説明

車両用駆動制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、モータ走行からエンジン走行に切り替える際、電動モータ17にトルクアップする十分な余裕がない場合でも、当該切替時のトルクショックを抑制できるようにする。
【解決手段】走行モードの切替においては、停止したエンジン11の膨張行程にある気筒に供給された燃料を点火・燃焼させることによって該エンジン11を始動させる。電動モータ17が現在出力可能な最大トルクと現在の発生トルクと差である余裕トルクを演算する。断続手段121を作動させて車輪14からエンジン11にアシストトルクを付与する際に、電動モータ17の余裕トルク量に応じてエンジン回転数上昇手段18によるエンジン回転数の上昇を実行するとともに、電動モータ17のトルクアップを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、電動モータとエンジンとを備え、少なくとも一方の駆動力によって走行可能なハイブリッド車両の駆動制御装置に関し、特に車両の走行中に停止しているエンジンを始動させる際の制御に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の駆動源としてエンジン及び電動モータを備えたハイブリッド車両が普及しつつある(例えば特許文献1参照)。こうしたハイブリッド車両では、エンジンを停止し電動モータによって走行するモータ走行モードと、エンジンにより走行するエンジン走行モードとが少なくとも設定される。車両の走行中には、例えば車速とエンジンのアクセル開度とによって決定される車両の運転状態に基づいて走行モードが切り替えられ、それに伴い、電動モータの作動及び停止、並びに、エンジンの運転及び停止がそれぞれ切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−143264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車両においては、走行モードの切替に伴って、車両の走行中にエンジンの停止と始動とが頻繁に繰り返される。そのため、特許文献1に記載されているような、スタータとオルタネータとを統合したISG(Integrated Starter Generator)やクランク軸に直結したCISG(Crank Integrated Starter Generator)(以下、これらを総称して、単にスタータと呼ぶ場合がある)を作動させてエンジンを始動させる場合、スタータが頻繁に作動される。このことは、例えばスタータの大型化や、その寿命の低下といった不都合を招く。また、スタータを利用したエンジンの再始動では、始動時間が長くなる不都合もある。
【0005】
これに対して、スタータを利用せずにエンジンの始動を短時間で行なう技術として、例えばエンジン停止時に膨張行程にある気筒に燃料を供給しておき、該膨張気筒の燃料の点火及び燃焼を行なうことによって該エンジンを始動させる燃焼始動技術が知られている。そして、この燃焼始動を確実なものとし且つ始動に要する時間の短縮を図るために、走行中の車両の車輪からのトルクをエンジンに伝達して燃焼始動をアシストすることが考えられる。
【0006】
しかし、車輪からのトルクで燃焼始動をアシストする場合、トルクの引き込みによるショックを乗員に与える懸念がある。その対策として、電動モータ側でトルクアップすることが考えられるが、この電動モータに前記引き込みショックを緩和できるようにトルクアップする十分な余裕がない場合がある。例えば、車速が比較的高くなっていて、電動モータが現在出力可能な最大トルクに電動モータの発生トルクが近づいている場合である。
【0007】
そこで、本発明は、前記燃焼始動方式を採用してモータ走行からエンジン走行に切り替える際、電動モータ側にトルクアップする十分な余裕がない場合でも、当該切替時のトルクショックを抑制しつつ、速やかに当該切替を完了できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために、前記走行モード切替時において、前記車輪から前記エンジンにアシストトルクが付与されるようにする際に、電動モータのトルクアップ制御を実行するとともに、エンジン回転数を上昇させるようにした。
【0009】
すなわち、ここに開示する車両用駆動制御装置は、多気筒エンジンと、車両を駆動するために前記エンジンに連結された自動変速機と、前記エンジンと前記車両の車輪との間の動力の伝達及びその遮断をする断続手段と、前記自動変速機を介さずに前記車両を駆動する電動モータとを備え、前記エンジンを停止し前記電動モータを作動させて前記車両を駆動するモータ走行モードと、前記エンジンを作動させて前記車両を駆動するエンジン走行モードとの間で車両駆動方式を切り替えるようにしている。
【0010】
この車両用駆動制御装置では、前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードに切り替えるモード切替に、前記エンジンの膨張行程にある気筒に供給された燃料の点火及び燃焼を行なうことによって該エンジンを始動させる燃焼始動方式を採用している。さらに当該車両用駆動制御装置は、前記燃焼始動手段にて始動させた前記エンジンのエンジン回転数を上昇させるエンジン回転数上昇手段と、前記電動モータが現在出力可能な最大トルクと現在の発生トルクと差である余裕トルクを演算する余裕トルク演算手段とを備えている。
【0011】
そして、前記モード切替時においては、前記エンジンを前記燃焼始動手段によって始動させ、さらに前記断続手段を作動させて前記エンジンに前記車輪からのアシストトルクを付与する際に、前記余裕トルク量に応じて前記エンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇を実行するととに、前記電動モータの発生トルクを増大させるトルクアップを実行するようにしている。
【0012】
従って、モード切替時においては、電動モータの余裕トルク量に応じてエンジン回転数上昇手段を作動させ、エンジン回転数を上昇させるから、断続手段の作動によって車輪からエンジンにアシストトルクが付与される際の、電動モータのトルクアップ量が少ない場合でも、トルクの引き込みショックを抑制することができ、乗員に違和感を与えることを軽減ないし解消することができる。しかも、前記エンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇により、速やかなモード切替に有利になる。
【0013】
また、前記余裕トルク量が所定値よりも小さいときには、該所定値以上であるときよりも、前記エンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇度を大にすることが好ましい。これにより、モード切替時におけるトルクショックの抑制及び速やかなモード切替に有利になる。
【0014】
また、好ましいのは、前記エンジンと前記自動変速機との間で流体を介したトルク伝達を行う、ロックアップクラッチ付きの流体伝動装置をさらに備え、前記制御手段が、前記モード切替時において、前記ロックアップクラッチを、前記余裕トルク量に応じて所定のスリップ量で作動させることである。
【0015】
すなわち、ロックアップクラッチのスリップ制御により、流体伝動装置の入力軸と出力軸との回転数差が吸収されるため、前記トルクの引き込みショックの緩和に有利になり、さらに、前記エンジン回転数上昇手段によってエンジン回転数が急上昇するケースでも、それに伴うトルクショックが緩和される。
【0016】
或いは、前記ロックアップクラッチのスリップ制御に代えて、前記断続手段を、前記余裕トルク量に応じて所定のスリップ量で作動させることが好ましい。これにより、ロックアップクラッチのスリップ制御と同様の効果が得られる。
【0017】
この場合、前記ロックアップクラッチ又は断続手段のスリップ制御においては、前記余裕トルク量が大きいほどスリップ量を小さくすることができる。
【0018】
また、前記モード切替において、前記余裕トルクが前記所定値よりも所定量以上に大であるときには、前記断続手段を作動させる際に、前記エンジン回転数上昇手段を作動させることなく、前記電動モータの発生トルクを上昇させるトルクアップを実行すればよい。これにより、前記締結時のトルクの引き込みショックを緩和することができる。
【0019】
また、前記モード切替においては、前記自動変速機の変速段が前記車両の運転状態に応じた目標変速段よりも高変速段になるように前記断続手段を制御し、しかる後に当該高速段から目標変速段にシフトダウンさせることができる。すなわち、変速段が高くなるほど車速及び自動変速機の変速比に対応するエンジンの同期回転数が低くなるから、前記燃焼始動後のエンジン回転数を速やかに同期回転数に到達させることができ、前記モード切替を迅速に行なうことができる。
【0020】
この場合、高速段から目標変速段へのシフトダウンでは、前記同期回転数が高くなるから、その初期にトルクの引き込みがあり、その後にトルクの突き上げを生ずる。これには、電動モータのトルクアップ及びトルクダウンで対応することができる。
【0021】
ここで、「自動変速機」は、例えば歯車変速機構からなる多段変速機、及び、例えばベルト変速機構からなる無段変速機の双方を含み得る。また、「車輪」は前輪及び後輪のいずれであってもよく、また、エンジンが駆動力を付与する車輪と、電動モータが駆動力を付与する車輪とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
また、「断続手段」は、エンジンと車輪との間でトルクの伝達及びその遮断を切り替える得る手段であって、例えばエンジンと車輪との間のトルク伝達経路上に配置されたクラッチ要素としてもよい。また、前記の自動変速機が歯車変速機構からなる多段の自動変速機である場合には、当該歯車変速機構に含まれる複数の摩擦締結要素(クラッチ要素及びブレーキ要素を含む)を利用して、前記の断続手段を構成してもよい。すなわち、一般的に、多段の歯車変速機構は、複数の摩擦締結要素の内から選択した、少なくとも2つの摩擦締結要素を締結することによって各変速段を実現する(ドライブ状態)。つまりトルク伝達経路が接続される。一方、そうした締結を行わないときには遊転状態(ニュートラル状態)となりトルク伝達が行われない。つまりトルク伝達が遮断されたことと等価になる。
【0023】
そこで、前記歯車変速機構に含まれる各摩擦締結要素の開放及び締結を切り替えることによって、エンジンと車輪との間でのトルクの伝達及び遮断を切り替える断続手段を構成してもよい。
【0024】
こうした自動変速機内部の摩擦締結要素を利用して断続手段を構成する場合には、トルク断続の応答性の観点からは、次のような構成を採用することがより好ましい。つまり、前述したように、多段の歯車変速機構において所定の変速段の実現、つまりトルク伝達の接続状態の実現には、少なくとも2つの摩擦締結要素を締結する必要があることから、所定の変速段の実現に際し締結が必要な摩擦締結要素の内のいずれか1つの締結要素を締結とし、残り全ての締結要素を非締結にしたときは、前記のトルクの伝達が遮断された状態となる。一方で、その遮断状態からは、前記非締結であった1つの締結要素を締結させることだけで、ニュートラル状態からドライブ状態へと移行することができる(トルク伝達状態への切替)。このことは、例えば油圧ポンプの大型化等を行わなくても、前記遮断状態からトルク伝達状態へ、高い応答性でもって切り替え得ることは勿論のこと、例えば、前記所定の変速段を、エンジンの始動後において要求される変速段と一致させておくことによって、エンジンの始動後の挙動がスムースになり得る点でも極めて有効である。
【0025】
また、前記「エンジン回転数上昇手段」としては、例えば、スタータを採用することができ、該スタータによってエンジン回転数の上昇をアシストすることにより、前記効果が得られる。その場合でも、前記モード切替時に前記余裕トルクが十分でないケースはそれほど多くないから、スタータの頻繁な作動(スタータの寿命を早めること)には繋がらない。
【0026】
或いは、前記エンジン回転数上昇手段としては、エンジン出力を増大させる、具体的にはスロットル開度及び燃料噴射量を増大させる、エンジン出力増大手段を採用することができる。前記スタータアシストに代えて、或いはスタータアシストとともに、当該エンジン出力増大手段を作動させることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上に説明したように、前記車両用駆動制御装置では、モータ走行モードからエンジン走行モードへのモード切替において、エンジンを燃焼始動手段によって始動させ、さらに断続手段を作動させて車輪からエンジンにアシストトルクを付与する際に、電動モータの余裕トルク量に応じてエンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇を実行するとともに、電動モータのトルクアップを実行するようにしたから、電動モータのトルクアップ量を十分にとることができない場合でも、トルクの引き込みショックを抑制して乗員に違和感を与えることを軽減ないし解消することができ、しかも、速やかなモード切替に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】車両のパワートレイン及び制御装置の全体ブロック図である。
【図2】制御装置が実行する制御のフロー図である。
【図3】電動モータのトルク線図とモータ温度との関係を示す特性図である。
【図4】電動モータの最大トルクTmaxを求めるためのSOC係数TRsocとSOCとの関係を示す特性図である。
【図5】モータ走行領域及び変速パターンを示す特性図である。
【図6】電動モータの余裕トルクが小さいときの走行モード切替制御のフロー図である。
【図7】同制御のタイムチャートである。
【図8】同制御におけるスタータ作動時間tsと目標エンジン回転数Netとの関係を示す特性図である。
【図9】同制御におけるエンジン回転数Neの同期回転数Netへの下降量ΔNeと電動モータのトルクダウン量ΔTdとの関係を示す特性図である。
【図10】電動モータの余裕トルクが中程度であるときの走行モード切替制御のフロー図である。
【図11】同制御のタイムチャートである。
【図12】同制御における電動モータのトルクアップ量ΔTaとロックアップクラッチのスリップ率Ns/Netとの関係を示す特性図である。
【図13】同制御におけるトルクアップ量ΔTaとスロットル開度増大量ΔTVOaとの関係を示す特性図である。
【図14】同制御におけるトルクアップ量ΔTaと燃料噴射量の増大量ΔQfaとの関係を示す特性図である。
【図15】同制御におけるエンジン回転数下降量ΔNeとトルクダウン量ΔTdとの関係を示す特性図である。
【図16】電動モータの余裕トルクが中程度であるときの別の走行モード切替制御のフロー図である。
【図17】同制御のタイムチャートである。
【図18】電動モータの余裕トルクが大きいときの走行モード切替制御のフロー図である。
【図19】同制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1において、パワートレインPTは、駆動力を発生する多気筒(例えば4気筒)エンジン11と、このエンジン11に連結されて変速を行う歯車変速機構12と、歯車変速機構12からの出力を受けて左右に駆動力を配分する差動装置13と、差動装置13からの駆動力を受ける左右の駆動輪(例えば前輪)14,14と、エンジン11と歯車変速機構12との間に配置された、ロックアップクラッチ15付きのトルクコンバータ(流体伝動装置)16と、前記歯車変速機構12を介さずに、差動装置13を通じて前記駆動輪14を駆動する電動モータ17とを備えている。この車両は、前述の通り、駆動源としてのエンジン11及び電動モータ17を備えたハイブリッド車両であり、後述するように、車速及びエンジンのアクセル開度に基づいて設定される運転状態に応じて、エンジン11を停止させて電動モータ17により駆動するモータ走行モードと、電動モータ17を停止させてエンジン11により駆動する、または電動モータ17とエンジン11の双方により駆動するエンジン走行モードとを切り替えながら走行するように構成されている。
【0031】
エンジン11は、詳細な図示は省略するが、4サイクル火花点火式エンジンであり、且つ各気筒内に燃料を直接、噴射可能に構成された直噴エンジンである。このエンジン11は、その始動に際しては、所定の気筒、より正確には、膨張行程で停止した気筒内に燃料を供給して点火及び燃焼を行なうことで、エンジン11に正転方向のトルクを付与して始動するように構成されており、スタータを利用しなくても始動が可能である。エンジン11は、クランク軸に対し連結されたオルタネータを備えており、このオルタネータは、スタータ及びオルタネータを統合したISG18とされている。
【0032】
歯車変速機構12は、具体的な図示は省略するが、遊星歯車機構と、遊星歯車機構に含まれる各回転要素の回転を選択的に規制する摩擦締結要素として、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素とを含んで構成されており、例えば前進6速の多段自動変速機として構成されている。この歯車変速機構12においては、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素から選択された、少なくとも2つの要素を締結することで、各変速段を実現するように構成されている。
【0033】
すなわち、歯車変速機構12は、前進6段の変速段を達成可能なものであり、3組の遊星歯車機構と、各々回転要素同士の断続を行なう2つのクラッチ要素C_L,C_Hと、各々回転要素と固定要素(歯車変速機構のハウジング)との断続を行なう3つのブレーキ要素B_LR(ロー・リバースブレーキ),B_26(2速・6速用ブレーキ)、B_35(3速・5速用ブレーキ)を備えている。表1は、この歯車変速機構12の複数の摩擦締結要素を選択的に締結することで、複数の変速段を達成する締結表である。前進1速(D1)〜前進6速(D6)では、選択された2つの摩擦締結要素を締結することで達成される。表中の「CL_1」は当該要素が第1摩擦締結要素として選択し締結されること、「CL_2」は当該要素が第2摩擦締結要素として選択し締結されることを意味する。
【0034】
【表1】

【0035】
このように、歯車変速機構12は、選択された少なくとも2つの要素を締結することで所定の変速段を実現したドライブ状態と、全ての要素を非締結にすることによって、エンジン11と駆動輪14との間のトルクの伝達を遮断したニュートラル状態とに切り替わる。従って、このハイブリッド車両においては、歯車変速機構12を、前記摩擦締結要素の締結及び解放によって、エンジン11と駆動輪14との間でトルク(動力伝達)を断続させる断続手段121として機能させる。
【0036】
さらに、このハイブリッド車両においては、所定の変速段の実現に必要な少なくとも2つの摩擦締結要素の内のいずれか1つの要素のみを非締結とすることによって、前記のニュートラル状態としつつも、当該所定変速段への切り替えを素早く行い得るようにした待機状態にするようにしている。この待機状態は、モータ走行モード時を含む、エンジン11を停止しているときに実行される状態である。つまり、待機状態はニュートラル状態であることから、モータ走行モード時に待機状態とすることで、車両の走行に連動してエンジン11が引き摺られながら従動回転する引き摺り現象が回避される。
【0037】
また、待機状態においては、前述した非締結とする摩擦締結要素を、締結直前の状態(いわゆるプリチャージ状態)にする。これによって、非締結から締結への切り替えの応答性が高まり、前述したように、1つの摩擦締結要素をのみを締結することと相俟って、待機状態(換言すればニュートラル状態)からドライブ状態への切り替え応答性を大幅に高めるようにしている。尚、待機状態ではエンジン11は停止していることから、プリチャージ状態を実現する上で、図示は省略するが、このハイブリッド車両には、電動の油圧ポンプが設けられている。
【0038】
前記電動モータ17は、例えば3相の交流同期モータであって、図示省略のバッテリ及びインバータを介して供給された駆動電流により駆動する。ここで、前記のモータ走行モードには、電動モータ17の駆動力によって走行している状態、電動モータ17を回生させながら走行している状態、電動モータ17が何ら作動せずに惰性で走行している状態、の少なくとも3つの状態を含む。
【0039】
図1に示す車両の制御装置CRは、エンジン11の出力、ロックアップクラッチ15の断接(スリップ制御を含む)、前記インバータの制御を通じた電動モータ17の作動(力行及び回生を含む)、歯車変速機構12の変速段等をそれぞれ制御する装置である。制御装置CRは、コントローラ2と、車両の走行状態を含む各種の状態を検出し、コントローラ2に提供する各種センサ31〜37とを備えて構成されている。この内、コントローラ2は、例えば通常のマイクロコンピュータであり、図示は省略するが、少なくともCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路、及びデータバスを備えて構成される。
【0040】
各種のセンサには、少なくとも、車両の走行速度に関する情報をコントローラ2に提供する車速センサ31、アクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度に関する情報をコントローラ2に提供するアクセル開度センサ32、コントローラ2においてエンジン回転数及びクランク角度の検出に利用される信号を提供するクランク角センサ33、コントローラ2において気筒識別に利用される信号を提供するカム角センサ34、バッテリの充電状態(残存充電量SOC:State of Charge)やバッテリ温度に係る情報を含む、バッテリの各種状態に係る情報をコントローラ2に提供するバッテリ状態センサ35、電動モータ17の温度に係る情報を含む、電動モータ17の各種状態に係る情報を提供するモータ状態センサ36、及び、トルクコンバータ16のタービン回転数に関する情報をコントローラ2に提供するタービン回転数センサ37を含んでいる。コントローラ2は、これらの各センサ31〜37からのセンサ信号を取り入れて演算処理をし、前記エンジン11、ロックアップクラッチ15、歯車変速機構12及び電動モータ17に対して制御信号を出力する。
【0041】
具体的には、前記コントローラ2は、車速及びアクセル開度に基づいて設定される運転状態に応じて、前述したモータ走行モードと、エンジン走行モード(エンジンのみによる走行モード、又はエンジンとモータとの併用による走行モード)とを切り替えるべく、電動モータ17の作動及び停止、エンジン11の作動及び停止(始動及び停止)を切り替える。それと共に、前記コントローラ2は、走行モードの切り替わりに対応するように、歯車変速機構12の状態を、ドライブ状態(変速マップに従った変速制御を含む)、ニュートラル状態、及び待機状態に切り替えると共に、必要に応じて、ロックアップクラッチ15の作動制御も実行するように構成されている。
【0042】
こうしたハイブリッド車両では、車両の走行中にエンジン11の始動及び停止が繰り返される。コントローラ2は、駆動しているエンジン11の停止条件が成立したときには、燃料供給を停止してエンジン11を停止させることを基本とした、所定の停止制御を実行する一方、停止しているエンジン11の始動条件が成立したときには、エンジン11の始動制御を実行する。車両の走行中におけるエンジン11の始動条件の成立は、モータ走行モードからエンジン走行モードへのモード切替を意味し、その場合は、エンジン11の燃焼によるエネルギでエンジン11を始動させる、いわゆる燃焼始動を行なう。
【0043】
そうして、制御装置CRは、車両の要求トルクToと電動モータ17が現在出力可能な最大トルクTmaxとに基いて前記モード切替を実行するか否かを判定する手段、モード切替要のときにエンジン11の燃焼始動を実行する手段、電動モータ17の余裕トルクΔTの演算手段、余裕トルクΔTの大きさに応じて最適なモータトルク制御を行なう手段、必要に応じてエンジン回転数を高速上昇させる手段等を備えている。以下、具体的に説明する。
【0044】
<モード切替制御>
図2は制御装置CRが実行する前記モード切替制御のフローチャートである。ステップS1では、車速V、エンジン11のスロットル開度TVO、モータトルク(電動モータ17の現在の発生トルク)T1、電動モータ17の温度、並びバッテリの残存充電量SOCを読み込む。ステップS2では、車速Vとスロットル開度TVOとに基いて車両の要求駆動力を求め、該要求駆動力から電動モータ17に対する要求トルクToを演算する。ステップS3では、電動モータ17の温度とSOCとに基いて電動モータ17が現在出力可能な最大トルクTmaxを演算する。
【0045】
図3は電動モータ17のトルク線図とモータ温度との関係を示す。そのトルク線図は、等馬力の双曲線において、トルクの上限が最大電流値で決まるとともに、対応しうる車速(モータ回転数)Vが電圧等によって制限される。そして、モータ温度が高くなるほど、出力可能な最大トルクTmax'(SOCが所定値a以上であるときの最大トルク)は小さくなる。そして、実際に出力し得る最大トルクTmaxは、最大トルクTmax'にSOCに応じた係数TRsocを乗ずることによって求めることができ、図4に示すように、SOCが小さくなるほど係数TRsocは小さくなる。
【0046】
再び図2に戻って説明を続ける。ステップS4では、要求トルクToと最大トルクTmaxとに基いてモータ走行モードからエンジン走行モードに切り替えるか否かを判定する。要求トルクToが最大トルクTmax以下であるときはモータ走行モードを継続し、自動変速機12では、第1摩擦締結要素CL_1をプリチャージ状態に、ロックアップクラッチL/U_CLを締結状態に制御する(ステップS5)。
【0047】
一方、ステップS4で要求トルクToが最大トルクTmaxよりも大であるときはモータ走行モードからエンジン走行モードへの切替要と判定され、モード切替制御に入る。例えば、車両の加速要求に伴って要求トルクToが増大する結果、エンジン走行モードへの切替要と判定されるケースがあり、或いは車両は定常走行状態が維持されている場合でも、モータ温度の上昇又はSOCの減少に伴って最大トルクTmaxが低下する結果、エンジン走行モードへの切替要と判定されるケースがある。
【0048】
まず、ステップS6において、電動モータ17の現在の発生トルクT1と現在出力可能な最大トルクTmaxに基いて、電動モータ17の余裕トルクΔT(=Tmax−T1)を演算する。続くステップS7で余裕トルクΔTが所定値ΔT以上であるか否かが判定される。余裕トルクΔTが所定値ΔTよりも小さいと判定されると(例えば図5に示すAのケース)、ステップS8に進んで余裕トルク小のモード切替制御を実行する。ステップS7で余裕トルクΔTが所定値ΔT以上であると判定されると、ステップS9に進んで余裕トルクΔTが所定値ΔT以上であるか否かが判定される。この場合、ΔT<ΔTである。余裕トルクΔTが所定値ΔTよりも小さいと判定されると(例えば図5に示すBのケース)、ステップS10に進んで余裕トルク中のモード切替制御を実行する。余裕トルクΔTが所定値ΔT以上であると判定されると(例えば図5に示すCのケース)、ステップS11に進んで余裕トルク大のモード切替制御を実行する。
【0049】
[余裕トルク小のケース]
図6は余裕トルク小のモード切替制御フローを示す。以下、このフロー、図5のマップ、図7のタイムチャート等を参照しながら、余裕トルク小の場合のモード切替制御を説明する。
【0050】
ステップA1では、現在の車速Vと要求駆動力Fとに基いて、図5に示す電子的に格納されたモータ走行領域・変速パターンの特性マップからモード切替後の目標変速段を読み込むとともに、目標エンジン回転数Netを決定する。マップは、車速V及び要求駆動力Fをパラメータとして、車速Vが高いほど、また、要求駆動力Fが低いほど、高段位の変速段が選択されるように設定されている。本実施形態では、自動変速機12の変速段を目標変速段より1段上の高変速段に一旦制御した後に目標変速段にシフトダウンさせるようにする。そのため、目標エンジン回転数Netは当該高変速段での同期回転数とする。具体的には、車速Vと当該高変速段の変速比とで決まるクラッチスリップ量零のときのエンジン同期回転数(車速相当回転数)を目標エンジ回転数Netとする。
【0051】
続くステップA2では、先に説明したエンジン11の燃焼始動を実行するとともに、第2摩擦締結要素CL_2を締結状態にする。この場合のCL_2は、前記高変速段を実現するための摩擦締結要素であり、図5に示す余裕トルク小のAのケースでは、4速を実現する摩擦締結要素(表1に示すC_H)である。また、前記燃焼始動とともに、スタータを所定時間ts作動させて、エンジン回転数の上昇をアシストする(スタータアシスト)。スタータアシスト時間tsは、一定とすることができるが、図8に示すように、目標エンジン回転数Netが大きくなるほど時間tsを長くしてもよい。さらにステップA3ではエンジン出力を増大させる。すなわち、スロットル開度TVOを余裕トルク大のときの開度TVO1よりもΔTVOaだけ増大させるとともに、燃料噴射量Qfを余裕トルク大のときの噴射量Qf1よりもΔQfaだけ増大させる。
【0052】
従って、図7に示すように、エンジン燃焼開始に伴って、走行モードはモータ走行モードから切替モードに移行し、同時にスタータアシスト及びエンジン出力増大制御がなされることにより、エンジン回転数Neの上昇速度が高まり、エンジン走行モードへの速やかな切替に有利になる。
【0053】
ステップA4ではエンジン回転数Neを読込み、続くステップA5でエンジン回転数Neが[目標回転数Net+ΔN2]以上に上昇したか否かを判定する(図7のエンジン回転数のタイムチャート参照)。ΔN2は、エンジン回転数Neが目標回転数Netを確実に越えるようにするための閾値であり、制御遅れ(検出遅れ)を考慮して設定するため、マイナス値となる場合もある。エンジン回転数の前記上昇が判定されたときはステップA6に進み、エンジン出力増大制御から通常のエンジン燃焼制御に移行する。すなわち、スロットル開度TVOを余裕トルク大のときの開度TVO1とし、燃料噴射量Qfを余裕トルク大のときの噴射量Qf1とする。
【0054】
そして、続くステップA7で第1摩擦締結要素CL_1を締結し、続くステップA8で電動モータ17の現在の発生トルクT1をΔTdだけ低下させる。第1摩擦締結要素CL_1はプリチャージされているため、図7に示すように、速やかに締結状態になる。これにより、4速(D4)の変速段が実現される。また、電動モータ17のトルクダウン(ΔTd)により、CL_1の締結に伴うトルクの突き上げショックが緩和される。また、CL_1の締結に伴って、エンジン回転数Neは目標回転数(車速相当の同期回転数)Netへと落ち込んでいく。なお、車速Vは漸次上昇していく。
【0055】
トルクダウン量ΔTdは、CL_1の締結に伴うエンジン回転数Neの下降度合に応じて決定する。すなわち、図9に示すように、エンジン回転数下降量ΔNe(=Ne−Net)が大きくなるほどトルクダウン量ΔTdが大きくなるようにする。
【0056】
続くステップA9でエンジン回転数Neが目標回転数Net近傍の回転数(Net±ΔNe1)に低下したことを判定すると、ステップA10に進んで目標変速段への変速制御を行なう。この場合の目標変速段は3速である。従って、図7に示すように、第2摩擦締結要素CL_2については、4速を実現する摩擦締結要素C_Hの締結を遮断して、3速実現する摩擦締結要素B_35(表1参照)を締結する。
【0057】
この目標変速段への変速制御では、前記同期回転数が高くなるから、変速初期のトルクの引き込みショックを緩和すべく、図7に示すように、電動モータ17のトルクアップを行ない、その後にトルクの突き上げショックを緩和すべく、電動モータ17のトルクダウンを行なう(ステップA11)。この場合、先のステップA8で電動モータ17のトルクダウン制御を行っているから、上記トルクアップが可能になる。上記3速への変速制御により、エンジン回転数Neは上昇していく。
【0058】
[余裕トルク中のケース1]
図10は図2のステップS10の余裕トルクが中程度であるときのモード切替制御フローを示す。当該ケース1ではモード切替制御においてロックアップクラッチ15のスリップ制御を行なう。図10のフロー、図5のマップ、図11のタイムチャート等を参照しながら、当該モード切替制御を説明する。
【0059】
ステップB1では、余裕トルク小の制御フローのステップA1と同じく、現在の車速Vとアクセル開度とに基いて、図5に示すマップからモード切替後の目標変速段を読み込むとともに、目標エンジン回転数Netを決定する。目標エンジン回転数Netは目標変速段より1段上の高変速段での同期回転数とする。続くステップB2において、電動モータ17の余裕トルクΔTが中程度(ΔT≦ΔT<ΔT)であるから、その余裕トルクΔTを当該モード切替制御にフルに利用すべく、電動モータ17のトルクアップ制御を行なう(トルクアップ量ΔTa=ΔT)。
【0060】
続くステップB3でエンジン11の燃焼始動を行なう。燃焼始動開始時は、スロットル開度TVOは余裕トルク大のときの開度TVO1とする。従って、図11に示すように、エンジン燃焼開始に伴って、走行モードはモータ走行モードから切替モードに移行する。
【0061】
続くステップB4において、前記トルクアップの際の余裕トルクΔTがΔT’未満であるか否かを判定する。但し、ΔT>ΔT’>ΔTである。余裕トルクΔTがΔT’未満であるときはステップB5に進んでスタータアシストを行なう。スタータアシスト時間tsは、一定とすることができるが、余裕トルクΔTとΔTとの差(ΔT−ΔT)が小さいほど、時間tsを長くしてもよい。
【0062】
そして、ステップB6に進んで、プリチャージ状態の第1摩擦締結要素CL_1を締結するとともに、第2摩擦締結要素CL_2を締結状態にする。それらは前記高変速段を実現するための摩擦締結要素である。図5に示す余裕トルク中のBのケースでは、3速の1段上の4速を実現するべく、第1摩擦締結要素CL_1は表1に示すC_Hとなり、第2摩擦締結要素CL_2はC_Hとなる。
【0063】
前記ステップB4において、余裕トルクΔTがΔT’以上であるときは、スタータアシストをすることなく、ステップB6に進む。余裕トルクΔTが大きいときは、スタータをできるだけ使用しない趣旨である。
【0064】
そして、続くステップB7において、ロックアップクラッチ(L/U_CL)15のスリップ制御に入る。すなわち、ロックアップクラッチ15の締結方向に作用する油圧を低下させて、該クラッチをスリップ状態にする。この場合、図12に示すように、トルクアップ量ΔTaが大きくなるほど、目標エンジン回転数Netに対するスリップ量Nsの割合(スリップ率)が小さくなるように、端的に言えばスリップ量が小さくなるように、制御する。なお、このときは、トルクコンバータ16では、エンジン側の入力軸が自動変速機12側の出力軸よりも回転数が小さいから、図11に示すように、スリップ量はマイナスになる。
【0065】
続くステップB8でエンジン出力を増大させる。すなわち、スロットル開度TVOを余裕トルク大のときの開度TVO1よりもΔTVOaだけ増大させるとともに、燃料噴射量Qfを余裕トルク大のときの噴射量Qf1よりもΔQfaだけ増大させる。この場合、図13に示すように、トルクアップ量ΔTaが大きくなるほど、スロットル開度増大量ΔTVOaが小さくなるように制御する。また、図14に示すように、トルクアップ量ΔTaが大きくなるほど、燃料噴射量の増大量ΔQfaが小さくなるように制御する。
【0066】
従って、図11に示すように、エンジン出力増大により(余裕トルクΔTが小さいときは、エンジン出力増大及びスタータアシストにより)、エンジン回転数が速やかに上昇していく。そして、このモード切替時には、摩擦締結要素CL_1,CL_2を締結状態にするから(ステップB6)、エンジン11に対して、車輪(駆動輪)側からアシストトルクが付与される。よって、エンジン回転数Neの速やかな上昇、すなわち、エンジン走行モードへの速やかな移行、並びに、エンジン始動の安定化に有利になる。
【0067】
そうして、前記車輪からエンジン11へのアシストトルクの付与は、車輪側のトルクの引き込みに繋がるが、電動モータ17のトルクアップ制御により、そのトルクの引き込みショックが緩和される。また、ロックアップクラッチ15のスリップ制御により、トルクコンバータ16の入力軸と出力軸との回転数差が吸収されるため、前記トルクの引き込みショックの緩和に有利になり、さらに、スタータアシストやエンジン出力増大によってエンジン回転数が急上昇するが、それに伴うトルクショックも緩和される。
【0068】
続くステップB9ではエンジン回転数Neを読込み、ステップB10においてエンジン回転数Neが目標エンジン回転数Net+ΔN2以上に上昇したか否かを判定する。ΔN2は、余裕トルク小の場合の制御と同じく、エンジン回転数Neが目標回転数Netを確実に越えるようにするための閾値であり、制御遅れ(検出遅れ)を考慮して設定するため、マイナス値となる場合もある。エンジン回転数の前記上昇が判定されたときはステップB10に進み、エンジン出力増大制御から通常のエンジン燃焼制御に移行する。すなわち、スロットル開度TVOを余裕トルク大のときの開度TVO1とし、燃料噴射量Qfを余裕トルク大のときの噴射量Qf1とする。
【0069】
続くステップB12でロックアップクラッチ15を締結状態とする。これにより、図11に示すように、ロックアップクラッチ14は一旦プラスに転じたスリップ量が減少して零になっていく。また、エンジン回転数Neは目標エンジン回転数Netへ落ち込む。そして、ロックアップクラッチ15の締結に伴うトルクの突き上げショックを緩和するために、続くステップB13で電動モータ17の現在の発生トルクT1をΔTdだけ低下させる。トルクダウン量ΔTdは、ロックアップクラッチ15の締結に伴うエンジン回転数Neの下降度合に応じて決定する。すなわち、図15に示すように、エンジン回転数下降量ΔNe(=Ne−Net)が大きくなるほどトルクダウン量ΔTdが大きくなるようにする。
【0070】
続くステップB14でエンジン回転数Neが目標回転数Net近傍の回転数(Net±ΔNe1)に低下したことを判定すると、ステップB15に進んで目標変速段への変速制御を行なう。この場合の目標変速段は3速である。従って、図11に示すように、第2摩擦締結要素CL_2については、4速を実現する摩擦締結要素C_Hの締結を遮断して、3速実現する摩擦締結要素B_35を締結する。
【0071】
この目標変速段への変速制御では、前記同期回転数が高くなるから、変速初期のトルクの引き込みショックを緩和すべく、図11に示すように、電動モータ17のトルクアップを行ない、その後にトルクの突き上げショックを緩和すべく、電動モータ17のトルクダウンを行なう(ステップB16)。上記3速への変速制御により、エンジン回転数Neは上昇していく。
【0072】
[余裕トルク中のケース2]
先のケース1は、余裕トルク中のモード切替制御においてロックアップクラッチ15のスリップ制御を行なったが、このケース2は第1摩擦締結要素CL_1のスリップ制御を行なう。当該モード切替制御のフローを図16に示し、タイムチャートを図17に示す。
【0073】
図16のステップC1〜C5は図10のステップB1〜B5と同じである。そして、スタータアシストを実行するステップC5に続くステップC6では、第2摩擦締結要素CL_2(4速用のC_H)を締結状態にする。ロックアップクラッチ15は締結状態(図2のステップS5)を維持する。
【0074】
続くステップC7において、第1摩擦締結要素CL_1に作用する油圧を高めて該CL_1のスリップ制御に入る。この場合、ロックアップクラッチ15のスリップ制御と同じく、トルクアップ量ΔTaが大きくなるほど、目標エンジン回転数Netに対するスリップ量Nsの割合(スリップ率)が小さくなるようにする(図12参照)。続くステップC8〜C11は図10のステップB8〜B11と同じである。
【0075】
従って、図17に示すように、第1摩擦締結要素CL_1がスリップ状態となり、第2摩擦締結要素CL_2が締結状態となることにより、エンジン11に対して、車輪(駆動輪)側からアシストトルクが付与される。よって、エンジン回転数Neの速やかな上昇、すなわち、エンジン走行モードへの速やかな移行、並びに、エンジン始動の安定化に有利になる。この場合、前記車輪からエンジン11へのアシストトルクの付与は、車輪側のトルクの引き込みに繋がるが、ステップC3のモータトルクアップ制御により、そのトルクの引き込みショックが緩和される。また、第1摩擦締結要素CL_1のスリップ制御により、自動変速機12の入力軸と出力軸との回転数差が吸収されるため、前記トルクの引き込みショックの緩和に有利になり、さらに、スタータアシストやエンジン出力増大によってエンジン回転数が急上昇するが、それに伴うトルクショックも緩和される。
【0076】
そして、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数Net+ΔN2以上に上昇した後(ステップC10参照)のステップC12において、第1摩擦締結要素CL_1を締結状態とする。これにより、図17に示すように、CL_1のマイナスから一旦プラスに転じたスリップ量が減少して零になっていく。また、エンジン回転数Neは目標エンジン回転数Netへ落ち込む。そして、CL_1の締結に伴うトルクの突き上げショックを緩和するために、続くステップC13で電動モータ17の現在の発生トルクT1をΔTdだけ低下させる。ステップC13〜C16は図10のステップC13〜C16と同じである。
【0077】
[余裕トルク大のケース]
図18は図2のステップS11の余裕トルクが大であるときのモード切替制御フローを示す。ステップD1では、余裕トルク小の制御フローのステップA1と同じく、現在の車速Vとアクセル開度TVOとに基いて、図5に示すマップからモード切替後の目標変速段を読み込むとともに、目標エンジン回転数Netを決定する。目標エンジン回転数Netは目標変速段より1段上の高変速段での同期回転数とする。続くステップD2において、電動モータ17のトルクアップ制御を行なう(トルクアップ量ΔTa=余裕トルクΔT)。
【0078】
続くステップD3でエンジン11の燃焼始動を行なう。スロットル開度はTVO1とする。また、第2摩擦締結要素CL_2を締結状態とする。図5に示す余裕トルク大のCのケースでは、3速の1段上の4速を実現するべく、第2摩擦締結要素CL_2はC_Hとなる(表1参照)。この時点では、第1摩擦締結要素CL_1はプリチャージ状態のままである。従って、図19に示すように、エンジン燃焼開始に伴って、走行モードはモータ走行モードから切替モードに移行し、エンジン回転数Neが上昇していく。
【0079】
続くステップD4ではエンジン回転数Neを読込み、ステップD5でエンジン回転数Neが目標回転数Net近傍の回転数(Net±ΔNe1)まで上昇したことを判定すると、ステップD6に進んで第1摩擦締結要素CL_1を締結状態にする。これにより、エンジン11に対して、車輪(駆動輪)側からアシストトルクが付与される。このアシストトルクの付与は、車輪側のトルクの引き込みに繋がるが、ステップD2のモータトルクアップ制御により、そのトルクの引き込みショックが緩和される。
【0080】
続くステップD7で電動モータ17のトルクアップ制御を終了する。続くステップD8で目標変速段への変速制御を行なう。この場合の目標変速段は3速である。従って、図19に示すように、第2摩擦締結要素CL_2については、4速を実現する摩擦締結要素C_Hの締結を遮断して、3速実現する摩擦締結要素B_35を締結する。続くステップD9で電動モータ17トルクを零にダウンさせてモード切替制御を終了する。
【0081】
なお、ハイブリッド車両の構成は、種々の構成を採用し得る。例えば電動モータ17は、前記のように1つの電動モータ17からの駆動力を差動装置13を介して、左右の駆動輪14に分配するのではなく、左右の駆動輪14それぞれに独立して駆動力を付与し得るように、少なくとも2つの電動モータ17を備えてもよい。その場合において、インホイールモータを採用してもよい。
【0082】
また、電動モータ17の駆動力は、前輪に付与することに限定されず、後輪に付与してもよい。同様に、エンジン11の駆動力も、前輪に付与することに限定されず、後輪に付与してもよい。ここにおいて、電動モータ17の駆動力を付与する車輪と、エンジン11の駆動力を付与する車輪とは、図1に示すように同じであってもよいし、異なっていても良い(例えばエンジン11の駆動力を前輪に、電動モータ17の駆動力を後輪に付与する。又は、その逆にする。)。例えば電動モータ17の駆動力を後輪に付与する場合においては、電動モータ17を後輪の駆動軸に連結する構成に限らず、ドライブシャフトの途中に電動モータ17を連結してもよい。
【0083】
さらに、エンジン11のスタータとしては、ISGに限らず、クランク軸に直結されたCISGとしてもよい。
【0084】
また、前記のパワートレインPTにおいて、歯車式の多段変速機構に代えて、例えばベルト式等の無段変速機構を採用してもよい。また、流体伝動機構は、トルクコンバータの代わりに、フルードカップリングを採用してもよい。
【0085】
加えて、前述した各構成の特徴を、可能な範囲で適宜組み合わせることによって、ハイブリッド車両を構成してもよい。
【0086】
また、エンジン11の燃焼始動に関し、先ず停止時圧縮行程にある気筒に対して燃料を供給し、点火及び燃焼を行ってエンジン11を一旦、逆転方向に作動させた後に、逆転作動に伴い圧縮される膨張行程気筒に対する点火及び燃焼を行うことでエンジン11に正転方向のトルクを与えて、エンジン11を始動させるようにしてもよい。このような逆転燃焼始動は、エンジン11の始動性をより高め得る。尚、この場合は、歯車変速機構12の制御によってエンジン11に駆動輪14側からトルクを付与するタイミングと、膨張行程気筒に対する点火及び燃焼の開始タイミングとを合わせることが望ましい。
【符号の説明】
【0087】
11 エンジン
12 歯車変速機構(自動変速機)
121 断続手段
15 ロックアップクラッチ
16 トルクコンバータ(流体伝達機構)
17 電動モータ17
2 コントローラ
CR 制御装置
PT パワートレイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒エンジンと、車両を駆動するために前記エンジンに連結された自動変速機と、前記エンジンと前記車両の車輪との間の動力の伝達及びその遮断をする断続手段と、前記自動変速機を介さずに前記車両を駆動する電動モータとを備え、前記エンジンを停止し前記電動モータを作動させて前記車両を駆動するモータ走行モードと、前記エンジンを作動させて前記車両を駆動するエンジン走行モードとの間で車両駆動方式を切り替えるようにした車両用駆動制御装置であって、
前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードに切り替えるモード切替時に、前記エンジンの膨張行程にある気筒に供給された燃料の点火及び燃焼を行なうことによって該エンジンを始動させる燃焼始動手段と、
前記燃焼始動手段にて始動させた前記エンジンのエンジン回転数を上昇させるエンジン回転数上昇手段と、
前記電動モータが現在出力可能な最大トルクと現在の発生トルクと差である余裕トルクを演算する余裕トルク演算手段と、
前記モード切替時において、前記エンジンを前記燃焼始動手段によって始動させ、さらに前記断続手段を作動させて前記エンジンに前記車輪からのアシストトルクを付与する際に、前記余裕トルク量に応じて前記エンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇を実行するとともに、前記電動モータの発生トルクを増大させるトルクアップを実行する制御手段とを備えていることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、前記余裕トルク量が所定値よりも小さいときには、該所定値以上であるときよりも、前記エンジン回転数上昇手段によるエンジン回転数の上昇度を大にすることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記エンジンと前記自動変速機との間で流体を介したトルク伝達を行う、ロックアップクラッチ付きの流体伝動装置をさらに備え、
前記制御手段は、前記モード切替時において、前記ロックアップクラッチを、前記余裕トルク量に応じて所定のスリップ量で作動させることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記制御手段は、前記モード切替時において、前記断続手段を、前記余裕トルク量に応じて所定のスリップ量で作動させることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4において、
前記余裕トルク量が大きいほど前記スリップ量を小さくすることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記制御手段は、前記モード切替時において、前記余裕トルクが前記所定値よりも所定量以上に大であるときには、前記車輪から前記エンジンにアシストトルクが付与されるように前記断続手段を作動させる際に、前記エンジン回転数上昇手段を作動させることなく、前記電動モータの発生トルクを上昇させるトルクアップを実行することを特徴とする車両用駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−235818(P2011−235818A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110528(P2010−110528)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】