説明

シロキサン系分子膜、その製造方法及びその膜を用いた有機デバイス

【課題】非常に高い安定性を有し、且つ、高度に配列制御されたシロキサン系分子膜、該シロキサン系分子膜の製造方法及び該分子膜を用いた有機デバイスを提供すること。
【解決手段】一般式;Si(A)(A)(A)−B−Si(A)(A)(A)(A〜Aは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアルキル基であり、脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす;Bは2価の有機基である)の有機化合物を用いて形成されてなり、膜表面にシロキサンネットワークを有することを特徴とするシロキサン系分子膜および該分子膜を有する有機デバイス。上記有機化合物のA〜Aを有するシリル基と基板表面とを反応させ、単一単分子膜を形成する工程、未反応の有機化合物を非水系溶媒を用いて洗浄除去する工程、および単分子膜の膜表面側に存在する未反応のシリル基でシロキサンネットワークを形成させる工程により単分子膜を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物によりシロキサンネットワークを構築した分子膜に関する。更に詳しくは、基板とシロキサンネットワークによって固定化された分子膜が、基板と逆側の空気界面側(膜表面側)でもシロキサンネットワークを形成し、分子両側でシロキサンネットワークを形成した分子膜に関する。本発明はまた、そのようなシロキサン系分子膜の製造方法及び該分子膜を用いた有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板表面を修飾する方法として有機ケイ素化合物を用いて基板表面上に化学吸着させる方法がある。この手法では、有機ケイ素化合物は基板とシロキサンネットワークによって基板に固定化される。
有機ケイ素化合物は、基板と吸着するためにシリル基を有しており、基板と吸着するとともにシリル基以外の部分の構造に由来する相互作用によって自己組織化膜を形成している。
【0003】
自己組織化膜とは、有機化合物の一部を、基板表面の官能基と結合させたものであり、きわめて欠陥が少なく、高い秩序性を有した膜である。この自己組織化膜は、製造方法がきわめて簡便であるため、基板への製膜を容易に行うことができる。通常、自己組織化膜として、金基板上に形成されたチオール膜や、親水化処理により表面に水酸基を突出可能な基板(例えば、シリコン基板)上に形成されたケイ素化合物膜が知られている。なかでも、耐久性が高い点で、ケイ素化合物膜が注目されている。ケイ素化合物膜は、従来から撥水コーティングとして使用されており、撥水効果の高いアルキル基や、フッ化アルキル基を有機官能基として有するシランカップリング剤が用いて製膜されていた。他にもケイ素化合物として、フェニレン基、またはアセチレン基をもつ分子構造からなるものが挙げられる。(例えば、特許文献1〜3)
【0004】
このようなケイ素系化合物として、分子の末端に官能基としてチオフェン環を1つ有し、チオフェン環が直鎖炭化水素基を介してSiと結合した化合物が提案されている(例えば、特許文献4)。更に、ポリアセチレン膜として、化学吸着法により、基板上に−Si−O−ネットワークを形成して、アセチレン基の部分を重合させるものが提案されている(例えば、特許文献5)。また更に、有機材料として、チオフェン環の2、5位に直鎖炭化水素基がそれぞれ結合し、直鎖炭化水素の末端とシラノール基とが結合したケイ素化合物を用い、これを基板上に自己組織化させ、更に電界重合等により分子同士を重合させて導電性薄膜を形成し、この導電性薄膜を半導体層として使用した有機デバイスが提案されている(例えば、特許文献6)。更にまた、ポリチオフェンに含まれるチオフェン環にシラノール基を有するケイ素化合物を主成分とした半導体薄膜を利用した電界効果トランジスタが提案されている(例えば、特許文献7)。
【0005】
しかしながら、上記に提案されている化合物は、基板との化学吸着可能な自己組織化膜は作製可能であるが、基板との相互作用と分子間相互作用により形成された自己組織化膜であり、2つの相互作用を利用して膜形成していることから、たとえば分子間相互作用が弱い場合は膜が形成されることなく、非常に不安定な膜となってしまう。また、膜の安定性の向上や電気特性を発現するためにポリアセチレン膜として、化学吸着法により、基板上に−Si−O−ネットワークを形成して、アセチレン基の部分を重合させた場合、―Si−O−Si−のSi間距離とアセチレン結合間距離が異なるために、分子のネットワークにひずみが生じることとなる。
【0006】
高い配列秩序性を得るためには、分子間に高い引力相互作用が働く必要がある。分子間力とは、引力項と反発項により構成されており、前者は分子間距離の6乗に、後者は分子間距離の12乗に反比例する。したがって、引力項と反発項を足し合わせた分子間力は図10に示す関係を有する。ここで、図10での極小点(図中の矢印部分)が、引力項と反発項との兼ね合いから最も分子間に高い引力が作用するときの分子間距離である。すなわち、より高い配列秩序性を得るためには、分子間距離を極小点にできる限り近づけることが重要である。したがって、本来、抵抗加熱蒸着法や分子線蒸着法等の真空プロセスにおいては、ある特定の条件下においてのみ、π電子共役系分子同士の分子間相互作用をうまく制御することで、高い配列秩序性が得られている。このように分子間相互作用により構築される高配列制御された膜でのみ、高い電気伝導特性を発現することが可能となる。
【0007】
一方、上記化合物は、Si−O−Siの2次元ネットワークを形成することで基板と化学吸着し、かつ、特定の長鎖アルキル同士の分子間相互作用による秩序性が得られる可能性はあるが、例えば、官能基である1つのチオフェン分子がπ電子共役系に寄与するのみであるため、分子間の相互作用が弱く、また電気伝導性に不可欠なπ電子共役系の広がりが非常に小さいという問題があった。仮に、上記官能基であるチオフェン分子の分子数を増やすことができたとしても、膜の秩序性を形成する因子が、長鎖アルキル部とチオフェン部との間で、分子間相互作用を整合一致させることは困難である。
【0008】
また、末端にシリル基を有するケイ素化合物を用いて化学吸着法によって単分子が累積した膜(累積膜)を基板上に形成する場合、末端のシリル基の反応性が問題になってくる。これまでに報告された化学吸着法を利用した累積膜の調整方法としては、たとえば特許文献8がある。この特許では基板と吸着反応を起こす化合物として、トリクロロシリル基を両末端に有するアルキルシラン化合物を用いている。具体的には、基板表面に単分子膜を形成した後、化合物の空気界面側に残っているトリクロロシリル基を新たな吸着反応サイトとして、単分子膜を累積することからなる累積膜の形成方法が示されている。
【0009】
しかしながら、トリクロロシリル基は塩素原子の脱離反応の反応性が極めて激しいことが知られている。両末端にトリクロロシリル基を有している場合、単分子膜形成時にいずれの末端のトリクロロシリル基も加水分解反応する。その結果、このケイ素化合物は、基板との吸着反応を起こすと同時に、未反応側の末端基を次の吸着点として、二分子、三分子化を同時に起こす。ゆえに、従来の化合物による化学吸着法では、膜厚が均一で、かつ分子配列の秩序性が高い単分子累積膜を再現性よく形成することは困難であった。膜厚が不均一で、分子配列の秩序性が低い単分子累積膜を用いたデバイスは累積膜の間でキャリアがトラップされるために、性能の劣化が生じてしまう。
【特許文献1】特開平1−305094号公報
【特許文献2】特開平5−186531号公報
【特許文献3】特開2002−261317号公報
【非特許文献1】IEEE Electron Device Lett.,18,606-608(1997)
【特許文献4】特許第2889768号公報
【特許文献5】特公平6−27140号公報
【特許文献6】特許第2507153号公報
【特許文献7】特許第2725587号公報
【特許文献8】特許第3292205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、非常に高い安定性を有し、且つ、高度に配列制御されたシロキサン系分子膜、該シロキサン系分子膜の製造方法及び該分子膜を用いた有機デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(I);
【化1】

(式中、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、A〜Aは脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす;Bは2価の有機基である)で表される有機化合物を用いて形成されてなり、膜表面にシロキサンネットワークを有することを特徴とするシロキサン系分子膜に関する。
【0012】
本発明はまた、
(式) H−B−MgX (2)
(式中、Bは2価の有機基であり、Xはハロゲン原子である)で示される化合物と、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基である)で示される化合物とを反応させて、
(式) H−B−Si(A)(A)(A) (4)
を合成し、
式(4)中、Bにハロゲン原子を結合させ、エトキシエタン又はテトラヒドロフラン(THF)の存在下で、マグネシウムやリチウム金属と反応させて
(式) MgX−B−Si(A)(A)(A)又はLiX−B−Si(A)(A)(A) (5)
で示される化合物を合成した後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす)で示される化合物と反応させて、一般式(I)の有機化合物を得ることを特徴とする上記シロキサン系分子膜を製造する方法に関する。
【0013】
本発明はまた、
(式) X−B−X (8)
(式中、Bは2価の有機基であり、X及びXは、それぞれ異なって、ハロゲン原子である。)で示される化合物を、マグネシウム又はリチウムからなる金属触媒を用いてグリニヤール反応剤とした後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基である)で示される化合物と反応させ、下記式で表されるグリニヤール反応剤
(式) Si(A)(A)(A)−B−MgX (9)
を得、その後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす)で示される化合物と(式9)で示される化合物とを反応させて、一般式(I)の有機化合物を得ることを特徴とする上記シロキサン系分子膜を製造する方法に関する。
【0014】
本発明は上記シロキサン系分子膜を有する有機デバイスに関する。
【0015】
本明細書中において、単一単分子膜とは1層の単分子膜からなる有機薄膜を意味するものとする。
また単分子累積膜とは、2層以上の単分子膜が累積(積層)されてなる有機薄膜を意味するものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシロキサン系分子膜は2次元シロキサンネットワークにより基板と化学吸着するだけでなく、膜表面においても2次元シロキサンネットワークが形成されているため、膜の高配列秩序化に必要な近距離力である、分子同士に作用する分子間相互作用が効率的に働く。そのため、非常に高い安定性を有し、且つ、高度に配列制御される。したがって、基板に物理吸着により作製した膜と比較して、得られた膜を基板表面に強固に吸着させて、物理的な剥がれを防止し、膜の物理的な強度を向上させることができ、かつ膜表面の平滑性に優れた緻密な膜を提供することができる。
【0017】
また本発明シロキサン系分子膜は、当該膜を構成する有機化合物由来の分子間相互作用と、2つのシロキサンネットワークとによって、非常に高い配列制御化を達成する。また、分子膜の膜表面側もシロキサンネットワークを形成していることから、膜表面のラフネスが抑えられるとともに膜強度を向上させることができる。これにより分子軸と垂直な方向(膜面内方向)へのホッピング伝導により、キャリアの移動がスムーズに行われる。また、分子軸方向へも高い導電性が得られることで、導電性材料として、有機薄膜トランジスタ材料のみならず、太陽電池、燃料電池、センサ等に広く応用することが可能となる。
【0018】
しかも、本発明のシロキサン系分子膜を構成する有機化合物は簡便に製造可能である。また、かかる有機化合物を、キャリア移動を起こさないような材料、例えば一般式(I)においてB基が飽和炭化水素化合物由来の基である有機化合物とすると、高度に配列制御され、膜表面の平滑性に優れた膜を形成することができるので、分子サイズオーダーで膜厚制御された絶縁材料に応用することが可能である。
【0019】
また、本発明のシロキサン系分子膜を構成する一般式(I)の有機化合物は、両端にシリル基を有し、しかもケイ素に結合する基の脱離反応性を両端のシリル基で異ならせているので、基板への吸着及び膜表面への吸着反応等を逐次かつ選択的に再現性よく行うことができる。このことから、本発明は、従来技術に比べ、膜形状および分子の配向性が均一で更に再現性良く、累積膜を形成可能となる。つまり、分子が膜面内方向のみならず膜厚方向に高度に秩序性よく配列した高い分子配向性を有したシロキサン系分子膜を作製できる。
【0020】
また、本発明のシロキサン系分子膜は基板側と膜表面側とに2次元シロキサンネットワークを有するため、非常に安定な膜を形成することができる。
そのようなシロキサン系分子膜を単分子累積膜として作製した場合、当該分子膜は、構成単位である数nm厚の単分子層の電気特性に対応して膜厚方向に異なる電気特性を有し得る。その結果、導電率、誘電率、キャリア移動効率、電極界面における電荷注入効率等を制御できる。更には、高密度記録、高速応答及び/又は高感度の光/温度/ガスセンサデバイスに応用できる。
【0021】
更に、本発明のシロキサン系分子膜を構成する有機化合物は、自己組織化特性を有しているので、高度な配列性を有した分子膜の作製を真空中で行う必要がなく、大気中で行うことができる。このことは、シロキサン系分子膜の製造が簡便で安価であることを意味し、よって工業プロセスとしてもメリットが大きい。
【0022】
また、本発明のシロキサン系分子膜を形成する基板の前処理としての親水化処理をパターニングして行えば、膜厚方向のみならず膜面内方向にも電気特性に異方性を付与できる。つまり、擬3次元で電気特性の異なる有機薄膜を調製することが可能となり、次世代電気デバイスへの応用も拡がる。
【0023】
また更には、本発明のシロキサン系分子膜は、累積膜として形成する場合、基板から垂直方向に導電性、熱感応性、光感応性の異なる材料を数nmオーダーで累積させることができることから、高密度記録、高速応答スイッチ、微細領域導電性等の分野、電子及び正孔注入、電子及び正孔輸送、発光層のような厚さnmオーダーでヘテロ構造を有する有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、太陽電池等に用いられる光電変換素子等に応用させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(有機化合物)
本発明のシロキサン系分子膜を構成する有機化合物は、分子の両末端に脱離反応性の異なる異種官能基を有するものであり、すなわち一般式(I);
【化2】

で表される。
【0025】
式(I)中、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、A〜Aは脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす。
【0026】
本発明において、脱離反応性とは「水中における基の脱離し易さ」を意味し、脱離反応性が高いほど水中において当該基の脱離(加水分解)が容易になされることを示す。
また、脱離反応性についてのA〜A>A〜Aの関係とは、A〜Aのうちの少なくとも1個の基、好ましくは全ての基の当該反応性が、A〜Aのうちの脱離反応性が最も高い基の当該反応性よりも高い関係を意味する。そのような関係を満たす限り、A〜Aは同一でも異なっていてもよく、A〜Aもまた同一でも異なっていてもよい。
【0027】
本発明の有機化合物はこのように一方の末端には脱離反応性が比較的低いA〜Aを有するシリル基を備え、他方の末端には当該A〜Aよりも脱離反応性が高い基をA〜Aのうちの少なくとも1個の基として有するシリル基を備える。そのため、水のプロトン濃度等を調整することにより、本発明の有機化合物が有する2個のシリル基の反応性をシリル基ごとに制御可能となり、一方のシリル基による基板や有機膜表面への吸着反応およびその後の他方のシリル基による吸着反応を容易に制御可能となる。その結果として、膜厚が均一で、かつ分子配列の秩序性が高い単一単分子膜およびその累積膜を再現性良く製造可能となる。
【0028】
〜Aになり得るハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
アルコキシ基は、本発明の化合物の溶解性および製膜性の観点から、炭素数が1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4である。アルコキシ基の好ましい具体例として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−または2−プロポキシ基、n−、sec−またはtert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、アルコキシ基のメチレン基の数が大きすぎると、当該炭素鎖の凝集による結晶化が生じ一種の絶縁層となるために、デバイスとしての特性が落ちる。
【0029】
アルキル基は、本発明の化合物の溶解性および製膜性の観点から、炭素数が1〜18、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6である。アルキル基の好ましい具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n−または2−プロピル基、n−、sec−またはtert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。また、アルキル基のメチレン基の数が大きすぎると、当該炭素鎖の凝集による結晶化が生じ一種の絶縁層となるために、デバイスとしての特性が落ちる。
【0030】
上記原子および基の脱離反応性は、当該原子および基の塩基性に依存する。また、炭化水素基である場合、脱離反応性はメチレン基数および立体構造に依存する。そのため、全ての原子および基に関する脱離反応性の序列を一概に規定することはできないが、アルコキシ基およびアルキル基を1つの群と見なしたときの一般的な序列は以下の通りである。
第1群;ハロゲン原子
第2群;アルコキシ基およびアルキル基
第3群;水素原子
上記序列においては群の番号が大きくなるほど、脱離反応性は低くなる。
【0031】
詳しくは、第1群においてハロゲン原子の脱離反応性は、ヨウ素、臭素、塩素の順で低下する。
第2群においてアルコキシ基およびアルキル基の脱離反応性は、炭素数が同じときは、アルコキシ基、アルキル基の順で低下するが、炭素数が異なるときは、炭素数及び立体構造に依存するために一概に規定できない。炭素数が異なるときのアルコキシ基内での序列またはアルキル基内での序列は一般に、炭素原子数が多くなるほど低くなる。また、立体構造の観点からは、アルコキシ基およびアルキル基の脱離反応性は一般に、それらの基が含有するアルキル基が第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基である順に低くなる。
【0032】
特定の基(例えば、X基とY基)について脱離反応性の大小関係を知りたいときは、X基とY基を有するシラン化合物、例えば、Si(X)(Y)を水に添加し、一定時間撹拌した後、シランを分析することによって、それらの関係を知ることができる。すなわち、水酸基に置換されている基が脱離反応性の比較的高い基と言える。XおよびYの両基が水酸基に置換されている場合、または両基が置換されていない場合は、水のpHを、一方の基が水酸基に置換されるpHに調整すればよい。
分析方法はX基、Y基および水酸基の有無を確認できる方法であれば特に制限されず、例えば、質量分析、クロマトグラフ分析が挙げられる。
【0033】
上記のような本発明の有機化合物が有するA〜AとA〜Aとの好ましい組み合わせを以下に示す。
(1)A〜Aはそれぞれ独立してハロゲン原子から選択され、好ましくは同時に塩素原子または臭素原子、特に塩素原子である;A〜Aはそれぞれ独立してアルコキシ基から選択され、好ましくは同時にメトキシ基またはエトキシ基、特にエトキシ基である。
(2)A〜Aはそれぞれ独立してハロゲン原子から選択され、好ましくは同時に塩素原子または臭素原子、特に塩素原子である;A〜Aはそれぞれ独立してアルキル基から選択され、好ましくは同時にメチル基またはエチル基、特にエチル基である。
(3)A〜Aはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルコキシ基から選択され、好ましくは同時にメトキシ基またはエトキシ基、特にメトキシ基である;A〜Aはそれぞれ独立して炭素数3〜4のアルコキシ基から選択され、好ましくは同時に2−プロポキシ基、sec−またはtert−ブトキシ基、特にtert−ブトキシ基である。
(4)A〜Aはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルコキシ基から選択され、好ましくは同時にメトキシ基またはエトキシ基、特にメトキシ基である;A〜Aはそれぞれ独立して炭素数3〜8、好ましくは3〜4のアルキル基から選択され、好ましくは同時に2−プロピル基、sec−またはtert−ブチル基、特にtert−ブチル基である。
【0034】
上記組み合わせの中で、より好ましい組み合わせは組み合わせ(1)および(2)、特に組み合わせ(1)である。
【0035】
上記組み合わせ(1)を満たす本発明の化合物の具体例を以下に示す。
【化3】

(式中、Bは式(I)のBと同様であって、後で詳述する通りである)。
【0036】
上記組み合わせ(2)を満たす本発明の化合物の具体例を以下に示す。
【化4】

(式中、Bは式(I)のBと同様であって、後で詳述する通りである)。
【0037】
上記組み合わせ(3)を満たす本発明の化合物の具体例を以下に示す。
【化5】

(式中、Bは式(I)のBと同様であって、後で詳述する通りである)。
【0038】
上記組み合わせ(4)を満たす本発明の化合物の具体例を以下に示す。
【化6】

(式中、Bは式(I)のBと同様であって、後で詳述する通りである)。
【0039】
本発明においてA〜AとA〜Aとの組み合わせは、脱離反応性がA〜A>A〜Aの関係を満たす限り、上記組み合わせに限定されるものではない。
【0040】
式(I)中、Bは2価の有機基であれば特に制限されず、例えば、π電子共役を示すものであっても、または示さないものであっても良い。すなわち、Bはπ電子共役を示す2価の有機基b1であってもよいし、またはπ電子共役を示さない2価の有機基b2であってもよい。Bがπ電子共役を示す2価の有機基b1であると、得られる有機薄膜が優れた電気特性を発揮する。
【0041】
π電子共役を示す2価の有機基b1は、π電子共役を示す骨格(π電子共役性骨格)を含有する分子に由来する基、例えば、当該分子から2個の水素原子を除いた残基である。π電子共役性骨格は所望の電気特性に応じて適宜決定され、ヘテロ環を含有してもよいし、かつ/または単環式または多環式構造を有していてもよい。そのようなπ電子共役性骨格として、例えば、芳香族骨格、および複素環骨格ならびにそれらの複合骨格等が挙げられる。
【0042】
有機基b1を誘導し得るπ電子共役性骨格含有分子(π電子共役系化合物)としては、例えば、単環系芳香族化合物、縮合系芳香族化合物、単環系複素環化合物、および縮合系複素環化合物が挙げられる。
【0043】
単環系芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン等が挙げられる。中でも直鎖状のものが好ましい。単環系芳香族化合物において直鎖状とは、芳香環における2個の水素原子が互いに当該化合物分子の点対象位置(例えば、ベンゼンにおける1、4−位置)で除かれて2価の有機基になり得るという意味である。
縮合系芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、オクタセン、ノナセン、アズレン、フルオレン、ピレン、アセナフテン、ペリレン、アントラキノン等が挙げられる。中でも直鎖状のものが好ましい。縮合系芳香族化合物において直鎖状とは、芳香環が直線状に、または対称性をもって縮合しているという意味であり、好ましくは当該縮合環における2個の水素原子が互いに当該化合物分子の点対象位置(例えば、ナフタレンにおける1、6−位置)で除かれて2価の有機基になり得る。具体的には、下記一般式(α1)〜(α3)(式(α1)中、nは0〜10)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化7】

【0045】
式(α1)で表される化合物はアセン骨格を含む化合物であり、式(α2)で表される化合物はアセナフテン骨格を含む化合物であり、式(α3)で表される化合物はペリレン骨格を含む化合物である。上記式(α1)のアセン骨格を含む化合物を構成するベンゼン環の数は2〜12個であることが好ましい。特に、合成の工程数や生成物の収率を考慮すると、ベンゼン環の数が2〜9であるナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、オクタセン、ノナセンが特に好ましい。
【0046】
単環系複素環化合物としては、例えば、フラン、チオフェン、ピリジン、ピリミジン、オキサゾール等が挙げられる。中でも直鎖状のものが好ましい。単環系複素環化合物において直鎖状とは、複素環における2個の水素原子が互いに当該化合物分子の略点対象位置(例えば、チオフェンにおける2、5−位置)で除かれて2価の有機基になり得るという意味である。
縮合系複素環化合物としては、例えば、チオフェン、ピリジン、フラン等のヘテロ原子を含む5員環または6員環同士、またはヘテロ原子を含む5員環または6員環と芳香族環との縮合系化合物が挙げられる。具体的にはインドール、キノリン、アクリジン、ベンゾフラン等が挙げられる。中でも直鎖状のものが好ましい。縮合系複素環化合物において直鎖状とは、当該化合物を構成するヘテロ環および芳香環が略直線状に、または略対称性をもって縮合しているという意味であり、好ましくは当該縮合環における2個の水素原子が互いに当該化合物分子の略点対象位置(例えば、インドールにおける4、9−位置)で除かれて2価の有機基になり得る。
【0047】
π電子共役を示さない2価の有機基b2は、π電子共役を示さない骨格(非π電子共役性骨格)を含有する分子に由来する基、例えば、当該分子から2個の水素原子を除いた残基である。非π電子共役性骨格として、飽和脂肪族骨格材料が挙げられる。
【0048】
有機基b2を誘導し得る非π電子共役性骨格含有分子としては、例えば、飽和脂肪族化合物等が挙げられる。
【0049】
飽和脂肪族化合物として、例えば、アルカン等が挙げられる。アルカンの好ましい具体例として、例えば、炭素数1〜30、特に1〜20の直鎖状アルカン等が挙げられる。中でも直鎖状のものが好ましい。
【0050】
有機基Bは、上記のような単環系芳香族化合物、縮合系芳香族化合物、単環系複素環化合物、縮合系複素環化合物、および飽和脂肪族化合物からなる群から選択された2個以上、特に2〜30個、好ましくは2〜8個の化合物が単結合によって結合された連結型化合物に由来の基であってもよい。連結型化合物は好ましくは単環系芳香族化合物及び/又は単環系複素環化合物が2個以上、好ましくは2〜10個、特に2〜8個結合した化合物である。
【0051】
単環系芳香族化合物及び/又は単環系複素環化合物が2個以上結合した化合物としては、ベンゼン及び/又はチオフェンが2個以上結合した化合物が挙げられる。ベンゼン及び/又はチオフェンは2〜10個結合して化合物を構成することが好ましい。ベンゼン及び/又はチオフェンは、収率、経済性、量産化を考慮すると、2〜8個結合していることがより好ましい。
【0052】
連結型化合物を構成する化合物は分岐状に結合していてもよいが、直鎖状に結合していることが好ましい。また、連結型化合物を構成する化合物は、少なくとも一部が同じであってもよいし、または全てが異なっていてもよい。さらに、連結型化合物は異なる化合物が規則的に又はランダムな順序で結合していてもよい。また、連結型化合物を構成する化合物の結合位置は当該化合物分子の点対象位置または略点対象位置であることが好ましく、例えば、チオフェンの場合は2,5−位が、ベンゼンの場合は1,4−位が好ましい。
【0053】
単環系芳香族化合物が2個以上結合した化合物の具体例として、下記一般式(i);
【化8】

【0054】
(式中、mは2〜30、好ましくは2〜8の整数である)で表されるフェニレン類が挙げられる。フェニレン類は、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。本明細書中、m=1の上記一般式(i)の化合物を包含してフェニレン系化合物と称するものとする。
【0055】
単環系複素環化合物が2個以上結合した化合物の具体例として、下記一般式(ii);
【化9】

(式中、nは2〜30、好ましくは2〜8の整数である)で表されるチオフェン類が挙げられる。チオフェン類は、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。本明細書中、n=1の上記一般式(ii)の化合物を包含してチオフェン系化合物と称するものとする。
【0056】
より具体的には、単環系芳香族化合物及び/又は単環系複素環化合物が2個以上結合した化合物の具体例として、ビフェニル(式iでm=2の化合物)、ビチオフェニル(式iiでn=2の化合物)、ターフェニル(式iiiの化合物)、ターチエニル(式ivの化合物)、クォーターフェニル(式iでm=4の化合物)、クォーターチオフェン(式iiでn=4の化合物)、クィンケフェニル(式iでm=5の化合物)、クィンケチオフェン(式iiでn=5の化合物)、ヘキシフェニル(式iでm=6の化合物)、ヘキシチオフェン(式iiでn=6の化合物)、チエニル−オリゴフェニレン(式vの化合物参照)、フェニル−オリゴオリゴチエニレン(式viの化合物参照)、ブロックコオリゴマー(式vii又はviiiの化合物参照)に由来の基が挙げられる。
【0057】
【化10】

【0058】
(式(v)および(vi)中、nは1〜8の整数である;式(vii)中、a+bは2〜10の整数である;式(viii)中、mは1〜8の整数である。)
【0059】
有機基Bは、有機薄膜の分子結晶性の観点からは、上記π電子共役性骨格含有分子および非π電子共役性骨格含有分子の中でも、単環系芳香族化合物(特にベンゼン)、単環系複素環化合物(特にチオフェン)、縮合系芳香族化合物(特にナフタレン、アセン、ピレン、ペリレン)、飽和脂肪族化合物(特に、アルカン)またはそれらの化合物が2個以上、特に2〜8個結合した化合物に由来の基であることが好ましい。
【0060】
有機基Bは、有機薄膜の導電性の観点からは、単環系芳香族化合物、縮合系芳香族化合物、単環系複素環化合物、縮合系複素環化合物、またはそれらの化合物が2個以上、特に2〜8個結合した化合物に由来する基であることが好ましい。
【0061】
有機薄膜の導電性の観点から、より好ましい有機基Bは、単環系芳香族化合物(特にベンゼン)、単環系複素環化合物(特にチオフェン)、縮合系芳香族化合物(特にナフタレン、アセン、ピレン、ペリレン)、またはそれらの化合物が2個以上、特に2〜8個結合した化合物に由来する基である。
【0062】
有機薄膜の導電性の観点から、最も好ましい有機基Bは、単環系芳香族化合物(特にベンゼン)、単環系複素環化合物(特にチオフェン)またはそれらの化合物が2個以上、特に2〜8個結合した化合物、または縮合系芳香族化合物(特にアセン、ピレン、ペリレン)に由来する基である。特に好ましい有機基Bは、チオフェン系化合物誘導体、フェニレン系化合物誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体に由来する基である。
【0063】
有機化合物(I)分子、特に当該分子を構成する有機基Bが高度に配列制御された有機薄膜を得るための分子結晶性の観点から最も好ましい有機基Bについて詳しく説明する。
そのような有機基Bは、結晶状態における隣接分子間距離が0.5nm程度以下である化合物分子(以下、単に化合物βという)に由来する基である。すなわち、例えば、自己組織化膜を形成する典型的な有機シラン化合物であるオクタデシルトリクロロシラン(OTCS)におけるトリクロロシリル基を基板表面の水酸基と反応させて得られる有機薄膜において、基板界面のシロキサンネットワークSi−O−SiのSi原子に直接結合する炭素原子の、隣接する炭素原子間距離はアキシャル配位では0.425〜0.435nm、エクアトリアル配位では0.49〜0.50nmである(An Introduction to ULTRATHIN ORGANIC FILMS From Langmuir-Blodgett to Self-Assembly、p256、Abraham Ulman)。そのため、結晶状態における隣接分子間距離が前記範囲内である化合物βに由来の有機基Bであれば、シロキサンネットワークを乱すことなく、有機基Bの分子間相互作用とあわせて、有機基Bが高度に配列制御され、非常に安定に配列した分子膜を形成できる。
【0064】
化合物βとして、例えば、前記した化合物のうち、直鎖状単環系芳香族化合物、直鎖状縮合系芳香族化合物、直鎖状単環系複素環化合物、直鎖状縮合系複素環化合物、直鎖状飽和脂肪族化合物、またはそれらの化合物が2〜30個、好ましくは2〜8個結合した連結型化合物が挙げられる。有機基Bはそのような化合物βに由来の基であることが分子結晶性の観点から好ましい。
【0065】
特に好ましい有機基Bは、前記した化合物のうち、直鎖状単環系芳香族化合物、直鎖状単環系複素環化合物、直鎖状飽和脂肪族化合物、またはそれらの化合物が2〜30個、好ましくは2〜8個結合した連結型化合物、または直鎖状縮合系芳香族化合物に由来する基である。
【0066】
直鎖状単環系芳香族化合物の具体例として、例えば、p−ビフェニル(2P)、p−ターフェニル(3P)、p−クォーターフェニル(4P)、p−クィンケフェニル(5P)、p−セキシフェニル(6P)等が挙げられる。
直鎖状縮合系芳香族化合物の具体例として、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ペリレン等が挙げられる。
直鎖状単環系複素環化合物の具体例として、例えば、α−ビチオフェン(2T)、α−ターチオフェン(3T)、α−クォーターチオフェン(4T)、α−クィンケチオフェン(5T)、α−セキシチオフェン(6T)、α−オクチチオフェン(8T)等が挙げられる。
【0067】
直鎖状縮合系複素環化合物の具体例として、例えば、カルバゾール、チオクロメン、チオキサンテン等が挙げられる。
直鎖状飽和脂肪族化合物の具体例として、例えば、H−(CH−H(nは1〜30の整数)等が挙げられる。
またそれらの連結型化合物の具体例として、例えば、2−メチル−α−クォーターチオフェン、2−オクチル−α−クォーターチオフェン等が挙げられる。
【0068】
結晶状態における隣接分子間距離が前記範囲内である化合物βの一例の結晶特性値を以下に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表中、a、b、cはそれぞれ結晶格子定数、Zは単位格子中に含まれる分子の個数を示す。
また表中のデータは以下の文献に基づくものである。
J.Am.Chem.Soc.,125, 6323(2003)
J.Mater.Chem.,10, 571(2000)
Proc.Indian Acad.Sci.,115, Nos5 & 6, 637(2003)
J.Phys.Chem.B., 108, 8614(2004)
Cryst.Res.Technol.,36(1), 47(2001)
J.Phys.Condens.Matter.,15, 3375(2003)
【0071】
なお、表中の値の中には前記した隣接分子間距離範囲を越えているものもあるが、これはあくまで結晶格子定数であって、単位格子にはZとして記載の数の分子が含まれているので、当該化合物分子の隣接分子間距離は前記範囲内のものである。
【0072】
有機基Bは、任意の位置に官能基を有していてもよい。具体的な官能基としては、ヒドロキシル基、置換若しくは無置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリールオキシ基、置換若しくは無置換のアルコキシカルボニル基、又は、カルボキシル基、エステル基等が挙げられる。これらの官能基のなかでも、立体障害により有機薄膜の結晶化を阻害しない官能基が好ましく、したがって、上記官能基の中でも炭素数1のアルキル基が特に好ましい。
【0073】
有機基Bの高度な配列制御を達成する観点から、有機基Bは置換基を有しないことが好ましく、隣接分子間距離が前記範囲を越えない程度に置換基を有してもよい。そのような置換基として、例えば、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、スルホ基等があげられる。
【0074】
有機基Bは上記のような基であって、その両端において後述のようにシロキサンネットワークが形成されるが、有機基B自体同士は隣接分子間において結合を生じない。よって、本発明において有機基Bの配列はその両端におけるシロキサンネットワークのみに依存するので、ひずみなく制御され、安定性が顕著に高い。一方、有機基Bが例えば、アセチレン基等を有し、隣接分子間においてポリアセチレン結合等を生じた場合、シロキサンネットワークに加えてポリアセチレン結合のネットワークが形成されるため、隣接分子間距離にひずみが生じることとなり、安定な膜を形成できない。
【0075】
本発明の化合物の好ましい具体例を以下に示す。
【化11】

【0076】
【化12】

【0077】
【化13】

【0078】
【化14】

【0079】
(合成方法)
前記一般式(I)で表される有機化合物(以下、有機化合物(I)ということがある)は上記のπ電子共役性骨格含有分子または非π電子共役性骨格含有分子(以下、これらの分子をまとめて「有機基B含有分子」ということがある)にシリル基を導入することによって合成可能である。シリル基の導入部位は得られる単一単分子膜または単分子累積膜が、分子が規則的に配列される分子結晶性を確保できる限り特に制限されないが、通常は分子の両末端である。特に、有機基B含有分子が直線形状を有する場合は当該分子の両末端にシリル基を導入する。また、有機基B含有分子が点対称性を有する場合は、一般構造式においてシリル基の導入部位の中間点が当該分子の中心点となるように、シリル基を導入することが好ましい。
【0080】
有機基B含有分子のシリル化は、種々の公知の手法によって達成可能である。たとえば、(1)対応する臭素や、塩素、またはヨウ素などのハロゲン原子を有する化合物から得られるグリニヤール試薬やリチウム試薬とハロゲンやアルコキシを有する有機ケイ素化合物との反応、(2)対応する炭素−炭素多重結合を有する化合物と少なくとも一つの水素をケイ素原子上に有する有機ケイ素化合物とを塩化白金酸等の触媒存在下で加熱攪拌することによるハイドロサイレーション反応、(3)パラジウム触媒を用い、対応するビニルホウ素化合物と有機ハロゲン化ケイ素化合物をクロスカップリングさせて、置換オレフィンを合成する反応を利用できる。
【0081】
より具体的には以下の方法を利用できる。
まず、第1の方法として、
(式) H−B−MgX (2)
(式中、Bは前記式(I)のBと同様であり、Xはハロゲン原子である)で示される化合物と、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aは前記式(I)においてと同じ)で示される化合物(例えば、テトラクロロシラン、テトラエトキシシラン)とを反応させて、
(式) H−B−Si(A)(A)(A) (4)
を合成し、
式(4)中、Bにハロゲン原子を結合させ、エトキシエタン又はテトラヒドロフラン(THF)の存在下で、マグネシウムやリチウム金属と反応させて
(式)MgX−B−Si(A)(A)(A)又はLiX−B−Si(A)(A)(A)(5)
で示される化合物を合成した後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aは前記式(I)においてと同じ)で示される化合物(例えば、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン)と反応させて、有機化合物(I)を得る方法が挙げられる。
【0082】
第2の方法として、
(式) X−B−X (8)
(式中、Bは前記式(I)のBと同じであり、X及びXは、それぞれ異なって、ハロゲン原子である。)で示される化合物を、マグネシウム又はリチウムからなる金属触媒を用いてグリニヤール反応剤とした後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子、A〜Aは前記式(I)においてと同じ)で示される化合物と反応させ、下記式で表されるグリニヤール反応剤
(式) Si(A)(A)(A)−B−MgX (9)
を得、その後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aは前記式(I)においてと同じ)で示される化合物と(式9)で示される化合物とを反応させて、有機化合物(I)を得る方法が挙げられる。上記第1及び2の方法中、ハロゲン原子とは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0083】
上記合成時の反応温度は、例えば、−100〜150℃が好ましく、より好ましくは−20〜100℃である。反応時間は、工程毎に、例えば、0.1〜48時間程度である。反応は、通常、反応に影響のない有機溶媒中で行われる。反応に悪影響のない有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等脂肪族又は芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の塩素系炭化水素等が挙げられ、これらは単独で又は混合液として用いることができる。なかでも、ジエチルエーテルとTHFが好適である。反応は、任意に触媒を用いてもよい。触媒としては、白金触媒、パラジウム触媒、ニッケル触媒等、触媒として公知のものを用いることができる。
【0084】
上記第1及び2の方法において、YはA〜Aより脱離反応性が高く、YはA〜Aより脱離反応性が高いことが好ましい。特に、Y及びYはヨウ素原子であることが好ましい。
【0085】
また以下の方法によっても、シリル基の導入は可能である。
例えば、まず、上記π電子共役性骨格または非π電子共役性骨格を含有するグリニヤール試薬を調製する。得られたグリニヤール試薬を、脱離反応性が比較的低い基(A〜A)を有するシリル基を含有するシラン化合物、例えば、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシランと、有機溶媒中、−200〜−60℃で10〜30時間反応させることにより、有機基B含有分子の一端に当該シリル基を導入する。次いで、得られた化合物を、脱離反応性が比較的高い基(A〜A)を有するシリル基を含有するシラン化合物、例えば、テトラクロロシラン、テトラエトキシシランと、有機溶媒中、−200〜−60℃で10〜30時間反応させることにより、有機基B含有分子の他端に当該シリル基を導入する。いずれのシリル基を導入する場合であっても、有機溶媒はシリル化反応を阻害しないものであれば特に制限されず、例えば、ヘキサン、ペンタンなどの脂肪族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩素系炭化水素類などが挙げられる。これらは単独で又は混合液として用いることが出来る。
【0086】
グリニヤール試薬を調製することなく、有機基B含有分子にシリル基を導入してもよい。例えば、有機基B含有分子を、脱離反応性が比較的低い基(A〜A)を有するシリル基を含有するシラン化合物、例えば、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシランと、有機溶媒中、−200〜−60℃で10〜30時間反応させることにより、有機基B含有分子の一端に当該シリル基を導入する。次いで、得られた化合物を、脱離反応性が比較的高い基(A〜A)を有するシリル基を含有するシラン化合物、例えば、テトラクロロシラン、テトラエトキシシランと、有機溶媒中、−200〜−60℃で10〜30時間反応させることにより、有機基B含有分子の他端に当該シリル基を導入する。有機溶媒は前記と同様のものが使用される。
【0087】
このような方法で合成される本発明の有機化合物は、公知の手段、例えば転溶、濃縮、溶媒抽出、分留、結晶化、再結晶、クロマトグラフィーなどにより反応溶液から単離、精製することができる。
【0088】
次に、有機基Bの前駆体として好適な、単環系芳香族化合物及び/又は単環系複素環化合物が2個以上結合した化合物又はアセン骨格を含む化合物の合成方法の一例を記載する。
【0089】
(1)単環系芳香族化合物及び/又は単環系複素環化合物が2個以上結合した化合物
ベンゼン又はチオフェンのみからなる化合物の合成方法の一例を以下の(A)〜(C)に示す。なお、下記チオフェンのみからなる化合物の合成例では、チオフェンの3量体から6あるいは7量体への反応のみを示した。しかし、ユニット数の異なるチオフェンと反応させれば、前記6あるいは7量体以外の化合物を形成できる。例えば、2−クロロチオフェンをカップリングした後にNCSによりクロロ化させた2−クロロビチオフェンに下記と同様の反応をさせることによって、チオフェン4あるいは5量体を形成できる。更に、チオフェン4量体をNCSによりクロロ化させれば更にチオフェン8あるいは9量体も形成することができる。
【0090】
【化15】

【0091】
所定数のチオフェンとベンゼン由来のユニットがそれぞれ結合した単位を直接結合することにより、ブロック型の化合物を得る方法としては、例えば、グリニヤール反応を使用する方法がある。この場合の合成例としては、以下の方法が適用できる。
【0092】
まず、単純ベンゼン又は単純チオフェン化合物の所定位置をハロゲン化(例えば、ブロモ化)した後に、n−BuLi、B(O−iPr)を付与することによって脱ブロモ化及びホウ素化できる。このときの溶媒は、エーテルが好ましい。また、ホウ素化させる場合の反応は、2段階であり、初期は反応を安定化させるために、1段階目は−78℃で行い、2段階目は−78℃から室温に徐々に温度を上昇させることが好ましい。一方で、両端にハロゲン基(例えば、ブロモ基)を有するベンゼンあるいはチオフェンを用いてグリニヤール反応からブロック型化合物の中間体を作製しておく。
【0093】
この状態で、未反応のブロモ基と上記のホウ素化された化合物を、例えばトルエン溶媒中に展開させ、Pd(PPh、NaCOの存在下、85℃の反応温度にて、反応を完全に進行させれば、カップリングを起こさせることが可能である。結果的に、ブロック型の化合物を合成することができる。
このような反応を用いた化合物(D)及び(E)の合成ルートの一例を以下に示す。
【0094】
【化16】

【0095】
ベンゼンあるいはチオフェンに由来するユニットとビニル基(不飽和脂肪族化合物)が交互に結合される化合物の合成方法としては、例えば以下の方法が適用できる。すなわち、ベンゼンあるいはチオフェンの反応部位にメチル基を有する原料を準備した後に、その両端を2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)及びN−ブロモスクシンイミド(N−bromosuccinimide:NBS)を用いてブロモ化させる。この後、ブロモ体にPO(OEt)を反応させ、中間体を形成させる。つづいて、末端にアルデヒド基を有する化合物と、中間体とを、例えばDMF溶媒中でNaHを用いて反応させることによって、上記の化合物は形成できる。なお、得られた化合物は、末端にメチル基を有するため、例えばこのメチル基を更にブロモ化させ、上記合成ルートを再度適用すれば、更にユニット数の多い化合物を形成できる。
このような反応を用いて長さの異なる化合物(F)〜(H)の合成ルートの一例を以下に示す。
【0096】
【化17】

【0097】
いずれの化合物についても、所定の位置に側鎖(例えばアルキル基)を有する原料を用いることもできる。すなわち、例えば、原料として2−オクタデシルターチオフェンを用いれば、上記の合成ルートにより化合物(A)として2−オクタデシルセクシチオフェンを得ることができる。同様に、所定の位置にあらかじめ側鎖を有する原料を用いれば、上記(A)〜(H)のいずれの化合物でかつ、側鎖を有する化合物を得ることができる。
【0098】
また、上記合成例で使用した原料は、汎用の試薬であり、試薬メーカーより入手、利用できる。以下に原料のCASナンバー、及び、試薬メーカーとして例えばキシダ化学より入手した場合の試薬の純度を示しておく。
【0099】
【表2】

【0100】
(2)アセン骨格を含む化合物
アセン骨格を含む化合物の合成方法としては、例えば(1)原料化合物の所定位置の2つの炭素原子に結合する水素原子をエチニル基で置換した後に、エチニル基同士を閉環反応させ工程を繰り返す方法、(2)原料化合物の所定位置の炭素原子に結合する水素原子をトリフラート基で置換し、フラン又はその誘導体と反応させ、続いて酸化させる工程を繰り返す方法等が挙げられる。これらの方法を用いたアセン骨格の合成法の一例を以下に示す。
方法(1)
【0101】
【化18】

【0102】
方法(2)
【化19】

【0103】
また、上記方法(2)では、アセン骨格のベンゼン環を一つずつ増やす方法であるため、例えば原料化合物の所定部分に反応性の小さな官能基あるいは保護基が含まれていても同様にアセン骨格を含む化合物を合成できる。この場合の例を以下に示す。
【0104】
【化20】

【0105】
なお、Ra、Rbは、炭化水素基やエーテル基等の反応性の小さな官能基あるいは保護基であることが好ましい。
【0106】
また、上記方法(2)の反応式中、2つのアセトニトリル基及びトリメチルシリル基を有する出発化合物を、これら基が全てトリメチルシリル基である化合物に変更してもよい。また、上記反応式中、フラン誘導体を使用した反応後、反応物をヨウ化リチウム及びDBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene)下で、還流させることで、出発化合物よりベンゼン環数が1つ多く、かつヒドロキシル基が2つ置換した化合物を得ることができる。
【0107】
また、上記合成例で使用した原料は、汎用の試薬であり、試薬メーカーより入手、利用できる。例えばテトラセンは東京化成より純度97%以上で入手できる。
【0108】
(有機薄膜およびその形成方法)
本発明の有機薄膜は前記有機化合物(I)を用いて形成されてなるもので、膜表面にシロキサンネットワークを有することを特徴とするシロキサン系分子膜(以下、単に有機薄膜ということがある)である。詳しくは、有機化合物(I)から形成された単分子膜は、図2に示すように、基板側に2次元シロキサンネットワーク2aを有するだけでなく、膜表面側にも2次元シロキサンネットワーク2bを有する。2次元シロキサンネットワーク2aおよび2次元シロキサンネットワーク2bは基板1に対していずれも全体として略平行方向で形成されている。そのため、膜の高配列秩序化に必要な分子間相互作用が効率的に働くので、非常に高い安定性を有し、且つ、有機化合物(I)分子、特にその有機基Bが高度に配列制御される。すなわち、有機基Bはその両端で同じシロキサンネットワークが形成されるので、有効に配列制御されて、配向する。しかも、その配向は、膜表面にシロキサンネットワークが形成されない膜や膜表面にポリアセチレン等が形成された膜と比較して、ひずみがより少ない。また本発明の有機薄膜は、化学結合によって基板に固定化されるので、例えば、基板に物理吸着により作製した膜と比較して、物理的な剥がれを有効に防止し、膜の物理的な強度を向上させ得る。また膜表面にシロキサンネットワークが形成されない膜と比較して、膜の表面平滑性と強度に優れた緻密な膜を形成できる。
【0109】
本発明の有機薄膜は、単一単分子膜または単分子累積膜のいずれの構造を有していてもよく、単分子累積膜の場合、当該膜を構成する単分子膜のうち少なくとも最も基板側の単分子膜と最も膜表面側の単分子膜、好ましくは全ての単分子膜が有機化合物(I)から形成されていればよい。有機化合物(I)から形成される全ての単分子膜は、上記したように、基板側にも膜表面側にも2次元シロキサンネットワークを有する。例えば、2層の単分子膜がいずれも有機化合物(I)から形成された2層累積膜の場合、図3に示すように、各単分子膜ごとに、基板側(2a、3a)にも膜表面側(2b、3b)にも2次元シロキサンネットワークを有する。基板側の2次元シロキサンネットワークは、有機化合物(I)のシリル基;−Si(A)(A)(A)に基づくものであり、膜表面側の2次元シロキサンネットワークは、有機化合物(I)のシリル基;−Si(A)(A)(A)に基づくものである。
【0110】
以下、好ましい有機薄膜の実施形態について説明する。
好ましい有機薄膜は、基板上に1の単分子膜を有する単一単分子膜の構造を有する場合は当該単分子膜が有機化合物(I)を用いて製膜され、基板上に第1〜第n(nは2以上の整数)の単分子膜を順次、有する単分子累積膜の構造を有する場合は全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて製膜される。なお、有機薄膜が単分子累積膜の構造を有する場合における単分子膜の番号は基板側から順に付するものとする。
【0111】
有機薄膜が単分子累積膜の構造を有する場合における第1〜第n単分子膜を形成する有機化合物(I)は各膜ごとに独立して前記範囲内で選択されればよい。例えば、使用される有機化合物(I)は一部または全部の膜で同一であってもよいし、または全ての膜で異なっていても良い。
【0112】
基板としては、有機薄膜の用途により適宜選択することができる。例えば、シリコン、ゲルマニウム等の元素半導体、GaAs、InGaAs、ZnSe等の化合物半導体等の半導体;ガラス、石英ガラス;ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン、PEN、PES、テフロン(登録商標)等の絶縁性の高分子フィルム;ステンレス鋼(SUS);金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属;チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属;高融点金属とのシリサイド、ポリサイド等;酸化シリコン(熱酸化シリコン、低温酸化シリコン:LTO等、高温酸化シリコン:HTO)、窒化シリコン、SOG、PSG、BSG、BPSG等の絶縁体;PZT、PLZT、強誘電体又は反強誘電体;SiOF系材料、SiOC系材料もしくはCF系材料又は塗布で形成するHSQ(hydrogen silsesquioxane)系材料(無機系)、MSQ(methyl silsesquioxane)系材料、PAE(polyarylene ether)系材料、BCB系材料、ポーラス系材料もしくはCF系材料又は多孔質材料等の低誘電体等の材料からなる基板が挙げられる。更に、いわゆるSOI基板、多層SOI基板、SOS基板等も使用できる。これら基板は単独でも、複数積層されていてもよい。例えば基板は半導体デバイスの電極として使用される無機物質からなっていてもよく、さらにその表面に有機物質からなる膜が形成されていてもよい。本発明において基板表面には水酸基やカルボキシル基等の親水基、特に水酸基を有することが好ましく、有しない場合には、基板に親水化処理を施すことによって、親水基を基板表面に付与すればよい。基板の親水化処理は、過酸化水素水−硫酸混合溶液への浸漬、紫外光の照射等により行うことができる。
【0113】
有機薄膜が単一単分子膜または単分子累積膜のいずれの構造を有する場合も、有機化合物(I)を用いて製膜された単分子膜において、当該有機化合物分子は、A〜Aを有するシリル基(以下、高反応性シリル基ということがある)が基板側に配向し、A〜Aを有するシリル基(以下、低反応性シリル基ということがある)が膜表面側に配向するように、配列する。
【0114】
そのため、例えば、単一単分子膜の構造を有する場合、単分子膜−基板界面において、高反応性シリル基は基板表面の親水基との反応によって化学結合(特にシラノール結合(−Si−O−))を形成し、同時に隣接分子間でシロキサン結合を形成してシロキサンネットワーク2aを形成する(例えば、図1)。一方で、低反応性シリル基は膜表面側に存在し、後で詳述するその後のpH処理によって、隣接分子間でシロキサン結合を形成してシロキサンネットワーク2bを形成する(例えば、図2)。
【0115】
また例えば、基板上に第1〜第2の単分子膜を順次、有する単分子累積膜構造を有する場合、上記した単一単分子膜の膜表面側のシロキサンネットワーク2bには、シロキサン結合の形成に寄与しなかった水酸基が存在するので、当該水酸基を反応サイトとして第2の単分子膜が形成される。すなわち第1単分子膜−第2単分子膜界面において、第2単分子膜の高反応性シリル基は第1単分子膜表面の水酸基との反応によって化学結合(特にシラノール結合(−Si−O−))を形成し、同時に隣接分子間でシロキサン結合を形成してシロキサンネットワーク3aを形成する(例えば、図3および図5(A)および(B))。一方で、第2単分子膜の低反応性シリル基は膜表面側に存在し、後で詳述するその後のpH処理によって、隣接分子間でシロキサン結合を形成してシロキサンネットワーク3bを形成する(例えば、図3および図5(A)および(B))。
【0116】
また例えば、基板上に第1〜第n(nは3以上の整数)の単分子膜を順次、有する単分子累積膜構造を有する場合、上記の2層単分子累積膜の膜表面側のシロキサンネットワーク3bには、シロキサン結合の形成に寄与しなかった水酸基が存在するので、当該水酸基を反応サイトとして第3〜第nの単分子膜が形成される。第3〜第nの単分子膜の配列構造は2層単分子累積膜の第2単分子膜と同様である。
【0117】
特に、有機薄膜が単分子累積膜の構造を有し、全ての単分子膜が有機化合物(I)から形成されている場合、最下層の単分子膜は基板と化学結合、特にシラノール結合を介して形成され、他の単分子膜は直下の単分子膜と逐次的に化学結合、特にシロキサン結合を介して形成されている。
【0118】
有機化合物(I)を用いて製膜された単分子膜における前記のような有機化合物(I)分子の配列は、有機化合物(I)が両末端に有する2つのシリル基の脱離反応性を制御することにより達成される。その結果として膜厚が均一で、かつ分子が秩序性をもって配列する分子結晶性を有する単一単分子膜およびその累積膜を再現性良く製造可能となる。すなわち、シリル化有機化合物がシラノール結合やシロキサン結合を介して結合するためには、シリル基に結合する官能基が脱離して水酸基あるいはプロトンに置換される必要がある。本発明においては、2つのシリル基が有する脱離反応性の差を利用して、選択的に一方のシリル基における脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を水酸基あるいはプロトンに置換させ、基板表面あるいは直下の単分子膜表面の水酸基(あるいはカルボキシル基)と反応させる。その結果、A〜A基を有するシリル基が基板側に配向して、シラノール結合やシロキサン結合が形成される。他方のシリル基は脱離反応性が比較的低い基(A〜A)しか有さず、そのような基は水酸基あるいはプロトンに置換されないため、基板や直下の単分子膜と反応することなく、膜表面側に配向する。なお、そのようなA〜A基を有するシリル基は、後で詳述するph処理によって活性化され、膜表面側のシロキサンネットワークが形成される。このとき、膜表面側のシロキサンネットワークにはシロキサン結合の形成に寄与しなかった水酸基が存在するので、反応サイトとして利用される。その結果、各単分子膜において化合物分子がより同一方向に配列されるため、膜厚がより均一で、かつ分子結晶性がより優れた単一単分子膜およびそれらの累積膜を形成できる。両端のシリル基がいずれも脱離反応性の比較的高い基を有すると、各単分子膜において部分的に厚み方向で2分子化、3分子化するため、得られる薄膜の厚みは不均一になり、所望の分子結晶性を達成できない。
【0119】
有機薄膜が単一単分子膜の場合、その膜厚は、有機基Bの種類によって適宜調整することができるが、例えば、1nm〜12nm程度、更に、経済性、量産化を考慮すると、1nm〜3.5nm程度が好ましい。単分子膜の累積膜の場合の膜厚は、単分子膜の膜厚をc、累積数をd層とした場合、膜厚はほぼc×dとなる。単分子膜ごとに異なる機能を有する薄膜を作製する場合には、その機能に応じて単分子膜の分子構造及び膜厚を異ならせる場合もあり、その場合の単分子累積膜の膜厚は必要に応じて適宜調整することができる。
【0120】
このような単一単分子膜又は累積単分子膜は有機化合物(I)が容易に自己組織化され、しかも各単分子膜の基板側と膜表面側にシロキサンネットワークが形成されるため、より一定の方向にユニット(分子)を配向させた薄膜とすることができる。つまり、隣り合うユニット間距離を最小限にして、高度に結晶化された有機薄膜を得ることができ、その結果、基板表面に対して垂直方向に導電性を示す有機薄膜を得ることができる。
【0121】
また、隣り合う有機化合物(I)分子におけるSiがそのまま、又は酸素原子を介して架橋されるので、例えば、Si−O−Siネットワークが形成されて、隣り合うユニット間距離が小さく、かつより高度に結晶化される。特に、ユニットが、直鎖に配置されている場合には、隣り合うユニット同士は互いを阻害せずに、隣り合うユニット間距離を最小限にして、高度に結晶化された材料を得ることができる。このようなユニットの配向により、基板の表面方向に半導体特性を示す有機薄膜を得ることができる。
【0122】
このように、基板表面に対して、垂直方向と表面方向で、電気特性が異なる電気的異方性を有する薄膜を得ることができる。
【0123】
有機化合物(I)を用いた有機薄膜の形成方法を図面を用いて簡単に説明する。
有機薄膜の形成に際しては、まず、有機化合物(I)を用いて、LB法、ディッピング法、コート法等の方法により、当該化合物におけるA〜Aを有するシリル基と基板表面とを反応させ1の単分子膜を形成する。有機化合物(I)は、含有される基(A〜AとA〜A)の脱離反応性が異なる2つのシリル基を両端に有するため、脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を有するシリル基が選択的に基板表面と結合すると同時に、隣接分子間でシロキサン結合を形成してシロキサンネットワークを形成する。例えば、図1は、前記一般式(a1)の化合物を用いた場合の単一単分子膜の概念図であり、脱離反応性の比較的高い塩素原子が水酸基に置換され、当該基を有するシリル基が選択的に基板表面と結合しながらシロキサンネットワーク2aを形成している。図1において、膜表面(空気界面)側の末端シリル基に結合している官能基は容易には脱離しないので、他の分子や基板との吸着反応が生じることはない。
【0124】
本発明においては、脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を有するシリル基を選択的に基板と結合させるために、当該脱離反応性の高い基を選択的に水酸基あるいはプロトンに置換させる。そのためには、反応条件による各基(A〜A)の反応性の違いを利用して、膜形成時の溶媒雰囲気および反応温度等をかえればよい。例えば、溶媒が水の場合にはpHを変えることで、また溶媒が有機溶媒の場合では水酸化溶媒を用いることで、溶媒におけるプロトン濃度を調節し、反応性を制御できる。
例えば、A〜Aがハロゲン原子であって、A〜Aがアルコキシ基である有機化合物を用いて後述のLB法で単分子膜を形成する場合には、水のpHを7に調整することによって、A〜Aのみを水酸基に置換できる。当該有機化合物を用いて後述のディッピング法で単分子膜を形成する場合には、当該有機化合物が溶解される有機溶媒に微量で含有される水の存在によってA〜Aは容易に水酸基に置換されるため、必ずしもpH等を調整する必要はない。
また例えば、A〜Aがエトキシ基であって、A〜Aがブトキシ基である有機化合物を用いて後述のLB法で単分子膜を形成する場合には、水のpHを4に調整することによって、A〜Aのみを水酸基に置換できる。
【0125】
LB法(Langmuir Blodget法)では、有機化合物(I)を有機溶剤に溶解し、得られた溶液をpHが調整された水面上に滴下し、水面上に薄膜を形成する。このとき、有機化合物の一端のシリル基における脱離反応性の比較的高い基(A〜A)が加水分解によって水酸基に変換される。次いで、その状態で水面上に圧力を加え、親水基(特に水酸基)を表面に有する基板を引き上げることによって、有機化合物における脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を有するシリル基を基板と結合させつつ、隣接分子間でシロキサンネットワークを形成させ、図1に示すような単分子膜が得られる。
【0126】
またディッピング法、コート法では、まず、有機化合物(I)を有機溶剤に溶解する。例えば、有機化合物(I)をヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素等の非水系有機溶剤に溶解し、1mM〜100mM程度の濃度の溶液を得る。得られた溶液中に、親水基(特に水酸基)を表面に有する基板を浸漬して、引き上げる。あるいは、得られた溶液を基体表面にコートする。このとき、有機溶剤中の微量の水によって、有機化合物の一端のシリル基における脱離反応性の比較的高い基(A〜A)が加水分解され、水酸基に変換される。次いで、所定時間、保持することによって、有機化合物における脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を有するシリル基を基板と結合させつつ、隣接分子間でシロキサンネットワークを形成させ、図1に示すような単分子膜が得られる。
【0127】
膜表面側に低反応性シリル基を有する、例えば、図1に示すような単分子膜を形成した後は、通常、非水系溶媒を用いて単分子膜から未反応の有機化合物を洗浄除去する。
【0128】
次いで、膜表面側に低反応性シリル基を有する単分子膜にpH処理を行うことによって、膜表面側に存在する未反応シリル基(低反応性シリル基)を加水分解反応および脱水縮合反応させ、シロキサンネットワークを形成させる(例えば、図2)。pH処理は、例えば、比較的pHの低い水に、単分子膜を形成した基板を浸漬する。これによって、当該単分子膜における膜表面側に存在する低反応性シリル基が有する脱離反応性の比較的低い基(A〜A)を加水分解反応およびそれに伴う脱水縮合反応させて、膜表面側にシロキサンネットワークを形成する。このとき、例えば図2に示すように、膜表面側のシロキサンネットワークは水酸基を有するので、次の単分子膜形成のための反応サイトとして利用される。膜表面側のシロキサンネットワークが水酸基を有するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。すなわち、pH処理前において単分子膜の基板側には既にシロキサンネットワークが形成され、有機基Bはある程度の秩序性をもって配向するため、膜表面側のシリル基は挙動が拘束される。そのような状態でpH処理がなされると、A〜A基が変換された水酸基のうち2つの水酸基は隣接分子のシリル基の水酸基との接触確率が比較的高いため、縮合反応によってシロキサン結合を形成するが、残りの1つの水酸基は他の水酸基との接触確率が比較的低いので、そのまま残るものと考えられる。なお、例えば、図2や図3等では、膜表面側のシロキサンネットワークにおいてケイ素原子1つあたり1つの水酸基を有しているが、これらはあくまで模式図であり、すなわち必ずしも全てのケイ素原子が1つの水酸基を有さなければならないというわけではない。本発明の目的が達成される限り、例えば、1つのケイ素原子が有し得る3つの水酸基が全てシロキサンネットワークの形成に寄与されて、水酸基を有さないケイ素原子があってもよい。
【0129】
pH処理の条件は、単分子膜を形成する有機化合物(I)分子の低反応性シリル基が加水分解されてA〜Aが水酸基に変換され得る限り特に制限されない。また水温を上げることによって、加水分解の反応促進をはかってもよい。
例えば、低反応性シリル基がトリメトキシシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH3〜4程度および温度20〜40℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリエトキシシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH2〜3および温度25〜40℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリプロポキシシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH1〜2および温度25〜40℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリブトキシシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH1および温度40〜60℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリメチルシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH2〜3および温度25〜40℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリエチルシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH1〜2および温度25〜40℃が適当である。
また例えば、低反応性シリル基がトリプロピルシリル基の場合で、pH処理の処理水はpH1および温度40〜60℃が適当である。
【0130】
膜表面側にシロキサンネットワークが形成された単一単分子膜を得た後は、通常、非水系溶媒を用いて単分子膜から未反応の有機化合物を洗浄除去する。除去した後は、水洗し、放置するか加熱することにより乾燥して、有機薄膜を定着させる。この薄膜は、そのまま有機薄膜として用いてもよいし、更に電解重合等の処理を施して用いてもよい。
【0131】
単分子累積膜を形成する場合は、先に形成された単一単分子膜の膜表面側に存在する未反応の水酸基を吸着反応のサイトとして、有機化合物(I)からなる単分子膜を累積させる。ここで使用される有機化合物は有機化合物(I)の中でも既に形成されている単分子膜に用いたものと同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0132】
累積される単分子膜は前記LB法、ディッピング法、コート法と同様の方法に準じて形成される。
【0133】
図3は、2つの単分子膜からなる2層累積膜の例である。図3では、図2の単分子膜上に、当該膜を構成する有機化合物と同一のものを用いて単分子膜が累積されているが、累積される単分子膜は直下の膜で用いた有機化合物と異なるものからなっていてもよい。
【0134】
累積させた単分子膜が有機化合物(I)からなっている場合は、以上のプロセスを繰り返すことによって、基板上に同一もしくは異なる有機化合物(I)の単分子膜を逐次的かつ均一に調製することができる。いずれの単分子膜においても、有機化合物(I)は脱離反応性の比較的高い基(A〜A)を有するシリル基が選択的に基板またはその直下の単分子膜の表面と化学結合するので、得られる薄膜は膜厚が均一で、かつ優れた分子結晶性を有する。本発明においては単分子膜が2〜20層、特に2〜10層積層されてなる累積膜を形成した場合であっても、本発明の効果を得ることができる。そのときの合計膜厚は使用される化合物分子の長さに依存するため一概に規定できるものではないが、通常4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0135】
以上のような有機薄膜において、有機化合物(I)からなる単分子膜は、ファンデルワールス、静電的、π−πスタッキング相互作用のような非共有結合により凝集する自己組織化膜である。分子の自己組織化する性質を利用して高配向の膜を簡単に調整することができる。
【0136】
(用途)
本発明の有機化合物(I)は、膜厚の均一性および/または優れた分子結晶性(配列性)を活かすことのできる用途、例えば、有機デバイスや光学素子、被膜剤に有用である。特に、有機化合物(I)の有機基Bをπ電子共役を示すものに選択することによって、有機薄膜トランジスタ、有機光電変換素子、および有機エレクトロルミネッセンス素子等の有機デバイスにおける有機層(薄膜)構成物質として有用である。
【0137】
例えば、本発明の有機化合物(I)を用いた有機薄膜は、有機基Bの種類(特にヘテロ原子の有無)や官能基の種類(電子吸引型又は電子供与型の基)を選択することで、例えばTFT等の有機薄膜トランジスタ、発光素子、太陽電池、燃料電池、センサ等を構成する導電性材料、光伝導性材料(フォトコンダクタ)、非線形光学材料、絶縁材料等を構成する薄膜として使用することができる。また、末端に官能基を保持させることにより、リガンドとして酵素等を結合させることができるため、バイオセンサとしても使用することができる。以下に、本発明の有機薄膜のより具体的な適用例を記載する。
・TFTの半導体層および絶縁層(ソースドレイン間の領域)
・有機EL素子や有機リン光発光素子の電極間の膜(発光層、電子注入層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層等)
・有機半導体レーザ(例えば、ダイオードのような電流注入型レーザ)の電極間の膜(それぞれの電極から注入されたホール及び電子を有機薄膜上で再結合させることで発光させ、得られた光を一定方向から取り出すことができる)
・太陽電池のp型半導体層及びn型半導体層(有機薄膜が、光励起特性を有するため、p型及びn型材料をそれぞれ薄膜とし重ねれば、p−nジャンクションを形成できるので、太陽電池を形成できる)ならびに励起子ブロック層
・燃料電池のセパレーター
・ガスセンサの気体分子又はにおいセンサのにおい成分の吸着膜(くし型電極上に有機薄膜を設置すれば、気体分子の吸着による有機薄膜の導電性の変化により気体分子の濃度を評価するガスセンサを形成できる)
・イオンセンサのイオン感応膜
・バイオセンサ(例えば、免疫センサ)の感応膜(有機薄膜の酵素の選択性を利用する)
【0138】
(有機デバイス)
本発明の有機デバイスは有機化合物(I)を用いて形成された有機薄膜を有する限り、いかなる種類のデバイスであってよく、例えば、有機薄膜トランジスタ、有機光電変換素子、および有機EL素子等の有機半導体デバイスが挙げられる。そのような有機半導体デバイスは、膜厚均一性および分子結晶性に優れた有機薄膜を有するので、ドメイン間などにキャリアのトラップの少ないデバイスを作製することができる。
【0139】
(有機薄膜トランジスタ)
有機薄膜トランジスタは、少なくとも、基板、該基板上に形成されるゲート電極、該ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜、および該ゲート絶縁膜と接触して、または非接触で具備されるソース電極、ドレイン電極および半導体層を有してなる。
本発明においてトランジスタは、ソース電極、ドレイン電極および半導体層の配置によって、ボトムコンタクト型、トップアンドボトムコンタクト型、トップコンタクト型等の種々の構成を有していてもよい。
【0140】
トップコンタクト型トランジスタの一例の概略断面構成図を図6(A)に示す。図6(A)のトランジスタは、基板25、該基板25上に形成されるゲート電極24、該ゲート電極24上に形成されるゲート絶縁膜23、該ゲート絶縁膜23上に形成される半導体層20、および該半導体層20上に離間して形成されるソース電極21およびドレイン電極22を備えた構造を有している。
【0141】
トップアンドボトムコンタクト型トランジスタの一例の概略断面構成図を図6(B)に示す。図6(B)のトランジスタは、ゲート絶縁膜23の一部の表面上にソース電極21が形成され、該ソース電極21とゲート絶縁膜23の残部の表面上に半導体層20が形成され、該半導体層20の一部の表面上にドレイン電極22が形成され、該ドレイン電極22の表面と半導体層20の残部の表面とがひとつの平面をなしていること以外、図6(A)のトランジスタと同様の構造を有している。
【0142】
ボトムコンタクト型トランジスタの一例の概略断面構成図を図6(C)に示す。図6(C)のトランジスタは、ソース電極21およびドレイン電極22が離間してゲート絶縁膜23上に形成され、該ソース電極21とドレイン電極22との間のゲート絶縁膜23上にソース電極およびドレイン電極に接触して半導体層20が形成されること以外、図6(A)のトランジスタと同様の構造を有している。
【0143】
図6(A)〜(C)において同じ符号は共通の部材を示すものとする。
本発明においては半導体層20および/またはゲート絶縁膜23が前記有機化合物(I)を用いて形成された有機薄膜であり、単一単分子膜または単分子累積膜の構造を有する。詳しくは図6(A)、(B)および(c)の半導体層は単一単分子膜または単分子累積膜の構造を有してよく、好ましくは単分子累積膜の構造を有する。
【0144】
半導体層が単一単分子膜の構造を有する場合、当該単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている。単一単分子膜は上記範囲内の有機化合物(I)から形成されている限り特に制限されないが、上記の中でも、有機基Bが単環系芳香族化合物、単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物、または縮合系複素環化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物に由来の基、特にフェニレン系化合物誘導体、チオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、またはペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)から形成されていることが好ましい。このときA〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい。そのような単一単分子膜は直下のゲート絶縁膜と化学結合を介して結合されている。
【0145】
半導体層が単分子累積膜の構造を有する場合、単分子膜の累積数は特に制限されないが、通常2〜20層、好ましくは2〜10である。半導体層としての単分子累積膜は、少なくとも1の単分子膜、好ましくは全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている。
例えば、2層累積膜の最下層単分子膜は、有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成され、第2層の単分子膜は、有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)から形成されていることが好ましい。
また例えば、3層累積膜の最下層単分子膜は有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成され、第2層の単分子膜は有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成され、第3層の単分子膜は有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。
【0146】
また例えば、半導体層が2〜20層の累積膜である場合、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。このとき、全ての単分子膜を構成する同一の有機化合物(I)は有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にチオフェン系化合物誘導体、ペリレン誘導体、ペンタセン誘導体に由来の基であることが好ましい(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)。
【0147】
半導体層が単一単分子膜または単分子累積膜のいずれの構造を有する場合であっても、各単分子膜にはドーパントが添加されていてもよい。ドーパントとしては有機薄膜トランジスタの分野で公知のものが使用可能であり、例えば、ハロゲン、ヨウ素、アルカリ金属等が挙げられる。
【0148】
本発明のトランジスタにおける半導体層において有機化合物(I)を用いて形成された単分子膜は直下の膜と化学結合を介して結合されている。特に、単分子累積膜の全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている場合は、全ての単分子膜が直下の膜と化学結合を介して結合されている。
【0149】
トランジスタの半導体層において有機化合物(I)を含まない単分子膜はいかなる有機化合物からなっていてもよく、例えば、上記有機化合物(I)の説明で例示した有機基Bを誘導し得るπ電子共役性骨格含有分子からなっていてよい。
【0150】
半導体層の製造方法として、有機化合物(I)からなる単分子膜は前記有機薄膜の形成方法と同様の方法を採用して形成すればよい。有機化合物(I)を含まない単分子膜はスピンコート、キャスト、ディップコート、LB等の方法を採用して形成すればよい。半導体層を構成する各単分子膜の膜厚は分子長に依存するため一概に規定できないが、4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0151】
ゲート絶縁膜が単一単分子膜の構造を有する場合、当該単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている。単一単分子膜は上記範囲内の有機化合物(I)から形成されている限り特に制限されないが、上記の中でも、有機基Bが直鎖状飽和脂肪族化合物である有機化合物(I)から形成されていることが好ましい。このときA〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい。そのような単一単分子膜は基板と化学結合を介して結合されている。
ゲート絶縁膜が単分子累積膜の構造を有する場合、単分子膜の累積数は特に制限されないが、通常2〜20層、好ましくは2〜10である。
また例えば、ゲート絶縁膜が2〜20層の累積膜である場合、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。
本発明のトランジスタにおけるゲート絶縁膜において有機化合物(I)を用いて形成された単分子膜は直下の膜と化学結合を介して結合されている。特に、単分子累積膜の全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている場合は、全ての単分子膜が直下の膜と化学結合を介して結合されている。
ゲート絶縁膜の製造方法として、有機化合物(I)からなる単分子膜は前記有機薄膜の形成方法と同様の方法を採用して形成すればよい。有機化合物(I)を含まない単分子膜はスピンコート、キャスト、ディップコート、LB等の方法を採用して形成すればよい。ゲート絶縁膜を構成する各単分子膜の膜厚は分子長に依存するため一概に規定できないが、4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0152】
基板25、ゲート電極24、ゲート絶縁膜23、ソース電極21およびドレイン電極22は従来から有機トランジスタの分野で使用されている公知の材料が使用可能である。
詳しくは、基板は、例えば、Siウエハー、ガラス等からなっている。
ゲート絶縁膜は、例えば、酸化シリコン、チッ化シリコン、酸化アルミニウム等からなり、蒸着、CVD等の方法によって形成可能である。ゲート絶縁膜の膜厚は特に制限されないが、通常、50〜1000nmから選択される。
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極はそれぞれ独立して、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル等の金属からなり、蒸着、CVD、スパッタ等の方法によって形成可能である。これらの電極の膜厚は特に制限されないが、通常、それぞれ独立して10〜100nmから選択される。
【0153】
(有機光電変換素子)
有機光電変換素子は図7に示すように、透明電極31と対向電極32との間に有機層35を有してなり、本発明においては該有機層35が前記有機化合物(I)を用いて形成された有機薄膜である。
【0154】
すなわち、有機層35は少なくとも光導電層33および34からなり、光導電層35は変換効率向上の観点から、図7に示すように、n型光導電層として機能する電子受容体層33およびp型光導電層として機能する電子供与体層34からなっていることが好ましい。
本発明の光電変換素子において有機層35を構成し得るn型光導電層33およびp型光導電層34はそれぞれ単一単分子膜または単分子累積膜のいずれの構造を有してもよく、有機層35は全体として単分子累積膜の構造を有する。本発明においては有機層を構成する少なくとも1の単分子膜、好ましくは全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている。
【0155】
詳しくは、n型光導電層33は単一単分子膜の構造を有し、有機基Bがペリレン誘導体、ペリノン誘導体、ナフタレン誘導体、フッ素置換された単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にペリレン誘導体、フッ素置換されたオリゴチオフェン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。n型光導電層33が単分子累積膜の構造を有する場合は当該累積膜を構成する全ての単分子膜が、単一単分子膜の構造を有する場合の上記好ましい有機化合物(I)から形成されていることが好ましく、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。n型光導電層の厚みは特に制限されないが、4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0156】
p型光導電層34は単一単分子膜の構造を有し、有機基Bが、単環系芳香族化合物、単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にフェニレン系化合物誘導体、チオフェン系化合物誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。p型光導電層34が単分子累積膜の構造を有する場合は当該累積膜を構成する全ての単分子膜が、単一単分子膜の構造を有する場合の上記好ましい有機化合物(I)から形成されていることが好ましく、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。p型光導電層の厚みは特に制限されないが、4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0157】
本発明の光電変換素子における有機層35において有機化合物(I)を用いて形成された単分子膜は直下の膜または電極と化学結合を介して結合されている。特に、全ての層における全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている場合は、全ての単分子膜が直下の膜または電極と化学結合を介して結合されている。
【0158】
光電変換素子の有機層において有機化合物(I)を含まない単分子膜はいかなる有機化合物からなっていてもよく、例えば、上記有機化合物(I)の説明で例示した有機基Bを誘導し得るπ電子共役性骨格含有分子からなっていてよい。
【0159】
光電変換素子の製造方法として、有機層35を構成する単分子膜のうち有機化合物(I)からなる単分子膜は前記有機薄膜の形成方法と同様の方法を採用して形成すればよい。有機化合物(I)を含まない単分子膜はスピンコート、キャスト、ディップコート、LB等の等の方法を採用して形成すればよい。
【0160】
透明電極31および対向電極32は従来から光電変換素子の分野で使用されている公知の材料が使用可能である。
透明電極は、例えば、ガラス、プラスチックにITOのような導電性金属酸化物を被覆したもの)が好ましい。
対向電極は、例えば、(白金、金、アルミニウム等の金属、ITO等の導電性の金属酸化物)が好ましい。
透明電極および対向電極の厚みは特に制限されないが、通常、それぞれ独立して50〜1000nmである。
【0161】
(有機EL素子)
有機EL素子は図8に示すように、陽極41と陰極42との間に有機層48を有してなり、本発明においては該有機層48が前記有機化合物(I)を用いて形成された有機薄膜である。
【0162】
すなわち、有機層48は少なくとも発光層43からなり、所望により該発光層43に隣接して形成される電子輸送層45および正孔輸送層44を有してもよい。また有機層48は発光効率向上の観点から、陽極41と正孔輸送層44との間に正孔注入層(図示せず)、陰極42と電子輸送層45との間に電子注入層(図示せず)を有してもよい。
本発明のEL素子において有機層48を構成し得る発光層43、電子輸送層45、正孔輸送層44、正孔注入層および電子注入層はそれぞれ単一単分子膜または単分子累積膜のいずれの構造を有してもよく、有機層48は全体として単分子累積膜の構造を有する。本発明においては有機層を構成する少なくとも1の単分子膜、好ましくは全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている。
【0163】
詳しくは、発光層43は正孔輸送層44から注入された正孔、電子輸送層45から注入された電子が移動し、正孔と電子が再結合して発光する機能を有する層である。そのような発光層43は単一単分子膜の構造を有し、有機基Bが縮合系芳香族化合物、オリゴチオフェン誘導体、特に縮合系芳香族化合物に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。発光層が単分子累積膜の構造を有する場合は当該累積膜を構成する全ての単分子膜が、単一単分子膜の構造を有する場合の上記好ましい有機化合物(I)から形成されていることが好ましく、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。発光層の厚みは特に制限されないが、4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0164】
正孔輸送層44および正孔注入層は陽極41から発光層43への正孔注入効率を高めるとともに、陽極41へ電子が抜け出ることを防ぐ機能を有する層である。そのような正孔輸送層44および正孔注入層はそれぞれ、単一単分子膜の構造を有し、有機基Bが単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にフェニレン系化合物誘導体、チオフェン系化合物誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。正孔輸送層44および正孔注入層が単分子累積膜の構造を有する場合は当該累積膜を構成する全ての単分子膜が、単一単分子膜の構造を有する場合の上記好ましい有機化合物(I)から形成されていることが好ましく、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。正孔輸送層および正孔注入層の厚みは特に制限されないが、それぞれ独立して4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0165】
電子輸送層45および電子注入層は陰極42から発光層43への電子注入効率を高める機能を有する層である。そのような電子輸送層45および電子注入層はそれぞれ、単一単分子膜の構造を有し、有機基Bがペリレン誘導体、ペリノン誘導体、ナフタレン誘導体、フッ素置換された単環系複素環化合物、縮合系芳香族化合物またはそれらの化合物が2個以上結合した化合物、特にペリレン誘導体、フッ素置換されたオリゴチオフェン誘導体に由来の基である有機化合物(I)(A〜Aは特に制限されず、前記と同様であればよい)から形成されていることが好ましい。電子輸送層45および電子注入層が単分子累積膜の構造を有する場合は当該累積膜を構成する全ての単分子膜が、単一単分子膜の構造を有する場合の上記好ましい有機化合物(I)から形成されていることが好ましく、全ての単分子膜が同一の有機化合物(I)から形成されていてもよい。電子輸送層および電子注入層の厚みは特に制限されないが、それぞれ独立して4〜300nm、特に4〜100nmが適当である。
【0166】
本発明のEL素子における有機層48において有機化合物(I)を用いて形成された単分子膜は直下の膜または電極と化学結合を介して結合されている。特に、全ての層における全ての単分子膜が有機化合物(I)を用いて形成されている場合は、全ての単分子膜が直下の膜または電極と化学結合を介して結合されている。
【0167】
EL素子の有機層において有機化合物(I)を含まない単分子膜はいかなる有機化合物からなっていてもよく、例えば、上記有機化合物(I)の説明で例示した有機基Bを誘導し得るπ電子共役性骨格含有分子からなっていてよい。
【0168】
EL素子の製造方法として、有機層48を構成する単分子膜のうち有機化合物(I)からなる単分子膜は前記有機薄膜の形成方法と同様の方法を採用して形成すればよい。有機化合物(I)を含まない単分子膜はスピンコート、キャスト、ディップコート、LB等の等の方法を採用して形成すればよい。
【0169】
陽極41には、正孔注入能が高い、仕事関数の比較的大きな金属や合金の電気伝導性化合物が用いられる。このような化合物の例として、金、ヨウ化銅、酸化スズ、ITOなどがある。このうち、可視光領域で透過率の高い物質が好ましく、特にITOが最も好ましい。
陰極42には仕事関数の比較的小さな金属や合金(例えば、4eV以下)が用いられる。このような化合物の例として、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびガリウム、インジウムなどの第III族金属が挙げられるが、安価で比較的化学的に安定なマグネシウムが最も広く用いられる。マグネシウムは酸化されやすいので、酸化防止剤を混合したものがさらに好ましい。
陽極および陰極の厚みは特に制限されないが、それぞれ独立して10nm〜5μmであることが好ましい。
【実施例】
【0170】
実験例1
<合成例1:前記一般式(a1)で表されるジシリル化クォーターチオフェン(以下、チオフェン(a1)という)の合成>
【化21】

【0171】
2,2’−ビチオフェン(492−97−7)をクロロ化させるために、酢酸中、NBS及びクロロホルムで処理し、クロロ化を行った(中間体1)。クロロ化したビチオフェン同士を、DMF溶媒中でトリス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(tris(triphenylphosphine)Nickel:(PPh)3Ni)を触媒として反応させることによって、クロロ化させた部分でビチオフェン同士を直接結合させて、クォーターチオフェンを合成した。
【0172】
1リットルガラスフラスコに、乾燥窒素気流下で、1当量のクォーターチオフェン、1当量のトリエトキシブロモシラン、(ヘキサン/ジエチルエーテル)混合溶液300mlを仕込み、1当量のt−ブチルリチウムを−78℃にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後一度室温まで温めてから、−196℃に再度冷却した。反応溶液を蒸留して、トリエトキシシリル化したクォーターチオフェンの無色液体を留分として得た。
得られたトリエトキシシリル化したクォーターチオフェンをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で1当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて12時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−78℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、さらに6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過により(a1)を得た。
【0173】
得られたチオフェン(a1)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
7.00ppm(m,8H,CS)
3.83ppm(m,6H,C
1.22ppm(m,9H,C
UV−Vis: 400nm(CS)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(a1)の構造を有することを確認した。
【0174】
<合成例2:前記一般式(a3)で表されるジシリル化ヘキシチオフェン(以下、チオフェン(a3)という)の合成>
合成例1で示した手法を用いて、ビチオフェンの2段階カップリングによりヘキシチオフェンの合成を行った。
【化22】

【0175】
1リットルガラスフラスコに、乾燥窒素気流下で、1当量のヘキシチオフェン、1当量のトリエトキシブロモシラン、(ヘキサン/ジエチルエーテル)混合溶液300mlを仕込み、1当量のt−ブチルリチウムを−80℃にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後一度室温まで温めてから、−180℃に再度冷却した。反応溶液を蒸留して、トリエトキシシリル化したヘキシチオフェンの無色液体を留分として得た。
得られたトリエトキシシリル化したヘキシチオフェンをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で1当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて20時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−80℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、さらに6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過により(a3)を得た。
【0176】
得られたチオフェン(a3)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
7.00ppm(m,12H,CS)
3.83ppm(m,6H,OC
1.22ppm(m,9H,OC
UV−Vis: 439nm(CS)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(a3)の構造を有することを確認した。
【0177】
<実施例1:チオフェン(a1)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(a3)の単分子膜のみからなる単一膜、及びチオフェン(a1)の単分子膜およびチオフェン(a3)の単分子膜からなる2層累積化膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(4)を実施することで、標記の単分子膜ならびに2層累積膜を形成した。
【0178】
工程(1);
まず、チオフェン(a1)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、チオフェン(a1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、チオフェン(a1)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、チオフェン(a1)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a1)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0179】
工程(3);
別に、チオフェン(a3)を用い、トリクロロシシリル基の加水分解反応としてpH=7、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、チオフェン(a3)の単分子膜を調製した。次にトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応として、pH=2、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a3)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0180】
工程(4);
次に、チオフェン(a3)の0.2mMトルエン溶液をpH=5の水面上に展開し、LB法によって、上記プロセスで調製したチオフェン(a1)の単分子膜上に製膜し、累積膜を形成した。pH=5の条件下で行うことで、吸着反応はチオフェン(a1)のシロキサンネットワークに供されなかったシラノール基(水酸基)およびチオフェン(a3)のトリクロロシリル基の加水分解反応および縮合反応により進行する。さらに、トリエトキシシリル基の加水分解反応として、pH=2、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した累積膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0181】
膜評価
[膜厚確認]
チオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さは0.39nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はクォーターチオフェンおよびヘキシチオフェンの分子長の和に相当する6nm程度であった。このことから、膜厚の均一な単分子2層膜が調製できていることが判った。
【0182】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、チオフェン(a1)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(a3)の単分子膜のみからなる単一膜及びチオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、チオフェン(a1)の単分子膜では400nm付近に、チオフェン(a3)の単分子膜では440nm付近に、チオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜では400及び440nm付近にそれぞれピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0183】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、チオフェン(a1)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(a3)の単分子膜のみからなる単一膜、及びチオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、チオフェン(a1)の単分子膜では0.40及び0.34nmの面間隔に相当する回折スポット、チオフェン(a3)の単分子膜では0.42及び0.36nmの面間隔に相当する回折スポット、チオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜では0.40及び0.34nm、0.42及び0.36nmの面間隔に相当する回折スポットがそれぞれ観測された。これより、それぞれの単一膜だけでなく単分子2層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0184】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、チオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、チオフェン(a1)単分子膜、チオフェン(a3)単分子膜、及びチオフェン(a1)及びチオフェン(a3)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、それぞれ1290cm−1,1280cm−1,1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a1)単分子膜、チオフェン(a3)単分子膜、及びチオフェン(a1)及びチオフェン(a3)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0185】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a1)単分子膜、チオフェン(a3)単分子膜、及びチオフェン(a1)及びチオフェン(a3)からなる2層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ22°、23°、25°であった。
【0186】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、上記のチオフェン(a1)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(a3)の単分子膜のみからなる単一膜、及びチオフェン(a1)および(a3)の単分子2層膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、単分子膜及び2層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0187】
<実施例2:チオフェン(a1)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜の製造>
工程(1);
まず、チオフェン(a1)の0.01mMトルエン溶液に、実施例1で示した方法で調整した親水性基板を室温で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリクロロシリル基が反応し、チオフェン(a1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、チオフェン(a1)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、チオフェン(a1)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a1)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0188】
工程(3);
次に、チオフェン(a1)の0.01mMトルエン溶液に、上記工程(2)でチオフェン(a1)単分子膜を形成した基板を50℃で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリクロロシリル基が反応し、最下層の単分子膜上に第2層目のチオフェン(a1)単分子膜を調製した。さらに、トリエトキシシリル基の加水分解反応として、pH=2、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0189】
工程(4);
さらに、前記した第2番目の単分子膜形成のための工程(3)を、3度繰り返して行うことで、チオフェン(a1)の単分子膜が5層積層されてなる5層累積膜を調製した。
【0190】
膜評価
[膜厚確認]
チオフェン(a1)の2層〜5層累積膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。
膜の2乗平均粗さは0.42nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚は2層膜で5nm、3層膜で7.5nm、4層膜で10nm、5層膜で12.5nmであり、それぞれクォーターチオフェンの分子長の累積数倍に相当した。このことから、膜厚の均一な単分子2層膜が調製できていることが判った。
【0191】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、チオフェン(a1)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、いずれの膜も350nm付近にピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0192】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、チオフェン(a1)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜でも0.40及び0.34nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、単一膜だけでなく2層〜5層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0193】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、チオフェン(a1)の2層〜5層累積膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、いずれも1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0194】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a1)の単分子膜および2層〜5層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ22°、22°、23°、23°、25°であった。
【0195】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、チオフェン(a1)の単分子膜および2層〜5層累積膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、チオフェン(a1)の単分子膜および2層〜5層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0196】
[電気特性確認]
面内電気AFM測定に基づいて、単一膜および2層〜5層累積膜の電気特性を評価した。図4は測定系の概略図である。基板として、金/クロムを数10nm蒸着させて作製したくし歯型形状の電極を有するマイカを用いて、電気特性を評価した。図中、10はSPM装置系のピエゾ素子、11はカンチレバー、12は単一膜または累積膜、13は金/クロム電極、14はマイカ基板、15は電流計測定手段である。
面内方向における電極界面からの電流特性は、累積数が増大するにしたがい良好な傾向を示し、単一膜では約10−4S・cm−1であったのに対し、5層累積膜では約40−3S・cm−1と大きな値を示した。これより、配向性の高い累積膜を調製することによって電気特性を向上させることができ、本発明の化合物を用いた単分子膜の累積化は有機デバイスの高性能化のための膜厚制御に有用な知見を与えることができる。
【0197】
実験例2;
<合成例3:前記一般式(b2)で表されるジシリル化ターフェニル(以下、ターフェニル(b2)という)の合成>
1リットルガラスフラスコに、乾燥窒素気流下で、1当量のターフェニル、1当量のトリエトキシブロモシラン、クロロホルム溶液300mlを仕込み、1当量のt−ブチルリチウムを−78℃にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後一度室温まで温めてから、−196℃に再度冷却した。反応溶液を蒸留して、トリエトキシシリル化したターフェニルの無色液体を留分として得た。
【0198】
得られたトリエトキシシリル化したターフェニルをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で一当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて12時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−78℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、さらに6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過によりターフェニル(b2)を得た。
【0199】
得られたターフェニル(b2)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
7.30〜7.54ppm(m,12H,C
1.49ppm(m,6H,C
0.90ppm(m,9H,C
UV−Vis: 261nm(Ph)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(b2)の構造を有することを確認した。
【0200】
<合成例4:前記一般式(b8)で表されるジシリル化ターフェニル(以下、ターフェニル(b8)という)の合成>
【化23】

【0201】
1リットルガラスフラスコに、乾燥窒素気流下で、1当量のターフェニル、1当量のトリ−t−ブトキシブロモシラン、クロロホルム混合溶液300mlを仕込み、1当量のt−ブチルリチウムを−78℃にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後一度室温まで温めてから、−190℃に再度冷却した。反応溶液を蒸留して、トリ−t−ブトキシシリル化したターフェニルの無色液体を留分として得た。
【0202】
得られたトリ−t−ブトキシシリル化したターフェニルをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で一当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて12時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−80℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、さらに6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過によりターフェニル(b8)を得た。
【0203】
得られたターフェニル(b8)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
7.30〜7.54ppm(m,12H,C
3.83ppm(m,6H,C
1.32ppm(m,6H,OC
1.22ppm(m,9H,C
UV−Vis: 259nm(Ph)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(b8)の構造を有することを確認した。
【0204】
<実施例3:ターフェニル(b2)の単分子膜のみからなる単一膜、ターフェニル(b8)の単分子膜のみからなる単一膜、及びターフェニル(b2)の単分子膜およびターフェニル(b8)の単分子膜からなる2層累積化膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(4)を実施することで、標記の単分子膜ならびに2層累積膜を形成した。
【0205】
工程(1);
まず、ターフェニル(b2)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、ターフェニル(b2)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ターフェニルを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、ターフェニル(b2)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、ターフェニル(b2)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したターフェニル(b2)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ターフェニルを除去した。
【0206】
工程(3);
別に、ターフェニル(b8)を用い、トリエトキシシリル基の加水分解反応としてpH=2、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、ターフェニル(b8)の単分子膜を調製した。次にトリブトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応として、pH=1、水温50℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成したターフェニル(b8)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ターフェニルを除去した。
【0207】
工程(4);
次に、ターフェニル(b8)の0.2mMトルエン溶液をpH=2の水面上に展開し、LB法によって、上記プロセスで調製したターフェニル(b2)の単分子膜上に製膜し、累積膜を形成した。pH=2の条件下で行うことで、吸着反応はターフェニル(b2)のシロキサンネットワークに供されなかったシラノール基(水酸基)およびターフェニル(b8)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応により進行する。さらに、トリブトキシシリル基の加水分解反応として、pH=1、水温50℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した累積膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ターフェニルを除去した。
【0208】
膜評価
[膜厚確認]
ターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さは0.35nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はターフェニル2分子分の分子長に相当する2.8nm程度であった。このことから、膜厚の均一な単分子2層膜が調製できていることが判った。
【0209】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、ターフェニル(b2)の単分子膜のみからなる単一膜、ターフェニル(b8)の単分子膜のみからなる単一膜及びターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、ターフェニル(b2)の単分子膜では260nm付近に、ターフェニル(b8)の単分子膜では260nm付近に、ターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜では260nm付近にそれぞれピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0210】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、ターフェニル(b2)の単分子膜のみからなる単一膜、ターフェニル(b8)の単分子膜のみからなる単一膜、及びターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、ターフェニル(b2)の単分子膜では0.41及び0.35nmの面間隔に相当する回折スポット、ターフェニル(b8)の単分子膜でも0.41及び0.35nmの面間隔に相当する回折スポット、ターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜では0.41及び0.35nmの面間隔に相当する回折スポットがそれぞれ観測された。これより、それぞれの単一膜だけでなく単分子2層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0211】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、ターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、ターフェニル(b2)単分子膜、ターフェニル(b8)単分子膜、及びターフェニル(b2)及びターフェニル(b8)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、それぞれ1285cm−1、1285cm−1、1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、膜表面にシロキサンネットワークを形成したターフェニル(b2)単分子膜、ターフェニル(b8)単分子膜、及びターフェニル(b2)及びターフェニル(b8)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0212】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したターフェニル(b2)単分子膜、ターフェニル(b8)単分子膜、及びターフェニル(b2)及びターフェニル(b8)からなる2層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ24°、26°、28°であった。
【0213】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、上記のターフェニル(b2)の単分子膜のみからなる単一膜、ターフェニル(b8)の単分子膜のみからなる単一膜、及びターフェニル(b2)および(b8)の単分子2層膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、単分子膜及び2層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0214】
<実施例4:有機薄膜トランジスタの作製及び電気特性の評価>
図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを作製した。
まずシリコン基板25上にクロム/金を蒸着し、ゲート電極24を作製した。次に、化学気相吸着法により酸化シリコン膜によるゲート絶縁膜23を堆積した。さらに、クロム/金をマスクをかけて蒸着し、ソース電極21及びドレイン電極22を作製した。
作製した電極付の基板に対して紫外光照射を行い、ゲート絶縁膜23表面に親水化処理を施した。得られた基板を用いたこと以外、実施例3と同様の方法により、ターフェニル(b5)および(b8)の単分子膜からなる2層累積化膜を調製し、図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを得た。
トランジスタの電気特性を評価するために、電界効果移動度およびオン/オフ比を測定した。種々の負のゲート電圧を印加しながらソース/ドレイン間の電圧を変化させて流れる電流量を(4155A;HP社製)計測した。その結果、電界効果移動度は約4x10−2cm−1−1であり、またオン/オフ比は5桁程度であることが判明した。以上の結果から、種類の異なるπ電子共役系有機化合物を用いた単分子累積膜は、膜の均一性、配向性、結晶性さらには電気特性の向上の効果が認められた。
【0215】
<比較例1>
ターフェニル(b5)およびターフェニル(b8)の代わりにターフェニリルトリエトキシシランを用いたこと以外、実施例4と同様の方法でトランジスタを作製した。
得られたトランジスタの電気特性を実施例4と同様の方法で評価した。その結果、電界効果移動度は約1x10−2cm−1−1であり、またオン/オフ比は4桁程度であり、実施例4のトランジスタが電気特性に著しく優れていることが判った。
【0216】
実験例3
<合成例5:前記一般式(c1)で表されるジシリル化アントラセン(以下、アントラセン(c1)という)の合成>
【化24】

【0217】
アントラセン(120−12−7)は東京化成より入手した。
【0218】
シランカップリング反応
窒素雰囲気下、100mlナスフラスコに四塩化炭素50mLに溶解させた1当量のアントラセン及びNBSを加え、AIBN存在下で1.5時間反応させた。未反応物及びHBrをろ過により除去した後、カラムクロマトグラフを用いて、1箇所のみがブロモ化された貯留物を取り出し、カラムクロマトグラフにより精製することにより、表記の1−ブロモアントラセンを得た。
1当量の1−ブロモアントラセンを30mlのTHF溶液に溶解させて、1当量のn−BuLiを0℃にて10時間かけてゆっくり滴下した。混合溶液を4時間攪拌した後に、室温まで温めた。反応生成してできた深緑溶液を、室温にて1当量のテトラエトキシシランのTHF溶液に滴下し、15時間還流し混合させた。次いで、反応液を減圧ろ過して、未反応のテトラエトキシシラン、n−BuLiを除去した後、1−トリエトキシシリルアントラセンを得た。
1当量の1−トリエトキシシリルアントラセンを30mlのTHF溶液に溶解させて、1当量のn−BuLiを0℃にて10時間かけてゆっくり滴下した。混合溶液を4時間攪拌した後に、室温まで温めた。反応生成してできた深緑溶液を、室温にて1当量のテトラクロロシランのTHF溶液に滴下し、15時間還流し混合させた。次いで、反応液を減圧ろ過して、未反応のテトラエトキシシラン、n−BuLiを除去した後、カラムクロマトグラフにより精製することにより、アントラセン(c1)を得た。
【0219】
得られたアントラセン(c1)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
8.30〜7.40ppm(m,8H,C14
3.83ppm(m,6H,OC
1.22ppm(m,9H,OC
UV−Vis: 375nm(C14
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(c1)の構造を有することを確認した。
【0220】
<合成例6:一般式(f1)で表されるフッ化ターチオフェン(以下、フルオロターチオフェン(f1)という)の合成>
【化25】

【0221】
全ての反応は窒素雰囲気下で行った。1当量のチオフェンを触媒として亜鉛を混合した酢酸溶液中で、臭素と還流させながら混合させることで、2,3,4,5−テトラブロモチオフェンを調製した。次に、マグネシウムとトリメトキシクロロシランを(2,3,4,5−テトラブロモチオフェン:マグネシウム:トリメトキシクロロシラン=1:2.5:2.5)のモル比となる量のTHF溶液中に混合し、4日間超音波洗浄をかけた。得られた2,5−ジトリメトキシシリル−3,4−ジブロモチオフェンをフェニルスルフォニルフッ化窒素((PhSONF)、n−ブチルリチウムのTHF溶液中に混合させて、−78℃にて反応させ、ジブロモをジフルオロ化した。反応後の生成物を、80℃の酢酸中、NBSで処理し、トリメトキシシリル基のブロモ化を行った(中間体1)。また、2,5−ジトリメトキシシリル−3,4−ジフルオロチオフェンを−78℃にて、n−ブチルリチウム、(PhSONF、トリブチル塩化スズ(BuSnCl)で処理して2位のトリメトキシシリル基のフルオロ化反応を行い、2,3,4−トリフルオロ−5−トリメトキシシリル−チオフェン(中間体2)を得た。中間体1および2をPdCl(PPhおよびDMFからなる混合液中、80℃で反応させて、2−トリメトキシシリル−3,4,7,8,9−ペンタフルオロ−ビチオフェンを得た。得られた生成物と中間体1を前記と同様の反応機構で反応させることで、両末端がトリメトキシシリル基となるターチオフェンを合成した。このターチオフェンを、THF溶液中に混合させて、ドライアイス/アセトンバスで−78℃まで冷却した後、トリフルオロアセテート銀を2当量滴下して、溶解させるために5分間攪拌を行った。次に、2当量のヨウ素を溶解させたTHF溶液を滴下してから、8時間、−78℃で攪拌し、室温まで温めて、2−トリメトキシシリル−3,4,7,8,11,12−セクシフルオロ−13−ヨード−ターチオフェンを得た。得られた生成物1当量を30mlのTHF溶液に溶解させて、1当量のn−BuLiを0℃にて10時間かけてゆっくり滴下した。混合溶液を4時間攪拌した後に、室温まで温めた。反応生成してできた溶液を、室温にて1当量のテトラクロロシランのTHF溶液に滴下し、15時間還流し混合させた。次いで、反応液を減圧ろ過して、未反応の2−トリメトキシシリル−3,4,7,8,11,12−セクシフルオロ−13−ヨード−ターチオフェン、n−BuLiを除去した後、カラムクロマトグラフにより精製することにより、フルオロターチオフェン(f1)を得た。
【0222】
得られたフルオロターチオフェン(f1)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
1.49ppm(m,9H,CH
UV−Vis: 365nm(CS)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(f1)の構造を有することを確認した。
【0223】
<実施例5:アントラセン(c1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアントラセン(c1)の単分子膜およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子膜からなる2層累積化膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(4)を実施することで、標記の単分子膜ならびに2層累積膜を形成した。
【0224】
工程(1);
まず、アントラセン(c1)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、アントラセン(c1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、アントラセン(c1)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、アントラセン(c1)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したアントラセン(c1)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0225】
工程(3);
別に、フルオロターチオフェン(f1)を用い、トリクロロシシリル基の加水分解反応としてpH=7、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜を調製した。次にトリメトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応として、pH=3、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成したフルオロターチオフェン(f1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0226】
工程(4);
次に、フルオロターチオフェン(f1)の0.2mMトルエン溶液をpH=4の水面上に展開し、LB法によって、上記プロセスで調製したアントラセン(c1)の単分子膜上に製膜し、累積膜を形成した。pH=4の条件下で行うことで、吸着反応はアントラセン(c1)のシロキサンネットワークに供されなかったシラノール基(水酸基)およびフルオロターチオフェン(f1)のトリクロロシリル基の加水分解反応および縮合反応により進行する。さらに、トリメトキシシリル基の加水分解反応として、pH=3、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した累積膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0227】
膜評価
[膜厚確認]
アントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さは0.36nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はアントラセンおよびターチオフェンの分子長の和に相当する3.2nm程度であった。このことから、膜厚の均一な単分子2層膜が調製できていることが判った。
【0228】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、アントラセン(c1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜及びアントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、アントラセン(c1)の単分子膜では365nm付近に、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜では375nm付近に、アントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜では365及び375nm付近にそれぞれピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0229】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、アントラセン(c1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、アントラセン(c1)の単分子膜では0.42及び0.32nmの面間隔に相当する回折スポット、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜では0.45及び0.37nmの面間隔に相当する回折スポット、アントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜では0.42及び0.32nm、0.45及び0.37nmの面間隔に相当する回折スポットがそれぞれ観測された。これより、それぞれの単一膜だけでなく単分子2層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0230】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、アントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、アントラセン(c1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアントラセン(c1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、それぞれ1288cm−1、1280cm−1、1285cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、膜表面にシロキサンネットワークを形成したアントラセン(c1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアントラセン(c1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0231】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したアントラセン(c1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアントラセン(c1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ21°、23°、22°であった。
【0232】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、上記のアントラセン(c1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、単分子膜及び2層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0233】
<実施例6:有機光電変換素子の作製及び電気特性の評価>
ITO基板を陽極として用いて、基板表面を紫外光照射によって親水化処理したものに、実施例5で示したアントラセン(c1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子の累積膜をITO基板にp型のアントラセン(c1)、その膜上にn−型のフルオロターチオフェン(f1)膜が吸着するようにLB法により調製した。このITOガラス/(c1)/(f1)膜の上に金を10−3の真空度で40nmの厚さ蒸着し、有効面積20x10mmの光電変換素子セルを得た。得られた光電変換素子セルのITO電極側から500Wのキセノンランプの光を照射して、開放電圧Vo、短絡電流Io、フィルファクタFFおよび光電変換効率μを測定した。結果、それぞれの値は80mV、44μA/cm、0.45及び4.3%であった。
【0234】
<比較例2>
アントラセン(c1)の代わりに末端シリル基を有していないアントラセンを、フルオロターチオフェン(f1)の代わりに末端シリル基を有していないフルオロターチオフェンを用いたこと以外、実施例6と同様の方法で光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の電気特性を実施例6と同様の方法で評価した。その結果、Voc、Io、FF及びμの値はそれぞれ、45mV、13μA/cm、0.13および1.1%であり、実施例6の光電変換素子が電気特定に著しく優れていることが判った。
【0235】
実験例4
<合成例7:前記一般式(d1)で表されるジシリル化アルカン(以下、アルカン(d1)という)の合成>
【化26】

【0236】
オクタデシルトリエトキシシラン(OTES、CAS No.7399−00−0)を東京化成より購入した。購入したOTESを用いてアルカン(d1)を合成した。
OTESをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で1当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて12時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−78℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、更に6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過によりアルカン(d1)を得た。
【0237】
得られたアルカン(d1)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
3.83ppm(m,6H,C
1.3ppm(m,4H,C1836
1.29ppm(m,30H,C1836
1.22ppm(m,9H,C
0.58ppm(m,2H,C1836
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(d1)の構造を有することを確認した。
同様の方法を用いて炭素数19〜36の長鎖アルカンのジシリル化が行えることを確認した。
【0238】
<実施例7:アルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアルカン(d1)の単分子膜およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子膜からなる2層累積化膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(4)を実施することで、標記の単分子膜ならびに2層累積膜を形成した。
【0239】
工程(1);
まず、アルカン(d1)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、アルカン(d1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、アルカン(d1)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、アルカン(d1)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したアルカン(d1)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0240】
工程(3);
別に、フルオロターチオフェン(f1)を用い、トリクロロシシリル基の加水分解反応としてpH=7、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜を調製した。次にトリメトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応として、pH=3、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成したフルオロターチオフェン(f1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0241】
工程(4);
次に、フルオロターチオフェン(f1)の0.2mMトルエン溶液をpH=4の水面上に展開し、LB法によって、上記プロセスで調製したアルカン(d1)の単分子膜上に製膜し、累積膜を形成した。pH=4の条件下で行うことで、吸着反応はアルカン(d1)のシロキサンネットワークに供されなかったシラノール基(水酸基)およびフルオロターチオフェン(f1)のトリクロロシリル基の加水分解反応および縮合反応により進行する。さらに、トリメトキシシリル基の加水分解反応として、pH=3、水温25℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した累積膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0242】
膜評価
[膜厚確認]
アルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さは0.40nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はアルカンおよびターチオフェンの分子長の和に相当する3.6nm程度であった。このことから、膜厚の均一な単分子2層膜が調製できていることが判った。
【0243】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、アルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜及びアルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、アルカン(d1)の単分子膜では吸収は観測されず、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜では375nm付近に、アルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜では375nm付近にそれぞれピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0244】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、アルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、アルカン(d1)の単分子膜では0.42及び0.35nmの面間隔に相当する回折スポット、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜では0.45及び0.37nmの面間隔に相当する回折スポット、アルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜では0.42及び0.35nm、0.45及び0.37nmの面間隔に相当する回折スポットがそれぞれ観測された。これより、それぞれの単一膜だけでなく単分子2層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0245】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、アルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、アルカン(d1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアルカン(d1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、それぞれ1295cm−1、1290cm−1、1285cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、膜表面にシロキサンネットワークを形成したアルカン(d1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアルカン(d1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0246】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したアルカン(d1)単分子膜、フルオロターチオフェン(f1)単分子膜、及びアルカン(d1)及びフルオロターチオフェン(f1)からなる2層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ24°、24°、26°であった。
【0247】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、上記のアルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、フルオロターチオフェン(f1)の単分子膜のみからなる単一膜、及びアルカン(d1)およびフルオロターチオフェン(f1)の単分子2層膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、単分子膜及び2層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0248】
実験例5
<合成例8;アルカン(x1)の合成>
オクタデシルトリエトキシシラン(OTES、CAS No.7399−00−0)を東京化成より購入した。アルカン(x1)とする。
【0249】
【化27】

【0250】
<実施例8:アルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、アルカン(x1)の単分子膜のみからなる単一膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(3)を実施することで、標記の単分子膜を形成した。
【0251】
工程(1);
まず、アルカン(d1)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、アルカン(d1)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応アルカンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、アルカン(d1)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、アルカン(d1)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したアルカン(d1)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応アルカンを除去し、純水により洗浄した。
【0252】
工程(3);
別に、アルカン(x1)を用い、トリエトキシシシリル基の加水分解反応としてpH=7、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、アルカン(x1)の単分子膜を調製した。上記工程(2)と同様の方法による操作は行わなかった。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応アルカンを除去した。
【0253】
膜評価
[膜厚確認]
アルカン(d1)の単分子膜およびアルカン(x1)の単分子膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により、膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はいずれもアルカンの分子長に相当する2.4nm程度であった。このことから、膜厚の均一な膜が調製できていることが判った。
また原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400:セイコーインスツルメンツ社製)により、アルカン(d1)単分子膜及びアルカン(x1)単分子膜の表面形状を10μmサイズで観察したところ、表面の凹凸を示す2乗平均粗さ(RMS)は、アルカン(d1)単分子膜で0.33nm、アルカン(x1)単分子膜で0.46nmであり、アルカン(d1)単分子膜の方が平滑性の高い膜が得られることが判った。
【0254】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、アルカン(d1)の単分子膜のみからなる単一膜、アルカン(x1)の単分子膜のみからなる単一膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜も0.42及び0.35nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、いずれの膜も結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
膜の安定性を電子線照射による回折スポットの消失により評価した。アルカン(x1)単分子膜は1分程度の電子線照射によって回折スポットが消失し、膜の構造が破壊されたのに対して、アルカン(d1)単分子膜では、5分以上電子線を照射しても回折スポットが観測された。これは、アルカン(d1)単分子膜では膜の強度が向上していることを示し、膜の基板側および表面側でシロキサンネットワークが形成されている効果であるといえる。
【0255】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。
まず、アルカン(d1)単分子膜のpH処理前において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
また、アルカン(d1)単分子膜のpH処理後において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
一方、アルカン(x1)単分子膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は測定されなかった。
【0256】
純水による静的接触角測定を行ったところ、アルカン(d1)単分子膜が24°で、アルカン(x1)単分子膜が90°であった。アルカン(d1)単分子膜表面は、シロキサンネットワーク形成によって親水性を示していることが判った。
【0257】
これらのことよりアルカン(d1)単分子膜は上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、アルカン(d1)単分子膜、及びアルカン(x1)単分子膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。pH処理前のアルカン(d1)単分子膜においてSi(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、アルカン(d1)単分子膜において、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0258】
実験例6
<合成例9:グリニヤール法によるターチオフェン(a2)(トリクロロシラン−ターチオフェン−トリエトキシシラン)の製造>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下で金属マグネシウム2モル、トルエン溶液300mlを仕込み、ターチオフェン0.5モルを10度程度にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後15℃にて4時間熟成させ、グリニヤール試薬を調整した。
【0259】
還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えたフラスコに乾燥アルゴン気流下で、金属マグネシウム2モル、トルエン溶液300ml、テトラエトキシシラン2.0モルそれぞれを仕込み、得られたグリニヤール試薬を0℃に冷却しながら滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後室温にて2時間熟成させた。反応液を減圧ろ過して、マグネシウムを除去した後、トリエトキシシラン−ターチオフェンを得た。
【0260】
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でテトラクロロシラン2.0モル、テトラヒドロフラン(THF)300mlを仕込み、内温25℃以下にて、得られたトリエトキシシラン−ターチオフェンを2時間かけて滴下し、滴下終了後30度にて1時間熟成を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラクロロシランをストリップし、この溶液を蒸留して、前記式(a2)で示される化合物を得た。
【0261】
得られた化合物の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl): 7.63〜7.78ppm(m,CS)
2.20ppm(m,C
以上の測定結果から、この化合物が式(a2)で表されるトリクロロシラン−ターチオフェン−トリエトキシシランであることを確認した。
本合成例は、上記第1の方法で合成を行った。
【0262】
実験例7
<合成例10:トリクロロシラン−ビフェニル−トリメトキシシラン(前記式(b10))の製造>
1−ヨード−4−クロロビフェニルを攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下で金属リチウム2モル、THF300mlを仕込み、0.5モルを、内温−10℃にて12時間かけて滴下し、滴下終了後室温にて4時間かけて熟成させ、4−クロロ−ビフェニルリチウムを得た。
【0263】
攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でテトラクロロシラン3.0モル、THF300mlを仕込み、氷冷し、内温20℃以下にて、得られた4−クロロ−ビフェニルリチウムを2時間かけて滴下し、滴下終了後20℃にて反応させた。次いで、反応液を減圧ろ過し、未反応リチウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラクロロシランを除き、1−トリクロロシラン−4−クロロビフェニルを得た。
【0264】
得られた1−トリクロロシラン−4−クロロビフェニルを再度グリニヤール試薬とするために、同様に金属マグネシウムを、内温10℃にて反応させて、1−トリクロロシラン−4−ビフェニルマグネシウムを合成し、テトラクロロシランと反応させることで式(b10)で示される化合物を得た。
【0265】
得られた化合物の機器分析の結果を示す。
IR: 1590(m),1490(m),1430(m),1120(m),700(s)cm−1(Si−Ph)
UV−Vis: 261nm(Ph)
以上の測定結果から、この化合物が式(b10)で表されるトリクロロシラン−ビフェニル−トリメトキシシランであることを確認した。
本合成例は、上記第2の方法で合成を行った。
【0266】
実験例8
<合成例11:トリエトキシシラン−テトラセン−トリブトキシシラン(前記式(c6))の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下で金属マグネシウム2モル、クロロホルム溶液300mlを仕込み、テトラセン0.5モルを10℃程度にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後15℃にて4時間熟成させ、グリニヤール試薬を調整した。
【0267】
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でテトラブトキシシラン2.0モル、THF300mlを仕込み、内温25℃以下にて、得られたグリニヤール試薬を2時間かけて滴下し、滴下終了後30℃にて1時間熟成を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラブトキシシランから、トリブトキシシラン−テトラセンを得た。
【0268】
還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えたフラスコに乾燥アルゴン気流下で、金属マグネシウム2モル、トルエン溶液300mlを仕込み、得られたトリブトキシシラン−テトラセンを0℃に冷却しながら滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後室温にて2時間熟成させ、中間体を得た。2.0モルのテトラエトキシシラン、THF300mlを仕込み、10℃に冷却しながら、中間体を8時間かけて滴下した。混合物を4時間、10℃でかき混ぜた後室温に温め、更に2時間攪拌を行った。攪拌後、加水分解し、有機層を分離、水洗し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を留去し、残りをシリカゲルカラムで分離することにより式(c6)で示される化合物を得た。
【0269】
得られた化合物の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl): 2.20ppm(m,C
UV−Vis: 400−500nm(テトラセンp帯)、265nm(テトラセンβ帯)
以上の測定結果から、この化合物が式(c6)で表されるトリエトキシシラン−テトラセン−トリブトキシシランであることを確認した。テトラセン以外にもアントラセン、ペンタセン等の他のアセン系化合物においても同様の方法でケイ素化合物を製造できることを確認した。
本合成例は、上記第1の方法で合成を行った。
【0270】
実験例9
<合成例12:n−トリオクチルシラン−クォーターチオフェンートリエトキシシラン(前記式(a13))の製造>
攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でTHF300ml、テトラエトキシシランを仕込み、実験例1と同様にして得たグリニヤール試薬を、内温0℃以下にて12時間かけて滴下し、滴下終了後室温にて4時間かけて熟成させ、トリエトキシシラン−クォーターチオフェンを得た。
【0271】
攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でテトラオクチルシラン2.0モル、THF300mlを仕込み、氷冷し、内温25℃以下にて、グリニヤール試薬を2時間かけて滴下し、滴下終了後30℃にて1時間熟成を行った。次いで、反応液を減圧ろ過し、未反応マグネシウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラオクチルシランを除き、この溶液を除去して式(a13)で示される化合物を得た。
【0272】
得られた化合物の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl): 7.63〜7.78(m,CS)
IR: 2966,2893cm−1(s,C
UV−Vis: 410nm(トルエン溶液)(チオフェン環)
以上の結果から、この化合物が式(a13)で表されるn−トリオクチルシラン−クォーターチオフェン−トリエトキシシランであることが判明した。
【0273】
実験例10
<合成例13>
合成例9及び10に準拠して、トリクロロシラン−クィンケチオフェン−トリエトキシシラン、トリクロロシラン−ヘキシチオフェン−トリエトキシシラン、トリクロロシラン−トリフェニル−トリエトキシシラン、トリオクタデシルシラン−ターフェニル−トリクロロシランも製造できることを確認した。更に、同様に両末端異種官能基を有するベンゼン及びチオフェンが8まで結合したオクタチオフェンやオクタフェニレンを含むケイ素化合物も製造できることを確認した。ベンゼン及びチオフェンが9以上結合した化合物では、原料の入手が困難になり、かつ合成の収率が低下することを確認した。
【0274】
実験例11
<合成例14:トリブトキシシラン−ジベンゾペリレンートリエトキシシラン(前記式(c13))の製造>
ナフタレン(アルドリッチ社)をNaNO−TfOH(Tf=CFSO)溶液中で反応させることでナフタレンからビナフチルを合成した。ビナフチルをLiTHFと酸素バブリング下で反応させて、ペリレンを得た。アルドリッチ社より購入したSbFは、乾燥アルゴン雰囲気で二倍に希釈した。SOClFは、NHFとTFAのハロゲン交換反応によって生成させたSOClから合成した。ペリレンをSbF−SOClFと反応させ、HPLCで精製してジベンゾペリレンを得た。ジベンゾペリレンに対して1当量のNCSを、CHCl存在下、AcOH中、ジベンゾペリレンと反応させ、クロロ化を行った。その後、THF溶液中でn−BuLiおよびテトラブトキシシランと反応させ、トリブトキシシラン−ジベンゾペリレンを得た(収率8%)。
【0275】
攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でテトラエトキシシラン2.0モル、THF300mlを仕込み、氷冷し、内温25℃以下にて、グリニヤール試薬を2時間かけて滴下し、滴下終了後30℃にて1時間熟成を行った。次いで、反応液を減圧ろ過し、未反応マグネシウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラエトキシシランを除き、この溶液を除去して式(c13)で示される化合物を得た。
【0276】
得られた化合物について、赤外吸収測定を行ったところ、波長1050nmにSi−O−Cの吸収が見られた。このことより、得られた化合物にシリル基が含まれることが確認された。
化合物を含むクロロホルム溶液の紫外−可視吸収スペクトル測定を行ったところ、波長378nmに吸収が観測された。この吸収は、分子に含まれるジベンゾペリレン骨格のπ→π遷移に起因しており、化合物がジベンゾペリレン骨格を含むことが確認できた。
さらに、化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
8.9ppm(m)(1H 芳香族由来)
8.0ppm(m)(1H 芳香族由来)
7.8ppm(m)(4H 芳香族由来)
7.4ppm(m)(2H 芳香族由来)
6.6ppm(m)(1H 芳香族由来)
6.1ppm(m)(1H 芳香族由来)
3.7ppm(m)(1H 芳香族由来)
3.4ppm(m)(12H ブトキシ基及びエトキシ基のメチレン基由来)
2.6ppm(m)(1H 芳香族由来)
1.4ppm(m)(12H ブトキシ基のメチレン基由来)
1.1ppm(m)(9H エトキシ基のメチル基由来)
1.0ppm(m)(9H ブトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、この化合物がトリブトキシシラン−ジベンゾペリレンートリエトキシシランであることを確認した。当該化合物をジベンゾペリレン(c13)という。
【0277】
<実施例9:ジベンゾペリレン(c13)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜の製造>
工程(1);
まず、ジベンゾペリレン(c13)の0.01mMトルエン溶液に、実施例1で示した方法で調整した親水性基板を室温で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリエトキシシリル基が反応し、ジベンゾペリレン(c13)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ジベンゾペリレンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、ジベンゾペリレン(c13)単分子膜をpH=1、水温50℃の水中に浸漬させることで、ジベンゾペリレン(c13)のトリブトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したジベンゾペリレン(c13)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ジベンゾペリレンを除去した。
【0278】
工程(3);
次に、ジベンゾペリレン(c13)の0.01mMトルエン溶液に、上記工程(2)でジベンゾペリレン(c13)単分子膜を形成した基板を50℃で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリエトキシシリル基が反応し、最下層の単分子膜上に第2層目のジベンゾペリレン(c13)単分子膜を調製した。さらに、トリブトキシシリル基の加水分解反応として、pH=、水温50℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ジベンゾペリレンを除去した。
【0279】
工程(4);
さらに、前記した第2番目の単分子膜形成のための工程(3)を、3度繰り返して行うことで、ジベンゾペリレン(c13)の単分子膜が5層積層されてなる5層累積膜を調製した。
【0280】
膜評価
[膜厚確認]
ジベンゾペリレン(c13)の2層〜5層累積膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さは0.42nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚は2層膜で3.4nm、3層膜で5.2nm、4層膜で7.0nm、5層膜で8.5nmであり、それぞれジベンゾペリレンの分子長の累積数倍に相当した。このことから、膜厚の均一な膜が調製できていることが判った。
【0281】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、ジベンゾペリレン(c13)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、いずれの膜も380nm付近にピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0282】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、ジベンゾペリレン(c13)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜でも0.48及び0.41nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、単一膜だけでなく2層〜5層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0283】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、ジベンゾペリレン(c13)の2層〜5層累積膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、いずれも1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0284】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したジベンゾペリレン(c13)の単分子膜および2層〜5層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ26°、27°、28°、29°、29°であった。
【0285】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、ジベンゾペリレン(c13)の単分子膜および2層〜5層累積膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、ジベンゾペリレン(c13)の単分子膜および2層〜5層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0286】
<実施例10:有機薄膜トランジスタの作製及び電気特性の評価>
図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを作製した。
まずシリコン基板25上にクロム/金を蒸着し、ゲート電極24を作製した。次に、化学気相吸着法により酸化シリコン膜によるゲート絶縁膜23を堆積した。さらに、クロム/金をマスクをかけて蒸着し、ソース電極21及びドレイン電極22を作製した。
作製した電極付の基板に対して紫外光照射を行い、ゲート絶縁膜23表面に親水化処理を施した。得られた基板を用いたこと以外、実施例9と同様の方法により、ジベンゾペリレン(c13)の5層累積膜を調製し、図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを得た。
トランジスタの電気特性を評価するために、電界効果移動度およびオン/オフ比を測定した。種々の負のゲート電圧を印加しながらソース/ドレイン間の電圧を変化させて流れる電流量を(4155A;HP社製)計測した。その結果、電界効果移動度は約8x10−2cm−1−1であり、またオン/オフ比は5桁程度であることが判明した。
【0287】
実験例12
<合成例15:ジシリル化ベンゼン(以下、ベンゼン(b11)という)の合成>
1リットルガラスフラスコに、乾燥窒素気流下で、1当量のベンゼン〔cas.no:71−43−2〕、1当量のトリエトキシブロモシラン、(ヘキサン/ジエチルエーテル)混合溶液300mlを仕込み、1当量のt−ブチルリチウムを−78℃にて滴下漏斗から12時間かけて滴下し、滴下終了後一度室温まで温めてから、−196℃に再度冷却した。反応溶液を蒸留して、トリエトキシシリル化したベンゼンの無色液体を留分として得た。
得られたトリエトキシシリル化したベンゼンをトルエン溶媒中に溶かし、0℃で1当量のt−ブチルリチウムを10時間かけて滴下した。滴下終了後、室温にて12時間攪拌を行い、サスペンションを得た。サスペンションを1当量のテトラクロロシランを混合したトルエン溶液中に−78℃で10時間かけて滴下した。滴下終了後、冷却バスからフラスコをはずして、さらに6時間攪拌を行った。
沈殿物である塩化リチウムをろ過により除去した後、減圧ろ過によりベンゼン(b11)を得た。
得られたベンゼン(b11)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
7.3ppm(m,4H,C
3.83ppm(m,6H,C
1.22ppm(m,9H,C
UV−Vis: 208nm(C
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(b11)の構造を有することを確認した。
【0288】
<合成例16;片側のみトリエトキシシリル基によってシリル化したシリル化ベンゼン(以下、ベンゼン(x2)という)の合成>
比較例として、片側のみトリエトキシシリル基によってシリル化したシリル化ベンゼン(x2)を合成例15と同様の方法によって調整した。
【0289】
【化28】

【0290】
<実施例11:ベンゼン(b11)の単分子膜のみからなる単一膜、ベンゼン(x2)の単分子膜のみからなる単一膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(3)を実施することで、標記の単分子膜を形成した。
【0291】
工程(1);
まず、ベンゼン(b11)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、ベンゼン(b11)の単分子膜をSiウエハー上に調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ベンゼンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、ベンゼン(b11)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、ベンゼン(b11)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したベンゼン(b11)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ベンゼンを除去した。
【0292】
工程(3);
別に、ベンゼン(x2)を用い、トリエトキシシリル基の加水分解反応としてpH=2、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、ベンゼン(x2)の単分子膜を調製した。上記工程(2)と同様の方法による操作は行わなかった。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ベンゼンを除去した。
【0293】
膜評価
[膜厚確認]
ベンゼン(b11)の単分子膜およびベンゼン(x2)の単分子膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により、膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さはベンゼン(b11)単分子膜では0.33nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。一方、ベンゼン(x2)単分子膜では0.39nmであった。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はいずれもベンゼンの分子長に相当する0.4nm程度であった。このことから、膜厚の均一な膜が調製できていることが判った。
また原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400:セイコーインスツルメンツ社製)により、ベンゼン(b11)単分子膜及びベンゼン(x2)単分子膜の表面形状を10μmサイズで観察したところ、表面の凹凸を示す2乗平均粗さ(RMS)は、ベンゼン(b11)単分子膜で0.33nm、ベンゼン(x2)単分子膜で0.39nmであり、ベンゼン(b11)単分子膜の方が平滑性の高い膜が得られることが判った。
【0294】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、ベンゼン(b11)の単分子膜およびベンゼン(x2)の単分子膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、いずれの膜も220nm付近にピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0295】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、ベンゼン(b11)の単分子膜のみからなる単一膜、ベンゼン(x2)の単分子膜のみからなる単一膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜も0.41及び0.33nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、いずれの膜も結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
膜の安定性を電子線照射による回折スポットの消失により評価した。ベンゼン(x2)単分子膜は1分程度の電子線照射によって回折スポットが消失し、膜の構造が破壊されたのに対して、ベンゼン(d11)単分子膜では、5分以上電子線を照射しても回折スポットが観測された。これは、ベンゼン(d11)単分子膜では膜の強度が向上していることを示し、膜の基板側および表面側でシロキサンネットワークが形成されている効果であるといえる。
【0296】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。
まず、ベンゼン(d11)単分子膜のpH処理前において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
また、ベンゼン(d11)単分子膜のpH処理後において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
一方、ベンゼン(x2)単分子膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は測定されなかった。
【0297】
純水による静的接触角測定を行ったところ、ベンゼン(d11)単分子膜が24°で、ベンゼン(x2)単分子膜が88°であった。ベンゼン(d11)単分子膜表面は、シロキサンネットワーク形成によって親水性を示していることが判った。
【0298】
これらのことよりベンゼン(d11)単分子膜は上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、ベンゼン(d11)単分子膜、及びベンゼン(x2)単分子膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。pH処理前のベンゼン(d11)単分子膜においてSi(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、ベンゼン(d11)単分子膜において、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。また、前記工程(1)においてSiウエハーの代わりに真空紫外線照射によって強制酸化させたアルミ基板を用いること以外、同様の方法によってベンゼン(d11)の単分子膜を調製した。工程(2)のpH処理前の単分子膜の赤外吸収スペクトル測定で、Si−O−Siの振動に帰属される吸収が1100cm−1に観測された。これより、基板側でもシロキサンネットワークが形成されており、化学結合(−Si−O−)によって膜が基板に固定化されているといえる。
【0299】
実験例13
<合成例17:ジシリル化チオフェン(以下、チオフェン(a14)という)の合成>
100ミリリットルガラスフラスコに、窒素雰囲気下、四塩化炭素50mLに溶解させた1当量のチオフェン〔cas.no:110−02−1〕及びNBSを加え、AIBN存在下で2時間反応させた。未反応物及びHBrをろ過により除去した後、カラムクロマトグラフを用いて、1箇所のみがブロモ化された貯留物を取り出し、カラムクロマトグラフにより精製することにより、1−ブロモチオフェンを得た。
1当量の1−ブロモチオフェンを20mlのTHF溶液に溶解させて、1当量のn−BuLiを0℃にて10時間かけてゆっくり滴下した。混合溶液を4時間攪拌した後に、室温まで温めた。反応生成してできた深緑溶液を、室温にて1当量のテトラエトキシシランのTHF溶液に滴下し、15時間還流し混合させた。次いで、反応液を減圧ろ過して、未反応のテトラエトキシシラン、n−BuLiを除去した後、1−トリエトキシシリルチオフェンを得た。
1当量の1−トリエトキシシリルチオフェンを30mlのTHF溶液に溶解させて、1当量のn−BuLiを0℃にて10時間かけてゆっくり滴下した。混合溶液を4時間攪拌した後に、室温まで温めた。反応生成してできた深緑溶液を、室温にて1当量のテトラクロロシランのTHF溶液に滴下し、15時間還流し混合させた。次いで、反応液を減圧ろ過して、未反応のテトラクロロシラン、n−BuLiを除去した後、カラムクロマトグラフにより精製することにより、チオフェン(a14)を得た。
得られたチオフェン(a14)の機器分析の結果を示す。
H NMR(δ CDCl):
6.5ppm(m,2H,CS)
3.41ppm(m,6H,C
1.11ppm(m,9H,C
UV−Vis: 218nm(CS)
以上の測定結果から、この化合物が前記一般式(a14)の構造を有することを確認した。
【0300】
<合成例18;片側のみトリエトキシシリル基によってシリル化したシリル化チオフェン(以下、チオフェン(x3)という)の合成>
比較例として、片側のみトリエトキシシリル基によってシリル化したシリル化ベンゼン(x3)を合成例17と同様の方法によって調整した。
【0301】
【化29】

【0302】
<実施例12:チオフェン(a14)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(x3)の単分子膜のみからなる単一膜の製造>
製造方法
Siウエハー、石英ガラス基板を(過酸化水素水/硫酸)混合溶液中への浸漬かつ紫外光照射により親水化処理を施し、純水でよく洗浄したものを基板として用いた。調製した基板を用いて、製膜を行った。続いて、以下の工程(1)〜(3)を実施することで、標記の単分子膜を形成した。
【0303】
工程(1);
まず、チオフェン(a14)の0.2mMトルエン溶液をpH=7の水面上に展開し、トリクロロシリル基における塩素原子の脱離に伴う基板上への吸着反応をLB法を利用して行い、チオフェン(a14)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、チオフェン(a14)単分子膜をpH=2、水温25℃の水中に浸漬させることで、チオフェン(a14)のトリエトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したチオフェン(a14)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0304】
工程(3);
別に、チオフェン(x3)を用い、トリエトキシシリル基の加水分解反応としてpH=、水温25℃の条件とした以外、上記工程(1)と同様の方法によって、チオフェン(x3)の単分子膜を調製した。上記工程(2)と同様の方法による操作は行わなかった。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応チオフェンを除去した。
【0305】
膜評価
[膜厚確認]
チオフェン(a14)の単分子膜およびチオフェン(x3)の単分子膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により、膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さはチオフェン(a14)単分子膜では0.34nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。一方、チオフェン(x3)単分子膜では0.40nmであった。また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚はいずれもチオフェンの分子長に相当する0.4nm程度であった。このことから、膜厚の均一な膜が調製できていることが判った。
また原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400:セイコーインスツルメンツ社製)により、チオフェン(a14)単分子膜及びチオフェン(x3)単分子膜の表面形状を10μmサイズで観察したところ、表面の凹凸を示す2乗平均粗さ(RMS)は、チオフェン(a14)単分子膜で0.34nm、チオフェン(x3)単分子膜で0.40nmであり、チオフェン(a14)単分子膜の方が平滑性の高い膜が得られることが判った。
【0306】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、チオフェン(a14)の単分子膜およびチオフェン(x3)の単分子膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、いずれの膜も190nm付近にピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0307】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、チオフェン(a14)の単分子膜のみからなる単一膜、チオフェン(x3)の単分子膜のみからなる単一膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜も0.42及び0.33nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、いずれの膜も結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
膜の安定性を電子線照射による回折スポットの消失により評価した。チオフェン(x3)単分子膜は1分程度の電子線照射によって回折スポットが消失し、膜の構造が破壊されたのに対して、チオフェン(a14)単分子膜では、5分以上電子線を照射しても回折スポットが観測された。これは、チオフェン(a14)単分子膜では膜の強度が向上していることを示し、膜の基板側および表面側でシロキサンネットワークが形成されている効果であるといえる。
【0308】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。
まず、チオフェン(a14)単分子膜のpH処理前において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、1285cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
また、チオフェン(a14)単分子膜のpH処理後において、赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
一方、チオフェン(x3)単分子膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は測定されなかった。
【0309】
純水による静的接触角測定を行ったところ、チオフェン(a14)単分子膜が27°で、チオフェン(x3)単分子膜が82°であった。チオフェン(a14)単分子膜表面は、シロキサンネットワーク形成によって親水性を示していることが判った。
【0310】
これらのことよりチオフェン(a14)単分子膜は上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、チオフェン(a14)単分子膜、及びチオフェン(x3)単分子膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。pH処理前のチオフェン(a14)単分子膜においてSi(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、チオフェン(a14)単分子膜において、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。また、前記工程(1)においてSiウエハーの代わりに真空紫外線照射によって強制酸化させたアルミ基板を用いること以外、同様の方法によってチオフェン(a14)の単分子膜を調製した。工程(2)のpH処理前の単分子膜の赤外吸収スペクトル測定で、Si−O−Siの振動に帰属される吸収が1100cm−1に観測された。これより、基板側でもシロキサンネットワークが形成されており、化学結合(−Si−O−)によって膜が基板に固定化されているといえる。
【0311】
実験例14
<合成例19:トリブトキシシラン−ペリレン−トリエトキシシラン(前記式(c12))の製造>
ナフタレン(アルドリッチ社)をNaNO−TfOH(Tf=CFSO)溶液中で反応させることでナフタレンからビナフチルを合成した。ビナフチルをLiTHFと酸素バブリング下で反応させて、ペリレンを得た。ペリレンに対して1当量のNCSを、CHCl存在下、AcOH中、ペリレンと反応させ、クロロ化を行った。その後、THF溶液中でn−BuLiおよびテトラブトキシシランと反応させ、トリブトキシシラン−ペリレンを得た(収率8%)。
【0312】
攪拌機、還流冷却機、温度計、滴下漏斗を備えた1リットルガラスフラスコに、乾燥アルゴン気流下でトリブトキシシラン−ペリレン、1当量のテトラエトキシシラン、THF300mlを仕込み、氷冷し、内温25℃以下にて、グリニヤール試薬を2時間かけて滴下し、滴下終了後30℃にて1時間熟成を行った。次いで、反応液を減圧ろ過し、未反応マグネシウムを除去した後、ろ液よりTHF及び未反応のテトラエトキシシランを除き、この溶液を除去して前記式(c12)で示される化合物を得た。
得られた化合物について、赤外吸収測定を行ったところ、波長1050nmにSi−O−Cの吸収が見られた。このことより、得られた化合物にシリル基が含まれることが確認された。
化合物を含むクロロホルム溶液の紫外−可視吸収スペクトル測定を行ったところ、波長378nmに吸収が観測された。この吸収は、分子に含まれるペリレン骨格のπ→π遷移に起因しており、化合物がペリレン骨格を含むことが確認できた。
さらに、化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
8.8ppm(m)(2H 芳香族由来)
7.8ppm(m)(3H 芳香族由来)
6.6ppm(m)(2H 芳香族由来)
6.4ppm(m)(2H 芳香族由来)
3.7ppm(m)(1H 芳香族由来)
3.4ppm(m)(12H ブトキシ基及びエトキシ基のメチレン基由来)
1.4ppm(m)(12H ブトキシ基のメチレン基由来)
1.1ppm(m)(9H エトキシ基のメチル基由来)
1.0ppm(m)(9H ブトキシ基のメチル基由来)
これらの結果から、この化合物がn−トリブトキシシラン−ペリレン−トリエトキシシランであることを確認した。当該化合物をペリレン(c12)という。
【0313】
<実施例13:ペリレン(c12)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜の製造>
工程(1);
まず、ペリレン(c12)の0.01mMトルエン溶液に、実施例1で示した方法で調整した親水性基板を50℃で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリエトキシシリル基が反応し、ペリレン(c12)の単分子膜を調製した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ペリレンを除去した。
工程(2)(pH処理);
次に、ペリレン(c12)単分子膜をpH=1、水温50℃の水中に浸漬させることで、ペリレン(c12)のトリブトキシシリル基の加水分解反応および縮合反応を起こさせて、膜表面にシロキサンネットワークを形成したペリレン(c12)単分子膜を形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ペリレンを除去した。
【0314】
工程(3);
次に、ペリレン(c12)の0.01mMトルエン溶液に、上記工程(2)でペリレン(c12)単分子膜を形成した基板を50℃で12時間浸漬させた。基板表面に存在する水酸基とトリエトキシシリル基が反応し、最下層の単分子膜上に第2層目のペリレン(c12)単分子膜を調製した。さらに、トリブトキシシリル基の加水分解反応として、pH=、水温50℃の条件とした以外、上記工程(2)と同様の方法によって、膜表面にシロキサンネットワークを形成した。得られた基板を有機溶媒にて洗浄して残存する未反応ペリレンを除去した。
【0315】
工程(4);
さらに、前記した第2番目の単分子膜形成のための工程(3)を、3度繰り返して行うことで、ペリレン(c12)の単分子膜が5層積層されてなる5層累積膜を調製した。
【0316】
膜評価
[膜厚確認]
ペリレン(c12)の2層〜5層累積膜をサンプルとして、原子間力顕微鏡(AFM)(SPA400;セイコーインスツルメンツ社製)により累積膜の表面形態を50μmサイズで観察したところ、50μmサイズで膜は均一に形成されていた。膜の2乗平均粗さはそれぞれ0.31、0.33、0.36、0.39nmと、基板であるSiのみの値0.26nmで比べて顕著な相違は無いことから膜の均一性が高いといえる。
また、膜を力学的処理により切削したところ、膜厚は2層膜で2.8nm、3層膜で4.2nm、4層膜で5.6nm、5層膜で7nmであり、それぞれペリレンの分子長の累積数倍に相当した。このことから、膜厚の均一な膜が調製できていることが判った。
【0317】
[主骨格確認]
膜の累積状態を詳細に評価するために、ペリレン(c12)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜をサンプルとして、(UV−3000;島津社製)により、紫外−可視吸収スペクトル測定を行った。結果、いずれの膜も360nm付近にピーク位置を持つ吸収が観測された。
【0318】
[結晶性確認]
「H−7500;日立社製」による電子線回折(ED)測定に基づいて、結晶配列を評価した。試料として、ペリレン(c12)の単一単分子膜および2層〜5層累積膜を用いた。ED測定を行うための基板は、銅メッシュシートに支持膜としてホルムバール膜を貼り付けたものに、表面親水化処理するためにSiOを蒸着させたものを用いた。その結果、いずれの膜でも0.46及び0.34nmの面間隔に相当する回折スポットが観測された。これより、単一膜だけでなく2層〜5層累積膜においても結晶配列の秩序性の高い膜が調製できていることが判った。
【0319】
[膜表面のシロキサンネットワーク形成確認]
pH処理によって膜表面のシロキサンネットワークが形成されているかどうかを確認するために、pH処理前後の赤外吸収スペクトル測定を実施した。なお、ペリレン(c12)の2層〜5層累積膜におけるpH処理の前後とは、最後のpH処理の前後のことである。
まず、pH処理前において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、いずれも1290cm−1にC−Oの伸縮振動に由来する吸収が確認された。
一方、pH処理後において、それぞれの膜の赤外吸収スペクトル測定を行った結果、上記のC−Oに由来する吸収は消失し、3300cm−1を中心とするブロードな吸収が確認された。この吸収はOHの伸縮振動に由来する。
【0320】
pH処理後において膜表面にシロキサンネットワークを形成したペリレン(c12)の単分子膜および2層〜5層累積膜の純水の静的接触角を測定したところ、それぞれ27°、27°、28°、29°、30°であった。
【0321】
これらのことより上記のpH処理によって膜表面のアルコキシ基が水酸基に変換されていることが言える。
さらに、上記の結晶性確認により、ペリレン(c12)の単分子膜および2層〜5層累積膜の面間隔はいずれも0.5nm以下であった。Si(OH)は非常に反応性が高く、上記の分子間距離では、隣接分子間の水酸基同士の脱水反応により、容易にシロキサン結合を形成することができる。
すなわち、上記にて、ペリレン(c12)の単分子膜および2層〜5層累積膜のいずれにおいても、pH処理によりC−O由来の吸収が消失し、OHの吸収が発生したことを確認できたことより、膜表面に親水性のシロキサンネットワークが形成しているといえる。
【0322】
<実施例14:有機薄膜トランジスタの作製及び電気特性の評価>
図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを作製した。
まずシリコン基板25上にクロム/金を蒸着し、ゲート電極24を作製した。次に、化学気相吸着法により酸化シリコン膜によるゲート絶縁膜23を堆積した。さらに、クロム/金をマスクをかけて蒸着し、ソース電極21及びドレイン電極22を作製した。
作製した電極付の基板に対して紫外光照射を行い、ゲート絶縁膜23表面に親水化処理を施した。得られた基板を用いたこと以外、実施例12と同様の方法により、ペリレン(c12)の5層累積膜を調製し、図9に示すタイプの有機薄膜トランジスタを得た。
トランジスタの電気特性を評価するために、電界効果移動度およびオン/オフ比を測定した。種々の負のゲート電圧を印加しながらソース/ドレイン間の電圧を変化させて流れる電流量を(4155A;HP社製)計測した。その結果、電界効果移動度は約6.4x10−2cm−1−1であり、またオン/オフ比は5桁程度であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0323】
【図1】本発明において基板に形成させた単分子膜の一例の分子配列を示す概念図である。
【図2】膜表面にシロキサンネットワークを有する単分子膜の一例の分子配列を示す概念図である。
【図3】図2の単分子膜上にさらに単分子膜を形成してなる2層単分子累積膜の分子配列を示す概念図である。
【図4】面内電気AFM測定による電導度測定を説明するための概略図である。
【図5】(A)は1種類の有機化合物(I)を用いた2層累積膜の模式図であり、(B)は2種類の有機化合物(I)を用いた2層累積膜の模式図である。
【図6】(A)〜(C)は本発明の有機薄膜トランジスタの一例の概略構成図を示したものである。
【図7】本発明の有機光電変換素子の一例の概略構成図を示したものである。
【図8】本発明の有機EL素子の一例の概略構成図を示したものである。
【図9】実施例で製造した有機薄膜トランジスタの概略断面図を示したものである。
【図10】分子間距離と分子間力との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0324】
1:親水化処理基板、10:SPM装置系のピエゾ素子、11:カンチレバー、12:単分子膜または単分子累積膜、13:金/クロム電極、14:マイカ基板、15:電流計測定手段、20:半導体層、21:ソース電極、22:ドレイン電極、23:ゲート絶縁膜、24:ゲート電極、25:シリコン基板、31:透明電極、32:対向電極、33:n型光導電層、34:p型光導電層、35::有機層、41:陽極、42:陰極、43:発光層、44:正孔輸送層、45:電子輸送層、48:有機層。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I);
【化1】

(式中、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、A〜Aは脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす;Bは2価の有機基である)で表される有機化合物を用いて形成されてなり、膜表面にシロキサンネットワークを有することを特徴とするシロキサン系分子膜。
【請求項2】
基板上に化学結合によって固定化されてなる請求項1に記載のシロキサン系分子膜。
【請求項3】
前記分子膜が単一単分子膜または単分子累積膜の構造を有する請求項1または2に記載のシロキサン系分子膜。
【請求項4】
有機基Bが配向してなる請求項1〜3のいずれかに記載のシロキサン系分子膜。
【請求項5】
有機基Bが、直鎖状単環系芳香族化合物、直鎖状縮合系芳香族化合物、直鎖状単環系複素環化合物、直鎖状縮合系複素環化合物、直鎖状飽和脂肪族化合物、またはそれらの化合物が2〜30個結合した化合物に由来の基である請求項1〜4のいずれかに記載のシロキサン系分子膜。
【請求項6】
有機基Bが、直鎖状単環系芳香族化合物、直鎖状単環系複素環化合物、直鎖状飽和脂肪族化合物、またはそれらの化合物が2〜30個結合した化合物、または直鎖状縮合系芳香族化合物に由来する基である請求項1〜5のいずれかに記載のシロキサン系分子膜。
【請求項7】
〜AとA〜Aとの組み合わせが以下の(1)〜(4)のいずれかのものである請求項1〜6のいずれかに記載のシロキサン系分子膜;
(1)A〜Aがそれぞれ独立してハロゲン原子であり、A〜Aがそれぞれ独立してアルコキシ基である;
(2)A〜Aがそれぞれ独立してハロゲン原子であり、A〜Aがそれぞれ独立してアルキル基である;
(3)A〜Aがそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルコキシ基であり、A〜Aがそれぞれ独立して炭素数3〜4のアルコキシ基である;および
(4)A〜Aがそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルコキシ基であり、A〜Aがそれぞれ独立して炭素数3〜8のアルキル基である。
【請求項8】
(式) H−B−MgX (2)
(式中、Bは2価の有機基であり、Xはハロゲン原子である)で示される化合物と、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基である)で示される化合物とを反応させて、
(式) H−B−Si(A)(A)(A) (4)
を合成し、
式(4)中、Bにハロゲン原子を結合させ、エトキシエタン又はテトラヒドロフラン(THF)の存在下で、マグネシウムやリチウム金属と反応させて
(式) MgX−B−Si(A)(A)(A)又はLiX−B−Si(A)(A)(A) (5)
で示される化合物を合成した後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす)で示される化合物と反応させて、一般式(I)の有機化合物を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のシロキサン系分子膜を製造する方法。
【請求項9】
(式) X−B−X (8)
(式中、Bは2価の有機基であり、X及びXは、それぞれ異なって、ハロゲン原子である。)で示される化合物を、マグネシウム又はリチウムからなる金属触媒を用いてグリニヤール反応剤とした後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (3)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基である)で示される化合物と反応させ、下記式で表されるグリニヤール反応剤
(式) Si(A)(A)(A)−B−MgX (9)
を得、その後、
(式) Y−Si(A)(A)(A) (6)
(式中、Yはハロゲン原子であり、A〜Aはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜18のアルキル基であり、脱離反応性についてA〜A>A〜Aの関係を満たす)で示される化合物と(式9)で示される化合物とを反応させて、一般式(I)の有機化合物を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のシロキサン系分子膜を製造する方法。
【請求項10】
(1)一般式(I)に記載の有機化合物におけるA〜Aを有するシリル基と基板表面とを反応させ、基板に直接吸着した単分子層からなる単一単分子膜を形成する工程、
(2)未反応の有機化合物を非水系溶媒を用いて洗浄除去する工程、
(3)得られた単分子膜の膜表面側に存在する未反応シリル基の加水分解反応および縮合反応によってシロキサンネットワークを形成させる工程、および
(4)シロキサンネットワークを形成させた膜表面における未反応の水酸基を吸着反応のサイトとして、一般式(I)の有機化合物からなる単分子膜を累積させる工程を含んでなることを特徴とする請求項8または9に記載のシロキサン系分子膜の製造方法。
【請求項11】
基板が表面に水酸基を有することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のシロキサン系分子膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のシロキサン系分子膜を有する有機デバイス。
【請求項13】
有機デバイスが少なくとも、基板、該基板上に形成されるゲート電極、該ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜、および該ゲート絶縁膜と接触して、または非接触で具備されるソース電極、ドレイン電極および半導体層を有してなる有機薄膜トランジスタであり、半導体層および/またはゲート絶縁膜がシロキサン系分子膜であることを特徴とする請求項12に記載の有機デバイス。
【請求項14】
有機デバイスが少なくとも、透明電極と対向電極との間に有機層を有してなる有機光電変換素子であり、有機層がシロキサン系分子膜であることを特徴とする請求項12に記載の有機デバイス。
【請求項15】
有機デバイスが少なくとも、陽極と陰極との間に有機層を有してなる有機EL素子であり、有機層がシロキサン系分子膜であることを特徴とする請求項12に記載の有機デバイス。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−145984(P2007−145984A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342110(P2005−342110)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】