説明

衝突防止装置

【課題】 交差点での他車との衝突可能性を正確に、しかも効率的に判断して衝突事故を未然に防ぐに好適な簡易な構成の衝突防止装置を提供する。
【解決手段】 カーナビ情報と自車の車体速情報(速度,加速度)とに基づいて自車の交差点への進入時刻を推定し(交差点進入時刻推定手段)、推定した交差点進入時刻とその交差点の情報、および自車の進行方向情報等を他車との間で互いに情報交換する(情報通信手段)。そして車々間通信により得られた他車の情報から同一交差点にほぼ同時に進入する他車を特定すると共に、当該他車の進行方向情報に従って自車および他車の上記交差点への進入時刻をそれぞれ補正し(補正手段)、これらの補正された自車および他車の交差点進入時刻を相互に比較して衝突の可能性を高精度に判定する(衝突判定手段)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点等における出会い頭の衝突可能性を予測して衝突事故を未然に防いだり、或いは衝突被害を軽減するに好適な衝突防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交差点における出会い頭の衝突事故を防ぐべく、カーナビゲーション装置を用いて取得した自車の位置情報、進行方向情報、および走行中の道路情報等を、例えば車両間無線通信装置を用いて他車との間で相互に情報交換し、自車および他車のそれぞれにおける前方交差点が同一であって、その交差点への到達予定時間の差が所定時間よりも小さいとき、これを衝突の可能性有りと判断して運転者に対して警告を発するようにした衝突防止装置が提唱されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−348299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところでカーナビゲーション装置から取得しうる交差点の位置情報は、一般的にその代表点である交差点の中心位置座標である。そして自車の交差点への到達予定時間は、専ら、自車の位置情報(自車位置座標)と上記交差点の中心位置座標とから交差点までの距離を求め、自車の速度および加速度に基づいて上記距離を移動するに要する時間として計算される。しかしながらこのようにして計算される自車および他車の同一交差点への到達予定時間が略等しいといえども、車両の進行方向によっては衝突の可能性が殆どない場合がある。逆に到達予定時間に或る程度の差が認められても衝突の可能性が高い場合もある。
【0004】
即ち、車両は道路交通法に従って道路の左側車線(または右側車線)を走行している。これ故、自車の進行方向に対して他車が交差点の左側からに進入してくるか、或いは右側から進入してくるかによって他車との衝突が生じる虞のある位置が異なってくる。これにも拘わらず前述した衝突判定においては、単に交差点の中心位置を基準として当該交差点への到達予定時間を求め、交差点の中心位置での出会い(衝突)の可能性を判定しているに過ぎない。これ故、衝突判定の信頼性が低いことが否めない。
【0005】
尚、予め交差点内における自車および他車の各走行ラインを予測し、これらの走行ラインが交差する位置座標を求めて当該位置への自車および他車の各到達予定時間をそれぞれ計算することで、衝突判定を精度良く行うことが考えられる。しかし一般的にその計算量(演算量)が膨大となり、速やかに衝突可能性を判定することが困難になると言う問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、交差点での他車との衝突可能性を正確に、しかも効率的に判断して衝突事故を未然に防ぐに好適な衝突防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するべく本発明に係る衝突防止装置は、
<a> GPS(グローバル・ポジショニング・システム)等を利用したカーナビゲーション装置から自車の位置情報と道路情報とをそれぞれ取得すると共に、車両センサから自車の車体速情報(速度,加速度)を取得し、これらの取得情報に基づいて自車の交差点等への進入時刻を推定する交差点進入時刻推定手段と、
<b> この手段にて推定した交差点進入時刻とその交差点の情報、および自車の進行方向情報と前記車体速情報とを他車との間で互いに情報交換する情報通信手段と、
<c> この情報通信手段を介して得られた他車の情報から同一交差点にほぼ同時に進入する他車を特定すると共に、当該他車の進行方向情報に従って自車および他車の上記交差点への進入時刻をそれぞれ補正する補正手段と、
<d> これらの補正された自車および他車の交差点進入時刻を相互に比較して衝突の可能性を判定する衝突判定手段と
を備えたことを特徴としている。
【0008】
即ち、本発明に係る衝突防止装置は、カーナビゲーション装置から得られる位置情報や道路情報と車両センサから得られる速度および加速度からなる車体速情報に基づいて進行方向前方の交差点までの到達予定時間(交差点への進入時刻)を推定し、この交差点進入時刻情報とその交差点の情報、および自車の進行方向情報と前記車体速情報とを他車との間で相互に通信して情報交換する。そして情報交換によって他車から得られた情報から同一交差点にほぼ同時に進入する他車を衝突判定対象車として特定し、その上で当該他車の進行方向情報に従って自車および上記他車(衝突判定対象車)の上記交差点への進入時刻をそれぞれ補正する(補正手段)。つまり衝突判定対象車(他車)の交差点への進入方向に従って該衝突判定対象車と自車とが衝突する可能性のある位置を交差点の中心位置からのずれ量として求め、このずれ量に応じて自車および他車の交差点への進入時刻をそれぞれ補正して上記位置への到達時刻を正確に求める。その上でこれらの補正された自車および他車の交差点進入時刻(到達時刻)を相互に比較して衝突の可能性を判定する(衝突判定手段)ことを特徴としている。
【0009】
好ましくは請求項2に記載するように前記補正手段は、自車および他車の交差点進入時刻を、上記他車の進行方向に応じて定まる向きに前記交差点の情報から求められる車線幅に応じてそれぞれ補正するように構成される。特に請求項3に記載するように前記補正手段は、前記車体速情報として求められる現在の車体速度および車体加速度と交差点までの距離とに従って交差点進入時の車体速度を推定し、この推定車体速度と上記車体加速度とから車両が前記車線幅の1/2の距離を移動に要する時間を求めて前記交差点進入時刻を補正するように構成される。つまり他車の進行方向に応じて自車および他車が交差すると予想される位置が、その車線幅の1/2ずつずれると看做して各車の交差点進入時刻をそれぞれ補正するようにすれば良い。
【0010】
更には衝突防止装置としては、請求項4に記載するように前記衝突判定手段にて衝突の可能性があると判断されたとき、自車の運転者に対して警告を与える警告手段および/または自動ブレーキ機構を作動させる衝突回避手段を備えることが望ましい。具体的には音声メッセージや警告音として警報を発したり、表示装置等を用いて警告表示したり、更にはシートベルトを間欠的に締め付ける等して警告を与えるようにすれば良い。また自動ブレーキ機構については、車両が搭載している制動力制御システム等が有する機能を活用するようにすれば良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーナビゲーション情報および車体速情報から求められる自車の交差点への進入時刻を、上記カーナビゲーション情報および車体速情報と共に車々間通信により他車との間で互いに情報交換するので、同一交差点にほぼ同時に進入する他車を衝突判定対象車として容易に特定することができる。その上で他車の進行方向(交差点への進入方向)に応じて当該他車と自車とが交差(衝突)すると予想される位置の交差点の中心位置からのずれ量を求め、このずれ量の分だけ自車および他車の前述した交差点進入時刻をそれぞれ補正して上記衝突予想位置への到達時刻を求めるので、これらの到達時刻(補正した交差点進入時刻)を相互に比較するだけで、その衝突可能性を簡易にしかも正確に判定することができる。
【0012】
特にカーナビゲーション情報(地図情報)から求められる交差点の中心位置を基準として交差点進入時刻を簡易に求めた上で、この交差点進入時刻を当該交差点への他車の進入方向に応じて、例えば車線幅の1/2の距離を移動する要する時間分だけそれぞれ補正するだけで良いので、自車および他車の走行ラインをそれぞれ精度良く予想してその交差位置を求めることなく、簡易にしかも高精度に衝突の可能性を判定することができる。従ってその演算量自体も少なくすることができ、速やかな衝突可能性判定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る衝突防止装置について説明する。
この衝突防止装置は、基本的には図1にその概略構成を示すようにGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を利用したカーナビゲーション装置10、他車との間で車々間通信を行う無線通信機20、自車の車体速情報である速度vと加速度aとを検出する車両センサ30、および衝突可能性の演算処理を実行するマイクロコンピュータを主体とする演算処理部40を備えて構成される。更にはこの衝突防止装置は、後述するように衝突警報を発するための警報装置50や、衝突の自動回避に用いるための自動ブレーキ装置60等を備えて構築される。
【0014】
尚、カーナビゲーション装置10は衛星からの電波を受信して自車の絶対位置(緯度・経度)を求める位置検出機能11、検出位置の時間的変化とジャイロセンサとから自車の進行方向を求める進行方向検出機能12、更には検出した位置情報に応じて予めメモリ13に蓄積された地図データを読み出して自車が走行中の道路情報やその周辺の情報を求める道路情報検索機能14等を備えたものである。更にはこのカーナビゲーション装置10は、検出した位置情報および道路情報(地図データ)に従って車両進行方向前方に存在する交差点を検出する交差点検出機能15を備える。またこのカーナビゲーション装置10は、タイマー70により計時されている絶対的な現在時刻を取得するタイマー機能16を備える。
【0015】
一方、前述した車両センサ30は、例えば車輪速センサからなり、その回転数と車輪径から車体速度vを求めると共に、この車体速度vを微分して車体加速度aを求めるように構成される。尚、専用の加速度センサを用いて車体加速度aを検出することも勿論可能である。要は車両センサ30は、自車の車体速度vと車体加速度aとをそれぞれ求め得るものであれば良く、予め車両に組み込まれているものを適宜用いるようにしても良い。
【0016】
さて本装置の主体部をなす演算処理部40は、基本的には前記カーナビゲーション装置10が備える交差点検出機能15において求められた交差点への到達所要時間を計算する所要時間計算機能42を備える。この所要時間計算機能42は、例えば自車の現在位置と上記交差点の座標位置とからその間の距離Lを求め、そのときの車体速度vと車体加速度aとから上記距離Lを移動するに要する時間を計算するものからなる。そして交差点進入時刻推定機能43は、前述したタイマー機能16により計時されている絶対的な現在時刻に上述した如く計算される所要時間を加えることで上記交差点への進入時刻を推定している。
【0017】
このようにして求められる交差点への進入時刻と、その交差点の情報、更にはこれらの情報を求めるに至った前述した自車の位置情報や車両進行方向の情報等が前述した無線通信機20を介して時々刻々他車に向けて送信される。また他車から同様にして送信される情報が前記無線通信機20を介して受信されて車々間通信が行われる。尚、この無線通信機20を介する車々間通信は、トランシーバ等の通信機能を介して複数の車両間で直接的に行われるものであっても良く、或いは携帯電話機等の通信機能を介して中継局を介して間接的に、更には各種の無線LANやインターネット等の通信網を介して行われるものであっても良い。
【0018】
このようにして交差点への進入時刻や、これに付随する各種の情報を他車との間で車々間通信する基本的な機能に加えて、本発明に係る衝突防止装置の演算処理部40においては、車々間通信により取得した他車の情報に基づいて後述するように自車および他車の前記交差点への進入時刻を補正する補正機能44を備えている。そして衝突判定機能45においては、補正した自車および他車の前記交差点への進入時刻を相互に比較して衝突可能性を有無を判断するものとなっている。更にこの演算処理部40は、上記衝突判定機能45により衝突の可能性有りと判断されたとき、前述した警報装置50や自動ブレーキ装置60を作動させてその衝突を回避(防止)するための措置を講じる衝突回避処理機能46を備えている。
【0019】
さて本装置の特徴的な機能である補正機能44は、前述した交差点進入時刻推定機能43により推定される進行方向前方の交差点への進入時刻は、交差点の位置を代表する該交差点の中心位置座標までの到達時間を基準として求められたものであり、同一交差点に進入する他車と衝突する可能性のある位置への到達時刻とは異なることに着目して、その位置ずれに起因する時間的なずれを補正する役割を担っている。
【0020】
即ち、前述したように求められる交差点進入時刻は、図2に示すように交差点を通過しようとする車両A,Bがそれぞれ該交差点の中心位置Oに到達する、或いは中心位置Oを越えると推定される時間情報であり、交差点に進入する上記車両A,Bが交差する位置への到達時刻とは異なっている。何故ならば道路を走行する車両A,Bは、道路交通法の定めにより、例えば左側通行しており、一般にその道路幅を二分した左側車線を走行する。これ故、公差点内を通過しようとする車両A,Bの走行予想ラインは、図2に示すように各道路幅の中心線Ca,Cbから、それぞれその車線幅Wの1/2だけ左側にずれたラインLa,Lbである。そして上記車両A,Bが衝突する可能性のある位置Xは、上記各走行ラインLa,Lbが交差する位置に他ならず、この交差位置Xは前述した交差点の中心位置Oからずれている。
【0021】
尚、他車が交差点の左側から進入するか、或いは右側から進入するかによって他車の走行ラインLが変化するので、車両A,B(C)が衝突する可能性のある位置は、図2に示すように他車B(C)の進行方向(交差点に進入する向き)によって図中XまたはYとして求められることになる。またここでは左側通行の場合を例に示しているが、右側通行の場合にも同様である。
【0022】
そこで前述した補正機能44においては前述した如く求められた自車および他車の交差点への進入時刻を、車々間通信によって取得した他車の進行方向の情報に基づいて道路の中心線Cから道路幅方向にそれぞれずれた分だけ補正している。具体的には自車および他車の走行ラインLa,Lbが交差する位置が、一般的に交差点の中心位置から自車および他車の進行方向と直角な方向にそれぞれその車線幅の1/2ずつずれることから、これらのずれ量を走行するに要する時間をその走行速度の情報等から求め、この時間に従って前記各進入時刻をそれぞれ補正するものとなっている。
【0023】
この補正時間tは、上記交差点の中心位置からのずれ量をLとしたとき、交差点進入時の推定車体速度v1と車体加速度aとから
L=v1・t+(a/2)・t2
なる運動方程式を解くことにより求めることができる。尚、上記交差点進入時の推定車体速度v1については、前述した車両センサ30から求められる現在の車体速度v0および車体加速度aと、現在位置から交差点までの距離Sとから、
v12−v02=2a・S
として計算することができる。従ってこのようにして求められる補正時間tを用いて交差点への進入時刻を補正し、他車と衝突する虞のある位置に到達する時間(時刻)を自車および他車についてそれぞれ求めれば、これらの補正された進入時刻を相互に比較することで衝突可能性の有無を正確に判断することが可能となる。
【0024】
図3は上述した如くして衝突判定する前記演算処理部40での概略的な処理手順の例を示している。この処理手順について説明すると、先ず自車の走行状態を認識するための基本的な処理として前述したカーナビゲーション装置10から自車の「現在位置情報(緯度・経度)」と走行中の「道路情報」およびその近傍の地図情報等の、いわゆるカーナビ情報を取得する〈ステップS1〉。そして道路情報(地図データ)に従って進行方向前方の自車が進入しようとする交差点の情報を取得し、その交差点の位置(一般的には交差点の中心位置座標)を特定する〈ステップS2〉。
【0025】
一方、前記車両センサ40から自車の挙動を示す情報として、現在の車体速度vと車体加速度aとを取得する〈ステップS3〉。そしてこれらの車体速度vおよび車体加速度aと、前述したカーナビ情報から求められる進行方向前方の交差点までの距離Sとに従い、自車が当該交差点に到達するまでの所要時間を計算する〈ステップS4〉。その上で予め正確に時刻合わせがなされた絶対時刻を取得し〈ステップS5〉、この絶対時刻を用いて前述した交差点への進入時刻(絶対時刻)を計算する〈ステップS6〉。
【0026】
尚、交差点への進入時刻の絶対化は、複数の車両がそれぞれ個別に求める交差点への到達所要時間、ひいては交差点到達時刻を、基準となる時間軸上で揃えて統一的に管理するための措置である。ちなみに車両毎に特定の交差点への到達時刻(到達時間)を管理するだけの場合には、各車両毎に独自に設定したローカル時刻を用いても問題はない。従って本発明の係る衝突防止装置においては、電波時計等を用いて時報毎にその時刻を補正した絶対時刻を用い、現在時刻に上記交差点への到達所要時間を足し込むことで、交差点進入時刻を絶対的に求めるようにしておけば良い。
【0027】
以上のようにして進行方向前方の交差点への進入時刻(到達時刻)を求めたならば、前述した無線通信機20を用いた車々間通信により、例えば交差点への進入時刻の情報、その交差点の情報、自車の進行方向の情報、自車の車体速度vおよび車体加速度aからなる車体速情報等を不特定多数の他車に対して送信し〈ステップS7〉、また他車から送信されてくる同種の情報を受信する〈ステップS8〉。つまり上述した如くして求めた交差点への進入情報を、当該交差点の付近に存在すると思われる他車との間で車々間通信により相互に情報交換する。そして車々間通信により取得した他車の情報から、同一の交差点にほぼ同一時刻に進入しようとする他車が存在するか否かを判定し、該当する他車が存在する場合には、当該他車を衝突判定処理の対象車として特定する〈ステップS9〉。
【0028】
尚、上述した処理対象車の判定は、位置座標が同じ交差点を同一の交差点として認識し、その交差点への進入時刻(絶対時刻)が自車の進入時刻とほぼ等しいもの、換言すれば自車および他車の進入時刻の差が予め設定した時間内となる他車を、衝突の可能性の判断が必要となるものとして抽出するようにすれば良い。従って上記条件を満たさないものについては、それ以降の処理対象から除外しても良い。
【0029】
さて衝突可能性の判断が必要となる他車が抽出されたならば、その他車の進行方向を当該他車から取得した情報を解析して求め、交差点に対する進入の向きを求める〈ステップS10〉。ちなみにカーナビ情報には、例えば全方位を12等分、或いは24等分して概略的に表現した車両の方位情報が含まれるので、これを車両の進行方向の情報として抽出するようにしても良い。そしてこの情報と自車の進行方向とから、自車が進入しようとしている交差点に対して他車が左側から進入するのか、或いは右側から進入するのかを判断する。
【0030】
しかる後、他車が交差点に進入する向きに応じて、自車および他車の前述した交差点進入時刻をそれぞれ補正する〈ステップS11〉。この補正処理は左側通行の場合、図4に例示するように、。先ず他車が交差点の左側から進入するか否かを判定する〈ステップS11a〉。そして他車が交差点の左側から進入する場合には、図2にその概念を示したように自車の進入時刻を奥側に補正し、他車の進入時刻を手前側に補正する〈ステップS11b〉。
【0031】
即ち、自車にとっては、左側から進入する他車が交差点を横切る奥側の車線を走行することになるので、自車および他車の走行ラインが交差する位置は、交差点の中心よりも奥側になる。従って交差点の中心線とその走行ラインとのずれ分を自車が移動するに要する時間だけ自車の進入時刻を補正する。つまり自車の進入時刻に、前述した如く求められる補正時間を加算する。
【0032】
また他車にとっては自車が交差点の右側から進入することになり、交差点を横切る手前側の車線を走行することになるので、自車および他車の走行ラインが交差する位置は、交差点の中心よりも手前側となる。従って交差点の中心線とその走行ラインとのずれ分を他車が移動するに要する時間だけ他車の進入時刻を補正する。つまり他車の進入時刻から、前述した如く求められる補正時間を減算する。
【0033】
また他車が交差点の右側から進入する場合には、自車の進入時刻を手前側に補正し、他車の進入時刻を奥側に補正する〈ステップS11c〉。即ち、自車と他車との関係が上述した他車の左側からの進入の場合と逆になるので、自車の進入時刻から前述した補正時間を減算することにより衝突可能性位置への到達時刻を補正し、他車については前述した補正時間を加算することで衝突可能性位置への到達時刻を補正する。
【0034】
しかる後、上述した如く補正した自車および他車の到達時刻を相互に比較することで、衝突可能性位置への到達時刻が同じであるか否かを判定し〈ステップS12〉、衝突の可能性があるか否かを判断する。そして衝突の可能性がない場合には、その処理を終了して前述したステップS1からの処理を繰り返し実行する。これに対して衝突の可能性有りと判断された場合には、例えば警報装置50を作動させる等して運転者に対して注意・警報を発する〈ステップS13〉。この注意・警報については、カーナビゲーション装置10等が備えたディスプレイを用いて注意・警告を促すメッセージを表示したり、スピーカ等を介して警告音を発したり、更には音声メッセージを出力するようにしても良い。更には運転者が装着しているシートベルトを間欠的に締めることで、運転者の身体に直接的な刺激を与えるようにすることも有用である。
【0035】
尚、このような注意・警告を発した後、再度、交差点への進入時刻を計算し〈ステップS14〉、新たに求められた進入時刻が他車の交差点進入時刻と同じであるか否かを判定することで〈ステップS15〉、運転者が何等かの衝突回避行動をとったか否かを判断することも有用である。また前述した衝突可能性の判断処理を時々刻々実行し、その都度、衝突の可能性が高いことが判断されているにも拘わらず衝突回避の行動がとられないような場合には、例えば前述した自動ブレーキ装置60を強制的に作動させて自車に制動を加えるようにしても良い〈ステップS16〉。
【0036】
かくして上述した如くして交差点における他車との衝突の可能性を判断する本装置によれば、交差点への進入時刻を当該交差点への他車の進入方向に応じて補正するので、自車および他車のそれぞれの進行予想ラインが交差する位置における衝突の可能性を、簡易に、しかも精度良く判定することができる。しかも自車および他車の道路上における進行ラインを高精度に予想しなくても、交差点の中心位置を基準として求められる交差点進入時間をベースとし、その車線幅に応じた補正時間を加減算すると言う簡易な処理により、衝突の可能性を判断することができる。従ってその処理負担もさほど大きくなく、また短時間に高速処理することも容易なので、交差点における出会い頭の衝突を防止する上でその実用的利点が多大である。
【0037】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば片側2車線(往復4車線)等の幅広道路を通行しており、その走行車線の情報が得られるならば、その走行車線情報も車々間通信により他車に与えるようにしても良い。このような走行車線情報が得られれば、前述した補正処理において何車線分補正すれば良いかが明らかになるので、より高精度に衝突可能性を判断することが可能となる。また交差点に通じる道路が、一方通行道路であるような場合には、その旨の情報をカーナビ情報から取得して前述した補正処理を適応的に実行し、その走行車線位置に応じた補正を加えるように構成することも有用である。
【0038】
また前述した自動ブレーキ装置60や車両センサ30については、車両に搭載されている制動力制御システムが備える機能をそのまま活用するようにしても良いことは言うまでもない。またここでは車線幅の情報に基づいてその1/2だけ衝突可能性位置への到達進入時間を補正するものとしたが、道路幅の情報が得られる場合には対向2車線道路と看做して、その道路幅の1/4を移動するに要する時間を補正するようにしても良い。更には白線認識等によって得られる走行車線情報等も車々間通信し、この情報を利用して衝突可能性の判断精度を高めることも可能である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る衝突防止装置の概略構成図。
【図2】交差点における衝突位置と交差点の中心位置座標との関係を模式的に示す図。
【図3】図1に示す衝突防止装置における概略的な処理手順の一例を示す図。
【図4】左側通行時における補正処理の例を示す図。
【符号の説明】
【0040】
10 カーナビゲーション装置
20 無線通信機(車々間通信機能)
30 車両センサ(車体速情報検出手段)
40 演算処理部
43 交差点進入時刻推定機能
44 補正機能
45 衝突可能性判断機能
46 衝突回避処理機能
50 警報装置
60 自動ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーナビゲーション装置から得られる自車の位置情報および道路情報と、車両センサから得られる自車の車体速情報とに基づいて進行方向前方の交差点への進入時刻を推定する交差点進入時刻推定手段と、
この手段にて推定した交差点進入時刻とその交差点の情報、および自車の進行方向情報と前記車体速情報とを他車との間で互いに情報交換する情報通信手段と、
この情報通信手段を介して得られた他車の情報から同一交差点にほぼ同時に進入する他車を特定すると共に、当該他車の進行方向情報に従って自車および他車の上記交差点への進入時刻をそれぞれ補正する補正手段と、
これらの補正された自車および他車の交差点進入時刻を相互に比較して衝突の可能性を判定する衝突判定手段と
を具備したことを特徴とする衝突防止装置。
【請求項2】
前記補正手段は、自車および他車の交差点進入時刻を、上記他車の進行方向に応じて定まる向きに前記交差点の情報から求められる車線幅に応じてそれぞれ補正するものである請求項1に記載の衝突防止装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記車体速情報として求められる現在の車体速度および車体加速度と交差点までの距離とに従って交差点進入時の車体速度を推定し、この推定車体速度と上記車体加速度とから車両が前記車線幅の1/2の距離を移動に要する時間を求めて前記交差点進入時刻を補正するものである請求項2に記載の衝突防止装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の衝突防止装置において、
更に前記衝突判定手段にて衝突の可能性があると判断されたとき、自車の運転者に対して警告を与える警告手段および/または自動ブレーキ機構を作動させる衝突回避手段を備えることを特徴とする衝突防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−227690(P2006−227690A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37384(P2005−37384)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】