説明

金属リングの側縁検査方法

【課題】画像の形状から不良の金属リングを確実に判別できる側縁検査方法を提供する。
【解決手段】金属リング7の側縁を照明手段3により照明して撮像手段4により撮像する。撮像された画像23を2値化する。2値化された画像23aに検査対象部26を設定する。検査対象部26における金属リング7の接線方向をX軸、X軸に直交する方向をY軸として、明部像25のY軸方向の長さの平均値hと、明部像25のY軸方向の全長Hに対するX軸方向の全長Wの比として縦横比rとを算出し、この縦横比rに対する平均値hが所定の基準値S以上であれば金属リング7が基準外であると判定する。平均値hは、検査対象部26内の明部像25の面積を求め、この面積を検査対象部26のX軸方向の全長Wで除することにより算出する。基準値Sは、前記縦横比の増加に伴って、段階的に増加するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用無段変速機(CVT)等のベルトに使用される無端状の金属リングについて、その側縁に生じた擦り痕や打痕等を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の無段変速機の動力伝達のために、複数の金属リングを積層して積層リングを形成し、該積層リングを所定形状のエレメントに組み付けて保持した無段変速機用ベルトが用いられている。前記金属リングは、製造工程や搬送工程、積層工程などでその側縁に擦り痕や打痕等が生じることがあるが、基準外の擦り痕や打痕があるものは使用することができない。
【0003】
そこで、前記金属リングの側縁を検査するために、金属リングの側縁に光を当ててその側縁をカメラで撮像し、その画像によって金属リングの擦り痕や打痕等を検出する検査装置が提案されている。前記検査装置は、カメラで撮像された画像の形状が金属リング側縁の断面形状によって異なることを利用し、金属リングの擦り痕や打痕等の判断を行っている(特許文献1参照)。ところが、金属リングの側縁に対する光の当て方によっては、前記金属リングの擦り痕や打痕等を検出できる範囲が異なり、また検出される擦り痕や打痕等の種類も異なってくる。
【0004】
例えば、金属リングの側縁の上方に、該金属リングの側縁に対して所定の俯角で設けられた1対のスポット照明により、金属リングの周方向に沿って撮像位置の両側から照明し、その側縁をカメラで撮像することが考えられる。前記のようにして照明すると、比較的浅い凹部等であっても検出することができる。
【0005】
前記比較的浅い凹部としては、前記金属リングをバレル研磨する際に該金属リングとメディアとの接触により生じる小さな凹凸の連続からなるメディア打痕と、該金属リング同士の接触により生じる擦り痕とがある。前記擦り痕とメディア打痕と擦り痕とでは、メディア打痕の方が深く、金属リングを基準外とする必要があるが、擦り痕は非常に浅い凹部であって、金属リングを基準外とするには及ばない。
【0006】
しかしながら、カメラで撮像された画像の形状を解析する際に、前記メディア打痕と擦り痕とでは画像の形状が酷似しており、画像の形状によって金属リングが基準外となるかどうかを判定することが難しいという不都合がある。
【特許文献1】特開2004−77425号公報(明細書0012,0016、図3,4,5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記不都合を解消するために、画像の形状から基準外の金属リングを確実に判別することができる側縁検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、無端状に形成された金属リングの側縁を検査する方法であって、前記金属リングの側縁を照明手段により照明した状態で撮像手段により撮像する撮像工程と、撮像された画像を2値化する2値化工程と、2値化された画像に検査対象部を設定する設定工程と、前記検査対象部における金属リングの接線方向をX軸、X軸に直交する方向をY軸として、前記明部像のY軸方向の長さの平均値と、前記明部像のY軸方向の全長に対するX軸方向の全長の比として縦横比とを算出し、この縦横比に対する前記平均値が所定の基準値以上であれば前記金属リングが基準外であると判定する判定工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の方法では、まず、前記金属リングの側縁を前記照明手段により照明し、このとき前記撮像手段により撮像された画像を2値化処理する。次に、2値化処理された画像に検査対象部を設定する。
【0010】
このとき、前記金属リングのバレル研磨の際に該金属リングとメディアとの接触により生じる小さな凹凸の連続からなるメディア打痕と、該金属リング同士の接触により生じる擦り痕とは、前記画像の形状が酷似しているため、形状のみからの判別が難しい。
【0011】
そこで本発明の方法では、次に、前記検査対象部内の明部像における金属リングの接線方向をX軸、X軸に直交する方向をY軸として、前記明部像のY軸方向の長さの平均値と、前記明部像のY軸方向の全長に対するX軸方向の全長の比としての縦横比(明部像のX軸方向の全長/明部像のY軸方向の全長)とを算出する。そして、前記縦横比に対する前記平均値が、所定の基準値以上であれば前記金属リングが基準外であると判定する。
【0012】
前記金属リングが基準外となるかどうかを判定する方法として、前記明部像のY軸方向の長さの平均値のみを用い、前記平均値が所定の閾値以上であれば基準外とすることも考えられるが、このようにすると、前記擦り痕のうち前記明部像のY軸方向の長さの大きいものを有する金属リングも基準外とされるおそれがある。一方、前記縦横比のみを用い、前記縦横比が所定の閾値以上であれば基準外とすることも考えられるが、このようにすると、X軸方向に長いメディア打痕を有する金属リングが基準外として検出されないおそれがある。
【0013】
これに対して、上述のように、前記縦横比に対する前記平均値が、所定の基準値以上であるときに前記金属リングが基準外であると判定することにより、前記メディア打痕のある金属リングを確実に基準外として検出することができる。
【0014】
前記検査対象部内の明部像のY軸方向の長さの平均値は、例えば、前記検査対象部内の明部像の面積を求め、この面積を前記検査対象部のX軸方向の全長で除することにより算出することができる。
【0015】
また、前記基準値は、前記擦り痕を有する前記金属リングを基準外と判定することを低減するために、前記縦横比の増加に伴って、段階的に増加するように設定されていることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の側縁検査方法の実施形態の一例について、図1乃至図7を参照して説明する。図1は本実施形態の検査方法に用いる検査装置の構成を示すシステム構成図、図2は図1に示す画像処理装置と回転テーブル制御装置との機能的構成を示すブロック図、図3は積層リングの説明的断面図である。また、図4は本実施形態の検査方法で得られた画像を示す説明図、図5乃至図6は本実施形態の検査方法で得られた2値化画像を示す説明図、図7は本実施形態の検査方法による検査結果を示すグラフである。
【0017】
本実施形態の検査方法に用いる検査装置1は、図1に示すように、回転テーブル2と、回転テーブル2の上方に設けられた照明装置3と、回転テーブル2及び照明装置3の上方に設けられたカメラ4と、カメラ4によって撮影された画像の処理を行う画像処理装置5と、回転テーブル2の回転を制御する回転テーブル制御装置6とを備えている。
【0018】
回転テーブル2は、複数の金属リング7が積層された積層リング7aを積層状態で保持して当該積層リング7aを円周方向に回転させるものである。回転テーブル2には、積層リング7aの内周面に当接して積層リング7aを円形の状態で保持する保持部(図示せず)が設けられている。また、回転テーブル2の側方には、積層リング7aにメディア打痕等が検出された場合、メディア打痕等がある箇所にマーキングを行うマーキング装置8が設けられている。このマーキング装置8は、積層リング7aに向けて進退自在のマーカー8aを有している。
【0019】
照明装置3は、2個のスポット照明9と、スポット照明9に装着された集光レンズ10と、スポット照明9を角度調節自在に固定する固定板11と、スポット照明9に光を送る光ファイバ12とを有しており、光ファイバ12は光源13に接続されている。照明装置3は、積層リング7aの撮像位置Pに対して積層リング7aの周方向両側から所定の角度(例えば、積層リング7aの側縁が形成する面に対して40°の俯角)で照明を行うようになっている。カメラ4は、一般に用いられているCMOSカメラであり、積層リング7aの軸方向と平行な方向に設けられ、ケーブル14によって画像処理装置5に接続されている。
【0020】
画像処理装置5は、図2に示すように、機能的構成として、画像記憶手段15、2値化手段16、選択手段17、検査手段18、判定手段19、結果表示手段20及び位置通知手段21とを備えている。また、画像記憶手段15はカメラ4に接続され、結果表示手段20は画像処理装置5に内蔵されたモニタ22に接続され、位置通知手段21は回転テーブル制御装置6に接続されている。
【0021】
回転テーブル制御装置6は、マーキング制御手段6aを内蔵している。マーキング制御手段6aはマーキング装置8に接続され、位置通知手段21から通知される基準外のメディア打痕の位置に関する信号を基にマーキング装置8によって積層リング7aにマーキングを行う。
【0022】
次に、本実施形態の検査方法について説明する。本実施形態の検査方法は、撮像工程、2値化工程、選択工程、設定工程、検査工程及び判定工程の各工程を有している。また、本実施形態においては、単層の金属リング7ではなく、所定の標準周長を備え、相互に少しずつ周長の異なる複数枚の金属リング7が相互に積層された積層リング7aについて検査を行う場合について説明する。
【0023】
まず、撮像工程としてカメラ4による撮像が行われる。積層リング7aは、図3に示すように、複数枚(本実施形態では12枚)の金属リング7を積層したものである。各金属リング7は、前述のように所定の標準周長を備え、相互に少しずつ周長が異なっているので、それぞれ隣り合う金属リング7と僅かな隙間を存して積層されている。また、単層の金属リング7の側縁は、図3に示すように角部が面取りされた略円弧状となっている。
【0024】
このような積層リング7aは、前工程で各金属リング7が積層された後、図示しない移送装置により回転テーブル2上に移送され、回転テーブル2の保持部により円形に保持されている。このとき、回転テーブル2は回転テーブル制御装置6によって所定の速度で回転しており、回転テーブル2と共に回転している積層リング7aの撮像位置Pをカメラ4によって連続的に撮像する。前記撮像は、例えば標準周長615mmの金属リング7が複数枚積層された積層リング7aの場合、積層リング7aの周長の6mmを1画像とし、各画像が1mmのラップ部を持つようにして、全周を123の分割画像とするようにして行う。
【0025】
前記撮像は、積層リング7aの撮像位置Pが、照明装置3によって照明されている状態で行う。前記照明は、積層リング7aの周方向(本実施形態においては撮像位置Pにおける積層リング7aの接線方向)から撮像位置Pを挟む両側に配置されたスポット照明9により行われる。前記撮像により、例えば、図4に示すような画像23が得られる。
【0026】
金属リング7は、前述のようにその側縁の角部が面取りされて断面視で略円弧状となっているため、前記照明により撮像すると、画像23のように、各金属リング7の厚さ方向の中心付近は反射によってカメラ4まで到達する光の量が多いため明るくなり、面取りされた部分は反射角度が大きくなって反射光がカメラ4に到達しないため暗くなる。また、各金属リング7にメディア打痕24a、擦り痕24b等の凹部がある場合、該凹部も反射によってカメラ4まで到達する光の量が多いため明るくなる。
【0027】
尚、前記スポット照明9は、集光レンズ10を装着することにより、一定方向の光軸を得ることができるため、金属リング側縁の必要な部分だけを照明することができ、傷だけを光らせることができる。また、2つのスポット照明9を用いることにより、前記略円弧状の断面を備える金属リング7の頂部のみならず、該頂部の側方まで照明することができ、検査範囲を拡げることができる。
【0028】
このようにしてカメラ4により撮像された画像23は、ケーブル14を介して順次画像処理装置5に送られ、画像記憶手段15に記憶される。
【0029】
次に、2値化工程として、画像記憶手段15に記憶されている画像23が、2値化手段16により所定の閾値を用いて2値化される。この結果、前記2値化工程で得られた画像の一部として、例えば、図5に示すような画像23aが得られる。画像23aは、前記閾値を適切に設定することにより、メディア打痕24a、擦り痕24bのみが明部像25となり、他の部分は暗部像となる。尚、前記暗部像は黒となるが、添付の図面では便宜上、前記暗部像を黒ではなく網掛けで表している。また、2値化工程においては、得られた2値化画像のそれぞれにラベリング処理を行う。
【0030】
次に、選択工程として明部像25の選択が行われる。この選択工程においては、選択手段17が2値化工程で2値化処理及びラベリング処理が行われた画像から、明部像25を検査画像として選択する。本実施形態では、画像23aの2つの明部像25がそれぞれ検査画像として選択される。
【0031】
次に、設定工程として、画像23aの2つの明部像25がそれぞれ、検査手段18により図6に示す検査対象部26に設定される。尚、図6では例としてメディア打痕24aに係る明部像25を示している。検査対象部26は、明部像25が内接する長方形となっている。
【0032】
次に、検査工程として、検査手段18により、検査対象部26に対し金属リング7の周方向(接線方向)をX軸とし、X軸と直交する金属リング7の径方向をY軸として、検査対象部26における明部像25のX軸方向の全長Wと、Y軸方向の全長Hとが検出される。次に、検査手段18により、検査対象部26における明部像25の面積が算出され、該面積を明部像25のX軸方向の全長Wで除することにより、検査対象部26における明部像25のY軸方向の長さの平均値hが算出される。
【0033】
次に、検査手段18により、明部像25のY軸方向の全長Hに対するX軸方向の全長Wの比としての縦横比r(r=W/H)が算出される。
【0034】
次に、判定工程として、判定手段19により、検査対象部26における明部像25のY軸方向の長さの平均値hが縦横比rの値によって定まる基準値と比較される。そして、平均値hが前記基準値よりも大きいときには、図6に示す検査対象部26における明部像25はメディア打痕であると判定され、当該積層リング7aは基準外とされる。前記基準値は、例えば、図7にラインSで示されるように、前記縦横比の増加に伴って、段階的に増加するように設定されている。
【0035】
この判定工程において、積層リング7aを基準外とするメディア打痕24aが発見されると、結果表示手段20からこのようなメディア打痕24aがある旨が送信されてモニタ22に表示される。また、判定手段19により積層リング7aを基準外とするメディア打痕24aであると判断された場合は、位置通知手段21から回転テーブル制御装置6に該メディア打痕24aの位置に関する信号が送られる。回転テーブル制御装置6では、位置通知手段21からの信号により回転テーブル2を回転させて積層リング7aのメディア打痕等がある箇所をマーキング装置8の位置まで移動させ、マーキング制御手段6aによりマーカー8aを積層リング7aに向けて突出させてマーキングを行う。尚、本実施形態では、各金属リング7毎にはマーキングは行わず、メディア打痕24aが検出された積層リング7aの外周面にマーキングを行っている。
【0036】
そして、本実施形態の検査方法により側縁が検査された積層リング7aは、該積層リング7aを基準外とするメディア打痕24aがなければ組み付け工程等の次の工程に払い出される。一方、基準外と判定された積層リング7aは、再度検査員による検査に供される。
【0037】
次に、本実施形態の側縁検査方法により、積層リング7aを検査した結果を図7に示す。図7から、本実施形態の側縁検査方法によれば、積層リング7aを基準外とするメディア打痕24aは必ず基準値Sより大きくなるので、該メディア打痕24aを有する積層リング7aが組み付け工程等の次の工程に払い出されることを確実に防止することができる。
【0038】
一方、擦り痕24bを有する積層リング7aは、本来は基準外とされるべきではないが、本実施形態の側縁検査方法では、擦り痕24bに係る明部像25のY軸方向の長さの平均値hが基準値Sより大きくなることがある。そこで、このような積層リング7aは、前記検査員による再検査によって基準内と判断されることにより、回収され、改めて組み付け工程等の次の工程に送られる。
【0039】
また、検査員による検査によっても基準外と判断された場合は、基準外である金属リング7を取り除く等の作業が行われる。
【0040】
尚、前記実施形態においては、金属リング7が積層された積層リング7aについて検査を行っているが、回転テーブル2に単層の金属リング7をセットすることにより、単層の金属リング7の検査も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の検査方法に用いる検査装置の構成を示すシステム構成図。
【図2】図1に示す画像処理装置と回転テーブル制御装置との機能的構成を示すブロック図。
【図3】積層リングの説明的断面図。
【図4】本発明の検査方法で得られた画像を示す説明図。
【図5】本発明の検査方法で得られた2値化画像を示す説明図。
【図6】本発明の検査方法で得られた2値化画像を示す説明図。
【図7】本発明の検査方法による検査結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0042】
3…照明手段、 4…撮像手段(カメラ)、 7…金属リング、 25…明部像、 26…検査対象部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に形成された金属リングの側縁を検査する方法であって、
前記金属リングの側縁を照明手段により照明した状態で撮像手段により撮像する撮像工程と、
撮像された画像を2値化する2値化工程と、
2値化された画像に検査対象部を設定する設定工程と、
前記検査対象部における金属リングの接線方向をX軸、X軸に直交する方向をY軸として、前記明部像のY軸方向の長さの平均値と、前記明部像のY軸方向の全長に対するX軸方向の全長の比として縦横比とを算出し、この縦横比に対する前記平均値が所定の基準値以上であれば前記金属リングが基準外であると判定する判定工程とを有することを特徴とする金属リングの側縁検査方法。
【請求項2】
前記検査対象部内の明部像のY軸方向の長さの平均値は、前記検査対象部内の明部像の面積を求め、この面積を前記検査対象部のX軸方向の全長で除することにより算出することを特徴とする請求項1記載の金属リングの側縁検査方法。
【請求項3】
前記基準値は、前記縦横比の増加に伴って、段階的に増加するように設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属リングの側縁検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−47072(P2006−47072A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227466(P2004−227466)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】