説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】コースト走行中のダウンシフトに際して車両の減速度を速やかに得ることができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】マニュアルパワーオフダウンシフトに際して、エンジン回転速度Nを一時的に上昇させるブリッピング制御手段70と、ブリッピング制御開始後に減少する入出力回転速度差△Nに基づいて、ロックアップクラッチ26を係合または半係合させるロックアップ制御手段72とを含むことから、タービン回転速度Nとエンジン回転速度Nとの差がロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を安定に実行することができる値すなわち所定値Aよりも小さくされて上記各制御が安定に実行され、エンジンが非駆動状態となって十分なエンジンブレーキが得られるので、コースト走行中のダウンシフトに際して車両の減速度を速やかに得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチを備えた車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、そのロックアップクラッチを係合させる制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、そのエンジンの出力回転速度をアクセル操作によらず電気的指令に基づいて変更することができる電子スロットル弁と、手動操作部材の変速操作に基づいて変速を行う手動変速モードを備えた自動変速機と、その自動変速機と前記エンジンとの間に設けられたトルクコンバータと、そのトルクコンバータの入力部材と出力部材とを直結することができるロックアップクラッチとを、備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1乃至3に記載されたものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−153225号公報
【特許文献2】特開2008−106841号公報
【特許文献3】特開2001−304003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用駆動装置では、コースト走行中において、例えばアクセルのチップイン操作やエンジン排気管の触媒の劣化防止判定が行われること等に起因して、ロックアップクラッチを係合させるロックアップ制御または半係合させるロックアップスリップ制御が終了すると、次にアクセルが踏み込まれてトルクコンバータの入力回転速度がその出力回転速度に近づくまでロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を実行しないようになっている。これは、上記ロックアップ制御(ロックアップスリップ制御)が終了してトルクコンバータの入力回転速度(エンジン回転速度)が出力回転速度に対して相対的に低下した場合には、その入力回転速度と出力回転速度との差が大きくなった状態からロックアップ制御を実行すると、ロックアップクラッチのトルク容量不足により入力回転速度を引き上げることが困難であるため、入力回転速度の引き上げに伴って大きなショックが発生するため、或いはロックアップクラッチの発熱量が許容値を超える可能性があるためである。
【0005】
したがって、アクセルオフ或いはそれに近いアクセル操作量によって運転者がエンジンブレーキを要求しているにも拘わらず、ロックアップ制御(ロックアップスリップ制御)が実行されないと、エンジンが被駆動状態とならず、十分なエンジンブレーキすなわち減速度が得られないこととなる。そのため、運転者は、手動操作によりダウンシフトを行って十分な減速度を得ようとするが、その場合であっても、トルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との差が大きい状況は変わらないためにロックアップ制御が実行されず、十分な減速度が得られないという問題があった。また、ロックアップ制御が実施されていないと、再加速時にエンジンによって駆動輪を駆動する状態すなわちトルクコンバータの入力回転速度が出力回転速度を上回る状態となるまで時間がかかるため、レスポンスが悪いという問題があった。
【0006】
特許文献2には、コースト走行中のダウンシフトに際して、自動変速機がニュートラル状態とされた段階でエンジン回転速度を一時的に引き上げて、上記出力回転速度が所定の同期回転速度に一致するタイミングで変速用クラッチを係合させる技術が開示されている。そして、変速動作中にロックアップクラッチの油圧アクチュエータに所定の待機圧を供給しつつ、その変速動作完了後にロックアップクラッチを係合させる技術が開示されている。しかし、このような車両用駆動装置であっても、変速動作中に引き上げられたエンジン回転速度が変速動作時には低下している可能性があるために、トルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との差が大きくなって必ずしも安定にロックアップ制御が実行できるわけではないという問題があった。
【0007】
特許文献3には、ロックアップクラッチを確実に係合させるために、トルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との差が所定の範囲を超える場合に、エンジン回転速度を上昇させる技術が開示されている。しかし、このような車両用駆動装置であっても、ロックアップクラッチの係合作動開始後にエンジン回転速度の上昇作動が行われるために、ロックアップクラッチの係合作動がトルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との差に応じて行われるわけではないことから、例えばエンジン出力のタイムラグ等に起因して、ロックアップクラッチの係合時にトルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との差が大きいままである可能性があり、必ずしも安定にロックアップ制御が実行できるわけではないという問題があった。
【0008】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、コースト走行中のダウンシフトに際して車両の減速度を速やかに得ることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンと、そのエンジンの出力回転速度をアクセル操作によらず電気的指令に基づいて変更することができる電子スロットル弁と、手動操作部材の変速操作に基づいて変速を行う手動変速モードを備えた自動変速機と、その自動変速機と前記エンジンとの間に設けられたトルクコンバータと、そのトルクコンバータの入力部材と出力部材とを直結することができるロックアップクラッチとを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記自動変速機の手動変速モード時におけるパワーオフダウンシフトに際して、前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御手段と、(c) そのブリッピング制御手段によるブリッピング制御開始後に減少する、前記トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差に基づいて、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させるロックアップ制御手段とを含むことにある。
【0010】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、(a) 前記ロックアップ制御手段は、前記トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差が予め定められた所定値よりも小さい場合に、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させることにある。
【0011】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、(a) 前記ロックアップ制御手段は、前記ブリッピング制御手段によるブリッピング制御中において、前記ロックアップクラッチの油圧アクチュエータにそのロックアップクラッチを係合させない予め定められた待機圧を充填することにある。
【0012】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1にかかる発明において、(a) 前記ロックアップ制御手段は、前記パワーオフダウンシフト中に前記ロックアップクラッチを係合または半係合させることにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、自動変速機の手動変速モード時におけるパワーオフダウンシフトに際して、エンジンの出力回転速度を電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御手段と、そのブリッピング制御手段によるブリッピング制御開始後に減少する、トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差に基づいて、ロックアップクラッチを係合または半係合させるロックアップ制御手段とを含むことから、コースト走行中にロックアップ制御が行われずにトルクコンバータの入力回転速度が出力回転速度に対して相対的に低下しているときにダウンシフトが要求された場合において、トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差が減少中であってロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を安定に実行することができる程に小さくされて上記制御が実行されることにより、エンジンが非駆動状態となって十分なエンジンブレーキが得られるので、コースト走行中のダウンシフトに際して車両の減速度を速やかに得ることができる。例えば、ダウンシフト完了後にアクセルが踏み込まれてエンジン回転速度が上昇された後に、アクセルがオフ或いはそれに近い操作量とされることでロックアップ制御またはロックアップスリップ制御が為される場合と比較して、速やかにエンジンブレーキが得られる。
【0014】
請求項2にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記ロックアップ制御手段は、トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差が予め定められた所定値よりも小さい場合に、ロックアップクラッチを係合または半係合させることから、トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差がロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を安定に実行することができる値として予め定められた前記所定値よりも小さくされたときに上記制御が実行される場合には、ロックアップスリップ制御を安定に実行することができる。これに対して、上記差が大きいときにロックアップ制御またはロックアップスリップ制御が行われる場合には、ロックアップクラッチのトルク容量不足により入力回転速度を引き上げることが困難である、入力回転速度の引き上げに伴って大きなショックが発生する、或いはロックアップクラッチの発熱量が許容値を超える等の問題が生じる。
【0015】
請求項3にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記ロックアップ制御手段は、前記ブリッピング制御手段によるブリッピング制御中において、ロックアップクラッチの油圧アクチュエータにそのロックアップクラッチを係合させない予め定められた待機圧を充填することから、ロックアップ制御またはロックアップスリップ制御開始後に速やかにロックアップクラッチを係合または半係合させることができるので、車両の減速度をより速やかに得ることができる。
【0016】
請求項4にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記ロックアップ制御手段は、前記パワーオフダウンシフト中にロックアップクラッチを係合または半係合させることから、例えばダウンシフト後にロックアップクラッチを係合または半係合させる場合と比べて、より速やかに車両の減速度を得ることができる。また、ロックアップクラッチの係合時に生じるショックを変速ショックに埋没させることができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置およびその制御系統を説明する図である。
【図2】図1のトルクコンバータおよび自動変速機の構成を説明する骨子図である。
【図3】図2の自動変速機において選択的に成立される複数の変速段と複数の油圧式摩擦係合装置の作動状態との関係をまとめた係合作動表である。
【図4】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図4の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートであって、パワーオフダウンシフトが行われる際のロックアップ制御およびロックアップスリップ制御に関する制御作動を説明するためのものである。
【図6】図4の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートであって、パワーオフダウンシフトが行われる際のブリッピング制御に関する制御作動を説明するためのものである。
【図7】図5および図6に示された電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、例えば、車両の走行状態がロックアップスリップ制御を実行する走行状態である場合のタイムチャートである。
【図8】本発明の他の実施例の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図9】図8および図6に示された電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
【図10】ブリッピング制御手段およびロックアップ制御手段を備えていない従来の電子制御装置による制御作動を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10およびその制御系統を説明する図である。この図1に示す車両用駆動装置10は、走行用の駆動源であるエンジン12と、トルクコンバータ14と、自動変速機16とを、直列に備えて構成されており、上記エンジン12と図示しない一対の駆動輪との間に設けられて、そのエンジン12から出力される動力を駆動装置の他の一部を構成する差動歯車装置等を順次介して上記一対の駆動輪へ伝達する。
【0020】
上記エンジン12は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン12の吸気配管18には、後に詳述する電子制御装置50からの電気信号(電気的指令)に基づいて作動するスロットルアクチュエータ20によって開閉作動させられることにより、エンジン12の吸入空気量を調節してそのエンジン12の出力回転速度すなわちエンジン回転速度Nを変化させることができる電子スロットル弁22を備えている。上記電子スロットル弁22は、その開度すなわちスロットル開度θTHが大きいほどエンジン出力を大きくする。基本的には、予め定められた関係に基づいて、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度θACCが大きいほど、上記スロットル開度θTHは大きくされる。なお、例外的に、アクセル操作によらず電子制御装置50から出力される電気信号に基づいてスロットル開度θTHが変更される場合もある。
【0021】
前記トルクコンバータ14は、流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置であり、また、前記自動変速機16は、予め定められた複数の変速段(本実施例では6段)の何れかが選択的に成立させられる有段式変速機である。図2は、上記トルクコンバータ14および自動変速機16の構成を説明する骨子図である。なお、トルクコンバータ14および自動変速機16は、軸心Cに対して略対称的に構成されており、図2においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
【0022】
図2において、トルクコンバータ14は、エンジン12と自動変速機16との間に設けられている。このトルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車(入力部材)14pと、タービン軸24を介して自動変速機16に連結されたタービン翼車(出力部材)14tと、一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車14sとを備えており、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うものである。そして、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ14の入出力部材間を直結することができるロックアップクラッチ26が設けられている。そして、ポンプ翼車14pには、自動変速機16を変速制御したり、ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる油圧を発生させて図1に示す油圧制御回路28へ供給するために、そのポンプ翼車14pに回転駆動される機械式のオイルポンプ30が連結されている。
【0023】
上記ロックアップクラッチ26は、良く知られているように、油圧制御回路26によって係合側油室32内の油圧と解放側油室34内の油圧との差圧が制御されることにより、フロントカバー36に摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。トルクコンバータ14の運転状態としては、例えば、前記差圧が負とされてロックアップクラッチ26が解放される所謂ロックアップ解放状態(非係合状態)、前記差圧が零以上とされてロックアップクラッチ26が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(半係合状態)、および前記差圧が最大値とされてロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ26が完全係合させられることにより、ポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tが一体回転させられてエンジン12の動力が自動変速機16側へ直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように前記差圧が制御されて、例えばスリップ量N(エンジン回転速度Nとタービン回転速度Nとの差の絶対値)がフィードバック制御されることにより、車両のパワーオン走行時には所定のスリップ量Nでタービン軸24が前記クランク軸に対して追従回転させられる一方、車両のパワーオフ時には所定のスリップ量Nで前記クランク軸がタービン軸24に対して追従回転させられる。上記スリップ量Nの目標値すなわち目標スリップ量Nは、例えば50〜100[rpm]程度に予め設定されている。
【0024】
本実施例の自動変速機16は、好適にはFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両において横置きに搭載されて用いられるものである。自動変速機16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース38内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置40と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置42およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置44から成るラビニヨ型遊星歯車装置46とを共通の軸心C上に備えており、上記各遊星歯車装置を介してタービン軸24の回転を変速して出力歯車48から出力する。上記タービン軸24は、自動変速機16の入力部材に相当するものである。また、上記出力歯車36は、自動変速機16の出力部材に相当するものであり、自動変速機16の後段側に設けられる図示しない差動歯車装置に動力を伝達するためにその差動歯車装置のデフドリブンギヤと噛み合うデフドライブギヤとして機能する。
【0025】
また、自動変速機16は、その各回転要素(サンギヤS1乃至S3、キャリヤCA1乃至CA3、リングギヤR1乃至R3)同士の係合状態、または各回転要素とトランスミッションケース38との係合状態に応じて、第1変速段「1st」乃至第6変速段「6th」の6つの前進変速段、および1つの後進変速段「Rev」のいずれか1を成立させるために、選択的に作動させられる油圧式摩擦係合装置として、図2に示すようにクラッチC1、C2、およびブレーキB1乃至B3を備えている。これらクラッチおよびブレーキは、いずれも多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、図1に示す油圧制御回路28が備える電磁弁の励磁状態が制御されることにより、係合状態が切り換えられると共に係合および解放時の過度油圧等が制御されるものである。なお、図3は、自動変速機16において選択的に成立される前記複数の変速段と前記クラッチおよびブレーキの作動状態との関係をまとめた係合作動表である。
【0026】
図1に戻って、車両用駆動装置10は、エンジン12の出力制御、自動変速機16の変速制御、およびロックアップクラッチ26の係合制御等の各種制御を行うための電子制御装置50を備えている。この電子制御装置50は、本発明における車両用駆動装置の制御装置に相当するものである。上記電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記各種制御を実行するように構成されている。
【0027】
図1に示すように、上記電子制御装置50には、車両の各部に設けられてその車両の状態を示す各種センサからの信号が入力されるようになっている。例えば、上記電子制御装置50には、スロットル開度センサ52により検出された電子スロットル弁22のスロットル開度θTHを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θACCを表す信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン12のエンジン回転速度Nを表す信号、タービン回転速度センサ58により検出されたタービン翼車14tのタービン回転速度Nを表す信号、車速センサ60により検出された車速Vを表す信号、およびレバーポジションセンサ62により検出されたシフトレバー64の操作位置PSHを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0028】
また、電子制御装置50からは、車両に備えられた各種装置の作動を制御するための信号が出力されるようになっている。例えば、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号Sとして、電子スロットル弁22の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ20を駆動するスロットル信号、図示しない燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、および図示しない点火装置によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力される。また、例えば、電子制御装置50からは、自動変速機16の変速制御のための変速制御指令信号STMとして、油圧制御回路28内に前記クラッチおよびブレーキにそれぞれ対応して備えられた図示しない各種電磁弁を駆動するための信号等が出力される。また、例えば、電子制御装置50からは、ロックアップクラッチ26の係合制御のためのロックアップクラッチ係合制御信号SLCとして、油圧制御回路28内に備えられたロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動するための信号等が出力される。
【0029】
前記シフトレバー64は、例えば運転席の近傍に配設され、図1に示すように、5つの操作位置「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。上記操作位置「P」は、メカニカルパーキング機構によって機械的に自動変速機16の出力歯車48の回転を阻止する為の駐車ポジションである。また、操作位置「R」は、自動変速機16において後進変速段「Rev」を成立させるための後進走行ポジションである。また、上記操作位置「N」は、自動変速機12内の動力伝達を遮断するニュートラル状態を成立させるための中立ポジションである。また、上記操作位置「D」は、予め定められた関係から車両の走行状態に基づいて自動変速機12の変速段を第1変速段「1st」乃至第6変速段「6th」のいずれか1に切り換えるための自動変速制御が実行される自動変速モードを選択する前進走行ポジションである。また、上記操作位置「S」は、シフトレバー64が操作位置「+」および「−」へ操作される毎に自動変速機12の変速段を高速側および低速側に1段ずつ切り換えるための手動変速制御が実行される手動変速モードを選択する前進走行ポジションである。上記シフトレバー64は、本発明における手動操作部材に相当するものであり、実施例の自動変速機16は、シフトレバー64の変速操作すなわち操作位置「+」および「−」への操作に基づいて変速を行う手動変速モードを備えている。
【0030】
前記電子制御装置50は、上記自動変速モードが選択されている場合には、予め記憶された関係から車両の走行状態(運転状態)に基づいて自動変速機16の自動変速制御を行う。例えば、電子制御装置50は、予め定められた自動変速マップから、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度θACCおよび車速Vに基づいて、成立すべき変速段を判定し、その判定された変速段が成立するように自動変速機16に備えられた前記クラッチおよびブレーキの係合状態をそれぞれ制御する。そして、電子制御装置50は、前記手動変速モードが選択されている場合には、シフトレバー64の変速操作に基づいて自動変速機16の手動変速制御を行う。例えば、電子制御装置50は、自動変速機16の実際の変速段と、シフトレバー64の操作位置「+」および「−」への操作とに基づいて、成立すべき変速段を判定し、その判定された変速段が成立するように自動変速機16に備えられた前記クラッチおよびブレーキの係合状態をそれぞれ制御する。
【0031】
また、前記電子制御装置50は、予め記憶された関係から車両の走行状態(運転状態)に基づいてロックアップクラッチ26の係合制御を行う。例えば、電子制御装置50には、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度θACCおよび車速Vに基づいて、ロックアップクラッチ26を解放させるトルコン領域、ロックアップクラッチ26を半係合させるロックアップスリップ領域、およびロックアップクラッチ26を係合(完全係合)させるロックアップ領域がそれぞれ定められたロックアップクラッチ係合マップが予め記憶されており、電子制御装置50は、上記ロックアップクラッチ係合マップからスロットル弁開度θTHまたはアクセル開度θACCおよび車速Vに基づいて、ロックアップクラッチ26を解放させる解放制御、ロックアップクラッチ26を半係合させるロックアップスリップ制御、およびロックアップクラッチ26を完全係合させるロックアップ制御のいずれかを実行するかを判定し、その判定された制御を行うために油圧制御回路28のロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動する。
【0032】
図4は、電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す変速制御手段68は、パワーオフダウンシフトを要求する変速操作が為されたか否かを判定する。例えば、変速制御手段68は、アクセル開度θACCが予め実験的に求められて記憶された所定のアクセル開度θACC1よりも小さいパワーオフ走行中であり、シフトレバー64が操作位置「S」に操作されることで手動変速モードが選択され、且つシフトレバー64が操作位置「−」へ操作される変速操作が検出された場合に、パワーオフダウンシフトを要求する変速操作が為されたと判定する。
【0033】
また、変速制御手段68は、パワーオフダウンシフトを要求する変速操作が為されたと判定された場合に、自動変速機16の実際の変速段に基づいて成立すべき変速段を判定し、その判定された変速段が成立するように自動変速機16に備えられた前記クラッチおよびブレーキの係合状態をそれぞれ制御する。
【0034】
また、変速制御手段68は、前記クラッチおよびブレーキの油圧アクチュエータへの油圧の供給を調節する油圧制御回路28の電磁弁の作動状態に基づいて、上記パワーオフダウンシフト中に自動変速機16がニュートラル状態とされたか否かを判定する。
【0035】
ブリッピング制御手段70は、変速制御手段68においてパワーオフダウンシフトを要求する変速操作が為されたと判定された場合に、予め実験的に求められた関係から、トルクコンバータ14の出力回転速度と入力回転速度との差すなわちタービン回転速度Nとエンジン回転速度Nとの差の絶対値である入出力回転速度差△Nに基づいて、エンジン回転速度Nを一時的に上昇させるブリッピング要求があるか否かを判定する。具体的には、ブリッピング制御手段70は、例えば、入出力回転速度差△Nが予め定められた所定の入出力回転速度差△N1以上である場合に、ブリッピング要求があると判定する。
【0036】
また、ブリッピング制御手段70は、上記判定においてブリッピング要求があると判定された場合に、変速制御手段68により実行されるパワーオフダウンシフトに際して、エンジン回転速度Nを電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御を行う。具体的には、ブリッピング制御手段70は、変速制御手段68においてパワーオフダウンシフト中に自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定されてから所定時間T1の間、スロットル開度θTHを所定のスロットル開度θTH1増加させる。上記スロットル開度θTHおよび所定時間T1は、例えば、上記パワーオフダウンシフト中に入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さくなるように予め実験的に求められて記憶されている。なお、上記所定値Aは、ロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を実行しても、例えば、ロックアップクラッチ26のトルク容量不足によりエンジン回転速度Nを引き上げることが困難である、エンジン回転速度Nの引き上げに伴って大きなショックが発生する、又はロックアップクラッチ26の発熱量が許容値を超える等の問題が発生しない値として、予め実験的に求められた値である。
【0037】
ロックアップ制御手段72は、予め記憶された前記ロックアップクラッチ係合マップから、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度θACCおよび車速Vに基づいて、車両の走行状態がロックアップクラッチ26の解放制御、ロックアップスリップ制御、およびロックアップ制御のいずれの制御を実行する走行状態かを判定する。
【0038】
また、ロックアップ制御手段72は、車両の走行状態がロックアップスリップ制御またはロックアップ制御を実行する走行状態であると判定された場合に、ブリッピング制御手段70によるブリッピング制御開始後に減少する、トルクコンバータ14の出力回転速度と入力回転速度との差すなわち入出力回転速度差△Nに基づいて、ロックアップクラッチ26を係合または半係合させる。具体的には、ロックアップ制御手段72は、変速制御手段68においてパワーオフダウンシフト中に自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定されてから所定時間T1が経過した場合に、入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さいか否かを判定し、上記判定が肯定されたときにロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を開始する。なお、本実施例では、ブリッピング制御においてパワーオフダウンシフト中に入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さくなるようにエンジン回転速度Nが引き上げられるため、上記ロックアップ制御手段72によるロックアップ制御およびロックアップスリップ制御は、パワーオフダウンシフト中に開始されるようになっている。
【0039】
図5および図6は、電子制御装置50の信号処理によって実行される制御作動の要部をそれぞれ説明するフローチャートである。このうち図5のフローチャートは、パワーオフダウンシフトが行われる際のロックアップ制御およびロックアップスリップ制御に関する制御作動を説明するためのものであり、例えば、数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0040】
図5において、変速制御手段68に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1では、パワーオフダウンシフトのためのマニュアルダウンシフト操作が行われたか否かが判定される。例えば、アクセル開度θACCが予め実験的に求められて記憶された所定のアクセル開度θACC1よりも小さいパワーオフ走行中であり、シフトレバー64が操作位置「S」に操作されることで手動変速モードが選択され、且つシフトレバー64が操作位置「−」へ操作される変速操作が検出された場合に、パワーオフダウンシフトを要求する変速操作すなわちパワーオフダウンシフト操作が為されたと判定される。
【0041】
上記S1の判定が否定された場合には、S1以下が繰り返し実行されるが、上記S1の判定が肯定された場合には、ブリッピング制御手段70に対応するS2において、予め実験的に求められた関係から、入出力回転速度差△Nに基づいて、エンジン回転速度Nを一時的に上昇させるブリッピング要求があるか否かが判定される。
【0042】
上記S2の判定が否定された場合には、S1以下が繰り返し実行されるが、上記S2の判定が肯定された場合には、ロックアップ制御手段72に対応するS3において、自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定されてから所定時間T1が経過した場合に、ブリッピング制御によるブリッピング制御開始後に減少する入出力回転速度差△Nに基づいて、その入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さいか否かが判定される。
【0043】
上記S3の判定が否定された場合には、S3以下が繰り返し実行されるが、上記S3の判定が否定された場合には、ロックアップ制御に対応するS4において、予め記憶された前記ロックアップクラッチ係合マップから、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度θACCおよび車速Vに基づいて、車両の走行状態がロックアップクラッチ26の解放制御、ロックアップスリップ制御、およびロックアップ制御のいずれの制御を実行する走行状態かが判定され、その判定においてロックアップスリップ制御またはロックアップ制御を実行する走行状態であると判定された場合に、ロックアップクラッチ26が係合または半係合される。そして、本ルーチンは終了させられる。
【0044】
図6のフローチャートは、パワーオフダウンシフトが行われる際のブリッピング制御に関する制御作動を説明するためのものであり、車両がパワーオフ走行中であると判定され、シフトレバー64が操作位置「S」に操作されることで手動変速モードが選択され、且つシフトレバー64が操作位置「−」へ操作される変速操作が検出されることにより、パワーオフダウンシフトを要求する変速操作が為されたと判定された場合に、例えば、数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0045】
図6において、ブリッピング制御手段70に対応するS11では、予め実験的に求められた関係から、入出力回転速度差△Nに基づいて、エンジン回転速度Nを一時的に上昇させるブリッピング要求があるか否かが判定される。例えば、入出力回転速度差△Nが予め定められた所定の入出力回転速度差△N1以上である場合に、ブリッピング要求があると判定される。
【0046】
上記S11の判定が否定される場合には、本ルーチンは終了させられるが、上記S11の判定が肯定される場合には、ブリッピング制御手段70に対応するS12において、エンジン回転速度Nを電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御が行われる。具体的には、パワーオフダウンシフト中に自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定されてから所定時間T1の間、スロットル開度θTHが所定のスロットル開度θTH1増加される。上記スロットル開度θTHおよび所定時間T1は、例えば、上記パワーオフダウンシフト中に入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さくなるように予め実験的に求められて記憶された値が用いられる。
【0047】
図7は、図5および図6に示された電子制御装置50の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、例えば、車両の走行状態がロックアップスリップ制御を実行する走行状態である場合のタイムチャートである。この図7には、上から順に、時間tの経過に応じて変化するシフトレバー64による変速段指示、タービン回転速度Nおよびエンジン回転速度N、スロットル開度θTH、前記クラッチおよびブレーキのうち変速に関わる解放側係合装置および係合側係合装置に対する指令圧、ロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUに対する指令圧、およびアクセル開度θACCが示されている。なお、図7中のt1時点よりも前の車両状態は、アクセル開度θACCが零であるパワーオフ走行状態であり、自動変速機16の変速段が第4変速段であり、且つシフトレバー64が操作位置「S」に操作されることで手動変速モードが選択されている状態であって、図5のフローチャートの実行条件が整っている状態である。
【0048】
図7において、t1時点は、シフトレバー64が操作位置「−」へ操作される変速操作が検出された時点である。このt1時点においては、図5のS1の判定が肯定されるとともに、図6のフローチャートの実行条件が整う。そして、上記t1時点直後に図5のS2および図6のS11の判定がそれぞれ肯定される。図7に示すように、前記解放側係合装置の指令圧は、上記t1時点直後から変速段を切り換えるために減少される。
【0049】
t2時点は、前記解放側係合装置の指令圧が所定値以下となって自動変速機16がニュートラル状態とされたと判定され、ブリッピング制御が開始された時点である。このt2時点においては、図6のS12におけるエンジン回転N上昇のための制御作動が実行される。スロットル開度θTHは、上記t2時点直後から所定時間T1の間、所定のスロットル開度θTH1増加される。そして、前記係合側係合装置の指令圧は、上記t2時点直後から上記係合側係合装置を係合させない程度に増加される。そして、エンジン回転速度Nは、上記スロットル開度θTH増加によってt2時点から所定時間経過後に上昇開始される。そして、タービン回転速度Nは、前記解放側係合装置の指令圧が零とされるとともに前記係合側係合装置の指令圧がその係合側係合装置を半係合させる程度に増加されると、上昇が開始される。
【0050】
t3時点は、エンジン回転速度Nとタービン回転速度Nとの差の絶対値である入出力回転速度差△Nが予め定められた所定値Aよりも小さいと判定されて、ロックアップスリップ制御が開始された時点である。このt3時点においては、図5のS4におけるロックアップクラッチ26を半係合させるための制御作動が実行される。ロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUの指令圧は、タービン軸24がエンジン12のクランク軸に対して例えば50〜100[rpm]程度に設定された目標スリップ量Nで追従回転させられるように制御される。なお、本実施例では、ロックアップスリップ制御の開始直後にロックアップクラッチ26の係合側油室32に油圧を急速充填させるために、ロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUの指令圧が所定時間高めに設定される。そして、エンジン回転速度Nは、タービン回転速度Nとの差が上記目標スリップ量Nとなるように変化している。なお、時間軸の上に示す制御OFFの矢印は、t3時点まではロックアップクラッチ26を係合または半係合させるための制御が停止されていることを表し、また、定常制御の矢印は、t3時点からロックアップクラッチ26を半係合させるための制御が実行されていることを表している。
【0051】
因みに、図10は、ブリッピング制御手段70およびロックアップ制御手段72を備えていない従来の電子制御装置による制御作動を説明するためのタイムチャートであって、本実施例の場合の図7に対応する図である。図10に示すように従来では、エンジン回転速度Nがタービン回転速度Nに対して相対的に低下した状態においてt11時点後に示すようにパワーオフダウンシフトが行われた場合であっても、そのダウンシフト後もエンジン回転速度Nとタービン回転速度Nとの差が大きい状況は変わらないために、ロックアップ制御およびロックアップスリップ制御を実行することができず、十分な減速度が得られないという問題があった。その場合には、例えば、ダウンシフト完了後に図10のt12時点に示すようにアクセルが踏み込まれてエンジン回転速度Nが上昇され、タービン回転速度Nとエンジン回転速度Nとの差がロックアップ制御およびロックアップスリップ制御を安定に実行することができる回転速度差以内にならないと、ロックアップ制御およびロックアップスリップ制御が実行できなかった。
【0052】
本実施例の車両用駆動装置10の制御装置としての電子制御装置50によれば、自動変速機16の手動変速モード時におけるパワーオフダウンシフトに際して、エンジン回転速度Nを電子スロットル弁22によって一時的に上昇させるブリッピング制御手段70と、そのブリッピング制御開始後に減少する入出力回転速度差△N(トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差)に基づいて、ロックアップクラッチ26を係合または半係合させるロックアップ制御手段72とを含むことから、コースト走行中(パワーオフ走行中)にロックアップ制御が行われずにエンジン回転速度Nがタービン回転速度Nに対して相対的に低下しているときにダウンシフトが要求された場合において、タービン回転速度Nとエンジン回転速度Nとの差がロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を安定に実行することができる値すなわち所定値Aよりも小さくされて上記各制御が安定に実行され、エンジンが非駆動状態となって十分なエンジンブレーキが得られるので、コースト走行中のダウンシフトに際して車両の減速度を速やかに得ることができる。例えば、図10に示すようにダウンシフト完了後にアクセルが踏み込まれてエンジン回転速度Nが十分に上昇された後に、アクセルがオフ或いはそれに近い操作量とされてロックアップ制御またはロックアップスリップ制御が為される場合と比較して、速やかにエンジンブレーキが得られる。
【0053】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、ロックアップ制御手段72は、入出力回転速度差△N(トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差)がロックアップ制御またはロックアップスリップ制御を安定に実行することができる値として予め定められた所定値Aよりも小さい場合に、ロックアップクラッチ26を係合または半係合させることから、入出力回転速度差△Nが所定値Aよりも小さくされたときに上記制御が実行されるので、ロックアップスリップ制御を安定に実行することができる。これに対して、上記入出力回転速度差△Nが大きいときにロックアップ制御またはロックアップスリップ制御が行われる場合には、ロックアップクラッチ26のトルク容量不足によりエンジン回転速度Nを引き上げることが困難である、エンジン回転速度Nの引き上げに伴って大きなショックが発生する、或いはロックアップクラッチ26の発熱量が許容値を超える等の問題が生じる。
【0054】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、ロックアップ制御手段72は、パワーオフダウンシフト中にロックアップクラッチ26を係合または半係合させることから、ダウンシフト後にロックアップクラッチ26を係合または半係合させる場合と比べて、より速やかに車両の減速度を得ることができる。また、ロックアップクラッチ26の係合時に生じるショックを変速ショックに埋没させることができるという利点もある。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図4に示すように、本発明の他の実施例の電子制御装置100は、前述の実施例1の電子制御装置50が備える変速制御手段68およびブリッピング制御手段70の他に、ロックアップ制御手段102を備えている。このロックアップ制御手段102は、電子制御装置50が備えるロックアップ制御手段72に比べて以下の点で異なる。すなわち、ロックアップ制御手段102は、変速制御手段68によってパワーオフダウンシフトが開始されたときから、ロックアップクラッチ26の油圧アクチュエータの係合側油室32に対してそのロックアップクラッチ26を係合させない予め定められた待機圧PLC1の油圧充填を行う待機制御を実施する。上記係合側油室32への待機圧PLC1の油圧充填は、ロックアップ制御またはロックアップスリップ制御が実行される直前まで継続して行われる。
【0057】
図8および前記図6は、電子制御装置100の信号処理によって実行される制御作動の要部をそれぞれ説明するフローチャートである。図6のフローチャートは、実施例1の場合と同様であるので説明を省略する。図8のフローチャートは、パワーオフダウンシフトが行われる際のロックアップ制御およびロックアップスリップ制御に関する制御作動を説明するためのものであり、例えば、数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0058】
図8において、S2の判定が肯定された場合には、ロックアップ制御手段102に対応するステップS21において、パワーオフダウンシフトが開始されたときから、ロックアップクラッチ26の係合側油室32に対する待機圧PLC1の油圧充填が開始される。上記S21後に、S3以下が実行される。
【0059】
図9は、図8および図6に示された電子制御装置100の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、例えば、車両の走行状態がロックアップスリップ制御を実行する走行状態である場合のタイムチャートである。この図9は、実施例1の図7に対応する図である。なお、以下では、上記図7と異なる変化を示すエンジン回転速度Nおよびロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUへの指令圧に関して説明する。
【0060】
図9において、マニュアルダウンシフト操作が検出されてダウンシフトが開始されたt11時点直後には、ロックアップ制御用リニアソレノイド弁SLUへの指令圧が所定の待機圧PLC1とされる。これにより、ロックアップクラッチ26の油圧アクチュエータの係合側油室32には、上記待機圧PLC1の油圧充填が開始される。
【0061】
ロックアップスリップ制御が開始されたt13時点直後において、エンジン回転速度Nは、実施例1のようにロックアップスリップ制御前に係合側油室32に油圧が供給されないものに比べて、速やかにタービン回転速度Nに前記目標スリップ量Nで追従回転させられるように制御される。
【0062】
本実施例の車両用駆動装置10の制御装置としての電子制御装置100によれば、ブリッピング制御手段70によるブリッピング制御中において、ロックアップクラッチ26の油圧アクチュエータの係合側油室32にロックアップクラッチ26を係合させない予め定められた待機圧PLC1を充填することから、ロックアップ制御またはロックアップスリップ制御開始後に速やかにロックアップクラッチ26を係合または半係合させることができるので、車両の減速度をより速やかに得ることができる。
【0063】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0064】
たとえば、図7および図9のタイムチャートには、ブリッピング制御手段70によるブリッピング制御開始後に減少する入出力回転速度差△Nに基づいてロックアップクラッチ26を半係合させる一例が示されたが、これに限らず、例えば、ロックアップクラッチ26を完全係合させてもよい。
【0065】
また、前述の実施例の手動変速モードは、シフトレバー64が操作される毎に自動変速機16の変速段を切り換える変速モードであったが、これに限らない。例えば、手動変速モードにおいて自動変速機16は、最高速側の変速段が制限された複数の変速レンジ内で変速が行われるように構成され、手動変速モードは、シフトレバー96が操作される毎に上記複数の変速レンジを切り換える変速モードであってもよい。
【0066】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:車両用駆動装置
12:エンジン
14:トルクコンバータ
16:自動変速機
22:電子スロットル弁
26:ロックアップクラッチ
50,100:電子制御装置(制御装置)
64:シフトレバー(手動操作部材)
70:ブリッピング制御手段
72:ロックアップ制御手段
:エンジン回転速度(エンジンの出力回転速度、トルクコンバータの入力回転速度)
:タービン回転速度(トルクコンバータの出力回転速度)
LC1:待機圧
:エンジン出力制御指令信号(電気的指令)
△N:入出力回転速度差(トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンの出力回転速度をアクセル操作によらず電気的指令に基づいて変更することができる電子スロットル弁と、手動操作部材の変速操作に基づいて変速を行う手動変速モードを備えた自動変速機と、該自動変速機と前記エンジンとの間に設けられたトルクコンバータと、該トルクコンバータの入力部材と出力部材とを直結することができるロックアップクラッチとを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記自動変速機の手動変速モード時におけるパワーオフダウンシフトに際して、前記エンジンの出力回転速度を前記電子スロットル弁によって一時的に上昇させるブリッピング制御手段と、
該ブリッピング制御手段によるブリッピング制御開始後に減少する、前記トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差に基づいて、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させるロックアップ制御手段と
を含むことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップ制御手段は、前記トルクコンバータの出力回転速度と入力回転速度との差が予め定められた所定値よりも小さい場合に、前記ロックアップクラッチを係合または半係合させることを特徴とする請求項1の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記ロックアップ制御手段は、前記ブリッピング制御手段によるブリッピング制御中において、前記ロックアップクラッチの油圧アクチュエータに該ロックアップクラッチを係合させない予め定められた待機圧を充填することを特徴とする請求項1または2の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記ロックアップ制御手段は、前記パワーオフダウンシフト中に前記ロックアップクラッチを係合または半係合させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−196458(P2011−196458A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63736(P2010−63736)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】