説明

タービン稼働中の粒子蓄積を低減させるためのタービン部品の表面処理

【課題】砂付着に対して強い耐性を有し、粒子衝突時の表面仕上げ、硬度、高サイクル疲労強度の劣化が最小限又はゼロに抑えられ、且つ、エアフォイル領域及び表面形状に与える影響が最小限になる表面を有するタービンエンジン部品を提供すること。
【解決手段】耐砂付着性を有するタービンエンジン部品10の表面14であって、基材12と、該基材上に堆積されてコーティング表面16を形成する炭化物及び/又は窒化物コーティングとから成り、該コーティングの表面の粗度(Ra)が12マイクロインチ未満である、タービンエンジン部品10の表面14。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、タービン稼働中の粒子蓄積低減に効果的な表面処理が施されたタービンエンジン部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品は、様々な動作条件下で、様々な工業用途に用いられる。例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼のようなタービン部品用の既存の母材は、かかる条件下では、十分な耐腐食性又は耐侵食性を有さない。激しい腐食が生じると、タービン部品が損傷し、その結果、作動効率が低下したり、整備のために頻繁に運転を停止する必要が生じたり、様々な部品を定期的に交換する必要が生じたりする可能性がある。多くの場合、部品には、耐侵食性、耐熱性、耐酸化性、及び耐腐食性等の様々な特性を与えるコーティングが施される。例えば、特に固体粒子腐食を起こしやすい高圧及び中圧蒸気タービンの第1段には、耐腐食性コーティングが適用されることが多い。また、砂又はその他の空中の固体粒子による腐食及び侵食が生じ易いガスタービン及びジェットエンジンの圧縮機部分には、耐腐食性コーティングが適用されることが多い。
【0003】
腐食及び侵食に加えて、タービン部品の性能を著しく低下させる最近明らかになった大きな要因として、砂付着が挙げられる。例えば、国内線を飛行する航空機のエンジンの場合、飛行待機、離陸、及び着陸時の多量の砂の吸い込みにより、著しい砂付着が生じることが多い。砂の吸い込みによる圧縮機翼の粗度増大が、このような付着の主なメカニズムであることがわかった。この粗度増大は特に、粒子衝突によるマイクロピットの形成に起因する。10ミクロン未満の寸法の砂粒子がその後、これらのピットに蓄積して、付着層を形成する。圧縮機の下流段における高温により、砂粒子の焼き付きが生じ、エアフォイルの砂付着が更に進行する。そのため、タービン部品の洗浄に多く用いられるような水洗浄では、蓄積した砂粒子を除去することができない。
【0004】
大規模な材料損失の原因となる腐食を緩和するために、様々な耐腐食性コーティングが開発されている。かかるコーティングの例として、一般的に空気プラズマ溶射(APS)及び高速フレーム溶射(HVOF:high velocity oxy−fuel)等の溶射技術により溶着されるアルミナ、チタニア、クロミアなとのセラミックコーティングが挙げられる。これらのプロセスにより形成されるコーティングでは、コーティングが堆積したままの状態となり、表面組織が比較的粗くなり、硬度が限られてしまうので、タービンの性能に悪影響が及ぶ可能性がある。以下に詳述するように、表面粗度の増大が砂蓄積の直接的な原因であることがわかった。更に、かかるコーティングの腐食が生じた場合、表面粗度が著しく低下し、砂付着が進行する。また、これらのプロセスで形成されるコーティングでは、基材又は母材の高サイクル疲労強度に悪影響が及ぶ可能性がある。更に、かかるプロセスによりコーティングを形成すると、コーティング厚さを補うためにタービンエアフォイル自体を改良しなければならないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,797,335B1号
【特許文献2】米国特許第6,881,498B1号
【特許文献3】米国特許第7,005,080B2号
【特許文献4】米国特許第7,186,092B2号
【特許文献5】米国特許第7,211,338B2号
【特許文献6】米国特許第7,247,348B2号
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0102296A1号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】燃焼タービン動作調査チーム、論文「7FA R0及び中圧圧縮機の故障を含む、CTOTFに関する重要な課題」、結合サイクルジャーナル2007年第一四半期号、72〜92頁、(http://www.combinedcyclejournal.com/webroot/1Q2007/107,%20p%2072-92%20CTOTF.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、当該技術分野において、砂付着に対して強い耐性を有し、粒子衝突時の表面仕上げ、硬度、高サイクル疲労強度の劣化が最小限又はゼロに抑えられ、且つ、エアフォイル領域及び表面形状に与える影響が最小限になる表面を有するタービンエンジン部品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、タービン稼働中の粒子衝突が原因のマイクロピッチングが大幅に低減されるタービンエンジン部品の表面及び方法を開示する。本発明の一実施形態において、耐砂付着性を有するタービンエンジン部品の表面は、基材と、この基材上に堆積された炭化物及び/又は窒化物コーティングとから成り、このコーティング表面の粗度(Ra)は、12マイクロインチ未満である。
【0009】
本発明の一実施形態において、タービンエンジン部品の表面上のマイクロピッチングを大幅に低減させる方法は、タービンエンジン部品の表面を処理して、12マイクロインチ未満の平均粗度(Ra)を形成するステップと、電子ビーム物理蒸着、陰極アーク蒸発、又はマグネトロンスパッタリングにより、この処理表面上に厚さ50ミクロン未満の窒化物及び/又は炭化物コーティングを堆積させるステップとから成る。
【0010】
本発明の別の実施形態において、タービンエンジン部品の表面上のマイクロピッチングを大幅に低減させる方法は、電子ビーム物理蒸着、陰極アーク蒸発、又はマグネトロンスパッタリングにより、表面上に厚さ50ミクロン未満の窒化物及び/又は炭化物コーティングを堆積するステップと、タービンエンジン部品のコーティング表面の平均粗度(Ra)が12マイクロインチ未満となるよう処理するステップとから成る。
【0011】
本発明の教示内容は、本発明の様々な特徴の以下の詳細な説明及びこれに含まれる実施形態から、容易に理解できよう。
【0012】
ここで、同様の構成要素には同様の参照符号が付された図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タービン稼働前後それぞれのタービン翼部品表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】タービンエンジン部品の部分断面図である。
【図3】標準仕上げ、超仕上げ、及び超仕上げ面上に異なる厚さでそれぞれ堆積された窒化チタンコーティングを有するタービン翼部品の表面粗度を示すグラフである。
【図4】砂腐食テスト後の、コーティングされていないタービン翼部品表面の様々な場所の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】砂腐食テスト及び除去プロセス前後それぞれのタービン翼部品表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図6】砂腐食テスト及び除去プロセス後の、コーティングされたタービン翼部品とコーティングされていないタービン翼部品それぞれの表面粗度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
使用済みタービン部品の特性解析により、粒子、例えば砂の衝突が原因で形成されたマイクロピットに砂が蓄積することがわかった。例えば、図1に、タービン部品表面と、砂粒子の衝突によるマイクロピット形成の程度を示す。図1は、砂が付着した使用済みタービン翼部品と、新品のタービン翼部品の表面比較であり、表面はそれぞれ、同じ洗浄液で処理され、蓄積した砂が除去された。使用済みタービン翼部品の表面において、マイクロピッチングの形跡がはっきりと認められた。図示していないが、洗浄液処理による蓄積除去の前には、使用済みタービン翼部品の表面に砂蓄積が認められた。本発明により、タービン稼働中のタービン部品表面への粒子衝突に起因する砂蓄積及び/又は腐食を低減する、タービンエンジン部品の表面処理を開示する。この表面処理には概して、砂蓄積及び/又は腐食を受けやすい表面などのタービン部品の表面粗度(Ra)を、化合物を用いてウェットブラスト、バレル研磨、及びバニシ仕上げにより12マイクロインチ以下にするステップと、その後、所定の表面粗度を有するタービン部品の表面全体又は表面上の選択部分に炭化物及び/又は窒化物コーティングを施すステップとが含まれる。炭化物及び/又は窒化物コーティングの厚さは、タービン部品の空力的特性に影響を及ぼさない程度である。本明細書において後述するように、表面処理と炭化物及び/又は窒化物コーティングとを組み合わせることにより、マイクロピットの形成を大幅に低減させ、砂蓄積を低減させることができる。代替的に、タービン部品に炭化物及び/又は窒化物コーティングを施した後に、表面粗度(Ra)が12マイクロインチ未満になるよう表面処理を行ってもよい。
【0015】
図2に、その全体を参照符号10で示すタービンエンジン部品の部分断面図を示す。このタービンエンジン部品の部分には概して、処理表面14を有する基材12と、処理表面上に配置された炭化物及び/又は窒化物ハードコーティング16(即ち、耐腐食性コーティング)とが含まれる。
【0016】
タービンエンジン部品の形状は限定的ではなく、シュラウド、バケット又は翼、ノズル又は羽根、ダイヤフラム部品、シール部品、バルブ軸、ノズルボックス、ノズル板をはじめとするいずれの形状にも変更可能である。ここでは、用語「翼」と「バケット」とは同義で用いられており、概して、翼は航空機タービンエンジンの回転エアフォイルであり、バケットは陸上発電タービンエンジンの回転エアフォイルである。また、蒸気又はガスタービンの固定羽根を指す用語「ノズル」は概して、用語「羽根」と同義で用いられる。
【0017】
タービンエンジン部品、即ち基材12は、一般的に、鋼及び/又は超合金と、チタン合金(例えば、Ti−6Al−4V)から成る。超合金は、約0.7の絶対融解温度をしばしば上回る高温でも使用可能である。任意のFe、Co、又はNi基超合金組成物を用いて構造部材を形成することができる。Fe、Co、又はNi基超合金の最も一般的な溶質は、アルミニウム及び/又はチタニウムである。アルミニウム及び/又はチタニウム濃度は概して低い(例えば、それぞれ約15重量パーセント(wt%)以下である)。Fe、Co、又はNi基超合金のその他の任意の成分としては、クロミウム、モリブデン、コバルト(Fe又はNi基超合金における)、タングステン、ニッケル(Fe又はCo基超合金における)、レニウム、鉄(Co又はNi基超合金における)、タンタル、バナジウム、ハフニウム、コロンビウム、ルテニウム、ジルコニウム、ボロン、イットリウム、及び炭素があり、それぞれ約15wt%以下の量で存在し得る。
【0018】
本明細書において、「処理表面」は概して、12マイクロインチ未満の表面粗度(Ra)を有する表面を指しており、一般的には化合物を用いたウェットブラスト、バレル研磨およびバニシ仕上げによって得られる。表面粗度を減少させるプロセスとして、例えば、通常適用される、無指向性表面組織を形成する等方性超仕上げプロセスが挙げられるが、その他の表面精製方法を適用してもよい。等方性表面仕上げプロセスでは基本的に、粗度が12マイクロインチ未満の表面を形成するのに有効な期間、化学反応促進剤の有無にかかわらず、固体培地と表面領域の間に振動が加えられる。表面粗度(Ra)は、ISO4287規格に準拠して測定される。従来技術において、これらの部品は、例えば、機械加工研削/研磨プロセス、電解加工、精密鍛造、圧延圧印プロセスなどのような様々な機械加工法により形成されており、通常は、滑らかではない不都合な状態の表面が一部形成され、実質的に16マイクロインチを上回る表面特性及び表面粗度であることが多い。
【0019】
固体粒子による腐食が生じ易いタービンエンジン部品の処理表面に耐腐食性を持たせるためには通常、特定の窒化物及び/又は炭化物から成るコーティング16を用いる。適当な金属炭化物としては、これらに限られないが、例えばCr、WC、TiC、ZrC、BCなどがあり、適当な金属窒化物としては、これらに限られないが、例えばBN、TiN、ZrN、HfN、CrN、CrN、Si、AlN、TiAlN、CrAlN、TiAlCrN、TiCrN、TiZrN、CrBN、TiBNなどがあり、炭化物と窒化物の化合物(例えば、TiCN、TiWCN、TiSiCN、NbCNなどの炭窒化物)もある。耐腐食性コーティングは、代替的に、セラミック金属炭化物(サーメット)から成っていてもよい。適当なサーメットとしては、例えばWC/Co、WC/CoCr、WC/Ni、TiC/Ni、TiC/Fe、Cr/Ni(Cr)、TaC/Ni、及び上記の少なくとも1つから成る組み合わせがある。
【0020】
炭化物及び/又は窒化物コーティング16は、約5000キログラム毎平方ミリメートル(kg/mm)以下の断面即ちビッカース硬度(Hv)を有し得る。この範囲内で、耐腐食性コーティング16の硬度は約500kg/mm以上である。一実施形態において、コーティング16の硬度は約1000kg/mm以上である。別の実施形態において、コーティング16の硬度は約2000kg/mm以上である。更に別の実施形態において、耐腐食性コーティング16の硬度は約4000kg/mm以下である。また別の実施形態において、耐腐食性コーティング16の硬度は約3000kg/mm以下である。
【0021】
本発明による耐腐食性コーティングの厚さは、50ミクロン未満である。一実施形態において、厚さは30ミクロン〜10ミクロンである。別の実施形態において、厚さは10ミクロン未満である。
【0022】
本発明による表面処理プロセスの例示的実施形態は概して、振動式仕上げ装置に1つ以上の「処理」されるタービン部品を挿入するステップと、この装置に固体培地及び化学溶液を加えるステップと、振動運動を加えるステップとを含む。表面処理に適当な固体培地としては、多様なセラミック、プラスチック、金属などが挙げられ、例えばREMケミカルズ社の米国特許第4,491,500号、米国特許第4,818,333号、及びREMテクノロジー社の米国特許第7,005,080号に記載されている。かかる特許文献に記載されているように、培地は柔らかくても硬くてもよい。
【0023】
窒化物及び/又は炭化物コーティングが、タービン部品の処理表面全体又は表面上の選択に堆積される。堆積法は概して、これらに限られないが、電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)、或いはフィルタ真空/陰極アーク蒸発又はマグネトロンスパッタリングに基づくものであり、既存のコーティングよりも表面粗度が低いコーティングが得られる。好都合なことに、このコーティングは、堆積したままの状態でも、表面粗度を減少させるための堆積後機械加工又は研磨ステップを必要としない。更に、このコーティングによると、タービン稼働中のコーティング表面寸法の安定性が向上する。例えば、コーティングされたタービンエンジン部品は、その上に耐腐食性コーティングが施されていないタービンエンジン部品よりも高い高サイクル疲労(HCF)強度を有する。従って、表面粗度が増大したコーティングに認められることが多いタービン効率及び出力の低下等の悪影響を低減することができる。これらの特徴により、部品及びタービンエンジンの寿命が長くなる。
【0024】
電子ビーム物理蒸着に適したEB−PVD装置は概して、電子ビーム源を収容する真空室と、ターゲット又はインゴットと称される、原料物質を保持する水冷るつぼとを含む。電源は電子ビーム源と電気的に連通しており、真空室に連結された真空ポンプの真空制御装置、電力制御装置などの様々な制御装置も含まれている。2つ以上の金属が堆積される場合、堆積される金属の合金から成る単一のターゲットを蒸発させてもよく、又は多重ターゲットを共蒸発させてもよい。堆積室は、まず、通常は1×10−5Torr未満の高真空まで排気される。堆積中、ターゲットには電子ビームが照射される。電子ビームによるターゲットの強加熱により、ターゲット表面を融解又は昇華させ、蒸発した金属分子を上方に移動させることで、基材表面にコーティングを堆積させることができる。コーティング厚さは概して、コーティングプロセスの持続時間と基材上で凝結する蒸気流動に応じて変化する。室内に制御ガスを導入することにより、基材上にターゲットと導入されたガスとの化合物である組成物が堆積する。例えば、TiNコーティングは、窒素分圧を有する雰囲気中で電子ビームによりTiターゲットを蒸発、反応させることで形成される。堆積室内では、基材を移動させることにより、様々な基材表面に均一なコーティングを施すことができる。室内でイオンビーム源を用いて堆積を促進することにより、コーティングの微細構造を改良することで、高密度且つ高硬度のコーティングを形成することができる。
【0025】
基材の一部分のみを炭化物及び/又は窒化物耐腐食性コーティングでコーティングする場合、マスクで基材の一部分を覆ってから堆積室へ基材を挿入することで、その部分についてはコーティングせずに残すことができる。本発明に適用されるハードマスキング及びソフトマスキング等の特定のマスキング技術は、当業者には公知である。
【0026】
EB−PVDにより、堆積される基材と同等又は実質的に同等な微細構造及び/又は平均粗度を有する耐腐食性コーティングを形成することができる。例えば、EB−PVDでは、堆積した耐腐食性コーティングの平均粗度は基材の平均粗度の約1〜約10パーセントの範囲内であり、イオンプラズマ陰極アーク蒸着では、堆積した耐腐食性コーティングの平均粗度は基材の平均粗度の約1〜約10パーセントの範囲内である。コーティングされていないタービンエンジン部品の平滑度/粗度は、部品の機械加工により、所望の形状及び/又は寸法に制御される。従って、本発明の有利な特徴として、堆積後に更なる加工ステップを必要とせず、タービンエンジン部品の処理表面上に、非常に滑らかな耐腐食性コーティングを堆積したままの状態でも形成できることが挙げられる。こうして、コーティングステップが完了すると、コーティングされたタービン部品をすぐに使用することが、或いは、タービン部品を次の製造プロセスに供することができる。代替的実施形態において、粗いコーティング仕上げを形成するコーティングプロセス(例えば、フィルタなし真空/陰極アーク蒸発)の後、更なる加工を施す、即ち上述の方法で処理を行うことにより、12マイクロインチ未満の所望の表面粗度を得ることができる。
【0027】
なお、タービンエンジン部品には概して、例えば、ボンドコート、遮熱コーティング、潤滑コーティング等のタービンエンジン部品上に堆積されるその他のコーティングを施してもよい。上記の耐腐食性コーティング16をコーティング済みのタービンエンジン部品上に堆積させる場合は、コーティング済みのタービンエンジン部品を、上記の基材12とみなす。これらその他のタイプのコーティングの堆積方法は、当業者には公知である。
【0028】
また、コーティング済みのタービンエンジン部品10には、耐腐食性コーティング16の表面特性を変更しない限り、その他の機械加工作業を施してもよい。例えば、コーティング済みのタービンエンジン部品10を、例えば、コーティング済みのノズルの場合のように、堆積後の製造ステップ中にタービンエンジン全体の別の部品に溶接またはその他の方法で連結してもよい。このようにして、堆積室にノズルアセンブリ全体を収容する(そして、コーティングを望まない領域をマスキングする)代わりに、タービンエンジンの小型部品を堆積室に収容し、耐腐食性コーティング16でコーティングしてもよい。
【0029】
また、コーティング済みの滑らかな部品10には必須ではないが、耐腐食性コーティング16を基材12の処理表面14上に堆積させた後、耐腐食性コーティング16を特定の形状及び寸法に機械加工することもできる。
【0030】
以下の実施形態は、あくまでも例示目的において示されるものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
本実施例において、コーティング済みのタービン翼部品と、コーティングされていないタービン翼部品とを砂腐食テストに供した。コーティングされていないタービン翼部品には、標準表面仕上げを施したものと、処理表面を有するものとがある。コーティング済みのタービン翼部品には、EB−PVDによりそれぞれ厚さ3ミクロン及び8ミクロンのTiN層を処理表面上に堆積させたものがあり、蒸発するチタンターゲットと反応して窒化チタンが形成されるよう3〜20mTorrの窒素を室に添加した。基材温度は約250〜500℃であった。処理表面は、バレル研磨プロセスにより準備された。
【0032】
砂腐食テストでは、様々なタービン翼部品を、流速0.4、流量4〜5グラム毎分で公称寸法0〜3ミクロンの砂粒子に曝した。基材は、航空機タービン翼が2000時間の露出をシミュレートするよう、45分間にわたり砂に曝された。砂への露出が終了すると、洗浄溶剤を用いてタービン翼部品から砂を除去し、部品表面を検査した。
【0033】
図3は、表面粗度の比較グラフである。特に、EB−PPVDによるTiNの堆積は、粗度の著しい増大の原因にならないことが認められた。図4は、コーティングされていないタービン翼部品の前縁、後縁、及び後縁先端の走査電子顕微鏡写真である。定性的に、コーティングされていないタービン翼部品の凹凸面上で広範囲な砂蓄積が視認されたのに対して、処理及びコーティング済みのタービン翼部品では砂蓄積があまり認められなかった。図示のように、コーティングされていないタービン翼部品の前縁では、明らかな砂蓄積が認められた。
【0034】
図5は、砂除去後の走査電子顕微鏡写真である。図示のように、コーティングされていない表面においてはマイクロピッチングが明らかに認められたのに対して、処理及びコーティング済みの表面においては、視認可能なマイクロピッチングが見られなかった。図6は、砂腐食テスト及び除去プロセス後の、コーティング済みのタービン翼部品とコーティングされていないタービン翼部品それぞれの表面粗度をグラフである。処理表面と窒化チタンコーティングとを組み合わせた場合、ごくわずかな表面損傷しか認められなかった。対照的に、コーティングせず加工されたタービン部品の表面では、砂粒子の衝突によるマイクロピッチングに起因すると思われる、表面粗度の著しい増大が認められた。翼に標準仕上げを施すと、16マイクロインチの粗度の表面が得られた。また、処理表面は、12マイクロインチ未満の粗度の表面を有する。
【0035】
例示的な実施形態に関連付けながら本発明を説明してきたが、当業者には明らかなように、本開示の意図から逸脱することなく、かかる実施形態に様々な改変を加えることや、その構成要素を等価物と代替することが可能である。また、本発明の教示内容を、その意図から逸脱すること無く、特定の条件又は材料に適合するよう様々に修正することも可能である。従って、本発明を実施するための最良の態様として本明細書に開示した特定の実施形態にとどまらず、本発明は添付の特許請求の範囲の範疇にある、あらゆる実施形態を包含するものとする。
【0036】
また、「第1」、「第2」、「底部」、「上部」などの用語は、いかなる順序、数量、又は重要度を表すものでもなく、或る構成要素を別の構成要素と区別するために使用されており、単数形で記載したものは、数量の制限を意味するものではなく、参照された部材が1つ以上存在することを意味するものである。数量に関する「約」という修飾語は、記載した値を含むと共に、前後関係から明らかな意味を有する、即ち、特定の数量の測定に伴う誤差程度の値を少なくとも含む。同様に、量的又は物理的性質を詳述する全ての値の範囲は、その上下限値を含むと共に、それぞれの値のいかなる組み合わせも可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 タービンエンジン部品
12 基材
14 処理表面
16 炭化物及び/又は窒化物ハードコーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐砂付着性を有するタービンエンジン部品(10)の表面(14)であって、
基材(12)と、
該基材上に堆積されてコーティング表面(16)を形成する炭化物及び/又は窒化物コーティングとから成り、
該コーティングの表面の粗度(Ra)が12マイクロインチ未満である、
タービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項2】
前記炭化物及び/又は窒化物コーティング(16)が、電子ビーム物理蒸着又はマグネトロンスパッタリング又はフィルタ陰極アーク蒸発により形成された厚さ25ミクロン未満の窒化物及び/又は炭化物材料から成る、請求項1に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項3】
前記基材(12)が、鋼、超合金、又はチタン合金から成る、請求項1又は2に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項4】
前記タービンエンジン部品が、シュラウド、バケット、翼、ノズル、羽根、ダイヤフラム部品、シール部品、又はバルブ軸である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項5】
前記炭化物及び/又は窒化物コーティング(16)が、Cr、WC、TiC、ZrC、BC、BN、TiN、ZrN、HfN、CrN、CrN、Si、AlN、TiAlN、TiAlCrN、TiCrN、CrAlN、TiZrN、CrBN、TiSCN、TiBN、炭化物と窒化物の組み合わせ、セラミック金属炭化物化合物、及び上記の少なくとも1つから成る組み合わせから構成される群から選択される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項6】
前記炭化物及び/又は窒化物コーティング(16)が、約5000キログラム毎平方ミリメートル以下の硬度を有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項7】
前記基材(12)が、12マイクロインチ未満の粗度(Ra)を有する処理表面を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のタービンエンジン部品(10)の表面(14)。
【請求項8】
タービンエンジン部品(10)の表面(14)上のマイクロピッチングを大幅に低減させる方法であって、
前記タービンエンジン部品(10)の前記表面(14)の平均粗度(Ra)が12マイクロインチ未満となるよう、前記表面(14)を処理するステップと、
電子ビーム物理蒸着、陰極アーク蒸発、又はマグネトロンスパッタリングにより、前記処理表面上に厚さ50ミクロン未満の窒化物及び/又は炭化物コーティング(16)を堆積するステップとから成る方法。
【請求項9】
前記表面(14)を処理するステップが、前記表面(14)の組織を無指向性とするための等方性超仕上げプロセスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記窒化物及び/又は炭化物コーティング(16)が、Cr、WC、TiC、ZrC、BC、BN、TiN、ZrN、HfN、CrN、CrN、Si、AlN、TiAlN、TiAlCrN、CrAlN、TiSiCN、TiCrN、TiZrN、CrBN、TiBN、炭化物と窒化物の組み合わせ、セラミック金属炭化物化合物、及び上記の少なくとも1つから成る組み合わせから構成される群から選択される、請求項8または9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90892(P2010−90892A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229157(P2009−229157)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】