説明

車両用サスペンション装置

【課題】 車両の姿勢を制御可能な車両用サスペンション装置において、液圧回路の簡素化を図る。
【解決手段】 車体側に設けられるアッパスプリングシート11と車輪側に設けられるロアスプリングシート12との間に、前記車体に対する車輪の上下動を弾性的に受け止めるコイルスプリング6を備えた車両用サスペンション装置1において、ロアスプリングシート12をコイルスプリング6をその軸方向に沿って伸縮させるべく油圧により移動可能な伸縮スプリングシート12Aとして構成し、一つの車輪位置に配置された伸縮スプリングシート12Aと、他の車輪位置にも同様に配置された伸縮スプリングシート12Aとの間に、これらの一方から他方へ油圧を供給することで車両の姿勢を制御可能とするギヤポンプ20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の姿勢を制御可能な車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用サスペンション装置において、車輪を懸架する複数のクッションユニットにそれぞれ液圧(油圧)機構を設け、該液圧機構に液圧ポンプからの液圧を供給可能とすることで、液圧機構内の液圧を増減させて車両の姿勢を制御可能としたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2002−542977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記サスペンション装置においては、液圧機構内の液圧を増加させる際には液圧ポンプから液圧を供給し、液圧機構内の液圧を減少させる際にはその余剰液圧をオイルタンク内に放出するようになっている。また、液圧ポンプと各液圧機構との間にはそれぞれ逆止弁が設けられると共に、各液圧機構にはそれぞれアキュムレータ及び減衰器が接続されている。
しかしながら、上述のような構成では、車両姿勢制御時には液圧放出によるロスがあり、かつ液圧回路の構成部品増による損失や重量増もあることから、このような点の改善が要望されている。
そこでこの発明は、車両の姿勢を制御可能な車両用サスペンション装置において、液圧回路の簡素化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、車体側に設けられるアッパスプリングシート(例えば実施例のアッパスプリングシート11)と車輪側に設けられるロアスプリングシート(例えば実施例のロアスプリングシート12)との間に、前記車体に対する車輪の上下動を弾性的に受け止めるコイルスプリング(例えば実施例のコイルスプリング6)を備えた車両用サスペンション装置(例えば実施例のサスペンション装置1,41,51)において、前記アッパスプリングシート及びロアスプリングシートの少なくとも一方を、前記コイルスプリングをその軸方向に沿って伸縮させるべく液圧により移動可能な伸縮スプリングシート(例えば実施例の伸縮スプリングシート12A)として構成し、一つの車輪位置に配置された前記伸縮スプリングシートと、他の車輪位置にも同様に配置された前記伸縮スプリングシートとの間に、これらの一方から他方へ液圧を供給することで車両の姿勢を制御可能とするアクチュエータ(例えば実施例のギヤポンプ20、複動シリンダ70)を設けたことを特徴とする。
【0005】
ここで、前記アクチュエータとしては、請求項2に記載した発明のように、正逆回転可能なギヤポンプとして構成されるものが考えられる。
【0006】
この構成によれば、車両姿勢制御時に一方の伸縮スプリングシート内の液圧を増加させる際には、アクチュエータが作動して他方の伸縮スプリングシートからの液圧が供給されると共に、一方の伸縮スプリングシート内の液圧を減少させる際には、同じくアクチュエータが作動して該スプリングシートからの余剰液圧が他方の伸縮スプリングシートへ供給される。すなわち、車両姿勢制御時における液圧放出によるロスがなくなる。
またこのとき、アクチュエータは、各伸縮スプリングシート間の液圧の差分に対応できればよいので、該アクチュエータの出力を下げることが可能となり、かつこれに伴い液圧回路におけるアキュムレータや減衰器を廃止することが可能となる。すなわち、液圧回路における部品点数増による損失や重量増が抑えられる。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記アクチュエータと各伸縮スプリングシートとをそれぞれ連通させる液圧配管(例えば実施例の油圧配管27)の少なくとも一方に、各伸縮スプリングシートへ液圧を供給可能な液圧供給配管(例えば実施例の油圧供給配管28)を接続すると共に、該液圧供給配管から遮断弁(例えば実施例の遮断弁33)を有する液圧戻し配管(例えば実施例の油圧戻し配管34)を分岐させたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、液圧供給配管により各伸縮スプリングシートへ液圧を供給する一方、遮断弁を開放し液圧戻し配管から各伸縮スプリングシートの液圧を放出することで、各伸縮スプリングシートの初期液圧、換言すれば初期作動位置を増減させることが可能となる。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記アクチュエータと各伸縮スプリングシートとをそれぞれ連通させる液圧配管(例えば実施例の油圧配管27)の一方に、前記連通を遮断して前記アクチュエータと作動液タンク(例えば実施例のオイルタンク46)とを連通可能な切り替え弁(例えば実施例の切り替え弁44)を設けると共に、前記各液圧配管同士を遮断弁(例えば実施例の遮断弁43)を有する補助液圧配管(例えば実施例の補助油圧配管42)により連通させたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、切り替え弁の作動によりアクチュエータと作動液タンクとを連通させ、この状態でアクチュエータを作動させて各伸縮スプリングシートへ液圧を供給する又はこれを放出することで、各伸縮スプリングシートの初期液圧、換言すれば初期作動位置を増減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,2に記載した発明によれば、車両姿勢制御時の液圧放出によるロスがなくなると共に、液圧回路の部品点数増による損失や重量増が抑えられるため、液圧回路の簡素化を図ることができる。
請求項3,4に記載した発明によれば、液圧回路の簡素化を図りつつ車高調整制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施例を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、この発明を四輪の自動車(車両)における前輪又は後輪に適用した例を示す構成図であり、本図に示すように、サスペンション装置1は、各車輪位置にそれぞれ配置された右及び左のクッションユニット2,3と、該各クッションユニット2,3間に配される油圧回路4とを有してなる。
【0014】
各クッションユニット2,3は、例えば油圧式のダンパー5とその周囲を巻回するように配されたコイルスプリング6とを一体的に設けてなるもので、車両搭載状態において、その軸方向(長手方向)が例えば上下方向に沿うようにして配置される。なお、クッションユニット2,3における軸方向とは、ダンパー5及びコイルスプリング6の軸方向(長手方向)でもある。
【0015】
ダンパー5は、その下側に円筒状のシリンダ7が位置し、該シリンダ7の上方にシリンダ7内を摺動する不図示のピストンから上方に延びるピストンロッド8が位置するように配置される。
ピストンロッド8の上部には、コイルスプリング6の上端部を支持するアッパスプリングシート11が固定される。一方、シリンダ7の中間部には、コイルスプリング6の下端部を支持するロアスプリングシート12が、後に詳述する油圧式ジャッキ13を介して固定される。これら各スプリングシートに挟み込まれるようにしてコイルスプリング6が保持されることで、該コイルスプリング6がダンパー5と共に伸縮可能とされる。
【0016】
ピストンロッド8の上端部は、その外周にねじ山が刻設されたねじ部8aとされ、該ねじ部8a及びこれに螺着されるナット等を用いて、各クッションユニット2,3の上端部が車体側のサスペンション支持部にそれぞれ連結される。一方、ダンパー5のシリンダ7の下端部には、その軸方向に直交するようにボルト等を挿通可能な円筒部7aが設けられ、該円筒部7a及びその内周側に配されるゴムブッシュ等を用いて、各クッションユニット2,3の下端部が車輪側のサスペンションアームにそれぞれ連結される。すなわち、ダンパー5のピストンロッド8及びアッパスプリングシート11は車体側に、シリンダ7及びロアスプリングシート12は車輪側にそれぞれ連結される。
【0017】
このような各クッションユニット2,3をそれぞれ車輪位置に設けることで、車体に対する車輪の上下動がコイルスプリング6により弾性的に受け止められると共に、コイルスプリング6の伸縮エネルギーがダンパー5により減衰される。換言すれば、路面から車輪に入力される衝撃等の荷重が、コイルスプリング6とダンパー5との協働により緩やかに吸収される。
【0018】
ロアスプリングシート12を支持する油圧式ジャッキ13は、ダンパー5のシリンダ7を貫通させるように設けられる円筒状のもので、該シリンダ7に固定されるジャッキベース14Aと、該ジャッキベース14Aに対してダンパー5の軸方向に移動可能な主シリンダ15とを有してなる。
ジャッキベース14Aの上部は、主シリンダ15内にその下部開口から入り込んで該主シリンダ15にオイルシール等を介して内接する主ピストン14とされ、該主ピストン14が主シリンダ15内に入り込むことで、主シリンダ15内に環状の主油室16が形成される。また、ジャッキベース14Aの下部には、主油室16内への主油圧流出入ポート18が設けられる。
【0019】
主シリンダ15の上端部にはロアスプリングシート12が固定されており、主油室16内の油圧(液圧)を増減させることで、主シリンダ15と共にロアスプリングシート12がジャッキベース14A(ダンパー5)に対してダンパー5の軸方向に沿って移動可能とされる。そして、主油室16内の油圧が増加してロアスプリングシート12が上方(車体側)に移動することで、車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位がコイルスプリング6等を介して上方にジャッキアップされる。また、主油室16内の油圧が減少してロアスプリングシート12が下方(車輪側)に移動することで、車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位がジャッキダウンされる。ここで、ロアスプリングシート12及び油圧式ジャッキ13は、コイルスプリング6をその軸方向に沿って伸縮させるべく油圧により移動可能な伸縮スプリングシート12Aを構成している。
【0020】
油圧回路4は、各クッションユニット2,3における油圧式ジャッキ13の主油室16同士を、正逆回転駆動可能なギヤポンプ(アクチュエータ)20を介して連通させるものである。
ギヤポンプ20は、そのケーシング21内に内接する駆動ギヤ22及び従動ギヤ23の噛み合いにより、ケーシング21両側に設けられた副油圧流出入ポート24の一方から吸入した作動油を他方に向けて吐出可能とされる。駆動ギヤ22の駆動源であるモータ26の駆動は、不図示のECU(エレクトロニックコントロールユニット)により制御されている。以下、ギヤポンプ20の各副油圧流出入ポート24が図示の如くケーシング21の左右に位置するものとして説明する。
【0021】
ギヤポンプ20における右側の副油圧流出入ポート24は、同じく右側のクッションユニット2における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に油圧配管27を介して接続される。同様に、ギヤポンプ20における左側の副油圧流出入ポート18は、同じく左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に油圧配管27を介して接続される。
【0022】
そして、モータ26(ギヤポンプ20)が駆動することで、一方のクッションユニット2又は3における油圧式ジャッキ13の主油室16内の作動油が、油圧配管27を介して他側のクッションユニット2又は3における油圧式ジャッキ13の主油室16内に流入し、前記一方のクッションユニット2又は3におけるロアスプリングシート12を下降させて車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位をジャッキダウンすると共に、前記他方のクッションユニット2又は3におけるロアスプリングシート12を上昇させて車体における当該クッションユニット2又は3が配置された部位をジャッキアップする。
【0023】
すなわち、ギヤポンプ20の駆動により、車体における左右一方の車輪位置での車高が増加すると共に他方の車輪位置での車高が減少する。換言すれば、ギヤポンプ20におけるモータ26の回転数に応じた量だけ、車体が左右に揺動する。これを車両の旋回走行時等に行うことで、車体のロールを制御(すなわち車両姿勢を制御)することが可能となっている。
【0024】
次に、上記サスペンション装置1により車両の姿勢制御を行う際の前記ECUにおける処理手順について、図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステアリング操作角及び車速等の情報に基づいて車両の旋回状態の測定が行われると共に(ステップS1)、車体の左右方向での傾きすなわちロール量の予測がなされる(ステップS2)。
【0025】
次いで、予測されたロール量が所定値以上であるか否かの判定がなされ(ステップS3)、該ロール量が所定値以上である(Yes)と判定された場合には、各クッションユニット2,3の作動により車体の姿勢変化を抑えるべく前記ロール量に応じたモータ26の目標回転数(すなわち車体の左右への揺動量)が決定されると共に(ステップS4)、ステアリング操作角等の情報に基づいて車両が例えば左旋回中であるか否かの判定がなされる(ステップS5)。なお、ステップS3において、ロール量が所定値以下である(No)と判定された場合には、一旦処理を終了して再度ステップS1から処理を開始する。
【0026】
このとき、車両が左旋回中である(Yes)と判定された場合には、モータ26を例えば正回転駆動させつつ(ステップS6)、該モータ26の回転数が前記目標回転数に達したか否かの判定がなされる(ステップS7)。ここで、モータ26の回転数が前記目標回転数に達していない(No)と判定された場合には、ステップS6に戻り引き続きモータ26を正回転駆動させ、モータ26の回転数が前記目標回転数に達した(Yes)と判定された場合には、モータ26をロック(駆動停止)して(ステップS8)処理を終了する。
【0027】
また、ステップS5において、車両が右旋回中である(No)と判定された場合には、モータ26を例えば逆回転駆動させつつ(ステップS9)、該モータ26の回転数が前記目標回転数に達したか否かの判定がなされる(ステップS10)。ここで、モータ26の回転数が前記目標回転数に達していない(No)と判定された場合には、ステップS9に戻り引き続きモータ26を逆回転駆動させ、モータ26の回転数が前記目標回転数に達した(Yes)と判定された場合には、モータ26をロックして(ステップS8)処理を終了する。
【0028】
ここで、各油圧配管27には、クッションユニット2又は3における伸縮スプリングシート12Aへ油圧を供給可能な油圧供給配管28が接続されている。
油圧供給配管28は、その一端側に電動式の油圧ポンプ29及びオイルタンク31が設けられると共に、他端側が例えば分岐してその分岐端が各油圧配管27にそれぞれ接続される。また、油圧供給配管28における分岐点と各油圧配管27との間には、それぞれ油圧ポンプ29側への作動油の流通を阻止する逆止弁32が設けられる。
【0029】
このような油圧供給配管28において、各逆止弁32と油圧配管27との間からは、各油圧配管27内の油圧(各油圧式ジャッキ13内の油圧)のオイルタンク31内への放出を可能とするべく、遮断弁33を有する油圧戻し配管34が分岐して設けられる。各遮断弁33は電動式のもので、通常時には油圧戻し配管34を閉塞する側に付勢され、通電時には油圧戻し配管34を閉塞するべく動作可能に構成される。
【0030】
そして、サスペンション装置1においては、各遮断弁33及び油圧ポンプ29を前記ECUにより駆動制御することで、車高調整を行うことが可能となっている。
すなわち、まず各遮断弁33への通電を遮断し各油圧戻し配管34を閉塞させた状態で油圧ポンプ29を作動させれば、各油圧配管27を介して各油圧式ジャッキ13に油圧が供給され、ロアスプリングシート12を上昇させて車高を増加させることが可能となる。
また、各遮断弁33への通電状態とし各油圧戻し配管34を開通させた状態で油圧ポンプ29を作動させれば、各油圧配管27を介して各油圧式ジャッキ13に油圧が供給され、ロアスプリングシート12を下降させて車高を減少させることが可能となる。
【0031】
以上説明したように、上記実施例におけるサスペンション装置1は、車体側に設けられるアッパスプリングシート11と車輪側に設けられるロアスプリングシート12との間に、前記車体に対する車輪の上下動を弾性的に受け止めるコイルスプリング6を備えたものであって、ロアスプリングシート12をコイルスプリング6をその軸方向に沿って伸縮させるべく油圧により移動可能な伸縮スプリングシート12Aとして構成し、一つの車輪位置に配置された伸縮スプリングシート12Aと、他の車輪位置にも同様に配置された伸縮スプリングシート12Aとの間に、これらの一方から他方へ油圧を供給することで車両の姿勢を制御可能とするギヤポンプ20を設けたものである。
【0032】
この構成によれば、車両のロール制御時に一方の伸縮スプリングシート12A(油圧式ジャッキ13)内の油圧を増加させる際には、ギヤポンプ20が例えば正転駆動することで他方の伸縮スプリングシート12A(油圧式ジャッキ13)からの油圧が供給されると共に、一方の伸縮スプリングシート12A内の油圧を減少させる際には、ギヤポンプ20が例えば逆転駆動することで該スプリングシートからの余剰油圧が他方の伸縮スプリングシート12Aへ供給される。すなわち、ロール制御時における油圧放出によるロスがなくなる。
【0033】
またこのとき、ギヤポンプ20は、各伸縮スプリングシート12A間の油圧の差分に対応できればよいことから、該ギヤポンプ20の出力を下げることが可能となり、かつこれに伴い油圧回路4におけるアキュムレータや減衰器を廃止することが可能となる。すなわち、油圧回路4における部品点数増による損失や重量増が抑えられる。
【0034】
このように、車両のロール制御時の油圧放出によるロスがなくなると共に、油圧回路4の部品点数増による損失や重量増が抑えられることで、油圧回路4の簡素化を図ることができるという効果がある。
【0035】
また、上記サスペンション装置1においては、ギヤポンプ20と各伸縮スプリングシート12Aとをそれぞれ連通させる各油圧配管27に、各伸縮スプリングシート12Aへ油圧を供給可能な油圧供給配管28を接続すると共に、該油圧供給配管28から遮断弁33を有する油圧戻し配管34を分岐させたことで、油圧供給配管28により各伸縮スプリングシート12Aへ油圧を供給する一方、遮断弁33を開放し油圧戻し配管34から各伸縮スプリングシート12Aの油圧を放出することで、各伸縮スプリングシート12Aの初期油圧、換言すれば初期作動位置を増減させることが可能となる。すなわち、油圧回路4の簡素化を図りつつ車高調整制御を行うことができるという効果がある。
【実施例2】
【0036】
次に、この発明の第二実施例について説明する。
この実施例におけるサスペンション装置41は、前記第一実施例におけるサスペンション装置1に対して、油圧供給配管28及び油圧戻し配管34に代わり補助油圧配管42及び切り替え弁44を設けた点でのみ異なるもので、前記実施例の構成と同様の部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図3に示すように、例えば左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13とギヤポンプ20とを連通させる油圧配管27には、該油圧配管27を閉塞すると共に分岐油圧配管45を介してギヤポンプ20とオイルタンク(作動液タンク)46とを連通可能な切り替え弁44が設けられる。切り替え弁44は電動式のもので、通常時には油圧配管27を開通する側に付勢され、通電時には油圧配管27を閉塞すると共にギヤポンプ20とオイルタンク46とを連通させるように構成される。
【0038】
また、各油圧配管27間には、これらを互いに連通可能とするべく遮断弁43を有する補助油圧配管42が設けられる。遮断弁43は電動式のもので、通常時には補助油圧配管42を閉塞する側に付勢され、通電時には補助油圧配管42を開通するように構成される。
そして、サスペンション装置41においては、遮断弁43及び切り替え弁44、並びにギヤポンプ20を前記ECUにより駆動制御することで、車高調整を行うことが可能となっている。
【0039】
すなわち、まず遮断弁43への通電状態とし補助油圧配管42を開通させた状態であって、切り替え弁44により油圧配管27が遮断しギヤポンプ20とオイルタンク46とを連通させた状態において、ギヤポンプ20を例えば正回転駆動させれば、ギヤポンプ20がオイルタンク46から作動油を吸引し、補助油圧配管42及び各油圧配管27を介して各油圧式ジャッキ13に油圧が供給され、ロアスプリングシート12を上昇させて車高を増加させることが可能となる。
一方、上記状態においてギヤポンプ20を逆転駆動させれば、ギヤポンプ20が各油圧式ジャッキ13から作動油を吸引し、補助油圧配管42及び各油圧配管27を介してオイルタンク46内に油圧が放出され、ロアスプリングシート12を下降させて車高を減少させることが可能となる。
【0040】
以上説明したように、上記サスペンション装置41においては、ギヤポンプ20と各伸縮スプリングシート12Aとをそれぞれ連通させる油圧配管27の一方に、前記連通を遮断してギヤポンプ20とオイルタンク46とを連通可能な切り替え弁44を設けると共に、各油圧配管27同士を遮断弁43を有する補助油圧配管42により連通させたことで、切り替え弁44の作動によりギヤポンプ20とオイルタンク46とを連通させ、この状態でギヤポンプ20を作動させて各伸縮スプリングシート12Aへ油圧を供給する又はこれを放出することで、各伸縮スプリングシート12Aの初期油圧、換言すれば初期作動位置を増減させることが可能となる。すなわち、油圧回路4の簡素化を図りつつ車高調整制御を行うことができるという効果がある。
【実施例3】
【0041】
次に、この発明の第三実施例について説明する。
この実施例におけるサスペンション装置51は、前記第一及び第二実施例におけるサスペンション装置1,41に対して、ギヤポンプ20に代わり油圧式の複動シリンダ70(アクチュエータ)が採用される点でのみ異なるもので、前記各実施例の構成と同様の部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、油圧回路54における複動シリンダ70は、円筒状の副シリンダ71内にその軸方向に摺動可能な副ピストンユニット72を配置し、該副ピストンユニット72の両端側には右及び左の副油室75,76がそれぞれ形成されると共に、副シリンダ71の両端部には各副油室75,76内への副油圧流出入ポート77がそれぞれ設けられる。以下、複動シリンダ70(副シリンダ71)の軸方向が図示の如く左右方向に沿うものとして説明する。
【0043】
複動シリンダ70における右側の副油圧流出入ポート77は、同じく右側のクッションユニット2における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に油圧配管79を介して接続される。同様に、複動シリンダ70における左側の副油圧流出入ポート77は、同じく左側のクッションユニット3における油圧式ジャッキ13の主油圧流出入ポート18に油圧配管79を介して接続される。
【0044】
副ピストンユニット72は、その両端部にオイルシール等を介して副シリンダ71に内接する右又は左の副ピストン本体73,74を備え、かつ該各副ピストン本体73,74間には、これらを所定間隔を有した状態で連結するラック81が設けられる。
ラック81は、モータ82により駆動されるピニオンギヤ83に噛み合っており、モータ82が正逆回転駆動することで、該ラック81と共に副ピストンユニット72全体が副シリンダ71の軸方向に沿って移動する。なお、モータ82は前記ECUにより駆動制御されている。
【0045】
このように副ピストンユニット72が移動することで、一方の副油室75又は76内の作動油が油圧配管79を介して同側のクッションユニット2又は3における油圧式ジャッキ13の主油室16内に流入し、ロアスプリングシート12を上昇させて車体をジャッキアップすると共に、他側の副油室75又は76内の作動油が油圧配管79を介して同側のクッションユニット2又は3における油圧式ジャッキ13の主油室16内に流入し、ロアスプリングシート12を下降させて車体をジャッキダウンする。
【0046】
すなわち、複動シリンダ70の作動により、車体における左右一方の車輪位置での車高が増加すると共に他方の車輪位置での車高が減少する。換言すれば、複動シリンダ70におけるモータ82の回転数に応じた量だけ、車体が左右に揺動する。これを車両の旋回走行時等に行うことで、車体のロールを制御することが可能となっている。
【0047】
なお、上記サスペンション装置51により車両の姿勢制御を行う際の前記ECUにおける処理手順は、前記第一実施例において説明した処理手順に対して、モータ26に代わりモータ82が駆動制御される点でのみ異なるものとしてその詳細説明は省略する。また、図示は省略するが、サスペンション装置51においても、前記油圧供給配管28及び油圧戻し配管34、又は前記補助油圧配管42及び切り替え弁44の何れかを有しており、もって車高調整制御が可能とされている。
【0048】
以上説明したように、上記実施例におけるサスペンション装置51は、各車輪位置にそれぞれ配置された各伸縮スプリングシート12A間に、これらの一方から他方へ油圧を供給することで車両の姿勢を制御可能とする複動シリンダとしての油圧式複動シリンダ70を設けたものである。
この構成においても、上記第一実施例と同様に、車両のロール制御時の油圧放出によるロスがなくなると共に、油圧回路54の部品点数増による損失や重量増が抑えられることで、油圧回路54の簡素化を図ることができるという効果がある。
【0049】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、車両の前後輪位置に配置されるクッションユニット間で油圧を供給し合う構成とすることで、車体のピッチ(前後方向での揺動)を制御するようにしてもよい。
また、アッパスプリングシート12を油圧式ジャッキにより移動可能な伸縮スプリングシートとした構成としてもよい。
さらに、ダンパーとコイルスプリングとが別体とされたサスペンション装置であってもよい。
【0050】
また、第二実施例において、油圧供給配管28の一端側に油圧ポンプ29及びオイルタンク31が設けられると共に、他端側が分岐せず左右何れかの油圧配管27にのみ接続された構成としてもよい。すなわち、油圧供給配管28により一方の伸縮スプリングシート12Aへ油圧を供給する一方、該油圧の一部をギヤポンプ20の作動により他方の伸縮スプリングシート12Aへも供給することで車高調整を行うようにしてもよく、この場合、油圧回路4のより一層の簡素化が可能となる。
さらに、第三実施例において、切り替え弁44が3WAYタイプのものであってもよい。
そして、上記実施例における構成は一例であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施例におけるサスペンション装置の主要構成図である。
【図2】上記サスペンション装置において車両姿勢制御を行う際の処理手順を示すフローチャート図である。
【図3】この発明の第二実施例におけるサスペンション装置の主要構成図である。
【図4】この発明の第三実施例におけるサスペンション装置の主要構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1,41,51 サスペンション装置(車両用サスペンション装置)
6 コイルスプリング
11 アッパスプリングシート
12 ロアスプリングシート
12A 伸縮スプリングシート
20 ギヤポンプ(アクチュエータ)
27 油圧配管(液圧配管)
28 油圧供給配管(液圧供給配管)
33 遮断弁
34 油圧戻し配管(液圧戻し配管)
43 遮断弁
42 補助油圧配管(補助液圧配管)
44 切り替え弁
46 オイルタンク(作動液タンク)
70 複動シリンダ(アクチュエータ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられるアッパスプリングシートと車輪側に設けられるロアスプリングシートとの間に、前記車体に対する車輪の上下動を弾性的に受け止めるコイルスプリングを備えた車両用サスペンション装置において、
前記アッパスプリングシート及びロアスプリングシートの少なくとも一方を、前記コイルスプリングをその軸方向に沿って伸縮させるべく液圧により移動可能な伸縮スプリングシートとして構成し、一つの車輪位置に配置された前記伸縮スプリングシートと、他の車輪位置にも同様に配置された前記伸縮スプリングシートとの間に、これらの一方から他方へ液圧を供給することで車両の姿勢を制御可能とするアクチュエータを設けたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記アクチュエータがギヤポンプとして構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記アクチュエータと各伸縮スプリングシートとをそれぞれ連通させる液圧配管の少なくとも一方に、各伸縮スプリングシートへ液圧を供給可能な液圧供給配管を接続すると共に、該液圧供給配管から遮断弁を有する液圧戻し配管を分岐させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記アクチュエータと各伸縮スプリングシートとをそれぞれ連通させる液圧配管の一方に、前記連通を遮断して前記アクチュエータと作動液タンクとを連通可能な切り替え弁を設けると共に、前記両液圧配管同士を遮断弁を有する補助液圧配管により連通させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用サスペンション装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131182(P2006−131182A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325118(P2004−325118)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】