説明

デバイスへの酸素および水分の浸透を防ぐ方法、およびその方法により製造されたデバイス

【課題】発光素子(OLED素子)、薄膜センサ、およびエバネッセント導波路センサなどのデバイスの寿命を延ばすために、デバイス中への酸素および水分の浸透を防ぐ。
【解決手段】リン酸スズ低液相線温度無機材料を、デバイスの少なくとも一部分の上に堆積させて、堆積低液相線温度無機材料を形成する(130)。この堆積低液相線温度無機材料を、実質的に酸素と水分を含まない環境中で熱処理して、気密シールを形成する(140)。低液相線温度無機材料を堆積させる工程は、タングステンを含む抵抗加熱素子の使用を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素と水分の浸透、およびその結果としてのデバイスまたは装置の劣化を防ぐ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層材料または密閉材料を通る酸素または水分の移送およびその結果としての内部材料の攻撃は、例えば、発光素子(OLED素子)、薄膜センサ、およびエバネッセント導波路センサなどの多くのデバイスに関連するより一般的な劣化機構の内の2つを表している。そのようなデバイスの動作寿命は、酸素および/または水分の浸透を最小にする手法がとられれば、著しく増加させることができる。
【0003】
そのようなデバイスの寿命を延長させるための既存の努力としては、ゲッタリング、密閉および大々的な素子封止技法が挙げられる。OLEDなどのデバイスを封止するための一般的な技法としては、熱または紫外線への曝露による硬化の際に気密シールを形成するエポキシおよび無機および/または有機材料の使用が挙げられる。そのようなシールはあるレベルの気密挙動を提供するが、それらのシールは高価であり得、長い動作期間に亘り気密シールが維持されることを保証するものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同様の酸素および水分の浸透問題が、薄膜センサ、エバネッセント導波路センサ、食品容器および医薬品容器などの他のデバイスにおいて共通している。したがって、そのようなデバイス中への酸素および水分の浸透を防ぐ必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この必要性および他の必要性は、本発明により満たされる。
【0006】
第1の態様において、本発明は、デバイスへの酸素および水分の浸透を防ぐ方法であって、デバイスの少なくとも一部分の上にリン酸スズ低液相線温度無機材料を堆積させて、堆積した低液相線温度無機材料を形成し;堆積した低液相線温度無機材料を、実質的に酸素および水分を含まない環境中で熱処理して、気密シールを形成する各工程を有してなり、低液相線温度無機材料を堆積させる工程が、タングステンを含む抵抗加熱素子の使用を含むものである方法を提供する。
【0007】
別の態様において、本発明は、本発明の方法により製造されたデバイスを提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、基板;少なくとも1つの有機電子または光電子層;およびリン酸スズ低液相線温度バリア層を有してなる有機電子デバイスであって、電子または光電子層が、リン酸スズ低液相線温度バリア層と基板との間に気密封止されている有機電子デバイスを提供する。
【0009】
さらに別の態様において、本発明は、リン酸スズ低液相線温度バリア層により少なくとみその一部分が封止された装置を提供する。
【0010】
本発明は、以下の詳細な説明、図面、実施例、および特許請求の範囲、並びに先と以下の説明を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本発明のデバイスおよび方法を開示し記載する前に、本発明は、別記しない限り、開示された特定のデバイスおよび/または方法に限られず、それらはもちろん様々であってよいことが理解されよう。ここに用いられる用語法は、特定の態様を説明する目的のためだけであり、制限が意図されていないことも理解されよう。
【0011】
開示された方法および組成物のために用いられる、それと共に用いられる、その調製に用いられる、またはその生成物である材料、化合物、組成物、および成分が開示されている。これらと他の材料がここに開示されており、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示される場合、これらの化合物の様々な個々のおよび集合的な組合せと順列の特定の参照は明白に開示されていないかもしれないが、各々は、具体的に考えられ、ここに記載されていることが理解される。それゆえ、成分A,BおよびCの部類が開示され、同様に成分D,EおよびFの部類が開示され、組合せの分子の例A−Dが開示されている場合、各々が個別に挙げられていなくても、各々は、個々と集合的に考えられる。それゆえ、この例において、組合せA−E,A−F,B−D,B−E,B−F,C−D,C−E,およびC−Fの各々が、具体的に考えられ、A,BおよびC;D,EおよびF;並びに組合せの例A−Dの開示から開示されたと考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せも、具体的に考えられ、開示されている。それゆえ、例えば、A−E,B−FおよびC−Eの部分群が、具体的に考えられ、A,BおよびC;D,EおよびF;並びに組合せの例A−Dの開示から開示されたと考えるべきである。この概念は、以下に限られないが、開示された組成物を製造し、使用する方法の工程を含む、この開示の全ての態様に適用される。それゆえ、実施できる様々な追加の工程がある場合、これらの追加の工程の各々は、開示された方法の任意の特定の実施の形態または実施の形態の組合せにより実施することができると理解され、そのような組合せの各々は、具体的に考えられ、開示されていると考えるべきであると理解される。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲において、以下の意味を持つように定義された多数の用語を挙げておく。
【0013】
「随意的な」または「必要に応じて」は、その後に記載された出来事や状況が起こり得ても得なくても差し支えないこと、およびその記載が、その出来事や状況が生じる場合と、生じない場合とを含むことを意味する。例えば、「必要に応じて置換された成分」という語句は、その成分が置換されていてもいなくても差し支えなく、その記載が、本発明の置換されていない成分と置換された成分の両方を含むことを意味する。
【0014】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、としてここに表現することができる。そのような範囲が表現されている場合、別の態様が、ある特定の値から、および/または他の特定の値まで、を含む。同様に、値が、「約」という先行詞により、近似として表されている場合、特定の値は別の態様を構成することが理解されよう。さらに、各々の範囲の端点は、他の端点に関連して、および他の端点とは関係なくの両方で有意であることが理解されよう。
【0015】
ここに用いられているように、成分の「質量%」または「質量パーセント」は、具体的に別記されていない限りは、百分率で表された、その成分が含まれる組成物の総質量に対するその成分の質量比を称する。
【0016】
ここに用いられているように、具体的に別記しない限り、「低液相線温度無機材料」、「低液相線温度材料」、および「LLT材料」という用語は、約1,000度より低い融点(Tm)またはガラス転移温度(Tg)を持つ材料を称する。
【0017】
ここに用いられているように、「出発」材料は、蒸発させられ、デバイス上に堆積される材料を称する。
【0018】
ここに用いられているように、「堆積された」材料は、デバイスまたは装置に堆積された材料を称する。
【0019】
ここに用いられているように、「バリア層」は、気密コーティング、およびここでは特に、気密シールを形成するのに効果的な温度まで熱処理された、堆積されたリン酸スズLLT材料を称する。
【0020】
先に手短に紹介したように、本発明は、デバイスまたは装置上にリン酸スズLLTバリア層を形成する改良方法を提供する。以下詳細に説明する他の態様の中でも、本発明の方法は、デバイスまたは装置の少なくとも一部分の上にリン酸スズLLT出発材料を堆積させ、堆積LLT材料を形成する工程、および堆積リン酸スズLLT材料を熱処理して、欠陥および/または細孔を除去し、リン酸スズLLTバリア層を形成する工程を有してなる。
【0021】
リン酸スズLLT材料は、例えば、熱蒸発、同時蒸発、レーザアブレーション、フラッシュ蒸発、蒸着、電子ビーム照射、またはそれらの組合せによって、デバイス上に堆積させることができる。リン酸スズLLT材料における欠陥および/または細孔は、デバイス上に、細孔のないまたは実質的に細孔のない、酸素および水分不透過性保護コーティングを製造するための固結または熱処理工程によって除去できる。多くの堆積方法が一般的なガラス(すなわち、溶融温度の高いガラス)について可能であるが、この固結工程は、固結温度が、デバイス中の内部層に損傷を与えないように十分に低い場合のリン酸スズLLT材料にのみ現実的である。ある態様において、堆積工程および/または熱処理工程は、リン酸スズLLT材料の組成に応じて、真空中、不活性雰囲気中、または周囲条件において行われる。
【0022】
図面を参照すると、図1の流れ図は、デバイス上のリン酸スズLLTバリア層を形成する例示の方法100の各工程を示している。工程110および120で始まり、デバイス上に所望のリン酸スズLLTバリア層を形成できるように、デバイスおよびリン酸スズLLT出発材料を提供する。工程130では、リン酸スズLLT出発材料を蒸発させて、デバイスの少なくとも一部分の上にリン酸スズLLT材料を堆積させる。特定の材料および堆積条件に応じて、堆積されたリン酸スズLLT材料は、細孔を含むことがあり、酸素および水分に対して透過性のままであり得る。工程140で、堆積されたリン酸スズLLT材料を、細孔を除去するのに十分な温度、例えば、堆積されたリン酸スズLLT材料のガラス転移温度にほぼ等しい温度で熱処理して、デバイス中への酸素と水分の浸透を防ぐことのできる気密シールすなわちリン酸スズLLTバリア層を形成する。
【0023】
例示の方法の各工程は、制限を意図するものではなく、様々な順序で実施しても差し支えない。例えば、工程110は、工程120の前、後、または同時に行っても差し支えない。
【0024】
デバイス
本発明のデバイスは、デバイスの少なくとも一部分が酸素および/または水分に対して敏感である任意のデバイス、例えば、有機発光ダイオード(「OLED」)、ポリマー発光ダイオード(「PLED」)、または薄膜トランジスタなどの有機電子素子;薄膜センサ;光スイッチまたはエバネッセント導波路センサなどの光電子素子;光起電力素子;食品容器;または医薬品容器であって差し支えない。
【0025】
ある態様において、デバイスは、基板上に配置されている、陰極および電子発光材料を含む、多数の内部層を有するOLED素子である。その基板は、デバイスを製造し、封止するのに適した任意の材料であって差し支えない。ある態様において、基板はガラスである。別の態様において、基板は柔軟な材料であって差し支えない。ある態様において、LLT材料は、有機電子発光材料の堆積前に堆積される。
【0026】
別の態様において、デバイスは、上述したような基板、および少なくとも1つの有機電子または光電子層を含む有機電子素子である。さらに別の態様において、デバイスはリン酸スズLLTバリア層により被覆されており、ここで、基板とリン酸スズLLTバリア層との間には、有機電子または光電子層が気密封止されている。さらに別の態様において、気密シールは、リン酸スズLLT材料の堆積および熱処理により形成される。
【0027】
別の態様において、デバイスの少なくとも一部分がリン酸スズLLT材料で封止されており、ここで、リン酸スズLLT材料はリン酸スズ材料から構成される。
【0028】
再度図面を参照すると、図2は、リン酸スズLLTバリア層が被覆されたデバイスの例示の断面側面図を示している。図2の例示の被覆デバイス10は、基板40、酸素および/または水分に対して敏感な光電子層20、および光電子層20と周囲の酸素および水分との間に気密シールを提供するリン酸スズLLTバリア層30を備えている。
【0029】
リン酸スズ低液相線温度無機出発材料
本発明において、低液相線温度無機材料の、低ガラス転移温度などの物理的性質により、気密シールの形成が促進される。本発明のある態様において、リン酸スズ低液相線温度無機出発材料、またはLLT出発材料は、デバイスの少なくとも一部分の上に堆積させることができ、堆積された材料は、そのデバイスの内部層を熱で損傷せずに、細孔のないまたは実質的に細孔のないバリア層を得るために比較的低温で熱処理される。堆積され熱処理された低液相線温度無機材料は、様々なデバイス上のバリア層として使用できることを認識すべきである。
【0030】
ある態様において、リン酸スズLLT出発材料は、約1000℃未満、好ましくは約600℃未満、より好ましくは約400℃未満のガラス転移温度を有する。
【0031】
別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、実質的にフッ素を含まず、好ましくは1質量パーセント未満しかフッ素を含まず、より好ましくはフッ素を含まない。別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、スズ、リン、および酸素を含む。例示のリン酸塩LLT出発材料は、メタリン酸スズ、オルトリン酸水素スズ、オルトリン酸二水素スズ、ピロリン酸スズ、またはそれらの混合物が挙げられる。リン酸スズLLT出発材料はピロリン酸スズであることが好ましい。
【0032】
堆積されたリン酸スズLLT材料の化学量論は、リン酸スズLLT出発材料のものから変わり得ることが理解されよう。例えば、ピロリン酸スズの蒸発によって、ピロリン酸スズに対してリンが減少または増加した堆積材料が生成し得る。様々な態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、リン酸スズLLT出発材料よりも低い、それと等しい、またはそれより高いスズ濃度を有していても差し支えない。堆積されたリン酸スズLLT材料が、リン酸スズLLT出発材料のスズ濃度よりも高いスズ濃度を有することが有利であり得る。堆積されたリン酸スズLLT材料が、リン酸スズLLT出発材料のスズ濃度ほど少なくとも高いスズ濃度を有することが好ましい。堆積されたリン酸スズLLT材料が、リン酸スズLLT出発材料と、実質的に同じ低液相線温度を有することも好ましい。リン酸スズLLT出発材料が2価のスズを含むことも好ましい。
【0033】
本発明のリン酸スズLLT出発材料は、結晶質、非晶質、ガラス質、またはそれらの混合物であって差し支えない。ある態様において、リン酸スズLLT出発材料は、少なくとも一種類の結晶質成分を含んで差し支えない。別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、少なくとも一種類の非晶質成分を含んで差し支えない。さらに別の態様において、LLT出発材料は少なくとも一種類のガラス成分を含んで差し支えない。
【0034】
ある態様において、リン酸スズLLT出発材料は、例えば、メタリン酸スズ、オルトリン酸水素スズ、オルトリン酸二水素スズなどの単一のリン酸スズLLT材料である。別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、成分の混合物を含んで差し支えない。別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、少なくとも2種類のリン酸スズLLT材料を混合し、それらの材料を加熱して、互いに溶解させ、得られた混合物を急冷してガラスを形成することによって形成されたガラスを含んで差し支えない。
【0035】
リン酸スズLLT出発材料は、酸化スズをさらに含んで差し支えない。ある態様において、酸化スズ材料は、リン酸スズLLT出発材料の約60から約85モルパーセントを占めて差し支えない。
【0036】
リン酸スズLLT出発材料は、添加剤および/または他の低液相線温度材料をさらに含んで差し支えない。ある態様において、リン酸スズLLT出発材料は、ニオブ含有化合物を含む。さらに別の態様において、リン酸スズLLT出発材料は、酸化ニオブを、0より多く約10質量パーセントまでの量で、好ましくは0より多く約5質量パーセントまでの量で、より好ましくは約1質量パーセントの量で含む。
【0037】
リン酸スズLLT出発材料は、例えば、米国マサチューセッツ州、ワードヒル所在のアルファ・アイサー(Alfa Aesar)社から市販されている。当業者には、適切なリン酸スズ出発材料を容易に選択できるはずである。
【0038】
リン酸スズLLT出発材料の堆積
本発明において、リン酸スズLLT出発材料は、熱蒸発などの蒸発プロセスによって、デバイスの少なくとも一部分の上に堆積させることができる。本発明の蒸発および堆積工程は、任意の特定の設備または幾何学的配置に制限されるものではない。その蒸発および堆積工程は、別々の工程または組合せ工程と称しても差し支えないことに留意すべきである。一旦、リン酸スズLLT出発材料が気化されたら、蒸発した材料は一般に、抵抗加熱素子に近接して位置する表面に堆積される。一般に用いられる蒸発システムは、例えば、約10-8から約10-5トルの圧力の真空下で動作し、抵抗加熱素子に電流を提供するためのリードが備え付けられている。蒸発は、実質的に酸素と水分が含まれない条件が、蒸発、堆積、および封止プロセス中ずっと維持されていることを確実にするために、不活性雰囲気中で行って差し支えない。被覆すべきデバイスの性質により要求されない限り、堆積および/または熱処理環境は、酸素と水分が完全に含まれない必要はないが、その環境は実質的に酸素と水分を含まないまたは実質的に含まなくて差し支えない。ボート、リボン、または坩堝を含む、様々な抵抗加熱素子を用いて差し支えない。一般的な蒸発プロセスにおいて、リン酸スズLLT出発材料を抵抗加熱素子と接触して配置することができる。その後、一般に、80から180ワットの範囲の電流を抵抗加熱素子に通して、リン酸スズLLT出発材料を気化させる。特定の材料を蒸発させるのに要するパワーは、材料自体、圧力、および加熱素子の抵抗に応じて、様々であろう。特定の堆積の速度と時間は、材料、堆積条件、および堆積される層の所望の厚さに応じて、様々であろう。蒸発システムは、例えば、米国ペンシルバニア州、クレアトン所在のカート・ジェイ・レスカー(Kurt J. Lesker)社から市販されている。当業者には、リン酸スズLLT材料を堆積させるのに必要な動作条件および蒸発システムを容易に選択できよう。
【0039】
ある態様において、リン酸スズLLT材料の単層を基板の少なくとも一部分の上に堆積させることができる。別の態様において、同じまたは異なる種類の多層のリン酸スズLLT材料の多層を、基板の上面に位置する1つ以上の内部層を覆って堆積させることができる。
【0040】
ある態様において、本発明は、タングステンから構成された抵抗加熱素子を含む。蒸発システムおよび抵抗加熱素子の外形は様々であって差し支えない。ある態様において、タングステンの抵抗加熱素子はボートである。別の態様において、タングステンの抵抗加熱素子はリボンである。当業者には、適切な蒸発システムおよびタングステンの抵抗加熱素子を容易に選択できるはずである。
【0041】
タングステンの抵抗加熱素子からのリン酸スズLLT出発材料の蒸発は、他のLLT出発材料または堆積技法では達成するのが困難な、高い定常状態の堆積速度を提供する。例えば、ピロリン酸スズLLT出発材料および小さなタングステンボートを用いて、15Å毎秒ほど高い堆積速度が達成できる。そのような速度でリン酸スズLLT出発材料を堆積する能力により、高処理温度に耐えられる柔軟な基板の商業的な製造が実施可能になる。
【0042】
堆積されたリン酸スズLLT材料の性質
堆積されたリン酸スズLLT材料は必要に応じてさらに酸化スズを含んで差し支えない。ある態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、約60から約85モルパーセントの酸化スズを含んで差し支えない。上述したように、堆積されたリン酸スズLLT材料の特定の化学構造および化学量論は、リン酸スズLLT出発材料のものとは異なっていて差し支えない。堆積されたリン酸スズLLT材料中の酸化スズの存在は、酸化スズ材料のリン酸スズLLT出発材料への随意的な添加から、または堆積プロセス中に生じるまたはデバイス表面上で生じる化学的および/または化学量論的な変化から生じ得る。
【0043】
ある態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、2価のスズ、より高い価のスズ化合物、例えば、Sn+4化合物、またはそれらの混合物を含む。ある態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料中にSn+4化合物が存在することによって、耐久性が向上する。
【0044】
タングステンの抵抗加熱素子を使用してリン酸スズLLT出発材料を蒸発させると、リン酸スズLLT出発材料とタングステンの抵抗加熱素子との間で化学的または物理的反応が生じることがあり、ここで、タングステンの少なくとも一部分がリン酸スズLLT出発材料と一緒に堆積することがある。ある態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、0より多く約10質量パーセントまでのタングステン、好ましくは約2から約7質量パーセントのタングステンを含む。別の態様において、例えば、ピロリン酸スズなどのリン酸スズLLT出発材料と、タングステン加熱素子との間の反応により、タングステンを含む緑色のガラス質材料が形成される。
【0045】
別の態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、改善された強度または耐透過性を提供するため、もしくはデバイスの光学的性質を変更するために、他の材料を含有しても差し支えない。これらの材料は、リン酸スズLLT出発材料と一緒に蒸発させて差し支えない。ある態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、ニオブを、例えば、酸化ニオブの形態で、含有して差し支えない。酸化ニオブは、米国マサチューセッツ州、ワードヒル所在のアルファ・アイサー社から市販されている。当業者には、酸化ニオブなどの適切な追加の材料を適切に選択できるであろう。さらに別の態様において、堆積されたリン酸スズLLT材料は、リン酸スズ、ニオブ、およびタングステンを含む。
【0046】
リン酸スズLLTバリア層の熱処理および形成
熱処理またはアニール工程によって、リン酸スズLLT材料の堆積層中の欠陥および細孔を最小にして、気密シールすなわちリン酸スズLLTバリア層を形成することができる。ある態様において、熱処理されたリン酸スズLLTバリア層は、細孔を含まないまたは実質的に細孔を含まない。熱処理されたリン酸スズLLTバリア層中に残っている細孔の数および/またはサイズは、酸素と水分の浸透を防ぐのに十分に低いべきである。ある態様において、熱処理は真空下で行われる。別の態様において、熱処理工程は、不活性雰囲気中で行われる。熱処理工程は、堆積工程の直後に同じ系内で行っても、デバイス中への酸素と水分の侵入を防ぐために環境条件が維持されるという条件で、別の時間と場所で行っても差し支えない。
【0047】
本発明の熱処理工程は、リン酸スズLLT材料がその上に堆積されたデバイスを加熱する工程を含む。ある態様において、デバイスおよび堆積されたリン酸スズLLT材料が曝露される温度は、堆積されたリン酸スズLLT材料のガラス転移温度またはTgとほぼ等しい。別の態様において、デバイスおよび堆積されたリン酸スズLLT材料が曝露される温度は、堆積されたリン酸スズLLT材料のガラス転移温度またはTgから約50℃以内である。別の態様において、デバイスおよび堆積されたリン酸スズLLT材料が曝露される温度は、約200℃から約350℃、例えば、200,225,250,275,300,325,または350℃である。さらに別の態様において、デバイスおよび堆積されたリン酸スズLLT材料が曝露される温度は、約250℃から約270℃である。デバイスおよび堆積されたリン酸スズLLT材料が曝露される理想的な時間と温度は、堆積されたリン酸スズLLT材料の組成、封止すべき構成要素の使用温度範囲、および気密シールの所望の厚さと透過性などの要因に応じて、様々であろうことが認識されよう。熱処理工程は、所望の温度を達成し、実質的に酸素と水分を含まない環境を維持できる任意の加熱手段により行っても差し支えない。ある態様において、熱処理工程は、デバイスを真空堆積チャンバ内に配置された赤外線ランプで加熱する工程を含む。別の態様において、熱処理工程は、デバイスが配置されている真空堆積チャンバの温度を上昇させる工程を含む。熱処理工程は、実質的に酸素と水分を含まない環境が維持されるという条件で、堆積工程とは別々に行っても差し支えない。熱処理条件は、得られたデバイスが、以下に説明するカルシウムパッチテストなどの所望の性能基準を満たすことができるほど十分なものであることが好ましい。当業者には、デバイスを損傷せずに、気密シールにとって適切な熱処理条件を容易に選択できるであろう。
【0048】
リン酸スズLLTバリア層の厚さは、所望の気密シールを提供するのに必要とされる任意の厚さであって差し支えない。ある態様において、リン酸スズLLTバリア層の厚さは約1マイクロメートルである。別の態様において、リン酸スズLLTバリア層の厚さは約2.5マイクロメートルである。
【0049】
ある態様において、リン酸スズLLTバリア層は、デバイスにより放出されるか吸収されるいずれかの照射線に対して少なくともある程度透明である。別の態様において、リン酸スズLLTバリア層は、可視光に対して少なくともある程度透明である。
【0050】
バリア層の評価
リン酸スズLLTバリア層の気密性は、リン酸スズLLTバリア層の酸素および/または水分に対する気密性を試験する様々な方法を用いて評価できる。ある態様において、リン酸スズLLTバリア層は、カルシウムパッチテストを用いて評価することができ、ここで、カルシウム薄膜を基板に堆積させる。次いで、リン酸スズLLTバリア層を形成し、リン酸スズLLTバリア層と基板との間でカルシウム薄膜を封止する。次いで、得られたデバイスに、選択された温度と湿度、例えば、85℃と85%の相対湿度での環境老化を施す。酸素および/または水分がリン酸スズLLTバリア層に浸透した場合、高反応性のカルシウム薄膜が反応して、容易に特定できる不透明白色の外皮が生成する。一般に、ディスプレイ産業において、85℃、85%の相対湿度の環境中に約1,000時間に亘りカルシウムパッチに耐えたことは、気密層が、少なくとも約5年に亘り酸素と水分の浸透を防げることを意味すると認識されている。
【実施例】
【0051】
本発明の原理をさらに説明するために、当業者に、ここに記載されたデバイスおよび方法がどのように製造され評価されるかの完全な開示と説明を与えるために、以下の具体例が述べられる。それらの具体例は、本発明の純粋な例示であると意図されており、発明者等が本発明と見なす範囲を制限することは意図されていない。数字(例えば、量、温度など)に関する精度を確実にするために努力してきたが、ある程度の誤差および偏差は生じ得るであろう。別記しない限り、パーセントは質量パーセントであり、温度は℃または周囲温度である。プロセス条件、例えば、成分の濃度、温度、圧力および生成物の純度と記載されたプロセスから得られる性能を最適にするために使用できる他の反応範囲と条件のバリエーションおよび組合せが数多くある。そのようなプロセス条件を最適にするためには、適切な決まり切った実験しか必要ない。
【0052】
具体例1 − ピロリン酸スズの安定な堆積
第1の具体例において、シリコンウェハー上にピロリン酸スズLLT材料を熱蒸発によって堆積させた。ピロリン酸スズのペレット(米国マサチューセッツ州、ワードヒル所在のアルファ・アイサー社)を、自家製のピル・プレス機で調製し、100℃のオーブン内に貯蔵した。ピロリン酸スズのペレットを3インチ×0.75インチ(約7.5cm×約1.9cm)のタングステン製ボート(米国カリフォルニア州、ロングビーチ所在のアール・ディー・マティス(R.D. Mathis)社から得られるS7−.010W)内に入れ、蒸発システムの2本の銅線の間に取り付けた。この蒸発システムの真空チャンバを10-6と10-5トルの間の到達圧力まで排気し、シリコンウェハーを蒸発噴出路から外して配置した。出力を約20ワットに調節し、約30分間保持して、ピロリン酸スズおよびタングステンボートを反応させた。電流を印加したときに、15Å毎秒ほど高い安定な堆積速度が達成された。
【0053】
具体例2 − ピロリン酸スズからのLLTバリアの形成
第2の具体例において、ピロリン酸スズLLT材料をカルシウムパッチテストデバイス上に堆積させた。ピロリン酸スズのペレットは、具体例1におけるように調製し、蒸発させた。出力は20ワットに調節し、30分間保持して、ピロリン酸スズおよびタングステンボートを反応させた。次いで、出力を増加させて、タングステンボートに80から125ワットを供給した。蒸発中、残留ガス分析器により真空チャンバの環境をモニタした。図3に示されているように、蒸発中に比較的低濃度のバックグラウンドガスが存在した。初期期間後、出力を調節して、10と15Å毎秒の間の安定な堆積速度を達成し、このとき、テストデバイスは、LLT材料を堆積するために、蒸発噴出路内に位置していた。
【0054】
約2マイクロメートルのLLT材料を堆積した後、抵抗ボートへの出力を停止し、赤外線ランプのスイッチを入れ、堆積層の温度を約260℃まで上昇させた(バルクのピロリン酸スズガラスは、約247℃のガラス転移温度を有する)。この温度を2時間に亘り維持し、堆積層を効果的に焼結し、不透過性層を形成した。次いで、テストデバイスに、具体例4に記載するような加速老化試験を施した。
【0055】
具体例3 − 五酸化ニオブの添加
第3の具体例において、具体例2におけるようなカルシウムパッチテストデバイスを調製し、LLT材料で封止した。この具体例において、蒸発前に、ピロリン酸スズ出発材料に1モルパーセントの五酸化ニオブを加えた。具体例2の堆積速度と同様の堆積速度が達成された。次いで、テストデバイスに、具体例6に記載するような加速老化試験を施した。その結果が表1に詳述されている。
【0056】
具体例4 − カルシウムパッチ加速試験
さらに別の具体例において、カルシウムパッチテストデバイスを調製した。そのテストデバイスは、コーニング1737ガラス基板(約1ミリメートル厚および2.5インチ(約6.25cm)の正方形)からなり、その上に、100ナノメートル厚のカルシウム薄膜(約1インチ×約0.5インチ(約2.5cm×約1.25cm))を堆積し、その上に、200ナノメートル厚のアルミニウム層(約1インチ×約0.5インチ(約2.5cm×約1.25cm))を堆積した。このテストデバイスを真空堆積チャンバ内の可動台に固定した。
【0057】
その後、カルシウムパッチテストデバイスを堆積ピロリン酸スズLLT材料で封止した。次いで、封止したデバイスを、OLEDなどのデバイスの長期の動作を模倣するように設計された条件に曝露した。加速老化のための業界基準の条件は、デバイスが、85℃および85%の相対湿度の環境中で1000時間耐えることを要求する。水分または酸素への曝露の際に、LLT層を透過することによって、カルシウムは反応し、高反射性薄膜から不透明の白色外皮へと変化する。光学写真を一定の間隔で得て、テストデバイスの展開を定量化し、それゆえ、LLT層の気密強度を決定した。以下の表1は、先の具体例において調製したデバイスへのカルシウムパッチ実験を詳述している。表1に詳述した試料は必ずしも、具体例1〜4において調製した特定の試料ではなく、同様に調製したものであった。
【表1】

【0058】
表1におけるデータを考察により、タングステン加熱素子を用いてピロリン酸スズの蒸発から形成したバリア層は、2時間の期間に亘りLLT材料のガラス転移温度の近い温度で熱処理されたときに、良好な気密シールを生成したことが示される。追加の薄膜を具体例3にしたがって調製し、ここで、リン酸スズLLT出発材料は、1モルパーセントの五酸化ニオブを含んでいた。表1は、堆積された薄膜が、リン酸スズLLT材料のガラス転移温度に近い温度で熱処理されたときに、そのLLT材料を用いた良好な気密シールを達成する能力を示している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のある態様による、デバイスの少なくとも一部分の上にリン酸スズLLTバリア層を形成する方法の流れ図
【図2】本発明の別の態様による、リン酸スズLLTバリア層がその上に形成された例示のデバイスの断面側面図
【図3】本発明のある態様による、タングステンボートを用いたときの、ピロリン酸スズLLT出発材料について達成できる定常の安定な高堆積速度を示すグラフ
【符号の説明】
【0060】
10 被覆されたデバイス
20 光電子層
30 リン酸スズLLTバリア層
40 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスへの酸素および水分の浸透を防ぐ方法であって、
a. リン酸スズ低液相線温度無機材料を、前記デバイスの少なくとも一部分の上に堆積させて、堆積低液相線温度無機材料を形成する工程、および
b. 前記堆積低液相線温度無機材料を、実質的に酸素と水分を含まない環境中で熱処理して、気密シールを形成する工程、
を有してなり、
前記低液相線温度無機材料を堆積させる工程が、タングステンを含む抵抗加熱素子の使用を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記リン酸スズ低液相線温度無機材料が、メタリン酸スズ、オルトリン酸水素スズ、オルトリン酸二水素スズ、ピロリン酸スズ、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸スズ低液相線温度無機材料が酸化スズをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記リン酸スズ低液相線温度無機材料が約60モルパーセントから約80モルパーセントのSnOを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸スズ低液相線温度無機材料が実質的にフッ素を含まないことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記リン酸スズ低液相線温度無機材料がニオブ化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記デバイスが、
有機電子素子、
薄膜センサ、
光電子素子、
光起電力素子、
食品容器、または
医薬品容器、
の内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法により製造されたデバイス。
【請求項9】
基板、
少なくとも1つの有機電子または光電子層、および
リン酸スズ低液相線温度バリア層、
を有してなる有機電子素子であって、
前記電子または光電子層が、前記リン酸スズ低液相線温度バリア層と前記基板との間に気密封止されていることを特徴とする有機電子素子。
【請求項10】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層が、メタリン酸スズ、オルトリン酸水素スズ、オルトリン酸二水素スズ、ピロリン酸スズ、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項9記載の有機電子素子。
【請求項11】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がピロリン酸スズを含むことを特徴とする請求項9記載の有機電子素子。
【請求項12】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がタングステン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の有機電子素子。
【請求項13】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層が0より多く約10質量パーセントまでのタングステンを含むことを特徴とする請求項12記載の有機電子素子。
【請求項14】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がニオブ化合物をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の有機電子素子。
【請求項15】
リン酸スズ低液相線温度バリア層により少なくともその一部分が封止された装置。
【請求項16】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層が、メタリン酸スズ、オルトリン酸水素スズ、オルトリン酸二水素スズ、ピロリン酸スズ、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がタングステン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項18】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がタングステン化合物をさらに含むことを特徴とする請求項15記載の装置。
【請求項19】
前記リン酸スズ低液相線温度バリア層がニオブ化合物をさらに含むことを特徴とする請求項15または18記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−53715(P2008−53715A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212096(P2007−212096)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】