説明

Cu膜の成膜方法および記憶媒体

【課題】平滑で高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができるCu膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】チャンバー1内にCVD−Ru膜を有するウエハWを収容し、チャンバー1内に、成膜中に発生する副生成物であるCu(hfac)の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体であるCu(hfac)TMVSからなる成膜原料を気相状態で導入して、Ru膜上にCVD法によりCu膜を成膜するにあたり、チャンバー1の壁部の温度を、副生成物であるCu(hfac)の蒸気圧が成膜処理時のチャンバー1内の圧力と等しくなる温度以上で成膜原料であるCu(hfac)TMVSの分解温度未満に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板等の基板にCVDによりCu膜を成膜するCu膜の成膜方法および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、半導体デバイスの高速化、配線パターンの微細化等に呼応して、Alよりも導電性が高く、かつエレクトロマイグレーション耐性等も良好なCuが配線、Cuメッキのシード層、コンタクトプラグの材料として注目されている。
【0003】
このCuの成膜方法としては、スパッタリングに代表される物理蒸着(PVD)法が多用されていたが、半導体デバイスの微細化にともなってステップカバレッジが悪いという欠点が顕在化している。
【0004】
そこで、Cu膜の成膜方法として、Cuを含む原料ガスの熱分解反応や、当該原料ガスの還元性ガスによる還元反応にて基板上にCuを成膜する化学気相成長(CVD)法が用いられつつある。このようなCVD法により成膜されたCu膜(CVD−Cu膜)は、ステップカバレッジ(段差被覆性)が高く、細長く深いパターン内への成膜性に優れているため、微細なパターンへの追従性が高く、配線、Cuメッキのシード層、コンタクトプラグの形成には好適である。
【0005】
このCVD法によりCu膜を成膜するにあたり、成膜原料(プリカーサー)にヘキサフルオロアセチルアセトナート・トリメチルビニルシラン銅(Cu(hfac)TMVS)等のCu錯体を用い、これを熱分解する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
一方、Cuの密着層やバリアメタルとして、CVD法によるRu膜(CVD−Ru膜)を用いる技術が知られている(特許文献2)。CVD−Ru膜は、ステップカバレッジが高く、Cu膜との密着性も高いため、Cuの密着層やバリアメタルに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−282242号公報
【特許文献2】特開平10−229084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CVD−Cu膜の成膜原料として上述したCu(hfac)TMVSのような1価のジケトン系錯体を用いる場合には、CVD−Cu膜の成膜中に成膜原料よりも蒸気圧が低い副生成物が発生し、この副生成物が成膜表面に吸着する。このため、成膜表面であるRu膜表面は被毒により化学的活性が低下し、Cu原料の吸着阻害およびCu膜とRu膜との間の濡れ性低下が発生する。その結果、Cuの初期核密度が低下し、Cu膜の表面性状が悪化し(粗表面形状化)、Cu膜の品質低下が生じ、かつCu膜とRu膜との密着性が低下してしまう。このような問題は、成膜表面としてCVD−Ru膜以外の膜を用いた場合にも少なからず発生する。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、平滑で高品質のCVD−Cu膜を下地に対して高い密着性をもって成膜することができるCu膜の成膜方法を提供することを目的とする。
また、そのような成膜方法を実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低い成膜原料を用いた場合に、副生成物の吸着によってCu原料の吸着阻害およびCu膜と下地との間の濡れ性低下が発生するメカニズムについて検討した。その結果、成膜原料よりも蒸気圧の低い副生成物は、処理容器の壁部に吸着しやすく、処理容器の壁部に吸着した副生成物成分が成膜の際に気化して処理容器内の気相中に多量の副生成物が発生し、その多量の副生成物が基板表面に吸着することにより、Cu原料の吸着阻害およびCu膜と下地との間の濡れ性低下が発生することが判明した。このことを基にさらに検討を重ねた結果、成膜の際に処理容器の壁部の温度を副生成物の蒸気圧が成膜処理時の処理容器内圧力と等しくなる温度以上で成膜原料の分解温度未満に制御することにより、処理容器内での成膜原料の分解を抑制しつつ副生成物の処理容器内壁への吸着が防止され、成膜中に吸着した副生成物が気化したり処理容器内で成膜原料が分解して気相中に生成する副生成物の量を抑制することができ、副生成物が基板上の下地膜に吸着することによるCu原料の吸着阻害およびCu膜と下地との間の濡れ性低下が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、処理容器内に基板を収容し、前記処理容器内に、成膜中に発生する副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体からなる成膜原料を気相状態で導入して、基板上にCVD法によりCu膜を成膜するにあたり、前記処理容器の壁部の温度を、副生成物の蒸気圧が成膜処理時の処理容器内圧力と等しくなる温度以上で前記成膜原料の分解温度未満に制御することを特徴とするCu膜の成膜方法を提供する。
【0012】
本発明において、前記Cu錯体としては1価のβ−ジケトン錯体を用いることができる。その中ではヘキサフルオロアセチルアセトナート・トリメチルビニルシラン銅(Cu(hfac)TMVS)を好適なものとして挙げることができ、前記副生成物は、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(Cu(hfac))である。この場合には、前記処理容器の壁部の温度は、75℃以上100℃未満であることが好ましい。
【0013】
前記基板として、表面にCVD法により成膜したRu膜を有するものを用い、そのRu膜の上にCu膜を成膜することが好ましい。前記Ru膜としては、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜されたものが好適である。前記Ru膜は拡散防止膜の全部または一部として用いることができる。この場合に、前記拡散防止膜は、前記Ru膜の下層として、高融点材料膜を有するものとすることができる。前記高融点材料膜としては、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、および酸化マンガンのいずれかからなるものを用いることができる。
【0014】
得られたCu膜は、配線材として用いてもよいし、Cuメッキのシード膜として用いてもよい。
【0015】
本発明はまた、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板表面への副生成物の吸着を抑制することができるので、Cu原料の吸着阻害およびCu膜と下地との間の濡れ性低下を抑制することができる。このため、基板上に平滑で高品質のCVD−Cu膜を高い密着性をもって成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のCu膜の成膜方法を実施する成膜装置の構成の一例を示す略断面である。
【図2】本発明のCu膜の成膜方法が適用される基板である半導体ウエハの構造を示す断面図である。
【図3】従来のCu膜の成膜方法におけるチャンバー内の状態を説明するための模式図である。
【図4】本発明のCu膜の成膜方法におけるチャンバー内の状態を説明するための模式図である。
【図5】図2の構造の半導体ウエハに対してCVD−Cu膜を配線材として形成した状態を示す断面図である。
【図6】図2の構造の半導体ウエハに対してCVD−Cu膜をCuメッキのシード膜として形成した状態を示す断面図である。
【図7】図5の構造の半導体ウエハに対してCMPを行った状態を示す断面図である。
【図8】図6の構造の半導体ウエハに対してCuメッキを施した状態を示す断面図である。
【図9】図8の構造の半導体ウエハに対してCMPを行った状態を示す断面図である。
【図10】本発明のCu膜の成膜方法が適用される基板である半導体ウエハの他の構造を示す断面図である。
【図11】実施例の方法により成膜したCu膜を示す走査型顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】比較例の方法により成膜したCu膜を示す走査型顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
<本発明の成膜方法を実施するための成膜装置の構成>
図1は、本発明の成膜方法を実施する成膜装置の構成の一例を示す略断面である。
この成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板である半導体ウエハWを水平に支持するためのサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2はAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられており、熱電対7の信号はヒーターコントローラ8に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ8は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。
【0020】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜用のガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その上部には、成膜原料ガスとして熱分解して生成される副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体、例えば1価のβ−ジケトン錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナート・トリメチルビニルシラン銅(Cu(hfac)TMVS)が導入される第1の導入路11と、チャンバー1内に希釈ガスが導入される第2の導入路12とを有している。この希釈ガスとしては、ArガスまたはHガスが用いられる。
【0021】
シャワーヘッド10の内部には上下2段に空間13、14が設けられている。上側の空間13には第1の導入路11が繋がっており、この空間13から第1のガス吐出路15がシャワーヘッド10の底面まで延びている。下側の空間14には第2の導入路12が繋がっており、この空間14から第2のガス吐出路16がシャワーヘッド10の底面まで延びている。すなわち、シャワーヘッド10は、成膜原料としてのCu錯体ガスと希釈ガスとがそれぞれ独立して吐出路15および16から吐出するようになっている。
【0022】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0023】
チャンバー1の側壁には、ウエハ搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブGとが設けられている。
【0024】
ガス供給機構30は、熱分解して生成される副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体、例えば液体状の1価のβ−ジケトン錯体であるCu(hfac)TMVSを成膜原料として貯留する成膜原料タンク31を有している。成膜原料を構成するCu錯体としては、Cu(hfac)MHY、Cu(hfac)ATMS、Cu(hfac)DMDVS、Cu(hfac)TMOVS、Cu(hfac)COD等の他の1価のβ−ジケトン錯体を用いることができる。用いる1価のCu錯体が常温で固体である場合には、溶媒に溶かした状態で成膜原料タンク31に貯留することができる。
【0025】
成膜原料タンク31には、上方からHeガス等の圧送ガスを供給するための圧送ガス配管32が挿入されており、圧送ガス配管32はバルブ33が介装されている。また、成膜原料タンク31内の成膜原料には原料送出配管34が上方から挿入されており、この原料送出配管34の他端には気化器37が接続されている。原料送出配管34にはバルブ35および液体マスフローコントローラ36が介装されている。そして、圧送ガス配管32を介して成膜原料タンク31内に圧送ガスを導入することで、成膜原料タンク31内のCu錯体、例えばCu(hfac)TMVSが液体のまま気化器37に供給される。このときの液体供給量は液体マスフローコントローラ36により制御される。気化器37には、キャリアガスとしてArまたはH等を供給するキャリアガス配管38が接続されている。キャリアガス配管38には、マスフローコントローラ39およびマスフローコントローラ39を挟んで2つのバルブ40が設けられている。また、気化器37には、気化されたCu錯体をシャワーヘッド10に向けて供給する成膜原料ガス供給配管41が接続されている。成膜原料ガス供給配管41にはバルブ42が介装されており、その他端はシャワーヘッド10の第1の導入路11に接続されている。そして、気化器37で気化したCu錯体がキャリアガスにキャリアされて成膜原料ガス供給配管41に送出され、第1の導入路11からシャワーヘッド10内に供給される。気化器37および成膜原料ガス供給配管41およびキャリアガス配管の下流側のバルブ40までの部分には、成膜原料ガスの凝縮防止のためのヒーター43が設けられている。ヒーター43にはヒーター電源(図示せず)から給電され、コントローラ(図示せず)により温度制御されるようになっている。
【0026】
シャワーヘッド10の第2の導入路12には、希釈ガスを供給する希釈ガス供給配管44が接続されている。この希釈ガス供給配管44にはバルブ45が介装されている。そして、この希釈ガス供給配管44を介して第2の導入路12からシャワーヘッド内に、希釈ガスとしてArガスまたはHガスが供給される。
【0027】
チャンバー1の壁部にはヒーター46が設けられており、このヒーター46にはヒーター電源47が接続されている。一方、チャンバー1の壁部には熱電対48が埋設されており、熱電対48の信号はヒーターコントローラ49に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ49は熱電対48の信号に応じてヒーター電源47に指令を送信し、ヒーター46の加熱を制御してチャンバー1の内壁の温度を、副生成物の蒸気圧が成膜処理時のチャンバー1内の圧力と等しくなる温度以上で成膜処理時のチャンバー1内における副生成物の蒸気圧温度以上でかつ成膜原料の分解温度より低い温度に制御するようになっている。
【0028】
成膜装置100は制御部50を有し、この制御部50により各構成部、例えばヒーター電源6、排気装置23、マスフローコントローラ36,39、バルブ33,35,40,42,45等の制御やヒーターコントローラ8を介してのサセプタ2の温度制御、ヒーターコントローラ49を介してのチャンバー1の内壁の温度制御等を行うようになっている。この制御部50は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース52は、プロセスコントローラ51に接続されており、オペレータが成膜装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置100の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続されており、この記憶部53には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0029】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0030】
<本発明の実施形態に係るCu膜の成膜方法>
次に、以上のように構成された成膜装置を用いた本実施形態のCu膜の成膜方法について説明する。
【0031】
ここでは、成膜中に発生する副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低くなる成膜原料としてCu(hfac)TMVSを用いた場合を例にとって説明する。
【0032】
また、ここでは、CVD法により成膜されたRu膜(CVD−Ru膜)の上にCVD法によりCu膜(CVD−Cu膜)を成膜する。例えば、図2に示すように、CVD−Ru膜102を介して下層のCu配線層101が形成された下層の配線絶縁層103の上に、キャップ絶縁膜104を介して層間絶縁膜105が形成され、その上にハードマスク層106を介して上層の配線絶縁層107が形成され、ハードマスク層106、層間絶縁膜105、キャップ絶縁膜104を貫通し、下層のCu配線層101に達するビアホール108が形成され、上層配線絶縁層107に配線溝であるトレンチ109が形成され、さらにビアホール108とトレンチ109の内壁および上層の配線絶縁層107の上にバリア層(拡散防止層)としてCVD−Ru膜110が形成されたウエハWに対し、CVD−Cu膜を成膜する。
【0033】
CVD−Ru膜は、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜したものであることが好ましい。これにより、高純度のCVD−Ruを得られるため、清浄かつ強固なCuとRuの界面を形成することができる。CVD−Ru膜を成膜する装置としては、常温で固体であるRu(CO)12を加熱して発生した蒸気を供給するようにした以外は、図1の装置と同様に構成されたものを用いることができる。
【0034】
Cu膜の成膜に際しては、まず、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置により上記構成のウエハWをチャンバー1内に導入し、サセプタ2上に載置する。次いで、チャンバー1内を排気装置23により排気してチャンバー1内の圧力を
1.33〜266.6Pa(10mTorr〜2Torr)とし、ヒーター5によりサセプタ2を150〜200℃に加熱し、キャリアガス配管38、気化器37、成膜原料ガス配管41、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内に100〜1500mL/min(sccm)の流量でキャリアガスを供給し、さらに0〜1500mL/min(sccm)程度の希釈ガスを希釈ガス供給配管44、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内に導入して安定化を行う。
【0035】
安定化を所定時間行って条件が安定した時点で、キャリアガスおよび希釈ガスを供給した状態のまま、液体のCu(hfac)TMVSを50〜70℃の気化器37で気化させてチャンバー1内に導入しCu膜の成膜を開始する。このときの流量は、液体として100〜500mg/min程度とする。
【0036】
成膜原料であるCu(hfac)TMVSは、サセプタ2のヒーター5により加熱された被処理基板であるウエハW上で以下の(1)式に示す反応により分解し、Ru膜の上にCu膜が成膜される。
2Cu(hfac)TMVS→Cu+Cu(hfac)+2TMVS…(1)
【0037】
ところで、このとき副生成物として発生するCu(hfac)は、蒸気圧が成膜原料であるCu(hfac)TMVSよりも低い。したがって、チャンバー1の温度が低いと容易にチャンバー1の内壁に吸着する。チャンバー1の内壁にCu(hfac)が吸着した状態で成膜処理を行うと、図3に示すように、チャンバー1の内壁から気化したCu(hfac)がチャンバー1内の気相中に存在することとなる。また、成膜の際に供給されたCu(hfac)TMVSの一部も気相中で分解してCu(hfac)が発生する。このため、チャンバー1内の気相中には多量のCu(hfac)が存在することとなり、Cu(hfac)がCVD−Ru膜110の表面に吸着する。
【0038】
このようにCu(hfac)がCVD−Ru膜110の表面に吸着すると、Ru膜表面は被毒により化学的活性が低下し、Cu(hfac)TMVSの吸着阻害およびCu膜とRu膜との間の濡れ性低下が発生する。その結果、Cuの初期核密度が低下し、Cu膜の表面性状が悪化し(粗表面形状化)、Cu膜の品質低下が生じ、かつCu膜とRu膜との密着性が低下してしまう。
【0039】
そこで、本実施形態では、ヒーター46によりチャンバー1の壁部を加熱し、チャンバー1の内壁温度Tが、副生成物の蒸気圧が成膜処理時のチャンバー1内の圧力と等しくなる温度T以上の温度になるように制御する。ただし、チャンバー1の内壁の温度がCu(hfac)TMVSの分解温度T以上となると、成膜時にCu(hfac)TMVSがチャンバー1の内壁で分解してしまい、ウエハW表面でのCu膜成膜反応に寄与する量が減少してしまう。このため、チャンバー1の内壁の温度をCu(hfac)TMVSの分解温度よりも低い温度となるように制御する。つまり、T≦T<Tとする。
【0040】
具体的には、Cu(hfac)は成膜時の圧力では75℃で気化し、Cu(hfac)TMVSは100℃で分解するので、チャンバー1の壁面の温度Tを、
75≦T(℃)<100
とする。
【0041】
これにより、図4に示すように、チャンバー1内でのCu(hfac)TMVSの分解を抑制しつつCu(hfac)のチャンバー1内壁への吸着が防止され、チャンバー1内壁に吸着したCu(hfac)が気化したりチャンバー1内でCu(hfac)TMVSが分解して気相中に生成するCu(hfac)の量を抑制することができる。このため、Cu(hfac)がCVD−Ru膜110に吸着することによるCu(hfac)TMVSの吸着阻害およびCu膜とRu膜との間の濡れ性低下が抑制される。このため、CVD−Ru膜110の上に平滑で高品質のCVD−Cu膜を高い密着性をもって成膜することができる。
【0042】
この際に、CVD−Cu膜を配線材として用いることもできるし、Cuメッキのシード層として用いることもできる。CVD−Cu膜を配線材として用いる場合には、図5に示すように、ビアホール108およびトレンチ109をすべて埋まるまでCVD−Cu膜111を成膜して、配線およびプラグをすべてCVD−Cu膜111で形成する。また、Cuメッキのシード膜として用いる場合には、図6に示すように、CVD−Cu膜111をCVD−Ru膜110の表面に薄く形成する。
【0043】
そして、このようにしてCu膜を成膜した後、パージ工程を行う。パージ工程では、Cu(hfac)TMVSの供給を停止した後、排気装置23の真空ポンプを引き切り状態とし、キャリアガスをパージガスとしてチャンバー1内に流してチャンバー1内をパージする。この場合に、できる限り迅速にチャンバー1内をパージする観点から、キャリアガスの供給は断続的に行うことが好ましい。
【0044】
パージ工程が終了後、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置により、搬入出口24を介してウエハWを搬出する。これにより、1枚のウエハWの一連の工程が終了する。
【0045】
図5のように配線およびプラグをすべてCVD−Cu膜111で形成する場合には、その後、CMP(化学機械研磨)を行って余分なCu部分を除去し、図7に示すように、配線絶縁膜107とCVD−Cu膜111が面一となるようにする。また、図6のようにCVD−Cu膜111をCuメッキのシード膜として薄く形成する場合には、その後、図8に示すようにCuメッキ112を形成して配線およびプラグを形成し、その状態からCMP(化学機械研磨)を行って余分なCu部分を除去し、図9に示すように配線絶縁膜107とCuメッキ層112が面一となるようにする。
【0046】
なお、上記例では、バリア層(拡散防止層)としてCVD−Ru膜110の単層を用いた例を示したが、図10に示すように、上層のCVD−Ru膜110と下層としての高融点材料膜113との積層構造であってもよい。この場合に、下層としては、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、酸化マンガン等のいずれかを用いることができる。
【0047】
<実施例>
次に、本発明の実施例について、比較例と比較しつつ説明する。
ここでは、Si基板上に厚さ100nmのSiO膜が形成され、その上にスパッタリングにより形成された厚さ2nmのTi膜と厚さ2nmのCVD−Ru膜からなるバリア層を形成したものを基板として用い、成膜原料としてCu(hfac)TMVSを用い、図1に示す装置にてCu膜を成膜した。成膜原料としてCu(hfac)TMVSを用い255mg/minの流量で供給するとともに、キャリアガスとしてHガスを400mL/min(sccm)の流量で供給し、チャンバー1内の圧力を13.3Pa(0.1Torr)、サセプタ温度240℃でチャンバー1に導入し、チャンバー1の壁部の温度を実施例では80℃、比較例では60℃としてCu膜の成膜を行った。実施例および比較例によって成膜したCu膜の表面状態を、それぞれ図11および図12の走査型顕微鏡(SEM)写真で示す。これらの図に示すように、図12の比較例の場合には核がまばらで核密度が低いが、図11の実施例の場合には核が密集していて核密度が高いことがわかる。この結果から、本発明によりCu膜成膜の際の核密度を高くできることが確認された。
【0048】
<本発明の他の適用>
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態においては、熱分解して生成される副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体としてCu(hfac)TMVSを用いた場合について示したが、これに限るものではない。また、成膜の下地としてCVD−Ru膜を用いた場合について示したが、これに限るものではない。
【0049】
また、上記実施の形態では、液体状のCu錯体を圧送して気化器に供給し、気化器で気化させたが、これに限らず、例えばバブリング等により気化させて供給する等、他の手法で気化させてもよい。
【0050】
さらに、成膜装置についても上記実施の形態のものに限らず、例えば、成膜原料ガスの分解を促進するためにプラズマを形成する機構を設けたもの等、種々の装置を用いることができる。
【0051】
さらにまた、被処理基板の構造は図2、図10のものに限るものではない。さらにまた、被処理基板として半導体ウエハを用いた場合を説明したが、これに限らず、フラットパネルディスプレイ(FPD)基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1;チャンバー
2;サセプタ
3;支持部材
5;ヒーター
10;シャワーヘッド
23;排気装置
30;ガス供給機構
31;成膜原料タンク
34;原料送出配管
37;気化器
38;キャリアガス供給配管
41;成膜原料ガス供給配管
46;ヒーター
47;ヒーター電源
48;熱電対
49;ヒーターコントローラ
50;制御部
51;プロセスコントローラ
52;ユーザーインターフェース
53;記憶部(記憶媒体)
W;半導体ウエハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に基板を収容し、前記処理容器内に、成膜中に発生する副生成物の蒸気圧がその蒸気圧よりも低いCu錯体からなる成膜原料を気相状態で導入して、基板上にCVD法によりCu膜を成膜するにあたり、前記処理容器の壁部の温度を、副生成物の蒸気圧が成膜処理時の処理容器内圧力と等しくなる温度以上で前記成膜原料の分解温度未満に制御することを特徴とするCu膜の成膜方法。
【請求項2】
前記Cu錯体は1価のβ−ジケトン錯体であることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項3】
前記Cu錯体は、ヘキサフルオロアセチルアセトナート・トリメチルビニルシラン銅(Cu(hfac)TMVS)であり、前記副生成物は、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(Cu(hfac))であることを特徴とする請求項2に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項4】
前記処理容器の壁部の温度は、75℃以上100℃未満であることを特徴とする請求項3に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項5】
前記基板として、表面にCVD法により成膜したRu膜を有するものを用い、そのRu膜の上にCu膜を成膜することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項6】
前記Ru膜は、成膜原料としてRu(CO)12を用いて成膜されたものであることを特徴とする請求項5に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項7】
前記Ru膜は拡散防止膜の全部または一部として用いられることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項8】
前記拡散防止膜は、前記Ru膜の下層として、高融点材料膜を有することを特徴とする請求項7に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項9】
前記高融点材料膜は、Ta、TaN、Ti、W、TiN、WN、および酸化マンガンのいずれかからなることを特徴とする請求項8に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項10】
得られたCu膜を配線材として用いることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項11】
得られたCu膜をCuメッキのシード膜として用いることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のCu膜の成膜方法。
【請求項12】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項11のいずれかの成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−212323(P2010−212323A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54509(P2009−54509)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】