限されるものではなく、所望とする窒化アルミニウム単結晶の形状、収量に応じて適宜決定すればよい。反応時間が長くなればなるほど、大粒の窒化アルミニウム単結晶が得られる。ただし、工業的な生産を考慮すると、反応時間は、1時間以上200時間以内であることが好ましい。
【0055】
なお、この反応時間は、全ての条件が整った時点から計測する時間である。つまり、反応容器内の温度、窒素ガスの分圧の全ての条件が設定した条件を満足してからの時間である。そのため、窒素ガスを反応容器内に供給しながら、反応容器内の温度を設定温度にする場合には、設定温度に到達してからの時間が反応時間となる。また、反応容器内を設定温度とした後、窒素ガスを反応容器に供給する場合には、窒素ガスを供給してからの時間が反応時間となる。
【0056】
このような条件で窒化アルミニウム単結晶を成長させた後は、反応容器の温度を室温付近まで低下させ、生成した窒化アルミニウム単結晶を反応容器から取り出すことにより、窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0057】
(窒化アルミニウム単結晶)
本発明によれば、大粒の窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。得られた窒化アルミニウム単結晶は、所望に適当なサイズに切断され、様々な用途、例えば、発光素子の下地基板の用途で使用できる。
【0058】
以下、下記の実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[評価方法]
<結晶性の評価>
X線回折装置(BrukerAXS製)にてロッキングカーブの半値幅を算出した。
【0060】
実施例1
図1に示した構成の単結晶製造装置1にて実験を行った。反応容器4は、円柱状のものを使用した。反応容器4内の上流側に原料として株式会社京セラ製 アルミナ板(Al)(A479、純度99%)35mm×50mm×1mm(t)を投入した(酸化アルミニウム5)。投入位置は、窒素供給口2の直下とした。この酸化アルミニウム5の上部に、5mm(縦)×5m(横)×50mm(長さ)に切断した角柱状の炭素成形体6を3本設置した。炭素成形体の間隔は1mmとし、全て平行(θ=0°)となるように酸化アルミニウムの端部と炭素成形体の端部とを揃えて設置した。次に、酸化アルミニウム5の端部から1mm離れた場所に非炭素製基板として30mm×30mm×1mm(t)の窒化アルミニウム多結晶体8を設置し、その上部に窒化アルミニウム析出用種結晶7となる窒化アルミニウム単結晶の破片を、隣接する炭素成形体同士の下流側端部同士を結ぶ直線の中点を起点とし、窒素ガス流通方向と平行な直線の下流側延長線上に配置した。3本の炭素成形体のそれぞれの中点からの下流側延長線上に各1つの種結晶(合計2つ)を配置した。ひとつの種結晶の重量は0.02gであり、他のひとつの種結晶の重量は0.03gであった。また炭素成形体と種結晶との距離を10mmとした。
【0061】
酸化アルミニウム5及び炭素成形体6、種結晶7の温度を1950℃とした。
【0062】
窒素ガスを窒素供給口2より2L/分となる量を供給した。
【0063】
保持時間(反応時間)は30時間として窒化アルミニウム単結晶の析出を行なった。反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、反応終了後、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.025gに増加し、0.03gの種結晶は0.037gに増加した。
【0064】
得られた窒化アルミニウム結晶はX線回折装置(BrukerAXS製)にて評価した。AlN(002)ピークの半値全幅は38arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0065】
実施例2
実施例1において、炭素成形体6の間隔を5mmとした以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0066】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.027gに増加し、0.03gの種結晶は0.035gに増加した。AlN(002)ピークの半値全幅は42arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0067】
実施例3
実施例1において、炭素成形体6の間隔を10mmとした以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0068】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、反応終了後、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.024gに増加し、0.03gの種結晶は0.034gに増加した。AlN(002)ピークの半値全幅は40arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0069】
実施例4
実施例1において、炭素成形体6の設置方法を中心に対して外側の2本をそれぞれ10°開く形に変更する以外は、実施例1と同様に反応を行なった。
【0070】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、反応終了後、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.025gに増加し、0.03gの種結晶は0.037gに増加した。AlN(002)ピークの半値全幅は39arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0071】
実施例5
実施例1において、炭素成形体6の設置方法を中心に対して外側の2本をそれぞれ5°下流側に開く形に変更する以外は、実施例1と同様に反応を行なった。
【0072】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、反応終了後、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.024gに増加し、0.03gの種結晶は0.036gに増加した。AlN(002)ピークの半値全幅は42arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0073】
実施例6
実施例1において、炭素成形体6と種結晶との間隔を25mmとした以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0074】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。そして、反応終了後、種結晶の重さを測定したところ0.02gの種結晶の重量は0.022gに増加し、0.03gの種結晶は0.033gに増加した。AlN(002)ピークの半値全幅は48arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。
【0075】
実施例7
実施例1において、種結晶を炭化珪素単結晶ウエファー(φ1インチ、厚み300μm)とした以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0076】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。さらに、炭化珪素単結晶ウエファー上に形成された膜状物質の厚みを、走査型電子顕微鏡を用いて測定した結果、約2μmの厚みであることが確認された。X線回折測定からこの膜状物質は窒化アルミニウム単結晶であることが確認され、AlN(002)ピークの半値全幅は80arcsecであった。
【0077】
実施例8
実施例1において、種結晶をサファイヤウエファー(φ1インチ、厚み300μm)とした以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0078】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。さらに、サファイヤウアファー上に形成された膜状物質の厚みを、走査型電子顕微鏡を用いて測定した結果、約1.7μmの厚みであることが確認された。X線回折測定からこの膜状物質は窒化アルミニウム単結晶であることが確認され、AlN(002)ピークの半値全幅は120arcsecであった。
【0079】
比較例1
実施例1において、窒素を供給しないこと以外は実施例1と同様に反応を行なった。
【0080】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、反応前に設置した種結晶以外に析出物らしきものは観測されなかった。種結晶の重さを測定したところいずれの種結晶にも重量増加は見られなかった。
【0081】
比較例2
実施例1において、炭素成形体6の設置方法を中心に対して外側の2本をそれぞれ60°下流側に開く形に変更する以外は、実施例1と同様に反応を行なった。
【0082】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、60°に開いた炭素成型体の中間位置に析出物が観測された。また、種結晶の重さを測定したところいずれの種結晶にも重量増加は見られなかった。
【0083】
比較例3
実施例1において、炭素成形体を1本に変更する以外は、実施例1と同様に反応を行なった。
【0084】
反応終了後、反応容器内を目視で観測したところ、炭素成形体の長さ方向に対して両側垂直方向に12mm離れた地点に析出物が観測された。また、種結晶の重さを測定したところいずれの種結晶にも重量増加は見られなかった。
【0085】
上記より、本発明の製造方法によれば、対象とする析出部に効率良く、しかも結晶性の良好な窒化アルミニウム単結晶を種結晶上に析出できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0086】
1 単結晶製造装置
2 窒素供給口
3 排出口
4 反応容器
5 原料ガス発生用基板(酸化アルミニウム)
6 炭素成形体
7 窒化アルミニウム単結晶析出用種結晶
8 非炭素製基板
9 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムガスまたはアルミニウム酸化物ガスを発生する原料ガス発生用基板と、
少なくとも2つの炭素成形体と、
窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶との存在下に窒素ガスを流通して、加熱環境下で窒化アルミニウム単結晶を成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、
原料ガス発生用基板上に、炭素成形体を窒素ガス流通方向に対してほぼ平行に間隔を空けて配置し、
窒素ガス流通方向に対して上流側に原料ガス発生用基板を配置し、下流側に窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を配置して、該種結晶に窒化アルミニウム単結晶を成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を、非炭素製基板上に載置し、
該非炭素製基板の、窒素ガス流通方向に対して上流側の端面が、原料ガス発生用基板の下方に位置するように配置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
炭素成形体の間隔が0.5〜10mmとなるように炭素成形体を原料ガス発生用基板上に配置する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
炭素成形体の、窒素ガス流通方向に対して下流側の端面から、1〜50mmの範囲に、窒化アルミニウム単結晶析出用の種結晶を配置する請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190131(P2011−190131A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56221(P2010−56221)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】