車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システム
【課題】車両挙動センサの温度変化の影響を回避して車両挙動センサの中点学習ができる車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システムを提供する。
【解決手段】VSA_ECUは、エンジンルーム内に設置され、ヨーレートセンサSYと、ヨーレートセンサ温度TYを検出する温度センサSTYを有する。エンジン制御ECUから吸気温度を外気温度TAirとしてCAN通信50を介して取得する。中点学習条件成立判定部42は、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、中点決定部43に中点学習許可の信号を出す。中点決定部43は、ヨーレートセンサ温度TYと外気温度TAirとの差が、予め決められた閾値未満のときは、ヨーレートセンサSYからの信号を中点値として取得して、学習中点記憶部44に出力して、記憶させる。ヨーレートセンサ温度TYと外気温度TAirとの差が、閾値以上の場合は、中点値として取得しない。
【解決手段】VSA_ECUは、エンジンルーム内に設置され、ヨーレートセンサSYと、ヨーレートセンサ温度TYを検出する温度センサSTYを有する。エンジン制御ECUから吸気温度を外気温度TAirとしてCAN通信50を介して取得する。中点学習条件成立判定部42は、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、中点決定部43に中点学習許可の信号を出す。中点決定部43は、ヨーレートセンサ温度TYと外気温度TAirとの差が、予め決められた閾値未満のときは、ヨーレートセンサSYからの信号を中点値として取得して、学習中点記憶部44に出力して、記憶させる。ヨーレートセンサ温度TYと外気温度TAirとの差が、閾値以上の場合は、中点値として取得しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を検出する車両挙動センサの中点学習方法と、車両挙動センサを備える車両挙動検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering)を備える車両が知られており、このような車両には、電動パワーステアリング装置を制御するためのEPS_ECU(Electronic Control Unit)が備わっている。
また、ABS(Anti Lock Brake System)やTCS(Traction Control System)を組み合わせて、車両挙動を制御するVSA(Vehicle Stability Assist)機能が備わる場合、車両には、車両の挙動を制御するためのVSA_ECUが備わっている。
【0003】
EPS_ECUは、車両の走行状態(旋回、直進)や車速など、車両の挙動に応じて電動パワーステアリング装置を制御し、操舵補助力を発生して運転者の操舵力を軽減するとともに、操向ハンドルの操作方向に対する反力を付与する制御をする。
そのために、電動パワーステアリング装置を備える車両には、車両の挙動を検出する車両挙動センサを備える車両挙動検出システムを有する。そして、車両挙動検出システムには、車両の旋回を検出するため、車両挙動センサとしてのヨーレートセンサ、舵角センサ、横加速度センサ、前後加速度センサなどが備わっている。
【0004】
舵角センサとして、操向ハンドルの相対的な角度変化量を検出値とするセンサ(例えば、ロータリエンコーダ)を用いる場合がある。この場合、EPS_ECUは、例えば、操向ハンドルが中立位置(以下、舵角中点)にあるときを基準点として、基準点からの角度変化量によって操向ハンドルの舵角を算出できる。
そのため、EPS_ECUは、基準点としての舵角中点を学習する必要がある。そして、舵角中点の学習には、ヨーレートセンサが検出するヨーレートが利用される。
そして、舵角中点の学習の精度を向上するため、ヨーレートセンサには、ヨーレートを精度よく検出することが要求される。
【0005】
また、ヨーレートセンサには、特許文献1に記載されたような半導体素子を使用したものがあり、このようなヨーレートセンサは、その温度の変化に伴う検出値の変動が大きいという特性がある。車両の走行によってヨーレートセンサの温度は逐次変化することから、走行状態の車両のヨーレートを精度よく検出するために、車両が旋回状態ではなくヨーレートが0の状態におけるヨーレートセンサの中点を適宜学習して利用することが好適である。
【0006】
例えば、特許文献2には、イグニッションスイッチがONされたときに、操向ハンドルの暫定中立位置を設定し、さらに、その後の車両の走行状態に応じて暫定中立位置を適宜補正することで、正確な中立位置(舵角中点)を学習する操舵角中立学習装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−81335号公報
【特許文献2】特許第3728991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示される技術によると、ヨーレートセンサの検出値に基づいて車両が直進していることを判定しているが、ヨーレートセンサの中点の学習に関する記載はなく、ヨーレートセンサの温度変化に伴ってヨーレートセンサの検出値が変動した場合(ヨーレートセンサの中点が正しくない場合)は、舵角中点を正確に学習できないという可能性がある。
【0009】
ヨーレートセンサは、車両にヨーレートが発生していないときの検出値を中点値と決定して中点学習をする。したがって、例えば車両が停車しているときの検出値を中点値と決定して中点学習することができる。
しかしながら、車両が走行しているときのヨーレートセンサの温度と車両が停車しているときのヨーレートセンサの温度が異なると、車両が停車しているときの検出値を中点値として決定し、中点学習したヨーレートセンサは、車両が走行してヨーレートセンサの温度が変化するのに伴って中点値が変動し、走行状態の車両に発生するヨーレートを精度よく検出できなくなる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、車両挙動センサの温度変化の影響を回避して車両挙動センサの中点学習ができる車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために請求項1に係る発明は、エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させる車両挙動センサの中点学習方法であって、少なくとも車速を含む車両の挙動情報が、予め設定された車両挙動センサの中点学習条件を満たした場合に、さらに、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値以上のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得しないことを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る発明によると、中点学習条件を満たした場合に、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値以上のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得しない。
したがって、中点学習条件を満たした時点の車両挙動センサの温度が、車両の走行時のエンジンルーム内における温度、つまり、外気温度に近いときにのみ中点学習をすることになる。例えば、走行状態の車両が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム内の温度が上昇する場合に、停車した状態で車両挙動センサの温度が高い環境で中点学習することを防止できる。
【0013】
請求項2に係る発明は、エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサと、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶する中点値記憶手段と、記憶された中点値で車両挙動センサからの信号を補正して、車両挙動の制御を行う車両挙動制御装置に出力する補正手段と、を備える車両挙動検出システムであって、
少なくとも車速を含む車両の挙動情報が、予め設定された車両挙動センサの中点学習条件を満たしていることを判定する中点学習条件成立判定手段と、車両挙動センサの温度を検出する車両挙動センサ温度検出手段と、外気温度を検出する外気温度検出手段と、を備え、中点学習条件成立判定手段が、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して、中点値記憶手段に記憶させ、検出された車両挙動センサの温度と検出された外気温度との差が、閾値以上のときは、車両挙動センサから信号を中点値として取得しないことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明によると、中点学習条件成立判定手段が、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して、中点値記憶手段に記憶させ、検出された車両挙動センサの温度と検出された外気温度との差が、閾値以上のときは、車両挙動センサから信号を中点値として取得しない。
したがって、中点学習条件を満たした時点の車両挙動センサの温度が、車両の走行時のエンジンルーム内における温度、つまり、外気温度に近いときにのみ中点学習をすることになる。例えば、走行状態の車両が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム内の温度が上昇する場合に、停車した状態で車両挙動センサの温度が高い環境で中点学習することを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両挙動センサの温度変化の影響を回避して車両挙動センサの中点学習ができる車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システムを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】VSA_ECUを含む車両内部の要部を示す図である。
【図2】VSA_ECUの機能ブロック構成図である。
【図3】ヨーレート中点学習の制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る車両挙動検出システムを適用したVSA_ECUについて、適宜図を参照して説明する。
まず、図1を参照しながら、適宜、図2を参照して、VSA_ECU30を含む車両1内部の要部について説明する。
【0018】
図1に示すように車両1は、転舵機構、電動パワーステアリング装置5、エンジン(図示せず)を制御するエンジン制御ECU13、電動パワーステアリング装置5の制御機能部であるEPS_ECU(車両挙動制御装置)20、制動制御を含むABS機能とTCS機能を組み合わせて車両挙動を制御するVSA_ECU30などを備えている。
車両1の転舵機構は、ラックアンドピニオン機構(図示せず)のラック軸(図示せず)のラック歯(図示せず)に噛合するピニオンギア(図示せず)と一体に回転動作するピニオン軸11に、ステアリング軸12が、ユニバーサルジョイントを介して接続され、さらに、ステアリング軸12に操向ハンドル21が取り付けられて構成されている。
そして、運転者が操向ハンドル21を回動操作すると、ピニオンギアが回転してラック軸を左右方向に移動し、ラック軸に連結される転舵輪である前方の車輪2FL,2FRが転舵する。
【0019】
電動パワーステアリング装置5は、運転者が操向ハンドル21を回動操作するときの操舵力を軽減する操舵補助力(補助操舵トルク)を発生し、転舵機構に付与する電動機23を備えている。
この電動機23の出力軸に直結したギアが、ピニオン軸11に設けられたウォームホイールギアと噛合し、運転者が操向ハンドル21を回動操作したときに、電動機23の出力軸の回転によってピニオン軸11に対する補助操舵トルクを発生して操舵力を軽減する。
【0020】
また、電動パワーステアリング装置5の制御部であるEPS_ECU20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェースなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、例えば、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行して電動機23を、電動機駆動回路22を介して駆動制御する。
ちなみに、電動機駆動回路22は、ブラシレスモータである電動機23に電力を供給するためのスイッチング素子を含む電源回路である。
なお、電動機23には、電動機23の回転角を検出する回転角センサ25が設けられ、その信号がEPS_ECU20に入力されている。回転角センサ25としては、例えば、レゾルバが用いられる。
【0021】
前記したピニオン軸11には、トルクセンサSTrqが取り付けられ、運転者が操向ハンドル21を回動操作するときの操舵トルクを検出して、トルク信号がEPS_ECU20に入力される。
そして、EPS_ECU20は、後記するように、VSA_ECU30からCAN(Controller Area Network)通信線50を介して、舵角δ、補正されたヨーレートγ*、横方向加速度αX、車速VSなどの情報を取得し、前記した電動機23の回転角、操舵トルクの情報も用いて車両の走行状態(旋回、直進)や車速など、車両の挙動に応じて電動機23を制御し、操舵補助力を発生して運転者の操舵力を軽減するとともに、操向ハンドル21の回動操作方向に対する反力を付与する制御をする。
この反力を付与する制御において、EPS_ECU20は、実ヨーレート(後記するヨーレート中点補正をして補正されたヨーレートγ*)を用いる。
【0022】
エンジン制御ECU13は、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力インタフェースなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路、燃料インジェクタを駆動するFI駆動回路などから構成され、図示省略のアクセルポジションセンサ、クランクパルスセンサ、TDCセンサなどエンジン制御に必要な各種のセンサ信号が入力される。その中には吸気温度(以下では、「外気温度」と称する)を検出する吸気温度センサ(外気温度検出手段)STAir(図1参照)も含まれている。そして、ROMに格納されるプログラムをCPUが実行し、エンジンの出力を制御したり、他のECUで必要な情報、例えば、エンジン回転速度や外気温度TAir(図2参照)などを後記するCAN通信で出力したりする。
【0023】
VSA_ECU30は、図2に示すようにCPU30a、ROM30c、RAM30d、書き換え可能な不揮発メモリ(中点値記憶手段)30f、入出力インタフェース(図示せず)、それらを接続するバス30bなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路(図2中、「入出力インタフェース回路30g」と表示)などから構成され、ROMに格納されるプログラムをCPU30aが実行し、車両挙動を制御する。VSA_ECU30は、例えば、エンジンルーム3に配置されている。
【0024】
図1に示すようにVSA_ECU30には、転舵輪である前方の車輪2FL,2FRの舵角δ(図2参照)を検出する舵角センサSHAからの信号、車両1の各車輪2FL,2FR,2RL,2RRの車輪速を検出する車輪速センサSVWFL,SVWFR,SVWRL,SVWRRからの各車輪速VW(図2参照)を示す信号、エンジンルーム3内に配置されたヨーレートセンサ(車両挙動センサ)SYから検出値であるヨーレートγ(図2参照)を示す信号、ヨーレートセンサSYの温度を検出する温度センサ(車両挙動センサ温度検出手段)STYからのヨーレートセンサ温度TY(図2参照)を示す信号、車両1の横方向の加速度を検出する横加速度センサSαXからの横方向加速度αX(図2参照)を示す信号などが入力される。
【0025】
ここで、ヨーレートセンサ温度TYが、特許請求の範囲に記載の「車両挙動センサの温度」に対応する。
以下、車輪2FL,2FR,2RL,2RR、車輪速センサSVWFL,SVWFR,SVWRL,SVWRRおよび後記するブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRは、区別する必要がない限り、単に「車輪2」、「車輪速センサSVW」、「ブレーキ装置B」と称する。
ちなみに、車輪速センサSVWは、車輪2の回転速度を単位時間当たりのパルス数として検出するセンサである。
また、周辺回路として代表的に、入出力インタフェース回路30gで示したものには、センサ信号の信号処理回路、例えば、フィルタ回路、CAN通信用の信号処理部も含んでいる。
【0026】
なお、ヨーレートセンサSYおよび温度センサSTYは、例えば、VSA_ECU30に組み込まれている。そして、ヨーレートセンサSYは、例えば、半導体素子を用いたものであり、ヨーレートセンサSYの温度の変化に伴い検出値の変動がありうるものである。
【0027】
VSA_ECU30は、各車輪2FL,2FR,2RL,2RRに設けられた各ブレーキ装置B(図1中、「BFL,BFR,BRL,BRR」と表示)に、個別に油圧を供給してブレーキ制御する油圧回路31に含まれる制御バルブ(図示せず)を駆動する油圧回路制御部31aと通信可能に接続され、油圧回路制御部31aへ制御信号を出力したり、油圧回路制御部31aから油圧信号を受信したりして、油圧回路制御部31aを介して、各ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御する。
VSA_ECU30は、EPS_ECU20とCAN通信線50で接続され、互いにデータの受け渡しが可能に構成されている。VSA_ECU30は、CAN通信線50を介して、EPS_ECU20へ舵角δ、補正されたヨーレートγ*、横方向加速度αX、車速VSなどの情報を出力し、必要に応じて、CAN通信線50を介してエンジン制御ECU13に出力抑制指令情報を出力する。逆に、VSA_ECU30は、CAN通信線50を介してEPS_ECU20から操舵トルクの情報を取得する。
【0028】
次に、図2、図3を参照しながらVSA_ECU30におけるヨーレートセンサSYからの信号の中点値、つまり、車両1のヨーレートγが0の状態においてヨーレートセンサSYからの検出値を学習する中点学習の方法について説明する。
VSA_ECU30のCPU30aは、ROM30cに格納されているプログラムを実行することにより実現される機能構成部として、車速演算部41、中点学習条件成立判定部(中点学習条件成立判定手段)42、中点決定部43、学習中点記憶部(中点値記憶手段)44、ヨーレート補正部(補正手段)45、VSA制御部(車両挙動制御装置)46を含んでいる。
ここで、ヨーレートセンサSYとVSA_ECU30における中点学習条件成立判定部42、中点決定部43、学習中点記憶部44、ヨーレート補正部45、不揮発メモリ30fが、特許請求の範囲に記載の「車両挙動検出システム」に対応する。
【0029】
車速演算部41は、各車輪速センサSVWからの車輪速VWを示す信号を読み込み、車両1の車速VSを算出し、中点学習条件成立判定部42、VSA制御部46に出力する。
中点学習条件成立判定部42は、ROM30cに予め格納された中点学習条件データ42aを有し、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγにもとづいて、ヨーレートセンサSYの中点学習条件が成立しているか否かを判定し、成立している場合に、中点決定部43に中点学習許可の信号を出力する。そうでない場合は、中点決定部43に中点学習許可の信号を出力しない。
ここで、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγが、特許請求の範囲に記載の「車両の挙動情報」に対応する。
【0030】
前記中点学習条件は、以下の条件A、条件Bのいずれかが満足されたとき、中点学習条件成立判定部42において中点学習条件が成立していると判定される。
《条件A》
車両1が所定時間ΔTstに亘って停車しているときに、車両1が停車してから、所定時間ΔTstより短い所定時間ΔTyawが経過したとき。
《条件B》
1.ヨーレートγの変動幅が所定値ΔYAW1以内。
2.操舵トルクTrqが所定値TRQ1以内。
3.舵角δの変動幅が所定値Δθ1以内。
4.車速VSが所定値VEL1以上。
5.1.〜4.の状態が時間ΔT1に亘って継続。
【0031】
なお、条件Aの車両1が停車しているときの所定時間ΔTst,ΔTyaw、条件Bの各所定値(ΔYAW1,TRQ1,Δθ1,VEL1,ΔT1)は、車両1に要求される性能、舵角センサSHAおよびヨーレートセンサSYの感度などにもとづいて適宜設定すればよい。
【0032】
中点決定部43は、中点学習条件成立判定部42から中点学習許可の信号を受けたとき、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYを比較して、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYの差が閾値εTYよりも小さければ、検出値である現在のヨーレートγをヨーレート中点値γ0として学習中点記憶部44に出力する。学習中点記憶部44は、中点決定部43から出力されたヨーレート中点値γ0を不揮発メモリ30fの中点データ部44aに記憶させる。ヨーレート補正部45は、検出値である現在のヨーレートγに対して中点補正をして補正されたヨーレートγ*をVSA制御部46に出力する。また、ヨーレート補正部45は、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信を介してEPS_ECU20に出力する。
【0033】
VSA制御部46は、車速VS、中点補正されたヨーレートγ*、舵角δ、横方向加速度αXにもとづいて、油圧回路31を介して各車輪2のブレーキ装置Bを制御して、車両1のVSA制御をしたり、運転者がブレーキペダルPB(図1参照)を操作したとき、油圧回路31を介して制動制御をし、そのとき各車輪2の車輪速VWを監視し、の車輪2のロックを防止するようにABS制御を行ったりする。
【0034】
次に、図3に従って、ヨーレートセンサSYの中点学習方法を説明する。
ステップS01では、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγにもとづいて、ヨーレートセンサSYの中点学習条件が成立しているか否かをチェックする。中点学習条件が成立している場合(Yes)は、ステップS02に進み、中点学習条件が成立していない場合(No)はステップS01を繰り返す。ステップS02では、中点決定部43は、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYとの差が閾値εTYよりも小さいか否かをチェックする。差が閾値εTYよりも小さい場合(Yes)は、中点決定部43は、検出値である現在のヨーレートγをヨーレート中点値γ0として学習中点記憶部44に出力し、ステップS03へ進む。差が閾値εTY以上の場合(No)は、一連の中点学習処理を終了し(エンド)、ステップS01に戻る。
【0035】
ステップS03では、学習中点記憶部44は、中点決定部43から出力されたヨーレート中点値γ0を読み込み(「ヨーレート中点学習処理」)、次いで、不揮発メモリ30fの中点データ部44aに記憶させる(ステップS04、「ヨーレート中点値記憶」)。
これで一連のヨーレートセンサSYの中点学習制御が終了する。
【0036】
本実施形態によれば、車両1(図1参照)が外気温度TAirに近いヨーレートセンサ温度TYにおいてのみヨーレートセンサSYの中点学習がなされ、走行状態にある、つまり、外気をエンジンルーム3内に取り込み、エンジンルーム3(図1参照)内の温度が外気温度TAirに近い状態における車両1の実際のヨーレートとして精度の良い補正されたヨーレートγ*を得ることができる。例えば、走行状態の車両1が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム3内の温度が上昇する場合に、停車した状態でヨーレートセンサSYの温度が高い環境でヨーレートセンサSYの中点学習をすることが防止できる。
精度の良いヨーレートを得ることができると、EPS_ECU20は、操向ハンドル21の反力制御の精度を向上することができ、運転者が感じる車両1の挙動や、運転者の操向ハンドル21の回動操作量とに対して、違和感を与えずに好適に制御できる。
【0037】
本実施形態では、VSA_ECU30において、ヨーレートセンサSYの中点学習を行うものとしたがそれに限定されるものではない。VSA_ECU30は検出値であるヨーレートγを、CAN通信線50を介して、EPS_ECU20に送信し、EPS_ECU20側で前記したような方法で中点学習し、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信線50で他のECU、例えば、VSA_ECU30に送信し、VSA制御に用いても良い。また、ヨーレートセンサSYの検出値であるヨーレートγを直接EPS_ECU20に入力し、EPS_ECU20側で前記したような方法で中点学習し、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信線50で他のECU、例えば、VSA_ECU30に送信し、VSA制御に用いても良い。
【0038】
特許請求の範囲における「車両挙動センサの温度」は、本実施形態では、ヨーレートセンサ温度TYとしたが、ヨーレートセンサSYそのものの温度でも、ヨーレートセンサSYが置かれる環境の温度でも良い。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
3 エンジンルーム
5 電動パワーステアリング装置
20 EPS_ECU(車両挙動制御装置)
21 操向ハンドル
30 VSA_ECU
30f 不揮発メモリ(中点値記憶手段)
42 中点学習条件成立判定部(中点学習条件成立判定手段)
42a 中点学習条件データ
43 中点決定部
44 学習中点記憶部(中点値記憶手段)
44a 中点データ部
45 ヨーレート補正部(補正手段)
46 VSA制御部(車両挙動制御装置)
50 CAN通信線
SY ヨーレートセンサ(車両挙動センサ)
SHA 舵角センサ
STY 温度センサ(車両挙動センサ温度検出手段)
STrq トルクセンサ
STAir 吸気温度センサ(外気温度検出手段)
TY ヨーレートセンサ温度(車両挙動センサの温度)
TAir 外気温度
Trq 操舵トルク(車両の挙動情報)
γ ヨーレートγ(車両の挙動情報)
VS 車速(車両の挙動情報)
δ 舵角(車両の挙動情報)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を検出する車両挙動センサの中点学習方法と、車両挙動センサを備える車両挙動検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering)を備える車両が知られており、このような車両には、電動パワーステアリング装置を制御するためのEPS_ECU(Electronic Control Unit)が備わっている。
また、ABS(Anti Lock Brake System)やTCS(Traction Control System)を組み合わせて、車両挙動を制御するVSA(Vehicle Stability Assist)機能が備わる場合、車両には、車両の挙動を制御するためのVSA_ECUが備わっている。
【0003】
EPS_ECUは、車両の走行状態(旋回、直進)や車速など、車両の挙動に応じて電動パワーステアリング装置を制御し、操舵補助力を発生して運転者の操舵力を軽減するとともに、操向ハンドルの操作方向に対する反力を付与する制御をする。
そのために、電動パワーステアリング装置を備える車両には、車両の挙動を検出する車両挙動センサを備える車両挙動検出システムを有する。そして、車両挙動検出システムには、車両の旋回を検出するため、車両挙動センサとしてのヨーレートセンサ、舵角センサ、横加速度センサ、前後加速度センサなどが備わっている。
【0004】
舵角センサとして、操向ハンドルの相対的な角度変化量を検出値とするセンサ(例えば、ロータリエンコーダ)を用いる場合がある。この場合、EPS_ECUは、例えば、操向ハンドルが中立位置(以下、舵角中点)にあるときを基準点として、基準点からの角度変化量によって操向ハンドルの舵角を算出できる。
そのため、EPS_ECUは、基準点としての舵角中点を学習する必要がある。そして、舵角中点の学習には、ヨーレートセンサが検出するヨーレートが利用される。
そして、舵角中点の学習の精度を向上するため、ヨーレートセンサには、ヨーレートを精度よく検出することが要求される。
【0005】
また、ヨーレートセンサには、特許文献1に記載されたような半導体素子を使用したものがあり、このようなヨーレートセンサは、その温度の変化に伴う検出値の変動が大きいという特性がある。車両の走行によってヨーレートセンサの温度は逐次変化することから、走行状態の車両のヨーレートを精度よく検出するために、車両が旋回状態ではなくヨーレートが0の状態におけるヨーレートセンサの中点を適宜学習して利用することが好適である。
【0006】
例えば、特許文献2には、イグニッションスイッチがONされたときに、操向ハンドルの暫定中立位置を設定し、さらに、その後の車両の走行状態に応じて暫定中立位置を適宜補正することで、正確な中立位置(舵角中点)を学習する操舵角中立学習装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−81335号公報
【特許文献2】特許第3728991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示される技術によると、ヨーレートセンサの検出値に基づいて車両が直進していることを判定しているが、ヨーレートセンサの中点の学習に関する記載はなく、ヨーレートセンサの温度変化に伴ってヨーレートセンサの検出値が変動した場合(ヨーレートセンサの中点が正しくない場合)は、舵角中点を正確に学習できないという可能性がある。
【0009】
ヨーレートセンサは、車両にヨーレートが発生していないときの検出値を中点値と決定して中点学習をする。したがって、例えば車両が停車しているときの検出値を中点値と決定して中点学習することができる。
しかしながら、車両が走行しているときのヨーレートセンサの温度と車両が停車しているときのヨーレートセンサの温度が異なると、車両が停車しているときの検出値を中点値として決定し、中点学習したヨーレートセンサは、車両が走行してヨーレートセンサの温度が変化するのに伴って中点値が変動し、走行状態の車両に発生するヨーレートを精度よく検出できなくなる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、車両挙動センサの温度変化の影響を回避して車両挙動センサの中点学習ができる車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために請求項1に係る発明は、エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させる車両挙動センサの中点学習方法であって、少なくとも車速を含む車両の挙動情報が、予め設定された車両挙動センサの中点学習条件を満たした場合に、さらに、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値以上のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得しないことを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る発明によると、中点学習条件を満たした場合に、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、車両挙動センサの温度と外気温度との差が、予め決められた閾値以上のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得しない。
したがって、中点学習条件を満たした時点の車両挙動センサの温度が、車両の走行時のエンジンルーム内における温度、つまり、外気温度に近いときにのみ中点学習をすることになる。例えば、走行状態の車両が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム内の温度が上昇する場合に、停車した状態で車両挙動センサの温度が高い環境で中点学習することを防止できる。
【0013】
請求項2に係る発明は、エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサと、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶する中点値記憶手段と、記憶された中点値で車両挙動センサからの信号を補正して、車両挙動の制御を行う車両挙動制御装置に出力する補正手段と、を備える車両挙動検出システムであって、
少なくとも車速を含む車両の挙動情報が、予め設定された車両挙動センサの中点学習条件を満たしていることを判定する中点学習条件成立判定手段と、車両挙動センサの温度を検出する車両挙動センサ温度検出手段と、外気温度を検出する外気温度検出手段と、を備え、中点学習条件成立判定手段が、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して、中点値記憶手段に記憶させ、検出された車両挙動センサの温度と検出された外気温度との差が、閾値以上のときは、車両挙動センサから信号を中点値として取得しないことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明によると、中点学習条件成立判定手段が、中点学習条件を満たしていると判定した場合に、さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、車両挙動センサからの信号を中点値として取得して、中点値記憶手段に記憶させ、検出された車両挙動センサの温度と検出された外気温度との差が、閾値以上のときは、車両挙動センサから信号を中点値として取得しない。
したがって、中点学習条件を満たした時点の車両挙動センサの温度が、車両の走行時のエンジンルーム内における温度、つまり、外気温度に近いときにのみ中点学習をすることになる。例えば、走行状態の車両が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム内の温度が上昇する場合に、停車した状態で車両挙動センサの温度が高い環境で中点学習することを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両挙動センサの温度変化の影響を回避して車両挙動センサの中点学習ができる車両挙動センサの中点学習方法と車両挙動検出システムを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】VSA_ECUを含む車両内部の要部を示す図である。
【図2】VSA_ECUの機能ブロック構成図である。
【図3】ヨーレート中点学習の制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る車両挙動検出システムを適用したVSA_ECUについて、適宜図を参照して説明する。
まず、図1を参照しながら、適宜、図2を参照して、VSA_ECU30を含む車両1内部の要部について説明する。
【0018】
図1に示すように車両1は、転舵機構、電動パワーステアリング装置5、エンジン(図示せず)を制御するエンジン制御ECU13、電動パワーステアリング装置5の制御機能部であるEPS_ECU(車両挙動制御装置)20、制動制御を含むABS機能とTCS機能を組み合わせて車両挙動を制御するVSA_ECU30などを備えている。
車両1の転舵機構は、ラックアンドピニオン機構(図示せず)のラック軸(図示せず)のラック歯(図示せず)に噛合するピニオンギア(図示せず)と一体に回転動作するピニオン軸11に、ステアリング軸12が、ユニバーサルジョイントを介して接続され、さらに、ステアリング軸12に操向ハンドル21が取り付けられて構成されている。
そして、運転者が操向ハンドル21を回動操作すると、ピニオンギアが回転してラック軸を左右方向に移動し、ラック軸に連結される転舵輪である前方の車輪2FL,2FRが転舵する。
【0019】
電動パワーステアリング装置5は、運転者が操向ハンドル21を回動操作するときの操舵力を軽減する操舵補助力(補助操舵トルク)を発生し、転舵機構に付与する電動機23を備えている。
この電動機23の出力軸に直結したギアが、ピニオン軸11に設けられたウォームホイールギアと噛合し、運転者が操向ハンドル21を回動操作したときに、電動機23の出力軸の回転によってピニオン軸11に対する補助操舵トルクを発生して操舵力を軽減する。
【0020】
また、電動パワーステアリング装置5の制御部であるEPS_ECU20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェースなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、例えば、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行して電動機23を、電動機駆動回路22を介して駆動制御する。
ちなみに、電動機駆動回路22は、ブラシレスモータである電動機23に電力を供給するためのスイッチング素子を含む電源回路である。
なお、電動機23には、電動機23の回転角を検出する回転角センサ25が設けられ、その信号がEPS_ECU20に入力されている。回転角センサ25としては、例えば、レゾルバが用いられる。
【0021】
前記したピニオン軸11には、トルクセンサSTrqが取り付けられ、運転者が操向ハンドル21を回動操作するときの操舵トルクを検出して、トルク信号がEPS_ECU20に入力される。
そして、EPS_ECU20は、後記するように、VSA_ECU30からCAN(Controller Area Network)通信線50を介して、舵角δ、補正されたヨーレートγ*、横方向加速度αX、車速VSなどの情報を取得し、前記した電動機23の回転角、操舵トルクの情報も用いて車両の走行状態(旋回、直進)や車速など、車両の挙動に応じて電動機23を制御し、操舵補助力を発生して運転者の操舵力を軽減するとともに、操向ハンドル21の回動操作方向に対する反力を付与する制御をする。
この反力を付与する制御において、EPS_ECU20は、実ヨーレート(後記するヨーレート中点補正をして補正されたヨーレートγ*)を用いる。
【0022】
エンジン制御ECU13は、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力インタフェースなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路、燃料インジェクタを駆動するFI駆動回路などから構成され、図示省略のアクセルポジションセンサ、クランクパルスセンサ、TDCセンサなどエンジン制御に必要な各種のセンサ信号が入力される。その中には吸気温度(以下では、「外気温度」と称する)を検出する吸気温度センサ(外気温度検出手段)STAir(図1参照)も含まれている。そして、ROMに格納されるプログラムをCPUが実行し、エンジンの出力を制御したり、他のECUで必要な情報、例えば、エンジン回転速度や外気温度TAir(図2参照)などを後記するCAN通信で出力したりする。
【0023】
VSA_ECU30は、図2に示すようにCPU30a、ROM30c、RAM30d、書き換え可能な不揮発メモリ(中点値記憶手段)30f、入出力インタフェース(図示せず)、それらを接続するバス30bなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路(図2中、「入出力インタフェース回路30g」と表示)などから構成され、ROMに格納されるプログラムをCPU30aが実行し、車両挙動を制御する。VSA_ECU30は、例えば、エンジンルーム3に配置されている。
【0024】
図1に示すようにVSA_ECU30には、転舵輪である前方の車輪2FL,2FRの舵角δ(図2参照)を検出する舵角センサSHAからの信号、車両1の各車輪2FL,2FR,2RL,2RRの車輪速を検出する車輪速センサSVWFL,SVWFR,SVWRL,SVWRRからの各車輪速VW(図2参照)を示す信号、エンジンルーム3内に配置されたヨーレートセンサ(車両挙動センサ)SYから検出値であるヨーレートγ(図2参照)を示す信号、ヨーレートセンサSYの温度を検出する温度センサ(車両挙動センサ温度検出手段)STYからのヨーレートセンサ温度TY(図2参照)を示す信号、車両1の横方向の加速度を検出する横加速度センサSαXからの横方向加速度αX(図2参照)を示す信号などが入力される。
【0025】
ここで、ヨーレートセンサ温度TYが、特許請求の範囲に記載の「車両挙動センサの温度」に対応する。
以下、車輪2FL,2FR,2RL,2RR、車輪速センサSVWFL,SVWFR,SVWRL,SVWRRおよび後記するブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRは、区別する必要がない限り、単に「車輪2」、「車輪速センサSVW」、「ブレーキ装置B」と称する。
ちなみに、車輪速センサSVWは、車輪2の回転速度を単位時間当たりのパルス数として検出するセンサである。
また、周辺回路として代表的に、入出力インタフェース回路30gで示したものには、センサ信号の信号処理回路、例えば、フィルタ回路、CAN通信用の信号処理部も含んでいる。
【0026】
なお、ヨーレートセンサSYおよび温度センサSTYは、例えば、VSA_ECU30に組み込まれている。そして、ヨーレートセンサSYは、例えば、半導体素子を用いたものであり、ヨーレートセンサSYの温度の変化に伴い検出値の変動がありうるものである。
【0027】
VSA_ECU30は、各車輪2FL,2FR,2RL,2RRに設けられた各ブレーキ装置B(図1中、「BFL,BFR,BRL,BRR」と表示)に、個別に油圧を供給してブレーキ制御する油圧回路31に含まれる制御バルブ(図示せず)を駆動する油圧回路制御部31aと通信可能に接続され、油圧回路制御部31aへ制御信号を出力したり、油圧回路制御部31aから油圧信号を受信したりして、油圧回路制御部31aを介して、各ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御する。
VSA_ECU30は、EPS_ECU20とCAN通信線50で接続され、互いにデータの受け渡しが可能に構成されている。VSA_ECU30は、CAN通信線50を介して、EPS_ECU20へ舵角δ、補正されたヨーレートγ*、横方向加速度αX、車速VSなどの情報を出力し、必要に応じて、CAN通信線50を介してエンジン制御ECU13に出力抑制指令情報を出力する。逆に、VSA_ECU30は、CAN通信線50を介してEPS_ECU20から操舵トルクの情報を取得する。
【0028】
次に、図2、図3を参照しながらVSA_ECU30におけるヨーレートセンサSYからの信号の中点値、つまり、車両1のヨーレートγが0の状態においてヨーレートセンサSYからの検出値を学習する中点学習の方法について説明する。
VSA_ECU30のCPU30aは、ROM30cに格納されているプログラムを実行することにより実現される機能構成部として、車速演算部41、中点学習条件成立判定部(中点学習条件成立判定手段)42、中点決定部43、学習中点記憶部(中点値記憶手段)44、ヨーレート補正部(補正手段)45、VSA制御部(車両挙動制御装置)46を含んでいる。
ここで、ヨーレートセンサSYとVSA_ECU30における中点学習条件成立判定部42、中点決定部43、学習中点記憶部44、ヨーレート補正部45、不揮発メモリ30fが、特許請求の範囲に記載の「車両挙動検出システム」に対応する。
【0029】
車速演算部41は、各車輪速センサSVWからの車輪速VWを示す信号を読み込み、車両1の車速VSを算出し、中点学習条件成立判定部42、VSA制御部46に出力する。
中点学習条件成立判定部42は、ROM30cに予め格納された中点学習条件データ42aを有し、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγにもとづいて、ヨーレートセンサSYの中点学習条件が成立しているか否かを判定し、成立している場合に、中点決定部43に中点学習許可の信号を出力する。そうでない場合は、中点決定部43に中点学習許可の信号を出力しない。
ここで、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγが、特許請求の範囲に記載の「車両の挙動情報」に対応する。
【0030】
前記中点学習条件は、以下の条件A、条件Bのいずれかが満足されたとき、中点学習条件成立判定部42において中点学習条件が成立していると判定される。
《条件A》
車両1が所定時間ΔTstに亘って停車しているときに、車両1が停車してから、所定時間ΔTstより短い所定時間ΔTyawが経過したとき。
《条件B》
1.ヨーレートγの変動幅が所定値ΔYAW1以内。
2.操舵トルクTrqが所定値TRQ1以内。
3.舵角δの変動幅が所定値Δθ1以内。
4.車速VSが所定値VEL1以上。
5.1.〜4.の状態が時間ΔT1に亘って継続。
【0031】
なお、条件Aの車両1が停車しているときの所定時間ΔTst,ΔTyaw、条件Bの各所定値(ΔYAW1,TRQ1,Δθ1,VEL1,ΔT1)は、車両1に要求される性能、舵角センサSHAおよびヨーレートセンサSYの感度などにもとづいて適宜設定すればよい。
【0032】
中点決定部43は、中点学習条件成立判定部42から中点学習許可の信号を受けたとき、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYを比較して、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYの差が閾値εTYよりも小さければ、検出値である現在のヨーレートγをヨーレート中点値γ0として学習中点記憶部44に出力する。学習中点記憶部44は、中点決定部43から出力されたヨーレート中点値γ0を不揮発メモリ30fの中点データ部44aに記憶させる。ヨーレート補正部45は、検出値である現在のヨーレートγに対して中点補正をして補正されたヨーレートγ*をVSA制御部46に出力する。また、ヨーレート補正部45は、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信を介してEPS_ECU20に出力する。
【0033】
VSA制御部46は、車速VS、中点補正されたヨーレートγ*、舵角δ、横方向加速度αXにもとづいて、油圧回路31を介して各車輪2のブレーキ装置Bを制御して、車両1のVSA制御をしたり、運転者がブレーキペダルPB(図1参照)を操作したとき、油圧回路31を介して制動制御をし、そのとき各車輪2の車輪速VWを監視し、の車輪2のロックを防止するようにABS制御を行ったりする。
【0034】
次に、図3に従って、ヨーレートセンサSYの中点学習方法を説明する。
ステップS01では、現在の車速VS、舵角δ、操舵トルクTrqおよび検出値であるヨーレートγにもとづいて、ヨーレートセンサSYの中点学習条件が成立しているか否かをチェックする。中点学習条件が成立している場合(Yes)は、ステップS02に進み、中点学習条件が成立していない場合(No)はステップS01を繰り返す。ステップS02では、中点決定部43は、外気温度TAirとヨーレートセンサ温度TYとの差が閾値εTYよりも小さいか否かをチェックする。差が閾値εTYよりも小さい場合(Yes)は、中点決定部43は、検出値である現在のヨーレートγをヨーレート中点値γ0として学習中点記憶部44に出力し、ステップS03へ進む。差が閾値εTY以上の場合(No)は、一連の中点学習処理を終了し(エンド)、ステップS01に戻る。
【0035】
ステップS03では、学習中点記憶部44は、中点決定部43から出力されたヨーレート中点値γ0を読み込み(「ヨーレート中点学習処理」)、次いで、不揮発メモリ30fの中点データ部44aに記憶させる(ステップS04、「ヨーレート中点値記憶」)。
これで一連のヨーレートセンサSYの中点学習制御が終了する。
【0036】
本実施形態によれば、車両1(図1参照)が外気温度TAirに近いヨーレートセンサ温度TYにおいてのみヨーレートセンサSYの中点学習がなされ、走行状態にある、つまり、外気をエンジンルーム3内に取り込み、エンジンルーム3(図1参照)内の温度が外気温度TAirに近い状態における車両1の実際のヨーレートとして精度の良い補正されたヨーレートγ*を得ることができる。例えば、走行状態の車両1が停車してからの時間経過に伴ってエンジンルーム3内の温度が上昇する場合に、停車した状態でヨーレートセンサSYの温度が高い環境でヨーレートセンサSYの中点学習をすることが防止できる。
精度の良いヨーレートを得ることができると、EPS_ECU20は、操向ハンドル21の反力制御の精度を向上することができ、運転者が感じる車両1の挙動や、運転者の操向ハンドル21の回動操作量とに対して、違和感を与えずに好適に制御できる。
【0037】
本実施形態では、VSA_ECU30において、ヨーレートセンサSYの中点学習を行うものとしたがそれに限定されるものではない。VSA_ECU30は検出値であるヨーレートγを、CAN通信線50を介して、EPS_ECU20に送信し、EPS_ECU20側で前記したような方法で中点学習し、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信線50で他のECU、例えば、VSA_ECU30に送信し、VSA制御に用いても良い。また、ヨーレートセンサSYの検出値であるヨーレートγを直接EPS_ECU20に入力し、EPS_ECU20側で前記したような方法で中点学習し、中点補正されたヨーレートγ*を、CAN通信線50で他のECU、例えば、VSA_ECU30に送信し、VSA制御に用いても良い。
【0038】
特許請求の範囲における「車両挙動センサの温度」は、本実施形態では、ヨーレートセンサ温度TYとしたが、ヨーレートセンサSYそのものの温度でも、ヨーレートセンサSYが置かれる環境の温度でも良い。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
3 エンジンルーム
5 電動パワーステアリング装置
20 EPS_ECU(車両挙動制御装置)
21 操向ハンドル
30 VSA_ECU
30f 不揮発メモリ(中点値記憶手段)
42 中点学習条件成立判定部(中点学習条件成立判定手段)
42a 中点学習条件データ
43 中点決定部
44 学習中点記憶部(中点値記憶手段)
44a 中点データ部
45 ヨーレート補正部(補正手段)
46 VSA制御部(車両挙動制御装置)
50 CAN通信線
SY ヨーレートセンサ(車両挙動センサ)
SHA 舵角センサ
STY 温度センサ(車両挙動センサ温度検出手段)
STrq トルクセンサ
STAir 吸気温度センサ(外気温度検出手段)
TY ヨーレートセンサ温度(車両挙動センサの温度)
TAir 外気温度
Trq 操舵トルク(車両の挙動情報)
γ ヨーレートγ(車両の挙動情報)
VS 車速(車両の挙動情報)
δ 舵角(車両の挙動情報)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させる車両挙動センサの中点学習方法であって、
少なくとも車速を含む前記車両の挙動情報が、予め設定された前記車両挙動センサの中点学習条件を満たした場合に、
さらに、前記車両挙動センサの温度と、外気温度との差が、予め決められた閾値未満のとき、
前記車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、
前記車両挙動センサの温度と、外気温度との差が、予め決められた閾値以上のとき、
前記車両挙動センサからの信号を中点値として取得しないことを特徴とする車両挙動センサの中点学習方法。
【請求項2】
エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサと、該車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶する中点値記憶手段と、前記記憶された中点値で前記車両挙動センサからの信号を補正して、車両挙動の制御を行う車両挙動制御装置に出力する補正手段と、を備える車両挙動検出システムであって、
少なくとも車速を含む前記車両の挙動情報が、予め設定された前記車両挙動センサの中点学習条件を満たしていることを判定する中点学習条件成立判定手段と、
前記車両挙動センサの温度を検出する車両挙動センサ温度検出手段と、
外気温度を検出する外気温度検出手段と、を備え、
前記中点学習条件成立判定手段が、前記中点学習条件を満たしていると判定した場合に、
さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、前記車両挙動センサからの信号を前記中点値として取得して、前記中点値記憶手段に記憶させ、
検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、前記閾値以上のときは、前記車両挙動センサから信号を中点値として取得しないことを特徴とする車両挙動検出システム。
【請求項1】
エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させる車両挙動センサの中点学習方法であって、
少なくとも車速を含む前記車両の挙動情報が、予め設定された前記車両挙動センサの中点学習条件を満たした場合に、
さらに、前記車両挙動センサの温度と、外気温度との差が、予め決められた閾値未満のとき、
前記車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶させ、
前記車両挙動センサの温度と、外気温度との差が、予め決められた閾値以上のとき、
前記車両挙動センサからの信号を中点値として取得しないことを特徴とする車両挙動センサの中点学習方法。
【請求項2】
エンジンルーム内に配設されて車両の挙動を検出する車両挙動センサと、該車両挙動センサからの信号を中点値として取得して記憶する中点値記憶手段と、前記記憶された中点値で前記車両挙動センサからの信号を補正して、車両挙動の制御を行う車両挙動制御装置に出力する補正手段と、を備える車両挙動検出システムであって、
少なくとも車速を含む前記車両の挙動情報が、予め設定された前記車両挙動センサの中点学習条件を満たしていることを判定する中点学習条件成立判定手段と、
前記車両挙動センサの温度を検出する車両挙動センサ温度検出手段と、
外気温度を検出する外気温度検出手段と、を備え、
前記中点学習条件成立判定手段が、前記中点学習条件を満たしていると判定した場合に、
さらに、検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、予め決められた閾値未満のときは、前記車両挙動センサからの信号を前記中点値として取得して、前記中点値記憶手段に記憶させ、
検出された前記車両挙動センサの温度と検出された前記外気温度との差が、前記閾値以上のときは、前記車両挙動センサから信号を中点値として取得しないことを特徴とする車両挙動検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−256131(P2010−256131A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105460(P2009−105460)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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