説明

レーザ充填および適度なHIP圧縮成形によるチタンブレードの修理方法

本発明は、金属部品の修理方法で、損傷部品に前記金属の粉末を噴霧によって前記損傷部品を充填することによる修理方法であって、プロセスが、前記粉末を使用して前記損傷部品をレーザ充填するステップと、その後に、熱間等静圧圧縮成形するステップであって、前記熱間等静圧圧縮成形時に加えられる最高温度は前記金属の再結晶温度を超えないステップとを含むことを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、航空機タービンエンジンの分野であり、特に、そのタービンエンジンの圧縮機ブレードの修理の分野である。
【背景技術】
【0002】
航空機タービンエンジンは、一般に、直列に配置された1つまたは複数の圧縮機を備え、空気は燃焼室に噴射される前にその圧縮機内で圧縮される。燃焼室では、空気は燃料と混合されて燃焼される。燃焼ガスは、1つまたは複数の圧縮機を駆動するのに必要な動力を引き出す1つまたは複数のタービン段を通過し、その後、燃焼ガスはノズルから排出されて所望の推力を発生させる。現代の民間航空機用の高バイパス比ターボファンエンジンには、ファンと呼ばれるさらなる圧縮段が、第1の圧縮機(低圧圧縮機)の上流側に配置されている。このようなファンのブレードは、寸法が大きく、空気流による影響を受けやすい、例えば、大気摂動、エンジンによって吸い込まれる恐れのあるごみまたは異物による影響を受けやすい。
【0003】
これらの影響により腐食が生じて、ファンブレードは多少早く摩耗するが、この摩耗に対して、損傷ブレードの許容寿命を長くするか、またはこれらのブレードを修復する解決策を考えて対処する必要がある。
【0004】
圧縮機ブレードの前縁または他の部品が使用中に腐食された後、その部品を充填するためのいくつかの解決策が提案されている。例えば、Honeywell社により出願されている国際公開第2007/027177号は、冷却ガス動的噴霧と呼ばれる方法でチタン合金製のファンブレードを充填する方法を提案している。この方法は、金属粉末の噴霧に関係する。金属粉末の粒子は、その運動エネルギーによりブレード上に凝集して層を形成し、ブレードを元の形状に修復することができる。この方法には、噴霧層にかなりの量の細孔が残った状態になるという欠点がある。この問題を解決するために、本願に記載されている方法は、修理される部品を700〜1000バールの圧力と1400〜1500℃の温度に1時間さらして、それを数時間の間、900℃程度の温度で維持する必要があるので、比較的厳しい条件下で実行される熱間等静圧圧縮成形(HIP)処理を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/027177号
【特許文献2】欧州特許第1643011号明細書
【特許文献3】欧州特許第1743729号明細書
【特許文献4】欧州特許第1897972号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような部品の温度上昇に伴う欠点は、チタンはその剛性のほとんどを失って、ブレードが変形しやすいということである。さらに、冷却ガスを使用して粉末状の金属を噴霧する技術を採用しても、十分に正確な位置に充填することができない。したがって、この技術に、ブレードをその正確な幾何学的形状に修復するための機械加工を補う必要がある。
【0007】
想定され得る別の解決策はレーザ充填処理であり、この解決策により、より正確な寸法が得られるので、最終機械加工が必要でなくなる、または少なくとも手動で行われる単純な調整作業だけになる。レーザ充填は溶接による充填技術であり、一部の表面に金属層を付着させるステップから成る。金属フィラーは、ワイヤまたは粉末の形で不活性ガスを使用して供給され、横方向または同軸方向にレーザビームへと注入される。このシステムでは、レーザビームによって送られるエネルギーの一部は、レーザビーム内の粉末を予備加熱するのに使用され、粉末ジェットにより送られるエネルギーの一部は、表面的に基板の表面を再溶融させることができる。溶融池は、レーザによるエネルギーを供給することで維持される。
【0008】
この解決策により、直接ブレードを最終寸法になるように修理することができるが、緻密さが不十分であるという問題を完全に解消することはできない。レーザで適切に調整することで、見える細孔が以前のケースに比べてはるかに少なくても、チタン合金製の圧縮機ブレードの場合には、十分な疲労強度を確保するために、充填後に細孔を除去する方法をさらに用いる必要がある。
【0009】
例えば、General Electric社出願の欧州特許第1643011号明細書および欧州特許第1743729号明細書、またはUnited Technologies社出願の欧州特許第1897972号明細書に記載されているような、金属噴霧による充填後にHIP圧縮成形処理のような緻密化処理を使用する他の方法が提案されている。これらの熱間等静圧圧縮成形処理は、通常、700°の温度を超えるので、高温状態で行われることに留意されたい。700°は、チタン合金TA6Vの場合、再結晶温度に相当する。上述の1番目の特許文献D1では、使用される温度は、「ほぼ700°」および「ほぼ950°」であるが、3番目の特許文献では、800〜1000°であり、2番目の特許文献では温度は明記されていない。
【0010】
同様に、これらのHIP圧縮成形処理の時に印加される圧力(1番目の特許文献では14〜28バールで変動、3番目の特許文献では約10バール)は、この場合、比較的低い状態に保たれるが、このことは、細孔を制限するのにはあまり好ましくない。
【0011】
本発明の目的は、先行技術の少なくともいくつかの欠点がない、特に、ブレードの形状を変形させずに、充填時に形成される可能性のある細孔を無くす修理方法を提案することで、上述の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明は、金属部品の修理方法にして、前記部品に前記金属の粉末を噴霧して損傷部品を充填することによる修理方法であって、前記粉末を使用して損傷部品をレーザ充填するステップと、その後に、熱間等静圧圧縮成形するステップであって、前記熱間等静圧圧縮成形するステップの間に加えられる最高温度は前記金属の再結晶温度を超えないステップとを含むことを特徴とする方法に関する。
【0013】
温度を金属の再結晶温度より低く保つことで、金属部品の変形を防ぐことができ、金属部品をレーザ充填処理の時に最終寸法に仕上げることができる。この場合、金属部品を正確な幾何学的形状に修復するのに、HIP圧縮成形後のフライス加工は不要である。
【0014】
本発明の方法は、チタン合金製のタービンエンジン圧縮機ブレードで行われるのが好ましい。
【0015】
この場合、最高温度は、最高で680℃である。
【0016】
一実施形態では、金属部品は、少なくとも2時間の間、最高温度に保たれる。
【0017】
最高温度での保持時間を長くすることで、前記最高温度の低下を補償して、同じ結果を得ることができる。
【0018】
熱間等静圧圧縮成形の圧力は、少なくとも970バールであるのが好ましい。
【0019】
特定の実施形態では、温度上昇率は350℃/時間を超えない。
【0020】
別の特定の実施形態では、熱間等圧縮成形の終了時の温度低下率は、100℃/時間を超えない。
【0021】
有利には、熱間等圧縮成形の終了時の圧力低下率は、20バール/分を超えない。
【0022】
単に例示を目的とした非限定的な例として、添付図面を参照して考察された以下の本発明の一実施形態の詳細な説明から、本発明はより良く理解され、本発明の他の目的、詳細、特徴および利点がより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態によるチタン合金製ブレードの修理方法の実施ステップの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法は、以下のようにして行われる。
【0025】
最初に、修理される部品の表面が、当業者に周知の方法を使用した全く従来の方法で準備される。
【0026】
次に、修理される部品はレーザ充填装置内に配置され、腐食部品が復元される。この充填処理は、マスキングするテンプレートを使用せずに行われる。それは、本発明の方法が、充填される領域をはみ出さずに、欠損した場所に十分に正確に金属を加えることができるからである。
【0027】
このようにして得られた部品は、まだ細孔を含む。この細孔は小さいサイズ(10〜40ミクロン)であるが、疲労亀裂が始まるのには十分であるので、この細孔があるためにブレードの充填処理される前と同じだけの残り寿命を有することができなくなる。したがって、この充填処理を緻密化処理で補う必要がある。
【0028】
上述したように、従来使用されている高熱条件下での熱間等静圧圧縮成形による緻密化処理は、ブレードの形状の変形を引き起こし、再び使用するのに適さない。
【0029】
本発明は、従来使用されてきたHIP方法の温度条件より低い温度条件下で熱間等静圧圧縮成形処理を実施することを提案するものである。この温度での保持時間を長くすることで、緻密化の点で同じ結果が得られる。
【0030】
TA6Vのようなチタン合金製のブレードの場合、部品は、まず、アルゴンなどの中性雰囲気で、約2時間の間、最高700℃の温度まで加熱される。同時に、その部品を収容するチャンバの圧力は、1000バール+/−30バールまで上げられる。このHIP圧縮成形を実施するための好ましい温度は、665℃で許容誤差は+/−15°である。
【0031】
部品は、これらの条件下で約2時間の間維持される。
【0032】
最高700℃で維持した後、チャンバの温度は、その後約2時間30分にわたって徐々に400℃まで下げられる。
【0033】
最後に、圧力は、常に、20バール/分より低い値を維持する圧力低下の法則に従って、大気圧の値まで下げられる。
【0034】
好ましくは、温度上昇は350℃/時間の勾配で行われ、温度低下は100℃/時間の勾配で行われる。
【0035】
ファンブレードに対して上述の方法を実施した後に得られた結果は、緻密化処理前と後とで、
部品の写真測量により、ブレードの形状に変化がなかったということ、
同じ方法を施した検査サンプルの断層撮影により、細孔は消滅した、または少なくとも使用される手段によって検出不能なサイズになったということ
を示している。
【0036】
機械的特性試験では、充填処理されたブレードは、充填処理されていないブレードと同じように作動し、したがって修理していない場合と同じ残り寿命を提供することができることが確認できた。
【0037】
HIP圧縮成形時に使用される最高温度は700℃より低い、すなわち、アニーリング処理で使用されるチタン合金TA6Vの再結晶温度より低いことに留意されたい。したがって、本発明は、該当の金属材料の再結晶温度より低い温度で行われる熱間等静圧圧縮成形によって実施される金属材料の緻密化処理を特許請求するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品の修理方法にして、前記部品に前記金属の粉末を噴霧して損傷部品を充填することによる修理方法であって、
前記粉末を使用して前記損傷部品をレーザ充填するステップと、その後に、熱間等静圧圧縮成形するステップであって、前記熱間等静圧圧縮成形するステップの間に加えられる最高温度は前記金属の再結晶温度を超えないステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
部品は、チタン合金製のタービンエンジン圧縮機ブレードである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最高温度は、最高で680℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
部品は、少なくとも2時間の間、最高温度に保たれる、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
熱間等静圧圧縮成形の圧力は、少なくとも970バールである、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
温度上昇率は、350℃/時間を超えない、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
熱間等静圧圧縮成形の終了時の温度低下率は、100℃/時間を超えない、請求項1から6の一項に記載の方法。
【請求項8】
熱間等静圧圧縮成形の終了後の圧力低下率は、20バール/分を超えない、請求項1から7の一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−513491(P2013−513491A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543607(P2012−543607)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069220
【国際公開番号】WO2011/073071
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】