説明

パワー半導体モジュール

【課題】接合界面に不要な反応生成物を生成させ難く、その結果クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールを提供すること。
【解決手段】2つの部品の間を、Bi系ハンダ材料により接合してなるパワー半導体モジュールであって、前記2つの部品のBi系ハンダ材による被接合面にCu層を備える。被接合部品である上記2つの部品は、半導体素子と絶縁部、又は絶縁部と放熱板の組み合わせである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールに関し、詳細には、鉛フリー高温ハンダ材料により接合してなるパワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、通常、パワー半導体と電流通電部とが電気的に絶縁されるよう、パワー半導体に絶縁体を設けた構成となっている。このパワー半導体と絶縁体とは、ハンダなどによって接合されている。
【0003】
また、パワー半導体モジュールでは、半導体素子から発生する熱を効率よく放散するために、あるいは一時的に熱を分散するために、放熱板が設けられ、この放熱板と上記絶縁体とは、ハンダによって接合されている。したがって、パワー半導体モジュールでは、半導体素子と絶縁体との間、及び絶縁体と放熱板との間の2箇所でハンダにより接合することが一般的である。
【0004】
ここで、2回目のハンダ付けの温度が、1回目に用いたハンダ材料の融点よりも高いと、2回目のハンダ付けの際に1回目にハンダ付けした部分が溶融して、位置ずれを起こしたり傾斜したりといった不具合を発生させてしまう。したがって、この問題を回避するため、1回目に用いるハンダ材料の融点は、2回目に用いるハンダ材料の融点よりも高くなるように、ハンダの材料を選択している。
【0005】
これまでは2回のハンダ接合工程にPb系ハンダ材料が用いられていた。特にPb−Snハンダ材料を用い、PbとSnの比率を変えることによって、融点を183〜300℃前後の範囲で変化させて、2回のハンダ付けを行っていた(例えば、非特許文献1参照。)。
しかし、Pbは毒性を有するために使用廃止の方向にあり、Pbフリーのハンダ材料の開発が望まれている。
【0006】
このようなハンダ材料に対する要求の中、例えば、種々の組成のSn系ハンダ材料が提案されている。しかしSn系ハンダ材料は、その融点を220℃前後の狭い範囲でしか変動させることができず、2回のハンダ付けの工程に適用させることが難しい。
【0007】
また、次世代のパワー半導体素子であるGaNやSiCは、200℃以上の耐熱性を有し、且つ絶縁破壊電界及び飽和電子密度等が大きいことから、高い動作電圧を用いて大電流を扱うことが可能である。この電流の大きさに起因して半導体素子からの発熱が200℃程度にまで上昇するため、ハンダによる接合部分に対しても200℃以上の耐熱性が要求されている。
しかし、Sn系ハンダ材料の融点は220℃程度であるが故に、この温度で溶けてしまい、また、200℃前後において引っ張り強度が著しく低下してしまうため、200℃を超える熱を発する次世代パワー半導体素子に対しては、接合材料としてSn系ハンダ材料を用いることは実用上難しい。
【0008】
また、接合材料としてAg系のロウ材料が一般的に知られているが、それらの融点は650℃以上と高く、このような温度では半導体素子を壊したり変質させてしまうために、本用途に用いることができない。
【0009】
このような状況下において、ハンダ材料としてBiを用いると、Bi単体の融点が270℃であるため、耐熱性に優れた接合体となる。
例えば、所望の接合温度で接合できるよう、固相線温度と液相線温度を適切な範囲とすべく、Ag、Cu、Sb、Znを含むBiがハンダ材料として提示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、AgなどBiと共晶しうる金属元素と、Sn、Cu、In、Sb、Znなどの金属元素とをBiに添加した3成分以上からなるハンダ材料が提示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2005−72173号公報
【特許文献2】特開2001−353590号公報
【非特許文献1】馬場陽一郎「HVインバータ品質確保の取り組み」溶接学会全国大会講演概要、第77章(2005−9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、Bi系ハンダ材料をパワー半導体モジュールの接合材料に適用しようとすると、その過酷な冷熱サイクルによって接合界面での反応が顕著になり、ハンダ材料に接する部材の材質によっては不要な反応生成物を生成させてしまうことが明らかとなった。この反応生成物は、周りに存在するハンダ材料よりも硬かったり脆かったりするので、この反応生成物が存在する位置を起点にクラックが発生したり、反応生成物が割れてクラックの発生の原因となったりする。
このような界面反応は、次世代の半導体素子として注目されているGaNやSiC半導体素子の場合に特に問題となる。これら次世代半導体素子では、発熱量が極めて多く、200℃以上にまで達する場合がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、Bi系ハンダ材料を用いて接合したときに、接合界面に不要な反応生成物を生成させ難く、その結果クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールを提供することにある。
【0012】
また、本発明の第二の課題は、製造工程上、位置ずれなどの不具合を生じないパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、Cu層を表面に備えたパワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、を有し、前記パワー半導体素子と前記絶縁基板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュールである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、パワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、Cu層を表面に備えた放熱板と、を有し、前記絶縁基板と前記放熱板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュールである。
【0015】
請求項1及び請求項2に記載の発明では、Bi系ハンダ材料が接する界面に、Cu層が設けられる。BiとCuとでは、冷熱サイクルに晒されても界面で不要な反応生成物が生成し難い。したがって、クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールとなる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記Bi系ハンダ材料が、(1)Bi単体、(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi−CuAlMn、(3)BiにCuを添加した材料、又は(4)BiにNiを添加した材料、であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワー半導体モジュールである。
【0017】
上述のように、BiとCuとの界面では、半導体素子から発せられる高温の熱によっても不要な反応生成物を発生させ難く、且つBiの融点が高いことから、Bi系ハンダ材料としては、(1)Bi単体、も適用することができるが、(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi−CuAlMn、(3)BiにCuを添加した材料、又は(4)BiにNiを添加した材料であれば、Bi特有の脆性の高さを解消することができ、機械的強度を高めることもできる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記BiにNiを添加した材料は、Niの含有率が0.01質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュールである。
【0019】
更に接合時の加熱温度を考慮すると、ハンダ材料の液相線温度や固相線温度を調節することが好ましい。液相線温度や固相線温度は、添加物質の添加量などによって調整することができる。BiにNiを加えるとその添加量が多くなるにつれ液相線温度が上昇し、ハンダ材料全体が溶融するのに高い温度を要することになる。
【0020】
NiをBiに添加する場合には、Niの含有率が0.01質量%以上であれば、Bi特有の脆性の高さを解消することができ、機械的強度を高めるという効果を得ることができる。
また、Niを添加することによって液相線温度が上昇し固相線温度との差が増加するが、Niの含有率が7質量%以下であれば、パワー半導体モジュールを接合するときであっても実用的な範囲内である。また、このような液相線温度であれば、ハンダ付けの際の加熱によっても半導体素子は破壊されない。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記BiにCuを添加した材料は、Cuの含有率が0.01質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュールである。
【0022】
CuをBiに添加する場合には、Cuの含有率が0.01質量%以上であれば、Bi特有の脆性の高さを解消することができ、機械的強度を高めるという効果を得ることができる。
また、Cuを添加することによって液相線温度が上昇し固相線温度との差が増加するが、Cuの含有率が5質量%以下であれば、パワー半導体モジュールを接合するときであっても実用的な範囲内である。また、このような液相線温度であれば、ハンダ付けの際の加熱によっても半導体素子は破壊されない。
【0023】
請求項6に記載の発明は、前記Bi−CuAlMnは、CuAlMn合金粒子の含有率が0.5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュールである。
【0024】
CuAlMn合金の含有率が0.5質量%よりも少ないと、マルテンサイト変態の性質を有する物質を添加したことによる脆性の高さの解消という効果が得られ難く、20質量%よりも多いと、溶融するBiの含有率が低くなり、被接合体との接合強度が得られ難くなる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、Ni層を表面に備えた前記パワー半導体素子と、Ni層を表面に備えた前記絶縁基板とを備え、前記パワー半導体素子と前記絶縁基板とをそれぞれのNi層が対向するように配し、該2つのNi層の間をZn(1−x−y)Al(xは0.02〜0.10であり、yは0〜0.02であり、Mは亜鉛及びアルミニウム以外の金属を表す。)で表される合金で接合してなる請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールである。
【0026】
請求項7に記載のパワー半導体モジュールは、少なくとも(1)パワー半導体素子と、(2)絶縁基板と、(3)放熱板と、を有し、パワー半導体素子と絶縁基板との間、及び絶縁基板と放熱板との間、の2箇所がハンダ付けによって接合される。以下、パワー半導体素子と絶縁基板との間の接合部を第一接合部と称し、絶縁基板と放熱板との間の接合部を第二接合部と称する。
【0027】
上記2箇所のハンダ付けにおいて、階層接合技術を用いる。2回目のハンダ付け工程では、1回目にハンダ付けした部分も含めて全体を加熱するため、1回目のハンダ付け部位が位置ずれや傾斜など起こさないよう、2回目のハンダ付けの温度を1回目に用いたハンダ材料の融点よりも充分に低くしなければならない。2回目のハンダ付けの温度が、1回目に用いたハンダ材料の融点よりも高いと、2回目のハンダ付けの際に1回目にハンダ付けした部分が溶融して、位置ずれを起こしたり傾斜したりといった不具合を発生させてしまう。
【0028】
つまり、2回目のハンダ付け材料の融点が高すぎると、これよりも更に融点の高い材料を1回目のハンダ付け材料として選択しなければならず、加熱温度が全体に高くなるため作業性が低下し、製造コストもかかってしまう。また、パワー半導体素子もハンダ付けの際に加熱されてしまうため、パワー半導体素子の破壊や改質を防ぐ観点から、ハンダ付け時の加熱温度の上限は650℃であり、好ましくは450℃程度である。これらを考慮して、1回目のハンダ付けに用いる接合材料の選択の余地を残すためには、2回目のハンダ付け材料の融点はなるべく低いことが望ましい。
しかし、上述のとおり、次世代パワー半導体素子からは200℃程度の発熱があるため、ハンダ付け材料の融点は200℃よりも高くなければならない。
【0029】
すなわち、2回目のハンダ付け材料としては、その融点がなるべく低いことが好ましいが200℃よりも高くなければならない。
【0030】
このようにパワー半導体モジュールの製造工程を勘案すると、前記Bi系ハンダ材料は、2回目のハンダ付け材料として極めて好適である。なぜなら、前記Bi系ハンダ材料の融点は約270℃であるので、270℃よりも充分に高く且つハンダ付け工程の上限温度650℃(より好ましくは450℃)よりも低い温度範囲に融点を有するハンダ材料を1回目のハンダ付け材料に選択すればよく、その結果、1回目のハンダ付け材料の選択範囲が広くなる。また、270℃よりも充分に高い融点を有する1回目のハンダ付け材料を選択することができるため、2回目のハンダ付け工程において1回目のハンダ付け部位の位置ずれや傾斜などを発生させない。更に、半導体素子から発せられる大量の熱によってモジュールは200℃程度まで上昇するが、Bi系ハンダ材料の融点は約270℃であるので、このような条件下においても接合部分は耐熱性を有する。
【0031】
また、請求項7に記載の発明では、2つのNi層の間をZn(1−x−y)Al(xは0.02〜0.10であり、yは0〜0.02であり、Mは亜鉛及びアルミニウム以外の金属を表す。)で表される合金で接合してなる。
【0032】
Zn(1−x−y)Alで表される合金は、その融点が382℃であり、パワー半導体素子の動作によって発生した200℃程度の熱に対しても不具合を生じさせない。
【0033】
更に、Zn(1−x−y)Alで表される合金とNi層を接合することで、冷熱サイクルによってもその界面に生成する反応生成物は、ほとんど成長せず、温度変化に対しても亀裂、剥離などの不具合を生じさせない。また接着性にも優れる。
【0034】
また、上述の通り、ハンダ温度の上限は650℃程度、より好ましくは450℃であるが、Zn(1−x−y)Alで表される合金の融点は382℃でありハンダ付け工程に適用できる上限温度よりも低く、ハンダ付け工程における加熱によって半導体素子を破壊することがない。
【0035】
加えて、2回目のハンダ付けに用いるBi系ハンダ材料の融点(約270℃)よりも、Zn(1−x−y)Alで表される合金の融点(382℃)の方が充分に高い。したがって、Zn(1−x−y)Alで表される合金は、Bi系ハンダ材料を2回目のハンダ付けに用いる場合において、1回目のハンダ付け材料として極めて有益な材料である。
【0036】
したがって、請求項7に記載の発明によれば、冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じない信頼性の高いパワー半導体モジュールを得ることができる。また、製造工程においても、部品の位置ずれや傾斜などを発生させない。
【0037】
なお、Zn(1−x−y)Alで表される合金の融点(382℃)は、Bi系ハンダ材料の融点(約270℃)よりも高いので、大量の熱を発する半導体素子に近い側の接合部には、Zn(1−x−y)Alで表される合金をハンダ材料として用いることが好適である。
【0038】
請求項8に記載の発明は、前記パワー半導体素子が、GaN又はSiCを用いて形成されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールである。
【0039】
Bi系ハンダ材料は、第一接合部及び第二接合部のいずれに用いてもよく、仮に、パワー半導体素子から遠い側の接合部である第二接合部にBi系ハンダ材料を適用した場合であっても、パワー半導体素子であるGaNやSiCを用いた場合には、第二接合部にまでパワー半導体素子からの発熱が接合部に影響を与えかねない。
しかし、本発明において接合部に用いられるBi系ハンダ材料の固相線温度は約270℃であるため、次世代のパワー半導体素子であるGaNやSiCを用いて200℃を超えた高温で繰り返し使用した場合でも、接合部において亀裂や剥離などの不具合を生じさせない信頼性の高いパワー半導体モジュールとなる。
【0040】
請求項9に記載の発明は、前記絶縁基板がAlN層であり、AlN層の両表面にAl及びCuの少なくとも1種で形成される導電層を有してなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールである。
【0041】
絶縁基板のパワー半導体素子側に備える導電層は、当該導電層からパワー半導体素子に電気を効率よく伝導させることが好ましい。また絶縁基板は、パワー半導体素子と放熱板との間に設置されるため、効率よく伝熱することが望ましい。
したがって、絶縁基板としては、絶縁性があることは勿論、熱伝導が良好であることが好ましく、さらに高い導電性と高い熱伝導率を有する導電層を備えることが好ましい。
請求項9に記載の発明によれば、これら物性的な要求を満たすことができる。
【0042】
請求項10に記載の発明は、前記Biを系ハンダ材料で接合する面側の前記導電層は、Cuであることを特徴とする請求項9に記載のパワー半導体モジュールである。
【0043】
請求項1に記載の発明について説明したように、Bi系ハンダ材料が接する界面にCu層が設けられると、冷熱サイクルに晒されても界面で不要な反応生成物が生成し難い。そこで、絶縁基板において、Biを系ハンダ材料で接合する面側の導電層をCuとすると、導電機能と、不要な反応生成物の生成を阻止する機能とを兼ね備えることができる。
【0044】
請求項11に記載の発明は、前記Zn(1−x−y)Alで表される合金で接合する面側の前記導電層上に、Ni層を設けてなることを特徴とする請求項9に記載のパワー半導体モジュールである。
【0045】
請求項7に記載の発明について説明したように、Zn(1−x−y)Alで表される合金とNi層を接合することで、冷熱サイクルによってもその界面に生成する反応生成物は、ほとんど成長せず、温度変化に対しても亀裂、剥離などの不具合を生じさせないので、絶縁基板において、Zn(1−x−y)Alで表される合金で接合する面側の導電層をNiとすると、クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールとなる。
【0046】
請求項12に記載の発明は、前記放熱板が、Mo層の両面にCu層を有するCu層/Mo層/Cu層の積層体であることを特徴とする請求項2乃至請求項11のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールである。
【0047】
Cu/Mo/Cuの積層体は熱伝導率が高く、放熱板としての機能を効果的に発揮する。また、Cu/Mo/Cuの積層体は熱膨張係数が4ppm/K程度となり、パワー半導体素子の熱膨張係数の値に近くなる。その結果、冷熱サイクル時に顕著な熱応力が生じず、亀裂や剥離などの不具合を発生させない。また、この積層体のCu層は、上記Bi系ハンダ材料と接することになるが、BiとCuとの界面では、冷熱サイクルによっても不要な生成物を発生させることがないので、温度変化に対しても亀裂、剥離などの不具合を生じさせない。
【0048】
請求項13に記載の発明は、前記放熱板におけるCu層/Mo層/Cu層の厚さの比率が、1/5/1〜1/12/1であることを特徴とする請求項12に記載のパワー半導体モジュールである。
【0049】
Cu層/Mo層/Cu層の積層体の中でも、各層の厚さの比率が、1/5/1〜1/12/1の場合に、熱伝導率と熱膨張係数とのバランスが良好となり、放熱板としての機能を効果的に発揮する。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じない信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。また、製造工程上、位置ずれなどの不具合を生じないパワー半導体モジュールをも提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明のパワー半導体モジュールは、被接合面にCu層を備え、前記Cu層の間を、Bi系ハンダ材料によって接合してなる。この被接合面を有する部材としては、パワー半導体素子と絶縁基板との組み合わせ、或いは絶縁基板と放熱板との組み合わせである。また、本発明のパワー半導体モジュールにおいて、少なくとも1箇所がBi系ハンダ材料で接合されていればよく、したがって、2箇所以上をBi系ハンダ材料で接合していてもよい。
以下では、まず始めにパワー半導体モジュールの構成について説明し、次に各構成部材について説明する。
【0052】
<パワー半導体モジュール>
図1に、本発明のパワー半導体モジュール10の腰部断面図を模式的に示す。
パワー半導体モジュール10は、パワー半導体素子20と絶縁部30と放熱板40とを有する。パワー半導体素子20と絶縁部30との間は第一接合部50によって接合される。絶縁部30と放熱板40との間は第二接合部60によって接合される。
【0053】
パワー半導体モジュール10は、車載用インバータなどに用いられるものである。パワー半導体モジュール10の周辺には図示しない内燃機関が設けられているために、パワー半導体モジュール10が置かれている環境はかなり高温となっている。さらに、パワー半導体素子として次世代のGaNやSiCを用いた場合には、パワー半導体素子20からの発熱が大きく、パワー半導体モジュール10の温度が上昇する。
【0054】
パワー半導体素子が自身の発する熱や高温の周囲環境によって破壊するのを防ぐよう、冷却水が流動する冷却管(図示せず)が設けられ、冷却管とパワー半導体素子との間に放熱板40が設けられる。
【0055】
したがって、一般的にパワー半導体モジュールに求められる性能としては、第一に冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じさせないことであり、第二に絶縁基板によって確実に絶縁させることであり、第三にパワー半導体素子から発せられた熱を放熱板までなるべく蓄積することなく伝えることである。
【0056】
冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などを発生させないためには、半導体素子、絶縁基板、放熱板及び接合部材などの部材そのものが温度変化に対して耐久性がなければならず、加えて、冷熱サイクルにおいて不要な反応生成物を発生させないことが重要である。かかる反応生成物は脆い物質であったり、硬すぎる物質であったりして、反応生成物が発生した部位を起点として亀裂や剥離等を起こしやすい。
また、各部材の熱膨張係数が近い値であることも、冷熱サイクルによる亀裂や剥離などの発生を抑制するのに重要である。熱膨張係数が全く異なる部材を接合すると、冷熱サイクルによって繰り返し起こる部材の体積変化によって、亀裂や剥離等を発生させやすくなる。
【0057】
本発明の接合体であるパワー半導体モジュールでは、第一接合部50又は第二接合部60に、Bi系ハンダ材料を用いて接合しているため、接合部分の耐熱性は高くなっている。またBi系ハンダ材料が接する界面に、Cu層を設けているため、冷熱サイクルによって高温になってもBiとの界面において不要な反応生成物を生成させず、反応生成物の発生に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0058】
なお、本発明のパワー半導体モジュールでは、Bi系ハンダ材料を、第一接合部50及び第二接合部60のいずれに適用してもよく、また、第一接合部50を先に接合し次に第二接合部60を接合してもよいし、第二接合部60を先に接合した後、第一接合部50を接合してもよい。
しかし、いずれにしても2回目のハンダ付けの温度が、1回目に用いたハンダ材料の融点よりも高いと、2回目のハンダ付けの際に1回目にハンダ付けした部分が溶融して、位置ずれを起こしたり傾斜したりといった不具合を発生させてしまう。
【0059】
この問題を回避するため、一般的に、1回目に用いるハンダ材料の融点は、2回目に用いるハンダ材料の融点よりも高くなるように、ハンダの材料を選択する。好適には、2回目の接合に用いるハンダ材料の融点は、1回目の接合に用いるハンダ材料の融点よりも30℃以上低いことが望ましい。
【0060】
つまり1回目の接合に、Bi系ハンダ材料を適用した場合、Bi系ハンダ材料の融点は270℃以上となるので、2回目の接合に用いるハンダ材料は、Bi系ハンダ材料の融点よりも30℃以上低い融点を有するものとすることが好ましい。一方で、パワー半導体からの発熱を考慮すると、2回目の接合に用いるハンダ材料の融点は200℃以上であることが望ましい。よって、1回目の接合に、Bi系ハンダ材料を適用した場合には、2回目の接合に用いるハンダ材料は、融点が210℃〜240℃程度のものを適用することが好ましい。
他方、2回目の接合に、Bi系ハンダ材料を適用した場合には、1回目の接合に用いるハンダ材料は、Bi系ハンダ材料の融点よりも30℃以上高い固相線温度を有するものであることが好ましい。一方で、ハンダ付けの際の加熱によって半導体素子が破壊されるのを防ぐには、融点が650℃以下、好ましくは450℃以下であることが好ましい。よって、2回目の接合にBi系ハンダ材料を適用した場合には、1回目の接合に用いるハンダ材料は、融点が300〜650℃、好ましくは300〜450℃のものを適用することが好ましい。
【0061】
上記から、Bi系ハンダ材料は、その融点が約270℃であるという観点から2回目の接合に用いることが好ましく、1回目の接合に用いるハンダ材料は、Bi系ハンダ材料の融点270℃よりも充分に高い融点を有する材料を適用することが好ましい。但し、製造工程上、ハンダ付けのための加熱によってパワー半導体素子20を破壊しないよう、1回目の接合に用いるハンダ材料としては、融点が650℃(より好ましくは450℃以下)であることが好ましい。つまり、1回目の接合に用いるハンダ材料は、融点が270℃よりも充分高く、650℃(より好ましくは450℃)よりも低い材料であることが好ましい。
【0062】
そこで、1回目の接合に用いるハンダ材料としては、主成分がZnである合金材料などを挙げることができる。これらの中でも、1回目の接合に用いるハンダ材料として、Zn(1−x−y)Alで表される合金(融点:382℃)を適用することが、パワー半導体素子の破壊防止の観点から好適である。
【0063】
なお、より好適には、大量の熱を発する半導体素子に近い側の第一接合部50には、融点の高いZn(1−x−y)Alで表される合金を適用し、半導体素子から遠い側の第二接合部60には、Bi系ハンダ材料を適用する場合である。
【0064】
したがって、以下、図1に示す第一の実施態様では、第一接合部50にはZn(1−x−y)Alで表される合金を適用し、第二接合部60にはBi系ハンダ材料を適用する場合について説明する。
【0065】
[第一の実施態様]
<第二接合部>
本発明における第二接合部60は、絶縁部30と放熱板40との間を接合するために設けられる。図1に示す第一の実施態様では、第二接合部60の材質として、Bi系ハンダ材料を用いる。本発明ではBi系ハンダ材料としては、Biを主成分とするものであれば特に制限されない。なお、「Bi系ハンダ材料」とは、ハンダ材料中、Biを80質量%以上含有するものをいう。
具体的には、Bi系ハンダ材料としては、Bi単体のほかに、BiにCu、Ni、Agを添加したものなどを挙げることができるが、下記(1)〜(4)に記載のBi系ハンダ材料であることが固相線温度を低下させない観点から好ましい。例えば、BiにAgを2.5質量%添加したものは、固相線温度がBi単体の270℃から262℃程度に低下してしまい、半導体素子の動作により発せられる熱に対する耐性の観点から望ましくはない。
更に、下記(1)〜(4)に記載のBi系ハンダ材料の中でも、Biの脆性の高さを解消して機械的強度を高める観点からは、下記(2)〜(4)のBi系ハンダ材料であることが好ましい。
【0066】
(1)Bi単体
(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi−CuAlMn
(3)BiにCuを添加した材料
(4)BiにNiを添加した材料
以下、それぞれのBi系ハンダ材料について詳細に説明する。
【0067】
(1)Bi単体
Biは270℃近辺の融点を有するため、接合部のハンダ材料としては好適である。しかし、−40℃〜200℃の過酷な冷熱サイクル下においては、Biと接触する材料の種類によっては、接触する界面での反応が顕著になり、不要な反応生成物を生成することが明らかとなった。このような現象は、−40℃〜200℃という温度条件下とした場合に初めて見出されたものである。
このように、高い耐熱性に着目してハンダ材料にBiを適用すると、ハンダそのものの耐熱性は向上するものの、Bi系ハンダ材料との界面状態によっては、冷熱サイクルによって不要な反応生成物を生成し、それに起因してクラックなどを発生させ、結果、耐熱性を低下させることになる。
【0068】
そこで、本発明では、Biを高温にしても接触界面で不要な反応物を生成させない材料を検討し、Biの接触界面にCu層を設けている。この結果、Biの接触界面では、不要な反応生成物を生成させること無く、クラックなどの不具合の発生を抑えることができる。
つまり、単に、融点の高いBiをハンダ材料として接合部に適用すれば、半導体モジュールの耐熱性が向上するというのではなく、ハンダ材料の種類と、ハンダ材料が接する界面に設ける層の材質との組み合わせによって、はじめて耐熱性を向上させることができる。
【0069】
(2)Bi−CuAlMn
Biは270℃近辺の融点を有するため、第二の接合層のハンダ材料としては好適であるが、せん断強度が弱く、脆いという性質を有しているため、取り扱いが難しい。そこで、CuAlMn合金の粒子をBiに分散させて強度を高めている。この機能について更に詳細に説明する。
【0070】
CuAlMn合金はマルテンサイト変態の性質を有する。マルテンサイト変態の性質を有する金属の合金相は、温度や応力に基づいてマルテンサイト相又は母相のいずれかの状態をとる。金属の合金相がマルテンサイト相の場合には、金属は極めて柔軟性に富んでおり、外力に基づいて容易に形状を変えることができる。このため、外力に基づく応力が緩和される。更に、冷熱サイクルが繰り返されたとしても、柔軟に形状を変えることができるので、応力に基づく疲労の蓄積が抑制される。また、金属の合金相が母相の場合は、金属は外力に基づいてマルテンサイト相に相移転し、弾性変形するので、外力が除荷されれば、記憶された元の形状に回復することができる。このため、金属にかかる応力が緩和されるとともに、その応力の蓄積が抑制される。
【0071】
したがって、マルテンサイト変態の性質を有するCuAlMn合金をバルク金属であるBiに加えることによって、外力からの応力を緩和するとともに、その応力の蓄積を制御することができる。その結果、Biに特有のせん断強度の弱さや脆さが解消される。
【0072】
さらに、CuAlMn合金は毒性が少なく、添加するバルク金属の融点(液相線温度や固相線温度)に与える影響も少ない。また、CuAlMn合金は電気抵抗が小さいため、CuAlMn合金に電流が流れる状況下においても好適に利用することができる。
【0073】
Bi−CuAlMn中のCuAlMn合金の含有率は、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。CuAlMn合金の含有率が0.5質量%よりも少ないと、マルテンサイト変態の性質を有する物質を添加した上記効果が得られ難く、20質量%よりも多いと、溶融するBiの含有率が低くなり、被接合体との接合強度が得られ難くなる。
なお、BiとCuAlMnとの体積分率を90:10〜45:55まで変化させた場合であっても、Bi−CuAlMnの融点(固相線温度)は、約271℃程度である。
【0074】
CuAlMn合金において、Mnの含有率は0.01〜20質量%であり、Alの含有率は3〜13質量%であり、残部がCuであることが好ましい。この組成比に調整することによって、マルテンサイト変態の性質が顕著に表れ、ハンダによって形成された結合部が破壊されるのを抑制することができる。
【0075】
また、CuAlMn合金に、Ag、Ni,Au、Sn,P,Zn、Co,Fe、B、Sb、Geを添加すると、Biとの整合性を向上させ、マルテンサイト相を安定化させる効果があるので、これら添加元素を添加する態様も好ましい。
CuAlMn合金における上記添加元素の含有率は、0.001〜10質量%であることが好ましい。添加元素が0.001質量%よりも少ないと、添加元素を添加する上記効果が得られ難い。添加元素が10質量%よりも多いとCuAlMn合金がマルテンサイト相を呈することができなくなる。
【0076】
CuAlMn合金粒子の粒径を調整すると、Bi−CuAlMnの応力緩和能力等を調整することができる。具体的には、CuAlMn合金粒子の粒径は、0.01〜100μmであることが好ましく、0.01〜20μmであることが更に好ましい。
【0077】
CuAlMn合金粒子の調製方法は特に制限されず、合金粒子の公知の調製方法を適宜適用することができる。調整方法の一例を下記に示すがこれに限定されない。
まず、Cu、Al、MnをAr雰囲気下で高周波溶解炉によって溶解し前駆体であるCuAlMn合金インゴットを作製する。インゴットには必要に応じて、上記添加元素を添加しても良い。次に、得られたインゴットをアトマイズ法等の粉末作製技術を利用して粉末化し、CuAlMn合金粒子を得る。粉末化したCuAlMn合金粒子は滴下法等を利用して、粒子表面にNiやAuをめっきする。粒子表面のめっき層の膜厚を調整することによって、Bi−CuAlMn中のCuAlMn粒子の分散性を向上させることができる。好ましい該めっき層の膜厚は、0.01〜3μmである。
【0078】
Bi−CuAlMnによって絶縁部30と放熱板40とを接合する場合、Bi−CuAlMnの融点(270℃)よりも数十℃高い温度で接合することが、接合部を一様に溶融させ、充分な流動性を得る観点から好ましく、300〜350℃程度で接合することが好ましい。
【0079】
(3)BiにCuを添加した材料
上述の通り、ハンダ材料はBi単体であってもパワー半導体モジュールの耐熱性を向上させることができるが、Biの脆性の低さを改善するのであれば、BiにCuを添加したハンダ材料とすることが好適である。
【0080】
BiにCuを添加すると、Biの脆性が低く抑えられ、機械的強度が高まるという原因については明らかになっていないが、微細なCuがBi中に分散することによるものと思われる。
【0081】
Biの脆性を低く抑えるという観点からは、Cuの含有率は0.01質量%以上であることが好ましく、より好適には0.1質量%以上であり、更に好適には0.4質量%以上である。
一方、Cuを多く添加すると、液相線温度が上昇するので、ハンダによる接合時の加熱温度を考慮すると、Cuの含有率は5質量%以下であり、好適には2質量%以下であり、更に好適には1質量%以下である。
【0082】
ここで、Cuの添加率と液相線温度及び固相線温度との関係について説明する。
BiにCuを含有させていくと、Cuの含有率が多くなるにつれ液相線温度が高くなる。液相線温度とは、すべてが溶融し液体となる温度である。一方、Cuの含有率を多くしても、固相線温度は約270℃とほぼ一定の温度を示す。固相線温度とは、少なくとも一部が溶解し始める温度をいう。
すなわち、Cuの含有率が多くなるにつれ、溶融し始める温度(固相線温度)と、全体が溶融し終わる温度(液相線温度)との差が大きくなる。このような温度差が生じると、接合操作の際に均一に接合し難くなり、被接合部材が傾いて接合してしまうなどの不具合を発生させ易い。また、液相線温度が高くなったことに起因して、高温で半導体素子を接合すると、半導体素子が破壊されるおそれがある。
【0083】
また、ハンダでの接合時の好適な加熱温度を考慮すると、BiにCuを含有させたハンダ材料の液相線温度の上限は650℃であり、より好適には450℃である。
【0084】
BiにCuを含有させたときの具体的な液相線温度及び固相線温度を下記表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
BiにCuを添加したハンダ材料の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、具体的な製造方法として下記の方法を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
所定量のBi及びCuを準備し、高周波溶解炉等により加熱、混合した後に、冷却する。
【0087】
(4)BiにNiを添加した材料
BiにNiを添加すると、Biの脆性が改善され、機械的強度が高まる。この原因については明らかになっていないが、微細なBiNiの化合物相がBi中に分散することによるものと思われる。
【0088】
Biの脆性を低く抑えるという観点からは、Niの含有率は0.01質量%以上であり、好適には0.1質量%以上であり、更に好適には0.4質量%以上である。
一方、Niを多く添加すると、Cuを添加したときと同様に、液相線温度が上昇する。したがって、ハンダによる接合時の加熱温度を考慮すると、Niの含有率は7質量%以下であり、好適には2質量%以下であり、更に好適には1質量%以下である。
BiにNiを含有させたときの具体的な液相線温度及び固相線温度を下記表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
BiにNiを添加したハンダ材料の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができ、上述のBiにCuを添加したハンダ材料と同様の方法を採用することができる。
【0091】
<第一接合部>
本発明における第二接合部50は、パワー半導体素子20と絶縁部30との間を接合するために設けられる。上述の通り、本発明では、第二接合部50の材質としては特に制限されないが、第一の実施態様では上記第二接合部60に約270℃の融点を有するBi系ハンダ材料を適用するため、製造工程上、270℃よりも充分に高い融点を有する材料を適用することが好ましい。但し、製造工程上、ハンダ付けのための加熱によってパワー半導体素子20が破壊しないよう、第一接合部50には、融点が450℃以下であるものを適用することが好ましい。
つまり、第一接合部50には、融点が270℃よりも充分高く、450℃よりも低い材料を適用することが好ましい。
【0092】
ここで、Znの融点は約420℃である。2回目の接合に用いるBi系ハンダ材料の融点が270℃であるので、1回目の接合に用いるハンダ材料としてZnを適用することは可能であるが、ハンダ時の加熱温度のより好適な範囲の上限である450℃を考慮すると、これよりも融点を低くすることが望ましい。
【0093】
そこで、ZnにAlを添加して融点(固相線温度)を降下させるよう、ZnとAlの合金とすることが好ましい。また、ZnとAlの他に、2質量%以下の金属Mを含有してもよい。すなわち、第一接合部50には、Zn(1−x−y)Alで表される合金を適用することが好ましい。
【0094】
Zn(1−x−y)Alで表される合金において、Alの含有率(xの範囲)は、好ましくは、2質量%以上10質量%以下であり、3質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
Alを含まない場合(xが0の場合)には上述のように融点は約420℃であって、Alの含有率が増加するに従い、溶解終了温度(液相線温度)は徐々に降下し、Alの含有率が約2質量%で溶解終了温度(液相線温度)が約410℃となり、Alの含有率が約4〜6質量%で液相線温度が約382℃となる。Alの含有率が約6質量%よりも多くなると、溶解し始める温度(固相線温度)と溶解の完了する温度(液相線温度)との差が大きくなり、Alの含有率が10質量%の場合には、固相線温度が約382℃で、液相線温度が約410℃となる。Alの含有率が10質量%よりも多くなると固相線温度と液相線温度との温度差が30℃よりも大きくなるので作業性が低下し、ハンダによって第一接合部を接合する際に、位置ずれや接合部材の傾斜等の不具合を発生させやすくなる。
【0095】
また、Zn(1−x−y)Alで表される合金における金属Mは、亜鉛及びアルミニウム以外の金属を表し、Cuなどを挙げることができる。Cuを2質量%以下含有させると、濡れ性が良好となり密着性が向上する。なおCuを2質量%含有しても液相線温度は殆ど変化しない。
Zn(1−x−y)Alで表される合金において、金属Mの含有量(yの範囲)としては、0〜2質量%であり、好ましくは0〜1.5質量%である。金属Mの含有量が2質量%よりも多くなると、溶解完了までの温度差が30℃よりも大きくなるので作業性が低下し、ハンダによって第一接合部を接合する際に、位置ずれや接合部材の傾斜等の不具合が発生し易くなる。
【0096】
Zn(1−x−y)Alで表される合金の調製方法は特に制限されず、公知の合金調製方法を適宜適用することができる。
【0097】
Zn(1−x−y)Alで表される合金によってパワー半導体素子20と絶縁部30とを接合する場合、合金の液相線温度よりも数十℃高い温度で接合することが、接合部を一様に溶融させ、充分な流動性を得る観点から好ましい。例えば、382℃の液相線温度を有するZn(1−x−y)Al合金の場合には、410℃〜440℃程度で接合することが好ましい。
【0098】
<Bi系ハンダ材料に対する被接合面>
半導体モジュールのように、過酷な冷熱サイクルにおいて、反応生成物を生成すると、この反応生成物が存在する位置を起点にクラックが発生したり、脆い反応生成物の場合には、反応生成物が割れてクラックの発生の原因となったりする。
そこで、Bi系ハンダ材料によって接合する部材の被接合面には、Cu層を備える。つまり、第一の実施態様では、第一接合部50にBi系ハンダ材料を適用するので、パワー半導体素子20と絶縁部30のそれぞれの被接合面にCu層を備える。Cu層を備えることで、Biとの界面において不要な反応生成物の生成を抑えることができる。
【0099】
Bi系ハンダ材料の被接合面に設けるCu層の厚みは、0.1μm〜10μmであることが好ましく、0.5μm〜5μmであることがより好ましい。0.1μmよりも薄いと、接合時にハンダ材料に溶け込み消失する恐れがあり、10μmよりも厚いと、パワー半導体モジュール全体の熱膨張係数に影響を与え、熱応力を生じさせるようになるため好ましくない。
Cu層は、スパッタリングやめっき、蒸着等によって形成することができる。
【0100】
なお、ハンダ材料がBi単体のみならず、BiにCuAlMn合金粒子を分散したハンダ材料、BiにCuを添加したハンダ材料、BiにNiを添加したハンダ材料であっても、添加したCuAlMn合金粒子やCuやNiの存在によらず、Cu層と接合部との接触界面では、不要な反応生成物が発生し難くなり、温度変化に対しても耐性が高くなる。
【0101】
<Zn(1−x−y)Alで表される合金に対する被接合面>
Zn(1−x−y)Alで表される合金を接合部材として用いる場合には、接合する部材の被接合面には、Ni層を備える。つまり、第一の実施態様では、第一接合部50にZn(1−x−y)Alで表される合金を適用するので、パワー半導体素子20と絶縁部30のそれぞれの被接合面にNi層を備える。Ni層を備えることで、Zn(1−x−y)Alで表される合金との界面において不要な反応生成物の生成を抑えることができ、温度変化に対しても耐性が高くなる。
【0102】
Zn(1−x−y)Alで表される合金の被接合面に設けるNi層の厚みは、0.1μm〜10μmであることが好ましく、0.5μm〜5μmであることがより好ましい。0.1μmよりも薄いと、接合時にハンダ材料に溶け込み消失する恐れがあり、10μmよりも厚いと、パワー半導体モジュール全体の熱膨張係数に影響を与え、熱応力を生じさせるようになるため好ましくない。
Ni層は、スパッタリングやめっき、蒸着等によって形成することができる。
【0103】
<パワー半導体素子>
パワー半導体素子20としては、特に制限することなく用途に応じて適宜適用することができ、一般的なSi基板なども適用できる。
本発明では、次世代素子としてGaN基板やSiC基板などを用いた場合であっても、第二接合部50に用いるBi−CuAlMnの融点(固相線温度)が約270℃のため、半導体素子の繰り返し使用によって放熱される200℃を超える高温に対しても、亀裂や剥離などの不具合を生じさせない信頼性の高いパワー半導体モジュールとなる。
【0104】
第一の実施態様では、第一接合部50にZn(1−x−y)Alで表される合金を適用するので、パワー半導体素子20は、第一接合部50側の表面にNi層22を設ける。第一接合部50としてZn(1−x−y)Alで表される合金を用いた場合、Zn(1−x−y)Al層とNi層22との界面においては、冷熱サイクルによる不要な生成物を発生させることがないので、温度変化に対しても耐性が高くなる。
【0105】
更にNi層22の表面には、酸化防止やぬれ性(密着性)確保のために、薄いAu層(図示せず)が設けられていてもよい。なお、この薄いAu層は、接合時にハンダ浴に溶け込み、最終的なパワー半導体モジュールには殆ど残存しない。
【0106】
このようなAu層の厚さは、0.01μm〜0.5μm程度であることが好ましく、より好ましくは、0.05μm〜0.3μmである。Au層は、スパッタリングやめっき、蒸着等によって形成することができる。
【0107】
<絶縁部>
絶縁部30における絶縁基板32としては、絶縁性を確保できるものであれば特に制限されず適用することができるが、好ましくは冷却サイクル時に顕著な熱応力を生じさせないよう、半導体素子の熱膨張係数と同程度の熱膨張係数を有するものである。
【0108】
具体的に好適な絶縁基板32としては、AlN、Si、Alなどで形成されるものを挙げることができ、この中でも熱伝導率及び熱膨張係数の観点からAlNが好適である。
【0109】
また、絶縁基板32におけるパワー半導体素子側の表面から半導体素子に電気を通すためにAlNの表面に導電層34を設ける。また、温度変化に対するそりを抑制するために、放熱板40側にも導電層36を設けることが好ましい。このような導電層34、36としては、Al、Cu、Mo、Niなどを挙げることができ、この中でもAl及びCuが好ましい。AlNの表面にAl層を設けると、温度変化に対して塑性変形を生じ、熱応力を緩和でき、Cu層を設けると導電率が高いことから薄くすることができ、熱応力を緩和できるため好適である。
【0110】
AlNの表面に備える導電層34、36の厚さは、0.01mm〜1mmであることが好ましく、0.05mm〜0.6mmであることがより好ましい。導電層の厚さが0.01mm未満の場合には、横方向への電流による損失及び発熱が無視できなくなり、1mmを超える場合には、パワー半導体モジュール全体の熱膨張係数に影響を与え、熱応力を生じさせるようになるため好ましくない。
【0111】
AlNの両表面に導電層34、36を貼付する方法は特に制限されず、ロウ付けなどの公知の方法を適宜採用することができる。
【0112】
なお、AlNの表面に導電層34、36としてCu層を設けた場合、第二接合部60にBi系ハンダ材料を適用するときに、接合部との界面において不要な反応生成物を生成させないように設けるCu層の機能を兼ねることができる。
【0113】
一方、導電層34、36としてCu層を設けない場合には、Bi系ハンダ材料で接合する第二接合部60側の絶縁部30の表面にCu層39を設ける。このCu層39の厚みは、0.1μm〜10μmであることが好ましく、3μm〜8μmであることがより好ましい。0.1μmよりも薄いと、接合時にハンダ材料に溶け込み消失する恐れがあり、10μmよりも厚いと、パワー半導体モジュール全体の熱膨張係数に影響を与え、熱応力を生じさせるようになるため好ましくない。
このCu層39は、スパッタリングやめっき、蒸着等によって形成することができる。
【0114】
一方、Zn(1−x−y)Alで表される合金を適用する第一接合部50側の絶縁部30の表面には、Ni層38を設ける。上述の通り、Zn(1−x−y)Alで表される合金は、Ni層との界面においては、冷熱サイクルによる不要な生成物を発生させることがないので、Ni層38を設けることで温度変化に対しても亀裂や剥離などの不具合を生じさせない。
【0115】
Ni層38の厚みは、0.1μm〜10μmであることが好ましく、3μm〜8μmであることがより好ましい。0.1μmよりも薄いと、接合時にハンダ材料に溶け込み消失する恐れがあり、10μmよりも厚いと、パワー半導体モジュール全体の熱膨張係数に影響を与え、熱応力を生じさせるようになるため好ましくない。
【0116】
更にNi層38の表面には、酸化防止や触れ性確保のために、薄いAu層(図示せず)が設けられていてもよい。なお、この薄いAu層は、接合時にハンダ浴に溶け込み、最終的なパワー半導体モジュールには殆ど残存しない。
【0117】
このようなAu層の厚さは、0.01μm〜0.5μm程度であることが好ましく、より好ましくは、0.05μm〜0.2μmである。
【0118】
<放熱板>
放熱板40としては、放熱性を有するものであれば特に制限されず適用することができるが、熱伝導率が充分高く放熱板としての機能に優れ、また半導体素子の熱膨張係数に近いものを用いることが好ましい。
【0119】
具体的に好適な放熱板40としては、Mo、Cu−Mo合金、Al−SiC、Cu、Alなどで形成されるものを挙げることができ、この中でも高い熱伝導率とパワー半導体素子に近い熱膨張係数を有することから、Moが好適である。
【0120】
Moを放熱板に用いる場合には、ハンダによる接合を可能とする観点から、Moの両面に他の金属層を設けることが好ましく、このような金属層としては、Cu、Niなどを挙げることができ、この中でもCuが好ましい。特に、放熱板40が、Moの表面にCu層を設けたCu層44/Mo層42/Cu層46の積層体であることが、熱伝導率と熱膨張係数との調整を図る観点から好適である。
【0121】
このように、放熱板40が、Cu層44/Mo層42/Cu層46で構成される積層体である場合、各層の厚さの比率が、1/5/1〜1/12/1であることが好ましく、1/7/1〜1/9/1であることがより好ましい。1/5/1よりもMo層が薄くなると、パワー半導体素子の熱膨張係数から離れた熱膨張係数を有することになるため好ましくない。1/12/1よりもMo層が厚くなると、放熱板としての放熱機能が充分に発揮され難くなり、好ましくない。
【0122】
具体的な層の厚さとしては、Cu層44、46は、0.05mm〜1mmであることが好ましく、0.2mm〜0.5mmであることがより好ましい。Mo層42の厚さは、1mm〜7mmであることが好ましく、2mm〜4mmであることがより好ましい。
【0123】
Cu層44/Mo層42/Cu層46で構成される積層体は、放熱機能を充分に発揮させるため、全体の厚さは1mm〜8mmであることが好ましく、2mm〜5mmであることがより好ましい。
【0124】
既述の通り、Bi系ハンダ材料は、Cu層との界面においては、冷熱サイクルによる不要な生成物を発生させることがないので、Cu層44がBi系ハンダ材料と接する構造である本発明にかかるパワー半導体モジュールは、温度変化に対しても耐性が高くなる。
【0125】
<製造方法>
本発明のパワー半導体モジュールは、上記構成を有するものであれば、製造方法について特に制限されず、公知の方法を適宜適用することができる。
製造手順としては、まず、パワー半導体素子20と絶縁部30とをZn(1−x−y)Alで表される合金によって接合して第一接合部50を形成し、その後、パワー半導体素子20を備えた絶縁部30と放熱板40とをBi系ハンダ材料によって接合して第二接合部60を形成する。
これにより、1回目に用いるハンダ材料であるZn(1−x−y)Alで表される合金の固相線温度は、2回目に用いるハンダ材料であるBi系ハンダ材料の液相線温度よりも高くなり、且つ、大量の熱を発する半導体素子に近い側の第一接合部50には、より固相線温度の高いZn(1−x−y)Alで表される合金を適用し、半導体素子から遠い側の第二接合部60には、第一接合部50に用いたハンダ材料よりも液相線温度の低いるBi系ハンダ材料を適用できる。
【0126】
具体的には、第一接合部50によるパワー半導体素子20と絶縁部30との接合方法としては、パワー半導体素子のNi層22と絶縁部30のNi層38とが対向するように配置し、その間にZn(1−x−y)Alで表される合金を挟み、パワー半導体素子20(Ni層38)/Zn(1−x−y)Alで表される合金(第一接合部材部)50/(Ni層38)絶縁部30をこの順に積層した状態で、不活性ガス又は還元ガス雰囲気下において、リフロー法等を利用して接合する。
接合温度は、Zn(1−x−y)Alで表される合金の液相線温度よりも30℃〜60℃程度高い温度で行うことが好ましい。
【0127】
第一接合部材50の層の厚さは、熱伝導及び熱応力の観点から5〜500μmであることが好ましく、10〜200μmであることがより好ましい。
【0128】
第二接合部60による接合では、第一接合部50によってパワー半導体素子20と接合した絶縁部30と、放熱板40とを用い、絶縁部30のCu層39と放熱板40のCu層44とが対向するように配置し、その間にBi系ハンダ材料を挟み、絶縁部30(Cu層39)/Bi系ハンダ材料(第二接合部材部)60/(Cu層44)放熱板40の順に積層した状態で、第一接合部50による接合と同様に、不活性ガス又は還元ガス雰囲気下において、リフロー法等を利用して接合する。接合温度は、Bi系ハンダ材料の液相線温度よりも30℃〜60℃程度高い温度で行うことが好ましい。
【0129】
なお、接合の際にBiの濡れ性が良好でない場合があるので、被接合部材に外圧を加えながら擦動させることが好ましい。
【0130】
Bi系ハンダ材料60の厚さは、熱伝導及び熱応力の観点から5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。
【0131】
[第二の実施態様]
第一の実施態様では、第一接合部50にZn(1−x−y)Alで表される合金を適用し、第二接合部60にはBi系ハンダ材料を適用したが、第二の実施態様では、第一接合部50にBi系ハンダ材料を適用し、第二接合部60にZn(1−x−y)Alで表される合金を適用する。
第二の実施態様では、第一接合部50に接する半導体素子20の被接合面と絶縁部30の被接合面とには、Cu層を設ける。また、第二接合部60に接する絶縁部30の被接合面と放熱板40の被接合面には、Ni層を設ける。そして、第二接合部60を先に接合し、第一接合部50を2回目に接合する。その他については、第一の実施態様と同様であるので、説明を省略する。
【0132】
[第三の実施態様]
第三の実施態様では、第一接合部50には、Zn(1−x−y)Alで表される合金やBi系ハンダ材料以外のハンダ材料を適用し、第二接合部60にBi系ハンダ材料を適用する。但し、第一接合部50に適用するハンダ材料の液相線温度は、Bi系ハンダ材料の液相線温度よりも高く、且つ650℃よりも低く、より好ましくは450℃よりも低い。このような第一接合部50のハンダ材料としては、Au−Si(融点360℃)、Au−Ge(融点356℃)などを挙げることができる。
第三の実施態様では、第二接合部60に接する絶縁部30の被接合面と放熱板40の被接合面には、第一の実施態様と同様にCu層を設ける。一方、第一接合部50に接する半導体素子20の被接合面と絶縁部30の被接合面とには、第一接合部50に用いるハンダ材料と反応して反応生成物を発生させないような金属層を設けてもよいし、設けなくてもよい。そして、第一の実施態様と同様に、第一接合部50を先に接合し、第二接合部60を2回目に接合する。
その他については、第一の実施態様と同様であるので、説明を省略する。
【0133】
[その他]
なお、第一の実施態様から第三の実施態様では、2箇所の接合部分には、別種のハンダ材料を用いているが、Bi系ハンダ材料において、Biに添加する材料の種類や添加量を変えることで、融点が大きく変わる場合には、1回目の接合と2回目の接合の両者に、Bi系ハンダ材料を適用することができる。この場合においても、2回目の接合に用いるハンダ材料の融点は、1回目の接合に用いるハンダ材料の融点よりも30℃以上低いことが望ましく、且つパワー半導体からの発熱を考慮して200℃以上であることが望ましい。
【実施例】
【0134】
以下では実施例により本発明を説明するが、本発明のパワー半導体モジュールの製造方法の一例について述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0135】
[実施例1]
図1に本実施例のパワー半導体モジュールの構成を示す。
【0136】
<パワー半導体素子の準備>
GaNを用いたパワー半導体素子20を準備し、その最表面にNi層22をスパッタリングで形成した。Ni層22の表面にはAu層(図示せず)をスパッタリングで形成した。
【0137】
<絶縁部の準備>
一方、絶縁基板32としてのAlNの両面にロウ付けによってAl層34、36を貼り付け、Al層34/AlN層32/Al層36の積層体を作製した。更にこの積層体の一方の表面にNi層38を、他方の表面にCu層39をメッキにより形成し絶縁部30を作製した。なお、メッキの際には、メッキしない面はマスキングシートなどを貼って保護した。
【0138】
<第一接合部の接合>
予め準備したZn0.96Al0.04合金を放電加工法を利用して、150〜200μmの厚みに切り出した。
上記準備したパワー半導体素子20のNi層22と、絶縁部30のNi層38とを対向するように配置し、その間にZn0.96Al0.04層50を挟み込んだ状態で、還元ガス雰囲気下においてリフロー法を利用して、420℃の接合温度で接合した。
【0139】
<放熱板の準備>
放熱板として、Moの両表面にCu層を貼り付けて、Cu層44/Mo層42/Cu層46で構成される積層体40を作製した。積層体40全体の厚さは3mmであり、Cu層44/Mo層42/Cu層46の厚さの比率は、1/8/1であった。
【0140】
<第二接合部>
(Bi−CuAlMnの調製)
まず、CuAlMn合金の調製を行った。
所定の質量%に調整されたCuとAlとMnを、Ar雰囲気下において高周波溶解炉を利用して溶解し、前駆体であるCuAlMnのインゴットを得た。得られたインゴットをアトマイズ法を利用して微粉化した。
微粉化したCuAlMnは、滴下法を利用して、その粉末表面にNiをめっきした。
【0141】
次に、表面がNiめっきされたCuAlMn粉末とBiとを、透明石英管に真空封入し、Biの融点以上である400℃の温度にて5分間保持した。これにより、Biが溶融状態となり、CuAlMn粉末が均一に分散された。分散された試料を冷却凝固することによって、第二接合部60のハンダ材料であるBi−CuAlMnが得られた。
【0142】
鋳塊のBi−CuAlMnを放電加工法を利用して、150〜200μmの厚みに切り出した。
【0143】
(接合)
パワー半導体素子20が第一接合部50で接合された絶縁部30におけるCu層39と、放熱板40のCu層44とが対向するように配置し、その間に酸化膜を除去したBi−CuAlMn層を挟み込んだ状態で、還元ガス雰囲気下においてリフロー法を利用して320℃の接合温度で接合した。
得られたパワー半導体モジュール10は、パワー半導体素子20と絶縁部30と放熱板40とを積層し、その間をそれぞれZn0.96Al0.04合金及びBi−CuAlMnで接合したものである。
【0144】
なお、1回目の接合部分(Zn0.96Al0.04合金による接合箇所)は、2回目のハンダ付けの加熱によっても溶融することがなく、2回目の接合時に位置ずれを起こしたり、傾いたりという不具合を発生させていなかった。
【0145】
<冷熱サイクル試験>
得られたパワー半導体モジュール10について、冷熱サイクル試験を行った。
本実施例において冷熱サイクル試験は、−40℃と250℃の間を60分で上昇・降下させるのを1サイクルとし、その1サイクルを合計で1000サイクル行った。1000サイクル後の第一接合部と第二接合部の断面を観察し、界面の反応生成物の有無、亀裂や空隙などの不具合の有無を調べた。
その結果、不具合は観察されず、過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0146】
[比較例1]
図1に示す実施例1のパワー半導体モジュールの構成と同様の構成で、但し、第一接合部のハンダ材料をPbの含有率が90質量%の90Pb−Snとし、第二接合部のハンダ材料をPbの含有率が50質量%の50Pb−Snとしたパワー半導体モジュールを作製した。
【0147】
得られた比較のパワー半導体モジュールについても、実施例1と同様の冷熱サイクル試験を行った。その結果、絶縁部と放熱板との間の第二接合部において剥離が生じた。これは、冷熱サイクル試験の高温側で、第二接合部の接合材料(50Pb−Sn)の固相線温度及び液相線温度を超えているために溶解してしまい、剥離したものと思われる。
【0148】
[実施例2]
図2にしめすような、パワー半導体素子と絶縁基板とをBi系ハンダ材料で接合した評価試験体−1を作製した。
【0149】
<パワー半導体素子の準備>
GaNを用いたパワー半導体素子20を準備し、その最表面にCu層221をスパッタリングで形成した。
【0150】
<絶縁部の準備>
一方、絶縁基板32としてのAlNの両面にロウ付けによってAl層34、36を貼り付け、Al層34/AlN層32/Al層36の積層体を作製した。更にこの積層体の一方の表面にCu層381をメッキにより形成し絶縁部30を作製した。なお、メッキの際には、メッキしない面はマスキングシートなどを貼って保護した。
【0151】
<第一接合部の接合>
Bi単体を150〜200μmの厚みに切り出した。切り出されたBi単体層の表面を覆っている酸化膜を、研磨及び酸洗浄を利用して除去した。
上記準備したパワー半導体素子20のCu層221と、絶縁部30のCu層381とを対向するように配置し、その間にBi単体層50を挟み込んだ状態で、5%H/Nの還元ガス雰囲気下においてリフロー法を利用して、320℃の接合温度で接合した。
【0152】
<冷熱サイクル試験>
得られた評価試験体−1について、冷熱サイクル試験を行った。
本実施例において冷熱サイクル試験は、−40℃と200℃の間を20分で上昇・降下させるのを1サイクルとし、その1サイクルを合計で1000サイクル行った。1000サイクル後の接合部の断面を電子顕微鏡により観察し、界面の反応生成物の有無、亀裂や空隙などの不具合の有無を調べた。
その結果、接合部の界面には反応生成物は観察されなかったが、微小な空隙が僅かに観察された。しかし、亀裂は生成していなかった。したがって過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0153】
[実施例3]
実施例2において、接合部材としてBi単体を用いたところを、Biに1質量%のCuを添加したものに変更した以外は同様にして、評価試験体−2を作製した。
得られた評価試験体−2について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、接合部の界面には反応生成物は観察されず、空隙や亀裂も確認されなかった。したがって過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0154】
[実施例4]
実施例2において、接合部材としてBi単体を用いたところを、Biに0.5質量%のNiを添加したものに変更した以外は同様にして、評価試験体−3を作製した。
得られた評価試験体−3について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、接合部の界面には反応生成物は観察されず、空隙や亀裂も確認されなかった。したがって過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0155】
[比較例2]
<パワー半導体素子の準備>
実施例2のパワー半導体素子の準備において、パワー半導体素子20の最表面にCu層221をスパッタリングで形成したところをNi層に変更した以外は同様にして、パワー半導体素子を準備した。。
【0156】
<絶縁部の準備>
実施例2の絶縁部の準備において、Al層34/AlN層32/Al層36の積層体の表面にCu層381を形成したところを、Ni層に変更した以外は同様にして、絶縁部を準備した。
【0157】
<第一接合部の接合>
実施例2の第一接合部の接合において、上記準備したパワー半導体素子20のNi層と、絶縁部30のNi層とを対向するように配置し、その間にBi単体層を挟み込んだ状態で接合した以外は同様にして、比較の評価試験体−1を作製した。
【0158】
<冷熱サイクル試験>
得られた比較の評価試験体−1について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、接合部の界面にBiNiを多量に生じており、その周囲には多数の空隙が観察された。このBiNiは非常に脆い性質であり、過酷な条件の冷熱サイクルに対して信頼性が得られにくいことが確認された。
【0159】
[比較例3]
比較例2において、Bi単体層によって接合したところを、Biに1質量%のCuを添加したものに変更した以外は同様にして、比較の評価試験体−2を作製した。
得られた比較の評価試験体−2について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、比較の評価試験体−1と同様に、接合部の界面にBiNiを多量に生じており、その周囲には多数の空隙が観察された。このBiNiは非常に脆い性質であり、過酷な条件の冷熱サイクルに対して信頼性が得られにくいことが確認された。
【0160】
[比較例4]
比較例2において、Bi単体層によって接合したところを、Biに0.5質量%のNiを添加したものに変更した以外は同様にして、比較の評価試験体−3を作製した。
得られた比較の評価試験体−3について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、比較の評価試験体−1と同様に、接合部の界面にBiNiを多量に生じており、その周囲には多数の空隙が観察された。このBiNiは非常に脆い性質であり、過酷な条件の冷熱サイクルに対して信頼性が得られにくいことが確認された。
【0161】
作製した評価試験体の構成とその評価結果を下記表3にまとめる。
【0162】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明の一例であるパワー半導体モジュール10の構成を示す図である。
【図2】実施例2における評価試験体−1の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0164】
10 パワー半導体モジュール
20 パワー半導体素子
22 Ni層
30 絶縁部
32 絶縁基板
34、36 導電層
38 Ni層
39 Cu層
40 放熱板
42 Mo層
44、46 Cu層
50 第一接合部
60 第二接合部
221 Cu層
381 Cu層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu層を表面に備えたパワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、を有し、前記パワー半導体素子と前記絶縁基板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュール。
【請求項2】
パワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、Cu層を表面に備えた放熱板と、を有し、前記絶縁基板と前記放熱板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記Bi系ハンダ材料が、(1)Bi単体、(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi−CuAlMn、(3)BiにCuを添加した材料、又は(4)BiにNiを添加した材料、であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記BiにNiを添加した材料は、Niの含有率が0.01質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記BiにCuを添加した材料は、Cuの含有率が0.01質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記Bi−CuAlMnは、CuAlMn合金粒子の含有率が0.5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
Ni層を表面に備えた前記パワー半導体素子と、Ni層を表面に備えた前記絶縁基板とを備え、前記パワー半導体素子と前記絶縁基板とをそれぞれのNi層が対向するように配し、該2つのNi層の間を、Zn(1−x−y)Al(xは0.02〜0.10であり、yは0〜0.02であり、Mは亜鉛及びアルミニウム以外の金属を表す。)で表される合金で接合してなる請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
前記パワー半導体素子が、GaN又はSiCを用いて形成されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項9】
前記絶縁基板がAlN層であり、AlN層の両表面にAl及びCuの少なくとも1種で形成される導電層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項10】
前記Biを系ハンダ材料で接合する面側の前記導電層は、Cuであることを特徴とする請求項9に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項11】
前記Zn(1−x−y)Alで表される合金で接合する面側の前記導電層上に、Ni層を設けてなることを特徴とする請求項9に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項12】
前記放熱板が、Mo層の両面にCu層を有するCu層/Mo層/Cu層の積層体であることを特徴とする請求項2乃至請求項11のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項13】
前記放熱板におけるCu層/Mo層/Cu層の厚さの比率が、1/5/1〜1/12/1であることを特徴とする請求項12に記載のパワー半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−281412(P2007−281412A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250622(P2006−250622)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】