説明

薄膜付基板の製造方法及び製造装置

【課題】熱CVD法により薄膜付基板を好適に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】基板10の薄膜を形成しようとする部分である成膜部10cの他主面10c2に、基板10に吸収される波長域の光を照射することにより成膜部10cを加熱した状態で、成膜部10cの一主面10c1に対向して配置したノズル30から成膜部10cの一主面10c1に向けて反応ガスを供給することにより薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜付基板の製造方法及び製造装置に関し、特に、熱CVD法を用いた薄膜付基板の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜の形成方法として、例えば特許文献1に記載されているような熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法が広く用いられている。この熱CVD法は、ノズルから供給された反応ガスを基板上で反応させることにより、反応ガスの反応物からなる薄膜を基板上に形成する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−135645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱CVD法による成膜を行うに際しては、ノズル中において反応ガスが反応しないようにノズルの温度を低くしておく一方、基板上で反応ガスの反応が好適に進行するように、基板の温度を高くしておく必要がある。しかしながら、基板のノズルの直下に位置する部分の温度は、低温のノズルの影響で温度が低くなりがちである一方、ノズルの温度は高くなりがちであり、ノズルが変形しやすいという問題がある。
【0005】
本発明は、熱CVD法により薄膜付基板を好適に製造し得る方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る薄膜付基板の製造方法は、基板と、基板の一主面の上に形成された薄膜とを有する薄膜付基板の製造方法に関する。本発明に係る薄膜付基板の製造方法では、基板の薄膜を形成しようとする部分である成膜部の他主面に、基板に吸収される波長域の光を照射することにより成膜部を加熱した状態で、成膜部の一主面に対向して配置したノズルから成膜部の一主面に向けて反応ガスを供給することにより薄膜を形成する。
【0007】
基板として、厚みが200μm以下のガラス基板を用いることが好ましい。
【0008】
本発明に係る薄膜付基板の製造装置は、基板と、基板の一主面の上に形成された薄膜とを有する薄膜付基板を製造するための装置に関する。本発明に係る薄膜付基板の製造装置は、加熱器と、ノズルとを備える。加熱器は、基板の薄膜を形成しようとする部分である成膜部の他主面に、基板に吸収される波長域の光を照射することにより成膜部を加熱する。ノズルは、成膜部の一主面に対向して配置されている。ノズルは、成膜部の一主面に向けて反応ガスを供給する。
【0009】
加熱器は、赤外線ヒーターと、赤外線ヒーターの成膜部とは反対側に配されており、赤外線ヒーターから出射された赤外線を成膜部側に反射する反射器とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱CVD法により薄膜付基板を好適に製造し得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的斜視図である。
【図2】第1の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【図3】第2の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0013】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的斜視図である。図2は、第1の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0015】
本実施形態では、基板と、基板の一主面の上に形成された薄膜とを有する薄膜付基板を熱CVD法により製造する方法及びそれに用いる製造装置について説明する。
【0016】
本実施形態において、基板や薄膜の種類、形状寸法等は特に限定されない。基板は、熱CVD法により薄膜形成する際の温度に耐えうる耐熱性を有するものであればよい。好ましく用いられる基板の具体例としては、例えば、ガラス基板、セラミック基板、耐熱性樹脂基板等が挙げられる。ここでは、基板として、図1及び図2に示す、厚みが200μm以下であり、可撓性を有する帯状のガラス基板10を用いる例について説明する。
【0017】
薄膜は、熱CVD法により形成可能なものであれば特に限定されない。単一の薄膜を形成してもよいし、複数の薄膜の積層体を形成してもよい。例えば、屈折率が比較的低い低屈折率層と、屈折率が比較的高い高屈折率層とが交互に積層されてなる誘電体多層膜や、酸化ケイ素や窒化ケイ素などからなる耐熱膜等を形成してもよい。
【0018】
(製造装置1)
薄膜付基板の製造装置1は、ガラス基板10の第1の巻回ロール10aからガラス基板10を送り出す送り出し機11と、表面に薄膜が形成されたガラス基板10からなる薄膜付ガラス基板を巻き取り、第2の巻回ロール10bとする巻取機12とを備えている。送り出し機11と巻取機12とは相互に間隔をおいて配されている。ガラス基板10の第1の巻回ロール10aと第2の巻回ロール10bとの間に位置する部分は、長さ方向xに引張応力が付与された状態で、平板状に維持されている。薄膜は、この平板状に維持された、ガラス基板10の第1の巻回ロール10aと第2の巻回ロール10bとの間に位置する部分の上に形成される。即ち、ガラス基板10の第1の巻回ロール10aと第2の巻回ロール10bとの間に位置する部分の一部が、薄膜を形成しようとする部分である成膜部10cを構成している。
【0019】
製造装置1は、加熱器20を備えている。加熱器20は、成膜部10cの第2の主面10c2に、ガラス基板10に吸収される波長域の光を照射することにより成膜部10cを加熱する。ガラス基板10は、組成に関わらず、一般的に赤外線を吸収する。このため、本実施形態のように、基板としてガラス基板10を用いる場合は、加熱器20として、赤外線、好ましくは、波長が3μm以上である赤外線を成膜部10cに照射させる加熱器を用いることができる。
【0020】
本実施形態では、加熱器20は、複数の加熱器20a〜20cを含むが、加熱器20は、単一の加熱器により構成されていてもよい。
【0021】
図2に示すように、複数の加熱器20a〜20cのそれぞれは、ガラス基板10に吸収される波長域の光(本実施形態においては、具体的には赤外線)を照射する光出射体(本実施形態においては、具体的には赤外線ヒーター)21と、光出射体21から出射された光を反射する反射器22とを備えている。反射器22は、光出射体21の成膜部10cとは反対側に配されている。反射器22は、光出射体21から出射された光(本実施形態においては、具体的には赤外線)を成膜部10cに反射する反射面22aを有する。反射面22aの形状は、成膜部10cと加熱器20a〜20cとの位置関係などに応じて適宜設定することができる。反射面22aは、例えば、光出射体21から出射された光を平行光にするものであってもよいし、集束光にするものであってもよいし、発散光にするものであってもよい。
【0022】
本実施形態では具体的には、長さ方向xの中央部において成膜部10cに垂直に配されている加熱器20bの反射面22aは、光出射体21から出射された光を集束光にするものである。一方、加熱器20bの長さ方向xの両側において成膜部10cに対して傾斜して配されている加熱器20a、20cの反射面22aは、光出射体21から出射された光を平行光にするものである。
【0023】
製造装置1は、ノズル30をさらに備えている。ノズル30は、成膜部10cの第1の主面10c1に対向して配されている。ノズル30は、成膜部10cの第1の主面10c1に向けて反応ガスを供給する。具体的には、ノズル30は、ノズル孔31を有している。ノズル孔31は、反応ガスを供給する反応ガス供給部(図示せず)に接続されている。この反応ガス供給部から供給された反応ガスは、ノズル30のノズル孔31を経由して、成膜部10cの第1の主面10c1に供給される。なお、ノズル孔31から噴出される反応ガスの種類、流量等は、成膜しようとする薄膜の種類に応じて適宜設定することができる。
【0024】
ノズル30の温度は、反応ガスがノズル30内において反応しないような温度に設定される。ノズル30の温度は、具体的には、例えば、150℃〜250℃程度に設定される。
【0025】
なお、ノズル30には、図示しない加熱器が設けられており、この加熱器によってノズル30の温度が制御されている。
【0026】
(薄膜付基板の製造方法)
次に、製造装置1を用いた薄膜付基板の製造方法について説明する。
【0027】
本実施形態では、第1の巻回ロール10aから順次送り出されてくるガラス基板10の上に薄膜を形成していく。このガラス基板10のうち、現在薄膜を形成しようとしている部分を成膜部10cとする。従って、本実施形態においては、成膜部10cは、時間と共に変化していく。
【0028】
本実施形態では、成膜部10cの第2の主面10c2に、加熱器20から、ガラス基板10に吸収される波長域の光(本実施形態においては、具体的には赤外線)を照射することにより成膜部10cを反応ガスが反応する程度の高温にまで加熱した状態で、ノズル30から第1の主面10c1に向けて反応ガスを供給することにより薄膜を形成し、薄膜付きガラス基板を得る。薄膜付きガラス基板は、巻取機12により第2の巻回ロール10bに巻回されていく。
【0029】
なお、成膜時におけるガラス基板10の温度は、反応ガスの種類等に応じて適宜設定することができる。成膜時におけるガラス基板10の温度は、例えば、500℃〜600℃程度とすることができる。
【0030】
ところで、例えば薄膜を形成しようとする基板の加熱方法としては、雰囲気加熱法も考えられる。しかしながら、基板を雰囲気加熱した場合は、同じ雰囲気中に配されたノズルも同様に加熱されることとなる。このため、ノズル内において反応ガスが反応してしまい、反応ガスのノズルからの噴射が好適に行われなくなる虞がある。また、ノズルが熱により変形し、ノズル孔の大きさが変化してしまうことにより、反応ガスの流量が変化し、所望の厚みの薄膜を形成できなくなる虞もある。従って、薄膜付基板を好適に製造できない場合がある。
【0031】
それに対して本実施形態では、ガラス基板10に吸収される光を加熱器20からガラス基板10のノズル30とは反対側の第2の主面10c2に向けて照射することにより成膜部10cを加熱する。このため、加熱器20からの光がノズル30に到達することが抑制されており、ガラス基板10のみを好適に加熱することができる。従って、ノズル30を、反応ガスが反応しないような低温に保持したまま、ガラス基板10の温度を反応ガスの反応に好適な高温にすることができる。その結果、ノズル30の変形を抑制でき、高い膜厚精度で薄膜を形成することができる。ノズル30内における反応ガスの反応を抑制することができる。その結果、反応ガスの利用効率を高めることができる。さらに、例えば成膜室全体を加熱する必要がなくなるため、製造装置1を小型化することができると共に、エネルギー効率を高めることができる。
【0032】
なお、本実施形態の方法は、厚みが200μm以下のガラス基板10を用いる場合に特に好適である。厚みが200μm以下のガラス基板10は、局所加熱した場合にも割れにくいためである。また、厚みが200μm以下のガラス基板10は、一方側の主面側に光を照射した際にも、他方側の表層も好適に加熱できるためである。但し、ガラス基板10が薄すぎると、ガラス基板10の強度が低くなりすぎる場合がある。従って、ガラス基板10の厚みは、5μm以上であることが好ましい。
【0033】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態における薄膜付基板の製造方法を説明するための模式的側面図である。
【0035】
第1の実施形態では、ガラス基板10が第1の巻回ロール10aから供給される例について説明した。但し、本発明は、これに限定されない。例えば、図3に示すように、成形装置40からガラス基板10が直接供給されるようにしてもよい。この場合、他の部材に接触していないガラス基板10の清浄度の高い主面の上に薄膜を形成することができる。
【0036】
なお、第1及び第2の実施形態では、加熱器20とノズル30とを一組設ける例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。加熱器とノズルとを複数組設けてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…製造装置
10…ガラス基板
10a…第1の巻回ロール
10b…第2の巻回ロール
10c…成膜部
10c1…第1の主面
10c2…第2の主面
11…送り出し機
12…巻取機
20、20a〜20c…加熱器
21…光出射体
22…反射器
22a…反射面
30…ノズル
31…ノズル孔
40…成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一主面の上に形成された薄膜とを有する薄膜付基板の製造方法であって、
前記基板の前記薄膜を形成しようとする部分である成膜部の他主面に、前記基板に吸収される波長域の光を照射することにより前記成膜部を加熱した状態で、前記成膜部の一主面に対向して配置したノズルから前記成膜部の一主面に向けて反応ガスを供給することにより前記薄膜を形成する、薄膜付基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板として、厚みが200μm以下のガラス基板を用いる、請求項1に記載の薄膜付基板の製造方法。
【請求項3】
基板と、前記基板の一主面の上に形成された薄膜とを有する薄膜付基板を製造するための装置であって、
前記基板の前記薄膜を形成しようとする部分である成膜部の他主面に、前記基板に吸収される波長域の光を照射することにより前記成膜部を加熱する加熱器と、
前記成膜部の一主面に対向して配置されており、前記成膜部の一主面に向けて反応ガスを供給するノズルと、
を備える、薄膜付基板の製造装置。
【請求項4】
前記加熱器は、赤外線ヒーターと、前記赤外線ヒーターの前記成膜部とは反対側に配されており、前記赤外線ヒーターから出射された赤外線を前記成膜部側に反射する反射器とを有する、請求項3に記載の薄膜付基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−33838(P2013−33838A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168878(P2011−168878)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】