説明

プラズマ反応用ガス

【課題】優れたエッチング選択性及び微細加工性を示し、高密度プラズマ下においてもエッチング速度とエッチング選択性のバランスに優れたドライエッチングが可能であり、また、加熱処理を施しても応力緩和の小さいフルオロカーボン膜を成膜可能なプラズマ反応用ガスを提供すること。
【解決手段】パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を含有してなるプラズマ反応用ガス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なプラズマ反応用ガスに関する。さらに詳しくは、エキソメチレン基を有する特定のパーフルオロ環状化合物を含有してなるプラズマ反応用ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のVLSI(大規模集積回路)、ULSI(超大規模集積回路)などに見られるように、半導体装置の高集積化及び高性能化が進展するに伴い、これらの半導体装置の製造に用いられるプラズマ反応用ガスに対する技術的要求がますます厳しくなってきている。
【0003】
そのようなプラズマ反応用ガスとしては、これまでに四フッ化炭素、オクタフルオロシクロブタンなどの飽和フルオロカーボン類が主に用いられてきた。しかしながら、これらのガスは大気中での寿命が数千年以上と極めて長く、地球温暖化への悪影響が指摘されており、使用制限が加わえられようとしている。そのため、その代替物として、種々の新しい含フッ素化合物が開発されてきている。
【0004】
その具体例としては、分子中に炭素―炭素二重結合又は三重結合の不飽和結合を有する直鎖状の含フッ素化合物である、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン、ヘキサフルオロ−2−ブチン、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエン、オクタフルオロ−2−ペンチンなどが挙げられる。
【0005】
ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンについては特許文献1及び2にエッチングガスとして使用した旨の記載がなされている。例えば、特許文献1には、1011イオン/cm以上の高密度プラズマ下でのシリコン酸化膜と下地の窒化シリコンとの選択性についてその良好性が記載されている。しかしながら、評価結果が主観的であり、その程度は不明である。特許文献2には、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエンについても記載があるが、実施例において直径0.2μm、深さ1μm程度のホールについてのエッチング結果が記載されているのみであり、さらなる微細加工の程度は不明である。
【0006】
また、特許文献3にはヘキサフルオロ−2−ブチンをエッチングガスに用いることにより高速エッチングが可能とあるが、レジスト及び被エッチング基体の選択性や微細加工に対する効果は不明である。特許文献4には、オクタフルオロ−2−ペンチンを含め種々の不飽和化合物を用いた、特定波長を有する光源を用いて露光して形成したパターンのエッチングについて記載されており、ドライエッチング耐性の悪いArFレジストでも選択性を確保できる旨記載されている。
【0007】
ところで、エッチング装置としては1012イオン/cm以上の高密度プラズマ下でのエッチングを可能にするものも販売されているが、実際はこのような高密度プラズマ下でエッチングを行うと、エッチングに使用する分子がばらばらに解離し過ぎ、エッチング速度は高くすることができるものの、解離した活性種の攻撃を受けてレジストも削れてしまい、選択性を確保できない。よって、中密度領域のプラズマ条件でエッチングを行わざるえないのが実情である。
【0008】
一方、多層配線構造の一構成部材をなす層間絶縁においてはメタル配線がアルミニウムから銅配線へ変更が進み、層間絶縁膜では、配線間および層間容量を低減させるために、低誘電率の絶縁材料がさまざま検討されている。それらの中でも、化学気相成長法〔CVD(ケミカル・ベーパー・デポジション)法〕によるフッ素化アモルファスカーボン膜の形成が低誘電率の材料として脚光を浴びてきている。フッ素化アモルファスカーボン膜を形成する成膜用ガスとして、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン、ヘキサフルオロ−2−ブチンを用いる旨の記載が特許文献5に、ヘキサフルオロ−2−ブチンを始めとする含三重結合フッ素化合物を用いた例が特許文献6に記載されている。前者においては、形成されたフッ素化アモルファスカーボン膜の膜質について比誘電率のみ記載されている。後者においてはCFCF基を有する化合物を用いることにより、膜密度の大きい、平坦な膜が形成可能との記載がなされている。
【0009】
また、低誘電率の絶縁材料については、半導体装置の構成上、何層にも絶縁膜を積層するプロセスが構築されてきている。このような絶縁膜は固有の応力を有しており、プロセス上、熱が加わる工程が幾つも存在するため、応力の制御が重要となる。とりわけ、微細なパターンを有する絶縁膜においては小さな応力の変化も無視できない状況にあり、応力がある水準とかけ離れてしまうと絶縁膜やその下地の基板に湾曲、ひび割れ、ボイドなどの欠陥を発生する恐れがある。
【0010】
【特許文献1】US5366590
【特許文献2】特開2002−16050号公報
【特許文献3】特開平9−191002号公報
【特許文献4】US2005247670
【特許文献5】特開平9−237783号公報
【特許文献6】特開2002−220668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れたエッチング選択性及び微細加工性を示し、高密度プラズマ下においてもエッチング速度とエッチング選択性のバランスに優れたドライエッチングが可能であり、また、加熱処理を施しても応力緩和の小さいフルオロカーボン膜を成膜可能なプラズマ反応用ガスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分子中に炭素―炭素二重結合を2つ有する含フッ素ジエン化合物の中でも、環状構造を有し、かつエキソメチレン基を有するパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)によれば、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
〔1〕パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を含有してなるプラズマ反応用ガス、
〔2〕パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量が99容量%以上である前記〔1〕記載のプラズマ反応用ガス、
〔3〕プラズマ反応ドライエッチング用、プラズマ反応CVD用、又はプラズマ反応アッシング用である前記〔1〕又は〔2〕記載のプラズマ反応用ガス、
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被エッチング基体をドライエッチングする工程を有するドライエッチング方法、
〔5〕プラズマ反応用ガスの処理容器内への供給を、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行う前記〔4〕記載のドライエッチング方法、
〔6〕ドライエッチングを、プラズマ密度が1012/cm以上の高密度プラズマ雰囲気下に行う前記〔4〕又は〔5〕記載のドライエッチング方法、
〔7〕前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被処理物の表面にCVD法によりフルオロカーボン膜を成膜する工程を有する成膜方法、並びに
〔8〕プラズマ反応用ガスの処理容器内への供給を、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行う前記〔7〕記載の成膜方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラズマ反応用ガスによれば、マスクであるレジストの膜厚が薄い場合においても、半導体材料に対し高選択性を発現し、かつ形状の良好な矩形を有する微細なパターンをエッチング可能である。また、高密度プラズマ下においてもエッチング速度と選択性においてバランスの取れたエッチングが可能である。さらに、加熱処理を施しても応力緩和の小さいフルオロカーボン膜を成膜可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のプラズマ反応用ガス、当該ガスを使用するドライエッチング方法及び成膜方法、並びに本発明のプラズマ反応用ガスのアッシング用途について、それぞれ分けて詳細に説明する。
【0016】
1.プラズマ反応用ガス
本発明のプラズマ反応用ガスは、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を含有してなるものである。パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)は以下の化学構造式:
【0017】
【化1】

【0018】
で示される。
【0019】
本発明のプラズマ反応用ガス中のパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量(純度に相当)としては、特に制限はないが、本発明の効果を良好に発現させる観点から、好ましくは99容量%以上、より好ましくは99.9容量%以上である。当該含有量の上限としては、通常、99.999容量%程度である。含フッ素ジエン化合物の含有量は、後述の実施例に記載の方法に従い、水素炎イオン化検出器(FID)を用いるガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0020】
本発明のプラズマ反応用ガスには、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)以外に、該ガスの原料に由来する有機系の微量化合物や、窒素ガス、酸素ガス及び水分などの不純物が含まれ得るが、プラズマ反応に大きく影響する場合があるため、その含有量はできる限り少ないのが好ましい。
【0021】
本発明のプラズマ反応用ガスの製造方法は、特に限定されるものではないが、通常、以下のようにして製造するのが好ましい。すなわち、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の製造方法としては、例えば、Journal of Chemical Society(C),1971年,p925に記載されている。当該製造方法に従って得られるパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の粗製物を精製して得られる精製物のガスを本発明のプラズマ反応用ガスとして用いることができる。なお、当該文献に記載の方法で得られるパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の粗製物のガス中、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量は約60容量%程度であると推定される。
【0022】
出発原料としてデカフルオロシクロへキセンを用い、これを光異性化させてパーフルオロ(エキソメチレン)シクロペンタンに変換する。得られたパーフルオロ(エキソメチレン)シクロペンタンをヨウ化メチル溶媒存在下に塩化アルミニウムと接触させることにより、1−(クロロジフルオロメチル)ヘプタフルオロシクロペンテンに変換する。続いて、亜鉛と接触させることにより、目的物であるパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の粗製物が得られる。得られたパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の粗製物に対し、純度を向上させる目的で公知の方法に従って蒸留や吸着等の操作を加えることにより不純物を除去し、精製物を得る。該精製物のガスを本発明のプラズマ反応用ガスとして用いる。
【0023】
本発明のプラズマ反応用ガスは、液化した状態で、所望により、任意の容器、例えば、従来の半導体用ガスと同様にシリンダー等の容器に充填されて、半導体装置の製造工程などでのプラズマ反応に供される。本発明のプラズマ反応用ガスは、特に限定されるものではないが、例えば、ドライエッチング、CVD、及びアッシングなどのプラズマ反応に好適に用いられる。よって、本発明のプラズマ反応用ガスの好適な具体例としては、プラズマ反応ドライエッチング用ガス、プラズマ反応CVD用ガス、及びプラズマ反応アッシング用ガスが挙げられる。本発明のプラズマ反応用ガスは、エッチング選択性、微細加工性、及び高密度プラズマ下でのエッチング速度とエッチング選択性のバランスに優れたドライエッチングが可能であること、また、加熱処理を施しても応力緩和の小さいフルオロカーボン膜を成膜可能であることから、プラズマ反応ドライエッチング用ガスとしてドライエッチングに、また、プラズマ反応CVD用ガスとしてCVD法に、それぞれ用いるのがより好適である。
【0024】
2.ドライエッチング方法
本発明のドライエッチング方法は、本発明のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被エッチング基体をドライエッチングする工程を有する。ドライエッチングとは、半導体装置の製造工程などで用いられる被エッチング基体上において微細パターンを食刻する技術をいう。また、前記処理容器としては、ドライエッチング装置のエッチングチャンバーが挙げられる。
【0025】
本発明のプラズマ反応用ガスの処理容器内への供給は、従来の半導体用ガスのように、配管系を含め処理容器内を減圧してガスを引き込むことにより行っても良いが、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行うのが好ましい。本発明に使用するパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)は約67℃の沸点を有する。そのため、本発明のプラズマ反応用ガスの使用態様によっては、該ガス中、一部液化して、該ガス中のパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量に偏りを生じ、処理容器内へのプラズマ反応用ガスの供給が不安定になる可能性がある。しかしながら、プラズマ反応用ガスが充填された容器や配管系を介してパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させておいてやれば、処理容器内へプラズマ反応用ガスを安定に供給することができ、ドライエッチング操作において良好な再現性を確保し得る。加熱温度は、配管系等の圧力状態に応じて適宜調節すればよいが、通常、40℃〜150℃の範囲が好ましく、50℃〜100℃の範囲がより好ましい。その際、配管系を含め処理容器内を減圧にしておいてもよい。
【0026】
本発明のプラズマ反応用ガスをプラズマ反応ドライエッチング用ガスとして使用する場合、プラズマ中で発生するエッチング種の濃度制御やイオンエネルギーの制御のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種の不活性ガスを添加して使用してもよい。不活性ガスの添加量は、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)に対する不活性ガスの合計量が、容量比〔不活性ガス/パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)〕で2〜200となることが好ましく、5〜150となることがより好ましい。
【0027】
また、エッチングストップを緩和するためにO及び/又はOを添加して使用してもよい。OやOの添加量は、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)に対するOとOの合計量が、容量比〔(O及び/又はO)/パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)〕で0.1〜50となることが好ましく、0.5〜30となることがより好ましい。
【0028】
さらに、本発明のプラズマ反応用ガスは、レジストやポリシリコンなどのマスクに対する選択性を向上させるために、CO及び/又はCOを添加して使用してもよい。COやCOの添加量は、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)に対するCOとCOの合計量が、容量比〔(CO及び/又はCO)/パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)〕で5〜150となることが好ましく、10〜100となることがより好ましい。
【0029】
また、エッチング時のパターン形状を良くしたり、エッチング速度を向上させるために、CHF、CH、CF、C及びCからなる群から選択される少なくとも1種のガスXを添加して使用してもよい。当該ガスXの添加量は、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)に対するガスXの合計量が、容量比〔ガスX/パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)〕で、0.01〜1となることが好ましく、0.1〜0.5となることがより好ましい。
【0030】
被エッチング基体としては、例えば、ガラス基板、シリコン単結晶ウエハー、ガリウム−ヒ素などの基板上に被エッチング材料の薄膜層を備えたものが挙げられる。被エッチング材料としては、例えば、酸化シリコン膜;TEOS膜、BPSG膜、PSG膜、及びSOG膜;HSQ(Hydrogen silsesquioxane)膜;MSQ(Methyl silsesquioxane)膜;PCB膜;SiOC膜;SiOF膜;あるいは上記膜のポーラス状膜があるが、酸化シリコン膜が特に好ましい。
【0031】
本発明のドライエッチング方法において、ドライエッチング時のプラズマ密度としては特に限定はないが、本発明の効果をより良好に発現させる観点から、プラズマ密度が、好ましくは1012イオン/cm以上、より好ましくは1012〜1013イオン/cmの高密度プラズマ雰囲気下にドライエッチングを行うのが望ましい。プラズマ密度を1012イオン/cm以上の高密度とすることにより、従来の含フッ素化合物では選択性が低下する現象が見られていたが、本発明で使用するパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)ではそのような現象が起こりにくく、高い選択性を確保しつつ、かつ高いエッチング速度でエッチングを行うことができ、微細なパターンを効率的に形成することが可能である。
【0032】
プラズマ発生装置としては、ヘリコン波方式、高周波誘導方式、平行平板タイプ、マグネトロン方式及びマイクロ波方式等の装置が挙げられるが、高密度領域のプラズマ発生が容易なことから、ヘリコン波方式、高周波誘導方式及びマイクロ波方式の装置が好適に使用される。
【0033】
ドライエッチング時の圧力は特に限定されるものではなく、通常、真空に脱気したエッチングチャンバー内に、本発明のプラズマ反応用ガスを、所望によりその他のガス成分と共に、エッチングチャンバー内が好ましくは0.0013〜1300Pa、より好ましくは0.13〜1.3Paになるように導入する。
【0034】
ドライエッチング時における被エッチング基体の到達温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0〜300℃、より好ましくは60〜250℃、さらに好ましくは80〜200℃の範囲である。基体の温度は冷却等により制御しても、制御しなくてもよい。ドライエッチングの時間は、一般的には5〜10分間であるが、本発明のプラズマ反応用ガスは、高速エッチングが可能なので、2〜5分間として生産性を向上させることができる。
【0035】
3.フルオロカーボン膜の成膜方法
本発明のフルオロカーボン膜の成膜方法は、本発明のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被処理物の表面にCVD法によりフルオロカーボン膜を成膜する工程を有する。CVD法とは、プラズマ放電によりプラズマ反応用ガスを活性化ならびに重合させ、各種の被処理物表面に薄いフルオロカーボン膜を形成せしめる技術をいう。また、前記処理容器としては、CVD装置の反応チャンバーが挙げられる。
【0036】
本発明のプラズマ反応用ガスの処理容器内への供給は、本発明のドライエッチング方法と同様にして行えばよい。本発明のプラズマ反応用ガスの処理容器内への供給を、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行うことにより、CVD操作において良好な再現性を確保し得る。
【0037】
本発明のプラズマ反応用ガスをプラズマ反応CVD用ガスとして使用する場合、プラズマ中で発生する活性種の濃度制御や原料ガスの解離促進のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種の不活性ガスを添加して使用してもよい。不活性ガスの添加量は、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)に対する不活性ガスの合計量が、容量比〔不活性ガス/パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)〕で2〜200となることが好ましく、5〜150となることがより好ましい。
【0038】
プラズマCVDに用いる装置としては、平行平板CVD装置が一般的であるが、マイクロ波CVD装置、ECR−CVD装置、誘導結合プラズマ(ICP)CVD装置、及び高密度プラズマCVD装置(ヘリコン波方式又は高周波誘導方式)が挙げられる。
【0039】
プラズマ発生条件としては、特に限定されるものではないが、平行平板型CVD装置を使用する場合を例にとると、通常、平行平板の上部電極(シャワーヘッド)に印加する高周波電力は10W〜10kW、被処理物温度は0〜500℃、反応室圧力は0.0133Pa〜13.3kPaが採用される。堆積する膜の厚さは、通常、0.01〜10μmの範囲である。
【0040】
被処理物は特に限定されないが、半導体製造分野、電子電気分野、精密機械分野、その他の分野で絶縁性、撥水性、耐腐食性、耐酸性、潤滑性、光の反射防止性等の機能又は性質が要求される物品や部材であり、好ましくは半導体製造分野及び電子電気分野における絶縁性が要求される物品や部材であり、それらの分野で用いられる基板が特に好ましい。
【0041】
好ましい基板の具体例としては、単結晶シリコン膜、多結晶シリコン膜及びアモルファスシリコン膜などのシリコン膜;タングステン、モリブデン、チタン及びタンタルなどからなるシリサイド膜;SiN、SiON、SiO、BSG(ボロン−シリケートガラス)、PSG(リン−シリケートガラス)、BPSG(ボロン−リン−シリケートガラス)、AsSG(砒素シリケートガラス)、SbSG(アンチモンシリケートガラス)、NSG(窒素−シリケートガラス)、PbSG(鉛−シリケートガラス)及びSOG(スピンオングラス)などのシリコン含有絶縁膜;TiN及びTaNなどの導電性膜;ガリウム−砒素基板;ダイヤモンド状炭素膜やアルミ板;ソーダ石灰ガラス;アルミナ膜;酸化ジルコニウム膜;並びに、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムからなるセラミックス;などが挙げられる。
【0042】
4.プラズマ反応用ガスのアッシング用途
本発明のプラズマ反応用ガスはアッシング操作においても好適に使用することができる。アッシングとは、プラズマ放電によりプラズマ反応用ガスを活性化させて、ドライエッチング装置やCVD装置のチャンバー内にある汚染物質を灰化除去することをいう。また、ドライエッチングやCVDの処理対象物表面にある汚染物質を活性種で除去すること、さらには処理対象物の表面を活性種で研磨して平坦化することなどをもいう。特に好適には、チャンバー内に堆積した不要なポリマー成分の除去、半導体装置基板の酸化膜除去、半導体装置のレジスト剥離に用いられるものである。
【0043】
アッシングを行う際のプラズマ発生条件として、プラズマ分解による活性種の発生が確保されれば特に限定されるものではなく、そのためのプラズマ反応条件を適宜選択すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。以下、特段の事情がない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を、それぞれ表す。
【0045】
なお、プラズマ反応用ガス中の含フッ素ジエン化合物の含有量は以下の分析法により求めた。
(ガスクロマトグラフィー分析法)
装置名:ヒューレット・パッカード(株)製 HP−6890
カラム:Frontier Lab Ultra ALLOY+−1(s)
(60m×I.D0.25μm、0.4μmdf)
カラム温度:40℃ → [20℃/分] → 240℃
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素(流量1mL/分)
検出器:FID
内部標準物質:n−ブタン
【0046】
[実施例1] プラズマ反応用ガスの製造
Journal of Chemical Society(C),1971年,p925に記載の方法に従ってパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を合成し、当該化合物の精製物を得た。
【0047】
高圧水銀ランプ(ウシオ電機社製、UM−102)を付した耐圧ガラス反応器内に、デカフルオロシクロヘキセン(シンクエスト社製)300部を仕込み、室温下に70時間、UV光を照射した。反応終了後、内容物を真空ラインを介してドライアイス/アセトン浴に浸したガラス製トラップに捕集した。トラップ内の内容物は理論段数50段のスルーザー型精留塔(東科精機社製)にて精製を行った。蒸留の結果、パーフルオロ−(1−メチレンシクロペンタン)が31部得られた。
【0048】
次に、ガラス製反応器に乾燥させたヨウ化メチル100部と塩化アルミニウム50部を仕込み、0℃に冷却した。上記で得られたパーフルオロ−(1−メチレンシクロペンタン)30部を反応器内に滴下ロートからゆっくりと滴下した。0℃で1時間反応させた後、減圧下に揮発性物質を除去し、さらに、−5℃に保持してガラス製反応器内の内容物を2層分離させた。下層を分離して、理論段数30段のKS型精留塔(東科精機社製)にて精製を行った。蒸留の結果、1−(クロロジフルオロメチル)ヘプタフルオロシクロペンテンが28部得られた。
【0049】
滴下ロート、冷却管、攪拌機を付したガラス製反応器に、粉末亜鉛10部、酢酸3部、及びジエチレングリコールジメチルエーテル70部を仕込み、100℃に加温した。滴下ロートより、ジエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させた、上記で得られた1−(クロロジフルオロメチル)ヘプタフルオロシクロペンテン26部を滴下させ、5時間反応を行った。反応混合物を一旦室温まで冷却し、減圧下に生成物をトラップに捕集した。内容物を回転式蒸留装置(東科精機社製)にて蒸留したところ、目的とするパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の精製物が9部得られた。
【0050】
新たに準備した容量150mLのSUS316製シリンダーを減圧乾燥し、当該シリンダーに、前記操作を繰り返して得られたパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の精製物をフィルターを介して充填した。このシリンダーを−70℃に保った冷媒中に浸し、バルブアウトを真空ラインに接続した。5秒間バルブを開けてシリンダー内部の窒素及び酸素を抜き、一旦シリンダーを室温まで戻し、再度−70℃に保った冷媒中に浸して窒素及び酸素を抜く操作を5回実施した。以上の操作により、液化した状態にてシリンダーに充填した形でプラズマ反応用ガスを得た。別途、プラズマ反応用ガス中のパーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量をガスクロマトグラフィー分析法により求めたところ、99.2容量%であった。
【0051】
[参考例1] パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)をプラズマ活性化させた際の活性種及びその挙動についての考察
プラズマ中の解離したフラグメントの同定・定量についてはさまざまな報告がなされているが、その観測は非常に困難で、かつ特殊な装置を必要とする場合が多いため、一般には難しい作業である。そこで、簡易的に、プラズマ活性化させた化合物の解離状態に比較的近い状態を観察可能と推測されるEI−MS(電子衝撃質量分析)を用い、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)をプラズマ活性化させた際の活性種について測定し、考察を行った。なお、測定にはアジレント(旧ヒューレットパッカード)社製 5973NETWORKを使用し、EI−MS(70eV)の条件で測定を行った。
【0052】
パーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)の測定と、比較としてヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンの測定を行った。それらのMSチャートを図1及び2に示す。
【0053】
パーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)及びヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンの親分子はそれぞれ、m/z=224及び162である。パーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)では、親分子からフッ素が1つ解離したC、また、そこからCFが解離したCのピークがいずれも強く観測されている。一方、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンでは、親分子からCFが解離したと見られるCのみが強く観測されている。このことからパーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)はヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンと比較して、親分子以外の高分子量フラグメントを多く形成することが分かる。
【0054】
パーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)をプラズマ活性化させると、環構造由来の高分子量のフラグメントが生成するものと推定される。プラズマ反応ドライエッチング用ガスとして当該化合物を用いた場合、該フラグメントに低分子の活性種が結合して、被エッチング基体上に強固なフルオロカーボン膜を形成すると共に、低分子活性種の一種であるCFやCFラジカル等が該基体をエッチングする活性種として働くものと推測される。元々の分子の一部は未解離のままプラズマ中に存在するが、二重結合を2つ有しているために、結合に関与できる反応点が通常のオレフィン系化合物等と比較して多く、同様に活性種と結合して、やはり強固なフルオロカーボン膜を形成するものと推測される。また、プラズマ反応CVD用ガスとして前記化合物を用いた場合にもプラズマ活性化させた際に同様の状態が形成されると思われ、上述したように高分子量フラグメントに起因すると思われる強固なフルオロカーボン膜が形成されるものと推測される。
【0055】
[実施例2]
2,2,2−トリフルオロメチルメタクリレート、2−エチルアダマンチルメタクリレート及びt−ブチルメタクリレートからなる三元共重合体〔共重合比:0.4:0.35:0.25(モル比)、分子量8700〕10部、及び酸発生剤であるトリフェニルスルホニウムメタンスルホネート0.15部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート70部に溶解し、孔径100nmのフィルターでろ過し、レジスト溶液を調製した。
【0056】
このレジスト溶液を、厚さ約2μmのシリコン酸化膜を形成した8インチのシリコン基板上にスピンコート法により塗布し、ホットプレート上で120℃でプリベークを行って膜厚3000nmのレジスト膜を形成した。このレジスト膜にX線露光装置によりマスクパターンを介して露光した。その後、130℃にてポストベークを行い、2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて25℃で60秒間現像し、乾燥して100nmのコンタクトホールパターンを形成した。
【0057】
コンタクトホールパターンが形成された基板を平行平板型プラズマエッチング装置のエッチングチャンバー内にセットし、系内を真空にした後、実施例1にて得た、液化した状態にてプラズマ反応用ガスを充填した容器を85℃に加温し、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)をガス化させた状態でプラズマ反応用ガスを15sccmの速度で、さらに、酸素及びアルゴンをそれぞれ15sccm及び400sccmの速度でエッチングチャンバー内に導入した。そうして系内の圧力を5mTorrに維持し、1012イオン/cmのプラズマ密度でドライエッチングを行った。その時のエッチング速度及びレジストに対する選択性を表1に示す。なお、エッチング速度はシリコン基板の中央部分において測定し、選択比は当該エッチング速度を用いて計算した。
【0058】
[比較例1]
前記実施例1で使用したパーフルオロ(3−メチレンシクロペンテン)に代えて、プラズマ反応用ガスとしてヘキサフルオロー1,3−ペンタジエンを用いた以外は実施例1と同様にしてドライエッチングを実施した。その時のエッチング速度及びレジストに対する選択性を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果より、本発明のプラズマ反応用ガスを用いてドライエッチングした場合(実施例2)、従来品を用いた場合(比較例1)と比較して、より選択性に優れ、また、形状の良いパターンが形成でき、プラズマ密度が高密度領域にある場合でも、高いエッチング速度で選択性をそれほど低下させずに加工可能なことが分かる。
【0061】
[実施例3]
実施例1で得たプラズマ反応用ガスを使ってプラズマCVDによる成膜を実施した。
基板として一部アルミ蒸着したシリコン酸化膜ウェハを用い、プラズマCVD装置としてマイクロ波CVD装置を用いた。プラズマCVDの条件は以下とした:
プラズマ反応用ガスの流量:100sccm
アルゴンの流量:250sccm
反応チャンバー内圧力:6.6Pa
RF出力(周波数2.45GHz):2000W
シャワーヘッド温度:280℃
基板温度:100℃
反応チャンバー壁温度:200℃。
【0062】
上記条件で処理した基板上に厚さ0.3μmの膜を得た。この膜はボイドの発生もなく緻密で均一であり、基板への密着性も良好であった。膜の比誘電率は2.2であった。
成膜したシリコンウェハをTencor社製レーザー内部応力測定器FLX−2320にかけて、室温(25℃)〜350℃の範囲で内部応力を測定した。この温度範囲での単位温度あたりの内部応力変化割合は14ppm/Kであった。
【0063】
[比較例2]
実施例1で得たプラズマ反応用ガスに代えて、プラズマ反応用ガスとしてヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンを用いた以外は実施例3と同様にしてプラズマCVDによる成膜を実施した。膜の比誘電率は2.4であった。成膜したシリコンウェハをTencor社製レーザー内部応力測定器FLX−2320にかけて、室温(25℃)〜350℃の範囲で内部応力を測定した。この温度範囲での単位温度あたりの内部応力変化割合は40ppm/Kであった。
【0064】
以上の結果から、本発明のプラズマ反応用ガスを用いた場合(実施例3)、従来品を用いた場合(比較例2)と比較して、加熱処理を施しても応力緩和の小さいフルオロカーボン膜を成膜可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)のMSチャートを示す。
【図2】ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンのMSチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を含有してなるプラズマ反応用ガス。
【請求項2】
パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)の含有量が99容量%以上である請求項1記載のプラズマ反応用ガス。
【請求項3】
プラズマ反応ドライエッチング用、プラズマ反応CVD用、又はプラズマ反応アッシング用である請求項1又は2記載のプラズマ反応用ガス。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被エッチング基体をドライエッチングする工程を有するドライエッチング方法。
【請求項5】
プラズマ反応用ガスの処理容器内への供給を、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行う請求項4記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
ドライエッチングを、プラズマ密度が1012/cm以上の高密度プラズマ雰囲気下に行う請求項4又は5記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
請求項1〜3いずれかに記載のプラズマ反応用ガスを処理容器内に供給し、該容器内で被処理物の表面にCVD法によりフルオロカーボン膜を成膜する工程を有する成膜方法。
【請求項8】
プラズマ反応用ガスの処理容器内への供給を、パーフルオロ−(3−メチレンシクロペンテン)を加熱下にガス化させて行う請求項7記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−45058(P2010−45058A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339300(P2006−339300)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】