説明

非単結晶シリコン膜の製造方法、該製造方法により形成された光導電層を有する電子写真感光体、及び、それを用いた電子写真装置

【課題】触媒CVD法において、緻密で、膜質の良好な半導体層を有する電子写真感光体の形成が可能な堆積膜形成方法を提供する。
【解決手段】基体を収容する真空容器と、該真空容器内に原料ガスを供給するガス供給手段と、該ガス供給手段より供給される原料ガスに接触するように配置された触媒体と、を備えた触媒CVD装置を用いて、少なくとも水素及び/又はハロゲンを含む非単結晶シリコン膜を製造する堆積膜形成方法であって、前記原料ガスのうち、シリコン原子を含んだガス状の分子が前記真空容器内に導入されてから排出されるまでの間に、前記触媒体に衝突する回数が1回以上、4回以下となる条件下で堆積膜形成を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒CVD法によって基体上に堆積膜、とりわけアモルファス状あるいは多結晶状の如き非単結晶の堆積膜を形成する堆積膜形成方法に関するものであり、特に電子写真感光体に好適に用いることが可能な堆積膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体や薄膜トランジスタを始めとする各種半導体デバイスやLCD(液晶ディスプレイ)の作製においては、基板上に薄膜を製造するプロセスの1つとして化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;以下、CVDと称す)法が広く用いられている。
【0003】
CVD法には、プラズマ放電中で原料ガスを分解及び/又は活性化させて成膜を行うプラズマCVD法や基板を加熱してその熱により化学反応を生じさせて成膜を行う熱CVD法の如き製法がある。これに対し、近年、所定の高温に維持した発熱体により原料ガスを分解及び/又は活性化させて成膜を行う方式のCVD法(以下、触媒CVD法と称す)が注目を集めている。
【0004】
触媒CVD法を行う成膜装置は、真空排気可能な処理室内に基板を配置し、処理室内に設けられたタングステンやモリブデンの如き高融点金属からなる発熱体を、例えば1000〜2000℃の温度に維持しながら原料ガスを導入するよう構成されている。導入された原料ガスが、発熱体の表面に接触する際に分解、あるいは、活性化され、これらが再離脱して基板に到達することにより最終的な目的物である材料の膜が基板の表面に形成される。
【0005】
触媒CVD法では原料ガスの分解や活性化が、触媒体の表面に原料ガスが接触する際に起こる触媒反応により生じるため、基板の熱のみによって反応を生じさせる熱CVD法に比べて基板の温度を低くできるという長所がある。また、プラズマCVD法のようにプラズマ放電を形成することがないので、プラズマによる基板へのダメージといった問題からも無縁である。
【0006】
また、アモルファスシリコン膜を用いた電子写真感光体では、特に高品質な光活性層を大面積に成膜する手法と高速に成膜する手法との確立が急務とされており、この成膜手法として触媒CVD法が近年着目されている。触媒CVD法は装置構成が簡易で、ガス利用効率も高いといった特長を有し、アモルファスシリコン膜の形成においても高速成膜および大面積成膜が可能であることが既に実証されている。
【0007】
特許文献1には、触媒CVD法を用いて筒状の被成膜用基体に堆積膜を形成するための薄膜堆積装置が開示されている。特許文献1には、ガス導入孔を設けた反応室内にガス通過孔を形成した円筒状の密閉容器を配し、この密閉容器の内部にワイヤをほぼ螺旋状に回してなる触媒体を配設し、この触媒体の内部に筒状の被成膜用基体を設け、筒状の被成膜用基体の端部に対応する触媒体の電力密度分布を、その中央部に対応する触媒体の電力密度分布に比べて大きくすることにより、基体の成膜面の端部に向かって成膜性能を高め、膜厚の減少傾向に対し補完させることができ、その結果、電子写真特性の如きデバイス特性が成膜面にわたって、特に長手方向にわたって均一となることが開示されている。
【特許文献1】特開2004−060022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された触媒CVD装置により、ガス利用効率が高く、高速成膜が可能で、電子写真感光体のように大面積デバイスにおいても均一な堆積膜を得ることが可能となった。
【0009】
しかし、従来の触媒CVD装置では、成膜条件によっては得られた堆積膜の密度が低く、膜質が十分ではない場合があった。このため、特性の良好な電子写真感光体を成膜しようとすると製造条件が狭い、あるいは、安定して再現性を得ることが難しい場合があった。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、様々な成膜条件において緻密で光感度が高く、Si−H結合が主体の良好な膜質を有するアモルファスシリコン膜を形成する堆積膜形成方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、上記のような良好な特性を持ったアモルファスシリコン膜を光導電層に用いた電子写真感光体や、その感光体を用いた電子写真装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、基体を収容する真空容器と、該真空容器の中に原料ガスを供給するガス供給手段と、該ガス供給手段より供給される原料ガスに接触するように配置された触媒体と、を備えた触媒CVD装置を用いて、少なくとも水素及び/又はハロゲンを含む非単結晶シリコン膜の製造方法であって、
前記原料ガスのうち、シリコン原子を含んだガス状の分子が前記真空容器の中に導入されてから排出されるまでの間に、前記触媒体に衝突する回数が1回以上、4回以下となる条件で非単結晶シリコン膜を堆積することを特徴とする非単結晶シリコン膜の製造方法である。
【0013】
更に、上述の非単結晶シリコン膜の製造方法により光導電層が製造された電子写真感光体、及びその電子写真感光体を用いた電子写真装置を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非単結晶シリコン膜の製造方法を用いることで、触媒CVD法において、幅広い条件で半導体層の密度が高く、膜質が充分良好で、電気特性の優れた電子写真感光体の形成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
触媒CVD法の特徴は多々あるが、その中にプラズマCVD法に比べて分解効率が高く、ガス利用効率が高いという特徴がある。これは、触媒CVD法の原料ガス分解メカニズムに起因している。
【0016】
従来のプラズマCVD法がプラズマ中に存在している電子が原料ガス分子と気相中で衝突して分解するというメカニズムであるのに対し、触媒CVD法は触媒体の固体表面と原料ガス分子の衝突により分解が行われる。すなわち、プラズマCVD法がいわゆる3次元空間での点と点の衝突を用いて分解しており、衝突確率が低い。これに対して、触媒CVDは点と面との2次元の衝突を利用するため、極めて高い衝突確率が得られ、この結果高効率で原料ガスを分解することが出来ることになる。従って、従来の触媒CVD法では、この特徴を充分に生かし、原料ガスをほぼ100%近くまで分解し、充分な堆積速度とガス利用効率が得られる条件を選択して成膜を行うことが一般だった。
【0017】
しかし、本発明者らが、触媒CVD法において原料ガスとしてシラン(SiH4)を用い、従来から行われてきた条件に従ってアモルファスシリコン膜(以下、a−Si膜と称す)を堆積したところ、確かに、原料ガスをほぼ100%分解することが出来、非常に高い堆積速度が得られるという結果が得られた。しかし一方で、条件によっては次のような問題点が生じる場合があった。
(1)屈折率が一般的なa−Si膜に比べて低く、膜密度が低くなりやすい。
(2)赤外吸収スペクトルによる分析では、Si−H2結合比が高く、膜構造の3次元ネットワークが充分でない。
(3)光感度(明導電率/暗導電率の比)が小さい傾向がある。
【0018】
上述の特性を持ったa−Si膜を電子写真感光体の光導電層に用いた場合、帯電能の低下や光感度の低下、光メモリーの劣化の如く、様々な弊害を引き起こすことになる。
【0019】
上述の問題点は、堆積膜の成長過程において、充分な構造緩和が行われず、ポリマー成分が増加したことにより、膜構造が充分な3次元ネットワークを形成できなかったことに起因すると考えられる。そこで、本発明者らはこれらの問題を解決するために、触媒CVDにおける分解メカニズムを検討した。
【0020】
触媒CVD法における分解メカニズムは次のように考えられている。
【0021】
1600℃以上の高温に維持された触媒体(例えば、タングステンフィラメント)表面にSiH4ガスが衝突した場合、一定の確率で、SiH4→Si+4H、で示される分解反応が起きる。
【0022】
すなわち、原料ガスとなるSiH4分子は触媒体表面に吸着する際、SiとHの結合が切れたバラバラな状態に解離吸着し、高温に維持された触媒体の熱エネルギーを受けて再び気相中に離脱する。このようにSi単体にまで分解された分解種がa−Si膜の堆積膜表面に到達した場合、活性が高すぎるため、即座に結合してしまい、充分な構造緩和ができないものと推定される。このため、Si−H2結合の増加→膜密度の低下→明導電率の低下を引き起こしたものと推定される。
【0023】
一方、触媒CVD法における気相反応としては、SiH4+H→SiH3+H2、で示される反応が報告されている。この反応は、SiH4の未分解ガスと原子状水素が反応することでSiH3ラジカルが生成される反応である。このSiH3ラジカルはプラズマCVD法での主な分解種として知られており、堆積膜表面に到達しても寿命が長いためにすぐには結合せず、充分に構造緩和を起こした後に結合するため、3次元ネットワークを形成しやすいと言われている。
【0024】
本発明者らは、触媒CVD法における上述の問題点を解決するためには、この気相中での反応を促進し、SiH3ラジカルの密度を上げる必要があると考えた。このためには、従来から行われてきた様に原料ガスを100%分解するのではなく、原料ガスの分解を100%未満に抑え、未分解のSiH4ガスを気相中に存在させる必要があるとの結論に至った。
【0025】
触媒CVD法では、原料ガスは触媒体の表面に衝突した際に、一定の確率で分解されるため、分解率を決定しているのは原料ガスと触媒体の衝突回数である。本発明者らは、成膜条件を調整し、衝突回数を変化させたときの堆積膜の特性を詳細に調べた。その結果、原料ガスのうち、シリコン原子を含んだガス状の分子が真空容器内に導入され、排気されるまでの間に触媒体と衝突する衝突回数を4回以下とすることにより、膜特性が格段に向上することを見出した。一方、衝突回数をあまり下げすぎると堆積速度が低下し、生産性が悪化するため、少なくとも1回以上の衝突回数を確保することが工業的に好ましいと考えられる。
【0026】
本発明で言うシリコン原子を含んだガス状の分子とは、シラン、ジシラン等の分子を指しており、水素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素の如きガスを含まない。
【0027】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0028】
図1は、触媒CVD装置の模式的な断面図である。触媒CVD装置は、真空容器101の内部に原料ガスを供給するガス供給手段102と、真空容器の内部を所望の圧力に減圧する排気手段(不図示)が接続された排気管107と、触媒体103を備えている。触媒体103は電源105に接続され、通電・加熱することができる。真空容器101に供給された原料ガスは加熱された触媒体103で分解され、基体104に堆積膜が形成される。基体104は、不図示のヒーターにより加熱することができる。また、基体104は回転機構106によって周方向に回転可能な構成になっている。
【0029】
本発明では、シリコンを含んだ原料ガスが真空容器101内に導入されてから排出されるまでの間に真空容器101内に露出する触媒体103と衝突する回数が1回以上、4回以下になるように触媒CVD装置を最適化するものである。
【0030】
シリコンを含んだ原料ガスが真空容器101内に導入されてから排出されるまでの間に真空容器101内に露出する触媒体103と衝突する回数が1回以上、4回以下になるようにするためには、
1.触媒体103の直径や長さを調整し、触媒体103の表面積を変える。あるいは、
2.原料ガスの流量を変える。あるいは、
3.排気管からの排気速度を不図示の排気装置によって調整し、真空容器101内の圧力を変化させることで達成することができる。
【0031】
尚、図1の触媒体103はジグザグに設置されているが、必ずしもジグザグにする必要はなく、平行に複数本の触媒体を設置しても良いし、1本のみ設置しても良い。また、装置構成を工夫することにより、基体104が複数配置されていても良い。
【0032】
(真空容器)
真空容器101を構成する材料としては、真空気密可能な強度があれば何れの材料でも使用できる。一例として、ステンレス、アルミニウムの如き金属材料やセラミックス、ガラスを用いることができる。真空容器101の形状も特に制限はなく、真空容器101内に載置する基体の形状や数に応じて円筒や矩形に形成することができる。また内壁からの脱ガスによるコンタミネーションを防止するために、真空容器101の壁面の温度制御のための加熱機構または冷却機構を有していてもよい。
【0033】
(基体)
本発明において使用される基体104は、堆積膜が形成される基体の表面が導電性であれば、基体104の材料は導電性でも電気絶縁性であってもよい。基体の材料が導電性材料である場合、Al、Cr、Mo、Au、In、Nb、Te、V、Ti、Pt、Pd、あるいは、Feの如き金属、およびこれらの合金、例えばステンレスが挙げられる。また、合成樹脂のフィルムまたはシートや、ガラス、セラミックスの如き電気絶縁性材料からなる基体の場合、少なくとも基体の堆積膜が形成される表面を導電処理すればよい。合成樹脂の例としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミドが挙げられる。
【0034】
本発明において使用される基体104の形状は、平滑表面あるいは凹凸表面の円筒状、または板状無端ベルトからなる円筒状であってもよく、その厚さは、所望の電子写真感光体を形成し得るように適宜決定される。電子写真感光体としての可撓性が要求される場合には、基体104としての機能が充分発揮できる範囲内で可能な限り薄くすることができる。しかしながら一般には、製造時および取り扱い時の機械的強度の点から、基体104の厚さは、通常は10μm以上であることが好ましい。
【0035】
基体104は真空容器101の内部に複数収容できるようにしても良い。また、成膜中は基体104を回転させることにより堆積膜の均一性を向上させることができる。また、成膜時に基体104に適当なバイアス電位を付与しても良く、この場合、基体104は導電性の材料で構成されることが好ましい。
【0036】
(触媒体)
触媒体103としてタングステン、モリブデン、イリジウム、レニウム、タンタル、白金、チタンの如き高融点金属やグラファイトを用いることができる。尚、ここでグラファイトとは、線状のグラファイト(炭素繊維)を意味している。
【0037】
触媒体に高融点金属を用いた場合、成膜時の触媒体の温度は、1600℃以上、2100℃以下が好ましい。触媒体の温度が、1600℃を下回ると、触媒体とシリコンが合金を形成してシリサイドとなり、触媒体が劣化するためである。また、触媒体の温度が、2100℃を越えると、触媒体自体の蒸気圧が高まり、成膜条件によっては、堆積膜の膜中に触媒体金属が取り込まれてしまう可能性が出てくるためである。
【0038】
触媒体の形状は、基体104との距離を一定に保つことができれば特に制限はない。ただし、触媒体103の発熱量は触媒体に流す電流密度に比例するので、断面積が広い形状では大電流を流す必要があり、大型電源が必要になる。さらに、発熱量も増加するので触媒体103と基体104の距離が近い場合には形成される堆積膜が触媒体103からの輻射熱により熱的損傷を受ける場合も考えられる。したがって、触媒体103の形状は線状が好ましく、その直径は、0.1から1.0mmとすることが好ましい。また、必要に応じて線状の触媒体を並列に設置したり、あるいは、1本の線状の触媒体を折り返し加工したりすることも可能である。
【0039】
(内圧)
本発明の装置を用いて堆積膜形成する場合、真空容器の圧力は、0.13Pa以上、6.65Pa以下とすることが好ましい。0.13Pa未満では、処理速度が低下し電子写真感光体のような比較的膜厚を必要とするデバイスを形成する場合にはスループットの観点で好ましくない場合がある。また、6.65Paより高い圧力では原料ガスと触媒体との衝突回数が高くなりすぎ、形成される堆積膜が十分な特性を得られない場合や、原料ガスの流れを単純な分子流として扱うことができなくなり、堆積膜の均一性が低下する場合があった。よって、反応圧力を0.13Pa以上、6.65Pa以下の範囲で堆積膜を形成することが好ましい。但し、内圧によって衝突回数を制御する場合は、その内圧設定が優先することは言うまでもない。
【0040】
(衝突回数)
本発明でいうところの原料ガスを構成するシリコン原子を含んだ分子と触媒体との衝突回数ncolは、以下の計算によって求めた。
【0041】
真空容器に導入されたシリコン原子を含んだ分子は、ガス温度Tgで決まる熱速度νth=(8kTg/πM)1/2で真空容器内を等方的に運動する(ここで、kはボルツマン定数(1.38×10-16erg・K-1)、Mはシリコン原子を含んだ分子の質量)。なお、本発明においては、ガス温度Tgはすべて300Kと置いて検討を行った。
【0042】
シリコン原子を含んだ分子の分子密度ngは理想気体の式(PgV=NkTg、ここでPgはガス圧、Vは体積、Nは分子数)で近似すると、ng=N/V=Pg/kTgとなる。
【0043】
固体表面に単位面積、単位時間当たりに衝突する分子の数はngνth/4で表されることが知られているので、単位時間当たりに触媒体に衝突する分子数は、Scatを触媒体の表面積とするとき、Scatgνth/4となる。
【0044】
一方、真空容器内に導入されたシリコン原子を含んだ分子は、真空容器内に滞留した後、排気される。シリコン原子を含んだ分子が真空容器中に滞留する時間をレジデンスタイムτresと称する。レジデンスタイムτresは真空容器の容積がVcham、ガス流量がQgのとき、Pgcham/Qgで求めることができる(注:1ml/min(normal)=1688.75Pa・ml/sec)。すなわち、ngchamのシリコン原子を含んだ分子がτres時間の間に入れ替わることから、単位時間当たりに真空容器内に滞在している分子数は、ngcham/τresである。
【0045】
よって、触媒体に衝突する回数はncol=(Scatgνth/4)/(ngcham/τres)で求めることが出来る。
【0046】
catの単位をcm2、Pgの単位をPa、Qgの単位をml/min(normal)、シリコン原子を含んだ分子の分子量をm、Tgを300Kとして上記の式を計算すると、
col≒37.3×(Pg×Scat)/(Qg×m1/2
である。
【0047】
(堆積膜)
本発明の触媒CVD装置で形成できる堆積膜の種類はシリコン(Si)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、酸窒化シリコン(SiON)、酸炭化シリコン(SiOC)の如き非単結晶膜から成るシリコン含有薄膜が挙げられる。ここで言う非単結晶膜とは、アモルファスや、微結晶、多結晶から成る構造を示しており、本発明の堆積膜形成方法によれば何れの構造であっても良好な膜が得られる。これらの構造は、基板材料や成膜条件により容易に制御することが可能である。
【0048】
シリコン含有薄膜を形成するための原料ガスとしては、ポリシランを用いることが出来る。具体的には、シラン(SiH4)、あるいは、ジシラン(Si26)が工業的に広く使われており、好適に用いることができる。カーボン含有薄膜を形成するための原料ガスとしては、例えば一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、アセチレン(C22)、モノメチルシラン(MMS)、ジメチルシラン(DMS)を用いることができる。窒素含有薄膜を形成するための原料ガスとしては、例えば一酸化窒素(NO)、アンモニア(NH3)、窒素(N2)を用いることができる。酸素含有薄膜を形成するための原料ガスとしては、例えば酸素(O2)、一酸化窒素(NO)を用いることができる。
【0049】
また、ハロゲン原子供給用の原料ガスとして有効なのは、シリコン原子とハロゲン原子とを構成要素とするガス状のまたはガス化し得る、ハロゲン原子を含む水素化珪素化合物も有効なものとして挙げることができる。本発明において好適に使用し得るハロゲン原子を含む珪素化合物、いわゆるハロゲン原子で置換されたシラン誘導体としては、具体的には、たとえば弗化珪素(SiF4)、六弗化二珪素(Si26)を好ましいものとして挙げることができる。これらのハロゲン原子を含む珪素化合物を用いる場合には、珪素含有ガスの合計流量及び平均分子量を用いて衝突回数を算出する必要がある。
【0050】
また、これらのガスに加えて必要に応じてドーパント含有ガスとして、ジボラン(B26)やホスフィン(PH3)が添加されてもよい。これらのガスは必要に応じて水素や不活性ガスの如き希釈ガスで希釈される。
【0051】
(a−Si感光体)
図2は、基体上にa−Siからなる層が設けられた電子写真感光体の模式的断面図を示している。
【0052】
図2(a)は、基体203の上に、機能分離されていない単一の層により出来ている光導電層202、および、表面保護層201がこの順に積層されている。表面保護層201は自由表面を有し、主に長期間の使用における摩耗や傷の防止といった目的を達成するために設けられる。
【0053】
図2(b)には、基体203からのキャリアの注入を阻止する下部阻止層204と光導電層202とが、基体203の上にこの順に積層した例が示されている。
【0054】
また、図2(c)は、基体203からのキャリアの注入を阻止する下部阻止層204と、光導電層202と、表面保護層201からのキャリアの注入を阻止する上部阻止層205と、表面保護層201とを基体203の上にこの順に積層したものである。
【0055】
更に、図2(d)のように光導電層202が少なくとも光導電性を示す電荷発生層206と少なくともキャリアを輸送する電荷輸送層207とが基体203の上にこの順に積層された構成の機能分離型としたものであってもよい。この電子写真感光体に光照射すると主として電荷発生層206で生成されたキャリアが電荷輸送層207を通って基体203に至る。
【0056】
(触媒CVD装置)
以下、図1の装置を用いたa−Siからなる層が設けられた電子写真感光の製造方法の一例について説明する。
【0057】
例えば表面を、旋盤を用いて鏡面加工を施した円筒形状の基体104を真空容器101内に取りつける。
【0058】
次に、排気管107を介して真空容器101を不図示の排気装置(例えば、ロータリーポンプと油拡散ポンプとを組み合わせたもの)により排気する。真空容器101内が0.1Pa以下になった時点でガス供給手段102から加熱用の不活性ガス、一例としてアルゴンを真空容器101に導入し、真空容器101内が所望の圧力になるように加熱用ガスの流量および、不図示の排気装置の排気速度を調整する。その後、基体104内に内蔵された不図示のヒーターにより基体104の温度を20℃〜500℃の所定の温度に加熱する。加熱後、基体104の温度制御は継続しながらアルゴンの供給を停止し、真空容器101内が、0.1Pa以下になるまで真空引きを行った後、電源105を作動させて触媒体103に通電し、触媒体の温度が1600℃以上、2100℃以下になるように投入電力を調整する。尚、触媒体の温度は、放射温度計(株式会社チノー社製IR−CAQ3CSL)を用いて、非接触で計測した。
【0059】
次に成膜用の所定の原料ガス、例えばシラン(SiH4)、あるいは、ジシラン(Si26)の如き材料ガスを、また、B26、PH3の如きドーピングガスを不図示のミキシングパネルにより混合した後に真空容器101内に徐々に導入する。その際、真空容器101内が0.13Pa以上、6.67Pa以下の圧力になるように不図示の排気装置の排気速度を調整することが好ましい。
【0060】
以上の手順によって順次、a−Siからなる下部阻止層204、光導電層202、および、表面保護層201を形成する。その後、原料ガスを停止し、次に、触媒体103への通電を止めて真空容器101をパージして基体104を取り出し電子写真感光体を得る。基体104への堆積を行っている間、回転機構106により基体104を回転させることにより、周方向に均一に膜堆積を行うことができる。
【0061】
(電子写真装置)
電子写真装置の模式図である図3を用いて、本発明で形成された電子写真感光体を用いた電子写真装置を説明する。ここで、電子写真感光体301が本発明により製造された電子写真感光体である。
【0062】
図3では、電子写真感光体301を時方向に回転させている。電子写真感光体301の外周囲に、電子写真感光体301に静電潜像形成のための帯電を行なう一次帯電器302が設けられている。図ではコロナ帯電器が記載されているが、接触帯電器であってもよい。一次帯電器302の電子写真感光体の回転方向に対して下流側に、表面が帯電した電子写真感光体301を露光する露光光源が設けられ、電子写真感光体に露光光309が照射され静電潜像が電子写真感光体に形成される。
【0063】
静電潜像が形成された電子写真感光体301に現像材(トナー)303aを供給するための現像器303、および、電子写真感光体301の表面のトナーを転写材307に移行させるための転写帯電器304が設けられている。図ではコロナ帯電器を用いているが、ローラー電極でもよい。
【0064】
電子写真感光体301の表面のトナーを転写材に移行させた後、感光体表面の清掃を行うクリーナー305が設けられている。本例では電子写真感光体301の表面の均一清掃を有効に行なうため、弾性ローラー305−1とクリーニングブレード305−2を用いて感光体表面の清掃を行なっているが、いずれか一方のみ、もしくはクリーナー305自体を具備しない構成も設計可能である。
【0065】
その後、次の複写動作にそなえて電子写真感光体301の表面の除電を行なうための除電ランプ306が設けられている。転写材307は紙の如き転写材で、転写材307は、送りローラー308により供給される。露光光源309には、ハロゲン光源、或いは単一波長を主とするレーザー、LEDの如き光源が用いられる。
【0066】
このような装置を用い、複写画像の形成は、例えば以下のように行なわれる。まず電子写真感光体301を所定の速度で矢印の方向へ回転させ、帯電器302を用いて電子写真感光体301の表面を一様に帯電させる。次に、帯電された電子写真感光体301の表面に露光光源309により画像の露光を行ない、静電潜像を電子写真感光体301の表面に形成させる。そして電子写真感光体301の表面の静電潜像の形成された部分が現像器303の設置部を通過する際に、現像器303によってトナー303aが電子写真感光体301の表面に供給され、静電潜像がトナー303aによる画像として現像される。更に、このトナー画像は電子写真感光体301の回転とともに転写帯電器304の設置部に到達し、ここで送りローラー308によって送られてくる転写材307に転写される。
【0067】
転写終了後、次の複写工程に備えるために電子写真感光体301の表面から残留トナーがクリーナー305によって除去され、その後、表面の電位がゼロ若しくは殆どゼロとなるように除電ランプ306により除電され、1回の複写工程を終了する。
【0068】
(実施例)
以下に本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
図1に示した堆積膜形成装置を用い、表1の条件でa−Si膜を鏡面研磨した石英ガラス、およびSiウェハー上に成膜した。サンプルの膜厚は何れも1.5μmとした。本実施例では、触媒体として純度99.999%のタングステンワイヤーを用い、その直径や長さを変えることで表面積を変化させ、衝突回数を1.0〜4.0回に変化させた。
【0070】
【表1】

【0071】
(比較例1)
実施例1と同様にして、衝突回数を4.5回、6.0回に変化させた。
【0072】
(屈折率測定)
あらかじめ、ケーエルエー・テンコール株式会社製アルファステップ500(商品名)により、石英ガラスに成膜したサンプルの膜厚dを測定しておく。
次に、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V−570にサンプルをセットし、2600nm〜1000nmの波長範囲で透過率を測定する。このとき観測される多重干渉波形において、隣り合う透過率の極大、極小となる波長の値をλmax、λminとしたとき、権田俊一、(株)エヌ・ティー・エス発行「薄膜作成応用ハンドブック」、2003年版、p.121に記載の測定法に従い、
n=(1/4d)×(λmax・λmin)/(λmin−λmax
から屈折率nを求め、下記の評価基準に従って評価を行った。
3.4以上 A
3.2以上、3.4未満 B
3.0以上、3.2未満 C
3.0未満 D
(Si−H2/Si−H結合比測定)
日本分光(株)製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−615を用いてSiウェハー上に成膜したサンプルの赤外吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルから、Si−H2の吸収に対応する2090cm-1の吸収ピーク高さをSi−Hの吸収に対応する2000cm-1の吸収ピーク高さで割ることによりでSi−H2/Si−H結合比を求め、下記の評価基準に基づいてSi−H2/Si−H結合の評価を行った。
30%未満 A
30%以上、40%未満 B
40%以上、50%未満 C
50%以上 D
(光感度測定)
サンプルの上に、250μmのギャップ、総電極長50mmの櫛形のマスクを載せ、通常の真空蒸着法によってCrを100nm堆積させ、櫛形電極を表面に形成した。
【0073】
本実施例で作製したa−Si堆積膜について光感度の評価を行った。光感度は、明導電率σpと暗導電率σdを用いて定義されるものとする。明導電率σpは1mW/cm2の強度であるHe−Neレーザー(波長632.8nm)を照射したときの導電率とし、暗導電率σdは光を照射しないときの導電率とする。このとき、光感度はこれらの比によって表されるが、導電率の値は数桁の単位で変化するため、光感度=log10(σp/σd)で定義し、下記の評価規準で光感度の評価を行った。
4.5以上の場合 A
4.0以上4.5未満の場合 B
3.5以上4.0未満 C
3.5未満 D
実施例1、比較例1の結果をまとめて表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2から明らかなように、衝突回数を4回以下で作製したサンプルは、屈折率が高く緻密で、Si−H2/Si−H結合比が低く3次元ネットワークが発達しており、光感度が高いことが分かる。さらに、衝突回数3回以下で作製したサンプルは、さらにその効果が顕著であることが分かる。
【0076】
従って、触媒体の表面積を調整することにより原料ガスと触媒体の衝突回数を4回以下の範囲内で堆積膜形成を行うことにより、高品質のa−Si膜が得られることが確かめられた。

(実施例2)
図1に示した堆積膜形成装置を用い、表3の条件でa−Si膜を鏡面研磨した石英ガラス、およびSiウェハー上に成膜した。サンプルの膜厚は1.5μmとした。本実施例では、触媒体として純度99.999%、直径φ0.3mm、長さ960mmのタングステンワイヤーを用い、成膜時の内圧を変化させることで衝突回数を1.0〜4.0回に変化させた。
【0077】
【表3】

【0078】
(比較例2)
実施例2と同様にして、衝突回数を4.2回、5.0回に変化させた。
【0079】
実施例2、比較例2で得られたサンプルについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果をまとめて表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4から明らかなように、内圧を変化させた場合も、やはり衝突回数4回以下で屈折率が高く緻密で、Si−H2/Si−H結合比が低く3次元ネットワークが発達しており、光感度が高いことが分かる。さらに、衝突回数3回以下で作製したサンプルは、さらにその効果が顕著であることが分かる。
【0082】
以上、実施例1、2の結果から、触媒CVD法によってa−Si膜を製造する堆積膜形成方法に於いて、原料ガスが真空容器内に導入されてから排出されるまでの間に触媒体に衝突する回数を、4回以下、より好ましくは3回以下とすることで良好な膜質の堆積膜が得られることが確かめられた。

(実施例3)
図1に示した触媒CVD装置にφ84mm、長さ381mmの円筒状の基体を設置し、表5の条件で電子写真感光体を作成した。本実施例では、触媒体として純度99.999%、直径φ0.5mm、長さ1006mmのタングステンワイヤーを用い、フィラメント温度は1600℃とした。このときの触媒体の表面積は15.8cm2であり、光導電層の成膜条件において、計算から求められた触媒体とSiH4ガスの衝突回数は2.8回である。
【0083】
【表5】

【0084】
(比較例3)
本比較例では、実施例3と同様に電子写真感光体を作製し、同様の評価を行った。但し、本比較例では触媒体の長さを2倍の2012mmとすることで触媒体の表面積を31.6cm2とし、光導電層の成膜条件でのSiH4ガスと触媒体との衝突回数を5.6回とした。
【0085】
<感光体の評価>
実施例3、比較例3で得られた電子写真感光体の評価は次のように行った。
【0086】
(帯電能)
図3の電子写真装置を改造した電位評価機(具体的にはキヤノン製複写iRC5870の改造機)を用いて評価を行った。電位評価機は現像器303に換えて電位測定プローブを設置し、一次帯電器302に流す電流と露光光源309の光量を外部から制御可能な構成に改造している。
【0087】
電位評価機の一次帯電器302に一定の電流(1000μA)を流したときの現像器位置での暗部電位を表面電位計(TREK社Model344)の電位センサーにより測定した。したがって、暗部電位が大きいほど帯電能が良好であることを示す。なお、帯電能測定は感光体母線方向の中央部で行った。
【0088】
帯電能の評価は、比較例3の結果を基準とした場合の相対比較を行い、ランク付けを行った。
【0089】
A 10%以上の良化
B 5%以上10%未満の良化
C 5%未満の良化
D 比較例3と同等乃至悪化
(感度)
上記の電位評価機を用いて、現像器位置での暗部電位を一定の値(450V)となるように一次帯電器電流を調整した後に、波長655nmの半導体レーザーによる露光光源により一定の光量(0.35μJ/cm2)を照射し、現像器位置での明部電位を測定し、感度とした。したがって、明部電位が低いほど感度が良好であることを示す。なお、感度測定は感光体母線方向の中央部で行った。
【0090】
感度の評価結果は、比較例3の結果を基準とした場合の相対比較を行い、感度の評価を行った。
【0091】
A 10%以上の良化
B 5%以上10%未満の良化
C 5%未満の良化
D 比較例3と同等乃至悪化
(残留電位)
上記の電位評価機を用いて、電子写真感光体を一定の暗部表面電位(450V)に帯電させる。そして直ちに波長655nmの半導体レーザーによる露光光源により比較的強い光(1.0μJ/cm2)を照射する。この時表面電位計により現像器位置での電子写真用光感光体の明部表面電位を測定する。したがって、明部電位が小さいほど残留電位特性が良好であることを示す。なお、残留電位測定は感光体母線方向の中央部で行った。
残留電位の評価結果は、比較例3の結果を基準とした場合の相対比較を行い、残留電位の評価を行った。
【0092】
A 40%以上の良化
B 20%以上40%未満の良化
C 20%未満の良化
D 比較例3と同等乃至悪化
(光メモリー)
上記の電位評価機を用いて、現像器位置における暗部電位が所定の値(450V)となるように一次帯電器302の電流値を調整した後、反射濃度0.1以下の所定の白紙を原稿とした際の明部電位が所定の値(50V)となるよう露光光源309の光量を調整する。
【0093】
この状態で、A3原稿先端部80mmに相当する位置に白紙に反射濃度1.1、直径5mmの黒丸を貼り付けたゴーストチャートを原稿台に置き、その上に反射濃度0.3の中間調チャートを重ねておいた際のコピー画像において、中間調コピー上に認められるゴーストチャートの直径5mmの黒丸の反射濃度と中間調部分の反射濃度との差を測定することにより光メモリーの評価を行った。したがって、数値が小さいほど良好である。なお、光メモリーの測定は、感光体母線方向中央部で行った。
【0094】
光メモリーの評価結果は、比較例3の結果を基準とした場合の相対比較を行い、光メモリーの評価を行った。
【0095】
A … 40%以上の良化
B … 20%以上40%未満の良化
C … 20%未満の良化
D … 比較例3と同等乃至悪化
実施例3、比較例3の結果を合わせて表6に示す。
【0096】
【表6】

【0097】
表6の結果から、光導電層製造時のSiH4ガスと触媒体との衝突回数が2.8回の条件で成膜した電子写真感光体は5.5回で成膜した感光体と比べて、帯電能、感度、残留電位、光メモリー何れの特性も格段に改善することが明らかになった。
【0098】
(実施例4)
図1に示した触媒CVD装置にφ84mm、長さ381mmの円筒状の基体を設置し、表7の条件で電子写真感光体を作成した。本実施例では、触媒体として純度99.999%のタングステンワイヤーを用い、フィラメント温度は2000℃とした。
【0099】
なお、本実施例の製造条件においては、触媒体の直径と長さを変えることで表面積を変化させて、光導電層の成膜条件において計算から求められる触媒体とSiH4ガスの衝突回数を1.0〜4.0回に変化させた。
【0100】
【表7】

【0101】
(比較例4)
本比較例では、実施例4と同様に電子写真感光体を作製し、同様の評価を行った。但し、本比較例では触媒体の表面積を変化させることで、光導電層の成膜条件でのSiH4ガスと触媒体との衝突回数を4.5回、5.0回とした。
【0102】
実施例4、比較例4で得られた電子写真感光体は、実施例3と同様の評価を行った。その結果を合わせて表8に示す。
【0103】
【表8】

【0104】
表8の結果から、本発明の範囲内である、光導電層製造時の触媒体とSiH4ガスとの衝突回数が4.0回以下の場合、電子写真感光体としての特性が改善し、特に3.0回以下でその改善傾向が著しいことが明確になった。
【0105】
一方、原料ガスと触媒体の衝突回数が少なくなりすぎると、光導電層の堆積に長時間を要し、生産性が低下する場合が考えられる。従って、生産性まで考慮した実用的な衝突回数としては、1回以上は必要であると考えられる。
【0106】
以上の結果から、電子写真感光体の堆積膜形成方法として、光導電層形成時の原料ガスと触媒体との衝突が、1回以上、4回以下、より好ましくは1回以上、3回以下、とすることで本発明の効果が充分に得られることが判明した。
れた。
【0107】
(実施例5)
図1に示した触媒CVD装置にφ84mm、長さ381mmの円筒状の基体を設置し、表9の条件で電子写真感光体を作成した。本実施例では、触媒体として純度99.999%のタングステンワイヤーを用い、直径1.5mm、長さ2400mmとすることで表面積を113.0cm2とし、フィラメント温度は2100℃とした。本実施例では、内圧を変化させることで光導電層の成膜条件において、触媒体とSiH4ガスの衝突回数を1.0〜4.0回に変化させた。
【0108】
【表9】

【0109】
(比較例5)
本比較例では、実施例5と同様に電子写真感光体を作製し、同様の評価を行った。但し、本比較例では内圧を変化させることで光導電層製造時の触媒体とSiH4ガスとの衝突回数を5.0回、6.0回とした。
【0110】
実施例5、比較例5で得られた電子写真感光体は、実施例3と同様の評価を行った。その結果を合わせて表10に示す。
【0111】
【表10】

【0112】
表10の結果から、内圧を変化させた場合も、光導電層製造時のSiH4ガスと触媒体との衝突回数を4.0回以下にした場合に電子写真感光体としての特性が改善し、特に3.0回以下でその改善傾向が著しいことが明確になった。
【0113】
一方、原料ガスと触媒体の衝突回数が少なくなりすぎると、光導電層の堆積に長時間を要し、生産性が低下する場合が考えられる。従って、生産性まで考慮した実用的な衝突回数としては、1回以上は必要であると考えられる。
【0114】
以上の結果から、電子写真感光体の堆積膜形成方法として、光導電層形成時の原料ガスと触媒体の衝突を4回以下、1回以上、より好ましくは3回以下、1回以上とすることで本発明の効果が充分に得られることが判明した。
【0115】
(実施例6)
実施例3と同様に、図1に示した触媒CVD装置にφ84mm、長さ381mmの円筒状の基体を設置し、表5の条件で電子写真感光体を作成した。但し、本実施例においては、表5のシラン(SiH4)の代わりにジシラン(Si26)を用い、触媒体とジシランの衝突回数を2.8回に合わせるために、タングステンワイヤーの長さを1407mmとし、表面積を22.1cm2に変更した。
【0116】
実施例6で得られた電子写真感光体に対し、実施例3と同様の評価を行った。その結果、表6に示される実施例3と同様の結果が得られたことから、シリコン原子含有ガスとしては、シラン、ジシラン何れの場合も本発明に好適に使用できることが分かる。
【0117】
(実施例7)
実施例3と同様に、図1に示した触媒CVD装置にφ84mm、長さ381mmの円筒状の基体を設置し、表5の条件で電子写真感光体を作成した。触媒体の形状は直径φ1.0mm、長さ596mmとし、表面積は18.7cm2とした。この条件で計算から求められた触媒体とシリコン原子を含む原料ガスの衝突回数は3.3回である。
【0118】
本実施例では触媒体の材質をタングステン、モリブデン、イリジウム、レニウム、タンタル、白金、チタン、グラファイトとし、それぞれの触媒体について電子写真感光体を作製した。
【0119】
実施例7で得られた電子写真感光体にたいし、実施例3と同様の評価を行った。その結果、表6に示される実施例3と同様の結果が得られたことから、触媒体の材質としては、タングステンと同様に、モリブデン、イリジウム、レニウム、タンタル、白金、チタン、グラファイトも好適に用いることが可能であることが判明した。
【0120】
(実施例8)
実施例3、4、5、6、7の各実施例で製造した電子写真感光体を図3に示す電子写真装置に設置し、文字及び写真からなる原稿を複写した。得られた画像をルーペで詳細に観察したところ、濃度が濃く、細線の再現性が良く、ハーフトーンの均一性の良い、良好な画像を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の堆積膜形成装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明に基づいて形成される電子写真感光体の層構成の様々な例を示す模式的な拡大図である。
【図3】本発明に係わる電子写真装置の一例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0122】
101 真空容器
102 ガス供給手段
103 触媒体
104 基体
105 電源
106 回転機構
107 排気管
108 原料ガス導入バルブ
201 表面保護層
202 光導電層
203 基体
204 下部阻止層
205 上部阻止層
206 電荷発生層
207 電荷輸送層
301 電子写真感光体
302 一次帯電器
303 現像器
303a 現像材(トナー)
304 転写帯電器
305 クリーナー
305−1 弾性ローラー
305−2 クリーニングブレード
306 除電ランプ
307 転写材
308 送りローラー
309 露光光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を収容する真空容器と、該真空容器の中に原料ガスを供給するガス供給手段と、該ガス供給手段より供給される原料ガスに接触するように配置された触媒体と、を備えた触媒CVD装置を用いて、少なくとも水素及び/又はハロゲンを含む非単結晶シリコン膜を製造する製造方法であって、
前記原料ガスのうち、シリコン原子を含んだ分子が前記真空容器の中に導入されてから排出されるまでの間に、前記触媒体と衝突する回数が1回以上、4回以下となる条件で非単結晶シリコン膜を堆積することを特徴とする非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記衝突する回数が1回以上、3回以下となる条件で堆積膜形成を行うことを特徴とする請求項1に記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン原子を含んだ分子が、シラン、あるいは、ジシランであることを特徴とする請求項1又は2に記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記触媒体に衝突する回数の調整を、触媒体の表面積を調整することで行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
前記触媒体に衝突する回数の調整を、前記真空容器の中の圧力を調整することで行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項6】
前記触媒体が、タングステン、モリブデン、イリジウム、レニウム、タンタル、白金、チタンから選ばれた少なくとも1つ以上の材料からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項7】
前記触媒体の温度が、1600℃以上、2100℃以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項8】
前記触媒体が、グラファイトであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の非単結晶シリコン膜の製造方法により光導電層が製造されたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項10】
請求項9の電子写真感光体を用いることを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−280856(P2009−280856A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133080(P2008−133080)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】