説明

電動車両

【課題】複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に迅速に移行する機会を増やしつつ、オフ異常が発生していないインバータを判別する。
【解決手段】2つのモータが駆動されて走行している最中に、バッテリの充放電電流Ibが許容電流範囲外になって2つのインバータのうちのいずれかで1相オープン故障が発生したと判定されたときに(S100,S110)、第2モータのみが駆動されて走行する電動走行が行なわれるようにインバータを制御すると共に第1モータを駆動する方のインバータのゲート遮断を行なう(S120)。そして、電動走行が開始されてから所定時間tb1が経過するまでに充放電電流Ibが許容電流範囲外になったか否かによって、いずれのインバータに1相オープン故障が発生しているかを判定する(S130〜S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に関し、詳しくは、三相交流により駆動されると共に走行時に要する動力を出力可能な複数のモータと、複数のスイッチング素子を有し複数のモータをそれぞれ駆動する複数のインバータと、複数のインバータを介して複数のモータと電力をやりとり可能な二次電池と、を備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動車両としては、走行用の動力を出力するエンジンの運転に際して駆動される第1のモータ(MG1)と、走行用の動力を出力する第2のモータ(MG2)と、この2つのモータをそれぞれ駆動する2つのインバータと、2つのインバータを介して2つのモータと電力をやりとり可能な直流電源と、を備えるハイブリッド自動車が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、2つのモータが駆動されているときに、電流センサによる直流電源の直流電流の検出値とモータ駆動システム全体での電力収支に基づいて演算した直流電流の推定値とを比較し、両者の偏差が閾値以上のときには、直流電流の変動周波数を演算し、演算した直流電流の変動周波数と同期している回転速度のモータを駆動するインバータに1相オープン故障が発生していると検出する。そして、1相オープン故障が発生していると検出された方のインバータをゲート遮断し、他方のインバータに対応するモータを用いた異常時運転(退避運転)を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−178556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電動車両では、1相オープン故障が発生しているインバータが特定されるまでは、2つのモータが駆動されて走行することになるため、1相オープン故障が発生している方のインバータをゲート遮断して他方のインバータにより駆動されるモータのみを用いて退避走行する状態に移行するまでに、ある程度の時間が必要となってしまう。この場合、1相オープン故障が発生しているインバータによりモータが駆動されて走行する時間が長くなると、直流電源の直流電流が許容範囲を超えて変動し、直流電源が過大な電流により充放電されて故障するなどの不都合も生じ得る。
【0005】
本発明の電動車両は、複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に迅速に移行する機会を増やしつつ、オフ異常が発生していないインバータを判別することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動車両は、
三相交流により駆動されると共に走行時に要する動力を出力可能な複数のモータと、複数のスイッチング素子を有し前記複数のモータをそれぞれ駆動する複数のインバータと、前記複数のインバータを介して前記複数のモータと電力をやりとり可能な二次電池と、を備える電動車両であって、
前記二次電池を充放電する電流である電池電流を検出する電池電流検出手段と、
前記複数のモータの各相に流れる相電流を検出する相電流検出手段と、
前記複数のモータが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流に基づいて前記複数のインバータのうちのいずれかで前記複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生したと判定されたとき、前記複数のモータのうちの一部のモータである所定モータのみが駆動されて走行するように前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータを制御すると共に前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータのゲート遮断を行ない、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流または前記検出された相電流に基づいて前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生しているか否かを判定する判定制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の電動車両では、複数のモータが駆動されて走行している最中に、二次電池を充放電する電流である電池電流に基づいて複数のインバータのうちのいずれかで複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生したと判定されたときに、複数のモータのうちの一部のモータである所定モータのみが駆動されて走行するように複数のインバータのうち所定モータを駆動するインバータを制御すると共に所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータのゲート遮断を行なう。即ち、こうしてオフ異常が発生したと判定されたときには、複数のインバータのうちのいずれでオフ異常が発生したかを判別することはできないが、まず、所定モータのみが駆動されて走行するように、複数のインバータのうち所定モータを駆動するインバータを制御すると共に所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータのゲート遮断を行なうのである。これにより、ゲート遮断を行なったインバータにオフ異常が発生している場合、オフ異常が発生していないインバータにより駆動されるモータ(この場合、所定モータ)を用いて走行する状態とすることができる。そして、所定モータのみが駆動されて走行している最中に、電池電流または複数のモータの各相に流れる相電流に基づいて所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生しているか否かを判定する。これにより、複数のインバータのうち、所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生しているか、所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータ即ちゲート遮断を行なったインバータにオフ異常が発生しているかを判別することができる。これらの結果、オフ異常が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に迅速に移行する機会を増やしつつ、オフ異常が発生していないインバータを判別することができる。
【0009】
こうした本発明の電動車両において、前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行するように制御を開始してから予め設定された所定時間が経過するまでに、前記検出された電池電流が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された許容電流範囲外になったときには前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定し、前記検出された電池電流が前記許容電流範囲外にならないときには前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、複数のインバータのうち、所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生しているか、所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータ即ちゲート遮断を行なったインバータにオフ異常が発生しているかをより確実に判別することができる。
【0010】
また、本発明の電動車両において、前記複数のインバータは、各々が駆動するモータについて前記検出された相電流が該モータから出力すべきトルク指令に応じた値になるように比例項と積分項とを用いたフィードバック制御により得られる指令値によって制御可能であり、前記判定制御手段は、前記所定モータを駆動するインバータが前記指令値によって制御され該所定モータのみが駆動されて走行するように制御を開始してから予め設定された所定時間が経過するまでに、前記フィードバック制御における前記指令値の絶対値が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された許容値範囲外になったときには前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定し、前記指令値の絶対値が前記許容値範囲外にならないときには前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、複数のインバータのうち、所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生しているか、所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータ即ちゲート遮断を行なったインバータにオフ異常が発生しているかをより確実に判別することができる。この場合、前記所定モータは、車速が高いほど回転数が大きくなるモータであり、前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中は、車速が予め設定された上限車速以下となる範囲で前記所定モータのみが駆動されて走行するよう前記複数のインバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、所定モータに発生する逆起電力の大きさを抑えることができ、所定モータを駆動するインバータのフィードバック制御の指令値の絶対値が所定モータに発生する逆起電力によって許容値範囲外となるのを抑制することができる。この結果、所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生していると誤って判定するのを抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の電動車両において、前記判定制御手段は、前記複数のモータが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された第2の許容電流範囲外になったときに、前記複数のインバータのうちのいずれかで前記オフ異常が発生したと判定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、複数のインバータのうちのいずれかでオフ異常が発生したことをより確実に判定することができる。
【0012】
あるいは、本発明の電動車両において、前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中に、前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定したときには前記複数のモータのうちの前記所定モータとは異なるモータのみが駆動されて走行するよう前記複数のインバータを制御し、前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定したときには前記所定モータのみが駆動されて走行することを継続するよう前記複数のインバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、オフ異常が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に移行する機会を増やすことができる。
【0013】
また、本発明の電動車両において、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸と前記複数のモータの1つである第1モータの回転軸と車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、を備え、前記複数のモータの残り1つである第2モータは、前記駆動軸に接続されている、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータMG1,MG2を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】第1実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される故障判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】第1実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される電動走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】電動走行によって退避走行しているときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図7】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される直行走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】直行走行によって退避走行しているときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図9】第2実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される故障判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図10】第2実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される電動走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図11】負荷率設定用マップの一例を示す説明図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図13】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図14】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータMG1,MG2を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図1に示すように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、充放電可能なバッテリ50と、バッテリ50からの電力を昇圧してモータMG1,MG2に供給する昇圧コンバータ55と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0017】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0018】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。したがって、モータMG1はエンジン22から走行用の動力を駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する際に必要な動力を出力可能なモータであり、モータMG2は走行用の動力を駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力可能なモータであるため、モータMG1,MG2は走行時に要する動力を出力可能なモータということができる。
【0019】
モータMG1およびモータMG2は、図2に示すように、いずれも外表面に永久磁石が貼り付けられたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ41,42は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26とにより構成されている。トランジスタT11〜T16,T21〜T26は、それぞれインバータ41,42が電力ライン54として共用する正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、電力ライン54の正極母線と負極母線との間に電圧が作用している状態で対をなすトランジスタT11〜T16,T21〜T26のオン時間の割合を制御することにより三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。また、インバータ41,42は、電力ライン54を共用しているから、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータに供給することができる。電力ライン54の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ57が接続されている。
【0020】
昇圧コンバータ55は、図2に示すように、バッテリ50に接続された電力ライン56とインバータ41,42が共用する電力ライン54とに接続されており、2つのスイッチング素子としてのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとにより構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ電力ライン54の正極母線と負極母線とに接続されており、リアクトルLは、トランジスタT31,T32の接続点と電力ライン56の正極母線とに接続されている。また、電力ライン56の正極母線と負極母線とには、バッテリ50の正極端子と負極端子とがそれぞれ接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することによりバッテリ50の直流電力をその電圧を昇圧してインバータ41,42に供給したり電力ライン54に作用している直流電圧を降圧してバッテリ50を充電したりすることができる。また、電力ライン56の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ58が接続されている。以下、昇圧コンバータ55より電力ライン54側を高電圧系といい、昇圧コンバータ55よりバッテリ50側を低電圧系という。
【0021】
モータMG1,MG2と昇圧コンバータ55は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2やモータMG1,MG2の三相コイルのV相,W相に流れる相電流を検出する電流センサ45V,45W,46V,46Wからの相電流Iv1,Iw1,Iv2,Iw2,電力ライン54に取り付けられたコンデンサ57の端子間電圧を検出する電圧センサ57からの高電圧系の電圧VH,電力ライン56に取り付けられたコンデンサ58の端子間電圧を検出する電圧センサ58からの低電圧系の電圧VL,昇圧コンバー55のトランジスタT31,T32の接続点とリアクトルLとに接続された電流センサ59からのリアクトル電流ILなどが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜T26へのスイッチング信号や昇圧コンバータ55のスイッチング素子としてのトランジスタT31,T32へのスイッチング信号などが出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の電気角θe1,θe2やモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0022】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池として構成されており、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vb,バッテリ50の正極端子に接続された電力ライン56の正極母線に取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50に蓄えられている蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0023】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0024】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モード、モータMG2の駆動を停止した状態でエンジン22が所定回転数で運転されるようエンジン22を運転制御すると共にモータMG1からのトルクを動力分配統合機構30を介してエンジン22で受け止めることにより要求トルクがリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1を駆動制御する直行運転モードなどがある。ここで、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであるから、両者を合わせてエンジン運転モードという。また、エンジン運転モードでのモータMG1,MG2の駆動制御やモータ運転モードでのモータMG2の駆動制御,直行運転モードでのモータMG1の駆動制御は、バッテリ50の過大な電流による充放電が行なわれないようにバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で行なわれる。
【0025】
また、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42の制御は、実施例では、パルス幅変調(PWM)制御方式によって行なわれる。PWM制御方式は、正弦波電圧指令信号と搬送波であるキャリア信号(三角波信号)とを用いて生成したパルス幅変調(PWM)信号に基づくスイッチング制御によって正弦波状の基本波成分をもった出力電圧を得る方式である。例えばモータMG2を駆動するためのインバータ42の制御は、モータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu2,Iv2,Iw2の総和を値0として回転位置検出センサ44からの回転位置θm2から得られるモータ22の電気角θe2を用いて電流センサ46V,46Wからの相電流Iv2,Iw2をd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)し、モータMG2から出力すべきトルク指令Tm2*とd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*との関係が予め実験などにより定められたマップを用いてトルク指令Tm2*に基づいてd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*を設定し、設定した目標電流Id*,Iq*に対してd軸,q軸の電流Id,Iqを用いたフィードバック制御を施して次式(1)および式(2)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定し、電気角θe2を用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ42のスイッチング素子をスイッチングするためのPWM信号として用いてインバータ42をスイッチングすることにより行なわれる。式(1)および式(2)中、比例項に相当する右辺第1項の「Kp1」および「Kp2」は比例係数であり、積分項に相当する右辺第2項の「Ki1」および「Ki2」は積分係数である。
【0026】
Vd*=Kp1(Id*-Id)+Ki1Σ(Id*-Id) (1)
Vq*=Kp2(Iq*-Iq)+Ki2Σ(Iq*-Iq) (2)
【0027】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にモータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42の一方に6つのスイッチング素子の1つがオフからオンにできなくなる異常(以下、1相オープン故障という)が発生した際の動作について説明する。図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される故障判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン運転モードでの走行を開始したとき、即ちモータMG1,MG2の両方が駆動されての走行を開始したときに実行される。
【0028】
故障判定ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、バッテリ50の正極端子に接続された電流センサ51bからの充放電電流IbをバッテリECU52から通信により入力し(ステップS100)、入力した充放電電流Ibがバッテリ50を充放電する際に許容される許容電流範囲内にあるか否かを判定する処理を実行する(ステップS110)。ここで、許容電流範囲は、実施例では、バッテリ50の入力制限Winを電圧センサ51aからの端子間電圧Vbで除して得られる最小許容電流Ibmin以上で、バッテリ50の出力制限Woutを電圧センサ51aからの端子間電圧Vbで除して得られる最大許容電流Ibmax以下の範囲であるものとした。
【0029】
バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲内のとき、即ち充放電電流Ibが最小許容電流Ibmin以上且つ最大許容電流Ibmax以下のときには、ステップS100の処理に戻る。バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外のときには、1相オープン故障が発生しているのがモータMG1を駆動する方のインバータ41であるかモータMG2を駆動する方のインバータ42であるかは特定できないが、インバータ41,42の一方に1相オープン故障が発生したと判断し、エンジン22の運転停止指令をエンジンECU24に送信し(ステップS115)、モータMG1を駆動する方のインバータ41をゲート遮断した状態で車両の退避走行を行なう運転モードの1つとしてモータ運転モードによる走行(以下、この状態での走行を電動走行という)を開始する(ステップS120)。エンジン22の運転停止指令を受信したエンジンECU24は、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御などの運転制御を停止する。バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外になったときにインバータ41,42の一方に1相オープン故障が発生したと判断するのは、1相オープン故障が発生した相の相電流は半波整流波形を形成するため、高電圧系の電圧VHの変動が生じてバッテリ50の充放電電流Ibが変動することに基づく。ここで、故障判定の説明を一旦中断し、電動走行を行なうための駆動制御について説明する。図4は、電動走行を行なうときにハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される電動走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0030】
電動走行駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG2の回転数Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS200)。ここで、モータMG2の回転数Nm2は、回転位置検出センサ44により検出されたモータMG2の回転子の回転位置θm2に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0031】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS210)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図5に要求トルク設定用マップの一例を示す。
【0032】
続いて、要求トルクTr*を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ることによりモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮トルクTm2tmpを計算すると共に(ステップS230)、バッテリ50の入出力制限Win,WoutをモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm2min,Tm2maxを計算し(ステップS240)、計算した仮トルクTm2tmpを次式(3)によりトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS250)。
【0033】
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tm2max),Tm2min) (3)
【0034】
そして、モータMG1を駆動する方のインバータ41のゲート遮断指令と設定したモータMG2のトルク指令Tm2*とをモータECU40に送信して(ステップS260)、電動走行駆動制御ルーチンを終了する。インバータ41のゲート遮断指令とモータMG2のトルク指令Tm2*とを受信したモータECU40は、インバータ41をゲート遮断した状態としてトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ42のスイッチング素子をスイッチング制御する。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリ50の充放電が行なわれるように制御しながらモータMG2から駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求トルクTr*を出力して走行することができる。電動走行によって退避走行しているときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を図6に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したリングギヤ32の回転数Nrを示す。以上、電動走行を行なうための駆動制御について説明した。図3の故障判定の説明に戻る。
【0035】
モータMG1を駆動する方のインバータ41をゲート遮断して電動走行を開始すると、電流センサ51bからの充放電電流Ibを入力すると共に(ステップS130)、入力したバッテリ50の充放電電流Ibが前述の許容電流範囲内にあるか否か判定し(ステップS140)、バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲内のときには電動走行(電動走行を行なうための駆動制御)を開始してから所定時間tb1が経過したか否かを判定し(ステップS150)、電動走行を開始してから所定時間tb1が経過していないときにはステップS130の処理に戻る。ここで、所定時間tb1は、バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲を超えて変動していない状態を確認するのに必要な時間であり、予め実験などにより定めた時間を用いることができる。また、許容電流範囲は、バッテリ50の入出力制限Win,WoutによってはステップS110の判定処理で用いた許容電流範囲と異なる場合もある。電動走行を開始してからバッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲内の状態で所定時間tb1が経過したときには、電動走行の開始により充放電電流Ibの変動は収まったことからモータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定し(ステップS160)、故障判定ルーチンを終了する。こうして故障判定ルーチンを終了すると、インバータ41をゲート遮断した状態での電動走行が継続されるよう電動走行を行なうための前述の駆動制御が継続して行なわれる。
【0036】
電動走行を開始してから所定時間tb1が経過するまでにバッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外になったときには、電動走行を開始しても充放電電流Ibの変動は収まらないことからモータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定し(ステップS170)、エンジン22を始動し(ステップS175)、モータMG2を駆動する方のインバータ42をゲート遮断した状態で車両の退避走行を行なう運転モードの1つとして直行運転モードによる走行(以下、直行走行という)を開始して(ステップS180)、故障判定ルーチンを終了する。エンジン22の始動は、モータMG1から所定のモータリングトルクが出力されるようにモータMG1のトルク指令Tm1*を設定してモータECU40に送信すると共にエンジン22の回転数Neが所定の点火開始回転数に至ったときにエンジン22の燃料噴射と点火とが開始されるよう制御信号をエンジンECU24に送信することにより行なうことができる。次に、直行走行を行なうための駆動制御について説明する。図7は、直行走行を行なうときにハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される直行走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0037】
直行走行駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1の回転数Nm1,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力し(ステップS300)、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を図5に例示した要求トルク設定用マップを用いて設定し(ステップS310)、エンジン22を運転すべき目標回転数Ne*にアイドル回転数より大きい回転数として予め定められた所定回転数Nesetを設定してエンジンECU24に送信する(ステップS320)。目標回転数Ne*を受信したエンジンECU24は、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにエンジン22のスロットル開度をフィードバック制御によって調整する吸入吸気量制御や燃料噴射制御,点火制御などの運転制御を行なう。
【0038】
続いて、設定した要求トルクTr*に動力分配統合機構30のギヤ比ρと値−1との積を乗じることによりモータMG1から出力すべきトルクの仮の値である仮トルクTm1tmpを計算し(ステップS330)、バッテリ50の入出力制限Win,WoutとモータMG1の回転数Nm1とに基づいてモータMG1から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm1min,Tm1maxを計算し(ステップS340)、計算した仮トルクTm1tmpを次式(4)によりトルク制限Tm1min,Tm1maxで制限してモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS350)。トルク制限Tm1min,Tm1maxの計算は、モータMG1の回転数Nm1が正の値であるときにはバッテリ50の入力制限Winと出力制限WoutとをそれぞれモータMG1の回転数Nm1で割ったものをトルク制限Tm1minとトルク制限Tm1maxとすることにより行なわれ、モータMG1の回転数Nm1が負の値であるときにはバッテリ50の出力制限Woutと入力制限WinとをそれぞれモータMG1の回転数Nm1で割ったものをトルク制限Tm1minとトルク制限Tm1maxとすることにより行なわれる。
【0039】
Tm1*=max(min(Tm1tmp,Tm1max),Tm1min) (4)
【0040】
そして、モータMG2を駆動する方のインバータ42のゲート遮断指令と設定したモータMG1のトルク指令Tm1*とをモータECU40に送信して(ステップS360)、直行走行駆動制御ルーチンを終了する。インバータ42のゲート遮断指令とモータMG1のトルク指令Tm1*とを受信したモータECU40は、インバータ42をゲート遮断した状態としてトルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されるようインバータ41のスイッチング素子をスイッチング制御する。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリ50の充放電が行なわれるように制御しながらモータMG1からのトルクをエンジン22で受け止めることにより駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求トルクTr*を出力して走行することができる。直行走行によって退避走行しているときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を図8に示す。図中、R軸上の太線矢印は、モータMG1から出力されたトルクTm1がリングギヤ軸32aに作用するトルクを示す。なお、モータMG1の仮トルクTm1tmpを計算する前述の式(1)は、この共線図を用いれば容易に導くことができる。
【0041】
以上説明した第1実施例のハイブリッド自動車20によれば、2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中に、バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外になって2つのインバータ41,42のうちのいずれかで1相オープン故障が発生したと判定されたときに、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれるようにインバータ42を制御すると共にモータMG1を駆動する方のインバータ41のゲート遮断を行なうから、ゲート遮断を行なったインバータ41に1相オープン故障が発生している場合、1相オープン故障が発生していないインバータ42により駆動されるモータMG2を用いて退避走行する状態とすることができる。そして、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれている最中に、電動走行が開始されてから所定時間tb1が経過するまでにバッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外になったときにはモータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定し、電動走行が開始されてから所定時間tb1が経過するまでバッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲内であるときにはモータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定する。これにより、1相オープン故障が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に迅速に移行する機会を増やしつつ、1相オープン故障が発生していないインバータを判別することができる。この結果、インバータの1相オープン故障に起因してバッテリ50が過大な電流により充放電されるのを早期に抑制する機会を増やすことができる。さらに、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれている最中に、モータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定したときにはエンジン22の運転を伴ってモータMG1が駆動されて走行する直行走行が行なわれるようインバータ41を制御し、モータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定したときには電動走行を継続するようインバータ42を制御するから、1相オープン故障が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に移行する機会を増やすことができる。
【0042】
第1実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2が駆動されて走行する電動走行が行なわれている最中にバッテリ50の充放電電流Ibと許容電流範囲との比較によってインバータ41,42のうちのいずれに1相オープン故障が発生しているかを特定するものとしたが、この特定については電動走行が行なわれている最中にインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定可能な値として予め実験などにより定められた閾値とバッテリ50の充放電電流Ibの絶対値との比較によって行なうものとしてもよい。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明の第2実施例としてのハイブリッド自動車20Bについて説明する。第2実施例のハイブリッド自動車20Bは、図1を用いて説明した第1実施例のハイブリッド自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第2実施例のハイブリッド自動車20Bのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0044】
第2実施例のハイブリッド自動車20Bでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図3の故障判定ルーチンと図4の電動走行駆動制御ルーチンとに代えて、図9に例示する故障判定ルーチンと図10に例示する電動走行駆動制御ルーチンとを実行する。図9の故障判定ルーチンは、図3の故障判定ルーチンのステップS120〜S150の処理に代えてステップS400〜S430の処理を実行する点を除いて図3の故障判定ルーチンと同一である。また、図10の電動走行駆動制御ルーチンは、図4の電動走行駆動制御ルーチンのステップS250の処理に代えてステップS500〜S520の処理を実行する点を除いて図4の電動走行駆動制御ルーチンと同一である。したがって、これらのルーチンのうち同一の処理については同一のステップ番号を付しその詳細な説明は省略する。
【0045】
故障判定ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、バッテリ50の充放電電流Ibを入力すると共に入力した充放電電流Ibが許容電流範囲外のときにはインバータ41,42の一方に1相オープン故障が発生していると判断してエンジン22の運転を停止し(ステップS100〜S115)、モータMG1を駆動する方のインバータ41をゲート遮断した状態でモータMG2のみが駆動されて走行する電動走行を車速Vが上限車速Vlim以下となる範囲で開始する(ステップS400)。ここで、故障判定の説明を一旦中断し、電動走行を行なうための駆動制御について図10の電動走行駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートを用いて説明する。なお、上限車速Vlimについては後述する。
【0046】
電動走行駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、制御に必要なデータを入力すると共に駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定してモータMG2の仮トルクTm2tmpとトルク制限Tm2min,Tm2maxとを計算し(ステップS200〜S240)、入力したモータMG2の回転数Nm2に基づいてモータMG2の定格トルクTm2ratを設定すると共に入力した車速Vに基づいてモータMG2の負荷率Rtを設定し(ステップS500)、設定した定格トルクTm2ratに負荷率Rtを乗じたものをモータMG2の上限トルクTm2limに設定する(ステップS510)。ここで、モータMG2の定格トルクTm2ratは、モータMG2の回転数Nm2と定格トルクTm2ratとの関係をモータMG2の特性に基づいて予め定めてRAM74に記憶したマップを用いて設定することができる。また、モータMG2の負荷率Rtは、車速Vを上限車速Vlim以下の範囲に制限するためのものであり、車速Vと負荷率Rtとの関係を予め実験などにより定めてRAM74に記憶したマップを用いて設定することができる。図11に負荷率設定用マップの一例を示す。実施例の負荷率Rtは、図示するように、車速Vが上限車速Vlimから所定のマージンα(例えば、時速数kmや時速十数kmなど)を減じた値(Vlim−α)以下のときには値1が設定され、車速Vが値(Vlim−α)より大きいほど値1よりも小さくなる値が設定され、車速Vが上限車速Vlimのときには値0が設定されるものとした。
【0047】
こうしてモータMG2の上限車速Vlimによる上限トルクTm2limを設定すると、計算した仮トルクTm2tmpを次式(5)により上限トルクTm2limおよびトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し(ステップS520)、モータMG1を駆動する方のインバータ41のゲート遮断指令と設定したモータMG2のトルク指令Tm2*とをモータECU40に送信して(ステップS260)、電動走行駆動制御ルーチンを終了する。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリ50の充放電が行なわれるように制御しながらモータMG2から駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求トルクTr*を出力して走行することができる。以上、電動走行を行なうための駆動制御について説明した。図9の故障判定の説明に戻る。
【0048】
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tm2max,Tm2lim),Tm2min) (5)
【0049】
モータMG1を駆動する方のインバータ41をゲート遮断して電動走行を開始すると、モータMG2を駆動する方のインバータ42のPWM制御におけるq軸の電圧指令Vq*をモータECU40から通信により入力し(ステップS410)、入力した電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqref以下の範囲であるか否かを判定し(ステップS420)、電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqref以下のときには電動走行(電動走行を行なうための駆動制御)を開始してから所定時間tb2が経過したか否かを判定し(ステップS430)、電動走行を開始してから所定時間tb2が経過していないときにはステップS410の処理に戻る。インバータ42に1相オープン故障が発生すると、この故障が発生した相の相電流を含む三相の相電流の座標変換により得られるq軸の電流Iqは目標電流Iq*から乖離するために、フィードバック制御により電圧指令Vq*を設定するための前述の式(2)の積分項に相当する値の絶対値が時間経過に応じて大きくなる。したがって、電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqref以下の範囲の状態で所定時間tb2が経過するか否かを判定する処理は、インバータ42に1相オープン故障が発生しているか否かを判定する処理となる。このため、所定時間tb2は、電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqrefを超えない(過大にならない)状態を確認するのに必要な時間として予め実験などにより定めた時間を用いることができる。
【0050】
ここで、電動走行を行なうための駆動制御で用いた上限車速Vlimについて説明する。電動走行に際して駆動されるモータMG2は、その回転数Nm2が高いほど大きな逆起電力を生じるが、この逆起電力はモータMG2の相電圧を変動させる要因となるため、モータMG2の回転数Nm2が高くなるとインバータ42の電圧指令Vq*の絶対値と閾値Vqrefとの比較によるインバータ42に1相オープン故障が発生しているか否かの判定を正しく行なうことができない場合が生じる。こうした場合を回避するため、実施例では、電動走行に際して上限車速Vlimを設けてモータMG2の回転数Nm2が大きくなること即ちモータMG2の逆起電力が大きくなるのを抑制するのである。したがって、上限車速Vlimは、インバータ42の1相オープン故障発生の判定を適正に行なうことができる車速範囲の上限値として予め実験などにより求めたものを用いることができる。
【0051】
そして、電動走行を開始してからインバータ42の電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqref以下の範囲の状態で所定時間tb2が経過したときには、電動走行の開始によっても電圧指令Vq*の絶対値は過大になっていないことからモータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定し(ステップS160)、故障判定ルーチンを終了する。こうして故障判定ルーチンを終了すると、インバータ41をゲート遮断した状態での電動走行が継続されるよう電動走行を行なうための前述の駆動制御(図10参照)が継続して行なわれる。
【0052】
一方、電動走行を開始してから所定時間tb2が経過するまでにインバータ42の電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqrefより大きくなったときには、電動走行を開始しても電圧指令Vq*の絶対値が過大になったことからモータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定すると共にエンジン22の始動を伴ってインバータ42をゲート遮断して直行走行を開始し(ステップS170〜S180)、故障判定ルーチンを終了する。こうして故障判定ルーチンを終了すると、直行走行を行なうための前述の駆動制御(図7参照)が開始される。
【0053】
以上説明した第2実施例のハイブリッド自動車20Bによれば、2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中に、バッテリ50の充放電電流Ibが許容電流範囲外になって2つのインバータ41,42のうちのいずれかで1相オープン故障が発生したと判定されたときに、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれるようにインバータ42を制御すると共にモータMG1を駆動する方のインバータ41のゲート遮断を行なうから、ゲート遮断を行なったインバータ41に1相オープン故障が発生している場合、1相オープン故障が発生していないインバータ42により駆動されるモータMG2を用いて退避走行する状態とすることができる。そして、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれている最中に、電動走行が開始されてから所定時間tb2が経過するまでにインバータ42の電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqrefより大きくなったときにはモータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定し、電動走行が開始されてから所定時間tb2が経過するまでインバータ42の電圧指令Vq*の絶対値が閾値Vqref以下であるときにはモータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定する。これにより、1相オープン故障が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に迅速に移行する機会を増やしつつ、1相オープン故障が発生していないインバータを判別することができる。この結果、インバータの1相オープン故障に起因してバッテリ50が過大な電流により充放電されるのを早期に抑制する機会を増やすことができる。さらに、モータMG2のみが駆動されて走行する電動走行が行なわれている最中に、モータMG2を駆動する方のインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定したときにはエンジン22の運転を伴ってモータMG1が駆動されて走行する直行走行が行なわれるようインバータ41を制御し、モータMG1を駆動する方のインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定したときには電動走行を継続するようインバータ42を制御するから、1相オープン故障が発生していないインバータにより駆動されるモータを用いて走行する状態に移行する機会を増やすことができる。
【0054】
第2実施例のハイブリッド自動車20Bでは、電動走行に際して上限車速Vlimによる上限トルクTmlim以下の範囲内でモータMG2のトルク指令Tm2*を設定するものとしたが、モータMG2がその逆起電力が比較的小さいモータである場合などには、上限車速Vlimによる上限トルクTm2lim以下の範囲内でモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することなく、バッテリ50の入出力制限Win,Woutによるトルク制限Tm2min,Tm2maxの範囲内でトルク指令Tm2*を設定するものとしてもよい。
【0055】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中にバッテリ50の充放電電流Ibと許容電流範囲との比較によって2つのインバータ41,42のうちの一方に1相オープン故障が発生していると判定するものとしたが、この判定については2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中にインバータ41,42のうちの一方に1相オープン故障が発生していると判定可能な値として予め実験などにより定められた閾値とバッテリ50の充放電電流Ibの絶対値との比較によって行なうものとしてもよい。
【0056】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中に2つのインバータ41,42のうちの一方に1相オープン故障が発生していると判定されたときに最初に電動走行を行ない、電動走行が行なわれている最中にインバータ41に1相オープン故障が発生していると判定されたときには電動走行を継続し、電動走行が行なわれている最中にインバータ42に1相オープン故障が発生している判定されたときには電動走行に代えて直行走行を行うものとしたが、2つのモータMG1,MG2が駆動されて走行している最中に2つのインバータ41,42のうちの一方に1相オープン故障が発生していると判定されたときに最初に直行走行を行ない、直行走行が行なわれている最中にインバータ42に1相オープン故障が発生していると判定されたときには直行走行を継続し、直行走行が行なわれている最中にインバータ41に1相オープン故障が発生している判定されたときには直行走行に代えて電動走行を行うものとしてもよい。
【0057】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、バッテリ50の充放電電流Ibと許容電流範囲との比較によってインバータ41,42の1相オープン故障について判定するものとしたが、電流センサ51bにより検出されたバッテリ50の充放電電流Ibに代えて電流センサ59により検出されたリアクトル電流ILと許容電流範囲との比較によってインバータ41,42の1相オープン故障について判定するものとしてもよい。
【0058】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、モータMG2からの動力を駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図12の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸が接続された車軸(駆動輪63a,63bに接続された車軸)とは異なる車軸(図12における車輪64a,64bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0059】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、バッテリ50と電力をやりとりする2つのモータMG1,MG2を備えるものとしたが、バッテリ50と電力をやりとりする3つ以上のモータを備えるものとしてもよい。例えば、図13の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22からの動力をモータMG1の駆動を伴って動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すると共にモータMG2からの動力をリングギヤ軸32aに出力する構成に加えて、エンジン22やモータMG2からの動力が出力される駆動軸が接続された車軸(駆動輪63a,63bに接続された車軸)とは異なる車軸(図13における車輪64a,64bに接続された車軸)に動力を出力するモータMG3を備えるものとしてもよい。
【0060】
第1実施例,第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、エンジン22からの動力をモータMG1の駆動を伴って動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すると共にモータMG2からの動力をリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図14の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪63a,63bに接続された第1駆動軸に変速機330を介してモータMG1を取り付けてモータMG1の回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成として、エンジン22からの動力をモータMG1の回転軸と変速機330とを介して第1駆動軸に出力すると共にモータMG1からの動力を変速機330を介して第1駆動軸に出力すると共に、この構成に加えて駆動輪63a,63bに接続された第1駆動軸とは異なる第2駆動軸(図14における車輪64a,64bに接続された駆動軸)にモータMG2を接続してモータMG2からの動力を第2駆動軸に出力するものとしてもよい。
【0061】
第1実施例,第2実施例では、ハイブリッド自動車20,20Bに本発明を適用して説明したが、内燃機関としてのエンジンを備えずに、走行に要する動力を出力可能な2つ以上のモータを備える電気自動車に適用するものとしても構わない。
【0062】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG1,MG2が「モータ」に相当し、インバータ41,42が「インバータ」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、バッテリ50の正極端子に接続された電流センサ51bが「電池電流検出手段」に相当し、電流センサ45V,45W,46V,46Wが「相電流検出手段」に相当し、バッテリ50の充放電電流Ibに基づいて1相オープン故障の発生を判定して電動走行を行なうと共に電動走行の最中にバッテリ50の充放電電流Ibまたはインバータ42の電圧指令Vq*に基づいてインバータ41,42のいずれに1相オープン故障が発生しているかを判定する図3の故障判定ルーチンまたは図9の故障判定ルーチンと、電動走行を行なうためにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してインバータ41のゲート遮断指令と共にモータECU40に送信する図4の電動走行駆動制御ルーチンまたは図10の電動走行駆動制御ルーチンと、直行走行を行なうためにモータMG1のトルク指令Tm1*を設定してインバータ42のゲート遮断指令と共にモータECU40に送信する図7の直行走行駆動制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と、運転停止指令などを受けてエンジン22を運転制御するエンジンECU24と、トルク指令Tm1*やトルク指令Tm2*を受けてモータMG1やモータMG2が駆動されるようインバータ41,42を制御するモータECU40との組み合わせが「判定制御手段」に相当する。また、エンジン22が「内燃機関」に相当し、動力分配統合機構30が「遊星歯車機構」に相当し、リアクトル電流ILを検出する電流センサ59も「電池電流検出手段」に相当する。
【0063】
ここで、「モータ」としては、同期発電電動機としてのモータMG1,MG2に限定さえるものではなく、誘導電動機など、三相交流により駆動されると共に走行時に要する動力を出力可能な複数のものであれば如何なるものとしても構わない。「インバータ」としては、インバータ41,42に限定されるものではなく、複数のスイッチング素子を有し複数のモータをそれぞれ駆動する複数のものであれば如何なるものとしても構わない。「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、複数のインバータを介して複数のモータと電力をやりとり可能なものであれば如何なるタイプの二次電池であっても構わない。「電池電流検出手段」としては、電流センサ51bや電流センサ59に限定されるものではなく、二次電池を充放電する電流である電池電流を検出するものであれば如何なるものとしても構わない。「相電流検出手段」としては、電流センサ45V,45W,46V,46Wに限定されるものではなく、モータのU相の相電流を検出するものを含むものなど、複数のモータの各相に流れる相電流を検出するものであれば如何なるものとしても構わない。「判定制御手段」としては、ハイブリッド用電子制御ユニット70とエンジンECU24とモータECU40とからなる組み合わせに限定されるものではなく単一の電子制御ユニットにより構成されるなどとしてもよい。また、「判定制御手段」としては、バッテリ50の充放電電流Ibに基づいて1相オープン故障の発生を判定して電動走行を行なうと共に電動走行の最中にバッテリ50の充放電電流Ibまたはインバータ42の電圧指令Vq*に基づいてインバータ41,42のいずれに1相オープン故障が発生しているかを判定したり、電動走行を行なうためのモータMG2のトルク指令Tm2やインバータ42のゲート遮断指令に応じてインバータ42を制御したり、直行走行を行なうためのモータMG1のトルク指令Tm1*やインバータ41のゲート遮断指令に応じてインバータ41を制御したりするものに限定されるものではなく、複数のモータが駆動されて走行している最中に検出された電池電流に基づいて複数のインバータのうちのいずれかで複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生したと判定されたとき、複数のモータのうちの一部のモータである所定モータのみが駆動されて走行するように複数のインバータのうち所定モータを駆動するインバータを制御すると共に所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータのゲート遮断を行ない、所定モータのみが駆動されて走行している最中に検出された電池電流または前記検出された相電流に基づいて所定モータを駆動するインバータにオフ異常が発生しているか否かを判定する、ものであれば如何なるものとしても構わない。また、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関としてのエンジン22に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「遊星歯車機構」としては、動力分配統合機構30に限定されるものではなく、内燃機関の出力軸と複数のモータの1つである第1モータの回転軸と車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続されたものであれば如何なるものとしても構わない。
【0064】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0065】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電動車両の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
20,20B,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45V,45W,46V,46W,51b,59 電流センサ、50 バッテリ、51a,57a,58a 電圧センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54,56 電力ライン、55 昇圧コンバータ、57,58 コンデンサ、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、64a,64b 車輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、329 クラッチ、330 変速機、D11〜D16,D21〜D26,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、MG1,MG2,MG3 モータ、T11〜T16,T21〜T26,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流により駆動されると共に走行時に要する動力を出力可能な複数のモータと、複数のスイッチング素子を有し前記複数のモータをそれぞれ駆動する複数のインバータと、前記複数のインバータを介して前記複数のモータと電力をやりとり可能な二次電池と、を備える電動車両であって、
前記二次電池を充放電する電流である電池電流を検出する電池電流検出手段と、
前記複数のモータの各相に流れる相電流を検出する相電流検出手段と、
前記複数のモータが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流に基づいて前記複数のインバータのうちのいずれかで前記複数のスイッチング素子の一部をオフからオンにできなくなるオフ異常が発生したと判定されたとき、前記複数のモータのうちの一部のモータである所定モータのみが駆動されて走行するように前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータを制御すると共に前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータのゲート遮断を行ない、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流または前記検出された相電流に基づいて前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生しているか否かを判定する判定制御手段と、
を備える電動車両。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両であって、
前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行するように制御を開始してから予め設定された所定時間が経過するまでに、前記検出された電池電流が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された許容電流範囲外になったときには前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定し、前記検出された電池電流が前記許容電流範囲外にならないときには前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定する手段である、
電動車両。
【請求項3】
請求項1記載の電動車両であって、
前記複数のインバータは、各々が駆動するモータについて前記検出された相電流が該モータから出力すべきトルク指令に応じた値になるように比例項と積分項とを用いたフィードバック制御により得られる指令値によって制御可能であり、
前記判定制御手段は、前記所定モータを駆動するインバータが前記指令値によって制御され該所定モータのみが駆動されて走行するように制御を開始してから予め設定された所定時間が経過するまでに、前記フィードバック制御における前記指令値の絶対値が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された許容値範囲外になったときには前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定し、前記指令値の絶対値が前記許容値範囲外にならないときには前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定する手段である、
電動車両。
【請求項4】
請求項3記載の電動車両であって、
前記所定モータは、車速が高いほど回転数が大きくなるモータであり、
前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中は、車速が予め設定された上限車速以下となる範囲で前記所定モータのみが駆動されて走行するよう前記複数のインバータを制御する手段である、
電動車両。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の電動車両であって、
前記判定制御手段は、前記複数のモータが駆動されて走行している最中に前記検出された電池電流が前記二次電池を充放電する際に許容される範囲として設定された第2の許容電流範囲外になったときに、前記複数のインバータのうちのいずれかで前記オフ異常が発生したと判定する手段である、
電動車両。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つの請求項に記載の電動車両であって、
前記判定制御手段は、前記所定モータのみが駆動されて走行している最中に、前記所定モータを駆動するインバータに前記オフ異常が発生していると判定したときには前記複数のモータのうちの前記所定モータとは異なるモータのみが駆動されて走行するよう前記複数のインバータを制御し、前記複数のインバータのうち前記所定モータを駆動するインバータとは異なるインバータに前記オフ異常が発生していると判定したときには前記所定モータのみが駆動されて走行することを継続するよう前記複数のインバータを制御する手段である、
電動車両。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つの請求項に記載の電動車両であって、
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸と前記複数のモータの1つである第1モータの回転軸と車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、
を備え、
前記複数のモータの残り1つである第2モータは、前記駆動軸に接続されている、
電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−130098(P2012−130098A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276979(P2010−276979)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】