説明

非晶質透明導電膜及び非晶質透明導電膜積層体並びにこれらの製造方法

【課題】非晶質透明導電膜のアンカー効果を高めて接着力を向上させ、耐久性に優れた透明導電膜を得、また、ACFや検査用プローブとの接触抵抗を低減可能な透明導電膜を得ることを目的とする。
【解決手段】表面粗さの最大値であるRmaxの値が、10nm以上であることを特徴とする非晶質透明導電膜を提供する。この非晶質透明導電膜と異方導電フィルム(ACF)との間、及びこの非晶質透明導電膜と検査用プローブとの間、等に生じる接触抵抗を小さな値にすることができる。また、この非晶質透明明導電膜は、アンカー効果を従来より大きくでき、その結果、従来より耐久性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性の向上した非晶質透明導電膜、非晶質透明導電膜積層体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展は目覚ましく、液晶表示装置やEL表示装置等、種々の表示装置がパーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器へ活発に導入されている。これらの表示装置は、いずれも表示素子を透明導電膜で挟み込んだサンドイッチ構造を有している。
【0003】
透明導電膜としては、現在、ITO(Indium Tin Oxide)膜が主流を占めている。それは、ITO膜の高透明性、低抵抗性の他、エッチング性、基板への付着性等が良好なためである。このITO膜は、一般にスパッタリング法により作製されている。
【0004】
ITOの問題点
しかしながら、ITO膜はそのエッチングに強酸を使用する必要がある。したがって、エッチングの際に他の膜や下地の構造物にダメージを与える場合がある。例えば、TFT−LCDの場合には、ゲート線やソース・ドレイン線に使用されるAlなどの配線にダメージを与える難点を有している。
【0005】
一方、スパッタリング法によりITO膜を作製する際に用いるITOターゲットは還元により黒化し易いため、その特性の経時変化が問題となっている。
【0006】
従来の改良された技術
これらの問題点に鑑み、種々の材料がこれまでに提案されている。例えば、下記特許文献1には、酸化インジウムと酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットを用いることが開示されている。また、下記特許文献2には、酸化インジウムと酸化亜鉛からなる非晶質透明導電膜が開示されている。また、この非晶質透明導電膜は、その非晶質のために、表面平滑性が非常に高い薄膜になることが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平06−234565号
【特許文献2】特開平07−235219号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、表面平滑性の高い薄膜は、その表面の滑らかさ故に、TFT−LCD基板と外部回路を接続するための異方導電フィルム(ACF:Anisotoropic Condactive Film)や検査用プローブとの間に接触抵抗を発生したり、アンカー効果が小さいためにACFとの接着力が上がらず耐久性に劣るなどの課題が発生する可能性があった。本発明は、このような課題に鑑みなされたものである。
【0009】
本発明の目的は、非晶質透明導電膜のアンカー効果を高めて接着力を向上させ、耐久性に優れた透明導電膜を得ることである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、ACFや検査用プローブとの接触抵抗を低減できる透明導電膜を得ることである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、これら透明導電膜を金属薄膜と積層した積層体を得ることである。また、本発明の目的は、これら透明導電膜及び積層体の製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に説明する本発明で用いるスパッタリングターゲットは、上記特許文献1に記載のスパッタリングターゲットを用いることが好ましいが、本発明の下記構成が維持されている限り他のスパッタリングターゲットを使用することももちろん可能である。
【0013】
A.非晶質透明導電膜に関する発明
(1)本発明は、上記課題を解決するために、表面粗さの最大値であるRmaxの値が、10nm以上である非晶質透明導電膜である。
【0014】
表面粗さの最大値であるRmaxの値を、10nm以上にすることによって、従来の酸化インジウム−酸化亜鉛系非晶質透明導電膜で問題となっていた点を解決することができる。
【0015】
具体的には、本発明の非晶質透明導電膜と異方導電フィルム(ACF)との間、本発明の非晶質透明導電膜と検査用プローブとの間、等に生じる接触抵抗を小さな値にすることができる。
【0016】
また、本発明による非晶質透明明導電膜は、アンカー効果が小さいために耐久性に劣るなどの従来技術の課題を解決するに至った。すなわち、本発明による非晶質透明明導電膜は、アンカー効果を従来より大きくでき、その結果、従来より耐久性の向上を図ることができる。
【0017】
なお、表面粗さを測定する手法としては、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)を用いることが好ましい。
【0018】
(2)また、本発明は、前記非晶質透明導電膜の組成が、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする上記(1)の非晶質透明導電膜である。
【0019】
このような構成によって、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする非晶質透明導電膜
において(1)で述べたような接触抵抗の減少やアンカー効果の強化を図ることができる。
【0020】
なお、主成分とは、主要な成分をいい、ある物質の概ね50%以上の構成を占めるものをいう。上記の例では酸化インジウム−酸化亜鉛が合わせて概ね50%以上であれば主成分といえる。
【0021】
(3)また、本発明は、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする前記非晶質透明導電膜のインジウム原子と亜鉛原子の比率である[In]/([In]+[Zn])が、0.2〜0.95の範囲の値であることを特徴とする上記(2)記載の非晶質透明導電膜である。ここで、[In]は、インジウムの原子の数を表し、[Zn]は亜鉛の原子の数を表す。
【0022】
このような組成比率とすることによって、接触抵抗の減少や、アンカー効果の強化を円滑に図ることができる。この値が0.2未満では、非晶質透明導電膜の抵抗値が高くなったり、耐久性が小さくなる等の問題が発生し、0.95を超える場合は、膜が結晶化し抵抗値が大きく上昇したり、耐久性が減少する場合があるので、上記の数値範囲が好ましい。なお、[In]は単位体積・単位質量あたりのインジウム原子の数を表し、[Zn]は単位体積・単位質量あたりの亜鉛原子の数を表す。
【0023】
さらに、この比率の数値範囲は0.45〜0.93がより好ましく、より一層好ましくは、0.55〜0.93である。
【0024】
(4)また、本発明は、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする前記非晶質透明導電膜が、正三価以上の金属酸化物を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非晶質透明導電膜である。
【0025】
正三価の金属酸化物としては、Ga、Ge、Snなどの金属の酸化物が挙げられる。その量としては、[M]/([In]+[Zn]+[M])=0.01〜0.2程度である。ここで、Mは、上述した正三価の金属酸化物の金属を表し、[M]はその金属の単位体積・単位質量あたりの原子の数を表す。
【0026】
この正三価の金属酸化物の金属の組成比率である[M]/([In]+[Zn]+[M])の値は、上記と異なり、0.01%未満では、意味のある添加効果が得られない場合があり、また、0.2超では、接触抵抗値が増大する場合がある。
【0027】
さらに、上記[M]/([In]+[Zn]+[M])の値は、好ましくは0.1〜0.15である。なお、この金属酸化物は、非晶質透明導電膜の表面平滑性に影響しない範囲で添加することができるのはいうまでもない。
【0028】
(5)また、本発明は、前記Rmaxが15nm以上であることを特徴とする(1)〜(4〜)のいずれかの非晶質透明導電膜である。
【0029】
(6)また、本発明は、前記Rmaxが20nm以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの非晶質透明導電膜である。
【0030】
このように、表面粗さの最大値(Rmax)の値は好ましくは15nm以上であり、さらに好ましい表面粗さの最大値(Rmax)の値は20nm以上である。但し、このRmaxの値は一般的には、50nmを超えないように調整することが極めて望ましい。50nmを超えると、表面の粗さが大きくなりすぎ、非晶質透明導電膜と対向基板との間でリークが発生する原因となったり、配向膜のむらを引き起こしたりする可能性が無視できなくなるからである。
【0031】
B.非晶質透明導電膜積層体に関する発明
(7)本発明は、上記課題を解決するために、酸化インジウム−酸化亜鉛を含む非晶質透明導電膜であって、酸化インジウム−酸化亜鉛の組成が[In]/([In]+[Zn])=0.2〜0.95であり、表面粗さの最大値Rmaxが10nm以上である非晶質透明導電膜と、金属薄膜と、が積層されていることを特徴とする非晶質透明導電膜積層体である。ここで、[In]は、インジウムの原子の数を表し、[Zn]は亜鉛の原子の数を表す。
【0032】
このような構成を採用すれば、金属薄膜と非晶質透明導電膜との間の接触抵抗を小さくし、且つ、耐久性が向上した積層体を得ることができる。
【0033】
(8)また、本発明は、前記金属薄膜は、Al、Cr、Mo、Tiからなる群から選ばれる一種以上の金属の薄膜層を含むことを特徴とする(7)の非晶質透明導電膜積層体である。
【0034】
このように、(7)の金属薄膜としては、Al、Cr、Mo、Tiが好適に使用できる。
【0035】
C.非晶質透明導電膜の製造方法に関する発明
(9)上記課題を解決するために、本発明は、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法を実行して上記(1)〜(6)のいずれかに記載の非晶質透明導電膜を製造する非晶質透明導電膜の製造方法において、前記基板の温度を150℃以上に設定し、且つ、還元雰囲気で成膜する成膜工程、を含むことを特徴とする非晶質透明導電膜の製造方法。
【0036】
このように、還元雰囲気で成膜することにより、基板表面に膜形成の起点が生成し、且つ150℃以上の基板温度にすることにより、基板表面で膜形成の起点が凝集すると考えられる。そして、この起点が起点の周辺より膜成長速度が速いので、結果的に表面凹凸が形成されると考えられる。
【0037】
なお、還元雰囲気とは、最適酸素分圧未満の成膜雰囲気を示し、Ar100%の場合や、より還元雰囲気にするために、還元性ガス、例えば水素や一酸化炭素などを添加した場合も好ましい。
【0038】
還元雰囲気の強さは、所望する表面粗さにより変えることができる。より強い還元状態にすれば、より表面粗さの大きな表面が得られる。添加する上記還元ガスの添加量は、所望する表面粗さによるが、一般的に要求される耐久性を実現するには、10vol.%未満の値で十分な場合が多い。より好ましくは9vol.%未満とすることが望ましく、より一層好ましくは5vol.%未満とすることがより望ましい。
【0039】
本発明(9)では、基板温度は、150℃以上に設定している。この温度以上に設定すれば、スパッタリング中にプラズマにより加熱され、基板温度は十分な温度(すなわち150℃以上)になると考えられる。一方、150℃未満の場合は、プラズマによる加熱による効果が小さいと考えられ、その結果、成膜の起点が凝集せず表面粗さが10nm未満となり、目的とする表面粗さが得られない場合がある。
【0040】
基板の温度は、より好ましくは180℃以上である。180℃以上の温度であれば、成膜の起点の凝集が容易に生じ、目的とする表面粗さが比較的容易に得られるからである。
【0041】
(10)また、本発明は、前記成膜工程が、成膜初期に、前記基板温度を150℃以上に設定し、且つ、還元雰囲気で前記基板上に非晶質透明導電膜を成膜する初期製膜工程と、前記初期製膜工程後、酸化雰囲気にて非晶質透明導電膜を成膜する後期成膜工程と、
を含むことを特徴とする上記(9)の非晶質透明導電膜の製造方法である。
【0042】
このように、本発明(10)は、成膜初期において、150℃以上の基板温度且つ還元雰囲気で成膜し、その後、酸化雰囲気で成膜することを特徴とする。このような方法によれば、AFMで測定した表面粗さの最大値(Rmax)が10nm以上の非晶質透明導電膜を製造することが可能である。
【0043】
本発明のように、成膜初期のみ還元雰囲気にて成膜することにより、基板表面に膜形成の起点が生成すると考えられる。そして、150℃以上の基板温度に設定してスパッタリングを行うことによって、基板表面で膜形成の起点が凝集する。この凝集した起点は、その周囲より膜成長速度が速いと考えられるので、この成長速度の差によって、表面凹凸が形成される。
【0044】
なお、成膜初期とは、成膜の起点が形成される段階であり、成膜時間全体に占める成膜開始からの時間割合でいえば50%未満を「成膜初期」として扱うことが好ましい。但し、より好ましくは30%未満、より一層好ましくは10%未満、を「成膜初期」として扱うことが好ましい。なお、成膜時間の全てを還元雰囲気のみで全成膜を行っても(この場合、「初期成膜」時間は存在しない)非晶質透明導電膜が成膜できないわけではなく、問題はない。
【0045】
(11)また、本発明は、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法を実行して非晶質透明導電膜を前記金属薄膜上に製膜する(7)(8)のいずれかの非晶質透明導電膜積層体の製造方法において、前記非晶質透明導電膜を前記金属薄膜層上に成膜する際に、前記金属薄膜の温度を130℃以上に設定し、且つ、最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気で前記非晶質透明導電膜を成膜する成膜工程、を含むことを特徴とする非晶質透明導電膜積層体の製造方法である。
【0046】
さて、金属薄膜上に成膜される酸化物薄膜(非晶質透明導電膜)は、成膜初期に、酸化物中の酸素が金属薄膜側へ引き抜かれる。そのために、通常の基板上に非晶質透明導電膜を形成する上記(9)(10)の製造方法より、金属薄膜表面に膜形成の起点が生成されやすいのである。そのために、本発明(11)においては、上記(9)(10)と異なり、成膜雰囲気を強い還元雰囲気にする必要はなく、酸化物(非晶質透明導電膜)中の酸素が金属薄膜側へ引き抜かれるのを阻害しない程度の酸素が成膜雰囲気中に存在していてもよい。
【0047】
言い換えれば、ガラス基板(通常用いられる基板)の基板表面より、金属基板(典型的には、ガラス基板上に金属薄膜を設けたもの)の表面の方が、膜形成の起点が生成されやすいということである。
【0048】
(12)また、本発明は、前記成膜工程が、成膜初期に、前記金属薄膜の温度を150℃以上に設定し、且つ、最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気で前記金属薄膜上に非晶質透明導電膜を成膜する初期製膜工程と、前記初期製膜工程後、酸化雰囲気にて非晶質透明導電膜を成膜する後期成膜工程と、を含み、前記最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気は、前記初期成膜工程にのみ適用することを特徴とする(11)記載の非晶質透明導電膜積層体の製造方法である。
【0049】
このように、成膜初期のみを還元雰囲気とし、その後酸化雰囲気で成膜することにより、より透明性の高い透明導電膜が得られる。ここでいう還元雰囲気とは、最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気を意味し、必ずしも発明(9)(10)に示したような強い還元雰囲気にする必要はない。
【0050】
(13)また、本発明は、前記成膜工程における150℃以上の基板温度又は金属薄膜の温度設定を、180℃以上にしたことを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載の非晶質透明導電膜又は非晶質透明導電膜積層体の製造方法である。
【0051】
成膜基板又は成膜のための金属薄膜の温度を180℃以上にすることによって、表面粗さの最大値Rmaxが10nm以上の透明導電膜がより容易に得られる。
【発明の効果】
【0052】
このように、本発明によれば、表面粗さを所定以上の値にしたので、表面平滑性を制御した透明導電膜を得ることができる。この結果、他の部材との接触抵抗を低減した非晶質透明導電膜を得ることができる。また、アンカー効果の強化を図れるので耐久性が向上した非晶質透明導電膜を得ることができる。
【0053】
さらに、この透明導電膜を得るための製造方法を実現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0055】
「実施の形態1」
酸化インジウム−酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットを用いて、ガラス基板上に成膜を行う。
【0056】
上述した酸化インジウム−酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲット中のインジウムの組成比率は[In]/([In]+[Zn])=0.83であり、89.3wt%である。一方、スパッタリングターゲット中の亜鉛の組成比率は[Zn]/([In]+[Zn])=0.17であり、10.7wt%である。このスパッタリングターゲットの密度は、6.84g/ccである。
【0057】
スパッタリングによって基板上に非晶質透明導電膜を形成するが、その基板としてはガラス基板を用いた。そして、本実施の形態1においては、ガラス基板の上に所定の金属薄膜をスパッタリングによって形成し、この金属薄膜上にさらにスパッタリングによって非晶質透明導電膜を作成した。金属薄膜は室温成膜で形成した。金属としては、Al、Cr、Mo、Tiをそれぞれ用いた。
【0058】
(1−1) 金属薄膜のスパッタリング
金属薄膜を室温で形成するスパッタリングの条件は、Al、Cr、Mo、Tiの全ての場合で共通であり、以下の通りである。
【0059】
・到達真空度:0.0001Pa以下
・成膜温度 :室温
・膜圧 :200nm
(1−2) 非晶質透明導電膜のスパッタリング
また、酸化インジウム−酸化亜鉛スパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜を形成する場合のスパッタリングの条件は、以下の通りである。
【0060】
・到達真空度:0.0001Pa以下
・成膜温度 :150℃
・膜圧 :200nm
・雰囲気 :100%アルゴン雰囲気
(1−3) 作成した非晶質透明導電膜の特性
このような条件で、ガラス基板上に、金属薄膜、及び、非晶質透明導電膜、を順次スパッタリングによって形成した。そして、形成した非晶質透明導電膜の特性を測定した。測定結果は、表1に示されている。
【0061】
この表1には、金属薄膜がAlの場合(実施例1)、Crの場合(実施例2)、Moの場合(実施例3)、Tiの場合(実施例4)について金属表面の粗さ、その上に成膜した金属酸化物の表面粗さについて記載されている。
【0062】
【表1】

【実施例1】
【0063】
金属薄膜がAlの場合、金属表面の平均粗さ(Ra)は1.24nmであり、金属表面の最大粗さ(Rmax)は、9.2nmである。また、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は1.36nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は18.2nmである。金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、10nm以上である(表1参照)。
【実施例2】
【0064】
金属薄膜がCrの場合、金属表面の平均粗さ(Ra)は0.72nmであり、金属表面の最大粗さ(Rmax)は、7.8nmである。また、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は0.94nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は12.4nmである。この場合も、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、10nm以上である(表1参照)。
【実施例3】
【0065】
金属薄膜がMoの場合、金属表面の平均粗さ(Ra)は0.68nmであり、金属表面の最大粗さ(Rmax)は、6.4nmである。また、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は0.71nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は15.6nmである。この場合も金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、10nm以上である(表1参照)。
【実施例4】
【0066】
金属薄膜がTiの場合、金属表面の平均粗さ(Ra)は0.81nmであり、金属表面の最大粗さ(Rmax)は、8.6nmである。また、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は0.97nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は14.7nmである。本実施例の場合も金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、10nm以上である(表1参照)。
【0067】
「実施の形態2」
本実施の形態2においては、酸化インジウム−酸化亜鉛−及び各種金属酸化物からなるスパッタリングターゲットを用いて、ガラス基板上に成膜を行う。
【0068】
上述した酸化インジウム−酸化亜鉛−及び各種金属酸化物のそれぞれの比率は、表2に示されている。なお、このスパッタリングターゲットの密度は、6.65g/ccである。
【0069】
スパッタリングによって基板上に非晶質透明導電膜を形成するが、その基板としてはガラス基板を用いた。そして、本実施の形態2においては、ガラス基板の上に上記実施例2と同様にCrの金属薄膜をスパッタリングによって形成し、このCr金属薄膜上にさらにスパッタリングによって非晶質透明導電膜を作成した。Cr金属薄膜は室温成膜で形成した。
【0070】
(2−1) Crのスパッタリング
Cr金属薄膜を室温で形成するスパッタリングの条件は、以下の通りである。
【0071】
・到達真空度:0.0001Pa以下
・成膜温度 :室温
・膜圧 :200nm
(2−2) 非晶質透明導電膜のスパッタリング
また、酸化インジウム−酸化亜鉛にさらに第3の金属を加えた組成によるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜を形成する場合のスパッタリングの条件は、以下の通りである。
【0072】
・到達真空度:0.0001Pa以下
・成膜温度 :150℃
・膜圧 :200nm
・雰囲気 :100%アルゴン雰囲気
このような条件で、ガラス基板上に、Cr金属薄膜、及び、非晶質透明導電膜、を順次スパッタリングによって形成した。そして、形成した非晶質透明導電膜の特性を測定した。測定結果は、表2に示されている。なお、本特許で第3の金属とは、亜鉛、スズに続く第3番目の金属という意味であり、要するに他の金属という意味である。
【0073】
(2−3) 作成した非晶質透明導電膜の特性
この表2に示すように、第3斤属して加える種々の物質によって、成膜した金属酸化物の表面粗さは種々異なる結果となった。なお、表2に示す実施例は、全てCr金属薄膜をガラス基板上に設けているので、金属表面の平均粗さ(Ra)や最大粗さ(Rmax)は、全ての実施例(5−9)で共通である。
【0074】
【表2】

【実施例5】
【0075】
Inの割合が85wt%、ZnOの割合が10wt%、SnOの割合が5wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、1.18nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、15.2nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【実施例6】
【0076】
Inの割合が91wt%、ZnOの割合が6wt%、SnOの割合が3wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、1.24nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、17.5nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【実施例7】
【0077】
Inの割合が91wt%、ZnOの割合が7wt%、Gaの割合が2wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、0.97nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、14.6nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【実施例8】
【0078】
Inの割合が91wt%、ZnOの割合が7wt%、GeOの割合が2wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、1.18nmであり、、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、15.2nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【実施例9】
【0079】
Inの割合が90wt%、ZnOの割合が8wt%、Laの割合が2wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、0.93nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、15.4nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【実施例10】
【0080】
Inの割合が90wt%、ZnOの割合が7wt%、GeOの割合が3wt%であるスパッタリングターゲットを用いて非晶質透明導電膜をCr金属薄膜上に成膜した。この結果、金属酸化物表面の平均粗さ(Ra)は、0.96nmであり、金属酸化物表面の最大粗さ(Rmax)は、14.8nmであった。これは10nm以上である(表2参照)。
【0081】
「実施の形態3」
次に、上記本実施の形態1や2において作成した非晶質透明導電膜のプローブに対する接触抵抗の値を計測し、従来の技術による非晶質透明導電膜と比較した。このプローブは検査用のプローブを用いて実験したが、他の種類のプローブでもよい。そして、対象となる非晶質透明導電膜にプローブを複数回接触させ、接触の回数によって接触抵抗がどのように変化するかを検査した。
【0082】
図1において、本発明に係る実施例の抵抗は、◆で表されており、この実施例は、上記実施例5で作成した非晶質透明導電膜である。また、図1における従来の技術による比較例の抵抗は■で表されており、この比較例は、上記特許文献1に記載されている方法で作成された非晶質透明導電膜である。そして、この図に示されているグラフは、横軸が接触回数であり、縦軸が接触抵抗をそれぞれ表す。
【0083】
この図1のグラフに示されているように、本発明の実施例で作成した非晶質透明導電膜は接触回数が増えても100Ω未満の接触抵抗を維持しているが(◆参照)、従来の技術による比較例の非晶質透明導電膜においては、ばらつきはあるものの接触回数の増加と共に接触抵抗が漸増していく様子がグラフから理解される。また、接触回数が少ない場合においても、本実施例に係る非晶質透明導電膜の方が、従来技術に係る比較例の非晶質透明導電膜より、接触抵抗の値が小さいことがグラフから読みとれる。
【0084】
このように、本発明の実施例に係る非晶質透明導電膜は、従来に比べて、接触抵抗の値が小さくなると共に、耐久性が向上することがいえる。
【0085】
「実施の形態4」
図2には、非晶質透明導電膜の接触抵抗の値及び耐久性を検査するための他の実験結果を示すグラフが掲げられている。このグラフは、異方導電フィルム(ACF)との接触抵抗を測定したグラフである。本発明の実施例5に係る非晶質透明導電膜を異方導電フィルムと接続(接触)して、実際に信号を印加して接触抵抗の変化を検査した。これがグラフ中、◆で表されている。また、従来の技術による比較例の非晶質透明導電膜についても同様に異方導電フィルムと接続(接触)して、実際に信号を印加して接触抵抗の変化を検査した。これがグラフ中、■で表されている。
【0086】
この図2のグラフは、横軸が接続(接触)時間(hour)を表し、縦軸が抵抗値(Ω)をそれぞれ表す。
【0087】
このグラフに示されているように、長時間が経過しても本実施例に係る非晶質透明導電膜は異方導電フィルムとの低い接触抵抗を維持しているのに対し、従来の技術による比較例の非晶質透明導電膜は時間の経過と共に抵抗値が漸増している。また、抵抗値の絶対に関しても、本実施例に係る非晶質透明導電膜の方が、比較例よりも低い値を示している。
【0088】
このように本実施の形態によれば、本発明に係る非晶質透明導電膜は、異方導電フィルムとの関係においても、低い接触抵抗を実現すると共に、その低い接触抵抗を長時間維持できることが確認された。
【0089】
まとめ
以上述べたように、上記各実施の形態によって、表面粗さの最大値(Rmax)が10nm以上である非晶質透明導電膜を提案した。この非晶質透明導電膜は、プローブに対してもまた異方導電フィルムに対しても低い接触抵抗を示し、且つ、その低い値を長期間維持できることを説明した。また、上記各実施の形態によって、非晶質透明導電膜と金属薄膜とを積層した積層体についても同様である。なお、上記実施の形態における非晶質透明導電膜は、導電性だけでなく光透過率にも優れていることを確認した。
【0090】
さらに、上記の説明では、各実施の形態を通じて、これらの製造方法についても説明をした。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本実施の形態に係る非晶質透明導電膜とプローブとの接触抵抗を検査したグラフである。
【図2】本実施の形態に係る非晶質透明導電膜と異方導電フィルムとの接触抵抗を検査したグラフである。
【符号の説明】
【0092】
■ 比較例の抵抗値を表すグラフの点である。
◆ 実施例の抵抗値を表すグラフの点である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さの最大値であるRmaxの値が、10nm以上であることを特徴とする非晶質透明導電膜。
【請求項2】
前記非晶質透明導電膜の組成が、酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の非晶質透明導電膜。
【請求項3】
酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする前記非晶質透明導電膜のインジウム原子と亜鉛原子の比率である[In]/([In]+[Zn])が、0.2〜0.95の範囲の値であることを特徴とする請求項2記載の非晶質透明導電膜。ここで、[In]は、インジウムの原子の数を表し、[Zn]は亜鉛の原子の数を表す。
【請求項4】
酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする前記非晶質透明導電膜が、正三価以上の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非晶質透明導電膜。
【請求項5】
前記Rmaxが15nm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非晶質透明導電膜。
【請求項6】
前記Rmaxが20nm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非晶質透明導電膜。
【請求項7】
酸化インジウム−酸化亜鉛を含む非晶質透明導電膜であって、酸化インジウム−酸化亜鉛の組成が[In]/([In]+[Zn])=0.2〜0.95であり、表面粗さの最大値Rmaxが10nm以上である非晶質透明導電膜と、
金属薄膜と、
が積層されていることを特徴とする非晶質透明導電膜積層体。ここで、[In]は、インジウムの原子の数を表し、[Zn]は亜鉛の原子の数を表す。
【請求項8】
前記金属薄膜は、Al、Cr、Mo、Tiからなる群から選ばれる一種以上の金属の薄膜層を含むことを特徴とする請求項7記載の非晶質透明導電膜積層体。
【請求項9】
酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法を実行して請求項1〜6のいずれかに記載の非晶質透明導電膜を基板上に成膜する非晶質透明導電膜の製造方法において、
前記基板の温度を150℃以上に設定し、且つ、還元雰囲気で前記基板上に非晶質透明導電膜を成膜する成膜工程、
を含むことを特徴とする非晶質透明導電膜の製造方法。
【請求項10】
前記成膜工程が、
成膜初期に、前記基板温度を150℃以上に設定し、且つ、還元雰囲気で前記基板上に非晶質透明導電膜を成膜する初期製膜工程と、
前記初期製膜工程後、酸化雰囲気にて非晶質透明導電膜を成膜する後期成膜工程と、
を含むことを特徴とする請求項9記載の非晶質透明導電膜の製造方法。
【請求項11】
酸化インジウム−酸化亜鉛を主成分とする焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法を実行して非晶質透明導電膜を前記金属薄膜上に製膜する請求項7〜8のいずれかに記載の非晶質透明導電膜積層体の製造方法において、
前記非晶質透明導電膜を前記金属薄膜層上に成膜する際に、前記金属薄膜の温度を150℃以上に設定し、且つ、最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気で前記非晶質透明導電膜を成膜する成膜工程、
を含むことを特徴とする非晶質透明導電膜積層体の製造方法。
【請求項12】
前記成膜工程が、
成膜初期に、前記金属薄膜の温度を150℃以上に設定し、且つ、最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気で前記金属薄膜上に非晶質透明導電膜を成膜する初期製膜工程と、
前記初期製膜工程後、酸化雰囲気にて非晶質透明導電膜を成膜する後期成膜工程と、
を含み、前記最適酸素分圧未満の酸素分圧雰囲気は、前記初期成膜工程にのみ適用することを特徴とする請求項11記載の非晶質透明導電膜積層体の製造方法。
【請求項13】
前記成膜工程における150℃以上の基板温度又は金属薄膜の温度設定を、180℃以上にしたことを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の非晶質透明導電膜又は非晶質透明導電膜積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−134789(P2006−134789A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324617(P2004−324617)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】