説明

テラヘルツ光検出装置とその検出方法

【課題】極低温を必要することなく、小規模の装置で、非常に微弱なテラヘルツ光の強度を明確に検出でき、かつその周波数を正確に測定することができるテラヘルツ光検出装置とその検出方法を提供する。
【解決手段】表面から一定の位置に2次元電子ガス13が形成された半導体チップ12と、半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ14、導電性のソース電極15、ドレイン電極16及びゲート電極17とを備える。カーボンナノチューブ14は、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、ゲート電極17は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置する。さらに、ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加しその間のSD電流を検出するSD電流検出回路18と、ソース電極とゲート電極の間に可変電圧を印加しその間のゲート電圧を検出するゲート電圧印加回路19と、半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微弱なテラヘルツ光の強度と周波数を検出するテラヘルツ光検出装置とその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明において、「テラヘルツ光」とは周波数が1〜10THz(1THz=1012Hz)の領域、すなわち波長が0.03mm〜0.3mmのサブミリ波から遠赤外線領域の電磁波を意味する。
【0003】
テラヘルツ光は、電波天文学、材料科学、生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ、情報通信、環境、医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。
【0004】
しかし、テラヘルツ光は、赤外線、可視光、紫外線などの光(周波数1013〜1015Hz)と電波(周波数10〜1012Hz)の間に挟まれた周波数帯域の電磁波であり、光学と電子工学という既存の技術がそのままでは適用できない問題点がある。
【0005】
テラヘルツ光を検出する検出器は、種々のものが既に提案されている。そのうち、テラヘルツ光の強度が数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光を検出できる検出器として、非特許文献1,2が既に報告されている。
また、テラヘルツ光の周波数を検出できる検出器として、特許文献1が既に提案されている。
【0006】
非特許文献1は、表面にシリコン酸化膜があるシリコン基板上のカーボンナノチューブによりテラヘルツ光を検出するものである。
非特許文献2は、超伝導を用いたテラヘルツ光検出器である。
【0007】
特許文献1は、周波数分解の良い測定においてS/N比の良いスペクトルを得ることを目的とする。
そのため、特許文献1の検出器本体51は、図9に示すように、基板53と、基板53の+Z側の面に形成された光スイッチ素子による検出素子部(金属膜55,56間の間隔gの部分)と、を有する。基板53と略同じ屈折率を有する部材60が、基板53の−Z側に、部材60の−Z側の面と基板53の+Z側の面との間にテラヘルツパルス光の反射面を形成しないように、設けられる。部材60の−Z側の面の形状及び部材60の厚さは、部材60の−Z側の面の所定領域から入射して間隔gの領域(有効領域)の付近に集光したテラヘルツ光のうち、基板53の+Z側の面で反射された光が、最初に部材60の−Z側の面で反射した後に、間隔gの領域に実質的に入射しないかあるいは更に2回以上反射した後にのみ間隔gの領域に入射するように、設定される。
【0008】
【非特許文献1】T.Fuse,et.al,“Coulomb peak shifts under terahertz−wave irradiation in carbon nanotube single−electron transistors” Applied Physics Letters 90,013119(2007).
【非特許文献2】C.Otani,et.al,“Direct and Indirect Detection of Terahertz Waves using a Nb−based Superconducting Tunnel Junction” Journal of Physics: Conference Series, vol.43, pp.1303−1306(2006).
【0009】
【特許文献1】特開2003−232730号公報、「テラヘルツ光検出器」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1のテラヘルツ光検出器は、シリコン酸化膜中の不純物準位に捕獲されている電子のテラヘルツ応答を用いる。そのため検出器作製の際に、不純物に対して所望の位置にカーボンナノチューブを配置することができない。また、不純物準位にはシャープな波長選択性がないため、テラヘルツ光の周波数測定ができない。
【0011】
非特許文献2のテラヘルツ光検出器は、高感度性を得るのに0.3〜0.4Kの極低温を必要とするため、高価で大規模なヘリウム3クライオスタットを使用しなければならない。
【0012】
特許文献1のテラヘルツ光検出器は、部材20によりテラヘルツ光が吸収されるので、強度が数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光の検出はできない。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、極低温を必要することなく、小規模の装置で、非常に微弱なテラヘルツ光の強度を明確に検出でき、かつその周波数を正確に測定することができるテラヘルツ光検出装置とその検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された半導体チップと、
該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備え、
前記カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、
前記ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置し、
さらに、前記ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加し、その間のSD電流を検出するSD電流検出回路と、
前記ソース電極とゲート電極の間に可変ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路と、
前記半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置と、を備えることを特徴とするテラヘルツ光検出装置が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記SD電流検出回路、ゲート電圧印加回路及び磁場発生装置を制御し、かつ前記SD電流、ゲート電圧及び磁場値からテラヘルツ光の周波数と強度を演算する検出制御装置を備える。
【0016】
前記検出制御装置により、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定し、SD電流のピークがゲート電圧に対して最も大きくシフトする時の磁場値を検出し、この磁場値からテラヘルツ光の周波数を求める。
【0017】
また、前記検出制御装置により、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定し、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流の時間変化を測定する。
【0018】
また本発明によれば、表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された半導体チップと、
該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備え、
前記カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、
ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置し、
さらに、前記ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加しその間のSD電流を検出するSD電流検出回路と、
前記ソース電極とゲート電極の間に可変ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路と、
前記半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置とを備えるテラヘルツ光検出装置を準備し、
テラヘルツ光を照射しながら、SD電流のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定し、SD電流のピークがゲート電圧に対して最も大きくシフトする時の磁場値を検出し、この磁場値からテラヘルツ光の周波数を求める、ことを特徴とするテラヘルツ光検出方法が提供される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定し、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流の時間変化を測定する。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の構成によれば、テラヘルツ光を照射することで、ゲート電圧に対するSD電流のピーク(クーロンピーク)が正のゲート電圧側にシフトし、このシフト(クーロンピークシフト)が最大となる磁場から、テラヘルツ光の周波数を求めることができることが、後述する温度2.5Kの試験結果から確認された。
また、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定することにより、例えばフォトン1つのテラヘルツ光1でさえも検出できることが、後述する温度2.5Kの試験結果から確認された。
従って、本発明の装置及び方法によれば、0.3〜0.4Kの極低温を必要することなく、小規模の装置で、数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光の強度を明確に検出でき、かつその周波数を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明で使用する高電子移動度トランジスタ(HEMT)の説明図である。
HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)は、2次元電子ガス(「2DEG」と略称する)を利用したトランジスタであり、変調ドープにより、2次元電子ガスが形成され、電子移動度が高い特徴がある。従って、ソースからドレインに流れる電子電流を、高い電子移動度を利用して高速に制御することができる。
なお「2次元電子ガス」とは、半導体と絶縁体あるいは異種半導体どうしの接合界面で界面に沿って運動する電子、すなわち、2次元平面にのみ運動量をもつ希薄な電子をいう。
【0023】
図2は、本発明によるテラヘルツ光検出装置の構成図である。この図において、(A)はテラヘルツ光検出装置の断面図、(B)は(A)のB−B矢視図(平面図)である。
この図に示すように、本発明のテラヘルツ光検出装置10は、半導体チップ12、カーボンナノチューブ14、ソース電極15、ドレイン電極16、ゲート電極17、SD電流検出回路18、ゲート電圧印加回路19、および磁場発生装置20を備える。
【0024】
半導体チップ12は、表面から一定の位置(距離)に2次元電子ガス13が形成された高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。なお、図1におけるゲート、ソース及びドレインがないHEMTをここでは半導体チップ12と呼ぶ。
2次元電子ガス13の表面からの距離は、後述の実施例では約60nmであるが、60nm未満でも60nm以上でもよい。
【0025】
カーボンナノチューブ14は、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層又は多層の同軸管状になった物質である。かかるカーボンナノチューブ14は、銅の1000倍以上の高電流密度耐性を有しており、テラヘルツ光1による少数個の光子により長さ方向の電流が大きく変化する特性を有し、検出部として2次元電子ガス13よりも高い高感度検出が可能である。
カーボンナノチューブ14は、後述する実施例では、長さが600nmであり、半導体チップ12の表面に密着し表面に沿って延び、その両端部がソース電極15とドレイン電極16に接続されている。
【0026】
ソース電極15及びドレイン電極16は、1本のカーボンナノチューブ14を挟んでその長さ方向外側に間隔を開けて位置し、半導体チップ12の表面に密着して設けられる。また、この例ではソース電極15は接地され、0Vに保持される。
なお後述の実施例において、ソース電極15及びドレイン電極16は、Ti/Auの薄膜である。
【0027】
ゲート電極17は、カーボンナノチューブ14の側面から一定の間隔(後述する実施例では、500nm)を隔てて位置し、半導体チップ12の表面に密着して設けられる。
後述の実施例において、ゲート電極17は、Ti/Auの薄膜である。
【0028】
SD電流検出回路18は、ソース電極15とドレイン電極16を電気的に接続する導電線18aと、導電線18aの途中に設けられた直流電源18b及び電流計18cとからなる。直流電源18bはソース電極15とドレイン電極16の間にドレイン電極16をプラス(+)とする所定の電圧を印加する。また、電流計18cはソース電極15とドレイン電極16の間に流れる電流(以下、「ソース−ドレイン電流」または「SD電流」と呼ぶ)を検出する。所定の電圧は後述の実施例では1.5mVである。
また、電流計18cには、ノイズカットフィルター18dが着脱可能に取り付けられており、電流計18cの出力信号から変動の激しいノイズを除去するようになっている。
【0029】
ゲート電圧印加回路19は、ソース電極15とゲート電極17を電気的に接続する導電線19aと、導電線19aの途中に設けられた直流電源19bとからなる。直流電源19bはソース電極15とゲート電極17の間にゲート電極17をマイナス(−)とする可変ゲート電圧を印加する。以下、ソース電極15とゲート電極17の間の電圧を「ゲート電圧」と呼ぶ。
【0030】
図3は、図2の磁場発生装置の模式図(A)とテラヘルツ光検出原理の説明図(B)である。
図3(A)に示すように、磁場発生装置20は、半導体チップ12に入射するテラヘルツ光1の光軸を囲むコイル20aと、コイル20aの両端に所定の電圧を印加する直流電源20bと、コイル20aを流れる電流(以下、「コイル電流」と呼ぶ)を表示する電流計20cとからなり、半導体チップ12に磁場Bを印加する。なお、実際の測定では、所定の電流値を入力して流し、コイルにかかる電圧が検出される。
磁場Bは、コイル電流から一義的に求めることができる。
【0031】
図3(B)は、磁場印加によるランダウ準位の形成を示す図である。この図において、横軸は状態密度、縦軸は電子のエネルギーである。
この図に示すように、照射する電磁波の光子エネルギーhfがランダウ準位のエネルギー間隔(h/2π)eB/m・・・(1)と等しい時、電磁波の非常に大きな吸収が生じる。この現象はサイクロトロン吸収あるいはサイクロトロン共鳴と呼ばれる。
ここで、hはプランク定数、eは電荷素量、Bは磁場、mは結晶中の電子の有効質量(例えばGaAsならば、自由電子の質量の0.0665倍)である。
【0032】
サイクロトロン吸収が生じる際のテラヘルツ光の光子エネルギーhfは、サイクロトロン吸収が生じる際のランダウ準位のエネルギー間隔に等しくなる。
すなわち、hf=(h/2π)eB/m・・・(2)が成り立つ。
この式から磁場B以外のh,e,mは既知の定数であるので、サイクロトロン吸収が生じる際の磁場Bからテラヘルツ光の周波数fを求めることができる。
本発明のテラヘルツ光検出装置10では、2次元電子ガス13のサイクロトロン吸収を利用する。
【0033】
図2及び図3において、本発明のテラヘルツ光検出装置10は、さらに検出制御装置22を備える。検出制御装置22は、例えばコンピュータ(PC)であり、SD電流検出回路18、ゲート電圧印加回路19及び磁場発生装置20を制御し、かつSD電流、ゲート電圧及び磁場値からテラヘルツ光の周波数と強度を演算する機能を有する。
この検出制御装置22により、テラヘルツ光1を照射しながら、SD電流のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定し、SD電流のピークがゲート電圧に対して最も大きくシフトする時の磁場値を検出し、この磁場値からテラヘルツ光の周波数を求める。
また、この検出制御装置22により、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定し、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流の時間変化を測定する。
【実施例1】
【0034】
上述した本発明によるテラヘルツ光検出装置を用い、温度を2.5K、ドレイン電極16に1.5mVの電圧を印加し、数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光1を照射した。なおこの試験では、電流計18cにノイズカットフィルター18dを取り付け、変動の激しいノイズを除去した。
【0035】
図4は、1.6THzのテラヘルツ光1を検出した試験結果である。各図において、横軸はゲート電圧(V)であり、縦軸はソース−ドレイン電流(pA)である。
【0036】
図4において、各データの右端に記載した数字は、磁場B(T)の強度である。また各データは、図面の明瞭化のため、上下にシフトして記載しており、各データの水平部は0(pA)である。
この図から、磁場Bが0に対し、磁場Bが3.95(T)までは、各データの信号検出位置が右方にシフトし、3.95(T)で最大となり、それ以上では7.85(T)までシフト量が徐々に小さくなっている。
すなわち、図4からテラヘルツ光1を照射することで、クーロンピークが正のゲート電圧側にシフトしている様子が見て取れる。また、ピークシフトの大きさ(ゲート電圧差)は、デバイスに垂直に印加した磁場Bに強く依存しており、3.95Tで最大になっている。
【0037】
このシフト(クーロンピークシフトと呼ぶ)の大きさは、検出されたテラヘルツ光の2次元電子ガス13による吸収効率に比例すると考えられる。すなわち、クーロンピークシフトが最大となる磁場Bは、照射したテラヘルツ光1の波長184μm(1.6THz)とGaAs中の電子の有効質量0.0665m(m:自由電子の質量)から導出されるサイクロトロン共鳴時の値と一致している。
従って、クーロンピークシフトが最大となる磁場B(この例では3.95(T))から、式(2)によりテラヘルツ光の周波数fを求めることができる。
【0038】
図5は、2.5THzのテラヘルツ光1を検出した試験結果である。この例では、磁場Bが0に対し、磁場Bが6.13(T)までは、各データの信号検出位置が右方にシフトし、6.13(T)で最大となり、それ以上では7.85(T)までシフト量が徐々に小さくなっている。
【0039】
図4と図5からテラヘルツ光1の波長を変えると、ピークシフトが最大となる磁場もそれに比例して変化することが分かった。以上の事実は、2DEG中でテラヘルツ光1で励起されたキャリアを、間近にあるCNTがエレクトロメータとして読み取っていることを意味する。
【実施例2】
【0040】
上述した本発明によるテラヘルツ光検出装置を用い、温度を2.5K、ドレイン電極16に1.5mVの電圧を印加し、数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光1を照射した。なおこの試験では、電流計18cからノイズカットフィルター18dを取り外した。
また、1.6THzのテラヘルツ光1を照射し、磁場Bは、クーロンピークシフトが最大となる3.95(T)に固定した。また、ゲート電圧は、クーロンピークシフト位置(この例では−1.41V)に固定した。
【0041】
図6は、本発明のテラヘルツ光検出装置による1.6THzのテラヘルツ光1の検出結果である。この図において、横軸は時間、縦軸は電流(ソース−ドレイン電流)である。
この図から、テラヘルツ光1が非常に微弱にもかかわらず、テラヘルツ光1の照射(THz on)時に、検出データが上下に激しく変動している。この電流の揺らぎは、少数個のフォトンを検出していることを示している。このことから、本発明のテラヘルツ光検出装置により、非常に微弱なテラヘルツ光1、例えばフォトン1つのテラヘルツ光1でさえも検出できることがわかる。
【0042】
図7は、本発明によるテラヘルツ光検出方法のフロー図である。この図は、上述したテラヘルツ光検出装置を用いてテラヘルツ光1の周波数を求める方法を示している。
テラヘルツ光1の周波数を求める場合に、本発明の方法では、電流計18cにノイズカットフィルター18dを挿入し(S1)、テラヘルツ光1を照射しながら(S2)、ソース−ドレイン電流(SD電流)のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定する(S3〜S5)。
次いで、SD電流のピークがゲート電圧に対して最も大きくシフトする時の磁場値Bを検出する(S6〜S7)。
この磁場値Bを上述した式(2)に代入することで、テラヘルツ光1の周波数fを求めることができる(S8)。
【0043】
図8は、本発明によるテラヘルツ光検出方法の別のフロー図である。この図は、上述したテラヘルツ光検出装置を用いて数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光1を検出する方法を示している。
微弱なテラヘルツ光1を検出する場合に、本発明の方法では、電流測定系からノイズカットのためのフィルターを取り去り(S11)、クーロンピークシフトが最大となる磁場値Bに固定し(S12)、ゲート電圧をテラヘルツ光1を照射した時の電流ピークに相当する位置に固定し(S13)、テラヘルツ光1を照射しながら(S14)、ソース−ドレイン電流(SD電流)の時間変化を測定する(S15)。
この方法によりテレグラフ的な電流のスイッチングを観測することで、少数個の光子を検出することができ、高感度検出が可能となる。
【0044】
上述した本発明の構成によれば、テラヘルツ光を照射することで、ゲート電圧に対するSD電流のピーク(クーロンピーク)が正のゲート電圧側にシフトし、このシフト(クーロンピークシフト)が最大となる磁場から、テラヘルツ光の周波数を求めることができることが、温度2.5Kの試験結果から確認された。
また、また、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定することにより、例えばフォトン1つのテラヘルツ光1でさえも検出できることが、温度2.5Kの試験結果から確認された。
従って、本発明の装置及び方法によれば、0.3〜0.4Kの極低温を必要することなく、小規模の装置で、数fW(10−15W)の非常に微弱なテラヘルツ光の強度を明確に検出でき、かつその周波数を正確に測定することができる。
【0045】
なお、本発明は上述した実施例及び実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】高電子移動度トランジスタ(HEMT)の説明図である。
【図2】本発明によるテラヘルツ光検出装置の構成図である。
【図3】図2の磁場発生装置の模式図(A)とテラヘルツ光検出原理の説明図(B)である。
【図4】1.6THzのテラヘルツ光1を検出した試験結果である。
【図5】2.5THzのテラヘルツ光1を検出した試験結果である。
【図6】本発明のテラヘルツ光検出装置による1.6THzのテラヘルツ光1の検出結果である。
【図7】本発明によるテラヘルツ光検出方法のフロー図である。
【図8】本発明によるテラヘルツ光検出方法の別のフロー図である。
【図9】特許文献1の検出器の構成図である。
【符号の説明】
【0047】
1 テラヘルツ光、
10 テラヘルツ光検出装置、
12 半導体チップ(HEMT)、13 2次元電子ガス(2DEG)、
14 カーボンナノチューブ、15 ソース電極、16 ドレイン電極、
17 ゲート電極、18SD電流検出回路、
18a 導電線、18b 直流電源、18c 電流計、
19 ゲート電圧印加回路、19a 導電線、19b 直流電源、
20 磁場発生装置、
20a コイル、20b 直流電源、20c 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された半導体チップと、
該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備え、
前記カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、
前記ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置し、
さらに、前記ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加し、その間のSD電流を検出するSD電流検出回路と、
前記ソース電極とゲート電極の間に可変ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路と、
前記半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置と、を備えることを特徴とするテラヘルツ光検出装置。
【請求項2】
前記SD電流検出回路、ゲート電圧印加回路及び磁場発生装置を制御し、かつ前記SD電流、ゲート電圧及び磁場値からテラヘルツ光の周波数と強度を演算する検出制御装置を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ光検出装置。
【請求項3】
前記検出制御装置により、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定し、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値を検出し、この磁場値からテラヘルツ光の周波数を求める、ことを特徴とする請求項2に記載のテラヘルツ光検出装置。
【請求項4】
前記検出制御装置により、ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定し、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流の時間変化を測定する、ことを特徴とする請求項3に記載のテラヘルツ光検出装置。
【請求項5】
表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された半導体チップと、
該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備え、
前記カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、
ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置し、
さらに、前記ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加し、その間のSD電流を検出するSD電流検出回路と、
前記ソース電極とゲート電極の間に可変ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路と、
前記半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置とを備えるテラヘルツ光検出装置を準備し、
テラヘルツ光を照射しながら、SD電流のゲート電圧と磁場に対する依存性を測定し、SD電流のピークがゲート電圧に対して最も大きくシフトする時の磁場値を検出し、この磁場値からテラヘルツ光の周波数を求める、ことを特徴とするテラヘルツ光検出方法。
【請求項6】
ゲート電圧に対してSD電流のピークが最も大きくシフトする時の磁場値とゲート電圧に固定し、テラヘルツ光を照射しながら、SD電流の時間変化を測定する、ことを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−60284(P2010−60284A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222980(P2008−222980)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】