説明

車両制御システム及び車両用制御装置

【課題】適正にショックを抑制することができる車両制御システム及び車両用制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両制御システム1は、車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する内燃機関4と、内燃機関4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを動力伝達可能に係合した状態と係合を解除した状態とに切り替え可能である係合装置10と、加速要求操作が解除され内燃機関4の燃焼室45への燃料の供給がカットされた機関ブレーキ状態で、加速要求操作がなされた際に、当該加速要求操作の操作量に応じた燃焼室45への吸気通路44の開度が機関ブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、係合装置10を制御して係合を解除した状態とすると共に、内燃機関4を制御して開度を機関ブレーキ状態での開度以上で保持する車両用制御装置8とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム及び車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御システム、あるいは、車両用制御装置として、例えば、特許文献1にはアクセルペダルが踏み込まれた状態ではアクセル開度に応じてスロットル開度を調節する一方、アクセルペダルが解放された状態ではアクセル開度にかかわらずスロットル開度を調節することで車両に作用するエンジンブレーキ力を調節する車両のエンジンブレーキ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−107784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載の車両のエンジンブレーキ制御装置は、例えば、解放された状態にあるアクセルペダルが再び踏み込まれた際にショックが発生するおそれがあり、このショックの抑制の点で、更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、適正にショックを抑制することができる車両制御システム及び車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両制御システムは、車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能である係合装置と、加速要求操作が解除され前記内燃機関の燃焼室への燃料の供給がカットされた機関ブレーキ状態で、前記加速要求操作がなされた際に、当該加速要求操作の操作量に応じた前記燃焼室への吸気通路の開度が前記機関ブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、前記係合装置を制御して前記係合を解除した状態とすると共に、前記内燃機関を制御して前記開度を前記機関ブレーキ状態での開度以上で保持する車両用制御装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記車両制御システムでは、前記内燃機関から前記駆動輪に伝達される動力を変速する変速機を備え、前記車両用制御装置は、前記変速機への入力回転速度が前記車両の車速に応じて変化する変速後の同期回転速度と同等になるまで前記開度を保持するものとすることができる。
【0008】
また、上記車両制御システムでは、前記内燃機関は、過給機が前記吸気通路の吸入空気の圧力を上昇させ過給を行うものであり、前記車両用制御装置は、前記過給機が作動するまで前記開度を保持するものとすることができる。
【0009】
また、上記車両制御システムでは、前記車両用制御装置は、前記係合装置の前記係合の解除と同時、あるいは、前記係合を解除した後に、前記内燃機関を制御し前記燃料の供給を開始するものとすることができる。
【0010】
また、上記車両制御システムでは、前記車両用制御装置は、前記内燃機関の機関回転速度に基づいて、前記開度を保持する期間を変えるものとすることができる。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用制御装置は、車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能である係合装置とを制御する車両用制御装置であって、加速要求操作が解除され前記内燃機関の燃焼室への燃料の供給がカットされた機関ブレーキ状態で、前記加速要求操作がなされた際に、当該加速要求操作の操作量に応じた前記燃焼室への吸気通路の開度が前記機関ブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、前記係合を解除した状態とすると共に、前記開度を前記機関ブレーキ状態での開度以上で保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両制御システム、車両用制御装置は、適正にショックを抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムが適用される車両の概略構成図である。
【図2】図2は、エンジンの概略部分断面図である。
【図3】図3は、比較例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【図4】図4は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【図5】図5は、実施形態に係るECUによる復帰フラグON/OFF判定制御の一例を説明するフローチャートである。
【図6】図6は、実施形態に係るECUによるクラッチ解放・スロットル保持制御の一例を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、ディレー時間マップの一例を示す線図である。
【図8】図8は、比較例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は、変形例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両制御システムが適用される車両の概略構成図、図2は、エンジンの概略部分断面図、図3は、比較例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャート、図4は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャート、図5は、実施形態に係るECUによる復帰フラグON/OFF判定制御の一例を説明するフローチャート、図6は、実施形態に係るECUによるクラッチ解放・スロットル保持制御の一例を説明するフローチャート、図7は、ディレー時間マップの一例を示す線図、図8は、比較例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャート、図9は、変形例に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
【0016】
本実施形態の車両制御システム1は、図1に示すように、車両2に適用され、駆動輪3を駆動するための動力を発生させる内燃機関としてのエンジン4と、エンジン4が発生した動力を駆動輪3に伝達する動力伝達系をなす動力伝達装置5と、車両2の制動装置としてのブレーキ装置6と、車両2の状態を検出する状態検出装置7と、車両制御システム1を含む車両2の各部を制御する車両用制御装置としてのECU8とを備える。なお、以下で説明する車両用制御装置は、車両2の各部を制御するECU8によって構成されるものとして説明するが、これに限らず、車両用制御装置とECU8とが別個に構成されていてもよい。
【0017】
エンジン4は、車両2を走行させる走行用駆動源(原動機)である。エンジン4は、燃料の燃焼に伴って車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生させる。エンジン4は、図2にも示すように、吸気管41、サージタンク42、吸気ポート43などの吸気通路44を介して燃焼室45内に吸気される空気と、燃料噴射弁46から供給される燃料とが燃焼室45内で燃焼することにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して出力する熱機関である。エンジン4は、吸気通路44に設けられたスロットル弁47が開閉駆動することで、吸気通路44(ここでは吸気管41)の開度に相当するスロットル開度を調節し、燃焼室45に吸気される吸入空気量を調節することができる。エンジン4は、燃料噴射弁46、スロットル弁47などの各部の動作がECU8によって制御される。なお、図2に示すエンジン4は、吸気通路44をなす吸気ポート43に燃料を噴射するいわゆるポート噴射式であるものとして図示しているが、燃焼室45に直接燃料を噴射するいわゆる直噴式であってもよい。
【0018】
動力伝達装置5は、図1に示すように、ロックアップクラッチ付きの流体伝達装置であるトルクコンバータ9、係合装置としてのクラッチ10を含んで構成される変速機11、変速機11に連結されるデファレンシャルギヤ12、デファレンシャルギヤ12と駆動輪3とを連結するドライブシャフト13等を含んで構成される。トルクコンバータ9、変速機11等は、各部がTM油圧制御装置14を介してECU8によって制御される。
【0019】
トルクコンバータ9は、ロックアップクラッチがOFF(ロックアップOFF)である場合に、エンジン4からの動力を、流体伝達部によってトルクを増幅して、変速機11に伝達する。トルクコンバータ9は、ロックアップクラッチがON(ロックアップON)である場合に、エンジン4からの動力を、ロックアップクラッチを介してそのままのトルクで、変速機11に伝達する。クラッチ10は、種々のクラッチを用いることができ、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態とに切り替え可能である。クラッチ10は、解放状態となることでエンジン4と駆動輪3とを切り離しエンジン4と駆動輪3との間での動力伝達を遮断可能である。変速機11は、エンジン4から駆動輪3に伝達される回転動力(回転出力)を所定の変速比で変速してデファレンシャルギヤ12に伝達する。デファレンシャルギヤ12は、伝達された動力を、各ドライブシャフト13を介して各駆動輪3に伝達する。
【0020】
なおここでは、係合装置は、クラッチ10であるものとして説明するが、これに限らず、例えば、変速機11の本体部にて各変速段を実現するための種々のクラッチ等であってもよいし、トルクコンバータ9のロックアップクラッチであってもよい。また、変速機11は、例えば、手動変速機(MT)、有段自動変速機(AT)、無段自動変速機(CVT)、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)など種々の構成のものを用いることができる。
【0021】
エンジン4が発生した動力は、トルクコンバータ9を介して変速機11のクラッチ10に入力され、変速機11にて所定の変速比で変速されて、デファレンシャルギヤ12及びドライブシャフト13を介して駆動輪3に伝達される。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0022】
ブレーキ装置6は、駆動輪3を含む車輪に制動力を作用させる。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に制動力[N]が生じ、これにより制動することができる。ブレーキ装置6は、各部がブレーキ油圧制御装置15を介してECU8によって制御される。
【0023】
状態検出装置7は、ECU8と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置7は、例えば、運転者によるアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)に相当するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ71、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ72、エンジン4のクランクシャフトの回転数であるエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ73、変速機11の入力軸回転数を検出する入力軸回転数センサ74、車両2の走行速度である車速を検出する車速センサ75等の車両2の各部に設けられた種々のセンサ、検出装置等を含む。なお、入力軸回転数センサ74が検出する入力軸回転数は、トルクコンバータ9のタービン回転数に相当する。
【0024】
ECU8は、車両2の各部の駆動を制御するものであり、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU8は、状態検出装置7から検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果等に応じて、エンジン4、ブレーキ装置6、トルクコンバータ9、変速機11等を制御し、例えば、変速機11の変速動作やクラッチ10の係合・解放動作等を制御する。ECU8は、例えば、アクセル開度センサ71による検出結果に基づいて、運転者による車両2に対する加速要求操作であるアクセル操作のON/OFFを検出することができる。
【0025】
ECU8は、例えば、車両2の通常の走行時においては、アクセル開度、車速等に基づいて、エンジン4のスロットル弁47を制御し、スロットル開度を調整し、エンジン4への吸入空気量を調節して、その変化に対応して燃料噴射量を制御し、燃焼室45に充填される混合気の量を調節してエンジン4の出力制御を行う。また、ECU8は、アクセル開度、車速等に基づいて、TM油圧制御装置14を制御し、クラッチ10の係合・解放制御や変速機11の変速制御を行う。
【0026】
そして、ECU8は、車両2の走行中に、所定の条件下で、燃料噴射弁46を制御して、エンジン4の燃焼室45への燃料の供給をカットする燃料カット(フューエルカット)制御を実行する。ECU8は、例えば、アクセル開度センサ71によって検出されるアクセル開度が所定の値以下である場合に、燃料カット制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、不要な燃料消費を抑制し燃費を向上することができる。
【0027】
また、ECU8は、燃料カット中、すなわち、燃焼室45への燃料の供給をカットした状態である場合に、アクセル開度にかかわらず、スロットル弁47を制御して、燃料の供給をカットした状態でない場合と比較して、燃焼室45への吸気通路44の開度に相当するスロットル開度を大きくし、例えば、全開とする制御を行ってもよい。これにより、車両制御システム1は、車両2の減速燃料カット中に、スロットル弁47を開くことでポンピング損失を低減し、適切なエンジンブレーキ(機関ブレーキ)を生じさせたり、変速機11のシフトダウンに伴うトルクショックを低減したりすることができる。
【0028】
そして、本実施形態のECU8は、所定のエンジンブレーキ状態で、加速要求操作がなされた際に、所定の条件下で、クラッチ10を制御して係合を解除した解放状態とすると共に、エンジン4のスロットル弁47を制御して燃焼室45への吸気通路44の開度に相当するスロットル開度を上記所定のエンジンブレーキ状態での開度以上で保持することで、例えば、解放された状態にあるアクセルペダルが再び踏み込まれた際に発生するショックを適正に抑制している。
【0029】
ここで、上記所定のエンジンブレーキ状態とは、加速要求操作が解除されエンジン4の燃焼室45への燃料の供給がカットされ、車両2に対してエンジン4の回転抵抗を利用したエンジンブレーキが作用する状態であり、典型的にはスロットル開度が相対的に大きな開度、例えば、全開に制御されポンピング損失が低減された状態である。また、加速要求操作とは、例えば、上述したようにアクセル操作に相当する。加速要求操作が解除された状態とは、運転者によりアクセルペダルが解放されアクセル操作がOFFとなった状態、例えば、アクセル開度センサ71が検出するアクセル開度が所定開度より小さい状態である。一方、加速要求操作がなされた状態とは、運転者によりアクセルペダルが踏み込まれて、アクセル操作がONとなった状態、例えば、アクセル開度センサ71が検出するアクセル開度が所定開度以上である状態である。また、上記所定の条件下とは、加速要求操作の操作量、ここでは、アクセル開度に応じた燃焼室45への吸気通路44の開度に相当するスロットル開度が上記所定のエンジンブレーキ状態での開度より小さくなる場合である。
【0030】
すなわち、ECU8は、アクセル操作がOFFとされ燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、アクセル操作がONされ再加速する際に、アクセル開度に応じたスロットル開度がアクセル操作ON前のエンジンブレーキ状態でのアクセル開度より小さくなると判定した場合に、クラッチ10を制御して解放状態とすると共に、スロットル保持制御として、スロットル開度を上記エンジンブレーキ状態での開度以上で保持する。そして、ECU8は、クラッチ10の係合の解除と同時、あるいは、クラッチ10の係合を解除した後に、エンジン4の燃料噴射弁46を制御し燃料の供給を開始し、燃料カット状態から復帰する。
【0031】
そして、ECU8は、典型的には、変速機11への入力回転速度に相当するトルクコンバータ9のタービン回転数(変速機11への入力軸回転数)が車両2の車速に応じて変化する変速後の同期回転数(同期回転速度)と同等になるまで、スロットル開度を上記エンジンブレーキ状態での開度以上で保持する。ここで、同期回転数は、変速後の目標の入力軸回転数に応じた回転数に相当し、例えば、実車評価等により変速段、車速等に応じて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶される。ECU8は、タービン回転数が同期回転数と同等になった後は、スロットル保持制御から通常のスロットル制御に移行し、アクセル開度等に基づいてスロットル開度を制御する。
【0032】
次に、図3のタイムチャートを参照して比較例に係るECUによる制御の一例を説明し、図4のタイムチャートを参照して本実施形態に係るECU8による制御の一例を説明する。図3では、横軸を時間軸、縦軸をアクセル開度、スロットル開度、FCフラグ、エンジントルク、ドライブシャフトトルク(ドライブシャフトに作用するトルク)としている。図4では、横軸を時間軸、縦軸をアクセル開度、スロットル開度、FCフラグ、エンジントルク、タービン回転数、ダウンシフト時の解放クラッチ油圧指示値、ダウンシフト時の係合クラッチ油圧指示値、ドライブシャフトトルクとしている。ここで、解放クラッチ油圧指示値は、クラッチ10を解放状態とするためにECU8からTM油圧制御装置14に送信される油圧指示値であり、係合クラッチ油圧指示値は、クラッチ10を係合状態とするためにECU8からTM油圧制御装置14に送信される油圧指示値である。
【0033】
比較例に係るECUは、図3に例示するように、アクセル操作がOFF、FCフラグがONで燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、時刻t11にて、アクセル操作がONされると、スロットル弁47を制御してスロットル開度を小さくすると共に、FCフラグをOFFとし燃料噴射弁46を制御し燃焼室45への燃料の供給を開始する。この場合、比較例に係るECUは、例えば、燃料カット中にスロットル開度を相対的に大きくする制御を行うことで、ポンピング損失を低減することができるものの、スロットル弁47を開くことで、吸気管圧力が大気圧となり、これにより、エンジン4は、吸気通路44のスロットル弁47と吸気弁との間の空間A(図2参照)に大量の空気が存在することとなる。このため、エンジン4は、この状態で、アクセル操作がONされた場合には、例えば、ECUがアクセル開度に応じたスロットル開度に制御しスロットル開度が相対的に小さくなった場合であっても、空間Aに存在する大量の空気が燃焼室45内に吸気された状態となる。そして、エンジン4は、燃焼室45に大量の空気が供給された状態で、燃焼室45への燃料の供給を再開してしまうと、運転者による加速要求に応じた要求駆動力以上の駆動力を発生させてしまうおそれがあり、これにより、一時的に大きなエンジントルクが発生して、この大きなトルクがドライブシャフト13に伝達されショックが発生するおそれがある(図3中、囲み線B内参照)。
【0034】
これに対して、本実施形態のECU8は、図4に例示するように、アクセル操作がOFF、FCフラグがONで燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、時刻t21にて、アクセル操作がONされると、通常のスロットル開度制御によるスロットル開度がアクセル操作ON前のエンジンブレーキ状態でのアクセル開度より小さくなると予測した場合に、TM油圧制御装置14に送信する解放クラッチ油圧指示値を急激に低下させ、素早くクラッチ10の係合を解除し、クラッチ10を解除状態とする。そして、ECU8は、クラッチ10の係合の解除と同時に、FCフラグをOFFとし燃料噴射弁46を制御し燃焼室45への燃料の供給を開始する。このとき、ECU8は、スロットル保持制御として、スロットル開度を上記エンジンブレーキ状態での開度以上で保持する。
【0035】
この結果、車両制御システム1は、燃焼室45に大量の空気が供給された状態で、燃焼室45への燃料の供給が再開され、エンジン4が運転者による加速要求に応じた要求駆動力以上の駆動力を発生させてしまう場合であっても、クラッチ10を解除状態となっていることから、一時的に大きなエンジントルクが発生しても、この大きなトルクがドライブシャフト13に伝達されることを防止することができる(図4中、囲み線C内参照)。
【0036】
そして、ECU8は、タービン回転数が車速や変速段に応じて設定される同期回転数と同等になるまで、スロットル開度を上記エンジンブレーキ状態での開度以上で保持し、時刻t22にてタービン回転数が同期回転数と同等になった後は、スロットル保持制御から通常のスロットル制御に移行する。その後、ECU8は、時刻t23にてエンジン4が発生させるエンジントルクを低下させる。この結果、車両制御システム1は、アクセル操作ON直後に燃焼室45への燃料の供給再開に伴って一時的に生じる大きなエンジントルクを利用して、素早く変速(ダウンシフト)することができ、タービン回転数を急上昇させ素早く変速後の同期回転数に収束させることができる。
【0037】
ここで、ECU8は、例えば、エンジン回転数の相違による吸入空気の流速の相違を勘案して、所定のディレー時間(図4中の時刻t22から時刻t23までの期間)を設定すると好ましい。ECU8は、タービン回転数が同期回転数と同等になった後のエンジントルクを低下させるタイミング(時刻t23)に対して、この所定のディレー時間を見込んだタイミング(時刻t22)で、スロットル保持制御から通常のスロットル制御に移行する。ECU8は、例えば、エンジン回転数が相対的に低いほど吸入空気の流速が相対的に低くなることから所定のディレー時間を相対的に長くし、言い換えれば、エンジントルクを低下させるタイミング(時刻t23)に対して、スロットル保持制御から通常のスロットル制御に移行するタイミング(時刻t22)を相対的にはやくする。言い換えれば、ECU8は、エンジン4のエンジン回転数(機関回転速度)に基づいて、スロットル開度を保持する期間を変える。この結果、ECU8は、エンジン回転数の相違による吸入空気の流速の相違を見込んで適正な期間でスロットル開度を保持することができる。
【0038】
上記のように構成される車両制御システム1は、アクセル操作がOFFとされ燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、アクセル操作がONされ再加速する際に、アクセル開度に応じたスロットル開度がアクセル操作ON前のエンジンブレーキ状態でのアクセル開度より小さくなると判定した場合に、ECU8がクラッチ10を制御して解放状態とすることで、アクセル操作ONの直後に一時的に大きなエンジントルクが発生しても、この大きなトルクがドライブシャフト13に伝達されることを防止することができ、ショックが発生することを抑制することができる。このとき、車両制御システム1は、ECU8がアクセル操作ON時にエンジンブレーキ時のスロットル開度以上の開度を保持し、相対的に大きなエンジントルクが発生する状態を維持することで、タービン回転数を早期に同期回転数付近まで上昇させることができ、素早く変速(ダウンシフト)させることができるので、運転者の加速要求操作に対して応答性よく車両2を加速させることができる。この結果、本実施形態の車両制御システム1は、例えば、ECU8が燃料カット中にスロットル開度を相対的に大きくする制御を行った場合であっても、ポンピング損失を低減した上で、アクセル操作ON直後の燃料カット復帰時にショックが発生することを抑制することができると共に、素早い変速により加速応答性の低下も抑制することができる。
【0039】
次に、図5のフローチャートを参照してECU8による復帰フラグON/OFF判定制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される(以下の説明でも同様である)。
【0040】
まず、ECU8は、アクセル開度センサ71、スロットル開度センサ72等の種々のセンサの検出結果や各部の動作状態等に基づいて、アクセル開度、スロットル開度、フューエル(燃料)カット実行有無、エンジントルク等を読み込む(ST1)。
【0041】
ECU8は、ST1で読み込んだアクセル開度、スロットル開度等に基づいてエンジンブレーキ制御を実行中であるか否かを判定する(ST2)。ECU8は、エンジンブレーキ制御を実行中であると判定した場合(ST2:Yes)、エンジンブレーキ制御実行フラグをONとし(ST3)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0042】
ECU8は、エンジンブレーキ制御を実行中でないと判定した場合(ST2:No)、エンジンブレーキ制御実行フラグをOFFとし(ST4)、先回の制御周期ではエンジンブレーキ制御実行フラグがONであったか否かを判定する(ST5)。
【0043】
ECU8は、先回の制御周期ではエンジンブレーキ制御実行フラグがONであったと判定した場合(ST5:Yes)、ST1で読み込んだアクセル開度に基づいてアクセル操作がONであるか否かを判定する(ST6)。
【0044】
ECU8は、アクセル操作がONであると判定した場合(ST6:Yes)、ST1で読み込んだスロットル開度等に基づいて、通常のスロットル制御による今回の制御周期でのスロットル開度指示値が先回の制御周期でのスロットル開度より小さいか否かを判定する(ST7)。
【0045】
ECU8は、今回のスロットル開度指示値が先回のスロットル開度より小さいと判定した場合(ST7:Yes)、アクセルON復帰フラグをONとし(ST8)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0046】
ECU8は、ST5にて先回の制御周期ではエンジンブレーキ制御実行フラグがOFFであったと判定した場合(ST5:No)、ST6にてアクセル操作がOFFであると判定した場合(ST6:No)、あるいは、ST7にて今回のスロットル開度指示値が先回のスロットル開度以上であると判定した場合(ST7:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0047】
次に、図6のフローチャートを参照してECU8によるクラッチ解放・スロットル保持制御の一例を説明する。
【0048】
まず、ECU8は、アクセルON復帰フラグがONであるか否かを判定する(ST21)。ECU8は、アクセルON復帰フラグがOFFであると判定した場合(ST21:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0049】
ECU8は、アクセルON復帰フラグがONであると判定した場合(ST21:Yes)、TM油圧制御装置14に送信する解放クラッチ油圧指示値を0とすると共に(ST22)、所定の係合クラッチ油圧を設定し(ST23)、クラッチ10を解放状態とする。
【0050】
次に、ECU8は、スロットル弁47を制御してスロットル開度をエンジンブレーキ制御時の開度で維持する(ST24)。
【0051】
次に、ECU8は、スロットル開度を通常のスロットル制御での従来値に戻した場合でのエンジントルク低下ディレー時間aを算出する(ST25)。ECU8は、例えば、図7に例示するディレー時間マップに基づいて、ディレー時間aを算出する。ディレー時間マップは、横軸がエンジン回転数、縦軸がディレー時間aを示す。このディレー時間マップは、ディレー時間aとエンジン回転数との関係を記述したものであり、ディレー時間aとエンジン回転数との関係が実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU8の記憶部に格納されている。このディレー時間マップでは、ディレー時間aは、エンジン回転数の増加に伴って減少する。ECU8は、ディレー時間マップに基づいて、現在のエンジン回転数に応じたディレー時間aを求める。なお、本実施形態では、ECU8は、図7に例示するディレー時間マップを用いてディレー時間aを求めたが、本実施形態はこれに限定されない。ECU8は、ディレー時間マップに相当する数式モデルに基づいてディレー時間aを求めてもよい。
【0052】
次に、ECU8は、入力軸回転数センサ74の検出結果等に基づいてタービン回転数を読み込む(ST26)。そして、ECU8は、ST25で算出したディレー時間aに応じて、種々の手法を用いてa秒後のタービン回転数bを推定、算出する(ST27)。
【0053】
次に、ECU8は、同期回転数マップ(不図示)に基づいて、現在の変速段、車速等に応じて変速後の同期回転数を算出し、ST27で算出したタービン回転数bが変速後の同期回転数と同等になったか否かを判定する。ECU8は、例えば、変速後の同期回転数とタービン回転数bとの差(変速後の同期回転数−タービン回転数b)が予め設定される所定回転数cより小さいか否かを判定する(ST28)。
【0054】
ECU8は、変速後の同期回転数とタービン回転数bとの差が所定回転数c以上であると判定した場合(ST28:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。ECU8は、変速後の同期回転数とタービン回転数bとの差が所定回転数cより小さいと判定した場合(ST28:Yes)、スロットル保持制御を終了して通常のスロットル制御に移行し、スロットル開度をアクセル開度等に応じた従来値に戻して(ST29)、変速が終了したか否かを判定する(ST30)。
【0055】
ECU8は、変速が終了していないと判定した場合(ST30:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行し、変速が終了したと判定した場合(ST30:Yes)、アクセルON復帰フラグをOFFとし(ST31)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0056】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1によれば、車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生するエンジン4と、エンジン4側の回転部材10aと駆動輪3側の回転部材10bとを動力伝達可能に係合した状態と係合を解除した状態とに切り替え可能であるクラッチ10と、アクセル操作(加速要求操作)が解除されエンジン4の燃焼室45への燃料の供給がカットされたエンジンブレーキ(機関ブレーキ)状態で、アクセル操作がなされた際に、このアクセル操作の操作量としてのアクセル開度に応じた燃焼室45への吸気通路44のスロットル開度がエンジンブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、クラッチ10を制御して係合を解除した状態とすると共に、エンジン4を制御してスロットル開度をエンジンブレーキ状態での開度以上で保持するECU8とを備える。したがって、車両制御システム1、ECU8は、例えば、エンジンブレーキ状態で、解放された状態にあるアクセルペダルが再び踏み込まれた際であっても、適正にショックを抑制することができる。
【0057】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システム及び車両用制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
内燃機関としてのエンジン4は、例えば、エンジン4の排気ガスのエネルギをタービンにて回収してコンプレッサを駆動する過給機が、吸気通路44の吸入空気の圧力を上昇させ過給を行う過給機付エンジンであってもよい。この場合、ECU8は、スロットル保持制御を行う際には、エンジン4の過給機が作動するまでスロットル開度をエンジンブレーキ状態での開度以上で保持するようにするとよい。
【0059】
図8のタイムチャートを参照して比較例に係るECUによる制御の一例を説明し、図9のタイムチャートを参照して本変形例に係るECU8による制御の一例を説明する。図8、図9では、横軸を時間軸、縦軸をアクセル開度、スロットル開度、FCフラグ、エンジントルク、ドライブシャフトトルク、過給機の回転数であるターボ回転数としている。
【0060】
比較例に係るECUは、図8に例示するように、アクセル操作がOFF、FCフラグがONで燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、時刻t31にて、アクセル操作がONされると、スロットル弁47を制御してスロットル開度を小さくすると共に、FCフラグをOFFとし燃料噴射弁46を制御し燃焼室45への燃料の供給を開始する。この場合、エンジン4は、上記の説明と同様に、アクセル操作ON直後に一時的に大きなエンジントルクが発生しこの大きなトルクがドライブシャフト13に伝達されショックが発生すると共に、さらにターボラグによるトルクの落ち込みも生じるおそれがある(図8中、囲み線D内参照)。
【0061】
これに対して、変形例のECU8は、図9に例示するように、アクセル操作がOFF、FCフラグがONで燃料カットされたエンジンブレーキ状態で、時刻t41にて、アクセル操作がONされると、通常のスロットル開度制御によって調節されるスロットル開度がアクセル操作ON前のエンジンブレーキ状態でのアクセル開度より小さくなると予測した場合に、クラッチ10を解除状態とすると共に、FCフラグをOFFとし燃料噴射弁46を制御し燃焼室45への燃料の供給を開始し、さらに、アクセル操作ON時のスロットル開度に基づいて、過給作動条件を満たすか否かを判定する。そして、ECU8は、過給作動条件を満たすと判定した場合には、エンジン4の過給機が作動するまで(典型的にはターボ回転数が所定回転数に達するまで)、スロットル開度を上記エンジンブレーキ状態での開度以上で保持し、過給機が作動開始する作動開始時点の後の時刻t42にてスロットル保持制御から通常のスロットル制御に移行する。
【0062】
この場合、車両制御システム1は、アクセル操作ON直後に一時的に大きなエンジントルクが発生しこの大きなトルクがドライブシャフト13に伝達されショックが発生することを抑制することができると共に、さらに、例えば、時刻t43前の期間でターボラグによるトルクの落ち込みが生じることを抑制することができ(図9中、囲み線E内参照)、加速性能を向上することができる。
【0063】
また、以上で説明した車両は、走行用駆動源として、エンジン4に加えてさらに、発電可能な電動機としてのモータジェネレータなどを備えたいわゆる「ハイブリッド車両」や走行中に所定条件下でエンジン4を停止及び再始動可能ないわゆる「フリーランS&S(ストップ&スタート)車両」であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように本発明に係る車両制御システム及び車両用制御装置は、種々の車両に搭載される車両制御システム及び車両用制御装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両制御システム
2 車両
3 駆動輪
4 エンジン(内燃機関)
5 動力伝達装置
7 状態検出装置
8 ECU(車両用制御装置)
9 トルクコンバータ
10 クラッチ(係合装置)
11 変速機
44 吸気通路
45 燃焼室
46 燃料噴射弁
47 スロットル弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、
前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能である係合装置と、
加速要求操作が解除され前記内燃機関の燃焼室への燃料の供給がカットされた機関ブレーキ状態で、前記加速要求操作がなされた際に、当該加速要求操作の操作量に応じた前記燃焼室への吸気通路の開度が前記機関ブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、前記係合装置を制御して前記係合を解除した状態とすると共に、前記内燃機関を制御して前記開度を前記機関ブレーキ状態での開度以上で保持する車両用制御装置とを備えることを特徴とする、
車両制御システム。
【請求項2】
前記内燃機関から前記駆動輪に伝達される動力を変速する変速機を備え、
前記車両用制御装置は、前記変速機への入力回転速度が前記車両の車速に応じて変化する変速後の同期回転速度と同等になるまで前記開度を保持する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記内燃機関は、過給機が前記吸気通路の吸入空気の圧力を上昇させ過給を行うものであり、
前記車両用制御装置は、前記過給機が作動するまで前記開度を保持する、
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記車両用制御装置は、前記係合装置の前記係合の解除と同時、あるいは、前記係合を解除した後に、前記内燃機関を制御し前記燃料の供給を開始する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記車両用制御装置は、前記内燃機関の機関回転速度に基づいて、前記開度を保持する期間を変える、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に車両制御システム。
【請求項6】
車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、前記内燃機関側の回転部材と前記駆動輪側の回転部材とを動力伝達可能に係合した状態と前記係合を解除した状態とに切り替え可能である係合装置とを制御する車両用制御装置であって、
加速要求操作が解除され前記内燃機関の燃焼室への燃料の供給がカットされた機関ブレーキ状態で、前記加速要求操作がなされた際に、当該加速要求操作の操作量に応じた前記燃焼室への吸気通路の開度が前記機関ブレーキ状態での開度より小さくなる場合に、前記係合を解除した状態とすると共に、前記開度を前記機関ブレーキ状態での開度以上で保持することを特徴とする、
車両用制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−137051(P2012−137051A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290941(P2010−290941)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】