説明

シャワーヘッド構造及びこれを用いた処理装置

【課題】ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることが可能なシャワーヘッド構造を提供する。
【解決手段】被処理体Wに対して所定の処理を施すために処理容器34内の処理空間Sへ複数種類の所定のガスを噴射するシャワーヘッド構造68において、内部に複数のガス拡散室84、86を有し、前記処理空間を臨む面が通気性のあるポーラス部材よりなるガス噴射板80により区画された容器状のシャワーヘッド本体70と、前記複数のガス拡散室の内で前記ガス噴射板と接しないガス拡散室から延びて前記ガス噴射板を貫通して設けられるガス噴射管72とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体に対して成膜処理などの所定の処理を施す処理装置及びこれに用いるシャワーヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造するためには、被処理体である半導体ウエハ等の基板に対して、成膜処理、エッチング処理、改質処理、酸化拡散処理等の各種の処理を繰り返し行って、所望のデバイスを製造するようになっている。
ここで上記各種の処理の内で成膜処理を行う成膜装置を例にとって説明する(特許文献1〜3)。図8は従来の成膜装置の一例を示す概略構成図、図9は図8中のシャワーヘッド構造の一部を示す拡大断面図である。
【0003】
図8に示すように、この処理装置は、筒体状になされた処理容器2を有しており、この処理容器2内は、真空ポンプ4や圧力制御弁6等を介設した排気系8により真空排気可能になされている。この処理容器2内には、例えば抵抗加熱ヒータ等よりなる加熱手段10を内部に埋め込んだ載置台12が設けられており、この載置台12上に被処理体として例えば半導体ウエハWを載置し、これを所望の温度に加熱し得るようになっている。また、この載置台12は、上記半導体ウエハWを処理容器2内へ搬出入させる時に、ウエハWを載置台12上に突き上げるために昇降可能になされたリフタピン機構14が設けられている。
【0004】
そして、上記処理容器2の天井部には、この処理容器2内へ成膜用の所定のガスを導入するためのシャワーヘッド構造16が設けられている。ここでは、このシャワーヘッド構造16は、内部に2つに上下2段に分離区画されたガス拡散室18、20が設けられている。このシャワーヘッド構造16の下面のガス噴射板22には、上記2つのガス拡散室18、20の内の一方のガス拡散室18に連通された複数のガス噴射孔18Aと、他方のガス噴射室20に連通された複数のガス噴射孔20Aとがそれぞれ略均等に散在させて設けられており、上記各ガス噴射孔18A、20Aからそれぞれ供給されたガスを処理空間Sにて初めて混合させるようになっている。ここでは2つのガス拡散室18、20を有しているが、成膜する膜種によっては、ガス拡散室が1つの場合、或いは3つ以上有している場合もある。
【0005】
また、ガスの均一供給やパーティクル発生防止のために、ガス噴射板22の全体をセラミック等のポーラス材で形成することも行われている(特許文献4、5)。
【0006】
このような成膜装置を用いて成膜処理を行うと、目的とするウエハ表面のみならず、載置台12の表面、処理容器2の内壁面、シャワーヘッド構造16の表面等にも、不要な付着膜が堆積することは避けられない。この不要な付着膜は、剥がれ落ちるとパーティクル発生の原因となることから、パーティクルの発生を防止するために、上記堆積した不要な付着膜を除去するクリーニング処理が定期的、或いは不定期的に行われている。
【0007】
このクリーニング処理は、一般的には、ClF 、NF 等のハロゲン系ガスよりなるクリーニングガスを用い、これを成膜装置内へ流して不要な膜を除去するようになっており、装置を分解することなくin−situで行われる。
【0008】
【特許文献1】特開2005−19479号公報
【特許文献2】特開平11−323560号公報
【特許文献3】特開2002−9062号公報
【特許文献4】特開2003−45809号公報
【特許文献5】特開2004−228426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述したようなクリーニング処理を行う場合には、当然のこととして、製品ウエハに対する処理を停止しなければならないことから、ウエハ処理のスループットを向上させるためには、可能な限り、不要な付着膜を堆積させないことが望ましい。
特に、載置台12と対向配置されて原料ガスを導入するシャワーヘッド構造16のガス噴射板22の下面であるガス噴射面22Aには、図9に示すようにガス噴射孔18A、或いはガス噴射孔20Aより噴射された原料ガスの一部が矢印24で示されるように内側に廻り込んで渦流のような状態になり、この巻き込まれた原料ガスがガス噴射面22Aと接触して、ここに不要な付着膜を多く堆積させる原因となっていた。このガス噴射面22Aへは、載置台12の表面等の他の部分と比較して上記した理由により不要な膜が多く堆積する傾向にあり、スループット向上の上から、このガス噴射面22Aへの堆積量を減らすことが重要であった。
【0010】
そこで、特許文献4〜6に示すように、ガス噴射板22の全体をポーラス状のセラミック材で構成することも提案されている。この場合、ガス噴射板22の全体から同じガスを噴射する場合には有効であるが、図8及び図9に示すように、複数のガス拡散室18、20を有して複数のガスを処理空間Sへ噴射した時に初めて両ガスを混合するようにした、いわゆるポストミックスの状態でガスを供給しなければならない場合には、これに対応することができない。
【0011】
特に、PbとZrとTiを含む酸化膜よりなる強誘電体膜(以下、「PZT膜」とも称す)を成膜する場合には、一方のガス噴射孔、例えば20AからPZT原料ガスを供給し、他方のガス噴射孔18AからArガス等の不活性ガスやO 等の酸化ガスを供給して成膜されるが、このPZT膜と、ClF 、NF 等のハロゲン系ガスが反応してできる金属ハロゲン化物の蒸気圧は低く、室温程度では気体にならないため処理容器から排出することが困難であることから、ハロゲン系ガスによるPZT膜の除去を行なうことができない。従って、不要なPZT膜を除去するには、成膜装置自体を分解し、例えば不要なPZT膜が多量に付着しているシャワーヘッド構造自体を強力な洗浄液で洗浄したり、或いはブラスト処理するなどしてクリーニング処理が行われており、装置自体を長時間停止しなければならず、スループットの大幅な低下を余儀なくされる、といった問題があった。
【0012】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることが可能なシャワーヘッド構造及びこれを用いた処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、被処理体に対して所定の処理を施すために処理容器内の処理空間へ複数種類の所定のガスを噴射するシャワーヘッド構造において、内部に複数のガス拡散室を有し、前記処理空間を臨む面が通気性のあるポーラス部材よりなるガス噴射板により区画された容器状のシャワーヘッド本体と、前記複数のガス拡散室の内で前記ガス噴射板と接しないガス拡散室から延びて前記ガス噴射板を貫通して設けられるガス噴射管と、を備えたことを特徴とするシャワーヘッド構造である。
【0014】
このように、処理空間を臨む面を通気性のあるポーラス部材よりなるガス噴射板により形成し、一方のガス拡散室のガスをこの通気性のあるガス噴射板の全体から供給すると共に、他方のガス拡散室のガスを上記ガス噴射板に貫通して設けたガス噴射管から供給するようにしたので、上記ガス噴射板から供給されるガスが、他方のガス噴射管から供給されたガスをパージし、このガスが廻り込んでガス噴射面に接触することを防止するので、ガス噴射面に不要な付着膜が堆積することを阻止することができる。
従って、前記ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。
【0015】
この場合、例えば請求項2に記載したように、前記ガス噴射管は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられている。
請求項3に係る発明は、被処理体に対して所定の処理を施すために処理容器内の処理空間へ複数種類の所定のガスを噴射するシャワーヘッド構造において、内部に複数のガス拡散室を有し、前記処理空間を臨む面がガス噴射板として区画された容器状のシャワーヘッド本体と、前記複数のガス拡散室にそれぞれ独立して連通されるように前記ガス噴射板に設けられた複数のガス噴射孔と、前記複数のガス噴射孔の内の特定のガス拡散室に連通されるガス噴射孔に装填された通気性のあるポーラス部材と、を備えたことを特徴とするシャワーヘッド構造である。
【0016】
このように、一方のガス拡散室のガスをガス噴射板に設けた一方のガス噴射孔から供給し、特定の他方のガス拡散室のガスを通気性のあるポーラス部材が装填された他方のガス噴射孔から供給するようにしたので、上記ポーラス部材の装填されたガス噴射孔から供給されるガスが、他方のガス噴射孔から供給されたガスをパージし、このガスが廻り込んでガス噴射面に接触することを防止するので、ガス噴射面に不要な付着膜が堆積することを阻止することができる。
従って、前記ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。
【0017】
この場合、例えば請求項4に記載したように、前記ポーラス部材は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられている。
また例えば請求項5に記載したように、前記ポーラス部材が装填されていない前記ガス噴射孔は、ガス噴射管により形成され、該ガス噴射管は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられている。
また例えば請求項6に記載したように、前記ポーラス部材は、セラミックポーラス材、金属ポーラス材、セラミック−金属複合ポーラス材の内のいずれか1以上の材料よりなる。
【0018】
また例えば請求項7に記載したように、前記複数のガス拡散室は、前記シャワーヘッド本体内に、複数段に亘って層状に区画形成して設けられる。
また例えば請求項8に記載したように、前記所定の処理は成膜処理であり、前記ポーラス部材を通過するガスは、不活性ガス、酸化ガス、還元ガス、窒化ガスよりなる群より選択される1つのガスである。
請求項9に係る発明は、被処理体に対して所定の処理を施す処理装置において、排気可能になされた処理容器と、該処理容器内で前記被処理体を保持する載置台と、前記載置台と対向させて設けられる前記いずれかに記載のシャワーヘッド構造と、を備えたことを特徴とする処理装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るシャワーヘッド構造及びこれを用いた処理装置によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
本発明によれば、処理空間を臨む面を通気性のあるポーラス部材よりなるガス噴射板により形成し、一方のガス拡散室のガスをこの通気性のあるガス噴射板の全体から供給すると共に、他方のガス拡散室のガスを上記ガス噴射板に貫通して設けたガス噴射管から供給するようにしたので、上記ガス噴射板から供給されるガスが、他方のガス噴射管から供給されたガスをパージし、このガスが廻り込んでガス噴射面に接触することを防止するので、ガス噴射面に不要な付着膜が堆積することを阻止することができる。
従って、前記ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。
【0020】
特に請求項3乃至5に係る発明によれば、一方のガス拡散室のガスをガス噴射板に設けた一方のガス噴射孔から供給し、特定の他方のガス拡散室のガスを通気性のあるポーラス部材が装填された他方のガス噴射孔から供給するようにしたので、上記ポーラス部材の装填されたガス噴射孔から供給されるガスが、他方のガス噴射孔から供給されたガスをパージし、このガスが廻り込んでガス噴射面に接触することを防止するので、ガス噴射面に不要な付着膜が堆積することを阻止することができる。
従って、前記ガス噴射面に堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係るシャワーヘッド構造及びこれを用いた処理装置の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る処理装置の一例を示す構成図、図2はシャワーヘッド構造の第1実施例を示す拡大断面図、図3は図2に示すシャワーヘッド構造のガス噴射面の一部を示す部分平面図である。ここでは処理装置として、CVD(Chemical Vapor Deposition)によりPZT膜を形成する成膜処理を行う処理装置を例にとって説明する。
【0022】
図示するように、この処理装置32は、例えば側壁や底部がアルミニウム合金等により形成された筒体状の処理容器34を有している。この処理容器34内には、その上面に被処理体としての例えば半導体ウエハWを載置する載置台36が収容されている。この載置台36は、例えばアルミナ等のセラミックにより平坦になされた略円板状に形成されており、例えばアルミニウム等よりなる支柱38を介して容器底部より起立されている。
【0023】
この処理容器34の側壁には、この内部に対してウエハを搬入・搬出する時に開閉するゲートバルブ40が設けられている。また、容器底部には、排気口42が設けられると共に、この排気口42には、圧力制御弁44及び真空ポンプ46が順次介接された排気路48が接続されており、必要に応じて処理容器34内を所定の圧力まで真空引きできるようになっている。
【0024】
また、上記載置台36の下方には、ウエハWの搬出入時にこれを昇降させる複数、例えば3本の昇降ピン50(図1においては2本のみ記す)が設けられており、この昇降ピン50は、伸縮可能なベローズ52を介して容器底部を貫通して設けた昇降ロッド54により昇降される。また上記載置台36には、上記昇降ピン50を挿通させるためのピン挿通孔56が形成されている。上記載置台36の中には例えば薄板状の抵抗加熱ヒータよりなる加熱手段58が埋め込んで設けられている。この加熱手段58は、支柱38内を通る配線60を介してヒータ電源62に接続されて、必要に応じてウエハWを加熱するようになっている。尚、加熱手段58として、上記抵抗加熱ヒータに代えて容器底部に設けた加熱ランプを用いる場合もあり、この場合には厚みを薄くした載置台36を用いる。
【0025】
そして、上記処理容器34の天井板64は開口され、この開口にOリング等のシール部材66を介して本発明の特徴とするシャワーヘッド構造68が気密に設けられている。このシャワーヘッド構造68は、上記載置台36に対向して配置されており、両者間に形成される処理空間Sに必要なガスを供給するようになっている。
【0026】
本発明の第1実施例に係るシャワーヘッド構造68は、図2にも示すように薄い円筒容器状に形成されたシャワーヘッド本体70と、このシャワーヘッド本体70内に挿通された複数のガス噴射管72とにより主に構成される。具体的には、上記シャワーヘッド本体70は、天井部を形成する天板74と、側部を形成する側壁板76とを有し、上記天板74の中央部には外部から必要なガスを導入するガス導入ポート78が設けられている。
そして、上記処理空間Sに臨む面である、このシャワーヘッド本体70の最下面を区画形成するガス噴射板80は、その全体が通気性のあるポーラス部材により形成されている。そして、このシャワーヘッド本体70の内部には、例えばアルミニウム合金等よりなる仕切板82が水平方向に沿って設けられており、この内部に複数、ここでは2つのガス拡散室84、86を上下2段に層状に形成している。
【0027】
そして、上記仕切板82には、上記上段のガス拡散室84に連通されて、これより延びる上記ガス噴射管72が接続されており、これによりガス噴射孔72Aを形成している。このガス噴射管72は下段のガス拡散室86内を通過してその先端部は、上記ガス噴射板80を貫通しており、その先端は、ガス噴射板80の表面であるガス噴射面80Aよりも所定の長さH1だけ下方へ突出されている。この長さH1は、例えば数mm〜数cmの範囲が好ましいが、長さH1=0に設定してガス噴射面80Aと同じ水平レベルとしてもよい。
【0028】
このガス噴射管72は例えばアルミニウム合金等よりなり、その内径は数mm〜十数mm程度に設定されて、図3に示すように、ガス噴射板80の平面内に略均等に分散させて設けられている。このガス噴射管72の配列の分布密度や配列のピッチは特に限定されない。またこのガス噴射板80の厚さH2(図2参照)は、これを構成するポーラス部材の気孔率にもよるが、例えば数mm〜数cmの範囲内である。
そして、上記ガス導入ポート78には、上記上段のガス拡散室84へ連通される第1のガス導入路88と、下段のガス拡散室86へ連通される第2のガス導入路90とが設けられており、それぞれに必要なガスを、図示しない流量制御器により流量制御しつつ導入できるようになっている。
【0029】
ここではPZT膜を成膜することから、第1のガス導入路88には、PZT原料ガスが導入され、第2のガス導入路90には、Ar等の不活性ガスを導入できるようになっている。ここで上記ガス噴射板80を構成するポーラス部材としては、アルミナや窒化アルミ等よりなるセラミックポーラス材、アルミニウムやステンレススチール等よりなる金属ポーラス材及びセラミックと金属との複合材料よりなるセラミック−金属複合ポーラス材を用いることができる。この点は、これ以降説明する他の実施例においても同様である。
【0030】
そして、図1に戻って、以上のように構成された処理装置32の全体の動作は、例えばマイクロコンピュータ等よりなる制御手段92により制御されるようになっており、この動作を行うコンピュータのプログラムはフロッピやCD(Compact Disc)やフラッシュメモリやハードディスク等の記憶媒体94に記憶されている。具体的には、この制御手段92からの指令により、各ガスの供給や流量制御、プロセス温度やプロセス圧力の制御等が行われる。
【0031】
次に、以上のように構成された処理装置32を用いて行なわれる例えばPZT膜の成膜方法について説明する。
まず、ゲートバルブ40を介して半導体ウエハWを搬送アーム(図示せず)により処理容器34内に収容し、昇降ピン50を上下動させることによりウエハWを載置台36の上面の載置面に載置する。このウエハWは抵抗加熱ヒータよりなる加熱手段58により所定のプロセス温度に維持され、PZT原料ガス源140からPZT原料ガスを流量制御しつつ搬送し、Arガス源142からArガスを流量制御しつつ搬送し、各ガスをシャワーヘッド構造68より処理空間Sに供給し、圧力制御弁44を制御して処理容器34内を所定のプロセス圧力に維持し、PZT膜のCVD成膜処理を行う。
【0032】
ここで上記シャワーヘッド構造68において、PZT原料ガスは第1のガス導入路88を介して上段のガス拡散室84へ導入されてここで拡散し、更に、このPZT原料ガスは各ガス噴射管72を介して処理空間Sに向けて噴射して供給される。また他方のArガスは第2のガス導入路90を介して下段のガス拡散室86へ導入されてここで拡散し、更にこのArガスはこのガス拡散室86を区画する通気性のある多孔質のポーラス部材よりなるガス噴射板80の全体から矢印100(図2参照)に示すように下方の処理空間Sに向けて噴射して供給される。
【0033】
これらの両ガスは、処理空間S内で初めて混合されて熱CVDによりPZT膜が形成される。この際、原料ガスであるPZT原料ガスが各ガス噴射管72から噴射された際に、図9にて説明した従来の装置のように、噴射されたPZT原料ガスが渦流のように廻り込んでガス噴射面80A側に接触しようとする傾向になる。しかしながら、本実施例にあっては、上述したようにポーラス部材よりなるガス噴射面80Aの全体から矢印100に示すようにArガスが噴射されていることから、上記廻り込もうとしたPZT原料ガスが、このArガスによりパージされて排除されて下向き方向に流されるので、PZT原料ガスがガス噴射面80Aに接触することを略確実に防止することができ、この結果、このガス噴射面80Aに不要なPZT膜よりなる付着膜が堆積することを阻止することができる。
【0034】
従って、ガス噴射面80Aに堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。
また、特にガス噴射管72の先端を下方へ所定の長さH1をもって突き出すようにすることにより、その分、PZT原料ガスはガス噴射面80Aから離れた位置で噴射されることになるので、その分、PZT原料ガスの廻り込みを抑制して、ガス噴射面80Aに接触することを、より確実に防止することができる。
【0035】
尚、上記PZT原料ガスとしては、有機金属化合物ガスの混合ガスを用いることができ、具体的には、Pb原料としては例えばPb(DPM) 等を用いることができ、Zr原料としては例えばZr(t−OC 等を用いることができ、Ti原料としてはTi(i−OC )等を用いることができる。
【0036】
また他のガスとして、O 、O 、N O、NO 等の酸化ガスを加える場合もあり、例えばO 、N Oガスを供給する場合はこれをPZT原料ガスと予め混合した状態(プリミックス)で供給し、NO 、O ガスを供給する場合には、これをArガスと共に供給してもよいし、或いは後述するような第3のガス拡散室を設けた時にはこの第3のガス拡散室を介して供給するようにして、処理空間S内でPZT原料ガスとNO 、O ガス等とを初めて混合させるようにしてもよい(ポストミックス)。
【0037】
<第2実施例>
次に、本発明に係るシャワーヘッド構造の第2実施例について説明する。図4は本発明に係るシャワーヘッド構造の第2実施例を示す拡大断面図である。尚、図2等に示す構成部分と同一構成部分については同一符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
先に説明した第1実施例においては、ガス噴射板80は、ガス噴射管72が貫通している部分を除いて全体をポーラス部材で形成したが、この第2実施例では、図4に示すように、このガス噴射板80を、従来の装置例と同様にアルミニウム合金等の金属板により形成する。そして、この金属板よりなるガス噴射板80の所定の箇所に、下段のガス拡散室86に連通される複数のガス噴射孔110を形成すると共に、このガス噴射孔110に、多孔質性の通気性のある前述したようなポーラス部材112を装填する。
【0039】
この場合、重要な点は、上記ポーラス部材112の先端を上記ガス噴射板80のガス噴射面(表面)80Aよりも所定の長さH3だけ下方へ突出させて設けるようにする点であり、これにより下方向のみならず、水平方向(横方向)へもArガスを噴射できるようにする。この長さH3は数mm〜数cmの範囲内であり、この長さH3はガス噴射管72の突出した長さH1よりも短く設定するのが、PZT原料ガスのパージ作用を向上させる上から好ましい。尚、このポーラス部材112の下端部を断面角形状ではなく、半球状などのように曲面状に形成するようにしてもよい。
【0040】
この第2実施例によれば、下段のガス拡散室86に連通される上記ポーラス部材112の先端の突出部分からは、Arガスが矢印114に示すように、下方向のみならず水平方向(横方向)へも噴射するように供給されるので、特に、この水平方向へ噴射されるArガスによりガス噴射面80Aに接触しようとするPZT原料ガスがパージされて排除されるので、PZT原料ガスがガス噴射面80Aに接触することを略確実に防止することができ、この結果、このガス噴射面80Aに不要なPZT膜よりなる付着膜が堆積することを阻止することができる。
【0041】
従って、ガス噴射面80Aに堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。このように、この第2実施例も先の第1実施例と同様な作用効果を発揮することができる。
【0042】
<第3実施例>
次に、本発明に係るシャワーヘッド構造の第3実施例について説明する。図5は本発明に係るシャワーヘッド構造の第3実施例を示す拡大断面図である。尚、図2及び図4等に示す構成部分と同一構成部分については同一符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
先に説明した第2実施例においては、金属板よりなるガス噴射板80にガス噴射孔110を形成して、これにポーラス部材112を装填したが、この第3実施例では、上記ガス噴射孔110に替えて、ガス噴射管120を設けることによってガス噴射孔120Aを形成している。そして、このガス噴射管120の先端を下方へ突出させて、ガス噴射面80Aから所定の長さH4だけ突出した状態とする。ここでは、このガス噴射管120内にはポーラス部材を装填せず、代わりに、ポーラス部材122を、上段のガス拡散室84に連通される他方のガス噴射管72内に装填すると共に、このガス噴射管72の先端を、ガス噴射面80Aよりも下方へ突出させないで、このガス噴射面80Aと同一水平レベルになるように設定する。
【0044】
これに対して、このガス噴射管72内に装填された上記ポーラス部材122は、その先端をガス噴射面80Aよりも下方へ突出させて、その突出量が所定の長さH5となるように設定する。尚、上記ポーラス部材122は、ガス噴射管72内の全体に設けるのではなく、先端側に一部だけ設けるようにしてもよい。そして、上記長さH4、H5は共に数mm〜数cm程度であり、長さH4が長さH5よりも必ず長くなるように設定するのが、PZT原料ガスのパージ作用を向上させる上から好ましい。尚、このポーラス部材122の下端部を断面角形状ではなく、半球状などのように曲面状に形成するようにしてもよい。
【0045】
そして、ここではPZT原料ガスとArガスを導入するガス拡散室は、先の第1及び第2実施例とは逆になされており、上段のガス拡散室84内へArガスを導入し、下段のガス拡散室86内へPZT原料ガスを導入するようになっている。
【0046】
この第3実施例によれば、上段のガス拡散室84に連通されるガス噴射管72内に装填された上記ポーラス部材122の先端の突出部分からは、Arガスが矢印124に示すように、下方向のみならず水平方向(横方向)へも噴射するように供給されるので、特に、この水平方向へ噴射されるArガスによりガス噴射面80Aに接触しようとする、ガス噴射管120より噴射されたPZT原料ガスがパージされて排除されるので、PZT原料ガスがガス噴射面80Aに接触することを略確実に防止することができ、この結果、このガス噴射面80Aに不要なPZT膜よりなる付着膜が堆積することを阻止することができる。
【0047】
従って、ガス噴射面80Aに堆積する不要な付着膜を大幅に抑制してクリーニング処理等のメンテナンス頻度を少なくし、もってスループットを大幅に向上させることができる。このように、この第3実施例も先の第1及び第2実施例と同様な作用効果を発揮することができる。
【0048】
<第4実施例>
次に、本発明に係るシャワーヘッド構造の第4実施例について説明する。図6は本発明に係るシャワーヘッド構造の第4実施例を示す拡大断面図である。図1等に示す構成部分と同一構成部分については同一符号を付して、その説明を省略する。
先に説明した第1〜第3実施例においては、2つのガス拡散室84、86を設けたシャワーヘッド構造を例にとって説明したが、これに限定されず、3つ以上のガス拡散室を層状に複数段に亘って区画形成して設けるようにしてもよい。
【0049】
図6に示す第4実施例では、図2に示す第1実施例のシャワーヘッド構造をベースにしており、シャワーヘッド本体70に3段に亘って層状に3つのガス拡散室を設けている。具体的には、例えば上段のガス拡散室84を区画する仕切板82の下方に下段の仕切板130を設けることによって、上記仕切板82、130間に中段のガス拡散室132を設けている。これにより、上段、中段及び下段の3つのガス拡散室84、132、86を形成するようになっている。
【0050】
そして、ガス導入ポート78には、上記中段のガス拡散室132へ連通される第3のガス導入管134が形成されており、これに必要なガスを導入できるようになっている。また上記下段の仕切板130には、上記中段のガス拡散室132に連通されて下方に延びる複数のガス噴射管136が接続されており、これらのガス噴射管136の先端は上記ポーラス部材よりなるガス噴射板80を貫通して、その先端部はガス噴射面80Aよりも更に下方へ突出して延びている。このガス噴射管136の突出した部分の長さH6は、上段のガス拡散室84から延びるガス噴射管72の突出した部分の長さH1と同じ値に設定するのがよい。
【0051】
この場合には、例えば処理空間Sへガス噴出する前には混合してはならない第1と第2の原料ガス同士が存在した時には、そのような第1と第2の原料ガスの内の一方、例えば第1の原料ガスを上段のガス拡散室84へ導入し、他方の第2の原料ガスを中段のガス拡散室132へ導入する。また下段のガス拡散室86内へは不活性ガス、例えばArガスを導入する。そして、第1の原料ガスと第2の原料ガスとArガスとが処理空間Sにて初めて混合されて、所定の成膜処理が行われる。
【0052】
この場合にも、先に説明した第1実施例の場合と同様な作用効果を発揮することができる。尚、4層以上のガス拡散室を設けた場合にも、各ガス拡散室からガス噴射管を下方へ延ばして設けるのは勿論である。また、設けるガス拡散室の数は、いわゆるプリミックスできない原料ガスのグループ数に依存して決定される。
上記各実施例では、不活性ガスとしてArガスを用いた場合を例にとって説明したが、これに限定されず、他の不活性ガス、例えばHe、Ne、Xe、N 等を用いてもよい。
【0053】
また、ここでは主としてPZT膜を成膜する場合を例にとって説明したが、これに限定されず、シャワーヘッド構造を用いた成膜装置には全て適用することができる。また、高周波によりプラズマを発生させるプラズマ成膜装置、プラズマCVD成膜装置にも本発明を適用することができ、この場合には、シャワーヘッド構造68が上部電極となり、載置台36が下部電極となる。
上記PZT膜を含めて種々の膜種を形成する場合において、上記ポーラス部材よりなるガス噴射板80(第1、第2及び第4実施例)やポーラス部材112、122(第2及び第3実施例)を通過させて流すことができるガスは、前述したような不活性ガス(Ar)の他に、O 等の酸化ガス、H 等の還元ガス、NH 等の窒化ガスを通過させて流すことができる。そして、シャワーヘッド表面に付着膜を形成する可能性のある原料ガス(多くは金属成分を含む)は、ポーラス部材には通過させないように流す。
【0054】
例えば成膜する膜種と各ガスの混合方式と使用するガス種と導入するガス拡散室の一例を図7に示す。尚、プリミックスとは複数のガスが同一のガス拡散室内で混合された後に処理空間に噴出される場合を示し、ポストミックスとは複数のガスが各ガス拡散室から噴出されて処理空間で初めて混合する場合を示す。
図7において、不活性ガスの一例としてArガスを用いたが、他の不活性ガスを用いてもよいのは前述した通りである。また中段のガス拡散室132を用いる場合には、これと、上段のガス拡散室84内へ導入するガスとを入れ替えて用いるようにしてもよい。
【0055】
また、ここで中段のガス拡散室132に導入するNH ガスに代表される窒化ガス、NO に代表される酸化ガス、H に代表される還元ガスは、それぞれArガスに代えて、或いはArガスと共に、下段のガス拡散室86へ導入してもよい。この場合には、中段のガス拡散室132は不要になるのは勿論である。ここで窒化ガスは原料ガスでもある。
【0056】
尚、上記各実施例では、成膜処理を例にとって説明したが、シャワーヘッド構造の表面に付着膜が堆積する恐れのある全ての処理装置に本発明を適用することができ、例えばエッチングにより除去された反応副生成物がシャワーヘッド構造の表面に堆積する恐れのあるエッチング処理装置にも本発明を適用することができる。
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る処理装置の一例を示す構成図である。
【図2】シャワーヘッド構造の第1実施例を示す拡大断面図である。
【図3】図2に示すシャワーヘッド構造のガス噴射面の一部を示す部分平面図である。
【図4】本発明に係るシャワーヘッド構造の第2実施例を示す拡大断面図である。
【図5】本発明に係るシャワーヘッド構造の第3実施例を示す拡大断面図である。
【図6】本発明に係るシャワーヘッド構造の第4実施例を示す拡大断面図である。
【図7】成膜する膜種と各ガスの混合方式と使用するガス種と導入するガス拡散室の一例を示す図である。
【図8】従来の成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図9】図8中のシャワーヘッド構造の一部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0058】
32 処理装置
34 処理容器
36 載置台
58 加熱手段
68 シャワーヘッド構造
70 シャワーヘッド本体
72 ガス噴射管
72A ガス噴射孔
74 天板
76 側壁板
78 ガス導入ポート
80 ガス噴射板
82 仕切板
84 ガス拡散室(上段)
86 ガス拡散室(下段)
110 ガス噴射孔
112 ポーラス部材
120 ガス噴射管
120A ガス噴射孔
122 ポーラス部材
132 中段のガス拡散室
136 ガス噴射管
S 処理空間
W 被処理体(半導体ウエハ)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に対して所定の処理を施すために処理容器内の処理空間へ複数種類の所定のガスを噴射するシャワーヘッド構造において、
内部に複数のガス拡散室を有し、前記処理空間を臨む面が通気性のあるポーラス部材よりなるガス噴射板により区画された容器状のシャワーヘッド本体と、
前記複数のガス拡散室の内で前記ガス噴射板と接しないガス拡散室から延びて前記ガス噴射板を貫通して設けられるガス噴射管と、
を備えたことを特徴とするシャワーヘッド構造。
【請求項2】
前記ガス噴射管は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられていることを特徴とする請求項1記載のシャワーヘッド構造。
【請求項3】
被処理体に対して所定の処理を施すために処理容器内の処理空間へ複数種類の所定のガスを噴射するシャワーヘッド構造において、
内部に複数のガス拡散室を有し、前記処理空間を臨む面がガス噴射板として区画された容器状のシャワーヘッド本体と、
前記複数のガス拡散室にそれぞれ独立して連通されるように前記ガス噴射板に設けられた複数のガス噴射孔と、
前記複数のガス噴射孔の内の特定のガス拡散室に連通されるガス噴射孔に装填された通気性のあるポーラス部材と、
を備えたことを特徴とするシャワーヘッド構造。
【請求項4】
前記ポーラス部材は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられていることを特徴とする請求項3記載のシャワーヘッド構造。
【請求項5】
前記ポーラス部材が装填されていない前記ガス噴射孔は、ガス噴射管により形成され、該ガス噴射管は、その先端を前記ガス噴射板の表面よりも所定の長さだけ突出させて設けられていることを特徴とする請求項3又は4記載のシャワーヘッド構造。
【請求項6】
前記ポーラス部材は、セラミックポーラス材、金属ポーラス材、セラミック−金属複合ポーラス材の内のいずれか1以上の材料よりなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のシャワーヘッド構造。
【請求項7】
前記複数のガス拡散室は、前記シャワーヘッド本体内に、複数段に亘って層状に区画形成して設けられることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のシャワーヘッド構造。
【請求項8】
前記所定の処理は成膜処理であり、前記ポーラス部材を通過するガスは、不活性ガス、酸化ガス、還元ガス、窒化ガスよりなる群より選択される1つのガスであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のシャワーヘッド構造。
【請求項9】
被処理体に対して所定の処理を施す処理装置において、
排気可能になされた処理容器と、
該処理容器内で前記被処理体を保持する載置台と、
前記載置台と対向させて設けられる請求項1乃至8のいずれかに記載のシャワーヘッド構造と、
を備えたことを特徴とする処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−66413(P2008−66413A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240831(P2006−240831)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】