説明

車輪形状測定装置

【課題】作業員の技量にかかわらず短時間で精度高く車輪外周面形状を測定することが可能な車輪形状測定装置を提供する。
【解決手段】車輪1におけるフランジ及び踏面を含む外周面2の形状を測定する車輪形状測定装置100であって、筐体(基部)10と、該筐体10内に取り付けられて車輪1の径方向外側から車輪1の外周面2に向かって光線を照射し、その反射光によって該外周面2までの距離を検出する距離測定部30と、筐体10を車輪1に対して位置決めして固定する位置決め手段20と、距離測定部30を筐体10に対して車輪1の軸線O方向にスライド移動可能とさせるスライド手段40と、外周面2における光線の反射にて生じる乱反射光を吸収する乱反射光吸収手段60とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪のフランジ及び踏面を含む外周面の形状を測定する車輪形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の車輪の外周面形状を測定するものとして、例えば特許文献1には、それぞれ地上側に車輪を挟むようにして設置され、車輪に光を照射してその反射光から距離を測定する一対の距離測定装置を備えた車輪形状測定装置が開示されている。この車輪形状測定装置においては、一対の距離測定装置により測定した車輪各部の距離を合成して車輪形状を取得することとしている。
【0003】
また、上記の他、例えば特許文献2には、車輪踏面に接触する踏面測定針を備えた移動体を備え、踏面測定針の移動に対応して記録ペンで記録テーブルに車輪踏面を描写することによって踏面形状を取得する車輪形状測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−153602号公報
【特許文献2】特開2004−93236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の車輪形状測定装置においては、地上側に一対の距離測定装置をセットする必要があるため、その位置決め等を行うことが面倒であり、測定作業に長時間を要してしまうという問題があった。また、光線の車輪の外周面での反射により乱反射光が生じるため、当該乱反射光が距離測定装置によって受光される反射光に紛れてしまい、その結果、取得したデータにノイズが生じ、精度高く外周面形状を得ることができないという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2の車輪形状測定装置においては、記録ペンが記録テーブルに車輪踏面を描写するという手法のため、例えばレーザーを用いた場合のように厳密な踏面形状までを捉えることができず、精度が劣るという欠点があった。また、作業員の技量の差異によって測定にばらつきが生じ、測定結果の正確性が担保できないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、作業員の技量にかかわらず、短時間で精度高く車輪のフランジ及び踏面を含む外周面の形状を測定することが可能な車輪形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る車輪形状測定装置は、車輪におけるフランジ及び踏面を含む外周面の形状を測定する車輪形状測定装置であって、前記車輪の径方向外側に配される基部と、該基部に取り付けられて、前記車輪の径方向外側から該車輪の外周面に向かって光線を照射し、その反射光によって該外周面までの距離を検出する距離測定部と、前記基部を前記車輪に対して位置決めして固定する位置決め手段と、前記距離測定部を前記基部に対して前記車輪の軸線方向にスライド移動可能とさせるスライド手段と、前記外周面における前記光線の反射にて生じる乱反射光を吸収する乱反射光吸収手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような特徴の車輪形状測定装置によれば、位置決め手段によって基部を車輪に対して位置決めし、この状態において基部内の距離測定部を車輪の軸線方向にスライドさせることで、該距離測定部が車輪の外周面との距離を上記軸線方向にわたって連続的に検出する。これによって、車輪の外周面形状を取得することができる。
また、乱反射光吸収手段を設けたことにより、光線の反射光に乱反射光が紛れることを回避することができるため、距離測定部の検出値にノイズが生じることを抑制することができる。
【0010】
また、本発明に係る車輪形状測定装置において、前記乱反射光吸収手段は、前記距離測定部に設けられた前記反射光を受光する受光部における前記車輪の径方向内側において、該反射光の光路を取り囲むように設けられた第一光吸収材を有することを特徴とする。
【0011】
受光部の近傍において乱反射光が第一光吸収材に吸収されることによって、該受光部が受光する反射光に乱反射光が紛れることを防止することができる。したがって、距離測定部によって、より正確に車輪外周面との距離を測定することができるため、精度高く外周面形状を取得することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る車輪形状測定装置において、前記乱反射光吸収手段は、前記第一光吸収材に加えて、前記第一光吸収材よりも前記車輪の径方向内側において、前記反射光の光路における前記軸線方向の少なくとも一方側に設けられた第二光吸収材を有することを特徴とする。
【0013】
これによって、より一層確実に、受光部が受光する反射光に乱反射光が紛れることを防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る車輪形状測定装置は、前記基部に設けられ、前記軸線方向に延在するラックと、前記距離測定部に設けられ、前記ラックと噛み合って前記距離測定部のスライド移動に伴って回転するピニオンとをさらに備え、前記距離測定部は、前記ピニオンの回転に伴って、該ピニオンの回転数に対応して予め定められたパルス数で、前記光線をパルス的に照射することを特徴とする。
【0015】
ピニオンの回転数に対応して距離測定部がパルス的に光線を照射することで、車輪の外周面の軸線方向全域において光線のパルスを均等に分布させることができる。即ち、距離測定部をスライド移動させる速度にかかわらず、軸線方向全域において均等に分布させたパルスでもって外周面までの距離を検出することができるため、作業者の技量の違いによってばらつきが生じることなく、精度高く踏面形状を取得することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る車輪形状測定装置において、前記位置決め手段は、前記車輪の端面に標準形成された車輪溝に係合する係合部と、前記車輪の端面に固着可能なマグネットとを有することを特徴とする。
【0017】
ここで、鉄道車両の車輪においては、その端面に軸線を中心とした車輪溝が標準的に形成されている。そこで、当該車輪溝に係合部を係合させることで、基部及び該基部内に取り付けられた距離測定部の車輪の径方向及び軸線方向位置を常に同一とすることができる。さらに、この状態でマグネットが車輪に固着されることで、基部を車輪に対して固定することができ、安定した測定作業を行うことができる。これによって、車輪の外周面形状をより一層正確に測定することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る車輪形状測定装置においては、前記位置決め手段が、前記基部の定位置に着脱可能とされた着脱部材をさらに有し、該着脱部材に前記係合部が設けられていることを特徴とする。
【0019】
ここで、鉄道車両の車輪は種々の形状のものがあり、例えば標準車輪、小径車輪、貨物車輪の三種がある。よって、仮に位置決め手段の係合部が基部の同一箇所にあれば、車輪の種類の違いによって、基部及び距離測定部を適切な箇所に配置することができず、外周面形状の測定の正確性が担保できなくなってしまう。そこで、基部に着脱可能な着脱部材を設け、当該着脱部材に係合部を設けることとし、さらに、この係合部の位置が互いに異なる複数の着脱部材を用意することとする。これにより、車輪の種類に対応して車輪溝との位置関係が適切な着脱部材を装着することで、基部及び距離測定部を車輪に対して適切な箇所に配置することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車輪形状測定装置によれば、車輪に対して位置決めされた基部内の距離測定部を車輪の軸線方向にスライドさせることで該車輪の外周面形状を取得することができる。また、車輪外周面での反射光に乱反射光が紛れることがない。したがって、作業員の技量にかかわらず、短時間で精度高く車輪外周面形状を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車輪形状測定装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】車輪の軸線に直交する断面における車輪形状測定装置本体の断面図である。
【図3】車輪の軸線を含む断面における車輪形状測定装置本体の断面図である。
【図4】車輪形状測定装置による車輪の踏面の測定結果の一例を示すグラフ及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る車輪形状測定装置の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、車輪形状測定装置100は、鉄道用車輪(以下、単に車輪と称する)1に装着されて、該車輪1のフランジ2a及び踏面2bを含む外周面2の形状を測定する装置本体80と、装置本体80による測定結果が表示される表示装置90とを備えている。
【0023】
即ち、装置本体80によって測定された外周面2の形状のデータがケーブル92を介して表示装置90に伝送され、当該データに基づく測定結果が表示装置90の表示画面91に表示されるようになっている。なお、この表示画面91はタッチパネル式とされており、表示モードの変更や取得したデータの管理等を行うことができるように構成されている。
【0024】
装置本体80は、図2及び図3に示すように、筐体(基部)10と、位置決め手段20と、距離測定部30と、スライド手段40と、ラックピニオン機構50と、乱反射光吸収手段60とを備えて構成されている。
【0025】
なお、以下では、図2における左右方向を車輪1の周方向と称し、図3における左右方向を軸線O方向と称することとする。さらに、当該軸線O方向について、一対の車輪1,1が輪軸5に取り付けられた状態におけるこれら車輪1,1の内側を、車輪1の軸線O方向内側と称し、一対の車輪1,1の外側を車輪1の軸線O方向外側と称することとする。
【0026】
筐体10は、一部が開口する略箱型をなす部材であって、車輪1の径方向外側において略箱型の開口を車輪1の径方向内側に向けるようにして、即ち、開口を外周面2に対向させるようにして配置されている。より具体的には、この筐体10は、天板13と、車輪1の周方向に離間して配置される一対の側板11a,11b、及び、軸線O方向に離間して配される一対の側板11c,11dとから構成されている。
【0027】
上記側板11c,11dは、車輪1の軸線Oに直交する平面に沿って配置されており、これら側板11c,11d同士の間隔は、車輪1の軸線O方向の厚みよりも大きく設定されている。また、これら一対の側板11c,11dのうち、車輪1の軸線O方向内側の側板11cには、該側板11cから車輪1の径方向内側に向かうにしたがって車輪1の周方向に広がるように延出する延出板部12が一体に形成されている。この延出板部12は、車輪1の軸線O方向両側の一対の端面のうち、軸線O方向内側の端面4に沿うように配置されている。
【0028】
位置決め手段20は、一対のマグネット21,21及び着脱部材22から構成されている。
マグネット21,21は、延出板部12の軸線O方向外側を向く面に、車輪1の周方向に離間して固定されている。これら一対のマグネット21,21が金属からなる車輪1の内側の端面4に磁気的に固着されることによって、筐体10が車輪1に対して強固に固定される。
【0029】
着脱部材22は、延出板部12の軸線O方向外側を向く面に形成された凹部12aに隙間無く嵌り込む金属板であって、該凹部12aに埋設されたマグネット23に磁気的に固着されることによって、延出板部12に対して、即ち、筐体10に対して定位置に着脱可能とされている。
【0030】
この着脱部材22が筐体10に装着された状態においては、該着脱部材22の軸線O方向外側を向く面が車輪1の端面4に当接可能とされている。そして、この着脱部材22の軸線O方向外側を向く面には、軸線O方向外側に向かって突出するとともに、車輪1の径方向外側に向かって凸となる円弧状をなして延在する係合突条(係合部)22aが一体に形成されている。
【0031】
ここで、車輪1における軸線O内側の端面には、軸線Oを中心とした車輪溝6が、車輪1の種類(例えば、標準車輪、小径車輪、貨物車輪等)にかかわらず標準的に形成されている。そして、上記着脱部材22における係合突条22aの円弧状の曲率は、装置本体80の装着対象となる車輪1、即ち、装置本体80による測定対象となる車輪1における車輪溝6の曲率と同一とされている。これによって、該着脱部材22の軸線O方向外側を向く面が車輪1の端面4に当接した際に、係合突条22aが車輪溝6に対して嵌り込むことで、筐体10が車輪1に対して軸線O方向及び径方向に移動不能に固定される。
【0032】
距離測定部30は、上記筐体10内に収納されるように配置されており、スライド手段40を介して該筐体10に取り付けられている。この距離測定部30は、車輪1の径方向内側に向かって開口する直方体箱型をなす測定部本体31を備えている。そして、この測定部本体31内には、該測定部本体31の開口を介して車輪1の径方向内側に向かって光線を照射する投光部32と、該投光部32から照射された光線の反射光を受光する受光部33とが設けられている。
【0033】
即ち、これら投光部32と受光部33とによってレーザ変位計が構成されており、投光部32が照射した光線の反射光を受光部33が受光することで、光線の照射対象までの距離が検出されるようになっている。
【0034】
投光部32は、測定部本体31の開口近傍に設けられている一方、受光部33は、測定部本体31の開口から投光部32よりも径方向外側に離間した箇所に設けられている。そして、測定部本体31内における受光部33よりも開口側の箇所、即ち、車輪1の径方向内側の箇所には、該受光部33が受光する反射光の光路を取り囲むようにして配置された第一光吸収材61が設けられている。
【0035】
この第一光吸収材61は、例えばクロロプレンゴム等の黒色の材料から形成されており、測定部本体31の開口と受光部33とを連通させる連通路61aを備えている。そして、連通路61aを通過した反射光が受光部33によって受光されるようになっている。
【0036】
なお、本実施形態においては、投光部32が車輪1の外周面2の周方向の頂部から該周方向に僅かに外れた箇所に対して鉛直方向に沿って光線を照射する構成とされている。したがって、外周面2からの光線の反射光は該外周面2の曲率に従って鉛直方向に対して傾斜して進行する。このような反射光の光路に対応して、連通路61aは鉛直方向から傾斜するように形成されている。
【0037】
また、筐体10における側板11cの軸線O方向内側を向く面には、距離測定部30と電気的に接続された測定開始ボタン34が設けられており、該測定開始ボタン34を押し込むことで、距離測定部30が起動して投光部32及び受光部33による光線の照射及び受光が可能な状態となるように構成されている。
さらに、側板11cの軸線O方向内側を向く面には、ケーブル92と接続されるコネクタ35が設けられており、該コネクタ35は距離測定部30と電気的に接続されている。これにより、距離測定部30により測定されたデータがコネクタ35及びケーブル92を介して表示装置90に伝送される。
【0038】
スライド手段40は、筐体10内に設けられており、該筐体10における天板13の径方向内側を向く面に固定されて軸線O方向に延在するレール部41と、距離測定部30を軸線O方向外側から支持する支持部42と、該支持部42の径方向外側を向く面に固定され、レール部41に対して軸線O方向に摺動可能に連結されたガイド部43とから構成されている。
また、筐体10における天板13には、該天板13をその厚み方向に貫通するとともに上記レール部41に平行に、即ち、軸線O方向に延在するスリット13aが形成されている。そして、スリット13aには、一端が支持部42の上面に固定された操作摘み44が貫通しており、該操作摘み44の他端は天板13上に露呈している。
【0039】
ラックピニオン機構50は、筐体10内において側板11bに固定され軸線O方向に延在するラック51と、スライド手段40における支持部42に回転可能に設けられ、ラック51に噛み合うピニオン52とから構成されている。これによって、支持部42が軸線O方向に移動した際には、ラック51に噛み合うピニオン52がラック51との噛み合いに従って回転するようになっている。
【0040】
ここで、本実施形態においては、上記ピニオン52が、例えば支持部42内に設けられたエンコーダ(図示省略)を介して距離測定部30の投光部32と接続されている。そして、このエンコーダによって、投光部32はピニオン52の回転数に対応して予め定められたパルス数で、光線をパルス的に照射するようになっている。これにより、例えばピニオン52が一回転する際には、投光部32からは常に一定のパルス数の光線が照射される。
【0041】
また、本実施形態においては、延出板部12の軸線O方向外側を向く面に、シート状をなす第二光吸収材62が貼り付けられるようにして設けられている。即ち、この第二光吸収材62は、上記第一光吸収材61よりも径方向内側において、投光部32が照射する光線の反射光の軸線方向内側に設けられている。そして、本実施形態には、この第二光吸収材62と上記第一光吸収材61とによって、乱反射光吸収手段60が構成されている。
【0042】
次に、本実施形態に係る車輪形状測定装置100の使用方法及び作用について説明する。
なお、車輪形状測定装置100の使用前においては、装置本体80における操作摘み44は、図3に示すように、最も軸線O方向内側に位置しており、これに伴って支持部42、距離測定部30も最も軸線O方向内側に位置しているものとする。
【0043】
この車輪形状測定装置100によって車輪1の外周面2の形状、即ち、フランジ2a及び踏面2bの形状を測定する際には、まず作業員が装置本体80を車輪1に対して装着する。具体的には、筐体10の開口を車輪1の外周面2に向けた状態で該筐体10を車輪1の径方向外側に配置し、延出板部12に装着されている着脱部材22を車輪1の端面4に当接させるとともに、該着脱部材22の係合突条22aを車輪溝6に嵌め込んで係合させる。
【0044】
このように係合突条22aが車輪溝6に係合することによって、筐体10の車輪1に対する相対位置、即ち、装置本体80の車輪1に対する相対位置が位置決めされる。これにより、筐体10内に収納された距離測定部30は、図2に示すように、車輪1よりも径方向外側に位置し、さらに、図3に示すように、車輪1よりも軸線O方向内側に位置した状態となる。
【0045】
次に、この状態において、筐体10に設けられた測定開始ボタン34を押すと、距離測定部30が起動して、投光部32が光線を照射可能な状態となるとともに、受光部33が反射光を受光可能な状態となる。
そして、作業員が操作摘み44を把持して、該操作摘み44をスリット13aの形状に従って軸線O方向外側へと向かって移動させる。すると、レール部41及びガイド部43に案内されるようにして、支持部42が軸線O方向にスライド移動する。これに伴って、該支持部42に支持された距離測定部30も軸線O方向にスライド移動する。
【0046】
この距離測定部30スライド移動に伴って、支持部42に設けらたピニオン52がラックとの噛み合いに従って回転する。ここで、本実施形態においては、距離測定部30の投光部32が、ピニオン52の回転数に対応して予め定められたパルス数で、光線をパルス的に照射する構成とされている。したがって、距離測定部30を起動した状態で該距離測定部30をスライド移動させることで、車輪1の外周面2の軸線O方向全域において光線のパルスを均等に分布させることができ、これら光線のパルスが照射される外周面2までの距離をそれぞれ検出することができる。
【0047】
これによって、距離測定部30から外周面2までの距離が、軸線O方向全域にわたって連続的に取得される。そして、このように距離測定部30によって取得された距離データは、コネクタ35及びケーブル92を介して表示装置90に伝送され、該表示装置90の表示画面に車輪1の外周面2の形状の測定結果が表示される。
【0048】
ここで、図4に、表示装置90の表示画面91に表示される測定結果の一例を示す。距離測定部30によって測定された距離データは、図4(a)に示すように、横軸が車輪1の軸線O方向、縦軸が車輪1の径方向とされたグラフに外周面形状カーブCとして表示される。また、図4(a)のグラフには、未使用状態の車輪1の外周面形状カーブC1、及び、車輪1として使用できる最低限の外周面形状カーブC2が表示されており、測定データに基づく外周面形状カーブCの摩耗状態を一目で把握することができるようになっている。
【0049】
また、表示画面91には、上記距離データに基づいて算出された、図4(b)に示すような車輪1の種々の寸法データ、即ち、タイヤ直径、タイヤ厚さ、フランジ距離、フランジ高さの寸法が表示される。なお、ここで言うタイヤとは、車輪1のことを意味している(以下において同じ)。また、フランジ距離とは、輪軸5に取り付けられた一対の車輪1,1におけるフランジ2a,2aの軸線O方向外側の端部(フランジ2aと踏面2bとの境界)同士の距離を意味しており、フランジ高さとは、フランジ2aと踏面2bとの車輪1径方向の距離を意味している。
【0050】
さらに、表示画面91には、図4(c)に示すような削正算出データ、即ち、最大削正量、最小削正量、最小削正後タイヤ直径、最小削正後タイヤ厚さが表示される。ここで、最大削正量とは、測定した外周面形状カーブCが最低限の外周面形状カーブC2を下回らない程度に外周面2を研削可能な削正量の最大値を意味している。また、最小削正量とは、車輪1の外周面2を理想的な形状にするために必要な最少の研削量を意味している。このような、削正算出データが表示されることで、車輪1の外周面2の適切な研削量を容易に把握することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態の車輪形状測定装置100によれば、位置決め手段20によって筐体10を車輪1に対して位置決めし、この状態において筐体10内に収納された距離測定部30を車輪1の軸線O方向にスライドさせることで、該距離測定部30が車輪1の外周面2との距離を上記軸線O方向にわたって連続的に検出することができる。これによって、作業員の技量にかかわらず短時間で精度高く車輪1の外周面2形状を容易に取得することができる。
【0052】
ここで、距離測定部30によって車輪1の外周面2までの距離を測定する際には、投光部32から照射される光線の車輪1の外周面2での反射により乱反射光が生じる。このような乱反射光が受光部33によって受光される反射光に紛れてしまう場合、取得した距離データにノイズが生じるため、精度高く外周面2の形状を得ることができなくなってしまう。
【0053】
これに対して本実施形態においては、乱反射光吸収手段60として第一光吸収材61及び第二光吸収材62を設けたので、光線の外周面2での反射にて生じる乱反射光を吸収することができ、受光部33が受光する反射光に乱反射光が紛れてしまうことを回避することができる。
【0054】
即ち、車輪1の外周面2での乱反射光のうち、筐体10の延出板部12に向かって進行する乱反射光は、第二光吸収材62によって吸収することができる。即ち、この第二光吸収材62が、第一光吸収材61よりも径方向内側、かつ、反射光の軸線方向内側に設けられていることから、車輪1の外周面2での乱反射光のうち、軸線O方向内側に傾斜して進行する光を当該第二光吸収材62によって吸収することができる。これによって、当該光が延出板部12の軸線O方向内側を向く面で反射して距離測定部30に向かってしまうことを回避することができる。
【0055】
さらに、距離測定部30に至ってしまった乱反射光が存在する場合であっても、測定部本体31内に第一光吸収材61が設けられており、即ち、受光部33の近傍において反射光の光路を取り囲むように第一光吸収材61が設けられているため、当該第一光吸収材61が乱反射光を吸収することで、受光部33によって受光される反射光に乱反射光が紛れてしまうことを一層確実に回避することができる。これによって、距離測定部30が測定した距離データにノイズが生じることを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態においては、ピニオン52の回転数に対応して距離測定部30の投光部32がパルス的に光線を照射することで、車輪1の外周面2の軸線O方向全域において光線のパルスを均等に分布させることができる。これにより、距離測定部30をスライド移動させる速度にかかわらず、軸線O方向全域において均等に分布させたパルスでもって外周面2までの距離を測定することができるため、作業者の技量の違いによってばらつきが生じることなく、精度高く車輪1の外周面2の形状を取得することができる。
【0057】
ここで、鉄道車両の車輪1においては、その端面に軸線を中心とした車輪溝6が標準的に形成されている。そこで、本実施形態においては、当該車輪溝6に対して位置決め手段20の係合突条22aを係合させることで、筐体10の車輪1に対する相対位置、即ち、装置本体80の車輪1に対する相対位置が位置決めされる。これにより、筐体10内に収納された距離測定部30の車輪1の径方向及び軸線方向位置を常に同一とすることができるため、より精度高く車輪1の外周面2形状を測定することが可能となる。
【0058】
さらに、この状態で一対のマグネット21,21が車輪1の端面4に固着されることで、筐体10を車輪1に対して確実に固定することができ、安定した測定作業を行うことができる。これによって、車輪1の外周面2の形状をより一層正確に測定することが可能となる。
【0059】
ここで、鉄道車両の車輪1においては種々の形状のものがあり、例えば標準車輪、小径車輪、貨物車輪の三種がある。したがって、位置決め手段20の係合突条22aが筐体10の同一箇所にあれば、車輪1の種類の違いによって、筐体10及び距離測定部30を適切な箇所に配置することができず、外周面形状の測定の正確性が担保できなくなってしまう。
【0060】
そこで、本実施形態のように、筐体10の定位置に着脱可能な着脱部材22を設け、当該着脱部材22に係合突条22aを設けることとし、さらに、この係合突条22aの位置が互いに異なる複数の着脱部材22を用意することとする。これにより、車輪1の種類に応じて車輪溝6との位置関係が適切な着脱部材22を装着することで、車輪1の種類に柔軟に対応して、筐体10及び距離測定部30を車輪1に対して適切な箇所に配置することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の車輪形状測定装置100は、全体としてコンパクトな構成とすることができるため、作業員が持ち運びし易く、即ち、携帯性に優れているため、場所を選ばずして車輪1の外周面2の形状を測定することができる。したがって、鉄道用車両の台車から取り外された車輪1の外周面2を測定可能であることはもちろん、鉄道用車両に取り付けられた状態の車輪1の外周面2も測定することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、実施形態においては、乱反射光吸収手段60として、第一光吸収材61及び第二光吸収材62を備えたものについて説明したが、これに限定されることはなく、乱反射光が至る箇所であれば、他の箇所に第一光吸収材61及び第二光吸収材62と同様の光吸収材を配置してもよい。
【0063】
また、このような光吸収材としては、クロロプレンゴム等の黒色の材料のみならず、光を積極的に吸収可能であれば他の材料、色彩のいかなる部材であってもよい。
【0064】
また、本実施形態においては、ラックピニオン機構50を採用したが、たとえば、ピニオン52に代えて回転体を設けるとともに、ラック51に代えて回転体の外周面が高摩擦で接触するガイド部材を設け、支持部42及び測定部本体31のスライド移動に伴って回転体がガイド部材との接触により回転する構成であってもよい。これによっても実施形態と同様、距離測定部30の投光部32が回転体の回転数に対応した所定のパルスで光線を照射する構成とすることができる。
【0065】
さらに、距離測定部30の照射する光線は、照射対象に点光線を照射するもの、あるいは、ライン光線を照射するもののいずれであってもよい。なお、測定結果としての外周面形状カーブを滑らかなものとするためには、ライン光線を照射するものであることが好ましい。
【0066】
また、本実施形態においては、筐体10の延出板部12が該筐体10の軸線O内側のみにいたち形成されているが、これに限定されず、例えば軸線O方向外側にも延出板部12が形成されていてもよい。この場合、軸線O方向他方側の延出板部にも、位置決め手段20のマグネット21を設けて、車輪1に対して固定可能な構成としてもよい。これによって、より強固に装置本体80を車輪1に対して固定することができる。
【0067】
さらに、軸線O方向外側の延出板部における軸線O方向内側を向く面にも第二光吸収材62を設けてもよい。これによって、当該延出板部によって乱反射光が距離測定部30に反射されてしまうことを防止することができる。
【0068】
また、位置決め手段20においては、マグネット21,21によって車輪1の端面4に固着される構成としたが、当該マグネット21,21が車輪1の他の箇所、例えば、外周面2等に固着される構成としてもよい。また、マグネット21,21は必ずしも一対に限られず、複数であってもよいし、もちろん単一であってもよい。
【0069】
さらに、位置決め手段20は、マグネット21,21に代えて例えばベルトや治具等を介して車輪1に対して筐体10を固定する構成であってもよい。
【0070】
また、実施形態では、係合突条22aが着脱部材22に設けられている構成としたが、該係合突条22aが筐体10に直接的に設けられている構成であってもよい。また、係合突条22aに代えて、例えば、車輪溝6に嵌り込む複数の突起部を車輪1に対して筐体10を位置決めするための係合部としてもよい。
【0071】
さらに、実施形態では、基部として筐体10を採用した例について説明したが、基部の形状は必ずしも筐体10に限定されることはなく、位置決め手段20によって位置決めされるとともに、距離測定部30が取り付け可能な構造ならば、他の形状の部材を基部として採用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 車輪
2 外周面
2a フランジ
2b 踏面
4 端面
5 輪軸
6 車輪溝
10 筐体
11a 側板
11b 側板
11c 側板
11d 側板
12 延出板部
13 天板
13a スリット
20 位置決め手段
21 マグネット
22 着脱部材
22a 係合突条(係合部)
23 マグネット
30 距離測定部
31 測定部本体
32 投光部
33 受光部
34 測定開始ボタン
35 コネクタ
40 スライド手段
41 レール部
42 支持部
43 ガイド部
44 操作摘み
50 ラックピニオン機構
51 ラック
52 ピニオン
60 乱反射光吸収手段
61 第一光吸収材
61a 連通路
62 第二光吸収材
80 装置本体
90 表示装置
91 表示画面
92 ケーブル
100 車輪形状測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪におけるフランジ及び踏面を含む外周面の形状を測定する車輪形状測定装置であって、
前記車輪の径方向外側に配される基部と、
該基部に取り付けられて、前記車輪の径方向外側から該車輪の外周面に向かって光線を照射し、その反射光によって該外周面までの距離を検出する距離測定部と、
前記基部を前記車輪に対して位置決めして固定する位置決め手段と、
前記距離測定部を前記基部に対して前記車輪の軸線方向にスライド移動可能とさせるスライド手段と、
前記外周面における前記光線の反射にて生じる乱反射光を吸収する乱反射光吸収手段とを備えることを特徴とする車輪形状測定装置。
【請求項2】
前記乱反射光吸収手段は、
前記距離測定部に設けられた前記反射光を受光する受光部における前記車輪の径方向内側において、該反射光の光路を取り囲むように設けられた第一光吸収材を有することを特徴とする請求項1に記載の車輪形状測定装置。
【請求項3】
前記乱反射光吸収手段は、
前記第一光吸収材に加えて、
前記第一光吸収材よりも前記車輪の径方向内側において、前記反射光の光路における前記軸線方向の少なくとも一方側に設けられた第二光吸収材を有することを特徴とする請求項2に記載の車輪形状測定装置。
【請求項4】
前記基部に設けられ、前記軸線方向に延在するラックと、
前記距離測定部に設けられ、前記距離測定部のスライド移動に伴って前記ラックとの噛み合いにより回転するピニオンとをさらに備え、
前記距離測定部は、前記ピニオンの回転に伴って、該ピニオンの回転数に対応して予め定められたパルス数で、前記光線をパルス的に照射することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車輪形状測定装置。
【請求項5】
前記位置決め手段は、前記基部にそれぞれ設けられた、
前記車輪の端面に標準形成された車輪溝に係合する係合部と、
前記車輪に固着可能なマグネットとを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車輪形状測定装置。
【請求項6】
前記位置決め手段が、前記基部の定位置に着脱可能とされた着脱部材をさらに有し、前記基部に代えて該着脱部材に前記係合部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の車輪形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−18060(P2012−18060A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155055(P2010−155055)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】