説明

低飽和磁化自由層を有するスピン転移磁気素子

【課題】より低いスイッチング電流密度で磁気素子に書き込みを行うこと。
【解決手段】磁気素子100は、固定層110と、非磁性であるスペーサ層120と、自由層磁化を有する自由層130とを備える。スペーサ層120は、固定層110と自由層130との間に存在する。自由層130は、被ドープ強磁性材料を含む。被ドープ強磁性材料は、自由層130が室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料か、フェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料か、又は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈され且つフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含む。書き込み電流が磁気素子100を通過する時、自由層磁化がスピン転移を用いて切換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリシステムに関し、特に、スイッチングの際、スピン転移効果を採用する磁気素子であって、より小さいスイッチング電流密度を用いて切換え得る磁気素子を提供するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1A及び1Bは、従来の磁気素子10及び10’を示す。従来の磁気素子10は、スピンバルブであり、従来の反強磁性(AFM)層12、従来の固定層14、従来の導電性スペーサ層16及び従来の自由層18を含む。シード層又はキャップ層等の他の層(図示せず)も用い得る。従来の固定層14及び従来の自由層18は、強磁性である。従って、従来の自由層18は、磁化19の変更が可能なものとして示す。従来の導電性スペーサ層16は、非磁性である。AFM層12は、固定層14の磁化を特定の方向に固定、即ち、ピン止めするために用いられる。自由層18の磁化は、通常、外部磁場に応じて自由に回転する。従来の磁気素子10に電流を駆動して流すために用い得る頂部コンタクト20及び底部コンタクト22も示す。図1Bに示す従来の磁気素子10’は、スピントンネル接合である。従来のスピントンネル接合10’の複数の部位が、従来のスピンバルブ10と同様である。従って、従来の磁気素子10’は、AFM層12’、従来の固定層14’、従来の絶縁障壁層16’及び磁化19’が変更可能な従来の自由層18’を含む。従来の障壁層16’は、従来のスピントンネル接合10’において、電子がトンネル通過するのに充分な程薄い。
【0003】
従来の自由層18/18’及び従来の固定層14/14’の磁化19/19’の向きにそれぞれ依存して、従来の磁気素子10/10’の抵抗は、それぞれ変化する。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固定層14/14’の磁化と平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は低い。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固定層14/14’の磁化に反平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は高い。従来の磁気素子10/10’の抵抗を検出するためには、電流を駆動して従来の磁気素子10/10’に流す。通常、メモリ用途では、電流は、CPP(面垂直電流)構成において、従来の磁気素子10/10’の層に対して垂直(図1A又は1Bにおいて分かるように上下のz方向)に駆動される。
【0004】
より高い密度のメモリセルを有する磁気メモリに関連する幾つかの問題を克服するために、スピン転移を利用して、従来の自由層10/10’の磁化19/19’を切り換え得る。スピン転移について、従来の磁気素子10’に関して説明するが、従来の磁気素子10にも同様に適用可能である。スピン転移に関する現在の知見は、以下の出版物に詳細に記載されている。即ち、スロンチェウスキ(J.C.Slonczewski)による“Current−driven Excitation of Magnetic Multilayers”,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,vol.159,p.L1(1996)、バーガー(L.Berger)による“Emission of Spin Waves by a Magnetic Multilayer Traversed by a Current”,Phys.Rev.B,vol.54,p.9353(1996)、並びにアルバート(F.J.Albert)、カティン(J.A.Katine)、及びバーマン(R.A.Buhrman)による“Spin−polarized Current Switching of a Co Thin Film Nanomagnet”,Appl.Phys.Lett.,vol.77,No.23,p.3809(2000)に記載されている。従って、スピン転移現象の以下の説明は、現在の知見に基づくものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0005】
スピン偏極電流が、CPP構成のスピントンネル接合10’等の磁性多層を横断する場合、強磁性層に入射する電子のスピン角運動量の一部は、強磁性層に転移し得る。特に、従来の自由層18’に入射する電子は、それらのスピン角運動量の一部を従来の自由層18’に転移し得る。その結果、電流密度が充分に高く(約10〜10A/cm)、スピントンネル接合の横方向の寸法が小さい(約200ナノメートルより小さい)場合、スピン偏極電流は、従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え得る。更に、スピン転移が従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え可能であるためには、従来の自由層18’は、充分に薄い方が良く、例えば、好適には、Coの場合、約10ナノメートル未満が好ましい。スピン転移に基づく磁化のスイッチングは、他のスイッチングメカニズムより優れており、従来の磁気素子10/10’の横方向の寸法が小さく、数百ナノメートルの範囲にある場合、観察可能になる。従って、スピン転移は、より小さい磁気素子10/10’を有する密度が高い磁気メモリに適している。
【0006】
スピン転移の現象は、従来のスピントンネル接合10’の従来の自由層18’の磁化方向を切り換えるために外部スイッチング場を用いることに対する他の選択肢又は追加としてCPP構成に用い得る。例えば、従来の自由層18’の磁化19’は、従来の固定層14’の磁化に反平行な方向から従来の固定層14’の磁化に平行な方向に切り換え得る。電流は、従来の自由層18’から従来の固定層14’に駆動される(伝導電子は、従来の固定層14’から従来の自由層18’に移動する)。従来の固定層14’から移動する多数電子のスピンは、従来の固定層14’の磁化と同じ方向に偏極される。これらの電子は、それらの充分な量の角運動量を従来の自由層18’に転移して、従来の自由層18’の磁化19’を従来の固定層14’のそれに平行になるように切り換え得る。他の選択肢として、自由層18’の磁化は、従来の固定層14’の磁化に平行な方向から従来の固定層14’の磁化に反平行に切り換え得る。電流が、従来の固定層14’から従来の自由層18’に駆動される(伝導電子が反対方向に移動する)場合、多数電子のスピンは、従来の自由層18’の磁化の方向に偏極される。これら多数電子は、従来の固定層14’を透過する。少数電子は、従来の固定層14’で反射され、従来の自由層18’に戻り、それらの充分な量の角運動量を転移して、自由層18’の磁化19’を従来の固定層14’のそれに反平行に切り換え得る。
【0007】
スピン転移は、従来の磁気素子10及び10’を切り替えるためのメカニズムとして機能するが、従来の磁気素子10及び10’のスイッチングを誘起するには、通常、高い電流密度が要求されることを当業者は容易に認識し得る。特に、スイッチング電流密度は、数10A/cm以上のオーダーである。従って、高い書き込み電流が、高いスイッチング電流密度を得るために用いられる。高い動作電流によって、高密度MRAMの場合、発熱、高い消費電力、大きなトランジスタサイズ、また更に他の問題等の設計上の問題が生じる。更に、従来の素子10等のスピンバルブを用いる場合、出力信号が小さい。従来の磁気素子10では、総抵抗及びSVベースのスピン転移要素の抵抗の変化は、双方共小さく、通常、それぞれ、2オーム及び5パーセント未満である。
【0008】
出力信号を増大する1つの提案された方法は、スピン転移デバイスに、従来の磁気素子10’等のスピントンネル接合を用いることである。従来の磁気素子10’は、大きな抵抗及び大きな信号を呈し得る。例えば、抵抗は、1千オームを超え、抵抗変化の割合は、40パーセントを超え得る。しかしながら、従来の磁気素子10’を用いると、従来の磁気素子10’の劣化又は破壊を防止するために、小さい動作電流が必要なことを当業者は容易に認識し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より小さい電流密度でスピン転移を用いて切換えることができ、且つ消費電力を低減し得る磁気素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、磁気素子である。磁気素子は、固定層と、非磁性であるスペーサ層と、自由層磁化を有する自由層であって、前記スペーサ層が前記固定層と前記自由層との間に存在し、被ドープ強磁性材料を含む前記自由層と、を備え、前記被ドープ強磁性材料は、前記自由層が室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料か、フェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料か、又は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈され且つフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含み、前記少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料は、少なくともCoX、FeX、CoFeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY、及び/又はCoNiFeXY(ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)、及び/又はCoFeX(ここで、Xは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及びTaCuNである)を含み、前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の態様は、磁気素子である。磁気素子は、第1固定層と、導電性及び非磁性であるスペーサ層と、自由層磁化を有する自由層であって、前記スペーサ層が前記第1固定層と前記自由層との間に存在し、低飽和磁化自由層である前記自由層であって、室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含む前記自由層と、絶縁体である障壁層であって、トンネル通過可能な厚さを有する前記障壁層と、第2固定層であって、前記障壁層が前記自由層と前記第2固定層との間に存在する前記第2固定層と、を備え、前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様は、磁気素子である。磁気素子は、第1固定層と、非磁性である第1スペーサ層と、第1自由層であって、前記第1スペーサ層が前記第1固定層と前記第1自由層との間に存在する、前記第1自由層と、第2自由層磁化を有する第2自由層であって、前記第1自由層及び前記第2自由層が静磁気的に結合されている、前記第2自由層と、非磁性である第2スペーサ層と、第2固定層であって、前記第2スペーサ層が前記第2自由層と前記第2固定層との間に存在する、前記第2固定層と、を備え、前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されており、前記第1自由層は第1低飽和磁化を有するように構成されており、及び/又は前記第2自由層は第2低飽和磁化を有するように構成されており、前記第1自由層が室温で1430emu/cm以下の前記第1低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含み、及び/又は前記第2自由層が室温で1430emu/cm以下の前記第2低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の態様は、磁気素子を提供するための方法である。当該方法は、固定層を設けること、非磁性であるスペーサ層を設けること、自由層磁化を有する自由層を設けることであって、前記スペーサ層が前記固定層と前記自由層との間に存在し、前記自由層が被ドープ強磁性材料を含み、前記被ドープ強磁性材料は、前記自由層が室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料か、フェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料か、又は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈され且つフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含む、前記自由層を設けること、を備え、前記少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料は、少なくともCoX、FeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY、及び/又はCoNiFeXY(ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)、及び/又はCoFeX(ここで、Xは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及びTaCuNである)を含み、前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より小さい電流密度を用いたスピン転移により切換え得る磁気素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】従来の磁気素子であるスピンバルブを示す図。
【図1B】他の従来の磁気素子であるスピントンネル接合を示す図。
【図2A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態を示す図。
【図2B】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における他の態様を示す図。
【図3】低飽和磁化によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における態様を示す図。
【図4】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第2実施形態を示す図。
【図5A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第2実施形態における好適な態様を示す図。
【図5B】低飽和磁化自由層によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第2実施形態における他の態様を示す図。
【図6】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第3実施形態を示す図。
【図7A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第3実施形態の好適な態様を示す図。
【図7B】少なくとも低飽和磁化によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第3実施形態における他の態様を示す図。
【図8】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一実施形態を提供するための本発明に基づく方法の一実施形態のフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、磁気素子及びMRAM等の磁気メモリの改善に関する。以下の説明は、当業者が本発明を実現し用いるために提示し、特許出願及びその要求事項の観点で提供する。好適な実施形態に対する種々の変更は、当業者には容易に明らかであり、また、本明細書における全般的な原理は、他の実施形態にも適用し得る。従って、本発明は、例示した実施形態に限定することを意図するものではなく、本明細書に述べる原理及び特徴と合致する最も広い範囲に適合するものである。
【0017】
本発明は、磁気メモリに用い得る磁気素子を提供するための方法及びシステムを提供する。磁気素子は、少なくとも固定層、非磁性スペーサ層、及び自由層を含む。スペーサ層は、固定層と自由層との間に存在する。磁気素子は、書き込み電流が磁気素子を通過する時、スピン転移を用いて自由層が切り替えられるように構成される。幾つかの態様において、磁気素子は、更に、障壁層、第2固定層を含む。他の態様において、磁気素子は、更に、第2スペーサ層と、第2固定層と、自由層に静磁気的に結合された第2自由層と、を含む。そのような態様において、第2スペーサ層は、第2固定層と第2自由層との間に存在し、分離層が、好適には、第1自由層と第2自由層との間に設けられ、それらが静磁気的に結合されることを保証する。1つ又は複数の自由層が、低飽和磁化を有するように構成される。ある態様において、複数の自由層の一つ又は双方は、非磁性材料(1つ又は複数)で希釈された強磁性材料(1つ又は複数)を含むか、フェリ磁性的にドープされた強磁性材料(1つ又は複数)を含むか、又は非磁性材料(1つ又は複数)で希釈され、かつフェリ磁性的にドープされた強磁性材料(1つ又は複数)を含み、低飽和磁化(1つ又は複数)を提供し得る。
【0018】
本発明について、特定の磁気メモリ及び或る構成要素を有する特定の磁気素子の観点で説明する。しかしながら、当業者は、本方法及びシステムは、異なる及び/もしくは追加の構成要素を有する他の磁気メモリ要素並びに/又は本発明と矛盾しない異なる及び/もしくは他の特徴を有する他の磁気メモリに対して有効に作用することを容易に認識し得る。また、本発明について、スピン転移現象に関する現在の理解に関して説明する。従って、本方法及びシステムに関する理論的な説明は、このスピン転移の現在の理解に基づき行われることを当業者は容易に認識し得る。また、本方法及びシステムは、基板との特定の関係を有する構造に関して説明されることを当業者は容易に認識し得る。例えば、図面に示すように、構造の底部は、通常、構造の頂部よりも下層の基板に近い。しかしながら、本方法及びシステムは、基板に対して異なる関係を有する他の構造と整合性があることを当業者は容易に認識し得る。更に、本方法及びシステムは、或る層が合成及び/又は単一であることに関して説明される。しかしながら、これらの層は、他の構造を有し得ることを当業者は容易に認識し得る。例えば、本方法及びシステムは、単一自由層に関して説明されるが、本発明を合成自由層に用いることを妨げない。更に、本発明は、磁気素子が特定の層を有するという観点で説明されている。しかしながら、当業者は、本発明と整合性のある追加の及び/又は異なる層を有する磁気素子も用い得ることを容易に認識し得る。更に、或る構成要素は、強磁性であると説明される。しかしながら、本明細書に用いる用語“強磁性”は、フェリ磁性又は同様な構造を含み得る。従って、本明細書に用いる用語“強磁性”は、これに限定するものではないが、強磁性体及びフェリ磁性体を含む。また、本発明を、単一の要素という観点で説明する。しかしながら、本発明は、多数の要素、ビットライン、及びワードラインを有する磁気メモリの用途と整合性があることを当業者は容易に認識し得る。また、本発明を、より低いスイッチング電流を提供する低飽和磁化自由層を利用するという観点で説明する。本発明に基づく方法及びシステムは、高垂直異方性自由層等のスイッチング電流を低減するための他のメカニズムと組み合わせ得ることを当業者は容易に認識し得る。
【0019】
次に、本発明に基づく方法及びシステムを更に詳細に示すために、図2Aを参照して、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子100の一部の第1実施形態を示す。磁気素子100は、好適には、MRAM等の磁気メモリに用いられる。従って、磁気素子100は、絶縁トランジスタ(図示せず)を含むメモリセル、また更に、他の構成の磁気メモリに用い得る。更に、磁気素子100は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。磁気素子100は、固定層110、スペーサ層120、自由層130を含む。後述するように、自由層130は、低飽和磁化を有するように構成される。また、磁気素子100は、一般的に、固定層110の磁化111をピン止めするために用いられるAFM層(図示せず)と、また更に、シード層(図示せず)と、キャップ層(図示せず)と、を含む。更に、磁気素子100は、スピン転移を用いて自由層130に書き込み得るように構成される。従って、好適な実施形態において、自由層130の幅w等の横方向の寸法は、小さく、好適には、200ナノメートルより小さい。更に、好適には、自由層130が、その自由層130の面内で確実に特定の容易軸を有するように、何らかの差異が横方向の寸法間に与えられる。
【0020】
固定層110は、強磁性である。一実施形態において、固定層110は、合成である。そのような実施形態において、固定層110は、非磁性層によって分離された強磁性層を含み、また、それら強磁性層が反平行に向くように構成される。固定層110は、磁気素子100の巨大比抵抗のスピン依存性を増加させるように構成し得る。例えば、固定層110又はその強磁性層は、繰返される二分子層から成る多層であってよい(図2Aには明示せず)。そのような一実施形態において、固定層110は、(FeCo1−x/Cu)nの多層であってよく、ここで、nは、FeCo1−x/Cu二分子層の繰返し回数である。そのような実施形態において、nは、1より大きく、好適には、二分子層のCu層は、1〜8オングストローム厚である。スペーサ層120は、非磁性である。一実施形態において、スペーサ層120は、導電性であってよく、例えば、Cuを含み得る。他の実施形態において、スペーサ層120は、アルミナ等の絶縁体を含む障壁層である。そのような実施形態において、障壁層120は、電荷キャリアが自由層130と固定層110との間をトンネル通過し得るように、2ナノメートル厚より小さい。自由層130は、強磁性であり、低飽和磁化を有するように構成される。本明細書に用いられる低飽和磁化は、ほぼCoの飽和磁化以下であって、室温で約1430emu/cmである飽和磁化を意味する。
【0021】
図2Bは、磁気素子100と同様な磁気素子100’を示す。従って、同様な構成要素は、同様な符号で表示する。従って、磁気素子100’には、スピン転移を用いて書き込むことができ、また、低飽和磁化を有する自由層130’が含まれる。しかしながら、自由層130’は、合成であり、好適には、Ruである非磁性層134によって分離された2つの強磁性層132及び136を含む。非磁性層134は、自由層130’の磁化133及び137が反平行に向くように構成される。更に、強磁性層132及び136のいずれか又は双方は、低飽和磁化を有する。図2A及び2Bにおいて、理解を容易にするために、以下では、基本的に自由層130を参照して説明する。しかしながら、ここで説明する原理は、強磁性層132及び136を含む自由層130’並びに磁気素子100’にも当てはまる。
【0022】
図2Aに戻ると、低飽和磁化は、好適には、非磁性材料(1つ又は複数)で強磁性材料(1つ又は複数)を希釈することによって、及び/又は、反平行スピン配向を促進する不純物を強磁性材料(1つ又は複数)にドーピングすることによって、提供される。好適な実施形態において、低飽和磁化は、非磁性材料(1つ又は複数)で強磁性材料(1つ又は複数)を希釈すること、又は、反平行スピン配向を促進する不純物を強磁性材料(1つ又は複数)にドーピングすることのいずれかによって提供され、双方にはよらない。
【0023】
スイッチング電流密度を低減する低飽和磁化の機能は、スロンチェウスキ(J.C.Slonczewslki)による“Current−driven Excitation of Magnetic Multilayers”,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,vol.159,p.L1〜L5(1996)に記載された一般的なスピン転移スピントルクモデルを用いて理解し得る。スロンチェウスキのモデルによれば、スピン転移積層の自由層用のスイッチング電流密度Jcは、以下の式に比例する。即ち、
αtM[Heff−2πM]/g(θ)
上式において、
α=現象学的ギルバート(Gilbert)減衰定数
t=自由層の厚さ
=自由層の飽和磁化
eff=自由層の有効磁場
であり、g(θ)は、スピン転移効率を反映する。
【0024】
有効磁場Heffは、外部磁場、形状異方性磁場、面内及び面外(即ち、垂直な)異方性、及び双極及び交換磁場を含む。垂直異方性は、通常、結晶の異方性から生じる。項g(θ)は、固定層110及び自由層130の磁化の相対的な角度方位に依存する。
【0025】
自由層130の磁化131は、面外減磁項2πMが、項Heffに勝る場合、膜面内に位置する(即ち、図2Aにおいて、磁化は、上又は下向きの成分を有さない)。その結果、そのような膜、即ち、Heffよりかなり大きい2πMを有する磁性薄膜の場合、スイッチング電流密度は、Mにほぼ比例する。従って、減衰定数及び分極因子等の他の該当するパラメータを大幅に変更することなく、自由層130の飽和磁化Mを小さくすると、スイッチング電流密度が小さくなる。
【0026】
自由層130の低飽和磁化を得るために、非磁性希釈か、フェリ磁性ドーピングか、又は、非磁性希釈及びフェリ磁性ドーピングの双方が好適に用いられる。非磁性希釈は、強磁性材料と非磁性材料とが、自由層130内において又は自由層130用に用いられる単一の強磁性層において組み合わせられる時に起こる。また、非磁性希釈は、強磁性及び非磁性材料が交互に並ぶ極めて薄い(好適には、1〜8オングストローム厚)相互拡散層を含む多層が特定の強磁性層に用いられる時に起こり得る。従って、低飽和磁化自由層130又は自由層130’が合成である場合、その構成要素の強磁性層132及び136は、強磁性及び非磁性材料を組合せることによって形成し得る。例えば、低飽和自由層130は、材料CoX、FeX、CoFeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY及び/又はCoNiFeXYを用いて設けられる。ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである。好適な実施形態において、希釈元素X及びYは、5〜80原子パーセントの範囲を取り得るPt及びPdを除き、5〜60原子パーセントの範囲である。例えば、CoCr0.157及びCoCr0.205は、それぞれM=750及び450emu/cmを有する。これらは、純粋なCoの飽和磁化の大幅な低減である。j=0.03〜0.20とすると、他の例において、CoB及び/又はCoFeBを用い得る。そのような組合せは、より低い飽和磁化を有するが、ほぼ同じスピン分極を維持する。最後に、磁気素子100又は後述する100’の場合、希釈によって提供される低飽和自由層130は、材料(1つ又は複数)CoX、FeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY及び/又はCoNiFeXY(ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)、及び/又はCoFeX(ここで、Xは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)を含む。また、上記X又はYに用いられるTaN、CuN、又はTaCuNに窒素ドーピングを導入するための1つの共通の方法は、反応性スパッタリングによるものであり、この場合、NガスがArガスに混合される。例えば、0.01−5mT局部圧力のNガスが、1−5mT局部圧力のArガスに混合される。
【0027】
上述したように、低飽和磁化自由層130は、多層を用いることによっても提供し得る。従って、自由層130、又は、自由層130が合成である場合、その構成要素の強磁性層132及び136は、極めて薄い(好適には、1〜8オングストローム厚)相互拡散強磁性及び非磁性層の多層を提供することによって形成し得る。一実施形態において、(FeCo1−x/Cu)nの多層を用い得る。従って、FeCo1−xの層及びCuの層からなる二分子層が、多層の各繰り返しに存在する。そのような実施形態において、二分子層の繰り返しの数は、nであり、nは、1より大きい。更に、xは、Feの原子割合を表す。従って、xは、1より小さく、好適には、0.5である。また、好適な実施形態において、そのような二分子層のCu及びFeCo層は、1〜8オングストローム厚である。結果的に生じる多層は、自由層又はその構成要素の強磁性層を設けるための低飽和磁化材料として用い得る。極めて薄く不連続なCu層のために、FeCoとCuとの間における大幅な相互拡散が、多層(FeCo1−x/Cu)n積層の二分子層において、特に、何らかのアニール後、起こり得る。この相互拡散により、低飽和磁化が生じる。更に、多層(FeCo1−x/Cu)nの場合、巨大比抵抗のスピン依存性が増加する。この巨大比抵抗のスピン依存性の増加によって、自由層130を希釈するための多層手法を用いる際、追加の利点が提供される。
【0028】
また、フェリ磁性ドーピングを用いて、自由層130の低飽和磁化を提供し得る。そのような実施形態において、自由層130又は強磁性層132及び136は、フェリ磁性ドーピングを受けた強磁性材料を用いて設けられる。フェリ磁性ドーピングは、一般的に、強磁性体がスピンの反平行配向を促進する不純物でドープされる場合に起こる。このスピンの配向によって、フェリ磁性体は、飽和磁化が大幅に減少し得る。例えば、Gd及びTbをNi81Fe19にドーピングすると、飽和磁化が急激に減少することが分かっている。この飽和磁化の減少は、Gd及びTbスピンがNi81Fe19磁化に反平行に並ぶという理論と整合性がある。そのようなドーピングの更なる説明については、ウィリアム・ベイリー(William_Bailey)らによる“Control of magnetization dynamics in Ni81Fe19 thin films through the use of rare−earth dopants”,IEEE transactions on Magnetics,Volume 37,Number 4,July 2001,pp.1749−1754を参照されたい。しかしながら、Tbドーピングは、Gdドーピングと異なり、減衰を大幅に増大し得る。現象学的ギルバート減衰定数αの増加は、低飽和磁化によってもたらされるスイッチング電流密度減少の一部又は全てを相殺し得る。その結果、Gdを用いたドーピングは、Tbを用いたドーピングより好ましい。いずれの場合でも、希土類は、5〜60原子パーセントの範囲内とするのがよい。
【0029】
従って、磁気素子100の一実施形態において、自由層130の飽和磁化は、自由層130に用いられる強磁性材料のフェリ磁性ドーピングによって低減し得る。幾つかの実施形態において、フェリ磁性ドーピングは、Xが希土類元素Gd及び/又はTbであるとすると、用いられる材料の組合せがCoX、FeX、CoFeX及び/又はNiFeXであるように行われる。Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、又はRu等の追加のドーパントも、飽和磁化を更に低減するために提供し得る。
【0030】
更に、磁気素子100は、高スピン分極材料の少なくとも1つの薄膜コーティングを含み得る。そのような磁気素子100’’の一実施形態を図3に示す。磁気素子100’’は、磁気素子100と同様である。従って、同様な構成要素は、同様な符号で表示する。更に、磁気素子100’’は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。従って、磁気素子は、低飽和磁化の自由層130’’を含み、スピン転移を用いて書き込まれる。磁気素子100’’は、また、自由層130’’とスペーサ層120’’との間の界面に3〜8オングストローム厚のCoFe等の高スピン分極層140を含み、磁気抵抗効果及びスピントルクを増大する。高スピン分極材料は、隣接する強磁性層よりも高スピン分極を有する。自由層130’’が合成である場合、例えば、図2Bに示す磁気素子100’の場合、各強磁性層132及び136は、高スピン分極層140等の高スピン分極層間に挟まれる。従って、自由層130、130’及び/又は130’’の低飽和磁化及び結果的に生じるスイッチング電流密度の減少は、種々の方法で提供し得る。
【0031】
従って、磁気素子100、100’、及び100’’は、上記の如く定義されたように、低飽和磁化を有する自由層130、130’、及び130’’をそれぞれ含む。その結果、磁気素子100、100’、及び100’’は、より低いスイッチング電流でスピン転移を用いて書き込み得る。従って、低スイッチング電流の効果を達成し得る。
【0032】
図4は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子200の第2実施形態を示す。磁気素子200は、自由層230を共有するスピンバルブ部204及びスピントンネル接合部202を含む。スピンバルブ部204は、好適には、反強磁性の(AFM)層260であるピン止め層260と、固定層250と、Cu等の導電性スペーサ層240と、自由層230とを含む。他の一実施形態において、導電性スペーサ層240は、障壁層によって置き換え得る。スピントンネル接合部202は、好適には、反強磁性(AFM)層206であるピン止め層206と、固定層210と、電子がトンネル通過し得るように構成された絶縁体である障壁層220と、自由層230とを含む。図2A及び4において、層250、240、及び230は、スペーサ層120が導通している場合、磁気素子100における層110、120、及び130と同様である。同様に、層210、220、及び230は、スペーサ層120が絶縁障壁層である場合、層110、120、及び130とそれぞれ同様である。従って、固定層210及び250は、好適には、固定層110に対応し、同様な材料、層、及び/又はプロセスを用いて構成し得る。例えば、固定層210及び/又は固定層250は、nを1より大きい繰り返し数とすると、多層(FeCo1−x/Cu)nを含み得る。更に、Fe原子パーセントxは、好適には、約0.5であり、Cu層は、好適には、1〜8オングストローム厚である。自由層230は、スピン転移を用いて書き込まれるように構成され、また、低飽和磁化を有する。更に、磁気素子200は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子200の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。また、磁気素子200は、好適には、それぞれ固定層210及び250の磁化のピン止めに用いられるAFM層であるピン止め層206及び260を含む。
【0033】
自由層230は、好適には、自由層130、130’及び/又は130’’と同様な方法で構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層230の低飽和磁化を達成し得る。例えば、非磁性材料による希釈を用いるか、フェリ磁性ドーピングを用いるか、又は、被磁性材料による希釈とフェリ磁性ドーピングとの双方とを用いて、自由層330の低飽和磁化を達成し得る。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層230は、合成であってよい。その結果、磁気素子200は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子200は、磁気素子100、100’、100’’及びそれらの組合せの利点を共有し得る。更に、固定層210及び250が反平行に向く場合、スピンバルブ部204及びスピントンネル接合部202の双方が、自由層230の書き込みに寄与し得る。障壁層220を用いることから、磁気素子200は、より高い抵抗及び磁気抵抗効果を有する。その結果、読み出し中、より高い信号を得ることができる。
【0034】
図5Aは、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子300の第2実施形態における好適な態様である。磁気素子300は、図4に示す磁気素子200と同様である。従って、同様な構成要素は、同様な符号で表示する。従って、磁気素子は、自由層230に対応する自由層330を含み、これは、低飽和磁化を有し、スピン転移を用いて書き込まれる。更に、磁気素子300は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。
【0035】
自由層330は、好適には、自由層130、130’、130’’及び/又は自由層230と同様な方法で構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層330の低飽和磁化を達成し得る。例えば、非磁性材料による希釈か、フェリ磁性ドーピングか、又は、それらの双方を用いて、自由層330の低飽和磁化を達成し得る。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層330は、合成であってよい。自由層330の低飽和磁化のために、磁気素子300は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子300は、磁気素子100、100’、100’’、200及びそれらの組合せの利点を共有し得る。障壁層340を用いることから、磁気素子300は、より高い抵抗及び磁気抵抗効果を有する。その結果、読み出し中、より大きい信号を得ることができる。他の一実施形態において、障壁層320は、導電層によって置き換え得る。しかしながら、そのような実施形態では、読み出し信号は、所定の読み出し電流に対して小さくなる。
【0036】
磁気素子300において、固定層310は、合成である。従って、固定層310は、好適にはRuである非磁性層314によって分離された強磁性層312及び316を含む。非磁性層は、強磁性層312及び316が反強磁性的に並ぶように構成される。更に、磁気素子300は、強磁性層316及び固定層350が反平行であるように構成される。その結果、スピンバルブ部304及びスピントンネル接合部310は、双方共、磁気素子300に書き込むために用いられるスピン転移に寄与し得る。従って、更に小さいスイッチング電流を用いて、磁気素子300に書き込み得る。更に、AFM層306及び360は、隣接する層312及び350の磁化が平行に向いていることから、同じ方向に向き得る。従って、AFM層306及び360は、同一ステップで配置し得る。従って、処理が更に簡略化される。
【0037】
自由層230及び330、並びに磁気素子200及び300は、上述したものと同様な方法で構成し得る。例えば、図5Bは、少なくとも低飽和磁化によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第2実施形態300’における他の態様を示す。磁気素子300’は、磁気素子300と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層330’は、低飽和磁化を有する。更に、図3に示す磁気素子100’’と同様な方法によって、磁気素子300’は、高スピン分極層370及び372を含み、これらは、好適には、3〜8オングストローム厚のCoFeを含む。この場合、層370、層372又はその両方に適用することが可能である。自由層330’が合成である場合、構成要素の強磁性層(図示せず)は、好適には、低飽和磁化を有する。そのような実施形態において、各強磁性層は、好適には、高スピン分極材料間に挟み込まれる。従って、図3Aを基にして上述したものと同様な効果が達成される。
【0038】
図6は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子400の一部の第3実施形態を示す。磁気素子は、各々磁気素子100、100’又は100’’と同様な2つの構造402及び404を含む。従って、構造402は、例えば、磁気素子100の層110、120、及び130とそれぞれ同様な固定層410、スペーサ層420、及び自由層430を含む。また、構造402は、好適には、AFM層であるピン止め層406を含む。同様に、構造404は、例えば、磁気素子100の層110、120、及び130とそれぞれ同様な固定層470、スペーサ層460、及び自由層450を含む。また、構造404は、好適には、AFM層であるピン止め層480を含む。自由層430及び450の一方又は双方が、低飽和磁化を有する。自由層430及び/又は450も合成であってよい。そのような場合には、自由層430及び/又は450内の強磁性層(明示せず)は、低飽和磁化を有する。更に、磁気素子400の自由層430及び450は、好適には、層430及び450が反強磁性的に並ぶように静磁気的に結合される。本実施形態において、磁気素子400は、分離層440を含む。分離層440は、自由層430及び450が静磁気的に結合されることのみを保証するように構成される。例えば、好適には非磁性導体である分離層440の厚さは、好適には、静磁気的相互作用により自由層430及び450が反強磁性的に並ぶことを保証するように構成される。特に、分離層440は、それを通過するスピンの分極をランダム化する役割を果たす。例えば、分離層440は、Cu、Ag、Au、Pt、Mn、CuPt、CuMn、Cu/Pt/Cuサンドイッチ構造、Cu/Mn/Cuサンドイッチ構造、又はCu/PtMn/Cuサンドイッチ構造等の材料を含む。分離層は磁気素子400に用いられるが、他のメカニズムに用いられることを妨げない。例えば、一実施形態において、構造402は、第2固定層(図示せず)、第2スペーサ層(図示せず)、及びピン止め層(図示せず)を含む二重構造であってよい。第2固定層及びスペーサ層、更に、ピン止め層の厚さは、自由層430及び450が静磁気的に結合されることを保証するように構成し得る。
【0039】
自由層430及び/又は自由層450は、上記の如く定義されたように、低飽和磁化を有するように構成される。従って、自由層430及び/又は450は、自由層130、130’又は130’’に対応し得る。言い換えると、自由層430及び/又は自由層450に用いられる材料及び/又は特性は、磁気素子100、100’又は100’’を基にして上述したものと同じ又は同様である。従って、磁気素子400は、磁気素子100、100’及び100’’の多くの利点を共有する。特に、磁気素子は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。
【0040】
自由層430と450との間の静磁気的な結合は、更なる利点を提供する。自由層450及び430が静磁気的に結合されることから、自由層450の磁化の変化が、自由層430に反映される。スペーサ層420を障壁層で置き換えて、大きい信号を供給することができる。更に、別個の自由層450及び430を有することから、スピンバルブ404及びスピントンネル接合402の特性をそれぞれ別個に調整して、スピンバルブ及びスピントンネル接合のそれらの機能をそれぞれ改善し得る。
【0041】
図7Aは、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子500の第3実施形態における好適な態様である。磁気素子500は、図6に示す磁気素子400と同様である。従って、同様な構成要素は、同様な符号で表示する。従って、磁気素子は、それぞれ自由層430及び450に対応する自由層530及び550を含み、これらのいずれか又は両方が、低飽和磁化を有し、双方共、スピン転移を用いて書き込まれる。自由層530及び/又は550も合成であってよい。そのような場合、自由層530及び/又は550内における強磁性層(明示せず)は、低飽和磁化を有する。更に、磁気素子500は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子500の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。
【0042】
固定層510及び570は、合成である。従って、固定層510は、好適にはRuである非磁性層514によって分離された強磁性層512及び516を含む。強磁性層512及び516の磁化も反平行に向く。同様に、固定層570は、好適にはRuである非磁性層574によって分離された強磁性層572及び576を含む。強磁性層572及び576の磁化も反平行に向く。更に、スペーサ層520は、好適には、絶縁でありながら強磁性層516と自由層530との間を電子が通過し得る障壁層である。スペーサ層560は、好適には、導電層である。従って、構造502は、スピントンネル接合であり、構造504は、スピンバルブである。
【0043】
自由層530及び/又は550は、好適には、自由層130、130’、130’’、又は自由層430及び450と同様な方法でそれぞれ構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層530及び/又は550の低飽和磁化を達成し得る。例えば、非磁性材料による希釈か、フェリ磁性ドーピングか、又はそれらの双方を用いて、自由層530及び/又は550用の低飽和磁化を達成し得る。従って、自由層130、130’、及び130’’を基にして上述した材料が好ましい。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層530及び/又は550は、合成であってよい。低飽和磁化のために、磁気素子500は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子500は、磁気素子100、100’、100’’及びそれらの組合せの利点を共有し得る。
【0044】
更に、自由層530及び550が静磁気的に結合されることから、例えば、スピン転移で誘起された書き込みによる自由層550の磁化方向の変化が、自由層530の磁化に反映される。障壁層520により、スピントンネル接合502は、大きい信号を供給する。他の一実施形態において、障壁層320は、導電層によって置き換え得る。しかしながら、そのような実施形態では、読み出し信号は、所定の読み出し電流に対して小さくなる。
【0045】
更に、図7Aから理解し得るように、固定層510及び570は、合成である。従って、固定層510は、好適にはRuである非磁性層514によって分離された強磁性層512及び516を含む。非磁性層514は、強磁性層512及び516が反強磁性的に向くように構成される。同様に、固定層510は、好適にはRuである非磁性層574によって分離された強磁性層572及び576を含む。非磁性層574は、強磁性層572及び576が反強磁性的に向くように構成される。更に、磁気素子500は、強磁性層512及び強磁性層576の磁化が平行であるように構成される。強磁性層512及び576の磁化が平行に向いていることから、AFM層506及び580は、同じ方向に向けることができる。従って、AFM層506及び580は、同一ステップで配置し得る。従って、処理が更に簡略化される。
【0046】
上述したように、自由層530及び550並びに磁気素子500は、上述したものと同様な方法で構成し得る。例えば、図7Bは、少なくとも低飽和磁化自由層(1つ又は複数)によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子500’の第3実施形態における他の態様である。磁気素子500’は、磁気素子500と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層530’及び/又は550’は、低飽和磁化を有する。更に、図3に示す磁気素子100’’と同様な方法によって、磁気素子500’は、好適には3〜8オングストローム厚のCoFeを含む高スピン分極層581、582、583、及び584を含む。層(1つ又は複数)581及び583、又は層581、582、583及び584、又はそれら双方共、用いることが可能である。自由層530’及び/又は550’が合成である場合、各構成要素の強磁性層(図示せず)は、好適には、低飽和磁化を有する。そのような実施形態において、各強磁性層は、好適には、高スピン分極材料間に挟み込まれる。従って、図3を基にして上述したものと同様な利点が達成される。更に、強磁性層576’及び512’は、平行である。従って、AFM層506’及び580’は、同一ステップで配置し得る。これによって、処理が簡略化される。
【0047】
従って、磁気素子100、100’、100’’、200、300、300’、400、500及び500’は、少なくとも1つの自由層における低飽和磁化によるより低いスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。更に、磁気素子100、100’、100’’、200、300、300’、400、500、及び500’の態様を組み合わせて更なる利点を提供し得る。
【0048】
図8は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一実施形態を提供するための本発明に基づく方法600の一実施形態のフローチャートを示す。なお、方法600は、磁気素子100に関して示している。しかしながら、方法600が、磁気素子100’、100’’、200、300、300’、400、500又は500’を提供するように構成することを妨げるものではない。ステップ602により、固定層110等の固定層が設けられる。一実施形態において、ステップ602は、合成固定層を設けることを含む。スペーサ層120は、ステップ604により設けられる。ステップ604は、障壁層又は導電層を設けることを含み得る。低飽和磁化を有する自由層130は、ステップ606により設けられる。他の実施形態においては、高スピン分極層は、ステップ606の前及び/又は後に設けられる。ステップ606は、合成自由層を設けることを含み得る。そのような実施形態において、ステップ606は、更に、自由層の強磁性層に隣接して、高スピン分極層を設けることを含み得る。磁気素子200、300、300’、400、500及び/又は500’が提供される場合は、追加の固定層、スペーサ層及び(実施形態によっては)自由層が、ステップ608で設けられる。そのような実施形態では、自由層は、低飽和磁化を有し得る。従って、磁気素子100’、100’’、200、300、300’、400、500及び/又は500’を提供し得る。
【0049】
より低いスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る磁気素子を提供するための方法及びシステムについて開示した。本発明について、例示した実施形態に基づき説明したが、当業者は、実施形態に対する変形が存在し得ること、また、これらの変形は、本発明の思想及び範囲内にあることを容易に認識し得る。従って、多くの変更が、添付された特許請求の範囲の思想及び範囲から逸脱することなく、当業者によって行い得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気素子であって、
固定層と、
非磁性であるスペーサ層と、
自由層磁化を有する自由層であって、前記スペーサ層が前記固定層と前記自由層との間に存在し、被ドープ強磁性材料を含む前記自由層と、
を備え、前記被ドープ強磁性材料は、前記自由層が室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料か、フェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料か、又は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈され且つフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含み、
前記少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料は、少なくともCoX、FeX、CoFeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY、及び/又はCoNiFeXY(ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)、及び/又はCoFeX(ここで、Xは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及びTaCuNである)を含み、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されている、磁気素子。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気素子において、
X及びYは、5〜80原子パーセントの範囲にあるPt及びPdを除き、少なくとも5原子パーセントであり且つ60原子パーセント以下である、磁気素子。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気素子において、
前記自由層は、CoX、FeX、CoFeX、NiFeX及び/又はCoNiFeXを含み、Xは、5〜60原子パーセントの範囲で少なくとも1つの希土類元素を含む、磁気素子。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気素子において、
前記少なくとも1つの希土類元素は、5〜60原子パーセントのGd又はTbである、磁気素子。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気素子において、
前記自由層は更に、少なくとも1つの追加のドーパントを含み、前記少なくとも1つの追加のドーパントは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh及び/又はRuを含む、磁気素子。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気素子は更に、
前記自由層と前記スペーサ層との間に存在する高スピン分極層を備える、磁気素子。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気素子において、
前記固定層は、複数の二分子層を含み、前記複数の二分子層の各々は、xを1未満とすると、FeCo1−x層及びCu層を含む、磁気素子。
【請求項8】
磁気素子であって、
第1固定層と、
導電性及び非磁性であるスペーサ層と、
自由層磁化を有する自由層であって、前記スペーサ層が前記第1固定層と前記自由層との間に存在し、低飽和磁化自由層である前記自由層であって、室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含む前記自由層と、
絶縁体である障壁層であって、トンネル通過可能な厚さを有する前記障壁層と、
第2固定層であって、前記障壁層が前記自由層と前記第2固定層との間に存在する前記第2固定層と、を備え、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されている、磁気素子。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記自由層は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料を含む、磁気素子。
【請求項10】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記自由層は、CoX、FeX、CoFeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY及び/又はCoNiFeXYを含み、ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及び/又はTaCuNである、磁気素子。
【請求項11】
請求項10に記載の磁気素子において、
X及びYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及び/又はTaCuNの場合には少なくとも5原子パーセントであり且つ60原子パーセント以下であり、Pt及びPdの場合には少なくとも5原子パーセントであり且つ80原子パーセント以下である、磁気素子。
【請求項12】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記自由層は、少なくとも1つの強磁性層及び少なくとも1つの非磁性層を含む多層を含む、磁気素子。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気素子において、
前記自由層は、複数の二分子層を含み、前記複数の二分子層の各々は、xを1未満とすると、FeCo1−x層及びCu層を含む、磁気素子。
【請求項14】
請求項13に記載の磁気素子において、
xが0.5である、磁気素子。
【請求項15】
請求項13に記載の磁気素子において、
前記Cu層又はFeCo層は、その厚さが、1オングストローム以上であり且つ8オングストローム以下である、磁気素子。
【請求項16】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記自由層は、少なくとも1つのドーパントでフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含む、磁気素子。
【請求項17】
請求項16に記載の磁気素子において、
前記自由層は、CoX、FeX、CoFeX、NiFeX及び/又はCoNiFeXを含み、ここで、Xは、少なくとも1つの希土類元素を含む、磁気素子。
【請求項18】
請求項17に記載の磁気素子において、
前記少なくとも1つの希土類元素は、Gd又はTbである、磁気素子。
【請求項19】
請求項18に記載の磁気素子において、
前記自由層は更に、少なくとも1つの追加のドーパントを含み、前記少なくとも1つの追加のドーパントは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh及び/又はRuを含む、磁気素子。
【請求項20】
請求項8に記載の磁気素子は更に、
前記自由層と前記スペーサ層との間に存在する高スピン分極層を備える、磁気素子。
【請求項21】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記固定層は、複数の二分子層を含み、前記複数の二分子層の各々は、xを1未満とすると、FeCo1−x層及びCu層を含む、磁気素子。
【請求項22】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記自由層は単一の自由層である、磁気素子。
【請求項23】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記第1固定層は、前記スペーサ層に隣接する強磁性層を含む第1合成固定層であり、前記強磁性層は、第1磁化を有し、前記第2固定層は、第2磁化を有し、前記第1磁化及び前記第2磁化は、逆方向に向いている、磁気素子。
【請求項24】
請求項23に記載の磁気素子において、
前記第2固定層は、第2合成固定層である、磁気素子。
【請求項25】
請求項24に記載の磁気素子において、
前記第2合成固定層は、前記障壁層に隣接する第2強磁性層を含み、前記第2強磁性層は、第2磁化を有し、前記第1磁化及び前記第2磁化は、逆方向に向いている、磁気素子。
【請求項26】
請求項8に記載の磁気素子において、
前記第1固定層及び前記第2固定層は、前記第1固定層及び前記第2固定層の双方からの電荷キャリアが、スピン転移による前記自由層磁化のスイッチングに寄与し得るように構成されている、磁気素子。
【請求項27】
磁気素子であって、
第1固定層と、
非磁性である第1スペーサ層と、
第1自由層であって、前記第1スペーサ層が前記第1固定層と前記第1自由層との間に存在する、前記第1自由層と、
第2自由層磁化を有する第2自由層であって、前記第1自由層及び前記第2自由層が静磁気的に結合されている、前記第2自由層と、
非磁性である第2スペーサ層と、
第2固定層であって、前記第2スペーサ層が前記第2自由層と前記第2固定層との間に存在する、前記第2固定層と、を備え、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されており、
前記第1自由層は第1低飽和磁化を有するように構成されており、及び/又は前記第2自由層は第2低飽和磁化を有するように構成されており、
前記第1自由層が室温で1430emu/cm以下の前記第1低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含み、及び/又は前記第2自由層が室温で1430emu/cm以下の前記第2低飽和磁化を有するように被ドープ強磁性材料を含む、磁気素子。
【請求項28】
請求項27に記載の磁気素子は更に、
前記第1自由層と前記第2自由層との間に存在し、前記第1自由層及び前記第2自由層を静磁気的に結合させるように構成されている分離層を備える、磁気素子。
【請求項29】
請求項28に記載の磁気素子において、
前記分離層は更に、Cu、Ag、Au、Pt、Mn、CuPt、CuMn、Cu/Pt/Cuサンドイッチ構造、Cu/Mn/Cuサンドイッチ構造、又はCu/PtMn[1−20A]/Cuサンドイッチ構造を含む、磁気素子。
【請求項30】
請求項27に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料を含む、磁気素子。
【請求項31】
請求項30に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、CoX、FeX、CoFeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY及び/又はCoNiFeXYを含み、ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及び/又はTaCuNである、磁気素子。
【請求項32】
請求項31に記載の磁気素子において、
X及びYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及び/又はTaCuNの場合には少なくとも5原子パーセントであり且つ60原子パーセント以下であり、Pt及びPdの場合には少なくとも5原子パーセントであり且つ80パーセント以下である、磁気素子。
【請求項33】
請求項27に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、少なくとも1つの強磁性層及び少なくとも1つの非磁性層を含む多層を含む、磁気素子。
【請求項34】
請求項33に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、複数の二分子層を含み、前記複数の二分子層の各々は、xを1未満とすると、FeCo1−x層及びCu層を含む、磁気素子。
【請求項35】
請求項34に記載の磁気素子において、
xが0.5である、磁気素子。
【請求項36】
請求項35に記載の磁気素子において、
前記Cu層又はFeCo層は、その厚さが、1オングストローム以上であり且つ8オングストローム以下である、磁気素子。
【請求項37】
請求項27に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、少なくとも1つのドーパントでフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含む、磁気素子。
【請求項38】
請求項37に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は、CoX、FeX、CoFeX、NiFeX及び/又はNiCoFeXを含み、ここで、Xは、5〜60原子パーセントの範囲で、少なくとも1つの希土類元素を含む、磁気素子。
【請求項39】
請求項38に記載の磁気素子において、
前記少なくとも1つの希土類元素は、5〜60原子パーセントのGd又はTbである、磁気素子。
【請求項40】
請求項38に記載の磁気素子において、
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層は更に、少なくとも1つの追加のドーパントを含み、前記少なくとも1つの追加のドーパントは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh又はRuを含む、磁気素子。
【請求項41】
請求項38に記載の磁気素子において、
前記第2スペーサ層は、障壁層であり、前記障壁層は、電荷キャリアが前記第2固定層と前記第2自由層との間をトンネル通過可能に構成されている、磁気素子。
【請求項42】
請求項38に記載の磁気素子は更に、
前記第1自由層と前記第1スペーサ層との間及び/又は前記第2スペーサ層と前記第2自由層との間に存在する高スピン分極層を備える、磁気素子。
【請求項43】
請求項27に記載の磁気素子において、
前記第1固定層及び/又は前記第2固定層は、複数の二分子層を含み、前記複数の二分子層の各々は、xを1未満とすると、FeCo1−x層及びCu層を含む、磁気素子。
【請求項44】
磁気素子を提供するための方法であって、
固定層を設けること、
非磁性であるスペーサ層を設けること、
自由層磁化を有する自由層を設けることであって、前記スペーサ層が前記固定層と前記自由層との間に存在し、前記自由層が被ドープ強磁性材料を含み、前記被ドープ強磁性材料は、前記自由層が室温で1430emu/cm以下の低飽和磁化を有するように、少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料か、フェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料か、又は、少なくとも1つの非磁性材料で希釈され且つフェリ磁性的にドープされた少なくとも1つの強磁性材料を含む、前記自由層を設けること、を備え、
前記少なくとも1つの非磁性材料で希釈された少なくとも1つの強磁性材料は、少なくともCoX、FeX、NiFeX、CoXY、FeXY、CoFeXY、NiFeXY、及び/又はCoNiFeXY(ここで、X又はYは、Cr、Cu、Au、B、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN、TaCuNである)、及び/又はCoFeX(ここで、Xは、Cr、Cu、Au、Nb、Mo、Pt、Pd、Ta、Rh、Ru、Ag、TaN、CuN及びTaCuNである)を含み、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成されている、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−104848(P2012−104848A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286885(P2011−286885)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2006−554272(P2006−554272)の分割
【原出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(505045621)グランディス インコーポレイテッド (37)
【氏名又は名称原語表記】GRANDIS,INC.
【Fターム(参考)】