説明

自動変速機

【課題】自動変速機におけるブレーキ装置において、リターンスプリングの配設構造を改善することにより、該自動変速機のコンパクト化を図る。
【解決手段】変速機ケースを構成するエンドカバー120に、ケース本体110内に突入する筒状のブレーキ収納部122が設けられ、該収納部122内に、ブレーキ80、90を構成する摩擦板81a、81b、91a、91bが配設された構成において、前記ブレーキ80,90のピストン83、93を油圧による押圧方向と反対方向に付勢するリターンスプリング86、96を、前記摩擦板81a、81b、91a、91bの外周側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置を備える自動変速機に関し、自動車用変速機の製造技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の自動変速機は、変速機構と、該変速機構の動力伝達経路を切り換えることにより複数の変速段を実現する摩擦要素とを備え、該摩擦要素として、締結時に変速機構の所定の回転要素を変速機ケースに固定するブレーキ装置が備えられる。
【0003】
このブレーキ装置は、例えば特許文献1に開示されているように、変速機ケースと回転要素とに交互に係合された複数の摩擦板と、油圧の供給を受けてこれらの摩擦板を押圧するピストンと、該ピストンを油圧による押圧方向と反対方向に付勢するリターンスプリングとで構成される。
【0004】
その場合、変速機構のコンパクト化のために、ピストンの内周側には各種の回転要素や他の摩擦要素が配置されることがあり、そのため、前記特許文献1に開示された自動変速機では、リターンスプリングが、ピストンとほぼ同一円周上において、摩擦板と軸方向に並べて配置されている。そして、各リターンスプリングの両端は、変速機ケースとピストンとにそれぞれ保持部材を介して係止されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−287090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のように、リターンスプリングを摩擦板と軸方向に並べて配置した場合、自動変速機全体の軸方向寸法が増大することになる。また、該リターンスプリングは、ピストンと変速機ケースとの間に圧縮した状態で組み付ける必要があるので組付け作業性が悪く、特に上記のように、周方向に配置された複数のスプリングの両端を変速機ケースとピストンとにそれぞれ係止させながら個々に組付けるのは、きわめて面倒な作業となる。
【0007】
そこで、本発明は、自動変速機のブレーキ装置において、リターンスプリングの配設構造を改善することにより、該変速機の軸方向寸法の増大を抑制し、また、該リターンスプリングの組付け作業性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、請求項1に記載の発明は、変速機構の軸心回りに配置されて該変速機構の所定の回転要素を変速機ケースに固定するブレーキ装置が備えられ、該ブレーキ装置は、前記変速機ケースと回転要素に交互にそれぞれ係合された固定側及び回転側の摩擦板と、油圧の供給を受けてこれらの摩擦板を押圧するピストンと、該ピストンと変速機ケースとの間に装着されて、該ピストンを油圧による押圧方向と反対方向に付勢するリターンスプリングとを有する自動変速機であって、前記固定側摩擦板には、外周囲の複数個所に半径方向外方に突出する変速機ケースとの係合部が設けられていると共に、前記リターンスプリングは、摩擦板の外周側において、前記係合部とほぼ同一半径の円周上の複数個所に分散配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の自動変速機において、前記円周上に分散配置された複数のリターンスプリングの反ピストン側の端部は、変速機ケースに軸方向の移動が規制されるケース側支持プレートに止着され、該支持プレートと複数のリターンスプリングとでアッセンブリ体が構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の自動変速機において、前記リターンスプリングのピストン側の端部は、該ピストンと一体的に軸方向に移動するピストン側支持プレートに止着され、前記アッセンブリ体は、前記ケース側支持プレートと、複数のリターンスプリングと、前記ピストン側支持プレートとで構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の自動変速機において、前記摩擦板の反ピストン側に、変速機ケースに回転が規制されたリテーニングプレートが配置されており、前記ケース側支持プレートは、該リテーニングプレートに回り止め手段を介して係合されていることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項5記載の発明は、前記請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の自動変速機において、変速機ケースは、一端が開口したケース本体と、該ケース本体の開口部を閉塞するエンドカバーとで構成されていると共に、該エンドカバーに、ケース本体内に軸方向に突入し、内面に前記固定側摩擦板の係合部が係合される筒状のブレーキ収納部が、複数の間隙部により周方向に分割されて設けられており、前記ケース側支持プレートは、前記ブレーキ収納部の間隙部に配置された複数のスプリング支持部と、前記ケース本体の内周面と前記ブレーキ収納部の外周面との間のスペースを通って隣接するスプリング支持部を連結する連結部とで構成されていることを特徴とする。
【0014】
そして、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の自動変速機において、前記円周上に分散配置された複数のリターンスプリングはコイルスプリングであり、各配置位置ごとに複数個ずつ備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成により、本願各発明によれば次の効果が得られる。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、変速機構の所定の回転要素を変速機ケースに固定するブレーキ装置が備えられた自動変速機において、前記ブレーキ装置におけるピストンのリターンスプリングを、該ブレーキ装置を構成する複数の摩擦板の外周側の円周上の複数個所に分散配置したので、該リターンスプリングを摩擦板と軸方向に並べて配置する場合のような自動変速機の軸方向寸法の増大を招くことがない。
【0017】
また、前記リターンスプリングが分散配置される前記円周は、前記固定側摩擦板の外周囲の係合部とほぼ同一半径であるので、該リターンスプリングが摩擦板の外側に配置されるにも拘わらず、当該ブレーキ装置の大径化が回避される。その結果、自動変速機が軸方向及び径方向にコンパクト化されることになる。
【0018】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記のように所定の円周上に分散配置された複数のリターンスプリングの反ピストン側の端部がケース側支持プレートに止着され、該支持プレートと複数のリターンスプリングとでアッセンブリ体が構成されるので、当該自動変速機の組み立て時に、該アッセンブリ体を予め作成しておくことにより、複数のリターンスプリングを個々に組み付ける場合に比べて、組付け作業性が向上することになる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記リターンスプリングのピストン側の端部もピストン側支持プレートに止着され、前記アッセンブリ体が、前記ケース側支持プレートと、複数のリターンスプリングと、前記ピストン側支持プレートとで構成されるので、組付け作業性がさらに向上すると共に、各リターンスプリングの両端の位置が規制されることにより、リターンスプリングの両端の位置が周方向にずれて傾いた状態で組み付けられることがなく、常に正しい姿勢で組み付けられる。これにより、常に所定のスプリング特性が得られることになる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記ケース側支持プレートが、摩擦板の反ピストン側に配置されて変速機ケースに回転が規制されたリテーニングプレートに回り止め手段を介して係合されるので、リターンスプリングの一端が止着されたケース側支持プレートが回転して、該スプリングが傾いたり、同一半径の円周上に位置する他の部材と干渉したりすることが防止される。
【0021】
さらに、請求項5記載の発明によれば、変速機ケースが、一端が開口したケース本体と、該ケース本体の開口部を閉塞するエンドカバーとで構成され、該エンドカバーにケース本体内に突入する分割された筒状のブレーキ収納部が設けられている場合に、前記ケース側支持プレートの各スプリング支持部を連結する連結部が、前記ケース本体の内周面と前記エンドカバーのブレーキ収納部の外周面との間のスペースを通って、該ブレーキ収納部の間隙部に配置されたスプリング支持部を連結する構成とされているので、該ケース側支持プレートが前記スペースを有効利用して配設されることになる。
【0022】
そして、請求項6に記載の発明によれば、円周上に分散配置された複数のリターンスプリングがコイルスプリングで構成される場合に、該スプリングが各配置位置ごとに複数個ずつ備えられるので、ほぼ同一半径の円周上に位置する固定側摩擦板の係合部により配置場所が制約されるにも拘わらず、多数のスプリングを配設することが可能となり、ピストンに対する所要の付勢力が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態に係る自動変速機の構成を示す骨子図であり、この自動変速機1は、フロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に適用されるもので、主たる構成要素として、エンジン出力軸2に取り付けられたトルクコンバータ3と、該トルクコンバータ3からの動力が入力軸4を介して入力される第1クラッチ10及び第2クラッチ20と、これらのクラッチ10、20の一方または両方から動力が入力される変速機構30とを有し、これらが入力軸4の軸心上に配置されて、変速機ケース5に収納されている。
【0025】
ここで、変速機ケース5は、その外周囲を構成するケース本体110と、該ケース本体110のリヤ側(反トルクコンバータ側)の端部の開口を閉塞するエンドカバー120とで構成されており、ケース本体110のフロント側(トルクコンバータ側)には、トルクコンバータ3を介してエンジンにより駆動されるオイルポンプ6が収納されたフロント壁111が設けられている。
【0026】
そして、ケース本体110内のフロント壁111側に第1、第2クラッチ10、20が、エンドカバー120側に変速機構30がそれぞれ収納されていると共に、第1、第2クラッチ10、20と変速機構30との間に、該変速機構30からの動力を取り出す出力ギヤ7が配置され、該出力ギヤ7から取り出された動力が、カウンタドライブ機構8を介して差動装置9に伝達され、左右の車軸9a、9bを駆動するようになっている。
【0027】
前記トルクコンバータ3は、エンジン出力軸2に連結されたケース3aと、該ケース3a内に固設されたポンプ3bと、該ポンプ3bに対向配置されて該ポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、該ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、ケース本体110にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、該ケース3aを介してエンジン出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとで構成されている。そして、タービン3cの回転が入力軸4を介して第1、第2クラッチ10、20や変速機構30側に伝達されるようになっている。
【0028】
また、変速機構30は、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3ギヤセット」という)40、50、60を有し、これらが変速機ケース5内にフロント側からこの順序で配置されている。
【0029】
また、摩擦要素として、前記第1、第2クラッチ10、20の他に、変速機構30を構成する第1ブレーキ70、第2ブレーキ80及び第3ブレーキ90が備えられ、フロント側からこの順序で配置されている。また、第1ブレーキ70に並列にワンウェイクラッチ100が配置されている。
【0030】
前記第1、第2、第3ギヤセット40、50、60は、いずれもシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ41、51、61と、これらのサンギヤ41、51、61にそれぞれ噛み合った各複数のピニオン42、52、62と、これらのピニオン42、52、62をそれぞれ支持するキャリア43、53、63と、ピニオン42、52、62にそれぞれ噛み合ったリングギヤ44、54、64とで構成されている。
【0031】
そして、入力軸4が第3ギヤセット60のサンギヤ61に連結されていると共に、第1ギヤセット40のサンギヤ41と第2ギヤセット50のサンギヤ51、第1ギヤセット40のリングギヤ44と第2ギヤセット50のキャリア53、第2ギヤセット50のリングギヤ54と第3ギヤセット60のキャリア63が、それぞれ連結されている。そして、第1ギヤセット40のキャリア43に出力ギヤ7が連結されている。
【0032】
また、第1ギヤセット40のサンギヤ41及び第2ギヤセット50のサンギヤ51は、第1クラッチ10の出力部材11に連結され、該第1クラッチ10を介して入力軸4に断接可能に連結されている。また、第2ギヤセット50のキャリア53は、第2クラッチ20の出力部材21に連結され、該第2クラッチ20を介して入力軸4に断接可能に連結されている。
【0033】
さらに、第1ギヤセット40のリングギヤ44及び第2ギヤセット50のキャリア53は、並列に配置された第1ブレーキ70及びワンウェイクラッチ100を介して変速機ケース5に断接可能に連結されており、第2ギヤセット50のリングギヤ54及び第3ギヤセット60のキャリア63は、第2ブレーキ80を介して変速機ケース5に断接可能に連結されており、さらに、第3ギヤセット60のリングギヤ64は、第3ブレーキ90を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。
【0034】
以上の構成により、この自動変速機1によれば、第1、第2クラッチ10、20及び第1、第2、第3ブレーキ70、80、90の締結状態の組み合わせにより、前進6速と後退速とが得られるようになっており、その組み合わせと変速段の関係を図2の締結表に示す。
【0035】
次に、本発明の特徴部を構成する第2、第3ブレーキ80、90の具体的構成について説明する。
【0036】
図3に示すように、第2ブレーキ80は、交互に配置された複数の固定側摩擦板81a…81aと回転側摩擦板81b…81bとを有し、固定側摩擦板81aは、変速機ケース5を構成するエンドカバー120に、回転側摩擦板81bは、回転要素としての第2ギヤセット50のリングギヤ54及び第3ギヤセット60のキャリア63に一体のハブ82に係合されている。
【0037】
また、第3ブレーキ90は、交互に配置された複数の固定側摩擦板91a…91aと回転側摩擦板91b…91bとを有し、固定側摩擦板91aは、前記第2ブレーキ80と同様にエンドカバー120に、回転側摩擦板91bは、回転要素としての第3ギヤセット60のリングギヤ64に一体のハブ92に係合されている。
【0038】
ここで、前記エンドカバー120の構成を説明すると、該エンドカバー120は、外周部に設けられたフランジ部121でケース本体110のリヤ側の端部にボルト131を用いて取り付けられていると共に、該フランジ部121の内側に、ケース本体110内に向けて軸方向に突入する筒状のブレーキ収納部122が設けられている。
【0039】
このブレーキ収納部122は、第2、第3ブレーキ80、90の摩擦板81a、81b、91a、91bより大径とされていると共に、図4に示すように、周方向に等間隔で設けられた間隙部122a…122aにより、断面ほぼ円弧状の複数の部分に分割されている。
【0040】
そして、分割された各部分の内面に設けられた軸方向に延びる溝122bに、前記摩擦板81、91のうちの固定側摩擦板81a、91aの外周囲に設けられた半径方向外方に突出する係合部81a′、91a′(図4参照)が係合されている。これにより、固定側摩擦板81a、91aがエンドカバー120ないし変速機ケース5に回転が規制されるようになっている。
【0041】
また、図3に示すように、前記エンドカバー120におけるブレーキ収納部122の先端には、ボルト132を用いてシリンダ部材133が取り付けられ、該部材133にピストン83が移動可能に収納され、その背部が、ピストン83を押圧する油圧が供給される油圧室84とされている。
【0042】
また、前記エンドカバー120におけるブレーキ収納部122の基端部の内側には、第3ブレーキ90のピストン93が移動可能に収納され、その背部が、ピストン93を押圧する油圧が供給される油圧室94とされている。
【0043】
そして、第2ブレーキ80における摩擦板81a、81bの反ピストン83側には、リテーニングプレート85が配置され、該リテーニングプレート85が前記エンドカバー120におけるブレーキ収納部122の内面に設けられた段付部122cに受止されることにより、摩擦板81a、81bの反ピストン83側への移動が阻止されるようになっている。
【0044】
同様に、第3ブレーキ90における摩擦板91a、91bの反ピストン93側には、リテーニングプレート95が配置され、該リテーニングプレート95が前記ブレーキ収納部122の内面に装着されたスナップリング134に受止されることにより、摩擦板91a、91bの反ピストン93側への移動が阻止されるようになっている。
【0045】
これらのリテーニングプレート85、95の外周囲には、前記固定側摩擦板81a、91aと同様に、半径方向外方に突出する係合部85a、95aが設けられ、これらの係合部85a、95aが前記ブレーキ収納部122の内面に設けられた溝122bに係合することにより、該リテーニングプレート85、95の回転が規制されている。
【0046】
さらに、図5に示すように、第2ブレーキ80の摩擦板81a、81bの外周側には、ピストン83を油圧室84に供給される油圧の押圧方向と反対方向に付勢する第2ブレーキ用リターンスプリング86が配置されている。同様に、第3ブレーキ90の摩擦板91a、91bの外周側には、ピストン93を油圧室94に供給される油圧の押圧方向と反対方向に付勢する第3ブレーキ用リターンスプリング96が配置されている。
【0047】
これらのリターンスプリング86、96の支持構造を説明すると、まず、第2ブレーキ80については、前記ピストン83と最もピストン83側に位置する摩擦板81aとの間にピストン側支持プレート87が配設され、該プレート87の外周に、半径方向外方へ突出して、前記エンドカバー120のブレーキ収納部122における各間隙部122aに位置する複数のスプリング支持部87aが設けられている。
【0048】
また、前記リテーニングプレート85側に位置する摩擦板81bの外周側には、ケース側支持プレート88が配設されている。このプレート88は、図4に示すように、前記エンドカバー120のブレーキ収納部122における各間隙部122aに位置して、該間隙部122aに位置するリテーニングプレート85の半径方向外方への突出部85bに対接する複数のスプリング支持部88aと、隣接するスプリング支持部88a、88aを連結する連結部88bとでリング状に構成されており、該連結部88bは、ケース本体110の内周面とブレーキ収納部122の外周面との間のスペースX内通って、隣接するスプリング支持部88a、88aを連結している。
【0049】
そして、前記ピストン側支持プレート87の複数のスプリング支持部87aと、ケース側支持プレート88の複数のスプリング支持部88aとの間に、リターンスプリング86がそれぞれ装着され、これにより、一端がケース側支持プレート88及びリテーニングプレート85を介してエンドカバー120ないし変速機ケース5に受止されたリターンスプリング86の付勢力により、ピストン側支持プレート87を介してピストン83が油圧室84に供給される油圧の押圧力と反対方向に付勢されるようになっている。
【0050】
また、第3ブレーキ90におけるリターンスプリング96の支持構造も同様であって、ピストン93と最もピストン93側に位置する摩擦板91aとの間にピストン側支持プレート97が配設され、該プレート97の外周に、半径方向外方へ突出して、前記ブレーキ収納部122の各間隙部122aに位置する複数のスプリング支持部97aが設けられている。
【0051】
また、最もリテーニングプレート95側に位置する摩擦板91bの外周側には、ケース側支持プレート98が配設されている。このプレート98は、隣接するブレーキ収納部122の各間隙部122aに位置して、該間隙部122aに位置するリテーニングプレート95の半径方向外方への突出部95bに対接する複数のスプリング支持部98aと、隣接するスプリング支持部98a、98aを連結する連結部98bとでリング状に構成されている。そして、該連結部98bも、ケース本体110の内周面とブレーキ収納部122の外周面との間のスペースX内を通って、隣接するスプリング支持部98a、98aを連結している。
【0052】
そして、前記ピストン側支持プレート97の複数のスプリング支持部97aと、ケース側支持プレート98の複数のスプリング支持部98aとの間に、リターンスプリング96がそれぞれ装着され、これにより、一端がケース側支持プレート98及びリテーニングプレート95を介してエンドカバー120ないし変速機ケース5に受止されたリターンスプリング96の付勢力により、ピストン側支持プレート97を介してピストン93が油圧室94に供給される油圧の押圧力と反対方向に付勢されるようになっている。
【0053】
ここで、第2、第3ブレーキ80、90のリターンスプリング86、96は、図4に第2ブレーキ80について示すように、いずれもコイルバネで構成され、ブレーキ収納部122の各間隙部122aにおいて、ピストン側支持プレート87、97のスプリング支持部87a、97aと、ケース側支持プレート88、98のスプリング支持部88a、98aとの間に2個ずつ装着されている。
【0054】
そして、図5に符号a…aで示すように、各リターンスプリング86、96の両端は、前記ピストン側支持プレート87、97のスプリング支持部87a、97aとケース側支持プレート88、98のスプリング支持部88a、98aに、それぞれカシメにより止着されている。
【0055】
これにより、ピストン側支持プレート87と、ケース側支持プレート88と、これらに両端を止着された複数のリターンスプリング86とでなる第2ブレーキ80用のアッセンブリ体89(図9参照)が構成されており、同様に、ピストン側支持プレート97と、ケース側支持プレート98と、これらに両端を止着された複数のリターンスプリング96とでなる第3ブレーキ90用のアッセンブリ体99(図7参照)が構成されている。
【0056】
また、図6に示すように、前記第2、第3ブレーキ80、90におけるケース側支持プレート88、98のスプリング支持部88a、98aには、軸方向に折曲された爪状の回り止め部88c、98cが設けられ、これらの回り止め部88c、98cがリテーニングプレート85、95の突出部85b、95bの先端に設けられた切り欠き部85c、95cにそれぞれ係合されており、これにより、該支持プレート88、98ないしアッセンブリ体89、99の回転を阻止する回り止め機構が構成されている。
【0057】
上記の構成によれば、第2、第3ブレーキ80、90のいずれにおいても、油圧室84、94に油圧が供給されたときに、ピストン83、93がリターンスプリング86、96の付勢力に抗して摩擦板81a、81b、91a、91bを押圧し、これにより、第2、第3ブレーキ80、90が締結される。
【0058】
また、前記油圧室84、94から油圧が排出されれば、ピストン83、93がリターンスプリング86、96の付勢力により油圧室84、94側に後退し、これにより、摩擦板81a、81b、91a、91bに対する押圧状態が解除され、第2、第3ブレーキ80、90が解放される。
【0059】
そして、特に上記の構成によれば、前記リターンスプリング86、96が、第2、第3ブレーキ80、90の摩擦板81a、81b、91a、91bの外周側に配置されているので、リターンスプリングを摩擦板と軸方向に並べて配置する場合のように、変速機の軸方向寸法を増大させることがない。
【0060】
また、これらのリターンスプリング86、96は、エンドカバー120におけるブレーキ収納部122の各間隙部122a内に配置され、該ブレーキ収納部122の内面の溝122bに係合された固定側摩擦板81a、91aの係合部81a′、91a′とほぼ同一円周上に位置するから、これらのリターンスプリング86、96が摩擦板81a、81b、91a、91bの外周側に配置されているにも拘わらず、その配設位置の半径方向の寸法が増大せず、これにより、当該ブレーキ装置の大径化も回避されている。
【0061】
さらに、前記リターンスプリング86、96の一端を受止するケース側支持プレート88、98は、前記ブレーキ収納部122の各間隙部122a内においてリターンスプリング86、96の一端を受止するスプリング支持部88a、98aを連結部88b、98bで連結した構成とされ、この連結部88b、98bがブレーキ収納部122の外周面と、その外側に位置するケース本体110の内周面との間のスペースX内に位置するので、該スペースXが有効利用されることになり、変速機の大型化を招くことなく、ケース側支持プレート88、98が配設される。
【0062】
そして、リターンスプリング86、96は、前記ブレーキ収納部122の各間隙部122aに2本ずつ配置されるので、ほぼ同一半径の円周上に位置する固定側摩擦板81a、91aの係合部81a′、91a′により周方向の配設位置が制約されるにも拘わらず、必要な本数を備えることができ、ピストン83、93に対する所要の付勢力が得られる。
【0063】
さらに、前記リターンスプリング86、96は、両端がピストン側支持プレート87、97及びケース側支持プレート88、98にそれぞれカシメにより止着され、これらにより第2ブレーキ80用及び第3ブレーキ90用のアッセンブリ体89、99が形成されているので、変速機ケース5への各リターンスプリング86、96の組付け作業が容易に行われることになる。
【0064】
ここで、これらのリターンスプリング86、96の組付け作業について説明する。
【0065】
まず、図7に示すように、エンドカバー120に第3ブレーキ90のピストン93を組み込んだ状態で、各リターンスプリング96をブレーキ収納部122の間隙部122aに位置させて、第3ブレーキ用アッセンブリ体99をエンドカバー120に組み込む。
【0066】
次に、図8に示すように、前記アッセンブリ体99のピストン側支持プレート97をピストン93に当接させると共に、固定側摩擦板91aと回転側摩擦板91bとを交互に重ね合わせた状態で、固定側摩擦板91aの係合部を前記ブレーキ収納部122の溝122bに係合させ、回転側摩擦板91bの係合部をハブ92に係合させながら、これらの摩擦板91a、91bを前記ピストン93側へ組み込み、さらに、アッセンブリ体99のケース側支持プレート98を介してリターンスプリング96を圧縮しながら、リテーニングプレート95を押し込む。
【0067】
その際、前記ケース側支持プレート98の回り止め部98cがリテーニングプレート95の切り欠き部95cに係合するように組み込む。そして、リテーニングプレート95を所定位置まで押し込んだ状態でスナップリング134をブレーキ収納部122の内面に装着する。これにより、第3ブレーキ90がエンドカバー120に組み込まれたことになる。
【0068】
次に、図9に示すように、第2ブレーキ80のリテーニングプレート85を、ブレーキ収納部122に段付き部122cまで組み込むと共に、固定側摩擦板81aと回転側摩擦板81bとを交互に重ね合わせた状態で、固定側摩擦板81aの係合部を前記ブレーキ収納部122の溝122bに係合させ、回転側摩擦板81bの係合部をハブ82に係合させながら、これらの摩擦板81a、81bを組み込む。
【0069】
その後、各リターンスプリング86をブレーキ収納部122の間隙部122aに位置させて、第2ブレーキ用アッセンブリ体89を、ケース側支持プレート88がリテーニングプレート85に当接するまでエンドカバー120に組み込む。その際、前記ケース側支持プレート88の回り止め部88cがリテーニングプレート85の切り欠き部85cに係合するように組み込む。
【0070】
そして、ピストン側支持プレート87を介してリターンスプリング86を圧縮しながら、ピストン83が収納されたシリンダ部材133を押し込み、該部材133をボルト132で前記ブレーキ収納部122の先端に取り付ける。これにより、第2ブレーキ80の組み込みも終了し、図3に示すように、エンドカバー120に第2、第3ブレーキ80、90が組み込まれることになる。
【0071】
このように、第2、第3ブレーキ80、90の複数のリターンスプリング86、96が、アッセンブリ体89、99の組み込みだけで所定位置に組み付けられることになり、アッセンブリ体89、99を予め作成しておくことにより、複数のリターンスプリングを個々に組み付ける場合に比べて、該スプリングの組付け作業性が向上する。
【0072】
また、各リターンスプリング86、96は、ピストン側支持プレート87、97及びケース側支持プレート88、98に両端が止着され、かつ、ケース側支持プレート88、98は回り止め部88c、98cがリテーニングプレート85、95に設けられた切り欠き部85c、95cにそれぞれ係合されていると共に、このリテーニングプレート85、95は、エンドカバー120に対して回転が規制されているので、各リターンスプリング86、96の組付け位置や組付け姿勢がエンドカバー120に対して正しく設定されることになる。これにより、リターンスプリング86、96がエンドカバー120のブレーキ収納部122と干渉したり、傾いて装着されることが防止され、所定のスプリング特性が確実に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明によれば、ブレーキ装置を構成するピストンのリターンスプリングを摩擦板の外周側に配置したことなどにより、自動変速機がコンパクトに構成されると共に、該リターンスプリングの組付け作業性が向上する。したがって、自動車用変速機の分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の摩擦要素の締結表である。
【図3】同自動変速機の要部の断面図である。
【図4】図3のx−x断面図である。
【図5】図4のy−y断面図である。
【図6】図4のz−z断面図である。
【図7】第3ブレーキのアッセンブリ体の組み込み状態を示す要部断面図である。
【図8】第3ブレーキの組み込み終了状態を示す要部断面図である。
【図9】第2ブレーキのアッセンブリ体の組み込み状態を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0075】
5 変速機ケース
80、90 ブレーキ装置(第2、第3ブレーキ)
81a、91a 固定側摩擦板
81a′、91a′ 係合部
81b、91b 回転側摩擦板
83、93 ピストン
85、95 リテーニングプレート
86、96 リターンスプリング
87、97 ピストン側支持プレート
88、98 ケース側支持プレート
88a、98a スプリング支持部
88b、98b 連結部
88c、98c 回り止め部
89、99 アッセンブリ体
110 ケース本体
120 エンドカバー
122 ブレーキ収納部
122a 間隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構の軸心回りに配置されて該変速機構の所定の回転要素を変速機ケースに固定するブレーキ装置が備えられ、該ブレーキ装置は、前記変速機ケースと回転要素に交互にそれぞれ係合された固定側及び回転側の摩擦板と、油圧の供給を受けてこれらの摩擦板を押圧するピストンと、該ピストンと変速機ケースとの間に装着されて、該ピストンを油圧による押圧方向と反対方向に付勢するリターンスプリングとを有する自動変速機であって、
前記固定側摩擦板には、外周囲の複数個所に半径方向外方に突出する変速機ケースとの係合部が設けられていると共に、
前記リターンスプリングは、摩擦板の外周側において、前記係合部とほぼ同一半径の円周上の複数個所に分散配置されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記請求項1に記載の自動変速機において、
前記円周上に分散配置された複数のリターンスプリングの反ピストン側の端部は、変速機ケースに軸方向の移動が規制されるケース側支持プレートに止着され、
該支持プレートと複数のリターンスプリングとでアッセンブリ体が構成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
前記請求項2に記載の自動変速機において、
前記リターンスプリングのピストン側の端部は、該ピストンと一体的に軸方向に移動するピストン側支持プレートに止着され、
前記アッセンブリ体は、前記ケース側支持プレートと、複数のリターンスプリングと、前記ピストン側支持プレートとで構成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項4】
前記請求項2または請求項3に記載の自動変速機において、
前記摩擦板の反ピストン側に、変速機ケースに回転が規制されたリテーニングプレートが配置されており、
前記ケース側支持プレートは、該リテーニングプレートに回り止め手段を介して係合されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項5】
前記請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の自動変速機において、
変速機ケースは、一端が開口したケース本体と、該ケース本体の開口部を閉塞するエンドカバーとで構成されていると共に、
該エンドカバーに、ケース本体内に軸方向に突入し、内面に前記固定側摩擦板の係合部が係合される筒状のブレーキ収納部が、複数の間隙部により周方向に分割されて設けられており、
前記ケース側支持プレートは、前記ブレーキ収納部の間隙部に配置された複数のスプリング支持部と、
前記ケース本体の内周面と前記ブレーキ収納部の外周面との間のスペースを通って隣接するスプリング支持部を連結する連結部とで構成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の自動変速機において、
前記円周上に分散配置された複数のリターンスプリングはコイルスプリングであり、
各配置位置ごとに複数個ずつ備えられていることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−112529(P2010−112529A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287766(P2008−287766)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】