説明

表面形状の測定方法及び測定装置

【課題】位相変調された干渉信号を検出し、干渉信号の位相を求める信号処理演算を行うことによってナノメータオーダでの分解能で表面形状測定を行うことのできる、表面形状の測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザ光源11からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換してから回転多面体ミラー32に導き、レンズ33を通過した合成光を構成する2つの光を偏光ビームスプリッタ34により分離してその一方の光を参照面ミラー42、他方の光を被測定物体41の表面に照射する。参照面ミラー42からの反射光と被測定物体41の表面からの反射光を偏光ビームスプリッタ34により再び重ね合わせ、偏光板52を通過させることにより参照面ミラー42からの反射光と被測定物体41の表面からの反射光を干渉させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面形状の測定方法及び測定装置に関し、特にレーザ走査干渉を用いた表面形状の測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ走査干渉計として、特許文献1に記載のものが知られている。このレーザ走査干渉計は、レーザ光源からのレーザ光を平行光束としてビームスプリッタを介して走査ミラーに導き、該走査ミラーで前記レーザ光を走査光に変換してテレセントリックレンズに入射させ、該テレセントリックレンズの焦点面近傍に近接配置した参照面及び被観察面からの反射光を前記テレセントリックレンズにより平行光束に変換し、前記走査ミラーで反射させた後に前記ビームスプリッタでレーザ光源からのレーザ光と分離し、結像レンズによって集光して前記テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置したスリットを通過させ、該スリットを通過した前記反射光の光量を受光素子で計測し、計測した光量信号をA/D変換して前記走査ミラーの角度に対応した時系列データとして演算手段に取り込んで配置することにより干渉波形を取得する。そして、レーザ光による走査光で参照面と被観察面とを走査することから、走査するレーザ光の光点サイズでの分解能、例えば2万×1.6万ドットの約3億画素程度の分解能が得られる。したがって、受光部の分解能にとらわれずに高精細、高コントラストの干渉波形を得ることができる。これにより、横分解能を高めることができるので、高低差の急激な部分も、高低差が緩やかな部分も干渉波形として確実に検出することができる。さらに、参照面と被観察面とからの反射光を、テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置したスリットを通過させることにより、余分な反射光をカットしてピントの合った光だけが受光素子に受光されることから、横分解能の向上、高精細化、高コントラスト化を促進することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−309668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のレーザ走査干渉計は、共焦点レーザ走査形状測定器の高い空間分解能を保持しているため、従来の干渉計では観測できなかった微細な構造を有する干渉縞パターンが観測されており、被測定物体の表面の大まかな形状をレーザ波長の半波長程度の分解能で推定することはできる。しかし、この1枚の干渉縞パターンから定量的な表面形状を計算し、ナノメータオーダでの分解能で表面形状測定を行うことは困難である。なお、特許文献1には、位相変調された干渉縞パターン或いは干渉信号を得るために、参照面をレーザ波長以下の量だけ光軸方向に移動させ、複数の位相変調された干渉縞パターンを取得することが望ましいと記載されているが、複数の位相変調された干渉縞パターンから表面形状を計算する方法についての開示はなされてない。
【0005】
そこで、本発明は、位相変調された干渉信号を検出し、干渉信号の位相を求める信号処理演算を行うことによってナノメータオーダでの分解能で表面形状測定を行うことのできる、表面形状の測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表面形状の測定方法は、レーザ光源からのレーザ光を平行光束としてビームスプリッタを介して走査ミラーに導き、該走査ミラーで前記レーザ光を走査光に変換してテレセントリックレンズに入射させ、該テレセントリックレンズの焦点面近傍に配置した参照平面及び被測定物体の表面からの反射光を前記テレセントリックレンズにより平行光束に変換し、前記走査ミラーで反射させた後に前記ビームスプリッタで前記レーザ光源からのレーザ光と分離し、結像レンズによって集光して前記テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置したピンホールを通過させ、該ピンホールを通過した光の光量を受光素子で計測する表面形状の測定方法であって、前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換してから前記走査ミラーに導き、前記テレセントリックレンズを通過した前記合成光を構成する2つの光を偏光ビームスプリッタにより分離してその一方の光を前記参照平面、他方の光を前記被測定物体の表面に照射し、前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を前記偏光ビームスプリッタにより再び重ね合わせ、偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることを特徴とする。
【0007】
また、電気光学位相変調器を用いて、前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換することを特徴とする。
【0008】
また、前記偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【0009】
【数1】

【0010】
(ここで、Zとθは前記電気光学位相変調器への印加電圧である角周波数ωの正弦波信号の振幅及び初期位相で決まる定数、L(t)は前記参照平面と前記被測定物体からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子で検出して位相α(t)を求めることを特徴とする。
【0011】
また、音響光学周波数変調器を用いて、前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換することを特徴とする。
【0012】
また、前記偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【0013】
【数2】

【0014】
(ここで、前記音響光学周波数変調器への印加電圧は角周波数ωの正弦波信号、L(t)は前記参照平面と前記被測定物体からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子で検出して位相α(t)を求めることを特徴とする。
【0015】
本発明の表面形状の測定装置は、レーザ光源と、このレーザ光源からのレーザ光を平行光束とするコリメータレンズと、この平行光束を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換する位相変調直交偏光発生装置と、この合成光を走査光に変換する走査ミラーと、この走査光を集光するテレセントリックレンズと、このテレセントリックレンズを通過した前記合成光を構成する2つの光を分離してその一方の光を参照平面、他方の光を被測定物体の表面に照射するとともに前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を再び重ね合わせる偏光ビームスプリッタと、前記テレセントリックレンズを通過して前記走査ミラーで反射された前記2つの反射光を前記位相変調直交偏光発生装置からの合成光と分離するビームスプリッタと、前記2つの反射光を集光する結像レンズと、前記2つの反射光を干渉させる偏光板と、前記テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置されたピンホールと、このピンホールを通過した光の光量を計測する受光素子とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、前記位相変調直交偏光発生装置は、電気光学位相変調器を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、前記位相変調直交偏光発生装置は、音響光学周波数変調器を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面形状の測定方法及び測定装置によれば、位相変調された干渉信号を検出することができ、干渉信号の位相を求める信号処理演算を行うことによってナノメータオーダでの分解能で表面形状測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の表面形状の測定装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】実施例1の表面形状の測定装置の位相変調直交偏光発生装置の構成を示す概略図である。
【図3】実施例2の表面形状の測定装置の位相変調直交偏光発生装置の構成を示す概略図である。
【図4】実施例3の平面ミラーを走査することにより検出された干渉信号の全体を示すグラフである。
【図5】実施例3の図4の干渉信号の一部の時間方向に拡大したグラフである。
【図6】実施例3の図4の干渉信号から得られた位相分布を示すグラフである。
【図7】実施例3の研磨された金属表面に対する位相分布の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例3の図7の位相分布の一部を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の表面形状の測定方法及び測定装置の実施例について、添付した図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例の表面形状の測定装置を示す図1において、11はレーザ光源としての半導体レーザ光源であり、この半導体レーザ光源11から出力されたレーザ光は、コリメータレンズとしてのレンズ12を通過して、位相変調直交偏光発生装置20に入射するようになっている。本実施例では、位相変調直交偏光発生装置20は正弦波位相変調法を用いた構成になっており、図2に示すように、電気光学位相変調器21にレーザ光が入射するようになっている。
【0022】
電気光学位相変調器21により変調された光は、レンズ22とレンズ23を通過し、ビームスプリッタ31を通過して、図示しないモータによって回転する走査ミラーとしての回転多面体ミラー32で反射されるようになっている。回転多面体ミラー32で反射された光は、テレセントリックレンズからなるレンズ33を通過して、偏光ビームスプリッタ34によって被測定物体41へ入射する光と参照面ミラー42に入射する光に分けられるようになっている。回転多面体ミラー32での反射位置中心とレンズ33の距離は、レンズ33の焦点距離fとなっている。また、参照面ミラー表面42はレンズ33の焦点面内にあり、被測定物体41表面はレンズ33の焦点面を含み、いずれの表面も集光されたビームのビームウエスト内に含まれるようになっている。
【0023】
被測定物体41表面及び参照面としての参照面ミラー42表面から反射された光は、偏光ビームスプリッタ34で再び重ね合わされ、もとの経路を通ってビームスプリッタ31で反射され、結像レンズとしてのレンズ51、偏光板52を通過し、レンズ33の焦点面と共役の位置に設置されたピンホール53を通過し、受光素子としての光電子倍増管61で受光されるようになっている。そして、光電子倍増管61で検出された干渉信号は、A/D変換ボードを備えた信号処理回路装置62によってパーソナルコンピュータからなる演算処理装置63に取り込まれるようになっている。
【0024】
つぎに、本実施例の表面形状の測定装置の動作について説明する。
【0025】
半導体レーザ光源11から出力されたレーザ光は、レンズ12により平行光となり、位相変調直交偏光発生装置20の電気光学位相変調器21に入射する。このとき、電気光学位相変調器21の複屈折性結晶の直交する複屈折軸に対して、平行光の直線偏光方向は45度の角度をなす。電気光学位相変調器21への印加電圧は、角周波数ωの正弦波信号である。
【0026】
電気光学位相変調器21からの平行光は、レンズ22とレンズ23で必要な大きさに拡大され、ビームスプリッタ31を通過して、回転多面体ミラー32で反射される。回転多面体ミラー32で反射された反射光は、レンズ33で収束光に変換され、偏光ビームスプリッタ34によって被測定物体41へ入射する光と参照面ミラー42に入射する光に分けられる。それぞれの光は電気光学位相変調器21による位相変調を受けており、偏光方向が互いに直交しており、2つの光の位相はZcos(ωt+θ)だけ異なっている。Z及びθは、それぞれ電気光学位相変調器21への印加電圧である正弦波信号の振幅及び初期位相で決まる。
【0027】
回転多面体ミラー32での反射位置中心とレンズ33の距離は、レンズ33の焦点距離fであり、参照面ミラー42表面と被測定物体41表面は、いずれも集光された収束光のビームウエスト内に含まれている。集光された収束光の径の大きさをφとする。回転多面体ミラー32が回転すると、集光された収束光は被測定物体41表面および参照面ミラー42表面をx軸方向に速度Vで移動する。回転多面体ミラー32の回転数がRのとき、回転多面体ミラー32による収束光の走査角度γは4πRtとなり、そのときの収束光の走査位置xはftanγとなる。cosγを1に近似すると、収束光の走査速度Vはdx/dt=4πfRとなる。なお、回転多面体ミラー32を回転させるモータの動作は、図示しない制御手段により制御され、回転多面体ミラー32の回転数の情報は、制御手段から演算処理装置63へ送信される。
【0028】
被測定物体41表面及び参照面ミラー42表面から反射された光は、偏光ビームスプリッタ34で再び重ね合わされ、もとの経路を通って平行光となり、ビームスプリッタ31で反射し、レンズ51で集光されながら偏光板52を通過することによって、直交する2つの光は干渉する。レンズ51の焦点面にあるピンホール53を通過した光は光電子倍増管61で受光され、次式の干渉信号S(t)が検出される。
【0029】
【数3】

【0030】
L(t)は被測定物体41表面及び参照面ミラー42表面からの反射光の伝搬距離の差である。α(t)を求めれば、x=Vtの関係で被測定物体の表面形状r(x)=L(x)/2が得られる。光電子倍増管61は光電変換を行い、光量に対応した光量信号を信号処理回路装置62へ送る。信号処理回路装置62は、この光量信号をA/D変換し、演算処理装置63に送る。信号処理回路装置62に含まれるA/D変換器のサンプリング周波数fは8fであり、その結果、干渉信号のサンプリング間隔は被測定物体表面上でΔd=V(1/f)となる。演算処理装置63は、フーリエ変換を用いて干渉信号S(t)を演算処理することによって位相α(t)を得る。
【0031】
x軸方向のある直線に沿っての収束光の走査が終了したら、被測定物体をy軸方向に平行移動させ、x軸方向の別の直線に沿っての走査を行うことによって、2次元平面の表面形状を測定することができる。
【0032】
以上のように、本実施例の表面形状の測定方法は、レーザ光源としての半導体レーザ光源11からのレーザ光を平行光束としてビームスプリッタ31を介して走査ミラーとしての回転多面体ミラー32に導き、該回転多面体ミラー32で前記レーザ光を走査光に変換してテレセントリックレンズとしてのレンズ33に入射させ、該レンズ33の焦点面近傍に配置した参照平面としての参照面ミラー42及び被測定物体41の表面からの反射光を前記レンズ33により平行光束に変換し、前記回転多面体ミラー32で反射させた後に前記ビームスプリッタ31で前記半導体レーザ光源11からのレーザ光と分離し、結像レンズとしてのレンズ51によって集光して前記レンズ33の焦点面と共役の位置に設置したピンホール53を通過させ、該ピンホール53を通過した光の光量を受光素子としての光電子倍増管61で計測する表面形状の測定方法であって、前記半導体レーザ光源11からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換してから前記回転多面体ミラー32に導き、前記レンズ33を通過した前記合成光を構成する2つの光を偏光ビームスプリッタ34により分離してその一方の光を前記参照面ミラー42、他方の光を前記被測定物体41の表面に照射し、前記参照面ミラー42からの反射光と前記被測定物体41の表面からの反射光を前記偏光ビームスプリッタ34により再び重ね合わせ、偏光板52を通過させることにより前記参照面ミラー42からの反射光と前記被測定物体41の表面からの反射光を干渉させるものである。
【0033】
また、電気光学位相変調器21を用いて、前記半導体レーザ光源11からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換するものである。
【0034】
また、前記偏光板52を通過させることにより前記参照面ミラー42からの反射光と前記被測定物体41の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【0035】
【数4】

【0036】
(ここで、Zとθは前記電気光学位相変調器21への印加電圧である角周波数ωの正弦波信号の振幅及び初期位相で決まる定数、L(t)は前記参照面ミラー42と前記被測定物体41からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子としての光電子倍増管61で検出して位相α(t)を求めるものである。
【0037】
本実施例の表面形状の測定装置は、レーザ光源としての半導体レーザ光源11と、この半導体レーザ光源11からのレーザ光を平行光束とするコリメータレンズとしてのレンズ12と、この平行光束を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換する位相変調直交偏光発生装置20と、この合成光を走査光に変換する走査ミラーとしての回転多面体ミラー32と、この走査光を集光するテレセントリックレンズとしてのレンズ33と、このレンズ33を通過した前記合成光を構成する2つの光を分離してその一方の光を参照平面としての参照面ミラー42、他方の光を被測定物体41の表面に照射するとともに前記参照面ミラー42からの反射光と前記被測定物体41の表面からの反射光を再び重ね合わせる偏光ビームスプリッタ34と、前記レンズ33を通過して前記回転多面体ミラー32で反射された前記2つの反射光を前記位相変調直交偏光発生装置20からの合成光と分離するビームスプリッタ31と、前記2つの反射光を集光する結像レンズとしてのレンズ51と、前記2つの反射光を干渉させる偏光板52と、前記レンズ33の焦点面と共役の位置に設置されたピンホール53と、このピンホール53を通過した光の光量を計測する受光素子としての光電子倍増管61とを備えたものである。
【0038】
また、前記位相変調直交偏光発生装置20は、電気光学位相変調器21を備えたものである。
【0039】
本実施例の表面形状の測定方法及び測定装置によれば、位相変調された干渉信号を検出することができ、正弦波位相変調法によって生じる位相変調された干渉信号を電子回路処理又は演算処理し、干渉信号の位相を検出することによって、ナノメータオーダの垂直分解能を得ることができる。
【0040】
また、本実施例は、共焦点レーザ走査形状測定器にレーザ干渉計の機能を取り入れた装置を用いるものであり、レーザ干渉計の垂直分解能、すなわち高さ方向の分解能はナノメータオーダの値であり、また、共焦点レーザ走査形状測定器の空間分解能、すなわち水平方向の分解能はミクロンオーダの値であることから、高い空間分解能で広い測定領域を保ったまま、高さ方向についてナノメートルオーダでの表面形状計測を行うことができる。
【0041】
本実施例の表面形状の測定方法及び測定装置を用いることによって、従来は大きな形状変化を有しているために測定不可能であった直径数cmの非球面レンズの金型の形状を測定することができる。このほか、微細加工された面積の広いデバイス、例えばフラットパネルディスプレイに使用される微細加工デバイスの表面形状を測定することができる。
【0042】
さらに、多くの工業製品に用いられている透明膜やプラスチック板の表面形状測定においては、通常の干渉計では板の上面と下面からの干渉信号が混在するため測定が不可能であったが、本実施例では共焦点光学系の構成となっているため、板の上面からの反射光だけに対して干渉信号を生成することができ、板の上面の形状を高い空間分解能で広い領域にわたって測定することができる。
【実施例2】
【0043】
以下、実施例1と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0044】
本実施例では、位相変調直交偏光発生装置20はヘテロダイン変調法を用いた構成になっており、図3に示すように、ミラー24で傾けられたレーザ光が音響光学周波数変調器25に入射するようになっている。
【0045】
音響光学周波数変調器25からの0次回折光は、偏光板27,28を通過し、ミラー29で反射した後、偏光ビームスプリッタ26に垂直入射して偏光ビームスプリッタ26内で反射するようになっている。また、音響光学周波数変調器25からの1次回折光は、偏光ビームスプリッタ26内で0次回折光と重なるようになっている。そして、0次回折光と1次回折光は同じ方向に伝搬し、回転多面体ミラー32で反射されるようになっている。
【0046】
つぎに、本実施例の表面形状の測定装置の動作について説明する。
【0047】
半導体レーザ光源11から出力されたレーザ光は、レンズ12により平行光となり、位相変調直交偏光発生装置20のミラー24で僅かに傾けられて、音響光学周波数変調器25に入射する。音響光学周波数変調器25への印加電圧は角周波数ωの正弦波信号である。
【0048】
音響光学周波数変調器25からの0次回折光は、偏光板27に入射してその偏光方向が45度回転し、続いて偏光板28に入射して偏光方向がさらに45度回転する。この0次回折光はミラー29で反射され、偏光ビームスプリッタ26に垂直入射し、偏光ビームスプリッタ26内で反射される。音響光学周波数変調器25からの1次回折光は、偏光ビームスプリッタ26内で0次回折光と重なり、0次回折光と同じ方向に伝搬する平行光となる。偏光ビームスプリッタ26からの出射光は、偏光方向が直交する2つの平行光からなり、それらの光の位相の差はωt+θである。この平行光はレンズ22とレンズ23で必要な大きさに拡大され、回転多面体ミラー32で反射される。
【0049】
その後の光学系とその動作は実施例1の正弦波位相変調法を用いる場合と同様であり、光電子倍増管61で検出される干渉信号S(t)は次式で与えられる。
【0050】
【数5】

【0051】
信号処理回路装置62は、干渉信号S(t)からcos{α(t)}とsin{α(t)}の信号を生成する。生成した信号は演算処理装置63に取り込まれ、演算処理装置63は位相α(t)を得る。その結果、被測定物体の表面形状r(x)=L(x)/2が求められる。
【0052】
以上のように、本実施例の表面形状の測定方法は、音響光学周波数変調器25を用いて、前記半導体レーザ光源11からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換するものである。
【0053】
また、前記偏光板52を通過させることにより前記参照面ミラー42からの反射光と前記被測定物体41の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【0054】
【数6】

【0055】
(ここで、前記音響光学周波数変調器25への印加電圧は角周波数ωの正弦波信号、L(t)は前記参照面ミラー42と前記被測定物体41からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子としての光電子倍増管61で検出して位相α(t)を求めるものである。
【0056】
本実施例の表面形状の測定装置は、前記位相変調直交偏光発生装置20は、音響光学周波数変調器25を備えたものである。
【0057】
ヘテロダイン位相変調法によって生じる位相変調された干渉信号を電子回路処理又は演算処理し、干渉信号の位相を検出することによって、ナノメータオーダの垂直分解能を得ることができる。
【実施例3】
【0058】
被測定物体41を平面ミラーとし、実施例1の装置を用いて測定を行った。半導体レーザ光源11のレーザ光の波長λは658nm、出力は40mWであり、電気光学位相変調器21の正弦波位相変調周波数ω/2πは10MHzであった。信号処理回路装置62のA/D変換器のサンプリング周波数fは8f、回転多面体ミラー32の回転数Rは23rps、レンズ33による収束光の径の大きさφは5.6μmであった。収束光の走査速度Vは20.2m/sとなり、干渉信号のサンプリング間隔Δdは0.25μmであった。
【0059】
平面ミラー上を走査することにより検出された干渉信号の全体を図4に示す。横軸のIは干渉信号S(t)のサンプリング番号である。S(t)の検出が可能な区間での走査点数(サンプリング点数)Nは72000点であった。その結果、走査幅(測定領域)dはNΔd=18.2mm、走査時間TはN/f=0.91msであった。
【0060】
図5は、サンプリング番号Iが15000から15100までの範囲での干渉信号S(t)の拡大図である。干渉信号の波形が周波数f=10MHzで正弦波位相変調された形となっていることが分かる。正弦波位相変調の定数はZ=1.9rad、θ=0.05radであった。
【0061】
の1周期に相当する8個の走査点の干渉信号S(t)から1つのα(t)を順次求めた結果が図6である。横軸のIはα(t)の測定点の番号であり、測定点数NはN/8=9000点であり、測定間隔Δxは8Δd=2.02μmであった。測定間隔Δxが空間分解能となる。被測定物体41は平面ミラーであるので、図6のα(t)の位相の分布は理想的には直線状になるが、2rad程度の幅で変化した。このαの分布は干渉計の持つ収差とみなされる。
【0062】
つぎに研磨された金属表面の形状を測定した結果を示す。図7は、干渉信号から求められた位相分布から図6の位相分布(収差)を引くことによって得られた位相α(t)である。測定領域は15mmであり、位相1radの大きさが表面形状では57nmに対応する。高さ57μm(位相で1000rad)の傾斜がIについて375から4300付近までの範囲で測定された。
【0063】
について5500から5800の範囲で測定された位相α(t)の2回の測定結果を図8に示す。2回の測定結果は良く一致しており、平坦部での表面形状の微細な凹凸分布が測定された。例えば、図に示すようにIが5700付近で、幅30μmの部分で30nm(位相で0.5rad)程度の凸形状があることが分かる。
【0064】
本実施例では、周波数10MHzの高速な正弦波位相変調を用いることによって、20m/sの高速なレーザビーム走査において、2μmの細かい測定間隔で干渉信号の位相の検出が可能であった。すなわち、走査時間0.9msでレーザビームの走査範囲は18mmであり、18mmの測定領域での空間分解能は2μmと非常に高い値となった。かつ、干渉信号の位相測定から被測定対象の表面形状を求めていることから、ナノメータオーダの表面形状測定となっており、測定誤差は6nm程度となった。以上のように、従来の干渉計装置では実現できない、高い空間分解能と広い測定領域を同時に実現できる。
【符号の説明】
【0065】
11 半導体レーザ光源(レーザ光源)
12 レンズ(コリメータレンズ)
20 位相変調直交偏光発生装置
21 電気光学位相変調器
25 音響光学周波数変調器
31 ビームスプリッタ
32 回転多面体ミラー(走査ミラー)
33 レンズ(テレセントリックレンズ)
34 偏光ビームスプリッタ
41 被測定物体
42 参照面ミラー(参照平面)
51 レンズ(結像レンズ)
52 偏光板
53 ピンホール
61 光電子倍増管(受光素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源からのレーザ光を平行光束としてビームスプリッタを介して走査ミラーに導き、該走査ミラーで前記レーザ光を走査光に変換してテレセントリックレンズに入射させ、該テレセントリックレンズの焦点面近傍に配置した参照平面及び被測定物体の表面からの反射光を前記テレセントリックレンズにより平行光束に変換し、前記走査ミラーで反射させた後に前記ビームスプリッタで前記レーザ光源からのレーザ光と分離し、結像レンズによって集光して前記テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置したピンホールを通過させ、該ピンホールを通過した光の光量を受光素子で計測する表面形状の測定方法であって、
前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換してから前記走査ミラーに導き、
前記テレセントリックレンズを通過した前記合成光を構成する2つの光を偏光ビームスプリッタにより分離してその一方の光を前記参照平面、他方の光を前記被測定物体の表面に照射し、
前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を前記偏光ビームスプリッタにより再び重ね合わせ、偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることを特徴とする表面形状の測定方法。
【請求項2】
電気光学位相変調器を用いて、前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換することを特徴とする請求項1記載の表面形状の測定方法。
【請求項3】
前記偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【数1】

(ここで、Zとθは前記電気光学位相変調器への印加電圧である角周波数ωの正弦波信号の振幅及び初期位相で決まる定数、L(t)は前記参照平面と前記被測定物体からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子で検出して位相α(t)を求めることを特徴とする請求項2記載の表面形状の測定方法。
【請求項4】
音響光学周波数変調器を用いて、前記レーザ光源からのレーザ光を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換することを特徴とする請求項1記載の表面形状の測定方法。
【請求項5】
前記偏光板を通過させることにより前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を干渉させることにより生じる干渉信号S(t)は、
【数2】

(ここで、前記音響光学周波数変調器への印加電圧は角周波数ωの正弦波信号、L(t)は前記参照平面と前記被測定物体からの反射光の伝搬距離の差、tは時間)で表わされ、この干渉信号S(t)を受光素子で検出して位相α(t)を求めることを特徴とする請求項4記載の表面形状の測定方法。
【請求項6】
レーザ光源と、このレーザ光源からのレーザ光を平行光束とするコリメータレンズと、この平行光束を偏光方向が互いに直交し位相が異なる2つの光の合成光に変換する位相変調直交偏光発生装置と、この合成光を走査光に変換する走査ミラーと、この走査光を集光するテレセントリックレンズと、このテレセントリックレンズを通過した前記合成光を構成する2つの光を分離してその一方の光を参照平面、他方の光を被測定物体の表面に照射するとともに前記参照平面からの反射光と前記被測定物体の表面からの反射光を再び重ね合わせる偏光ビームスプリッタと、前記テレセントリックレンズを通過して前記走査ミラーで反射された前記2つの反射光を前記位相変調直交偏光発生装置からの合成光と分離するビームスプリッタと、前記2つの反射光を集光する結像レンズと、前記2つの反射光を干渉させる偏光板と、前記テレセントリックレンズの焦点面と共役の位置に設置されたピンホールと、このピンホールを通過した光の光量を計測する受光素子とを備えたことを特徴とする表面形状の測定装置。
【請求項7】
前記位相変調直交偏光発生装置は、電気光学位相変調器を備えたことを特徴とする請求項6記載の表面形状の測定装置。
【請求項8】
前記位相変調直交偏光発生装置は、音響光学周波数変調器を備えたことを特徴とする請求項6記載の表面形状の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242304(P2011−242304A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115758(P2010−115758)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Optics & Photonics Japan 2009 講演予稿集 社団法人応用物理学会分科会 日本光学会 2009年11月24日発行
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(303035709)株式会社オプセル (24)
【Fターム(参考)】