説明

ステージ装置、電子線照射装置及び露光装置

【課題】ステージの速度変化に伴う振動を低減することができるステージ装置、電子線照射装置及び露光装置を提供する。
【解決手段】ガイドレール(105)に沿って移動するステージ(101)が駆動制御されるステージ装置であって、前記ステージ(101)が受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージ(101)の位置及び速度の関数として記憶する補正テーブル(113a)を備え、前記ステージ(101)を駆動する駆動トルクを前記補正テーブル(113a)を用いて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージを移動するステージ装置、電子線照射装置及び露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの微細化に伴って、デバイス製造装置やデバイス検査装置等において高精度な速度制御及び位置決めが可能なステージ装置(XYステージ装置)が要求されている。
ステージ駆動系に入力される位置指令あるいは速度指令に基づき、ステージを移動せしめるステージ装置において、ガイドレールの真直度や平行度の誤差、ネジ締め付け位置に応じた機械的歪み分布等の機構上の問題から、ステージをある一定の速度で動作させるときに作用する摩擦力の大きさには、ステージ座標に依存したばらつきが生じる。また、ステージが受ける摩擦力は、速度に対して一定ではなく、速度に依存して摩擦力の大きさが変化することが知られている。
これらのステージの機械的精度に依存する誤差を補正するために、ステージの移動量の設定値と実際の移動量との誤差を記憶した補正テーブルを用いることが行われている(特許文献1)。すなわち、予め所定位置での位置決め誤差データを求め、前記誤差データから算出した補正量を記憶した補正テーブルを作成しておくことが行われる。さらに、ステージを所定位置へ移動させる際、補正テーブルから所定位置に対応した補正量を求め、エンコーダのカウント値が補正量を用いて算出した移動量となるようにモータが駆動制御される(特許文献1)。
また、高速応答が実現できる速度制御によって目標位置近傍まで粗く移動してから、目標位置近傍では所定の目標位置に精度よく位置制御する技術が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平7−325623号公報
【特許文献2】特開平4−140805号公報(2ページ左欄下から15行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、ステージ装置を電子線描画装置や電子顕微鏡等の電子線照射装置に使用する場合、ステージの移動・停止あるいは加減速に伴う振動が電子線照射装置に加わり、目標位置に電子線を照射することが困難になる問題点がある。
この問題を解決するために、ステージを一定速度で移動させ、ステージの移動中に電子線を照射することにより振動を回避することが好ましい。
この場合、特許文献1の技術では、ステージの移動量の設定値と実際の移動量との誤差を用いてステージを制御しているのであって、ステージの速度変化を制御しているのではない。また、摩擦力変化に起因して生じる速度偏差に対する補正を行っていないことから、摩擦力変化に伴うステージの速度変化による振動を排除することができない。
また、特許文献2の技術であっても、目標位置近傍でステージの速度が変化し加減速に伴う振動を排除することができない。
なお、特許文献1に記載された技術では、ある目標位置に対して1つの位置決め誤差データのみから補正テーブルを作成するため、補正テーブルに記録された有限個の目標座標に対してしか位置決め誤差の補正ができない。つまり、任意の目標座標への高精度な位置決め動作ができないという問題点もある。
【0004】
そこで、本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、ステージの速度変化に伴う振動を低減することができるステージ装置、電子線照射装置及び露光装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明のステージ装置は、ガイドレールに沿って移動するステージが駆動制御されるステージ装置であって、前記ステージが受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージの位置及び速度の関数として記憶する補正テーブルを備え、前記ステージを駆動する駆動トルクを前記補正テーブルを用いて制御することを特徴とする。
【0006】
これによれば、ステージの位置及び速度の関数である摩擦力によって変化する制御量が補正テーブルによって補正される。すなわち、補正された制御量によって駆動トルクが制御される。これにより、摩擦力の変動による速度変動が低減する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステージの速度変化に伴う振動を低減することができるステージ装置、電子線照射装置及び露光装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態であるステージ装置(XYステージ装置)の構成を図1を参照して説明する。
ステージ装置100は、ステージ101と、ステージ101の移動距離を干渉計107を介して測定するレーザ干渉測長器108と、ステージ101の移動速度を演算する速度演算部109とを備え、ステージ101を等速度運動させ、ステージ101を位置決めできるように構成されている。また、ステージ101が受ける摩擦力の変化に対応して変化し、ステージ101を駆動制御する制御量を記憶する補正テーブル113aを作成する補正テーブル作成部112を備えている。なお、図1において、一点鎖線は補正テーブル作成時のみのデータ経路を示し、実線は実動作時及び補正テーブル作成時のデータ経路を示す。
【0009】
ステージ101は、カップリング103及びボールネジ104を介して、モータ102が発生する駆動力がステージ101に伝達されることにより、ガイドレール105に沿って移動するものである。このとき、ステージ101が受ける摩擦力は図3に示されるようにステージ101の移動速度に依存する。すなわち、移動速度がゼロのときには、静止摩擦係数に対応する摩擦力が加わり(図中の黒丸)、速度の増加と共に、動摩擦係数に対応する摩擦力が徐々に増加する。また、移動速度が小さいほど摩擦力の変化が大きいといえる。
【0010】
また、ステージ101は、X軸方向及びY軸方向に移動するように構成されている。すなわち、図2のように、第1中間ステージ604にはリニアガイドであるガイドレール105aが設けられ、ガイドレール105aの上に第2中間ステージ605が同図に示すX軸方向に移動可能なように取り付けられている。第2中間ステージ605にはガイドレール105bが設けられており、ガイドレール105bの上にステージ101が同図に示すY軸方向に移動可能なように取り付けられている。また、第1中間ステージ604には第2中間ステージ605駆動用のモータ102aが、また、第2中間ステージ605にはステージ101駆動用のモータ102bがそれぞれ取り付けられている。また、モータ102a,102bで発生する駆動力がカップリング103a,103b、ボールネジ104a,104bを介して第2中間ステージ605及び/又はステージ101に伝達されることにより、ステージ101はX軸方向及び/又はY軸方向に移動する。
【0011】
図4に示されるように、モータ102の内部等価回路は、逆起電力e[V]と電機子抵抗Ra[Ω]の直列回路で表現される。モータ102で発生するモータトルクT[Nm]は、トルク定数k[Nm/A]及びモータ電流i[A]を用いて、
T =k・i ・・・式(1)
と表される。また、逆起電圧e[V]は、誘起電圧定数kE[V/rpm]及びモータ軸回転速度N[rpm]を用いて、
= kE・N ・・・式(2)
と表される。式(1),(2)及び電機子抵抗Raより、あるモータ軸回転速度Nを得るために必要なモータ入力電圧em[V]は、
m = (Ra・T)/k + k・N ・・・式(3)
となる。尚、ここでは定速回転時のモータ電流iの変化は小さいとして、電機子インダクタンスは無視されている。
【0012】
再び図1に戻り、レーザ干渉測長器108は、ステージ101上に設置された測定用ミラー106と干渉計107との間の間隔を測定する。また、速度演算部109は、レーザ干渉測長器108によって計測された位置データを時間微分して速度データに変換する。目標速度切替スイッチ117は、ステージ101の実動作時の目標速度値と補正テーブル作成時の目標速度値とを切り替えるスイッチである。a側が実動作時であり、b側が補正テーブル作成時である。目標速度切替スイッチ117にて選択された目標速度値と、速度演算部109で求められたステージ101の速度との速度偏差を第1加算器115にて算出する。また、目標速度値は補正テーブル113aを参照するためのデータの1つとして、後記する補正量制御部114に入力される。第1加算器115にて算出された速度偏差は、補正量制御部114を介して補正テーブル113aで参照される補正量とともに第2加算器116に入力される。
【0013】
補正テーブル作成部112は、補正テーブル作成時の目標速度を出力するとともに、摩擦力の座標依存性及び速度依存性を反映した補正量を記憶する補正テーブル113aを作成し、それを記憶装置113に転送する。補正テーブル作成部112は、これらの処理内容を記述したプログラムと、そのプログラムを実行するコンピュータとを用いて実現される。
【0014】
補正テーブル113aの説明に先立って、摩擦力とステージ速度偏差の関係について図5に記載する速度制御系のブロック図を参照して説明する。同図において、速度指令v [m/sec]は速度指令−電圧変換部501によって速度−電圧変換定数α[Vsec/m]をもとに速度指令電圧e[V]に変換される。また、ステージ101の検出速度v[m/sec]は、モータ102のモータ軸回転速度N及びボールネジ104のリード長l[m/rev]で定められ、v=(Nl/60)[m/sec]で表現される。そして、検出速度v[V]は、検出速度−電圧変換部505によって、速度−電圧変換定数αを用いて検出速度電圧eに変換される。系が安定となる条件で適当なゲイン502の増幅率G、速度−電圧変換定数αを設定すると、速度偏差に基づく電圧値である速度偏差電圧Δe[V]が加算器で算出される。その値は式(3)を用いて、
Δe = (1/G)em
=(1/G)・{(R・T)/k+k・N} ・・・式(4)
である。
【0015】
ここで、モータ定速回転時はステージ101の摩擦力に丁度打ち勝つだけのモータトルクTがモータ102から出力される。式(4)から、摩擦力の座標依存によってモータトルクTが変化すると、それに伴って速度偏差電圧Δe[V]が変化するため、速度偏差Δv(=Δe/α)[m/sec]も変化する。また、図3に示したように摩擦力は速度に依存して変化する。つまり、トルクTはステージ101の移動速度によっても変化し、それに伴って速度偏差も変化することがわかる。
【0016】
従って、任意の目標座標での位置決め及び任意の目標速度でのステージ移動を高精度に行うため、ステージの摩擦力の座標依存性及び速度依存性の両方を反映した補正量を求め、補正テーブル113aに記憶する。ここで、補正テーブル113aの作成方法を、図6の構成図及び図7に示すフローチャートを参照しつつ、説明する。ここで、図6の構成図は、図1の構成図から実動作時のみの動作経路を削除したものである。尚、補正テーブル113aを作成する過程では、補正テーブル113a内の補正量は初期設定値=0となっている。
【0017】
まず、X軸正方向の補正量について説明することにする。予め設定された、摩擦力の補正に適当なM個のサンプル目標速度値{vi}(i=1〜M)の中から、ある目標速度値vkを選択する(S11)。次に、補正テーブル作成部112から出力される目標速度値vkに基づき、ステージ実動作の際に制御を要する座標範囲内でステージ101を動作させる(S12)。このとき、レーザ干渉測長器108を用いて、ステージ101の位置データを計測し、速度演算部109により、速度データを算出(演算)し(S13)、補正テーブル作成部112内にこれらのデータを記憶する。
【0018】
S13にて記憶されたステージ101の速度データの中から、予め設定された摩擦力の補正に適切なN個のサンプル座標点{xn}(n=1〜N)における計測速度データを抽出する(S14)。サンプル座標点{xn}の決め方としては、例えば、S13で記憶されるステージ101の速度データを位置データでフーリエ展開したときに、得られる空間周波数波形の有意な最大周波数fmに対して、Ps≦1/(2・fm)を満たす位置周期Psを予め設計段階で設けておき、その位置周期Psに従いサンプリングした座標点として設定しておく方法が挙げられる。
【0019】
次に、S14で抽出した計測速度データと目標速度値vkとの差である速度偏差数列{Ekn}(n=1〜N)を算出する(S15)。図8に、S15で算出される速度偏差数列{Ekn}の一例を図示する。ステージ位置によって異なる摩擦力に追随して、速度偏差が変化することが分かる。補正テーブル作成部112内に設けられたテーブルに、S15で算出された速度偏差数列{Ekn}を補正量として目標速度値vkと対応させて記憶する(S16)。
【0020】
そして、M個の全サンプル目標速度値{vi}を選択済みであるか否か、すなわち、S11からS16までを実行しているか否かを判定し(S17)、未実行であればS11に戻って(S17でNo)、未選択のサンプル目標速度値を選択した後、S12以降を実行する。全サンプル目標速度値{vi}に対してS11からS16までが実行済みであれば(S17においてYes)、X軸正方向の補正量のテーブル作成が終了する。
【0021】
同様の方法で、補正テーブル作成部112が、X軸負方向、Y軸正方向及びY軸負方向についてテーブルが作成されると、それらのテーブルが、補正テーブル113aとして、補正テーブル作成部112から記憶装置113に転送される。X軸正方向の動作補正に係る補正テーブル113aを図9に示す。すなわち、横方向にX軸正方向のサンプル目標速度値v,…,v,…,vが記憶され、縦軸方向にX軸サンプル座標点x,…,xJ−1,x,…,xj+1,…,xが記憶されている。言い換えれば、図10に示すように、異なる目標速度値それぞれに対応する速度偏差数列を補正量として記憶している。つまり、補正テーブル113aは摩擦力の座標依存性及び速度依存性を反映した補正量を記憶している。
【0022】
図3で示したように摩擦力と速度との関係は、低速領域における摩擦力の変化が大きいことから、停止に至るまでの減速を必要とする位置決め動作において、補正テーブル113aを用いて速度に依存する摩擦力の変化を反映した補正を行うことは、位置決め誤差の低減に特に有効である。
【0023】
また、ステージ101が移動中に、あるサンプリング座標点xで摩擦力の作用により減速したとき、例えば、次のサンプリング座標点xn+1における速度は、ステージ101の慣性によって前のxでの摩擦力の影響を受けることから、xn+1における補正量も同様にxでの影響を受けて設定される。もし、X軸及びY軸について正方向の動作に対する補正テーブルしか設けられておらず、負方向の動作時にも正方向の動作に対する補正テーブルを参照して補正を行うとすれば、サンプリング座標点xn+1における補正量は、未だ到達していないサンプリング座標点xでの摩擦力の影響を受けたものとなるため、その誤差を含んだ補正を施すことになる。そのため、以上で説明した、各軸における正方向及び負方向それぞれの動作に対する補正量を別々に算出し、補正テーブルに記憶することが好ましい。
【0024】
さらに、実測結果から前記摩擦力に対する速度依存性のカーブが座標毎に相似の関係にある場合、例えば、図9に示す補正テーブルにおける、1つのサンプル目標速度値vに対応する速度偏差数列{Ekn}(n=1〜N)の1列と、1つのサンプル座標点xに対応する速度偏差数列{Eij}(i=1〜M)の1行を測定する。尚、速度偏差数列{Ekn}は速度偏差の座標依存性を、また、速度偏差数列{Eij}は速度偏差の速度依存性を示している。補正テーブル作成時には、この1行1列のデータを用いて、例えば座標点xj+1、目標速度値vに対応する補正量E1 j+1を、
E1j+1=(Ekj+1/Ekj)・E1j ・・・式(5)
によって算出して、N行M列の補正テーブルを完成させる。言い換えれば、摩擦力の速度依存性が相似形状である場合に、1箇所の位置に対して測定された摩擦力の速度特性と、1つの速度に対して測定された摩擦力の位置特性とを用いて制御量が算出されることになる。このようにすると、補正テーブルの作成に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
また、ステージ装置100には、前記した補正テーブルを作成するに至る種々の操作を表示するディスプレイ201が表示手段として備えられている。例えば、補正テーブル作成部112の要素であるプログラムに、補正テーブル作成開始命令や、補正テーブル作成処理結果を読み出す機能、数値化又はグラフ化処理する機能、及び、ディスプレイ表示機能を付加し、そのプログラムを実行するコンピュータとともに補正テーブル作成部112を設けることが挙げられる。補正テーブル作成部112は、図11の一例で示されるような画面のユーザインターフェースをディスプレイ201に表示する。
【0026】
操作者は、図11に示した画面を参照しながら、作成する補正テーブルの補正対象となる軸及び方向を補正テーブル選択欄301を用いてプルダウン選択し、情報表示欄302にて補正テーブルの諸情報を確認する。この情報には、補正テーブル選択欄301で選択した測定モード、X座標のサンプリング数N、Y座標のサンプリング数N、目標速度サンプリング数M、メモリサイズが含まれる。そして、操作者が補正テーブル作成開始ボタン303をクリックすることで、ステージ装置100は、補正テーブル選択欄301で選択した補正テーブルの作成を開始する。作成状況表示欄305には、補正テーブル作成の進行状況がバーグラフ表示される。表示データ指定欄306には、作成の終了した補正テーブル領域のサンプル目標速度値がプルダウン表示され、オペレータはそのうちの1つを選択することで、そのサンプル目標速度値に対応する速度偏差データを速度偏差データ表示欄307にて、また速度偏差波形を速度偏差波形表示欄308にて、スクロールしながらそれぞれ確認することができる。尚、作成中止ボタン304を押下することで、実行途中の補正テーブルの作成を中止することができる。
【0027】
次に、図1に示したステージ装置100の実動作時の動作を説明する。
記憶装置113内の補正テーブル113aは、レーザ干渉測長器108で求められるステージ101の位置データと、上位制御系から目標速度切替スイッチ117を介して入力される目標速度値とに基づいて補正量制御部114に参照され、補正量が補正量制御部114を介して第2加算器116に出力される。これらの処理は、例えば、ディジタル制御系の制御周期と同期して実行することが適当である。この制御周期は、例えば、数kHz程度の値であり、補正テーブル上の隣り合うサンプル座標間をステージが移動する際に要する時間と比較して、充分に短い時間周期である。
【0028】
このとき、補正テーブル113aに記憶されているステージ101の位置及び目標速度値は、補正テーブル作成時にサンプリングされたものであるため、計測される現在位置及び入力される目標速度値に対応する補正量は、補正量制御部114により現在位置近傍の補正テーブル113aのデータの加重平均を算出することで補間値として求められ、第2加算器116へと出力される。これにより、補正テーブルに記憶された有限個の目標座標に対してしか位置決め誤差の補正ができないということが無くなる。これにより、任意の目標座標への高精度な位置決め動作ができる。
【0029】
第1加算器115で求められた速度偏差と補正量制御部114が出力した補正量とを第2加算器116が加算し速度偏差を補正する。そして、D/A変換部110が、補正された速度偏差をディジタル信号からアナログ信号に変換する。その後、D/A変換部110から出力されるアナログ信号を駆動アンプ111が増幅し、モータ102に入力する。
【0030】
モータ102では駆動力が発生し、カップリング103やボールネジ104による駆動力伝達機構を介してステージ101が移動するが、このとき摩擦力に起因するステージ速度偏差は、前記した補正によって低減される。
【0031】
(電子線照射装置)
図1に示したステージ装置100を、電子線照射装置である電子線描画装置に適用した例を図12に示す。図において、電子銃401は、円筒状金属のカラム411の上端部に設けられ、電子線402を下方に放射する。放射された電子線402は、電子レンズ403で収束(集束)され、偏向器404でXY方向に静電偏向される。この静電偏向により、外部記憶装置405に記憶された描画パターンが試料410の表面に描画される。試料410表面での電子線402のフォーカスの調整は、制御用計算機406から出力される電子線収束制御信号に基づき、電子レンズ403で発生する磁場を調整することで行われる。また、電子線402の偏向量は、制御用計算機406から出力される偏向制御信号に基づく偏向電圧を偏向器404に印加することで調整される。
【0032】
ステージ101は、制御用計算機406からステージ制御系407を介してステージ駆動系408へと送られる動作制御量に基づいて、駆動力伝達系409を介して駆動される。このステージ101の移動によって、偏向器404による偏向領域に描画目標位置を収める。このとき、ステージ101上に設置している測定用ミラー106と干渉計107との間隔をレーザ干渉測長器108によって計測し、その計測値が制御用計算機406に入力される。そして、制御用計算機406において、予め測定し記憶してある測定用ミラー106と試料410との間隔を、計測値に加算して現在の試料410の位置を求め、これを偏向器404の制御量とステージ制御系407にフィードバックし、電子線402の偏向制御とステージ101の動作制御が行われる。
【0033】
電子線描画装置における電子線描画位置誤差の原因の1つとして、ステージの加減速の反作用に起因する試料室及びカラム411の弾性振動が挙げられる。ステージ装置100を搭載する電子線描画装置400は、ステージ101を一定速度で移動させて連続描画を行う場合に、摩擦力の作用に基づく速度偏差、つまりステージ101の加減速の発生を抑制することで、電子線描画位置精度を向上することができる。
【0034】
また、電子線によりステージ上に設置されたウェハ等の試料の表面を走査し、拡大像を得る電子顕微鏡に、ステージ装置100を搭載することも有効である。このようにすると、ステージ101の移動によって観察視野の微小送りを行う際に発生する摩擦力の作用に基づく位置決め誤差を低減することができる。
【0035】
(露光装置)
また、本発明は、露光により、原版上のパターンを、ステージ上に設置されたウェハ等の試料の表面に投影転写する露光装置であって、前記の実施形態のステージ装置100を搭載する露光装置としても有効である。
このようにすると、ステップ&リピート方式の露光においては、前記した摩擦力の作用に基づく前記ステージの位置決め誤差に対する補正により、露光位置誤差を低減することができる。また、スキャナ方式の露光においては、前記した摩擦力の作用に基づく速度偏差を補正することで、一定速で移動する前記ステージの速度安定性を向上できるという効果がある。
【0036】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記実施形態のステージ装置は、XY方向にステージを移動させたがX方向のみ、Y方向のみに移動させることも含まれる。
(2)前記実施形態では、速度偏差を制御量として補正テーブルを作成したが、位置偏差も制御量に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態であるステージ装置の構成図である。
【図2】ステージ部の構造図である。
【図3】ステージ速度と摩擦力との関係を示す図である。
【図4】モータの等価回路を示す図である。
【図5】一般的な速度フィードバック系のブロック図である。
【図6】補正テーブル作成時におけるステージ装置の構成図である。
【図7】補正テーブルの作成方法を示すフローチャートである。
【図8】補正テーブルが、摩擦力の座標依存性及び速度依存性を反映した補正量を保持している様子を示す。
【図9】サンプル目標速度値vkにてサンプル座標点{xn}に対応する速度偏差数列{Ekn}を算出した様子を示す。
【図10】異なる目標速度値それぞれに対応する速度偏差数列を補正量として、補正テーブルが記憶していることを説明するための図である。
【図11】本実施形態における補正テーブルの作成過程で用いられるユーザインターフェース画面である。
【図12】ステージ装置が搭載された電子線描画装置の構成図である。
【符号の説明】
【0038】
101 ステージ
102,102a,102b モータ
103,103a,103b カップリング
104,104a,104b ボールネジ
105,105a,105b ガイドレール
106 測定用ミラー
107 干渉計
108 レーザ干渉測長器
109 速度演算部
110 D/A変換部
111 駆動アンプ
112 補正テーブル作成部
113 記憶装置
113a 補正テーブル
114 補正量制御部
115 第1加算器
116 第2加算器
117 目標速度切替スイッチ
201 ディスプレイ
301 補正テーブル選択欄
302 情報表示欄
303 補正テーブル作成開始ボタン
304 作成中止ボタン
305 作成状況表示欄
306 表示データ指定欄
307 速度偏差データ表示欄
308 速度偏差波形表示欄
400 電子線描画装置
401 電子銃
402 電子線
403 電子レンズ
404 偏向器
405 外部記憶装置
406 制御用計算機
407 ステージ制御系
408 ステージ駆動系
409 駆動力伝達系
410 試料
411 カラム
501 速度指令−電圧変換部
502 ゲイン
505 検出速度−電圧変換部
604 第1中間ステージ
605 第2中間ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールに沿って移動するステージが駆動制御されるステージ装置であって、
前記ステージが受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージの位置及び速度の関数として記憶する補正テーブルを備え、
前記ステージを駆動する駆動トルクを前記補正テーブルを用いて制御することを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記ステージの速度と目標速度との差分である速度偏差に基づいて前記ステージを駆動し、
前記制御量は、前記速度偏差であることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記補正テーブルは、離散的に測定した離散位置及び離散速度に対する前記制御量を記憶したものであり、
前記ステージの位置及び速度の前後の前記離散位置及び前記離散速度に対応する前記制御量を加重平均した平均制御量を用いて前記駆動トルクを制御することを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記ステージは、X方向及びY方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記補正テーブルは、正方向の前記速度及び負方向の前記速度に対して作成されていることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項6】
ガイドレールに沿って移動するステージが駆動制御されるステージ装置であって、
前記ステージを複数の速度で移動させる駆動手段を備え、
前記ステージが受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージの位置及び前記各速度の関数として補正テーブルに記憶することを特徴とするステージ装置。
【請求項7】
前記摩擦力の速度依存性が相似形状であり、
1箇所の前記位置に対して測定された前記摩擦力の速度特性と、1つの前記速度に対して測定された前記摩擦力の位置特性とを用いて前記制御量を算出することを特徴とする請求項6に記載のステージ装置。
【請求項8】
前記制御量を位置の関数としてフーリエ展開し、所定値より高い空間周波数成分を除去した制御量を前記補正テーブルに記憶することを特徴とする請求項6に記載のステージ装置。
【請求項9】
ガイドレールに沿ってステージが移動するステージ装置が備えられ、前記ステージに載置される試料に電子線を照射する電子線照射装置であって、
前記ステージ装置と前記電子線を照射する電子銃とは金属筐体によって支持され、
前記ステージ装置は、前記ステージが受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージの位置及び速度の関数として記憶する補正テーブルを備え、
前記ステージを駆動する駆動トルクを前記補正テーブルを用いて制御することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項10】
ガイドレールに沿ってステージが移動するステージ装置が備えられ、原板上に形成されたパターンを前記ステージに載置されるウェハに投影転写する露光装置であって、
前記ステージ装置は、前記ステージが受ける摩擦力の変化に対応して変化し、前記ステージを駆動制御する制御量を前記ステージの位置及び速度の関数として記憶する補正テーブルを備え、
前記ステージを駆動する駆動トルクを前記補正テーブルを用いて制御することを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−142093(P2007−142093A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332828(P2005−332828)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】