説明

車両統合制御装置

【課題】車両安定性制御装置とサスペンション制御装置とを統合して、車両の走行安定性を高める。
【解決手段】オーバーステア時には、旋回外側の前輪3に制動力F1を加えて、車両1に旋回内向きのモーメントを発生させ、また、アンダーステア時には、車両1の旋回内側の後輪4に制動力F2を加えて、車両1に旋回外向きのモーメントを発生させると共に、旋回外側の前後輪3,5に適度な制動力F3,F4を加えて、車両1を減速させることによって車両1の安定性を確保する。このとき、制動力が加えられた車輪に対して、縮み側減衰力を大きくし、伸び側減衰力を小さくし、かつ、懸架ばねのばね力を小さくする。同時に、その他の車輪に対応する縮み側減衰力を小さく、伸び側減衰力を大きくする。これにより、制動力が加えられた車輪の接地荷重を大きくすることができ、車両安定性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において、各車輪の制動装置の制動力、減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力及び懸架ばねのばね力を制御することによって、走行安定性を確保する車両統合制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等の各種センサからの信号に基づいて、アンダーステア、オーバーステア等の車両の走行状態を演算し、演算した走行状態に応じて、自動的に各車輪独立に制動力を加えることによって、旋回モーメント及び減速力を制御して、旋回安定性やコーストレース性を確保するようにした車両安定性制御装置が知られている。
【0003】
また、各車輪の懸架装置に装着された減衰力調整式油圧緩衝器の減衰特性及びエアサスペンション装置等の懸架ばねのばね力を車両走行状態に応じて適宜調整することにより、操縦安定性及び乗り心地を向上させるようにしたサスペンション制御装置が知られている。
【0004】
上述の車両安定性制御装置とサスペンション制御装置とを組み合わせた場合、従来は、車両安定性制御装置の作動中には、全ての車輪の減衰力調整式油圧緩衝器の伸び側及び縮み側の減衰力、並びに、ばね力を大きくすることにより、車両の姿勢変化を抑制して、走行安定性を高めるようにしている。
【0005】
しかしながら、上記従来の車両安定性制御装置の作動中に、全ての車輪の伸び側及び縮み側の減衰力、並びに、ばね力を共に大きくするように制御するものでは、各車輪の制動状態にかかわらず、単に車両の姿勢変化を抑えているに過ぎず、路面の不規則な凹凸により、凹凸通過時には車輪が路面から浮き上がる場合があり、必ずしも実際の車両走行状態に対して、最適な制御がなされているとはいえない。そこで、本出願人は、特許文献1に記載されているように、車両安定性制御装置の作動に対して、各車輪の減衰力を最適に制御することにより、車両安定性制御装置による制御効果を高める技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−11635公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、車両安定性制御装置及びサスペンション制御装置の制御を統合して、各車輪の制動状態に応じて、減衰力調整式油圧緩衝器の伸び側及び縮み側で最適な減衰力を発生させ、さらに、エアサスペンション等の懸架ばねのばね力を最適に調整することにより、車両の走行安定性を向上させるようにした車両統合制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明に係る車両統合制御装置は、車両の走行状態に応じて、各車輪を制動制御することによって車両の操縦安定性を制御する車両安定性制御装置と、各車輪に対応する減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力を調整する減衰力調整手段と、各車輪に対応する懸架ばねのばね力を調整するばね力調整手段とを備え、前記車両が旋回中のオーバーステア時に前記車両安定性制御装置が作動したとき、車両の旋回外側の前輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側の減衰力を大きくすると共に懸架ばねのばね力を小さくするように前記減衰力調整手段及び前記ばね力調整手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両統合制御装置によれば、オーバーステア時に車両安定性制御装置の作動によって制動制御された車両の旋回外側の前輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくすると共に懸架ばねのばね力を小さくすることにより、車両安定性制御装置の作動によって制動制御された車両の旋回外側の前輪の接地荷重を大きくすることができ、効果的に車両安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両統合制御装置の制御を示す説明図である。
【図2】図1の制御のフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車両統合制御装置における図2のフローチャートのサブルーチンを示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る車両統合制御装置の制御を示す説明図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る車両統合制御装置における図2のフローチャートのサブルーチンを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車両統合制御装置における図2のフローチャートのサブルーチンを示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る車両統合制御装置における図2のフローチャートのサブルーチンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明の第1実施形態について、図1ないし図3を参照して説明する。本実施形態に係る自動車は、車両安定性制御装置及びサスペンション制御装置(減衰力調整手段、ばね力調整手段)を統合した車両統合制御装置を備えている。
【0012】
車両安定性制御装置は、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、車輪速度センサ等の各種センサからの信号に基づいて車両の走行状態を演算して、前輪横滑りによるアンダーステア(操舵角に対して車両が旋回方向の外側に向く傾向にある状態)または後輪横滑りによるオーバーステア(操舵角に対して車両が旋回方向の内側に向く傾向にある状態)の発生を検知する。そして、車両の走行状態に応じて、車両を安定状態に復帰させるために各車輪に必要な制動力を演算し、この演算結果に基づいてブレーキ油圧制御装置を作動させて、各車輪独立に制動制御する(制動力を加える)ことにより、車両の旋回モーメント及び減速力を制御して、旋回安定性及びコーストレース性を確保する。
【0013】
このとき、図1(A)に示すように、オーバーステア時には、車両1の旋回外側の前輪3に制動力F1を加えて、車両1に旋回外向きのモーメントを発生させることによって車両の安定性を確保することができる。このとき、旋回外側の後輪5に小さい制動力を加えることによっても旋回外向きのモーメントを生じることから、必要に応じて後輪5に小さい制動力を加えてもよい。一方、図1(B)に示すように、アンダーステア時には、車両1の旋回内側の後輪4に制動力F2を加えて、車両1に旋回内向きのモーメントを発生させるとともに、旋回外側の前後輪3,5に適度な制動力F3,F4を加えて、コーナリングフォース限界で旋回可能な車速まで車両1を減速させることによって車両1の安定性を確保することができる。なお、図1において、矢印Dは旋回方向(左旋回)を示す。
【0014】
サスペンション制御装置は、各車輪に減衰力調整式油圧緩衝器及びエアサスペンション等のばね力を調整可能な懸架ばねを装着し、加速度センサ、ブレーキセンサ、車高センサ、操舵角センサ等の各種センサからの信号に基づいて、車両の走行状態を検出し、走行状態に応じて各車輪に対する減衰力及びばね力を調整することにより、車両の姿勢変化及び振動を制御して操縦安定性及び乗り心地を向上させる。
【0015】
車両統合制御装置は、車両安定性制御装置及びサスペンション制御装置を次のように統合制御する。 車両安定性制御装置の作動によって制動力が加えられた車輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくすると共に伸び側減衰力を小さくし、かつ、懸架ばねのばね力を小さくする。同時に、制動力が加えられていない他の車輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を小さくすると共に伸び側減衰力を大きくする。
【0016】
これにより、制動力を加えた車輪では、減衰力調整式油圧緩衝器が縮みにくく伸びやすくなるので、接地荷重が増大してロックしにくくなり、大きな制動力を加えることができる。このとき、懸架ばねのばね力を小さくすると、車体が下がる方向に移動して、減衰力調整式油圧緩衝器が短縮されるので、大きくした縮み側の減衰力によって一時的に接地荷重を増大させることができる。なお、懸架ばねのばね力を大きくすれば、直接的に接地荷重を増大させることが可能であるが、サスペンション制御装置に一般的に使用されるエアサスペンションでは、実際には、圧縮エアを供給してばね力を増大させる場合、応答性が低く、充分な効果を得ることが困難である。これに対して、圧縮エアを排出してばね力を減少させる場合には、比較的応答性が高いので、ばね力を小さくすることにより、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側の減衰力によって接地荷重を迅速に増大させることができる。また、制動力が加えられていない車輪では、減衰力調整式油圧緩衝器が縮み易く伸びにくくなっているので、接地荷重が減少し、その分、制動力が加えられた車輪の接地荷重が増大することになる。
【0017】
図1(A)の例では、オーバーステア時には、旋回外側の前輪3に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくすると共に伸び側減衰力を小さくし、かつ、懸架ばねのばね力を小さくする。同時に、制動力が加えられていない他の3つの車輪2,4,5に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を小さくし、伸び側減衰力を大きくする。その結果、制動力を加えた車輪3の接地荷重を大きくすることができるので、この車輪3をロックさせることなく、大きな制動力を加えることができ、効果的にオーバーステアを解消して、車両安定性を向上させることができる。
【0018】
また、図1(B)の例では、アンダーステア時には、旋回内側の後輪4及び旋回外側の前後輪3,5に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくし、伸び側減衰力を小さくすると共に、これらの車輪の懸架ばねのばね力を小さくする。同時に、他の車輪2に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を小さくし、伸び側減衰力を大きくする。その結果、制動力を加えた車輪3,4,5の接地荷重が大きくなるので、これらの車輪3,4,5をロックさせることなく、大きな制動力を加えることができ、効果的にアンダーステアを解消して、車両安定性を向上させることができる。
【0019】
本実施形態の車両統合制御装置による制御のフローチャートを図2及び図3に示す。図2において、ステップ(1)で初期設定を行い、ステップ(2)で制御サイクルを調整し、ステップ(3)で車両加速度、車高等の減衰力及びばね力調整用信号を入力し、ステップ(4)で車両安定性制御作動信号、ブレーキ制御信号等の車両安定性制御作動状態信号を入力する。そして、ステップ(5)で、車両安定性制御作動状態信号に基づいて、車両安定性制御が実行されているかどうかを判断する。車両安定性制御が実行中であれば、ステップ(6)で演算した各車輪の減衰力及びばね力に基づいて、また、車両安定性制御が非実行中であれば、ステップ(7)で演算した各車輪の減衰力及びばね力に基づいて、ステップ(8)で減衰力及びばね力調整用信号を出力して、各車輪の減衰力及びばね力を調整する。
【0020】
車両安定性制御が実行中である場合のステップ(6)における各車輪の減衰力及びばね力を演算するためのサブルーチンを図3に示す。図3において、ステップS1で車両安定性制御装置によって、その車輪に制動力が加えられているかどうかを判断する。制動力が加えられている場合には、ステップS2で減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、伸び行程であれば、ステップS3で減衰力を小さくし、縮み行程であれば、ステップS4で減衰力を大きくすると共にばね力を小さくする。また、ステップS1で制動力が加えられていない場合は、ステップS5で減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、伸び行程であれば、ステップS6で減衰力を大きくし、縮み行程であれば、ステップS7で減衰力を小さくする。
【0021】
これにより、車両安定性制御装置によって制動力が加えられている車輪の接地荷重を増大させるとともに、車両の姿勢変化を迅速に復帰させることができ、車両の走行安定性を高めることができる。このとき、サスペンション制御装置は、旋回方向を別途判別することなく各車輪の制動力に基づいて減衰力及びばね力を制御することができるので、迅速に制御を行うことができる。
【0022】
なお、路面には、通常、大小不規則な凹凸が存在するが、本発明の実施形態では、縮み側及び伸び側の減衰力を減衰力調整式油圧緩衝器の行程毎に切換えることにより、車輪の浮き上がりを効果的に抑えて、車輪の接地荷重を大きくした状態で維持できるようにしている。すなわち、路面に凹凸が存在しない完全な平坦路であれば、減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力を行程毎に切換えずに、車輪の縮み側及び伸び側の両減衰力を大きくするのみでよいが、実際の路面には上述のように凹凸が存在する。したがって、縮み側及び伸び側の両減衰力を大きくするのみでは、例えば、路面の凹部において減衰力調整式油圧緩衝器が伸びにくい状態となり、これが車輪の浮き上がりを生じさせて車両の安定性を低下させることになる。これに対して、本発明においては、減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力を行程毎に切換えるので、例えば、路面の凹部においては、減衰力調整式油圧緩衝器が伸びやすくなっている(減衰力が小さくなっている)ので、車輪の浮き上がりを効果的に抑え、確実に車両安定性を向上させることができる。なお、減衰力調整式油圧緩衝器の行程毎の減衰力切換えは、例えば、車高センサの検出信号(伸縮信号)に応じて行うことができる。
【0023】
本発明の第2実施形態として、上記第1実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器の代わりに、伸び側の減衰力を大きく制御すると、縮み側の減衰力が自動的に小さく制御され、伸び側の減衰力を小さく制御すると、縮み側の減衰力が自動的に大きく制御される、いわゆる減衰力反転型の減衰力調整式油圧緩衝器を使用することもできる。
【0024】
この場合、図2のフローチャートにおけるステップ(6)のサブルーチンは、図6に示すようになる。図6において、ステップS01で車両安定性制御装置によって、その車輪に制動力が加えられているかどうかを判断する。制動力が加えられている場合には、ステップS02で縮み側の減衰力を大きくすると共にばね力を小さくする。このとき、減衰力調整式油圧緩衝器が反転特性を有するため、伸び側の減衰力は自動的に小さくなる。制動力が加えられていない場合には、ステップS03で縮み側の減衰力を小さくする。このとき、減衰力調整式油圧緩衝器が反転特性を有するため、伸び側の減衰力は自動的に大きくなる。
【0025】
このようにして、図3に示す制御の場合と同様の結果を得ることができ、車両安定性制御装置によって制動力が加えられている車輪の接地荷重を増大させるとともに、車両の姿勢変化を迅速に復帰させることができ、車両の走行安定性を高めることができる。このとき、図3の制御に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、その都度減衰力制御する必要がないので、制御を簡略化して減衰力調整のためのアクチュエータ等の切換頻度を減少させることができ、また、制御の応答遅れが生じることがない。
【0026】
次に、本発明の第3実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。なお、上記第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
車両安定性制御装置及びサスペンション制御装置の構成及び機能は、上記第1実施形態のものと同様である。そして、本実施形態の車両統合制御装置では、車両が旋回し、かつ、車両安定性制御装置の作動時には、車両の旋回外側の車輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくすると共に伸び側減衰力を小さくし、かつ、これらの車輪の懸架ばねのばね力を小さくする。同時に、旋回内側の車輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を小さく、伸び側減衰力を大きくすべく、減衰力及びばね力を調整するようにサスペンション制御装置を制御する。
【0027】
これにより、図4に示すように、オーバーステア時(A)及びアンダーステア時(B)共に、旋回外側の前後輪3,5に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を大きくすると共に伸び側減衰力を小さくし、かつ、これらの車輪のばね力を小さくする。同時に、旋回内側の前後輪2,4に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側減衰力を小さくすると共に伸び側減衰力を大きくする。その結果、上述のように、ばね力を小さくすることによって実際に発生する減衰力が増大して、車両のロール剛性が高まり、旋回外側の前後輪3,5の接地荷重が迅速に増大するので、オーバーステア時には、制動力が加えられた旋回外側前輪3の応答性を向上させることができ、効果的にオーバーステアを解消して、車両安定性を向上させることができる。同様に、アンダーステア時には、制動力が加えられた旋回外側の前後輪3,5の接地荷重を迅速に増大して、これらの車輪の応答性を向上させることができ、効果的にアンダーステアを解消して、車両安定性を向上させることができる。
【0028】
本実施形態の車両統合制御装置による制御フローについて次に説明する。本実施形態の車両統合制御装置による制御のフローチャートのメインルーチンは、上記第1実施形態の制御を示す図2のものと同様であり、図2において、ステップS6の各車輪の減衰力及びばね力を演算するためのサブルーチンが異なる。
【0029】
本実施形態の制御による図2のステップS6のサブルーチンについて、図5を参照して説明する。図5において、ステップS11で、例えば操舵角信号によってその車輪が旋回外側にあるかどうかを判断する。旋回外側にある場合には、ステップS12で減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、伸び行程であれば、ステップS13で減衰力を小さくし、縮み行程であれば、ステップS14で減衰力を大きくすると共にばね力を小さくする。また、ステップS11で旋回外側でない(旋回内側にある)場合は、ステップS15で減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、伸び行程であれば、ステップS16で減衰力を大きくし、縮み行程であれば、ステップS17で減衰力を小さくする。
【0030】
これにより、車両安定性制御装置によって制動力が加えられている旋回外側の車輪の接地荷重を増大させるとともに、車両の姿勢変化を迅速に復帰させることができ、車両の走行安定性を高めることができる。
【0031】
また、本実施形態においても、上述した第1実施形態のように、減衰力調整式油圧緩衝器の行程毎に減衰力を切換えるので、路面の凹凸による車輪の浮き上がりを効果的に抑えることができ、確実に車両安定性を向上させることができる。
【0032】
本発明の第4実施形態として、上記第3実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器の代わりに、伸び側の減衰力を大きく制御すると縮み側の減衰力が自動的に小さく制御され、伸び側の減衰力を小さく制御すると縮み側の減衰力が自動的に大きく制御される、いわゆる減衰力反転型の減衰力調整式油圧緩衝器を使用することもできる。
【0033】
この場合、図2のフローチャートのステップS6のサブルーチンは、図7に示すようになる。図7において、ステップS21で、例えば操舵角信号によってその車輪が旋回外側にあるかどうかを判断する。旋回外側にある場合には、ステップS22で縮み側の減衰力を大きくすると共にばね力を小さくする。このとき、減衰力調整式油圧緩衝器が反転特性を有するため、伸び側の減衰力は自動的に小さくなる。旋回外側でない(旋回内側にある)場合には、ステップS23で縮み側の減衰力を小さくする。このとき、減衰力調整式油圧緩衝器が反転特性を有するため、伸び側の減衰力は自動的に大きくなる。
【0034】
これにより、図5に示す制御の場合と同様の結果を得ることができ、車両安定性制御装置によって制動力が加えられている旋回外側の車輪の接地荷重を増大させるとともに、車両の姿勢変化を迅速に復帰させることができ、車両の走行安定性を高めることができる。このとき、図5の制御に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の伸縮行程を判断して、その都度制御する必要がないので、制御を簡略化して減衰力調整のためのアクチュエータ等の切換頻度を減少させることができ、また、制御の応答遅れが生じることがない。
【0035】
なお、上記第1ないし第4実施形態では、車両安定性制御装置について、車両の旋回モーメント及び減速力を制御して、旋回安定性及びコーストレース性を確保するものを例示して説明しているが、本発明はこれに限らず、車両安定性制御装置として、例えばアンチロックブレーキシステムのように、特定の車輪の接地荷重を増大させることによって制御効果を高めることができる装置を適用することもできる。
【0036】
なお、上記第1ないし第4実施形態において、減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力及び懸架ばねのばね力は、大小二段階のみに切換えることもでき、また、ブレーキの作動制御状態(車両安定性制御装置のブレーキ作動信号またはブレーキ液圧等)または車両旋回状態(横加速度またはロール量等)に基づいて、多段階あるいは連続的に調整するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 車両、2,3,4,5 車輪、D 旋回方向、F1,F2,F3,F4 制動力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態に応じて、各車輪を制動制御することによって車両の操縦安定性を制御する車両安定性制御装置と、
各車輪に対応する減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力を調整する減衰力調整手段と、
各車輪に対応する懸架ばねのばね力を調整するばね力調整手段とを備え、
前記車両が旋回中のオーバーステア時に前記車両安定性制御装置が作動したとき、車両の旋回外側の前輪に対して、減衰力調整式油圧緩衝器の縮み側の減衰力を大きくすると共に懸架ばねのばね力を小さくするように前記減衰力調整手段及び前記ばね力調整手段を制御することを特徴とする車両統合制御装置。
【請求項2】
前記減衰力調整式油圧緩衝器は、減衰力反転型であることを特徴とする請求項1に記載の車両統合制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−241430(P2010−241430A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123402(P2010−123402)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【分割の表示】特願2004−288841(P2004−288841)の分割
【原出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】