説明

モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法

【課題】機差に応じた補正を行って効果的な捩り制振を行う方法を提供する。
【解決手段】動力源から車輪に到る駆動系にモータが含まれるとともに、その駆動系を捩り振動系としてモデル化した捩り振動モデルにおける捩り振動を抑制するために予め用意した数式モデルに基づいて前記モータをフィードフォワード制御することにより前記駆動系における捩り振動を抑制する、モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法において、前記捩り振動系における前記モータを除いたいずれかの回転角度を基準とし、その基準となる回転角度の変化量に対する前記モータの回転角度の変化量の比の設計値と実測値との偏差Δαを求め、その偏差に基づいて、前記数式モデルにおける捩り変位を抑制する係数の設定値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを備えている駆動系の捩り振動を抑制するための制御装置に関し、特にフィード・フォワード制御によって制振を行う制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンやモータなどの動力源から車輪ならびにこれを支えている車体に到る駆動系は多数の部品によって構成され、それらの各部品が弾性を有している上に、部品相互の連結部分にも弾性がある。そのため、動力源が出力するトルクが大きく変化したり、路面の凹凸などが要因となって車輪からトルクが入力された場合などにおいては、駆動系に振動が生じ、これが要因となって車両の乗り心地が低下したり、こもり音が増大したりする。そこで、モータを動力源とした電気自動車やモータを駆動系に含むハイブリッド車などにおいては、そのモータのトルクを振動に合わせて制御することにより、駆動系のトルク変動を低減する制振装置が開発されている。
【0003】
その例が特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1に記載された制振装置は、内燃機関を動力源として、その出力側に弾性緩衝機構を介して電動機が連結された駆動装置を対象とする制振装置であって、エンジンの間欠的な爆発に起因する振動を抑制するようにモータ・ジェネレータのトルクを制御するように構成された制振装置である。また、特許文献2に記載されている制振装置は、フィード・フォワード制御(FF制御)で振動を抑制するにあたり、実プラントと共にプラントモデルを併用して外乱トルクを推定し、電動機トルクをその推定された外乱トルクで補正するように構成された制振装置が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3409755号公報
【特許文献2】特開2000−217209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の各特許文献1,2に記載されているように、従来、駆動装置の制振を行う場合、対象とする駆動装置の振動モデル化するとともに、これを数式モデルで表し、その数式モデルを入力状態ごとに解いて制振制御量を求めている。なお、その制振制御量は、例えば駆動系に設けられているモータの出力トルクである。したがって、従来の制振制御は、実プラントに生じる振動を、振動モデルで想定されている振動に近づけるように制振トルクなどの制御量を決めるものであり、これは、実機と振動モデルとの振動特性がほぼ一致していること、あるいは数式モデルが実機を正確に表していることを前提として成り立つ。
【0006】
しかしながら、実際の駆動装置もしくは駆動系は、多数の部品を組み合わせて構成されており、それらの部品の剛性や弾性などの特性が、数式モデルの元となる振動モデルにおけるものと必ずしも一致しない場合がある。このような場合、制振のために予め用意してある数式モデルがその制御対象を正確に反映したものとならず、その結果、想定した制振を行うことができず、振動の抑制効果を得られなくなる可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、振動モデルと実機との振動特性の誤差を補正して効果的な捩り制振制御を行うことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源から車輪に到る駆動系にモータが含まれるとともに、その駆動系を捩り振動系としてモデル化した捩り振動モデルの捩り振動特性を示す予め用意した数式モデルに基づいて前記モータをフィードフォワード制御することにより前記駆動系における捩り振動を抑制する、モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法において、前記捩り振動系における前記モータを除いたいずれかの回転角度を基準とし、その基準となる回転角度の変化量に対する前記モータの回転角度の変化量の比の設計値と実測値との偏差を求め、その偏差に基づいて、前記数式モデルにおける捩り変位を抑制する係数の設定値を補正することを特徴とする方法である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記駆動系は、前記動力源に連結され、かつ前記モータを有する変速機構を含み、前記補正される係数は、前記動力源と変速機構との間のばね係数であることを特徴とするモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法である。
【0010】
請求項3の発明は、動力源から車輪に到る駆動系にモータが含まれるとともに、その駆動系を捩り振動系としてモデル化した捩り振動モデルにおける捩り振動を抑制するために予め用意した数式モデルに基づいて前記モータをフィードフォワード制御することにより前記駆動系における捩り振動を抑制する、モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法において、捩り振動による前記車輪の回転角度の所定時点における変化量とは異なる変化量が前記所定時点の後に一定時間継続することにより前記車輪の諸元の変化を判定し、前記所定時点における前記変化量と、該変化量とは異なる前記変化量との偏差に応じて前記モータに対する制振制御量を補正することを特徴とする方法である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記偏差の単位時間当たりの変化の割合が相対的に小さい場合に警告を出力することを特徴とするモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1および請求項2の発明によれば、対象とする駆動系の捩り振動を抑制するためのモータ出力を求めるための数式モデルが、その駆動系をモデル化した振動モデルに基づいて求められ、その数式モデルで得られる制御量でモータがフィードフォワード制御される。その振動モデルと実機とを比較するために、モータを除くいずれかの回転角度の変化量とモータの回転角度の変化量との比の設計値と実測値との偏差が求められる。振動モデルと実機とが一致していればその偏差がなくなるが、振動モデルと実機とにズレがある場合に、その偏差に応じて数式モデルにおける所定の係数の設定値が補正される。すなわち、数式モデルが実機に合うように修正される。その結果、設計上想定された捩り制振効果もしくはこれに近い効果を得ることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、対象とする駆動系の捩り振動を抑制するためのモータ出力を求めるための数式モデルが、その駆動系をモデル化した振動モデルに基づいて求められ、その数式モデルで得られる制御量でモータがフィードフォワード制御される。その数式モデルに基づいてモータを制御する過程で車輪の回転角度およびその変化量が求められ、所定時点でのその変化量とその後の変化量とが比較される。そして、異なった変化量が一定時間継続していることが検出された場合に、車輪の諸元が変化したことが判定される。その諸元の変化は、例えば従前とは異なる種類のタイヤに交換されたこと、あるいは車輪の空気圧が変化したことなどである。このような変化が判定された場合、その変化に応じて制振制御量が補正される。例えば、制御ゲインが変更される。その結果、数式モデルが実機の変更に合わせて補正されるので、設計上想定された捩り制振効果もしくはこれに近い効果を得ることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、上記の請求項3の発明による効果に加えて、特別なセンサもしくは検出器を設けることなく、車輪の異常を警告することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明で対象とする駆動系は、例えば車両における動力源から車輪に到る動力の伝達系統であり、特に車輪に動力を伝達する過程の途中にモータが設けられている駆動系である。その一例がハイブリッド駆動装置であり、動力源としてのガソリンエンジンなどの内燃機関が出力したトルクに対してトルクを加減するモータが設けられている駆動装置である。
【0016】
図1は変速機構にモータを備えた駆動系の振動モデルを示しており、ここに示す例は、4自由度の振動モデルである。図1におけるI1は動力源であるエンジンを主体とするエンジン系を示し、I2はモータを含む変速機系を示し、I3は車輪(特に駆動輪)を主体とするタイヤ系を示し、I4は車体を主体とする車両系を示している。
【0017】
エンジン系I1と変速機系I2との間には、発進クラッチのダンパあるいはロックアップクラッチのダンパ(それぞれ図示せず)が設けられており、その減衰係数をc1、ダンパばね係数(捩り剛性)をk1で示してある。また、変速機系I2とタイヤ系I3との間のドライブシャフトなど(図示せず)の捩り弾性係数(ばね係数:捩り剛性)をk2、その減衰係数をc2で示してある。さらに、タイヤ系I3の弾性係数(ばね係数:捩り剛性)をk3、その減衰係数をc3で示してある。
【0018】
ここに示す駆動系は、上記のように4自由度の振動モデルとして記述できるものであり、その運動方程式は下記の(1)式のようになる。
【数1】

ここで、(1)式におけるJi(i=1〜4)は図1のIi(i=1〜4)の回転慣性モーメントを示し、またθi(i=1〜4)は図1のIi(i=1〜4)の角変位を示し、さらにTは動力源の変動トルクを示す。
【0019】
上記の角変位θi(i=1〜4)を静的な変位Θと変動成分とに分けて表し、(1)式をマトリックス表示すると、(2)式のようになる。
【数2】

【0020】
そして、図1の共振周波数は、(2)式の係数行列の行列式を「0」とするωによって求めることが可能である。
【0021】
なお、ここで示している例では、タイヤの回転数や回転変動を車両に搭載されている機器、例えばABS(アンチロック・ブレーキ・システム)におけるセンサ(それぞれ図示せず)で高精度に検出できるようになっている。また、同様に、モータの回転数やトルクは、その制御のために設けられているレゾルバやインバータなどの既設の機器で検出できるようになっている。そして、図1に示すように、車両系I4は慣性モーメントが最も大きく、実質的な振動は生じず、また、タイヤの回転変動は、その慣性モーメントがエンジン系I1や変速機系I2に対して大きく、したがって外乱による回転変動が少なく、安定している。
【0022】
上記の振動モデルでシミュレーションを行い、あるいは実機での振動計測を行うと、1次ないし3次の振動での各回転変動は、一例として図2に示すようになる。なお、図2は回転変動を比率で示してある。図2に示すように、1次の固有振動は、人間の可聴域以下の10Hz程度の振動であってエンジン系I1の慣性モーメントと、エンジン系I1および変速機系I2の間のダンパの剛性でほぼ定まる固有振動である。また、2次の固有振動は、可聴域の下限である20Hz程度の振動であって変速機系I2の慣性モーメントI2と、変速機系I2とタイヤ系I3とを繋ぐドライブシャフト系の捩り剛性とでほぼ決まる固有振動である。さらに、3次の固有振動は、こもり音が問題となる領域に入っている45Hz程度の振動であってタイヤ系I3の慣性モーメントと捩り剛性とでほぼ決まる固有振動である。
【0023】
上記の振動モデルで入力トルク(エンジン系I1で発生させるトルク)を所定の周波数で変動させた場合の振動伝達率(ゲイン)を図3に示してある。この図3に示すように、三つの極値が生じており、それらが1次ないし3次の固有振動となっている。
【0024】
したがって、上記の固有振動を抑えるようにモータから出力するトルクをフィードフォワード制御することにより、捩り振動を抑制することができる。すなわち、エンジンなどの動力源から変速機への変位伝達係数は、下記の式のようになる。なお、ここでωは加振周波数である。
【数3】

【0025】
例えば変速機の変動θ2を所定値α(rad)以下にするためには、加振周波数ωを含む形で(3)式のT’なるトルクを与えればよい。
【数4】

【0026】
上記の基本的な捩り制振制御は、設計上想定した捩り剛性に基づくものであり、したがって実機(実プラント)におけるいずれかの捩り剛性が、設計上想定したものと大きく異なっている場合には、数式モデルと実プラントとの間に齟齬が生じていることになり、そのまま制振制御したのでは、所期の制振効果を得ることができない。そこで、この発明では、実測値に基づく修正を行って捩り制振制御を行う。
【0027】
先ず、その修正について説明すると、実機の個体差を示す機差推定パラメータαNeを算出する。これは、前述した振動モデルにおける所定の回転角度変化量に対するモータの回転角度変化量の比として与えられるものであり、図1に示す振動モデルの場合、タイヤの回転変動が小さいので、これを基準としたモータの回転角度変化量の割合として求められる。具体的には、図4にブロック図で示すように、モータ回転数の計測値ω2とタイヤ回転数の計測値ω3とのそれぞれを積分器B21,B31で積分し、それぞれの回転角度θ2,θ3を求める。なお、モータの回転数は前述したようにモータに付設されているレゾルバによって高精度に検出することができ、またタイヤの回転数はABSのセンサによって検出することができる。
【0028】
ついで、変動成分算出器B22,B32で、モータおよびタイヤの回転角度の変動分Δθ2,Δθ3を算出する。すなわち、モータの回転速度ω2で所定時間(検出時間)tの間、回転した場合の回転角度(2π・ω2・t)を、回転角度の積分値θ2から減算して変動分Δθ2が算出される。同様に、タイヤの回転速度ω3で所定時間(検出時間)tの間、回転した場合の回転角度(2π・ω3・t)を、回転角度の積分値θ3から減算して変動分Δθ3が算出される。したがって、各回転数の計測値ω2,ω3をバンドパスフィルタもしくはハイパスフィルタでフィルタ処理し、そのフィルタ処理値を積算しても、同様の変動成分Δθ2,Δθ3を求めることができる。
【0029】
これらの変動成分Δθ2,Δθ3の最大値Δθ2max,Δθ3maxが最大値抽出器B23,B33で抽出される。そして、これらの最大値Δθ2max,Δθ3maxの比率として機差推定パラメータαNeが演算器B0で演算される。
【0030】
この機差推定パラメータαNeを、その計測を行ったエンジン回転数(実施エンジン回転数)ごとに求め、その結果を図にプロットして線で結ぶと、図5のようになる。図5における破線は、機差推定パラメータαNeの計算値すなわちノミナルの設計値であって、設計どおりに制動させた駆動系で想定される値である。言い換えれば、これが標準値となる。これに対して図5における実線は、実機で計測された値から求めた機差推定パラメータαNeであり、「case1」と記載してある上側にずれた線は、ダンパばね係数k1が設計値に対して小さい場合の機差推定パラメータαNeである。また、図5に「case2」として記載してある下側にずれた実線は、ダンパばね係数k1が設計値より大きい場合の機差推定パラメータαNeである。
【0031】
このようにして機差推定パラメータαNeの標準値からのズレである機差推定パラメータ誤差Δαを求めることができ、その機差推定パラメータ誤差Δαに応じて、前述した(3)式で表される数式モデルにおける所定の係数すなわちダンパばね係数k1が補正される。その補正は、実験あるいはシミュレーションで予めマップを作成しておき、そのマップから機差推定パラメータ誤差Δαに応じた補正量を求め、これを数式モデルに代入することにより行うことができる。例えば、図5において「case1」として記載してある線で示される状態になっていれば、ダンパばね係数k1が設計値より小さくなっているので、機差推定パラメータ誤差Δαに応じて求められた補正量で、ダンパばね係数k1は実機(実プラント)に合わせるように小さい値に補正される。また、図5において「case2」として記載してある線で示される状態になっていれば、ダンパばね係数k1が設計値より大きくなっているので、機差推定パラメータ誤差Δαに応じて求められた補正量で、ダンパばね係数k1は実機(実プラント)に合わせるように大きい値に補正される。
【0032】
したがって、この発明に係る方法によれば、実機(実プラント)に設計値とは異なる機差が生じている場合、捩り制振のための数式モデルが、設計値から実機に合う係数の式に補正されるので、実機に合致した捩り制振制御が可能になり、その結果、所期どおりの捩り制振効果を得ることができる。
【0033】
なお、上述した補正を行うタイミングは、車両が完成した直後が好ましく、例えば車両が生産される工場からの出荷時の完成検査時に行うことが好ましい。また、経時変化を反映させるためには、車両の定期点検の際に行うことが好ましい。その場合、前述したように、モータ回転数やタイヤ回転数は、車両に既設のABSやレゾルバなどで高精度に検出できるので、簡単かつ安価に数式モデルを補正し、制振効果を向上させるとができる。
【0034】
ところで、この発明は実機(実プラント)の状態を制御に取り込んで制振制御を行うことにより、効果的な制振制御を行う方法であり、上述した例は数式モデルにおける係数を実機に合わせて修正するよう構成されている。この発明では、これに対して捩り制振のためのモータ制御量を、検出もしくは算出された実機の状態に合わせて修正することとしてもよい。これを、タイヤの交換や空気圧の変化など、タイヤの特性(もしくは剛性)が変化した場合を例に採って説明する。
【0035】
例えばタイヤをノーマルタイヤからスタッドレスタイヤに変更した場合やタイヤの空気圧が低下した場合、図1に示すタイヤ系I3の弾性係数(タイヤ剛性)k3が低下する。その場合の固有振動は図6に破線で示すように、3次の固有振動が低周波数側に変化し、設計上想定した状態で生じる3次の固有振動の周波数における捩り振動の伝達率(ゲイン)が所定量ΔG、低下する。このようなタイヤ剛性k3の低下と振動伝達率の低下とが対応しているので、車両の工場出荷時の完成検査時や定期点検時におけるタイヤ系I3の前記回転角度変化量Δθ3の極大値Δθ3maxに対して異なる回転角度変化量の極大値が、同一のエンジン回転数および変速比(言い換えれば、これらのパラメータで定まる運転領域)で、所定時間継続した場合には、タイヤの諸元が変化したことを判定する。なお、その所定時間は、外乱を排除して回転角度変化量を検出するのに十分な時間であればよく、予め定めることができる。
【0036】
こうしてタイヤの空気圧の低下やタイヤ交換などによって諸元が変化し、その判定が成立した場合、タイヤ剛性の低下に相当する振動伝達効率の低下量をマップなどに基づいて求め、あるいは実測し、その振動伝達率の低下分ΔGに相当するモータ制振制御量の出力量を増大させる。なお、振動伝達率が増大している場合には、モータ制振制御量の出力量を低下させる。この振動伝達率の変化に対応するモータ制振制御量の変化量は、実験あるいはシミュレーションなどによって予めマップとして用意しておくことができ、したがってそのマップからモータ制振制御量の変化量を決定すればよい。
【0037】
ところで、タイヤ系I3の剛性が変化する要因は、人為的要因や意図しない要因などがあり、それらの要因に応じて、タイヤ剛性の変化あるいはそれに伴う振動伝達率の変化の態様が異なる。人為的要因の一例がタイヤの交換であり、その場合、タイヤの交換によって直ちに振動伝達率が変化し、時間的にみた場合、変化が急激になる。これに対して意図しない要因の一例がタイヤの空気圧が徐々に低下するスローパンクチュアーであり、タイヤのバーストとは異なり、変化が緩慢であるから、振動伝達率の変化も緩やかになる。
【0038】
この発明では、このような意図的なタイヤ剛性の変化および意図しないタイヤ剛性の変化を機差として把握し、上述した数式モデルの補正および補正した数式モデルによるモータの制御を行うことができる。これに加えて、タイヤの状態の判定およびその判定の結果に基づく警告の発信を行うことができる。なお、タイヤの状態の判定およびその結果に基づく警告は、モータによる制振制御とは独立して行ってもよい。
【0039】
図7はタイヤ剛性の低下に起因する振動伝達率の低下に基づいて振動伝達効率の低下量ΔGが変化する様子を模式的に示しており、破線はタイヤを交換した場合を示し、実線はスローパンクチュアーの場合を示している。すなわち、タイヤを交換して振動伝達効率が低下した場合、算出された前時点(i−1)での前記低下量ΔGi-1と現時点(i)での低下量ΔGiとの偏差が大きく、急激な変化を示す。したがってこのような振動伝達効率の変化が検出された場合には、タイヤ交換の判定を行う。そして、その低下量ΔGが予め定めた閾値ΔG0を超えた場合、前述した数式モデルを補正し、その補正した数式モデルに基づいてモータによる捩り制振制御を行う。
【0040】
これに対してスローパンクチュアーの場合には前記低下量ΔGの変化が緩慢になり、算出された前時点(i−1)での前記低下量ΔGi-1と現時点(i)での低下量ΔGiとの偏差が小さくなる。したがってこのような振動伝達効率の変化が検出された場合には、タイヤのスローパンクチュアーの判定を行う。そして、この場合は、車両に異常が生じていることになるので、警告を発する。例えばインストルメントパネルに電気的な表示を出し、あるいは警告音を発し、またはディスプレー用のモニターに警告の表示を行う。また、スローパンクチュアーの判定が成立している場合には、前記低下量ΔGが予め定めた閾値ΔG0を超えたとしても、前述したモータによる捩り制振制御は実行しない。車両の異常を制御に取り込んでしまうことは好ましくないからである。
【0041】
したがって、上記のようにタイヤ剛性の検出およびそれに基づくタイヤの状態の判定を行うことにより、捩り振動を効果的に抑制もしくは低減できるとともに、タイヤに異常が生じている場合にはその異常を判定した警告を発することが可能になる。しかも、その判定あるいは警告のために使用するデータは、ABSで得られたデータおよびモータ制御のためのデータであってよく、したがって部品点数の増大や装置の大型化あるいは高コスト化を招来することなく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明で対象とする駆動系の振動モデルを示す模式図である。
【図2】その1次振動および2次振動ならびに3次振動でのモード振幅を示す図である。
【図3】入力トルクを所定の周波数で変化させた場合の各周波数での振動伝達率を示す図である。
【図4】この発明の方法で機差推定パラメータを求める手順を説明するためのブロック図である。
【図5】機差推定パラメータのノミナル値と機差が生じている場合の値とを模式的に示す図である。
【図6】タイヤ剛性が低下した場合の振動伝達率の変化を示す図であって、図3と同様の図である。
【図7】タイヤ剛性の低下に起因する振動伝達率の低下量がタイヤ交換の場合とスローパンクチュアーの場合とで変化する様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0043】
I1…エンジン系、 I2…変速機系、 I3…タイヤ系、 I4…車両系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から車輪に到る駆動系にモータが含まれるとともに、その駆動系を捩り振動系としてモデル化した捩り振動モデルの捩り振動特性を示す予め用意した数式モデルに基づいて前記モータをフィードフォワード制御することにより前記駆動系における捩り振動を抑制する、モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法において、
前記捩り振動系における前記モータを除いたいずれかの回転角度を基準とし、その基準となる回転角度の変化量に対する前記モータの回転角度の変化量の比の設計値と実測値との偏差を求め、
その偏差に基づいて、前記数式モデルにおける捩り変位を抑制する係数の設定値を補正する
ことを特徴とするモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法。
【請求項2】
前記駆動系は、前記動力源に連結され、かつ前記モータを有する変速機構を含み、
前記補正される係数は、前記動力源と変速機構との間のばね係数であることを特徴とする請求項1に記載のモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法。
【請求項3】
動力源から車輪に到る駆動系にモータが含まれるとともに、その駆動系を捩り振動系としてモデル化した捩り振動モデルにおける捩り振動を抑制するために予め用意した数式モデルに基づいて前記モータをフィードフォワード制御することにより前記駆動系における捩り振動を抑制する、モータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法において、
捩り振動による前記車輪の回転角度の所定時点における変化量とは異なる変化量が前記所定時点の後に一定時間継続することにより前記車輪の諸元の変化を判定し、
前記所定時点における前記変化量と、該変化量とは異なる前記変化量との偏差に応じて前記モータに対する制振制御量を補正する
ことを特徴とするモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法。
【請求項4】
前記偏差の単位時間当たりの変化の割合が相対的に小さい場合に警告を出力することを特徴とする請求項3に記載のモータを用いた駆動系の捩り振動制振制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−284676(P2009−284676A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134668(P2008−134668)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】