説明

表面検査装置

【課題】スリット光によって測定対象物に形成される光切断線における干渉縞を低減して良好に表面測定が行われる表面検査装置を構成する。
【解決手段】半導体レーザLDからのレーザ光LBから直線状の領域に拡がるスリット光Sを作り出してワークに照射し、これを撮影ユニットで撮影した画像データからスリット光Sが照射された光切断線を抽出してワークの表面形状データを生成するように表面検査装置を構成する。半導体レーザLDが、PN接合型で接合面の境界部分に沿って直線方向Mに形成される発光層17を有し、この直線方向Mが、スリット光Sの拡がり方向と直交するように相対的な姿勢を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面検査装置に関し、詳しくは、直線状の領域に拡がるスリット光を測定対象物に照射し、その測定対象物を撮像手段で撮影して取得した画像データから測定対象物の表面形状の検査を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたとして特許文献1にはレーザタイプのスリット光源ユニットで発生させたスリット光を測定対象物に照射し、この測定対象物を撮像ユニットで撮影し、撮影された画像データからスリット光による光切断線を検出し、三角測量法により3次元断面形状を得る処理が記載されている。この特許文献1では、3次元断面形状の測定データを形状寸法データと比較することにより検査判定が行われる。
【0003】
この特許文献1では、レーザスリット投光器からのスリット光を、シリンドリカルレンズにより光軸に平行で扇状に拡がるスリット光とする光学系を備えている。この光学系は、高コヒーレンス光からスリット光を作り出し、このスリット光を測定対象物に照射することにより、測定対象物の表面に光切断線を作り出す。そして、撮影手段で取得した画像データから画像処理によって画像データ中の光切断線を抽出し、この光切断線の座標を三角測量の原理により求めることにより測定対象物の表面形状を取得する処理が行われる。
【0004】
また、表面検査装置ではないが、特許文献2にはレーザ光のようにコヒーレンス光の照射に伴うスペックルノイズを低減するために、偏光変調部を備えた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐222418号公報
【特許文献2】特開2009‐198637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような表面検査装置では、スリット光による光切断線の線幅が狭い(細い)ほど、すなわち、測定対象物上のスリット光の照射位置がレーザ光の焦点位置に近いほど、分解能が向上するため、検出精度が高くなる。しかし、スリット光の照射位置がレーザ光の焦点位置から離れた場合、光切断線の各部において光干渉が起こりやすくなり、画像データ中の輝度分布に光干渉によるノイズが発生しやすく、光切断線の抽出が困難になる。つまり、光切断線での光干渉によるスペックルノイズが発生しやすい。
【0007】
スペックルノイズは、特許文献2にも記載されるように、明点と暗点とがランダムに分布する干渉縞として現れるものであり、光切断線にスペックルノイズが発生した場合には、このスペックルノイズが光切断線の輝度にバラツキを招くことになり、光切断線の位置を不明瞭にする不都合に繋がり、測定不能に陥ることが考えられる。つまり、表面検査装置では、光切断線での光干渉によるスペックルノイズが発生した場合、測定対象物の表面形状の検査精度が低下する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、スリット光によって測定対象物に形成される光切断線における干渉縞を低減して良好に表面測定が可能な装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、レーザ光源からのレーザ光を光学系により直線状の領域に拡がるスリット光を作り出して測定対象物に照射するレーザ投光手段と、測定対象物を撮影する撮影手段と、この撮影手段で撮影された画像データから前記スリット光が照射された光切断線を抽出して測定対象物の表面形状データを生成する形状データ生成手段とを備えると共に、前記レーザ光源が、PN接合型で接合面の境界部分に沿って直線方向に形成される発光層からレーザ光を出射する半導体レーザを備えて構成され、前記直線方向が、前記スリット光の拡がり方向と非平行姿勢となるように前記半導体レーザの姿勢を設定している点にある。
【0010】
この場合、スリット光の拡がり方向に対して、発光層の直線方向が非平行になる。このようにすれば、この拡がり方向に対して発光層の直線方向を平行姿勢に配置したものと比較して、測定対象物表面の光切断線の所定点に着目すると、発光層の広い領域(直線方向)の各部から出射するレーザ光が所定の点に照射される。したがって、その所定点において、光路が異なる様々なレーザ光、つまり、光路長差の異なる多くのレーザ光が集光されるため、光干渉の発生が抑制できる。これにより撮影手段で撮影された画像データから形状データ生成手段が、干渉縞に起因するスペックルノイズの影響を受けない状態で光切断線を高精度で抽出して測定対象物の表面形状データを生成できる。
その結果、スリット光によって測定対象物に形成される光切断線における干渉縞を低減して高精度で表面測定が可能な装置が構成された。
【0011】
本発明は、前記直線方向が、前記スリット光の拡がり方向に対して直交する姿勢となるように前記半導体レーザの姿勢を設定しても良い。
【0012】
この場合、発光層の直線方向がスリット光の拡がり方向と直交する。このようにすれば発光層の広い領域の光線を、スリット光の拡がり方向と直交する方向に出射することになる。したがって、光切断線の所定の点に着目すると、光路が異なる様々なレーザ光、つまり、光路長差が異なる多くのレーザ光がさらに集光されやすくなり、光干渉の発生が抑制できる。また、このように半導体レーザの姿勢を設定することにより、発光層の直線方向がスリット光の拡がり方向と直交する方向となるため、発光層の広い領域の光線をスリット光の拡がり方向と直交する方向に出射することになり干渉縞によりスペックルノイズを招く場合でも多数のスペックルノイズを重ね合わせる状態にしてスペックルノイズを目立ち難くすることも可能となる。
【0013】
本発明は、前記光学系が、前記レーザ光からスリット光を作り出すシリンドリカルレンズを有して構成されても良い。
【0014】
これによると、半導体レーザからのレーザ光をシリンドリカルレンズによりスリット状に拡がる方向に射出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表面検査装置の全体図である。
【図2】レーザ投光器の構成を示す斜視図である。
【図3】焦点位置の輝度分布と、離間位置の輝度分布とを示す図である。
【図4】比較例のレーザ投光器の構成を示す斜視図である。
【図5】比較例の焦点位置の輝度分布と、離間位置の輝度分布とを示す図である。
【図6】本発明と比較例との輝度のバラツキを示す図である。
【図7】処理形態の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1に示すように、基台1にワーク支持ユニットAを備え、この基台1に固設されるアーチ状のフレーム2に昇降ユニットBを介して測定ユニットCを備えると共に、ワーク支持ユニットAと昇降ユニットBとの制御を行い、測定ユニットCでのスリット光Sの照射と、測定ユニットCでの画像データの取得とを行い、測定対象物としてのワークWの表面欠陥の検査を行うコントローラDを備えて表面検査装置が構成されている。
【0017】
この表面検査装置は、ワーク支持ユニットAにワークW(測定対象物の一例)を載置した状態でオペレータの操作により検査が開始される。検査が開始されるとコントローラDの制御により測定ユニットCからワークWにスリット光Sが照射され、この照射が継続する状態において、ワーク支持ユニットAの駆動によりワークWと測定ユニットCとの相対的な位置関係を変化させながら、測定ユニットCで連続的に撮影が行われる。この撮影においてスリット光Sは、レーザ光源としての半導体レーザLDからのレーザ光LBが光学系により直線状の領域に拡がるように送り出され、スリット光Sが照射されたワーク表面には光切断線Pが形成される。コントローラDは、撮影により取得した複数フレームの画像データから光切断線Pを抽出し、光切断線Pの位置情報に基づいて測定3次元データを生成し、基準3次元データ33(マスターデータ)と比較することによりワークWの表面形状の評価を行う。
【0018】
ワーク支持ユニットAは、円盤状に成形され中心位置の縦軸芯を中心に回転自在な回転テーブル4と、水平面上のX方向に往復移動自在なXステージ5と、X方向と直交する水平面上のY方向に往復移動自在なYステージ6とを重ね合わせた構造を有している。このワーク支持ユニットAは、回転テーブル4とXステージ5とYステージ6とを独立して駆動するステッピングモータ等のアクチュエータ(図示せず)と、回転テーブル4の回転姿勢を検出する回転角センサ(図示せず)と、Xステージ5の位置とYステージ6の位置とを独立して検出する位置センサ(図示せず)とを備えている。
【0019】
これにより、ワークWを回転テーブル4に載置した状態において、回転テーブル4の回転と、Xステージ5のX方向への直線的な移動と、Yステージ6のY方向への直線的移動とによりワークWと測定ユニットCとの相対的な位置関係を変化させる状態での撮影が実現する。
【0020】
昇降ユニットBは、フレーム2に対して測定ユニットCを上下方向に移動自在に支持する機構を有すると共に、測定ユニットCを上下に作動させるアクチュエータ(図示せず)と、この測定ユニットCの位置を検出する位置センサ(図示せず)とを備えている。この昇降ユニットBにより、測定ユニットCとワークWとのZ方向(縦方向)での相対的な位置関係の変更が実現する。
【0021】
測定ユニットCは、スリット光Sの照射を行うレーザ投光器10(レーザ投光手段の一例)と、このスリット光Sが照射されたワークWを撮影する撮影ユニット20(撮影手段の一例)とをケースに収容している。この測定ユニットCは、レーザ投光器10から照射されるスリット光Sの光軸SLと、撮影ユニット20の撮影レンズ22の撮影軸TLとが交差する角度αが11度程度に設定されている。この角度αは撮影ユニット20で撮影に適した任意の値に設定して良い。
【0022】
〔レーザ投光器〕
レーザ投光器10は、図2に示すように、単一の半導体レーザLDと、これからのレーザ光LBを送り出す投光レンズ11と、レーザ光LBを直線状の領域に拡がるように扇状に送り出すことでスリット光Sを作り出すシリンドリカルレンズ12とを有する。この投光レンズ11とシリンドリカルレンズ12とで光学系が構成され、半導体レーザLDは、高輝度のレーザ光を出射する構造を有するSLD( Super Luminescent Diode)が用いられている。半導体レーザLDは、P形層15と、N形層16との接合面の境界部分に沿って直線方向Mに沿って発光層17(活性層)が形成され、P形層15とN形層16とに電圧を印加することにより、発光層17から同図に示すように楕円ビームとなるレーザ光LBが射出される。
【0023】
半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mを縦向きに設定することで、発光層17から射出されるレーザ光LBは長軸が横向き姿勢の楕円ビームとなる。このレーザ光LBは投光レンズ11からシリンドリカルレンズ12に送られ、このシリンドリカルレンズ12から扇状に送り出されスリット光Sとして焦点位置Fにおいて厚さ(縦方向)が最も薄い直線状態に収束する。このように、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mを縦向きに設定した状態でスリット光Sの拡がり方向が横長となり、直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに直交する関係となる。
【0024】
尚、この説明における縦横の関係は図面に従って便宜的に決めたものであり、発光層17の直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向との相対的姿勢の関係が直交する関係に維持される限りにおいては、レーザ投光器10の設置姿勢は任意に設定できる。
【0025】
また、焦点位置Fを基準にして半導体レーザLDから離間する位置と、半導体レーザLDに接近する位置とにおいてスリット光Sは、拡がり方向の中央部が少し膨らんだ横長の楕円状となる(図面では誇張して描いている)。
【0026】
スリット光Sの輝度分布を計測するためにシリンドリカルレンズ12からの距離(Df=290mm)の位置を焦点位置Fとすると共に、この焦点位置Fより更に離間する距離(Dr=313mm)の位置に離間位置Rを設定している。この設定において焦点位置Fにおけるスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での輝度分布を図3(a)に示し、離間位置Rにおける輝度分布を図3(b)に示している。
【0027】
この図3(a)と図3(b)は、CMOSやCCD等で成る撮像素子を焦点位置Fと離間位置Rとにセットした状態で縦方向(厚さ方向)に並ぶ撮像素子のピクセル(素子の最小単位をピクセルと称している)を横軸にして、これらのピクセル(画素)の輝度を数値として表している。これらの図から明らかなように、焦点位置Fではスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での中央位置の輝度が立ち上がるように最も高い輝度分布となる。また、離間位置Rでは、焦点位置Fにおける輝度と比較して多少輝度が低下するものであるがスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での中央位置の輝度が最も高い輝度分布となり、スリット光Sとしての機能を有することが理解できる。
【0028】
離間位置Rとして、焦点位置Fより半導体レーザLDから離間する位置に設定したものを説明しているが、焦点位置Fより半導体レーザLDに近接する近接位置Nにおけるスリット光Sの輝度分布も前述した離間位置Rの輝度分布と同様に現れる。
【0029】
このレーザ投光器10では、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mをスリット光Sの拡がり方向に対して直交する姿勢に設定していたが、この発光層17の直線方向Mと、スリット光Sの拡がり方向とは非平行姿勢であればスペックルノイズを低減できるものである。従って、これらの相対姿勢を45度に設定する等任意の姿勢に設定しても良い。
【0030】
〔レーザ投光器の比較例〕
図4には、比較例を示している。この比較例では、前述した(図2に示される)レーザ投光器10と同様に単一の半導体レーザLDと、投光レンズ11と、シリンドリカルレンズ12とを有しているが、半導体レーザLDの姿勢が前述したレーザ投光器10と異なっている。つまり、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mを横向きに設定し、スリット光Sの拡がり方向を横長の姿勢に設定することで、直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに平行する関係となる。
【0031】
つまり、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mを横向きに設定することで、発光層17から射出されるレーザ光LBは長軸が縦向きとなる楕円ビームとなる。このレーザ光LBは投光レンズ11からシリンドリカルレンズ12に送られ、このシリンドリカルレンズ12から扇状に送り出されスリット光Sとして焦点位置Fにおいて厚さ(縦方向)が最も薄い直線状態に収束する。
【0032】
また、焦点位置Fを基準にして半導体レーザLDから離間する位置と、半導体レーザLDに接近する位置とにおいてスリット光Sは、拡がり方向の中央部が少し膨らんだ横長の楕円状となる(図面では誇張して描いている)。
【0033】
シリンドリカルレンズ12からの距離(Df=280mm)の位置を焦点位置Fとすると共に、この焦点位置Fより更に離間する距離(Dr=310mm)の位置に離間位置Rを設定している。この設定において焦点位置Fにおけるスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での輝度分布を図5(a)に示し、離間位置Rにおける輝度分布を図5(b)に示している。
【0034】
この図5(a)と図5(b)は、CMOSやCCD等で成る撮像素子を焦点位置Fと離間位置Rとにセットした状態で縦方向(厚さ方向)に並ぶ撮像素子のピクセル(素子の最小単位をピクセルと称している)を横軸にして、これらのピクセル(画素)の輝度を数値として表している。これらの図から明らかなように、焦点位置Fてはスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での中央位置の輝度が立ち上がるように最も高い輝度分布となる。また、離間位置Rでは、焦点位置Fにおける輝度のピークが低いだけではなく、複数の輝度のピークが乱れて現れる輝度分布となるため、光切断線Pが不鮮明になることが理解できる。このように複数の輝度のピークが乱れた状態で現れる原因としてスペックルノイズの影響を挙げることが可能である。
【0035】
離間位置Rとして、焦点位置Fより半導体レーザLDから離間する位置に設定したものを説明しているが、焦点位置Fより半導体レーザLDに近接する近接位置Nにおけるスリット光Sの輝度分布も前述した離間位置Rの輝度分布と同様に複数の輝度のピークが乱れた状態で現れる。
【0036】
ここで、半導体レーザLDの発光層17をスリット光Sに対して直交(スリット光Sの短軸(厚さ方向)に平行)する姿勢に設定した場合のバラツキσと、半導体レーザLDの発光層17をスリット光Sに対して平行(スリット光Sの長軸(長手方向)に平行)する姿勢に設定した場合の輝度のピークのバラツキσとを図6のグラフに示すことが可能である。
【0037】
同図では、前述した距離(Df=280mm)の位置を焦点位置Fに設定しており、バラツキσは、半導体レーザLDからの距離毎のスリット光Sの縦方向(厚さ方向)での輝度の分布位置のバラツキを表している。従って、バラツキσが大きい値であるほど、縦方向(厚さ方向)での広い領域にレーザ光LBが存在することを示している。このように広い領域にレーザ光LBが存在する要因としてスペックルノイズの影響が考えられる。
【0038】
表面検査装置では、ワークWの凹凸部分に対しても光切断線Pが形成されるため、焦点位置Fから遠方側と接近側と何れかに外れた位置に形成される光切断線Pの位置を画像データから抽出する必要がある。このような理由から、図5(b)に示すように複数の輝度のピークが乱れた状態で現れるスリット光Sを用いた場合には、ワークW表面の光切断線Pの線幅が拡大するだけでなく、光切断線Pの輝度が低下した状態で一定しないことになる。従って、画像データから光切断線Pを抽出する処理では、特定の精度を低下させることや、特定不能を招くこともある。
【0039】
〔比較例との比較結果〕
図2に示す如く半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに直交する関係に設定した場合には、離間位置Rにおいても光切断線Pの線幅の拡大がなく、複数の輝度のピークが現れない(明暗が発生しない)輝度分布の光切断線Pを形成できることになる。このように良好な輝度分布を得るスリット光Sを生成する理由として以下のような説明が可能である。
【0040】
つまり、図4に示す如く半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに平行する関係に設定した場合には、発光層17の直線方向Mと垂直の方向に沿った狭い発光部分から出射したレーザ光がスリット厚方向(スリット光の拡がり方向と直交する方向)に拡がり、照射される。したがって、光切断線の所定点に着目すると、光路長差の小さいレーザ光が集光されるため、光干渉が発生する。これに対して図2に示す如く半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに直交する関係に設定した場合には、発光層17の直線方向Mの広い領域の発光部分から出射したレーザ光がスリット厚方向(スリット光の拡がり方向と直交する方向)に拡がり、照射される。したがって、光切断線Pに着目すると、光路長差の大きいレーザ光が多く集光されるため、光干渉の発生が抑制される。つまり、表面検査装置では、光切断線Pでの光干渉によるスペックルノイズの発生が抑制される。
【0041】
このような理由から、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mとスリット光Sの拡がり方向とが互いに直交する(少なくとも非平行となる)関係に設定するようにレーザ投光器10が構成されることにより、ワークWの表面に形成される光切断線Pの線幅を細い状態に維持し、スペックルノイズの影響を抑制して微細な形状も良好に判別する高精度の測定が実現することになる。
【0042】
〔撮影ユニット〕
図1に示すように、撮影ユニット20は、偏光フィルタ21と、テレセントリックレンズで成る撮影レンズ22と、CMOSやCCD等の2次元撮像素子23とを備えている。この撮影ユニット20はデジタルカメラと同様の構成を有しており、2次元撮像素子23にはカバーガラス(図示せず)を備えている。偏光フィルタ21は、ワークWからの光線のうちP偏光成分をのみ(光波の電波ベクトルがカバーガラスの表面と平行となるもの)を透過させることにより、カバーガラスの裏面反射に起因するノイズを低減している。図面には示していないが、撮影レンズ22には合焦(ピント合わせ)を実現する合焦作動機構を備えており、この合焦作機構は、自動的に合焦作動を行うものや、オペレータの人為的な操作によって合焦作動を行うものや、コントローラDからの制御信号によって合焦作動を行うものが備えられる。
【0043】
この撮影ユニット20では、撮影レンズ22としてテレセントリックレンズを用いたことにより、被写界深度が深くなると共に、撮影されたワークWの形状の歪みが抑制される。また、この撮影ユニット20では、撮影軸TLに対して撮影ユニット20の全体を傾斜させるアオリ状態に設定することや、撮影レンズ22の光軸を撮影軸TLに一致させた状態で2次元撮像素子23のみを傾斜させるアオリ状態に設定しても良い。これにより、画像データ中のワークWの歪みを抑制することや、光切断線Pに対する合焦状態(ピントの状態)の向上が実現する。
【0044】
〔制御構成〕
前述したコントローラDは、CPUやDSP等の処理系と、情報が保存される半導体メモリとを有する汎用コンピュータで成る処理装置本体31と、処理結果が出力されるモニタ32とを備えている。処理装置本体31には、キーボードやポインティングデバイスからの情報を取得し、処理系での処理結果をモニタ32に出力するためのインタフェースを備え、処理系に対するデータのアクセスを行うデータバスや、アクセスを制御するコントロールバス等を備えるものであるが、図面では、これらを省略している。
【0045】
処理装置本体31の半導体メモリには制御プログラムが保存されている。この制御プログラムとして、支持ユニット制御手段35と、昇降制御手段36と、投光器制御手段37と、画像データ取得手段38と、測定実行手段39と、3次元データ生成手段40(形状データ生成手段の一例)と、評価演算手段41と、出力手段42とが備えられている。これら支持ユニット制御手段35と、昇降制御手段36と、投光器制御手段37と、画像データ取得手段38と、測定実行手段39と、3次元データ生成手段40と、評価演算手段41と、出力手段42とは制御プログラムとしてソフトウエアで構成されるものであるが、ハードウエアで構成されるものでも良く、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせによって構成されるものでも良い。
【0046】
支持ユニット制御手段35は、回転テーブル4とXステージ5とYステージ6とを独立して駆動する。昇降制御手段36は、昇降ユニットBを制御して測定ユニットCの高さを設定する。投光器制御手段37は、半導体レーザLDに電力を供給してレーザ投光器10からスリット光Sを照射させる。画像データ取得手段38は、撮影ユニット20を制御して撮影を行い画像データを取得する。測定実行手段39は、支持ユニット制御手段35と画像データ取得手段38との制御によりワークWと撮影ユニット20とを予め設定された相対的位置関係に設定しながら連続的な撮影を行う。形状データ生成手段として機能する3次元データ生成手段40は、取得した複数の画像データから三角測量の原理に基づいて光切断線Pの位置を特定し測定3次元データを生成する。評価演算手段41は、測定3次元データと予め保存されている基準3次元データ33(マスターデータ)との比較により表面形状の比較を行う。出力手段42は、評価結果をモニタ32に出力する。
【0047】
〔制御形態〕
処理装置本体31の処理形態の概要を図7のフローチャートに示している。つまり、オペレータがワークWを回転テーブル4にセットした状態で図示されていない測定開始ボタンが操作されると測定が開始される(#01、#02ステップ)。
【0048】
測定の実行時には測定実行手段39が制御全体の流れを管理することになり、最初に投光器制御手段37によってレーザ投光器10によりレーザ光源としての半導体レーザLDに電力が供給され、ワークWに対してスリット光Sが照射される(光源ON)。これに続いて、ワークWを測定開始位置にセットした後に、支持ユニットをX方向に作動させながら撮影ユニット20によりワークWの撮影が行われ(X方向走査)、画像データが取得される(#03〜#06ステップ)。
【0049】
この制御では、支持ユニット制御手段35が、回転テーブル4とXステージ5とYステージ6とを制御することにより、ワークWを測定開始位置にセットし、X方向走査において、Xステージ5を設定速度作動させながら、所定ピッチで撮影ユニット20による撮影が連続して行われ、撮影した複数フレームの画像データを処理装置本体31の半導体メモリに保存する処理が行われる。
【0050】
この撮影は、スリット光SがワークWの側端に達するまで行われ、スリット光が測定対象物の側端に達すると、X方向走査を停止する(#07、#8ステップ)。
【0051】
このようにX方向走査が停止した状態において、複数フレームの画像データから光切断法に基づいて3次元データ生成手段40が測定3次元データを生成し、この測定3次元データ中に設定される測定点データと、基準3次元データ33(マスターデータ)の基準点データとから表面欠陥の有無を判定する評価演算処理が評価演算手段41によって行われる(#09ステップ)。また、#08ステップでX方向走査が停止した際には、評価演算処理が実行と並行してワークWがY方向にシフトされ、X軸方向の走査がまだ残っているかどうかのチェックが行われる(#10、#11ステップ)。
【0052】
この処理では、複数の画像データに含まれる光切断線Pを3次元データ生成手段40が抽出すると共に、抽出した複数の光切断線Pについて測定3次元データが生成される。このように、画像データから光切断線Pを抽出する際に、ソーベルフィルタやラプラシアンフィルタ等のエッジ検出フィルタにより光切断線Pのエッジの位置が特定される。また、評価演算手段41において表面欠陥の有無を判定する際に、測定3次元データに設定される測定点データに対して、基準3次元データ33(マスターデータ)の基準点データが近接するように、測定点データと基準点データとの少なくとも一方の平行移動変換、回転変換等の合同変換処理が行われ、合同変換処理の後に測定点データと基準点データとの誤差が求められる。
【0053】
この評価演算手段41の処理形態として、光切断線Pに基づいてワークWの表面形状を求め、マスターデータの表面形状と比較する処理を行うものであれば、前述した処理に限るものではない。また、X方向走査を行う際には、ワークWをブロック単位に分割して、そのブロック単位毎にX方向走査を行うように処理形態を設定しても良い。
【0054】
#11ステップのチェックでX方向走査が残っている場合には、X方向走査の向きを反転し(#12ステップ)、#05ステップからX方向走査を再開する。また、#11ステップのチェックでX方向走査が残っていない場合には、レーザ光源としての半導体レーザLDへの電力が遮断され、スリット光Sの照射が停止する(#13ステップ・光源OFF)。
【0055】
更に、測定不能領域の測定を行う必要があると判断した場合には、回転テーブル4を90度回転させる制御を行い、#03ステップから前述した測定を再度行う。なお、90度の回転で不十分な場合には、さらに90度毎の回転(最初の姿勢位置に対する180度位置と270度位置)が行われる。回転テーブル4を90度回転させる必要がない場合は、欠陥評価結果に基づいて総合判定を行う(#14、#15ステップ)。
【0056】
そして、この総合判定において、欠陥の位置を測定対象物の全体を示す全体図の上でマーキングした欠陥位置表示図を出力手段42がモニタ32又はプリンタを介して出力することが可能となる(#16ステップ)。
【0057】
〔実施形態の作用・効果〕
このように、半導体レーザLDの発光層17の直線方向Mをスリット光Sの拡がり方向に対して直交する姿勢に設定することにより、ワークWの表面の光切断線Pの特定点に着目すると、発光層17の広い領域(直線方向M)の各部から出射するレーザ光が特定点に照射される。したがって、その特定点において、光路が異なる様々なレーザ光、つまり、光路長差が異なる多くのレーザ光が集光されるため、光干渉の発生が抑制できる。
【0058】
特に、このように半導体レーザLDの姿勢を設定することにより、焦点位置Fより遠方に離間する離間位置Rでも近接する近接位置Nにおいても複数の輝度のピークが現れない(明暗が発生しない)輝度分布の光切断線Pを形成できることになる。これにより、表面に段差部(凹凸部)を持つワークWの表面に形成される光切断線Pの線幅を細い状態に維持し、スペックルノイズの影響を抑制して微細な形状も良好に判別する高精度の測定を行い、ワークWに微細な欠陥が存在する場合でも、その微細な欠陥を良好に検出して表示できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、スリット光によって測定対象物の表面形状を計測するものであれば、欠陥を検査するものに限らず検査装置全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 レーザ投光手段(レーザ投光器)
12 シリンドリカルレンズ
17 発光層
20 撮影手段(撮影ユニット)
40 形状データ生成手段(3次元データ生成手段)
LB レーザ光
LD レーザ光源・半導体レーザ
P 光切断線
S スリット光
W 測定対象物(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源からのレーザ光を光学系により直線状の領域に拡がるスリット光を作り出して測定対象物に照射するレーザ投光手段と、測定対象物を撮影する撮影手段と、この撮影手段で撮影された画像データから前記スリット光が照射された光切断線を抽出して測定対象物の表面形状データを生成する形状データ生成手段とを備えると共に、
前記レーザ光源が、PN接合型で接合面の境界部分に沿って直線方向に形成される発光層からレーザ光を出射する半導体レーザを備えて構成され、
前記直線方向が、前記スリット光の拡がり方向と非平行姿勢となるように前記半導体レーザの姿勢を設定している表面検査装置。
【請求項2】
前記直線方向が、前記スリット光の拡がり方向に対して直交する姿勢となるように前記半導体レーザの姿勢を設定している請求項1記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記光学系が、前記レーザ光からスリット光を作り出すシリンドリカルレンズを有して構成されている請求項1又は2記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122844(P2012−122844A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273821(P2010−273821)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】