テラヘルツ光を用いた紙葉類の検査方法および検査装置
【課題】紙葉類、たとえば紙幣の厚みを非接触で検出したり、紙幣にテープ等の異物が貼られていることを非接触で検査できる方法および検査装置が望まれていた。
【解決手段】この発明では、紙幣14の厚さを非接触で検査するのに、テラヘルツ光12を用いる。テラヘルツ光12は、紙幣14の厚さの数分の1〜数倍の波長のものを使用する。テラヘルツ光12を紙幣12の片面側141から照射し、紙幣14の表面141および裏面142で反射されるテラヘルツ反射光121、124を検出する。検出したテラヘルツ反射光は、表面で反射された反射光121および裏面で反射された反射光124を含んでいるから位相差を有する。そして位相差は干渉の強さとして検知できる。その結果、紙幣の厚さを正しく、非接触で検出することができる。
【解決手段】この発明では、紙幣14の厚さを非接触で検査するのに、テラヘルツ光12を用いる。テラヘルツ光12は、紙幣14の厚さの数分の1〜数倍の波長のものを使用する。テラヘルツ光12を紙幣12の片面側141から照射し、紙幣14の表面141および裏面142で反射されるテラヘルツ反射光121、124を検出する。検出したテラヘルツ反射光は、表面で反射された反射光121および裏面で反射された反射光124を含んでいるから位相差を有する。そして位相差は干渉の強さとして検知できる。その結果、紙幣の厚さを正しく、非接触で検出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の枚数検出、紙葉類に貼られたテープなどの異物検出、紙葉類の損傷度、紙葉類の断面構造等の検査を行うための検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙葉類(紙幣、商品券、証券類、免許証、クレジットカードなど)の厚さを検出する方法として、主に次の2つの方法が実用化されている。1つは、紙葉類に光を照射して透過光量の減衰量を検出する方法である。もう1つは、1対のローラーにより紙葉類を挟んで搬送し、ローラーの変位を検出する方法である(たとえば特許文献1、2、3参照)。
前者の光の透過光量の減衰量により紙葉類の「厚さ」を検査する方法は、図12に示すように、光源1からの光を紙葉類2に照射し、紙葉類2を透過した透過光量を受光センサ3により測定する方法である。光源1としては、通常LEDが用いられ、受光センサ3としては通常フォトダイオードが用いられる。
【0003】
ところが、この透過光量の減衰量により紙葉類の厚さを検査する方法は、紙葉類への添加物により透過光量が変化するので、正しく厚さを測定できないという問題がある。
すなわち、元来、紙葉類等の印刷物は光の反射で表面の印刷内容を確認するように設計されている。紙葉類である紙自身は「白く」見えるようにカオリン、二酸化チタンなどが添加されている。その結果、紙自身は紫外〜近赤外の光は反射し易く透過しにくい性質を有している。一方、紙に印刷された文字、図形等を表示しているインクは紫外〜近赤外領域において光を吸収したり反射したりする。つまり、インクの有無等が透過光量を変化させるので、紙葉類を透過する光量を測定するやり方では、紙葉類の厚さを正しく測定できないという課題がある。
【0004】
また、カード類、分厚い紙、ダンボール程度の厚さの紙等の紙葉類は、紫外〜近赤外光は透過しにくいので、上記の検査方法は、これら厚い紙葉類の厚さ検出には利用できない技術である。
さらに、紙葉類の厚さ自身を測定しているのではなく、紙葉類の厚さを透過光量で代用している技術であるから、紙葉類の汚れにより透過光量が変わると、誤検知につながるおそれがある。
【0005】
後者のローラーの変位を検出する方法、すなわちメカ式検出方法は、図13に示すように、紙葉類2を一対のローラー4a、4b間に挟み、ローラー4a、4bの少なくとも一方の変位量を検出する方法である。ローラー4aまたは4bの変位は角度センサ、変位センサ等で検出する。通常は、一対のローラー4a、4b間の距離dを検出する。
ところで、このメカ式検出方法はローラー4a、4bで紙葉類2を挟むことが前提である。従って、紙葉類2の厚みを非接触状態で検出することは不可能である。紙葉類2とローラー4a、4bとが接触するため、紙葉類2が損傷を受ける可能性がある。また、紙葉類2にテープ等の異物が貼られている場合、その異物によってローラー4aまたは4bが変位し、誤った厚みを測定することも考えられる等の課題がある。
【0006】
ところで、電磁波利用において未開拓と言われていたテラヘルツ領域(電波と赤外の間の領域)の電磁波、すなわちテラヘルツ電磁波(この明細書ではテラヘルツ光と称する)による分光・計測技術が近年開発されつつある。
たとえば、特許文献4にはコヒーレントなテラヘルツ波(テラヘルツ光)を用いた金属の表面形状検査装置が提案されている。
【0007】
また、テラヘルツパルス光を使って媒体の「厚み」を検出する方法が発表されている。 この方法は、図14に示すように、パルスレーザーを用いてテラヘルツパルス光を作り、その光を媒体5に照射し、媒体5を透過した後のテラヘルツパルス光が受けた位相の変化を検出する方法である。媒体5が屈折率nであるとき、位相は(2×π×n×d)/λ遅れる。但し、dは媒体5の厚さ、λは波長である。よって、媒体5を透過する前後のテラヘルツパルス光のパルス波形の変化から、媒体5の厚さを推定することができる。
【0008】
しかしながら、このテラヘルツパルス光を用いる測定方法では、テラヘルツパルス光を作るためにフェムト秒レーザが必須である。このフェムト秒レーザは、現時点では、非常に高価で取り扱いが困難な装置である。また、この測定法では、1000ステップ程度の時間遅延装置(光路長を1000回程変えて時間波形を取り込み、振幅を求めるための装置)が必要であり、しかも光路長を変えるために、反射鏡等を機械的に動かす必要がある。このため、装置構成が非常に複雑になる。また、測定に時間を要するという課題もある。
【特許文献1】実公平6−11992号公報
【特許文献2】実用新案登録第2580615号公報
【特許文献3】特許第2807073号公報
【特許文献4】特許第3940336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、近年研究および開発が進んできているテラヘルツ光を利用して、従来の紙葉類の厚さ検出装置が有していた上述の課題を解決した、新たな紙葉類の検査方法および装置を提供することを主たる目的とする。
この発明は、具体的には、テラヘルツ光を検査対象物である紙葉類に照射し、反射光を検出して、その特性を検知することにより、紙葉類の厚さ、紙葉類の枚数、紙葉類にテープ等の異物が存在するか否か等を検出し、また、紙葉類の損傷度、紙葉類の断層構造等を検査する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出することを特徴とする紙葉類の検査方法である。
【0011】
請求項2記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0012】
請求項3記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類の表面と裏面との平行度を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0013】
請求項4記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0014】
請求項5記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記紙葉類に対して照射するテラヘルツ光の波長を変化させ、前記検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知することにより紙葉類の断層構造を検出することを特徴とする紙葉類の検査方法である。
【0015】
請求項6記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射する放射素子と、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出素子と、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出する処理装置と、を含むことを特徴とする紙葉類の検査装置である。
【0016】
請求項7記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動させる紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、前記処理装置は、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置である。
【0017】
請求項8記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類が表面と裏面との平行度を損なっていることを検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置である。
【0018】
請求項9記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて、紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査方法である。
【0019】
請求項10記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を、その波長を一定範囲で変化させながら紙葉類に対して照射する放射素子と、前記放射素子により照射されるテラヘルツ光が紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出器と、前記検出器が検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知して前記紙葉類の断層構造を検出する処理装置と、を含むことを特徴とする紙葉類検査装置である。
【0020】
検査に用いるテラヘルツ光は、たとえば、第1周波数の第1レーザー光と、第2周波数の第2レーザー光との周波数差に基づく任意の周波数のテラヘルツ光を発生させて使用することが好ましい。
前記検査用テラヘルツ光は、連続した単一周波であるコヒーレント光であることが好ましい。また、前記検査用テラヘルツ光として、周波数の異なる複数の検査用テラヘルツ光を用いることもできる。
【0021】
また、検査対象である紙葉類は、紙葉類保持装置にセットされる。セットされた状態で、紙葉類の一面にテラヘルツ光が照射されると、テラヘルツ光の一部は紙葉類の一面で反射され、一部は一面から紙葉類内へ進入し、紙葉類の他面で反射されて紙葉類内を戻り、紙葉類の一面から一部の光が反射光として出る。それゆえ、検出素子は、紙葉類の一面(表面)で反射されたテラヘルツ反射光と紙葉類の他面(裏面)で反射されたテラヘルツ光とを検出する。2種類のテラヘルツ反射光には、紙葉類内を厚み方向に往復したかしなかったかの違いがあり、この違いは位相差として表われる。よってテラヘルツ反射光を検出し、その位相差により生じるテラヘルツ反射光の干渉の強さを検知することにより、紙葉類の厚さを検出することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、紙葉類の「厚さ」が検出できる。その結果、紙葉類の枚数を検知することができる。
またこの発明によれば、紙葉類の「厚さ」の変化を検出することができる。よって、紙葉類に貼られているテープなどの異物検出が的確に行える。
この発明によれば、さらに、紙葉類の損傷度を検出することができる。損傷度とは、紙葉類の凹凸、折り曲げ、表面と裏面の平行度等である。
【0023】
この発明によれば、さらに紙葉類の断層構造を確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下には、この発明につき具体的に説明をする。
<発明の原理・概要>
(1)この発明の検査対象は紙葉類(紙幣、有価証券、証拠証券その他の紙類、免許証、クレジットカードその他のカード類など)である。そして紙葉類の厚さ、損傷度、断面構造等を検査するものである。紙葉類の厚さ検査には、紙葉類の枚数検出、紙葉類に貼着されたテープ等の異物検出が含まれる。
(2)検査にはテラヘルツ光を用いる。
【0025】
a)この明細書で、テラヘルツ光とは、波長が25μm〜10mm(=周波数が12THz〜30GHz)の電磁波および光の双方の性質を有する周波数帯域の電磁波のことをいう。テラヘルツ光は、テラヘルツ波、テラヘルツ電磁波などと称される場合もあるが、この明細書では、テラヘルツ光と称する。
b)使用するテラヘルツ光の波長は、検査対象である紙葉類の厚さと相関する。紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長(50μm〜2mm)のテラヘルツ光を用いる。検査の感度が良いからである。 c)使用するテラヘルツ光は、連続波(CW Continuous Wave)であって、単一周波数のコヒーレント光が好ましい。
(3)図1に、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
【0026】
テラヘルツ光放射素子11は30GHz〜12THzのテラヘルツ光を放射(照射)する。このテラヘルツ光12は、検査対象である紙葉類14の一面141へ照射される。テラヘルツ光12の入射角度は、一面141に対して角度φ1(0≦φ1<(π/2)(単位はラジアン))である。垂直入射であればφ1=0である。
テラヘルツ光は、乾性の物質を透過し易い性質を有するので、紙葉類14を透過し易く、紙葉類14での吸収による影響を受けにくい。かかる性質のテラヘルツ光12は、その一部が紙葉類14の一面141で反射されてテラヘルツ反射光121となる一方、その一部122は紙葉類14内へ進入する。そして進入したテラヘルツ光122の一部は紙葉類14の他面142で反射され、テラヘルツ反射光123は紙葉類14内を戻り、一面141から外部へテラヘルツ反射光124として出力される。紙葉類14内へ進入したテラヘルツ光122の一部は、他面142から外側へ透過するテラヘルツ透過光125となる。さらに、紙葉類14内を戻るテラヘルツ反射光123の一部は、紙葉類14の一面141で再反射され、反射光126となって紙葉類14内を進み、その一部は紙葉類14の他面142で再反射されて反射光127となり、一面141から外部へテラヘルツ反射光128として出力される。さらに、反射光126の一部は他面142から外側へ出力されるテラヘルツ透過光129となる。
【0027】
このように、紙葉類14へ入射するテラヘルツ光12は、紙葉類14の一面141および他面142で多重反射し、一面141側から少なくともテラヘルツ反射光121および124が出力される。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124はテラヘルツ光検出素子16で検出される。
テラヘルツ光検出素子16で検出されるテラヘルツ反射光には、上述した通り、紙葉類14の一面(表面)141で反射された第1反射光121および他面(裏面)142で反射された第2反射光124の2種類が含まれている。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124は、紙葉類14内を厚さd方向に往復したか否かの違いを有し、この違いは2種類のテラヘルツ反射光121、124の位相差となる。そして、位相差のある2種類のテラヘルツ反射光121、124は干渉しあうので、その干渉の強さまたは振幅反射率を検知する。検知した干渉の強さまたは振幅反射率は、位相差と相関しており、その位相差は紙葉類14の厚さと相関関係があるので、紙葉類14の厚さを検出できるのである。
【0028】
周波数から厚さを求める方法を図1を参照して、より具体的に説明する。
テラヘルツ光を紙葉類14に照射した場合、紙葉類14の表面と裏面の間隔(光学的厚さ)をn・dとすると、mを自然数とした場合、波長(周波数)がλ=(2*n・d)/mの光の定在波が立つ。定在波では紙葉類14の表面、裏面を往復する光が位相が合う時に強くなり、逆の場合が弱め合う。ここで、nは紙葉類14の屈折率、dは紙葉類14の物理厚さである。
【0029】
従って、m=1の場合、d=λ/(2・n)になる。周波数間隔が1THzの場合、波長に換算すると300μmであり、d=100μmになる。周波数間隔が0.5THzの場合、波長に換算すると600μmであり、d=200μmになる。
よって、反射スペクトルを計測して、ピーク間隔、ディップ間隔を求めることは、定在波が立つ紙葉類14の厚さを求めることになり、紙葉類14の厚さを知ることができる。
【0030】
さらに、別の観点からも説明する。
図1において、
紙葉類14の一面141が対向する側(空気)の複素屈折率をn0 、
紙葉類14自体の複素屈折率をn1 、厚さをd、
紙葉類14の他面142が対向する側の複素屈折率をn2 、
とすると、振幅反射率rは一般的には下記の式(1)で表わされる。
【0031】
【数1】
【0032】
上記式(1)において、r01、r12はそれぞれ反射のフレネルの公式であり、次式(2)(3)で表わされる。また、紙葉類14の光学厚さはn1 ・dであり、紙葉類14の表面141での反射光121と裏面142での反射光124との位相差δ1は、下記の式(4)′(4)で表わされる。
なお、フレネル係数の複素屈折率=n−i・k(実屈折率−i・消衰係数)であるが、透明体として計算する時は、吸収が無いので、k=0としてもよい。この発明が対象としている紙葉類は、波長程度の厚さであり、吸収が無いもの(薄膜)として扱えるのでk=0として計算している。吸収がある場合は消衰係数を含めた複素屈折率で扱えばよい。なお、iは虚数である。
【0033】
【数2】
【0034】
以上の式(1)〜(4)により、複素屈折率n0 、n1 、n2 が一定の値のとき、振幅反射率rが周波数および厚さの関数となるから、所定周波数のテラヘルツ光を用い、その振幅反射率を検出することによって、紙葉類14の厚さの変化が検出できることになる。 なお、以下に例示する計算例では、紙葉類14が空気中に浮かんでいる状態をイメージし、屈折率n0 =n2 =1として計算を行った例を説明している。
【0035】
しかし、実際に紙葉類14の厚みを検査する場合、紙葉類14がたとえば樹脂製、金属製等の板に押し当てられた状態で検査されることが考えられる。あるいは、紙葉類14が透光性の樹脂表面板および裏面板間に挟まれるように保持された状態で検査されることが考えられる。
かかる場合は、n2 を樹脂板の屈折率(たとえばn2 =2〜3程度)等として計算すればよい。また、紙葉類14の表面側を上述のようにたとえば透光性の樹脂板でカバーしたときは、n0 =1ではなく、n0 を樹脂板の屈折率にして計算すればよい。
【0036】
上記式(1)〜(4)に基づく具体的な計算例を以下に説明する。
<計算例1>
波長600μm(周波数0.5THz)のテラヘルツ光12を用い、厚さd=100μm、屈折率n1 =1.5の紙葉類14が空気中にある場合(空気の屈折率n0 =n2 =1)で、テラヘルツ光12が紙葉類14に対して垂直入射する場合の計算例を示す。
【0037】
上記式(4)から
【0038】
【数3】
【0039】
これらを上記式(1)に代入すると、
【0040】
【数4】
【0041】
一方、紙葉類14の厚さd=200μmの場合には、次の計算結果になる。
【0042】
【数5】
【0043】
よって、紙葉類14の厚さdがd=100μmとd=200μmとの差を検出することができる。
すなわち、波長600μm(周波数0.5THz)のテラヘルツ光12で、紙葉類14の厚さdを検出する場合、d=100μmのときには、振幅反射率r100 =0.42が得られ、d=200μmのときには、振幅反射率r200 =0となる。よって、紙葉類14が、たとえば1枚であるか(100μm)、2枚重なった状態であるか(200μm)を、振幅反射率に基づいて明確に判別することができる。
【0044】
また、所定の周波数のテラヘルツ光を用いて振幅の大きさを測定し、基準値として比較することによって、紙葉類の表面や裏面に貼られた異物の存在を検出することができる。<計算例2>
検査する紙葉類14の厚さdが一定で、検査に用いるテラヘルツ光12の周波数を可変した場合の周波数特性(スペクトル)の計算例を次に示す。
【0045】
図1に示す検査原理の構成において、検査対象である紙葉類14の厚さdがd=0.1mm(ドル札1枚相当)と、d=0.2mm(ドル札2枚相当)の反射における振幅および周波数を上記式(1)〜(4)で求めた結果を、図2に示す。図2に示す計算結果は、検査に用いるテラヘルツ光12の周波数を0.1THzから3THzまで変化させたものであり、変化の周波数ピッチは0.001THzとした。
【0046】
図2において、横軸はテラヘルツ光12の周波数を示し、縦軸は反射光の振幅(任意単位)を示している。図2から、検査対象である紙葉類12の厚さdがd=0.1mmの場合は、周波数が0.5THz、1.5THzおよび2.5THzにおいて振幅のピークが生じている。すなわち、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差Δf1 は1.0THzである。
一方、紙葉類2の厚さd=0.2mm(ドル札2枚重ねに相当)の場合は、テラヘルツ光12の周波数が0.25THz、0.75THz、1.25THz、1.75THz、2.25THzおよび2.75THzにおいて振幅が最大になっている。よって、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差Δf2 は0.5THzである。
【0047】
このように、検出に用いるテラヘルツ光12の周波数を可変することにより、測定対象である紙葉類14の厚さdの差が振幅のピーク間周波数差として現れる。よって、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差を求めることにより、紙葉類14の厚さdを検出することができる。また、ピーク間周波数差に代え、テラヘルツ反射光のディップ間周波数差(振幅の谷と谷との間の周波数)を求めることによっても、紙葉類14の厚さdを検出することができる。
<計算例3>
図3(A)(B)は、反射スペクトルを逆フーリエ変換して断層情報を計算して得たグラフである。すなわち、図3(A)(B)は、共に、前述した式(1)〜(4)に基づいて、周波数をたとえば0.1THzから10THzまで5GHzピッチで動かして紙葉類の反射強度を求め、得られた反射スペクトルを逆フーリエ変換を行い、断層データに変換した例である。
【0048】
計算においては、図4(A)(B)のモデルを使用した。図4(A)は単層の場合のモデル、図4(B)は2層の場合のモデルである。図4(A)(B)に示すように、いずれの場合も、紙葉類14(または紙葉類14a)の表面が基準面から0.1mm離れたところに置いた計算を行った。
なお、サンプル(被検査物)としての紙葉類14は、その厚さが0.1mm、屈折率1.5とした。また、2層の場合は、サンプル(被測定物)としての紙葉類14aは、その厚みが0.1mm、屈折率1.5、紙葉類14bは、その厚みが0.2mm、屈折率2.0とした。
【0049】
図3(A)(B)において、実線は反射光のみの場合を示しており、破線は反射光+参照光の場合を示している。反射光のみの場合は、基準面の上方で受光するとして、基準面(空中に設けた位置)とサンプル(被測定物)としての紙葉類14(または14a)の表面との位置関係を知るのが難しい。それに対して、参照光を使った場合は、参照光の反射位置は固定されており、サンプルからの反射光および参照光用ミラーからの反射光が干渉した光を検出することから、参照光によって表面位置がわかる。
【0050】
図3(A)(B)のグラフにおいて、実線で示す反射光のみの場合と、破線で示す参照光ありの場合とは、深さ方向(横軸方向)に位置がずれているのは、反射光のみの場合は基準面とサンプルの表面との位置関係を知るのが難しいことに基づくものである。
なお、参照光については、後述する図5、図6および図7を参照して詳述するが、図3(A)(B)のグラフを理解するのに必要な説明を、ここでも簡単に行っておく。
【0051】
参照光は、図5において、参照光用ミラー32で反射される光である。図5に示すように、テラヘルツ光の放射素子(PCアンテナ21)から放射された光は、ビームスプリッタ25で分けられ、参照光用ミラー32と対象物27にそれぞれ照射され、それぞれからの反射光が検出素子(PCアンテナ22)上で重ね合わされた反射光として検出される。その重ね合わされた反射光は、位相が固定された参照光用ミラー32からの反射光と、位相が未知の対象物27からの反射光とが重なり合った信号である。つまり、参照光用ミラー32からの反射光が、絶対基準として入った反射スペクトルになるので、深さ方向(断層データ)が正しく得られるのである。
【0052】
もっとも、深さ情報を得るためには、参照光を利用せず、反射光の位相を調べることによっても可能である。つまり、反射強度のスペクトルから深さ方向の情報を得るには、参照光という絶対的な位相を持った光と、対象物からの反射光との干渉結果を得て、そのスペクトルから逆フーリエ変換を行い時間領域(距離領域)に変換して得る方法以外に、参照光を利用しないで、対象物からの反射光を得るときに位相情報も検出することにすれば、断層データを正しく得ることができる。
【0053】
図3(A)のグラフは、図4(B)の単層モデルを用いた計算結果であり、横軸は深さ方向の距離(mm)、縦軸はテラヘルツ反射光の反射強度を示している。そして実線は反射光のみの場合であり、破線は参照光がある場合を示している。参照光がある場合は、破線で表わされたグラフに示されるように、深さ方向に0.1mmおよび0.25mmに反射強度のピークが現れている。0.1mmのピークは紙葉類14の表面の位置を示しており、0.25mmのピークは紙葉類14の裏面の位置を示している。そして2つのピーク間距離が、紙葉類14の厚さ(光学厚さ)を示している。光学厚さは、n・d(nは屈折率、dは物理厚さ)であるから、n・d=1.5×0.1=0.15(mm)であり、正しい光学厚さが示されている。
【0054】
このように、参照光という絶対基準があるため、基準面からの紙葉類14までの表面位置が正確に現れている。
一方、実線で示す反射光のみの場合は、最初のピークが、深さ方向に0.15mmに現れ、次のピークは0.3mmに現れている。深さ方向の位置は、基準面からの距離であり、反射光の強度のみの情報では表面位置が不正確である。しかし、第1のピークおよび第2のピークのピーク間距離は、紙葉類14の厚さを示しており、この厚さは光学厚さ0.15mmとなっていて、正確に検出されていることがわかる。
【0055】
図3(B)に示す2層モデルの計算結果のグラフにおいても、同様のことがわかる。
すなわち、図3(B)において、破線で示す参照光ありの場合のグラフによれば、深さ方向0.1mmに第1のピーク(図4(B)の紙葉類14aの表面)が現れ、深さ方向0.25mmに第2のピーク(図4(B)の紙葉類14aの裏面と紙葉類14bの表面との界面)が現れ、深さ方向0.65mmに第3のピーク(図4(B)の紙葉類14bの裏面)が現れていて、断層データが獲得できている。
【0056】
一方、実線で示す反射光のみの場合も、第1層の表面、界面、第2層の裏面がピークとして現れており、それらの間隔は紙葉類14a,14b(図4(B)参照)の光学厚さを示している。しかし、絶対基準がないので、各ピークの深さ方向の位置(基準面からの距離)は正しい距離にはなっていない。
【実施例】
【0057】
図5に、この発明の一実施例に係る紙葉類検査装置の構成ブロック図を示す。
この実施例の検査装置20は、テラヘルツ光放射素子としての放射用フォトコンダクティブアンテナ(以下「PCアンテナ」と称する。)21およびテラヘルツ光検出素子としての検出用PCアンテナ22を備えている。放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光S1は、放物面鏡23で反射され、ワイヤーグリッド24を通り(S2)、ビームスプリッタ25を透過し(S3)、放物面鏡26で反射されて検査対象である紙葉類(サンプル)27の表面(一面)へ垂直入射する(S4)。すなわち、放射用PCアンテナ21から照射されるテラヘルツ光は、S1、S2、S3、S4という第1光路を通り紙葉類27へ放射される。
【0058】
紙葉類27で反射されたテラヘルツ光(以下「テラヘルツ反射光」という)R1は、放物面鏡26で反射されてビームスプリッタ25へ与えられ(R2)、ビームスプリッタ25からワイヤーグリッド28を通って放物面鏡29で反射され(R3)、検出用PCアンテナ22で検出される(R4)。すなわち、テラヘルツ反射光は、R1、R2、R3およびR4という第2光路を通り検出用PCアンテナ22で検出される。
【0059】
なお、テラヘルツ光の放射素子、検出素子は、PCアンテナに限定されるものではなく、EO結晶(非線形光学結晶)、ガンダイオード、ショットキーバリアダイオード等を用いることもできる。
検査対象である紙葉類27は、サンプルステージ30にセットされている。サンプルステージ30は、紙葉類27を予め定める状態に保持し、紙葉類27の一面(表面)の所定の領域にテラヘルツ光が垂直に照射されるようにする。そして紙葉類27を面方向に移動させ、紙葉類27の任意の領域をテラヘルツ光を用いて検査できるように移動制御するものである。
【0060】
なお、紙葉類27をセットして移動制御する装置は、ステージに限定されるものではなく、製紙機械、印刷機械等におけるローラー間に紙葉類を挟んで移動させる構成と同等の構成であってもよい。
検査装置20には、前述した第1光路および第2光路に加えて、参照光路が備えられている。放射用PCアンテナ21から放射されたテラヘルツ光S1,S2は、その一部がビームスプリッタ25で分離され、分離されたテラヘルツ光S5は放物面鏡31で反射され(S6)、参照光用ミラー32へ垂直に照射される。そして参照光用ミラー32で反射されたテラヘルツ反射光R5は、放物面鏡31で反射され、ビームスプリッタ25およびワイヤーグリッド28を透過して(R6)、放物面鏡29で反射されて検出用PCアンテナ22で検出される(R7)。
【0061】
参照光用ミラー32は遅延ステージ33に装着されており、その遅延方向(光路長が変わる方向)の位置、すなわち放物面鏡31との距離が可変できるようにされている。
この実施例の検査装置20において、放射用PCアンテナ21が放射するテラヘルツ光は、次のようにして生成される。
波長固定レーザ40および波長可変レーザ41の2つのレーザが備えられている。波長固定レーザ40は、たとえば780nmのレーザ光を出力する。一方、波長可変レーザ41は出力するレーザ光の波長を可変することができ、この実施例ではたとえば782nmのレーザ光を出力する。波長固定レーザ40から出力される波長780nmのレーザ光は光アイソレータ42から光ファイバ43を経由してレーザ増幅器44へ与えられる。波長可変レーザ41から出力される波長782nmのレーザ光は光アイソレータ45から光ファイバ43を経由してレーザ増幅器44へ与えられる。なお、光ファイバ43にはテラヘルツ光の周波数を確認するために、モニタ用光スペアナ46が接続されていてもよい。
【0062】
レーザ増幅器44で増幅された各レーザ光は光アイソレータ47を経由して光ファイバ48へ導かれ、放射用PCアンテナ21へ与えられる。放射用PCアンテナ21では、波長780nmのレーザ光と波長782nmのレーザ光の周波数の差、すなわち約1THzのレーザ光が混合される。この際、放射用PCアンテナ21の電極にバイアス電源回路49によってバイアス電圧を印加する。これにより、放射用PCアンテナ21は1THzのテラヘルツ光を放射する。上述の構成であるから、波長可変レーザ41のレーザ光の波長を変化させれば、放射するテラヘルツ光の周波数を任意の周波数にすることができる。また、段階的に順次変化させることができる。
【0063】
なお、バイアス電源回路49は、パソコン61からD/A変換回路62を介して与えられる信号により制御されている。
光アイソレータ47から別の光ファイバ50によってレーザ光が誘導され、そのレーザ光は光遅延装置51を経由して検出用PCアンテナ22へ与えられる。光遅延装置51は反射ミラー52、53およびリトロリフレクタ54を有している。リトロリフレクタ54は遅延ステージに搭載されている。光遅延装置51により、放射用PCアンテナ21に与えられるレーザ光に比べて検出用PCアンテナ22に与えられるレーザ光を所定位相だけ遅延させることができる。これにより、検出されるテラヘルツ反射光の振幅および位相を検知している。
【0064】
検出用PCアンテナ22では、紙葉類27で反射されたテラヘルツ反射光R4および参照光用ミラー32で反射されたテラヘルツ反射光R7を検出する。また、検出用PCアンテナ22は、その電極が光遅延装置51を経由して与えられる時間遅れを生じているレーザ光により励起される。これにより、検出用PCアンテナ22では、検出したテラヘルツ光R4、R7の強度に応じた電流が発生する。その発生する電流は、電流−電圧変換のプリアンプ56により電圧に変換される。そしてこの変換された電圧は、DCカット回路57、バンドパスフィルタ58、ゲイン調整用アンプ59およびA/D変換回路60を通って制御装置としてのパソコン61に取り込まれる。パソコン61は、検出したテラヘルツ反射光の位相差による振幅変化・振幅反射率などを演算し、処理する処理装置である。
【0065】
なお、図5に示す構成ブロックにおいて、テラヘルツ光S2を分離するビームスプリッタ25、放物面鏡31および参照光用ミラー32が省略された構成とし、参照光をなくして反射率のみを測定する構成としてもよい。
図6に、図5の構成において、参照用ミラー32を備える場合と、備えない場合との構成の違いを、図解的に示す。
【0066】
図6の(A)は参照光用ミラー32を備えない場合の構成例である。この場合は、テラヘルツ光放射素子としての放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光Sは対象物である紙葉類27へ照射され、紙葉類27の表面271および裏面272で反射され、テラヘルツ反射光Rはテラヘルツ光検出素子としての検出用PCアンテナ22で検出される。これにより、紙葉類27の厚さ方向の情報を特性情報として検出できる。
【0067】
一方、参照光用ミラー32を具備した構成は、図6の(B)となる。この構成では、検出用PCアンテナ22によりテラヘルツ反射光Rに加えて参照光が検出され、その干渉出力を検出することができる。これにより、紙葉類27の深さ方向の情報が詳細に得られるという効果がある。
図7(A)に示すように、紙葉類27を保持する保持部材に、表面が鏡面加工された金属板64を用い、金属板64に検査窓65が開口されていて、検査窓65を通して紙葉類27にテラヘルツ光が照射される構成としてもよい。この場合、金属板64を図7(A)において紙葉類27と共に移動させることにより、放射用PCアンテナ21から照射されるテラヘルツ光を金属板64および紙葉類27に照射することができ、それぞれからのテラヘルツ反射光を検出することができる。そして、金属板64の反射光の光強度を基準値とし、紙葉類の反射光の光強度と比較することにより、反射率を求めることができる。
【0068】
なお、図7(A)に示すように、金属板64の裏面側に対象物である紙葉類27を載置する構成に代えて、図7(B)に示すように、金属板64の表面側に対象物である紙葉類27を載置する構成とすることも可能である。
この実施例の検査装置20は、図5に示す構成を具備しているので、紙葉類27としてたとえば紙幣を例にとると、次の検査が可能である。
(1)紙幣の複数枚搬送の検査(搬送される紙幣が1枚か、2枚かを検出できる。)
(2)紙幣の厚さの検出
(3)紙幣の「透かし」の有無の検出
(4)紙幣の表面または裏面に貼り付けられた異物(テープの付着など)の検出
(5)紙幣の品質管理(平行度、平坦度、皺、傷みの有無の検出)
この実施例は、上述の(1)〜(5)の検査を、非接触で、かつ紙幣の片面へテラヘルツ光を照射し、その反射光を検出することにより行える。
【0069】
また、放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光として、単一周波数のコヒーレント光の連続波を用いることにより、上述した各種の検査ができる。
また、マルチ周波数(複数の周波数のテラヘルツ光)を用いて紙葉類の検査を行うこともできる。
さらに、テラヘルツ光の周波数を変化させ、スペクトル情報を得ることによって、紙葉類のより正確な厚さ等を検出できる。
【0070】
以下に、上述した(1)〜(5)の検査の仕方について、個別に、具体的に説明をする。
(1)紙幣の複数枚搬送の検査について:
図8は、紙幣の複数枚搬送の検査(搬送される紙幣が1枚か、2枚か、3枚かを検出する検出方法)を説明するための図である。
【0071】
図8(A)は、窓付金属板ステージ70の裏面上に3枚の紙幣72a、72b、72cが互いにずれて重なった状態で載置され、搬送される場合を表わす図解的な側断面図である。また、図8(B)は、図8(A)の構成の図解的な平面図である。金属板ステージ70の表面71は鏡面状態の反射面となっており、照射されるテラヘルツ光をほぼ100%を反射する。
【0072】
図8(C)は、図8(A)(B)に対してテラヘルツ光が上方から照射され、反射されるテラヘルツ反射光を検出して、その反射強度を表示したグラフである。より具体的には、図8(A)(B)に示されるように、窓付金属板ステージ70の裏面に紙幣72a、72b、72cが積層して載置されている状態で、窓付金属板ステージ70の表面71側からテラヘルツ光を照射する。そして、テラヘルツ光の照射位置を図8(A)(B)のたとえば左側から右側へと移動させ、その時に得られたテラヘルツ反射光を検出し、検出強度を示したものが図8(C)のグラフである。測定に用いた紙幣72a、72b、72cの厚みは0.1mmであり、0.5THzのテラヘルツ光を照射した。
【0073】
図8(C)のグラフにおいて、横軸は測定方向(走査方向)であり、図8(A)(B)のたとえば左側から右側への位置の移動を示している。縦軸は反射強度(検出されたテラヘルツ反射光の反射振幅を窓付金属板ステージ70の表面71の反射振幅で割ったもの)が示されている。
図8(C)の反射強度のグラフから、窓付金属板ステージ70に載置された紙幣が、紙幣72aが1枚だけの場合と、紙幣72a、72bが2枚重ねになっている状態とで、反射強度が0.4または0.2と明らかに違っていることが理解できる。よって、窓付金属板ステージ70に載置されて搬送される紙幣が、1枚か2枚かを検出できることがわかる。
【0074】
一方、窓付金属板ステージ70に載置された紙幣が3枚重ねになっている場合にも、検出されたテラヘルツ反射光の反射強度は約0.4を示す。このため、0.5THzのテラヘルツ光を用い、反射強度を検出するだけでは、紙幣が1枚か、3枚重なっているかを識別することができないことがわかる。
図8(D)は、窓付金属板ステージ70の裏面に載置された紙幣の厚さと、検出されるテラヘルツ反射光の振幅との関係を示すグラフである。図8(D)において横軸は紙幣の厚さ(紙幣の重複枚数)を示し、縦軸は検出されたテラヘルツ反射光の振幅を示している。窓付金属板ステージ70の裏面に載置された紙幣72a、72b、72cは、その厚さが0.1mmであるから、1枚の場合は0.1mm、2枚重なっていれば0.2mm、3枚重なっていれば0.3mmである。図8(D)のグラフにおいて、実線は0.5THzのテラヘルツ光を使用した場合の振幅であり、1点鎖線は0.3THzのテラヘルツ光を使用した場合の振幅を示している。
【0075】
図8(D)に示されるように、0.5THzのテラヘルツ光を用いた場合、テラヘルツ反射光の振幅が0.1mm、0.3mmでピークとなり、0.2mmでディップとなっている。よって、検出されたテラヘルツ反射光の振幅に基づき、搬送される紙幣が1枚か、2枚かを検出することができる。
この場合でも、搬送される紙幣が1枚のときおよび3枚のときには、検出されたテラヘルツ反射光の振幅はいずれもピークとなるから、紙幣が1枚か3枚かを区別することができない。
【0076】
そこで、0.5THzのテラヘルツ光に加えて、0.3THzのテラヘルツ光を用いることにより、紙幣が1枚か3枚かを識別することが可能となる。なぜなら、図8(D)に示されるように、0.3THzのテラヘルツ光を用いた場合、検出物の厚さが0.17mmあたりでテラヘルツ反射光の振幅のピークが現れるため、紙幣が1枚(0.1mm)のときの振幅値と、紙幣が3枚(0.3mm)のときの振幅値は異なる値となる。従って、検出に用いるテラヘルツ光を、0.5THzおよび0.3THzの2種類とすることにより、紙幣が1枚搬送か、2枚重なった搬送か、3枚重なった搬送かを検出することができる。
【0077】
なお、図8(C)の反射強度のグラフは、0.3THzのテラヘルツ光を使用する場合であっても、同様の反射強度特性を得ることができる。
以上のことから、搬送される紙幣が1枚か、2枚かだけを検出するのであれば、検出されたテラヘルツ反射光の反射強度または振幅検出することにより、1枚搬送または2枚搬送を検出できることがわかる。通常、紙幣の搬送では、3枚以上が重なって搬送されることは極めて稀であり、2枚搬送を検出し、防止する技術が求められている現状を考慮すると、紙幣の2枚搬送は、この実施例の検査装置20により、1種類のテラヘルツ光を用いて実現できることがわかる。
(2)紙幣の厚さ検出、および、(3)紙幣の「透かし」検出について:
この発明の実施例の検査装置20を用いた紙幣の厚さの検出((2)の検査)については、既に図1を参照して厚さ検出の原理および方法を具体的かつ詳細に説明したので、ここでの説明については省略する。
【0078】
また、「紙幣の『透かし』の有無の検出」((3)の検査)は、紙幣の厚さの検出と同じ原理および方法で行うことができる。なぜなら、紙幣に「透かし」が設けられている場合、その「透かし」部分は、紙幣を構成する紙の密度や種類が他の部分と比べて異なっている。このため、「透かし」部分は他の部分と比べると屈折率(複素屈折率)nが異なる。よって紙幣の光学厚さn・d(nは屈折率、dは物理厚さ)が、「透かし」の部分と、「透かし」でない部分とで変化する。よって、この変化に基づき、紙幣の「透かし」の有無を検出できる。
(4)異物の検出について:
次に、紙幣に対するテープの貼着などの検出につき、図面を参照して説明する。
【0079】
図9は、紙幣72にテープ73a,73bが貼られている場合、テープ73a,73bの存在を検出する処理の仕方を説明する図解的な図である。図9(A)は、紙幣72のたとえば裏面に四角形のテープ73aおよび三角形のテープ73bが貼られており、それを検出するために紙幣72の表面からテラヘルツ光を照射し、反射されるテラヘルツ反射光を検出する様子を示す図解図である。図9(B)はその断面図を図解的に示している。
【0080】
そして、図10(A)に、紙幣72の現物表面の一部の写真を示す。紙幣72の表面または裏面に貼られたテープ73a,73bがハッチングで示されている。
また、図10(B)は、図10(A)で反射されたテラヘルツ反射光を検出し、その振幅強度を濃淡を用いて表わした分布である。図10(B)の強度分布においては、図10(C)に示すように、紙幣72の厚さが0.08mm以下は濃く、0.08mm〜0.16mmと厚さが厚くなるに従って徐々に薄くなり、0.16mm以上ではほぼ白となっている。
【0081】
このように、振幅強度の分布は、紙幣72の厚さを示しており、テープ73a、73bが貼られた領域において、四角テープ73aおよび三角テープ73bの形と近似した領域の色が薄く、厚みが厚い(厚さが0.16mm〜0.18mm)ということが検出されている。よって、テラヘルツ反射光の振幅に基づき、紙幣にテープが貼られているか否かの検出ができる。
【0082】
なお、図10で説明したテープ有無の検査では、0.3THzのテラヘルツ光を用いた。この周波数のテラヘルツ光を用いると、図10(C)に示すように、0.07mm〜0.18mmの範囲の紙幣等の厚みを正確に検出できることがわかる。
(5)紙幣の品質管理について:
最後に、上述した(5)の検査、すなわち紙幣の皺、傷み、平行度等の検出方法について、具体例を説明する。
【0083】
図11は、皺や傷みの多い紙幣75をテラヘルツ光を用いて検査している様子を表わす図解的な側面図である。テラヘルツ光放射素子21から放射されるテラヘルツ光211は紙幣75の表面751に到達する。このとき、紙幣75に皺、傷み等が生じていると、紙幣75の表面751には細かな凹凸が頻発している。このため、表面751で反射されるテラヘルツ反射光212は乱反射されて、テラヘルツ光検出素子22に達する反射光が減り、検出されるテラヘルツ反射光の割合が減少する。
【0084】
また、紙幣75内へ進入したテラヘルツ光213は紙幣75の裏面752でその一部が反射されるが、裏面752も、皺や傷み等により細かな凹凸が多数散在しているから、紙幣75内へ反射される反射光214も乱反射光となる。さらに、表面751から外部へ出るテラヘルツ反射光215は、多方面へ分散するので、テラヘルツ光検出素子22で検出される割合が少なくなる。
【0085】
また、テラヘルツ光検出素子22が検出するテラヘルツ反射光は、テラヘルツ光検出素子22と紙幣75との相対的な位置関係を変化させて、紙幣75の表面を検出走査すると、検出位置によりテラヘルツ光検出素子22へ入射するテラヘルツ反射光の割合がランダムに変化する。あるいは、紙幣75の平行度が場所により異なる場合には、検出されるテラヘルツ反射光の割合が場所に伴って定量的に変化する。このようにテラヘルツ光検出素子22で検出されるテラヘルツ反射光の検出量が変化するので、その変化を検知することにより、紙幣75の皺、凹凸等の傷み、平行度の有無を検出することができる。
【0086】
この発明により検査可能な紙葉類としては、上述した紙幣に限定されるものではなく、有価証券、クレジットカードその他のカード類、免許証等を例示することができる。
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明により紙葉類を検査する原理を説明するための図である。
【図2】テラヘルツ反射光の周波数特性(スペクトル)の計算例を示す図である。
【図3】反射スペクトルから逆フーリエ変換で断層データを計算した例を示すグラフである。
【図4】図3のグラフを計算するのに用いたモデルを示す図である。
【図5】この発明の一実施例に係る紙葉類検査装置の構成ブロック図である。
【図6】図5の構成において、参照用ミラー32を備える場合と、備えない場合との構成の違いを示す図解図である。
【図7】紙葉類保持部材の構成の変形例を示す図解図である。
【図8】紙幣の複数枚搬送の検査を説明するための図である。
【図9】紙幣にテープが貼られ、それを検出する様子を示す図解図である。
【図10】テープ貼着検査に用いられた紙幣および検査結果を示す図である。
【図11】紙幣の品質管理検査を説明するための図である。
【図12】従来の透過光量の減衰量を検出する紙葉類の厚さ測定方法の概念図である。
【図13】従来のメカ式の紙葉類の厚さ測定方法の概念図である。
【図14】テラヘルツパルス光を用いた媒体の厚みを検出する方法の概念図である。
【符号の説明】
【0088】
11 テラヘルツ光放射素子
12 テラヘルツ光
121 第1テラヘルツ反射光
124 第2テラヘルツ反射光
16 テラヘルツ光検出素子
20 検査装置
21 放射用PCアンテナ(テラヘルツ光放射素子)
22 検出用PCアンテナ(テラヘルツ光検出素子)
14、27 紙葉類
30 サンプルステージ(紙葉類保持装置)
61 パソコン(処理装置)
【技術分野】
【0001】
この発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類の枚数検出、紙葉類に貼られたテープなどの異物検出、紙葉類の損傷度、紙葉類の断面構造等の検査を行うための検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙葉類(紙幣、商品券、証券類、免許証、クレジットカードなど)の厚さを検出する方法として、主に次の2つの方法が実用化されている。1つは、紙葉類に光を照射して透過光量の減衰量を検出する方法である。もう1つは、1対のローラーにより紙葉類を挟んで搬送し、ローラーの変位を検出する方法である(たとえば特許文献1、2、3参照)。
前者の光の透過光量の減衰量により紙葉類の「厚さ」を検査する方法は、図12に示すように、光源1からの光を紙葉類2に照射し、紙葉類2を透過した透過光量を受光センサ3により測定する方法である。光源1としては、通常LEDが用いられ、受光センサ3としては通常フォトダイオードが用いられる。
【0003】
ところが、この透過光量の減衰量により紙葉類の厚さを検査する方法は、紙葉類への添加物により透過光量が変化するので、正しく厚さを測定できないという問題がある。
すなわち、元来、紙葉類等の印刷物は光の反射で表面の印刷内容を確認するように設計されている。紙葉類である紙自身は「白く」見えるようにカオリン、二酸化チタンなどが添加されている。その結果、紙自身は紫外〜近赤外の光は反射し易く透過しにくい性質を有している。一方、紙に印刷された文字、図形等を表示しているインクは紫外〜近赤外領域において光を吸収したり反射したりする。つまり、インクの有無等が透過光量を変化させるので、紙葉類を透過する光量を測定するやり方では、紙葉類の厚さを正しく測定できないという課題がある。
【0004】
また、カード類、分厚い紙、ダンボール程度の厚さの紙等の紙葉類は、紫外〜近赤外光は透過しにくいので、上記の検査方法は、これら厚い紙葉類の厚さ検出には利用できない技術である。
さらに、紙葉類の厚さ自身を測定しているのではなく、紙葉類の厚さを透過光量で代用している技術であるから、紙葉類の汚れにより透過光量が変わると、誤検知につながるおそれがある。
【0005】
後者のローラーの変位を検出する方法、すなわちメカ式検出方法は、図13に示すように、紙葉類2を一対のローラー4a、4b間に挟み、ローラー4a、4bの少なくとも一方の変位量を検出する方法である。ローラー4aまたは4bの変位は角度センサ、変位センサ等で検出する。通常は、一対のローラー4a、4b間の距離dを検出する。
ところで、このメカ式検出方法はローラー4a、4bで紙葉類2を挟むことが前提である。従って、紙葉類2の厚みを非接触状態で検出することは不可能である。紙葉類2とローラー4a、4bとが接触するため、紙葉類2が損傷を受ける可能性がある。また、紙葉類2にテープ等の異物が貼られている場合、その異物によってローラー4aまたは4bが変位し、誤った厚みを測定することも考えられる等の課題がある。
【0006】
ところで、電磁波利用において未開拓と言われていたテラヘルツ領域(電波と赤外の間の領域)の電磁波、すなわちテラヘルツ電磁波(この明細書ではテラヘルツ光と称する)による分光・計測技術が近年開発されつつある。
たとえば、特許文献4にはコヒーレントなテラヘルツ波(テラヘルツ光)を用いた金属の表面形状検査装置が提案されている。
【0007】
また、テラヘルツパルス光を使って媒体の「厚み」を検出する方法が発表されている。 この方法は、図14に示すように、パルスレーザーを用いてテラヘルツパルス光を作り、その光を媒体5に照射し、媒体5を透過した後のテラヘルツパルス光が受けた位相の変化を検出する方法である。媒体5が屈折率nであるとき、位相は(2×π×n×d)/λ遅れる。但し、dは媒体5の厚さ、λは波長である。よって、媒体5を透過する前後のテラヘルツパルス光のパルス波形の変化から、媒体5の厚さを推定することができる。
【0008】
しかしながら、このテラヘルツパルス光を用いる測定方法では、テラヘルツパルス光を作るためにフェムト秒レーザが必須である。このフェムト秒レーザは、現時点では、非常に高価で取り扱いが困難な装置である。また、この測定法では、1000ステップ程度の時間遅延装置(光路長を1000回程変えて時間波形を取り込み、振幅を求めるための装置)が必要であり、しかも光路長を変えるために、反射鏡等を機械的に動かす必要がある。このため、装置構成が非常に複雑になる。また、測定に時間を要するという課題もある。
【特許文献1】実公平6−11992号公報
【特許文献2】実用新案登録第2580615号公報
【特許文献3】特許第2807073号公報
【特許文献4】特許第3940336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、近年研究および開発が進んできているテラヘルツ光を利用して、従来の紙葉類の厚さ検出装置が有していた上述の課題を解決した、新たな紙葉類の検査方法および装置を提供することを主たる目的とする。
この発明は、具体的には、テラヘルツ光を検査対象物である紙葉類に照射し、反射光を検出して、その特性を検知することにより、紙葉類の厚さ、紙葉類の枚数、紙葉類にテープ等の異物が存在するか否か等を検出し、また、紙葉類の損傷度、紙葉類の断層構造等を検査する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出することを特徴とする紙葉類の検査方法である。
【0011】
請求項2記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0012】
請求項3記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類の表面と裏面との平行度を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0013】
請求項4記載の発明は、検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法である。
【0014】
請求項5記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記紙葉類に対して照射するテラヘルツ光の波長を変化させ、前記検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知することにより紙葉類の断層構造を検出することを特徴とする紙葉類の検査方法である。
【0015】
請求項6記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射する放射素子と、紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出素子と、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出する処理装置と、を含むことを特徴とする紙葉類の検査装置である。
【0016】
請求項7記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動させる紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、前記処理装置は、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置である。
【0017】
請求項8記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類が表面と裏面との平行度を損なっていることを検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置である。
【0018】
請求項9記載の発明は、前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて、紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査方法である。
【0019】
請求項10記載の発明は、テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を、その波長を一定範囲で変化させながら紙葉類に対して照射する放射素子と、前記放射素子により照射されるテラヘルツ光が紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出器と、前記検出器が検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知して前記紙葉類の断層構造を検出する処理装置と、を含むことを特徴とする紙葉類検査装置である。
【0020】
検査に用いるテラヘルツ光は、たとえば、第1周波数の第1レーザー光と、第2周波数の第2レーザー光との周波数差に基づく任意の周波数のテラヘルツ光を発生させて使用することが好ましい。
前記検査用テラヘルツ光は、連続した単一周波であるコヒーレント光であることが好ましい。また、前記検査用テラヘルツ光として、周波数の異なる複数の検査用テラヘルツ光を用いることもできる。
【0021】
また、検査対象である紙葉類は、紙葉類保持装置にセットされる。セットされた状態で、紙葉類の一面にテラヘルツ光が照射されると、テラヘルツ光の一部は紙葉類の一面で反射され、一部は一面から紙葉類内へ進入し、紙葉類の他面で反射されて紙葉類内を戻り、紙葉類の一面から一部の光が反射光として出る。それゆえ、検出素子は、紙葉類の一面(表面)で反射されたテラヘルツ反射光と紙葉類の他面(裏面)で反射されたテラヘルツ光とを検出する。2種類のテラヘルツ反射光には、紙葉類内を厚み方向に往復したかしなかったかの違いがあり、この違いは位相差として表われる。よってテラヘルツ反射光を検出し、その位相差により生じるテラヘルツ反射光の干渉の強さを検知することにより、紙葉類の厚さを検出することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、紙葉類の「厚さ」が検出できる。その結果、紙葉類の枚数を検知することができる。
またこの発明によれば、紙葉類の「厚さ」の変化を検出することができる。よって、紙葉類に貼られているテープなどの異物検出が的確に行える。
この発明によれば、さらに、紙葉類の損傷度を検出することができる。損傷度とは、紙葉類の凹凸、折り曲げ、表面と裏面の平行度等である。
【0023】
この発明によれば、さらに紙葉類の断層構造を確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下には、この発明につき具体的に説明をする。
<発明の原理・概要>
(1)この発明の検査対象は紙葉類(紙幣、有価証券、証拠証券その他の紙類、免許証、クレジットカードその他のカード類など)である。そして紙葉類の厚さ、損傷度、断面構造等を検査するものである。紙葉類の厚さ検査には、紙葉類の枚数検出、紙葉類に貼着されたテープ等の異物検出が含まれる。
(2)検査にはテラヘルツ光を用いる。
【0025】
a)この明細書で、テラヘルツ光とは、波長が25μm〜10mm(=周波数が12THz〜30GHz)の電磁波および光の双方の性質を有する周波数帯域の電磁波のことをいう。テラヘルツ光は、テラヘルツ波、テラヘルツ電磁波などと称される場合もあるが、この明細書では、テラヘルツ光と称する。
b)使用するテラヘルツ光の波長は、検査対象である紙葉類の厚さと相関する。紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長(50μm〜2mm)のテラヘルツ光を用いる。検査の感度が良いからである。 c)使用するテラヘルツ光は、連続波(CW Continuous Wave)であって、単一周波数のコヒーレント光が好ましい。
(3)図1に、この発明により紙葉類を検査する原理を示す。
【0026】
テラヘルツ光放射素子11は30GHz〜12THzのテラヘルツ光を放射(照射)する。このテラヘルツ光12は、検査対象である紙葉類14の一面141へ照射される。テラヘルツ光12の入射角度は、一面141に対して角度φ1(0≦φ1<(π/2)(単位はラジアン))である。垂直入射であればφ1=0である。
テラヘルツ光は、乾性の物質を透過し易い性質を有するので、紙葉類14を透過し易く、紙葉類14での吸収による影響を受けにくい。かかる性質のテラヘルツ光12は、その一部が紙葉類14の一面141で反射されてテラヘルツ反射光121となる一方、その一部122は紙葉類14内へ進入する。そして進入したテラヘルツ光122の一部は紙葉類14の他面142で反射され、テラヘルツ反射光123は紙葉類14内を戻り、一面141から外部へテラヘルツ反射光124として出力される。紙葉類14内へ進入したテラヘルツ光122の一部は、他面142から外側へ透過するテラヘルツ透過光125となる。さらに、紙葉類14内を戻るテラヘルツ反射光123の一部は、紙葉類14の一面141で再反射され、反射光126となって紙葉類14内を進み、その一部は紙葉類14の他面142で再反射されて反射光127となり、一面141から外部へテラヘルツ反射光128として出力される。さらに、反射光126の一部は他面142から外側へ出力されるテラヘルツ透過光129となる。
【0027】
このように、紙葉類14へ入射するテラヘルツ光12は、紙葉類14の一面141および他面142で多重反射し、一面141側から少なくともテラヘルツ反射光121および124が出力される。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124はテラヘルツ光検出素子16で検出される。
テラヘルツ光検出素子16で検出されるテラヘルツ反射光には、上述した通り、紙葉類14の一面(表面)141で反射された第1反射光121および他面(裏面)142で反射された第2反射光124の2種類が含まれている。これら2種類のテラヘルツ反射光121、124は、紙葉類14内を厚さd方向に往復したか否かの違いを有し、この違いは2種類のテラヘルツ反射光121、124の位相差となる。そして、位相差のある2種類のテラヘルツ反射光121、124は干渉しあうので、その干渉の強さまたは振幅反射率を検知する。検知した干渉の強さまたは振幅反射率は、位相差と相関しており、その位相差は紙葉類14の厚さと相関関係があるので、紙葉類14の厚さを検出できるのである。
【0028】
周波数から厚さを求める方法を図1を参照して、より具体的に説明する。
テラヘルツ光を紙葉類14に照射した場合、紙葉類14の表面と裏面の間隔(光学的厚さ)をn・dとすると、mを自然数とした場合、波長(周波数)がλ=(2*n・d)/mの光の定在波が立つ。定在波では紙葉類14の表面、裏面を往復する光が位相が合う時に強くなり、逆の場合が弱め合う。ここで、nは紙葉類14の屈折率、dは紙葉類14の物理厚さである。
【0029】
従って、m=1の場合、d=λ/(2・n)になる。周波数間隔が1THzの場合、波長に換算すると300μmであり、d=100μmになる。周波数間隔が0.5THzの場合、波長に換算すると600μmであり、d=200μmになる。
よって、反射スペクトルを計測して、ピーク間隔、ディップ間隔を求めることは、定在波が立つ紙葉類14の厚さを求めることになり、紙葉類14の厚さを知ることができる。
【0030】
さらに、別の観点からも説明する。
図1において、
紙葉類14の一面141が対向する側(空気)の複素屈折率をn0 、
紙葉類14自体の複素屈折率をn1 、厚さをd、
紙葉類14の他面142が対向する側の複素屈折率をn2 、
とすると、振幅反射率rは一般的には下記の式(1)で表わされる。
【0031】
【数1】
【0032】
上記式(1)において、r01、r12はそれぞれ反射のフレネルの公式であり、次式(2)(3)で表わされる。また、紙葉類14の光学厚さはn1 ・dであり、紙葉類14の表面141での反射光121と裏面142での反射光124との位相差δ1は、下記の式(4)′(4)で表わされる。
なお、フレネル係数の複素屈折率=n−i・k(実屈折率−i・消衰係数)であるが、透明体として計算する時は、吸収が無いので、k=0としてもよい。この発明が対象としている紙葉類は、波長程度の厚さであり、吸収が無いもの(薄膜)として扱えるのでk=0として計算している。吸収がある場合は消衰係数を含めた複素屈折率で扱えばよい。なお、iは虚数である。
【0033】
【数2】
【0034】
以上の式(1)〜(4)により、複素屈折率n0 、n1 、n2 が一定の値のとき、振幅反射率rが周波数および厚さの関数となるから、所定周波数のテラヘルツ光を用い、その振幅反射率を検出することによって、紙葉類14の厚さの変化が検出できることになる。 なお、以下に例示する計算例では、紙葉類14が空気中に浮かんでいる状態をイメージし、屈折率n0 =n2 =1として計算を行った例を説明している。
【0035】
しかし、実際に紙葉類14の厚みを検査する場合、紙葉類14がたとえば樹脂製、金属製等の板に押し当てられた状態で検査されることが考えられる。あるいは、紙葉類14が透光性の樹脂表面板および裏面板間に挟まれるように保持された状態で検査されることが考えられる。
かかる場合は、n2 を樹脂板の屈折率(たとえばn2 =2〜3程度)等として計算すればよい。また、紙葉類14の表面側を上述のようにたとえば透光性の樹脂板でカバーしたときは、n0 =1ではなく、n0 を樹脂板の屈折率にして計算すればよい。
【0036】
上記式(1)〜(4)に基づく具体的な計算例を以下に説明する。
<計算例1>
波長600μm(周波数0.5THz)のテラヘルツ光12を用い、厚さd=100μm、屈折率n1 =1.5の紙葉類14が空気中にある場合(空気の屈折率n0 =n2 =1)で、テラヘルツ光12が紙葉類14に対して垂直入射する場合の計算例を示す。
【0037】
上記式(4)から
【0038】
【数3】
【0039】
これらを上記式(1)に代入すると、
【0040】
【数4】
【0041】
一方、紙葉類14の厚さd=200μmの場合には、次の計算結果になる。
【0042】
【数5】
【0043】
よって、紙葉類14の厚さdがd=100μmとd=200μmとの差を検出することができる。
すなわち、波長600μm(周波数0.5THz)のテラヘルツ光12で、紙葉類14の厚さdを検出する場合、d=100μmのときには、振幅反射率r100 =0.42が得られ、d=200μmのときには、振幅反射率r200 =0となる。よって、紙葉類14が、たとえば1枚であるか(100μm)、2枚重なった状態であるか(200μm)を、振幅反射率に基づいて明確に判別することができる。
【0044】
また、所定の周波数のテラヘルツ光を用いて振幅の大きさを測定し、基準値として比較することによって、紙葉類の表面や裏面に貼られた異物の存在を検出することができる。<計算例2>
検査する紙葉類14の厚さdが一定で、検査に用いるテラヘルツ光12の周波数を可変した場合の周波数特性(スペクトル)の計算例を次に示す。
【0045】
図1に示す検査原理の構成において、検査対象である紙葉類14の厚さdがd=0.1mm(ドル札1枚相当)と、d=0.2mm(ドル札2枚相当)の反射における振幅および周波数を上記式(1)〜(4)で求めた結果を、図2に示す。図2に示す計算結果は、検査に用いるテラヘルツ光12の周波数を0.1THzから3THzまで変化させたものであり、変化の周波数ピッチは0.001THzとした。
【0046】
図2において、横軸はテラヘルツ光12の周波数を示し、縦軸は反射光の振幅(任意単位)を示している。図2から、検査対象である紙葉類12の厚さdがd=0.1mmの場合は、周波数が0.5THz、1.5THzおよび2.5THzにおいて振幅のピークが生じている。すなわち、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差Δf1 は1.0THzである。
一方、紙葉類2の厚さd=0.2mm(ドル札2枚重ねに相当)の場合は、テラヘルツ光12の周波数が0.25THz、0.75THz、1.25THz、1.75THz、2.25THzおよび2.75THzにおいて振幅が最大になっている。よって、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差Δf2 は0.5THzである。
【0047】
このように、検出に用いるテラヘルツ光12の周波数を可変することにより、測定対象である紙葉類14の厚さdの差が振幅のピーク間周波数差として現れる。よって、テラヘルツ反射光のピーク間周波数差を求めることにより、紙葉類14の厚さdを検出することができる。また、ピーク間周波数差に代え、テラヘルツ反射光のディップ間周波数差(振幅の谷と谷との間の周波数)を求めることによっても、紙葉類14の厚さdを検出することができる。
<計算例3>
図3(A)(B)は、反射スペクトルを逆フーリエ変換して断層情報を計算して得たグラフである。すなわち、図3(A)(B)は、共に、前述した式(1)〜(4)に基づいて、周波数をたとえば0.1THzから10THzまで5GHzピッチで動かして紙葉類の反射強度を求め、得られた反射スペクトルを逆フーリエ変換を行い、断層データに変換した例である。
【0048】
計算においては、図4(A)(B)のモデルを使用した。図4(A)は単層の場合のモデル、図4(B)は2層の場合のモデルである。図4(A)(B)に示すように、いずれの場合も、紙葉類14(または紙葉類14a)の表面が基準面から0.1mm離れたところに置いた計算を行った。
なお、サンプル(被検査物)としての紙葉類14は、その厚さが0.1mm、屈折率1.5とした。また、2層の場合は、サンプル(被測定物)としての紙葉類14aは、その厚みが0.1mm、屈折率1.5、紙葉類14bは、その厚みが0.2mm、屈折率2.0とした。
【0049】
図3(A)(B)において、実線は反射光のみの場合を示しており、破線は反射光+参照光の場合を示している。反射光のみの場合は、基準面の上方で受光するとして、基準面(空中に設けた位置)とサンプル(被測定物)としての紙葉類14(または14a)の表面との位置関係を知るのが難しい。それに対して、参照光を使った場合は、参照光の反射位置は固定されており、サンプルからの反射光および参照光用ミラーからの反射光が干渉した光を検出することから、参照光によって表面位置がわかる。
【0050】
図3(A)(B)のグラフにおいて、実線で示す反射光のみの場合と、破線で示す参照光ありの場合とは、深さ方向(横軸方向)に位置がずれているのは、反射光のみの場合は基準面とサンプルの表面との位置関係を知るのが難しいことに基づくものである。
なお、参照光については、後述する図5、図6および図7を参照して詳述するが、図3(A)(B)のグラフを理解するのに必要な説明を、ここでも簡単に行っておく。
【0051】
参照光は、図5において、参照光用ミラー32で反射される光である。図5に示すように、テラヘルツ光の放射素子(PCアンテナ21)から放射された光は、ビームスプリッタ25で分けられ、参照光用ミラー32と対象物27にそれぞれ照射され、それぞれからの反射光が検出素子(PCアンテナ22)上で重ね合わされた反射光として検出される。その重ね合わされた反射光は、位相が固定された参照光用ミラー32からの反射光と、位相が未知の対象物27からの反射光とが重なり合った信号である。つまり、参照光用ミラー32からの反射光が、絶対基準として入った反射スペクトルになるので、深さ方向(断層データ)が正しく得られるのである。
【0052】
もっとも、深さ情報を得るためには、参照光を利用せず、反射光の位相を調べることによっても可能である。つまり、反射強度のスペクトルから深さ方向の情報を得るには、参照光という絶対的な位相を持った光と、対象物からの反射光との干渉結果を得て、そのスペクトルから逆フーリエ変換を行い時間領域(距離領域)に変換して得る方法以外に、参照光を利用しないで、対象物からの反射光を得るときに位相情報も検出することにすれば、断層データを正しく得ることができる。
【0053】
図3(A)のグラフは、図4(B)の単層モデルを用いた計算結果であり、横軸は深さ方向の距離(mm)、縦軸はテラヘルツ反射光の反射強度を示している。そして実線は反射光のみの場合であり、破線は参照光がある場合を示している。参照光がある場合は、破線で表わされたグラフに示されるように、深さ方向に0.1mmおよび0.25mmに反射強度のピークが現れている。0.1mmのピークは紙葉類14の表面の位置を示しており、0.25mmのピークは紙葉類14の裏面の位置を示している。そして2つのピーク間距離が、紙葉類14の厚さ(光学厚さ)を示している。光学厚さは、n・d(nは屈折率、dは物理厚さ)であるから、n・d=1.5×0.1=0.15(mm)であり、正しい光学厚さが示されている。
【0054】
このように、参照光という絶対基準があるため、基準面からの紙葉類14までの表面位置が正確に現れている。
一方、実線で示す反射光のみの場合は、最初のピークが、深さ方向に0.15mmに現れ、次のピークは0.3mmに現れている。深さ方向の位置は、基準面からの距離であり、反射光の強度のみの情報では表面位置が不正確である。しかし、第1のピークおよび第2のピークのピーク間距離は、紙葉類14の厚さを示しており、この厚さは光学厚さ0.15mmとなっていて、正確に検出されていることがわかる。
【0055】
図3(B)に示す2層モデルの計算結果のグラフにおいても、同様のことがわかる。
すなわち、図3(B)において、破線で示す参照光ありの場合のグラフによれば、深さ方向0.1mmに第1のピーク(図4(B)の紙葉類14aの表面)が現れ、深さ方向0.25mmに第2のピーク(図4(B)の紙葉類14aの裏面と紙葉類14bの表面との界面)が現れ、深さ方向0.65mmに第3のピーク(図4(B)の紙葉類14bの裏面)が現れていて、断層データが獲得できている。
【0056】
一方、実線で示す反射光のみの場合も、第1層の表面、界面、第2層の裏面がピークとして現れており、それらの間隔は紙葉類14a,14b(図4(B)参照)の光学厚さを示している。しかし、絶対基準がないので、各ピークの深さ方向の位置(基準面からの距離)は正しい距離にはなっていない。
【実施例】
【0057】
図5に、この発明の一実施例に係る紙葉類検査装置の構成ブロック図を示す。
この実施例の検査装置20は、テラヘルツ光放射素子としての放射用フォトコンダクティブアンテナ(以下「PCアンテナ」と称する。)21およびテラヘルツ光検出素子としての検出用PCアンテナ22を備えている。放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光S1は、放物面鏡23で反射され、ワイヤーグリッド24を通り(S2)、ビームスプリッタ25を透過し(S3)、放物面鏡26で反射されて検査対象である紙葉類(サンプル)27の表面(一面)へ垂直入射する(S4)。すなわち、放射用PCアンテナ21から照射されるテラヘルツ光は、S1、S2、S3、S4という第1光路を通り紙葉類27へ放射される。
【0058】
紙葉類27で反射されたテラヘルツ光(以下「テラヘルツ反射光」という)R1は、放物面鏡26で反射されてビームスプリッタ25へ与えられ(R2)、ビームスプリッタ25からワイヤーグリッド28を通って放物面鏡29で反射され(R3)、検出用PCアンテナ22で検出される(R4)。すなわち、テラヘルツ反射光は、R1、R2、R3およびR4という第2光路を通り検出用PCアンテナ22で検出される。
【0059】
なお、テラヘルツ光の放射素子、検出素子は、PCアンテナに限定されるものではなく、EO結晶(非線形光学結晶)、ガンダイオード、ショットキーバリアダイオード等を用いることもできる。
検査対象である紙葉類27は、サンプルステージ30にセットされている。サンプルステージ30は、紙葉類27を予め定める状態に保持し、紙葉類27の一面(表面)の所定の領域にテラヘルツ光が垂直に照射されるようにする。そして紙葉類27を面方向に移動させ、紙葉類27の任意の領域をテラヘルツ光を用いて検査できるように移動制御するものである。
【0060】
なお、紙葉類27をセットして移動制御する装置は、ステージに限定されるものではなく、製紙機械、印刷機械等におけるローラー間に紙葉類を挟んで移動させる構成と同等の構成であってもよい。
検査装置20には、前述した第1光路および第2光路に加えて、参照光路が備えられている。放射用PCアンテナ21から放射されたテラヘルツ光S1,S2は、その一部がビームスプリッタ25で分離され、分離されたテラヘルツ光S5は放物面鏡31で反射され(S6)、参照光用ミラー32へ垂直に照射される。そして参照光用ミラー32で反射されたテラヘルツ反射光R5は、放物面鏡31で反射され、ビームスプリッタ25およびワイヤーグリッド28を透過して(R6)、放物面鏡29で反射されて検出用PCアンテナ22で検出される(R7)。
【0061】
参照光用ミラー32は遅延ステージ33に装着されており、その遅延方向(光路長が変わる方向)の位置、すなわち放物面鏡31との距離が可変できるようにされている。
この実施例の検査装置20において、放射用PCアンテナ21が放射するテラヘルツ光は、次のようにして生成される。
波長固定レーザ40および波長可変レーザ41の2つのレーザが備えられている。波長固定レーザ40は、たとえば780nmのレーザ光を出力する。一方、波長可変レーザ41は出力するレーザ光の波長を可変することができ、この実施例ではたとえば782nmのレーザ光を出力する。波長固定レーザ40から出力される波長780nmのレーザ光は光アイソレータ42から光ファイバ43を経由してレーザ増幅器44へ与えられる。波長可変レーザ41から出力される波長782nmのレーザ光は光アイソレータ45から光ファイバ43を経由してレーザ増幅器44へ与えられる。なお、光ファイバ43にはテラヘルツ光の周波数を確認するために、モニタ用光スペアナ46が接続されていてもよい。
【0062】
レーザ増幅器44で増幅された各レーザ光は光アイソレータ47を経由して光ファイバ48へ導かれ、放射用PCアンテナ21へ与えられる。放射用PCアンテナ21では、波長780nmのレーザ光と波長782nmのレーザ光の周波数の差、すなわち約1THzのレーザ光が混合される。この際、放射用PCアンテナ21の電極にバイアス電源回路49によってバイアス電圧を印加する。これにより、放射用PCアンテナ21は1THzのテラヘルツ光を放射する。上述の構成であるから、波長可変レーザ41のレーザ光の波長を変化させれば、放射するテラヘルツ光の周波数を任意の周波数にすることができる。また、段階的に順次変化させることができる。
【0063】
なお、バイアス電源回路49は、パソコン61からD/A変換回路62を介して与えられる信号により制御されている。
光アイソレータ47から別の光ファイバ50によってレーザ光が誘導され、そのレーザ光は光遅延装置51を経由して検出用PCアンテナ22へ与えられる。光遅延装置51は反射ミラー52、53およびリトロリフレクタ54を有している。リトロリフレクタ54は遅延ステージに搭載されている。光遅延装置51により、放射用PCアンテナ21に与えられるレーザ光に比べて検出用PCアンテナ22に与えられるレーザ光を所定位相だけ遅延させることができる。これにより、検出されるテラヘルツ反射光の振幅および位相を検知している。
【0064】
検出用PCアンテナ22では、紙葉類27で反射されたテラヘルツ反射光R4および参照光用ミラー32で反射されたテラヘルツ反射光R7を検出する。また、検出用PCアンテナ22は、その電極が光遅延装置51を経由して与えられる時間遅れを生じているレーザ光により励起される。これにより、検出用PCアンテナ22では、検出したテラヘルツ光R4、R7の強度に応じた電流が発生する。その発生する電流は、電流−電圧変換のプリアンプ56により電圧に変換される。そしてこの変換された電圧は、DCカット回路57、バンドパスフィルタ58、ゲイン調整用アンプ59およびA/D変換回路60を通って制御装置としてのパソコン61に取り込まれる。パソコン61は、検出したテラヘルツ反射光の位相差による振幅変化・振幅反射率などを演算し、処理する処理装置である。
【0065】
なお、図5に示す構成ブロックにおいて、テラヘルツ光S2を分離するビームスプリッタ25、放物面鏡31および参照光用ミラー32が省略された構成とし、参照光をなくして反射率のみを測定する構成としてもよい。
図6に、図5の構成において、参照用ミラー32を備える場合と、備えない場合との構成の違いを、図解的に示す。
【0066】
図6の(A)は参照光用ミラー32を備えない場合の構成例である。この場合は、テラヘルツ光放射素子としての放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光Sは対象物である紙葉類27へ照射され、紙葉類27の表面271および裏面272で反射され、テラヘルツ反射光Rはテラヘルツ光検出素子としての検出用PCアンテナ22で検出される。これにより、紙葉類27の厚さ方向の情報を特性情報として検出できる。
【0067】
一方、参照光用ミラー32を具備した構成は、図6の(B)となる。この構成では、検出用PCアンテナ22によりテラヘルツ反射光Rに加えて参照光が検出され、その干渉出力を検出することができる。これにより、紙葉類27の深さ方向の情報が詳細に得られるという効果がある。
図7(A)に示すように、紙葉類27を保持する保持部材に、表面が鏡面加工された金属板64を用い、金属板64に検査窓65が開口されていて、検査窓65を通して紙葉類27にテラヘルツ光が照射される構成としてもよい。この場合、金属板64を図7(A)において紙葉類27と共に移動させることにより、放射用PCアンテナ21から照射されるテラヘルツ光を金属板64および紙葉類27に照射することができ、それぞれからのテラヘルツ反射光を検出することができる。そして、金属板64の反射光の光強度を基準値とし、紙葉類の反射光の光強度と比較することにより、反射率を求めることができる。
【0068】
なお、図7(A)に示すように、金属板64の裏面側に対象物である紙葉類27を載置する構成に代えて、図7(B)に示すように、金属板64の表面側に対象物である紙葉類27を載置する構成とすることも可能である。
この実施例の検査装置20は、図5に示す構成を具備しているので、紙葉類27としてたとえば紙幣を例にとると、次の検査が可能である。
(1)紙幣の複数枚搬送の検査(搬送される紙幣が1枚か、2枚かを検出できる。)
(2)紙幣の厚さの検出
(3)紙幣の「透かし」の有無の検出
(4)紙幣の表面または裏面に貼り付けられた異物(テープの付着など)の検出
(5)紙幣の品質管理(平行度、平坦度、皺、傷みの有無の検出)
この実施例は、上述の(1)〜(5)の検査を、非接触で、かつ紙幣の片面へテラヘルツ光を照射し、その反射光を検出することにより行える。
【0069】
また、放射用PCアンテナ21から放射されるテラヘルツ光として、単一周波数のコヒーレント光の連続波を用いることにより、上述した各種の検査ができる。
また、マルチ周波数(複数の周波数のテラヘルツ光)を用いて紙葉類の検査を行うこともできる。
さらに、テラヘルツ光の周波数を変化させ、スペクトル情報を得ることによって、紙葉類のより正確な厚さ等を検出できる。
【0070】
以下に、上述した(1)〜(5)の検査の仕方について、個別に、具体的に説明をする。
(1)紙幣の複数枚搬送の検査について:
図8は、紙幣の複数枚搬送の検査(搬送される紙幣が1枚か、2枚か、3枚かを検出する検出方法)を説明するための図である。
【0071】
図8(A)は、窓付金属板ステージ70の裏面上に3枚の紙幣72a、72b、72cが互いにずれて重なった状態で載置され、搬送される場合を表わす図解的な側断面図である。また、図8(B)は、図8(A)の構成の図解的な平面図である。金属板ステージ70の表面71は鏡面状態の反射面となっており、照射されるテラヘルツ光をほぼ100%を反射する。
【0072】
図8(C)は、図8(A)(B)に対してテラヘルツ光が上方から照射され、反射されるテラヘルツ反射光を検出して、その反射強度を表示したグラフである。より具体的には、図8(A)(B)に示されるように、窓付金属板ステージ70の裏面に紙幣72a、72b、72cが積層して載置されている状態で、窓付金属板ステージ70の表面71側からテラヘルツ光を照射する。そして、テラヘルツ光の照射位置を図8(A)(B)のたとえば左側から右側へと移動させ、その時に得られたテラヘルツ反射光を検出し、検出強度を示したものが図8(C)のグラフである。測定に用いた紙幣72a、72b、72cの厚みは0.1mmであり、0.5THzのテラヘルツ光を照射した。
【0073】
図8(C)のグラフにおいて、横軸は測定方向(走査方向)であり、図8(A)(B)のたとえば左側から右側への位置の移動を示している。縦軸は反射強度(検出されたテラヘルツ反射光の反射振幅を窓付金属板ステージ70の表面71の反射振幅で割ったもの)が示されている。
図8(C)の反射強度のグラフから、窓付金属板ステージ70に載置された紙幣が、紙幣72aが1枚だけの場合と、紙幣72a、72bが2枚重ねになっている状態とで、反射強度が0.4または0.2と明らかに違っていることが理解できる。よって、窓付金属板ステージ70に載置されて搬送される紙幣が、1枚か2枚かを検出できることがわかる。
【0074】
一方、窓付金属板ステージ70に載置された紙幣が3枚重ねになっている場合にも、検出されたテラヘルツ反射光の反射強度は約0.4を示す。このため、0.5THzのテラヘルツ光を用い、反射強度を検出するだけでは、紙幣が1枚か、3枚重なっているかを識別することができないことがわかる。
図8(D)は、窓付金属板ステージ70の裏面に載置された紙幣の厚さと、検出されるテラヘルツ反射光の振幅との関係を示すグラフである。図8(D)において横軸は紙幣の厚さ(紙幣の重複枚数)を示し、縦軸は検出されたテラヘルツ反射光の振幅を示している。窓付金属板ステージ70の裏面に載置された紙幣72a、72b、72cは、その厚さが0.1mmであるから、1枚の場合は0.1mm、2枚重なっていれば0.2mm、3枚重なっていれば0.3mmである。図8(D)のグラフにおいて、実線は0.5THzのテラヘルツ光を使用した場合の振幅であり、1点鎖線は0.3THzのテラヘルツ光を使用した場合の振幅を示している。
【0075】
図8(D)に示されるように、0.5THzのテラヘルツ光を用いた場合、テラヘルツ反射光の振幅が0.1mm、0.3mmでピークとなり、0.2mmでディップとなっている。よって、検出されたテラヘルツ反射光の振幅に基づき、搬送される紙幣が1枚か、2枚かを検出することができる。
この場合でも、搬送される紙幣が1枚のときおよび3枚のときには、検出されたテラヘルツ反射光の振幅はいずれもピークとなるから、紙幣が1枚か3枚かを区別することができない。
【0076】
そこで、0.5THzのテラヘルツ光に加えて、0.3THzのテラヘルツ光を用いることにより、紙幣が1枚か3枚かを識別することが可能となる。なぜなら、図8(D)に示されるように、0.3THzのテラヘルツ光を用いた場合、検出物の厚さが0.17mmあたりでテラヘルツ反射光の振幅のピークが現れるため、紙幣が1枚(0.1mm)のときの振幅値と、紙幣が3枚(0.3mm)のときの振幅値は異なる値となる。従って、検出に用いるテラヘルツ光を、0.5THzおよび0.3THzの2種類とすることにより、紙幣が1枚搬送か、2枚重なった搬送か、3枚重なった搬送かを検出することができる。
【0077】
なお、図8(C)の反射強度のグラフは、0.3THzのテラヘルツ光を使用する場合であっても、同様の反射強度特性を得ることができる。
以上のことから、搬送される紙幣が1枚か、2枚かだけを検出するのであれば、検出されたテラヘルツ反射光の反射強度または振幅検出することにより、1枚搬送または2枚搬送を検出できることがわかる。通常、紙幣の搬送では、3枚以上が重なって搬送されることは極めて稀であり、2枚搬送を検出し、防止する技術が求められている現状を考慮すると、紙幣の2枚搬送は、この実施例の検査装置20により、1種類のテラヘルツ光を用いて実現できることがわかる。
(2)紙幣の厚さ検出、および、(3)紙幣の「透かし」検出について:
この発明の実施例の検査装置20を用いた紙幣の厚さの検出((2)の検査)については、既に図1を参照して厚さ検出の原理および方法を具体的かつ詳細に説明したので、ここでの説明については省略する。
【0078】
また、「紙幣の『透かし』の有無の検出」((3)の検査)は、紙幣の厚さの検出と同じ原理および方法で行うことができる。なぜなら、紙幣に「透かし」が設けられている場合、その「透かし」部分は、紙幣を構成する紙の密度や種類が他の部分と比べて異なっている。このため、「透かし」部分は他の部分と比べると屈折率(複素屈折率)nが異なる。よって紙幣の光学厚さn・d(nは屈折率、dは物理厚さ)が、「透かし」の部分と、「透かし」でない部分とで変化する。よって、この変化に基づき、紙幣の「透かし」の有無を検出できる。
(4)異物の検出について:
次に、紙幣に対するテープの貼着などの検出につき、図面を参照して説明する。
【0079】
図9は、紙幣72にテープ73a,73bが貼られている場合、テープ73a,73bの存在を検出する処理の仕方を説明する図解的な図である。図9(A)は、紙幣72のたとえば裏面に四角形のテープ73aおよび三角形のテープ73bが貼られており、それを検出するために紙幣72の表面からテラヘルツ光を照射し、反射されるテラヘルツ反射光を検出する様子を示す図解図である。図9(B)はその断面図を図解的に示している。
【0080】
そして、図10(A)に、紙幣72の現物表面の一部の写真を示す。紙幣72の表面または裏面に貼られたテープ73a,73bがハッチングで示されている。
また、図10(B)は、図10(A)で反射されたテラヘルツ反射光を検出し、その振幅強度を濃淡を用いて表わした分布である。図10(B)の強度分布においては、図10(C)に示すように、紙幣72の厚さが0.08mm以下は濃く、0.08mm〜0.16mmと厚さが厚くなるに従って徐々に薄くなり、0.16mm以上ではほぼ白となっている。
【0081】
このように、振幅強度の分布は、紙幣72の厚さを示しており、テープ73a、73bが貼られた領域において、四角テープ73aおよび三角テープ73bの形と近似した領域の色が薄く、厚みが厚い(厚さが0.16mm〜0.18mm)ということが検出されている。よって、テラヘルツ反射光の振幅に基づき、紙幣にテープが貼られているか否かの検出ができる。
【0082】
なお、図10で説明したテープ有無の検査では、0.3THzのテラヘルツ光を用いた。この周波数のテラヘルツ光を用いると、図10(C)に示すように、0.07mm〜0.18mmの範囲の紙幣等の厚みを正確に検出できることがわかる。
(5)紙幣の品質管理について:
最後に、上述した(5)の検査、すなわち紙幣の皺、傷み、平行度等の検出方法について、具体例を説明する。
【0083】
図11は、皺や傷みの多い紙幣75をテラヘルツ光を用いて検査している様子を表わす図解的な側面図である。テラヘルツ光放射素子21から放射されるテラヘルツ光211は紙幣75の表面751に到達する。このとき、紙幣75に皺、傷み等が生じていると、紙幣75の表面751には細かな凹凸が頻発している。このため、表面751で反射されるテラヘルツ反射光212は乱反射されて、テラヘルツ光検出素子22に達する反射光が減り、検出されるテラヘルツ反射光の割合が減少する。
【0084】
また、紙幣75内へ進入したテラヘルツ光213は紙幣75の裏面752でその一部が反射されるが、裏面752も、皺や傷み等により細かな凹凸が多数散在しているから、紙幣75内へ反射される反射光214も乱反射光となる。さらに、表面751から外部へ出るテラヘルツ反射光215は、多方面へ分散するので、テラヘルツ光検出素子22で検出される割合が少なくなる。
【0085】
また、テラヘルツ光検出素子22が検出するテラヘルツ反射光は、テラヘルツ光検出素子22と紙幣75との相対的な位置関係を変化させて、紙幣75の表面を検出走査すると、検出位置によりテラヘルツ光検出素子22へ入射するテラヘルツ反射光の割合がランダムに変化する。あるいは、紙幣75の平行度が場所により異なる場合には、検出されるテラヘルツ反射光の割合が場所に伴って定量的に変化する。このようにテラヘルツ光検出素子22で検出されるテラヘルツ反射光の検出量が変化するので、その変化を検知することにより、紙幣75の皺、凹凸等の傷み、平行度の有無を検出することができる。
【0086】
この発明により検査可能な紙葉類としては、上述した紙幣に限定されるものではなく、有価証券、クレジットカードその他のカード類、免許証等を例示することができる。
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明により紙葉類を検査する原理を説明するための図である。
【図2】テラヘルツ反射光の周波数特性(スペクトル)の計算例を示す図である。
【図3】反射スペクトルから逆フーリエ変換で断層データを計算した例を示すグラフである。
【図4】図3のグラフを計算するのに用いたモデルを示す図である。
【図5】この発明の一実施例に係る紙葉類検査装置の構成ブロック図である。
【図6】図5の構成において、参照用ミラー32を備える場合と、備えない場合との構成の違いを示す図解図である。
【図7】紙葉類保持部材の構成の変形例を示す図解図である。
【図8】紙幣の複数枚搬送の検査を説明するための図である。
【図9】紙幣にテープが貼られ、それを検出する様子を示す図解図である。
【図10】テープ貼着検査に用いられた紙幣および検査結果を示す図である。
【図11】紙幣の品質管理検査を説明するための図である。
【図12】従来の透過光量の減衰量を検出する紙葉類の厚さ測定方法の概念図である。
【図13】従来のメカ式の紙葉類の厚さ測定方法の概念図である。
【図14】テラヘルツパルス光を用いた媒体の厚みを検出する方法の概念図である。
【符号の説明】
【0088】
11 テラヘルツ光放射素子
12 テラヘルツ光
121 第1テラヘルツ反射光
124 第2テラヘルツ反射光
16 テラヘルツ光検出素子
20 検査装置
21 放射用PCアンテナ(テラヘルツ光放射素子)
22 検出用PCアンテナ(テラヘルツ光検出素子)
14、27 紙葉類
30 サンプルステージ(紙葉類保持装置)
61 パソコン(処理装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出することを特徴とする紙葉類の検査方法。
【請求項2】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項3】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類の表面と裏面との平行度を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項4】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項5】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記紙葉類に対して照射するテラヘルツ光の波長を変化させ、
前記検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知することにより紙葉類の断層構造を検出することを特徴とする紙葉類の検査方法。
【請求項6】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射する放射素子と、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出素子と、
前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出する処理装置と、
を含むことを特徴とする紙葉類の検査装置。
【請求項7】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動させる紙葉類保持装置を備え、
前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、
前記処理装置は、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置。
【請求項8】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、 前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類が表面と裏面との平行度を損なっていることを検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置。
【請求項9】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、 前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて、紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査方法。
【請求項10】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を、その波長を一定範囲で変化させながら紙葉類に対して照射する放射素子と、
前記放射素子により照射されるテラヘルツ光が紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出器と、
前記検出器が検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知して前記紙葉類の断層構造を検出する処理装置と、
を含むことを特徴とする紙葉類検査装置。
【請求項1】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出することを特徴とする紙葉類の検査方法。
【請求項2】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項3】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類の表面と裏面との平行度を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項4】
検査対象である前記紙葉類をその面方向に移動させ、
紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、
検出したテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、
検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の検査方法。
【請求項5】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する方法であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射し、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記紙葉類に対して照射するテラヘルツ光の波長を変化させ、
前記検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知することにより紙葉類の断層構造を検出することを特徴とする紙葉類の検査方法。
【請求項6】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を紙葉類に対して照射する放射素子と、
紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出素子と、
前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知して紙葉類の厚さを検出する処理装置と、
を含むことを特徴とする紙葉類の検査装置。
【請求項7】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動させる紙葉類保持装置を備え、
前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ光を検出し、
前記処理装置は、前記検出素子で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した値を予め記憶された基準値と比べることによって紙葉類の表面または裏面に貼られた異物の存在を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置。
【請求項8】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、 前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、所定の干渉の強さが検知できない部位の有無によって紙葉類が表面と裏面との平行度を損なっていることを検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査装置。
【請求項9】
前記検査対象である紙葉類をその面方向に移動可能に保持する紙葉類保持装置を備え、 前記放射素子は紙葉類保持装置で移動される紙葉類の異なる部位に対してテラヘルツ光を照射し、
前記検出素子は紙葉類の異なる部位で反射されるテラヘルツ反射光を検出し、
前記処理装置は、前記検出器で検出されたテラヘルツ反射光の位相差による干渉の強さを検知し、検知した干渉の強さの変動が一定の範囲を超えるか否かに基づいて、紙葉類の表面の凹凸および/または皺の有無を検出することを特徴とする、請求項6記載の紙葉類の検査方法。
【請求項10】
テラヘルツ光を用いて紙葉類を検査する装置であって、
検査対象である紙葉類の厚さの数分の1〜数倍の波長のテラヘルツ光を、その波長を一定範囲で変化させながら紙葉類に対して照射する放射素子と、
前記放射素子により照射されるテラヘルツ光が紙葉類の表面および裏面で反射されるテラヘルツ反射光を検出する検出器と、
前記検出器が検出したテラヘルツ反射光の反射スペクトルを検知して前記紙葉類の断層構造を検出する処理装置と、
を含むことを特徴とする紙葉類検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【公開番号】特開2009−300279(P2009−300279A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155715(P2008−155715)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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