説明

III族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物化合物半導体発光素子、並びにランプ

【課題】生産性に優れるとともに、優れた発光特性を備えた素子が得られる、III族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物化合物半導体発光素子、並びにランプを提供する。
【解決手段】基板11上に、金属材料とV族元素を含んだガスとをプラズマで活性化して反応させることによってIII族窒化物化合物からなる中間層12を成膜し、該中間層12上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層14、発光層15、及びp型半導体層16を順次積層する製造方法とし、前記V族元素を窒素とし、中間層12を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超99%以下の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、電子デバイス等に、好適に用いられるIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物化合物半導体発光素子、並びにランプに関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体発光素子は、可視光から紫外光領域の範囲に相当するエネルギーの直接遷移型のバンドギャップを有し、発光効率に優れていることから、LEDやLD等の発光素子として用いられている。
また、電子デバイスに用いた場合でも、III族窒化物半導体は、従来のIII−V族化合物半導体を用いた場合に比べ、優れた特性を有する電子デバイスが得られる。
【0003】
従来、III族窒化物半導体の単結晶ウェーハとしては、異なる材料の単結晶ウェーハ上に結晶を成長させて得る方法が一般的である。このような、異種基板と、その上にエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶との間には、大きな格子不整合が存在する。例えば、サファイア(Al)基板上に窒化ガリウム(GaN)を成長させた場合、両者の間には16%の格子不整合が存在し、SiC基板上に窒化ガリウムを成長させた場合には、両者の間に6%の格子不整合が存在する。
一般に、上述のような大きな格子不整合が存在する場合、基板上に結晶を直接エピタキシャル成長させることが困難となり、また、成長させた場合であっても結晶性の良好な結晶が得られないという問題がある。
【0004】
そこで、有機金属化学気相成長(MOCVD)法により、サファイア単結晶基板もしくはSiC単結晶基板の上に、III族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる際、基板上に、まず、窒化アルミニウム(AlN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる低温バッファ層と呼ばれる層を積層し、その上に高温でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる方法が提案されており、一般に行われている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
また、上記バッファ層をMOCVD以外の方法で成膜する技術も提案されている。例えば、基板上に、スパッタ法によってバッファ層を成膜するとともに、基板材料として、サファイア、シリコン、炭化シリコン、酸化亜鉛、リン化ガリウム、ヒ化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、及びIII族窒化物系化合物半導体単結晶等を用いる方法が提案されており、中でもサファイアのa面基板が好適とされている(例えば、特許文献3、4)。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の方法では、充分な結晶性のIII族窒化物化合物半導体を得ることができないという問題がある。
【0007】
一方、高周波によるスパッタ法で成膜したバッファ層上に、MOCVDによって同じ組成の結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献5)。しかしながら、特許文献5に記載の方法では、基板上に、安定して良好な結晶を積層することができないという問題がある。
【0008】
また、基板上にスパッタ法によってバッファ層を形成する際、スパッタ装置の初期電圧をスパッタ電圧の110%以下とする方法が提案されている(例えば、特許文献6)。特許文献6に記載の方法では、MOCVD法で用いられるような高価な材料を使用せず、スパッタ法によってバッファ層を形成するものである。
【特許文献1】特許第3026087号公報
【特許文献2】特開平4−297023号公報
【特許文献3】特許第3440873号公報
【特許文献4】特許第3700492号公報
【特許文献5】特公平5−86646号公報
【特許文献6】特開2001−308010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3に記載の方法は、バッファ層の成長後、アンモニアと水素からなる混合ガス中でアニールするものであり、また、特許文献4に記載の方法は、バッファ層を、400℃以上の温度でDCスパッタにより成膜することが重要であるとされている。しかしながら、本発明者等が鋭意実験を行ったところ、特許文献3、4に記載の条件では、良好な結晶性のIII族窒化物化合物半導体を得ることができないことが明らかとなった。
【0010】
ここで、特許文献1、2に記載のMOCVD法は、原料ガスを該原料ガスの分解温度以上の温度とすることで分解し、これによる分解物をテンプレート上に成長させる方法であり、成長速度は低いものの、結晶性の高い膜が得られる方法として知られている。
一方、スパッタ法は、ターゲットから原子を叩き出し、この叩き出された原子を基板上に強制的に成膜する方法であり、成長速度は高いものの、得られる膜は、MOCVD法に比べると結晶性は高くないと考えられている。このため、従来は、主として、基板上にバッファ層をMOCVD法によって成膜した後、この上にアンドープのGaN層を数μm成長させることにより、この上に成長させる発光層の結晶性を高める方法が用いられていた。
【0011】
しかしながら、上述したようなMOCVD法でバッファ層を形成する方法では、充分な結晶性を得ることができず、結晶性が良好な膜を得られる方法が望まれていた。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、基板上に、均一性に優れたIII族窒化物半導体を短時間で成長させることができ、生産性に優れるとともに、優れた発光特性を備えた素子が得られる、III族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物化合物半導体発光素子、並びにランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、MOCVD法に比べて成膜速度が非常に高く、また、基板上に強制的に成膜するスパッタ法等、プラズマによって原料を活性化する方法を用いて中間層(バッファ層)を成膜し、また、V族元素である窒素原料の分圧を適正範囲とすることにより、特定の異方性を持った配向膜として基板上に成膜することができるとともに、成膜速度が向上して炉内付着物等の不純物が膜に混入するのを防止できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に関する。
【0014】
[1] 基板上に、V族元素を含むガスと金属材料とをプラズマで活性化して反応させることによってIII族窒化物化合物からなる中間層を成膜し、該中間層上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層、発光層、及びp型半導体層を順次積層するIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法であって、前記V族元素を窒素とし、前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超99%以下の範囲とすることを特徴とするIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[2] 前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超60%以下の範囲とすることを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[3] 前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超50%以下の範囲とすることを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【0015】
[4] 前記中間層を、スパッタ法によって成膜することを特徴とする[1]〜[3]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[5] 前記中間層を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする[4]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[6] 前記中間層を、RFスパッタ法を用いて、カソードのマグネットを移動させつつ成膜することを特徴とする[5]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[7] 前記中間層を、V族元素を含むガスをリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜することを特徴とする[4]〜[6]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[8] 前記金属材料がAlを含有する材料であることを特徴とする[1]〜[7]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[9] 前記中間層を、AlNで成膜することを特徴とする[1]〜[8]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[10] 前記基板の温度を室温〜1000℃の範囲として、前記中間層を形成することを特徴とする[1]〜[9]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[11] 前記基板の温度を200〜800℃の範囲として、前記中間層を形成することを特徴とする[1]〜[9]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【0016】
[12] 前記中間層上に、前記n型半導体層に備えられる下地層を積層することを特徴とする[1]〜[11]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[13] 前記下地層を、GaN系化合物半導体で形成することを特徴とする[12]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[14] 前記下地層を、GaNで形成することを特徴とする[13]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[15] 前記下地層を、AlGaNで形成することを特徴とする[13]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[16] 前記中間層と前記下地層を、それぞれ異なるIII族窒化物化合物で形成することを特徴とする[12]〜[15]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[17] 前記下地層を、MOCVD法によって前記中間層上に成膜することを特徴とする[12]〜[16]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[18] 前記下地層を成膜する際の前記基板の温度を800℃以上とすることを特徴とする[12]〜[17]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
[19] 上記[1]〜[18]の何れかに記載の製造方法で得られるIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【0017】
[20] 基板上に、V族元素を含むガスと金属材料とがプラズマで活性化されて反応することによってIII族窒化物化合物からなる中間層が成膜され、該中間層上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層、発光層、及びp型半導体層が順次積層されてなるIII族窒化物化合物半導体発光素子であって、前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超99%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とするIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[21] 前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超60%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とする[20]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[22] 前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超50%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とする[20]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【0018】
[23] 前記中間層が、Alを含有する組成とされていることを特徴とする[20]〜[22]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[24] 前記中間層が、AlNからなることを特徴とする[23]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[25] 前記中間層が、前記基板表面の少なくとも90%以上を覆うように形成されていることを特徴とする[20]〜[24]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[26] 前記中間層が、少なくとも前記基板の側面を覆うように形成されていることを特徴とする[20]〜[25]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[27] 前記中間層が、前記基板の側面及び裏面を覆うように形成されていることを特徴とする[20]〜[26]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[28] 前記中間層が、柱状結晶の集合体からなることを特徴とする[20]〜[27]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[29] 前記中間層は、前記柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が、1〜100nmの範囲とされていることを特徴とする[28]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[30] 前記中間層は、前記柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が、2〜70nmの範囲とされていることを特徴とする[28]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[31] 前記中間層が六方最密充填構造として形成されていることを特徴とする[28]〜[30]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[32] 前記中間層の膜厚が、20〜80nmの範囲とされていることを特徴とする[20]〜[31]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【0019】
[33] 前記中間層上に、前記n型半導体層に備えられる下地層が積層されてなることを特徴とする[20]〜[32]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[34] 前記下地層が、GaN系化合物半導体からなることを特徴とする[33]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[35] 前記下地層が、GaNからなることを特徴とする[34]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[36] 前記下地層が、AlGaNからなることを特徴とする[34]に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
[37] 上記[19]〜[36]の何れかに記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子が用いられてなるランプ。
【発明の効果】
【0020】
本発明のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法によれば、上記構成により、プラズマによって原料を活性化する方法で基板上に中間層を成膜し、また、V族元素である窒素の分圧を適正範囲に規定することにより、均一性が良く、その上にMOCVDによって良好な結晶性のIII族窒化物化合物半導体を成膜することが可能な中間層を成膜することができる。
従って、基板上に結晶性の良好なIII族窒化物化合物からなる中間層、及びIII族窒化物半導体からなる半導体層を効率良く成長させることができ、生産性に優れ安価であるとともに、優れた発光特性を備えたIII族窒化物化合物半導体発光素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法、及びIII族窒化物化合物半導体発光素子、並びにランプの一実施形態について、図1〜8を適宜参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態のIII族窒化物化合物半導体発光素子(以下、発光素子と略称することがある)の製造方法は、基板11上に、V族元素を含むガスと金属材料とをプラズマで活性化して反応させることによってIII族窒化物化合物からなる中間層12を成膜し、該中間層12上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層14、発光層15、及びp型半導体層16を順次積層する製造方法であって、前記V族元素を窒素とし、中間層12を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超99%以下の範囲とする方法である。
【0023】
本実施形態の製造方法は、基板11上にIII族窒化物化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させる際、例えば、スパッタ法等を用いて、プラズマで活性化して反応した原料を基板11上に成膜して中間層12を形成する方法であり、ガス中における窒素のガス分率を上記範囲として中間層12を成膜することにより、良好な結晶性を有する中間層12を、特定の異方性を持った配向膜として、短時間で基板11上に成膜することができる。これにより、中間層12上に、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を効率良く成長させることが可能となる。
【0024】
本実施形態の製造方法で得られる発光素子の積層構造を、図1に示す積層半導体10を用いて説明する。この積層半導体10は、基板11上に、金属材料とV族元素を含んだガスとがプラズマで活性化して反応されることによってIII族窒化物化合物からなる中間層12が成膜され、該中間層12上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層14、発光層15、及びp型半導体層16が順次積層され、概略構成されている。
【0025】
また、図1に例示する積層半導体10は、中間層12上に、III族窒化物化合物半導体からなる下地層14aが積層された構成とされており、基板11上に、中間層12、下地層14a、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cからなるn型半導体層14、障壁層15a及び井戸層15bが交互に積層されてなる発光層15、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bからなるp型半導体層16が、順次積層されてなる。
そして、本実施形態の積層半導体10は、図2及び図3に示す例のように、p型半導体層16上に透光性正極17が積層され、その上に正極ボンディングパッド18が形成されるとともに、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに形成された露出領域14dに負極19が積層されてなる発光素子1を構成することができる。
以下、本実施形態の発光素子の製造方法、及び発光素子について詳述する。
【0026】
[基板]
本実施形態において、III族窒化物化合物半導体結晶が表面上にエピタキシャル成長される基板11としては、特に限定されず、各種材料を選択して用いることができ、例えば、サファイア、SiC、シリコン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン亜鉛鉄、酸化マグネシウムアルミニウム、ホウ化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化リチウムガリウム、酸化リチウムアルミニウム、酸化ネオジウムガリウム、酸化ランタンストロンチウムアルミニウムタンタル、酸化ストロンチウムチタン、酸化チタン、ハフニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられる。
【0027】
なお、アンモニアを使用せずに中間層を成膜するとともに、アンモニアを使用する方法で後述の下地層を成膜し、さらに、上記基板材料の内、高温でアンモニアに接触することで化学的な変性を引き起こすことが知られている酸化物基板や金属基板等を用いた場合には、本実施形態の中間層がコート層として作用するので、基板の化学的な変質を防ぐ点で効果的である。
【0028】
[中間層]
本実施形態の積層半導体10は、基板11上に、金属原料とV族元素を含んだガスとがプラズマで活性化されて反応することにより、III族窒化物化合物からなる中間層12が成膜されている。本実施形態のような、プラズマ化した金属原料を用いた方法で成膜された膜は、配向が得られ易いという作用がある。
【0029】
LEDやLD等のIII族窒化物化合物半導体素子は、ある一定の決められた方向に電流が流れる必要がある。このため、III族窒化物化合物半導体素子には、良好な結晶性とともに配向が求められる。III族窒化物化合物半導体素子は中間層12上にエピタキシャル成長させるので、中間層12も同様に、良好な結晶性及び配向が必要となる。
【0030】
MOCVD法は、有機金属分子を分解して金属元素を積層してゆく方法のため、膜を配向させるためにはテンプレートとなる下地が必要となる。このため、中間層12が、基板11上に成長する低温バッファ層の場合には基板が下地となるので、使用できる基板が限定されることになる。
一方、リアクティブスパッタ法の場合は、プラズマ中に叩き出された荷電粒子が必ずしも原子状態で存在するのではなく、二量体等の結合を持つ荷電粒子としても存在する。このような荷電粒子が、膜を形成する際の原料となる。また、このような荷電粒子はモーメントを有するので、スパッタによる電場の影響を受け、特定の異方性を持って基板11上に堆積する。この異方性により、膜が配向構造を呈するので、どのような基板を用いた場合でも、スパッタ法によって配向膜を成膜することができる。
【0031】
中間層12は、基板11の表面11aの少なくとも60%以上、好ましくは80%以上を覆っている必要があり、90%以上を覆うように形成されていることが、基板11のコート層としての機能面から好ましい。また、中間層12は、表面11aの100%、即ち、基板11の表面11a上を隙間無く覆うように形成されていることが最も好ましい。
中間層12が基板11の表面11aを覆う領域が小さくなると、基板11が大きく露出するためにコート層として機能せず、III族窒化物半導体結晶を成長させる半導体原料と基板との間で反応が生じ、中間層12上に形成されるn型半導体層の平坦性を損なう虞がある。
【0032】
なお、基板11上に中間層を形成する際、基板11の表面11aのみを覆うように形成しても良いが、基板11の表面11a及び側面を覆うように形成しても良い。また、基板11の表面11a、側面及び裏面を覆うようにして形成することが、コート層としての機能面から最も好ましい。
MOCVD法では、原料ガスが基板の側面、もしくは裏面にまで回りこむことがあることから、後述のIII族窒化物化合物半導体結晶からなる各層の何れかをMOCVD法で成膜する場合、原料ガスと基板との反応を回避するためには、基板側面、もしくは裏面をも保護できるように中間層を形成することが好ましい。
【0033】
このような中間層をなすIII族窒化物化合物の結晶は、六方晶系の結晶構造を持ち、成膜条件をコントロールすることにより、六角柱を基本とした集合組織からなる柱状結晶とすることができる。なお、ここで説明する柱状結晶とは、隣接する結晶粒との間に結晶粒界を形成して隔てられており、それ自体は縦断面形状として柱状になっている結晶のことをいう。
【0034】
中間層12は、上述のような柱状結晶構造であることが、バッファ機能の面から好ましい。上述したように、III族窒化物化合物の結晶は六方晶系の結晶を有し、六角柱を基本とした組織を形成する。このような柱状結晶構造を有する中間層12を基板11上に成膜した場合、中間層12のバッファ機能が有効に作用するため、その上に成膜されるIII族窒化物半導体の層は、良好な配向性及び結晶性を持つ結晶膜となる。
【0035】
また、中間層12は、柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が1〜100nmの範囲とされていることが、バッファ層としての機能面から好ましく、2〜70nmの範囲とされていることがより好ましい。
柱状結晶からなる中間層12の結晶性を良好にするためには、柱状結晶の各々の結晶のグレインの幅を適正に制御する必要があり、具体的には、上記範囲とすることが好ましい。このような、結晶のグレインの幅は、断面TEM観察などにより容易に測定することが可能である。
また、中間層12は、結晶のグレインが、上述したような略柱状の形状とされていることが望ましく、柱状のグレインが集合して層を成していることが望ましい。
また、中間層を柱状結晶の集合体として形成した場合には、六方最密充填構造からなる層とすることがより好ましい。
ここで、本発明で説明するグレインの幅とは、中間層が柱状グレインの集合体である場合は、結晶の界面と界面の距離のことをいう。一方、グレインが島状に点在する場合には、グレインの幅とは、結晶グレインが基板面に接する面の最も大きい、さし渡しの長さを言う。
【0036】
中間層12の膜厚は、20〜80nmの範囲とされていることが好ましい。中間層12の膜厚をこの範囲とすることにより、良好な結晶性を有する中間層12を、特定の異方性を持った配向膜として、短時間で基板11上に成膜することができる。
中間層12の膜厚が20nm未満だと、良好な結晶性を有する膜を、特定の異方性を持った配向膜として得られない虞があるとともに、上述したようなコート層としての機能が充分でなくなる。
また、80nmを超える膜厚で中間層12を形成した場合も、良好な結晶性を有する膜を特定の異方性を持った配向膜として得られない虞があるとともに、コート層としての機能には変化が無いのにも関わらず成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する虞がある。
【0037】
中間層12は、Alを含有する組成とされていることが好ましく、AlNからなる構成とすることが特に好ましい。
中間層12を構成する材料としては、一般式AlGaInNで表されるIII族窒化物化合物半導体であれば、どのような材料でも用いることができる。さらに、V族として、AsやPが含有される構成としても良い。
中間層12を、Alを含んだ組成とした場合、中でも、GaAlNとすることが好ましく、この際、Alの組成が50%以上とされていることが好ましい。
また、中間層12は、AlNからなる構成とすることにより、効率的に柱状結晶集合体とすることができるので、より好ましい。
【0038】
以下に、中間層12の成膜方法について説明する。
III族金属原料とV族元素を含んだガスとをプラズマで活性化して反応させることにより、III族窒化物化合物からなる中間層12を成膜する方法としては、スパッタ法、PLD法、PED法、CVD法等を挙げることができる。
プラズマを発生させる方法としては、特定の真空度で高電圧をかけて放電するスパッタ法、高いエネルギー密度のレーザを照射してプラズマを発生させるPLD法、電子線を照射させることでプラズマを発生させるPED法等、幾つかの方法があるが、この内、スパッタ法が最も簡便で量産にも適しているため、好適な方法である。なお、スパッタ法により、V族元素として窒素ガスを用いて成膜を行なう際、窒素がターゲット(金属材料)表面に吸着することが知られている(Mat.Res.Soc.Symp.Proc. Vol.68、357、1986を参照)。
また、一般に金属材料のターゲットを用いてスパッタする場合、DCスパッタ法を用いると成膜効率の点で好ましいが、窒素がターゲットに付着することによってターゲット表面のチャージアップを招き、成膜速度が安定しない可能性があるので、パルスDCスパッタ法とするか、RFスパッタ法とすることが望ましい。
【0039】
スパッタ法では、磁場内にプラズマを閉じ込めることによって効率を向上させる技術が一般的に用いられており、ターゲットを偏り無く使用するための方法としては、カソードのマグネットの位置をターゲット内で移動させつつ成膜する、RFスパッタ法を用いることが好ましい。具体的なマグネットの運動方法は、スパッタ装置によって適宜選択することができ、例えば、マグネットを揺動させたり、又は回転運動させたりすることができる。
【0040】
図5に示す例のRFスパッタ装置40では、金属ターゲット47の下方(図5の下方)にマグネット42が配され、該マグネット42が図示略の駆動装置によって金属ターゲット47の下方で揺動する。チャンバ41には窒素ガス、及びアルゴンガスが供給され、ヒータ44に取り付けられた基板11上に、中間層が成膜される。この際、上述のようにマグネット42が金属ターゲット47の下方で揺動しているため、チャンバ41内に閉じ込められたプラズマが移動し、基板11の表面11aの他、側面に対しても、ムラ無く中間層を成膜することが可能となる。
【0041】
なお、中間層12をスパッタ法によって成膜する場合、窒素を含んだガスをリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜する方法とすることが、反応を制御することで結晶性を良好に保つことができ、その良好な結晶性を安定に再現することができる点でより好ましい。
【0042】
また、スパッタ法、特にリアクティブスパッタ法を用いて中間層12を成膜する場合、基板11の温度以外の重要なパラメータとしては、窒素分圧や炉内の圧力等が挙げられる。
【0043】
窒素を含むガス中における窒素のガス分率、つまり、窒素(N)とArの流量に対する窒素流量の比は、窒素が20%超であることが好ましい。窒素が20%以下だと、窒素の存在量が少なく基板11上に金属が析出してしまい、中間層12としてIII族窒化物化合物に求められる結晶構造とならない。また、窒素が99%を上回る流量比だと、Arの量が少な過ぎ、スパッタレートが大幅に低下してしまうので好ましくない。また、窒素を含むガス中における窒素のガス分率は、20%超60%以下の範囲であることがより好ましく、20%超50%以下の範囲であることが最も好ましい。
【0044】
本実施形態では、活性な窒素反応種を高濃度で基板11上に供給することにより、基板11上におけるマイグレーションを抑制することができ、これにより、自己組織化を抑え、中間層12を適正に柱状結晶構造とすることが可能となる。
また、中間層12において、柱状結晶の結晶界面の密度を適正にコントロールすることにより、その上に積層されるGaNからなる半導体層の結晶性を良好に制御することができる。
【0045】
また、スパッタ法を用いて中間層12を成膜する際の炉内の圧力は、0.2Pa以上であることが好ましい。この炉内の圧力が0.2Pa未満だと、発生する反応種の持つ運動エネルギーが大きくなりすぎ、形成される中間層の膜質が不十分となる。また、この炉内の圧力の上限は特に限定されないが、0.8Pa以上になると、膜の配向に寄与する二量体荷電粒子がプラズマ中の荷電粒子の相互作用を受けるようになるため、炉内の圧力は、0.2〜0.8Paの範囲とすることが好ましい。
【0046】
基板11には、湿式の前処理を施すことが好ましい。例えば、シリコンからなる基板に対しては、従来公知のRCA洗浄方法などを行い、基板表面を水素終端させておくことにより、詳細を後述するスパッタ工程において、基板上に中間層を成膜する際のプロセスが安定する。
【0047】
また、基板11を反応器の中に導入した後、中間層12を形成する前に、逆スパッタ法等の方法を用いて前処理を行うことができる。具体的には、基板11をArやNのプラズマ中に曝す事によって表面を整えることができる。
例えば、ArガスやNガスなどのプラズマを基板11表面に作用させることで、基板11表面に付着した有機物や酸化物を除去することができる。この場合、基板11とチャンバとの間に電圧を印加すれば、プラズマ粒子が効率的に基板11に作用する。 このような前処理を基板11に施すことにより、基板11の表面11a全面に中間層12を成膜することができ、その上に成膜される膜の結晶性を高めることが可能となる。
【0048】
また、基板11への前処理は、上述のような、イオン成分と、電荷を持たないラジカル成分とが混合された雰囲気で行なわれるプラズマ処理で行なうことが好ましい。
ここで、基板の表面から有機物や酸化物等のコンタミを除去する際、例えば、イオン成分等を単独で基板表面に供給した場合には、エネルギーが強すぎて基板表面にダメージを与えてしまい、基板上に成長させる結晶の品質を低下させてしまうという問題がある。
本発明においては、基板11への前処理を、上述のようなイオン成分とラジカル成分とが混合された雰囲気で行なわれるプラズマ処理を用いた方法とし、基板11に適度なエネルギーを持つ反応種を作用させることにより、基板11表面にダメージを与えずにコンタミ等の除去を行なうことが可能となる。このような効果が得られるメカニズムとしては、イオン成分の割合が少ないプラズマを用いることで基板表面に与えるダメージが抑制されることと、基板表面にプラズマを作用させることによって効果的にコンタミを除去できること等が考えられる。
【0049】
また、中間層12を成膜する際の成膜レートは、0.01nm/s〜10nm/sの範囲とすることが好ましい。成膜レートが0.01nm/s未満だと、膜が層とならずに島状に成長してしまい、基板11の表面を覆うことができなくなる虞がある。成膜レートが10nm/sを超えると、膜が結晶体とならずに非晶質となってしまう。
【0050】
中間層12を成膜する際の基板11の温度は、室温〜1000℃の範囲とすることが好ましく、200〜800℃の範囲とすることがより好ましい。基板11の温度が上記下限未満だと、中間層12が基板11全面を覆うことができず、基板11表面が露出する虞がある。基板11の温度が上記上限を超えると、金属原料のマイグレーションが活発となり過ぎ、バッファ層としての機能の点から不適な層となる虞がある。
なお、本発明で説明する室温とは、工程の環境等にも影響される温度であるが、具体的な温度としては、0〜30℃の範囲である。
【0051】
金属原料をプラズマ化する成膜法を用いて、中間層として混晶を成膜する際には、例えば、Al等を含む金属材料の混合物(必ずしも、合金を形成していなくても構わない)をターゲットとして用いる方法もあるし、異なる材料からなる2つのターゲットを用意して同時にスパッタする方法としても良い。例えば、一定の組成の膜を成膜する場合には混合材料のターゲットを用い、組成の異なる何種類かの膜を成膜する場合には複数のターゲットをチャンバ内に設置すれば良い。
【0052】
本実施形態で用いる窒素(V族元素)を含むガスとしては、一般に知られている窒素化合物を何ら制限されることなく用いることができるが、アンモニアや窒素(N)は取り扱いが簡単であるとともに、比較的安価で入手可能であることから好ましい。
アンモニアは分解効率が良好であり、高い成長速度で成膜することが可能であるが、反応性や毒性が高いため、除害設備やガス検知器が必要となり、また、反応装置に使用する部材の材料を化学的に安定性の高いものにする必要がある。
また、窒素(N)を原料として用いた場合には、装置としては簡便なものを用いることができるが、高い反応速度は得られない。しかしながら、窒素を電界や熱等により分解してから装置に導入する方法とすれば、アンモニアよりは低いものの工業生産的に利用可能な程度の成膜速度を得ることができるため、装置コストとの兼ね合いを考えると、最も好適な窒素源である。
【0053】
また、上述したように、中間層12は、基板11の側面を覆うようにして形成することが好ましい。さらに、中間層12は、基板11の側面及び裏面を覆うようにして形成することが最も好ましい。しかしながら、従来の成膜方法で中間層を成膜した場合、最大で6回から8回程度の成膜処理を行う必要があり、長時間の工程となってしまう。これ以外の成膜方法としては、基板を保持せずにチャンバ内に設置することにより、基板全面に成膜する方法も考えられるが、基板を加熱する必要がある場合には装置が複雑になる虞がある。
【0054】
そこで、例えば、基板を揺動させたり又は回転運動させたりすることにより、基板の位置を、成膜材料のスパッタ方向に対して変更させつつ、成膜する方法が考えられる。このような方法とすることにより、基板の表面及び側面を一度の工程で成膜することが可能となり、次いで基板裏面への成膜工程を行うことにより、計2回の工程で基板全面を覆うことが可能となる。
【0055】
また、成膜材料源が、大きな面積の発生源から生じる構成とし、且つ、材料の発生位置を移動させることにより、基板を移動させずに基板全面に成膜する方法としても良い。このような方法としては、上述したように、マグネットを揺動させたり又は回転運動させたりすることにより、カソードのマグネットの位置をターゲット内で移動させつつ成膜する、RFスパッタ法が挙げられる。また、このようなRFスパッタ法で成膜を行なう場合、基板側とカソード側の両方を移動させる方法としても良い。さらに、材料の発生源であるカソードを基板近傍に配することにより、発生するプラズマを基板に対してビーム状に供給するのではなく、基板を包み込むように供給するような構成とすれば、基板表面及び側面の同時成膜が可能となる。
【0056】
[積層半導体]
図1に示すように、本実施形態の積層半導体10は、基板11上に、上述のような中間層12を介して、窒化物系化合物半導体からなるn型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16からなる半導体層20が積層されている。
そして、n型半導体層14は、少なくともIII族窒化物化合物半導体からなる下地層14aを有しており、中間層12上に下地層14aが積層されている。
【0057】
III族窒化物化合物半導体からなる下地層14aの上には、上述したように、図1に示す積層半導体10のような機能性を持つ結晶積層構造を構成することができる。例えば、発光素子のための半導体積層構造を形成する場合、Si、Ge、Sn等のn型ドーパントをドープしたn型導電性の層や、マグネシウムなどのp型ドーパントをドープしたp型導電性の層等を積層して積層半導体を形成することができる。また、材料としては、発光層等にはInGaNを用いることができ、クラッド層等にはAlGaNを用いることができる。このように、下地層14a上に、さらに機能を持たせたIII族窒化物半導体結晶層を形成することにより、発光ダイオードやレーザダイオード、あるいは電子デバイス等の作製に用いられる、半導体積層構造を有するウェーハを作製することが出来る。
以下に、積層半導体10について詳述する。
【0058】
窒化物系化合物半導体としては、例えば一般式AlGaIn1−A(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体が多数知られており、本発明においても、それら周知の窒化ガリウム系化合物半導体を含めて一般式AlGaIn1−A(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0059】
窒化ガリウム系化合物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P及びAs等の元素を含有することもできる。さらに、意図的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0060】
これらの窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法は特に限定されず、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)等、窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。好ましい成長方法としては、膜厚制御性、量産性の観点からMOCVD法である。MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H)または窒素(N)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH)、ヒドラジン(N)などが用いられる。また、ドーパントとしては、n型にはSi原料としてモノシラン(SiH)またはジシラン(Si)を、Ge原料としてゲルマンガス(GeH)や、テトラメチルゲルマニウム((CHGe)やテトラエチルゲルマニウム((CGe)等の有機ゲルマニウム化合物を利用できる。MBE法では、元素状のゲルマニウムもドーピング源として利用できる。p型にはMg原料としては例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCpMg)を用いる。
【0061】
<n型半導体層>
n型半導体層14は、通常、前記中間層12上に積層され、下地層14a、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cから構成される。なお、n型コンタクト層は、下地層、及び/又は、n型クラッド層を兼ねることが可能であるが、下地層が、n型コンタクト層、及び/又は、n型クラッド層を兼ねることも可能である。
【0062】
「下地層」
下地層14aは、III族窒化物化合物半導体からなり、中間層12上に積層して成膜される。
下地層14aの材料としては、基板11上に成膜された中間層12と異なる材料を用いても構わないが、AlGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。
【0063】
下地層14aに用いる材料としては、Gaを含むIII族窒化物化合物、即ちGaN系化合物半導体が用いられ、特に、AlGaN、又はGaNを好適に用いることができる。
また、中間層12を六方最密充填構造とした場合には、下地層14aが中間層12の結晶性をそのまま引き継がないようにマイグレーションによって転位をループ化させる必要があるが、このような材料としても上記Gaを含むGaN系化合物半導体が挙げられ、特に、AlGaN、又はGaNが好適である。
【0064】
下地層の膜厚は0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、1μm以上が最も好ましい。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なAlGa1―XN層が得られやすい。
【0065】
下地層14aには、必要に応じてドーパントをドープした構成とすることもできるし、ドープしない構成とすることもできる。
基板11に導電性の基板を用いる場合には、上述したように、下地層14aをドーピングして、下地層14aの層構造を縦方向に電流が流れるようにすることにより、発光素子のチップ両面に電極を設ける構造とすることができる。
また、基板11に絶縁性の基板を用いる場合には、発光素子のチップの同じ面に電極が形成されるチップ構造を採用することになるので、基板11上に中間層12を介して積層される下地層14aはドープしない結晶とすることができ、その方が、結晶性が良好となる。
【0066】
本実施形態では、上述した方法で基板11に中間層12を成膜した後、この上に、III族窒化物化合物半導体からなる下地層14aを成膜することができるが、該下地層14aを成膜する前に、アニール処理を行うことは特段に必要ではない。しかしながら、一般に、III族窒化物化合物半導体の成膜をMOCVD、MBE、VPE等の気相化学成膜方法で行なう場合、成膜を伴わない昇温過程及び温度の安定化過程を経て処理されるが、これらの過程においてV族の原料ガスをチャンバ内に流通させることが多いので、結果としてアニール効果が生じることがある。
【0067】
また、その際に流通させるキャリアガスとしては、一般的なものを何ら制限無く使用することができ、MOCVD等の気相化学成膜方法で広く用いられる水素や窒素を用いても良い。しかしながら、キャリアガスとして化学的に比較的活性な水素を用いた場合、結晶性や結晶表面の平坦性を損なう虞があるため、処理時間を短くすることが好ましい。
【0068】
下地層14aを積層する方法としては、特に限定されず、上述した各方法のように、転位のループ化を生じさせることができる結晶成長方法であれば、何ら制限なく用いることができる。特に、MOCVD法やMBE法、VPE法は、上述したようなマイグレーションを生じることができるため、良好な結晶性の膜を成膜することが可能となることから好適である。中でも、MOCVD法は、最も結晶性の良い膜を得ることができる点でより好適に用いることができる。
【0069】
また、スパッタ法を用いてIII族窒化物化合物半導体からなる下地層14aを成膜することも可能である。スパッタ法を用いる場合には、MOCVD法やMBE法等と比較して、装置を簡便な構成とすることが可能となる。
なお、下地層14aをスパッタ法によって成膜する場合には、V族原料(窒素)をリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜する方法とすることが、反応を制御することで結晶性を良好に保つことができ、その良好な結晶性を安定に再現することができる点でより好ましい。
【0070】
下地層14aを成膜する際の基板11の温度、つまり、下地層14aの成長温度は、800℃以上とすることが好ましい。これは、下地層14aを成膜する際の基板11の温度を高くすることによって原子のマイグレーションが生じやすくなり、転位のループ化が容易に進行するからであり、さらに好ましくは900℃以上であり、1000℃以上が最も好ましい。
また、下地層14aを成膜する際の基板11の温度は、結晶の分解する温度よりも低温である必要があるため、1200℃未満とすることが好ましい。下地層14aを成膜する際の基板11の温度が上記温度範囲内であれば、結晶性の良い下地層14aが得られる。
【0071】
「n型コンタクト層」
n型コンタクト層14bとしては、下地層14aと同様にAlGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。また、n型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017〜1×1019/cm、好ましくは1×1018〜1×1019/cmの濃度で含有すると、負極との良好なオーミック接触の維持、クラック発生の抑制、良好な結晶性の維持の点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。成長温度は下地層と同様である。また、上述したように、n型コンタクト層14bは、下地層を兼ねた構成とすることもできる。
【0072】
下地層14a及びn型コンタクト層14bを構成する窒化ガリウム系化合物半導体は同一組成であることが好ましく、これらの合計の膜厚を0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは1〜12μmの範囲に設定することが好ましい。膜厚がこの範囲であると、半導体の結晶性が良好に維持される。
【0073】
「n型クラッド層」
n型コンタクト層14bと後述の発光層15との間には、n型クラッド層14cを設けることが好ましい。n型クラッド層14cを設けることにより、n型コンタクト層14bの最表面に生じた平坦性の悪化を改善することできる。n型クラッド層14cはAlGaN、GaN、GaInN等によって形成することが可能である。また、これらの構造のヘテロ接合や複数回積層した超格子構造としてもよい。GaInNとする場合には、発光層15のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。
【0074】
n型クラッド層14cの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5〜500nmの範囲であり、より好ましくは5〜100nmの範囲である。
また、n型クラッド層14cのn型ドープ濃度は1×1017〜1×1020/cmの範囲が好ましく、より好ましくは1×1018〜1×1019/cmの範囲である。ドープ濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および発光素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0075】
<p型半導体層>
p型半導体層16は、通常、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bから構成される。しかし、p型コンタクト層がp型クラッド層を兼ねてもよい。
【0076】
「p型クラッド層」
p型クラッド層16aとしては、発光層15のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層15へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、AlGa1−dN(0<d≦0.4、好ましくは0.1≦d≦0.3)のものが挙げられる。p型クラッド層16aが、このようなAlGaNからなると、発光層15へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。p型クラッド層16aの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。p型クラッド層16aのp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cmが好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cmである。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。
【0077】
「p型コンタクト層」
p型コンタクト層16bとしては、少なくともAlGa1−eN(0≦e<0.5、好ましくは0≦e≦0.2、より好ましくは0≦e≦0.1)を含んでなる窒化ガリウム系化合物半導体層である。Al組成が上記範囲であると、良好な結晶性の維持およびpオーミック電極(後述の透光性電極17を参照)との良好なオーミック接触の点で好ましい。
また、p型ドーパントを1×1018〜1×1021/cmの範囲の濃度で含有していると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましく、より好ましくは5×1019〜5×1020/cmの範囲である。
p型不純物としては、特に限定されないが、例えば、好ましくはMgが挙げられる。
p型コンタクト層16bの膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。膜厚がこの範囲であると、発光出力の点で好ましい。
【0078】
<発光層>
発光層15は、n型半導体層14上に積層されるとともにp型半導体層16がその上に積層される層であり、図1に示すように、窒化ガリウム系化合物半導体からなる障壁層15aと、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる井戸層15bとが交互に繰り返して積層され、且つ、n型半導体層14側及びp型半導体層16側に障壁層15aが配される順で積層して形成される。
また、図1に示す例では、発光層15は、6層の障壁層15aと5層の井戸層15bとが交互に繰り返して積層され、発光層15の最上層及び最下層に障壁層15aが配され、各障壁層15a間に井戸層15bが配される構成とされている。
【0079】
障壁層15aとしては、例えば、インジウムを含有した窒化ガリウム系化合物半導体からなる井戸層15bよりもバンドギャップエネルギーが大きいAlGa1−cN(0≦c<0.3)等の窒化ガリウム系化合物半導体を、好適に用いることができる。
また、井戸層15bには、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体として、例えば、Ga1−sInN(0<s<0.4)等の窒化ガリウムインジウムを用いることができる。
【0080】
また、発光層15全体の膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚、即ち臨界膜厚領域であることが好ましい。例えば、発光層15の膜厚は、1〜500nmの範囲であることが好ましく、100nm前後の膜厚であればより好ましい。膜厚が上記範囲であると、発光出力の向上に寄与する。
【0081】
[透光性正極]
透光性正極17は、上述のようにして作製される積層半導体10のp型半導体層16上に形成される透光性の電極である。
透光性正極17の材質としては、特に限定されず、ITO(In−SnO)、AZO(ZnO−Al)、IZO(In−ZnO)、GZO(ZnO−Ga)等の材料を、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。また、その構造も、従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
【0082】
透光性正極17は、Mgドープp型半導体層16上のほぼ全面を覆うように形成しても構わないし、隙間を開けて格子状や樹形状に形成しても良い。透光性正極17を形成した後に、合金化や透明化を目的とした熱アニールを施す場合もあるが、施さなくても構わない。
【0083】
[正極ボンディングパッド及び負極]
正極ボンディングパッド18は、上述の透光性正極17上に形成される電極である。
正極ボンディングパッド18の材料としては、Au、Al、NiおよびCu等を用いた各種構造が周知であり、これら周知の材料、構造のものを何ら制限無く用いることができる。
正極ボンディングパッド18の厚さは、100〜1000nmの範囲内であることが好ましい。また、ボンディングパッドの特性上、厚さが大きい方が、ボンダビリティーが高くなるため、正極ボンディングパッド18の厚さは300nm以上とすることがより好ましい。さらに、製造コストの観点から500nm以下とすることが好ましい。
【0084】
負極19は、基板11上に、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16が順次積層された半導体層において、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに接するように形成される。
このため、負極19を形成する際は、p型半導体層16、発光層15及びn型半導体層14の一部を除去してn型コンタクト層14bの露出領域14dを形成し、この上に負極19を形成する。
負極19の材料としては、各種組成および構造の負極が周知であり、これら周知の負極を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
【0085】
以上説明したような、本実施形態のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法によれば、スパッタ法等、プラズマによって原料を活性化する方法で、基板11上に中間層12を成膜し、また、V族元素である窒素の分圧を上記範囲に規定している。これにより、均一性の良い結晶膜からなる中間層12を短時間で成膜することができるとともに、如何なる基板に対しても、中間層12を、特定の異方性を持った配向膜として基板11上に成膜することができる。また、中間層12の成膜速度が向上するので、炉内付着物等の不純物が膜に混入するのを防止できる。また、中間層12を六方最密充填構造として成膜した場合には、中間層12がバッファ層として有効に作用するため、その上に成膜されるIII族窒化物化合物半導体からなる半導体層20は、良好な結晶性を持つ結晶膜となる。
従って、基板11上に結晶性の良好なIII族窒化物化合物からなる中間層12、及びIII族窒化物半導体からなる半導体層20を効率良く成長させることができ、生産性に優れ安価であるとともに、優れた発光特性を備えたIII族窒化物化合物半導体発光素子が得られる。
【0086】
[ランプ]
以上説明したような、本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせることにより、当業者周知の手段によってランプを構成することができる。従来より、発光素子と蛍光体と組み合わせることによって発光色を変える技術が知られており、このような技術を何ら制限されることなく採用することが可能である。
例えば、蛍光体を適正に選定することにより、発光素子より長波長の発光を得ることも可能となり、また、発光素子自体の発光波長と蛍光体によって変換された波長とを混ぜることにより、白色発光を呈するランプとすることもできる。
また、ランプとしては、一般用途の砲弾型、携帯のバックライト用途のサイドビュー型、表示器に用いられるトップビュー型等、何れの用途にも用いることができる。
【0087】
例えば、図4に示す例のように、同一面電極型のIII族窒化物化合物半導体発光素子1を砲弾型に実装する場合には、2本のフレームの内の一方(図4ではフレーム31)に発光素子1を接着し、また、発光素子1の負極(図3に示す符号19参照)をワイヤー34でフレーム32に接合し、発光素子1の正極ボンディングパッド(図3に示す符号18参照)をワイヤー33でフレーム31に接合する。そして、透明な樹脂からなるモールド35で発光素子1の周辺をモールドすることにより、図4に示すような砲弾型のランプ3を作成することができる。
【0088】
また、本発明に係るIII族窒化物化合物積層半導体は、上述の発光素子の他、レーザ素子や受光素子等の光電気変換素子、又は、HBTやHEMT等の電子デバイスなどに用いることができる。これらの半導体素子は各種構造のものが知られており、本実施形態の発光素子1の下地層14a上に積層される半導体素子構造は、これら周知の素子構造を含めて何ら制限されない。
【実施例】
【0089】
次に、本発明のIII族窒化物化合物半導体発光素子を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0090】
[実施例]
図1に、本実施例で作製したIII族窒化物化合物半導体発光素子の積層半導体の断面模式図を示す。
本例では、サファイアからなる基板11のc面上に、中間層12としてRFスパッタ法を用いてAlNからなる柱状結晶の集合体の層を形成し、その上に、下地層14aとして、MOCVD法を用いてGaNからなる層を形成した。
【0091】
まず、片面のみをエピタキシャル成長に使用できる程度に鏡面研磨したサファイアからなる基板11を、特に湿式等の前処理を行わずにスパッタ装置の中へ導入した。ここで、スパッタ装置としては、高周波式の電源を有し、また、ターゲット内でマグネットの位置を動かすことができる機構を有する装置を使用した。
そして、スパッタ装置内で基板11を750℃まで加熱し、窒素ガスを15sccmの流量で導入した後、チャンバ内の圧力を0.08Paに保持し、基板11側に50Wの高周波バイアスを印加し、窒素プラズマに晒すことによって基板11表面を洗浄した。
【0092】
次いで、基板11の温度はそのままに、スパッタ装置内にアルゴン及び窒素ガスを導入した。そして、2000Wの高周波バイアスを金属Alターゲット側に印加し、炉内の圧力を0.5Paに保ち、Arガスを15sccm、窒素ガスを5sccm流通させた条件下(ガス全体における窒素の比は25%)で、サファイアからなる基板11上に、AlNからなる柱状結晶の中間層12を成膜した。
ターゲット内のマグネットは、基板11の洗浄時、及び成膜時の何れにおいても揺動させた。
そして、予め測定した成膜速度(0.067nm/s)に従い、規定した時間の処理により、40nmのAlN(中間層12)を成膜後、プラズマ動作を停止し、基板11の温度を低下させた。
【0093】
また、上記同様の操作を、スパッタ時間は固定して、アルゴンガスを20sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は0%)、アルゴンガスを16sccm、窒素ガスを4sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は20%)、アルゴンガスを12sccm、窒素ガスを8sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は40%)、アルゴンガスを8sccm、窒素ガスを12sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は60%)、アルゴンガスを4sccm、窒素ガスを16sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素ガスの比は80%)、窒素ガスのみ20sccm流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は100%)の、6水準の条件で、サファイアからなる基板上にAlNからなる中間層を成膜した試料を作製した。ターゲット内のマグネットは、基板11の洗浄時、及び成膜時の何れにおいても揺動させた。
そして、予め測定した成膜速度に従い、規定した時間の処理を行い、40nmのAlN(中間層)を成膜後、プラズマ動作を停止し、基板の温度を低下させた。
【0094】
そして、中間層12が成膜された基板11をスパッタ装置から取り出し、MOCVD炉に導入した。そして、GaN層(III族窒化物半導体)が成膜された試料を、MOCVD法を用いて以下の手順で作製した。
まず、基板11を反応炉中に導入した。基板11は、窒素ガス置換されたグローブボックスの中で、加熱用のカーボン製のサセプタ上に載置した。そして、窒素ガスを炉内に流通させた後、ヒータによって基板11の温度を1150℃に昇温させた。基板11が1150℃の温度で安定したことを確認した後、アンモニア配管のバルブを開き、アンモニアの炉内への流通を開始した。次いで、トリメチルガリウム(TMG)の蒸気を含む水素を炉内へ供給し、基板11上に成膜された中間層12の上に、下地層14aを構成するGaN系半導体を付着させる処理を行った。アンモニアの量は、V/III比が6000となるように調節した。約1時間に渡って上記GaN系半導体の成長を行った後、TMGの配管のバルブを切り替え、原料の反応炉内への供給を停止して成長を停止させた。そして、GaN系半導体の成長を終了させた後、ヒータへの通電を停止して、基板11の温度を室温まで降温した。
【0095】
以上の工程により、サファイアからなる基板11上にAlNからなる柱状結晶の集合体の中間層12を形成し、さらにその上に、アンドープで2μmの膜厚のGaN系半導体からなる下地層14aを形成した試料を作製した。
【0096】
そして、上記方法で成長させた、アンドープのGaN層(下地層)のX線ロッキングカーブ(XRC)測定を行った。この測定には、Cuβ線X線発生源を光源として用い、配向面である(0002)面と垂直面である(10−10)面で行なった。
一般的に、III族窒化物化合物半導体の場合、(0002)面のXRCスペクトル半価幅は結晶の平坦性(モザイシティ)の指標となり、(10−10)面のXRCスペクトル半価幅は結晶の転位密度(ツイスト)の指標となる。
【0097】
図6のグラフ及び表1に、上記各窒素濃度で中間層を成長させ、その上に成膜したアンドープGaN層(下地層)のX線ロッキングカーブ(XRC)の半価幅を示す。
【0098】
【表1】

【0099】
図6及び表1に示すように、窒素濃度を40%として、スパッタ法を用いて基板上にAlNからなる中間層を成膜した場合には、その上に成膜したアンドープGaN層の(0002)面のXRCスペクトル半価幅が132.8arcsec、(10−10)面のXRCスペクトル半価幅が331.4arcsecで、何れも結晶性が良好であり、表面がミラー状を呈していることが確認できた。本例では、窒素濃度を60〜80%の範囲として中間層を成膜した場合に、その上に成膜したアンドープGaN層の結晶性が良好となっており、特に、窒素濃度を80%として中間層を成膜した場合には、その上に成膜したアンドープGaN層の(0002)面のXRCスペクトル半価幅が77.8arcsec、(10−10)面のXRCスペクトル半価幅が218.8arcsecとなり、最適な窒素濃度であることが明らかとなった。
【0100】
これに対し、窒素濃度を20%以下として中間層を成膜した場合、AlNをスパッタする際、基板上にAlが金属のまま成膜されてしまい、中間層の表面が白濁した状態となり、X線ロッキングカーブ(XRC)の測定が不可となった。
【0101】
図7に、窒素濃度を95%としてAlNからなる中間層を成膜し、その上に成膜したアンドープのGaN層(下地層)の表面において、(20−24)面のXRCスペクトル半価幅が185arcsecとなった試料の逆格子空間マップを示す。また、図8に、窒素濃度を75%として中間層を成膜し、その上に成膜したアンドープのGaN層の表面において、(20−24)面のXRCスペクトル半価幅が69arcsecとなった試料の逆格子空間マップを示す。ここで、図7及び図8において、横軸はa軸の情報であり、また、縦軸はc軸の情報であり、ほぼ同スケールでの比較となっている。
図8に示す逆格子空間マップでは、アンドープGaN層の(20−24)面における回析パターンが、図7の逆格子空間マップに示す回析パターンに比べ、a軸方向及びc軸方向ともに分布が小さく、ピークの面積が小さくなっている。これは、転位密度(ツイスト)の減少に相当し、転位密度が低い程、アンドープGaN層の結晶性が良好であることを示している。
【0102】
以上の結果により、本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子が、生産性に優れ、また、優れた発光特性を備えていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子は、良好な結晶性を有するIII族窒化物化合物半導体結晶からなる表面層を有している。従って、この上に、さらに機能を持たせたIII族窒化物化合物半導体結晶層を形成することにより、優れた発光特性を有する発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、あるいは電子デバイス等の半導体発光素子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の一例を模式的に説明する図であり、積層半導体の断面構造を示す概略図である。
【図2】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の一例を模式的に説明する図であり、平面構造を示す概略図である。
【図3】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の一例を模式的に説明する図であり、断面構造を示す概略図である。
【図4】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子を用いて構成したランプを模式的に説明する概略図である。
【図5】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、スパッタ装置の構造を示す概略図である。
【図6】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の実施例を説明する図であり、下地層の(0002)面及び(10−10)面におけるXRCスペクトル半価幅を示すグラフである。
【図7】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の実施例を説明する図であり、下地層の(20−24)面における逆格子空間を示すマップである。
【図8】本発明に係るIII族窒化物化合物半導体発光素子の実施例を説明する図であり、下地層の(20−24)面における逆格子空間を示すマップである。
【符号の説明】
【0105】
1…III族窒化物化合物半導体発光素子、10…積層半導体、11…基板、11a…表面、12…中間層、13…下地層、14…n型半導体層、14a…下地層、15…発光層、16…p型半導体層、17…透光性正極、3…ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、V族元素を含むガスと金属材料とをプラズマで活性化して反応させることによってIII族窒化物化合物からなる中間層を成膜し、該中間層上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層、発光層、及びp型半導体層を順次積層するIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法であって、
前記V族元素を窒素とし、前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超99%以下の範囲とすることを特徴とするIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超60%以下の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記中間層を成膜する際の、前記ガス中における窒素のガス分率を20%超50%以下の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記中間層を、スパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記中間層を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記中間層を、RFスパッタ法を用いて、カソードのマグネットを移動させつつ成膜することを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記中間層を、V族元素を含むガスをリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属材料がAlを含有する材料であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記中間層を、AlNで成膜することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記基板の温度を室温〜1000℃の範囲として、前記中間層を形成することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記基板の温度を200〜800℃の範囲として、前記中間層を形成することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記中間層上に、前記n型半導体層に備えられる下地層を積層することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記下地層を、GaN系化合物半導体で形成することを特徴とする請求項12に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記下地層を、GaNで形成することを特徴とする請求項13に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記下地層を、AlGaNで形成することを特徴とする請求項13に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記中間層と前記下地層を、それぞれ異なるIII族窒化物化合物で形成することを特徴とする請求項12〜15の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記下地層を、MOCVD法によって前記中間層上に成膜することを特徴とする請求項12〜16の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記下地層を成膜する際の前記基板の温度を800℃以上とすることを特徴とする請求項12〜17の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18の何れか1項に記載の製造方法で得られるIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項20】
基板上に、V族元素を含むガスと金属材料とがプラズマで活性化されて反応することによってIII族窒化物化合物からなる中間層が成膜され、該中間層上に、III族窒化物化合物半導体からなるn型半導体層、発光層、及びp型半導体層が順次積層されてなるIII族窒化物化合物半導体発光素子であって、
前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超99%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とするIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項21】
前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超60%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とする請求項20に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項22】
前記中間層は、前記V族元素が窒素とされるとともに、前記ガス中における窒素のガス分率が20%超50%以下の範囲とされて成膜されたものであることを特徴とする請求項20に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項23】
前記中間層が、Alを含有する組成とされていることを特徴とする請求項20〜22の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項24】
前記中間層が、AlNからなることを特徴とする請求項23に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項25】
前記中間層が、前記基板表面の少なくとも90%以上を覆うように形成されていることを特徴とする請求項20〜24の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項26】
前記中間層が、少なくとも前記基板の側面を覆うように形成されていることを特徴とする請求項20〜25の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項27】
前記中間層が、前記基板の側面及び裏面を覆うように形成されていることを特徴とする請求項20〜26の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項28】
前記中間層が、柱状結晶の集合体からなることを特徴とする請求項20〜27の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項29】
前記中間層は、前記柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が、1〜100nmの範囲とされていることを特徴とする請求項28に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項30】
前記中間層は、前記柱状結晶の各々のグレインの幅の平均値が、2〜70nmの範囲とされていることを特徴とする請求項28に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項31】
前記中間層が六方最密充填構造として形成されていることを特徴とする請求項28〜30に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項32】
前記中間層の膜厚が、20〜80nmの範囲とされていることを特徴とする請求項20〜31の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項33】
前記中間層上に、前記n型半導体層に備えられる下地層が積層されてなることを特徴とする請求項20〜32の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項34】
前記下地層が、GaN系化合物半導体からなることを特徴とする請求項33に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項35】
前記下地層が、GaNからなることを特徴とする請求項34に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項36】
前記下地層が、AlGaNからなることを特徴とする請求項34に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子。
【請求項37】
請求項19〜36の何れか1項に記載のIII族窒化物化合物半導体発光素子が用いられてなるランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−177523(P2008−177523A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211377(P2007−211377)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】