説明

作業車両の速度制御方法

【課題】作業車両の特に中〜高速度での走行中のエンジンの燃費及び騒音を低減しつつも、通常の乗用車と同じように変速操作具の増速操作に比例的に車速が増加するようにして運転感覚の良好な作業車両を提供できるようにする。
【解決手段】変速操作具の操作量を0から増加させる過程での車速増加を第一エンジン回転数増加率と第一速度比(変速機構の出/入力回転速度比)増加率にて現出し、エンジン回転数が定格値に到達した操作量から更に該変速操作具の操作量を増加する過程においては、該エンジン回転数を定格値に保持し、それに応じて、該速度比増加率を、該第一速度比増加率よりも大きい第二速度比増加率とし、車速は常に該変速操作具の増速操作に略比例的に増加するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式無断変速装置(HST)を用いた変速機構(油圧・機械式変速装置(HMT)を含む)の出/入力回転速度比(以下、単に「速度比」)と、エンジン回転数とを電子ガバナ制御することで速度制御を行う方法であって、農業用トラクタ等の作業車両に適用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HSTを用いた変速機構(HMTを含む)の速度比と、エンジン回転数とを制御して車速制御を行う電子ガバナを備えており、さらに、運転手が車速を設定する手段として、ペダルやレバー等のアクセル操作具を備え、このアクセル操作具の操作量に応じてエンジン回転数や前記変速機構の速度比を変化させる構造とした農業用トラクタ等の作業車両が公知であり、例えば、特許文献1にて開示されている。
【特許文献1】国際公開第03/036138号パンフレット
【0003】
この特許文献1においては、エンジン負荷の高い場合や、トラクタの枕地旋回時等で、エンジン回転数を低減させた時に車速を補うために、変速機構の速度比制御、すなわち、HSTの油圧ポンプまたはモータの可動斜板の角度制御を行う制御様態が開示されている。
【0004】
なお、このような作業車両(例えば農業用トラクタ)においては、大凡、低速域を作業速度域、中〜高速域を作業場(圃場)と格納庫との間の移動速度域としている。
【0005】
前述のような作業車両において、車速は前述のアクセル操作具の操作量に対し比例的に変化するのが運転手によって操作上好ましい。特に、前述のような副変速機構が設けられている場合、高速段で作業車両を移動する時に、通常の乗用車を運転するような感覚と同様にこのようなアクセル操作と車速との関係が望まれる。通常考えられることは、該操作量の増大に伴って、エンジンスロットル弁の開度を増大してエンジン回転数を比例的に増大し、それとともに前記変速機構の速度比を比例的に増大(すなわち減速比を比例的に減少)させることである。
【0006】
しかし、このようなガバナ制御は、エンジン回転数の変化が大きく、特にアクセル操作具を高速設定域に設定した時に、エンジン回転数は、エンジン負荷の上で好ましい定格回転数を超えてしまう虞がある。前述の特許文献1における従来のガバナ制御では、アクセル操作具の操作に対し、前述のように乗用車に近い感じで車速の変化を現出するためにエンジン回転数及び変速機構の速度比をどのように制御するかということについては開示されていない。
【0007】
なお、エンジン負荷抑制のため、エンジン回転数の変化を低減して、その分、変速機構の速度比変化を大きくして、このような車速変化を確保することが考えられるが、急速な車速変化を要するためにアクセル操作具を急に操作した場合に、変速機構の速度比変化の反応は鈍いので、思うように迅速に車速が変化しないという不具合が発生することを考慮しなければならない。また、高いエンジン負荷がかかった場合の対応も考慮する必要がある。
【0008】
また、前述の副変速機構の低速段設定時であっても、アクセル操作量に対してのエンジン回転数と変速機構の速度比との制御態様を均一に設定していると、適用する車両の重量の違いや、あるいは車両が坂道上に停車していること等が原因して、エンジン始動時にエンジン馬力が強過ぎたり不足したりするという事態を引き起こす虞がある。前述の特許文献1における従来のガバナ制御では、エンジン負荷への対応等のためにエンジン回転数を低減し、変速機構の速度比制御でこれを補償して車速を確保するような制御は開示されているものの、このような事態を想定してのガバナ制御については開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、一般の乗用車と同じような感覚で変速操作具の増速操作に応じて車速が増速しながらも、燃費効率の向上、エンジン騒音の低減、エンジン負荷へと対応等の様々な要請に応えることのできる作業車両の速度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決すべく、本発明における作業車両の速度制御方法は、請求項1記載の如く、変速操作具の操作量の増加に応じて、エンジン回転数、及び/または、無段変速機構の出/入力回転速度比たる速度比を増加させることにより、車速を増加させる作業車両において、エンジン回転数増加率の変化と、速度比増加率の変化とを互いに補償し合う関係にすることにより、該変速操作具の操作全域にわたって車速が該操作量の増加に対し略比例的に増加するようにしたものである。
【0011】
請求項1記載の本発明において、好ましくは、請求項2記載の如く、前記変速操作具の操作量を0から増加させる過程での車速増加を、第一エンジン回転数増加率と第一速度比増加率にて現出し、エンジン回転数が定格値に到達した操作量から更に該変速操作具の操作量を増加する過程においては、該エンジン回転数を、該第一エンジン回転数増加率よりも小さい第二エンジン回転数増加率で増加するか、あるいは該定格値に保持し、それに応じて、該速度比増加率を、該第一速度比増加率よりも大きい第二速度比増加率とする。
【0012】
請求項2記載の発明において、好ましくは、請求項3記載の如く、前記第二速度比増加率で増加した速度比がその制限値に達して、更に前記変速操作具の操作量を増加させる場合は、エンジン回転数を第三エンジン回転数増加率にて増大させて、該操作量の最大値にて車速を最大値に到達させる。
【0013】
また、請求項2または3記載の発明において、好ましくは、請求項4記載の如く、ある条件により、前記第一エンジン回転数増加率を増減し、それに応じて前記第一速度比増加率を増減する。このある条件は、好ましくは請求項5記載の如く、前記変速操作具の操作速度とし、該操作速度が高い場合に前記第一エンジン回転数増加率を大きくし、それに応じて前記第一速度比増加率を小さくするものとし、更に好ましくは、請求項6記載の如く、操作速度が高い場合の前記変速操作具により車速が所望値に達すると、前記第一エンジン回転数増加率及び前記第一速度比増加率を元の値に戻す。或いは、前記のある条件は、請求項7記載の如く、好ましくは積載重量または車両重量とし、該積載重量または該車両重量が大きい場合に前記第一エンジン回転数増加率を大きくし、それに応じて前記第一速度比増加率を小さくする。或いは前記のある条件は、請求項8記載の如く、好ましくはオーバーランの有無とし、オーバーランが検出されている場合に前記第一エンジン回転数増加率を小さくし、それに応じて前記第一速度比増加率を大きくする。
【0014】
また、請求項1〜8いずれかに記載の発明において、好ましくは、請求項9記載の如く、エンジンまたは走行伝動系の過負荷を検出した場合にはエンジン回転数を最大トルク値まで緊急に増加し、それに応じて速度比増加率を低減する。
【0015】
また、請求項1記載の発明において、好ましくは、請求項10記載の如く、該変速操作具の操作量を0から最大値まで増加させる過程において、エンジン回転数は増加率を小さく抑えた状態から該操作量を増加させるにつれ徐々に大きくし、速度比は増加率を大きな状態から該操作量を増加させるにつれ徐々に小さくする。
【0016】
また、請求項1記載の発明において、好ましくは、請求項11記載の如く、該変速操作具の操作量の0から小さい値までの操作初期範囲において、所定エンジン回転数増加率及び所定速度比増加率での第一制御と、該所定エンジン回転数増加率より大きいエンジン回転数増加率及び該所定速度比増加率より小さい速度比増加率での第二制御とを、ある条件に応じて択一する。この条件を、好ましくは、請求項12記載の如く、該変速操作具の操作速度とし、該操作速度が一定以上の時に前記第二制御を、該操作速度が一定未満の時に前記第一制御を選択する。或いは、該条件を、好ましくは、請求項13記載の如く、積載重量または車両重量とし、該積載重量または該車両重量が一定以上の時に前記第二制御を、前記操作速度が一定未満の時に前記第一制御を選択する。或いは、該条件を、好ましくは、請求項14記載の如く、オーバーランの有無とし、オーバーランが検出されている時に前記第一制御を、検出されていない時に第二制御を選択する。
【0017】
また、請求項1〜14のいずれかに記載の発明において、好ましくは、請求項15記載の如く、該無段変速機構を、油圧式無段変速装置とする。或いは、好ましくは、請求項16記載の如く、該無段変速機構を、油圧式無段変速装置と機械式変速装置の組み合わせとする。また、請求項1〜16いずれかに記載の発明において、好ましくは、請求項17記載の如く、該変速操作具をペダルとし、前記操作量をその踏込角度とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の作業車両の速度制御方法は、請求項1記載の如く構成することにより、様々な要望に応じて変速操作具の増速操作に対するエンジン回転数の増加率(或いは速度比増加率)を変化させながらも、それを補うべく速度比増加率(或いはエンジン回転数増加率)を変化させることで、乗用車と同様の感覚で変速操作具の増速操作に対し略比例的な車速の増加を得ることができ、特に作業車両の格納庫と作業場との間の移動時等において運転しやすい作業車両の提供に資することができる。
【0019】
また、請求項2記載の如く構成することで、特には作業車両の前述のような移動時の速度に合わせて前記の(第一エンジン回転数増加率より低くした)第二エンジン回転数増加率域(或いはエンジン回転数の定格値保持域)及び第二速度比増加率域を設定することで、移動時におけるエンジン回転数を低く抑え、燃費及びエンジン騒音を抑制することができる。
【0020】
また、請求項3記載の如く構成することで、速度比が制限値に達した後も、エンジン回転数増加率を第三エンジン回転数増加率にて増大させて、該操作量の最大値にて車速を最大値に到達させることができる。
【0021】
また、請求項4記載の如く構成することで、第一エンジン回転数増加率・第一速度比増加率域にあたる低速走行時或いは加速初期におけるエンジン及び無段変速機構を条件に見合った状態で運転することができる。そして、請求項5記載の如く構成することで、急加速を望むべく早く変速操作具を操作した場合は、第一エンジン回転数増加率が大きくなって、無段変速機構による速度比増加よりも反応性のよいエンジン回転数増加で早く所望の車速を得ることができる。また、それに応じて前記第一速度比増加率を小さくすることで、変速操作具の増速操作に対する車速の増加そのものは変速操作具の操作をゆっくりした場合と略同じにすることができる。更に、請求項6記載の如く構成することで、操作速度が高い場合の前記変速操作具により車速が所望値に達すると、前記第一エンジン回転数増加率及び前記第一速度比増加率を元の値に戻すので、もとの燃費効率やエンジン騒音低減等を考慮したエンジン及び無段変速機構の運転に戻すことができる。或いは、請求項7記載の如く、積載重量または車両重量が大きい場合に前記第一エンジン回転数増加率を大きくし、重量によるエンジン負荷を低速走行時及び加速初期において高いエンジン回転数にて吸収することができ、エンストを防止する。或いは、請求項8記載の如く、オーバーランが検出されている場合に前記第一エンジン回転数増加率を小さくし、それに応じて前記第一速度比増加率を大きくする。変速操作に対する速度比の反応はエンジン回転数の反応よりも鈍いので、これによりオーバーランによる過度の車速の上昇を抑制することができる。そして、請求項7、8いずれの場合においても、第一エンジン回転数増加率の増減と第一速度比増加率の増減を補い合わせることで、変速操作具の増速操作に対する車速の増加率は条件の有無にかかわらず保持することができる。
【0022】
また、請求項9記載の如く、エンジンまたは走行伝動系の過負荷を検出した場合にはエンジン回転数を最大トルク値まで緊急に増加することで、該過負荷を脱することができ、エンストを回避できる。また、それに応じて速度比増加率を低減することで、車速が急激に上昇してしまうことを回避できる。
【0023】
また、請求項10記載の如く構成することにより、低速走行時または加速初期においてエンジン回転数が低く抑えられ、低燃費・低騒音等を実現することができ、また、請求項2記載の場合には、第一エンジン回転数増加率域から第二エンジン回転数増加率域(エンジン回転数定格値保持域)への変換点と、第一速度比増加率から第二速度比増加率への変換点とを合致させなければ、車速が急激に変化してしまうので、エンジン回転数制御と速度比制御とのかなり厳密なリンクが要求されるが、請求項10記載の場合には、このように大きくエンジン回転数増加率・速度比増加率が変化するポイントがなくなり、該リンクの厳密性もさほど要求されなくなり、エンジン回転数・速度比の制御系統の調整がしやすくなる。
【0024】
また、請求項11記載の如く構成することにより、エンジン回転数を低めにして燃費・騒音の抑制が得られる第一制御と、エンジン回転数を高めにして良好な加速性や耐負荷性を得られる第二制御とのいずれかを条件に合わせて任意に選択して、エンジン・無段変速機構の良好な運転にて低速走行或いは加速初期状態を得ることができる。そして、請求項12、13、14の如く、変速操作具の操作速度、積載重量または車両重量、オーバーランの有無を条件として該第一・第二制御を択一することで、前述の、請求項5、7、8記載の発明の効果で述べたのと同様の効果を得ることができる。
【0025】
そして、前記無段変速機構は、好ましくは請求項15記載の如く、油圧式無段変速装置(HST)、或いは請求項16記載の如く、油圧式無段変速装置と機械式変速装置の組み合わせ(HMT)とすることで、それぞれの利点を生かした無段変速特性が得られる。また、好ましくは、請求項17記載の如く、該変速操作具をペダルとし、前記操作量をその踏込角度とすることで、一つのペダル操作でエンジン回転数・無段変速機構の速度比の制御を同時に行うことができ、操作性に優れる。
【0026】
以上の、あるいは他の目的、特徴、効果は、添付の図面をもととする以下の詳細な説明により、一層明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明を適用する作業車両は、例えば、図1〜図3にてそれぞれ示される如き様態のものである。図1に示す作業車両は、無段変速機構をHSTとし、これをギア式の副変速機構と組み合わせており、図2・図3は、無段変速機構を、HSTと遊星ギア機構との組み合わせによるHMTとし、これをギア式の副変速機構と組み合わせている。また、図2はエンジン出力軸とHST入力軸(ポンプ軸)との回転力を遊星ギアで合成する構造のHMT(以下、「入力出力合成型HMT」)であり、図3はエンジン出力軸とHST入力軸(ポンプ軸)との回転力を遊星ギアで合成する構造のHMT(以下、「入力合成型HMT」)である。
【0028】
まず、図1〜図3の各車両駆動構造について説明する。共通の構造として、エンジン5の出力軸端にフライホイル5dが固設され、該エンジン5に付設されたフライホイルハウジング5c内に収容されている。左右の後輪18・18間に後車軸ケース14が配設され、該フライホイルハウジング5cと後車軸ケース14との間に、図1のミッションケースT1、図2のミッションケースT2、または図3のミッションケースT3が介設されている。また、ミッションケースT1・T2・T3には、それぞれ、HSTハウジング6が付設されており、該HSTハウジング6内に、いずれも可変容積型の油圧ポンプ7と油圧モータ8とが配設され、互いに流体接続されてHSTを構成している。また、前輪29・29間に前車軸ケース21が配設され、各ミッションケースT1・T2・T3内の伝動機構と前車軸ケース21内の伝動機構とが後記伝動軸20等を介して連動連係されている。
【0029】
後車軸ケース14内においては、各後輪18より延設される左右の後車軸17・17間にデフギア機構15が介設されており、また、各後車軸17上にブレーキ16がそれぞれ付設されている。
【0030】
前車軸ケース21は、左右の前車軸27・27を軸支しており、該前車軸ケース21内にて、両前車軸27・27間にデフギア機構26を介設している。各前車軸27は、ユニバーサルジョイントと伝動軸28を介して各前輪29に連動連係されている。
【0031】
なお、後輪18及び後車軸ケース14と、前輪29及び前車軸ケース21との前後関係は便宜上のものであって、前後位置は入れ換えてもよい。すなわち、エンジン5、ミッションケース、車軸ケース14を車軸ケース21よりも前方に配設して、車軸ケース14を挟んで配設している左右車輪18を前輪とし、また、車軸ケース21を挟んで配設される左右車輪29を後輪として、本発明を適用してもよい。
【0032】
前車軸ケース21は、後方に向けて入力軸22を突設し、伝動軸20及びユニバーサルジョイントを介して、各ミッションケースT1・T2・T3より突設されるPTO軸19に連動連係されている。前車軸ケース21内にて、左右方向にカウンタ軸24が軸支されて、該カウンタ軸24上に減速ギア列が構成されており、入力軸22は、該減速ギア列を介してデフギア機構26に連動連係されている。また、入力軸22上にクラッチ23が設けられている。クラッチ23を入れることにより、PTO軸19から入力軸22に伝達された動力がデフギア機構26に伝達されて、前輪29・29を後輪18・18に同期駆動する四輪駆動モードに設定され、クラッチ23を切れば、エンジン5の動力は前輪29・29には伝達されず後輪18・18のみに伝達される二輪駆動モードとなる。
【0033】
図1〜図3の各電子ガバナは、ガバナコントローラ1と、該ガバナコントローラにより電子制御されるスロットルアクチュエータ2、ポンプアクチュエータ3、及びモータアクチュエータ4を備えている。スロットルアクチュエータ2は、エンジン5のキャブレターに備えられているスロットルバルブ5aに連動連係したスロットルレバー5bの回動制御を行うものであり、ポンプアクチュエータ3は油圧ポンプ7の備える可動斜板の傾動を、モータアクチュエータ4は油圧モータ8の備える可動斜板の傾動を、それぞれ制御する。
【0034】
図1〜3にそれぞれ表した各ミッションケースT1・T2・T3とHSTハウジング6との内部における変速機構の構成を説明する。
【0035】
図1の変速機構は、HSTハウジング6内のHST、すなわち、互いに流体接続される油圧ポンプ7と油圧モータ8とを主変速機構とし、ミッションケースT1内には、主変速機構たるHST出力を受ける副変速ギア機構12が構成されている。
【0036】
まず、エンジン5のフライホイルハウジング5c内のフライホイル5dには、HSTハウジング6よりミッションケースT1を貫通して、油圧ポンプ7のポンプ軸7aが接続されており、油圧モータ8からは、HSTハウジング6よりミッションケースT1内にモータ軸8aが延設されている。
【0037】
ミッションケースT1内において、副変速駆動軸9が軸支されて該モータ軸8aとギア噛合しており、該副変速駆動軸9と平行に、副変速クラッチ軸10が軸支され、その一端は後車軸ケース14内に突入して、デフギア機構15のブルギアに(ベベルギアにて)ギア噛合している。両軸9・10間には、副変速ギア機構12を構成する複数の副変速ギア列が介設されている。本実施例では、三段の副変速を可能とすべく、三つのギア列を構成している。すなわち、副変速駆動軸9には、三つの副変速駆動ギアが固設され、それぞれの駆動ギアに噛合して、三つの副変速従動ギアが遊嵌されている。副変速クラッチ軸10にはクラッチスライダ13が軸方向に摺動自在に嵌装されており、いずれかの副変速段に設定すべく、それに対応する従動ギアに係合するようにしている。
【0038】
また、副変速クラッチ軸10は、PTO伝動ギア機構11を介して、PTO軸19とギア噛合しており、該PTO軸19はミッションケースT1より突出して、前記の如く伝動軸20等を介して前車軸ケース21より突設される入力軸22に駆動連結されている。副変速クラッチ軸10〜PTO伝動ギア機構11〜PTO軸19の伝動構成は、図2のミッションケースT2、図3のミッションケースT3でも同様としている。
【0039】
次に、図2の変速機構は、主変速機構として、ポンプ軸7aの回転力とモータ軸8aの回転力とを遊星ギア機構30にて合成するHMTを構成している。すなわち、図1の場合と同様に、油圧ポンプ7のポンプ軸7aはミッションケースT2を貫通してフライホイルハウジング5c内のフライホイル5dに接続されており、油圧モータ8のモータ軸8aはHSTハウジング6よりミッションケースT2内に延設されているが、図2の場合には、ミッションケースT2内にて、ポンプ軸7aとモータ軸8aとを遊星ギア機構30にて連結しており、両軸7a・8aの回転合力にて回転する主変速出力軸31を該遊星ギア機構30より延設している。
【0040】
油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向の切換えは、モータ軸8aの回転方向の切換えを伴うが、モータ軸8aの回転方向がポンプ軸7aの回転方向と同じ場合はポンプ軸7aとモータ軸8aとで主変速出力軸31を増速回転することとなり、モータ軸8aがポンプ軸7aと逆方向に回転する場合は、モータ軸8aの回転力はポンプ軸7aを減速するように作用し、両軸7a・8aの回転差に応じて主変速出力軸31が回転する。
【0041】
ミッションケースT2内の副変速ギア機構12は、ミッションケースT1内の副変速ギア機構と同様に、副変速駆動軸9と、後車軸ケース14内のデフギア機構15にギア噛合する副変速クラッチ軸10との間に介設されているが、本実施例での副変速ギア機構12は二段変速となっており、二列の副変速ギア列が両軸9・10間に設けられている。
【0042】
主変速出力軸32と副変速駆動軸9とはギア機構31にて連動連係されているが、このギア機構32は、正転・逆転二列のギア列よりなっている。正転ギア列は主変速出力軸31上に固設した駆動ギアと副変速駆動軸9上に遊嵌した従動ギアとを直接噛合したものであり、逆転ギア列は主変速出力軸31上に固設した駆動ギアと副変速駆動軸9上に遊嵌した従動ギアとを、アイドルギアを介して噛合したものである。副変速駆動軸9上には軸方向に摺動自在にクラッチスライダ33が設けられていて、副変速駆動軸9上のいずれかの従動ギアに係合し、副変速駆動軸9の回転を正転・逆転いずれかに設定する。
【0043】
図1のHSTのみからなる主変速機構の場合は、油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向の切換えによりモータ軸8aの回転方向を正逆に切換可能であるが、図2のHMTからなる主変速機構では、主変速出力軸31の回転方向は、油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向の切換えに伴うモータ軸8aの回転方向の切換えにかかわらず一定である。詳しくいえば、モータ軸8aの回転力はポンプ軸7aの回転力より低く抑えられるので、モータ軸8aがポンプ軸7aとは逆方向に回転していても、それによって主変速出力軸31が逆転することはない。
【0044】
従って、前後進切換操作を反映して後輪18及び前輪29の回転方向を前後逆転可能とするには、主変速出力軸31から副変速クラッチ軸10までの伝動系上のいずれかに回転方向の正逆切換え機構が必要である。このようなことから、図2のミッションケースT2内では、主変速出力軸31と副変速駆動軸9との間に、前後進切換え用クラッチを伴うギア機構31を介設しているのである。
【0045】
次に、図3のミッションケースT3内においては、遊星ギア機構34を設けており、この遊星ギア機構34にて、フライホイル5dより延設されるエンジン出力軸5eと、副変速駆動軸9との回転力を合成し、その合力を、HST油圧ポンプ7のポンプ軸7aに伝達する構造のHMTを構成している。副変速駆動軸9は、HST油圧モータ8のモータ軸8aとギア噛合するとともに、副変速出力軸10との間で、高低二段の副変速ギア機構12を介設している。なお、副変速出力軸10には、高低二段いずれかのギア列を副変速出力軸10に係合させるためのクラッチスライダ13が摺動自在に嵌装されている。
【0046】
図3の主変速機構たるHMTでは、油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向の切換えにより、モータ軸8の回転が正逆反転可能なので、これにギア噛合する副変速駆動軸9も正逆反転可能である。すなわち、主変速機構の出力回転が、油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向切換えにより反転可能なので、図2に示すような前後進切換用の機構を別に設ける必要はない。
【0047】
なお、油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向で決定される副変速駆動軸9の回転方向が、前進設定時にはエンジン出力軸5eと逆になり、エンジン出力軸5eの回転を副変速駆動軸9にて減速した結果が遊星ギア機構34の出力回転となり、これがポンプ軸7aに伝達されて、ポンプ軸7aを減速する。すなわち、主変速設定操作具(例えば後述の如くアクセルペダル)にて設定する前進設定速度を増加するほど、ポンプ軸7aの回転速度は低減され、代わってエンジン出力軸5eの回転力がHST出力をアシストし、主変速機構における伝動効率を向上させる。但し、最大前進設定速度に達するまで、減速する遊星ギア機構34の出力回転が逆転することはなく、従って、ポンプ軸7aの回転が逆転してしまうことはない。
【0048】
後進設定時には、該副変速駆動軸9の回転方向がエンジン出力軸5eの回転方向と同一となり、エンジン出力軸5eの回転を副変速駆動軸9の回転で増速した結果が遊星ギア機構34の出力回転となり、ポンプ軸7aは主変速後進設定速度を増加させるほど増速される。このように、前進・後進いずれの場合にもポンプ軸7aの回転方向は一定であり、前進・後進の切換えは、純粋に油圧ポンプ7の可動斜板の傾斜方向の切換えにより行われるのである。
【0049】
図1〜図3に示す車両において、前進・後進それぞれの主変速速度設定を行う変速操作具として、好ましくは、アクセルペダルまたはアクセルレバーを装備し、この操作にて、同時にエンジン回転数の設定も行えるようにする。アクセルペダルを用いる場合には、前進用・後進用の踏み込み部を有し(例えば、前後中央部を枢支したシーソー式ペダルの前部を前進用、後部を後進用の踏込部とする。あるいは、前進用ペダルと後進用ペダルとを左右に並設する。)、それぞれの踏込部の踏込量に略比例的に応じた車速を現出するものとする。以後の電子ガバナ制御等の説明は、図1〜図3の各車両において、前後進それぞれの速度を設定可能な主変速操作具としてアクセルペダルを車両に備えていることを前提に行うものとする。
【0050】
図4をもとに電子ガバナシステムについて説明する。電子ガバナコントローラ1の出力インタファイスには、電子ガバナコントローラ1からの出力信号にて電子制御されるスロットルアクチュエータ2、ポンプアクチュエータ3、モータアクチュエータ4を電気接続しており、一方、コントローラ1の入力インタフェイスには、アクセルペダル踏込角度センサS1、アクセルペダル踏込速度センサS2、エンジン負荷センサS3、エンジン回転数センサS4、車速センサS5、ポンプ斜板角度センサS6、モータ斜板角度センサS7、積荷重量センサS8を電気接続している。なお、エンジン負荷センサS3は、HST圧力センサに置き換えてもよい。また、車速センサS5は、以後の説明に対応するためには主変速出力軸たる副変速駆動軸9の回転を検出することが好ましいが、車速に対応する回転速度を検出するものであればよく、例えば車軸17の回転を検出するものとしてもよい。各アクチュエータ2・3・4は、センサS1〜S8の検出値をもとに制御される。
【0051】
ここで、図5〜図7より、図1〜図3の各主変速速度比(主変速機構(無段変速機構)の出/入力回転速度比。以後、単に「速度比」とする。)とポンプ・モータ斜板角度との関係について説明する。各速度比は、図1〜図3の各主変速機構の出力軸たる副変速駆動軸9の回転速度の、エンジン出力軸に対する比により求められる(エンジン回転数は一定とする)。図1の主変速機構は油圧ポンプ7・モータ8よりなるHSTであり、主変速速度比は、モータ軸回転速度/ポンプ軸回転速度に置き換えてもよい。図5、図6、図7はそれぞれ、図1、図2、図3の主変速機構についての当該関係を示すものであり、それぞれのグラフにおいて、横軸は速度比Rを示しており、0点は速度比0(すなわち、副変速駆動軸9の回転速度が0となる状態)であることを示し、0点より右を正の速度比域(0〜+r(r>0))、左を負の速度比域(0〜−r)としている。縦軸は斜板角度Aであって、0点より上方を正の角度域、下方を負の角度域としている。グラフPAはポンプ斜板角度、グラフMAはモータ斜板角度である。図1、図3の主変速機構のように、ポンプ可動斜板の傾斜方向の切換えがそのまま前後進切換え操作となる様式の主変速機構においては、図5、図7にそれぞれ示す速度比R及びポンプ斜板角度PAの正値域(0〜+r、0〜+pa)を前進用、負値域(0〜−r、0〜−pa)を後進用に割り当てる。
【0052】
また、図5〜図7において、エンジン回転数を一定としていることを前提に、縦軸はポンプ軸・モータ軸等の軸回転速度Sをも示すものとしており、0点より上方の正の値を正転回転数(特に副変速駆動軸9については前進用回転数)、0点より下方の負の値を逆転回転数(特に副変速駆動軸9については後進用回転数)として割り当てている。グラフPSはポンプ軸7の回転数(ポンプ速度)、グラフMSはモータ軸8の回転数(モータ速度)、グラフVSは、主変速出力回転数に相当する副変速駆動軸9の回転数(主変速出力速度)、グラフVS’は、図2の主変速機構における主変速出力軸31の回転数(前進切換前の主変速出力速度)である。
【0053】
図5〜図7よりわかるように、ポンプ斜板を中立位置(PA=0)から傾動させる(0→+pa,0→−pa)ほどにモータ軸8の正転速度(図1・図3では前進用回転速度)・逆転速度(図1・図3では後進用回転速度)が増大し、ポンプ斜板が最大傾斜位置に達してからは(PA=+paまたは−pa)、モータ斜板角度MAを減少させる(+ma1→+ma2)ことでモータ軸8の回転速度を増大させる。図1及び図3に示すように前後進切換がHSTのポンプ斜板傾斜方向の切換えによってなされる主変速機構において、純粋に速度比Rがアクセルペダルの踏込角度に比例的に変化すると仮定した場合に、非踏込状態(踏込角度0)から前進用踏込角度・後進踏込角度それぞれを増大させるほどにポンプアクチュエータ3を駆動し、ポンプ可動斜板角度PA(前進時は0〜+pa、後進時は0〜−pa)を増大する(ポンプ7の容量を増大する)。この間、モータ可動斜板角度MAは最大値+ma1で固定されている(モータアクチュエータ4が固定されている)。ポンプ可動斜板角度PAが前進・後進域それぞれの最大角度(+paまたは−pa)に達してからなおもアクセルペダルを踏み込むと、モータアクチュエータ4が駆動し、該踏込角度の増大に比例して、モータ可動斜板角度MAを最小値+ma2まで減少する(モータ8の容量を小さくする)。これにより、モータ速度MSは、最高速度(前進駆動時は+ms、後進駆動時は−ms)に達する。
【0054】
図1の主変速機構はHSTのみからなるものであって、図5に示す如く、ポンプ・モータ斜板の制御によりモータ速度MSを−ms→0→+msと変化させる間、ポンプ速度PSは一定に保持され、減速ギアを介してモータ軸8とギア噛合する副変速駆動軸9の回転速度VSがモータ速度MSに比例して変化する。ポンプ斜板角度PAを0にしてモータ速度MSを0にすれば、主変速出力速度VSも0になり、すなわち速度比Rが0になる。
【0055】
図2の主変速機構は、遊星ギア機構30にて、エンジン出力軸に直結されるポンプ軸7と、モータ軸8との回転を合成し、その合力により主変速出力軸31を駆動するHMTであり、図6に示す如く、ポンプ・モータ斜板の制御によりモータ速度MSを−ms→0→+msと変化させる間、ポンプ速度PSは一定に保持される。ポンプ斜板角度PAを0にした時、モータ速度MSは0となるが、ポンプ軸7が駆動しているので、主変速出力軸31の回転速度VS’は0にはならない。遊星ギア機構30は、モータ速度MSが負の最大値(−ms)の時、すなわち、ポンプ斜板が通常の後進用回動域の最大傾動位置(PA=−pa)にあり、かつモータ斜板が最小傾斜角位置(MA=+ma2)にある時に、回転速度VS’が0(すなわち、速度比R=0)になるよう設定されており、モータ速度MSを−ms→0→+msと変移させるにつれ、前後進設定前の主変速出力速度VS’は比例増大する。このように、主変速出力軸31は一方にのみ回転するものであり、前記クラッチスライダ33を、好ましくはVS’=0の時に(自動)切換操作し、ポンプ斜板・モータ斜板の傾動により主変速出力軸9の前進用回転(VS>0)及び後進用回転(VS<0)を得るのである。
【0056】
図3の主変速機構は、遊星ギア機構34で合成したエンジン出力軸5eとモータ軸8aとの回転合力をポンプ軸7に伝達するHMTであり、図7に示す如く、ポンプ・モータ斜板の制御によりモータ速度MSを−ms→0→+msと変化させる間、モータ軸8に減速ギアを介してギア噛合する副変速駆動軸9の回転速度VSがモータ速度V8に比例して変化する。ポンプ斜板角度PAを0にすれば、モータ速度MS、主変速出力速度VSともに0となる。そして、遊星ギア機構34による回転アシストにより、ポンプ速度PSは、モータ速度MSを後進用最大速度−msから前進用最大速度+msへと変移させるにつれ、 比例的に減少する。すなわち、ポンプ速度PSは、前進時には設定速度を増大させるほど減少し、後進時には設定速度を増大させるほど増大する。
【0057】
図1〜図3の各電子ガバナコントローラ1においては、以上のような図5〜図7に示す速度比R、ポンプ・モータの可動斜板角度、各軸の回転速度の関係(但し、エンジン回転数が一定であることを前提とする)が記憶されており、これをもとにして、アクセルペダルの踏込みに応じてポンプアクチュエータ3またはモータアクチュエータ4を制御し、ポンプ斜板またはモータ斜板を制御する。
【0058】
基本的に図1〜図3の各主変速機構を制御する電子ガバナは、アクセルペダルの踏込角度(踏込角度センサS1の検出値)に応じてスロットルアクチュエータ2及び/または、ポンプアクチュエータ3またはモータアクチュエータ4を駆動して、車速を該踏込速度に略比例的に増大させるものである。(フィードバックとして、エンジン回転数センサS4、車速センサS5(副変速駆動軸9等の回転速度センサ)、ポンプ斜板角度センサS6、モータ斜板角度センサS7の検出値を用いる。)特に乗用車と同じ感覚で運転できるようにするには、このようにアクセルペダルの踏込角度と車速との実質的な比例関係が主変速速度の全設定範囲でなされていることが好ましい。すなわち、図1〜図3の各実施例における(前後進設定後の)主変速出力軸たる副変速駆動軸9の回転速度VSを、アクセルペダルの踏込角度に比例して変化させるものとすればよい。しかし、このようなアクセル踏込角度と車速との関係を現出しながらも、エンジン負荷を抑えること等を目的として、スロットルアクチュエータ2によるエンジン回転数の変化と、ポンプアクチュエータ3またはモータアクチュエータ4によるHST速度比の変化との間の関係を様々に工夫することができる。このエンジン回転数とHST速度比との様々な関係を現出したエンジン・主変速制御についての、図8〜図11に示す各実施例を説明する。なお、便宜上、前進時のみについて説明する。
【0059】
図8(1)、(2)、(3)は、アクセルペダルによる中〜高速域設定中のエンジン回転数を定格値に固定するものとしたものであり、図8(1)、(2)、(3)の横軸は共通に、アクセルペダル踏込角度(前進時のものとする)Dを示しており、(1)の縦軸は速度比R、(2)の縦軸はエンジン回転数ES、(3)の縦軸は副変速出力軸9の回転速度(主変速出力速度)VSを示している。なお、(3)の縦軸として副変速出力軸9の回転速度を採用したのは、副変速前でかつ前後進設定後の主変速機構の出力軸として採用したのであって、その他、例えば車軸17の回転速度のように、車速に対応する回転速度(すなわち車速センサS7の検出値に該当する値)であればよい。以後は、VSを車速として説明する。
【0060】
まず、(1)・(2)に示すように、踏込角度Dが0からd1までの間は、エンジン回転数ES、速度比Rともに比例的に、すなわち、それぞれ一定の増加率(第一エンジン回転数増加率、第一速度比増加率)で増加させるものとしている。なお、特に図1、図3の実施例では、この間、速度比Rの変化は、当初、ポンプ斜板角度PAの変更による。すなわち、踏込角度Dの増大に応じて、スロットルアクチュエータ2の制御によりスロットルバルブ5aの開度を増大させるとともに、ポンプアクチュエータ3の制御によりポンプ斜板角度PAを増大させる。もし、踏込角度Dがd1に到達する前にポンプ斜板角度PAが最大角度+paに達すれば、その後はモータアクチュエータ4の制御によりモータ斜板角度MAをその最大値+ma1より減少させる。そして、踏込角度Dが0〜d1の間は、(3)に示すように、車速VSは、踏込角度Dの増加に伴い一定の増加率で増加する。
【0061】
踏込角度Dがd1に達すると、(2)に示すように、エンジン回転数ESが定格値efに達する。そして、踏込角度Dをd1より大きくする間は、燃費抑制や騒音抑制のため、この定格値efを保持している。なお、一定値efに保持するのではなく、踏込角度Dの0〜d1の間におけるエンジン回転数ESの増加率よりも小さな増加率(第二エンジン回転数増加率)で増加させるものとしてもよい。そして、踏込角度Dがd1以上の場合にも、d1より小さい時と同じ変化率で車速VSを変化させるために、速度比Rの増加率を、踏込角度Dがd1よりも小さい時の増加率よりも大きくしている(第二速度比増加率)。
【0062】
踏込角度Dがd2に達すると、速度比Rが最大値+rに達する(すなわち、モータ斜板角度MAが最小値+ma2となる)。それより更に踏込角度Dを増大させると、それまで定格値efに保持されていたエンジン回転数ESが、踏込角度Dが最大値dmに達するまで、最大値emへと増大する。この踏込角度Dのd2〜最大値dm間におけるエンジン回転数ESの増加率は、速度比Rの増加がない分、0〜d1におけるエンジン回転数ESの増加率よりも大きくしている(第三エンジン回転数増加率)。こうして、アクセルペダル踏込角度Dの0から最大値dmまでの全域において、(3)に示すように、車速VSは、一定の増加率で最高速度vmまで増大するのである。
【0063】
図9(1)・(2)・(3)は、エンジン回転数ESを早く定格値efに到達させるように設定した場合の制御グラフである。すなわち、(2)に示すように、エンジン回転数ESを当接Dに到達させる踏込角度Dを、d1より小さなd0としており、踏込角度Dの0からd0までの増加の間、エンジン回転数ESの増加率(第一エンジン回転数増加率)を図8の踏込角度Dの0〜d1における第一エンジン回転数増加率よりも大きくし、一方、(1)に示すように、この間、速度比Rの増加率(第一速度比増加率)を、エンジン回転数増加率の増加の分、小さくしている。踏込角度Dがd0からd2に達するまで、エンジン回転数ESは定格値efで保持され、速度比Rはその間増大して、踏込角度Dがd2の時に最大値+rに達する。その後、踏込角度Dが最大値dmに達するまでは、速度比Rは+rのまま保持され、代わってエンジン回転数ESが最大値(最大トルク値)emまで増大する。以上のような制御がなされることで、車速VSは(3)で示すように、図8(3)の場合と同様に、踏込角度Dが0〜dmへと増大するにつれ比例的に最大値vmまで増大するのである。
【0064】
図8のマップと図9のマップは電子ガバナコントローラ1において記憶され、様々な条件に応じて、いずれのマップを用いてアクチュエータ2・3・4を制御するかが選択される。その条件の一つとしては、アクセルペダルの踏込速度が挙げられる。すなわち、アクセルペダル踏込速度センサS2にて検出される値が一定値以上の時に図9のマップを採択し、該検出値が該一定値未満の時には図8のマップを採択する。アクセルペダルを速く踏み込むということは、急な加速を所望していることを意味するが、ポンプ斜板やモータ斜板の動きはエンジンのスロットルバルブの動きよりも反応が鈍い(ペダル踏込角度の変化に斜板の動きが追いつかない)ため、図8のマップを用いると、思うような加速が得られない。そこで、図9のマップを用いて、踏込初期においてスロットルバルブ5aの動きによるエンジン回転数の増大で車速を迅速に増加させるのである。一方、アクセルペダルの踏込速度が該一定値未満の時には、スロットルバルブの動きとポンプ斜板・モータ斜板の動きとの間の反応速度の差がなくなるので、エンジンの燃費抑制を主眼として、エンジン回転数の増加率を低減すべく、図8のマップを用いるのである。
【0065】
なお、踏込速度センサS2の検出値が一定以上であることにより選択した図9のマップに基づいて加速し、やがて所望速度に到達すれば、図8の燃費抑制用の制御マップに戻してアクチュエータ2・3・4を制御する。
【0066】
アクセルペダル踏込速度以外の図8・図9のマップ選択の条件として、積荷重量センサS8で検出される積荷重量を基準とすることも考えられる。すなわち、検出される積荷重量が一定以上の時は、図9のマップを選択し、特に車両始動時に速度比Rを小さく抑えて(減速比を大きくして)伝動系への負荷を低く抑える一方で、エンジン回転数の上昇を早くする。積荷重量が該一定値未満の時は図8のマップを選択し、速度比Rの増加率を高める一方でエンジン回転数の増加率を低く抑えて低燃費走行を実現する。また、本実施例の電子ガバナを仕様の異なる車両に搭載する場合に、その車両の重量に合わせて図8・図9のいずれかのマップを選択することも考えられる。すなわち、該車両重量が大きい場合には図9のマップを選択することで、伝動系への負荷を低減し、小さい場合には図8のマップを採用して低燃費走行を実現するのである。
【0067】
また、図9のマップを通常運転用、図8のマップをオーバーラン対応の緊急時用として採択し、車両が坂道下降時にオーバーランとなった場合に、図9のマップを用いてエンジン回転数ESを下げ、その分、速度比Rを引き上げるものとすることも考えられる。すなわち、この場合は逆に、車速VSの増加にスロットルバルブの動きよりもポンプ・モータ斜板の動きを優先させることで、アクセル踏込角度Dの増加に対する車速VSの増加反応を鈍くし、オーバースピードを回避するのである。なお、オーバーランの検出には、エンジン回転数センサS4と車速センサS5との検出値の比較結果、あるいは、HSTのポンプ速度PAとモータ速度MAとの比較結果等を用いることが考えられる。すなわち、出力側の速度が入力側の速度に対して異様に高いことが検出された場合には、オーバーランと判断すればよいのである。
【0068】
燃費抑制用の制御マップとしては、図8のものに代えて、図10(1)・(2)・(3)に示すようなマップを用いることも考えられる。図10では(2)に示すように、踏込角度Dの小さい低速域ではエンジン回転数ESの増加率を低く抑え、徐々に該増加率を増やしていく。踏込角度Dが最大踏込角度dmに到達するまで、このように増加率を徐々に増やしながら最大回転数emまでエンジン回転数ESを増加するようにし、全体としてグラフESが(2)のように下方湾曲状の曲線を描くようにする。このようなエンジン回転数の変化を補うように、速度比Rは、踏込初期にその増加率を大きくし、踏込最大角度dmに至るまで徐々に増加率を小さくしながら最大速度比+rまで増加するものとし、グラフR全体が上方湾曲状の曲線になるようにしている。こうして、車速VSは、踏込角度Dの増加に応じて一定の増加率で(すなわち比例的に)増加し、最大踏込角度dmで最大車速vmに到達するのである。
【0069】
次に、図8の制御マップの、過負荷検出時等における応用例について、図11より説明する。なお、図11(1)・(2)・(3)は、踏込角度Dをd3(>d1)で固定して定速走行(VS=vs1)を行っている時にエンジン負荷センサS3が過負荷であることを検出した場合を想定して描かれている。まず、踏込角度Dを踏込角度d3まで踏み込む過程(エンジン負荷センサS3の検出値は一定値未満である)では、エンジン及び主変速機構は、図8のマップをもとにスロットルアクチュエータ2及び(または)ポンプアクチュエータ3またはモータアクチュエータ4を制御して、燃費抑制を重視して車速VSを増加させるものであり、踏込角度Dがd1より大きくなると、エンジン回転数ESは定格値efに保持され、速度比Rのみを増加することで車速VSをvs1まで増加する。
【0070】
踏込角度Dをd3に保持して定速走行を行っている時に、エンジン負荷センサS3が一定値以上の負荷を検出、すなわち、過負荷であることが検出されると、運転手により、あるいは自動でアクセルペダルがさらに深く踏み込まれ、その踏み込みにより、緊急にスロットルアクチュエータ2を駆動して、本来は定格値efに保持したままであるはずのエンジン回転数ESを最大トルク値emまで上昇する(図11(2)参照)。この間も、踏込角度Dに対する車速VSの変化率を、この緊急制御前の変化率と同じに保持するため、速度比Rを踏込角度Dの増加とともに低減する(図11(1)参照)。
【0071】
こうして、踏込角度Dをd4とした時にエンジン回転数ESは最大トルク値emに到達し、このエンジン回転数ESを保持したまま(すなわち、踏込角度d4を保持したまま)走行する。なお、踏込角度Dがd4を超えてしまった場合は、エンジン回転数ESをやや最大トルク値emより落とし、その分、速度比Rを増加して、車速VSの踏込角度Dに対する変化率を保持する(図11(3)に示す踏込角度D(0〜dm)に対する車速VS(0〜vm)の関係を確保)。このようにエンジン回転数を高く保持して走行しているうちに、エンジンエンジン負荷センサS3の検出値が一定値未満になると、過負荷状態から解放されたものと判断して、しばらくエンジン回転数ESを最大トルク値emを保持した後、図8のマップに基づく制御に移行し、エンジン回転数ESは定格値efまで低下され、それを補うべく速度比Rを変化させて、またもとの踏込角度d3で定速走行(VS=vs1)を行えるようになる。
【0072】
本発明を採用した作業車両は、特には作業時において定速走行をする一方で作業場への移動のため等の路上走行時等に、通常の乗用車と同じような変速感覚を得られるように加速性能を得られるものであり、快適性・操作容易性・安全性等に優れ、農用トラクタ、運搬車その他の作業車両として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る電子ガバナを採用した作業車両の走行伝動系における第一実施例のスケルトン図であって、主変速機構をHSTとしたものである。
【図2】本発明に係る電子ガバナを採用した作業車両の走行伝動系における第二実施例のスケルトン図であって、主変速機構を出力分割型HMTとしたものである。
【図3】本発明に係る電子ガバナを採用した作業車両の走行伝動系における第三実施例のスケルトン図であって、主変速機構を入力分割型HMTとしたものである。
【図4】本発明の作業車両の速度制御方法を現出するための電子ガバナブロック図である。
【図5】図1の主変速機構におけるポンプ・モータ斜板角度、各軸速度、及び速度比の関係を示す図である。
【図6】図2の主変速機構におけるポンプ・モータ斜板角度、各軸速度、及び速度比の関係を示す図である。
【図7】図3の主変速機構におけるポンプ・モータ斜板角度、各軸速度、及び速度比の関係を示す図である。
【図8】本発明によるエンジン回転数・速度比の第一制御を示すグラフであって、(1)はアクセルペダル踏込角度に対する速度比の変化、(2)はアクセルペダル踏込角度に対するエンジン回転数の変化、(3)はアクセルペダル踏込角度に対する車速の変化を示す図である。
【図9】本発明によるエンジン回転数・速度比の第二制御を示すグラフであって、(1)はアクセルペダル踏込角度に対する速度比の変化、(2)はアクセルペダル踏込角度に対するエンジン回転数の変化、(3)はアクセルペダル踏込角度に対する車速の変化を示す図である。
【図10】本発明によるエンジン回転数・速度比の第一制御を変容した第三制御を示すグラフであって、(1)はアクセルペダル踏込角度に対する速度比の変化、(2)はアクセルペダル踏込角度に対するエンジン回転数の変化、(3)はアクセルペダル踏込角度に対する車速の変化を示す図である。
【図11】前記第一制御中に過負荷を検出した場合の制御を示すグラフであって、(1)はアクセルペダル踏込角度に対する速度比の変化、(2)はアクセルペダル踏込角度に対するエンジン回転数の変化、(3)はアクセルペダル踏込角度に対する車速の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 電子ガバナコントローラ
2 スロットルアクチュエータ
3 ポンプアクチュエータ
4 モータアクチュエータ
5 エンジン
5a スロットルバルブ
7 油圧ポンプ
7a ポンプ軸
8 油圧モータ
8a モータ軸
9 副変速駆動軸(主変速出力軸)
PA ポンプ斜板角度
MA モータ斜板角度
PS ポンプ速度
MS モータ速度
ES エンジン回転数
VS 主変速出力回転速度(車速)
R 速度比(無段変速機構の出/入力回転速度比)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速操作具の操作量の増加に応じて、エンジン回転数、及び/または、無段変速機構の出/入力回転速度比たる速度比を増加させることにより、車速を増加させる作業車両において、エンジン回転数増加率の変化と、速度比増加率の変化とを互いに補償し合う関係にすることにより、該変速操作具の操作全域にわたって車速が該操作量の増加に対し略比例的に増加するようにしたことを特徴とする作業車両の速度制御方法。
【請求項2】
前記変速操作具の操作量を0から増加させる過程での車速増加を、第一エンジン回転数増加率と第一速度比増加率にて現出し、エンジン回転数が定格値に到達した操作量から更に該変速操作具の操作量を増加する過程においては、該エンジン回転数を、該第一エンジン回転数増加率よりも小さい第二エンジン回転数増加率で増加するか、あるいは該定格値に保持し、それに応じて、該速度比増加率を、該第一速度比増加率よりも大きい第二速度比増加率とすることを特徴とする請求項1記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項3】
前記第二速度比増加率で増加した速度比がその制限値に達して、更に前記変速操作具の操作量を増加させる場合は、エンジン回転数を第三エンジン回転数増加率にて増大させて、該操作量の最大値にて車速を最大値に到達させることを特徴とする請求項2記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項4】
ある条件により、前記第一エンジン回転数増加率を増減し、それに応じて前記第一速度比増加率を増減することを特徴とする請求項2または3記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項5】
前記のある条件を、前記変速操作具の操作速度とし、該操作速度が高い場合に前記第一エンジン回転数増加率を大きくし、それに応じて前記第一速度比増加率を小さくすることを特徴とする請求項4記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項6】
操作速度が高い場合の前記変速操作具により車速が所望値に達すると、前記第一エンジン回転数増加率及び前記第一速度比増加率を元の値に戻すことを特徴とする請求項5記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項7】
前記のある条件を、積載重量または車両重量とし、該積載重量または該車両重量が大きい場合に前記第一エンジン回転数増加率を大きくし、それに応じて前記第一速度比増加率を小さくすることを特徴とする請求項4記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項8】
前記のある条件を、オーバーランの有無とし、オーバーランが検出されている場合に前記第一エンジン回転数増加率を小さくし、それに応じて前記第一速度比増加率を大きくすることを特徴とする請求項4記載の作業車両の速度比制御方法。
【請求項9】
エンジンまたは走行伝動系の過負荷を検出した場合にはエンジン回転数を最大トルク値まで緊急に増加し、それに応じて速度比増加率を低減することを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の作業車両の速度比制御方法。
【請求項10】
前記変速操作具の操作量を0から最大値まで増加させる過程において、エンジン回転数は増加率を小さく抑えた状態から該操作量を増加させるにつれ徐々に大きくし、速度比は増加率を大きな状態から該操作量を増加させるにつれ徐々に小さくすることを特徴とする請求項1記載の作業車両の速度比制御方法。
【請求項11】
前記変速操作具の操作量の0から小さい値までの操作初期範囲において、所定エンジン回転数増加率及び所定速度比増加率での第一制御と、該所定エンジン回転数増加率より大きいエンジン回転数増加率及び該所定速度比増加率より小さい速度比増加率での第二制御とを、ある条件に応じて択一することを特徴とする請求項1記載の作業車両の速度比制御方法。
【請求項12】
前記のある条件を前記変速操作具の操作速度とし、該操作速度が一定以上の時に前記第二制御を、該操作速度が一定未満の時に前記第一制御を選択することを特徴とする請求項11記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項13】
前記のある条件を、積載重量または車両重量とし、該積載重量または該車両重量が一定以上の時に前記第二制御を、前記操作速度が一定未満の時に前記第一制御を選択することを特徴とする請求項11記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項14】
前記のある条件を、オーバーランの有無とし、オーバーランが検出されている時に前記第一制御を、検出されていない時に第二制御を選択することを特徴とする請求項11記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項15】
前記無段変速機構を、油圧式無段変速装置とすることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項16】
前記無段変速機構を、油圧式無段変速装置と機械式変速装置の組み合わせとすることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の作業車両の速度制御方法。
【請求項17】
前記変速操作具をペダルとし、前記操作量をその踏込角度とすることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の作業車両の速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−7819(P2006−7819A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183928(P2004−183928)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】