説明

III族窒化物系化合物半導体の製造方法

【課題】凹凸基板にスパッタバッファを介して結晶性の良いGaNを得る。
【解決手段】エッチングによりサファイア基板に凹部を設け、且つその凹部はサファイア基板の主面とほとんど平行となっており、当該エッチングにより形成された凹部の底面に影響されたエピタキシャル成長が生ずる。スパッタ装置の対応可能温度は500℃程度であるため、加熱処理を行うことが少なかった。荒れた凹部の底面が表面の半分以上の基板を用いる場合は、当該凹部底面に影響されたエピタキシャル成長が生じ、良好な単結晶が形成されなかった。そこで水素雰囲気下、1000℃以上1500℃以下の加熱処理を行うことで、当該凹部の底面の原子配列の乱れを正すことができ、スパッタバッファを介して結晶性の良いIII族窒化物系化合物半導体が得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIII族窒化物系化合物半導体の製造方法に関する。本発明は凹凸を有する加工基板上にスパッタリングによりバッファ層を形成した後、有機金属気相成長法によりIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させる場合に特に有効である。
尚、本明細書においてIII族窒化物系化合物半導体とは、AlxGayIn1-x-yN(x、y、x+yはいずれも0以上1以下)で示される半導体、及び、n型化/p型化等のために任意の元素を添加したものを含む。更には、III族元素及びV族元素の組成の一部を、B又はTl、或いはP、As、Sb又はBiで置換したものをも含むものとする。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物系化合物半導体を有機金属気相成長法(MOVPE)で結晶性良く形成する技術が確立している。この際、エピタキシャル成長基板はサファイア基板その他の異種基板を用いることから、例えば1000℃以上の高温で窒化ガリウム等の単結晶成長に先立って、例えば400℃程度の低温で窒化アルミニウム等から成るバッファ層を形成することが一般的である。このバッファ層は、MOVPE装置でも形成可能であるが、例えばマグネトロンスパッタにより形成することも可能である。マグネトロンスパッタ装置は500℃程度であるため、通常、エピタキシャル成長基板は洗浄工程の後、当該500℃程度までしか加熱されずにマグネトロンスパッタによるバッファ層が形成される。
【0003】
また、III族窒化物系化合物半導体発光素子の、光取り出し効率を向上させるため、エピタキシャル成長基板表面に凹凸を設ける技術も多用されている。例えば特許文献1では、個々がすり鉢状の凹部をサファイア基板に多数設けて、スパッタによるバッファ層を形成した後、MOVPEによりIII族窒化物系化合物半導体発光素子を形成している。
【特許文献1】特開2007−273659
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の記載内容は、開口が直径4μm、深さ6μmの凹部を、8μmピッチで形成するものである。このため、基板面の面積の大部分は、エッチング等の加工にさらされず、平坦性が高いままである。ところが、本発明者らの実験では、エッチング等の加工にさらされる基板表面の面積が、エッチング等の加工にさらされない基板表面の面積よりも大きくなると、スパッタによるバッファ層形成後にエピタキシャル成長されるIII族窒化物系化合物半導体の結晶性が極めて悪くなることがわかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、エッチング等の加工にさらされ、且つエピタキシャル成長に影響を与える基板主面と平行な底面の面積が、エッチング等の加工にさらされない基板表面の面積よりも大きくなった場合でも、スパッタバッファを介して結晶性の良いIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、基板にスパッタリングによりバッファ層を形成したのち、エピタキシャル成長によりIII族窒化物系化合物半導体を形成するIII族窒化物系化合物半導体の製造方法において、基板として表面に凹凸を有するものを用い、基板面を水素雰囲気下、1000℃以上1500℃以下の温度で加熱処理したのちにスパッタリングによりバッファ層を設けたのち、有機金属気相成長法によりIII族窒化物系化合物半導体を形成することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、基板はサファイア基板であり、基板の表面に凹凸を形成する際、エッチングマスクを用いたドライエッチングにより凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法である。
請求項3に係る発明は、ドライエッチングによりエッチングされる面積が、エッチングマスクにより保護される面積よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法である。
請求項4に係る発明は、ドライエッチングにより形成される凹部は、基板の主面にほぼ平行な底面となることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法である。
【0007】
請求項5に係る発明は、基板面の加熱処理が、1100℃以上1300℃以下の温度で行われることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、スパッタリングがマグネトロンスパッタであることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、バッファ層が窒化アルミニウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
下記に示す通り、例えばマスクを用いたプラズマイオンエッチング等のドライエッチングによりサファイア基板に凹部を設ける。この場合マスクで被覆されていた基板面は凸部表面となる。この凸部表面はエッチングにより例えば原子配列が荒らされないが、凹部の底面は原子配列が荒らされる。ここで凹部の底面がサファイア基板の主面とほとんど平行となっている場合、当該エッチングにより形成された凹部の底面に影響されたエピタキシャル成長が生ずる。
ここで、MOVPEによりバッファ層を形成する際は、通常、装置の対応可能な温度付近、例えば1000℃で加熱処理、いわゆるベークを行ってからバッファ層を形成していた。
しかし、スパッタ装置の対応可能温度は500℃程度であるため、そのような加熱処理を行うことが無かった。
スパッタバッファを形成する際、凹凸を有しない清浄な表面の基板を用いたり、荒れた凹部の底面を有していても、清浄な表面が大部分を占める基板を用いる場合は、スパッタバッファを形成した後のIII族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長は結晶性良く行われた。
一方、本発明者らが、荒れた凹部の底面が基板の全表面の半分以上となる基板を用いる場合は、当該凹部底面に影響されたエピタキシャル成長が生じ、良好な単結晶が形成されなかった。
そこで本発明者らは、荒れた凹部の底面が基板の全表面の半分以上となる基板を用いる場合であっても、水素雰囲気下で当該凹凸基板を1000℃以上1500℃以下の範囲で加熱処理を行うことで、当該凹部の底面の原子配列の乱れを正すことができ、スパッタバッファを介して結晶性の良いIII族窒化物系化合物半導体が得られることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施に用いる、水素雰囲気下の加熱処理装置は、任意の入手可能な装置を用いて良く、また、任意に新たに設計した装置を用いても良い。例えばのちに用いるMOVPE装置を使用することが簡便であるが、スパッタ装置であれば好適である。
本発明の本質は、例えば発光素子を形成する目的で、表面の少なくとも一部が荒れた凹凸を有する基板を用いる場合、当該基板の、エピタキシャル成長に影響する面の表面荒れ、即ち原子配列の乱れを正すことである。
スパッタ装置は、任意の入手可能な装置を用いて良く、また、任意に新たに設計した装置を用いても良い。例えばマグネトロンスパッタ装置が好適である。
スパッタにより形成するバッファ層は任意の組成のIII族窒化物系化合物半導体として良いが、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、或いは窒化アルミニウムガリウムが好適である。
以下、具体的な一実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
マスクを用いたISMエッチングにより、a面を主面とするサファイア基板に凹凸加工を施した。即ち、点在する六角形形状の凸部表面を残して、それ以外の部分を約0.8μmの深さにエッチングした。この際、凹部の底面は、ほぼ、a面となった。点在する凸部の六角形形状は、個々の六角形における向かい合う辺の間隔が3μm、隣り合う六角形状の凸部の間隔が、2μmとなる配置とした。これにより、サファイア基板の全表面の36%がエッチングされずに残った。
こうして、ISMエッチングの際に、点在する六角形形状のマスクで被覆された凸部の表面は、サファイア表面の原子配列は荒らされず、エッチングで形成される凹部の底面のサファイア表面の原子配列は荒らされることとなった。これは後述する。
【0011】
凹部を形成したサファイア基板をMOVPE装置に搬入し、水素雰囲気下で1150℃、5分間処理した。
次に加熱処理後の凹部を形成したサファイア基板をマグネトロンスパッタ装置に搬入し、500℃でAlNバッファ層を約15nm形成した。
次にAlNバッファ層を形成したサファイア基板をMOVPE装置に搬入し、基板温度を1100℃とし、トリメチルガリウムとアンモニアを供給して窒化ガリウムの単結晶成長を5μmの厚さとなるまで行った。
比較例1として、凹部を形成したサファイア基板を水素雰囲気下で加熱処理しない他は実施例1と同様に行って窒化ガリウムを得た。
【0012】
図1.Aは、実施例に係る、凹凸を形成したa面サファイア基板に、加熱処理を行ったのちにスパッタバッファを形成し、そのスパッタバッファ上に5μm厚のGaNを形成した場合の、エピタキシャル結晶膜表面の顕微鏡写真図である。一方、図1.Bは、比較例に係る、凹凸を形成したa面サファイア基板に、加熱処理を行わずにスパッタバッファを形成し、そのスパッタバッファ上に5μm厚のGaNを形成した場合の、エピタキシャル結晶膜表面の顕微鏡写真図である。
図1.Aの本発明の実施例に係るGaN層表面は、十分になだらかであることがわかる。図1.Bの本発明を適用しない比較例に係るGaN層表面は、水平方向の大きさ3μm程度の凹凸が極めて多数生じており、平滑性が悪いことがわかる。
【0013】
本発明の効果で説明した、表面の原子配列の乱れについての証拠を3枚の写真図で示す。以下、サファイア基板には凹凸加工を行っていない。即ち、反射高速電子線回折(RHEED)により回折図形を得る際、電子を試料表面に極小さい角度で入射させるためである。凹凸加工を施さないほかは、実施例1と同様の条件とした。
図2.Aは、ISMエッチング前の清浄な状態でのa面を主面とするサファイア基板(凹凸無し)のRHEEDの写真図、図2.Bは、ISMエッチング直後のサファイア基板(凹凸無し)のRHEEDの写真図、図2.Cは、ISMエッチングを施し、その後、水素雰囲気下加熱処理をしたサファイア基板(凹凸無し)のRHEEDの写真図である。
清浄な状態でのサファイア基板面の規則正しい原子配列(図2.A)が、ISMエッチングにより原子配列が乱れ(図2.B)、水素雰囲気下加熱処理によりその乱れが正されていること(図2.C)が示された。
【実施例2】
【0014】
本発明の主要部の1つである水素雰囲気下加熱処理の有無が、鏡面で全面にエッチングを施したサファイア基板へのエピタキシャル成長に対してどのような作用を示すか調べた。
鏡面のa面を主面とするサファイア基板全面にISMエッチングを施した他は、実施例1と同様の条件にて5μm厚のGaN膜を得た。即ち本実施例2においては、a面サファイア基板の全面をISMエッチングしたのち、水素雰囲気下加熱処理をし、スパッタバッファを形成し、そのスパッタバッファ上に単結晶GaN膜を成長させた。
比較例2として、本実施例2で水素雰囲気下加熱処理を行わないもの、即ち、a面を主面とするサファイア基板に全面にISMエッチングしたのち、水素雰囲気下加熱処理を施さずにスパッタバッファを形成し、そのスパッタバッファ上に単結晶GaN膜を成長させた。
図3.Aは実施例2によるGaN膜表面の顕微鏡写真図、図3.Bは比較例2によるGaN膜表面の顕微鏡写真図である。写真図の比較からは明らかに、水素雰囲気下加熱処理が、エッチングにより表面の原子配列が乱れたサファイア基板に対して、その表面の原子配列の乱れを修正する効果があることがわかる。
【0015】
本発明は、成長基板の凹部表面が、必ずしも元の主面に平行でなくても成立する。また、本発明は、凸部の側面が必ずしも元の主面に垂直でなくても成立する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1.A】実施例1によるGaN膜表面の顕微鏡写真図。
【図1.B】比較例1によるGaN膜表面の顕微鏡写真図。
【図2.A】エッチング前の凹凸を有さないサファイア基板のRHEED写真図。
【図2.B】エッチング後の凹凸を有さないサファイア基板のRHEED写真図。
【図2.C】エッチング及び加熱処理後の凹凸を有さないサファイア基板のRHEED写真図。
【図3.A】実施例2によるGaN膜表面の顕微鏡写真図。
【図3.B】比較例2によるGaN膜表面の顕微鏡写真図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にスパッタリングによりバッファ層を形成したのち、エピタキシャル成長によりIII族窒化物系化合物半導体を形成するIII族窒化物系化合物半導体の製造方法において、
前記基板として表面に凹凸を有するものを用い、
前記基板面を水素雰囲気下、1000℃以上1500℃以下の温度で加熱処理したのちにスパッタリングによりバッファ層を設けたのち、有機金属気相成長法によりIII族窒化物系化合物半導体を形成することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記基板はサファイア基板であり、
前記基板の表面に凹凸を形成する際、エッチングマスクを用いたドライエッチングにより凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記ドライエッチングによりエッチングされる面積が、前記エッチングマスクにより保護される面積よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記ドライエッチングにより形成される凹部は、前記基板の主面にほぼ平行な底面となることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記基板面の加熱処理が、1100℃以上1300℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記スパッタリングがマグネトロンスパッタであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層が窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のIII族窒化物系化合物半導体の製造方法。

【図1.A】
image rotate

【図1.B】
image rotate

【図2.A】
image rotate

【図2.B】
image rotate

【図2.C】
image rotate

【図3.A】
image rotate

【図3.B】
image rotate


【公開番号】特開2010−10363(P2010−10363A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167451(P2008−167451)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】