説明

CNT入り配線材の製造方法およびスパッタリング用ターゲット材

【課題】配線パターンとなる金属材料中にCNTを均一に分散させると共に、配線パターンの電気導電率を向上させる。また、スパッタリングによって金属薄膜中にCNTを均一に分散混入するためのターゲット材を提供する。
【解決手段】絶縁性材料からなる基材8の表面にCNT入り金属層13を形成し、金属層13をパターンエッチングして配線パターンを形成する配線材の製造方法において、CNT入り金属層13をスパッタリング法により形成する。CNTとCuを同時にスパッタリングしてCNT入り金属層13を形成しているため、CNTをCu中に均一に混入できると共に、CNTとCu間の界面抵抗を低減でき配線の電気導電率が向上する。スパッタリング用ターゲット材10としては、CuにCNTが含まれたターゲット材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の基材表面に配線パターンが形成された配線材の製造方法に関するものであり、特に、配線パターンとなる金属材料中にCNTを混入した配線材の製造方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は、スパッタリング用ターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ(本出願では、CNTと称する)は、電気導電性、熱伝導性、機械特性等の特性に極めて優れており、様々な用途に用いられようとしている。その一つの用途として、絶縁性の基材上に金属材料からなる配線パターンを形成した配線材がある。この配線材の金属材料中に、CNTを混入させることにより、エレクトロマイグレーション耐性および電気導電率を向上させ、配線パターンの線幅を縮小させることが試みられている。そのためには、配線パターンの金属材料中にCNTが均一に分散されている必要がある。なお、エレクトロマイグレーションとは、配線中を流れる電子が配線金属原子に衝突して金属原子が移動し、配線が断線故障にいたる現象である。
【0004】
従来は、金属材料中にCNTを均一に混入する製造方法として、金属めっき液中に分散剤とCNTを添加して、該分散剤により金属めっき液中にCNTを分散させ、金属めっきを施すことにより、基材表面にCNTが均一に混入された金属めっき皮膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、上記分散剤としては、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤が挙げられている。
【特許文献1】特開2004−162115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の製造方法であると、製造された金属めっき皮膜は、CNTと金属材料の界面に分散剤が介在しているため、CNTと金属材料間の界面抵抗が増大し、電気導電率が期待以上に高くならないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決し、配線パターンとなる金属材料中にCNTを均一に分散させると共に、配線パターンの電気導電率を向上させたCNT入り配線材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、スパッタリングによって金属薄膜中にCNTを均一に分散混入するためのスパッタリング用ターゲット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のCNT入り配線材の製造方法は、基材表面に、CNTと金属材料を同時にスパッタリングして、CNTが混入された金属層を形成し、当該金属層をパターンエッチングして配線パターンを形成することにある。
【0009】
前記スパッタリングは、金属材料にCNTが含まれたターゲット材を用いてスパッタリングすることが好ましい。
【0010】
前記スパッタリングは、金属材料のターゲット材とCNTのターゲット材を用いてスパッタリングしても良い。
【0011】
前記金属材料は、Al、Cu、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiの少なくとも1以上を含む材料であるのが好ましい。
【0012】
また、本発明のスパッタリング用ターゲット材は、金属材料にCNTが含まれていることにある。
【0013】
前記金属材料は、Al、Cu、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiの少なくとも1以上を含む材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のCNT入り配線材の製造方法によれば、従来のように分散液(界面活性剤)を用いなくてもCNTを金属材料中に均一に混入できるので、CNTと金属材料間の界面抵抗を低減でき電気導電率が向上する。
【0015】
これにより、配線パターンとなる金属材料中にCNTを均一に分散させると共に、配線パターンの電気導電率を向上させることが可能となる。また、CNTの混入による、エレクトロマイグレーション耐性および熱伝導性の向上という効果も合わさり、配線パターンの線幅の縮小化を実現できる。
【0016】
本発明のスパッタリング用ターゲット材によれば、既存のスパッタリング装置に本発明のターゲット材を用いるだけで新たな製造設備を必要とせず電気導電性およびCNTの均一分散性に優れたCNT混入金属薄膜を成膜することができるので、大幅なコストアップなしに特性の優れたCNT混入金属薄膜を提供できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のCNT入り配線材の製造方法の一実施形態を説明する。
【0018】
本発明は、絶縁性材料からなる基材の表面にCNT入り金属層を形成し、当該金属層をパターンエッチングして配線パターンを形成する配線材の製造方法において、前記CNT入り金属層をスパッタリング法により形成したことに特徴がある。CNTと金属材料を同時にスパッタリングしてCNT入り金属層を形成しているため、分散液(界面活性剤)を用いなくてもCNTを金属材料中に均一に混入でき、CNTと金属材料間の界面抵抗を低減でき配線の電気導電率が向上する。
【0019】
スパッタリング用ターゲット材としては、金属材料にCNTが含まれたターゲット材を用いることが好ましいが、金属材料のターゲット材とCNTのターゲット材を用いてスパッタリングするようにしても良い。
【0020】
前記金属材料は、Al、Cu、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiの少なくとも1以上を含む材料であるのが好ましい。なお、本明細書で言うところの金属材料とは、本発明の趣旨からして、CNT以外の金属材料という意味である。
【0021】
ここで、スパッタリング法とは、被膜する基材と負極となるターゲット材とを対向させ、負に帯電したターゲット材を含む容器内に不活性ガスを流し、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット材表面に衝突してターゲット構成原子または分子を叩きだし、この飛び出した原子または分子が対向する基材表面に付着して膜が形成されるというものである。
【0022】
CNTは、その構造の違いによって電子状態が変化し、金属から種々の大きさのバンドギャップを持つ半導体まで、その性質が変化することから、本発明で用いるCNTは、半導体ではなく金属の性質を持つCNTであることが好ましく、CNT全体の中に金属の性質を持つCNTが多く含まれている方が望ましい。
【実施例1】
【0023】
本発明のCNT入り配線材の製造方法に係る、基材表面にCNT入り金属層を成膜するためのスパッタリング装置の一実施例を説明する。
【0024】
図1は、スパッタリング装置の一実施例を示す模式図である。このスパッタリング装置1は、真空槽2を有している。真空槽2には、真空槽2外部に配置された真空ポンプ3からなる排気系が接続されており、真空ポンプ3を起動することにより、真空槽2の内部を減圧し、真空排気することができるように構成されている。
【0025】
真空槽2外部には、ガス導入系4が配置されている。ガス導入系4は、ガスボンベ5を有し、ガスボンベ5は配管により真空槽2に接続されている。ガスボンベ5中にはスパッタガスとして、不活性ガスが注入されており、例えばアルゴンガスが入れられている。ガスボンベ5から真空槽2までの配管の途中にはマスフロコントローラ6が設けられており、アルゴンガスはマスフロコントローラ6で流量が調整された後に、真空槽2内部に導入されるように構成されている。
【0026】
真空槽2の内部下側には試料台7が設けられている。試料台7の表面は、プラスチックからなる基材8を載置できるように平坦になっている。
【0027】
真空槽2の内部天井側には、ターゲット電極9が、真空槽2と絶縁された状態で試料台7と対向して配置されている。ターゲット電極9の、試料台7と対向する側の一表面には、ターゲット材10が配置されている。このターゲット材10は、Cu材料中にCNTを混入させた構成をなしている。ターゲット材10の試料台7と対向する側とは反対側には、マグネット12を配置している。このマグネット12は、ターゲット材10の表面に磁界を印加して、ターゲット材10付近に高密度プラズマを生成させ、成膜速度を高速化させるためである。
【0028】
真空槽2の外部には、高周波電源11が配置され、高周波電源11には、上述したターゲット電極9と試料台7とが接続されている。真空槽2は接地され、また上述したようにターゲット電極9と真空槽2とは絶縁されており、高周波電源11を起動すると、ターゲット電極9に負の電圧を印加することができるように構成されている。
【0029】
上記構成のスパッタリング装置1を用いて、基材8の表面にCNT入り金属層13を成膜する方法について以下説明する。
【0030】
まず、真空ポンプ3を起動して、真空槽2内部を真空排気する。ここでは、真空槽2の内部圧力が1×10-4Paになるようにしている。
【0031】
次に、真空槽2内部の圧力を維持しながら基材8を真空槽2内部に導入し、試料台7上に載置する。次に、ガス導入系4を起動し、スパッタガスを真空槽2内に導入する。ここではスパッタガスとしてアルゴンガスを導入し、真空槽2内部の圧力が2Paになるようにしている。
【0032】
この状態で高周波電源11を起動し、スパッタ電極9に負の電圧を印加する。すると、真空槽2の内部に電気放電が生じ、プラズマ化した陽イオンであるAr+が存在するようになり、その陽イオンが負電圧により加速されてターゲット材10に衝突し、衝突により弾き出されたターゲット材10の原子あるいは分子が、試料台7上の基材8表面に被着して、基材8上に金属層13を薄膜形成する。ターゲット材10は、CNTを混入させたCuの金属材料で構成されているため、CNTとCuが同時にスパッタされることになる。これにより、基材8の表面に形成される金属層13は、薄膜状のCu層中にCNTが均一に分散された構成となる。
【実施例2】
【0033】
図2は、他のスパッタリング装置の例を示した模式図である。実施例1のスパッタリング装置と異なるところは、ターゲット材を、CNTの材料からなるターゲット材と、金属材料からなるターゲット材に分けて設置した点にある。実施例1で説明した部材と同等の部材には同じ付番を付けたので、それらの部材については、説明を省略する。
【0034】
スパッタリング装置20の真空槽2の内部天井側には、2つのターゲット電極9が配置されている。各ターゲット電極9の試料台7と対向する側の一表面には、ターゲット材21とターゲット材22がそれぞれ配置されている。また、各ターゲット電極9には、それぞれ高周波電源11が個別に接続されており、独立して制御可能となっている。
【0035】
ターゲット材21は、CNTの材料から構成され、ターゲット材22は、Cuの金属材料から構成されている。
【0036】
以上の構成のスパッタリング装置20を用いて、基材8の表面にCNT入り金属層13を成膜するには、上記実施例1で述べたように、真空槽2内部を真空排気し、基材8を試料台7上に載置した後、スパッタガスを真空槽2内に導入する。
【0037】
この状態で2つの高周波電源11を起動し、2つのスパッタ電極9にそれぞれ負の電圧を印加する。これにより、2つのターゲット材21、22から、CNTの材料およびCuの金属材料がそれぞれスパッタされ、試料台7上の基材8の表面にそれらが被着して、基材8上にCNT入り金属層13を形成することができる。この金属層13は、実施例1と同様に、薄膜状のCu層中にCNTが均一に分散された構成を有している。
【0038】
上記実施例1および実施例2では、スパッタリング法として、マグネトロン方式を用いたが、これに限らず、基本的な方式である2極方式、2極法方式に熱電子を放出する熱陰極を追加した3極方式、高エネルギーのイオンビームをターゲットに照射するイオンビーム方式、2枚のターゲットを平行に対向させてこれらのターゲット材表面に垂直に磁界を印加する対向ターゲット方式、電子サイクロトロン共鳴(ECR)を利用するECR方式、ターゲット材と基材を同軸の円筒状に配置する同軸型スパッタリング方式、さらに反応性ガスを基板近傍に供給して成膜組成を制御する反応性スパッタリング方式など他の方式を用いてもよい。
【0039】
また、ターゲット材10、22の金属材料としてCuを挙げたが、これに限らず、Al、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiのいずれかでも同様にCNT入り金属層を形成できる。また、これらの金属元素を少なくとも1以上含んだ合金を上記金属材料に用いてもよい。基材8は、プラスチックを例として挙げたが、絶縁性のものであればよく、ガラス、セラミック等でもよい。
【実施例3】
【0040】
本発明のCNT入り配線材の製造方法に係る、CNTが混入された金属層をパターンエッチングして配線パターンを形成する工程の一実施例について説明する。
【0041】
実施例1または実施例2のようにして、基材8上にCNT入り金属層13を形成した後、図3に示すフォトリソグラフィ法を用いた配線パターンの形成工程により配線材を形成する。
【0042】
配線パターンの形成工程は、以下のようにして行う。
(工程A):上述した実施例1または実施例2のようにして基材8の表面にCNT入り金属層13を形成する。
(工程B):CNT入り金属層13上に感光性樹脂であるフォトレジストを塗布し、厚さ1μm程度のレジスト膜30を形成する。
(工程C):レジスト膜30を所定の回路パターンに対応させて露光し、現像液と反応させることによりレジスト膜30の露光部分を除去してエッチングレジストパターン31を形成する。なお、ここでは、所定の回路パターンの部分では光を透過し、且つそれ以外の部分では光を透過しないようなポジフィルム、あるいは、所定の回路パターンの部分では光を透過せず、且つそれ以外の部分では光を透過するようなネガフィルムなどから形成された回路パターンマスク(図示せず)が用いられる。この回路パターンマスクを、レジスト膜30に密着またはレジスト膜30上に所定間隔離して配置させ、その上から紫外光などの露光媒体を照射することによって、レジスト膜30が所定の回路パターンに対応して露光される。
(工程D):エッチングレジストパターン31をマスクにして、RIE(反応性イオンエッチング)を用いてCNT入り金属層13をエッチングし、配線パターン32を形成する。
(工程E):配線パターン32上の不要になったエッチングレジストパターン31を除去する。
【0043】
以上により、基材8上にCNT入り金属材料からなる配線パターン32が形成された配線材が形成される。
【実施例4】
【0044】
本発明の金属材料にCNTが含まれたスパッタリング用ターゲット材について、その製造方法の一実施例として、焼成法による製造法を説明する。
【0045】
本発明のターゲット材の製造工程を図4を用いて以下説明する。
【0046】
ターゲット材の原料となるCNTとCuのそれぞれの粉体を準備し、それぞれ所定量秤量する。ここでは、CNTを30重量%、Cuを70重量%の割合で配合した。なお、CNTの配合量としては、10重量%〜80重量%の範囲で金属材料中に配合するのが好ましい。これらの各原料を混合機により混合する。混合した粉体を成形金型に充填し、冷間静水圧プレスにより加圧・成形する。得られた成形物を金属缶に封入し熱間静水圧プレスにより焼成する。なお、ホットプレス(HP)を用いれば、上記の加圧・成形工程と燒結工程を一つの工程で行うことができる。得られた燒結体を所定の形状に機械加工してターゲット材が得られる。
【0047】
ここでは、ターゲット材の金属材料としてCuを挙げたが、これに限らず、Al、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiのいずれかの粉体でも同様にしてCNTが含まれたスパッタリング用ターゲット材を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のCNT入り配線材の製造方法に係る、基材表面にCNT入り金属層を成膜するためのCNT入りターゲット材を用いたスパッタリング装置の一実施例を示す模式図である。
【図2】本発明のCNT入り配線材の製造方法に係る、基材表面にCNT入り金属層を成膜するためのCNT材料と金属材料の2つのターゲット材を用いたスパッタリング装置の一実施例を示す模式図である。
【図3】本発明のCNT入り配線材の製造方法に係る、CNTが混入された金属層をパターンエッチングして配線パターンを形成する工程の説明図である。
【図4】本発明の金属材料にCNTが含まれたスパッタリング用ターゲット材について、その製造方法の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1、20 スパッタリング装置
2 真空槽
3 真空ポンプ
4 ガス導入系
5 ガスボンベ
6 マスフロコントローラ
7 試料台
8 基材
9 ターゲット電極
10、21、22 ターゲット材
11 高周波電源
12 マグネット
13 金属層
30 レジスト膜
31 エッチングレジストパターン
32 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、CNTと金属材料を同時にスパッタリングして、CNTが混入された金属層を形成し、当該金属層をパターンエッチングして配線パターンを形成することを特徴とするCNT入り配線材の製造方法。
【請求項2】
金属材料にCNTが含まれたターゲット材を用いてスパッタリングすることを特徴とする請求項1記載のCNT入り配線材の製造方法。
【請求項3】
金属材料のターゲット材とCNTのターゲット材を用いてスパッタリングすることを特徴とする請求項1記載のCNT入り配線材の製造方法。
【請求項4】
前記金属材料は、Al、Cu、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiの少なくとも1以上を含む材料であることを特徴とする請求項1記載のCNT入り配線材の製造方法。
【請求項5】
金属材料にCNTが含まれていることを特徴とするスパッタリング用ターゲット材。
【請求項6】
前記金属材料は、Al、Cu、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Fe、CrおよびTiの少なくとも1以上を含む材料であることを特徴とする請求項5記載のスパッタリング用ターゲット材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−80170(P2006−80170A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260373(P2004−260373)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】