説明

侵入検知装置

【課題】レーザの反射光を用いて距離画像を形成する侵入検知装置において、反射光の強度が小さい方向に関して測距不能となり、侵入者の誤検出や検出漏れを生じやすい。
【解決手段】距離算出部16は、監視空間へ向けたレーザに対する反射光に基づいて当該監視空間に存在する物体までの距離計測値を距離画像の画素毎に求める。背景差分算出部22は、背景距離画像と監視中の対象距離画像との間での距離計測値の変化量に基づいて距離変化が生じた変化画素を抽出し、両距離画像のうち一方にて測距不能である画素に関しては、当該両距離画像の互いに対応する画素同士での反射光の受光量の相違に基づいて距離変化を判定する。侵入者判定部24は、その変化画素に基づいて監視空間における侵入物体の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は侵入検知装置に関し、特に検知精度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
監視空間への人などの侵入物体を検出する監視装置として、距離画像を用いるものが提案されている。ここで距離画像とは、画素値として距離情報を有する情報である。
【0003】
具体的には、レーザビーム等を監視空間へ向けて送出し、その送出から反射光の受光までの時間などから監視空間内の対象物までの距離を計測することができる。そして、レーザビーム等の測定媒体の送出方向を順次変えて監視空間内を二次元的に走査することにより、監視空間を向いた複数の方向に関する距離情報が得られ、上述の距離画像が取得される。測距方法としては、上述の反射光の受光までの時間に基づく方法の他、分離配置した2つの受光部での反射光の位相差から三角測量の原理に基づいて距離を求める方法などがある。
【0004】
距離画像を用いた監視装置は、移動物体が存在しない背景となる距離画像(背景画像)と、入力された距離画像(現画像)とを比較し、所定値以上距離が変化した画素を抽出して変化領域を求める。そして、変化領域の大きさ・形状及び現画像における距離情報に基づいて、移動物体が目的とする検知対象物であるか否かを判定する。
【0005】
距離画像は、レーザビーム等の送受部から見た物体の方向と、当該物体までの距離という情報を有する。よって、距離画像により、物体の大きさ・形状を知ることができ、例えば、侵入者検知の用途においては、遠方の比較的大きな人物と近傍の小動物(鼠や猫等)とを区別することが可能となり、侵入者の検出精度を向上させることができる。
【特許文献1】特公平7−71286号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような方法で測距する場合、反射光の強度が小さいと反射光のS/N比が低下し、反射光の波形や受光タイミングを正確に検出できず、測距精度が低下する。反射光の強度がさらに低下すると、反射光がノイズ成分に埋もれ、反射光を検出できなくなり、距離の計測に失敗する測距不能となる。例えば、このような測距不能な画素は、光反射率の低い物体に対応して生じ得る。距離画像では、このように測距不能となった測距方向に対応する画素には、測距不能であることを示す値(コード)が付与される。
【0007】
距離画像を用いた従来の監視装置は、現画像と背景画像とから変化領域を抽出する際、現画像及び背景画像の対比される2つの画素値のいずれか一方が測距不能であると、その画素については距離差分値を得ることができないため、変化の有無を判断することができないという問題があった。
【0008】
ここで、両画像のいずれかの画素値が測距不能であり距離差分値を取得できない画素を全て距離変化ありとみなすか、全て距離変化なしとみなすこととして変化領域を抽出することも考えられる。しかし、距離差分値を算出不能な画素を一律に変化ありとすると、背景に存在する反射率の低い静止物体を侵入者として誤検出し易くなり、逆に、距離差分値を算出不能な画素を一律に変化なしとすると、反射率の低い服などを着用した侵入者について検出漏れを生じ易くなるという問題がある。
【0009】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、距離画像を用いた侵入検知装置において、測距不能な画素に起因する誤動作を低減させ、検知精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る侵入検知装置は、監視空間の距離画像に基づいて侵入物体の有無を判定するものであって、前記監視空間へ投光し、その反射光に基づいて前記監視空間に存在する物体までの距離計測値を前記距離画像の画素毎に求める測距手段と、前記距離計測値を計測した前記反射光の受光量を検知する受光量検知手段と、所定基準時における背景距離画像と監視対象とする対象距離画像との間での前記距離計測値の変化量に基づいて距離変化が生じた変化画素を抽出し、前記背景距離画像及び前記対象距離画像のうち一方にて測距不能である画素に関しては、前記背景距離画像と前記対象距離画像との相互間での当該画素に対応する前記受光量の相違に基づいて前記距離変化を判定する背景差分算出手段と、前記変化画素に基づいて前記監視空間における前記侵入物体の有無を判定する判定手段と、を有するものである。
【0011】
他の本発明に係る侵入検知装置においては、前記背景差分算出手段が、前記背景距離画像及び前記対象距離画像の一方のみ前記測距不能であった画素については、他方における前記反射光の受光量に応じて前記変化画素として抽出する。
【0012】
別の本発明に係る侵入検知装置においては、前記測距手段が、前記受光量が第1の閾値未満である場合を前記測距不能とし、前記背景差分算出手段が、前記背景距離画像及び前記対象距離画像の一方のみ前記測距不能であった画素について、他方における前記反射光の受光量が前記第1の閾値より大きい第2の閾値以上である場合に前記変化画素として抽出する。
【0013】
さらに別の本発明に係る侵入検知装置においては、前記測距手段が、投光から前記反射光の受光までの応答時間に基づいて前記距離計測値を求め、前記投光から所定時間内に、所定値以上の受光量の前記反射光が得られない画素を前記測距不能とする。
【発明の効果】
【0014】
物体からの受光量は、それが静止物体であっても、環境の変化などに応じて或る程度の範囲にて時間的に変動し得る。そのため、例えば、反射率の低い物体からの受光量が測距可能か不能かの判定基準を挟んで変動し、時刻に応じて測距可能/不能が変化することが起こり得る。すなわち、基準時における背景距離画像と監視対象とする対象距離画像とでの受光量の相違が小さい画素に関しては、受光量の揺らぎであり、対象物体及びその距離は変化していない可能性が比較的高い。逆に、受光量の相違が大きいことは、対象物体又はその距離が変化しているとの推定根拠となり得る。本発明によれば、背景距離画像と対象距離画像とのいずれか一方では測距不能ではあるが他方では測距可能である画素に関して、当該両距離画像それぞれに対応する反射光の受光量の相違に基づき距離変化の有無を判断するので、距離画像中の移動物体が現れている画素を精度良く抽出することができる。その結果、距離画像から把握される移動物体の大きさ・形状の精度が向上し、検知対象とする侵入物体を精度良く判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は実施形態である侵入者検知装置の概略のブロック構成図である。本装置は、投光部2、投光制御部4、投光タイミング記憶部6、走査ミラー8、走査部10、受光部12、受光タイミング抽出部14、距離算出部16、データ生成部18、背景データ記憶部20、背景差分算出部22、侵入者判定部24、警報部26を含んで構成される。また、データ生成部18は、距離画像生成部30、受光量データ生成部32、信頼度データ生成部34を含んで構成される。
【0017】
本装置は、走査ミラー8を二軸それぞれの周りに揺動させ、この走査ミラー8で投光部2が放射するレーザ光を反射し監視空間へ投光する。これにより、監視空間へ向けて、投光方向が二次元的に変化するレーザ光が送出される。そして、受光部12では物体40にて反射したレーザ光を受光し、この反射光に基づいて、例えば、飛行時間法により物体40までの距離を測定する。
【0018】
投光部2は半導体レーザを光源として備え、当該光源は投光制御部4からパルス状の電圧信号を供給され、パルス光を発生する。投光部2は光源が発生するレーザ光をレンズによりビームにして出射する。投光部2からのレーザ光は、ハーフミラー42を透過し、走査ミラー8に入射する。走査ミラー8は例えばガルバノミラーを用いて構成され、入射したレーザ光で撮像対象範囲を二次元的に走査する。
【0019】
投光制御部4は、走査部10が出力する走査周期開始パルスに連動して投光部2の半導体レーザのパルス駆動を開始する。投光制御部4は、パルス駆動を開始すると、投光タイミング記憶部6に記録された投光タイミングに基づいて、半導体レーザの駆動電圧パルスを生成する。また投光制御部4は、駆動電圧パルスの生成タイミングを受光タイミング抽出部14及び距離算出部16に通知する。
【0020】
投光タイミング記憶部6は、走査ミラー8の走査角度に応じた投光タイミングを指定する情報を格納する。例えば、走査ミラー8により周期的に描かれる走査線上に、レーザ光の送受を行うサンプリング点群が配列され、各サンプリング点の走査タイミングが投光タイミングとして投光タイミング記憶部6に格納される。サンプリング点群は、それらにてサンプリングされる情報で画像を構成し得るように、走査対象範囲全体に分散配置され、基本的に走査対象範囲内で均一又はそれに近い分布となるように設定される。なお、走査線としては、例えばリサジュ図形、その他、走査対象範囲全体を満遍なく通過する非線形曲線を用いることができる。投光タイミングの決定方法の詳細については、特開2004−157796号公報等にて公知となっているため説明を省略する。
【0021】
走査ミラー8は、投光部2から出射したレーザ光を物体40へ投光すると共に、物体40で反射されたレーザ光を本装置に取り込む。物体40からのレーザ光は走査ミラー8を経由してハーフミラー42に導かれ、ハーフミラー42にて反射されて受光部12へ向かう。
【0022】
走査部10は、走査ミラー8の走査の開始及び停止を行う。また、現在の走査角度に応じた電圧値を有する信号をデータ生成部18へ出力すると共に、走査の各周期の開始タイミングに同期して走査周期開始パルスを投光制御部4へ与える。
【0023】
受光部12は入射光をレンズにより光センサに集光する。光センサは、アバランシェフォトダイオードやピンフォトダイオードなどにより構成され、物体40からの反射光を受光量に応じた電気信号に変換する。電気信号は増幅された後、受光信号として受光タイミング抽出部14へ出力される。
【0024】
受光タイミング抽出部14は、投光部2に対する駆動電圧パルスに同期して投光制御部4が生成するパルスを入力され、当該パルスに基づいて投光部2の投光時刻を把握する。そして、各投光時刻から予め設定された一定の時間範囲τ内に受光部12から入力される受光信号に基づいて受光時刻を求める。受光タイミング抽出部14はピーク検出回路を備え、受光信号のピークの位置から受光時刻を、そしてピークの大きさから受光量を算出する。
【0025】
図2は、受光タイミング抽出部14における処理を説明する受光信号に関する模式図である。図2の横軸は時間、縦軸は受光信号電圧である。投光部2からの投光は周期的に行われ、図2には、複数の投光に対する受光信号の例が示されている。受光タイミング抽出部14は、受光信号50のように、ピーク位置tが投光時刻tから幅τの期間内に存在し、かつ閾値Ib以上のピーク高を有する受光信号を検知対象とする。ここで、期間τは、監視対象とする上限距離の設定値に応じて定められる。期間τは、投光間隔以下の範囲で設定可能である。投光間隔は、距離画像のフレームレートとサンプリング点の数に応じて定まる。なお、投光タイミングが一定間隔でない場合、期間τは投光間隔の最小値以下とする。また、閾値Ibは受光部12のS/Nを考慮して設定される。
【0026】
従って、受光信号52のようにtからの時間範囲τを越えた時刻で受光されるものは監視対象とする上限距離を超えた物体からの反射光であり検知対象外とされる。この場合には、ピーク検出は行われず、距離計測に関しては測距不能として取り扱われる。例えば、この場合には、受光タイミング抽出部14は受光時刻として所定の無効を示す値を出力する。また、受光信号54のようにピークが閾値Ib未満である場合には、受光信号がノイズに埋もれてノイズとの弁別が困難となるために検知対象外とされ、測距不能として取り扱われる。この場合には受光タイミング抽出部14は、受光時刻として所定の無効を示す値を出力すると共に受光量を0とする。
【0027】
ちなみに、受光信号の強度が弱くなるという状況は、物体の反射率が低い場合や、物体までの距離が大きい場合に生じ得る。受光信号のピークが低い場合には受光信号の波形がノイズによる擾乱を受け易い。そのため、ピーク高が低い程、ピーク検出回路により検出されるピーク位置の誤差が大きくなる可能性があり、受光タイミング抽出部14により決定される受光時刻の信頼度が低くなる。本装置は、後述するようにこの距離計測値の精度の低下に対応する構成を有している。
【0028】
距離算出部16は、投光制御部4からの投光時刻と受光タイミング抽出部14からの受光時刻との差から、物体までの距離を算出する。ここで、受光時刻が無効を表す値である場合には、距離計測値として測距不能を示す所定の値を出力する。
【0029】
データ生成部18においては距離画像生成部30が、走査部10からの投光時の走査角度と、距離算出部16からの距離計測値とに基づいて、監視空間に向かう複数の方向についての距離計測値で構成される距離情報を走査周期毎に生成する。この距離情報は、投光方向を多く設定することで、物体の形状を把握可能な画像としての性質を備え、当該画像が距離画像として定義される。
【0030】
受光量データ生成部32は、走査部10からの投光時の走査角度と、受光タイミング抽出部14からの受光量とに基づいて、距離画像の各画素に対応する受光量からなる受光量データを生成する。
【0031】
信頼度データ生成部34は、走査部10からの投光時の走査角度と、受光量データ生成部32にて生成される受光量データとに基づいて、距離画像の各画素に対応する信頼度からなる信頼度データを生成する。
【0032】
図3は、信頼度を説明する説明図である。この図は、受光量と距離計測値の誤差との関係を示すグラフ60と、受光量と信頼度との関係を示すグラフ62とを重ねて示している。図において、受光量を横軸にとり、距離計測値の誤差、信頼度をそれぞれ左側縦軸、右側縦軸にとっている。距c離の誤差は受光量が小さくなるほど大きくなるという一般的な傾向があり、グラフ60はこの関係を表している。これは上述したように、受光量が小さい程、ノイズの影響により受光信号のピークの検出位置が変動し易くなり、それに起因して距離計測値の誤差が大きくなるからである。なお、閾値Ib未満では測距不能と取り扱われることから、距離計測値の誤差は定義されない。一方、信頼度は、基本的に距離計測値の誤差が大きいほど低く定義される。すなわち、受光量の閾値Ibにて信頼度は最低値とされ、受光量が増加するにつれて(すなわち距離計測値の誤差が低下するにつれて)信頼度は増加される。なお、本装置では受光量Ia以上では信頼度は最大値(例えば1)に固定される。ここで、受光量Iaは、距離画像センサによって侵入者検知を行う際に要求される測距精度に対応している。例えば、侵入者検知を行う際に一般に要求される精度は10cm程度である。そこで、距離誤差がδa以下であれば、十分に信頼できる判定結果が得られるため、距離誤差がδaとなる受光量Ia以上では信頼度を一様に最大値に設定している。なお、図3に示す受光量と信頼度との関係は一例であり、他の関係を設定することもできる。
【0033】
信頼度データ生成部34は、本装置に備えた記憶部に予め格納された受光量と信頼度との対応関係を定義したテーブルを受光量に基づいて検索して信頼度を決定する。なお、監視空間の環境によって、得られる受光量は大きく変わり得るため、環境変化に応じて上記テーブルを更新するように構成してもよい。
【0034】
またデータ生成部18における測距可否データ生成部36は、走査部10からの投光時の走査角度と、受光タイミング抽出部14からの測距可否の結果とに基づいて、距離画像の各画素に対応する測距可否を示す値からなる測距可否データを生成する。
【0035】
背景データ記憶部20は、基本的に監視空間に移動物体が存在しない状態(基準時)での距離画像、受光量データ、信頼度データ、測距可否データを背景データとして格納する。これら背景データとして、例えば、本装置の起動時に監視空間を走査して取得されたデータを用いることができる。また、監視空間内の静止物体を例えば、人が動かす等により背景は変化し得るので、監視開始時など適時、監視空間を走査して背景データを更新してもよい。
【0036】
背景差分算出部22は、侵入者検知動作中に監視空間を走査して得られた監視対象の距離画像、受光量データ、信頼度データ、測距可否データを監視対象データとして入力される。背景差分算出部22は監視動作中の走査周期毎に入力される監視対象データと背景データ記憶部20に記憶された背景データとを比較して、距離に変化があったと判断される画像領域を抽出する。
【0037】
侵入者判定部24は、背景差分算出部22により抽出された変化領域の形状や大きさ、当該領域に関する距離等のデータに基づいて、当該変化が侵入者によるものであるか否かを判断する。
【0038】
警報部26は、侵入者判定部24が侵入者が存在すると判断した場合に、例えば、警備センター等に警報を送出すると共に、装置の表示部に侵入者である旨の表示を行ったり、ブザー等の鳴動を行う。
【0039】
次に本装置の動作について説明する。図4は、本装置の全体的な動作を説明する概略の処理フロー図である。本装置が起動され侵入者検知処理の開始が指示されると、監視空間をレーザ光で走査して、現在の距離画像等のデータが取得される(S100)。背景データが背景データ記憶部20に記憶されていない場合には(S105)、取得された現在の距離画像等のデータが背景データとして背景データ記憶部20に格納される(S110)。一方、背景データが既に記憶されている場合には(S105)、現在の距離画像等のデータを監視対象データとして、現在の監視空間内に侵入者が存在するか否かが判定される(S115〜S140)。
【0040】
背景差分算出部22は監視対象データを入力されると、当該監視対象データと背景データ記憶部20に記憶された背景データとを比較して、例えば、距離に変化があったと判断される画像領域の画素値を「1」、それ以外の画像領域の画素値を「0」とした差分二値画像を生成する(S115)。この背景差分算出部22での距離変化の有無の判定処理の詳細については後述する。
【0041】
背景差分算出部22は、現在の距離画像のうち、差分二値画像の画素値が「1」である画像領域に対応する部分を抽出して、差分距離画像を生成し、侵入者判定部24へ出力する(S120)。
【0042】
侵入者判定部24は、ラベリング処理S125、統合処理S130、物体大きさ算出処理S135、物体位置算出処理S140を行う。ラベリング処理S125では、差分距離画像内の任意の注目画素の画素値と、注目画素の周囲の画素の画素値との差が所定値未満である場合に、当該注目画素と周囲の画素とに同一のラベル番号を付与する。これにより、差分距離画像内の距離が異なる複数の物体がラベル番号により識別され、抽出される。なお、ラベル番号を画素値とした画像をラベル画像と称する。測距可否データとして測距不能を表す値が設定されている画素については、他の画素値を有する画素に付与される一般ラベル番号とは区別可能なラベル番号を付与する。
【0043】
統合処理S130では、ラベル画像において測距不能を示すラベル番号を付与された画素に関して、当該画素に隣接する画素に一般ラベル番号を付与されたものがあれば、当該隣接画素と同一物体であるとみなして、当該測距不能画素のラベル番号を隣接画素の一般ラベル番号に付け替える。
【0044】
物体大きさ算出S135では、ラベル番号で識別される物体毎に、その大きさを表すパラメータが算出される。この処理に際して、各画素を、投光部2及び受光部12を中心とした距離と方向で表される座標から直交空間での座標に変換する。その上で、例えば、ラベリングされた各領域の左端と右端との画素の座標差から物体の幅、また上端と下端との画素の座標差から物体の高さを表すパラメータを求める。測距不能画素についての座標変換は、同一ラベル番号が付与された画素の距離を用いて行う。このように、現在の距離画像から物体の距離がわかるので、当該距離と画像上の物体領域とから実空間における物体の大きさを求めることができる。
【0045】
物体位置算出処理S140では、同じラベル番号の画素からなる画素領域の位置に基づいて、その領域に対応する物体の位置を表すパラメータが算出される。例えば、当該領域を構成する画素の三次元直交座標での重心を物体の位置を表すパラメータとする。
【0046】
上記物体の位置、大きさはラベル番号毎に算出され、それら位置及び大きさから、当該物体が人であるか否かが判定される。例えば、予め人と判断する幅、高さの閾値を設定しておき、物体の幅、高さのいずれかが閾値を超えた場合に人であるとの判定を行う。また、監視空間内に予め侵入検知領域を設定することもでき、その場合には、物体の位置がその侵入検知領域内にあるか否かを判定要素に加えることができる。
【0047】
人である場合には、侵入者判定部24は監視空間に侵入者が発生したと判断し(S145)、警報部26に通知する。警報部26は通知信号を受けて、上述の侵入者検知時の各種処理を実行する(S150)。
【0048】
一方、侵入者が検知されない間は(S145)、警報処理S150は実行されず、レーザ光による走査で新たな監視対象データが取得され(S100)、上述の処理S105〜S145を周期的に繰り返すことにより監視動作が継続される。
【0049】
図5は、差分二値画像生成処理S115の概略の処理フロー図である。以下、(i,j)という表記は、距離画像の画素値のx,y座標を表す。距離画像のx,y方向それぞれの画素数をNx,Nyとすると、x方向の座標値iは0≦i≦Nx−1なる値、またy方向の座標値iは0≦i≦Ny−1なる値で表すことができる。例えば、i=0、j=0の画素から差分二値化処理を開始する(S200)。まず、現在の距離画像及び背景の距離画像それぞれの互いに対応する(i,j)画素についての測距可能/不能の組み合わせに応じて場合分けがされる。現在の距離画像、背景の距離画像それぞれの(i,j)画素が共に測距不能であるか否かが判別され(S205)、両画素の少なくとも一方が測距可能であった場合には、次にそれらが両方とも測距可能であるか否かが判断され(S210)、一方だけが測距不能である場合には、さらにその測距不能の画素が現在の距離画像の(i,j)画素であるか否かに応じて場合分けがなされる(S215)。
【0050】
現在の距離画像、背景の距離画像それぞれの(i,j)画素が共に測距不能である場合には(S205)、差分二値画像の(i,j)画素の値は、距離変化なしを意味する0に設定される(S220)。
【0051】
現在の距離画像、背景の距離画像それぞれの(i,j)画素が共に測距可能である場合には(S210)、距離差分値ddが算出される(S225)。ddは、現距離画像の(i,j)画素の距離値をd1(i,j)、背景距離画像の(i,j)画素の距離値をd2(i,j)とすると、次式で与えられる。
dd=|d1(i,j)−d2(i,j)|
【0052】
本装置においては、この距離差分を信頼度データ生成部34にて生成される信頼度で補正した上で差分二値化が行われる。信頼度は上述したように、各距離画像の各画素に対応する受光量から、例えば、図3に示す対応関係に基づいて決定される。現距離画像の(i,j)画素の受光量に対応する信頼度をr1(i,j)、背景距離画像の(i,j)画素の受光量に対応する信頼度をr2(i,j)とすると、補正された距離差分値dd'は、例えば、次式で定義され、背景差分算出部22はこの定義に従い、元の距離差分値に現画像の信頼度r1(i,j)及び背景画像の信頼度r2(i,j)を乗じて補正距離差分値dd'を算出する(S230)。
dd'=dd・r1(i,j)・r2(i,j)
【0053】
この補正後の距離差分値dd'が閾値ThDと比較され、dd'がThD以上であれば、差分二値画像の(i,j)画素の値は、距離変化ありを意味する1に設定され(S240)、ThD未満であれば0に設定される(S220)。閾値ThDは侵入者を検知するために十分な距離差に設定することが好適である。
【0054】
上述のごとく、本装置では、単に計測した距離値の差によって変化を判定するのではなく、計測した距離値の信頼度を加味して変化を判定する。つまり、或る測距方向の距離値が変化した場合、変化をもたらした距離値の信頼度が高い(測距精度が高い)ほど当該測距方向の距離変化を認めるようにし、距離値の信頼度が低い(測距精度が低い)ほど当該測距方向の距離変化を認めないように働かせる。このように、測距精度が低いために生じた距離値の変化については変化判定の感度を鈍化させることで、各測距方向に存在する物体の変化判定を精度良く行うことができる。
【0055】
なお、上記実施形態では距離差分値ddを信頼度r1,r2にて補正することで変化判定の感度を変更させたが、信頼度r1,r2にて閾値ThDを補正することで変化判定の感度を変更させるようにしても同様である。すなわち、処理S230に代えて、閾値を信頼度で補正し、処理S235では処理S225にて求めた距離差分値が補正後の閾値ThD'以上か否かを判定する。補正された閾値ThD'は例えば次式で定義され、背景差分算出部22はこの定義に従い、元の閾値ThDを現画像の信頼度r1(i,j)及び背景画像の信頼度r2(i,j)で除して補正閾値ThD'を算出する。そして、距離差分値ddがこの補正閾値ThD'と比較され、ddがThD'以上であれば、差分二値画像の(i,j)画素の値は、距離変化ありを意味する1に設定し、ThD'未満であれば0に設定する。
ThD'=ThD/{r1(i,j)・r2(i,j)}
【0056】
現在の距離画像、背景の距離画像のいずれか一方の(i,j)画素が測距不能である場合には、両画像それぞれの(i,j)画素の受光量相互間に所定の相違があれば、その相違が距離の変化に起因するものと判断する。本装置では、測距可能な画素の受光量が閾値ThI以上であるか否かに応じて、変化の有無が推定される。ここで、閾値ThIは、ノイズの影響により誤検出を生じないように装置のS/Nを考慮して定められ、測距不能か否かの受光量の判別閾値Ibより大きな値に設定される。
【0057】
具体的には、現在の距離画像の(i,j)画素が測距不能である場合(S215)、測距可能である背景距離画像の(i,j)画素の受光量が閾値ThI以上であれば(S245)、差分二値画像の(i,j)画素の値は、距離変化ありを意味する1に設定され(S240)、ThI未満であれば0に設定される(S220)。また、背景の距離画像の(i,j)画素が測距不能である場合(S215)、測距可能である現距離画像の(i,j)画素の受光量が閾値ThI以上であれば(S250)、差分二値画像の(i,j)画素の値は、距離変化ありを意味する1に設定され(S240)、ThI未満であれば0に設定される(S220)。
【0058】
上述のごとく、本装置では、或る測距方向について比較する距離画像の一方にて測距不能である場合、当該測距方向における受光量を参照して変化を判定する。測距の可否は図2に示したように受光量が閾値Ib以上か否かによって判定されるため、測距の可否変化を生じさせる原因として次のような状況が考えられる。1つは、そもそも背景に存在する物体の反射率が低く、反射受光量が閾値Ib付近にあるため、環境光などに起因する受光量の微小変動により閾値Ibを跨って変化する場合である。また、背景に存在する物体と現在存在する物体との反射率が異なることで、受光量が閾値Ibを跨って変化する場合もある。
【0059】
このように、測距の可否が変化した場合には、実空間では背景のまま変化していない場合と、実際に移動物体が侵入してきた場合とがあり、本装置は、両画像それぞれの(i,j)画素の受光量相互間の相違を観察することにより、変化の有無を弁別することができる。特に、本装置では、測距不能である画素の受光量を0として扱うため、受光量の変化を測距可能であった画素の受光量のみに基づいて判断することができる。
【0060】
なお、受光量データ自体に対する閾値処理に代えて、受光量から求めた信頼度データに対して閾値を設定し、変化の有無を判断するように構成してもよい。
【0061】
以上のようにして、或る画素について差分二値画像の画素値が決定されると、未処理の画素について同様の処理を実行する。例えば、x方向の座標iを1ずつ増加させて、順次、新たな画素について差分二値化処理を行う(S255)。処理S255にて1増加させたiが上限値Nx−1を超える場合には(S260)、iを0にリセットし、jを1増加させることにより、y方向に隣接する画素列の処理に移行する(S265)。処理S265にて1増加させたjが上限値Ny−1を超えた時点で(S270)、現在の距離画像の全画素についての差分二値化処理が完了する。
【0062】
図6は、本装置による侵入者検知の処理の一例を説明する模式図である。この例に示す監視空間には背景となる物体として遠方に立つ壁300、その手前に置かれた静止物体302,304が存在する。図6(a)は背景距離画像を表している。この距離画像において、壁300及び静止物体302を構成する各画素については比較的大きな受光量が得られ、安定して距離計測値が得られている。よって、それぞれ均一な距離値になっている。一方、静止物体304は、光反射率が比較的低い表面材質で構成され、当該物体304からの受光量が少ない。そのため、静止物体304に対応する各画素の受光信号はノイズの影響を受けてピーク位置の変動を生じ易く、よって距離計測値が不安定である。これを図6(a)においては、静止物体304に対応する画像領域が、距離計測値が異なる複数の領域304a,304b,304cから構成されることにより表している。
【0063】
図6(b)は現在の距離画像を表している。この距離画像には、静止物体304の前に人306が現れる。また、静止物体304の画像領域のうち、背景距離画像では一様な距離値を有していた領域304c内の一部の領域304dの距離値が、ノイズの影響により背景距離画像での距離値から変化している。同様に、領域304a内の一部の領域304eの距離値が、ノイズの影響により背景距離画像での距離値から変化している。
【0064】
図6(c)は、これら図6(a)(b)に示す背景距離画像及び現在の距離画像に基づく、本装置による差分二値画像を示している。ノイズの影響で距離計測値が変化した領域304d,304eに関しては、従来の差分二値化処理では、差分二値化の閾値ThDを超えて、距離変化ありと誤検出を生じる可能性がある。これに対して、本装置では受光量に応じた信頼度を考慮することで、誤検出の発生を抑制し得る。すなわち、ノイズの影響を受け易い受光量の低い静止物体304に対しては、現在の距離画像及び背景距離画像に関する信頼度r1(i,j)、r2(i,j)が小さく設定され、これらを乗じた補正距離差分値dd'が閾値ThDと比較されるため、領域304d,304eにおいてdd'が閾値ThDを超えにくくなり、誤検出が回避される。
【0065】
一方、人306と静止物体304との差分距離ddは通常、ノイズの影響による静止物体304内での距離の変動幅より大きい。また、補正にて乗じられる信頼度r1(i,j)、r2(i,j)のうち、現在の距離画像に関する信頼度r1(i,j)は、受光量の大きい人306に対応するものであるため、大きな値であり得る。そのため、補正距離差分値dd'は人306の画像領域の全体にて基本的に閾値ThDを超え、図6(c)に示すように、差分二値画像のうち人306に対応した領域に画素値「1」が付与され、それ以外の領域に画素値「0」が付与される。この差分二値画像に基づいて侵入者判定部24は人306を侵入者として検知することができる。
【0066】
図7は、本装置による侵入者検知の処理の他の例を説明する模式図である。この例を用いて、本装置における背景距離画像と現在の距離画像との測距不能な領域の取り扱いを説明する。この例に示す監視空間には図6と同様の壁300及び静止物体302,304が背景として存在する。図7(a)は背景距離画像を表している。この距離画像において、反射率の低い静止物体304は、測距可能な領域304fと受光量が閾値Ibに満たなかった測距不能な領域304gとの両方を含む。
【0067】
図7(b)は現在の距離画像を表している。この距離画像には、静止物体304の前に人306が現れる。その人306の画像領域に重なる部分の背景は測距不能な領域304gである。また、環境ノイズによる受光量の変動により、静止物体304の画像領域のうち、背景距離画像では測距可能であった領域304f内の一部の領域304hが測距不能な領域に変化し、逆に背景距離画像では測距不能であった領域304g内の一部の領域304iが測距可能な領域に変化している。
【0068】
図7(c)は、これら図7(a)(b)に示す背景距離画像及び現在の距離画像に基づく、本装置による差分二値画像を示している。背景距離画像及び現在の距離画像の両方において測距不能である領域に関しては、距離変化なしと判断され、差分二値画像の画素値として「0」が付与される。背景距離画像及び現在の距離画像のいずれか一方において測距不能であるが他方にて測距可能である領域に関しては、測距可能である領域の受光量に応じて距離変化の有無が判断される。例えば、現在の距離画像において測距不能となった領域304hは、背景距離画像にて対応する領域304fの受光量が小さく閾値ThI未満となるため、距離変化なしと判断され、差分二値画像の画素値として「0」が付与される。また、現在の距離画像において測距可能となった領域304iは、その受光量が小さく閾値ThI未満となるため、やはり距離変化なしと判断され、差分二値画像の画素値として「0」が付与される。一方、人306の画像領域のうち領域304gに重なる部分に関しては、人306からの受光量が大きく閾値ThI以上となるため、距離変化ありと判断され、差分二値画像の画素値として「1」が付与される。なお、背景距離画像及び現在の距離画像の双方で測距可能である領域に関しては、図6を用いて説明した処理により差分二値画像の画素値が決定される。これにより、距離画像内に測距不能な領域が存在しても、人306に対応した画像領域が差分二値画像から抽出され、この差分二値画像に基づいて侵入者判定部24は人306を侵入者として検知することができる一方、その他の領域を人として誤検出することがない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施形態の侵入者検知装置の概略のブロック構成図である。
【図2】受光タイミング抽出部における処理を説明する受光信号に関する模式図である。
【図3】信頼度を説明する説明図である。
【図4】実施形態の侵入者検知装置の全体的な動作を説明する概略の処理フロー図である。
【図5】差分二値画像生成処理の概略の処理フロー図である。
【図6】実施形態の侵入者検知装置による侵入者検知の処理の一例を説明する模式図である。
【図7】実施形態の侵入者検知装置による侵入者検知の処理の他の例を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0070】
2 投光部、4 投光制御部、6 投光タイミング記憶部、8 走査ミラー、10 走査部、12 受光部、14 受光タイミング抽出部、16 距離算出部、18 データ生成部、20 背景データ記憶部、22 背景差分算出部、24 侵入者判定部、26 警報部、30 距離画像生成部、32 受光量データ生成部、34 信頼度データ生成部、36 測距可否データ生成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空間の距離画像に基づいて侵入物体の有無を判定する侵入検知装置において、
前記監視空間へ投光し、その反射光に基づいて前記監視空間に存在する物体までの距離計測値を前記距離画像の画素毎に求める測距手段と、
前記距離計測値を計測した前記反射光の受光量を検知する受光量検知手段と、
所定基準時における背景距離画像と監視対象とする対象距離画像との間での前記距離計測値の変化量に基づいて距離変化が生じた変化画素を抽出し、前記背景距離画像及び前記対象距離画像のうち一方にて測距不能である画素に関しては、前記背景距離画像と前記対象距離画像との相互間での当該画素に対応する前記受光量の相違に基づいて前記距離変化を判定する背景差分算出手段と、
前記変化画素に基づいて前記監視空間における前記侵入物体の有無を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする侵入検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の侵入検知装置において、
前記背景差分算出手段は、前記背景距離画像及び前記対象距離画像の一方のみ前記測距不能であった画素については、他方における前記反射光の受光量に応じて前記変化画素として抽出すること、を特徴とする侵入検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の侵入検知装置において、
前記測距手段は、前記受光量が第1の閾値未満である場合を前記測距不能とし、
前記背景差分算出手段は、前記背景距離画像及び前記対象距離画像の一方のみ前記測距不能であった画素について、他方における前記反射光の受光量が前記第1の閾値より大きい第2の閾値以上である場合に前記変化画素として抽出すること、
を特徴とする侵入検知装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の侵入検知装置において、
前記測距手段は、投光から前記反射光の受光までの応答時間に基づいて前記距離計測値を求め、前記投光から所定時間内に、所定値以上の受光量の前記反射光が得られない画素を前記測距不能とすること、を特徴とする侵入検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−121158(P2007−121158A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315246(P2005−315246)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】