説明

走行制御システム

【課題】自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、先行車両の追い越しを自動的に実行させる走行制御システムを提供すること。
【解決手段】自車両Vと先行車両Pとの間の車間距離を所定距離に維持するよう自車両Vの走行速度を制御する走行制御システム100は、自車両V及び先行車両Pの走行状態に基づいて自車両Vによる先行車両Pの追い越しの適否を判定する追い越し適否判定手段11と、先行車両Pの追い越しが適切であると判定した場合に、追い越しの準備動作を実行する追い越し準備動作実行手段12と、走行環境と自車両V及び先行車両Pの走行状態とに基づいて自車両Vによる先行車両Pの追い越しの可否を判定する追い越し可否判定手段13と、先行車両Pの追い越しが可能であると判定した場合に追い越しを実行する追い越し手段14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両と先行車両との間の車間距離を所定距離に維持するよう自車両の走行速度を制御する走行制御システムに関し、特に、自車両による先行車両の追い越しを自動的に実行させる走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、適応走行制御(ACC:Adaptive Cruise Control)中に、自車両のACC設定車速に対し先行車両の車速が低い場合、自車両の走行位置や交通情報に基づいてその先行車両を追い越しできるか否かを判定し、追い越しできると判定した場合に自動操縦によってその先行車両の追い越しを実行する車両走行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この車両走行制御装置は、自車両が走行している車線、その車線若しくはその隣接車線を走行する先行車両、並びに、自車両が走行している車線の曲率に基づいて、自車両前方を走行する先行車両を追い越しできるか否かを判定し、追い越しができると判定した場合に、その先行車両の追い越しを自動的に実行する。
【0004】
また、この車両走行制御装置は、車両の右後方を撮像するCCDカメラの出力に基づいてその隣接車線(追い越し車線)における後続車両の有無を判定し、後続車両が存在しないと判定した場合に、その追い越し車線を利用しながらその先行車両の追い越しを自動的に実行する。
【0005】
更に、この車両走行制御装置は、追い越し禁止区間の当否、又は、前方の所定距離範囲内における工事区間、事故現場、料金所、信号機若しくは交差点の有無を判定し、追い越しの障害となるようなものが無いと判定した場合に、その先行車両の追い越しを自動的に実行する。
【0006】
これにより、この車両走行制御装置は、運転者にとってより快適で利便性の高いオートクルーズ走行を提供できるようにする。
【特許文献1】特開2003−63273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の車両走行制御装置は、先行車両の追い越しを自動的に開始することで運転者の利便性を向上させるが、その反面、突然の追い越し開始に自車両の運転者や後続車両の運転者に驚きや不快感を抱かせてしまう場合がある。
【0008】
上述の点に鑑み、本発明は、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、先行車両の追い越しを自動的に実行させる走行制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、第一の発明に係る走行制御システムは、自車両と先行車両との間の車間距離を所定距離に維持するよう自車両の走行速度を制御する走行制御システムであって、自車両及び先行車両の走行状態に基づいて自車両による先行車両の追い越しの適否を判定する追い越し適否判定手段と、先行車両の追い越しが適切であると判定した場合に、追い越しの準備動作を実行する追い越し準備動作実行手段と、走行環境と自車両及び先行車両の走行状態とに基づいて自車両による先行車両の追い越しの可否を判定する追い越し可否判定手段と、先行車両の追い越しが可能であると判定した場合に、追い越しを実行する追い越し手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第二の発明は、第一の発明に係る走行制御システムであって、車線区分線を検出する車線区分線検出手段を更に備え、前記追い越し準備動作実行手段は、方向指示器を点滅させながら、前記車線区分線検出手段が検出した追い越し経路側の車線区分線まで自車両を接近させることを特徴とする。
【0011】
また、第三の発明は、第一又は第二の発明に係る走行制御システムであって、前記追い越し可否判定手段は、追い越し経路側後方又は前方の所定範囲内に後続車両又は別の先行車両が存在する場合に追い越しを禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述の手段により、本発明は、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、先行車両の追い越しを自動的に実行させる走行制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明に係る走行制御システムの構成例を示すブロック図であり、走行制御システム100は、ACCにより自車両と先行車両との間の車間距離を一定に保ちながらも必要に応じて自車両による先行車両の追い越しを自動的に行うよう自車両の走行を制御するシステムであって、制御装置1、画像センサ20、前方レーダセンサ21、後方レーダセンサ22、車速センサ23、測位装置24、記憶装置25、方向指示器26、パワーステアリング27、電子スロットル28、ブレーキ制御装置29及び音声出力装置30から構成される。
【0015】
制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、車間距離制御手段10、追い越し適否判定手段11、追い越し準備動作実行手段12、追い越し可否判定手段13、追い越し手段14及び車線区分線検出手段15のそれぞれに対応するプログラムをROMに記憶しながら、各手段に対応する処理をCPUに実行させる。
【0016】
画像センサ20は、自車両周辺の画像を撮像するためのセンサであり、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備えたカメラであって、フロントグリル付近に取り付けられ、走行する道路の道路標示を撮像しながら撮像した路面画像を制御装置1に出力する。
【0017】
前方レーダセンサ21は、自車両と自車両前方に存在する物体との間の距離を測定するためのセンサであり、例えば、赤外線レーザ、ミリ波(電波)又は超音波を発信し物体からの反射波を受信しながらその距離を測定するセンサであって、フロントグリル付近に取り付けられ、自車両と先行車両との間の距離を測定しながら測定した値を制御装置1に出力する。
【0018】
後方レーダセンサ22は、前方レーダセンサ21と同様、自車両と自車両後方に存在する物体との間の距離を測定するためのセンサであり、例えば、後部バンパー付近に取り付けられ、自車両と後続車両との間の距離を測定しながら測定した値を制御装置1に出力する。
【0019】
車速センサ23は、車両の速度を測定するセンサであり、例えば、各車輪に取り付けられ各車輪とともに回転する磁石による磁界の変化をMR(Magnetic Resistance)素子が磁気抵抗として読み取り、これを回転速度に比例したパルス信号として取り出すことで車輪の回転速度及び車両の速度を検出し、検出した値を制御装置1に出力する。
【0020】
測位装置24は、車両の現在位置を取得するための装置であり、例えば、GPS(Global Positioning System)受信機によりGPSアンテナを介してGPS衛星が出力するGPS信号を受信し、受信した信号に基づいて車両位置(緯度、経度、高度)を取得し、取得した車両位置を制御装置1に出力する。
【0021】
記憶装置25は、各種情報を記憶するための装置であり、例えば、ハードディスクやDVD(Digital Versatile Disk)等の記憶媒体であって、地図情報データベース250(以下、「地図情報DB250」とする。)を格納する。
【0022】
地図情報DB250は、交差点や信号機等の位置、道路の車線数、道路の曲率半径、制限速度、及び、追い越し禁止区間等の走行環境を体系的に記憶するデータベースである。なお、地図情報DB250は、車載通信機を介して随時更新され、気象条件、渋滞、事故又は工事区間等、時々刻々と変化する情報を保持するようにしてもよい。
【0023】
方向指示器26は、進路変更や右左折の意思を周囲に知らせるための装置であり、例えば、ステアリングコラムに取り付けられる操作レバーの運転者による操作に応じて方向指示灯の点滅を開始或いは停止させる。
【0024】
また、方向指示器26は、制御装置1が出力する制御信号に応じて方向指示灯の点滅を自動的に開始或いは停止させるようにする。
【0025】
パワーステアリング27は、運転者によるハンドル操作に応じた操舵アシスト力を発生させ自車両の操舵を支援するための装置であり、例えば、ハンドルの回転角及び回転速度を検出し、検出した値に応じた操舵アシスト力(回転トルク)を電動モータにより発生させながらステアリングシャフトを回転させ車輪を転舵させる。
【0026】
また、パワーステアリング27は、制御装置1が出力する制御信号に応じて電動モータを回転させることで車輪を自動的に転舵させ、或いは、制御装置1が出力する制御信号に応じて操舵アシスト力の発生度合いを変化させることで自車両の操舵特性(進路変更のしやすさ等である。)を変化させる。
【0027】
電子スロットル28は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作に応じたスロットル開度を実現させるための装置であり、例えば、アクセルペダルの踏み込み量を検出し、検出した値に応じたアクセル開度を電動アクチュエータにより実現させながらエンジン出力を制御する。
【0028】
また、電子スロットル28は、制御装置1が出力する制御信号に応じて電動アクチュエータを駆動させてスロットル開度を増大させることで自車両を自動的に加速させ、或いは、制御装置1が出力する制御信号に応じてスロットル開度の調節度合いを変化させることで自車両の加速特性(加速のしやすさ等である。)を変化させる。
【0029】
ブレーキ制御装置29は、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作に応じた制動力を実現させるための装置であり、例えば、ブレーキペダルの踏み込み量を検出し、検出した値に応じたブレーキシリンダ圧を電動アクチュエータにより実現させながら制動力を制御する。
【0030】
また、ブレーキ制御装置29は、制御装置1が出力する制御信号に応じて電動アクチュエータを駆動しブレーキシリンダ圧を増大させることで自車両を自動的に減速させる。
【0031】
音声出力装置30は、各種情報を音声出力するための装置であり、例えば、車載スピーカであって、制御装置1が出力する制御信号に応じて、追い越し準備動作の開始、後続車両の存在、又は、追い越しの開始等に関する音声案内を出力する。
【0032】
次に、制御装置1が有する各種手段について説明する。
【0033】
車間距離制御手段10は、自車両と先行車両との間の車間距離を所定の設定車間距離に維持するための手段であり、例えば、前方レーダセンサ21及び車速センサ23の出力に基づいて自車両及び先行車両の走行速度、並びに、自車両と先行車両との間の車間距離を取得し、自車両及び先行車両の走行速度が共に60km/hであり、かつ、現在の車間距離が60m(設定車間距離)であった場合に、先行車が50km/hまで減速し車間距離が減少したときには、電子スロットル28に対して制御信号を出力してアクセル開度を低減させ、或いは、ブレーキ制御装置29に対して制御信号を出力してブレーキシリンダ圧を増大させて、運転者がアクセルペダル又はブレーキペダルを踏み込まなくても自車両を自動的に50km/h未満まで減速させて、設定車間距離60mを維持するようにする。
【0034】
また、車間距離制御手段10は、自車両及び先行車両の走行速度が共に50km/hであり、かつ、現在の車間距離が60m(設定車間距離)であった場合に、先行車が60km/h(その道路の制限速度)まで加速し車間距離が増大したときには、電子スロットル28に対して制御信号を出力してアクセル開度を増大させて、運転者がアクセルペダルを踏み込まなくても自車両を自動的に60km/hまで加速させて、設定車間距離60mを維持するようにする。
【0035】
追い越し適否判定手段11は、自車両による先行車両の追い越しが適切であるか否かを判定するための手段であり、例えば、前方レーダセンサ21及び車速センサ23の出力に基づいて自車両及び先行車両の走行速度、並びに、自車両と先行車両との間の車間距離を取得し、自車両のACC設定車速と自車両の走行速度との間の差が所定値以上となり、かつ、車間距離が所定距離未満となる場合(自車両を所定速度まで減速させても未だ設定車間距離を維持できない場合であって、例えば、ACC設定速度付近で走行していた先行車両が減速してきた場合や所定速度未満の遅い速度で走行する先行車両に自車両が追いついた場合等がある。)、先行車両を追い越すべきである(追い越しが適切である)と判定する。
【0036】
なお、追い越し適否判定手段11は、車間距離が所定距離未満となった場合であっても、自車両のACC設定車速と自車両の走行速度との間の差が所定値未満の場合には、先行車両を追い越すべきである(追い越しが適切である)とは判定しない。先行車両への追従を継続させた(先行車両の減速に応じて自車両を減速させた)としても自車両の運転者に不快感を与えることがないと考えられるからである。
【0037】
また、追い越し適否判定手段11は、自車両の走行速度と先行車両の走行速度との間の差が極めて大きくなった場合には(例えば、先行車両が急ブレーキを掛けた場合である。)、追い越しが適切であるか否かを判定することなく、従来のプリクラッシュセーフティ制御(衝突防止制御)を優先的に実行させるようにする。先行車両と自車両とが衝突してしまうのを回避するためである。
【0038】
また、追い越し適否判定手段11は、車間距離が所定距離未満となった回数が所定回数を上回った場合、車間距離が所定距離未満となった時間(断続的な時間を合計した合計時間を含む。)が所定時間を上回った場合、或いは、所定幅の減速を所定回数繰り返した場合等に、先行車両を追い越すべきである(追い越しが適切である)と判定するようにしてもよい。
【0039】
また、追い越し適否判定手段11は、測位装置24の出力と記憶装置25に記憶された地図情報DB250における走行環境に関する各種情報とに基づいて現在走行中の道路の車線数及び曲率半径並びに信号機若しくは交差点の有無等を追加的に考慮しながら追い越しが適切であるか否かを判定するようにしてもよく、更に、車載通信機を介して受信する道路交通情報(例えば、周辺の渋滞情報である。)に基づいて追い越しが適切であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0040】
追い越し準備動作実行手段12は、追い越し準備動作を実行するための手段であり、例えば、追い越し適否判定手段11により追い越しが適切であると判定された場合、先行車両の右側を通って追い越しを行うために自車両が右側へ移動することを自車両、先行車両及び後続車両の各運転者に知らせるために、方向指示器26に対して制御信号を出力し自車両右側の方向指示灯の点滅を自動的に開始させる。
【0041】
ここで、「追い越し準備動作」とは、自車両が先行車両の追い越しを開始することを、自車両の運転者を含め、周囲に知らせるための動作をいう。
【0042】
また、追い越し準備動作実行手段12は、後述の車線区分線検出手段15により車線区分線を検出させ、自車両の右側に存在する車線区分線(例えば、走行車線と追い越し車線を区分する線である。)に自車両を緩やかに接近させるため、電子スロットル28に対して制御信号を出力し自車両の加速を制限させながら、パワーステアリング27に対して制御信号を出力し自車両を緩やかに右側に移動させるようにする。自車両が先行車両の追い越しを開始しようとしていることを周囲に知らせるためであり、突然、追い越し動作を開始させるといった自車両の不適切な挙動により自車両及び後続車両の各運転者を驚かせてしまうことがないようにするためである。
【0043】
なお、追い越し準備動作実行手段12は、後述の車線区分線検出手段15により車線区分線と自車両との間の相対的位置関係を認識しながら、自車両の右端が車線区分線から所定距離の位置になるまで自車両を右側に移動させてもよく、自車両の右側の車輪が車線区分線に接するまで自車両を右側に移動させてもよい。
【0044】
また、追い越し準備動作実行手段12は、音声出力装置30から先行車両の追い越しを開始する旨を表す音声メッセージを音声出力させ、自車両が先行車両の追い越しを開始しようとしていることを事前に自車両の運転者に知らせるようにしてもよい。
【0045】
なお、追い越し準備動作実行手段12は、パワーステアリング27及び電子スロットル28に対して制御信号を出力してパワーステアリング27における操舵特性及び電子スロットル28における加速特性を変化させ(応答性を下げ)、自車両の運転者が手動によりハンドル操作又はアクセル操作を行った場合に自車両の挙動が必要以上に敏感に変化して自車両、先行車両及び後続車両の各運転者を驚かせてしまうことがないようにする。
【0046】
また、追い越し準備動作実行手段12は、後述の車線区分線検出手段15により自車両が車線区分線を跨いだことを検出し追い越しのための車線変更の完了を検出した場合、或いは、追い越しの実行を中止した場合に、既に実行させた追い越し準備動作の一部又は全部を中断又は中止させてもよい。
【0047】
この場合、追い越し準備動作実行手段12は、パワーステアリング27及び電子スロットル28に対して制御信号を出力してパワーステアリング27における操舵特性及び電子スロットル28における加速特性を標準状態に戻し(応答性を上げ)、自車両の運転者が手動によりハンドル操作又はアクセル操作を行った場合にも自車両を応答性よく操縦できるようにする。
【0048】
追い越し可否判定手段13は、自車両による先行車両の追い越しが可能であるか否かを判定するための手段であり、例えば、追い越し準備動作が実行された後、前方レーダセンサ21、後方レーダセンサ22及び車速センサ23の出力に基づいて、自車両及び先行車両の走行速度、自車両と先行車両との間の車間距離、右前方の追い越し経路(自車両が先行車両を追い越すために走行する経路を意味する。)内に存在する別の先行車両の有無、その追い越し経路内に進入しようとする右後方の後続車両の有無を認識し、かつ、記憶装置25に記憶された地図情報DB250を参照して走行環境を認識した上で、自車両による先行車両の追い越しが可能であるか否かを判定する。
【0049】
追い越し可否判定手段13は、例えば、自車両及び先行車両が片側複数車線の道路の走行車線を走行しており、前方の所定距離範囲(例えば、500メートル)内に信号機や交差点等が存在せず、追い越し経路内に別の先行車両が存在せず、かつ、追い越し経路内に進入しようとする後続車両も存在しないことを認識した場合に、自車両による先行車両の追い越しが可能であると判定する。
【0050】
一方、追い越し可否判定手段13は、前方の所定距離範囲(例えば、500メートル)内に信号機や交差点等が存在する場合、追い越し経路内に別の先行車両が存在する場合、或いは、追い越し経路内に進入しようとする後続車両が存在する場合には、自車両による先行車両の追い越しが不可能であると判定する。
【0051】
追い越し可否判定手段13は、先行車両の追い越しが不可能であると判定した場合、音声出力装置30からその理由を表す音声メッセージ(例えば、「前方に交差点があります」、「追い越し禁止区間です」又は「後続車両が存在します」等である。)を音声出力させ、追い越しができないことを自車両の運転者に知らせるようにしてもよい。
【0052】
追い越し手段14は、自車両による先行車両の追い越しを自動的に実行するための手段であり、例えば、追い越し可否判定手段13により自車両による先行車両の追い越しが可能であると判定された場合に、パワーステアリング27及び電子スロットル28に対して制御信号を出力し、自車両を自動的に右に操舵させ、かつ、加速させながら先行車両の追い越しを実行する。
【0053】
また、追い越し手段14は、追い越し準備動作実行手段12が自車両を自動操縦する場合におけるパワーステアリング27及び電子スロットル28の応答性よりも、それらの応答性を高めるようにする。
【0054】
追い越し準備動作の際においては、自車両、先行車両及び後続車両の各運転者を驚かせないよう車線区分線に接近するための移動を緩やかに実行させるためであり、追い越しの際においては、速やかな追い越しを実行させるためである。
【0055】
このとき、自車両の運転者は、追い越し準備動作実行手段12により、追い越し手段14による自動的な追い越しが実行されることを事前に認識しているので、自車両が自動的に右側の車線区分線を跨いで追い越し車線に進入したとしても驚いたり不快感を抱いたりすることはない。
【0056】
なお、追い越し手段14は、パワーステアリング27及び電子スロットル28に対して制御信号を出力してパワーステアリング27における操舵特性及び電子スロットル28における加速特性を変化させ(応答性を上げ)、自車両の運転者が手動によりハンドル操作又はアクセル操作を行った場合に進路変更や加速が遅れ気味になり、自車両の運転者に違和感を与えてしまうことがないようにする。
【0057】
車線区分線検出手段15は、車線区分線を検出するための手段であり、例えば、画像センサ20が撮像した路面画像に二値化処理、エッジ抽出処理、パターンマッチング処理等の各種画像処理を施して車線区分線を検出する。
【0058】
また、車線区分線検出手段15は、画像センサ20の設置位置に基づいて、車線区分線と自車両との間の相対的位置関係を認識し、自車両が車線区分線にどの程度接近したか、或いは、自車両が車線区分線を跨いだか否かを認識することもできる。
【0059】
次に、図2を参照しながら、先行車両の追い越しを自動的に実行する処理(以下、「自動追い越し処理」とする。)について説明する。なお、図2は、自動追い越し処理の流れを示すフローチャートであり、走行制御システム100は、車間距離制御手段10により自車両の走行速度を制御しながら、この自動追い越し処理を実行するものとする。
【0060】
最初に、制御装置1は、画像センサ20、前方レーダセンサ21、後方レーダセンサ22及び車速センサ23の出力に基づいて自車両及び先行車両の走行状態を認識する(ステップS1)。
【0061】
その後、制御装置1は、追い越し適否判定手段11により、自車両及び先行車両の走行状態と測位装置24の出力及び地図情報DB250に記憶された情報とに基づいて、自車両による先行車両の追い越しが適切であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0062】
追い越しが不適切であると判定された場合(ステップS2のNO)、制御装置1は、この自動追い越し処理を終了させる。追い越しが不適切であるにもかかわらず先行車両の追い越しを自動的に実行させてしまうことがないようにするためである。
【0063】
追い越しが適切であると判定された場合(ステップS2のYES)、制御装置1は、追い越し準備動作実行手段12により、方向指示器26に対して制御信号を出力し右側の方向指示灯を点滅させる(ステップS3)。自車両の運転者、及び、自車両周辺の車両の運転者に対して、自車両が追い越しを開始しようとしていることを知らせるためである。
【0064】
図3は、追い越し準備動作を説明するための図であり、自車両Vと追い越し対象の先行車両Pとがある程度の距離を隔てながら片側二車線の道路の走行車線を走行している状態を示す。なお、車両V1は、自車両Vのその後の動きを示すものであり、車両Vに搭載された走行制御システム100の制御装置1は、自車両Vによる先行車両Pの追い越しが適切であると判定し、右側の方向指示灯の点滅を開始させたものとする。
【0065】
このとき、制御装置1は、音声出力装置30に対して制御信号を出力し、追い越し準備動作を開始する旨を音声出力させ、自車両Vが右側に移動することを自車両Vの運転者に事前に知らせるようにする。
【0066】
その後、制御装置1は、追い越し準備動作実行手段12により、パワーステアリング27に対して制御信号を出力し自車両Vの右側の車輪が車線区分線Lに接するまで(車両V1の位置参照。)自車両Vを自動的に移動させる(ステップS4)。
【0067】
その後、制御装置1は、再度、画像センサ20、前方レーダセンサ21、後方レーダセンサ22及び車速センサ23の出力に基づいて自車両及び先行車両の走行状態を認識し(ステップS5)、追い越し可否判定手段13により、自車両及び先行車両の走行状態と測位装置24の出力及び地図情報DB250に記憶された情報とに基づいて、自車両による先行車両の追い越しが可能であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0068】
追い越しができないと判定された場合(ステップS6のNO)、制御装置1は、この自動追い越し処理を終了させる。追い越しができないにもかかわらず先行車両の追い越しを無理に実行させてしまうことがないようにするためである。
【0069】
追い越しが可能であると判定された場合(ステップS6のYES)、制御装置1は、追い越し手段14により、パワーステアリング27に対して制御信号を出力し、かつ、電子スロットル28に対して制御信号を出力し、自車両Vを加速させながら右側に移動させ自車両Vによる先行車両Pの追い越しを実行させる(ステップS7)。
【0070】
図4は、追い越し動作を説明するための図であり、追い越し準備動作を実行しながら走行車線を走行する自車両Vが加速しながら追い越し車線に進入し、先行車両Pよりも速い走行速度で走行しながら先行車両Pを追い越した状態を示す。なお、車両V1は、自車両Vのその後の動きを示すものである。
【0071】
このとき、制御装置1は、音声出力装置30に対して制御信号を出力し、追い越し動作を開始する旨を音声出力させ、自車両Vが加速しながら追い越し車線に進入し先行車両Pを追い越すことを自車両Vの運転者に事前に知らせるようにしてもよい。
【0072】
次に、図5〜図7を参照しながら、追い越し可否判定手段13が追い越しできないと判定した場合の処理(以下、「追い越し中止処理」とする。)について説明する。なお、車両V1は、自車両Vのその後の動きを示すものである。
【0073】
図5及び図6は、後方レーダセンサ22が追い越し車線を走行する後続車両を検出したため追い越し可否判定手段13により追い越しができないと判定した場合の状態を示す。
【0074】
制御装置1は、追い越し準備動作実行手段12により、方向指示器26に対して制御信号を出力し方向指示灯の点滅を中止させた上で、図5に示すように、自車両Vの右側の車輪を車線区分線Lに接近させたまま自車両Vを走行させる。自車両Vの車線変更を中止したことを後続車両Rの運転者に知らせるためであり、後続車両Rの運転者が安心して加速を行い、自車両V及び先行車両Pを追い抜くことができるようにするためである。
【0075】
この場合、制御装置1は、パワーステアリング27及び電子スロットル28の応答性を下げたままにしてもよい。自車両Vの不安定な挙動を防止するためである。
【0076】
その後、制御装置1は、追い越し準備動作実行手段12により、後続車両Rが前方の所定距離範囲外に走り去るまで、或いは、後方の所定距離範囲外に退くまで前方レーダセンサ21又は後方レーダセンサ22により後続車両Rを監視し、後続車両Rが所定距離範囲外に逸脱したことを確認した場合に、方向指示器26に対して制御信号を出力し方向指示灯の点滅を再開させる。
【0077】
また、制御装置1は、追い越し可否判定手段13により追い越しができないと判定された場合、追い越し準備動作実行手段12により、方向指示器26に対して制御信号を出力し方向指示灯の点滅を中止させた上で、図6に示すように、パワーステアリング27に対して制御信号を出力し自車両Vを現在走行する車線の中央に移動させてもよい。
【0078】
自車両Vの車線変更を中止したことを後続車両Rの運転者により確実に知らせるためであり、後続車両Rの運転者が安心して加速を行い、自車両V及び先行車両Pを追い抜くことができるようにするためである。
【0079】
その後、制御装置1は、追い越し準備動作実行手段12により、後続車両Rが前方の所定距離範囲外に走り去るまで、或いは、後方の所定距離範囲外に退くまで前方レーダセンサ21又は後方レーダセンサ22により後続車両Rを監視し、後続車両Rが所定距離範囲外に逸脱したことを確認した場合に、方向指示器26に対して制御信号を出力し方向指示灯の点滅を再開させ、かつ、パワーステアリング27に対して制御信号を出力し自車両Vを車線区分線Lに再接近させる。
【0080】
図7は、前方レーダセンサ21が追い越し車線を走行する別の先行車両P1を検出したため追い越し可否判定手段13により追い越しができないと判定した場合の状態を示す。
【0081】
この場合、制御装置1は、方向指示灯を点滅させ、自車両Vの右側の車輪を車線区分線Lに接近させたまま自車両Vの走行を継続させる。追い越し車線を走行する別の先行車両P1の運転者に自車両Vの車線変更の意思を知らせ、別の先行車両P1による先行車両Pの追い抜きを促すためであり、後方から接近する後続車両の運転者に自車両Vの車線変更の意思を知らせ、その後続車両の更なる接近を控えさせるようにするためである。
【0082】
以上の構成により、走行制御システム100は、自車両の追い越しの意思を自車両や自車両周辺の車両の運転者に事前に知らせることで、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、自車両による先行車両の追い越しを自動的に実行させることができる。
【0083】
また、走行制御システム100は、自車両の方向指示灯を点滅させ自車両を車線区分線に緩やかに接近させながら自車両の追い越しの意思を自車両や自車両周辺の車両の運転者に分かり易く知らせることで、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、自車両による先行車両の追い越しを自動的に実行させることができる。
【0084】
また、走行制御システム100は、追い越し経路内に先行車両が存在する場合、或いは、追い越し経路内に進入しようとする後続車両が存在する場合には、自車両による先行車両の無理な追い越しを禁止するので、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、自車両による先行車両の追い越しを自動的に実行させることができる。
【0085】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0086】
例えば、上述の実施例において、走行制御システム100は、自車両及び先行車両が共に走行車線を走行している場合に、自車両に追い越し準備動作を実行させた上で、追い越し車線を利用した自車両による先行車両の追い越しを実行させるが、その先行車両を追い抜いた後、自車両を走行車線に復帰させる場合に、復帰準備動作(追い越し準備動作と同様の動作であり、自車両が走行車線への復帰を開始することを、自車両の運転者を含め、周囲に知らせるための動作をいう。)を実行させた上で、自車両を走行車線に復帰させるようにしてもよい。
【0087】
これにより、自車両や自車両周辺の車両の運転者に驚きや不快感を抱かせることなく、追い越し車線を利用して先行車両を追い越した自車両を走行車線に復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る走行制御システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】自動追い越し処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】追い越し準備動作を説明するための図である。
【図4】追い越し動作を説明するための図である。
【図5】追い越し中止処理を説明するための図(その1)である。
【図6】追い越し中止処理を説明するための図(その2)である。
【図7】追い越し中止処理を説明するための図(その3)である。
【符号の説明】
【0089】
1 制御装置
10 車間距離制御手段
11 追い越し適否判定手段
12 追い越し準備動作実行手段
13 追い越し可否判定手段
14 追い越し手段
15 車線区分線検出手段
20 画像センサ
21 前方レーダセンサ
22 後方レーダセンサ
23 車速センサ
24 測位装置
25 記憶装置
26 方向指示器
27 パワーステアリング
28 電子スロットル
29 ブレーキ制御装置
30 音声出力装置
100 走行制御システム
250 地図情報データベース
L 車線区分線
P 追い越し対象の先行車両
P1 追い越し車線を走行する別の先行車両
R 追い越し車線を走行する後続車両
V、V1 自車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と先行車両との間の車間距離を所定距離に維持するよう自車両の走行速度を制御する走行制御システムであって、
自車両及び先行車両の走行状態に基づいて自車両による先行車両の追い越しの適否を判定する追い越し適否判定手段と、
先行車両の追い越しが適切であると判定した場合に、追い越しの準備動作を実行する追い越し準備動作実行手段と、
走行環境と自車両及び先行車両の走行状態とに基づいて自車両による先行車両の追い越しの可否を判定する追い越し可否判定手段と、
先行車両の追い越しが可能であると判定した場合に、追い越しを実行する追い越し手段と、
を備えることを特徴とする走行制御システム。
【請求項2】
車線区分線を検出する車線区分線検出手段を更に備え、
前記追い越し準備動作実行手段は、方向指示器を点滅させながら、前記車線区分線検出手段が検出した追い越し経路側の車線区分線まで自車両を接近させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の走行制御システム。
【請求項3】
前記追い越し可否判定手段は、追い越し経路側後方又は前方の所定範囲内に後続車両又は別の先行車両が存在する場合に追い越しを禁止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248892(P2009−248892A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102250(P2008−102250)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】