説明

プラズマ処理装置および処理方法

【課題】
電極の開口部にプラズマを形成するプラズマ処理において、開口部のプラズマの正確な発光スペクトルが測定可能なプラズマ処理装置を提供すること。
【解決手段】
内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極と、該カソード電極に対向して配置された被成膜基板と、前記基板を保持する基板保持機構とを備え、前記カソード電極は前記被成膜基板側に開口したプラズマ保持部を持ち、該プラズマ保持部は前記被処理基板側の空間から気体を排気する排気機構を有しているプラズマ処理装置であって、前記カソード電極側面から少なくとも1つの前記プラズマ保持部を見通せる覗き孔と、該覗き孔からプラズマ光を集光するためのレンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアモルファスシリコン薄膜太陽電池、ディスプレイ用薄膜トランジスタ等の半導体薄膜の製造に用いられるプラズマCVD法を用いた装置として好適なプラズマCVD装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系薄膜太陽電池に用いられるアモルファスシリコン薄膜を生成する技術として、図7に示す平行平板型プラズマCVD装置を用いた方法が知られている。従来の平行平板型プラズマCVD装置は、カソード電極と、カソード電極と相対向する位置に配置された基板保持部材を兼ねたアノード電極を持ち、カソード電極表面に原料ガスを供給するための小穴を複数設けて基板の前面空間に均一にガスを供給し、真空容器内を排気系により一定の圧力に保持し、カソード電極に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、基板表面にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
【0003】
アモルファスシリコン薄膜は、光照射により経時的に発電効率が低下する、いわゆる光劣化を起こすことが知られている。この光劣化を起こすメカニズムは明確に解明されたわけではないが、膜中のSi−H結合濃度と相関があることが知られている。太陽電池の変換効率は、入射光による入力エネルギーを100mW/cm2で規格化した場合、開放電圧Voc(V)×短絡電流密度Jsc(A/cm2)×曲線因子FF(%)で求められる。曲線因子FF(%)(以降、単にFFと略記することもある)は、太陽電池の電圧−電流特性における最大出力点の[電圧×電流]を、[開放電圧Voc×短絡電流Isc]で割った値となる。FFは光劣化により低下するが、Si−H結合濃度が低い膜では、劣化前と劣化後のFFの差(ΔFF)が小さくなることが報告されている(非特許文献1)。Si−H結合濃度が増加する原因として、成膜中に発生する高次シラン(Si2m+1:m≧4)やパーティクルといった不要物質が膜中に混入することが挙げられる。光劣化の少ない高品質な膜を形成するためには、これらの不要物質を膜中に混入させない工夫が必要である。
プラズマ処理装置内で生成される不要物質の除去方法の一つとして、カソード電極に設けたガス排気孔から不要物質を吸引除去する手法が知られている。
【0004】
特許文献1に、電極の基板と対向する表面の全面に亘って分布して開口する内径がデバイ長以下の多数の排気孔が、開示されている。特許文献1には、この電極の表面に開口する多数の排気孔による不要物質の除去についての言及はないが、これにより、成膜面へのガスの均等供給および成膜面からのガスの均等排気が達成され、均一なプラズマ処理や均一な成膜を実現しようとしているものと考えられる。
【0005】
特許文献2に、多数の凹凸を持つ電極の凸部および凹部の一方にガス供給孔、他方にガス吸引孔を備えた電極が開示されている。
【0006】
特許文献3に、電極にガス導入孔とガス排出穴の両方を設け、更に多数の凹部が電極表面に設けられた電極が開示されている。電極表面の凹部には、高密度のプラズマが生成され、凹部内に設けられたガス導入孔により、原料ガスの高効率分解を図っている。また、凹部内に設けられたガス排出孔により、高密度プラズマ内で生成される分解種が反応により高次シランやクラスターなどに成長する前に、分解種を除去することが出来るとされている。
【0007】
ところで、アモルファスシリコン薄膜を成膜するプラズマ中において、その発光スペクトルのSi/SiHピーク比と、プラズマ中に発生した不要物質の濃度に相関があることが知られている。Si/SiHピーク比はプラズマの電子温度の指標であり、電子温度が低い方がプラズマ中の不要物質の濃度が小さくなる。そのため、成膜中のプラズマの発光スペクトルを測定し、Si/SiHピーク比が小さくなる条件で成膜を行えば、膜中の不要物質濃度が低い、良質の膜を得ることができる。
プラズマの発光スペクトルを得る方法としては、真空容器に設けられた窓より集光レンズにてプラズマ光を集光し、分析する方法が知られている。しかしながら、真空容器の外からでは受光方向を定め難く、電極で形成されたプラズマ光の分布を正確に得ることは難しかった。
そのため、特許文献4では、プラズマ光を集光するための受光部を装置内に導入し、所望の位置に受光部を移動させて集光する方法が開示されている。
【0008】
特許文献5では、平行平板型電極の近傍に、回転可能に配置された受光部を備え、受光方向を調整できるプラズマ発光測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−124906号公報
【特許文献2】特開2006−237490号公報
【特許文献3】特開2007−214296号公報
【特許文献4】特開平1―107120号公報
【特許文献5】特開2006−313847号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.Matsuda et al., Solar Energy Materials & Solar Cells 78 (2003) 3-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に開示されているプラズマ処理装置のような開口部を持つ電極においては、電極の開口部内に高密度プラズマを形成可能である。さらに開口部に排気の機能も持たせることにより、プラズマ中で発生した不要物質を除去吸引し、不要物質の膜中への混入を抑制して高品質の薄膜を生成できる。しかしながら、開口部内に形成された高密度プラズマの発光スペクトルを測定し、Si/SiHピーク比が小さくなる条件を検討してさらに良質な膜を得ようとした場合、特許文献4および特許文献5にある装置では以下のような問題があった。
特許文献4に開示されている集光方法では、受光部を開口部の下側まで伸ばして配置することになり、成膜領域の電界が乱れ、プラズマが不安定になるため、正確なプラズマの発光スペクトルを得ることが困難である。
また、特許文献5でも、図5の装置E4に示すように、電極の開口部の下方向からプラズマ光を集光するしかなく、電極の開口部内のプラズマのみの正確な発光スペクトルを得ることが困難である。
【0012】
本発明の目的は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、電極の開口部に形成されたプラズマの正確な発光スペクトルを測定することができる、プラズマ処理装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係るプラズマ処理装置および処理方法は、次の通りである。
内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極と、該カソード電極に対向して配置された、被処理基板を保持する基板保持機構とを備え、前記カソード電極は前記基板保持機構側に開口したプラズマ保持部を有し、該プラズマ保持部は前記基板保持機構側の空間から気体を排気する排気機構を有しているプラズマ処理装置であって、前記カソード電極側面から少なくとも1つの前記プラズマ保持部を見通せる覗き孔と、該覗き孔からプラズマ光を集光するためのレンズと、
集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置を提供する。
また、内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極と、該カソード電極に対向して配置された、被処理基板を保持する基板保持機構と、前記カソード電極と前記基板保持機構との間に配置されたアノード電極を備え、前記カソード電極は基板保持機構側に開口したプラズマ保持部を持ち、該プラズマ保持部は前記基板保持機構側の空間から気体を排気する排気機構を有しており、前記アノード電極は前記プラズマ保持部の略延長線上に貫通した貫通孔を持つプラズマ処理装置であって、前記アノード電極側面から該アノード電極の貫通孔の中を見通せる少なくとも一つの覗き孔と、該覗き孔からプラズマ光を集光するための集光レンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置を提供する。
【0014】
また、上述した何れかの装置であり、前記カソード電極に対して前記基板保持機構側の空間の光を集光するための集光レンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置を提供する。
【0015】
また、上述した何れかの装置であり、前記集光レンズと前記覗き孔の間に石英ガラスを挟むための治具を備えたプラズマ処理装置を提供する。
また、上述した何れかの装置を用いて、原料ガスを前記真空容器内に供給してプラズマを形成し、前記基板保持機構上の被処理基板に薄膜を形成するプラズマ処理方法である。
【0016】
本発明のプラズマ処理装置において、前記プラズマ保持部とは、前記カソード電極に備えされた孔であり、その孔内においてプラズマを形成できる孔のことをいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極表面に形成した孔の中に高密度プラズマを形成してプラズマ処理を行う装置において、プラズマの発光スペクトルを測定して最適な条件を検討し、成膜を行うことが可能なプラズマ処理装置が提供される。本発明のプラズマ処理装置をプラズマCVD装置として用いることにより、不要な高分子量物質やパーティクルなどの成膜される膜への混入が抑制された環境で成膜できるため、欠陥の少ない高品質な薄膜を得ることができる。本発明のプラズマCVD装置を用いて製造されたアモルファスシリコン薄膜は、高次シランやパーティクルといった不要物質の膜中への混入が十分抑制されているため、構造欠陥が少なく、また、光劣化が少ない薄膜である。このアモルファスシリコン薄膜を太陽電池に用いることにより、光劣化による変換効率の低下が低減された太陽電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例の概略縦断面図である。
【図2】図2は、本発明のプラズマ処理装置の別の一例の概略縦断面図である。
【図3】図3は、本発明のプラズマ処理装置の更に別の一例の概略縦断面図である。
【図4】図4は、図3に示すプラズマ処理装置の一部の拡大概略縦断面図である。
【図5】図5は、従来のプラズマ処理装置の一例の概略縦断面図である。
【図6】図6は、従来のプラズマ処理装置の別の一例の概略縦断面図である。
【図7】図7は、従来の一般的なプラズマCVD装置の概略縦断面図である。
【図8】図8は、実施例2でのプラズマ発光を解析したグラフである。
【図9】図9は、比較例でのプラズマ発光を解析したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、アモルファスシリコン薄膜を成膜するプラズマCVD装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例の概略縦断面図である。
【0021】
図1において、本発明のプラズマ処理装置E1は、真空容器1を有する。真空容器1の内部には、プラズマを発生させるためのカソード電極2が備えられている。カソード電極2の図における下面に対向して、カソード電極2と間隔を持って被処理基板3を保持するための基板保持機構4が設けられている。カソード電極2の被処理基板3に対向する面の大きさ(広さ)は、基板保持機構4に取り付けられ、薄膜が形成される被処理基板3の大きさを考慮して、選定される。
【0022】
カソード電極2は、絶縁物5により、真空容器1とは電気的に絶縁されており、真空容器1に固定されている。カソード電極2は、真空容器1の外部にある電源6に接続されている。電源6からカソード電極2に電力が供給されることにより、カソード電極2に形成されたプラズマ保持部7内でプラズマ8が生成される。
【0023】
ガス排気装置9は、排気配管10によりカソード電極2の図における上面の上側の真空容器1の内部空間に接続されている。原料ガスは、ガス供給管13からカソード電極2と被処理基板3との間に導入され、プラズマ保持部7を通して排気される。
【0024】
基板保持機構4には、ヒーターなどの基板加熱機構11が備えられていても良い。真空容器1には、ガス排気装置9とは別に補助ガス排気装置12が接続されていても良い。
【0025】
電源6としては、高周波電源、パルス電源、DC電源など任意のものを使用することができる。高周波電源を用いる場合の周波数も任意のものとすることができる。VHF帯の高周波電源は、低電子温度かつ高密度のプラズマが生成し易いため、用いる高周波電源として好適である。高周波電源の出力に、パルス変調や振幅変調などをかけても良い。
【0026】
カソード電極2には、被処理基板3に対向する面(図において、カソード電極2の下面を指す。以降、カソード電極2下面と呼ぶ)から、図におけるカソード電極2の上面へと貫通した複数のプラズマ保持部7が形成されている。複数のプラズマ保持部7は、カソード電極2において、互いに間隔を持って配列されており、その配置は任意に設定することができる。しかしながら、生成されるプラズマ8の均一性の観点から、プラズマ保持部7の配置は、等間隔正方形格子状あるいは等間隔正三角形格子状に配置されていることが好ましい。
プラズマ保持部7は、各プラズマ保持部7にプラズマ8を入り込ませた上で、プラズマ保持部7内で生成した、あるいはプラズマ保持部7内へ侵入してきた高次シランやパーティクルといった不要物質を、プラズマ保持部7内に形成されるガス排気の流れによりガス排気装置9方向へと流動させ、除去するために、設けられている。従って、各プラズマ保持部7は、その中にプラズマ8が入り込むのに十分な大きさであることが好ましい。具体的には、カソード電極2下面におけるプラズマ保持部7の開口の大きさが、カソード電極2と被処理基板3の間隙で生成されるプラズマのデバイ長を半径に持つ仮想円を内包することが可能であれば良い。
プラズマ保持部7の開口形状としては、三角形、四角形などの多角形、円形、楕円形、星型など任意の形状を選ぶことができるが、プラズマの安定性やプラズマ保持部7の内壁面のメンテナンスおよび電極製作時のコストの面から、円形であることが好ましい。
プラズマ保持部7の深さ方向における断面形状、すなわち、プラズマ保持部7の縦断面形状は、カソード電極2下面からガス排気装置9側に至るまで、同一形状であっても、また、深さ方向に相似形で大きさに変化があっても構わない。例えば、横断面形状が円形のプラズマ保持部7の場合、プラズマ保持部7内に侵入するプラズマ8を、カソード電極2のガス排気装置9側(図において、カソード電極2の上面)まで侵入させない目的で、プラズマ保持部7の直径を、電極2のガス排気装置9側に近づくにつれて連続的に小さくすることが考えられる。あるいは、プラズマ保持部7の深さ方向のある地点から電極2のガス排気装置9側へ至る孔径を絞る、すなわち、プラズマ保持部7の直径を、電極2のガス排気装置9側に至るまでの間において、段階的に小さくしても良い。
【0027】
プラズマ保持部7の内部に形成されたプラズマ8を見通すための覗き孔14は、カソード電極2の側面(図において、カソード電極2の左右の面)から、任意のプラズマ保持部7の内側面まで貫通して形成される。覗き孔14の開口径は、プラズマが入らない大きさであれば良い。具体的には、プラズマ保持部7内で形成されるプラズマ8のデバイ長を半径に持つ仮想円に内包される大きさであれば良い。
【0028】
覗き孔14を通過したプラズマ8の光は、受光部15で受光される。受光部15は、例えばアースシールド16のように接地された部材を利用する等して固定する。図1においては、接地されたアースシールド16に覗き孔14と同じ大きさの貫通孔を形成し、プラズマ8の光を貫通させ、受光部15で受光する。貫通孔の途中に石英ガラス17を配置し、受光部15へのパーティクル付着を防ぐことが望ましい。また、受光する際には、プラズマ光の進行方向を変化させる反射ミラーを挟んでも良い。
【0029】
受光部15を通ったプラズマ光は、光ファイバ18を経て分光器19に送られる。分光器19は、入射したプラズマ光を分光し、その分光されたプラズマ発光スペクトルがコンピュータ20に送られる。
【0030】
図2は、本発明のプラズマ処理装置の別の一例を示す第2の概略縦断面図である。
【0031】
図2のプラズマ処理装置E2における他の構成要素は、図1のプラズマ処理装置E1の構成要素と同じため、あるいは、実質的に同じであるため、図1における要素符号と同じ符号を、図2においても用いている。以下、他の図においても同様である。
図1に示す例では、カソード電極2とアースシールド16に覗き孔14を配置し、受光部をアースシールド16に備えている。しかし、上述のようなプラズマ保持部7を持ったカソード電極2のみでは、プラズマ保持部7でのプラズマの閉じ込めが、圧力等の条件によって不十分になる場合がある。そのため、図2に示す例では、カソード電極2と被処理基板3との間にアノード電極22を配置する。アノード電極22は、アースシールド16より真空容器1に固定されている。アノード電極22は、カソード電極2のプラズマ保持部7の略延長線上に貫通した貫通孔を持ち、この貫通孔の大きさは、アノード電極22の被処理基板3に対向する面(図において、アノード電極22の下面)の前面で生成されるプラズマ8のデバイ長を半径に持つ仮想円を内包することが可能であれば良い。
図2の例においては、プラズマ光を受光部15へと通過させる覗き孔14bは、アノード電極22に形成されているが、プラズマ光が十分に受光できれば、図1の場合のようにカソード電極2とアースシールド16に形成しても良い。また、覗き孔14bの開口形状は、図1の例のようにカソード電極2に覗き孔14をもうける場合と同様の考え方で、覗き孔14の開口形状と同径であることが好ましい。
【0032】
図3は、本発明のプラズマ処理装置の更に別の一例を示す第3の概略縦断面図である。
図3に示す例では、アノード電極22の下部に受光管23が備えられている。図ではアノード電極22を備えた場合の例であるが、図1に示す例のようにカソード電極2のみの場合でも同様に、受光管23を設置してよい。
図4は覗き孔14bおよび受光管23部分の拡大縦断面図である。受光管23は、カソード電極2またはアノード電極22の被処理基板3側に形成されるプラズマ光を測定するために備えられる。そのため、受光管23の開口部の位置は、覗き孔14bで覗くプラズマ保持部7より被処理基板3の側にある。また、受光管23から得たプラズマ光の発光スペクトルとプラズマ保持部7内部の発光スペクトルを比較する目的においては、受光管23は覗き孔14と同径の孔が空いていることが好ましく、受光管23の長さも覗き孔14と同じであることが好ましい。プラズマ光の比較が目的ではない場合、例えばアノード電極22と被処理基板3との間に形成したプラズマの発光スペクトルから実験条件の最適化を図る場合などは、受光管23の長さや位置、孔径は任意に決定しても良い。
さらに、覗き孔14bと受光管23から受光部15a、bまでの間に、プラズマ光の進行方向を変更するための反射ミラーが取り付けられていてもよい。
覗き孔14および受光管23から浮遊してきたパーティクルが反射ミラー24や集光レンズに付着することを防ぐために、覗き孔14および受光管23と受光部15a、15b、または反射ミラーとの間に、石英ガラス17を保持することが好ましい。石英ガラスを使用すると、通常のガラスでは吸収してしまう紫外線領域のプラズマ光も測定することができる。また、パーティクルが付着して石英ガラスが汚れてくると精確な測定の妨げになるため、石英ガラスは交換できる方がより好ましい。
以上のようにして覗き孔14bと受光管23を通ったプラズマ光は、受光部15a、bに集光される。
本発明に係るプラズマ処理装置は、成膜、エッチング、表面処理など、各種プラズマ処理に用いることができる。特に、本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマCVD装置として好適に用いることが出来る。プラズマCVDでは、プラズマ中で生成した活性種の反応を膜形成表面のみに制限することは困難であり、気相中での活性種の結合反応が避けられず、微粒子などの不要物質が発生し易い。このような状況下では、本発明に係るプラズマ処理装置における不要物質の除去効果が顕著に発揮されることに加え、プラズマ光のスペクトルを測定することにより、不要物質の少ない条件を検討し、成膜することが出来る。
【0033】
次に、上で述べたプラズマCVD装置を用いたアモルファスシリコン薄膜の製造方法について説明する。
本発明のプラズマ処理装置の構成を適用したプラズマCVD装置を用いると、基板へのアモルファスシリコン薄膜の形成過程において発生する高次シランやパーティクルの薄膜への混入を極力防止し、これらの薄膜への混入による膜質の低下を抑制して良好な膜質を有するアモルファスシリコン薄膜を製造することができる。高品質のアモルファスシリコン薄膜を製造する方法の具体例を次に説明する。
【0034】
アモルファスシリコン薄膜形成方法の第1の実施形態は、図1に示すプラズマ処理装置E1を使用した製造方法である。
【0035】
プラズマ処理装置E1を用いて、被処理基板3上に、アモルファスシリコン薄膜を形成する。プラズマ処理装置E1の基板保持機構4に、被処理基板3としてガラス基板をセットし、基板加熱機構11により被処理基板3を加熱する。補助ガス排気装置12により、真空容器1内のガスを十分排気した後、すなわち、真空容器1内を所望のプラズマ処理が可能な程度に減圧した後、補助ガス排気装置12による排気からガス排気装置9よる排気に切り替える。原料ガスとしてシランガスをガス供給管13から導入するとともに、真空容器1内の圧力を調整する。電源6からカソード電極2に電力を供給し、カソード電極2のプラズマ保持部7の内部にプラズマ8を形成して原料ガスを分解する。カソード電極2のプラズマ保持部7の内部のプラズマ光を集光し、光ファイバ18で分光器19に送信し、コンピュータ20で解析する。シランガスの分解において、プラズマ光の発光スペクトルのSi/SiHピーク比とプラズマ中に発生した不要物質の濃度について相関があることが知られているため、Siピーク(228nm)をSiHピーク(413nm)で割った値が最も小さくなる条件に調整する。このようにして、被処理基板3上にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
【0036】
以上のようにして被処理基板3上に形成されたアモルファスシリコン薄膜は、膜中の欠陥密度が非常に低く、電気的特性が良好である。特に、このアモルファスシリコン薄膜を太陽電池の発電層に適用する場合、膜の光劣化が少なく、光電変換効率が高い太陽電池を得ることが出来る。
この場合の原料ガスは、少なくともシランガスを含むガスであれば良く、シランガス100%であっても、あるいは、水素やアルゴン等の希ガスにより希釈されているシランガスでも良い。
【0037】
アモルファスシリコン薄膜形成方法の第2の実施形態は、図2に示すプラズマ処理装置E2を使用した製造方法である。
【0038】
プラズマ処理装置E2を用いて、ガラス基板上に、アモルファスシリコン薄膜を形成する。プラズマ処理装置E2の基板保持機構4に、被処理基板3としてガラス基板をセットし、基板加熱機構11により被処理基板3を加熱する。補助ガス排気装置12により、真空容器1内のガスを十分排気した後、すなわち、真空容器1内を所望のプラズマ処理が可能な程度に減圧した後、補助ガス排気装置12による排気からガス排気装置9よる排気に切り替える。原料ガスとしてシランガスをガス供給管13から導入するとともに、真空容器1内の圧力を調整する。アノード電極22は接地し、電源6からカソード電極2に電力を供給し、カソード電極2のプラズマ保持部7の内部にプラズマ8を生成して原料ガスを分解する。カソード電極2のプラズマ保持部7の内部のプラズマ光を集光し、光ファイバ18で分光器19に送信し、コンピュータ20で解析する。実施例1と同様に、Si/SiHピーク比が最も小さくなる条件に調整する。このようにして、被処理基板3上にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
【0039】
以上のようにして被処理基板3上に形成されたアモルファスシリコン薄膜も、第1の実施形態と同様に、膜中の欠陥密度が非常に低いものとなる。
【0040】
アモルファスシリコン薄膜形成方法の第3の実施形態は、図3に示すプラズマ処理装置E3を使用した製造方法である。
【0041】
プラズマ処理装置E3を用いて、ガラス基板上に、アモルファスシリコン薄膜を形成する。プラズマ処理装置E3の基板保持機構4に、被処理基板3としてガラス基板をセットし、基板加熱機構11により被処理基板3を加熱する。補助ガス排気装置12により、真空容器1内のガスを十分排気した後、すなわち、真空容器1内を所望のプラズマ処理が可能な程度に減圧した後、補助ガス排気装置12による排気からガス排気装置9よる排気に切り替える。原料ガスとしてシランガスをガス供給管13から導入するとともに、真空容器1内の圧力を調整する。アノード電極22は接地し、電源6からカソード電極2に電力を供給し、カソード電極2のプラズマ保持部7の内部にプラズマ8を生成して原料ガスを分解する。カソード電極2のプラズマ保持部7の内部のプラズマ光を集光し、光ファイバ18で分光器19に送信し、コンピュータ20で解析する。実施例1と同様に、Si/SiHピーク比とが最も小さくなる条件に調整する。さらに、受光管23からの光を集光し、光ファイバ18で分光器19に送信し、コンピュータ20で解析する。プラズマ保持部7でのプラズマ8以外に、アノード電極22の被処理基板3の側の表面(図における、アノード電極22の下側)にプラズマが形成される。覗き孔14で受光管15aから集光した光のスペクトルより最適な条件の範囲を決定した上で、更にこのアノード電極22と被処理基板3との間にできるプラズマ光のスペクトルを測定し、上述したプラズマ保持部7に形成されたプラズマ8の最適条件と同様にSi/SiHピーク比が最も小さくなる条件に調整する。プラズマ保持部7の最適条件と、アノード電極22の最適条件の両方を満たす条件にて、被処理基板3上にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
以上のようにして被処理基板3上に形成されたアモルファスシリコン薄膜は、第1および第2の実施形態よりもさらに膜中の欠陥密度が低いものとなる。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
図2に示すプラズマ処理装置E2を用いて、上記アモルファスシリコン薄膜形成の第2の実施形態に基づき、基板にアモルファスシリコン薄膜を形成する際に形成されたプラズマ発生孔内部のプラズマの発光スペクトルを測定した。
【0043】
プラズマ処理装置E2において、カソード電極2は、一辺の長さが185mmの正四角形であり、厚みが30mmからなる電極板を用いた。カソード電極2に形成されたプラズマ保持部7の横断面形状は円形であり、その直径は10mmであった。また、縦断面形状は、カソード電極2の被処理基板3に対向する面からガス排気装置9側に至るまで同一形状であった。カソード電極2は、85個のプラズマ保持部7が12mmピッチの正方形格子状に配置されているものを用いた。ガス供給孔13は、電極2の被処理基板3側の面から19mmの深さで設けられ、その横断面形状は円形であり、その直径は0.5mmであった。ガス供給孔は、カソード電極2において、2つのプラズマ保持部開口部の間に1つの間隔で72個形成されていた。
【0044】
カソード電極2の被処理基板3に対向する面側には、アノード電極22が設けられていた。アノード電極22には、カソード電極2の複数のプラズマ保持部7に対向する位置に直径10mmの貫通孔が設けられていた。アノード電極22の厚さは10mmであった。アノード電極22とカソード電極2との間隔は1mmであった。アノード電極22は、電気的に導通するようにアースシールド16に固定され、接地電位とされていた。また、アノード電極22には、電極側面(図2において、アノード電極22の左右の面)から最も近いプラズマ保持部7の列にある1つのプラズマ保持部7に対して、アノード電極22側面から垂直に覗き孔14が形成されていた。覗き孔14の横断面形状は円形であり、その直径は2mmであった。
【0045】
アモルファスシリコン薄膜の形成において、被処理基板3を温度220℃に加熱した。補助ガス排気装置12により、真空容器1内の圧力を1×10−4Pa以下になるまで、排気した後、真空容器1内のガスの排気を、補助ガス排気装置12からガス排気装置9に切り替えた。原料ガスとしてシランガス50sccmと水素0〜500sccmガス供給孔から導入するとともに、圧力調整バルブにより、真空容器1内の圧力を25Paに調整した。電源6として、周波数60MHzの高周波電源を用い、カソード電極2には30Wの電力を供給してプラズマを発生させた。上述した覗き孔を通して受光したプラズマ光の分布を解析し、Siピーク(228nm)をSiHピーク(413nm)の値、Si/SiHピーク比を算出した。
【0046】
[実施例2]
図3に示すプラズマ処理装置E3を用いて、上記アモルファスシリコン薄膜形成の第3の実施形態に基づき、基板にアモルファスシリコン薄膜を形成する際に形成されたプラズマ発生孔内部のプラズマの発光スペクトルを測定した。
【0047】
受光管23は、覗き孔14が空けられているプラズマ保持部7まで覗き孔14と同じ長さを持ち、アノード電極より3mm被処理基板3側の位置に配置されていた。受光管23の内径は直径2mmであった。
【0048】
受光管23以外の部分は実施例2と同様とした。
【0049】
覗き孔14から受光したプラズマ光および受光管23から受光したアノード電極22の下部の光の発光スペクトルについて、実施例1と同様にSi/SiHピーク比を算出した。
【0050】
実施例1および2において、アノードの覗き孔14にて受光した光のSi/SiHピーク比と、受光管23で受光した光のSi/SiHピーク比を、図8のグラフに示す。Si/SiHピーク比が小さいほど電子温度は低くなり、パーティクル濃度が低い条件であることを示す。
図8の覗き孔14の結果より、本装置を用いた実施例1,2の製造条件において、水素/シラン流量比が2〜10であることが好ましい条件であることが分かった。さらに、受光管23から受光した光のSi/SiHピーク比より、水素/シラン流量比が5の時が、アノード電極22と被処理基板3の間に形成されるプラズマでもパーティクルの発生が少ない条件であり、より欠陥の少ない良質はアモルファスシリコン膜が生成できる条件であると決定できた。
[比較例]
図6に示すプラズマ発光を窓から受光する装置E5において、プラズマ光の分布を測定し、Si/SiHピーク比を算出した。プラズマの形成条件およびSi/SiHピーク比算出方法は実施例1と同様である。
【0051】
図9は比較例1にて受講したプラズマ光のSi/SiHピーク比のグラフである。比較例の方法では、プラズマ保持部内の発光は正確に測定できないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るプラズマ処理装置は、良好な膜質を有する薄膜の形成に、好ましく用いられる。本発明に係るプラズマ処理装置は、エッチング装置やプラズマ表面改質装置としても利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1: 真空容器
2: カソード電極
3: 被処理基板
4: 基板保持機構
5: 絶縁物
6: 電源
7: プラズマ保持部
8: プラズマ
9: ガス排気装置
10: 排気配管
11: 基板加熱機構
12: 補助ガス排気装置
13: ガス供給管
14、14b: 覗き孔
15、15a、15b: 受光部
16: アースシールド
17: 石英ガラス
18: 光ファイバ
19: 分光器
20: コンピュータ
21: 受光範囲
22: アノード電極
23: 受光管
24: 反射ミラー
25: 窓
E1、E2、E3: 本発明のプラズマ処理装置
E4: 従来のプラズマ処理装置
E5: 比較例で用いたプラズマ処理装置
P1: 真空容器
P2: プラズマ生成電極
P3: 基板
P6: 電源
P7: プラズマ
P9: ガス排気装置
P10: 排気配管
P11: 基板加熱機構
P14: ガス導入管
P16: ガス供給口
P20: 圧力調整バルブ
PA1: プラズマCVD装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極と、該カソード電極に対向して配置された、被処理基板を保持する基板保持機構とを備え、前記カソード電極は前記基板保持機構側に開口したプラズマ保持部を持ち、該プラズマ保持部は前記基板保持機構側の空間から気体を排気する排気機構を有しているプラズマ処理装置であって、前記カソード電極側面から少なくとも1つの前記プラズマ保持部を見通せる覗き孔と、該覗き孔からプラズマ光を集光するためのレンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置。
【請求項2】
内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極と、該カソード電極に対向して配置された、被処理基板を保持する基板保持機構と、前記カソード電極と前記基板保持機構との間に配置されたアノード電極を備え、前記カソード電極は基板保持機構側に開口したプラズマ保持部を持ち、該プラズマ保持部は前記基板保持機構側の空間から気体を排気する排気機構を有しており、前記アノード電極は前記プラズマ保持部の略延長線上に貫通した貫通孔を持つプラズマ処理装置であって、前記アノード電極側面から該アノード電極の貫通孔の中を見通せる少なくとも一つの覗き孔と、該覗き孔からプラズマ光を集光するための集光レンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えたプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記カソード電極に対して前記基板保持機構側の空間の光を集光するための集光レンズと、集光した光を取り出す光ファイバと、取り出した光を分光して解析する分光器ユニットを備えた、請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記集光レンズと前記覗き孔の間に石英ガラスを保持できる、請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの装置を用いて、原料ガスを前記真空容器内に供給してプラズマを形成し、前記基板保持機構上の被処理基板に薄膜を形成するプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−209455(P2012−209455A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74640(P2011−74640)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】