車両の走行制御装置
【課題】車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角及び左右輪の前後力差を制御する。
【解決手段】運転者の操舵操作量に対する前輪の舵角の関係を変更する舵角可変装置14又はバイワイヤ式の操舵装置76を備えた車両の走行制御装置。車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときには(S350、450)、その時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するに必要な目標軌跡に沿って車両を走行させるための前輪の目標舵角を演算し(S500)、一方の後輪の目標付加制動力を演算する(S1050)。そして目標舵角に基づいて前輪の舵角を制御し(S600)、目標付加制動力に基づいて後輪の制動力を制御する(S1060〜1100)。
【解決手段】運転者の操舵操作量に対する前輪の舵角の関係を変更する舵角可変装置14又はバイワイヤ式の操舵装置76を備えた車両の走行制御装置。車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときには(S350、450)、その時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するに必要な目標軌跡に沿って車両を走行させるための前輪の目標舵角を演算し(S500)、一方の後輪の目標付加制動力を演算する(S1050)。そして目標舵角に基づいて前輪の舵角を制御し(S600)、目標付加制動力に基づいて後輪の制動力を制御する(S1060〜1100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には車両が目標軌跡(目標走行ライン)に沿って走行するよう操舵輪の舵角を修正制御する車両の走行制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両が目標軌跡に沿って走行するよう車両の軌跡を制御する車両の走行制御装置は従来種々提案されている。例えば下記の特許文献1には、車両前方の道路の車線情報に基づいて車両の目標軌跡を設定し、目標軌跡と車両の前方注視点との偏差が減少するよう自動操舵アクチュエータを制御する車線追従装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−48035号公報
【特許文献2】特開2007−269180号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記特許文献1に記載された車線追従装置によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するよう操舵トルクの制御によって運転者の操舵操作を促したり操舵輪の舵角を修正したりすることができる。
【0005】
しかし上記特許文献1に記載された車線追従装置に於いては、車両の目標軌跡を設定するための車両前方の道路の車線情報及び車両の実軌跡に対応する車両の前方注視点の情報を取得するカメラの如き車外情報取得手段が必須である。また目標軌跡は基本的には車線情報に基づいて決定されるため、車両の目標軌跡を必ずしも運転者の希望に則した軌跡に設定することができない。更に車両前方の道路の車線情報がない状況や車線情報を取得できない状況に於いては、目標軌跡を設定することができないため、車両を目標軌跡に沿って走行させることができない。
【0006】
尚、上記特許文献2には、操舵角及び車速に基づいて車両の目標軌跡を設定し、目標軌跡と車両の実軌跡との偏差が減少するよう操舵伝達比可変装置を制御する操舵制御装置が記載されている。この特許文献2に記載された操舵制御装置によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するよう運転者の操舵に依存せずに操舵輪の舵角を制御することができる。
【0007】
しかし特許文献2に記載された操舵制御装置に於いては、車両の実軌跡を求めるためのGPSの如き車外情報取得手段が必要である。また目標軌跡と実軌跡との偏差に基づいて操舵輪の舵角がフィードバック制御されるので、実軌跡が求められた後でなければ舵角を制御することができず、そのため制御の遅れに起因して車両を好ましく目標軌跡に沿って走行させることができない。
【0008】
上記問題を解消すべく、例えば運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するに必要な目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することが考えられる。かかる操舵輪の舵角の制御によれば、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角を遅れなく制御することができる。
【0009】
操舵輪の舵角が目標舵角に制御されると、操舵輪のコーナリングフォースにより車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントが発生される。しかし車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントは操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントに限定されず、左右輪の前後力差によってもヨーモーメントを発生させることができる。
【0010】
また路面の摩擦係数が低いような状況に於いては、操舵輪の舵角が目標舵角に制御されても操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントが所要の値にならず、そのため車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントが不足する場合がある。
【0011】
よって操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントのみならず、左右輪の前後力差によるヨーモーメントを適宜に発生させれば、操舵輪の舵角の制御量を低減しつつ所要のヨーモーメントを車両に付与することができる。
【0012】
本発明は、車両が目標軌跡に沿って走行するよう車両の軌跡を制御する従来の走行制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角及び左右輪の前後力差を制御することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0013】
上述の主要な課題は、本発明によれば、運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角の関係を変更する舵角制御手段と、左右輪の前後力を相互に独立に制御可能な車輪前後力制御手段とを備えた車両の走行制御装置であって、予め設定された手順に従って車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときにはその時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算し、前記舵角制御手段により前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記車輪前後力制御手段により前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする車両の走行制御装置(請求項1の構成)によって達成される。
【0014】
後に詳細に説明する如く、運転者の操舵操作量は車両の現在の進行方向を基準に見て車両の現在位置から目標到達位置までの方向に関係し、車速は車両の現在位置から目標到達位置までの距離に関係している。また運転者の操舵操作量は車両が目標到達位置に到達する際の目標進行方向にも関係している。
【0015】
予め設定された手順に従って軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点を基準時点と呼ぶこととする。上記請求項1の構成によれば、基準時点の運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための目標軌跡に沿って車両が走行するための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差が演算される。そして目標舵角に基づいて操舵輪の舵角が制御されると共に、目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差が制御される。
【0016】
従って車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得は不要であり、また車外情報に基づいて実際の軌跡を求めることも、目標軌跡と実際の軌跡との偏差に基づいて車両の軌跡をフィードバック制御することも必要でない。よって車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角及び左右輪の目標前後力差を制御し、車両を運転者が希望する目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0017】
また上記請求項1の構成によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するための操舵輪の目標舵角が演算され、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角が制御されるが、左右輪の前後力差が制御されない場合に比して、操舵輪の舵角の制御量を低減することができる。また逆に車両が目標軌跡に沿って走行するための左右輪の目標前後力差が演算され、左右輪の目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差が制御されるが、操舵輪の舵角が制御されない場合に比して、左右輪の前後力の制御量を低減することができる。よって左右輪の前後力の制御に伴う車速の変化やエネルギの消費量を低減することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントを演算し、車両の走行状況に基づいて前記目標ヨーモーメントの達成に対する前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算し、前記目標ヨーモーメント及び前記寄与比率に基づいて操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算するよう構成される(請求項2の構成)。
【0019】
上記請求項2の構成によれば、目標ヨーモーメントの達成に対する操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が車両の走行状況に基づいて演算される。従って操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を車両の走行状況に応じて変化させることができる。また操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの和が目標ヨーモーメントになるので、ヨーモーメントに過不足が生じ、車両が目標軌跡に沿って走行しなくなることを防止することができる。
【0020】
尚請求項2の構成によれば、左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントは目標ヨーモーメントの一部である。従って左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントのみによって目標ヨーモーメントが達成される場合よりも、左右輪の前後力差の制御量は小さく、よって左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0021】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては前記目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れを判定し、前記操舵輪の舵角の制御により車両に付与されるヨーモーメントを補填する補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差を前記虞れに基づいて演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御するよう構成される(請求項3の構成)。
【0022】
上記請求項3の構成によれば、操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れが判定され、補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差が上記虞れに基づいて演算される。よって目標軌跡に沿って車両を走行させる上で不足するヨーモーメントの少なくとも一部を左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントによって補填することができる。従って左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントが補填されない場合に比して、目標軌跡に沿って車両を走行させることができなくなる虞れを確実に低減することができる。換言すれば、操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れがあるときにも、車両をできるだけ目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0023】
尚請求項3の構成によれば、補助ヨーモーメントは上記虞れに基づいて演算される。よって上記虞れがないときには左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントは発生されず、上記虞れが低いときには補助ヨーモーメントも小さい。従って左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化は上記請求項2の構成の場合よりも更に小さい。
【0024】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算するよう構成される(請求項4の構成)。
【0025】
上記請求項4の構成によれば、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメントの比率を低くし且つ左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を高くすることができる。同様に操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには指標値の大きさが小さいときに比して操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメントの比率を低くし且つ左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を高くすることができる。よって路面の摩擦係数及び操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさに応じて操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を適宜に制御することができる。
【0026】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記虞れが高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記虞れが高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記虞れを判定するよう構成される(請求項5の構成)。
【0027】
上記請求項5の構成によれば、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して上記虞れを高くすることができる。同様に操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには指標値の大きさが小さいときに比して上記虞れを高くすることができる。よって路面の摩擦係数及び操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさに応じて左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントの大きさを適宜に制御することができる。
【0028】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡は、前記目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、前記時点に於ける車両の位置より前記時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、前記時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線であるよう構成される(請求項6の構成)。
【0029】
上記請求項6の構成によれば、目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、基準時点に於ける車両の位置より時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、基準時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線として目標軌跡を求めることができる。
【0030】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡は、前記時点に於ける車両の位置に於いて前記時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ前記目標到達位置に於いて前記目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線であるよう構成される(請求項7の構成)。
【0031】
上記請求項7の構成によれば、基準時点に於ける車両の位置に於いて基準時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ目標到達位置に於いて目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線として目標軌跡を求めることができる。
【0032】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記時点に於ける操舵輪の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正するよう構成される(請求項8の構成)。
【0033】
上記請求項8の構成によれば、基準時点に於ける操舵輪の舵角と目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正される。よって操舵輪の舵角が目標舵角になるよう操舵輪の舵角をフィードフォワード式に効率的に制御することができ、また運転者の操舵操作を要することなく操舵輪の舵角を目標舵角にすることができる。
【0034】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の実際の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正するよう構成される(請求項9の構成)。
【0035】
上記請求項9の構成によれば、操舵輪の実際の舵角と目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角が修正される。よって操舵輪の舵角が目標舵角になるよう操舵輪の舵角をフィードバック式に正確に制御することができ、また運転者によって操舵操作が行われても操舵輪の舵角を目標舵角にすることができる。
【0036】
尚フィードバックの制御は操舵輪の舵角について行われるので、フィードバックの制御が車両の軌跡について行われる従来の車両の走行制御装置の場合に比して、操舵輪の舵角の制御の遅れは遥かに小さい。
【0037】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記目標到達位置は前記時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて決定され、前記目標進行方向は前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定されるよう構成される(請求項10の構成)。
【0038】
上記請求項10の構成によれば、基準時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて目標到達位置を決定し、基準時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて目標進行方向を決定することができる。よって基準時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡が求めることができる。
【0039】
また本発明によれば、上記請求項10の構成に於いて、前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度として、前記目標到達位置は前記時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し前記基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し、前記時点に於ける車両の位置から前記目標到達位置までの距離は車速に依存する値であるよう構成される(請求項11の構成)。
【0040】
上記請求項11の構成によれば、基準時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度とし、基準時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し且つ基準時点に於ける車両の位置から車速に依存する距離の位置として目標到達位置を決定することができる。
【0041】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項11の構成に於いて、前記時点に於ける車両の位置と前記目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、前記目標進行方向は前記目標到達位置に於いて前記方向の基準線に対し前記基準角度傾斜した方向に決定されるよう構成される(請求項12の構成)。
【0042】
上記請求項12の構成によれば、基準時点に於ける車両の位置と目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、目標到達位置に於いて方向の基準線に対し基準角度傾斜した方向を目標進行方向に決定することができる。
【0043】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記軌跡の制御を行っていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を開始すべきと判定するよう構成される(請求項13の構成)。
【0044】
一般に、運転者が車両の進路を変更する場合には、まず比較的速く操舵操作量を変化させ、しかる後操舵操作量の変化を穏やかにする。従って運転者の操舵操作量の変化率の大きさ推移に基づいて車両の軌跡の制御の開始又は更新の必要性を判定することができる。
【0045】
上記請求項13の構成によれば、軌跡の制御が行われていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときには、その判定により軌跡の制御を開始すべきと判定することができる。
【0046】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記軌跡の制御を行っている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を更新すべきと判定するよう構成される(請求項14の構成)。
【0047】
上記請求項14の構成によれば、軌跡の制御が行われている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときには、その判定により軌跡の制御を更新すべきと判定することができる。
【0048】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項6の構成に於いて、前記時点に於ける車両から前記時間の座標軸までの距離を基準距離として、前記基準距離と前記時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離が求められ、前記目標軌跡は前記時間の座標軸から前記目標距離の位置を結ぶ線として求められるよう構成される(請求項15の構成)。
【0049】
上記請求項15の構成によれば、基準距離と基準時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離を求め、時間の座標軸から目標距離の位置を結ぶ線として目標軌跡求めることができる。
【0050】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項15の構成に於いて、操舵操作の必要性に関連する車外の視覚情報の変化が発生してから人が当該視覚情報の変化を知覚するまでに要する一般的な時間をΔTとし、ウェバー比を−kとし、前記時点からの経過時間をtとして、前記自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであるよう構成される(請求項16の構成)。
【0051】
上記請求項15の構成によれば、自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであるので、人の知覚特性に合った車両の目標距離を求め、これにより人の知覚特性に合った車両の目標軌跡を求めることができる。
【0052】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記舵角制御手段は、運転者により操作される操舵入力手段に対し相対的に操舵輪を駆動することにより操舵伝達比を変化させる操舵伝達比可変手段と、前記操舵伝達比可変手段を制御する制御手段とを有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段であるよう構成される(請求項17の構成)。
【0053】
上記請求項17の構成によれば、操舵伝達比可変手段を有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段を備えた車両に於いて、操舵伝達比可変手段により操舵伝達比を変化させることにより操舵輪の舵角を制御することができる。
【0054】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記舵角制御手段は、操舵輪の舵角を変化させる転舵手段と、前記操舵入力手段に対する運転者の操舵操作量を検出する手段と、通常時には運転者の操舵操作量に基づいて前記転舵手段を制御し、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに前記転舵手段を制御する制御手段とを有するバイワイヤ式の舵角制御手段であるよう構成される(請求項18の構成)。
【0055】
上記請求項18の構成によれば、バイワイヤ式の舵角制御手段を備えた車両に於いて、転舵手段を制御することにより運転者の操舵操作に依存せずに操舵輪の舵角を制御することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0056】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪は前輪であり、左右輪は左右の後輪であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0057】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前後力は制動力であるよう構成される(好ましい態様2)。
【0058】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、左右輪の前後力差は一方の後輪の制動力及び他方の後輪の駆動力による前後力差であるよう構成される(好ましい態様3)。
【0059】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至7の何れか一つの構成に於いて、左右輪の前後力差の制御の寄与比率が車両の走行状況に基づいて0以上で1未満の値に演算され、操舵輪の舵角の制御の寄与比率が1から左右輪の前後力差の制御の寄与比率を減算した値に演算されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0060】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至7の何れか一つの構成に於いて、目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントに基づいて操舵輪の目標舵角が演算され、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れが0以上で1未満の係数として演算され、目標ヨーモーメントと係数との積に基づいて左右輪の目標前後力差が演算されるよう構成される(好ましい態様5)。
【0061】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の制駆動力が高いときには操舵輪の制駆動力が低いときに比して操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、操舵輪の制駆動力に基づいて操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が演算されるよう構成される(好ましい態様6)。
【0062】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の接地荷重が低いときには操舵輪の接地荷重が高いときに比して操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、操舵輪の接地荷重に基づいて操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が演算されるよう構成される(好ましい態様7)。
【0063】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の制駆動力が高いときには操舵輪の制駆動力が低いときに比して前記虞れが高くなるよう、操舵輪の制駆動力に基づいて前記虞れが判定されるよう構成される(好ましい態様8)。
【0064】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の接地荷重が低いときには操舵輪の接地荷重が高いときに比して前記虞れが高くなるよう、操舵輪の接地荷重に基づいて前記虞れが判定されるよう構成される(好ましい態様9)。
【0065】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様10)。
【0066】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は予め設定された軌跡の制御の終了条件が成立するまで操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様11)。
【0067】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきではないと判定したときには、予め設定された操舵伝達比が達成されるよう操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様12)。
【0068】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、走行制御装置は車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間と運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間と車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速とに基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様13)。
【0069】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7の構成に於いて、走行制御装置は運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間に関係なく車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様14)。
【0070】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項17の構成に於いて、車両は運転者による操舵操作を補助する補助操舵力を発生する補助操舵力発生手段と、運転者の操舵負担を軽減するための目標補助操舵力に基づいて補助操舵力発生手段を制御する補助操舵力制御手段とを有し、補助操舵力制御手段は軌跡の制御が行われている状況に於いては、舵角制御手段による操舵輪の舵角の制御に起因する操舵力の変動量を推定し、検出された操舵力を操舵力の変動量にて補正し、補正後の操舵力に基づいて運転者の操舵負担を軽減するために必要な補助操舵力を演算し、必要な補助操舵力と操舵力の変動量との和を目標補助操舵力とするよう構成される(好ましい態様15)。
【0071】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項18の構成に於いて、車両は操舵反力を発生する操舵反力発生手段と、目標操舵反力に基づいて操舵反力発生手段を制御する操舵反力制御手段とを有し、操舵反力制御手段は運転者の操舵操作量に基づいて舵角制御手段による操舵輪の舵角の制御の影響を受けない基本の操舵反力を演算し、基本の操舵反力から運転者の操舵負担を軽減するための操舵反力低減量を減算した値に基づいて目標操舵反力を演算するよう構成される(好ましい態様16)。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第一の実施形態(その1)に於ける軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態(その1)に於ける軌跡制御の更新条件の成立判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第一の実施形態(その1)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第一の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第一の実施形態(その1)に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】車速Vと目標ステアリングギヤ比Ntとの間の関係を示すグラフである。
【図9】操舵トルクThd又はThdaと基本アシストトルクTpabとの間の関係を示すグラフである。
【図10】車速Vと車速係数Kvとの間の関係を示すグラフである。
【図11】操舵トルクThd又はThdaと車速Vと基本アシストトルクTpabとの間の関係を示すグラフである。
【図12】路面の摩擦係数μと配分比Kmf1との間の関係を示すグラフである。
【図13】前輪の制駆動力と配分比Kmf2との間の関係を示すグラフである。
【図14】前輪の接地荷重の平均値Fzfaと配分比Kmf3との間の関係を示すグラフである。
【図15】第一の実施形態(その2)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図16】路面の摩擦係数μと係数Ksfとの間の関係を示すグラフである。
【図17】第一の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図18】第三の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図19】第三の実施形態(その1)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図20】第三の実施形態(その2)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図21】第三の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図22】バイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態を示す概略構成図である。
【図23】第五の実施形態に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図24】第五の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図25】補正後の操舵トルクTh0と基本操舵負担軽減トルクTpadbとの間の関係を示すグラフである。
【図26】補正後の操舵トルクTh0と車速Vと基本操舵負担軽減トルクTpadbとの間の関係を示すグラフである。
【図27】第五の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図28】第七の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図29】第七の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図30】2輪モデルの車両が進路を変更する場合を示す説明図である。
【図31】車両が定常円旋回し、円弧状の軌跡を描いて走行する場合を示す説明図である。
【図32】前輪の舵角が運転者の操舵操作量に対応する舵角及び案内棒モデルに基づいて修正された舵角である場合について、定常円旋回による車両の円弧状の軌跡を示す説明図である。
【図33】水平加速度x″が変化する状況に於いて、人が水平加速度x″の変化を知覚できる最小量Δx″及び人が最小量最小量Δx″の変化を知覚するに要する最小時間ΔTを示す説明図である。
【図34】車両が案内棒の基準位置より案内棒の先端位置まで指数関数の軌跡を描いて走行する場合を示す説明図である。
【図35】車両が指数関数の軌跡を描いて走行する場合に於いて、車両が案内棒の基準位置と案内棒の先端位置との間の位置へ移動した状況を示す説明図である。
【図36】図35に示された状況について、距離に関する座標軸及び時間に関する座標軸に平行な成分への車速の分解を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
実施形態の総括説明
具体的な実施形態の説明に先立ち、各実施形態に共通の技術的事項について総括的に説明する。
1)案内棒モデル
【0074】
車両の軌跡に関する運転者の意図は、運転者の操舵操作量に反映されていると考えられるので、操舵輪である前輪の向き、即ち前輪の舵角が運転者の前方注視方向であると考えられてよい。そこで前輪に仮想の案内棒が設置された仮想の車両を定義し、運転者は案内棒の先端が希望の軌跡に沿って移動するように車両を運転していると仮定する。その場合前方注視距離、即ち車両から運転者が注視する位置までの距離は案内棒の長さに対応し、車速に応じて変化すると考えられる。
【0075】
本明細書に於いては、上述の仮想の案内棒を備えた車両のモデルを「案内棒モデル」と呼ぶこととする。案内棒モデルによれば、運転者が車両の進路を変更しようとしたときの運転者の操舵操作量及び車速に基づいて、案内棒の先端を通る軌跡として車両の好ましい目標軌跡を設定することができる。
【0076】
従って設定された目標軌跡に沿って車両が走行するよう前輪の舵角を制御することにより、車両周囲の情報を撮影や車外よりの通信等によって周囲の情報を取得することを要することなく、車両を好ましい目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0077】
案内棒モデルに基づく車両の軌跡制御の理解が容易になるよう、図18に示されている如く、車両は前輪100及び後輪102を備えた2輪モデルの車両104であるとする。そして車両104がその前後方向を示す線106に対し角度φ傾斜した目標進路108へ進路を変更する場合について考える。尚角度の単位はradである。
【0078】
図示の如く、前輪100の中心Oから目標進路108上の点Pまで前輪の前後方向に沿って車両の前方へ仮想の案内棒110が突き出ているものとし、車両の前後方向に対する案内棒110の傾斜角をβとする。そして案内棒110の長さ、即ち線分OPの長さをAとし、目標進路108と案内棒110とがなす角度をαとする。また前輪100の中心Oから目標進路108までの距離をxとし、前輪100の舵角をδとする(δ=β)。更に車両104のホイールベースをWBとし、車速をVとする。尚長さの単位はmであり、時間の単位はsecである。
【0079】
舵角δ及び車速Vが変化せずに微小時間dtが経過することにより、車両104が実線にて示された位置より破線にて示された位置へ移動し、これに伴う角度φ及び距離xの変化をそれぞれdφ及び距離dxとすると、下記の式1〜式4が成立する。尚微小時間dtは非常に小さいので、図示の如く前輪100は案内棒110上の点に移動し、後輪102は移動前の車両の前後方向を示す線106上の点に移動すると考えられてよい。
【0080】
β=φ−α ……(1)
x=A*sinα ……(2)
−WBdφ=Vdt*sinβ ……(3)
−dx=Vdt*sinα ……(4)
【0081】
上記式2をαで微分すると、下記の式5が得られるので、dxは下記の式6により表される。
dx/dα=A*cosα ……(5)
dx=A*cosα*dα ……(6)
【0082】
上記式4に式6を代入すると、下記の式7が得られるので、案内棒の長さAは下記の式8により表される。
−A*cosα*dα=Vdt*sinα ……(7)
A=−(Vdt*sinα)/(cosα*dα)
=−(Vdt*tanα)/dα
=−Vdt*{1/(cosα)2} ……(8)
【0083】
また上記式3をVdtについて解くと、下記の式9が得られ、式9を式8に代入すると下記の式10が得られる。
Vdt=(−WBdφ)/sinβ ……(9)
A=−(−WBdφ)/sinβ*{1/(cosα)2} ……(10)
【0084】
旋回の如き車両の非直進走行は定常円走行の組合せと考えることができ、軌跡が円弧である場合には角度α及びβは互いに同一である。またβは前輪の舵角δと同一である。よって式10の角度α及びβを舵角δに書き換えることにより、案内棒の長さAを式11にて表すことができる。
A=(WBdφ)/sinδ*{1/(cosδ)2} ……(11)
【0085】
式11のdφは車両のヨーレートYRであり、ヨーレートYRは下記の式12により表される。
YR=V/WB*δ ……(12)
【0086】
よって式11のdφに式12を代入することにより、案内棒の長さAを式13にて表すことができる。
A=WB(V/WB*δ)/sinδ*{1/(cosδ)2}
=(V*δ)/sinδ*{1/(cosδ)2} ……(13)
【0087】
尚車両の旋回方向が左旋回か右旋回かによって舵角δの符号が異なる場合には、車両の旋回方向が逆になることによって舵角δの符号が逆になると、sinδの符号も同様に逆になるので、案内棒の長さAは常に正の値である。
【0088】
以上の説明に於いては、案内棒110は前輪100の中心Oを基準位置とし該基準位置から前輪の前後方向に沿って車両の前方へ突き出ているものとして案内棒モデルを説明した。しかし車両の軌跡は車両の重心の軌跡と考える方が好ましいので、これ以降の説明に於いては、案内棒は車両の重心を基準位置とし該基準位置から前輪の前後方向に沿って車両の前方へ突き出ているものとする。
【0089】
2)円弧状の軌跡
次に図19に示されている如く、前輪の舵角δ及び車速Vがそれぞれ一定の値に設定されて車両104が定常円旋回し、位置P0より位置P1まで円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合について考える。この場合車両104の重心が位置P0にあるときの案内棒に対応する線分は、基準点P0より先端P1まで延在している。
【0090】
車両104の運動は定常円旋回運動であるので、車両のヨーレートYRは上記式12により表され、車両の横加速度LAは下記の式14により表される。
LA=YR*V ……(14)
【0091】
よって円弧状の軌跡Tcの半径Rは下記の式15により表される。
R=V2/LA
=V2/(YR*V)
=V/YR
=V/(V/WB*δ)
=WB/δ ……(15)
【0092】
また図19に示されている如く、車両104の前後方向を示す線106及び目標進路を示す線108はそれぞれ位置P0及びP1に於いて円弧状の軌跡Tcに接する接線である。線106及び108の交点をQ1とし、円弧状の軌跡Tcの中心Ocより案内棒110に下した垂線の足をQ2とする。三角形P0OcP1は中心Ocを頂点とする二等辺三角形であるので、角度P0OcQ2及び角度P1OcQ2は互いに等しく、これらをγとする。また角度OcP0Q2及び角度OcP1Q2も互いに等しく、これらをλとする。
【0093】
図19より解る如く、下記の式16及び17が成立する。よって角度γは角度α及びδと同一である。
α+λ=δ+λ=π/2 ……(16)
γ+λ=π/2 ……(17)
【0094】
また図19より解る如く、案内棒に対応する線分の長さA0は線分P0Q2の2倍であり、線分P0Q2の長さはR*sinγ=R*sinδである。よって案内棒に対応する線分の長さA0は式18にて表わされる。
A0=2R*sinδ
=2(WB/δ)*sinδ ……(18)
【0095】
式18により表される案内棒に対応する線分の長さA0は車速Vを含んでおらず、車速Vに依存しない。この線分の長さA0と式13により表される案内棒の長さAとの比較より、前輪の舵角δを修正しなければ、案内棒110の先端を通る円弧状の軌跡に沿って車両を走行させることができないことが解る。換言すれば、線分の長さA0を式13により表される案内棒の長さAと同一の値にするためには、運転者の操舵操作量及びステアリングギヤ比により定まる舵角(「本来の舵角」という)δとは異なる値に前輪の舵角を修正しなければならない。
【0096】
図20に示されている如く、前輪の舵角が本来の舵角δから修正後の舵角δ′に修正されると、車両104が案内棒110の先端P1′を通る円弧状の軌跡Tc′に沿って走行することができるとする。また円弧状の軌跡Tc′の中心及び半径はそれぞれOc′、R′であるとする。
【0097】
半径R′は上記式15に対応する下記の式19により表される。
R′=WB/δ′ ……(19)
【0098】
三角形P0P1Oc及び三角形P0P1′Oc′は相似形であるので、下記の式20が成立する。
R/R′=A0/A ……(20)
【0099】
この式20にδがδ′に書き換えられた上記式13及び上記式15、18、19を代入すると、下記の式21が得られる。
δ′/δ=2WB*sinδ′*sinδ*(cosδ′)2/(V*δ′*δ)
……(21)
【0100】
前輪の舵角δ及び修正後の舵角δ′が小さい値であるときには、sinδ及びsinδ′はそれぞれδ及びδ′であると看做されてよく、cosδ′は1であると看做されてよい。よって修正後の舵角δ′は上記式21が変形された下記の式22により表される。
δ′=(2WB/V)*δ ……(22)
【0101】
運転者の操舵操作量としての操舵角をθとし、ステアリングギヤ比をNとすると、前輪の本来の舵角δは下記の式23により表される。尚ステアリングギヤ比Nは一定であってもよく、また例えば車速Vに応じて可変設定される値であってもよい。
δ=θ/N ……(23)
【0102】
よって修正後の舵角δ′は下記の式24により表される。
δ′=(2WB/V)*θ/N ……(24)
【0103】
また前輪の舵角及び車速がそれぞれ一定のδ′及びVに維持された状態で車両が位置P0より位置P1′まで円弧状の軌跡Tc′に沿って走行するに要する時間をTaとする。時間Taは中心角θが2γ=2δで半径がR′の扇形の円弧に沿って式25により表されるヨーレートYRにて円弧運動するに必要な時間である。よって時間Taは式26により表される通り、1[sec]であり、車速Vに依存しない。
YR=V/WB*δ′ ……(25)
Ta =2δ/YR
=2WB*δ/(V*δ′)
=2WB*δ/{V*(2WB/V)*δ}
=1 ……(26)
【0104】
従って前輪の本来の舵角がδである状況に於いて、車速Vを一定の値に維持し目標舵角δatを修正後の舵角δ′に設定して前輪の舵角を制御することにより、案内棒110の先端P1′を通る円弧状の軌跡Tc′に沿って車両を走行させることができる。そして車速Vの値に関係なく車両は時間Ta=1[sec]が経過するときに位置P1′を通過する。
【0105】
3)指数関数の軌跡
上記式2より下記の式27が成立する。但し式1よりα=φ−βである。
x′=−V*sinα ……(27)
【0106】
上記式2及び27より下記の式28が成立し、式28は距離xがウェバー則に則して変化する変数であることを示している。
x′=−(V/A)x ……(28)
【0107】
式28を解くと式29が得られる。よって距離xが式29に則して変化するよう制御することにより、距離xをウェバー則に則して制御することができる。尚x0は時間tが0であるときの距離xの値である。
x=x0*exp{−(V/A)*t} ……(29)
【0108】
次に上記式29に基づく距離xの制御を人間の知覚特性に適合させることを考える。図21に示されている如く、距離xの2回微分値である車両の水平加速度x″が増加する場合に於いて、人が水平加速度x″の変化を知覚できる最小量をΔx″とする。そして人が水平加速度x″の変化Δx″を知覚するに要する最小時間をΔTとする。水平加速度x″の変化率をx″′として最小量Δx″は下記の式30により表される。
Δx″=x″′*ΔT ……(30)
【0109】
図21より解る如く、水平加速度x″の変化率x″′は下記の式31により表される。
x″′={(x″+Δx″)−x″}/{(T+ΔT)−T}
=Δx″/ΔT ……(31)
【0110】
上記式28を2回微分すると下記の式32が得られるので、下記の式33が成立する。
x″′=−(V/A)*x″ ……(32)
x″′/x″=−(V/A) ……(33)
【0111】
上記式33に上記式31を代入して変形することにより、下記の式34が得られる。
Δx″/x″=−(V/A)*ΔT ……(34)
【0112】
上記式34はウェバー比の形をなす式であるので、ウェバー比を−kとして上記式34を下記の式35の通りに書き換えることができる。但しkは式36により表される正の値である。
Δx″/x″=−k ……(35)
k=(V/A)*ΔT ……(36)
【0113】
尚最小時間ΔTは個人差のある値であるが、最小時間ΔTを平均的な一定の値とし、ウェバー比−kも一定の値であるとする。
【0114】
上記式35を下記の式37の通り変形し、式37を上記式30に代入して変形することにより、下記の式38が得られる。そして下記の式38を解くことにより、下記の式39が得られる。
Δx″=−k*x″ ……(37)
x″′*ΔT=−k*x″ ……(38)
x=x0*exp{−(k/ΔT)*t} ……(39)
【0115】
上記式29及び39は何れも距離xが時間tの指数関数であることを示しているが、式39によれば距離x、従って車両の好ましい指数関数の軌跡を車速Vに依存しないウェバー比−k及び最小時間ΔTにて表すことができる。
【0116】
よって上記式39を使用して車両の軌跡を制御することにより、車速Vに依存する上記式29を使用して車両の軌跡を制御する場合に比して、下記の利点がられる。
(1)上記式39は車速Vを含んでいないので、演算量を少なくし、制御を単純化することができる。
(2)車両の軌跡を人の知覚特性に適合した好ましい指数関数の軌跡に制御することができる。
【0117】
以上の説明より解る如く、式39に従って距離xを制御することによって車両の軌跡を制御することにより、車両の軌跡を円弧状の軌跡よりも人の知覚特性にとって好ましい指数関数の軌跡にすることができる。
【0118】
しかし車両の軌跡が上記式39に従って指数関数の軌跡に設定されても、車両が位置P1′に到達するに要する時間Tbが車両の軌跡が円弧状の軌跡である場合の時間Taと同一になるとは限らない。
【0119】
そこで時間Tbを時間Taと同一の値にするための補正係数をDとして上記式39を下記の式40の通りに書き換える。
x=x0*exp{−(k/ΔT)D*t} ……(40)
【0120】
車両が位置P1′に到達するに要する時間Tbを時間Taとするためには、xbを0に近い正の定数として、式40に於いて時間tがTaであるときに距離xがxbになればよく、従って下記の式41が成立すればよい。Taは1[sec]であるので、補正係数Dについて式41を解くと、式42が得られる。
xb=x0*exp{−(k/ΔT)D*Ta} ……(41)
D=−(logexb−logex0)*ΔT/(k*Ta)
=−(logexb−logex0)*ΔT/k ……(42)
【0121】
図22に示されている如く、距離xが上記式40に則して変化するよう前輪の舵角δが制御されることにより、案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合について考える。
【0122】
案内棒の基準位置P0より目標進路を示す線108に下した垂線の足を交点Q3とする。上記式40により表される指数関数は、目標進路を示す線108を時間に関する座標軸とし、車両104の前後方向を示す線106を距離xに関する座標軸とし、交点Q3を原点とする直交座標に於ける関数である。
【0123】
位置P1と交点Q3との間の距離及び位置P0と位置交点Q3との間の距離をそれぞれB及びCとすると、距離B及びCはそれぞれ下記の式43及び44により表される。
B=A*cosδ ……(43)
C=A*sinδ
=2R*sinδ*sinδ
=2(WB/δ′)*(sinδ)2 ……(44)
【0124】
舵角δが小さいときにはsinδはδに等しいと看做されてよいので、上記式44に上記式22を代入すると共にsinδ=δとすることにより、距離Cは下記の式45により表される。また距離Cは時間tが0であるときの距離xの値x0であり、正の値である。よって式45に対応する下記の式46により距離x0を求めることができる。
C=(V/δ)*δ2
=V*δ ……(45)
x0=V*|δ| ……(46)
【0125】
従って補正係数D及び距離x0をそれぞれ式42及び46により求め、式40に従って距離xを制御することにより、時間Ta=1[sec]が経過するときに車両が実質的に位置P1′に到達するよう、車両を指数関数の軌跡Teに沿って走行させることができる。
【0126】
次に距離xを上記式40、42及び46に則して変化させることにより、車両の軌跡を好ましい指数関数の軌跡Teに制御するための前輪の舵角の制御について説明する。
【0127】
まず前輪の舵角δ及び車速Vがそれぞれ一定のδ′及び一定の値に設定されて、車両が案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで円弧状の軌跡Tc′を描いて走行する場合の車両の横加速度LAaについて考える。車両のスリップ角が0であるとすると、車両の横加速度LAaは式25により表されるヨーレートYRと車速Vとの積に等しいので、下記の式47により求められる値である。
LAa=YR*V
=V/WB*δ′*V
=V2/WB*δ′
=V2/WB*(2WB/V)*θ/N
=2V*θ/N ……(47)
【0128】
また車速Vが一定の値に設定され、前輪の舵角δがδbに可変制御されることにより、車両が案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで上記式40により表される指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbについて考える。
【0129】
図23及び図24に示されている如く、車両が基準位置P0と先端位置P1′との間の位置P3へ移動した状況について、車速Vを距離xに関する座標軸に平行な成分Vxと時間に関する座標軸に平行な成分Vyとに分解すると、式48が成立する。
V=(Vx2+Vy2)1/2 ……(48)
【0130】
距離xに関する座標軸に平行な成分Vxは式40により表される距離の変化率に等しいので、下記の式49により成分Vxを求めることができる。
Vx=dx/dt
=|d[x0*exp{−(k/ΔT)D*t}]/dt
=|−V*δ*(k/ΔT*D)*exp{−(k/ΔT)D*t}| ……(49)
【0131】
式48及び式49より、時間に関する座標軸に平行な成分Vyを下記の式50により求めることができることが解る。
Vy=(V2−Vx2)1/2 ……(50)
【0132】
図24に示されている如く、車両の前後方向を示す線106が距離xに関する座標軸に平行な線112に対しなす角度、即ち距離xに関する座標軸に平行な成分Vxが車速Vに対しなす角度をσとする。車両のスリップ角が0であるとすると、下記の式51が成立する。よって角度σは下記の式52により表される。
tanσ=Vy/Vx ……(51)
σ=tan−1(Vy/Vx) ……(52)
【0133】
距離xに関する座標軸に平行な成分Vxの車両の横方向の成分をVxxとし、時間に関する座標軸に平行な成分Vyの車両の横方向の成分をVyxとする。車両の横方向の成分Vxx及びVyxはそれぞれ式53及び54により表される。
Vxx=Vx*sinσ ……(53)
Vyx=Vy*cosσ ……(54)
【0134】
従って車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横方向の速度Vzは下記の式55により表され、車両の横加速度LAbは下記の式56により表される。
Vz=Vyx−Vxx
=Vy*cosσ−Vx*sinσ ……(55)
LAb=d(Vz)/dt ……(56)
【0135】
車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbと車両が円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合の車両の横加速度LAaとの偏差ΔLAは式57により表される。
ΔLA=LAb−LAa ……(57)
【0136】
車両のヨーレートYRは式25に於けるδ′をδbに置き換えた値であると共に、車両の横加速度LAbを車速Vにて除算した値であるので、式58が成立する。
V/WB*δb=LAb/V ……(58)
【0137】
よって指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δbは下記の式59により求められる。
δb=(LAb/V)/(V/WB)
=(WB/V2)*LAb ……(59)
【0138】
円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δa(目標舵角δat=δ′)を基準にして、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるために必要な前輪の舵角の修正量をΔδbとする。前輪の舵角の修正量Δδbは、左旋回時を正とすると、左旋回時については下記の式60により求められ、右旋回時については下記の式61により求められる。
Δδb=(WB/V2)*ΔLA ……(60)
Δδb=−(WB/V2)*ΔLA ……(61)
【0139】
円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δaは式24により表される修正後の舵角δ′である。従って指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の目標舵角δbtは、左旋回時については下記の式62により求められ、右旋回時については下記の式63により求められる。
δbt=δ′+Δδb
=(2WB/V)*θ/N+(WB/V2)*ΔLA ……(62)
δbt=δ′+Δδb
=(2WB/V)*θ/N−(WB/V2)*ΔLA ……(63)
【0140】
4)前輪の舵角の制御方法
以上の説明より、式24により表される舵角δ′を目標舵角δatとして前輪の舵角δを制御することにより、円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させることができる。また式62又は63により求められる目標舵角δbtになるよう前輪の舵角δを制御することにより、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させることができる。
【0141】
前輪の目標舵角がδatである場合及びδbtである場合の何れの場合にも、前輪の舵角δを目標舵角に制御する方法として、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の何れも可能であり、それぞれに利点がある。
【0142】
フィードフォワード制御は、軌跡の制御を開始すべきと判定したとき(制御開始時)に目標舵角を演算すると共に、制御開始後に前輪の舵角が運転者の操舵操作によって大きく変更されることがないことを前提に、前輪の舵角を目標舵角に制御するものである。
【0143】
フィードフォワード制御の場合には、運転者が操舵操作をしなくても車両の軌跡を目標の軌跡にすることができるので、この制御は車両運転の習熟度が高い運転者よりも車両運転の習熟度が低い運転者に適した制御である。
【0144】
これに対しフィードバック制御は、制御開始時に目標舵角を演算すると共に、前輪の舵角が制御開始後に運転者の操舵操作によって変更される場合があることを前提に、実際の舵角と目標舵角との偏差を低減することにより前輪の舵角を目標舵角に制御するものである。
【0145】
フィードバック制御の場合には、運転者が操舵操作をしても車両の軌跡を目標の軌跡にすることができるので、この制御は車両運転の習熟度が低い運転者よりも車両運転の習熟度が高い運転者に適した制御である。
【0146】
尚、前輪の舵角δを目標舵角に制御する方法がフィードフォワード制御及びフィードバック制御の何れである場合にも、予め設定された軌跡制御の更新条件が成立すると、目標軌跡が更新されることにより軌跡制御が更新される。
【0147】
5)ヨーモーメントを発生する手段
上記目標舵角δat及びδbtを総称して目標舵角δtと呼ぶこととすると、前輪の目標舵角δtは、車両を目標軌跡に沿って走行させるために必要なヨーモーメントを発生させるための目標舵角である。また前輪の舵角が現在の舵角δである場合にも、その舵角に対応するコーナリングフォースによって車両にヨーモーメントが付与される。従って前輪の舵角を目標舵角δtに修正することにより車両に付与すべき所要のヨーモーメント、即ちヨーモーメントの必要修正量ΔMvは、前輪の舵角が目標舵角δtであるときのヨーモーメントMvtと前輪の舵角が実際の舵角δであるときのヨーモーメントMvaとの偏差である。
【0148】
前述の如く前輪の舵角がδであるときの車両のヨーレートYRは上記式12により表される。一般に、物体の角運動量の単位時間当りの変化はその物体に作用するヨーモーメントに等しい。このことを車両に適用すると、車両のヨーレートYRは車両に作用するヨーモーメントに等しい。
【0149】
よって前輪の舵角が目標舵角δtであるときのヨーモーメントMvt及び前輪の舵角が実際の舵角δであるときのヨーモーメントMvaはそれぞれ下記の式64及び65により表される。従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvは下記の式66により表される。
Mvt=V/WB*δt ……(64)
Mva=V/WB*δ ……(65)
ΔMv=V/WB*(δt−δ) ……(66)
【0150】
またヨーモーメントの必要修正量ΔMvは、イ)前輪の舵角の修正だけでなく、ロ)左右の車輪の前後力差によっても発生させることができる。そしてヨーモーメントの必要修正量ΔMvの少なくとも一部を左右の車輪の前後力差によって発生させることにより、前輪の舵角の修正量を小さくすることができる。
【0151】
前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量をMsとし、左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントをMfとする。ヨーモーメントの必要修正量ΔMvに対するMfの寄与度合、換言すればMfに対するΔMvの配分比をKmf(0以上で1未満)とすると、ヨーモーメントMs及びMfはそれぞれ下記の式67及び68により表される。
Ms=(1−Kmf)ΔMv ……(67)
Mf=Kmf*ΔMv ……(68)
【0152】
5−1)ヨーモーメントの分配制御
この制御は、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvを前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfに分配する制御である。
【0153】
配分比Kmfは一定の値であってもよいが、車両の走行状況に応じて可変設定されることが好ましい。
【0154】
特に配分比Kmfは、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して大きく、前輪のコーナリングフォースが大きいときには前輪のコーナリングフォースが小さいときに比して大きいことが好ましい。また配分比Kmfは、前輪の前後力が大きいときには前輪の前後力が小さいときに比して大きく、前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに大きいことが好ましい。尚前輪のコーナリングフォースに代えてその指標値である前輪の舵角又はこれに対応する値が採用されてもよい。
【0155】
また左右の車輪の前後力に差を与えるためには、左右の車輪の一方に制動力又は駆動力を付与するか、左右の車輪の一方に制動力を付与し且つ左右の車輪の他方に駆動力を付与する必要があり、これらの制駆動力の制御は車両の燃費を悪化させる。またヨーモーメントMfが0でない限り左右の車輪の前後力に差を与え続けなければならない。
【0156】
よって配分比Kmfは小さい値であることが好ましいが、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvをMs及びMfに分配することにより、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvが舵角の修正のみにより達成される場合に比して舵角の必要修正量を低減することができる。また左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない状況に於いても、Ms及びMfの両者によりヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成し、車両を目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0157】
ヨーモーメントの必要修正量ΔMvが前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfに分配される場合には、前輪の目標舵角δtが修正される必要がある。
【0158】
即ち前輪の舵角の修正により達成されるべきヨーモーメントの変化量はMsであるので、修正後の前輪の目標舵角をδtmとすると、下記の式69が成立する。よって修正後の前輪の目標舵角δtmは下記の式70により表される。
Ms=V/WB*(δtm−δ) ……(69)
δtm=Ms*WB/V+δ ……(70)
【0159】
5−2)ヨーモーメントの補填制御
この制御は、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvを基本的には前輪の舵角の修正により達成する制御である。そして左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない虞れがある状況に於いて、左右の車輪の前後力差によりヨーモーメントMfを補填する制御である。
【0160】
左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない虞れがあるか否かは、コーナリングフォースが前輪の摩擦円を越えているか否かにより判定可能である。路面の摩擦係数に基づいて前輪の摩擦円の大きさを推定することができ、また車両のスリップ角を無視すれば、前輪の舵角に基づいてコーナリングフォースを推定することができる。
【0161】
よって後述の実施形態に於いては、路面の摩擦係数及び前輪の舵角に基づいて左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfが補填される必要性を示す値として係数Ksf(0以上で1未満)が演算される。そして補填のヨーモーメントMfが上記式68に対応する下記の式71に従って演算され、補填される。
Mf=Ksf*ΔMv ……(71)
【0162】
尚、係数Ksfは前輪の舵角が目標舵角δtに修正されることによるヨーモーメントの修正量と補填のヨーモーメントMsfとの和がヨーモーメントの必要修正量ΔMvを越えることがないよう、例えば実験等により求められてよい。
【0163】
6)左右の車輪の前後力差の制御
また左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfは、左右前輪の前後力差、左右後輪の前後力差、左右前輪及び左右後輪の前後力差の何れによっても発生可能である。しかし路面の摩擦係数が低い状況に於いては、左右前輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントの発生が阻害されないよう、ヨーモーメントMfは主として左右後輪の前後力差により発生されることが好ましい。
【0164】
左右後輪の前後力差によりヨーモーメントMfを発生させる場合に限っても、その手段として次の三つの手段がある。
a)左右後輪の一方に制動力を付加する。
b)左右後輪の他方に駆動力を付加する。
c)左右後輪の一方に制動力を付加し、左右後輪の他方に駆動力を付加する。
【0165】
a)及びb)の場合には車速が変化する。しかし左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfの大きさはそれほど大きい値にはならないので、車速の変化は無視できる程度である。また多くの車両に於いては各車輪の制動力を個別に制御可能であるのに対し、b)及びc)の場合には各車輪の駆動力を個別に制御可能であることが必要であり、多くの車両に於いては各車輪の駆動力を個別に正確に制御することができない。
【0166】
従って後述の実施形態に於いては、ヨーモーメントMfが正の値であるときには、左後輪に制動力を付加することによりヨーモーメントMfが発生され、ヨーモーメントMfが負の値であるときには、右後輪に制動力を付加することによりヨーモーメントMfが発生される。後輪の一方に付加される制動力をFbraとし、車両のトレッドをTrとすると、下記の式72が成立する。よって制動力Fbraは下記の式73により表される。
|Mf|=Fbra*(Tr/2) ……(72)
Fbra=2|Mf|/Tr ……(73)
【0167】
尚、上記b)の場合には、制動力Fbraと同一の大きさの駆動力が一方の後輪に付加され、上記c)の場合には制動力Fbraの半分の大きさの制動力が一方の後輪に付加されると共に、制動力Fbraの半分の大きさの駆動力が他方の後輪に付加される。
【0168】
7)前輪の舵角の制御装置
車両の軌跡を目標の軌跡に制御するためには、運転者の操舵操作とは独立に前輪を転舵することによって前輪の舵角を修正し目標舵角に制御することができる舵角制御装置が必要である。
【0169】
かかる舵角制御装置として、ステアリングホイールの如き操舵入力手段と操舵輪である前輪とが機械的に連結された機械的舵角制御装置と、操舵入力手段と前輪とが機械的に連結されていない非機械的舵角制御装置とがある。
【0170】
機械的舵角制御装置はアクチュエータによって操舵入力手段に対し相対的に前輪を転舵駆動するものであり、例えばステアリングギヤ比可変装置(VGRS)を備えたセミステアバイワイヤ式の操舵装置がこれに属する。
【0171】
非機械的舵角制御装置は操舵入力手段と前輪を転舵駆動する駆動手段とが相互に独立し、両者が制御装置を介して電気的に接続されたものであり、例えばステアバイワイヤ式の操舵装置がこれに属する。
【0172】
8)軌跡の制御の分類と実施形態
以上の説明より解る如く、軌跡が円弧状であるか指数関数であるかによって、また舵角の制御がフィードフォワード(FF)制御であるかフィードバック(FB)制御であるかによって、本発明による軌跡の制御を制御1〜4に分類分けすることができる。また舵角制御装置が機械的舵角制御装置であるか非機械的舵角制御装置であるかによって、制御1〜4を更にそれぞれ二つに分類することができる。
【0173】
後述の第一乃至第八の実施形態は、上記分類項目に従ってそれぞれ下記の表1及び表2の通り分類されるものである。尚表1及び表2はそれぞれ舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合及び非機械的舵角制御装置である場合を示している。
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
また後述の実施形態の説明に於いて、その1及びその2の二つについて説明されるが、その1は「5−1)ヨーモーメントの分配制御」による実施形態であり、その2は「5−2)ヨーモーメントの補填制御」による実施形態である。
【0177】
尚後述の第一乃至第八の何れの実施形態に於いても、アンチスキッド制御等の他の車両の走行制御が実行されているときには、軌跡制御は開始されない。また軌跡制御が実行されている状況に於いてアンチスキッド制御等の他の車両の走行制御の開始条件が成立したときには、軌跡制御は終了され、当該他の車両の走行制御が開始される。
【0178】
9)機械的舵角制御装置の場合の操舵反力の制御
パワーアシストによって操舵反力を制御する方式として、操舵トルクを検出しない第一の方式と操舵トルクを検出する第二の方式とがある。
【0179】
9−1)第一の方式
車両が定常円旋回する場合の旋回半径Rは上記式15により表される。また車両の軌跡の曲率をρとすると、旋回半径Rは下記の式74により表される。
R=1/ρ ……(74)
【0180】
よって前輪の舵角δは下記の式75により表される。
δ=WB/R
=ρ*WB ……(75)
【0181】
前輪のキャスタートレールとニューマチックトレールとの和をLt[m]とし、前輪のコーナリングパワーをKf[Nm/rad]とすると、舵角がδ[rad]である前輪のキングピン軸周りのトルクTsは下記の式76により表される。
Ts =−2Lt*Kf*δ ……(76)
【0182】
操舵入力手段としてのステアリングホイールに於けるトルク、即ち操舵トルクをThとすると、前輪のキングピン軸周りのトルクTsは、ステアリングギヤ比N(上記式23参照)を使用して下記の式77により表される。
Ts =Th*N ……(77)
【0183】
上記式76及び77より下記の式78が成立する。よって操舵トルクThは下記の式79により表される。
Th*N=−2Lt*Kf*δ ……(78)
Th=−2Lt*Kf*δ/N ……(79)
【0184】
式79はパワーアシストによって操舵トルクが軽減されない場合に於ける前輪の舵角δと操舵トルクThとの関係を示している。よって式79に式23を代入することにより得られる下記の式80により表されるThtは、前輪の舵角が仮想の舵角δであるときの操舵トルク、即ち軌跡制御による前輪の舵角の修正が行われない場合の操舵トルクである。
Tht=−2Lt*Kf*θ/N2 ……(80)
【0185】
従って式80により表される操舵トルクThtを基準トルクとし、例えばトルクセンサにより検出される操舵トルクをThdとすると、下記の式81により表される操舵トルクの偏差ΔThは前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を表す。
ΔTh=Thd−Tht ……(81)
【0186】
よって検出される操舵トルクThdから前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分ΔThが除去された操舵トルク、即ち前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を含まない操舵トルクTh0は下記の式82により表される。
Th0=Thd−ΔTh
=Tht
=−2Lt*Kf*θ/N2 ……(82)
【0187】
従って式82により表される操舵トルクTh0を補正後の検出操舵トルクとし、これに基づいて目標アシストトルクTpatを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を受けることなく運転者の操舵負担を軽減することができる。尚目標アシストトルクTpatは、補正後の検出操舵トルクTh0の大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0188】
9−2)第二の方式
9−2−1)円弧状の目標軌跡
前述の如く、目標軌跡が円弧状である場合には、前輪の舵角は仮想の舵角δであるべき状況に於いて目標舵角δat=δ′に制御される。従って前輪の舵角が目標舵角δatであるときの操舵トルクThatは下記の式83により表される。
That=−2Lt*Kf*δat/N
=−2Lt*Kf*δ′/N
=−2Lt*Kf*(2WB/V)*θ/N2 ……(83)
【0189】
よって軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動量ΔThatは、式83により表される操舵トルクThatと式80により表される操舵トルクThとの偏差であるので、下記の式84により表される。
ΔThat=That−Th
=−2Lt*Kf*(2WB/V)*θ/N2−(−2Lt*Kf*θ/N2)
=−2Lt*Kf*(2WB/V−1)*θ/N2 ……(84)
【0190】
下記の式85に従ってトルクセンサにより検出される操舵トルクThdから操舵トルクの変動量ΔThatを減算することにより求められる補正後の検出操舵トルクThdaは、前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動分が排除された操舵トルクである。
Thda=Thd−ΔThat
=Thd+2Lt*Kf*(2WB/V−1)*θ/N2 ……(85)
【0191】
従って補正後の検出操舵トルクThdaに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除することができる。そして運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和を目標アシストトルクTpatとすることにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除しつつ運転者の操舵負担を軽減することができる。尚操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクThdaの大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクThda及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0192】
9−2−2)指数関数の目標軌跡
前述の如く、目標軌跡が指数関数である場合には、前輪の舵角は仮想の舵角δであるべき状況に於いて式62又は63の目標舵角δ tに制御される。従って前輪の舵角が目標舵角δbtであるときの操舵トルクThbtは下記の式86により表される。
Thbt=−2Lt*Kf*δbt/N
=−2Lt*Kf*(δ′+Δδb)/N ……(86)
【0193】
よって軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動量ΔThbtは、式86により表される操舵トルクThbtと式80により表される操舵トルクThとの偏差であるので、下記の式87により表される。
ΔThbt=Thbt−Th
=−2Lt*Kf*(δ′+Δδb)/N+2Lt*Kf*δ/N
=−2Lt*Kf*{(2WB/V)δ+Δδb}/N+2Lt*Kf*δ/N
=−2Lt*Kf*{(2WB/V+1)δ+Δδb}/N ……(87)
【0194】
下記の式88に従ってトルクセンサにより検出される操舵トルクThdから操舵トルクの変動量ΔThbtを減算することにより求められる補正後の検出操舵トルクThdbは、前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動分が排除された操舵トルクである。
Thdb=Thd−ΔThbt
=Thd+2Lt*Kf*{(2WB/V+1)δ+Δδb}/N ……(88)
【0195】
従って補正後の検出操舵トルクThdbに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除することができる。そして運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThbtとの和を目標アシストトルクTpatとすることにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除しつつ運転者の操舵負担を軽減することができる。尚操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクThdbの大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクThdb及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0196】
上述の第一の方式によれば、操舵トルクThdを検出する必要がないが、操舵操作以外の要因(例えば路面の摩擦係数の変動)による操舵トルクの変動を反映させることができない。これに対し上述の第二の方式によれば、操舵トルクThdを検出する必要はあるが、操舵操作以外の要因による操舵トルクの変動を反映させることができる。よって舵角制御装置が機械的舵角制御装置である後述の第一乃至第四の実施形態に於いては、上述の第二の方式に従って目標アシストトルクTpatが演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう制御される。
【0197】
尚舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合には、軌跡制御が行われない状況に於いては、操舵反力の制御が第一及び第二の方式の何れであるかに関係なく、運転者の操舵負担軽減トルクTpadは検出される操舵トルクThdに基づいて演算される。
【0198】
10)非機械的舵角制御装置の場合の操舵反力の制御
上述の如く、上記式82により表される補正後の検出操舵トルクTh0は、舵角制御装置が機械的舵角制御装置であり操舵角がθである場合に於いて前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を含まない操舵トルクである。よって補正後の検出操舵トルクTh0から操舵負担軽減トルクTpadを減算した値は、舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合に於いて運転者にとって好ましい操舵トルクである。尚この場合の操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクTh0の大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0199】
従って舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である場合に於いて好ましい操舵トルクThbtは下記の式89により演算される値である。この操舵トルクThbtがステアリングホイールに与えられれば、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響がなく且つ運転者が適度の操舵負担を感じる操舵反力トルクを実現することができる。
Thbt=Th0−Tpad ……(89)
【0200】
よって舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である後述の第五乃至第八の実施形態に於いては、目標操舵トルクTpbtが上記式89に従って演算され、操舵トルクが目標操舵トルクTpbtになるよう制御される。
【0201】
尚舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である場合には、軌跡制御が行われない状況に於ける操舵反力の制御は軌跡制御が行われる状況に於ける上記操舵反力の制御と同一である。換言すれば、軌跡制御が行われているか否かに関係なく操舵トルクは目標操舵トルクTpbtになるよう制御される。
【0202】
次に添付の図を参照しつつ、本発明を第一乃至第八の実施形態について順次説明する。
【0203】
第一の実施形態(その1)
この第一の実施形態(その1)は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0204】
図1は舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0205】
図1に於いて、符号10は本発明の第一の実施形態の走行制御装置を全体的に示している。走行制御装置10は車両12に搭載され、舵角可変装置14及びこれを制御する電子制御装置16を含んでいる。また図1に於いて、18FL及び18FRはそれぞれ車両12の左右の前輪を示し、18RL及び18RRはそれぞれ左右の後輪を示している。左右の前輪18FL及び18FRは操舵輪であり、運転者によるステアリングホイール20の操舵操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置22によりラックバー24及びタイロッド26L及び26Rを介して転舵される。
【0206】
図1には駆動系が図示されていないが、車両は前輪駆動車である。従って左右の前輪18FL及び18FRは操舵輪であると共に駆動輪であり、左右の後輪18RL及び18RRは非操舵輪であると共に従動輪である。尚本発明の走行制御装置は後輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよい。
【0207】
ステアリングホイール20は操舵入力手段として機能し、アッパステアリングシャフト28、舵角可変装置14、ロアステアリングシャフト30、ユニバーサルジョイント32を介してパワーステアリング装置22のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施形態に於いては、舵角可変装置14はハウジング14Aの側にてアッパステアリングシャフト28の下端に連結され、回転子14Bの側にてロアステアリングシャフト30の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
【0208】
かくして舵角可変装置14はアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を回転駆動することにより、左右の前輪18FL及び18FRをステアリングホイール20に対し相対的に補助転舵駆動する。よって舵角可変装置14は運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪の舵角を修正する手段として機能し、電子制御装置16の舵角制御部により制御される。
【0209】
図示の実施形態に於いては、電動式パワーステアリング装置22はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機38と、電動機38の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構40とを有する。電動式パワーステアリング装置22は電子制御装置16の電動式パワーステアリング装置(EPS)制御部によって制御される。そして電動式パワーステアリング装置22はハウジング42に対し相対的にラックバー24を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵力発生装置として機能する。尚補助操舵力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0210】
各車輪の制動力は制動装置46の油圧回路48によりホイールシリンダ50FL、50FR、50RL、50RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各車輪の制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル52の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ54の圧力Pmに基づいて電子制御装置16の制動力制御部によって増減圧制御弁等が制御されることにより制御される。
【0211】
図示の実施形態に於いては、アッパステアリングシャフト28には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ60及び操舵トルクThdを検出する操舵トルクセンサ62が設けられており、操舵角θ及び操舵トルクThdを示す信号は電子制御装置16へ入力される。
【0212】
電子制御装置16には回転角度センサ64により検出された舵角可変装置14の相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度を示す信号が入力される。また電子制御装置16には車速センサ66により検出された車速Vを示す信号及びμセンサ68により検出され路面の摩擦係数μを示す信号が入力される。更に電子制御装置16には圧力センサ70により検出され運転者の制動操作量を示すマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び圧力センサ72FL〜72RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が入力される。
【0213】
尚電子制御装置16の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ60、操舵トルクセンサ62、回転角度センサ64はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、操舵トルクThd、相対回転角度θreを検出する。
【0214】
後に詳細に説明する如く、電子制御装置16は図2乃至図6に示されたフローチャートに従って舵角可変装置14及び電動式パワーステアリング装置22を制御する。また電子制御装置16は図7に示されたフローチャートに従って制動装置46を制御する。
【0215】
特に電子制御装置16は、操舵角θ及び車速Vに基づき車両の軌跡制御の必要性を判定する。そして電子制御装置16は、軌跡制御が不要であると判定したときには、車速Vが高いほど大きくなるよう、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための目標ステアリングギヤ比Ntを演算する。
【0216】
また電子制御装置16は、目標ステアリングギヤ比Ntとギヤ比係数Ks(正の定数)との積にて操舵角θを除算した値を目標ピニオン角θptとして演算する。更に電子制御装置16は、目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として舵角可変装置14の目標相対回転角度θretを演算し、舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう舵角可変装置14を制御する。
【0217】
また電子制御装置16は、軌跡制御が必要であると判定したときには、そのときの操舵角θ及び車速Vに基づき車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δat=δ′を上記式24に従って演算する。そして電子制御装置16は、上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δatとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvを演算する。
【0218】
また電子制御装置16は、路面の摩擦係数μ等に基づいて配分比Kmfを演算し、上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msを演算する。そして電子制御装置16は、上記式70の左辺をδatmに書き換えた式に従って修正後の前輪の目標舵角δatmを演算し、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになるよう舵角可変装置14をフィードフォワード式に制御する。
【0219】
また電子制御装置16は、マスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の基本目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、基本目標制動圧Pbtiと軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiとの和を目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)とする。そして電子制御装置16は、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)を制御する。
【0220】
特に電子制御装置16は、軌跡制御が実行されていないときには、軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiを0に設定する。これに対し電子制御装置16は、軌跡制御が実行されているときには、上記式68に従って左右の後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを演算し、上記式73に従って一方の後輪に付加される制動力Fbraを演算する。そして電子制御装置16は、ヨーモーメントMfが正の値であるときには左後輪の補正制動圧ΔPbtrlを制動力Fbraに設定し、ヨーモーメントMfが負の値であるときには右後輪の補正制動圧ΔPbtrrを制動力Fbraに設定し、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiを0に設定する。
【0221】
また電子制御装置16は、軌跡制御が実行されていない通常時には操舵トルクTs及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生するための目標アシストトルクTaを演算し、アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置16を制御することによりパワーアシスト制御を実行する。
【0222】
また電子制御装置16は、軌跡制御の実行中には上記式85に従って補正後の検出操舵トルクThdaを演算し、補正後の検出操舵トルクThdaに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算する。また電子制御装置16は、上記式84に従って操舵トルクの変動量ΔThatを演算し、運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和を目標アシストトルクTpatとする。更に電子制御装置16は、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22を制御し、これにより運転者の操舵負担を軽減すると共に舵角の修正に起因する操舵トルクの変動を低減する。
【0223】
尚、軌跡制御が不要であるときのステアリングギヤ比の制御やアシストトルクの制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。このことは後述の他の実施形態についても同様である。
【0224】
次に図2乃至図7に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態(その1)に於ける車両の走行制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0225】
まずステップ50に於いては車両の軌跡制御が実行されているか否かを示すフラグFcが1であるか否かの判別により、軌跡制御の実行中であるか否かの判別が行われる。軌跡制御が実行されていないと判別されたときには制御はステップ350へ進み、軌跡制御が実行されていると判別されたときには制御はステップ200へ進む。尚フラグFc及び後述のフラグFsは図2に示されたフローチャートによる走行制御の開始に先立ってそれぞれ0にリセットされる。
【0226】
ステップ200に於いては車両の走行制御のうち軌跡制御の終了条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ250へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ450へ進む。尚この場合下記の(1)乃至(4)の何れかが成立するときに軌跡制御の終了条件が成立していると判定されてよい。
【0227】
(1)軌跡制御の開始条件又は更新条件(これらについては後述する)が成立した時点より車両が目標到達地点に到達するに要する時間Ta=1[sec]以上が経過している。
(2)開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける車速Vと現在の車速Vとの偏差ΔVの絶対値が基準値Ve(正の値)よりも大きい。
(3)開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける操舵角θと現在の操舵角θとの偏差Δθの絶対値が基準値θe(正の値)よりも大きい。
(4)操舵角速度の絶対値、即ち操舵角θの変化率θdの絶対値が基準値θde(正の値)よりも大きい。
【0228】
尚基準値θe及びθdeは定数であってもよいが、例えば開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0229】
ステップ250に於いては舵角可変装置14によって左右前輪の舵角を目標舵角δatにする制御が終了されることにより軌跡制御が終了される。また軌跡制御が実行されているか否かを示すフラグFcが0にリセットされ、しかる後制御はステップ700へ進む。
【0230】
ステップ350に於いては図3に示されたフローチャートに従って軌跡制御の開始条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ700へ進む。
【0231】
ステップ450に於いては図4に示されたフローチャートに従って軌跡制御の更新条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ600へ進む。
【0232】
ステップ500に於いては図5に示されたフローチャートに従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfが演算されると共に、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び前輪の修正後の目標舵角δatmが演算される。
【0233】
ステップ600に於いては図6に示されたフローチャートに従って前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになよう舵角可変装置14がフィードフォワード式に制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δatmに制御される。
【0234】
尚この場合、前輪の舵角の変化が急激にならないよう、前輪の舵角は予め設定された制限値以下の変化率にて修正後の目標舵角δatmへ変化される。このことは後述の他の実施形態に於いても同様である。また前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで軌跡制御のための相対回転角度の制御は行われない。
【0235】
ステップ700に於いては軌跡制御が実行されないときのステアリングギヤ比の制御が行われる。即ち車速Vに基づいて図8に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Ntが演算される。尚図8に於いて、N0は標準のステアリングギヤ比、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度が0であるときのステアリングギヤ比を示している。
【0236】
また操舵角θとギヤ比係数Ks(左右前輪の舵角の変化量に対するピニオン34の回転角度の比に対応する正の定数)との積を目標ステアリングギヤ比Ntにて除算した値が目標ピニオン角θptとして演算される。更に目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として舵角可変装置14の目標相対回転角度θretが演算され、舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう舵角可変装置14が制御される。
【0237】
尚軌跡制御が終了し、ステップ700によるステアリングギヤ比の制御へ移行するときには、前輪の舵角の急激な変化を防止すべく目標ステアリングギヤ比Ntへのステアリングギヤ比の変化が急激にならないよう舵角可変装置14が制御される。このことは後述の他の実施形態に於いても同様である。
【0238】
ステップ750に於いては軌跡制御が実行されないときのアシストトルクの制御が行われる。即ち検出された操舵トルクThdに基づき図9に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTpabが演算され、車速Vに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算される。また車速係数Kvと基本アシストトルクTpabとの積として目標アシストトルクTpatが演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0239】
尚基本アシストトルクTpabは操舵トルクThd及び車速Vに基づき図11に示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0240】
ステップ800に於いては上記式75に従って補正後の検出操舵トルクThdaが演算され、補正後の検出操舵トルクThdaに基づき図9に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTpabが演算される。また車速Vに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、車速係数Kvと基本アシストトルクTpabとの積が操舵負担軽減トルクTpadとして演算される。そして上記式84に従って操舵トルクの変動量ΔThatが演算され、目標アシストトルクTpatが運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和に演算される。更にアシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0241】
次に図3に示されたフローチャートを参照して上記ステップ350に於いて実行される軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンについて詳細に説明する。
【0242】
まずステップ350aに於いては路面の摩擦係数μが基準値μ0(正の定数)未満であるか否かの判別、即ち路面の摩擦係数μが氷雪路面の如く非常に低い値であるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ355へ進む。
【0243】
ステップ355に於いては操舵角θがローパスフィルタ処理されることによりローパスフィルタ処理後の操舵角θlfが演算される。そしてローパスフィルタ処理後の操舵角θlfの絶対値が制御開始判定の基準値θs0(正の値)よりも大きいか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ360へ進む。
【0244】
ステップ360に於いては操舵角θの微分値として操舵角速度θdが演算されると共に、操舵角速度θdがローパスフィルタ処理されることによりローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfが演算される。
【0245】
ステップ365に於いてはローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfの絶対値が制御開始判定の第一の基準値θds1(正の値)よりも大きいか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ375へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ370に於いてフラグFsが開始条件の判定中であることを示すよう1にセットされた後制御はステップ375へ進む。
【0246】
ステップ375に於いてはフラグFsが1であるか否かの判別、即ち開始条件の判定中であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ380へ進む。
【0247】
ステップ380に於いてはローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfの絶対値が制御開始判定の第二の基準値θds2(θds1以下の正の値)よりも小さいか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ385へ進む。
【0248】
ステップ385に於いてはフラグFsが開始条件の判定が行われていないことを示すよう0にリセットされると共に、フラグFcが軌跡制御の実行中であることを示すよう1にセットされ、しかる後制御はステップ500へ進む。
【0249】
ステップ390に於いてはフラグFsが開始条件の判定が行われていないことを示すよう0にリセットされると共に、フラグFcが軌跡制御が行われていないことを示すよう0にリセットされ、しかる後制御はステップ700へ進む。
【0250】
尚基準値θs0、θds1、θds2は定数であってもよいが、これらの基準値も例えば車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0251】
図4に示された軌跡制御の更新条件の成立判定ルーチンのステップ450a〜490は基本的には上述の軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンのステップ350a〜390とそれぞれ同様に実行される。
【0252】
但しステップ455に於ける判定の基準値は制御更新判定の基準値θr0(正の値)である。ステップ465に於ける判定の基準値は制御更新判定の第一の基準値θdr1(正の値)であり、ステップ480に於ける判定の基準値は制御更新判定の第二の基準値θdr2(θdr1以下の正の値)である。尚基準値θr0、θdr1、θdr2は定数であってもよいが、これらの基準値も例えば車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0253】
またステップ470、475、485、490に於いては、フラグFsは更新判定が行われているか否かを示すフラグFrに置き換えられている。更にステップ485が完了すると制御はステップ600へ進み、ステップ490が完了すると制御はステップ500へ進む。
【0254】
次に図5に示されたフローチャートを参照して上記ステップ500に於いて実行される前輪の目標舵角の演算ルーチンについて詳細に説明する。
【0255】
まずステップ505に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ、車速V及びステアリングギヤ比N(=Nt)に基づいて、車両を円弧状の目標軌跡Tcに沿って走行させるための前輪の目標舵角δat(=δ′)が上記式24に従って演算される。
【0256】
ステップ510に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、目標舵角δatと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδatが演算される。
【0257】
ステップ515に於いては上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δatとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvが演算される。
【0258】
ステップ520に於いては路面の摩擦係数μに基づいて図12に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより路面の摩擦係数及び前輪の舵角に基づく配分比Kmf1が演算される。図12に示されている如く、配分比Kmf1は路面の摩擦係数μが低いときには路面の摩擦係数μが高いときに比して大きく、前輪の舵角δの大きさが大きいときには前輪の舵角δの大きさが小さいときに比して大きくなるよう演算される。
【0259】
尚配分比Kmf1は路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0260】
また左右の前輪18FL及び18FRの駆動力の平均値Fdfa又は制動力の平均値Fbfaが演算されると共に、駆動力の平均値Fdfa又は制動力の平均値Fbfaに基づいて図13に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2が演算される。更に左右の前輪18FL及び18FRの接地荷重の平均値Fzfaが演算されると共に、接地荷重の平均値Fzfaに基づいて図14に示されたグラフに対応するマップより前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3が演算される。
【0261】
尚路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1及び前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2は、それぞれ図12及び図13に於いて破線にて示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0262】
ステップ525に於いては路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1と前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2と前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3との積として配分比Kmfが演算される。尚図には示されていないが、軌跡制御の目的で後輪の制動力を制御することができない状況にあるときには、配分比Kmfは0に設定される。
【0263】
ステップ530に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算される。
【0264】
ステップ535に於いてはヨーモーメントの変化量Ms、車速V、軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、上記式70の左辺をδatmに書き換えた式に従って修正後の前輪の目標舵角δatmが演算される。
【0265】
次に図6に示されたフローチャートを参照して上記ステップ600に於いて実行される舵角の制御ルーチンについて詳細に説明する。
【0266】
まずステップ610に於いては軌跡制御のための初回の舵角制御であるか否かの判別、即ち軌跡制御が開始又は更新された直後の舵角制御であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ650へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ620へ進む。
【0267】
ステップ620に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、修正後の前輪の目標舵角δatmと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδatmが演算される。
【0268】
ステップ630に於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて修正後の目標舵角δatmへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδatmcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δatmへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδatmcはΔδtm/Ncである。
【0269】
ステップ640に於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδatmcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0270】
ステップ650に於いては例えば軌跡制御が開始又は更新されてからの経過サイクル数をNallとして、NallがNcであるか否かの判別により、軌跡制御のための前輪の舵角制御が完了したか否かの判別が行われる。
【0271】
そして肯定判別が行われたときにはロアステアリングシャフト30がアッパステアリングシャフト28に対し相対的に回転駆動されることなく舵角制御が一旦終了し、制御はステップ800へ進む。これに対し否定判別が行われたときにはステップ680に於いてロアステアリングシャフト30がアッパステアリングシャフト28に対し相対的に相対回転角度制御量Δθrec回転駆動され、しかる後制御はステップ800へ進む。
【0272】
次に図7に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態(その1)に於ける各車輪の制動力の制御ルーチンについて詳細に説明する。
【0273】
まずステップ1010に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の基本目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。基本目標制動圧Pbtiは任意の要領にて演算されてよい。
【0274】
ステップ1020に於いてはステップ50の場合と同様にフラグFcが1であるか否かの判別により、軌跡制御の実行中であるか否かの判別が行われる。軌跡制御が実行されていないと判別されたときにはステップ1030に於いて軌跡制御のための各車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定され、しかる後制御はステップ1090へ進む。これに対し軌跡制御が実行されていると判別されたときには制御はステップ1040へ進む。
【0275】
ステップ1040に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式68に従って左右の後輪の制動力差によるヨーモーメントMfが演算される。
【0276】
ステップ1050に於いてはヨーモーメントMfに基づいて上記式73に従って一方の後輪に付加される制動力Fbraが演算される。
【0277】
ステップ1060に於いてはヨーモーメントMfが正の値であるか否かの判別、即ちヨーモーメントMfが車両の左旋回を補助するヨーモーメントであるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには、ステップ1070に於いて左後輪の補正制動圧ΔPbtrlがFbraに設定されると共に、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定される。また否定判別が行われたときには、ステップ1080に於いて右後輪の補正制動圧ΔPbtrrがFbraに設定されると共に、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定される。尚ステップ1060に於ける判別結果に応じて補正制動圧が付加される車輪が変更されるのは、ヨーモーメントMfの符号によって付加すべきヨーモーメントの方向が異なることによる。
【0278】
ステップ1090に於いては各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ基本目標制動圧Pbtiと軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiとの和に演算される。
【0279】
ステップ1100に於いては各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ目標制動圧Ptiになるよう制御されることにより、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御される。
【0280】
この第一の実施形態(その1)に於いて、軌跡制御が実行されていない状況に於いて軌跡制御の開始条件が成立すると、ステップ50に於いて否定判別が行われ、ステップ350に於いて肯定判別が行われる。ステップ500に於いて車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算され、ヨーモーメントの変化量Msに基づいて前輪の修正後の目標舵角δatmが演算される。そしてステップ600に於いて前輪の舵角がフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δatmに制御される。
【0281】
また軌跡制御が実行されている状況に於いて軌跡制御の更新条件が成立すると、ステップ50及び450に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ500及び600が実行される。
【0282】
また軌跡制御が実行されているときには、ステップ1040に於いて車両に所要のヨーモーメントMfを付与するために一方の後輪に付加される制動力Fbraが演算される。そしてステップ1060〜1100に於いて制動力Fbraに対応する補正制動圧が一方の後輪の制動圧に付加され、これにより車両に所要のヨーモーメントMfが付与される。
【0283】
従って第一の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δatmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が円弧状の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0284】
第一の実施形態(その2)
この第一の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第一の実施形態(その1)と異なる。よって第一の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0285】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、図15に示されたフローチャートに従って実行される。図15に示されている如く、ステップ510〜530に於いて前輪の目標舵角δat及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvが第一の実施形態(その1)の場合と同様の要領にて演算される。しかし図5に示されたフローチャートのステップ520〜535は実行されず、ステップ540が実行される。
【0286】
ステップ540に於いては路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、図16に示されたグラフに対応するマップより係数Ksfが演算される。図16に示されている如く、係数Ksfは路面の摩擦係数μが低いときには路面の摩擦係数μが高いときに比して大きく、路面の摩擦係数μが基準値以上の高い値であときには0に演算される。また係数Ksfは前輪の舵角δの大きさが大きいときには前輪の舵角δの大きさが小さいときに比して大きくなるよう演算される。
【0287】
尚係数Ksfは配分比Kmf1と同様に路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0288】
また図16に示されたグラフに於いては前輪の制駆動力や接地荷重は係数Ksfを演算するためのパラメータとされていない。しかし配分比Kmfの場合と同様に、前輪の制駆動力の大きさが大きいときには前輪の制駆動力の大きさが小さいときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の制駆動力の大きさによっても増減されるよう修正されてよい。また前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の接地荷重によっても増減されるよう修正されてよい。
【0289】
また図2に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図17に示されたフローチャートに従って実行される。図17と図6との比較より解る如く、ステップ620〜640に代えてそれぞれステップ625〜645が実行される。
【0290】
ステップ625に於いては上記ステップ510と同様の要領にて前輪の舵角の偏差Δδatが演算される。尚前輪の舵角の偏差Δδatは上記ステップ510にて演算された値であってもよい。
【0291】
ステップ635に於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて目標舵角δatへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδatcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δatへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδatcはΔδat/Ncである。
【0292】
ステップ645に於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδatcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0293】
またこの実施形態に於いては、各車輪の制動力はステップ1040を除き図7に示されたフローチャートに従って第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Ksf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0294】
従って第一の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δatに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Ksfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0295】
これに対し路面の摩擦係数μが低く、前輪の舵角の制御によっては必要修正量ΔMvのヨーモーメントを発生することができない虞れがあるときには、配分比Ksfが1よりも小さい正の値に設定される。従って前輪の舵角が目標舵角δatに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低く前輪の舵角の制御のみによっては車両の軌跡を目標軌跡にすることができない状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填により、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0296】
特に第一の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで舵角可変装置14による相対回転角度の制御は行われない。よって後述の第二の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0297】
第二の実施形態(その1及び2)
この第二の実施形態は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0298】
この第二の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、アシストトルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第一の実施形態のその1及び2と同様に実行される。よってその1の前輪の目標舵角はδatmであり、その2の前輪の目標舵角はδatである。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0299】
即ちサイクル毎に操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の現在の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δatm又は目標舵角δatと現在の舵角δとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御される。
【0300】
従って第二の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御することができる。そして第二の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第二の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0301】
特に第二の実施形態(その1及び2)によれば、目標相対回転角度θretは目標舵角δδatm又はδatと前輪の現在の舵角δとの偏差として演算される。従って軌跡制御が開始又は更新された後に運転者によって操舵操作が行われても、前輪の舵角を確実に目標舵角δδatm又はδatに制御することができる。また車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるに適した舵角になるよう運転者によって操舵操作が行われる場合には、フィードバック制御量が小さくなる。よって運転者が運転操作に熟練している場合には、上述の第一の実施形態の場合に比して舵角可変装置14の制御量を低減し、その負荷を軽減することができる。
【0302】
第三の実施形態(その1)
この第二の実施形態(その1)は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0303】
図18に示されている如く、この第三の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御は基本的には上述の第一の実施形態(その1)と同様に実行される。尚図18に於いて、図2に示されたステップに対応するステップには、図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0304】
しかしステップ350又は450に於いて肯定判別が行われると、ステップ495に於いて操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式46に従って距離x0が演算される。またステップ495に於いては最小時間ΔT及びウェバー比のkをそれぞれ一般的な運転者について予め設定された正の定数として、上記式42に従って補正係数Dが演算される。
【0305】
またこの第三の実施形態(その1)に於いては、ステップ550に於いて図19に示されたフローチャートに従って車両を指数関数の軌跡Teに沿って走行させるための前輪の目標舵角δbtが演算されると共に、前輪の修正後の目標舵角δbtmが演算される。
【0306】
ステップ550は図19に示されたフローチャートのステップ553〜586により達成される。まずステップ553に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び車速Vに基づいて上記式47に従って車両の横加速度LAaが演算される。
【0307】
ステップ556に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式49に従って車速Vの成分の一つとして距離xに関する座標軸に平行な成分Vxが演算される。
【0308】
ステップ559に於いては上記式50に従って車速Vの成分の一つとして時間に関する座標軸に平行な成分Vyが演算されると共に、上記式52に従って成分Vxが車速Vに対しなす角度σが演算される。
【0309】
ステップ562に於いてはそれぞれ上記式53及び54に従って車両の横方向の成分Vxx及びVyxが演算されると共に、上記式55及び56に従って車両の横加速度LAbが演算される。
【0310】
ステップ565に於いては車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbと車両が円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合の車両の横加速度LAaとの偏差ΔLAが上記式57に従って演算される。
【0311】
ステップ568に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ、車速V、横加速度の偏差ΔLAに基づいて、左旋回時には上記式62に従って、右旋回時には上記式63に従って、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の目標舵角δbtが演算される。
【0312】
ステップ571に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、目標舵角δbtと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδbtが演算される。
【0313】
ステップ574に於いては上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δbtとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvが演算される。
【0314】
ステップ577及び580はそれぞれ上述の第一の実施形態(その1)のステップ520及び525と同様に実行される。よって路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1と前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2と前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3との積として配分比Kmfが演算される。尚この実施形態に於いても、軌跡制御の目的で後輪の制動力を制御することができない状況にあるときには、配分比Kmfは0に設定される。
【0315】
ステップ583に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算される。
【0316】
ステップ586に於いてはヨーモーメントの変化量Ms、車速V、軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、上記式70の左辺をδbtmに書き換えた式に従って前輪の修正後の目標舵角δbtmが演算される。
【0317】
またこの第三の実施形態(その1)のステップ600に於いては、修正後の目標舵角δbtmと前サイクルの前輪の舵角δfとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が修正後の目標舵角δbtmに制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δbtmに制御される。
【0318】
またこの第三の実施形態(その1)に於いても、各車輪の制動力は図7に示されたフローチャートに従って上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。
【0319】
従って第三の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δbtmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が指数関数の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0320】
第三の実施形態(その2)
この第三の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第三の実施形態(その1)と異なる。よって第三の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0321】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、図20に示されたフローチャートに従って実行される。図20に示されている如く、ステップ553〜574に於いて前輪の目標舵角δbt及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvが第三の実施形態(その1)の場合と同様の要領にて演算される。しかし図19に示されたフローチャートのステップ577〜586は実行されず、ステップ589が実行される。
【0322】
ステップ589に於いては、上記第一の実施形態(その2)のステップ540の場合と同様に、路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、図16に示されたグラフに対応するマップより係数Ksfが演算される。尚この実施形態に於いても、前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の接地荷重によっても増減されるよう修正されてよい。
【0323】
また図18に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図21に示されたフローチャートに従って実行される。図21と図17との比較より解る如く、ステップ625〜645に代えてそれぞれステップ625a〜645aが実行される。
【0324】
ステップ625aに於いては上記ステップ571と同様の要領にて前輪の舵角の偏差Δδbtが演算される。尚前輪の舵角の偏差Δδatは上記ステップ571にて演算された値であってもよい。
【0325】
ステップ635aに於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて目標舵角δbtへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδbtcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δbtへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδbtcはΔδbt/Ncである。
【0326】
ステップ645aに於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδbtcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0327】
またこの実施形態に於いては、各車輪の制動力はステップ1040を除き第三の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Ksf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0328】
またこの第三の実施形態(その2)のステップ600に於いては、目標舵角δbtと前サイクルの前輪の舵角δfとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって目標舵角δbtに制御される。
【0329】
従って第三の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Kmfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0330】
これに対し路面の摩擦係数μが低いときには、配分比Ksfが1よりも小さい正の値に設定され、これにより前輪の舵角が目標舵角δbtに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低い状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0331】
特に第三の実施形態(その1及び2)によれば、前輪の舵角の制御は上述の第一の実施形態(その1及び2)と同様に軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。よって後述の第四の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、指数関数の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0332】
第四の実施形態(その1及び2)
この第四の実施形態は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0333】
この第四の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、アシストトルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第三の実施形態のその1及び2と同様に実行される。よってその1の前輪の目標舵角はδbtmであり、その2の前輪の目標舵角はδbtである。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0334】
即ちサイクル毎に現在の操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δbtm又は目標舵角δbtと前輪の舵角δとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御される。
【0335】
従って第四の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。そして第四の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第二の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0336】
特に第四の実施形態(その1及び2)によれば、目標相対回転角度θretは目標舵角δδbtm又はδbtと前輪の現在の舵角δとの偏差として演算される。従って軌跡制御が開始又は更新された後に運転者によって操舵操作が行われても、前輪の舵角を確実に目標舵角δδbtm又はδbtに制御することができる。また車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるに適した舵角になるよう運転者によって操舵操作が行われる場合には、フィードバック制御量が小さくなる。よって運転者が運転操作に熟練している場合には、上述の第三の実施形態の場合に比して舵角可変装置14の制御量を低減し、その負荷を軽減することができる。
【0337】
また上述の第一乃至第四の実施形態によれば、ステップ750に於いて軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を相殺するための操舵トルクの変動量ΔThatが演算される。そしてステップ800に於いて目標アシストトルクTpatが運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和に演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0338】
従って運転者の操舵負担を軽減することができるだけでなく、軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を相殺し、軌跡制御に起因して運転者が操舵トルクに違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0339】
第五の実施形態(その1)
この第五の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0340】
図22はバイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態を示す概略構成図である。
【0341】
図22に於いて、符号80は第五の実施形態の走行制御装置を全体的に示している。操舵入力手段としてのステアリングホイール20が運転者によって操舵操作されると、ラック・アンド・ピニオン型のステアリング機構82によりラックバー84及びタイロッド26L及び26Rが駆動され、これにより左右の前輪18FL及び18FRが転舵される。
【0342】
ステアリングホイール20に連結されたステアリングシャフト86及びステアリング機構82のピニオンシャフト88は相互に連結されていない。ステアリングシャフト86には図12には示されていない減速歯車機構を介して操舵反力トルク付与用の電動機90が連結されている。電動機90は電子制御装置92の操舵反力制御部によって制御され、これによりステアリングホイール20に所要の操舵反力トルクが付与される。ピニオンシャフト88には図12には示されていない減速歯車機構を介して転舵駆動用の電動機94が連結されている。電動機94は電子制御装置92の舵角制御部によって制御され、これによりピニオンシャフト88が回転駆動される。
【0343】
尚図示の実施形態に於いては、ピニオンシャフト88の回転は回転−直線運動変換機構としてのラック・アンド・ピニオン型のステアリング機構82によりラックバー84の直線運動に変換されるようになっているが、ステアリング機構は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0344】
かくしてステアリングホイール20、ステアリング機構82、電動機90、94等は、運転者の操舵操作に応じて左右の前輪18FL及び18FRを転舵すると共に、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪の舵角を修正するバイワイヤ式の操舵装置96を構成している。
【0345】
上述の第一乃至第四の実施形態の場合と同様に、各車輪の制動力は制動装置46の油圧回路48によりホイールシリンダ50FL、50FR、50RL、50RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各車輪の制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル52の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ54の圧力Pmに基づいて電子制御装置16の制動力制御部によって増減圧制御弁等が制御されることにより制御される。
【0346】
ステアリングシャフト86には操舵角θを検出する操舵角センサ50が設けられており、操舵角センサ50により検出された操舵角θを示す信号は電子制御装置92へ入力される。電子制御装置92には車速センサ56により検出された車速Vを示す信号及び回転角度センサ98により検出されたピニオンシャフト88の回転角度θpを示す信号も入力される。
【0347】
尚電子制御装置92の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ50及び回転角度センサ98はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θ及び回転角度θpを検出する。
【0348】
後に詳細に説明する如く、電子制御装置92は図23及び図24に示されたフローチャートに従って操舵装置96の電動機90及び94を制御する。特に電子制御装置92も操舵角θ及び車速Vに基づき車両の軌跡制御の必要性を判定する。そして電子制御装置92は、軌跡制御が不要であると判定したときには、車速Vが高いほど大きくなるよう、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための目標ステアリングギヤ比Ntを演算する。更に電子制御装置92はステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Ntになるよう操舵装置96の電動機94を制御する。
【0349】
また電子制御装置92は、軌跡制御が必要であると判定したときには、そのときの操舵角θ及び車速Vに基づき車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δat=δ′を上記式24に従って演算する。そして電子制御装置92は、上述の第一の実施形態(その1)修正後の場合と同一の要領にて前輪の修正後の目標舵角δatmを演算し、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになるよう操舵装置96の電動機94をフィードフォワード式に制御する。
【0350】
尚電子制御装置92は、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになると、軌跡制御の更新条件又は終了条件が成立しない限り、左右前輪の舵角を変更しない。
【0351】
また電子制御装置92は、軌跡制御が実行されているか否かに関係なく、上記式82に従って補正後の検出操舵トルクTh0を演算すると共に、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて操舵負担軽減トルクTpadを演算する。そして電子制御装置92は、上記式89に従って目標操舵トルクThbtを演算し、操舵トルクが目標操舵トルクThbtになるよう操舵装置96の電動機90を制御する。
【0352】
次に図23及び図24に示されたフローチャートを参照して第五の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御について説明する。尚図23に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図23及び図24に於いて、それぞれ図2及び図6に示されたステップに対応するステップには、図2及び図6に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0353】
図23と図2との比較より解る如く、この第五の実施形態(その1)に於いては前輪の舵角の制御は基本的には上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に実行される。しかし第一の実施形態(その1)に於けるステップ750及びプ800に対応するステップは実行されず、ステップ600又は700が完了すると、制御はステップ900へ進む。
【0354】
またこの第五の実施形態(その1)に於けるステップ600に於いては、図24に示されたフローチャートに従って車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させる軌跡制御のための前輪の舵角の制御が行われる。
【0355】
図24に示されたフローチャートのステップ610〜630及びステップ650は上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に実行されるが、第一の実施形態(その1)のステップ640に対応するステップは実行されない。
【0356】
ステップ630の次に実行されるステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ660及び670に於ける前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0357】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ660に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが前輪の舵角の前回値δatmfとステップ630に於いて演算された舵角制御量Δδatmcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ670に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0358】
ステップ680に於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0359】
ステップ690に於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0360】
また上述の第一乃至第四の実施形態に於けるステップ800に対応するステップ900に於いては、運転者が操舵反力として感じる操舵トルクの制御が行われる。まず操舵角θに基づいて上記式82に従って補正後の検出操舵トルクTh0が演算される。また補正後の検出操舵トルクTh0に基づいて図25に示されたグラフに対応するマップより基本操舵負担軽減トルクTpadbが演算され、車速Vに基づいて図7に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算される。そして操舵負担軽減トルクTpadが基本操舵負担軽減トルクTpadbと車速係数Kvとの積に演算される。尚操舵負担軽減トルクTpadは図26に示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0361】
更に補正後の検出操舵トルクTh0及び操舵負担軽減トルクTpadに基づき上記式89に従って目標操舵トルクThbtが演算され、操舵トルクが目標操舵トルクThbtになるよう操舵装置96の電動機90が制御される。
【0362】
尚上述の電動機90の制御による操舵トルクの制御は、後述の第五の実施形態(その2)、第六乃至第八の実施形態に於いても同様に行われる。即ち舵角制御装置がバイワイヤ式のものである場合には、操舵トルクの制御は、目標軌跡が円弧状であるか否かや舵角の制御がフィードフォワード制御であるか否かに関係なく同一の要領にて行われる。
【0363】
尚この実施形態に於いても、各車輪の制動力は図7に示されたフローチャートに従って第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。
【0364】
この第五の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δatmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が円弧状の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0365】
特に第五の実施形態(その1)によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また偏差Δδatに基づく前輪の舵角の制御が完了すると、軌跡制御が終了又は更新されるまで軌跡制御のための前輪の舵角の制御は行われない。よって後述の第六の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御であり、サイクル毎に前輪の舵角の検出を要する場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0366】
第五の実施形態(その2)
この第五の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第五の実施形態(その1)と異なる。よって第五の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0367】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、上述の第一の実施形態(その2)の場合と同様に図15に示されたフローチャートに従って実行される。
【0368】
また図2に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図27に示されたフローチャートに従って実行される。図27と図17との比較より解る如く、ステップ610〜635及びステップ650は上述の第一の実施形態(その2)の場合と同様に実行される。
【0369】
ステップ635の次に実行されるステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ665及び675に於ける前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0370】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ665に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが前輪の舵角の前回値δatfとステップ635に於いて演算された舵角制御量Δδatcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ675に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0371】
ステップ685に於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0372】
ステップ695に於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0373】
またこの実施形態に於いても、各車輪の制動力はステップ1040を除き第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Kbf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0374】
従って第五の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードフォワード制御によって目標舵角δatに制御することができる。そして路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0375】
特に第五の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで操舵装置96によるピニオンシャフト88の回転角度の制御は行われない。よって後述の第六の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0376】
尚前述の如く係数Ksfは路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0377】
第六の実施形態(その1及び2)
この第六の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0378】
この第六の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第五の実施形態のその1及び2と同様に実行される。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0379】
即ちサイクル毎にピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の現在の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δatm又は目標舵角δatと現在の舵角δとの偏差Δδatm又はΔδatが演算される。そして舵角の偏差Δδatm又はΔδatの大きさが小さくなるよう操舵装置96の電動機94が制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御される。
【0380】
従って第六の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御することができる。そして第六の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第六の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0381】
特に第六の実施形態(その1及び2)によれば、舵角の偏差Δδatm又はΔδatはサイクル毎に前輪の目標舵角δatm又はδatと現在の舵角δとの偏差として演算される。従って前輪の舵角がフィードフォワード式に制御される上述の第五の実施形態の場合に比して正確に前輪の舵角を目標舵角δatm又はδatに制御することができる。
【0382】
第七の実施形態(その1)
この第七の実施形態(その1)は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0383】
図28に示されている如く、この第七の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は基本的には上述の第五の実施形態(その1)と同様に実行される。しかしステップ350又は450に於いて肯定判別が行われると、ステップ495に於いてピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式46に従って距離x0が演算される。また上述の第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ495に於いては最小時間ΔT及びウェバー比のkをそれぞれ一般的な運転者について予め設定された正の定数として、上記式42に従って補正係数Dが演算される。
【0384】
またこの第七の実施形態(その1)に於いては、上述の第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ550(図19のステップ553〜568)に於いて車両を指数関数の軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δbtがサイクル毎に演算される。また第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ550(図19のステップ571〜586)に於いて車両を指数関数の軌跡に沿って走行させるための前輪の修正後の目標舵角δbtmがサイクル毎に演算される。
【0385】
またこの第七の実施形態(その1)のステップ600に於いては、前輪の舵角はサイクル毎に前輪の修正後の目標舵角δbtmを目標としてフィードフォワード式に制御される。即ちサイクル毎に現サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmと前サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmfとの偏差に基づいて操舵装置96の電動機94が制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δbtmに制御される。
【0386】
尚軌跡制御が開始又は更新されるときの「前サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmf」は、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて求められる前輪の舵角δに設定される。
【0387】
従って第七の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δbtmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が指数関数の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0388】
第七の実施形態(その2)
この第七の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第七の実施形態(その1)と異なる。よって第七の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0389】
この実施形態に於いては、図23に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、上述の第三の実施形態(その2)の場合と同様に、図20に示されたフローチャートに従って実行される。
【0390】
また図23に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図29に示されたフローチャートに従って実行される。図29と図27との比較より解る如く、ステップ625及び630に代えて第三の実施形態(その2)の場合と同様にそれぞれステップ625a及び630aが実行される。またステップ665〜695に代えてそれぞれステップ665a〜695aが実行される。
【0391】
ステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ665a及び675aに於ける前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0392】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ665aに於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが前輪の舵角の前回値δbtfとステップ635aに於いて演算された舵角制御量Δδbtcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ675aに於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0393】
ステップ685aに於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0394】
ステップ695aに於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0395】
またこの実施形態に於いても、各車輪の制動力はステップ1040を除き上述の第三の実施形態(その2)の場合と同様に制御される。
【0396】
従って第七の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Kmfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0397】
これに対し路面の摩擦係数μが低いときには、配分比Kmfが1よりも小さい正の値に設定され、これにより前輪の舵角が目標舵角δbtに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低い状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0398】
特に第七の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで操舵装置96によるピニオンシャフト88の回転角度の制御は行われない。よって後述の第八の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、指数関数の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0399】
第八の実施形態(その1及び2)
この第八の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0400】
この第八の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第七の実施形態のその1及び2と同様に実行される。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0401】
即ちサイクル毎に操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の現在の舵角δが求められる。そして修正後の目標舵角δbtm又は目標舵角δbtと現在の舵角δとの偏差に基づいて操舵装置96の電動機94が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御される。
【0402】
従って第八の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。そして第八の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第八の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0403】
特に第八の実施形態(その1及び2)によれば、前輪の舵角はサイクル毎に目標舵角δbtm又はδbtと現在の舵角δとの偏差に基づいて制御される。従って前輪の舵角がフィードフォワード式に制御される上述の第七の実施形態の場合に比して正確に前輪の舵角を目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。
【0404】
また上述の第五乃至第八の実施形態によれば、舵角制御装置がセミバアワイヤ式の舵角制御装置であり舵角制御装置により前輪の舵角が制御されない場合の操舵トルクに相当する値として、補正後の検出操舵トルクTh0が演算される。そして補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて操舵負担軽減トルクTpadが演算される。更に補正後の検出操舵トルクTh0より操舵負担軽減トルクTpadを減算した値として目標操舵トルクTpbtが演算され、操舵トルクが目標操舵トルクTpbtになるよう操舵装置96の電動機90が制御される。
【0405】
従って運転者に適度の操舵負担を与えることができるだけでなく、軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を防止し、軌跡制御に起因して運転者が操舵トルクに違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0406】
以上の説明より、上述の各実施形態によれば、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両を運転者が希望する軌跡に沿って走行させることができることが理解されよう。
【0407】
また上述の各実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正制御によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの和がヨーモーメントの必要修正量ΔMvになるよう車両に与えられる。よって左右後輪の制動力差を有効に利用して車両の軌跡を目標軌跡に制御することができる。
【0408】
尚左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfはヨーモーメントの必要修正量ΔMvの一部である。よってヨーモーメントの必要修正量ΔMvの全てが左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより達成される場合に比して、左右後輪の制動力の制御量は小さく、従って制動力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0409】
また上述の各実施形態のその2によれば、前輪の舵角が目標舵角に制御されてもヨーモーメントが不足する状況に於いて、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfが補填される。よって例えば路面の摩擦係数が低い状況に於いても、ヨーモーメントMfの補填により、車両をできるだけ目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0410】
尚前輪の舵角が目標舵角に制御されるとヨーモーメントの必要修正量ΔMvが達成される状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfは補填されない。またヨーモーメントMfの補填はよって不足するヨーモーメントについてのみ行われる。よって上述の各実施形態のその1の場合に比して左右後輪の制動力の制御量は小さく、従って制動力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0411】
また上述の各実施形態のその2によれば、係数Ksfは路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて演算される。従って例えば軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪のコーナリングフォースが推定値され、係数Ksfが路面の摩擦係数μ及びコーナリングフォースの推定値に基づいて演算される場合に比して、係数Ksfを能率的に演算することができる。
【0412】
また上述の第一、第二、第五、第六の実施形態によれば、目標軌跡は円弧状の軌跡であるので、目標軌跡が指数関数の軌跡である場合に比して、必要な演算量を少なくし、車両の軌跡を容易に制御することができる。
【0413】
また上述の第三、第四、第七、第八の実施形態によれば、目標軌跡は指数関数の軌跡であるので、目標軌跡が円弧状の軌跡である場合に比して、車両の軌跡を車両の乗員にとって一層好ましい軌跡に制御することができる。特にこれらの実施形態によれば、距離xが上記式40に従って変化するよう指数関数の目標軌跡が設定される。よって目標軌跡が円弧状の軌跡である場合に比して、人の知覚特性にとって好ましい軌跡を達成することができる。
【0414】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0415】
例えば案内棒は前輪の前後方向に沿って延在するものとされているが、車両の前後方向に対する案内棒の傾斜角は運転者の操舵操作量に基づいて設定される限り、前輪の前後方向に沿う方向とは異なる方向であってもよい。例えば案内棒の傾斜角は前輪の舵角δと方向の補正係数Kdとの積に設定されてもよい。
【0416】
また各実施形態に於いては、車両の走行制御は前輪の舵角の制御と操舵トルクの制御と左右後輪の制動力差の制御とを含んでいるが、操舵トルクの制御は任意の要領にて実行されてよい。例えば上述の第一乃至第四の実施形態に於いては、操舵反力の制御は上記第二の方式により制御されるようになっているが、上記第一の方式により制御されるよう修正されてもよい。
【0417】
前述の如く本発明は後輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよい。車両が四輪駆動車である場合には、図13に対応するマップの修正は不要であるが、車両が後輪駆動車である場合には、図13に対応するマップは図13の左半分に修正されてよい。
【0418】
また各実施形態に於いては、旋回内側後輪に制動力が付加されるようになっている。しかし車両が少なくとも左右後輪の駆動力を個別に制御可能な車両である場合には、旋回内側後輪に制動力が付加されると共に旋回外側後輪に駆動力が付加されることによりヨーモーメントMfが車両に付与されるよう修正されてもよい。この場合には左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化を各実施形態の場合よりも更に小さくすることができる。
【0419】
また各実施形態に於いては、前輪の舵角はフィードフォワード式又はフィードバック式に制御されるようになっているが、それぞれゲインが乗算されたフィードフォワード制御量とフィードバック制御量との和に基づいて制御されるよう修正されてもよい。
【0420】
また上述の第一及び第五の実施形態に於いては、サイクル毎の舵角の制御量が同一の値に設定されるようになっているが、舵角の制御量はサイクル毎に異なる値に設定されるよう修正されてもよい。
【符号の説明】
【0421】
10…走行制御装置、14…舵角可変装置、20…ステアリングホイール、22…電動式パワーステアリング装置、46…制動装置、50…操舵角センサ、52…操舵トルクセンサ、54…回転角度センサ、56…車速センサ、80…走行制御装置、82…ステアリング機構、90、94…電動機、100…前輪、102…後輪、104…車両、108…目標進路、110…案内棒
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には車両が目標軌跡(目標走行ライン)に沿って走行するよう操舵輪の舵角を修正制御する車両の走行制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両が目標軌跡に沿って走行するよう車両の軌跡を制御する車両の走行制御装置は従来種々提案されている。例えば下記の特許文献1には、車両前方の道路の車線情報に基づいて車両の目標軌跡を設定し、目標軌跡と車両の前方注視点との偏差が減少するよう自動操舵アクチュエータを制御する車線追従装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−48035号公報
【特許文献2】特開2007−269180号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記特許文献1に記載された車線追従装置によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するよう操舵トルクの制御によって運転者の操舵操作を促したり操舵輪の舵角を修正したりすることができる。
【0005】
しかし上記特許文献1に記載された車線追従装置に於いては、車両の目標軌跡を設定するための車両前方の道路の車線情報及び車両の実軌跡に対応する車両の前方注視点の情報を取得するカメラの如き車外情報取得手段が必須である。また目標軌跡は基本的には車線情報に基づいて決定されるため、車両の目標軌跡を必ずしも運転者の希望に則した軌跡に設定することができない。更に車両前方の道路の車線情報がない状況や車線情報を取得できない状況に於いては、目標軌跡を設定することができないため、車両を目標軌跡に沿って走行させることができない。
【0006】
尚、上記特許文献2には、操舵角及び車速に基づいて車両の目標軌跡を設定し、目標軌跡と車両の実軌跡との偏差が減少するよう操舵伝達比可変装置を制御する操舵制御装置が記載されている。この特許文献2に記載された操舵制御装置によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するよう運転者の操舵に依存せずに操舵輪の舵角を制御することができる。
【0007】
しかし特許文献2に記載された操舵制御装置に於いては、車両の実軌跡を求めるためのGPSの如き車外情報取得手段が必要である。また目標軌跡と実軌跡との偏差に基づいて操舵輪の舵角がフィードバック制御されるので、実軌跡が求められた後でなければ舵角を制御することができず、そのため制御の遅れに起因して車両を好ましく目標軌跡に沿って走行させることができない。
【0008】
上記問題を解消すべく、例えば運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するに必要な目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することが考えられる。かかる操舵輪の舵角の制御によれば、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角を遅れなく制御することができる。
【0009】
操舵輪の舵角が目標舵角に制御されると、操舵輪のコーナリングフォースにより車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントが発生される。しかし車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントは操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントに限定されず、左右輪の前後力差によってもヨーモーメントを発生させることができる。
【0010】
また路面の摩擦係数が低いような状況に於いては、操舵輪の舵角が目標舵角に制御されても操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントが所要の値にならず、そのため車両を目標軌跡に沿って走行させるためのヨーモーメントが不足する場合がある。
【0011】
よって操舵輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントのみならず、左右輪の前後力差によるヨーモーメントを適宜に発生させれば、操舵輪の舵角の制御量を低減しつつ所要のヨーモーメントを車両に付与することができる。
【0012】
本発明は、車両が目標軌跡に沿って走行するよう車両の軌跡を制御する従来の走行制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角及び左右輪の前後力差を制御することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0013】
上述の主要な課題は、本発明によれば、運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角の関係を変更する舵角制御手段と、左右輪の前後力を相互に独立に制御可能な車輪前後力制御手段とを備えた車両の走行制御装置であって、予め設定された手順に従って車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときにはその時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算し、前記舵角制御手段により前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記車輪前後力制御手段により前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする車両の走行制御装置(請求項1の構成)によって達成される。
【0014】
後に詳細に説明する如く、運転者の操舵操作量は車両の現在の進行方向を基準に見て車両の現在位置から目標到達位置までの方向に関係し、車速は車両の現在位置から目標到達位置までの距離に関係している。また運転者の操舵操作量は車両が目標到達位置に到達する際の目標進行方向にも関係している。
【0015】
予め設定された手順に従って軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点を基準時点と呼ぶこととする。上記請求項1の構成によれば、基準時点の運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための目標軌跡に沿って車両が走行するための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差が演算される。そして目標舵角に基づいて操舵輪の舵角が制御されると共に、目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差が制御される。
【0016】
従って車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得は不要であり、また車外情報に基づいて実際の軌跡を求めることも、目標軌跡と実際の軌跡との偏差に基づいて車両の軌跡をフィードバック制御することも必要でない。よって車両の軌跡が運転者の希望に則した軌跡になるよう操舵輪の舵角及び左右輪の目標前後力差を制御し、車両を運転者が希望する目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0017】
また上記請求項1の構成によれば、車両が目標軌跡に沿って走行するための操舵輪の目標舵角が演算され、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角が制御されるが、左右輪の前後力差が制御されない場合に比して、操舵輪の舵角の制御量を低減することができる。また逆に車両が目標軌跡に沿って走行するための左右輪の目標前後力差が演算され、左右輪の目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差が制御されるが、操舵輪の舵角が制御されない場合に比して、左右輪の前後力の制御量を低減することができる。よって左右輪の前後力の制御に伴う車速の変化やエネルギの消費量を低減することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントを演算し、車両の走行状況に基づいて前記目標ヨーモーメントの達成に対する前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算し、前記目標ヨーモーメント及び前記寄与比率に基づいて操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算するよう構成される(請求項2の構成)。
【0019】
上記請求項2の構成によれば、目標ヨーモーメントの達成に対する操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が車両の走行状況に基づいて演算される。従って操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を車両の走行状況に応じて変化させることができる。また操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの和が目標ヨーモーメントになるので、ヨーモーメントに過不足が生じ、車両が目標軌跡に沿って走行しなくなることを防止することができる。
【0020】
尚請求項2の構成によれば、左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントは目標ヨーモーメントの一部である。従って左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントのみによって目標ヨーモーメントが達成される場合よりも、左右輪の前後力差の制御量は小さく、よって左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0021】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては前記目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れを判定し、前記操舵輪の舵角の制御により車両に付与されるヨーモーメントを補填する補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差を前記虞れに基づいて演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御するよう構成される(請求項3の構成)。
【0022】
上記請求項3の構成によれば、操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れが判定され、補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差が上記虞れに基づいて演算される。よって目標軌跡に沿って車両を走行させる上で不足するヨーモーメントの少なくとも一部を左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントによって補填することができる。従って左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントが補填されない場合に比して、目標軌跡に沿って車両を走行させることができなくなる虞れを確実に低減することができる。換言すれば、操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れがあるときにも、車両をできるだけ目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0023】
尚請求項3の構成によれば、補助ヨーモーメントは上記虞れに基づいて演算される。よって上記虞れがないときには左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントは発生されず、上記虞れが低いときには補助ヨーモーメントも小さい。従って左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化は上記請求項2の構成の場合よりも更に小さい。
【0024】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算するよう構成される(請求項4の構成)。
【0025】
上記請求項4の構成によれば、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメントの比率を低くし且つ左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を高くすることができる。同様に操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには指標値の大きさが小さいときに比して操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメントの比率を低くし且つ左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を高くすることができる。よって路面の摩擦係数及び操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさに応じて操舵輪の舵角の制御によるヨーモーメント及び左右輪の前後力差の制御によるヨーモーメントの比率を適宜に制御することができる。
【0026】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記虞れが高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記虞れが高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記虞れを判定するよう構成される(請求項5の構成)。
【0027】
上記請求項5の構成によれば、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して上記虞れを高くすることができる。同様に操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには指標値の大きさが小さいときに比して上記虞れを高くすることができる。よって路面の摩擦係数及び操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさに応じて左右輪の前後力差の制御による補助ヨーモーメントの大きさを適宜に制御することができる。
【0028】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡は、前記目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、前記時点に於ける車両の位置より前記時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、前記時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線であるよう構成される(請求項6の構成)。
【0029】
上記請求項6の構成によれば、目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、基準時点に於ける車両の位置より時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、基準時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線として目標軌跡を求めることができる。
【0030】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標軌跡は、前記時点に於ける車両の位置に於いて前記時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ前記目標到達位置に於いて前記目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線であるよう構成される(請求項7の構成)。
【0031】
上記請求項7の構成によれば、基準時点に於ける車両の位置に於いて基準時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ目標到達位置に於いて目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線として目標軌跡を求めることができる。
【0032】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記時点に於ける操舵輪の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正するよう構成される(請求項8の構成)。
【0033】
上記請求項8の構成によれば、基準時点に於ける操舵輪の舵角と目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正される。よって操舵輪の舵角が目標舵角になるよう操舵輪の舵角をフィードフォワード式に効率的に制御することができ、また運転者の操舵操作を要することなく操舵輪の舵角を目標舵角にすることができる。
【0034】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の実際の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正するよう構成される(請求項9の構成)。
【0035】
上記請求項9の構成によれば、操舵輪の実際の舵角と目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角が修正される。よって操舵輪の舵角が目標舵角になるよう操舵輪の舵角をフィードバック式に正確に制御することができ、また運転者によって操舵操作が行われても操舵輪の舵角を目標舵角にすることができる。
【0036】
尚フィードバックの制御は操舵輪の舵角について行われるので、フィードバックの制御が車両の軌跡について行われる従来の車両の走行制御装置の場合に比して、操舵輪の舵角の制御の遅れは遥かに小さい。
【0037】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記目標到達位置は前記時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて決定され、前記目標進行方向は前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定されるよう構成される(請求項10の構成)。
【0038】
上記請求項10の構成によれば、基準時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて目標到達位置を決定し、基準時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて目標進行方向を決定することができる。よって基準時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡が求めることができる。
【0039】
また本発明によれば、上記請求項10の構成に於いて、前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度として、前記目標到達位置は前記時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し前記基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し、前記時点に於ける車両の位置から前記目標到達位置までの距離は車速に依存する値であるよう構成される(請求項11の構成)。
【0040】
上記請求項11の構成によれば、基準時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度とし、基準時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し且つ基準時点に於ける車両の位置から車速に依存する距離の位置として目標到達位置を決定することができる。
【0041】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項11の構成に於いて、前記時点に於ける車両の位置と前記目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、前記目標進行方向は前記目標到達位置に於いて前記方向の基準線に対し前記基準角度傾斜した方向に決定されるよう構成される(請求項12の構成)。
【0042】
上記請求項12の構成によれば、基準時点に於ける車両の位置と目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、目標到達位置に於いて方向の基準線に対し基準角度傾斜した方向を目標進行方向に決定することができる。
【0043】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記軌跡の制御を行っていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を開始すべきと判定するよう構成される(請求項13の構成)。
【0044】
一般に、運転者が車両の進路を変更する場合には、まず比較的速く操舵操作量を変化させ、しかる後操舵操作量の変化を穏やかにする。従って運転者の操舵操作量の変化率の大きさ推移に基づいて車両の軌跡の制御の開始又は更新の必要性を判定することができる。
【0045】
上記請求項13の構成によれば、軌跡の制御が行われていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときには、その判定により軌跡の制御を開始すべきと判定することができる。
【0046】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記軌跡の制御を行っている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を更新すべきと判定するよう構成される(請求項14の構成)。
【0047】
上記請求項14の構成によれば、軌跡の制御が行われている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときには、その判定により軌跡の制御を更新すべきと判定することができる。
【0048】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項6の構成に於いて、前記時点に於ける車両から前記時間の座標軸までの距離を基準距離として、前記基準距離と前記時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離が求められ、前記目標軌跡は前記時間の座標軸から前記目標距離の位置を結ぶ線として求められるよう構成される(請求項15の構成)。
【0049】
上記請求項15の構成によれば、基準距離と基準時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離を求め、時間の座標軸から目標距離の位置を結ぶ線として目標軌跡求めることができる。
【0050】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項15の構成に於いて、操舵操作の必要性に関連する車外の視覚情報の変化が発生してから人が当該視覚情報の変化を知覚するまでに要する一般的な時間をΔTとし、ウェバー比を−kとし、前記時点からの経過時間をtとして、前記自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであるよう構成される(請求項16の構成)。
【0051】
上記請求項15の構成によれば、自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであるので、人の知覚特性に合った車両の目標距離を求め、これにより人の知覚特性に合った車両の目標軌跡を求めることができる。
【0052】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記舵角制御手段は、運転者により操作される操舵入力手段に対し相対的に操舵輪を駆動することにより操舵伝達比を変化させる操舵伝達比可変手段と、前記操舵伝達比可変手段を制御する制御手段とを有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段であるよう構成される(請求項17の構成)。
【0053】
上記請求項17の構成によれば、操舵伝達比可変手段を有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段を備えた車両に於いて、操舵伝達比可変手段により操舵伝達比を変化させることにより操舵輪の舵角を制御することができる。
【0054】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前記舵角制御手段は、操舵輪の舵角を変化させる転舵手段と、前記操舵入力手段に対する運転者の操舵操作量を検出する手段と、通常時には運転者の操舵操作量に基づいて前記転舵手段を制御し、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに前記転舵手段を制御する制御手段とを有するバイワイヤ式の舵角制御手段であるよう構成される(請求項18の構成)。
【0055】
上記請求項18の構成によれば、バイワイヤ式の舵角制御手段を備えた車両に於いて、転舵手段を制御することにより運転者の操舵操作に依存せずに操舵輪の舵角を制御することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0056】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪は前輪であり、左右輪は左右の後輪であるよう構成される(好ましい態様1)。
【0057】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、前後力は制動力であるよう構成される(好ましい態様2)。
【0058】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、左右輪の前後力差は一方の後輪の制動力及び他方の後輪の駆動力による前後力差であるよう構成される(好ましい態様3)。
【0059】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至7の何れか一つの構成に於いて、左右輪の前後力差の制御の寄与比率が車両の走行状況に基づいて0以上で1未満の値に演算され、操舵輪の舵角の制御の寄与比率が1から左右輪の前後力差の制御の寄与比率を減算した値に演算されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0060】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至7の何れか一つの構成に於いて、目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントに基づいて操舵輪の目標舵角が演算され、目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れが0以上で1未満の係数として演算され、目標ヨーモーメントと係数との積に基づいて左右輪の目標前後力差が演算されるよう構成される(好ましい態様5)。
【0061】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の制駆動力が高いときには操舵輪の制駆動力が低いときに比して操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、操舵輪の制駆動力に基づいて操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が演算されるよう構成される(好ましい態様6)。
【0062】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の接地荷重が低いときには操舵輪の接地荷重が高いときに比して操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、操舵輪の接地荷重に基づいて操舵輪の舵角の制御及び左右輪の前後力差の制御の寄与比率が演算されるよう構成される(好ましい態様7)。
【0063】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の制駆動力が高いときには操舵輪の制駆動力が低いときに比して前記虞れが高くなるよう、操舵輪の制駆動力に基づいて前記虞れが判定されるよう構成される(好ましい態様8)。
【0064】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項5乃至7の何れか一つの構成に於いて、操舵輪の接地荷重が低いときには操舵輪の接地荷重が高いときに比して前記虞れが高くなるよう、操舵輪の接地荷重に基づいて前記虞れが判定されるよう構成される(好ましい態様9)。
【0065】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様10)。
【0066】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は予め設定された軌跡の制御の終了条件が成立するまで操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様11)。
【0067】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の何れか一つの構成に於いて、走行制御装置は車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきではないと判定したときには、予め設定された操舵伝達比が達成されるよう操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様12)。
【0068】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6の構成に於いて、走行制御装置は車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間と運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間と車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速とに基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様13)。
【0069】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7の構成に於いて、走行制御装置は運転者の操舵操作量及び車速と操舵輪の目標舵角との関係を記憶しており、車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点からの経過時間に関係なく車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定した時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて前記関係より操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される(好ましい態様14)。
【0070】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項17の構成に於いて、車両は運転者による操舵操作を補助する補助操舵力を発生する補助操舵力発生手段と、運転者の操舵負担を軽減するための目標補助操舵力に基づいて補助操舵力発生手段を制御する補助操舵力制御手段とを有し、補助操舵力制御手段は軌跡の制御が行われている状況に於いては、舵角制御手段による操舵輪の舵角の制御に起因する操舵力の変動量を推定し、検出された操舵力を操舵力の変動量にて補正し、補正後の操舵力に基づいて運転者の操舵負担を軽減するために必要な補助操舵力を演算し、必要な補助操舵力と操舵力の変動量との和を目標補助操舵力とするよう構成される(好ましい態様15)。
【0071】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項18の構成に於いて、車両は操舵反力を発生する操舵反力発生手段と、目標操舵反力に基づいて操舵反力発生手段を制御する操舵反力制御手段とを有し、操舵反力制御手段は運転者の操舵操作量に基づいて舵角制御手段による操舵輪の舵角の制御の影響を受けない基本の操舵反力を演算し、基本の操舵反力から運転者の操舵負担を軽減するための操舵反力低減量を減算した値に基づいて目標操舵反力を演算するよう構成される(好ましい態様16)。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第一の実施形態(その1)に於ける軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態(その1)に於ける軌跡制御の更新条件の成立判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第一の実施形態(その1)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第一の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第一の実施形態(その1)に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】車速Vと目標ステアリングギヤ比Ntとの間の関係を示すグラフである。
【図9】操舵トルクThd又はThdaと基本アシストトルクTpabとの間の関係を示すグラフである。
【図10】車速Vと車速係数Kvとの間の関係を示すグラフである。
【図11】操舵トルクThd又はThdaと車速Vと基本アシストトルクTpabとの間の関係を示すグラフである。
【図12】路面の摩擦係数μと配分比Kmf1との間の関係を示すグラフである。
【図13】前輪の制駆動力と配分比Kmf2との間の関係を示すグラフである。
【図14】前輪の接地荷重の平均値Fzfaと配分比Kmf3との間の関係を示すグラフである。
【図15】第一の実施形態(その2)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図16】路面の摩擦係数μと係数Ksfとの間の関係を示すグラフである。
【図17】第一の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図18】第三の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図19】第三の実施形態(その1)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図20】第三の実施形態(その2)に於ける前輪の目標舵角演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図21】第三の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図22】バイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態を示す概略構成図である。
【図23】第五の実施形態に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図24】第五の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図25】補正後の操舵トルクTh0と基本操舵負担軽減トルクTpadbとの間の関係を示すグラフである。
【図26】補正後の操舵トルクTh0と車速Vと基本操舵負担軽減トルクTpadbとの間の関係を示すグラフである。
【図27】第五の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図28】第七の実施形態(その1)に於ける走行制御(前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御)のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図29】第七の実施形態(その2)に於ける前輪の舵角制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図30】2輪モデルの車両が進路を変更する場合を示す説明図である。
【図31】車両が定常円旋回し、円弧状の軌跡を描いて走行する場合を示す説明図である。
【図32】前輪の舵角が運転者の操舵操作量に対応する舵角及び案内棒モデルに基づいて修正された舵角である場合について、定常円旋回による車両の円弧状の軌跡を示す説明図である。
【図33】水平加速度x″が変化する状況に於いて、人が水平加速度x″の変化を知覚できる最小量Δx″及び人が最小量最小量Δx″の変化を知覚するに要する最小時間ΔTを示す説明図である。
【図34】車両が案内棒の基準位置より案内棒の先端位置まで指数関数の軌跡を描いて走行する場合を示す説明図である。
【図35】車両が指数関数の軌跡を描いて走行する場合に於いて、車両が案内棒の基準位置と案内棒の先端位置との間の位置へ移動した状況を示す説明図である。
【図36】図35に示された状況について、距離に関する座標軸及び時間に関する座標軸に平行な成分への車速の分解を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
実施形態の総括説明
具体的な実施形態の説明に先立ち、各実施形態に共通の技術的事項について総括的に説明する。
1)案内棒モデル
【0074】
車両の軌跡に関する運転者の意図は、運転者の操舵操作量に反映されていると考えられるので、操舵輪である前輪の向き、即ち前輪の舵角が運転者の前方注視方向であると考えられてよい。そこで前輪に仮想の案内棒が設置された仮想の車両を定義し、運転者は案内棒の先端が希望の軌跡に沿って移動するように車両を運転していると仮定する。その場合前方注視距離、即ち車両から運転者が注視する位置までの距離は案内棒の長さに対応し、車速に応じて変化すると考えられる。
【0075】
本明細書に於いては、上述の仮想の案内棒を備えた車両のモデルを「案内棒モデル」と呼ぶこととする。案内棒モデルによれば、運転者が車両の進路を変更しようとしたときの運転者の操舵操作量及び車速に基づいて、案内棒の先端を通る軌跡として車両の好ましい目標軌跡を設定することができる。
【0076】
従って設定された目標軌跡に沿って車両が走行するよう前輪の舵角を制御することにより、車両周囲の情報を撮影や車外よりの通信等によって周囲の情報を取得することを要することなく、車両を好ましい目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0077】
案内棒モデルに基づく車両の軌跡制御の理解が容易になるよう、図18に示されている如く、車両は前輪100及び後輪102を備えた2輪モデルの車両104であるとする。そして車両104がその前後方向を示す線106に対し角度φ傾斜した目標進路108へ進路を変更する場合について考える。尚角度の単位はradである。
【0078】
図示の如く、前輪100の中心Oから目標進路108上の点Pまで前輪の前後方向に沿って車両の前方へ仮想の案内棒110が突き出ているものとし、車両の前後方向に対する案内棒110の傾斜角をβとする。そして案内棒110の長さ、即ち線分OPの長さをAとし、目標進路108と案内棒110とがなす角度をαとする。また前輪100の中心Oから目標進路108までの距離をxとし、前輪100の舵角をδとする(δ=β)。更に車両104のホイールベースをWBとし、車速をVとする。尚長さの単位はmであり、時間の単位はsecである。
【0079】
舵角δ及び車速Vが変化せずに微小時間dtが経過することにより、車両104が実線にて示された位置より破線にて示された位置へ移動し、これに伴う角度φ及び距離xの変化をそれぞれdφ及び距離dxとすると、下記の式1〜式4が成立する。尚微小時間dtは非常に小さいので、図示の如く前輪100は案内棒110上の点に移動し、後輪102は移動前の車両の前後方向を示す線106上の点に移動すると考えられてよい。
【0080】
β=φ−α ……(1)
x=A*sinα ……(2)
−WBdφ=Vdt*sinβ ……(3)
−dx=Vdt*sinα ……(4)
【0081】
上記式2をαで微分すると、下記の式5が得られるので、dxは下記の式6により表される。
dx/dα=A*cosα ……(5)
dx=A*cosα*dα ……(6)
【0082】
上記式4に式6を代入すると、下記の式7が得られるので、案内棒の長さAは下記の式8により表される。
−A*cosα*dα=Vdt*sinα ……(7)
A=−(Vdt*sinα)/(cosα*dα)
=−(Vdt*tanα)/dα
=−Vdt*{1/(cosα)2} ……(8)
【0083】
また上記式3をVdtについて解くと、下記の式9が得られ、式9を式8に代入すると下記の式10が得られる。
Vdt=(−WBdφ)/sinβ ……(9)
A=−(−WBdφ)/sinβ*{1/(cosα)2} ……(10)
【0084】
旋回の如き車両の非直進走行は定常円走行の組合せと考えることができ、軌跡が円弧である場合には角度α及びβは互いに同一である。またβは前輪の舵角δと同一である。よって式10の角度α及びβを舵角δに書き換えることにより、案内棒の長さAを式11にて表すことができる。
A=(WBdφ)/sinδ*{1/(cosδ)2} ……(11)
【0085】
式11のdφは車両のヨーレートYRであり、ヨーレートYRは下記の式12により表される。
YR=V/WB*δ ……(12)
【0086】
よって式11のdφに式12を代入することにより、案内棒の長さAを式13にて表すことができる。
A=WB(V/WB*δ)/sinδ*{1/(cosδ)2}
=(V*δ)/sinδ*{1/(cosδ)2} ……(13)
【0087】
尚車両の旋回方向が左旋回か右旋回かによって舵角δの符号が異なる場合には、車両の旋回方向が逆になることによって舵角δの符号が逆になると、sinδの符号も同様に逆になるので、案内棒の長さAは常に正の値である。
【0088】
以上の説明に於いては、案内棒110は前輪100の中心Oを基準位置とし該基準位置から前輪の前後方向に沿って車両の前方へ突き出ているものとして案内棒モデルを説明した。しかし車両の軌跡は車両の重心の軌跡と考える方が好ましいので、これ以降の説明に於いては、案内棒は車両の重心を基準位置とし該基準位置から前輪の前後方向に沿って車両の前方へ突き出ているものとする。
【0089】
2)円弧状の軌跡
次に図19に示されている如く、前輪の舵角δ及び車速Vがそれぞれ一定の値に設定されて車両104が定常円旋回し、位置P0より位置P1まで円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合について考える。この場合車両104の重心が位置P0にあるときの案内棒に対応する線分は、基準点P0より先端P1まで延在している。
【0090】
車両104の運動は定常円旋回運動であるので、車両のヨーレートYRは上記式12により表され、車両の横加速度LAは下記の式14により表される。
LA=YR*V ……(14)
【0091】
よって円弧状の軌跡Tcの半径Rは下記の式15により表される。
R=V2/LA
=V2/(YR*V)
=V/YR
=V/(V/WB*δ)
=WB/δ ……(15)
【0092】
また図19に示されている如く、車両104の前後方向を示す線106及び目標進路を示す線108はそれぞれ位置P0及びP1に於いて円弧状の軌跡Tcに接する接線である。線106及び108の交点をQ1とし、円弧状の軌跡Tcの中心Ocより案内棒110に下した垂線の足をQ2とする。三角形P0OcP1は中心Ocを頂点とする二等辺三角形であるので、角度P0OcQ2及び角度P1OcQ2は互いに等しく、これらをγとする。また角度OcP0Q2及び角度OcP1Q2も互いに等しく、これらをλとする。
【0093】
図19より解る如く、下記の式16及び17が成立する。よって角度γは角度α及びδと同一である。
α+λ=δ+λ=π/2 ……(16)
γ+λ=π/2 ……(17)
【0094】
また図19より解る如く、案内棒に対応する線分の長さA0は線分P0Q2の2倍であり、線分P0Q2の長さはR*sinγ=R*sinδである。よって案内棒に対応する線分の長さA0は式18にて表わされる。
A0=2R*sinδ
=2(WB/δ)*sinδ ……(18)
【0095】
式18により表される案内棒に対応する線分の長さA0は車速Vを含んでおらず、車速Vに依存しない。この線分の長さA0と式13により表される案内棒の長さAとの比較より、前輪の舵角δを修正しなければ、案内棒110の先端を通る円弧状の軌跡に沿って車両を走行させることができないことが解る。換言すれば、線分の長さA0を式13により表される案内棒の長さAと同一の値にするためには、運転者の操舵操作量及びステアリングギヤ比により定まる舵角(「本来の舵角」という)δとは異なる値に前輪の舵角を修正しなければならない。
【0096】
図20に示されている如く、前輪の舵角が本来の舵角δから修正後の舵角δ′に修正されると、車両104が案内棒110の先端P1′を通る円弧状の軌跡Tc′に沿って走行することができるとする。また円弧状の軌跡Tc′の中心及び半径はそれぞれOc′、R′であるとする。
【0097】
半径R′は上記式15に対応する下記の式19により表される。
R′=WB/δ′ ……(19)
【0098】
三角形P0P1Oc及び三角形P0P1′Oc′は相似形であるので、下記の式20が成立する。
R/R′=A0/A ……(20)
【0099】
この式20にδがδ′に書き換えられた上記式13及び上記式15、18、19を代入すると、下記の式21が得られる。
δ′/δ=2WB*sinδ′*sinδ*(cosδ′)2/(V*δ′*δ)
……(21)
【0100】
前輪の舵角δ及び修正後の舵角δ′が小さい値であるときには、sinδ及びsinδ′はそれぞれδ及びδ′であると看做されてよく、cosδ′は1であると看做されてよい。よって修正後の舵角δ′は上記式21が変形された下記の式22により表される。
δ′=(2WB/V)*δ ……(22)
【0101】
運転者の操舵操作量としての操舵角をθとし、ステアリングギヤ比をNとすると、前輪の本来の舵角δは下記の式23により表される。尚ステアリングギヤ比Nは一定であってもよく、また例えば車速Vに応じて可変設定される値であってもよい。
δ=θ/N ……(23)
【0102】
よって修正後の舵角δ′は下記の式24により表される。
δ′=(2WB/V)*θ/N ……(24)
【0103】
また前輪の舵角及び車速がそれぞれ一定のδ′及びVに維持された状態で車両が位置P0より位置P1′まで円弧状の軌跡Tc′に沿って走行するに要する時間をTaとする。時間Taは中心角θが2γ=2δで半径がR′の扇形の円弧に沿って式25により表されるヨーレートYRにて円弧運動するに必要な時間である。よって時間Taは式26により表される通り、1[sec]であり、車速Vに依存しない。
YR=V/WB*δ′ ……(25)
Ta =2δ/YR
=2WB*δ/(V*δ′)
=2WB*δ/{V*(2WB/V)*δ}
=1 ……(26)
【0104】
従って前輪の本来の舵角がδである状況に於いて、車速Vを一定の値に維持し目標舵角δatを修正後の舵角δ′に設定して前輪の舵角を制御することにより、案内棒110の先端P1′を通る円弧状の軌跡Tc′に沿って車両を走行させることができる。そして車速Vの値に関係なく車両は時間Ta=1[sec]が経過するときに位置P1′を通過する。
【0105】
3)指数関数の軌跡
上記式2より下記の式27が成立する。但し式1よりα=φ−βである。
x′=−V*sinα ……(27)
【0106】
上記式2及び27より下記の式28が成立し、式28は距離xがウェバー則に則して変化する変数であることを示している。
x′=−(V/A)x ……(28)
【0107】
式28を解くと式29が得られる。よって距離xが式29に則して変化するよう制御することにより、距離xをウェバー則に則して制御することができる。尚x0は時間tが0であるときの距離xの値である。
x=x0*exp{−(V/A)*t} ……(29)
【0108】
次に上記式29に基づく距離xの制御を人間の知覚特性に適合させることを考える。図21に示されている如く、距離xの2回微分値である車両の水平加速度x″が増加する場合に於いて、人が水平加速度x″の変化を知覚できる最小量をΔx″とする。そして人が水平加速度x″の変化Δx″を知覚するに要する最小時間をΔTとする。水平加速度x″の変化率をx″′として最小量Δx″は下記の式30により表される。
Δx″=x″′*ΔT ……(30)
【0109】
図21より解る如く、水平加速度x″の変化率x″′は下記の式31により表される。
x″′={(x″+Δx″)−x″}/{(T+ΔT)−T}
=Δx″/ΔT ……(31)
【0110】
上記式28を2回微分すると下記の式32が得られるので、下記の式33が成立する。
x″′=−(V/A)*x″ ……(32)
x″′/x″=−(V/A) ……(33)
【0111】
上記式33に上記式31を代入して変形することにより、下記の式34が得られる。
Δx″/x″=−(V/A)*ΔT ……(34)
【0112】
上記式34はウェバー比の形をなす式であるので、ウェバー比を−kとして上記式34を下記の式35の通りに書き換えることができる。但しkは式36により表される正の値である。
Δx″/x″=−k ……(35)
k=(V/A)*ΔT ……(36)
【0113】
尚最小時間ΔTは個人差のある値であるが、最小時間ΔTを平均的な一定の値とし、ウェバー比−kも一定の値であるとする。
【0114】
上記式35を下記の式37の通り変形し、式37を上記式30に代入して変形することにより、下記の式38が得られる。そして下記の式38を解くことにより、下記の式39が得られる。
Δx″=−k*x″ ……(37)
x″′*ΔT=−k*x″ ……(38)
x=x0*exp{−(k/ΔT)*t} ……(39)
【0115】
上記式29及び39は何れも距離xが時間tの指数関数であることを示しているが、式39によれば距離x、従って車両の好ましい指数関数の軌跡を車速Vに依存しないウェバー比−k及び最小時間ΔTにて表すことができる。
【0116】
よって上記式39を使用して車両の軌跡を制御することにより、車速Vに依存する上記式29を使用して車両の軌跡を制御する場合に比して、下記の利点がられる。
(1)上記式39は車速Vを含んでいないので、演算量を少なくし、制御を単純化することができる。
(2)車両の軌跡を人の知覚特性に適合した好ましい指数関数の軌跡に制御することができる。
【0117】
以上の説明より解る如く、式39に従って距離xを制御することによって車両の軌跡を制御することにより、車両の軌跡を円弧状の軌跡よりも人の知覚特性にとって好ましい指数関数の軌跡にすることができる。
【0118】
しかし車両の軌跡が上記式39に従って指数関数の軌跡に設定されても、車両が位置P1′に到達するに要する時間Tbが車両の軌跡が円弧状の軌跡である場合の時間Taと同一になるとは限らない。
【0119】
そこで時間Tbを時間Taと同一の値にするための補正係数をDとして上記式39を下記の式40の通りに書き換える。
x=x0*exp{−(k/ΔT)D*t} ……(40)
【0120】
車両が位置P1′に到達するに要する時間Tbを時間Taとするためには、xbを0に近い正の定数として、式40に於いて時間tがTaであるときに距離xがxbになればよく、従って下記の式41が成立すればよい。Taは1[sec]であるので、補正係数Dについて式41を解くと、式42が得られる。
xb=x0*exp{−(k/ΔT)D*Ta} ……(41)
D=−(logexb−logex0)*ΔT/(k*Ta)
=−(logexb−logex0)*ΔT/k ……(42)
【0121】
図22に示されている如く、距離xが上記式40に則して変化するよう前輪の舵角δが制御されることにより、案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合について考える。
【0122】
案内棒の基準位置P0より目標進路を示す線108に下した垂線の足を交点Q3とする。上記式40により表される指数関数は、目標進路を示す線108を時間に関する座標軸とし、車両104の前後方向を示す線106を距離xに関する座標軸とし、交点Q3を原点とする直交座標に於ける関数である。
【0123】
位置P1と交点Q3との間の距離及び位置P0と位置交点Q3との間の距離をそれぞれB及びCとすると、距離B及びCはそれぞれ下記の式43及び44により表される。
B=A*cosδ ……(43)
C=A*sinδ
=2R*sinδ*sinδ
=2(WB/δ′)*(sinδ)2 ……(44)
【0124】
舵角δが小さいときにはsinδはδに等しいと看做されてよいので、上記式44に上記式22を代入すると共にsinδ=δとすることにより、距離Cは下記の式45により表される。また距離Cは時間tが0であるときの距離xの値x0であり、正の値である。よって式45に対応する下記の式46により距離x0を求めることができる。
C=(V/δ)*δ2
=V*δ ……(45)
x0=V*|δ| ……(46)
【0125】
従って補正係数D及び距離x0をそれぞれ式42及び46により求め、式40に従って距離xを制御することにより、時間Ta=1[sec]が経過するときに車両が実質的に位置P1′に到達するよう、車両を指数関数の軌跡Teに沿って走行させることができる。
【0126】
次に距離xを上記式40、42及び46に則して変化させることにより、車両の軌跡を好ましい指数関数の軌跡Teに制御するための前輪の舵角の制御について説明する。
【0127】
まず前輪の舵角δ及び車速Vがそれぞれ一定のδ′及び一定の値に設定されて、車両が案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで円弧状の軌跡Tc′を描いて走行する場合の車両の横加速度LAaについて考える。車両のスリップ角が0であるとすると、車両の横加速度LAaは式25により表されるヨーレートYRと車速Vとの積に等しいので、下記の式47により求められる値である。
LAa=YR*V
=V/WB*δ′*V
=V2/WB*δ′
=V2/WB*(2WB/V)*θ/N
=2V*θ/N ……(47)
【0128】
また車速Vが一定の値に設定され、前輪の舵角δがδbに可変制御されることにより、車両が案内棒の基準位置P0より案内棒の先端位置P1′まで上記式40により表される指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbについて考える。
【0129】
図23及び図24に示されている如く、車両が基準位置P0と先端位置P1′との間の位置P3へ移動した状況について、車速Vを距離xに関する座標軸に平行な成分Vxと時間に関する座標軸に平行な成分Vyとに分解すると、式48が成立する。
V=(Vx2+Vy2)1/2 ……(48)
【0130】
距離xに関する座標軸に平行な成分Vxは式40により表される距離の変化率に等しいので、下記の式49により成分Vxを求めることができる。
Vx=dx/dt
=|d[x0*exp{−(k/ΔT)D*t}]/dt
=|−V*δ*(k/ΔT*D)*exp{−(k/ΔT)D*t}| ……(49)
【0131】
式48及び式49より、時間に関する座標軸に平行な成分Vyを下記の式50により求めることができることが解る。
Vy=(V2−Vx2)1/2 ……(50)
【0132】
図24に示されている如く、車両の前後方向を示す線106が距離xに関する座標軸に平行な線112に対しなす角度、即ち距離xに関する座標軸に平行な成分Vxが車速Vに対しなす角度をσとする。車両のスリップ角が0であるとすると、下記の式51が成立する。よって角度σは下記の式52により表される。
tanσ=Vy/Vx ……(51)
σ=tan−1(Vy/Vx) ……(52)
【0133】
距離xに関する座標軸に平行な成分Vxの車両の横方向の成分をVxxとし、時間に関する座標軸に平行な成分Vyの車両の横方向の成分をVyxとする。車両の横方向の成分Vxx及びVyxはそれぞれ式53及び54により表される。
Vxx=Vx*sinσ ……(53)
Vyx=Vy*cosσ ……(54)
【0134】
従って車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横方向の速度Vzは下記の式55により表され、車両の横加速度LAbは下記の式56により表される。
Vz=Vyx−Vxx
=Vy*cosσ−Vx*sinσ ……(55)
LAb=d(Vz)/dt ……(56)
【0135】
車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbと車両が円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合の車両の横加速度LAaとの偏差ΔLAは式57により表される。
ΔLA=LAb−LAa ……(57)
【0136】
車両のヨーレートYRは式25に於けるδ′をδbに置き換えた値であると共に、車両の横加速度LAbを車速Vにて除算した値であるので、式58が成立する。
V/WB*δb=LAb/V ……(58)
【0137】
よって指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δbは下記の式59により求められる。
δb=(LAb/V)/(V/WB)
=(WB/V2)*LAb ……(59)
【0138】
円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δa(目標舵角δat=δ′)を基準にして、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるために必要な前輪の舵角の修正量をΔδbとする。前輪の舵角の修正量Δδbは、左旋回時を正とすると、左旋回時については下記の式60により求められ、右旋回時については下記の式61により求められる。
Δδb=(WB/V2)*ΔLA ……(60)
Δδb=−(WB/V2)*ΔLA ……(61)
【0139】
円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させるための前輪の舵角δaは式24により表される修正後の舵角δ′である。従って指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の目標舵角δbtは、左旋回時については下記の式62により求められ、右旋回時については下記の式63により求められる。
δbt=δ′+Δδb
=(2WB/V)*θ/N+(WB/V2)*ΔLA ……(62)
δbt=δ′+Δδb
=(2WB/V)*θ/N−(WB/V2)*ΔLA ……(63)
【0140】
4)前輪の舵角の制御方法
以上の説明より、式24により表される舵角δ′を目標舵角δatとして前輪の舵角δを制御することにより、円弧状の軌跡Tc′を描くよう車両を走行させることができる。また式62又は63により求められる目標舵角δbtになるよう前輪の舵角δを制御することにより、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させることができる。
【0141】
前輪の目標舵角がδatである場合及びδbtである場合の何れの場合にも、前輪の舵角δを目標舵角に制御する方法として、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の何れも可能であり、それぞれに利点がある。
【0142】
フィードフォワード制御は、軌跡の制御を開始すべきと判定したとき(制御開始時)に目標舵角を演算すると共に、制御開始後に前輪の舵角が運転者の操舵操作によって大きく変更されることがないことを前提に、前輪の舵角を目標舵角に制御するものである。
【0143】
フィードフォワード制御の場合には、運転者が操舵操作をしなくても車両の軌跡を目標の軌跡にすることができるので、この制御は車両運転の習熟度が高い運転者よりも車両運転の習熟度が低い運転者に適した制御である。
【0144】
これに対しフィードバック制御は、制御開始時に目標舵角を演算すると共に、前輪の舵角が制御開始後に運転者の操舵操作によって変更される場合があることを前提に、実際の舵角と目標舵角との偏差を低減することにより前輪の舵角を目標舵角に制御するものである。
【0145】
フィードバック制御の場合には、運転者が操舵操作をしても車両の軌跡を目標の軌跡にすることができるので、この制御は車両運転の習熟度が低い運転者よりも車両運転の習熟度が高い運転者に適した制御である。
【0146】
尚、前輪の舵角δを目標舵角に制御する方法がフィードフォワード制御及びフィードバック制御の何れである場合にも、予め設定された軌跡制御の更新条件が成立すると、目標軌跡が更新されることにより軌跡制御が更新される。
【0147】
5)ヨーモーメントを発生する手段
上記目標舵角δat及びδbtを総称して目標舵角δtと呼ぶこととすると、前輪の目標舵角δtは、車両を目標軌跡に沿って走行させるために必要なヨーモーメントを発生させるための目標舵角である。また前輪の舵角が現在の舵角δである場合にも、その舵角に対応するコーナリングフォースによって車両にヨーモーメントが付与される。従って前輪の舵角を目標舵角δtに修正することにより車両に付与すべき所要のヨーモーメント、即ちヨーモーメントの必要修正量ΔMvは、前輪の舵角が目標舵角δtであるときのヨーモーメントMvtと前輪の舵角が実際の舵角δであるときのヨーモーメントMvaとの偏差である。
【0148】
前述の如く前輪の舵角がδであるときの車両のヨーレートYRは上記式12により表される。一般に、物体の角運動量の単位時間当りの変化はその物体に作用するヨーモーメントに等しい。このことを車両に適用すると、車両のヨーレートYRは車両に作用するヨーモーメントに等しい。
【0149】
よって前輪の舵角が目標舵角δtであるときのヨーモーメントMvt及び前輪の舵角が実際の舵角δであるときのヨーモーメントMvaはそれぞれ下記の式64及び65により表される。従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvは下記の式66により表される。
Mvt=V/WB*δt ……(64)
Mva=V/WB*δ ……(65)
ΔMv=V/WB*(δt−δ) ……(66)
【0150】
またヨーモーメントの必要修正量ΔMvは、イ)前輪の舵角の修正だけでなく、ロ)左右の車輪の前後力差によっても発生させることができる。そしてヨーモーメントの必要修正量ΔMvの少なくとも一部を左右の車輪の前後力差によって発生させることにより、前輪の舵角の修正量を小さくすることができる。
【0151】
前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量をMsとし、左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントをMfとする。ヨーモーメントの必要修正量ΔMvに対するMfの寄与度合、換言すればMfに対するΔMvの配分比をKmf(0以上で1未満)とすると、ヨーモーメントMs及びMfはそれぞれ下記の式67及び68により表される。
Ms=(1−Kmf)ΔMv ……(67)
Mf=Kmf*ΔMv ……(68)
【0152】
5−1)ヨーモーメントの分配制御
この制御は、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvを前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfに分配する制御である。
【0153】
配分比Kmfは一定の値であってもよいが、車両の走行状況に応じて可変設定されることが好ましい。
【0154】
特に配分比Kmfは、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して大きく、前輪のコーナリングフォースが大きいときには前輪のコーナリングフォースが小さいときに比して大きいことが好ましい。また配分比Kmfは、前輪の前後力が大きいときには前輪の前後力が小さいときに比して大きく、前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに大きいことが好ましい。尚前輪のコーナリングフォースに代えてその指標値である前輪の舵角又はこれに対応する値が採用されてもよい。
【0155】
また左右の車輪の前後力に差を与えるためには、左右の車輪の一方に制動力又は駆動力を付与するか、左右の車輪の一方に制動力を付与し且つ左右の車輪の他方に駆動力を付与する必要があり、これらの制駆動力の制御は車両の燃費を悪化させる。またヨーモーメントMfが0でない限り左右の車輪の前後力に差を与え続けなければならない。
【0156】
よって配分比Kmfは小さい値であることが好ましいが、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvをMs及びMfに分配することにより、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvが舵角の修正のみにより達成される場合に比して舵角の必要修正量を低減することができる。また左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない状況に於いても、Ms及びMfの両者によりヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成し、車両を目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0157】
ヨーモーメントの必要修正量ΔMvが前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfに分配される場合には、前輪の目標舵角δtが修正される必要がある。
【0158】
即ち前輪の舵角の修正により達成されるべきヨーモーメントの変化量はMsであるので、修正後の前輪の目標舵角をδtmとすると、下記の式69が成立する。よって修正後の前輪の目標舵角δtmは下記の式70により表される。
Ms=V/WB*(δtm−δ) ……(69)
δtm=Ms*WB/V+δ ……(70)
【0159】
5−2)ヨーモーメントの補填制御
この制御は、ヨーモーメントの必要修正量ΔMvを基本的には前輪の舵角の修正により達成する制御である。そして左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない虞れがある状況に於いて、左右の車輪の前後力差によりヨーモーメントMfを補填する制御である。
【0160】
左右前輪のコーナリングフォースによってはヨーモーメントの必要修正量ΔMvを達成できない虞れがあるか否かは、コーナリングフォースが前輪の摩擦円を越えているか否かにより判定可能である。路面の摩擦係数に基づいて前輪の摩擦円の大きさを推定することができ、また車両のスリップ角を無視すれば、前輪の舵角に基づいてコーナリングフォースを推定することができる。
【0161】
よって後述の実施形態に於いては、路面の摩擦係数及び前輪の舵角に基づいて左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfが補填される必要性を示す値として係数Ksf(0以上で1未満)が演算される。そして補填のヨーモーメントMfが上記式68に対応する下記の式71に従って演算され、補填される。
Mf=Ksf*ΔMv ……(71)
【0162】
尚、係数Ksfは前輪の舵角が目標舵角δtに修正されることによるヨーモーメントの修正量と補填のヨーモーメントMsfとの和がヨーモーメントの必要修正量ΔMvを越えることがないよう、例えば実験等により求められてよい。
【0163】
6)左右の車輪の前後力差の制御
また左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfは、左右前輪の前後力差、左右後輪の前後力差、左右前輪及び左右後輪の前後力差の何れによっても発生可能である。しかし路面の摩擦係数が低い状況に於いては、左右前輪のコーナリングフォースによるヨーモーメントの発生が阻害されないよう、ヨーモーメントMfは主として左右後輪の前後力差により発生されることが好ましい。
【0164】
左右後輪の前後力差によりヨーモーメントMfを発生させる場合に限っても、その手段として次の三つの手段がある。
a)左右後輪の一方に制動力を付加する。
b)左右後輪の他方に駆動力を付加する。
c)左右後輪の一方に制動力を付加し、左右後輪の他方に駆動力を付加する。
【0165】
a)及びb)の場合には車速が変化する。しかし左右の車輪の前後力差によるヨーモーメントMfの大きさはそれほど大きい値にはならないので、車速の変化は無視できる程度である。また多くの車両に於いては各車輪の制動力を個別に制御可能であるのに対し、b)及びc)の場合には各車輪の駆動力を個別に制御可能であることが必要であり、多くの車両に於いては各車輪の駆動力を個別に正確に制御することができない。
【0166】
従って後述の実施形態に於いては、ヨーモーメントMfが正の値であるときには、左後輪に制動力を付加することによりヨーモーメントMfが発生され、ヨーモーメントMfが負の値であるときには、右後輪に制動力を付加することによりヨーモーメントMfが発生される。後輪の一方に付加される制動力をFbraとし、車両のトレッドをTrとすると、下記の式72が成立する。よって制動力Fbraは下記の式73により表される。
|Mf|=Fbra*(Tr/2) ……(72)
Fbra=2|Mf|/Tr ……(73)
【0167】
尚、上記b)の場合には、制動力Fbraと同一の大きさの駆動力が一方の後輪に付加され、上記c)の場合には制動力Fbraの半分の大きさの制動力が一方の後輪に付加されると共に、制動力Fbraの半分の大きさの駆動力が他方の後輪に付加される。
【0168】
7)前輪の舵角の制御装置
車両の軌跡を目標の軌跡に制御するためには、運転者の操舵操作とは独立に前輪を転舵することによって前輪の舵角を修正し目標舵角に制御することができる舵角制御装置が必要である。
【0169】
かかる舵角制御装置として、ステアリングホイールの如き操舵入力手段と操舵輪である前輪とが機械的に連結された機械的舵角制御装置と、操舵入力手段と前輪とが機械的に連結されていない非機械的舵角制御装置とがある。
【0170】
機械的舵角制御装置はアクチュエータによって操舵入力手段に対し相対的に前輪を転舵駆動するものであり、例えばステアリングギヤ比可変装置(VGRS)を備えたセミステアバイワイヤ式の操舵装置がこれに属する。
【0171】
非機械的舵角制御装置は操舵入力手段と前輪を転舵駆動する駆動手段とが相互に独立し、両者が制御装置を介して電気的に接続されたものであり、例えばステアバイワイヤ式の操舵装置がこれに属する。
【0172】
8)軌跡の制御の分類と実施形態
以上の説明より解る如く、軌跡が円弧状であるか指数関数であるかによって、また舵角の制御がフィードフォワード(FF)制御であるかフィードバック(FB)制御であるかによって、本発明による軌跡の制御を制御1〜4に分類分けすることができる。また舵角制御装置が機械的舵角制御装置であるか非機械的舵角制御装置であるかによって、制御1〜4を更にそれぞれ二つに分類することができる。
【0173】
後述の第一乃至第八の実施形態は、上記分類項目に従ってそれぞれ下記の表1及び表2の通り分類されるものである。尚表1及び表2はそれぞれ舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合及び非機械的舵角制御装置である場合を示している。
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
また後述の実施形態の説明に於いて、その1及びその2の二つについて説明されるが、その1は「5−1)ヨーモーメントの分配制御」による実施形態であり、その2は「5−2)ヨーモーメントの補填制御」による実施形態である。
【0177】
尚後述の第一乃至第八の何れの実施形態に於いても、アンチスキッド制御等の他の車両の走行制御が実行されているときには、軌跡制御は開始されない。また軌跡制御が実行されている状況に於いてアンチスキッド制御等の他の車両の走行制御の開始条件が成立したときには、軌跡制御は終了され、当該他の車両の走行制御が開始される。
【0178】
9)機械的舵角制御装置の場合の操舵反力の制御
パワーアシストによって操舵反力を制御する方式として、操舵トルクを検出しない第一の方式と操舵トルクを検出する第二の方式とがある。
【0179】
9−1)第一の方式
車両が定常円旋回する場合の旋回半径Rは上記式15により表される。また車両の軌跡の曲率をρとすると、旋回半径Rは下記の式74により表される。
R=1/ρ ……(74)
【0180】
よって前輪の舵角δは下記の式75により表される。
δ=WB/R
=ρ*WB ……(75)
【0181】
前輪のキャスタートレールとニューマチックトレールとの和をLt[m]とし、前輪のコーナリングパワーをKf[Nm/rad]とすると、舵角がδ[rad]である前輪のキングピン軸周りのトルクTsは下記の式76により表される。
Ts =−2Lt*Kf*δ ……(76)
【0182】
操舵入力手段としてのステアリングホイールに於けるトルク、即ち操舵トルクをThとすると、前輪のキングピン軸周りのトルクTsは、ステアリングギヤ比N(上記式23参照)を使用して下記の式77により表される。
Ts =Th*N ……(77)
【0183】
上記式76及び77より下記の式78が成立する。よって操舵トルクThは下記の式79により表される。
Th*N=−2Lt*Kf*δ ……(78)
Th=−2Lt*Kf*δ/N ……(79)
【0184】
式79はパワーアシストによって操舵トルクが軽減されない場合に於ける前輪の舵角δと操舵トルクThとの関係を示している。よって式79に式23を代入することにより得られる下記の式80により表されるThtは、前輪の舵角が仮想の舵角δであるときの操舵トルク、即ち軌跡制御による前輪の舵角の修正が行われない場合の操舵トルクである。
Tht=−2Lt*Kf*θ/N2 ……(80)
【0185】
従って式80により表される操舵トルクThtを基準トルクとし、例えばトルクセンサにより検出される操舵トルクをThdとすると、下記の式81により表される操舵トルクの偏差ΔThは前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を表す。
ΔTh=Thd−Tht ……(81)
【0186】
よって検出される操舵トルクThdから前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分ΔThが除去された操舵トルク、即ち前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を含まない操舵トルクTh0は下記の式82により表される。
Th0=Thd−ΔTh
=Tht
=−2Lt*Kf*θ/N2 ……(82)
【0187】
従って式82により表される操舵トルクTh0を補正後の検出操舵トルクとし、これに基づいて目標アシストトルクTpatを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を受けることなく運転者の操舵負担を軽減することができる。尚目標アシストトルクTpatは、補正後の検出操舵トルクTh0の大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0188】
9−2)第二の方式
9−2−1)円弧状の目標軌跡
前述の如く、目標軌跡が円弧状である場合には、前輪の舵角は仮想の舵角δであるべき状況に於いて目標舵角δat=δ′に制御される。従って前輪の舵角が目標舵角δatであるときの操舵トルクThatは下記の式83により表される。
That=−2Lt*Kf*δat/N
=−2Lt*Kf*δ′/N
=−2Lt*Kf*(2WB/V)*θ/N2 ……(83)
【0189】
よって軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動量ΔThatは、式83により表される操舵トルクThatと式80により表される操舵トルクThとの偏差であるので、下記の式84により表される。
ΔThat=That−Th
=−2Lt*Kf*(2WB/V)*θ/N2−(−2Lt*Kf*θ/N2)
=−2Lt*Kf*(2WB/V−1)*θ/N2 ……(84)
【0190】
下記の式85に従ってトルクセンサにより検出される操舵トルクThdから操舵トルクの変動量ΔThatを減算することにより求められる補正後の検出操舵トルクThdaは、前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動分が排除された操舵トルクである。
Thda=Thd−ΔThat
=Thd+2Lt*Kf*(2WB/V−1)*θ/N2 ……(85)
【0191】
従って補正後の検出操舵トルクThdaに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除することができる。そして運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和を目標アシストトルクTpatとすることにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除しつつ運転者の操舵負担を軽減することができる。尚操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクThdaの大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクThda及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0192】
9−2−2)指数関数の目標軌跡
前述の如く、目標軌跡が指数関数である場合には、前輪の舵角は仮想の舵角δであるべき状況に於いて式62又は63の目標舵角δ tに制御される。従って前輪の舵角が目標舵角δbtであるときの操舵トルクThbtは下記の式86により表される。
Thbt=−2Lt*Kf*δbt/N
=−2Lt*Kf*(δ′+Δδb)/N ……(86)
【0193】
よって軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動量ΔThbtは、式86により表される操舵トルクThbtと式80により表される操舵トルクThとの偏差であるので、下記の式87により表される。
ΔThbt=Thbt−Th
=−2Lt*Kf*(δ′+Δδb)/N+2Lt*Kf*δ/N
=−2Lt*Kf*{(2WB/V)δ+Δδb}/N+2Lt*Kf*δ/N
=−2Lt*Kf*{(2WB/V+1)δ+Δδb}/N ……(87)
【0194】
下記の式88に従ってトルクセンサにより検出される操舵トルクThdから操舵トルクの変動量ΔThbtを減算することにより求められる補正後の検出操舵トルクThdbは、前輪の舵角の制御による操舵トルクの変動分が排除された操舵トルクである。
Thdb=Thd−ΔThbt
=Thd+2Lt*Kf*{(2WB/V+1)δ+Δδb}/N ……(88)
【0195】
従って補正後の検出操舵トルクThdbに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算することにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除することができる。そして運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThbtとの和を目標アシストトルクTpatとすることにより、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響を排除しつつ運転者の操舵負担を軽減することができる。尚操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクThdbの大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクThdb及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0196】
上述の第一の方式によれば、操舵トルクThdを検出する必要がないが、操舵操作以外の要因(例えば路面の摩擦係数の変動)による操舵トルクの変動を反映させることができない。これに対し上述の第二の方式によれば、操舵トルクThdを検出する必要はあるが、操舵操作以外の要因による操舵トルクの変動を反映させることができる。よって舵角制御装置が機械的舵角制御装置である後述の第一乃至第四の実施形態に於いては、上述の第二の方式に従って目標アシストトルクTpatが演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう制御される。
【0197】
尚舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合には、軌跡制御が行われない状況に於いては、操舵反力の制御が第一及び第二の方式の何れであるかに関係なく、運転者の操舵負担軽減トルクTpadは検出される操舵トルクThdに基づいて演算される。
【0198】
10)非機械的舵角制御装置の場合の操舵反力の制御
上述の如く、上記式82により表される補正後の検出操舵トルクTh0は、舵角制御装置が機械的舵角制御装置であり操舵角がθである場合に於いて前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動分を含まない操舵トルクである。よって補正後の検出操舵トルクTh0から操舵負担軽減トルクTpadを減算した値は、舵角制御装置が機械的舵角制御装置である場合に於いて運転者にとって好ましい操舵トルクである。尚この場合の操舵負担軽減トルクTpadは、補正後の検出操舵トルクTh0の大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど小さくなるよう、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて演算されてよい。
【0199】
従って舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である場合に於いて好ましい操舵トルクThbtは下記の式89により演算される値である。この操舵トルクThbtがステアリングホイールに与えられれば、前輪の舵角の修正に起因する操舵トルクの変動の影響がなく且つ運転者が適度の操舵負担を感じる操舵反力トルクを実現することができる。
Thbt=Th0−Tpad ……(89)
【0200】
よって舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である後述の第五乃至第八の実施形態に於いては、目標操舵トルクTpbtが上記式89に従って演算され、操舵トルクが目標操舵トルクTpbtになるよう制御される。
【0201】
尚舵角制御装置が非機械的舵角制御装置である場合には、軌跡制御が行われない状況に於ける操舵反力の制御は軌跡制御が行われる状況に於ける上記操舵反力の制御と同一である。換言すれば、軌跡制御が行われているか否かに関係なく操舵トルクは目標操舵トルクTpbtになるよう制御される。
【0202】
次に添付の図を参照しつつ、本発明を第一乃至第八の実施形態について順次説明する。
【0203】
第一の実施形態(その1)
この第一の実施形態(その1)は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0204】
図1は舵角可変装置及び電動式パワーステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0205】
図1に於いて、符号10は本発明の第一の実施形態の走行制御装置を全体的に示している。走行制御装置10は車両12に搭載され、舵角可変装置14及びこれを制御する電子制御装置16を含んでいる。また図1に於いて、18FL及び18FRはそれぞれ車両12の左右の前輪を示し、18RL及び18RRはそれぞれ左右の後輪を示している。左右の前輪18FL及び18FRは操舵輪であり、運転者によるステアリングホイール20の操舵操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置22によりラックバー24及びタイロッド26L及び26Rを介して転舵される。
【0206】
図1には駆動系が図示されていないが、車両は前輪駆動車である。従って左右の前輪18FL及び18FRは操舵輪であると共に駆動輪であり、左右の後輪18RL及び18RRは非操舵輪であると共に従動輪である。尚本発明の走行制御装置は後輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよい。
【0207】
ステアリングホイール20は操舵入力手段として機能し、アッパステアリングシャフト28、舵角可変装置14、ロアステアリングシャフト30、ユニバーサルジョイント32を介してパワーステアリング装置22のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施形態に於いては、舵角可変装置14はハウジング14Aの側にてアッパステアリングシャフト28の下端に連結され、回転子14Bの側にてロアステアリングシャフト30の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
【0208】
かくして舵角可変装置14はアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を回転駆動することにより、左右の前輪18FL及び18FRをステアリングホイール20に対し相対的に補助転舵駆動する。よって舵角可変装置14は運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪の舵角を修正する手段として機能し、電子制御装置16の舵角制御部により制御される。
【0209】
図示の実施形態に於いては、電動式パワーステアリング装置22はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機38と、電動機38の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構40とを有する。電動式パワーステアリング装置22は電子制御装置16の電動式パワーステアリング装置(EPS)制御部によって制御される。そして電動式パワーステアリング装置22はハウジング42に対し相対的にラックバー24を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵力発生装置として機能する。尚補助操舵力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0210】
各車輪の制動力は制動装置46の油圧回路48によりホイールシリンダ50FL、50FR、50RL、50RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各車輪の制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル52の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ54の圧力Pmに基づいて電子制御装置16の制動力制御部によって増減圧制御弁等が制御されることにより制御される。
【0211】
図示の実施形態に於いては、アッパステアリングシャフト28には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ60及び操舵トルクThdを検出する操舵トルクセンサ62が設けられており、操舵角θ及び操舵トルクThdを示す信号は電子制御装置16へ入力される。
【0212】
電子制御装置16には回転角度センサ64により検出された舵角可変装置14の相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度を示す信号が入力される。また電子制御装置16には車速センサ66により検出された車速Vを示す信号及びμセンサ68により検出され路面の摩擦係数μを示す信号が入力される。更に電子制御装置16には圧力センサ70により検出され運転者の制動操作量を示すマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び圧力センサ72FL〜72RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が入力される。
【0213】
尚電子制御装置16の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ60、操舵トルクセンサ62、回転角度センサ64はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、操舵トルクThd、相対回転角度θreを検出する。
【0214】
後に詳細に説明する如く、電子制御装置16は図2乃至図6に示されたフローチャートに従って舵角可変装置14及び電動式パワーステアリング装置22を制御する。また電子制御装置16は図7に示されたフローチャートに従って制動装置46を制御する。
【0215】
特に電子制御装置16は、操舵角θ及び車速Vに基づき車両の軌跡制御の必要性を判定する。そして電子制御装置16は、軌跡制御が不要であると判定したときには、車速Vが高いほど大きくなるよう、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための目標ステアリングギヤ比Ntを演算する。
【0216】
また電子制御装置16は、目標ステアリングギヤ比Ntとギヤ比係数Ks(正の定数)との積にて操舵角θを除算した値を目標ピニオン角θptとして演算する。更に電子制御装置16は、目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として舵角可変装置14の目標相対回転角度θretを演算し、舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう舵角可変装置14を制御する。
【0217】
また電子制御装置16は、軌跡制御が必要であると判定したときには、そのときの操舵角θ及び車速Vに基づき車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δat=δ′を上記式24に従って演算する。そして電子制御装置16は、上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δatとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvを演算する。
【0218】
また電子制御装置16は、路面の摩擦係数μ等に基づいて配分比Kmfを演算し、上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msを演算する。そして電子制御装置16は、上記式70の左辺をδatmに書き換えた式に従って修正後の前輪の目標舵角δatmを演算し、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになるよう舵角可変装置14をフィードフォワード式に制御する。
【0219】
また電子制御装置16は、マスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の基本目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、基本目標制動圧Pbtiと軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiとの和を目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)とする。そして電子制御装置16は、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)を制御する。
【0220】
特に電子制御装置16は、軌跡制御が実行されていないときには、軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiを0に設定する。これに対し電子制御装置16は、軌跡制御が実行されているときには、上記式68に従って左右の後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを演算し、上記式73に従って一方の後輪に付加される制動力Fbraを演算する。そして電子制御装置16は、ヨーモーメントMfが正の値であるときには左後輪の補正制動圧ΔPbtrlを制動力Fbraに設定し、ヨーモーメントMfが負の値であるときには右後輪の補正制動圧ΔPbtrrを制動力Fbraに設定し、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiを0に設定する。
【0221】
また電子制御装置16は、軌跡制御が実行されていない通常時には操舵トルクTs及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力を発生するための目標アシストトルクTaを演算し、アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置16を制御することによりパワーアシスト制御を実行する。
【0222】
また電子制御装置16は、軌跡制御の実行中には上記式85に従って補正後の検出操舵トルクThdaを演算し、補正後の検出操舵トルクThdaに基づいて運転者の操舵負担軽減トルクTpadを演算する。また電子制御装置16は、上記式84に従って操舵トルクの変動量ΔThatを演算し、運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和を目標アシストトルクTpatとする。更に電子制御装置16は、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22を制御し、これにより運転者の操舵負担を軽減すると共に舵角の修正に起因する操舵トルクの変動を低減する。
【0223】
尚、軌跡制御が不要であるときのステアリングギヤ比の制御やアシストトルクの制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。このことは後述の他の実施形態についても同様である。
【0224】
次に図2乃至図7に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態(その1)に於ける車両の走行制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0225】
まずステップ50に於いては車両の軌跡制御が実行されているか否かを示すフラグFcが1であるか否かの判別により、軌跡制御の実行中であるか否かの判別が行われる。軌跡制御が実行されていないと判別されたときには制御はステップ350へ進み、軌跡制御が実行されていると判別されたときには制御はステップ200へ進む。尚フラグFc及び後述のフラグFsは図2に示されたフローチャートによる走行制御の開始に先立ってそれぞれ0にリセットされる。
【0226】
ステップ200に於いては車両の走行制御のうち軌跡制御の終了条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ250へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ450へ進む。尚この場合下記の(1)乃至(4)の何れかが成立するときに軌跡制御の終了条件が成立していると判定されてよい。
【0227】
(1)軌跡制御の開始条件又は更新条件(これらについては後述する)が成立した時点より車両が目標到達地点に到達するに要する時間Ta=1[sec]以上が経過している。
(2)開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける車速Vと現在の車速Vとの偏差ΔVの絶対値が基準値Ve(正の値)よりも大きい。
(3)開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける操舵角θと現在の操舵角θとの偏差Δθの絶対値が基準値θe(正の値)よりも大きい。
(4)操舵角速度の絶対値、即ち操舵角θの変化率θdの絶対値が基準値θde(正の値)よりも大きい。
【0228】
尚基準値θe及びθdeは定数であってもよいが、例えば開始条件又は更新条件が成立した時点に於ける車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0229】
ステップ250に於いては舵角可変装置14によって左右前輪の舵角を目標舵角δatにする制御が終了されることにより軌跡制御が終了される。また軌跡制御が実行されているか否かを示すフラグFcが0にリセットされ、しかる後制御はステップ700へ進む。
【0230】
ステップ350に於いては図3に示されたフローチャートに従って軌跡制御の開始条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ700へ進む。
【0231】
ステップ450に於いては図4に示されたフローチャートに従って軌跡制御の更新条件が成立しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ600へ進む。
【0232】
ステップ500に於いては図5に示されたフローチャートに従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfが演算されると共に、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Ms及び前輪の修正後の目標舵角δatmが演算される。
【0233】
ステップ600に於いては図6に示されたフローチャートに従って前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになよう舵角可変装置14がフィードフォワード式に制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δatmに制御される。
【0234】
尚この場合、前輪の舵角の変化が急激にならないよう、前輪の舵角は予め設定された制限値以下の変化率にて修正後の目標舵角δatmへ変化される。このことは後述の他の実施形態に於いても同様である。また前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで軌跡制御のための相対回転角度の制御は行われない。
【0235】
ステップ700に於いては軌跡制御が実行されないときのステアリングギヤ比の制御が行われる。即ち車速Vに基づいて図8に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Ntが演算される。尚図8に於いて、N0は標準のステアリングギヤ比、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度が0であるときのステアリングギヤ比を示している。
【0236】
また操舵角θとギヤ比係数Ks(左右前輪の舵角の変化量に対するピニオン34の回転角度の比に対応する正の定数)との積を目標ステアリングギヤ比Ntにて除算した値が目標ピニオン角θptとして演算される。更に目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として舵角可変装置14の目標相対回転角度θretが演算され、舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう舵角可変装置14が制御される。
【0237】
尚軌跡制御が終了し、ステップ700によるステアリングギヤ比の制御へ移行するときには、前輪の舵角の急激な変化を防止すべく目標ステアリングギヤ比Ntへのステアリングギヤ比の変化が急激にならないよう舵角可変装置14が制御される。このことは後述の他の実施形態に於いても同様である。
【0238】
ステップ750に於いては軌跡制御が実行されないときのアシストトルクの制御が行われる。即ち検出された操舵トルクThdに基づき図9に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTpabが演算され、車速Vに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算される。また車速係数Kvと基本アシストトルクTpabとの積として目標アシストトルクTpatが演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0239】
尚基本アシストトルクTpabは操舵トルクThd及び車速Vに基づき図11に示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0240】
ステップ800に於いては上記式75に従って補正後の検出操舵トルクThdaが演算され、補正後の検出操舵トルクThdaに基づき図9に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTpabが演算される。また車速Vに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、車速係数Kvと基本アシストトルクTpabとの積が操舵負担軽減トルクTpadとして演算される。そして上記式84に従って操舵トルクの変動量ΔThatが演算され、目標アシストトルクTpatが運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和に演算される。更にアシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0241】
次に図3に示されたフローチャートを参照して上記ステップ350に於いて実行される軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンについて詳細に説明する。
【0242】
まずステップ350aに於いては路面の摩擦係数μが基準値μ0(正の定数)未満であるか否かの判別、即ち路面の摩擦係数μが氷雪路面の如く非常に低い値であるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ355へ進む。
【0243】
ステップ355に於いては操舵角θがローパスフィルタ処理されることによりローパスフィルタ処理後の操舵角θlfが演算される。そしてローパスフィルタ処理後の操舵角θlfの絶対値が制御開始判定の基準値θs0(正の値)よりも大きいか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ360へ進む。
【0244】
ステップ360に於いては操舵角θの微分値として操舵角速度θdが演算されると共に、操舵角速度θdがローパスフィルタ処理されることによりローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfが演算される。
【0245】
ステップ365に於いてはローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfの絶対値が制御開始判定の第一の基準値θds1(正の値)よりも大きいか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ375へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ370に於いてフラグFsが開始条件の判定中であることを示すよう1にセットされた後制御はステップ375へ進む。
【0246】
ステップ375に於いてはフラグFsが1であるか否かの判別、即ち開始条件の判定中であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ380へ進む。
【0247】
ステップ380に於いてはローパスフィルタ処理後の操舵角速度θdlfの絶対値が制御開始判定の第二の基準値θds2(θds1以下の正の値)よりも小さいか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ390へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ385へ進む。
【0248】
ステップ385に於いてはフラグFsが開始条件の判定が行われていないことを示すよう0にリセットされると共に、フラグFcが軌跡制御の実行中であることを示すよう1にセットされ、しかる後制御はステップ500へ進む。
【0249】
ステップ390に於いてはフラグFsが開始条件の判定が行われていないことを示すよう0にリセットされると共に、フラグFcが軌跡制御が行われていないことを示すよう0にリセットされ、しかる後制御はステップ700へ進む。
【0250】
尚基準値θs0、θds1、θds2は定数であってもよいが、これらの基準値も例えば車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0251】
図4に示された軌跡制御の更新条件の成立判定ルーチンのステップ450a〜490は基本的には上述の軌跡制御の開始条件の成立判定ルーチンのステップ350a〜390とそれぞれ同様に実行される。
【0252】
但しステップ455に於ける判定の基準値は制御更新判定の基準値θr0(正の値)である。ステップ465に於ける判定の基準値は制御更新判定の第一の基準値θdr1(正の値)であり、ステップ480に於ける判定の基準値は制御更新判定の第二の基準値θdr2(θdr1以下の正の値)である。尚基準値θr0、θdr1、θdr2は定数であってもよいが、これらの基準値も例えば車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されてもよい。
【0253】
またステップ470、475、485、490に於いては、フラグFsは更新判定が行われているか否かを示すフラグFrに置き換えられている。更にステップ485が完了すると制御はステップ600へ進み、ステップ490が完了すると制御はステップ500へ進む。
【0254】
次に図5に示されたフローチャートを参照して上記ステップ500に於いて実行される前輪の目標舵角の演算ルーチンについて詳細に説明する。
【0255】
まずステップ505に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ、車速V及びステアリングギヤ比N(=Nt)に基づいて、車両を円弧状の目標軌跡Tcに沿って走行させるための前輪の目標舵角δat(=δ′)が上記式24に従って演算される。
【0256】
ステップ510に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、目標舵角δatと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδatが演算される。
【0257】
ステップ515に於いては上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δatとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvが演算される。
【0258】
ステップ520に於いては路面の摩擦係数μに基づいて図12に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより路面の摩擦係数及び前輪の舵角に基づく配分比Kmf1が演算される。図12に示されている如く、配分比Kmf1は路面の摩擦係数μが低いときには路面の摩擦係数μが高いときに比して大きく、前輪の舵角δの大きさが大きいときには前輪の舵角δの大きさが小さいときに比して大きくなるよう演算される。
【0259】
尚配分比Kmf1は路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0260】
また左右の前輪18FL及び18FRの駆動力の平均値Fdfa又は制動力の平均値Fbfaが演算されると共に、駆動力の平均値Fdfa又は制動力の平均値Fbfaに基づいて図13に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2が演算される。更に左右の前輪18FL及び18FRの接地荷重の平均値Fzfaが演算されると共に、接地荷重の平均値Fzfaに基づいて図14に示されたグラフに対応するマップより前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3が演算される。
【0261】
尚路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1及び前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2は、それぞれ図12及び図13に於いて破線にて示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0262】
ステップ525に於いては路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1と前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2と前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3との積として配分比Kmfが演算される。尚図には示されていないが、軌跡制御の目的で後輪の制動力を制御することができない状況にあるときには、配分比Kmfは0に設定される。
【0263】
ステップ530に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算される。
【0264】
ステップ535に於いてはヨーモーメントの変化量Ms、車速V、軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、上記式70の左辺をδatmに書き換えた式に従って修正後の前輪の目標舵角δatmが演算される。
【0265】
次に図6に示されたフローチャートを参照して上記ステップ600に於いて実行される舵角の制御ルーチンについて詳細に説明する。
【0266】
まずステップ610に於いては軌跡制御のための初回の舵角制御であるか否かの判別、即ち軌跡制御が開始又は更新された直後の舵角制御であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ650へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ620へ進む。
【0267】
ステップ620に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、修正後の前輪の目標舵角δatmと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδatmが演算される。
【0268】
ステップ630に於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて修正後の目標舵角δatmへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδatmcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δatmへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδatmcはΔδtm/Ncである。
【0269】
ステップ640に於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδatmcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0270】
ステップ650に於いては例えば軌跡制御が開始又は更新されてからの経過サイクル数をNallとして、NallがNcであるか否かの判別により、軌跡制御のための前輪の舵角制御が完了したか否かの判別が行われる。
【0271】
そして肯定判別が行われたときにはロアステアリングシャフト30がアッパステアリングシャフト28に対し相対的に回転駆動されることなく舵角制御が一旦終了し、制御はステップ800へ進む。これに対し否定判別が行われたときにはステップ680に於いてロアステアリングシャフト30がアッパステアリングシャフト28に対し相対的に相対回転角度制御量Δθrec回転駆動され、しかる後制御はステップ800へ進む。
【0272】
次に図7に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態(その1)に於ける各車輪の制動力の制御ルーチンについて詳細に説明する。
【0273】
まずステップ1010に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づいて各車輪の基本目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。基本目標制動圧Pbtiは任意の要領にて演算されてよい。
【0274】
ステップ1020に於いてはステップ50の場合と同様にフラグFcが1であるか否かの判別により、軌跡制御の実行中であるか否かの判別が行われる。軌跡制御が実行されていないと判別されたときにはステップ1030に於いて軌跡制御のための各車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定され、しかる後制御はステップ1090へ進む。これに対し軌跡制御が実行されていると判別されたときには制御はステップ1040へ進む。
【0275】
ステップ1040に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式68に従って左右の後輪の制動力差によるヨーモーメントMfが演算される。
【0276】
ステップ1050に於いてはヨーモーメントMfに基づいて上記式73に従って一方の後輪に付加される制動力Fbraが演算される。
【0277】
ステップ1060に於いてはヨーモーメントMfが正の値であるか否かの判別、即ちヨーモーメントMfが車両の左旋回を補助するヨーモーメントであるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには、ステップ1070に於いて左後輪の補正制動圧ΔPbtrlがFbraに設定されると共に、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定される。また否定判別が行われたときには、ステップ1080に於いて右後輪の補正制動圧ΔPbtrrがFbraに設定されると共に、他の車輪の補正制動圧ΔPbtiが0に設定される。尚ステップ1060に於ける判別結果に応じて補正制動圧が付加される車輪が変更されるのは、ヨーモーメントMfの符号によって付加すべきヨーモーメントの方向が異なることによる。
【0278】
ステップ1090に於いては各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ基本目標制動圧Pbtiと軌跡制御のための補正制動圧ΔPbtiとの和に演算される。
【0279】
ステップ1100に於いては各車輪の制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)がそれぞれ目標制動圧Ptiになるよう制御されることにより、各車輪の制動力がそれぞれ目標制動圧Ptiに対応する制動力になるよう制御される。
【0280】
この第一の実施形態(その1)に於いて、軌跡制御が実行されていない状況に於いて軌跡制御の開始条件が成立すると、ステップ50に於いて否定判別が行われ、ステップ350に於いて肯定判別が行われる。ステップ500に於いて車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算され、ヨーモーメントの変化量Msに基づいて前輪の修正後の目標舵角δatmが演算される。そしてステップ600に於いて前輪の舵角がフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δatmに制御される。
【0281】
また軌跡制御が実行されている状況に於いて軌跡制御の更新条件が成立すると、ステップ50及び450に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ500及び600が実行される。
【0282】
また軌跡制御が実行されているときには、ステップ1040に於いて車両に所要のヨーモーメントMfを付与するために一方の後輪に付加される制動力Fbraが演算される。そしてステップ1060〜1100に於いて制動力Fbraに対応する補正制動圧が一方の後輪の制動圧に付加され、これにより車両に所要のヨーモーメントMfが付与される。
【0283】
従って第一の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δatmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が円弧状の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0284】
第一の実施形態(その2)
この第一の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第一の実施形態(その1)と異なる。よって第一の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0285】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、図15に示されたフローチャートに従って実行される。図15に示されている如く、ステップ510〜530に於いて前輪の目標舵角δat及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvが第一の実施形態(その1)の場合と同様の要領にて演算される。しかし図5に示されたフローチャートのステップ520〜535は実行されず、ステップ540が実行される。
【0286】
ステップ540に於いては路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、図16に示されたグラフに対応するマップより係数Ksfが演算される。図16に示されている如く、係数Ksfは路面の摩擦係数μが低いときには路面の摩擦係数μが高いときに比して大きく、路面の摩擦係数μが基準値以上の高い値であときには0に演算される。また係数Ksfは前輪の舵角δの大きさが大きいときには前輪の舵角δの大きさが小さいときに比して大きくなるよう演算される。
【0287】
尚係数Ksfは配分比Kmf1と同様に路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0288】
また図16に示されたグラフに於いては前輪の制駆動力や接地荷重は係数Ksfを演算するためのパラメータとされていない。しかし配分比Kmfの場合と同様に、前輪の制駆動力の大きさが大きいときには前輪の制駆動力の大きさが小さいときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の制駆動力の大きさによっても増減されるよう修正されてよい。また前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の接地荷重によっても増減されるよう修正されてよい。
【0289】
また図2に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図17に示されたフローチャートに従って実行される。図17と図6との比較より解る如く、ステップ620〜640に代えてそれぞれステップ625〜645が実行される。
【0290】
ステップ625に於いては上記ステップ510と同様の要領にて前輪の舵角の偏差Δδatが演算される。尚前輪の舵角の偏差Δδatは上記ステップ510にて演算された値であってもよい。
【0291】
ステップ635に於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて目標舵角δatへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδatcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δatへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδatcはΔδat/Ncである。
【0292】
ステップ645に於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδatcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0293】
またこの実施形態に於いては、各車輪の制動力はステップ1040を除き図7に示されたフローチャートに従って第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Ksf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0294】
従って第一の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δatに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Ksfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0295】
これに対し路面の摩擦係数μが低く、前輪の舵角の制御によっては必要修正量ΔMvのヨーモーメントを発生することができない虞れがあるときには、配分比Ksfが1よりも小さい正の値に設定される。従って前輪の舵角が目標舵角δatに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低く前輪の舵角の制御のみによっては車両の軌跡を目標軌跡にすることができない状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填により、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0296】
特に第一の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで舵角可変装置14による相対回転角度の制御は行われない。よって後述の第二の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0297】
第二の実施形態(その1及び2)
この第二の実施形態は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0298】
この第二の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、アシストトルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第一の実施形態のその1及び2と同様に実行される。よってその1の前輪の目標舵角はδatmであり、その2の前輪の目標舵角はδatである。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0299】
即ちサイクル毎に操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の現在の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δatm又は目標舵角δatと現在の舵角δとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御される。
【0300】
従って第二の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御することができる。そして第二の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第二の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0301】
特に第二の実施形態(その1及び2)によれば、目標相対回転角度θretは目標舵角δδatm又はδatと前輪の現在の舵角δとの偏差として演算される。従って軌跡制御が開始又は更新された後に運転者によって操舵操作が行われても、前輪の舵角を確実に目標舵角δδatm又はδatに制御することができる。また車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるに適した舵角になるよう運転者によって操舵操作が行われる場合には、フィードバック制御量が小さくなる。よって運転者が運転操作に熟練している場合には、上述の第一の実施形態の場合に比して舵角可変装置14の制御量を低減し、その負荷を軽減することができる。
【0302】
第三の実施形態(その1)
この第二の実施形態(その1)は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0303】
図18に示されている如く、この第三の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御及びアシストトルクの制御は基本的には上述の第一の実施形態(その1)と同様に実行される。尚図18に於いて、図2に示されたステップに対応するステップには、図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0304】
しかしステップ350又は450に於いて肯定判別が行われると、ステップ495に於いて操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式46に従って距離x0が演算される。またステップ495に於いては最小時間ΔT及びウェバー比のkをそれぞれ一般的な運転者について予め設定された正の定数として、上記式42に従って補正係数Dが演算される。
【0305】
またこの第三の実施形態(その1)に於いては、ステップ550に於いて図19に示されたフローチャートに従って車両を指数関数の軌跡Teに沿って走行させるための前輪の目標舵角δbtが演算されると共に、前輪の修正後の目標舵角δbtmが演算される。
【0306】
ステップ550は図19に示されたフローチャートのステップ553〜586により達成される。まずステップ553に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び車速Vに基づいて上記式47に従って車両の横加速度LAaが演算される。
【0307】
ステップ556に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式49に従って車速Vの成分の一つとして距離xに関する座標軸に平行な成分Vxが演算される。
【0308】
ステップ559に於いては上記式50に従って車速Vの成分の一つとして時間に関する座標軸に平行な成分Vyが演算されると共に、上記式52に従って成分Vxが車速Vに対しなす角度σが演算される。
【0309】
ステップ562に於いてはそれぞれ上記式53及び54に従って車両の横方向の成分Vxx及びVyxが演算されると共に、上記式55及び56に従って車両の横加速度LAbが演算される。
【0310】
ステップ565に於いては車両が指数関数の軌跡Teを描いて走行する場合の車両の横加速度LAbと車両が円弧状の軌跡Tcを描いて走行する場合の車両の横加速度LAaとの偏差ΔLAが上記式57に従って演算される。
【0311】
ステップ568に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ、車速V、横加速度の偏差ΔLAに基づいて、左旋回時には上記式62に従って、右旋回時には上記式63に従って、指数関数の軌跡Teを描くよう車両を走行させるための前輪の目標舵角δbtが演算される。
【0312】
ステップ571に於いては軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、目標舵角δbtと前輪の舵角δとの偏差として前輪の舵角の偏差Δδbtが演算される。
【0313】
ステップ574に於いては上記式66に於ける目標舵角δtを目標舵角δbtとし、実舵角δを軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δとして、式66に従ってヨーモーメントの必要修正量ΔMvが演算される。
【0314】
ステップ577及び580はそれぞれ上述の第一の実施形態(その1)のステップ520及び525と同様に実行される。よって路面の摩擦係数に基づく配分比Kmf1と前輪の制駆動力に基づく配分比Kmf2と前輪の接地荷重に基づく配分比Kmf3との積として配分比Kmfが演算される。尚この実施形態に於いても、軌跡制御の目的で後輪の制動力を制御することができない状況にあるときには、配分比Kmfは0に設定される。
【0315】
ステップ583に於いてはヨーモーメントの必要修正量ΔMv及び配分比Kmfに基づいて上記式67に従って前輪の舵角の修正によるヨーモーメントの変化量Msが演算される。
【0316】
ステップ586に於いてはヨーモーメントの変化量Ms、車速V、軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、上記式70の左辺をδbtmに書き換えた式に従って前輪の修正後の目標舵角δbtmが演算される。
【0317】
またこの第三の実施形態(その1)のステップ600に於いては、修正後の目標舵角δbtmと前サイクルの前輪の舵角δfとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が修正後の目標舵角δbtmに制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δbtmに制御される。
【0318】
またこの第三の実施形態(その1)に於いても、各車輪の制動力は図7に示されたフローチャートに従って上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。
【0319】
従って第三の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δbtmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が指数関数の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0320】
第三の実施形態(その2)
この第三の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第三の実施形態(その1)と異なる。よって第三の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0321】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、図20に示されたフローチャートに従って実行される。図20に示されている如く、ステップ553〜574に於いて前輪の目標舵角δbt及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvが第三の実施形態(その1)の場合と同様の要領にて演算される。しかし図19に示されたフローチャートのステップ577〜586は実行されず、ステップ589が実行される。
【0322】
ステップ589に於いては、上記第一の実施形態(その2)のステップ540の場合と同様に、路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて、図16に示されたグラフに対応するマップより係数Ksfが演算される。尚この実施形態に於いても、前輪の接地荷重が低いときには前輪の接地荷重が高いときに比して係数Ksfが大きくなるよう、係数Ksfは前輪の接地荷重によっても増減されるよう修正されてよい。
【0323】
また図18に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図21に示されたフローチャートに従って実行される。図21と図17との比較より解る如く、ステップ625〜645に代えてそれぞれステップ625a〜645aが実行される。
【0324】
ステップ625aに於いては上記ステップ571と同様の要領にて前輪の舵角の偏差Δδbtが演算される。尚前輪の舵角の偏差Δδatは上記ステップ571にて演算された値であってもよい。
【0325】
ステップ635aに於いては運転者により操舵操作が行われないと仮定して前輪の舵角を予め設定された制限値以下の変化率にて目標舵角δbtへ変化させるために必要なサイクル毎の舵角制御量Δδbtcが演算される。例えばNcサイクルかけて前輪の舵角を目標舵角δbtへ変化させるとすると、舵角制御量ΔδbtcはΔδbt/Ncである。
【0326】
ステップ645aに於いてはアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30のサイクル毎の相対回転角度制御量Δθrecが舵角制御量Δδbtcとギヤ比係数Ksとの積に演算される。
【0327】
またこの実施形態に於いては、各車輪の制動力はステップ1040を除き第三の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Ksf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0328】
またこの第三の実施形態(その2)のステップ600に於いては、目標舵角δbtと前サイクルの前輪の舵角δfとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって目標舵角δbtに制御される。
【0329】
従って第三の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Kmfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0330】
これに対し路面の摩擦係数μが低いときには、配分比Ksfが1よりも小さい正の値に設定され、これにより前輪の舵角が目標舵角δbtに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低い状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0331】
特に第三の実施形態(その1及び2)によれば、前輪の舵角の制御は上述の第一の実施形態(その1及び2)と同様に軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。よって後述の第四の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、指数関数の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0332】
第四の実施形態(その1及び2)
この第四の実施形態は上記表1に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:セミバイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:アシストトルクの制御(第二の方式)
【0333】
この第四の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、アシストトルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第三の実施形態のその1及び2と同様に実行される。よってその1の前輪の目標舵角はδbtmであり、その2の前輪の目標舵角はδbtである。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0334】
即ちサイクル毎に現在の操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δbtm又は目標舵角δbtと前輪の舵角δとの偏差として目標相対回転角度θretが演算される。そしてアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を目標相対回転角度θret回転させるよう舵角可変装置14が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御される。
【0335】
従って第四の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。そして第四の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第二の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0336】
特に第四の実施形態(その1及び2)によれば、目標相対回転角度θretは目標舵角δδbtm又はδbtと前輪の現在の舵角δとの偏差として演算される。従って軌跡制御が開始又は更新された後に運転者によって操舵操作が行われても、前輪の舵角を確実に目標舵角δδbtm又はδbtに制御することができる。また車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるに適した舵角になるよう運転者によって操舵操作が行われる場合には、フィードバック制御量が小さくなる。よって運転者が運転操作に熟練している場合には、上述の第三の実施形態の場合に比して舵角可変装置14の制御量を低減し、その負荷を軽減することができる。
【0337】
また上述の第一乃至第四の実施形態によれば、ステップ750に於いて軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を相殺するための操舵トルクの変動量ΔThatが演算される。そしてステップ800に於いて目標アシストトルクTpatが運転者の操舵負担軽減トルクTpadと操舵トルクの変動量ΔThatとの和に演算され、アシストトルクが目標アシストトルクTpatになるよう電動式パワーステアリング装置22が制御される。
【0338】
従って運転者の操舵負担を軽減することができるだけでなく、軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を相殺し、軌跡制御に起因して運転者が操舵トルクに違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0339】
第五の実施形態(その1)
この第五の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0340】
図22はバイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態を示す概略構成図である。
【0341】
図22に於いて、符号80は第五の実施形態の走行制御装置を全体的に示している。操舵入力手段としてのステアリングホイール20が運転者によって操舵操作されると、ラック・アンド・ピニオン型のステアリング機構82によりラックバー84及びタイロッド26L及び26Rが駆動され、これにより左右の前輪18FL及び18FRが転舵される。
【0342】
ステアリングホイール20に連結されたステアリングシャフト86及びステアリング機構82のピニオンシャフト88は相互に連結されていない。ステアリングシャフト86には図12には示されていない減速歯車機構を介して操舵反力トルク付与用の電動機90が連結されている。電動機90は電子制御装置92の操舵反力制御部によって制御され、これによりステアリングホイール20に所要の操舵反力トルクが付与される。ピニオンシャフト88には図12には示されていない減速歯車機構を介して転舵駆動用の電動機94が連結されている。電動機94は電子制御装置92の舵角制御部によって制御され、これによりピニオンシャフト88が回転駆動される。
【0343】
尚図示の実施形態に於いては、ピニオンシャフト88の回転は回転−直線運動変換機構としてのラック・アンド・ピニオン型のステアリング機構82によりラックバー84の直線運動に変換されるようになっているが、ステアリング機構は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0344】
かくしてステアリングホイール20、ステアリング機構82、電動機90、94等は、運転者の操舵操作に応じて左右の前輪18FL及び18FRを転舵すると共に、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪の舵角を修正するバイワイヤ式の操舵装置96を構成している。
【0345】
上述の第一乃至第四の実施形態の場合と同様に、各車輪の制動力は制動装置46の油圧回路48によりホイールシリンダ50FL、50FR、50RL、50RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各車輪の制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル52の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ54の圧力Pmに基づいて電子制御装置16の制動力制御部によって増減圧制御弁等が制御されることにより制御される。
【0346】
ステアリングシャフト86には操舵角θを検出する操舵角センサ50が設けられており、操舵角センサ50により検出された操舵角θを示す信号は電子制御装置92へ入力される。電子制御装置92には車速センサ56により検出された車速Vを示す信号及び回転角度センサ98により検出されたピニオンシャフト88の回転角度θpを示す信号も入力される。
【0347】
尚電子制御装置92の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ50及び回転角度センサ98はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θ及び回転角度θpを検出する。
【0348】
後に詳細に説明する如く、電子制御装置92は図23及び図24に示されたフローチャートに従って操舵装置96の電動機90及び94を制御する。特に電子制御装置92も操舵角θ及び車速Vに基づき車両の軌跡制御の必要性を判定する。そして電子制御装置92は、軌跡制御が不要であると判定したときには、車速Vが高いほど大きくなるよう、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための目標ステアリングギヤ比Ntを演算する。更に電子制御装置92はステアリングギヤ比が目標ステアリングギヤ比Ntになるよう操舵装置96の電動機94を制御する。
【0349】
また電子制御装置92は、軌跡制御が必要であると判定したときには、そのときの操舵角θ及び車速Vに基づき車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δat=δ′を上記式24に従って演算する。そして電子制御装置92は、上述の第一の実施形態(その1)修正後の場合と同一の要領にて前輪の修正後の目標舵角δatmを演算し、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになるよう操舵装置96の電動機94をフィードフォワード式に制御する。
【0350】
尚電子制御装置92は、左右前輪の舵角が修正後の目標舵角δatmになると、軌跡制御の更新条件又は終了条件が成立しない限り、左右前輪の舵角を変更しない。
【0351】
また電子制御装置92は、軌跡制御が実行されているか否かに関係なく、上記式82に従って補正後の検出操舵トルクTh0を演算すると共に、補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて操舵負担軽減トルクTpadを演算する。そして電子制御装置92は、上記式89に従って目標操舵トルクThbtを演算し、操舵トルクが目標操舵トルクThbtになるよう操舵装置96の電動機90を制御する。
【0352】
次に図23及び図24に示されたフローチャートを参照して第五の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御及び反力トルクの制御について説明する。尚図23に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図23及び図24に於いて、それぞれ図2及び図6に示されたステップに対応するステップには、図2及び図6に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
【0353】
図23と図2との比較より解る如く、この第五の実施形態(その1)に於いては前輪の舵角の制御は基本的には上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に実行される。しかし第一の実施形態(その1)に於けるステップ750及びプ800に対応するステップは実行されず、ステップ600又は700が完了すると、制御はステップ900へ進む。
【0354】
またこの第五の実施形態(その1)に於けるステップ600に於いては、図24に示されたフローチャートに従って車両を円弧状の目標軌跡に沿って走行させる軌跡制御のための前輪の舵角の制御が行われる。
【0355】
図24に示されたフローチャートのステップ610〜630及びステップ650は上述の第一の実施形態(その1)の場合と同様に実行されるが、第一の実施形態(その1)のステップ640に対応するステップは実行されない。
【0356】
ステップ630の次に実行されるステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ660及び670に於ける前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0357】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ660に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが前輪の舵角の前回値δatmfとステップ630に於いて演算された舵角制御量Δδatmcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ670に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0358】
ステップ680に於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0359】
ステップ690に於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δatmpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δatmfに設定される。
【0360】
また上述の第一乃至第四の実施形態に於けるステップ800に対応するステップ900に於いては、運転者が操舵反力として感じる操舵トルクの制御が行われる。まず操舵角θに基づいて上記式82に従って補正後の検出操舵トルクTh0が演算される。また補正後の検出操舵トルクTh0に基づいて図25に示されたグラフに対応するマップより基本操舵負担軽減トルクTpadbが演算され、車速Vに基づいて図7に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算される。そして操舵負担軽減トルクTpadが基本操舵負担軽減トルクTpadbと車速係数Kvとの積に演算される。尚操舵負担軽減トルクTpadは図26に示されたグラフに対応するマップより演算されてもよい。
【0361】
更に補正後の検出操舵トルクTh0及び操舵負担軽減トルクTpadに基づき上記式89に従って目標操舵トルクThbtが演算され、操舵トルクが目標操舵トルクThbtになるよう操舵装置96の電動機90が制御される。
【0362】
尚上述の電動機90の制御による操舵トルクの制御は、後述の第五の実施形態(その2)、第六乃至第八の実施形態に於いても同様に行われる。即ち舵角制御装置がバイワイヤ式のものである場合には、操舵トルクの制御は、目標軌跡が円弧状であるか否かや舵角の制御がフィードフォワード制御であるか否かに関係なく同一の要領にて行われる。
【0363】
尚この実施形態に於いても、各車輪の制動力は図7に示されたフローチャートに従って第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。
【0364】
この第五の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δatmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が円弧状の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0365】
特に第五の実施形態(その1)によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また偏差Δδatに基づく前輪の舵角の制御が完了すると、軌跡制御が終了又は更新されるまで軌跡制御のための前輪の舵角の制御は行われない。よって後述の第六の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御であり、サイクル毎に前輪の舵角の検出を要する場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0366】
第五の実施形態(その2)
この第五の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第五の実施形態(その1)と異なる。よって第五の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0367】
この実施形態に於いては、図2に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、上述の第一の実施形態(その2)の場合と同様に図15に示されたフローチャートに従って実行される。
【0368】
また図2に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図27に示されたフローチャートに従って実行される。図27と図17との比較より解る如く、ステップ610〜635及びステップ650は上述の第一の実施形態(その2)の場合と同様に実行される。
【0369】
ステップ635の次に実行されるステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ665及び675に於ける前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0370】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ665に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが前輪の舵角の前回値δatfとステップ635に於いて演算された舵角制御量Δδatcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ675に於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0371】
ステップ685に於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0372】
ステップ695に於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δatpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δatfに設定される。
【0373】
またこの実施形態に於いても、各車輪の制動力はステップ1040を除き第一の実施形態(その1)の場合と同様に制御される。ステップ1040に於いては係数Kbf及びヨーモーメントの必要修正量ΔMvに基づいて上記式71に従って左右後輪の制動力差による補填のヨーモーメントMfが演算される。
【0374】
従って第五の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードフォワード制御によって目標舵角δatに制御することができる。そして路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0375】
特に第五の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δatm又はδatに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで操舵装置96によるピニオンシャフト88の回転角度の制御は行われない。よって後述の第六の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、円弧状の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0376】
尚前述の如く係数Ksfは路面の摩擦係数μ及び前輪のコーナリングフォースの指標値に基づいて演算されればよい。従って前輪のコーナリングフォースの指標値として、前輪の舵角δではなく、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpや前輪のコーナリングフォースの推定値が採用されてもよい。
【0377】
第六の実施形態(その1及び2)
この第六の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:円弧状
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0378】
この第六の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第五の実施形態のその1及び2と同様に実行される。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0379】
即ちサイクル毎にピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の現在の舵角δが求められ、修正後の目標舵角δatm又は目標舵角δatと現在の舵角δとの偏差Δδatm又はΔδatが演算される。そして舵角の偏差Δδatm又はΔδatの大きさが小さくなるよう操舵装置96の電動機94が制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御される。
【0380】
従って第六の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δatm又はδatに制御することができる。そして第六の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第六の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ円弧状の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0381】
特に第六の実施形態(その1及び2)によれば、舵角の偏差Δδatm又はΔδatはサイクル毎に前輪の目標舵角δatm又はδatと現在の舵角δとの偏差として演算される。従って前輪の舵角がフィードフォワード式に制御される上述の第五の実施形態の場合に比して正確に前輪の舵角を目標舵角δatm又はδatに制御することができる。
【0382】
第七の実施形態(その1)
この第七の実施形態(その1)は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御
舵角の制御:フィードフォワード
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0383】
図28に示されている如く、この第七の実施形態(その1)に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は基本的には上述の第五の実施形態(その1)と同様に実行される。しかしステップ350又は450に於いて肯定判別が行われると、ステップ495に於いてピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、前輪の舵角δ及び車速Vに基づいて上記式46に従って距離x0が演算される。また上述の第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ495に於いては最小時間ΔT及びウェバー比のkをそれぞれ一般的な運転者について予め設定された正の定数として、上記式42に従って補正係数Dが演算される。
【0384】
またこの第七の実施形態(その1)に於いては、上述の第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ550(図19のステップ553〜568)に於いて車両を指数関数の軌跡に沿って走行させるための前輪の目標舵角δbtがサイクル毎に演算される。また第三の実施形態(その1)の場合と同様に、ステップ550(図19のステップ571〜586)に於いて車両を指数関数の軌跡に沿って走行させるための前輪の修正後の目標舵角δbtmがサイクル毎に演算される。
【0385】
またこの第七の実施形態(その1)のステップ600に於いては、前輪の舵角はサイクル毎に前輪の修正後の目標舵角δbtmを目標としてフィードフォワード式に制御される。即ちサイクル毎に現サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmと前サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmfとの偏差に基づいて操舵装置96の電動機94が制御される。よって前輪の舵角はフィードフォワード制御によって修正後の目標舵角δbtmに制御される。
【0386】
尚軌跡制御が開始又は更新されるときの「前サイクルの前輪の修正後の目標舵角δbtmf」は、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて求められる前輪の舵角δに設定される。
【0387】
従って第七の実施形態(その1)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、ヨーモーメントMsが発生するよう前輪の舵角を修正後の目標舵角δbtmに制御し、ヨーモーメントMfが発生するよう左右後輪の制動力差を制御することができる。よってMsとMfとの和であるΔMvのヨーモーメントを車両に付与し、これにより運転者の操舵操作を要することなく車両が指数関数の目標軌跡に沿って走行するよう車両の走行軌跡を制御することができる。
【0388】
第七の実施形態(その2)
この第七の実施形態(その2)は、ヨーモーメントの制御が分配制御ではなく補填制御である点が第七の実施形態(その1)と異なる。よって第七の実施形態(その1)と異なる点について説明する。
【0389】
この実施形態に於いては、図23に示されたフローチャートのステップ500に於ける前輪の目標舵角の演算は、上述の第三の実施形態(その2)の場合と同様に、図20に示されたフローチャートに従って実行される。
【0390】
また図23に示されたフローチャートのステップ600に於ける前輪の舵角の制御は、図29に示されたフローチャートに従って実行される。図29と図27との比較より解る如く、ステップ625及び630に代えて第三の実施形態(その2)の場合と同様にそれぞれステップ625a及び630aが実行される。またステップ665〜695に代えてそれぞれステップ665a〜695aが実行される。
【0391】
ステップ645に於いては、軌跡制御が開始又は更新されるときのピニオンシャフト88の回転角度θpに基づいて前輪の舵角δが求められ、その値が後述のステップ665a及び675aに於ける前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0392】
またステップ650に於いて否定判別が行われたときには、ステップ665aに於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが前輪の舵角の前回値δbtfとステップ635aに於いて演算された舵角制御量Δδbtcとの和に設定される。これに対しステップ650に於いて肯定判別が行われたときには、ステップ675aに於いて現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0393】
ステップ685aに於いては前輪の舵角が現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpになるよう操舵装置96の電動機94が制御される。
【0394】
ステップ695aに於いては現サイクルの前輪の舵角の目標値δbtpが次のサイクルに備えて前輪の舵角の前回値δbtfに設定される。
【0395】
またこの実施形態に於いても、各車輪の制動力はステップ1040を除き上述の第三の実施形態(その2)の場合と同様に制御される。
【0396】
従って第七の実施形態(その2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させるための必要修正量ΔMvのヨーモーメントが発生するよう前輪の舵角が目標舵角δbtに制御される。路面の摩擦係数μが高い通常時には、配分比Kmfが0に設定され、これにより左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの補填を要することなく、車両を指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0397】
これに対し路面の摩擦係数μが低いときには、配分比Kmfが1よりも小さい正の値に設定され、これにより前輪の舵角が目標舵角δbtに制御されても不足するヨーモーメントの少なくとも一部が左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfによって補填される。よって路面の摩擦係数μが低い状況に於いても、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0398】
特に第七の実施形態のその1及びその2によれば、前輪の舵角の制御は軌跡制御が開始又は更新されるときの操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて行われるフィードフォワード制御である。また前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御されると、軌跡制御が終了又は更新されるまで操舵装置96によるピニオンシャフト88の回転角度の制御は行われない。よって後述の第八の実施形態の場合の如く、前輪の舵角の制御がフィードバック制御である場合に比して、指数関数の軌跡を目標軌跡とする軌跡制御を単純に実行することができる。
【0399】
第八の実施形態(その1及び2)
この第八の実施形態は上記表2に示されている如く以下の特徴を有する。
舵角制御装置:バイワイヤ式
目標軌跡:指数関数
ヨーモーメントの制御:分配制御(その1)
補填制御(その2)
舵角の制御:フィードバック
操舵反力の制御:非機械的舵角制御装置の操舵反力の制御
【0400】
この第八の実施形態のその1及び2に於ける前輪の舵角の制御、反力トルクの制御及び各車輪の制動力の制御は、基本的にはそれぞれ上述の第七の実施形態のその1及び2と同様に実行される。しかしステップ600に於ける舵角制御に於いては前輪の舵角がフィードバック制御される。
【0401】
即ちサイクル毎に操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいて前輪の現在の舵角δが求められる。そして修正後の目標舵角δbtm又は目標舵角δbtと現在の舵角δとの偏差に基づいて操舵装置96の電動機94が制御されることにより、前輪の舵角が目標舵角δbtm又はδbtに制御される。よって前輪の舵角はフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御される。
【0402】
従って第八の実施形態(その1及び2)によれば、軌跡制御が実行されるべき状況に於いては、運転者の操舵操作の有無に関係なく前輪の舵角をフィードバック制御によって目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。そして第八の実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正によるヨーモーメントMs及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより、車両を確実に指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。また第八の実施形態のその2によれば、路面の摩擦係数μが低い状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfを補填することにより、車両をできるだけ指数関数の目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0403】
特に第八の実施形態(その1及び2)によれば、前輪の舵角はサイクル毎に目標舵角δbtm又はδbtと現在の舵角δとの偏差に基づいて制御される。従って前輪の舵角がフィードフォワード式に制御される上述の第七の実施形態の場合に比して正確に前輪の舵角を目標舵角δbtm又はδbtに制御することができる。
【0404】
また上述の第五乃至第八の実施形態によれば、舵角制御装置がセミバアワイヤ式の舵角制御装置であり舵角制御装置により前輪の舵角が制御されない場合の操舵トルクに相当する値として、補正後の検出操舵トルクTh0が演算される。そして補正後の検出操舵トルクTh0及び車速Vに基づいて操舵負担軽減トルクTpadが演算される。更に補正後の検出操舵トルクTh0より操舵負担軽減トルクTpadを減算した値として目標操舵トルクTpbtが演算され、操舵トルクが目標操舵トルクTpbtになるよう操舵装置96の電動機90が制御される。
【0405】
従って運転者に適度の操舵負担を与えることができるだけでなく、軌跡制御に伴う前輪の舵角の制御に起因する操舵トルクの変動を防止し、軌跡制御に起因して運転者が操舵トルクに違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
【0406】
以上の説明より、上述の各実施形態によれば、車両の目標軌跡や実軌跡を求めるための車外情報の取得を要することなく、車両を運転者が希望する軌跡に沿って走行させることができることが理解されよう。
【0407】
また上述の各実施形態のその1によれば、前輪の舵角の修正制御によるヨーモーメントの変化量Ms及び左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfの和がヨーモーメントの必要修正量ΔMvになるよう車両に与えられる。よって左右後輪の制動力差を有効に利用して車両の軌跡を目標軌跡に制御することができる。
【0408】
尚左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfはヨーモーメントの必要修正量ΔMvの一部である。よってヨーモーメントの必要修正量ΔMvの全てが左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfにより達成される場合に比して、左右後輪の制動力の制御量は小さく、従って制動力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0409】
また上述の各実施形態のその2によれば、前輪の舵角が目標舵角に制御されてもヨーモーメントが不足する状況に於いて、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfが補填される。よって例えば路面の摩擦係数が低い状況に於いても、ヨーモーメントMfの補填により、車両をできるだけ目標軌跡に沿って走行させることができる。
【0410】
尚前輪の舵角が目標舵角に制御されるとヨーモーメントの必要修正量ΔMvが達成される状況に於いては、左右後輪の制動力差によるヨーモーメントMfは補填されない。またヨーモーメントMfの補填はよって不足するヨーモーメントについてのみ行われる。よって上述の各実施形態のその1の場合に比して左右後輪の制動力の制御量は小さく、従って制動力差の制御に起因する車速の変化も小さい。
【0411】
また上述の各実施形態のその2によれば、係数Ksfは路面の摩擦係数μ及び軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪の舵角δに基づいて演算される。従って例えば軌跡制御が開始又は更新されるときの前輪のコーナリングフォースが推定値され、係数Ksfが路面の摩擦係数μ及びコーナリングフォースの推定値に基づいて演算される場合に比して、係数Ksfを能率的に演算することができる。
【0412】
また上述の第一、第二、第五、第六の実施形態によれば、目標軌跡は円弧状の軌跡であるので、目標軌跡が指数関数の軌跡である場合に比して、必要な演算量を少なくし、車両の軌跡を容易に制御することができる。
【0413】
また上述の第三、第四、第七、第八の実施形態によれば、目標軌跡は指数関数の軌跡であるので、目標軌跡が円弧状の軌跡である場合に比して、車両の軌跡を車両の乗員にとって一層好ましい軌跡に制御することができる。特にこれらの実施形態によれば、距離xが上記式40に従って変化するよう指数関数の目標軌跡が設定される。よって目標軌跡が円弧状の軌跡である場合に比して、人の知覚特性にとって好ましい軌跡を達成することができる。
【0414】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0415】
例えば案内棒は前輪の前後方向に沿って延在するものとされているが、車両の前後方向に対する案内棒の傾斜角は運転者の操舵操作量に基づいて設定される限り、前輪の前後方向に沿う方向とは異なる方向であってもよい。例えば案内棒の傾斜角は前輪の舵角δと方向の補正係数Kdとの積に設定されてもよい。
【0416】
また各実施形態に於いては、車両の走行制御は前輪の舵角の制御と操舵トルクの制御と左右後輪の制動力差の制御とを含んでいるが、操舵トルクの制御は任意の要領にて実行されてよい。例えば上述の第一乃至第四の実施形態に於いては、操舵反力の制御は上記第二の方式により制御されるようになっているが、上記第一の方式により制御されるよう修正されてもよい。
【0417】
前述の如く本発明は後輪駆動車や四輪駆動車に適用されてもよい。車両が四輪駆動車である場合には、図13に対応するマップの修正は不要であるが、車両が後輪駆動車である場合には、図13に対応するマップは図13の左半分に修正されてよい。
【0418】
また各実施形態に於いては、旋回内側後輪に制動力が付加されるようになっている。しかし車両が少なくとも左右後輪の駆動力を個別に制御可能な車両である場合には、旋回内側後輪に制動力が付加されると共に旋回外側後輪に駆動力が付加されることによりヨーモーメントMfが車両に付与されるよう修正されてもよい。この場合には左右輪の前後力差の制御に起因する車速の変化を各実施形態の場合よりも更に小さくすることができる。
【0419】
また各実施形態に於いては、前輪の舵角はフィードフォワード式又はフィードバック式に制御されるようになっているが、それぞれゲインが乗算されたフィードフォワード制御量とフィードバック制御量との和に基づいて制御されるよう修正されてもよい。
【0420】
また上述の第一及び第五の実施形態に於いては、サイクル毎の舵角の制御量が同一の値に設定されるようになっているが、舵角の制御量はサイクル毎に異なる値に設定されるよう修正されてもよい。
【符号の説明】
【0421】
10…走行制御装置、14…舵角可変装置、20…ステアリングホイール、22…電動式パワーステアリング装置、46…制動装置、50…操舵角センサ、52…操舵トルクセンサ、54…回転角度センサ、56…車速センサ、80…走行制御装置、82…ステアリング機構、90、94…電動機、100…前輪、102…後輪、104…車両、108…目標進路、110…案内棒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角の関係を変更する舵角制御手段と、左右輪の前後力を相互に独立に制御可能な車輪前後力制御手段とを備えた車両の走行制御装置であって、予め設定された手順に従って車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときにはその時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算し、前記舵角制御手段により前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記車輪前後力制御手段により前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントを演算し、車両の走行状況に基づいて前記目標ヨーモーメントの達成に対する前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算し、前記目標ヨーモーメント及び前記寄与比率に基づいて操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては前記目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れを判定し、前記操舵輪の舵角の制御により車両に付与されるヨーモーメントを補填する補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差を前記虞れに基づいて演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算することを特徴とする請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記虞れが高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記虞れが高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記虞れを判定することを特徴とする請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記目標軌跡は、前記目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、前記時点に於ける車両の位置より前記時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、前記時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線であることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記目標軌跡は、前記時点に於ける車両の位置に於いて前記時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ前記目標到達位置に於いて前記目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線であることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記時点に於ける操舵輪の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項9】
操舵輪の実際の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項10】
前記目標到達位置は前記時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて決定され、前記目標進行方向は前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項11】
前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度として、前記目標到達位置は前記時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し前記基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し、前記時点に於ける車両の位置から前記目標到達位置までの距離は車速に依存する値であることを特徴とする請求項10に記載の車両の走行制御装置。
【請求項12】
前記時点に於ける車両の位置と前記目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、前記目標進行方向は前記目標到達位置に於いて前記方向の基準線に対し前記基準角度傾斜した方向に決定されることを特徴とする請求項11に記載の車両の走行制御装置。
【請求項13】
前記軌跡の制御を行っていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を開始すべきと判定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項14】
前記軌跡の制御を行っている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を更新すべきと判定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項15】
前記時点に於ける車両から前記時間の座標軸までの距離を基準距離として、前記基準距離と前記時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離が求められ、前記目標軌跡は前記時間の座標軸から前記目標距離の位置を結ぶ線として求められることを特徴とする請求項6に記載の車両の走行制御装置。
【請求項16】
操舵操作の必要性に関連する車外の視覚情報の変化が発生してから人が当該視覚情報の変化を知覚するまでに要する一般的な時間をΔTとし、ウェバー比を−kとし、前記時点からの経過時間をtとして、前記自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであることを特徴とする請求項15に記載の車両の走行制御装置。
【請求項17】
前記舵角制御手段は、運転者により操作される操舵入力手段に対し相対的に操舵輪を駆動することにより操舵輪の舵角を修正する舵角可変手段と、前記舵角可変手段を制御する制御手段とを有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項18】
前記舵角制御手段は、操舵輪の舵角を変化させる転舵手段と、前記操舵入力手段に対する運転者の操舵操作量を検出する手段と、通常時には運転者の操舵操作量に基づいて前記転舵手段を制御し、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに前記転舵手段を制御する制御手段とを有するバイワイヤ式の舵角制御手段であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項1】
運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角の関係を変更する舵角制御手段と、左右輪の前後力を相互に独立に制御可能な車輪前後力制御手段とを備えた車両の走行制御装置であって、予め設定された手順に従って車両の軌跡の制御を開始又は更新すべきと判定したときにはその時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて車両が目標進行方向にて目標到達位置に到達するための車両の目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算し、前記舵角制御手段により前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記車輪前後力制御手段により前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための目標ヨーモーメントを演算し、車両の走行状況に基づいて前記目標ヨーモーメントの達成に対する前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算し、前記目標ヨーモーメント及び前記寄与比率に基づいて操舵輪の目標舵角及び左右輪の目標前後力差を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記目標軌跡に沿って車両を走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御することによっては前記目標軌跡に沿って車両を走行させることができない虞れを判定し、前記操舵輪の舵角の制御により車両に付与されるヨーモーメントを補填する補助ヨーモーメントを車両に付与するための左右輪の目標前後力差を前記虞れに基づいて演算し、前記目標舵角に基づいて操舵輪の舵角を制御すると共に、前記目標前後力差に基づいて左右輪の前後力差を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記操舵輪の舵角の制御の寄与比率が低くなり且つ前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率が高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記操舵輪の舵角の制御及び前記左右輪の前後力差の制御の寄与比率を演算することを特徴とする請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して前記虞れが高くなり、操舵輪のコーナリングフォースの指標値の大きさが大きいときには前記指標値の大きさが小さいときに比して前記虞れが高くなるよう、路面の摩擦係数及び前記指標値に基づいて前記虞れを判定することを特徴とする請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記目標軌跡は、前記目標進行方向を示す直線を時間の座標軸とし、前記時点に於ける車両の位置より前記時間の座標軸に下した垂線を距離の座標軸とする仮想の直交座標に於いて、前記時点からの経過時間を指数の変数とする指数関数の曲線であることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記目標軌跡は、前記時点に於ける車両の位置に於いて前記時点に於ける車両の前後方向を示す直線に接し且つ前記目標到達位置に於いて前記目標進行方向を示す直線に接する円弧状の曲線であることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記時点に於ける操舵輪の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項9】
操舵輪の実際の舵角と前記目標舵角との偏差の大きさが小さくなるよう操舵輪の舵角を修正することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項10】
前記目標到達位置は前記時点に於ける運転者の操舵操作量及び車速に基づいて決定され、前記目標進行方向は前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項11】
前記時点に於ける運転者の操舵操作量に基づいて決定される角度を基準角度として、前記目標到達位置は前記時点に於ける車両の位置より車両の前後方向に対し前記基準角度傾斜した方向に引いた直線上に位置し、前記時点に於ける車両の位置から前記目標到達位置までの距離は車速に依存する値であることを特徴とする請求項10に記載の車両の走行制御装置。
【請求項12】
前記時点に於ける車両の位置と前記目標到達位置とを結ぶ直線を方向の基準線として、前記目標進行方向は前記目標到達位置に於いて前記方向の基準線に対し前記基準角度傾斜した方向に決定されることを特徴とする請求項11に記載の車両の走行制御装置。
【請求項13】
前記軌跡の制御を行っていない状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御開始判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を開始すべきと判定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項14】
前記軌跡の制御を行っている状況に於いて、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第一の基準値よりも大きくなった後に運転者の操舵操作量の変化率の大きさが制御更新判定の第二の基準値よりも小さくなったときに前記軌跡の制御を更新すべきと判定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項15】
前記時点に於ける車両から前記時間の座標軸までの距離を基準距離として、前記基準距離と前記時点からの経過時間を指数の変数とする自然指数関数との積として目標距離が求められ、前記目標軌跡は前記時間の座標軸から前記目標距離の位置を結ぶ線として求められることを特徴とする請求項6に記載の車両の走行制御装置。
【請求項16】
操舵操作の必要性に関連する車外の視覚情報の変化が発生してから人が当該視覚情報の変化を知覚するまでに要する一般的な時間をΔTとし、ウェバー比を−kとし、前記時点からの経過時間をtとして、前記自然指数関数の指数は−(k/ΔT)tであることを特徴とする請求項15に記載の車両の走行制御装置。
【請求項17】
前記舵角制御手段は、運転者により操作される操舵入力手段に対し相対的に操舵輪を駆動することにより操舵輪の舵角を修正する舵角可変手段と、前記舵角可変手段を制御する制御手段とを有するセミバイワイヤ式の舵角制御手段であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項18】
前記舵角制御手段は、操舵輪の舵角を変化させる転舵手段と、前記操舵入力手段に対する運転者の操舵操作量を検出する手段と、通常時には運転者の操舵操作量に基づいて前記転舵手段を制御し、必要に応じて運転者の操舵操作に依存せずに前記転舵手段を制御する制御手段とを有するバイワイヤ式の舵角制御手段であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
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【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2012−11863(P2012−11863A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149062(P2010−149062)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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