説明

エピタキシャルウエハ、半導体素子、およびこれらの製造方法

【課題】 Sb含有層を備えながら、結晶性に優れたIII−V族化合物半導体のエピタキシャルウエハ、半導体素子、およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のエピタキシャルウエハの製造方法は、気相成長法によって、基板1の上に、GaAsSb層3aとInGaAs層3bとを交互に繰り返し成長する工程を備え、GaAsSb層の成長の際、該GaAsSb層のV族中のSbモル分率xと、供給している原料ガス(気相)のV族中のSbモル分率xとが、0.75≦(x/x)≦1.20、を満たすように、基板温度を設定し、かつ原料ガスを供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物半導体の、エピタキシャルウエハ、半導体素子、およびこれらの製造方法であって、より具体的には、近赤外の長波長域に対応するバンドギャップエネルギを有するタイプ2の多重量子井戸構造(Multiple-Quantum Well)を含む、エピタキシャルウエハ、半導体素子、およびこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物のInP系半導体は、バンドギャップエネルギが近赤外域に対応することから、通信用、夜間撮像用などの受光素子を対象に、多くの研究開発が行われている。
たとえばInP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプ2の多重量子井戸構造(MQW)を形成することで、カットオフ波長2μm以上のフォトダイオードが提案されている(非特許文献1)。このMQWは、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法で成長している。
またInP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプ2のMQWを活性層として形成し、発光波長2.14μmのLEDおよびレーザーダイオードの提案がなされている(非特許文献2)。このタイプ2のMQWは、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法によって、温度530℃で成長している。InGaAsおよびGaAsSbの原料についても、それぞれの有機金属ガスが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.Sidhu, et.al. "ALong-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells, IEEE Photonics Technology Letters, Vol.17, No.12(2005), pp.2715-2717
【非特許文献2】M.Peter,et.al. “Light-emitting diodes and laser diodes based on a Ga1-xInxAs/GaAs1-ySbytype II superlattice on InP substrate” Appl. Phys. Lett., Vol.74,No.14 (5 April 1999), pp.1951-1953
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記フォトダイオードは、感度、暗電流などの性能のレベルが十分ではなく、また、エピタキシャルウエハ内の受光素子(チップ)間のばらつきが大きく、また、エピタキシャルウエハを安定して再現性よく製造することが難しい。これは、MBE法による成長法に起因する。
また発光ダイオードについては、やはり性能レベルが良好ではなく、同一エピタキシャルウエハ内のチップ間のばらつき、およびエピタキシャルウエハを再現性よく製造することが難しい。これは、上記した成長方法に原因がある。とくにSbは、成長温度または基板温度が少し変化するだけで固相内に取り込まれる量が大きく変動する。Sbを含む層のSb組成は不安定であり、当該Sb含有層は所定温度以上で相分離等を生じ易く、良好な結晶を得ることが難しい。
【0005】
本発明は、Sb含有層を備えながら、結晶性に優れたIII−V族化合物半導体のエピタキシャルウエハ、半導体素子、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。なお、結晶性に優れることには、半導体素子において良好な性能をもたらす結晶という意味だけでなく、製造歩留まりを低下させる表面欠陥等が抑制されたもの、という意味も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエピタキシャルウエハの製造方法は、基板上にIII―V族化合物半導体のエピタキシャルウエハを製造する。この方法は、気相成長法によって、基板の上に、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とを交互に繰り返し成長する工程を備え、第1の層の成長の際、該第1の層(固相)のV族中のSbモル分率xと、供給している原料ガス(気相)のV族中のSbモル分率xとが、0.75≦(x/x)≦1.20、を満たすように、基板温度を設定し、かつ原料ガスを供給することを特徴とする。
【0007】
上記の方法によれば、Sbを含む第1の層が、当該第1の層の成長中も、その上の各層を成長中も、相分離しにくくなり、良好な結晶品質を得ることができる。この結果、このエピタキシャルウエハを用いて良好な性能の半導体素子を得ることができる。
また、温度のばらつきに対するSb組成のばらつきが小さくなり、製造時の安定性が向上する。すなわち、同一エピタキシャルウエハ内における均一性の向上、エピタキシャルウエハまたは各ロットを再現性よく製造することができる。この結果、製造歩留まりを高めて、製造コストを下げることができる。
(x/x)をSb固相濃化率と呼ぶこととするが、Sb固相濃化率が0.75未満の場合は、Asに比してSbは固相中に取り込まれにくい。このため、化学量論的に正常な範囲のGaAsSbをSb過少側に逸脱することになり、良好な結晶性のGaAsSbを得ることができない。また、MQWより上層の成長の際または成長後に表面欠陥を生じやすい。一方、Sb固相濃化率が1.20を超えると、固相中に過剰にSbが取り込まれやすくなる。このため、化学量論的に正常な範囲のGaAsSbからSb過剰側に逸脱することになり、良好な結晶性のGaAsSbを得ることができない。
上記の基板温度は、基板表面温度を赤外線カメラおよび赤外線分光器を含むパイロメータでモニタしており、そのモニタされている基板表面温度をいう。したがって、基板表面温度ではあるが、厳密には、基板上に成膜がなされている状態の、エピタキシャル層表面の温度である。基板温度、成長温度、成膜温度など、呼称は各種あるが、いずれも上記のモニタされている温度をさす。
【0008】
第1の層の成長時の基板温度を390℃以上490℃以下とすることができる。これによって、Sbを含みながら結晶性に優れた第1の層を得ることができる。とくに原料ガスを、第1の層のSb組成x1に合わせて供給する場合、この基板温度の範囲をとることで、Sb固相濃化率を0.75以上1.20以下の範囲に入れることができる。
【0009】
第1の層の成長時の基板温度を、第2の層の成長時の基板温度よりも低くすることができる。これによって、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とを、両方とも結晶性に優れたものとできる。この結果、これら両方をペアとする、結晶性に優れたMQWを得ることができる。
【0010】
第2の層の成長時の基板温度を、第1の層の成長時の基板温度よりも20℃以上高くすることができる。
これによって、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とを、両方とも成長に適切な温度で成長することができ、製造上安定性に優れ、かつ高品質のMQWを得ることができる。
【0011】
第2の層の成長の後、基板温度が第1の層の成長時の温度に確実に降温するのを待って該第1の層の成長を行うことができる。
この場合、温度が降温して全体が均一に設定温度になるのを保証することができ、高品質を保持することができる。
【0012】
第2の層の成長の後、第1の層の成長時の基板温度に降温している最中に第1の層を成長し始めることができる。
降温途中に成長を行う場合、基板温度が低いほど第1の層中のSb組成は上昇する。このためSbの傾斜濃度部が形成される。すなわち第1の層では、基板から遠ざかる向きにSb濃度が上昇する傾斜濃度部が形成される。一般にSb濃度が上昇すると伝導帯のエネルギは低下し、価電子帯のエネルギは上昇する。したがって正孔の波動函数は、基板から遠ざかる向きにずれて位置する。タイプ2のMQWでペアを組む相手の層(第2の層)のエネルギバンドは、組成に傾斜がなければ変化しないので、電子の波動函数は第2の層における量子井戸の中央に位置する。この結果、Sb含有層中の正孔の波動函数と、第2の層中の電子の波動函数との重なりが増し、タイプ2のMQWにおいて両層の界面をクロスする遷移現象の量子効率が増すことになる。この結果、たとえば受光素子では近赤外域の長波長側の受光感度が向上する。このためMQWのペア数を減らしても、上記長波長側の受光感度を保持することができる。
また、基板温度は降温するとき(昇温より)安定化まで時間がかかるので、降温途中に成長することで、製造時間を短縮して製造コストを低減することができる。
【0013】
第1の層の成長の後、基板温度が第2の層の成長時の温度に確実に昇温するのを待って該第2の層の成長を行うか、または昇温途中に該第2の層を成長し始めることができる。
第2の層についても、成長時間短縮による利益は得ることができる。ただ、昇温は、降温に比べて、安定化まで時間がかからない。
【0014】
第1の層を、GaAsSb、AlAsSbおよびInAsSbのうちのいずれか1つとすることができる。
これらの材料を用いることで、波長2μm以上にカットオフ波長を持つ受光素子や、波長2μm以上にピーク波長を持つ発光素子を得ることができる。
【0015】
第1の層をGaAs1−xSb(0<x≦1)とし、第2の層をInGa1−yAs(0<y≦1)とすることができる。
これによって、タイプ2のMQWを得ることができる。この結果、波長2μm以上にカットオフ波長を持つ、暗電流の小さい受光素子、または、波長2μm以上にピーク波長を持つ、または発光効率の良い発光素子を得ることができる。
【0016】
基板を、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSb、およびAlAsのうちのいずれか1つとすることができる。
これらの基板を用いて、各種の近赤外域の受光素子または発光素子に用いられる、高品質のエピタキシャルウエハを製造することができる。
【0017】
気相成長法を、全有機金属気相成長法とすることができる。これによって、他の気相成長法に比べて、第1の層および第2の層の成長時の基板温度、および他の上層(たとえば窓層または拡散濃度調整層)の成長時の基板温度を、ともに低くすることができる。この結果、結晶性に優れたエピタキシャルウエハを得ることができる。とくにSbを含む第1の層については、当該第1の層の基板温度を下げることで高品質の結晶を得るだけでなく、第2の層、およびその他の上層の基板温度も低くすることで、後から高温にされて発生する相分離などの不具合をなくすことができる。
ここで、全有機気相成長法は、気相成長に用いる原料のすべてに、有機物と金属との化合物で構成される有機金属原料を用いる成長方法のことをいい、全有機MOVPE法と記す。全有機MOVPE法における利点は、このあと説明するように数多くあるが、最も広くは能率よく各層を成長できることである。
【0018】
本発明の半導体素子の製造方法では、上記のいずれかの製造方法で製造されたエピタキシャルウエハを用いることができる。
これによって、Sb含有層を内蔵しながら高品質の結晶と高経済性とを備えたエピタキシャルウエハを用いて、高性能の半導体素子を得ることができる。半導体素子は、どのようなものでもよく、たとえば受光素子、発光素子がある。
【0019】
本発明のエピタキシャルウエハは、基板とその上に位置するエピタキシャル層とを有するIII―V族化合物半導体のエピタキシャルウエハである。このエピタキシャルウエハは、基板の上に、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とが交互に繰り返し位置し、第1の層に、基板から遠ざかる向きにSbの濃度が高くなる傾斜濃度部分があることを特徴とする。
上記の構成によって、降温途中に第1の層を形成するプロセスを用いることができ、生産性の向上を得ることができる。さらに、降温途中の第1の層の成長時に、V族中のSbモル分率一定の原料ガスを供給することができるので、製造工程を簡単かつ容易にすることができる。
さらに、Sbを含む第1の層は、その価電子帯のポテンシャル値が第2の層よりも高いのが普通である。タイプ2のMQWでは、たとえば受光では、価電子帯のポテンシャル値が高いほうの第1の層に正孔が、また第2の層に電子が、対をなして生成する。第1の層のSb濃度は、上の隣の第2の層に向けて高くなるので、第1の層の価電子帯の底(真空)のエネルギは上の隣の第2の層に向けて深くなる。このため、正孔の波動関数は、上の隣の第2の層における電子の波動関数に近づくようにずれる。第2の層が、昇温途中に成長されなければ、矩形の井戸ポテンシャルなので、電子の波動関数は、第2の層で中心部に位置する。この結果、正孔と電子との波動関数の重なりが大きくなり、受光の量子効率を向上させることができる。すなわち感度を高めることができる。
また、発光においても、伝導帯の電子が隣の価電子帯へと遷移する遷移確率が増加するので発光効率を向上させることができる。
【0020】
第1の層を、GaAsSb、AlAsSbおよびInAsSbのうちのいずれか1つとすることができる。
このエピタキシャルウエハを用いることで、波長2μm以上にカットオフ波長を持つ受光素子、または波長2μm以上にピーク波長を持つ発光素子を得ることができる。
【0021】
第1の層をGaAs1−xSb(0<x≦1)とし、第2の層をInGa1−yAs(0<y≦1)とすることができる。
これによって、タイプ2のMQWを得ることができる。このMQWによれば、波長2μm以上にカットオフ波長を持つ、暗電流の小さい受光素子、または、波長2μm以上にピーク波長を持つ、発光効率の良い発光素子を得ることができる。
【0022】
基板を、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSb、およびAlAsのうちのいずれか1つとすることができる。
これらの基板を用いて、良好な素子特性を持つ波長2μm以上にカットオフ波長を持つ受光素子や、波長2μm以上にピーク波長を持つ発光素子を、容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のエピタキシャルウエハの製造方法等によれば、Sb含有層を備えながら、結晶性に優れたものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明の実施の形態1におけるエピタキシャルウエハの断面図、(b)受光層を構成するMQWの拡大図、である。
【図2】(a)図1のMQWにおけるGaAsSbの成長時の状況を説明する図、(b)Sb固相濃化率の範囲を示す図、である。
【図3】Sb固相濃化率と成長温度との関係を示す図である。
【図4】MQWの成長シーケンスを示す図である。
【図5】(a)タイプ2のMQW内のGaAsSb層に濃度傾斜部がある場合のバンド図および電子と正孔の波動関数の位置を示す図、(b)従来のタイプ2のMQWのバンド図および電子と正孔の波動関数の位置を示す図、である。
【図6】全有機MOVPE法の成膜装置の配管系統等を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2における、受光素子アレイ(半導体素子)を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における、受光素子を示す図である。
【図9】図7または8の受光素子50の製造方法のフローチャートである。
【図10】(a)は本発明の実施の形態3における発光素子(LED)を示す図であり、(b)はMQWの拡大図である。
【図11】本発明の実施例3における、GaAsSb中のSbモル比xと原料ガス中のSbモル比xとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態1−エピタキシャルウエハ−)
図1は、本発明の実施の形態におけるエピタキシャルウエハ1aを示し、(a)は全体の断面図、(b)は、受光層3を構成するGaAsSb3aとInGaAs3bとをペアとする、タイプ2のMQWの拡大断面図、である。エピタキシャルウエハ1aは、InP基板1、バッファ層2と、その上に位置するエピタキシャル層7とからなる。エピタキシャル層7は、全有機MOVPE法によって成長されており、バッファ層2も含めるとその内容はつぎのとおりである。
(InP基板1/n型InPバッファ層2/タイプ2の(InGaAs/GaAsSb)MQW受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
図1(b)に示すように、MQW3は、Sbを含むGaAsSb(第1の層)3aと、Sbを含まないInGaAs(第2の層)3bとの繰り返しから形成される。GaAsSbは、Sbを含むために、従来、良好な結晶性の膜を、同一ウエハ内でのばらつきなく、またウエハ間において再現性よく、成長することが難しかった。このGaAsSb3aに良好な結晶性を持たせ、再現性よく成長するために、本実施の形態では、つぎの図2に示すような方策をとる。
【0026】
図2(a)は、図1(b)に示すMQW3におけるGaAsSb(第1の層)3aを成長するときの原料ガス等の模式図であり、(b)は、原料ガスおよびGaAsSb3aにおけるSbモル比(モル分率)に課せられる条件を示す図である。全有機MOVPE法では、原料ガスは、3族または5族の金属と炭化水素とが結びついた炭化水素金属の形態で供給される。炭化水素金属は、比較的低温で分解しやすいため、Sbを含むGaAsSbのように温度上昇で相分離しやすい化合物の成長に適している。アンチモンの原料ガスとして例示されるトリメチルアンチモン(TMSb)は、成長中のGaAsSb層3aの表面または表面近くで分解しながら、Sbを成長表面に供給する。GaおよびAsの原料ガスも同様に分解して、GaおよびAsを供給する。ここで、SbとAsとは、同じV族元素であり、両方合わせて3族のGaと同じ原子数(モル数)となってGaAsSbを構成する。SbまたはAsの原料ガスは、このあと詳細に説明するように、それぞれ独立に供給量をMFC(Mass Flow Controller)で制御しながらバルブ開閉によって成長室に位置する石英管65へと導入される。このとき、原料ガス中のSbとAsとのモル比は、各原料ガスの供給の仕方によらずどのような場合でも、図2(a)に示すように、[Sb]/[As]=x/(1−x)と表すことができる。
成長するGaAsSb3aについては、たとえば受光素子にとって望ましい組成範囲の具体例を表示すれば、GaAs1−x1Sbx1(0.36≦x≦0.62)と表すことができる。また、InGaAsについては、InGa1−zAs(0.38≦z≦0.68)である。以後の説明では、組成比を表示しないで、GaAsSbなどと表示する。
Sbは制御が難しいほど移動性が高く、非常に扱い難い元素である。このため、原料ガス中のSbが成長中の固相に対して過剰な場合および過少な場合、それぞれの場合において、良好な結晶を得ることができない。すなわち、GaAs1−x1Sbx1におけるxに対して、原料ガス中の上記xは、次に示す範囲になければならない。
0.75≦x/x≦1.20・・・・・・(1)
上記(1)式における(固相中のV族中Sbモル比)/気相中のV族中Sbモル比)(=x/x)を、Sb固相濃化率と呼ぶこととする。Sb固相濃化率が、0.75未満の場合は、Asに比してSbは固相中に取り込まれにくい。このため、化学量論的に正常な範囲のGaAs1−x1Sbx1を逸脱することになり、良好な結晶性のGaAsSb3aを得ることができない。また、気相中のSbは過剰になる。あくまで推測であるが、気相における過剰なSbは、成長表面に固相化(結晶化)しないSb濃化層を形成すると考えられる。この結果、MQW3より上層の成長の際または成長後に表面欠陥を生じる原因となる。上記表面欠陥は、GaAsSb成長時だけでなく、MQW3の成長が終了して、InP窓層5を成長中または成長後に、そのInP窓層を下から突き上げるように発生することが多い。この種の表面欠陥は高さが10μm以上あり、大きいものは100μmの高さに達し、製造歩留まりを著しく低下させる。
一方、Sb固相濃化率が1.20を超えると、固相中に過剰にSbが取り込まれやすくなる。このため、化学量論的に正常な範囲のGaAs1−x1Sbx1を逸脱することになり、この場合にも良好な結晶性のGaAsSb3aを得ることができない。
要するに、Sb固相濃化率が(1)式の範囲を逸脱すると、優れた結晶性のエピタキシャルウエハ1aを得ることができない。
【0027】
それでは、Sb固相濃化率を(1)式の範囲に入れるためには、どうすればよいか。図3は、Sb固相濃化率(x/x)と基板温度(成長温度)との関係を示す図である。この図3のデータは、Sbの原料ガス(TMSb)とAsの原料ガス(TMAs)とが、原料ガス中のSbのモル比x、Asのモル比1−xとして、そのxを、GaAsSbにおける上記xの範囲、0.38≦x≦0.68、に合うように供給した場合にとられたものである。
図3によれば、Sb固相濃化率を(1)式の範囲にする場合、基板温度を390℃以上490℃以下とすればよいことが分かる。この温度範囲は、かなり低く、たとえばInGaAs3bの成長温度から20℃以上低くした、GaAsSbの成長用の特別の成長温度である。
【0028】
図4は、GaAsSb3aとInGaAs3bとの繰り返しからなるMQW3を成長するときの、成長温度および原料ガス供給のシーケンスを示す図である。InGaAs3bの成長時の基板温度(成長温度)Tgは500℃に、またGaAsSb3aの成長時の基板温度Tgは450℃に、設定している。したがって、InGaAs3bを成長した後、GaAsSb3aを成長する前に、基板温度Tgを下げる必要がある。基板温度Tgは上げる時よりも下げる時のほうが安定化に時間がかかる。InGaAs3bとGaAsSb3aとを250ペア成長させる場合、成長時間の短縮は、製造能率上、重要であり、とくに温度降下に要する時間の短縮は重要である。このため、図4に示すように、GaAsSb3aの成長開始は、基板温度Tgが450℃に安定化するのを待つのではなく、たとえば450℃に向かって温度低下している降温途中であってもよい。すなわち450℃から所定範囲高い温度の状態からGaAsSbを成長してもよい。このような温度安定化前の降温中のGaAsSbの成長によって、MQW3の成長時間を短縮して製造能率を向上することができる。
【0029】
成長温度が低くなるほどGaAsSb3a中のSbモル比は高くなる。このため、温度降下中のGaAsSb3aの成長は、部分的に組成が傾斜する厚み部分を生じる。図5(a)に示すように、Sbが高い濃度の厚み部分では、伝導帯のエネルギEcは電子に対して低下し、また、価電子帯のエネルギEvは電子に対して上昇する。正孔にとっては逆になる。InGaAs/GaAsSbのタイプ2のMQWでは、GaAsSbの価電子帯のエネルギがInGaAsのそれより高いので、GaAsSb3aに正孔が位置する。GaAsSb3aの価電子帯に位置する正孔は、その量子井戸内でポテンシャルエネルギEvが低いほうに位置する確率が高くなる。すなわち、GaAsSbの価電子帯Ev内の正孔の波動関数は、Sbモル比が高いほうにその位置をシフトさせる。一方、InGaAs3bは、濃度の傾斜はないので、伝導帯の電子の波動関数は量子井戸の中心に位置する。この結果、Sb濃度傾斜部を持つGaAsSb3aを備えたMQW3では、GaAsSb3aにおける正孔の波動函数と、InGaAs3bにおける電子の波動函数との重なりが大きくなり、量子効率を高めることができる。この結果、受光素子では受光感度が向上し、また発光素子では発光効率が向上する。
図5(b)は、Sbの濃度傾斜部分がないMQWのバンド図であり、正孔および電子は、それぞれ価電子帯および伝導帯の量子井戸の中心に合わせて位置する。このため、従来のMQWにおいては、バンド構造の変調によって量子効率が変化することはない。
【0030】
各層の成長は、上述のように、成長能率が高い全有機MOVPE法によって行う。図6に全有機MOVPE法の成膜装置60の配管系統等を示す。反応室(チャンバ)63内に石英管65が配置され、その石英管65に、原料ガスが導入される。石英管65中には、基板テーブル66が、回転自在に、かつ気密性を保つように配置される。基板テーブル66には、基板加熱用のヒータ66hが設けられる。成膜途中のエピタキシャルウエハ1aの表面の温度は、反応室63の天井部に設けられたウィンドウ69を通して、赤外線温度モニタ装置61によりモニタされる。このモニタされる温度が、成長するときの温度、または成膜温度もしくは基板温度等と呼ばれる温度である。本発明における製造方法における、成長温度または基板温度390℃以上490℃以下でGaAsSb3aを成長する、というときの390℃以上および490℃以下は、この温度モニタで計測される温度である。石英管65からの強制排気は真空ポンプによって行われる。
原料ガスは、石英管65に連通する配管によって、供給される。全有機MOVPE法は、原料ガスをすべて有機金属気体の形態で供給する点に特徴がある。すなわち原料ガスは、各種の炭化水素と結合した金属の形態をとる。図6では、導電型を決める不純物等の原料ガスは明記していないが、不純物も有機金属気体の形態で導入される。有機金属気体の原料ガスは、恒温槽に入れられて一定温度に保持される。搬送ガスには、水素(H)および窒素(N)が用いられる。有機金属気体は、搬送ガスによって搬送され、また真空ポンプで吸引されて石英管65に導入される。搬送ガスの量は、MFC(流量制御器)によって精度よく調節される。多数の、流量制御器、電磁弁等は、マイクロコンピュータによって自動制御される。
【0031】
Ga(ガリウム)の原料としては、TEGa(トリエチルガリウム)でもよいし、TMGa(トリメチルガリウム)でもよい。In(インジウム)の原料としては、TMIn(トリメチルインジウム)でもよいし、TEIn(トリエチルインジウム)でもよい。As(砒素)の原料としては、TBAs(ターシャリーブチルアルシン)でもよいし、TMAs(トリメチル砒素)でもよい。
Sb(アンチモン)の原料としては、TMSb(トリメチルアンチモン)でもよいし、TESb(トリエチルアンチモン)でもよい。また、TIPSb(トリイソプロピルアンチモン)、また、TDMASb(トリジメチルアミノアンチモン)でもよい。これらの原料を用いることによって、MQWの結晶品質が優れたエピタキシャルウエハ1aを得ることができる。この結果、たとえば受光素子等に用いた場合、暗電流の小さい、かつ、感度が大きい受光素子を得ることができる。さらには、その受光素子を用いて、より鮮明な像を撮像することが可能となる光学センサ装置、たとえば撮像装置を得ることができる。
【0032】
次に、MQW3を形成するときの原料ガスの流れ状態について説明する。原料ガスは、配管を搬送されて、石英管65に導入されて排気される。原料ガスは、何種類でも配管を増やして石英管65に練通させることができる。たとえば十数種類の原料ガスであっても、電磁バルブの開閉によって制御される。
原料ガスは、流量の制御は、図6に示す流量制御器(MFC)によって制御された上で、石英管65への流入を電磁バルブの開閉によってオンオフされる。そして、石英管65からは、真空ポンプによって強制的に排気される。原料ガスの流れに停滞が生じる部分はなく、円滑に自動的に行われる。よって、量子井戸のペアを形成するときの組成の切り替えは、迅速に行われる。
図6に示すように、基板テーブル66は回転するので、原料ガスの温度分布は、原料ガスの流入側または出口側のような方向性をもたない。また、エピタキシャルウエハ1aは、基板テーブル66上を公転するので、エピタキシャルウエハ1aの表面近傍の原料ガスの流れは、乱流状態にある。しかし、エピタキシャルウエハ1aの表面近傍の原料ガスであっても、エピタキシャルウエハ1aに接する原料ガスを除いて導入側から排気側への大きな流れ方向の速度成分を有する。したがって、基板テーブル66からエピタキシャルウエハ1aを経て、原料ガスへと流れる熱は、大部分、常時、排気ガスと共に排熱される。
【0033】
図1(a)に示したエピタキシャルウエハ1aでは、タイプ2のMQW3の上には、InGaAs拡散濃度分布調整層4が位置し、そのInGaAs拡散濃度分布調整層4の上にInP窓層5が位置している。MQW3の形成からInP窓層5の形成まで、全有機MOVPE法によって同じ成膜室または石英管65の中で成長を続けることが、一つのポイントになる。すなわち、InP窓層5の形成の前に、成膜室からエピタキシャルウエハ1aを取り出して、別の成膜法によってInP窓層5を形成することがないために、再成長界面を持たない。InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5とは、石英管65内において連続して形成されるので、界面16,17は再成長界面ではない。再成長界面では、酸素濃度1E17cm−3以上、および炭素濃度1E17cm−3以上、となり、結晶性は劣化し、エピタキシャル積層体の表面は平滑になりにくい。本発明では、酸素および炭素の濃度がいずれも所定レベル以下であり、とくにこのあと説明する受光素子におけるp型領域6と界面17との交差線において電荷リークが生じることはない。
【0034】
本実施の形態では、MQW3の上に、たとえば膜厚0.3μm程度のノンドープInGaAs拡散濃度分布層4を形成する。このInGaAs拡散濃度分布層4は、InP窓層5を形成したあと、選択拡散法によってInP窓層5からp型不純物のZnをMQWの受光層3に届くように導入するとき、高濃度のZnがMQWに進入すると、結晶性を害するので、その調整のために設ける。このInGaAs拡散濃度分布調整層4は、上記のように配置してもよいが、なくてもよい。
InGaAs拡散濃度分布調整層4を挿入した場合であっても、InGaAsはバンドギャップが小さいのでノンドープであっても受光素子の電気抵抗を低くすることができる。電気抵抗を低くすることで、応答性を高めて良好な画質の動画を得ることができる。
InGaAs拡散濃度分布調整層4の上に、同じ石英管65内にエピタキシャルウエハ1aを配置したまま連続して、アンドープのInP窓層5を、全有機MOVPE法によってたとえば膜厚0.8μm程度にエピタキシャル成長するのがよい。原料ガスには、上述のように、トリメチルインジウム(TMIn)およびターシャリーブチルホスフィン(TBP)を用いる。この原料ガスの使用によって、InP窓層5の成長温度を低めにすることができる。この結果、InP窓層5の下に位置するMQWのGaAsSbが熱のダメージを受けることがなく、表面欠陥の密度を実用上許容できるレベルに低下できる。
【0035】
MBE法によってInP窓層を成長するには、燐原料に固体の原料を用いる必要があり、安全性などの点で問題があった。また製造能率という点でも改良の余地があった。MBE法以外の方法によってInP窓層5を成長する場合、InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5との界面17は、いったん大気に露出された再成長界面であった。再成長界面は、二次イオン質量分析によって、酸素濃度が1E17cm−3以上および炭素濃度が1E17cm−3以上、のうち、少なくとも一つを満たすことによって特定することができる。再成長界面は、p型領域と交差線を形成し、交差線で電荷リークを生じて、画質を著しく劣化させる。
また、たとえばInP窓層を単なる全有機MOVPE法によって成長すると、燐の原料にホスフィン(PH)を用いるため、分解温度が高く、下層に位置するGaAsSbの熱によるダメージの発生を誘起してMQWの結晶性を害するおそれが高い。
【0036】
(実施の形態2−受光素子(半導体素子)−)
図7は、本発明の実施の形態2における受光素子50を示す図である。受光素子50は、InP基板1の上に次のInP系エピタキシャル積層体を有する。
(n型InP基板1/n型InPバッファ層2/タイプ2の(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
InP窓層5からInGaAs層4を経て受光層3内にわたって位置するp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnが選択拡散されることで形成される。p型領域6は、選択拡散されていない領域で隔てられており、画素Pの主要部となる。選択拡散マスクパターンの開口部を調整することで、p型領域6を側面から所定距離隔てられるように形成することができる。p型領域6にはAuZnによるp側電極11が、またInP基板1の裏面にはAuGeNiのn側電極12が、それぞれオーミック接触するように設けられている。InP基板1にはn型不純物がドープされ、所定レベルの導電性を確保されている。
画素Pは、30μmピッチで縦横に配置されている。受光素子アレイと呼ぶこともある。この受光素子50は、図1に示すエピタキシャルウエハ1aに選択拡散、電極形成等の所定の加工処理を施したあと、個片化されたものである。2インチ径のエピタキシャルウエハ1aから11個の受光素子50を得ることができる。
図8は、単一の画素を含む受光素子50を示す図であり、このような受光素子も当然、本発明に該当する。このあと説明する実施例では、図8に示す受光素子50によって、暗電流などを評価した。
図9は、図7または図8に示す受光素子50の製造方法を示すフローチャートである。工程S1では、実施の形態1で説明した方法によってMQW3中のGaAsSb3aを成長する。また、工程S2〜S3についても、実施の形態1におけるエピタキシャルウエハ1aの製造方法と同じである。選択拡散による画素Pの形成、および電極の製造については、上記のとおりである。
実施の形態1におけるエピタキシャルウエハ1aを用いて、受光素子50を製造することで、能率よく、高い製造歩留まりで、高品質の結晶性を得て、低い暗電流など優れた性能の受光素子50を得ることができる。
【0037】
(実施の形態3−発光ダイオード(半導体素子)−)
図10は、本発明の実施の形態3における発光ダイオード(LED)50eを示す図である。LED50eは、InP基板1の上に次のInP系エピタキシャル積層体を有する。
(n型InP基板1/厚み1000nmのn型InPバッファ層2/タイプ2の(InGaAs/GaAsSb)MQW3/厚み800nmのp型InP窓層5)
p型InP窓層5に図示しないp側電極を、n型InP基板1に図示しないn側電極を、それぞれオーミック接触するように設ける。電極材料は、実施の形態2の受光素子50と同種の材料を用いることができる。両電極間に電流を流すことで、波長2μm〜3μmの近赤外域の光を発光することができる。
図10に示すLED50eのエピタキシャル層のMQW3は、実施の形態1または2で説明した方法によってMQW3中のGaAsSb3aを成長する。受光素子50の場合、MQW3はInGaAs/GaAsSbを250ペア繰り返したが、LED50eでは、2ペアの繰り返しでよい。また、p型InP窓層5については、選択拡散ではなく、p型不純物を成長時にドープする点が相違するだけで、その他の点では、実施の形態1における方法と同じである。
実施の形態1におけるMQW3中のGaAsSb3aの成長方法を用いることで、能率よく、高い製造歩留まりで、高品質の結晶性を得て、優れた性能の発光ダイオード50eを得ることができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1−受光素子(半導体素子)−)
図8に示す受光素子50を作製して、暗電流、表面性状等を測定した。表面性状は、エピタキシャルウエハの表面を目視するなどして判断した。試験体は、本発明例A1〜A6、および、比較例B1、C1、である。本発明例A1〜A6は、GaAsSbの成長温度が480℃〜390℃の範囲内にあり、InGaAsの成長温度は、同じかまたは20℃以上高くしたものである。本発明例A4は、InGaAsの成長温度500℃であり、GaAsSbの成長温度450℃に温度降下中にGaAsSbの成長を開始したものである。したがって、本発明例A4のMQW内のGaAsSb層3aはSb濃度傾斜部を有する。
また、上記本発明例A1〜A6のSb固相濃化率x/xは、0.8〜1.1の範囲にあり、本発明の範囲0.75以上1.20以下の範囲内にある。
比較例B1は、MQW3内のGaAsSbの成長温度が500℃と高すぎ、またSb固相濃化率x/xが0.7と低すぎる場合の試験体である。また比較例C1は、上記のGaAsSbの成長温度が380℃と低すぎるが、Sb固相濃化率x/xが1.0の場合である。Sb固相濃化率x/xが0.75以上1.20以下の範囲にあっても成長温度が390℃以上490℃以下の範囲内にない試験体は比較例として扱った。すなわちSb固相濃化比だけでなく成長温度も含めて、本発明例か否かの基準とした。受光素子の特性は、暗電流、表面性状等を総合的に評価した。特性の評価については、非常に良好(◎)、良好(○)、普通(△)、劣る(×)に4区分した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1によれば、本発明例A1〜A6は、いずれも特性は普通(△)以上であり、劣るものはなかった。とくに本発明例A4は、暗電流および感度ともに非常に良好であった。また、本発明例A4は、InGaAsの成長温度500℃から450℃へと温度降下中にGaAsSbの成長を開始したもので製造時間の短縮をはかることができた。この表1の結果から判断して、MQW内のGaAsSbの成長温度を390℃〜490℃にすれば結晶性に優れ、受光素子において良好な性能を得ることができる。
これに比べて、比較例B1は、MQW3内のGaAsSbの成長温度が500℃と高すぎたために、良好な特性を得ることができなかった。また、比較例C1は、上記のGaAsSbの成長温度が380℃と低すぎたために、同様に、良好な特性を得ることができなかった。
【0041】
(実施例2−発光ダイオード(半導体素子)−)
図10に示すLED50eを作製して、発光スペクトル、表面性状等を測定した。表面性状は、エピタキシャルウエハの表面を目視するなどして判断した。試験体は、本発明例A7〜A10、および、比較例B2、C2、の6体である。本発明例A7〜A10は、GaAsSbの成長温度が480℃〜390℃の範囲内にあり、InGaAsの成長温度は、同じかまたは20℃以上高くしたものである。また、上記本発明例A7〜A10のSb固相濃化率x/xは、0.8〜1.1の範囲にあり、本発明の範囲0.75以上1.20以下の範囲内にある。しかし、実施例1に説明したように、本発明例と比較例との区別は、Sb固相濃化率および成長温度の両方を満たすか否かによって判断した。
比較例B2は、MQW3内のGaAsSbの成長温度が500℃と高すぎ、またSb固相濃化率x/xが0.7と低すぎる場合の試験体である。また比較例C2は、上記のGaAsSbの成長温度が380℃と低すぎるが、Sb固相濃化率x1/x2が1.0の場合である。発光ダイオードの特性は、スペクトル、表面性状等を総合的に判断した。特性の総合判断については、非常に良好(◎)、良好(○)、普通(△)、劣る(×)に4区分した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2によれば、本発明例A7〜A10は、いずれも特性は普通(△)以上であり、劣るものはなかった。この表2の結果から、MQW内のGaAsSbの成長温度を390℃〜490℃にすれば結晶性に優れ、発光ダイオードにおいて良好な性能を得ることができる。
これに比べて、比較例B2は、MQW3内のGaAsSbの成長温度が500℃と高すぎたために、良好な特性を得ることができなかった。また、比較例C2は、上記のGaAsSbの成長温度が380℃と低すぎたために、同様に、良好な特性を得ることができなかった。
【0044】
(実施例3−固相中V族内のSbモル分率xと原料ガス中V族内のSbモル分率xとの関係−)
成長温度を変えて、固相(GaAsSb)中のSbモル比(x)と、原料ガス中のSbモル比(x)との関係を求めた。結果を図11に示す。この試験では、成長温度が450℃〜525℃と、比較的高いほうにずれた範囲であるため、Sb固相濃化率x/xは0.7より低い範囲に分布している。図3は、この実施例3の結果を基にして作成したものである。
図11または図3は、本発明の製造方法を実施する場合に前もって知っておくべき情報である。このような予備知識がないと、本発明におけるSb固相濃化率を所定範囲内に実現することはできない。ただし、この場合も、原料ガス中のxは、固相(GaAsSb)中のxに合わせるように、原料ガスを供給する。図11または図3を予備知識として、Sb固相濃化率を0.75〜1.20の範囲に、または成長温度を390℃〜490℃の範囲にすることで、結晶性に優れ、素子性能に優れた半導体素子(受光素子、発光素子等)を得ることができる。
【0045】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のエピタキシャルウエハ等によれば、Sb含有層を備えながら、結晶性に優れたIII−V族化合物半導体を得ることができ、良好な性能の半導体素子を作製することができる。また、結晶性が良好なことは異常な表面欠陥が生じにくいことに通じ、製造歩留まりを向上させて製造コスト低減に有効である。
【符号の説明】
【0047】
1 InP基板、1a エピタキシャルウエハ(中間製品)、2 バッファ層(InPおよび/またはInGaAs)、3タイプIIMQW受光層、3a GaAsSb層、3b InGaAs層、4 InGaAs層(拡散濃度分布調整層)、5 InP窓層、6 p型領域、11 p側電極(画素電極)、12 グランド電極(n側電極)、12b バンプ、15 pn接合、16 MQWとInGaAs層との界面、17 InGaAs層とInP窓層との界面、35 AR(反射防止)膜、36 選択拡散マスクパターン、50 受光素子(受光素子アレイ)、60 全有機MOVPE法の成膜装置、61 赤外線温度モニタ装置、63 反応室、65 石英管、69 反応室の窓、66 基板テーブル、66h ヒータ、P 画素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にIII―V族化合物半導体のエピタキシャルウエハを製造する方法であって、
気相成長法によって、前記基板の上に、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とを交互に繰り返し成長する工程を備え、
前記第1の層の成長の際、該第1の層(固相)のV族中のSbモル分率xと、供給している原料ガス(気相)のV族中のSbモル分率xとが、0.75≦(x/x)≦1.20、を満たすように、基板温度を設定し、かつ原料ガスを供給することを特徴とする、エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項2】
前記第1の層の成長時の基板温度を390℃以上490℃以下とすることを特徴とする、請求項1に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項3】
前記第1の層の成長時の基板温度を、前記第2の層の成長時の基板温度よりも低くすることを特徴とする、請求項1または2に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項4】
前記第2の層の成長時の基板温度を、前記第1の層の成長時の基板温度よりも20℃以上高くすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項5】
前記第2の層の成長の後、前記基板温度が第1の層の成長時の温度に確実に降温するのを待って該第1の層の成長を行うことを特徴とする、請求項3また4に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項6】
前記第2の層の成長の後、前記第1の層の成長時の基板温度に降温している最中に前記第1の層を成長し始めることを特徴とする、請求項3または4に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項7】
前記第1の層の成長の後、前記基板温度が第2の層の成長時の温度に確実に昇温するのを待って該第2の層の成長を行うか、または昇温途中に該第2の層を成長し始めることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項8】
前記第1の層を、GaAsSb、AlAsSbおよびInAsSbのうちのいずれか1つとすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項9】
前記第1の層をGaAs1−xSb(0<x≦1)とし、前記第2の層をInGa1−yAs(0<y≦1)とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項10】
前記基板が、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSb、およびAlAsのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項11】
前記気相成長法を、全有機金属気相成長法とすることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたエピタキシャルウエハを用いることを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【請求項13】
基板とその上に位置するエピタキシャル層とを有するIII―V族化合物半導体のエピタキシャルウエハであって、
記基板の上に、Sbを含む第1の層とSbを含まない第2の層とが交互に繰り返し位置し、
前記第1の層に、前記基板から遠ざかる向きに前記Sbの濃度が高くなる傾斜濃度部分があることを特徴とする、エピタキシャルウエハ。
【請求項14】
前記第1の層が、GaAsSb、AlAsSbおよびInAsSbのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項13に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項15】
前記第1の層がGaAs1−xSb(0<x≦1)であり、前記第2の層がInGa1−yAs(0<y≦1)であることを特徴とする、請求項13または14に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項16】
前記基板が、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSb、およびAlAsのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハを備えることを特徴とする、半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−80010(P2012−80010A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225908(P2010−225908)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】