説明

ダイヤモンド薄膜及びその製造方法

【課題】積層欠陥及び貫通転位の密度が十分に低いダイヤモンド薄膜構造とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のダイヤモンド薄膜構造は、基板と、基板の主方位面の一部を覆うマスク材と、基板の主方位面の表面からエピタキシャル成長するダイヤモンド薄膜とで構成されるダイヤモンド薄膜構造であって、ダイヤモンド薄膜は、マスク材の上に形成され、ダイヤモンド薄膜の結晶方位は基板の結晶方位とそろっており、基板の主方位面の一部にストライプ状の溝が形成され、マスク材は、ストライプ状の溝を覆うように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド薄膜及びその製造方法に関し、より詳細には、結晶欠陥と不純物の少ない高品質なダイヤモンド薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大面積のダイヤモンド基板を低コストで製造する目的で、ダイヤモンド薄膜のヘテロエピタキシャル成長が行われている。ヘテロエピタキシャル成長のための基板としては、シリコン、炭化珪素、イリジウム、あるいは、白金等が用いられている。これらの基板上にヘテロエピタキシャル成長したダイヤモンド薄膜には、例えば貫通転位及び積層欠陥等の結晶欠陥が多数含まれていることが問題となっている。貫通転位とは、結晶中の原子の位置が本来の位置からずれる転位欠陥が伝播して、結晶中に突き抜けることである。積層欠陥とは、結晶の原子面の積み重ねの順序が乱れている部分のことである。これらの結晶欠陥は、薄膜の結晶性の乱れに起因して発生する。結晶欠陥が増加すると、リーク電流が増大し、高出力が得られない。更に、キャリア移動速度が遅くなり、デバイスの動作速度が低下する。
【0003】
一方、砒化ガリウム及び窒化ガリウムのヘテロエピタキシャル成長において、基板の主方位面上にマスク材を形成した後に、横方向エピタキシャル成長を行うことによって、貫通転位密度を著しく減少させることが可能になった。貫通転位密度とは、単位面積あたりの貫通転位の密度である。基板の主方位面上にマスク材を形成すると、貫通転位がマスク材によって遮られ、横方向エピタキシャル成長を行うことにより、貫通転位も横方向に曲がり、薄膜表面を突き抜ける貫通転位が減る。この方法により、サファイア基板上の窒化ガリウムの貫通転位密度が数桁減少することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンのような一般的なマスク材を形成したダイヤモンド基板をマイクロ波励起化学気相成長装置にセットして、ダイヤモンド薄膜を横方向エピタキシャル成長させると、プラズマによるダメージでマスク材が消失するという問題があった。更に、主方位面の方位に対するマスク材のストライプの方向が分かっておらず、ダイヤモンド薄膜がうまく横方向エピタキシャル成長しないという問題があった。これらの問題のため、ダイヤモンド薄膜のヘテロエピタキシャル成長に対して横方向へテロエピタキシャル成長を適用することは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Thick GaN epitaxial growth with low dislocation density by hydride vapor phase epitaxy, Akira Usui, Haruo sunakawa, Akira Sakai and Atsushi Yamaguchi, Japanese Journal of Applied Physics36(1997)pp.L899-L902.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、ダイヤモンド薄膜のヘテロエピタキシャル成長において、貫通転位密度が高く、結晶品質が悪いという問題が存在した。本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、積層欠陥及び貫通転位の密度が十分に低いダイヤモンド薄膜構造とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜構造は、基板と、基板の主方位面の一部を覆うマスク材と、基板の主方位面の表面からエピタキシャル成長するダイヤモンド薄膜とで構成され、ダイヤモンド薄膜は、マスク材の上に形成され、ダイヤモンド薄膜の結晶方位は基板の結晶方位とそろっており、基板の主方位面の一部にストライプ状の溝が形成され、マスク材は、ストライプ状の溝を覆うように配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜構造において、マスク材は、基板上に積層されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1又は2に記載のダイヤモンド薄膜構造において、マスク材が、基板上でストライプ状に配置されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造において、基板が(001)面を主方位面とする結晶基板であり、マスク材の配置方向が<100>、又は、<110>のいずれかであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造において、基板は(110)面を主方位面とする結晶基板であり、マスク材の配置方向が<001>、<1−10>、<−111>、又は、<1−11>のいずれかであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造において、基板は(111)面を主方位面とする結晶基板であり、マスク材の配置方向が<−211>、又は、<110>であることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1から6のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造において、マスク材は、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜から成ることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載のダイヤモンド薄膜構造は、請求項1から6のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造において、マスク材は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜と、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜の二層膜であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載のダイヤモンド薄膜製造方法は、結晶基板にストライプ状の溝を形成する工程と、ストライプ状の溝を覆うストライプ状のマスク材を配置する工程と、結晶基板と所定の方位関係をとってダイヤモンド薄膜を横方向エピタキシャル成長させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結晶欠陥密度及び不純物密度の低い高品質なダイヤモンド薄膜構造とその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】参考例にかかるダイヤモンド薄膜構造を示す。
【図2】参考例にかかるダイヤモンド薄膜構造の製造方法を示す。
【図3】実施例にかかるダイヤモンド薄膜構造を示す。
【図4】実施例にかかるダイヤモンド薄膜構造の製造方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
<参考例>
図1は、本発明の参考例にかかるダイヤモンド薄膜構造を示す。このダイヤモンド薄膜構造は、ダイヤモンド基板101と、ダイヤモンド基板101の主方位面の一部を覆うマスク材102と、ダイヤモンド基板101の主方位面の表面からエピタキシャル成長するダイヤモンド薄膜103とで構成されている。ここで、主方位面とは、ダイヤモンド基板101にダイヤモンド薄膜103が形成される面を指す。ダイヤモンド基板101は、図1における(001)面を主方位面とする。マスク材102は、厚さ100nmでストライプ形状のチタン薄膜であり、ストライプの方向は<100>である。ストライプの幅は、0.1μmから10mmの範囲で設定でき、ストライプ同士の間隙の幅は、0.1μmから100μmの範囲で設定できる。ダイヤモンド薄膜103は、ダイヤモンド基板101と結晶方位がそろっている。さらに、ダイヤモンド薄膜103は、マスク材102の上に形成され、マスク材と直接接している。
【0019】
貫通転位104a及び104bは、各々、ダイヤモンド基板101に存在する。貫通転位104aは、マスク材102で覆われていない部分のダイヤモンド基板101の主方位面を介してダイヤモンド薄膜103まで貫通している。一方、貫通転位104bは、マスク材102によってダイヤモンド薄膜103への伝播を遮られている。その結果、ダイヤモンド薄膜の貫通転位密度は低下し、結晶性が向上した。更に、結晶性が向上したことに起因して、不純物及び積層欠陥も低下した。また、マスク材102の直上の部分のダイヤモンド薄膜103に、貫通転位が全くないことが透過型電子顕微鏡による観察から明らかとなった。同観察から、ダイヤモンド薄膜103及びダイヤモンド基板101の結晶方位がそろっており、エピタキシャルな関係が成立していた。
【0020】
ダイヤモンド基板101の主方位面の方位とマスク材102のストライプの方向との組み合わせとして、(001)面を主方位面とし、ストライプの方向は<110>とすることができる。又は、(110)面を主方位面とし、ストライプの方向は<001>、<1−10>、<−111>、あるいは、<1−11>とすることができる。又は、(111)面を主方位面とし、ストライプの方向を<−211>、あるいは、<110>とすることができる。
【0021】
ダイヤモンド基板101の代わりに、シリコン、炭化珪素、イリジウム、あるいは、白金上のヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いることができる。
【0022】
マスク材102としては、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜を用いることができる。または、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜とチタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜との二層膜を用いることができる。
【0023】
図2は、参考例にかかるダイヤモンド薄膜の製造方法を示す。(001)面を主方位面とするダイヤモンド基板101の主方位面にチタン薄膜を真空蒸着法で形成する。図2aに示すように、フォトリソグラフィーにより、ダイヤモンド基板101に<100>方向のストライプ状マスク材102をパターニングする。次に、パターニングされたダイヤモンド基板101をマイクロ波励起化学気相成長装置にセットし、メタンを原料ガス、水素を希釈ガスとしてダイヤモンド薄膜の成長を行う。ここで、基板温度は、600〜850℃とする。図2bに示すように、初期過程において、ダイヤモンド薄膜103は、ダイヤモンド基板101のマスク材102で覆われていない部分の主方位面上で成長する。更に成長を続けたところ、図2cに示すように、ダイヤモンド薄膜103は、ダイヤモンド基板101の主方位面に対して垂直方向にエピタキシャル成長するだけでなく、マスク材102の表面上で横方向エピタキシャル成長する。その後も成長を続けることにより、図2dに示すように、ダイヤモンド薄膜103は、コアレッセンスして連続膜を形成し、マスク材102はダイヤモンド薄膜103で埋め込まれる。ここで、貫通転位104、104a及び104bは、各々、ダイヤモンド基板101に存在する。貫通転位104aは、マスク材102で覆われていない部分のダイヤモンド基板101の主方位面を介してダイヤモンド薄膜103まで貫通する。貫通転位104bは、マスク材102によってダイヤモンド薄膜103への伝播が遮られる。その結果、ダイヤモンド薄膜103の貫通転位密度は低下し、結晶性が向上した。更に、結晶性が向上したことに起因して、不純物及び積層欠陥の密度も低下した。また、ダイヤモンド薄膜103がマスク材102の表面と接していることにより、マスク材102の直上の部分のダイヤモンド薄膜103の貫通転位は全くなかった。
【0024】
ダイヤモンド基板101の主方位面の方位とマスク材102のストライプの方向との組み合わせとして、(001)面を主方位面とし、ストライプの方向は<110>とすることができる。又は、(110)面を主方位面とし、ストライプの方向は<001>、<1−10>、<−111>、あるいは、<1−11>とすることができる。又は、(111)面を主方位面とし、ストライプの方向は<−211>、あるいは、<110>とすることができる。このような組合せとすることによって、横エピタキシャル成長の過程で、例えば、図2に示されるダイヤモンド薄膜103の側面が安定な低指数面となり、横エピタキシャル成長部分の結晶性及び表面平坦性が向上する。逆に、このような組み合わせでないと、横エピタキシャル成長部分の結晶性及び表面平坦性が損なわれるとともに、横エピタキシャル成長部がコアレッセンスしたときに合体部分が欠陥だらけとなる。
【0025】
ダイヤモンド基板101の代わりに、シリコン、炭化珪素、イリジウム、あるいは、白金上のヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いることができる。
【0026】
マスク材102として、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜を用いることができる。チタン、白金、イリジウム、及びタングステンは融点が高く、タイヤモンド薄膜の成長温度でも融解しない。さらに、化学的な耐性も高く、マイクロ波励起化学気相成長装置内でプラズマにさらされてもダメージを受けない。
【0027】
または、マスク材102として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜とチタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜との二層膜を用いることができる。上記のいずれかから成る誘電体と上記のいずれかから成る金属薄膜との二層膜のマスク材102は、金属薄膜だけから成るマスク材102に比べ、ダイヤモンド基板101との接着性が優れている。
【0028】
<実施例>
図3は、本発明の実施例にかかるダイヤモンド薄膜構造を示す。このダイヤモンド薄膜構造は、ダイヤモンド基板101と、ダイヤモンド基板101の主方位面の一部に形成された溝102aと、溝102aを覆うマスク材102bと、ダイヤモンド基板101の主方位面の表面からエピタキシャル成長するダイヤモンド薄膜103とで構成される。ダイヤモンド基板101は、(001)面を主方位面とする。溝102aは、深さ500nmでストライプ形状の溝であり、ストライプの方向は(100)である。ここで、溝の幅は、0.1μmから10mmの範囲で設定でき、溝同士の間隙の幅は0.1μmから100μmの範囲で設定できる。更に、溝の深さは、マスク材102bの厚さより大きければよい。マスク材102bは、厚さ100nmのチタン薄膜である。ダイヤモンド薄膜103は、ダイヤモンド基板101と結晶方位がそろっている。さらに、ダイヤモンド薄膜103は、マスク材102bの上に形成され、マスク材102bと直接接していない。
【0029】
貫通転位104a及び104bは、各々、ダイヤモンド基板101に存在する。貫通転位104aは、溝102a及びマスク材102bで覆われていない部分のダイヤモンド基板101の主方位面を介してダイヤモンド薄膜103まで貫通している。一方、貫通転位104bは、溝102a及びマスク材102bによってダイヤモンド薄膜103への伝播が遮られている。その結果、ダイヤモンド薄膜103の貫通転位密度は低下し、結晶性が向上した。更に、結晶性が向上したことに起因して、不純物及び積層欠陥の密度も低下した。また、溝102a及びマスク材102bの直上の部分のダイヤモンド薄膜103には貫通転位が全くないことが透過型電子顕微鏡による観察から明らかとなった。同観察から、ダイヤモンド薄膜103及びダイヤモンド基板101の結晶方位がそろっており、エピタキシャルな関係が成立していた。また、溝102a及びマスク材102bの直上の部分のダイヤモンド薄膜103は、マスク材102bに直接接していないため、参考例で示したダイヤモンド薄膜よりも更に不純物濃度の低い高品質な結晶であった。
【0030】
ダイヤモンド基板101の主方位面の方位と溝102aのストライプの方向との組み合わせとして、(001)面を主方位面とし、ストライプの方向は<110>とすることができる。又は、(110)面を主方位面とし、ストライプの方向は<001>、<1−10>、<−111>、あるいは、<1−11>とすることができる。又は、(111)面を主方位面とし、ストライプの方向は<−211>、あるいは、<110>とすることができる。
【0031】
ダイヤモンド基板101の代わりに、シリコン、炭化珪素、イリジウム、あるいは、白金上のヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いることができる。
【0032】
マスク材102bとしては、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜を用いることができる。または、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜とチタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜との二層膜を用いることができる。
【0033】
図4は、実施例にかかるダイヤモンド薄膜構造の製造方法を示す。図4aに示すように、(001)面を主方位面とするダイヤモンド基板101の主方位面に、フォトリソグラフィー及びドライエッチング法により、<100>方向のストライプ状の溝102aを形成する。次に、図4bに示すように、チタン薄膜を真空蒸着法で形成し、フォトリソグラフィーにより、ダイヤモンド基板101にストライプ状の溝102aを覆うマスク材102bをパターニングする。次に、パターニングされたダイヤモンド基板101をマイクロ波励起化学気相成長装置にセットし、メタンを原料ガス、水素を希釈ガスとしてダイヤモンド薄膜の成長を行う。ここで、基板温度は、600〜850℃とする。初期過程において、ダイヤモンド薄膜103は、マスク材102bで覆われていない部分のダイヤモンド基板101の主方位面上で成長する。このとき、図4cに示すように、ダイヤモンド薄膜103は、ダイヤモンド基板101の主方位面に対して垂直方向にエピタキシャル成長するだけでなく、マスク材102bの表面上で横方向エピタキシャル成長する。ただし、ダイヤモンド薄膜103は、マスク材102bの表面とは接せずに、分離して横方向エピタキシャル成長する。その後も成長を続けることにより、図4dに示すように、ダイヤモンド薄膜103は、コアレッセンスして連続膜を形成し、マスク材102bはダイヤモンド薄膜103で埋め込まれる。また、貫通転位104、104a及び104bは、各々、ダイヤモンド基板101に存在する。貫通転位104aは、溝102aで覆われていない部分のダイヤモンド基板101の主方位面を介してダイヤモンド薄膜103まで貫通している。一方、貫通転位104bは、溝102a及びマスク材102bによってダイヤモンド薄膜103への伝播が遮られている。その結果、ダイヤモンド薄膜103の貫通転位密度は低下し、結晶性が向上した。更に、結晶性が向上したことに起因して、不純物及び積層欠陥の密度も低下した。また、溝102a及びマスク材102bの直上の部分のダイヤモンド薄膜103には貫通転位が全くないことが透過型電子顕微鏡による観察から明らかとなった。また、同観察から、ダイヤモンド基板101及びダイヤモンド薄膜103の結晶方位はそろっており、エピタキシャルな関係が成立していた。また、溝102a及びマスク材102bの直上の部分のダイヤモンド薄膜103は、マスク材102bに直接接していないため、参考例で示したダイヤモンド薄膜よりも更に不純物濃度の低い高品質な結晶であった。
【0034】
ダイヤモンド基板101の主方位面の方位と溝102aのストライプの方向との組み合わせとして、(001)面を主方位面とし、ストライプの方向は<110>とすることができる。又は、(110)面を主方位面とし、ストライプの方向は<001>、<1−10>、<−111>、あるいは、<1−11>とすることができる。又は、(111)面を主方位面とし、ストライプの方向は<−211>、あるいは、<110>とすることができる。このような組合せとすることによって、横エピタキシャル成長の過程で、例えば、図4に示されるダイヤモンド薄膜103の側面が安定な低指数面となり、横エピタキシャル成長部分の結晶性及び表面平坦性が向上する。逆に、このような組み合わせでないと、横エピタキシャル成長部分の結晶性及び表面平坦性が損なわれるとともに、横エピタキシャル成長部がコアレッセンスしたときに合体部分が欠陥だらけとなる。
【0035】
ダイヤモンド基板101の代わりに、シリコン、炭化珪素、イリジウム、あるいは、白金上のヘテロエピタキシャルダイヤモンドを用いることができる。
【0036】
マスク材102bとしては、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜を用いることができる。チタン、白金、イリジウム、及びタングステンは融点が高く、タイヤモンド薄膜の成長温度でも融解しない。さらに、化学的な耐性も高く、マイクロ波励起化学気相成長装置内でプラズマにさらされてもダメージを受けない。
【0037】
または、マスク材102bとして、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜とチタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜との二層膜を用いることができる。上記のいずれかから成る誘電体と上記のいずれかから成る金属薄膜との二層膜のマスク材102bは、金属薄膜だけから成るマスク材102bに比べ、ダイヤモンド基板101との接着性が優れている。
【符号の説明】
【0038】
101 ダイヤモンド基板
102 マスク材
102a 溝
102b 溝に形成されたマスク材
103 ダイヤモンド薄膜
104 貫通転位
104a 貫通転位
104b 貫通転位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主方位面の一部を覆うマスク材と、
前記基板の主方位面の表面からエピタキシャル成長するダイヤモンド薄膜と
で構成されるダイヤモンド薄膜構造であって、
前記ダイヤモンド薄膜は、前記マスク材の上に形成され、
前記ダイヤモンド薄膜の結晶方位は前記基板の結晶方位とそろっており、
前記基板の主方位面の一部にストライプ状の溝が形成され、
前記マスク材は、前記ストライプ状の溝を覆うように配置されていることを特徴とするダイヤモンド薄膜構造。
【請求項2】
前記マスク材は、前記基板上に積層されることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項3】
前記マスク材は、前記基板上でストライプ状に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項4】
前記基板は(001)面を主方位面とする結晶基板であり、前記マスク材の配置方向が<100>、又は、<110>のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項5】
前記基板は(110)面を主方位面とする結晶基板であり、前記マスク材の配置方向が<001>、<1−10>、<−111>、又は、<1−11>のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項6】
前記基板は(111)面を主方位面とする結晶基板であり、前記マスク材の配置方向が<−211>、又は、<110>であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項7】
前記マスク材は、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかの金属薄膜から成ることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項8】
前記マスク材は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、あるいは、酸化チタンのいずれかから成る誘電体薄膜と、チタン、白金、イリジウム、あるいは、タングステンのいずれかから成る金属薄膜の二層膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のダイヤモンド薄膜構造。
【請求項9】
結晶基板にストライプ状の溝を形成する工程と、
前記ストライプ状の溝を覆うストライプ状のマスク材を配置する工程と、
前記結晶基板と所定の方位関係をとってダイヤモンド薄膜を横方向エピタキシャル成長
させる工程と
を含むことを特徴とするダイヤモンド薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157268(P2011−157268A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51756(P2011−51756)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【分割の表示】特願2009−70425(P2009−70425)の分割
【原出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「ダイヤモンド・高周波電力デバイスの開発とマイクロ波・ミリ波帯電力増幅器への応用の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】