説明

フィルム状接着剤及びこれを用いた半導体装置

【課題】接着剤による半導体チップと回路基板との電気的接続において、接続時の排除性が良好で、接続荷重が小さくチップ割れを防止できると共に接続信頼性に優れたフィルム状接着剤及びこれを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】50〜250℃のいずれかの温度で粘度が200Pa・s以下に達し、硬化物の25℃〜260℃における平均線膨張係数が200ppm/℃以下であるフィルム状接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップと回路基板との接続において、加熱圧接によって相対峙する電極を電気的に接続するフィルム状接着剤及びこれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを回路基板に固定し電気的に接続するために、熱硬化性の接着剤が用いられる(例えば、特許文献1参照)。この接着剤は、フィルム状あるいはペースト状の接着剤であり、あらかじめ半導体チップ側あるいは回路基板側に均一に配置することが容易で接続時間を短縮できる点からフィルム状接着剤の方が生産効率に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3073532号公報
【特許文献2】特許第2842051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フリップチップ実装のように半導体チップの電極と回路基板の電極が相対峙する実装方法においてフィルム状の接着剤を使用する場合は、あらかじめ半導体チップあるいは回路基板側に接着剤を予め配置するために接着剤により電極表面が覆われてしまう。そのため、電極の表面から接着剤を排除し電極同士を電気的に接続するためには、接着剤を加熱して電極同士を強く押し合わせる必要がある。この接続は高荷重(およそ、1MPa/chip)で行われている。
【0005】
近年、半導体チップのピン数は増加し、チップ厚みは減少する傾向にあり、半導体チップ一個当りに必要な接続荷重は増加している。一方、チップ厚みの薄肉化に伴い接続時の破損を防ぐために接続荷重の高圧化には限度がある。また、半導体チップ側の電極と回路基板側の電極を合金化により直接接続する共晶接続や半田接続の場合には、電極間に不純物が存在すると十分な導通特性が得られないため、接続時に電極間から接着剤を完全に排除する必要がある。
【0006】
従って、半導体チップと回路基板を接続する接着剤には、接続時に粘度が十分低下する必要がある。また、排除性が良好であれば荷重を低圧化できるだけでなく、接続に要する時間を短縮したり温度を低温化することもできるため、半導体装置の製造にかかるコストを引き下げることができる。
【0007】
一般的に、フィルム状の接着剤を作製するためには、重量平均分子量が10,000以上の熱可塑性樹脂を配合している(例えば、特許文献2参照)。しかし、高分子量の樹脂を配合することによって加熱溶融時の粘度が十分低下せず、接続時の排除性が低下するため良好な接続信頼性が得られない。また、絶縁性無機フィラーを含まない樹脂成分のみの組成物では、溶融時の粘度が比較的低いが、硬化後の線膨張係数が半導体チップや回路基板に比べ大きく(300〜500ppm/℃)耐熱性に劣るため、信頼性試験である吸湿リフロー性試験や冷熱サイクル試験等において半導体チップと回路基板間の電気的な接続を維持することができず,長期の接続信頼性に劣る。本発明は、接着剤による半導体チップと回路基板との電気的接続において、接続時の排除性が良好で、接続荷重が小さくチップ割れを防止できると共に接続信頼性に優れたフィルム状接着剤及びこれを用いた半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、[1]50〜250℃のいずれかの温度で粘度が200Pa・s以下に達し、硬化物の25℃〜260℃における平均線膨張係数が200ppm/℃以下であるフィルム状接着剤である。
これは、常温においてはフィルム状であって取り扱いが容易であり、加熱溶融時にペースト状の低粘度物となり十分な排除性あるいは回路充填性を有し、硬化後の線膨張係数が小さく耐熱性に優れるフィルム状接着剤を提供するものである。
また、本発明は、[2]下記(a)〜(d)を必須成分とする上記[1]に記載のフィルム状接着剤である。
(a)重量平均分子量が10,000以下で、常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化剤。
上記の発明は、上記[1]に記載の発明に加えて、汎用性の高い有機・無機材料からなるフィルム状接着剤を提供するものである。
また、本発明は、[3](b)絶縁性無機フィラーの充填量が40〜80重量%である上記[1]または上記[2]に記載のフィルム状接着剤である。
上記[3]に記載の発明は、上記[1]または上記[2]に記載の発明に加えて、適当な可とう性を有するフィルム状接着剤を提供するものである。
また、本発明は、[4]揮発分が10重量%以下である上記[1]ないし上記[3]のいずれかに記載のフィルム状接着剤である。
上記[4]記載の発明は、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発明に加えて、硬化時のボイド発生が少ないフィルム状接着剤を提供するものである。
また、本発明は、[5]50〜250℃のいずれかの温度で粘度が200Pa・s以下である時間が30秒間以上である上記[1]ないし上記[4]のいずれかに記載のフィルム状接着剤である。
上記[5]に記載の発明は、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の発明に加えて、接続前にボイドの原因となる揮発分を低減することができ、また一つの基板に同時に多数のチップを接続できるフィルム状接着剤を提供するものである。また、本発明は、[6]上記[1]ないし上記[5]のいずれかに記載のフィルム状接着剤を用いて作製した半導体装置である。
上記[6]記載の発明は、従来よりも、低圧、短時間、低温での作製が可能であり、接続信頼性に優れる半導体装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂に適量の絶縁性無機フィラーとエポキシ樹脂、および硬化剤を含有させることにより、従来よりも溶融時の粘度が低く硬化後の耐熱性に優れる熱硬化性のフィルム状接着剤を作製することができる。また、本発明のフィルム状接着剤を用いた場合、従来よりも低圧、短時間、低温で半導体装置を作製することができ、この半導体装置は良好な接続信頼性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のフィルム状接着剤をアンダーフィルフィルムとして用いて回路基板側に仮付けした場合のフリップチップ実装の例を示す断面図である。
【図2】本発明のフィルム状接着剤をアンダーフィルフィルムとして用いて半導体チップ側に仮付けした場合のフリップチップ実装の例を示す断面図である。
【図3】本発明のフィルム状接着剤をダイボンドフィルムとして用いた場合の実装の例を示す断面図である。
【図4】本発明のフィルム状接着剤をアンダーフィルフィルムとして用いて一括接続を行う場合の例を示す図である。
【図5】本発明のフィルム状接着剤をシート状の半導体用封止材として用いる場合の例を示す図である。
【図6】実施例1のせん断粘度と加熱時間との関係を示すグラフである。
【図7】比較例2のせん断粘度と加熱時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフィルム状接着剤は、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化剤を必須成分とすることが好ましい。
【0012】
本発明において使用する(a)重量平均分子量が10,000以下で、常温(25℃)において固形である樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられ、その中でも、熱硬化性で耐熱性に優れるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等が好ましく、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。これらは単独または2種以上の混合体として使用することもできる。
【0013】
本発明において使用する(b)絶縁性無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック、マイカ等が挙げられ、その中でも、シリカ、アルミナ、酸化チタン等が好ましく、シリカ、アルミナがより好ましい。これらは単独または2種以上の混合体として使用することもできる。また、絶縁性無機フィラーの形状は増粘の影響が少ない球状のものが好ましい。同種の絶縁性無機フィラーを同重量部配合した場合、粒径の大きいもの程溶融時の粘度が低くなるが、本発明のフィルム状接着剤をフリップチップ実装用のフィルム状アンダーフィル材として使用する場合、絶縁性無機フィラーが電極に捕捉され電極間の電気的な導通を阻害するのを防ぐため、粒径は10μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明において使用する(c)エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂など、各種の多官能エポキシ樹脂化合物が挙げられる。これらは単独または2種以上の混合体として使用することもできる。また、エポキシ樹脂は、25℃において液状、固形のいずれでも使用することができる。
【0015】
本発明において使用する(d)硬化剤としては、イミダゾール類、多価フェノール類、酸無水物類、アミン類、ヒドラジド類、ポリメルカプタン等が挙げられ、その中でも、保存安定性と硬化物の耐熱性に優れるイミダゾール類、多価フェノール類、酸無水物等が好ましく、イミダゾール類、多価フェノール類がより好ましい。これらは単独または2種以上の混合体として使用することもできる。また、接着剤の粘度が十分低下するまで硬化が開始しない程度のゲル化時間を有することが好ましい。硬化剤がイミダゾール類の場合、十分な可使時間とゲル化時間を有するものとして例えば、2P4MHZ、2PHZ、2MA−OK(四国化成工業株式会社製商品名)等が挙げられる。また、これらの硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化したものは、可使時間が延長されるために好ましい。
【0016】
本発明における(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂の配合量は、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂の総量100重量部に対して、5〜80重量部とすることが好ましく、10〜60重量部とすることがより好ましく、20〜50重量部とすることが特に好ましい。この配合量が、5重量部未満では、フィルム形成が困難となる傾向があり、80重量部を超えると、硬化後の線膨張係数が大きくなる傾向がある。
【0017】
本発明における(b)絶縁性無機フィラーの配合量は、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂の総量100重量部に対して、10〜90重量部とすることが好ましく、30〜85重量部とすることがより好ましく、40〜80重量部とすることが特に好ましい。この配合量が、10重量部未満では、硬化後の線膨張係数が大きくなる傾向があり、90重量部を超えると、溶融時の粘度が上昇する傾向があり、またフィルムの可とう性が低下し脆くなる傾向がある。
【0018】
本発明における(c)エポキシ樹脂の配合量は、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂の総量100重量部に対して、5〜60重量部とすることが好ましく、10〜60重量部とすることがより好ましく、20〜60重量部とすることが特に好ましい。この配合量が、20重量部未満では、硬化物の耐熱性が低下する傾向があり、60重量部を超えると、硬化物の線膨張係数が大きくなる傾向がある。なお、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂がエポキシ樹脂の場合は、(c)エポキシ樹脂に含める。
【0019】
本発明における(d)硬化剤の配合量は、硬化剤の種類により異なるが、硬化剤がイミダゾール類の場合には、(c)エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜50重量部とすることが好ましく、0.1〜20重量部とすることがより好ましく、1〜10重量部とすることが特に好ましい。この配合量が、0.01重量部未満では、半導体チップと回路基板の一般的な接続条件において硬化不足となる傾向があり、50重量部を超えると、接着剤の硬化物物性を低下させる傾向がある。
【0020】
本発明のフィルム状接着剤には、上記必須成分以外に、シラン系またはチタン系のカップリング剤を使用することができる。この使用量としては、(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂の総量100重量に対して、0.1〜10重量部とすることが好ましい。
【0021】
また、フィルム状接着剤に可とう性あるいは粘着性を付与する等の目的で液状の樹脂を使用することができる。この使用量としては(a)重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂、(b)絶縁性無機フィラー、(c)エポキシ樹脂の総量100重量部に対して、5〜50重量部とすることが好ましい。また、本発明のフィルム状接着剤には、導電性粒子を使用することができ,この使用量としては、0.1〜10体積%である。
【0022】
また、フィルム状接着剤のフィルム形成性を向上させたり耐熱性を付与する等の目的で、粘度低下を妨げない程度の量の分子量10,000以上の樹脂を配合することができる。
【0023】
以上、説明した本発明のフィルム状接着剤は、例えば図1〜3に示すように、半導体チップを回路基板に固定し電気的に接続するフィルム状のアンダーフィル材またはダイボンド材等として使用することができ、特にフリップチップ実装の短時間接続が可能な超音波接合等において有効である。これらは、図4に示すように一つの回路基板に同時に多数の半導体チップを接続することができる。また、図5に示すようにトランスファー成形が不要なシート状の半導体用封止材等として、あるいはウエハレベルCSPパッケージの保護膜、応力緩和層等として用いることもできる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂として分子量が1,600のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製:EP1004)100重量部とシランカップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製:SH6040)3重量部をメチルエチルケトンに溶解し、得られた樹脂ワニス中に平均粒径2μmの球状シリカ(三菱レイヨン株式会社製:QS2)を150重量部添加し、30分混練した。これに硬化剤としてイミダゾール(四国化成工業株式会社製:2P4MHZ)を5重量部添加し、均一に攪拌した後、減圧脱泡して接着剤ワニスを得た。この接着剤ワニスを離型処理された50μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗工し、70℃にて10分間乾燥してメチルエチルケトンを除去し、50μm厚のフィルム状接着剤を作製した。
【0026】
(実施例2)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製:EP828)20重量部と分子量が1,600のエポキシ樹脂80重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0027】
(実施例3)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂20重量部と分子量が1,600のエポキシ樹脂60重量部とo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製:ESCN195XL)20重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0028】
(実施例4)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量8,100のアクリル樹脂(ジョンソンポリマー株式会社製:JC611)70重量部と分子量390の液状エポキシ樹脂30重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0029】
(実施例5)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量が2,900のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製:EP1007)20重量部と分子量390の液状エポキシ樹脂20重量部と分子量が1,600のエポキシ樹脂60重量部に置き換え、球状シリカを70重量部とした以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0030】
(実施例6)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂60重量部と分子量が1,600のエポキシ樹脂40重量部に置き換え、球状シリカを300重郎部とした以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0031】
(比較例1)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂70重量部と分子量約50,000のフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド株式会社製:PKHC)30重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0032】
(比較例2)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂60重量部と分子量約50,000のフェノキシ樹脂40重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0033】
(比較例3)
分子量が1,600のエポキシ樹脂を分子量390の液状エポキシ樹脂70重量部と分子量約70,000のポリビニルアセタール樹脂(電気化学工業株式会社製:PVB−3000K)30重量部に置き換えた以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0034】
(比較例4)
球状シリカの配合量を50重量部とした以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0035】
(比較例5)
球状シリカの配合量を500重量部とした以外は、実施例1と全て同じ条件で行いフィルム状接着剤を作製した。
【0036】
実施例及び比較例において、特性の評価は以下の方法により行い、その結果を接着剤の配合組成と共に表1に示した。
(フィルム形成性)
70℃にて10分間乾燥する際に接着剤ワニスが流動することなくフィルム状の接着剤が形成され、また90°曲げに対してクラックが発生しないことを観察した。乾燥中に流動することなく、曲げに対してクラックが発生しないものを「○」とし、流動またはクラックが発生するものを「×」として評価した。
(溶融粘度測定)
ずり粘弾性測定装置(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー株式会社製)を用い直径7.9mmの平行板を使用して、サンプル厚み0.5から1.0mmで周波数10Hzにおいて150℃に設定した時のせん断粘度を測定した。また、このとき粘度が200Pa・s以下である時間を測定した。
(平均線膨張係数測定)
作製したフィルム状接着剤を200℃にて1時間硬化し、TMA測定装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて昇温速度5℃/分で25〜260℃における平均線膨張係数を測定した。
(接続性)
回路基板(ガラスエポキシ基板、サイズ25mm角、厚さ0.8mm、電極高さ20μm)にフィルム状接着剤を仮付けし、半導体チップ(サイズ10mm角、厚さ0.55mm、バンプ高さ30μm、バンプ数184個、保護膜窒化珪素)を位置合わせして、フリップチップボンディング装置(ミスズFA株式会社製)で接続を行った。
(冷熱サイクル試験)
フィルム状接着剤を用いて半導体チップと回路基板を接続した半導体装置を150℃のオーブン中で2時間加熱し接着剤を完全に硬化させた後、冷熱サイクル試験機(−55〜125℃、間隔30分)に投入し一端子当りの接続抵抗値が10mΩ以上となるサイクル数を求めた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1の実施例1〜6に示すように、重量平均分子量が10,000以下であって常温(25℃)において固形である樹脂を用い球状シリカの充填量が40〜80重量%である場合には、溶融時の粘度が200Pa・s以下に達し、かつ硬化後の平均線膨張係数が200ppm以下となるフィルム状接着剤が得られた。実施例1の粘度測定結果を図6に示した。
【0040】
また、このフィルム状接着剤を用いて半導体チップと回路基板を接続した場合、分子量が10,000以上の樹脂を用いた従来のフィルム状接着剤に比べ、低荷重、短時間で導通が可能であり、その半導体装置は冷熱サイクル試験において良好な接続信頼性を示した。一方、比較例1では、フィルム形成材として分子量約50,000のフェノキシ樹脂を用い低粘度化のために液状のエポキシ樹脂を多量配合しているが、粘着性が強く良好なフィルム形成性が得られない。また、比較例2では、比較例1でのフィルム形成性を改善する目的でフェノキシ樹脂を増加し液状エポキシ樹脂を減少しているが溶融時の粘度が高い。比較例2の粘度測定結果を図7に示した。比較例3では、比較例1でのフィルム形成性を改善する目的でフェノキシ樹脂の代わりに分子量約70,000のポリビニルアセタール樹脂を使用しているが溶融時の粘度が高い。
【0041】
比較例4では、絶縁性無機フィラーの配合量を減らすことによって溶融時の粘度が低いが、硬化後の線膨張係数が大きく、冷熱サイクル試験において十分な接続信頼性が得られない。比較例5では、絶縁性無機フィラーを高充填することにより、硬化後の線膨張係数は小さいが、溶融時に粘度が十分低下せず導通に要する荷重が高い。
【符号の説明】
【0042】
1.半導体チップ
2.突起電極
3.アンダーフィルフィルム
4.回路基板
5.電極
6.電極パッド
9.接続ツール
10.加熱装置
11.シート状封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜250℃のいずれかの温度で粘度が200Pa・s以下に達し、硬化物の25℃〜260℃における平均線膨張係数が200ppm/℃以下であるフィルム状接着剤。
【請求項2】
下記(a)〜(d)を必須成分とする請求項1に記載のフィルム状接着剤。
(a)重量平均分子量が10,000以下で、常温(25℃)において固形である樹脂、
(b)絶縁性無機フィラー、
(c)エポキシ樹脂、
(d)硬化剤
【請求項3】
(b)絶縁性無機フィラーの充填量が40〜80重量%である請求項1または2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
揮発分が10重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム状接着剤。
【請求項5】
50〜250℃のいずれかの温度で粘度が200Pa・s以下である時間が30秒間以上である請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム状接着剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム状接着剤を用いて作製した半導体装置。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52126(P2012−52126A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233035(P2011−233035)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2002−286022(P2002−286022)の分割
【原出願日】平成14年9月30日(2002.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】