説明

シリコン酸化膜用成膜原料およびそれを用いたシリコン酸化膜の成膜方法

【課題】CVD法により基板上にシリコン酸化膜を成膜する際に良好なステップカバレッジを得ることができるシリコン酸化膜用成膜原料およびそれを用いたシリコン酸化膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】CVD法により基板上にシリコン酸化膜を成膜するにあたり、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、エネルギーが与えられることにより分解してCOが脱離し、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物が化学構造上ダングリングボンドが存在しないシリコン酸化膜用成膜原料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蒸着(CVD)法により基板上にシリコン酸化膜を成膜するためのシリコン酸化膜用成膜原料およびそれを用いたシリコン酸化膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、層間絶縁膜等としてシリコン酸化膜が多用されている。このようなシリコン酸化膜の形成方法としては有機シラン系のガスであるTEOS(テトラエチルオルソシリケート)と酸化剤とを用いてCVDにより成膜する方法が知られている。最近ではTEOSを用いたプラズマCVDにより良好な膜質のシリコン酸化膜が形成されており、特に、マイクロ波プラズマCVDにより熱酸化膜と同等な膜質が得られるに至っており、従来、CVDでは適用が困難とされてきたゲート絶縁膜への適用も検討されている。
【0003】
しかしながら、近時、半導体デバイスの微細化や高集積化にともない、アスペクト比が高い凹部にシリコン酸化膜を形成するケースが増加しており、TEOSを用いたCVDではステップカバレッジが悪く、このような高アスペクト比の凹部に成膜することが困難であるという問題点がある。
【0004】
これに対して、特許文献1には、処理容器内に被処理体を載置し、この処理容器内にTEOSガスと酸素ガスと水素ガスとを導入し、処理容器内を減圧雰囲気下でTEOSガスの分解温度よりも低い温度で加熱することにより、TEOSガスの気相中での分解を抑えつつTEOSガスを被処理体上に吸着させ、その後吸着されたTEOSを分解させてシリコン酸化膜を形成する方法が開示されている。この文献では、このような手法により良好なステップカバレッジが得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、TEOSはその中に存在するC−C結合が切れやすく、活性なダングリングボンドが残りやすいため、本質的に付着しやすい。このため、上記特許文献1に示すような手法をとっても十分なステップカバレッジが得られず、良好なステップカバレッジが得られる成膜原料が求められている。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、CVD法により基板上にシリコン酸化膜を成膜する際に良好なステップカバレッジを得ることができるシリコン酸化膜用成膜原料およびそれを用いたシリコン酸化膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、アスペクト比が大きい凹部に高ステップカバレッジでシリコン酸化膜を形成するためには、付着係数の小さい、すなわち付着しにくい成膜原料を用いる必要があること、および成膜原料として、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、成膜処理の際にCOが脱離し、さらにCOの脱離によって生成した生成物が化学構造上ダングリングボンドが存在しないものとなるような化合物を用いれば、脱離したCOが成膜表面を覆って表面反応がブロックされるとともに、生成物に活性な部分が存在せず安定であるため、生成物が成膜表面に付着し難くなり、ステップカバレッジが良好になることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、第1の観点では、化学蒸着法により基板上にシリコン酸化膜を成膜するためのシリコン酸化膜用成膜原料であって、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、所定温度に加熱された基板上に供給されることにより、基板の成膜表面で分解してCOが脱離し、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物は、化学構造上ダングリングボンドが存在しないことを特徴とするシリコン酸化膜用成膜原料を提供する。
【0010】
上記第1の観点において、シリコン酸化膜用成膜原料としては環状シロキサンの骨格の一部にカルボニル基が入り込んだ構造を有するものを用いることができる。具体的には、環状シロキサンを構成するSiの一部をカルボニル基で置換した構造を有してもよいし、環状シロキサンを構成するOの一部をカルボニル基で置換した構造を有してもよいし、環状シロキサンを構成するSiとOとの間の一部にカルボニル基が入り込んだ構造を有してもよいし、環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を介してアルキル基が結合した構造を有してもよい。また、環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を有する基が結合した構造を有してもよい。
【0011】
本発明の第2の観点では、処理容器内に被処理基板を配置し、前記処理容器内に上記第1の観点のシリコン酸化膜用成膜原料と酸化剤とを導入し、前記シリコン酸化膜用成膜原料にエネルギーを与えてCOを脱離させて成膜表面に付着させ、COが脱離して生成された化学構造上ダングリングボンドが存在しない成膜に寄与する生成物と酸化剤との反応により被処理基板上にシリコン酸化膜を成膜することを特徴とするシリコン酸化膜の成膜方法を提供する。
【0012】
上記第2の観点において、前記エネルギーは前記処理容器内にプラズマを生成することにより与えられるようにすることができる。前記プラズマはマイクロ波により生成されることが好ましく、具体的には、前記プラズマは平面アンテナから放射されたマイクロ波によって形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脱離したCOが成膜表面を覆って表面反応がブロックされるとともに、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物に活性な部分が存在せず安定であるため、生成物が成膜表面に付着し難くなる。このため、成膜表面にアスペクト比が大きい凹部が存在する場合でも、凹部内の内壁の表面はCOにより表面反応がブロックされ、生成物は活性な部分が存在しない安定な化合物であるため、生成物は凹部の壁部に付着せずに凹部の内部に入り込み、酸化剤であるOと反応してシリコン酸化膜が堆積する。このため良好なステップカバレッジでシリコン酸化膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のシリコン酸化膜用成膜原料の成膜の際の状態を示す模式図である。
【図2】本発明のシリコン酸化膜用成膜原料の構造例とその主要部の結合エネルギーを示す模式図である。
【図3】図2のシリコン酸化膜用成膜原料からCOが脱離する状態を示す模式図である。
【図4】本発明のシリコン酸化膜用成膜原料の製造方法の一例を説明するための図である。
【図5】本発明のシリコン酸化膜成膜方法を実施するためのRLSAマイクロ波プラズマ処理装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
本発明は、化学蒸着(CVD)法により基板上にシリコン酸化膜を成膜するためのシリコン酸化膜用成膜原料を対象とする。
【0016】
CVD法においては、処理容器内に被処理基板を配置し、処理容器内にシリコン酸化膜用成膜原料ガスと酸化剤(例えばO)とを供給し、エネルギーを与えることによりシリコン酸化膜成膜用原料を分解して基板上にシリコン酸化膜を成膜する。CVDとしては熱エネルギーによりシリコン酸化膜用成膜原料ガスを分解する熱CVDでもよいが、良好な膜質を得る観点からは、プラズマエネルギーによりシリコン酸化膜用成膜原料を分解するプラズマCVDが好ましい。プラズマCVDの中では低電子温度で高プラズマ密度が得られるマイクロ波プラズマCVDが好ましい。
【0017】
本発明では、成膜原料として、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、エネルギーが与えられることにより分解してCOが脱離し、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物が化学構造上ダングリングボンドが存在しないものとなる化合物を用いる。
【0018】
このような化合物は、脱離したCOが成膜表面を覆って表面反応がブロックされるとともに、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物に活性な部分が存在せず安定であるため、生成物が成膜表面に付着し難くなる。このため、図1に示すように、成膜表面1にアスペクト比が大きい凹部2がある場合でも、凹部2内の内壁の表面はCOにより表面反応がブロックされ、かつ生成物は活性な部分が存在しない安定な化合物であるため、生成物は凹部2の壁部に付着せずに凹部2の内部に入り込み、酸化剤であるOと反応してシリコン酸化膜が堆積する。このように、本発明の成膜原料では、成膜に寄与する生成物の付着係数が低く、アスペクト比の高い凹部2の内部にも入り込むため良好なステップカバレッジでシリコン酸化膜を成膜することができる。
【0019】
アスペクト比が10の凹部に高カバレッジで膜を形成するためには、計算上付着係数γが2.5×10−4以下であることが必要であるという結果が報告されているが、成膜原料として従来のTEOSを用いる場合には、エネルギーが与えられることにより優先的にC−C結合が切れて活性なダングリングボンドが残るため、付着係数が大きいものとなり、アスペクト比10の凹部に必要なγ≦2.5×10−4は全く満たし得ない。また、単にCOが脱離して凹部の内壁表面を覆っただけで生成物にダングリングボンドが残存している場合、およびCOの脱離がなく分解生成物にダングリングボンドが存在しない場合には、ある程度付着係数を低下させることができるが、γ≦2.5×10−4を満たすことは困難である。これに対して、本発明では、COによる表面ブロック効果とCO脱離後の生成物が安定である効果の両方により、低い付着係数を実現してアスペクト比が10以上でも良好なステップカバレッジでシリコン酸化膜を成膜することができる。
【0020】
本発明に係るシリコン酸化膜成膜用原料を構成する具体的な化合物としては、環状シロキサンの骨格の一部にカルボニル基が入り込んだ構造を挙げることができる。例えば、以下の構造式(1)に示すような、環状シロキサンのOの一部をカルボニル基に置換したような構造とすることができる。
【化1】


ただし、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は1〜4が好ましい。また、上記構造式(1)では環状骨格が三量体の例を示すが、四量体以上であってもよい。四量体の例を下記の構造式(2)に示す。
【化2】

【0021】
上記構造式(1)において、Rがメチル基である化合物は以下の構造式(3)となる。
【化3】

その結合エネルギーは、図2に示すように、Siとカルボニル基のCの結合エネルギーが3.0eV、SiとOの結合エネルギーが4.6eV、Siとメチル基のCの結合エネルギーが3.3eV、メチル基のCとHの結合エネルギーが4.2eVであり、Siとカルボニル基のCとの間で結合が切れやすく、図3に示すように、COが優先的に脱離する。そして、脱離後の生成物は以下の構造式(4)に示すように、化学構造上ダングリングボンドの存在しない安定な化合物となる。
【化4】

【0022】
カルボニル基は成膜原料を構成する化合物の1分子中1個に限らず、例えば、以下の構造式(5)、(6)、(7)に示すように2個であってもよく、3個以上であってもよい。
【化5】

【0023】
環状シロキサンの骨格の一部にカルボニル基が入り込んだ構造としては、下記の構造式(8)に示すように、環状シロキサンのSiの一部をカルボニル基に置換したような構造とすることもできる。この場合に、カルボニル基のCと環状シロキサンのOとの結合エネルギーは3.5eVであり、やはりカルボニル基のCOが優先的に脱離し、COが脱離した後のOとOとが結合して化学構造上ダングリングボンドの存在しない安定な化合物となる。
【化6】

【0024】
また、下記の構造式(9)に示すように環状シロキサンのSiとOとの間にカルボニル基が入り込んだような構造とすることもできる。この場合にもカルボニル基のCと環状シロキサンのSiの結合エネルギーおよびカルボニル基のCと環状シロキサンのOとの結合エネルギーは上述のように低いので、やはりカルボニル基のCOが優先的に脱離し、COが脱離した後のSiとOとが結合して化学構造上ダングリングボンドの存在しない安定な化合物となる。
【化7】

【0025】
さらに、下記の構造式(10)に示すように、環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を介してアルキル基が結合したような構造とすることもできる。この場合にもカルボニル基のCと環状シロキサンのSiの結合エネルギーは上述のように3.0eVと低く、またカルボニル基のCとアルキル基のCとの結合エネルギーも3.4eVと低いので、やはりカルボニル基のCOが優先的に脱離し、COが脱離した後のSiとアルキル基とが結合して化学構造上ダングリングボンドの存在しない安定な化合物となる。
【化8】

【0026】
さらにまた、下記の構造式(11)に示すように、環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を有する基が結合した構造とすることもできる。この場合にもやはりカルボニル基のCOが優先的に脱離し、脱離した後のC同士が結合して化学構造上ダングリングボンドの存在しない安定な化合物となる。
【化9】

【0027】
なお、上記構造式(1)において、Rがメチル基以外の例として、エチル基の例、およびターシャリブチル基の例をそれぞれ以下の構造式(12)および(13)に示す。
【化10】

【0028】
本発明の成膜原料を構成する化合物は、適宜のシロキサン系化合物に所定の操作を加えた後、COを反応させること等により製造することができる。例えば、上記構造式(3)に示す化合物は、図4に示すように、ヘキサメチルトリシロキサンにClを反応させてジクロロヘキサメチルトリシロキサンとした後、Naにより脱塩素処理を行って、Clが結合していたSi同士を結合させて環状骨格を形成し、その後Pt触媒を用いてCOを反応させることにより製造することができる。
【0029】
次に、本発明のシリコン酸化膜成膜用原料を用いてCVDによりシリコン酸化膜を形成する手法について説明する。
ここでは、CVD成膜装置として、複数のスロットを有する平面アンテナであるRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて処理室内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させるRLSAマイクロ波プラズマCVD成膜装置を用いてシリコン酸化膜を形成する例について説明する。
【0030】
図5は、このようなRLSAマイクロ波プラズマCVD装置を示す断面図である。マイクロ波プラズマCVD成膜装置100は、気密に構成されたアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料からなる略円筒状の接地されたチャンバ(処理容器)11を有しており、その中で被処理基板である半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)Wにシリコン酸化膜が成膜される。チャンバ11の上部には、処理空間にマイクロ波を導入するためのマイクロ波導入部30が設けられている。
【0031】
チャンバ11内には被処理体であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ12が、チャンバ11の底部中央に立設された筒状の支持部材13により支持された状態で設けられている。
【0032】
サセプタ12の内部には、温度調整用のヒータ15が埋設されている。ヒータ15にはヒータ用電源16が接続され、ヒータ15はこの電源16から給電されて発熱し、サセプタ12を介してウエハWを所定温度に加熱するようになっている。サセプタ12には、ウエハWを支持して昇降させるための3本のウエハ支持ピン(図示せず)がサセプタ12の表面に対して突没可能に設けられている。
【0033】
チャンバ11の底部には排気管25が接続されており、この排気管25には自動圧力制御バルブおよび高速真空ポンプ等を含む排気装置26が接続されている。そしてこの排気装置26を作動させることによりチャンバ11内が排気され、チャンバ11内が所定の真空度まで高速に減圧することが可能となっている。また、チャンバ11の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口70と、この搬入出口70を開閉するゲートバルブ71とが設けられている。
【0034】
マイクロ波導入部30は、サセプタ12の側から順に、マイクロ波透過板28、平面アンテナ31、遅波材33を有している。これらは、シールド部材34、押えリング36およびアッパープレート29によって覆われ、環状の押えリング35で固定されている。マイクロ波導入部30が閉じられた状態においては、チャンバ11の上端とアッパープレート29とがシール部材(図示せず)によりシールされた状態となるとともに、後述するようにマイクロ波透過板28を介してアッパープレート29に支持された状態となる。
【0035】
マイクロ波透過板28は、誘電体、例えば石英やAl、AlN、サファイヤ、SiN等のセラミックスからなり、マイクロ波を透過しチャンバ11内の処理空間に導入するマイクロ波導入窓として機能する。マイクロ波透過板28の下面(サセプタ12側)は平坦状に限らず、マイクロ波を均一化してプラズマを安定化させるため、例えば凹部や溝を形成してもよい。このマイクロ波透過板28は、マイクロ波導入部30の外周下方に環状に配備されたアッパープレート29の内周面の突部29aにより、シール部材(図示せず)を介して気密状態で支持されている。したがって、チャンバ11内を気密に保持することが可能となる。
【0036】
平面アンテナ31は、円板状をなしており、マイクロ波透過板28の上方位置において、シールド部材34の内周面に係止されている。この平面アンテナ31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板またはアルミニウム板からなり、マイクロ波などの電磁波を放射するための多数のスロット孔31aが所定のパターンで貫通して形成され、RLSAを構成している。
【0037】
遅波材33は、真空よりも大きい誘電率を有しており、平面アンテナ31の上面に設けられている。この遅波材33は、例えば、石英、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂のような誘電体により構成されており、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。なお、平面アンテナ31とマイクロ波透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ31との間は、それぞれ密着させても離間させてもよい。
【0038】
シールド部材34には、冷却水流路34aが形成されており、そこに冷却水を通流させることにより、シールド部材34、遅波材33、平面アンテナ31、マイクロ波透過板28を冷却するようになっている。なお、シールド部材34は接地されている。
【0039】
シールド部材34の中央には、開口部34bが形成されており、この開口部34bには導波管37が接続されている。この導波管37の端部には、マッチング回路38を介してマイクロ波発生装置39が接続されている。これにより、マイクロ波発生装置39で発生した、例えば周波数2.45GHzのマイクロ波が導波管37を介して上記平面アンテナ31へ伝搬されるようになっている。マイクロ波の周波数としては、8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0040】
導波管37は、上記シールド部材34の開口部34bから上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。矩形導波管37bと同軸導波管37aとの間のモード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。同軸導波管37aの中心には内導体41が延在しており、内導体41は、その下端部において平面アンテナ部材31の中心に接続固定されている。これにより、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ部材31へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0041】
チャンバ11内のサセプタ12とマイクロ波導入部30との間には、シリコン酸化膜用成膜原料ガスを導入するためのシャワープレート51が水平に設けられている。このシャワープレート51は、格子状に形成されたガス流路52と、このガス流路52に形成された多数のガス吐出孔53とを有しており、格子状のガス流路52の間は空間部54となっている。このシャワープレート51のガス流路52にはチャンバ11の外側に延びる配管55が接続されている。この配管55には、シリコン酸化膜用成膜原料ガス供給源56が接続されている。配管55には流量制御用のマスフローコントローラ57およびその前後に設けられた一対のバルブ58が設けられている。シリコン酸化膜用成膜原料ガスとしては、上述したようなカルボニル基を有するシロキサン系化合物が用いられる。シリコン酸化膜用成膜原料が常温で液体である場合には、バブリングや加熱、気化器による気化等の適宜の方法で気化させて供給する。
【0042】
一方、チャンバ11のシャワープレート51の上方位置には、リング状のプラズマガス導入部材60がチャンバ壁に沿って設けられており、このプラズマガス導入部材60には内周に多数のガス吐出孔が設けられている。このプラズマガス導入部材60には、配管61が接続されており、配管61はArガス配管62およびOガス配管63に分岐しており、それぞれArガス供給源64およびOガス供給源65に接続されている。Arガス配管62には流量制御用のマスフローコントローラ66およびその前後に設けられた一対のバルブ67が設けられている。また、Oガス配管63には流量制御用のマスフローコントローラ68およびその前後に設けられた一対のバルブ69が設けられている。Arガス供給源64からチャンバ11内に導入されたArガスは、マイクロ波導入部30を介してチャンバ11内に導入されたマイクロ波によりプラズマ化され、このプラズマがOガス供給源65からチャンバ11内に導入されたOガスをプラズマ化するとともに、プラズマはシャワープレート51の空間部54を通過しシャワープレート51のガス吐出孔53から吐出されたシリコン酸化膜用成膜原料ガスに作用する。
【0043】
マイクロ波プラズマCVD成膜装置100の各構成部は、制御部80により制御されるようになっている。制御部80はコンピュータで構成され、演算処理を行うコントローラ(マイクロプロセッサ)、オペレータがマイクロ波プラズマCVD装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース、さらに、マイクロ波プラズマCVD成膜装置100で実行される各種処理をコントローラの制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてエッチング装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部が接続されている。処理レシピは記憶媒体に記憶された状態で格納されている。記憶媒体はハードディスクのような固定的なものであってもよいし、半導体メモリー、CDROM、DVD等の可搬性のものであってもよい。さらに、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェースからの指示等にて任意のレシピを呼び出してコントローラに実行させることで、マイクロ波プラズマCVD成膜装置100での処理が行われる。
【0044】
次に、以上のように構成されたマイクロ波プラズマCVD成膜装置100を用いて実施される本実施形態のエッチング方法について説明する。
【0045】
まず、ヒータ15によりサセプタ12を所定温度に加熱しておき、ウエハWをチャンバ11内に搬入し、サセプタ12上に載置する。この状態で、ウエハWを例えば100〜400℃に加熱し、チャンバ11内の圧力が1.33〜1330Pa(10mTorr〜10Torr)になるようにその中を排気した後、Arガス供給源64からチャンバ11内にArガスを導入しつつ、マイクロ波発生装置39からのマイクロ波を、マッチング回路38を経て導波管37に導き、矩形導波管37b、モード変換器40、および同軸導波管37aを順次通過させて内導体41を介して平面アンテナ31に供給し、平面アンテナ部材31のスロット孔31aからマイクロ波透過板28を介してチャンバ11内に放射させる。マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ部材31に向けて伝搬されていき、平面アンテナ部材31から透過板28を経てマイクロ波がチャンバ11に放射され、このマイクロ波によりチャンバ11内で電磁界が形成されて、プラズマ生成ガスであるArガスがプラズマ化する。そして、Oガス供給源65からチャンバ11内に導入されたOガスがArプラズマによりプラズマ化するとともに、このプラズマがシャワープレート51の空間部54を通過しシャワープレート51のガス吐出孔53から吐出されたシリコン酸化膜用成膜原料ガスに作用する。
【0046】
シリコン酸化膜用成膜原料としては、上述したように、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、エネルギーが与えられることにより分解してCOが脱離し、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物が化学構造上ダングリングボンドが存在しないものとなる化合物を用いるので、プラズマエネルギーによりCOが脱離し、脱離後の成膜に寄与する生成物は化学構造上ダングリングボンドが存在しないものとなる。
【0047】
このため、上述の図1に示すように、成膜表面1にアスペクト比が大きい凹部2がある場合でも、シリコン酸化膜用成膜原料から脱離したCOが凹部2の内壁の表面を覆って表面反応をブロックするとともに、脱離後の生成物は活性部分であるダングリングボンドが存在しない安定な化合物であるため、この生成物は付着係数が低く、凹部2の内壁に付着せずに凹部2の内部に入り込む。このため、脱離後の生成物とプラズマ化したOガスとの反応がアスペクト比の高い凹部2の内部でも生じてステップカバレッジの良好なシリコン酸化膜(SiO膜)の成膜が実現される。
【0048】
この成膜の際に形成されるプラズマは、マイクロ波が平面アンテナ31の多数のスロット孔32から放射されることにより、略1×1010〜5×1012/cmの高密度で、かつウエハW近傍では、略1.5eV以下の低電子温度プラズマとなる。このため、下地にダメージを与えることなく良質のシリコン酸化膜を成膜することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態ではシリコン酸化膜の成膜装置として、RLSAマイクロ波プラズマCVD成膜装置を用いたが、これに限らず、誘導結合型プラズマCVD成膜装置や容量結合型(平行平板型)プラズマCVD成膜装置等、他のプラズマCVD成膜装置を用いてもよいし、プラズマCVD成膜装置に限らず、プラズマエネルギーを用いずに熱エネルギーのみを用いる熱CVD成膜装置を用いてもよい。また、酸化剤としてはOガスに限らず、HO、O等他のガスであってもよい。また、プラズマ生成ガスとしてArガスを用いたが、He等他のガスを用いてもよいし、プラズマ生成ガスを用いずに、成膜原料ガスと酸化剤のみを用いてもよい。
【0050】
さらに、被処理基板としては、半導体ウエハに限らず例えば液晶表示装置用基板に代表されるFPD用基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1;成膜表面
2;凹部
11;チャンバ
12;サセプタ
15;ヒータ
26;排気装置
28;マイクロ波透過板
30;マイクロ波導入部
31;平面アンテナ
31a;スロット孔
37;導波管
39;マイクロ波発生装置
40;モード変換器
51;シャワーヘッド
56;シリコン酸化膜用成膜原料ガス供給源
65;Oガス供給源
80;制御部
100;マイクロ波プラズマCVD成膜装置
W…半導体ウエハ(被処理基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着法により基板上にシリコン酸化膜を成膜するためのシリコン酸化膜用成膜原料であって、カルボニル基を有するシロキサン系化合物からなり、エネルギーが与えられることにより分解してCOが脱離し、COが脱離して生成された成膜に寄与する生成物が化学構造上ダングリングボンドが存在しないことを特徴とするシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項2】
環状シロキサンの骨格の一部にカルボニル基が入り込んだ構造を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項3】
環状シロキサンを構成するSiの一部をカルボニル基で置換した構造を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項4】
環状シロキサンを構成するOの一部をカルボニル基で置換した構造を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項5】
環状シロキサンを構成するSiとOとの間の一部にカルボニル基が入り込んだ構造を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項6】
環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を介してアルキル基が結合した構造を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項7】
環状シロキサンを構成するSiにカルボニル基を有する基が結合した構造を有することを特徴とする請求項2に記載のシリコン酸化膜用成膜原料。
【請求項8】
処理容器内に被処理基板を配置し、
前記処理容器内に請求項1から請求項7のいずれか1項のシリコン酸化膜用成膜原料と酸化剤とを導入し、
前記シリコン酸化膜用成膜原料にエネルギーを与えてCOを脱離させて成膜表面に付着させ、COが脱離して生成された化学構造上ダングリングボンドが存在しない成膜に寄与する生成物と酸化剤との反応により被処理基板上にシリコン酸化膜を成膜することを特徴とするシリコン酸化膜の成膜方法。
【請求項9】
前記エネルギーは前記処理容器内にプラズマを生成することにより与えられることを特徴とする請求項8に記載のシリコン酸化膜の成膜方法。
【請求項10】
前記プラズマはマイクロ波により生成されることを特徴とする請求項9に記載のシリコン酸化膜の成膜方法。
【請求項11】
前記プラズマは平面アンテナから放射されたマイクロ波によって形成されることを特徴とする請求項10に記載のシリコン酸化膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−283077(P2010−283077A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134278(P2009−134278)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】