説明

エピタキシャル炭化珪素単結晶基板及びその製造方法

【課題】オフ角度の小さな炭化珪素単結晶基板上に、高品質でドーピング密度の面内均一性に優れた炭化珪素エピタキシャル膜を有するエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】オフ角度が1°以上6°以下の炭化珪素単結晶基板上に、ドーピング密度の面内均一性に優れた炭化珪素エピタキシャル膜を有するエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、及び、その製造方法であり、上記エピタキシャル膜が、0.5μm以下のドープ層と0.1μm以下のノンドープ層とを繰り返し成長させており、そのエピタキシャル成長において、ドープ層を形成する場合には材料ガス中の珪素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)を1.5以上2.0以下とし、その時にドーピングガスである窒素を導入してドープ層とする。ノンドープ層を形成する場合にはC/Si比を0.5以上1.5未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル炭化珪素(SiC)単結晶基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、物理的、化学的に安定なことから、耐環境性半導体材料として注目されている。また、近年、高周波高耐圧電子デバイス等の基板としてSiC単結晶基板の需要が高まっている。
【0003】
SiC単結晶基板を用いて、電力デバイス、高周波デバイス等を作製する場合には、通常、基板上に熱CVD法(熱化学蒸着法)と呼ばれる方法を用いてSiC薄膜をエピタキシャル成長させたり、イオン注入法により直接ドーパントを打ち込んだりするのが一般的であるが、後者の場合には、注入後に高温でのアニールが必要となるため、エピタキシャル成長による薄膜形成が多用されている。
【0004】
エピタキシャル膜上にデバイスを形成する場合、設計通りのデバイスを安定して製造するためには、エピタキシャル膜の膜厚およびドーピング密度、特にドーピング密度のウェーハ面内均一性が重要になる。近年、ウェーハの大口径化が進むとともに、デバイスの面積も大きくなり、デバイス歩留まり向上のためには、ドーピング密度の均一性がより重要となっている。現在の主流である、3および4インチウェーハ上SiCエピタキシャル膜のドーピング密度面内均一性は、標準偏差/平均値(σ/mean)で表すと、5〜10%であるが、この値を5%以下にすることが必要である。
【0005】
一方、基板の口径が3インチ以上の場合、基底面転位等の欠陥密度を下げ、またSiCインゴットからの基板の収率を上げる等の観点から、基板のオフ角度は従来の8°から約4°乃至それ以下が用いられている。このような小さいオフ角度を持つ基板上のエピタキシャル成長の場合、成長時に流す材料ガス中の珪素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)は、従来よりも低くすることが一般的である。これは、オフ角度が小さくなるに従って表面のステップ数が減少し、ステップフロー成長が起こりにくくなって、ステップバンチングやエピタキシャル欠陥が増加しやすくなることを抑えるためである。しかし、C/Si比を低くすると、所謂サイトコンペティション(site-competition)が顕著となり、エピタキシャル成長時に、雰囲気から窒素原子のような不純物の取り込みが大きくなる。取り込まれた窒素原子はSiC中でドナーとなり、電子を供給するため、キャリア密度が上昇する。成長雰囲気中には、残留窒素が存在するため、不純物元素を添加せずに形成したノンドープ層であってもsite-competitionは生じ、C/Si比を下げて成長したノンドープ層の残留キャリア密度は、従来のC/Si比の場合よりも高くなる。この点について、図1を用いて以下で説明する。
【0006】
従来のようなオフ角度(8°)の基板に対して、C/Si比をXとして成長させた場合のノンドープ層の残留キャリア密度をNXとすると、約4°乃至それ以下のオフ角の基板上に成長させる場合に必要な低いC/Si比Y(通常1.0程度)で成長させた場合のノンドープ層の残留キャリア密度は、NY(通常0.8〜1×1015cm-3程度)になる。一方、デバイス動作に必要なキャリアレベルNCは、例えば1〜5×1015cm-3であって、これは、ほぼNYの程度であるため、C/Si比がYの時には、意図的にドーピングガスである窒素を導入してキャリアレベルを制御することが困難になる。さらに、厳密には、ウェーハ上の全ての部分でC/Si比が一定ではないため、局所的にC/Si比がYより小さい場合が発生し、その場合には、図1から分かるように、残留キャリア密度がNCよりも大きくなる。
【0007】
図2aにC/Si比がYの部分でドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイルを示し、図2bにC/Si比がYより小さい部分(0.8〜0.9程度)でドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイルを示す。NB1とNB2がそれぞれの部分での残留キャリア密度とすると、通常NB1は0.8〜1×1015cm-3程度であり、NB2は1〜3×1015cm-3程度であるため、NB1<NB2≒NCとなる。ウェーハ内の図2aの部分において、NCが得られるようにドーピングを行ったとすると、NC−NB1がドーピング量になるため、図2bの部分では、必然的にNC−NB1+NB2がドーピング値となる。従って、NB2−NB1が図2aと図2bの部分でのドーピングばらつきとなり、これはNCの10%程度よりも大きい値となり得るため、ドーピング密度の面内分布を大きく低下させることになる。
【0008】
したがって、今後デバイスへの応用が期待されるSiCエピタキシャル成長基板であるが、基板のオフ角度を従来の8°から約4°乃至それ以下にすると、C/Si比を下げて成長しなければならないことに起因するドーピング密度のウェーハ面内均一性が劣化し、デバイス応用上問題であった。
【0009】
ところで、本発明者等は、オフ角度が4°以下のSiC単結晶基板上に高品質のエピタキシャル膜を形成する方法として、エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を0.5以上1.0未満にして成長させた層(欠陥低減層)と、C/Siを1.0以上1.5以下にして成長させた層(活性層)とを形成する方法を提案している(特許文献1参照)。ところが、この方法は、三角形状のエピタキシャル欠陥や表面荒れの少ないエピタキシャル膜を得ることを目的とするものであり、ウェーハ面内におけるエピタキシャル膜のドーピング密度について、均一性を担保する直接の手段を教える記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−256138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、オフ角度が1°以上6°以下の基板を用いたエピタキシャル成長において、炭素と珪素の原子数比(C/Si)を低くした場合でも、ばらつきを抑えて、ドーピング密度のウェーハ面内均一性に優れた高品質エピタキシャル膜を有したエピタキシャルSiC単結晶基板、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エピタキシャル成長時に、不純物元素を添加せずに形成したノンドープ層と、不純物元素を添加しながら形成したドープ層とをそれぞれ複数層積層し、尚且つ、そのノンドープ層及びドープ層を成長させる際のC/Si比と、それらの厚みを変えることで、上記課題を解決できることを見出し、完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、
(1)オフ角度が1°以上6°以下である炭化珪素単結晶基板上に、化学気相堆積法によって形成された炭化珪素エピタキシャル膜を有するエピタキシャル炭化珪素単結晶基板であって、
該エピタキシャル膜が、不純物元素を添加しながら形成した厚さ0.5μm以下のドープ層と、不純物元素を添加せずに形成した厚さ0.1μm以下のノンドープ層とを交互に積層して、ドープ層及びノンドープ層をそれぞれ2層以上有してなることを特徴とするエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、
(2)前記ドープ層が、エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を1.5以上2.0以下にして形成され、また、前記ノンドープ層が、エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を0.5以上1.5未満にして形成されたことを特徴とする上記(1)に記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、
(3)前記ドープ層の厚さが前記ノンドープ層の厚さよりも大きいことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、
(4)前記ドープ層のドーピング原子数密度が1×1015cm-3以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板、
(5)オフ角度が1°以上6°以下である炭化珪素単結晶基板上に、化学気相堆積法によって炭化珪素エピタキシャル膜を形成して、エピタキシャル炭化珪素単結晶基板を製造する方法であって、
エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を1.5以上2.0以下にして、不純物元素を添加しながら形成する厚さ0.5μm以下のドープ層と、
エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を0.5以上1.5未満にして、不純物元素を添加せずに形成する厚さ0.1μm以下のノンドープ層と、
を交互に成長させて、ドープ層及びノンドープ層をそれぞれ2層以上有するようにして炭化珪素エピタキシャル膜を形成することを特徴とするエピタキシャル炭化珪素単結晶基板の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オフ角度が1°以上6°以下の基板上に形成したエピタキシャル膜において、ドーピング密度のウェーハ面内均一性に優れた、高品質なエピタキシャルSiC単結晶基板を提供することが可能である。
【0015】
また、本発明の製造方法は、CVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相堆積法)を用いるため、装置構成が容易で制御性にも優れ、均一性、再現性の高いエピタキシャル膜が得られる。
【0016】
さらに、本発明のエピタキシャルSiC単結晶基板を用いたデバイスは、ドーピング密度のウェーハ面内均一性に優れた高品質エピタキシャル膜上に形成されるため、その特性及び歩留りが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】C/Si比と残留キャリア密度の関係を示す図
【図2a】残留キャリア密度がデバイス動作に必要なキャリアレベルより低い部分でドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイルを示す図
【図2b】残留キャリア密度がデバイス動作に必要なキャリアレベルとほぼ同等な部分でドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイル示す図
【図3】従来のエピタキシャル成長を行う際の典型的な成長シーケンスを示す図
【図4】従来のエピタキシャル成長を行う際のC/Si比とN2ガス流量の変化を示す図
【図5】本発明の一方法によりエピタキシャル成長を行う際の成長シーケンスを示す図
【図6】本発明の一方法によりエピタキシャル成長を行う際のC/Si比とN2ガス流量の変化を示す図
【図7a】図2aと同様の場所に本発明の一方法によりドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイルを示す図
【図7b】図2bと同様の場所に本発明の一方法によりドーピングを行った場合のドーピング密度プロファイルを示す図
【図8】本発明の一方法によりエピタキシャル成長を行った膜の表面状態を示す光学顕微鏡写真
【図9】本発明の一方法によりエピタキシャル成長を行った膜の表面−裏面間の電流値分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の具体的な内容について述べる。
まず、SiC単結晶基板上へのエピタキシャル成長について述べる。
本発明で好適にエピタキシャル成長に用いる装置は、横型のCVD装置である。CVD法は、装置構成が簡単であり、ガスのon/offで成長を制御できるため、エピタキシャル膜の制御性、再現性に優れた成長方法である。
【0019】
図3に、従来のエピタキシャル膜成長を行う際の典型的な成長シーケンスを、ガスの導入タイミングと併せて示す。まず、成長炉に基板をセットし、成長炉内を真空排気した後、水素ガスを導入して圧力を1×104〜3×104Paに調整する。その後、圧力を一定に保ちながら成長炉の温度を上げ、成長温度である1550〜1650℃に達した後、材料ガスであるSiH4とC24およびドーピングガスであるN2を導入して成長を開始する。SiH4流量は毎分40〜50cm3、C24流量は毎分20〜40cm3であり、成長速度は毎時6〜7μmである。この成長速度は、通常利用されるエピタキシャル層の膜厚が10μm程度であるため、生産性を考慮して決定されたものである。一定時間成長し、所望の膜厚が得られた時点でSiH4、C24およびN2の導入を止め、水素ガスのみ流した状態で温度を下げる。温度が常温まで下がった後、水素ガスの導入を止め、成長室内を真空排気し、不活性ガスを成長室に導入して、成長室を大気圧に戻してから、基板を取り出す。また、この従来方式で成長を行う場合のC/Si比とN2ガス流量の変化を図4に示す。図4より、成長開始から終了までC/Si比とN2ガス流量は変化させず、一定である。
【0020】
次に、本発明の内容を図5の成長シーケンスで説明する。SiC単結晶基板をセットし、成長を開始するまでは、図3と同様である。成長開始直後は、SiH4とC24の流量比がC/Si比で1.5未満になるようにしてノンドープ層を0.1μm程度成長させる。その後SiH4とC24の流量比がC/Si比で1.5以上になるようにして0.2μm程度成長させるが、その時にドーピングガスである窒素を導入してドープ層とする。その後は、ノンドープ層とドープ層を繰り返し成長させて、所望の膜厚が得られた時点でSiH4、C24およびN2の導入を止める。その後の手順は、図3の場合と同様である。この場合のC/Si比とN2ガス流量の変化を図6に示す。このように、低いC/Si比でノンドープ層を成長させ、高いC/Si比でドープ層を成長させることにより、site-competitionが起こりにくい状態でドーピングが行えるため、制御性に優れたドーピングが可能になる。さらに、本発明では、ノンドープ層の厚さを全体的に薄くするため、前述したドーピング密度の面内不均一性も抑制される。この点について、図7を用いて、下記で一例を挙げながら説明する。
【0021】
図7aは図2aと同様の場所に、本発明を適用してドーピングした場合のドーピングプロファイルであり、理想的なドーピングプロファイルが得られた時には、ドーピング密度は点線のようになる。つまり、ドーピングガスである窒素を導入しながら形成するドープ層では、C/Si比を図1における値Yよりも高く、1.5以上にしているため、残留キャリア密度の影響を受けることなくNCが得られるようにドーピングされる。一方、ドーピングガスである窒素を導入せずに形成するノンドープ層では、C/Si比が図1における値Yである、1.0程度のため、図2aのNB1の残留キャリア密度を示すようになる。しかし実際には、ドープ層とノンドープ層の間のドーピング密度変化は連続的であるため、実線のようなプロファイルになる。そして、実効的なドーピング密度はNC1程度と考えられる。
【0022】
一方、図7bは図2bと同様の場所であり、図7aと同様に点線が理想的なドーピングプロファイルを示す。この場合、C/Si比が1.5以上と図1における値Yよりも高いドープ層のNCの値は残留不純物の影響を受けないため、図7aのNCと同様になるが、C/Si比が図1における値Yよりも小さい、0.8〜0.9になっているノンドープ層の残留キャリア密度は、残留不純物密度が高いため、図2bのNB2と同じになる。そして、実効的なドーピング密度はNC2程度と考えられる。従って、NC1とNC2の差が小さくなり、ドーピング密度の面内均一性が改善される。
【0023】
本発明により、1°以上6°以下のオフ角を持った基板上のエピタキシャル膜において、ドーピングの面内均一性が高い良好なエピタキシャル膜が得られるようになるが、低いC/Si比で成長するノンドープ層は、小さいオフ角を持つ基板上の成長に必須であるため、薄すぎるとエピタキシャル欠陥等が生じ膜質が劣化する。また、厚すぎると全体のドーピング密度の面内均一性に悪影響を与えるとともに、基板に垂直に電流を流す現状のデバイスにおいては抵抗が高くなるという問題が発生する。一方、高いC/Si比で成長するドープ層は、ノンドープ層より薄いとドーピング密度の面内均一性の向上に対する寄与が小さく、厚すぎると膜質の劣化につながる。
【0024】
以上の状況を考慮し、発明者らが検討した結果、ノンドープ層の厚さは0.1μm以下、より好適には0.05〜0.1μmであり、ドープ層の厚さは0.5μm以下、より好適には0.2〜0.5μmである。さらに、ドープ層及びノンドープ層は、それぞれ2層以上有するようにするが、ノンドープ層とドープ層の積層回数は、多い方がエピタキシャル膜全体でのドーピング密度の平均化が進み、面内均一性の向上に効果的であるため、実際に必要とされるエピタキシャル膜全体の厚さも考慮すると、ノンドープ層とドープ層の積層回数は、それぞれが20回程度より多いことが好適である。ノンドープ層とドープ層の積層順番に関しては、SiC基板上に成長を開始する時は、小さいオフ角を持つ基板上の成長になるため、低いC/Si比、すなわちノンドープ層が必要である。一方、最表面は、デバイスの電極と接触する部分であるため、ドープ層が必要である。
【0025】
また、ノンドープ層を成長する時のC/Si比は、低オフ角基板上の成長を考慮すると0.5以上1.5未満であることが必要である。0.5未満では、過剰なSi原子が基板表面に凝縮するSiドロップレットと呼ばれる欠陥が形成され易く、1.5以上になると表面荒れやエピタキシャル欠陥が増加する。より好適には0.8〜1.2である。一方、ドープ層を成長する時のC/Si比は、低すぎるとsite-competitionの影響が現れ、高すぎると三角形欠陥等のエピタキシャル欠陥が増加するため、1.5以上2.0以下、より好適には1.5〜1.8である。さらに、ドープ層のドーピング原子数密度は、図7a、図7bより、NB1およびNB2より大きい事が必要であって、そのためには1×1015cm-3以上が必要であるが、ドーピング原子数密度が高すぎると表面荒れが生じるため、より好適には1×1015cm-3以上1×1017cm-3以下である。
【0026】
エピタキシャル膜全体の厚さについては、通常形成されるデバイスの耐圧、エピタキシャル膜の生産性等を考慮した場合、5μm以上50μm以下が好ましい。また、基板のオフ角が1°以上6°以下であるのは、1°未満であるとオフ角が小さすぎて、本発明の効果を十分に発揮することができず、6°を超えると、C/Si比が高い状態で成長でき、本発明を用いなくても面内均一性を上げられるからである。
【0027】
そして、本発明によれば、SiC単結晶基板にエピタキシャル膜を成長する際に、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ複数層積層し、そのノンドープ層とドープ層を成長する時のC/Si比および厚さを変えることで、ドーピング密度の面内均一性をσ/meanで5%以下にすることができる。ただしこの場合は、図7から分かるように、ノンドープ層とドープ層との積層部分のドーピング密度の平均値を、通常の容量−電圧測定から得られるドーピングプロファイルで求めることはできないため、エピタキシャル膜の表面と基板裏面にオーミック電極を形成し、電極間の電流値をドーピング密度と等価とみなし、その面内均一性で評価する。
【0028】
本発明においてエピタキシャル膜を形成する際に添加する不純物元素は、主に窒素を例に説明したが、窒素以外にも、例えばアルミニウム等を用いてドープ層を形成するようにしてもよい。また、エピタキシャル膜の材料ガスについては、SiH4とC24を例に説明したが、これら以外の珪素源や炭素源を用いてもよいことは勿論である。
【0029】
このようにして成長されたエピタキシャル膜を有する本発明の基板上に好適に形成されるデバイスの例としては、ショットキーバリアダイオード、PINダイオード、MOSダイオード、MOSトランジスタ等が挙げられ、特に電力制御用に用いられるデバイスが好適な例である。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
3インチ(76mm)ウェーハ用SiC単結晶インゴットから、約400μmの厚さでスライスし、粗削りとダイヤモンド砥粒による通常研磨を実施して、4H型のポリタイプを有するSiC単結晶基板を用意した。この基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は4°である。成長の手順としては、成長炉に基板をセットし、成長炉内を真空排気した後、水素ガスを毎分150L導入しながら圧力を1.0×104Paに調整した。その後、圧力を一定に保ちながら成長炉の温度を1600℃まで上げ、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分22cm3(C/Si比1.1)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.1μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分30cm3(C/Si比1.5)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分30cm3にして(ドーピング原子数密度1×1016 cm-3)、ドープ層を0.2μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.1μm成長させて、更に、N2流量を毎分30cm3にしてドープ層を0.2μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計30回成長させ、最上層がドープ層となるようにした。
【0031】
このようにしてエピタキシャル成長を行った膜の光学顕微鏡写真を図8に示す。図8より、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜が得られていることが分かる。このエピタキシャル膜のドーピング密度を電流値により評価した結果を図9に示す。均一性は良好であり、σ/meanで表した面内均一性は4.5%であった。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は4°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であり、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分22cm3(C/Si比1.1)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.05μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分30cm3(C/Si比1.5)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分3cm3にして(ドーピング原子数密度1×1015 cm-3)、ドープ層を0.5μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.05μm成長させて、更に、N2流量を毎分3cm3にしてドープ層を0.5μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計20回成長させた。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であり、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは3.5%であった。
【0033】
(実施例3)
実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は4°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であり、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分10cm3(C/Si比0.5)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.1μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分40cm3(C/Si比2.0)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分30cm3(ドーピング原子数密度1×1016 cm-3)にしてドープ層を0.2μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.1μm成長させて、更に、N2流量を毎分30cm3にしてドープ層を0.2μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計30回成長させた。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であり、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは4.7%であった。
【0034】
(実施例4)
実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は4°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であり、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分10cm3(C/Si比0.5)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.05μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分40cm3(C/Si比2.0)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分300cm3(ドーピング原子数密度1×1017 cm-3)にして、ドープ層を0.5μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.05μm成長させて、更に、N2流量を毎分300cm3にしてドープ層を0.5μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計20回成長させた。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であり、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは4.0%であった。
【0035】
(実施例5)
実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は1°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であり、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分10cm3(C/Si比0.5)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.1μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分30cm3(C/Si比1.5)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分30cm3(ドーピング原子数密度1×1016 cm-3)にして、ドープ層を0.2μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.1μm成長させて、更に、N2流量を毎分30cm3にしてドープ層を0.2μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計30回成長させた。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であり、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは4.8%であった。
【0036】
(実施例6)
実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は6°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であり、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分22cm3(C/Si比1.1)にしてノンドープ層の成長を開始した。ノンドープ層を0.1μm成長させた後、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分30cm3(C/Si比1.5)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を毎分30cm3(ドーピング原子数密度1×1016 cm-3)にして、ドープ層を0.2μm成長させた。その後、N2の導入を止め、再びノンドープ層を0.1μm成長させて、更に、N2流量を毎分30cm3にしてドープ層を0.2μm成長させて、以降このようにして、ノンドープ層とドープ層をそれぞれ合計30回成長させた。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であり、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは4.2%であった。
【0037】
(比較例1)
比較例として、実施例1と同様にスライス、粗削り、通常研磨を行った、4H型のポリタイプを有する3インチ(76mm)のSiC単結晶基板のSi面に、エピタキシャル成長を実施した。基板のオフ角は4°である。成長開始までの手順、温度等は、実施例1と同様であるが、成長は、SiH4流量を毎分40cm3、C24流量を毎分22cm3(C/Si比1.1)にし、さらにドーピングガスであるN2流量を1cm3(ドーピング原子数密度1×1016 cm-3)にして、ドープ層を10μm成長した。このようにしてエピタキシャル成長を行った膜は、表面荒れや欠陥の少ない良好な膜であるが、電流値で評価した面内均一性のσ/meanは15%であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この発明によれば、SiC単結晶基板上へのエピタキシャル成長において、ドーピング密度の面内均一性に優れた高品質エピタキシャル膜を有するエピタキシャルSiC単結晶基板を作成することが可能である。そのため、このような基板上に電子デバイスを形成すればデバイスの特性及び歩留まりが向上することが期待できる。本実施例においては、材料ガスとしてSiH4及びC24を用いているが、Si源としてトリクロルシランを用い、C源としてC38等を用いた場合についても同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフ角度が1°以上6°以下である炭化珪素単結晶基板上に、化学気相堆積法によって形成された炭化珪素エピタキシャル膜を有するエピタキシャル炭化珪素単結晶基板であって、
該エピタキシャル膜が、不純物元素を添加しながら形成した厚さ0.5μm以下のドープ層と、不純物元素を添加せずに形成した厚さ0.1μm以下のノンドープ層とを交互に積層して、ドープ層及びノンドープ層をそれぞれ2層以上有してなることを特徴とするエピタキシャル炭化珪素単結晶基板。
【請求項2】
前記ドープ層が、エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を1.5以上2.0以下にして形成され、また、前記ノンドープ層が、エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を0.5以上1.5未満にして形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板。
【請求項3】
前記ドープ層の厚さが前記ノンドープ層の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板。
【請求項4】
前記ドープ層のドーピング原子数密度が1×1015cm-3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエピタキシャル炭化珪素単結晶基板。
【請求項5】
オフ角度が1°以上6°以下である炭化珪素単結晶基板上に、化学気相堆積法によって炭化珪素エピタキシャル膜を形成して、エピタキシャル炭化珪素単結晶基板を製造する方法であって、
エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を1.5以上2.0以下にして、不純物元素を添加しながら形成する厚さ0.5μm以下のドープ層と、
エピタキシャル膜の材料ガス中に含まれる炭素と珪素の原子数比(C/Si)を0.5以上1.5未満にして、不純物元素を添加せずに形成する厚さ0.1μm以下のノンドープ層と、
を交互に成長させて、ドープ層及びノンドープ層をそれぞれ2層以上有するようにして炭化珪素エピタキシャル膜を形成することを特徴とするエピタキシャル炭化珪素単結晶基板の製造方法。


【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−236085(P2011−236085A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109105(P2010−109105)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】