説明

パターン欠陥検査方法および装置

【課題】ミラー電子を使った電子線式検査装置においては、ウェハ上で予備帯電された領域の境界が像となって現れてしまい、正しい検査ができなかった。また、予備帯電は検査と同時に行われるため、照射時間を長くする必要がある場合、ステージの移動速度を遅くせざるを得ず、検査速度が遅くなってしまっていた。
【解決手段】予備照射のビーム源とウェハとの間に、そのサイズが可変な開口を設け、その大きさの一辺をウェハのチップ列の幅と等しくなるように設定し、かつ、チップ列と垂直方向へのウェハの動きに合わせて、開口も移動するように制御する。また、ステージの移動速度を遅くすること無く、ウェハの検査時のステージ移動途中に十分なビーム照射ができるように、その開口をチップ列と平行な方向に大きくするよう設定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ上に作成された微細な回路の電気的欠陥を検査する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造過程において、ウェハ上に形成された回路パターンの欠陥を画像の比較検査により検出する方法として、点状に絞った電子線を走査するいわゆるSEM方式によるパターンの比較検査方法が、「特開平05−258703号公報」等に記載されている。SEM式検査装置は,光学式検査装置より分解能が高く、電気的欠陥を検出できるという特長を有している。しかし、SEM式検査装置は電子線を点状に絞って試料表面上で2次元的に走査して像を得る手法であるため、今後の高速化の遂行には根本的な障害がある。
【0003】
高速化を図った電子線検査方法として、「特開平7−249393号公報」等には、矩形状の電子線を半導体ウェハに照射し、発生する反射電子や二次電子を電子レンズにより結像する写像型の検査装置が記載されている。写像型検査装置は、SEM方式よりも大電流の電子線を一度に照射でき、かつ一括で画像を取得できるためSEM方式と比較して高速に画像を形成できることが期待できる。ところが、像形成に二次電子を用いる場合では、二次電子の放出角度分布とエネルギー分布の広がりに起因して画像形成に寄与する二次電子が少ないことが問題となる。すなわち、一括画像形成のために電子線を面積ビームとして大電流を照射しても、実際に画像形成に寄与できる二次電子の割合が低いため、画像の必要なS/N比を確保することが困難である。反射電子を用いる場合も、照射ビーム電流に比べて二桁少ない放出量しか得られず、通常の写像型の検査装置によっては、高い欠陥検出感度と高速性の両立は困難である。
【0004】
「特開平11−108864号公報」等には、ウェハ直上の逆電界によって試料に衝突する前に引き戻される電子(ミラー電子またはミラー反射電子と以下に称する)を、結像電子として用いた新規な写像型のウェハ検査装置が開示されている。このミラー電子を用いた写像型検査装置(以下では、をミラー電子結像型検査装置と略する)は、高感度な欠陥検出と高速検出との両立が可能であると考えられる。
【0005】
ミラー電子結像型検査装置が、従来の二次電子や反射電子を結像する写像型検査装置と異なっている点は主に2つある。第1には、試料からのミラー電子は、二次電子のような広い角度分布を持たずほぼ試料表面真上に放出されるため、結像レンズ系にほぼすべてを取り込むことができ、画像信号量を増やすことである。第2には、入射する電子が試料直上でミラー反射する領域では、電子の運動エネルギーは極めて小さくなり表面のわずかな変動でも軌道を変化させるため、欠陥部分と正常部分の像コントラストの差が大きくなることである。欠陥部分と正常部分の像コントラストの差が大きくなるということは、高分解能で画像を取得しわずかな画像の差を検出する二次電子や反射電子結像型検査装置にくらべ、画像処理の負担が少なくなることを意味している。これらの特長に加え、面状の電子線を被検査試料に照射し、反射されるミラー電子を一括検出して画像形成することにより、ミラー電子結像型検査装置は、高い欠陥検出感度と高速性を両立できる。
【0006】
ミラー電子結像型検査装置では、照射電子線は試料には入射せずに試料直上で反射されてしまうため、照射電子線で試料の帯電を制御することはできない。そのため、常に安定な検査像を得るためには予備帯電装置による予備帯電が必要となる。予備帯電を行うには、二次電子を発生させるに足るエネルギーを持った紫外線などの光、または電子線を照射する必要があり、「特開2004−14485号公報」には、検査の前にあらかじめウェハ全体を帯電させる予備帯電装置について記載されている。予備帯電によるウェハ表面の帯電電位は、絶縁物の種類や回路パターンによって異なるが、少しずつ電荷が逃げるためある時定数で減少する。これらの時定数は、ミラー電子画像を取得する時間に比べて十分長いが、ウェハ一枚全体の検査時間と比べると不十分であるため、検査途中の予備帯電が必要となる。
【0007】
【特許文献1】特開平05−258703号
【0008】
【特許文献2】特開平7−249393号
【特許文献3】特開平11−108864号
【特許文献4】特開2004−14485号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
試料表面の電位変化に敏感なため、ミラー電子結像型検査装置においては、検査領域の帯電量は試料全体で均一になっている必要がある。このため、検査開始前に試料の予備帯電を行い、検査領域の帯電量を所定量に制御しておく必要がある。予備帯電は、検査開始前にウェハ全体に施しておいても良いが、前述の時定数の問題などから、検査と同時に行うことが好ましい。しかし、検査中の予備帯電には、以下に述べるミラー電子像形成メカニズムに起因する課題がある。結像電子光学系カラムの近傍に置いた予備帯電装置の場合を考える。検査領域に均一な帯電電位を形成するため、予備帯電を行う領域は、検査の視野に比べて十分大きくしてある。ウェハに照射された面ビームのスポットは、ウェハ面上を、電子線照射軸に対して二次元的に走査される。ウェハは、電子光学系カラムに対して往復連続運動をしながら、往復連続運動方向と垂直な方向に少しずつ移動する。1回の横方向の連続運動により、予備帯電された領域はウェハの移動に伴ってウェハの表面に帯状に繋がることとなる。この帯の幅は検査の視野より大きいため、これから検査をしなければならない未検査領域にこの帯電領域の境界がかかってしまうことになる。この帯状の帯電領域と未帯電領域との境界は、表面電荷の量が異なるため電位の差が存在している。ミラー電子結像型検査装置は表面の電位分布を像として形成するので、帯電領域と未帯電領域の境界をミラー電子で観察すると、境界が線となって像に現れる。予備帯電領域の境界での電荷分布の変化が急峻であればあるほど、ミラー電子像に現れる線と線以外の部分とのコントラストは強くなる。
【0010】
予備帯電領域の境界部分に重なるパターンを検査する場合、検査直前(画像取得用電子の照射の直前)に、改めて予備帯電を行ってもよい。しかし、最初の予備帯電で生じた帯電電荷量の差が完全に解消されるまで時間がかかり、結局、最初の予備帯電で生じた帯電量の差が残留したまま像を取得することになる。このため、従来は、照射領域の境界部分が存在しているウェハパターン上では正しい検査像を得ることができなかった。この問題は、SEM式検査装置にも起こりうるが、SEM式検査装置は、試料表面の電位変化にはミラー電子結像型検査装置程敏感ではないため問題とはならない。
【0011】
また、従来の予備帯電装置では、予備帯電に必要な電子線の照射量を確保しようとすると、ステージ移動速度が遅くなり、十分な検査速度が得られないという問題があった。ある照射領域に対する電子線の照射量は、ビーム照射系自体のビーム照射量と、照射領域にパターンが滞在する時間、すなわちウェハステージの速度で決まる。通常、ビーム照射系自体のビーム照射量は大きく変動させることができないため、照射領域へのドーズ量を増やそうとするとステージ移動速度を遅くして、ウェハの目的箇所にビームがあたっている時間を長くするしかない。従って、
所定の帯電電位にするための帯電電荷量が多く必要なウェハの場合では、ステージの移動速度を遅くすることになり、十分な速さの検査速度を達成できないという課題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
帯電領域と未帯電領域の境界の課題については、試料上に形成された特定領域の境界線と予備帯電用に照射するビームスポットの境界線とが一致するような制御を行うことで課題を解決する。以下詳述する。
【0013】
図2には、帯電領域と未帯電領域の境界に関する課題の解決手段の概念を説明するための図である。検査対象となるウェハ5上と、ミラー電子結像型検査装置における結像レンズ中心のウェハへの投影位置201と、予備帯電照射領域202との位置関係が模式的に示されている。ウェハ5上に示された多数の矩形は、ウェハに形成されたチップを示す。ウェハ5は、図2中に示されたx軸方向に移動し、結像レンズ位置201の中心にある検査視野203がウェハ5のチップ領域全幅を走査する。一回の走査が終了したら、y軸方向に視野203の大きさだけ微動し、x軸方向に逆向きに移動しチップ領域全幅を再び走査する。この運動を繰り返すことにより、視野203がチップ領域全体を走査する。このとき、照射領域202の幅Wをチップの幅Wcと同じになるように設定するようにした。照射領域202の幅Wをチップの幅Wcと等しくすることで、x軸方向のステージ移動の際に生じる既帯電/未帯電の境界は常にチップ境界にあることになり検査になんら影響を及ぼさない。チップ全面を検査しない場合では、照射領域202の幅Wをチップの幅Wcより小さくしてもよい。
【0014】
ステージがy軸方向に微動した際にチップの境界から帯電領域の境界がずれないよう、照射領域202はチップ境界の位置と照射領域の境界とが合致するようにステージのy方向の移動と連動する。照射領域202がステージのy方向の移動と連動することで、一つのチップ列を検査する間は常に帯電領域の境界はチップ列の境界にあり、検査に全く支障を与えない。さらにy軸方向にウェハ5が移動し検査が次のチップ列に移動する際は、照射領域202はチップ列の幅Wcだけ戻り、また同じy軸方向の連動を行う。このようにしてウェハ全体の検査に亘って帯電領域の境界は常にチップ列の境界に合わせることが可能になる。簡単のため、図2ではチップパターンの境界領域と予備帯電の照射領域とを一致させた例で説明したが、他のパターンやチップ中の回路ブロック等、他の特定領域の境界線とビームの照射スポット形状とが一致するように制御を行ってもよい。
【0015】
電子線照射量の確保とステージ高速移動の両立という課題に対しては、予備帯電ビームの試料への照射領域面積を可変とし、照射領域の面積を、試料の種類やパターンに応じて設定できる構成とした。これにより、ステージの移動速度を遅くすることなく、被検査試料へのドーズ量を増やす効果を達成できる。これも図2を用いて説明する。
ステージの移動速度を変化させることなく帯電のためのビーム照射時間を長くするために、照射領域202の長さLを可変としてもよい。Lを最長にしても照射時間が不足する場合は、照射領域202の幅Wをチップ列の幅Wcの整数倍にすれば、帯電領域の境界が検査に支障を与えることなく、さらに照射時間を長くすることができる。
【0016】
また、照射領域202を必要に応じて結像レンズに対して対称に配置し、検査中にウェハ5のx軸方向の移動方向が逆転しても、常に同じ条件で予備帯電ができるようにする。
上記に説明したいずれの課題解決手段においても、照射領域202の大きさは、検査対象のウェハに形成されたパターンの種類や、絶縁膜の種類に応じて制御する必要がある。そこで、与えられた帯電電位に達するために必要な電荷量と各種の制御パラメータとをデータとして蓄えた制御装置と、照射領域202の面積可変機構(照射領域202の幅Wや長さL等の可変機構)を設ける。これにより、各種の制御パラメータ(例えば、ウェハステージの移動速度、予備帯電装置のビーム強度など)から、照射領域202の大きさを決定し、決定された大きさに照射領域を設定できる構成とする。制御装置には、適当なマン−マシンインタフェースを設けて、ユーザーが各種の制御パラメータを制御装置に入力できるような構成としても良い。なお、図2では、照射領域202の形状が矩形となっているが、予備帯電を行う領域の形状に応じて、矩形以外の形状の照射領域を用いることが出来ることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、様々な試料ウェハに対し、検査になんらの支障を与えることなく、最適の検査条件を提供する予備帯電を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施例の構成について以下に図面を参照して詳述する。
【実施例1】
【0019】
図1に、本発明の一実施例を示す。可動スリットを備えた予備帯電装置の構成である。本図は本発明の基本的な構成を説明するものであり、全体のハウジングや支持部材などは適宜省略されている。また、電気系の配線は抽象化されて図示されている。図中の上は平面図で、下は側面図である。本実施例では、予備帯電のための二次電子励起源を電子線とした。電子源1は、大電流の電子線をある程度の広さ(数十mm)を持った面から放出する電子源である。予備帯電用の電子線は広い面積をなるべく一様に試料へ照射することが求められる。本実施例では、カーボンナノチューブを面状に束ねた電子源を用いた。その他の電子源として、タングステンフィラメント熱電子源、あるいはLaB6電子源等を用いることが可能であるが、これらの点状電子源を用いる際には電子線を略平行に収束する電子レンズが必要である。引出グリッド2に電源3により引出電圧を印加して電子源1から電子線を放出させる。電子線は、制御グリッド4を通過してウェハ5上に照射され、二次電子が放出する。ここで、電子線の照射エネルギーは加速電源6の電圧で決まり、この電圧は二次電子放出効率が1以上となるような値に設定しておく。一般的な半導体デバイス用の絶縁膜材料では500V程度である。
【0020】
このとき、二次電子放出効率が1より大きいため、絶縁膜表面は正に帯電していく。制御グリッド4には制御電源7が接続されており正または負の任意の電圧を印加できるようになっている。制御電源を正にした場合、発生した二次電子は制御グリッド4に引き寄せられるので、ウェハ表面は正に帯電していく。ウェハ表面が制御グリッド4の電圧と等しくなると、制御グリッド4とウェハ表面間に電位勾配が無くなるため、発生した二次電子はウェハ表面に戻り始める。するとウェハ表面の正帯電が緩和され、再び制御グリッドとの間の電位勾配が復活する。次に、制御電源7を負にした場合、発生した二次電子は制御グリッド4に押し戻され、ウェハ表面に戻るため、実効的な二次電子放出効率が1より小さくなる。従って制御グリッド4とウェハ表面の間の電位勾配がなくなるまで、ウェハ表面は負に帯電していく。このように、ウェハ表面の帯電電位を制御グリッド4と制御電源7とでコントロールできる。
【0021】
本実施例では、引出グリッド2と制御グリッド4との間に、三枚の可動板8,9,10から構成されるスリットを設け、開口11を形成するようにした。この開口11の大きさが、予備帯電照射領域303の大きさとなる。図には示されていないが、これらの可動板は導電性で接地されており、電子に曝露されても帯電しない。また、加熱によって電子線曝露による汚れがつかないようにしても良い。可動板8,9は、リニアガイド12に沿って、また可動板10はリニアガイド13に沿って、図中白い矢印で示した方向に滑らかに移動し、また、駆動はそれぞれ駆動装置14,15、および駆動装置16により行われる。可動板が4枚でなく3枚である理由は、本図は予備帯電装置を検査装置電子光学カラムの左側に近接して設置することを想定しており、カラム側は可動板を移動させるのに十分な空間が取れないほど、カラムに接近して取り付けられるからである。カラムの右側に設置する場合の構成は本図を左右に反転させた構成となる。また、以上の構成はベースプレート17に構築されており、全体で一体として検査装置試料チャンバ天板に、ウェハと対向するように取り付けられる。
【0022】
図3に、図1に示した予備帯電装置を搭載したミラー電子結像型検査装置の構成を示す。本装置は大別すると、電子線照射系901、ミラー電子結像光学系902、試料室903、画像検出部904、画像処理部905および制御部906より構成されている。それぞれの部分について以下に説明する。但し、本図には真空排気用のポンプやその制御装置、排気系配管などは略されている。以下にそれぞれの各項目につき、主要な構成要素およびその動作を説明する。
【0023】
電子線照射光学系901において、電子源301から放出された照射電子線907は、コンデンサレンズ302によって収束され、かつ、E×B偏向器303により偏向されて、クロスオーバー908を形成した後、試料ウェハ5上にほぼ平行束となって照射される。電子源301には、Zr/O/W型のショットキー電子源を用いた。大電流ビーム(例えば、1.5μA)で、かつエネルギー幅が1.5eV以下の均一な電子線を安定に形成できる。引き出し電極系304へは高電圧制御装置305により、電子源への引き出し電圧および引き出された電子線への加速電圧が供給され、引き出し電圧と加速電圧を調整できるようになっている。後述するようにビームセパレータとして機能するE×B偏向器303は、結像電子線909の結像面910近傍に配置させるが、この配置では照射電子線907に対してE×B偏向器303で収差が発生する。この収差を補正するために照射系コンデンサレンズ302とE×B偏向器303のあいだにもう一つ収差補正用のE×B偏向器306配置させる構成とする。
【0024】
照射電子線907は、E×B偏向器303によってウェハ5に垂直な光軸に偏向されるが、E×B偏向器303は、上方からの電子線に対してのみ偏向作用をもつため、ビームセパレータとして機能している。E×B偏向器303より偏向された照射電子線907は、対物レンズ307により試料ウェハ5表面に対し垂直な方向に入射する面状の電子線に形成される。E×B偏向器306によりセパレータE×B偏向器303の偏向収差が補正されるので、対物レンズ307の焦点面上には微細なクロスオーバー908が形成されるので、平行性の良い照射電子線を試料ウェハ5に照射できる。照射電子線907が照射する試料ウェハ5上の領域は、たとえば50μm×50μm、100μm×20μmといった大きな面積とする。
【0025】
試料室903内の試料ステージ308に搭載された試料ウェハ5には、電子線の加速電圧とほぼ等しいか、僅かに高い(絶対値の大きい)負電位が試料電圧印加電源309によって印加されている。照射電子線907は、この負電位によってウェハ5の手前で減速、反射されてミラー電子として上方に引き戻される。
ミラー電子はウェハ5上回路パターンの電気的欠陥に関する情報を反映しており、ミラー電子結像光学系902により像が形成される。ミラー電子結像光学系902の主要構成要素は、対物レンズ307、中間レンズ310、投影レンズ31である。ミラー電子は対物レンズ307により収束作用を受け、ビームセパレータとしてのE×B偏向器303は下方から進行した電子線に対しては偏向作用を持たないので、そのまま垂直に上昇し、中間レンズ310、投影レンズ311によって画像検出部904に拡大投影される。画像検出部904は像を電気信号に変換しウェハ5表面の局部的な帯電電位の分布すなわち欠陥像を、画像処理部905に送る。
【0026】
次に、画像検出部904について説明する。画像検出には、ミラー電子像を光学像に変換するための蛍光板312と光学画像検出素子314とを光学像伝達系313により光学結合させる。本実施例では、光学像伝達系314として、光ファイバー束を用いている。光ファイバー束は、細い光ファイバーを画素数と同じ本数束ねたものである。また、上記光ファイバー束の代わりに光学レンズを用い、光学レンズによって蛍光板312上の光学像を光学画像検出素子316の受光面上に結像させるようにしてもよい。光学画像検出素子314は、その受光面上に結像された光学像を電気的な画像信号に変換して出力する。光学画像検出素子314としては、CCD、MCP(マイクロチャンネルプレート)、フォトダイオードなどを用いることができる。また、時間蓄積型のCCDを用いたTDIセンサを用いてもよい。
【0027】
画像処理部905は、画像信号記憶部317、欠陥判定部318より構成されている。画像記憶部317は照射電子線の偏向データとステージの位置データを検査装置制御装置319から取得し、画像データを試料ウェハ上の座標系に関係付けて記憶する。ウェハ上に座標付けされた画像データは、欠陥判定部318によりあらかじめ設定された値と比較して欠陥を判定し、その座標および、対応するピクセルの信号強度は検査装置制御装置319に送られ検査装置制御装置319に記憶される。比較のための値は、検査装置制御装置319から設定される。
【0028】
装置各部の動作命令および動作条件は、制御部906内の検査装置制御装置319から入出力される。検査装置制御装置319には、予め電子線発生時の加速電圧、電子線偏向幅・偏向速度、試料ステージ移動速度、画像検出素子からの画像信号取り込みタイミング等々の諸条件が入力されている。検査装置制御装置319からの指令を受けて、ステージ位置測定器320、試料高さ測定器321からの信号を基にして補正信号を生成し、電子線が常に正しい位置に照射されるように対物レンズ制御装置322に補正信号を送る。ステージ制御系323は、検査装置制御装置319から指令を受けて試料ステージ308の移動を制御する。検査装置制御装置319は、役割を分担しインターフェースで結合された複数の計算機から構成されていても良い。また、モニタ付入出力装置324が設置されている。
【0029】
本発明では、電子線がウェハ5に衝突することがないので、通常では試料ウェハは帯電しない。しかし、電気的欠陥を検出するためには帯電させる必要があるため、図1に説明した予備帯電装置315を備えている。予備帯電装置315は予備帯電制御装置316により制御されている。これらの動作の詳細を図4を用いて説明する。図4には装置を真空に維持するための真空排気系、ウェハを装置に投入するための搬送系、画像処理系、ステージ制御系、電子光学系制御系などは図示されていない。図4はミラー電子結像型検査装置を上面から見ている。図4では電子光学系カラムの詳細は省かれており、ミラー電子結像のための対物レンズ307の位置のみ図示されている。試料チャンバ903の内部の試料ステージ308は、図中矢印で示されている様にx方向には往復駆動しながら少しずつy方向に駆動するため、対物レンズ307の視野はウェハ全体を走査する。予備帯電装置315は図1に詳述した装置であり、対物レンズの307の両側に一個づつ配した。これは、カラムに対して往復運動をするウェハに対して、検査直前に効率よく予備帯電を行うためである。予備帯電装置315各電圧を供給する電源および電気配線は図中略した。
【0030】
被検査ウェハ5はまず、大気開放した予備チャンバ325に搬送される。次に予備チャンバ325の投入口が閉じられた後、予備チャンバ325は真空ポンプにより真空に引かれ、常時真空に維持されている試料チャンバ903の真空を破ることなくウェハ5は搬入される。このウェハ搬入時においては、試料ステージ308は図中HPと示された位置に移動しウェハを受け取る。ウェハを試料チャンバ903に搬送後、次のウェハ投入に備え、予備チャンバ325との出入り口は閉じられる。
【0031】
ウェハの検査に先立って、予備帯電装置の開口11の大きさを決定する。予備帯電制御装置316は、絶縁膜の種類を設定すると、装置内の記憶装置23を参照し与えられた帯電電位にするための入射電荷量を決定する。この電荷量データと、あらかじめ設定されているステージ速度から、開口11の大きさが計算され、予備帯電制御装置316は駆動装置16を駆動して可動板10を所定の開口の大きさにする。また、検査対象のチップの大きさ、あるいはチップ内の検査領域の大きさを予備帯電制御装置316に入力すると、予備帯電制御装置316は駆動装置14および15により可動板8,9をそれぞれ駆動し、所定の開口の大きさにする。これら予備帯電制御装置316への条件入力は、検査装置全体を制御する検査装置制御装置319を通して行う。従って、ユーザーは予備帯電制御装置316の存在を意識することなく、様々な条件設定を行うことができる。
【0032】
検査が開始されると、ウェハ5は図4に示すようにx方向に往復運動をしながら、y方向に少しずつ移動していく。予備帯電制御装置316は、検査装置制御装置319からステージのy方向の移動量を取得し、この移動量の分だけ可動板8および9を駆動する。この動作により、予備帯電の照射領域202の境界が、常にチップ列の境界または検査領域の境界に存在することになり、照射領域202の境界が検査に支障を与えることを防ぐことができる。可動板8,9のこのy方向の移動量の累積がチップ列の幅と等しくなったとき、すなわち、ウェハ5上の検査が次のチップ列に移るとき、可動板8,9はチップ列の幅だけウェハ5の移動方向と逆向きに戻る。その後は、ウェハ5のy方向の移動に合わせて同様の連動を行う。
【実施例2】
【0033】
本実施例では、開口11を決定するために3枚の可動板を用いるのではなく、予め所定の開口が設けられた可動板24を1枚用いる。チップの大きさが同じで、予備電必要時間に大きな差が無いウェハのみが検査される場合、開口の大きさを頻繁に変更する必要は無い。異なる大きさのチップや、予備帯電にさらに時間のかかるウェハの検査に移行する場合は、新たなウェハに適した開口を有する可動板に交換し、検査を行う。検査中のウェハの動きに連動した可動板の動きは、(実施例1)と同様であり、ウェハy方向の移動に合わせて駆動装置25により可動板24を移動させる。
本実施例によれば、可動板の数が少ないので、可動板の駆動機構が簡略化され、より低コストで照射領域の大きさを変更し、照射領域の境界が検査に支障を与えないようにすることができる。
【実施例3】
【0034】
本実施例では、可動板25を大きくして、複数種類の大きさのの開口設けた。この他は実施例2と同様である。これにより、実施例2に比べ可動板の交換の手間を緩和でき、かつ、実施例1よりも駆動機構が簡略されているので、より低コストで実施できる。
【実施例4】
【0035】
これまでの実施例は、予備帯電照射領域の制限についてであるが、予備帯電領域の面積を大きく変化させる必要があった。その際、電子源1は、最も大きい照射面積を想定して、その面積は大きいものとなっている。従って、照射面積があまり必要とされない場合は、殆どの電子はスリット(可動板)で遮られるだけである。その場合、電子線曝露による可動板の汚れの発生や、可動板から放出する二次電子の影響などが顕著になり、均一なビーム照射に影響を及ぼす。本実施例では、引出電極2を絶縁枠27によって複数(図では3つ)に分割し、スイッチ28を設けることにより、電源3が供給する引き出し電圧が、部分的にかかるようにした。照射面積が小さい場合、図中1番左の電極のみに電圧をかけ、電子源1の一部のみから電子を放出する。引き出し電極をこのような構成とすることにより、照射面積に応じて電子源1からの電子線発生領域を制限することができ、いかなる照射面積の予備帯電条件においても、より安定な予備照射をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施例の概略構成を示す図。
【図2】本発明の原理を説明する図。
【図3】ミラー電子結像型検査装置の基本構成を説明する図。
【図4】本発明を搭載したミラー電子結像型検査装置について説明する図。
【図5】本発明の第2の実施例の概略構成を示す図。
【図6】本発明の第3の実施例の概略構成を示す図。
【図7】本発明の第4の実施例の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1:電子源、2:引出グリッド、3:電源、4:制御グリッド、5:ウェハ、6:加速電源、7:制御電源、8:可動板、9:可動板、10:可動板、11:開口、12:リニアガイド、13:リニアガイド、14:駆動装置、15:駆動装置、16:駆動装置、17:ベースプレート、18:試料チャンバ、19:予備帯電装置、20:ウェハステージ、21:予備チャンバ、22:予備帯電制御装置、23:記憶装置、24:可動板、25:駆動装置、26:可動板、27:絶縁枠、28:スイッチ、201:結像レンズ位置、202:予備帯電照射領域、203:検査視野、301:電子源、302:コンデンサレンズ、303:E×B偏向器、304:引き出し電極系、305:高電圧制御装置、306:E×B偏向器、307:対物レンズ、308:試料ステージ、309:試料電圧印加電源、310:中間レンズ、311:投影レンズ、312:蛍光板、313:光学像伝達部、314:光学像検出器、315:予備帯電装置、316:予備帯電制御装置、317:画像信号記憶部、318:欠陥判定部、319:検査装置制御装置、320:ステージ位置測定器、321:試料高さ測定器、322:対物レンズ制御装置、323:ステージ制御系、324:モニタ付入出力装置、325:予備チャンバ、901:電子線照射系、902:ミラー電子結像光学系、903:試料室、904:画像検出部、905:画像処理部、906:制御部、907:照射電子線、908:クロスオーバー、909:結像電子線、910:結像面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電子線を試料に照射する照射光学系と、
前記試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージを2次元的に移動させる手段と、
前記試料上に形成された回路パターン像を形成する手段と、
紫外線源または第二の電子線源を有し、
前記紫外線源または第二の電子線源より発生した紫外線または第二の電子線を前記試料表面上に照射する手段と、
前記紫外線あるいは第二の電子線の前記試料表面への照射を所望の矩形領域に制限する手段とを備えることを特徴とする電子線応用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線応用装置において、
前記矩形領域の制限手段が、紫外線源または第二の電子線源と前記試料ステージとの間に設置された、開口を形成する矩形のスリットまたは開口部を有するスリットであることを特徴とする電子線応用装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子線応用装置において、
前記矩形照射領域の面積を可変にするために前記スリットの開口の大きさを可動に制御する手段を備えることを特徴とする電子線応用装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電子線応用装置において、
前記矩形照射領域の面積を可変にする手段は、前記試料の材料の種類、またはチップの大きさ、または前記試料ステージの移動速度、または前記第二の電子線あるいは紫外線のビーム強度から前記矩形照射領域の大きさを制限することを特徴とする電子線応用装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検査装置において、前記試料上に形成された前記回路パターン像を形成する手段は、第一の電子線が前記試料に入射する直前で引き戻すための負電圧印加手段と、引き戻された電子を結像する手段を含むことを特徴とする、電子線応用装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電子線応用装置において、
前記回路パターン像を画像処理することにより前記試料上に形成された回路パターンの欠陥を検出する手段を備えることを特徴とする電子線応用装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の電子線応用装置において、
前記矩形照射領域を、前記試料ステージの移動量と移動方向に併せて移動させる手段を備えたことを特徴とする、電子線応用装置。
【請求項8】
第一の電子線を試料に照射する照射光学系と、
前記試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージを2次元的に移動させる手段と、
前記試料上に形成された回路パターン像を形成する手段と、
第二の電子線または紫外線を前記試料に照射する予備帯電手段と、
該予備帯電手段は、前記試料の所望の領域に前記第二の電子線または紫外線を照射するための開口部を形成するスリットを有し、
前記第二の電子線または紫外線による前記照射領域の大きさを制限する制御手段を備え、
該制御手段は、前記試料ステージの移動速度または前記予備帯電手段からのビーム強度から前記照射領域を制限することを特徴とする電子線応用装置。
【請求項9】
第一の電子線を試料に照射して、該試料上に形成された回路パターンの像を取得し、該回路パターン像をもとに欠陥を検査する方法において、検査像を取得する前に、紫外線あるいは第二の電子線を該試料表面上の該第二の電子線による矩形照射領域の面積を予め制限した上で照射することにより、該試料上の設定された領域のみ帯電させて検査像を取得することを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。
【請求項10】
請求項9に記載の検査方法において、該試料上に形成された回路パターンの像は、該試料に印加された負電圧によって該試料に入射する直前で引き戻された電子をもとに形成されることを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の矩形照射領域の辺のうち、欠陥検査時の試料往復運動方向と垂直な方向に沿った辺の長さを、被検査試料に形成されているチップの辺のうち、欠陥検査時の試料往復運動方向と垂直な方向に沿った辺の長さの整数倍とを、等しくするように設定することを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。
【請求項12】
請求項11に記載の矩形照射領域の辺のうち、欠陥検査時の試料往復運動方向と垂直な方向に沿った辺の長さを、被検査試料に形成されているチップの中での矩形検査領域の辺のうち、欠陥検査時の試料往復運動方向と垂直な方向に沿った辺の長さとを、等しく設定することを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれかに記載の矩形照射領域の辺のうち、欠陥検査時の試料往復運動方向と平行な方向に沿った辺の長さを変えることにより、検査前に照射する紫外線あるいは第二の電子線の試料への総照射量を変化させることを特徴とする、パターン検査方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の矩形照射領域を、紫外線源または第二の電子線源と、被検査試料との間に、矩形のスリットを設けることによって形成することを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれかに記載の矩形照射領域を、欠陥検査時における試料往復運動方向と垂直な方向への試料の移動と同時に、該試料移動の移動量と同じ量を、該試料移動の移動方向と同じ方向に、移動させることを特徴とする、電子線応用装置による検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−179255(P2006−179255A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370350(P2004−370350)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】