説明

光変調素子、結晶化装置、結晶化方法、薄膜半導体基板の製造装置、薄膜半導体基板の製造方法、薄膜半導体装置、薄膜半導体装置の製造方法および表示装置

【課題】半導体膜から粒径の大きな結晶相の半導体を得る工程において、以降の工程で、アライメントマークとして利用可能なマーク構造を、同一の露光工程において半導体膜に形成する。
【解決手段】この発明は、光を変調して結晶化のための光強度分布を形成する光強度変調構造SPと、光強度変調構造と一体にまたは独立に設けられ、光を変調して所定形状のパターンを含む光強度分布を形成するとともに結晶化領域の予め定められた位置を示すマーク形成構造MKと、を有することを特徴とする光変調素子3に関する。この光変調素子によれば、絶縁基板上に所定厚さに堆積された半導体膜の任意の位置に、結晶核を形成し、その結晶核から所定の方向に結晶を成長させるとともに、半導体膜の任意の位置にアライメントマークAMを、同一工程で形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアクティブマトリックス型フラットパネルディスプレイ等の表示装置に適用可能な薄膜半導体基板、薄膜半導体基板の製造装置、薄膜半導体基板の製造方法、結晶化装置、結晶化方法、光変調素子、薄膜半導体装置および薄膜半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶表示装置は、一般に薄型、軽量、低消費電力でカラー表示も容易であるという特徴を有し、この特徴からパーソナルコンピュータや様々な携帯用情報端末のディスプレイとして広く用いられている。液晶表示装置がアクティブマトリクス型である場合には、薄膜トランジスタが画素スイッチング素子として設けられる。
【0003】
この薄膜トランジスタの活性層(キャリア移動層)は、例えばシリコン半導体薄膜からなる。シリコン半導体薄膜は、非晶質シリコン(アモルファスシリコン:a−Si)及び結晶相を有する多結晶質シリコン(非単結晶の結晶質シリコン)に分類される。
【0004】
多結晶質シリコンは、主に多結晶シリコン(poly−Si)であり、微結晶シリコン(μc−Si)も多結晶質シリコンとして知られている。シリコン以外の半導体薄膜材料としては、例えばSiGe,SiO,CdSe,TeあるいはCdS等が挙げられる。
【0005】
多結晶質シリコンのキャリア移動度は、非晶質シリコンのキャリア移動度の10倍から100倍程度大きい。この特性は、スイッチング素子に用いられる半導体薄膜材料としては、非常に優れている。そこで、最近、電子又は正孔の移動度を向上させ且つチャネル部における結晶粒界数のバラツキを少なくするために、大粒径の結晶化シリコンを生成する結晶化方法が提案されている。
【0006】
結晶化シリコンの結晶粒の大きさを大粒径とする結晶化方法として、光学系に位相シフタ(位相変調素子)を介在させて発生させた特定の光強度分布を有する光を、処理対象である半導体膜に照射することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
また、非晶質半導体薄膜を結晶化する際に結晶粒の粒径を大粒径とする方法として、位相変調素子を用いて空間的に強度変調されたエキシマレーザを照射することが本発明者から提案されている。この方法は、非晶質のシリコン薄膜をレーザ光により溶融、再結晶化させることで多結晶シリコン薄膜に変化させるもので、位相変調エキシマレーザ結晶化法と呼ばれている(例えば、非特許文献1を参照)。本発明者等は、この技術を工業化するための開発を行っている。
【0008】
ところで、非特許文献1に記載の結晶化法により形成された大粒径の単結晶シリコン粒は、無数にある小粒径多結晶シリコンまたは非晶質シリコンに囲まれている。大粒径の単結晶化シリコン粒とは、1又は複数の薄膜トランジスタのチャネル領域を形成できる大きさである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−306859号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】表面科学Vol.21,No.5,pp.278-287,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、例えば非特許文献1に記載された結晶化方法を工業化するための開発を実行している。この開発において、大粒径の結晶化シリコン粒を得ることができたとしても、大粒径の単結晶のシリコン粒の範囲に薄膜トランジスタのチャネル領域が形成されずに位置ずれした場合、薄膜トランジスタの電気特性、例えばスイッチング特性は、極端に劣化することが知られている。
【0012】
このため、上述の結晶化により得られる大粒径の単結晶シリコン粒と薄膜トランジスタのチャネル領域とを一致させることは、薄膜トランジスタのスイッチング特性を高速化するために、必須である。大粒径の単結晶シリコン粒と薄膜トランジスタが形成される位置とを一致させるために、位相変調方式で結晶化する際に、位置あわせに用いるアライメントマークを同時に形成することが、本願発明者らにより研究されている。
【0013】
しかしながら、位相変調方式で結晶化する方法では、高いフルエンスが必要であるが、このようなフルエンスでは、パターンのない部分は、アブレーションしてしまう(膜破壊が起きる)。このため、結晶粒の形成とアライメントマークの形成は、同時にできない問題がある。
【0014】
このように、基板上に形成された大粒径の単結晶シリコン粒の範囲と薄膜トランジスタが形成されるべき位置を正確に一致させる方法および装置は、現在のところ確立されていない。
【0015】
この発明の目的は、結晶化により大粒径の結晶粒が形成された領域に、半導体能動素子すなわちスイッチング素子の形成を精度よく可能とする方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、基板と、この基板に設けられた非単結晶半導体膜に二種類以上の光強度分布のレーザ光を照射して非単結晶半導体膜を結晶化して結晶領域を形成するとともに前記結晶領域に対応してアライメントマークを形成する結晶化方法であって、
前記二種類以上の光強度分布のレーザ光に照射された前記非単結晶半導体膜を第1および第2の光強度分布領域のうちの第2の光強度分布領域は前記アライメントマークを形成するための光強度の異なる2種類の領域であり、
前記第1の光強度分布領域の光強度の最大値をIとし、
前記第2の光強度分布領域の光強度を、大きな方からIおよびIとすると各光強度の関係は、 I > I > I であり、
前記第2の光強度分布のうち、Iは前記非単結晶半導体膜に形成されるアライメントマークが消失する強度よりも小さく、Iは前記非単結晶半導体膜の結晶形態が変化するために必要な強度よりも小さいものであることを特徴とする結晶化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光強度を自由に変化させることにより、薄膜半導体を有する処理対象の基板上に、半導体膜から粒径の大きな結晶相の半導体を得るためのフルエンスの照射と同一工程で、アライメントマークを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態が適用可能な結晶化装置の一例を説明する概略図。
【図2】図1に示した結晶化装置において、結晶化のために光源から提供される光の光強度を、所定の光強度に設定するためのマークパターンMKの一例を示す概略図。
【図3】図2に示したマークパターンを透過する光の強度の変化の様子およびその程度の一例を説明する概略図。
【図4】図3(a)に示したマークパターンおよび位相変調構造が、透過する光の強度を変化できる原理を説明する概略図。
【図5】図4により説明した点像分布範囲内での位相の変化と光強度との関係を説明する概略図。
【図6】図1に示した結晶化装置に組み込まれる結像光学系の瞳関数と点像分布関数との関係を説明する概略図。
【図7】図2により説明したマークパターンの第1の位相値の部分と第2の位相値の部分とを一組としたときの透過部の占める割合(デューティ比)を説明する概略図。
【図8】図7に示したマークパターン(位相変調素子)を透過する光の光強度と位相差との関係および第1の位相値の部分と第2の位相値の部分との関係を説明する概略図。
【図9】図2に示したマークパターンを光を遮光する金属薄膜を選択的に設けることにより、遮光部と非遮光部の組すなわち、1ブロック(1単位)あたりで所定の面積となる透過部とする例を説明する概略図。
【図10】図9に示したマークパターンの光を遮光する領域の面積/光が透過可能な領域の面積の比であるデューティ比を説明する概略図。
【図11】図10を例に説明した1ブロック(単位)毎に、遮光部と非遮光部の割合を変化させた際の通過する光の光強度の変化を説明する概略図。
【図12】結晶成長のために半導体膜に所定強度の光を照射する際に、半導体膜に、同時にアライメントマークを形成するために利用可能な光強度を提供する光強度変更パターンの一例を説明する概略図。
【図13】図12(a),図12(b)に示したパターンを用いて絶縁基板上の半導体膜に所定の強度の光を照射することで得られる光強度分布の一例を説明する概略図。
【図14】図12(a),図12(b)及び図13により説明した原理を用い、同一基板上の半導体膜に、同一の工程で、1100mJ/cmのフルエンスの光を照射した結果の一例を示す拡大写真。
【図15】図14(a)の領域[A]部分を拡大した拡大写真。
【図16】図14(a)に示したパターンを用いて基板上の半導体膜にマークを形成し、周知のフォトリソグラフィ装置(検出装置)で検出した結果の一例を説明する概略図。
【図17】図1に示した結晶化装置に用いられるマークパターン(位相変調素子)の一例を説明する概略図。
【図18】図2に示した位相変調素子を用いて、絶縁基板上の被処理面に、電子デバイス(半導体能動素子)を形成する工程の一例を説明する概略図。
【図19】図18に示す電子デバイスを形成する工程で、アライメントマークAMを基準として基板を、基板の平面沿って移動する例を説明する概略図。
【図20】図3(a)により説明した位相変調素子により非晶質半導体膜の表面の所定の領域に予めアライメントマークが形成された半導体膜を支持する透明な絶縁基板を用いて製造される表示装置の一例を示す概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態が適用可能な結晶化装置の一例を概略的に示している。
【0021】
図1に示す結晶化装置は、非単結晶半導体膜を加熱する波長、例えば248nmの波長を有し、非単結晶半導体膜の照射部を溶融させるレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置(光源)1を有する。なお、光源1としては、例えばYAGレーザ装置等を用いることができる。また、エキシマレーザ装置においても、非単結晶半導体膜を加熱・溶融させるエネルギーを出力する光源であれば、例えばXeClレーザ等も利用可能である。
【0022】
光源1からのレーザ光は、照明光学系2を介して面内の光強度が概ね均一化され、照明光学系2の焦点位置に設けられる位相変調素子3に照射される。
【0023】
照明光学系2には、図示しないホモジナイザが設けられている。このホモジナイザは、入射したレーザ光について、照射面内において、光強度の均一化を行う。
【0024】
位相変調素子3を通過した光は、位相変調素子3により面内の光強度に所定の強度分布が与えられて、結像光学系4に入射される。
【0025】
結像光学系4に入射された光は、ステージ5に保持された処理対象である基板6に集光される。すなわち、ステージ5に保持されている基板6には、位相変調素子3により結晶化させるため予め定められた所定の強度分布が与えられた光が照射される。
【0026】
ステージ5は、例えばX−Y−Z−θコントローラ7の制御により、基板6を結像光学系4による照明光により定義される面内(以下露光面と呼称する)に沿って、任意に移動可能である。これにより、基板6の任意の位置に、位相変調素子3により提供される光強度分布の与えられた照明光が、位相変調素子3の大きさに依存して規定される所定間隔毎に照射される。
【0027】
基板6は、詳細は、図18を用いて後段に説明するが、絶縁基板、例えばガラス基板上に、下地保護膜を介して非単結晶半導体膜、キャップ膜を積層した構成である。下地保護膜は、ガラス基板からの不純物の浸透を防止するとともに非単結晶半導体膜の溶融する時に発生する熱を吸熱し、蓄熱する機能を有するもので、例えば酸化シリコン膜、有機SOG膜である。非単結晶半導体膜は、半導体能動素子や受動素子が形成されるもので、非結晶半導体膜、多結晶半導体膜などである。非単結晶半導体薄膜としては、その他例えばSiGe,SiO,CdSe,TeあるいはCdS等が利用可能である。キャップ膜は、非単結晶半導体膜の溶融する時に発生する熱を吸熱し、蓄熱する機能を有する材料で、例えば酸化シリコン膜である。
【0028】
図2は、図1に示した結晶化装置に適用可能で、位相変調素子と一体的に設けられることにより、結晶化のために光源から提供される光の光強度を、例えばアライメントマークを形成するための所定の光強度に設定することのできるマークパターンの一例を示す。
【0029】
マークパターンMKは、透過する光に、その光が結像対象物に結像された状態で所定の強度分布が得られるよう、任意の領域毎に、主として位相遅れすなわち位相差を提供することができる。マークパターンMKは、透過する光に、その光が結像対象物に結像された状態で所定の強度分布が得られるよう、任意の領域毎に、主として透過光量の差を与えるものであってもよい。マークパターンMKは、メッシュ状もしくはドット状に形成されてもよい。
【0030】
マークパターンMKは、例えば位相変調素子3の基板3aを選択的にエッチングして厚さの差(段差)を設けることにより規定される。なお、位相変調素子3の基板3aに用いることのできる基板の材質としては、好ましくは石英ガラスである。なお、マークパターンMKは、位相変調素子3を構成するガラス材、好ましくは石英ガラスに、機械加工またはケミカル加工により段差を設けることにより製造できる。また、マークパターンMKは、例えば位相変調素子基板3a上に予め形成した光透過性材料からなる膜を所定形状にパターニングすることでも形成可能である。なお、マークパターンMKが光透過性材料からなる膜である場合、例えばその厚さを制御することにより、もしくは専有面積を変更することにより、所定の光強度分布を得ることができる。
【0031】
図3は、図2に示したマークパターンが一体に設けられた位相変調素子の特性を説明する概略図である。図3(a)は、図2により説明したマークパターンが一体に設けられた位相変調素子の概略全体平面を示し、図3(b)および図3(c)は、図3(a)に示した位相変調素子の線B−Bにより示した位置と線C−Cにより示した位置に沿って光が透過することにより得られる光強度分布を、それぞれ示す。
【0032】
図3(b)と図3(c)に示す縦軸は、粒径の大きなSi結晶を所定の方向に成長させるパターンにおいて、a−Si膜すなわち半導体膜にアブレーションが生じることなく結晶成長することのできる最大フルエンスIで規格化した光強度を示している。
【0033】
マークパターンMKを通過した規格化された光の強度を「β」,「γ」とすると、「β」と「γ」の大きさは、結晶化するフルエンスでマーク形成を行うため、
1 > γ > β
である。
【0034】
「γ」の値は、実際には、被照射物上のa−Si層の厚さのばらつきや、被照射物の厚みムラもしくは被照射物と照射光学系との間の距離の変動などに起因する余裕分を考慮して設定される。すなわち、マークパターンMKの部分に照射される光の光強度の上限値γは、上述のアブレーションが生じて、基板上の半導体膜すなわちマークパターンMKに対応して半導体膜に形成されるアライメントマークが消失することのない強度に設定されなければならない。アブレーションが発生した領域は、アライメントマークとして認識可能となる精度(形成されたマークパターンMKが残存する確率)が低下してしまうからである。
【0035】
ところで、a−Siとp−Siあるいはc−Siは屈折率が異なるので光学的に認識することが可能である。つまり、マークパターンを認識するためには、マークパターンをa−Si領域とp−Si領域あるいはc−Si領域とで形成することが必要である。従って、結晶化すべき半導体膜の結晶化が開始される光強度(結晶形態が変化するために必要な光強度)を「α」とすると、「β」,「γ」は、
γ > α > β ・・・(A)
を満足する必要がある。
【0036】
なお、本発明の効果をさらに良好に達成するには、条件式(A)の下限値βと上限値γを使用波長、光強度、半導体膜構造、光強度分布に応じて最適値に設定することが好ましい。
【0037】
被照射物は、例えば厚さ0.7mmのガラス板上、厚さ300nmのSiO層(下部絶縁層)を形成し、その上に厚さ200nmのa−Si層と厚さ300nmのSiO層(上部絶縁層)を設けたガラス基板である。ここで、図1に示した結晶化装置の光源からの光の波長λを248nm(KrFエキシマレーザ光)とし、結像光学系4を等倍光学系、結像光学系4の物体側開口数を0.031とする。また、照明系のシグマが0.5になるように、結像光学系4の開口数NAを0.0155とする。なお、位相変調素子3は、180度の位相差が付与されているものとする。
【0038】
この条件による実験によれば、上述のa−Si膜の設けられた被照射物に光強度を変えながらエキシマレーザ光(波長248nm)を照射した場合に、結晶化のためのフルエンスでのピーク値が1000mJ/cmを超えると、アブレーション(膜破壊)により、a−Siおよびp−Siが消失することが認められる。
【0039】
一方、光強度が200mJ/cm以下においては、結晶化は起きず、ガラス基板上のa−Si膜は、a−Siのままであることが確認されている。
【0040】
従って、光強度が200mJ/cmを超え1000mJ/cm以下の場合において、ガラス基板上の半導体膜が、p−Si(ポリシリコンすなわち微細結晶)もしくは結晶状態(c−Si)となることが認められた。
【0041】
このことから、大粒径のSi結晶を成長させる位相変調パターンにおいて、アブレーションが生じるレーザ光の光強度を「1」として規格化した場合に、ガラス基板上のa−Si膜の結晶化が開始される臨界値である「α」は、
α=0.2
と表すことができるので、このとき、「β」と「γ」との関係は、
γ > 0.2 > β
と与えられる。
【0042】
図4は、結像光学系により処理対象である基板に照射される光の強度を変化できる原理を説明している。
【0043】
一般に、位相変調素子3による結像の光振幅分布U(x,y)は、式(B)
U(x,y)=T(x,y)*ASF(x,y)・・・(B)
で表わされる。なお、式(B)において、T(x,y)は位相変調素子3の複素振幅透過率分布を、*はコンボリューション(たたみ込み積分)を、ASF(x,y)は結像光学系3の点像分布関数をそれぞれ示している。また、点像分布関数とは、結像光学系による点像の振幅分布と定義する。
【0044】
なお、位相変調素子3の複素振幅透過率分布Tは振幅が均一であることから、式(C)
T=Tiφ(x,y)・・・(C)
で表わされる。
【0045】
この場合、式(C)において、Tは一定の値であり、φ(x,y)は、位相分布を示している。
【0046】
また、結像光学系4が均一な円形瞳を有し、且つ収差がない場合、点像分布関数ASF(x,y)に関して、式(D)
ASF(x, y) ∝ 2J(2π/λ・NA・r)/(2π/λ・NA・r)・・・(D)
ただし、r=(x+y1/2
に示す関係が成立する。
【0047】
なお、式(D)において、Jはベッセル(Bessel)関数を、λは光の波長を、NAは上述したように結像光学系4の像側開口数をそれぞれ示している。
【0048】
より詳細には、図4(a)に示す結像光学系4の点像分布関数は、被処理基板6の像面4fでの光強度分布であり、図4(b)に示すような形状である。図4(b)において、横軸は基板6の入射面であり、縦軸は入射光強度である。
【0049】
すなわち、図4(a)に示す結像光学系4の点像分布関数は、図4(b)に破線で示す直径Rの円筒形4eで近似することができる。従って、図4(c)に示す位相変調素子3上の直径R’(図4(b)の直径Rに光学的に対応する値)の円内の複素振幅分布を積分したものが図4(a)に示した像面4f上の複素振幅を決定する。
【0050】
上述したように、像面4fに結像された結像の光振幅すなわち光強度は、位相変調素子3の複素振幅透過率分布と点像分布関数とのコンボリューションで与えられる。
【0051】
点像分布関数を円筒形4eで近似して考えると、図4(c)に示す円形の点像分布範囲R´内で、位相変調素子3の複素振幅透過率を均一重みで積分した結果が、像面4fでの複素振幅になり、その絶対値の二乗が光強度となる。
【0052】
なお、結像光学系4での点像分布範囲Rは、点像分布関数によって描かれた図4(b)の振幅曲線と横軸4iとの交点4j内の範囲をいう。
【0053】
従って、点像分布範囲R内で位相の変化が少ないほど光強度は大きくなり、逆に位相の変化が大きいほど光強度は小さくなる。このことは、図4(d)に示すように、単位円4g内での位相ベクトル4hの和で考えると理解しやすい。
【0054】
図5は、図4(a)〜図4(d)により説明した点像分布範囲R内での位相の変化と光強度との関係を説明する概略図である。
【0055】
図5(a)は、4つの領域の位相値がすべて0度の場合を示す図であり、0度方向のそれぞれEの振幅を持つ4つの位相ベクトル5gの和が振幅4Eとなり、その二乗が光強度16Iに対応することになる。図5(b)は、2つの領域の位相値が0度であり、他の2つの領域の位相値が90度の場合を示す図であり、0度方向の2つの位相ベクトルと90度方向の2つの位相ベクトルとの和が振幅2√2Eに対応し、その二乗が光強度8Iに対応することになる。
【0056】
なお、図5(c)は、位相値が0度の領域と位相値が90度の領域と位相値が180度の領域と位相値が270度の領域の場合を示す図である。すなわち、0度方向の位相ベクトル5sと90度方向の位相ベクトル5tと180度方向の位相ベクトル5uと270度方向の位相ベクトル5vとの和のベクトルの振幅は0Eとなり、その二乗が光強度0Iに対応することになる。
【0057】
図6は、結像光学系4における瞳関数と点像分布関数との関係を示す図である。なお、図6(a)は、瞳関数と透過率との関係を示し、図6(b)は、点像分布関数と瞳関数との関係を示している。
【0058】
一般に、点像分布関数(図6(b))は、瞳関数(図6(a))を、フーリエ変換して得られる。具体的には、結像光学系4が均一な円形瞳を有し、且つ収差がない場合、点像分布関数ASF(x,y)は、上述の式(D)により表わされる。
【0059】
均一ば円形瞳で収差がない場合、点像分布関数が最初に0となるまでの中央領域(すなわちエアリーディスク)の半径R/2は、式(E)
R/2=0.61λ/NA ・・・(E)
で表わされることが知られている。
【0060】
本発明においては、点像分布範囲Rは、図5(b)および図6(b)に示すように点像分布関数F(x)が最初に0となるまでの円形状の中央領域を意味している。
【0061】
すなわち、図5(a)〜図5(c)に示したように、結像光学系の点像分布範囲Rに光学的に対応する円の中に複数(図5(a)〜図5(c)では4つ)の位相変調単位が含まれていると、複数の位相ベクトル5gの和により光の振幅を、すなわち光の強度を解析的に、且つ簡単な計算に従って制御することが可能である。このようにして、比較的複雑な光強度分布であっても比較的容易に得ることができる。
【0062】
従って、本発明では、光強度を自由に制御するために、位相変調素子3の位相変調単位は、結像光学系4の点像分布範囲R(図4(b)参照)の半径すなわちR/2よりも光学的に小さいことが必要である。換言すれば、結像光学系4の像側における結像光学系の結像面(所定面)に換算して位相変調素子3の位相変調単位に基づく位相分布の大きさは、結像光学系4の点像分布範囲Rの半径R/2よりも小さいことが必要である。なお、図3(a)に示した単位範囲Cは、実質的に、図4(b)を用いて説明した点像分布範囲Rと同一の大きさである。
【0063】
図2により説明したマスクパターンMKは、図7(a)〜(c)に示すように、1ブロック(1単位)あたりで、位相値を変化させる領域の面積(デューティ比)Dおよびその位相差を変えることで、図8を用いて以下に説明するように、透過する光の光強度を任意に設定できる。この場合、例えば、図7(b)を例に説明すると、位相値を変化させない部分または第1の位相値φ2を与える部分を互いに直交するラインLpにより形成することで、位相値が異なる部分すなわち第2の位相値φ1部分がドット状Dpとなる。もちろん、第1の位相値φ2部分と第2の位相値φ1部分が逆であってもよいことはいうまでもない。また、1ブロックあたりで位相値が変化される面積も任意に設定できることもできる。なお、図7(a)は、ディーティ比Dがおおむね5%の例を、図7(b)は、同Dがおおむね50%の例を、図7(c)は、同Dがおおむね90%の例を、それぞれ示している。
【0064】
図8は、図2および図3(a)により説明した位相変調素子の第1の位相値の部分と第2の位相値の部分とを一組としたピッチ(1ユニット)あたりの透過部の占める割合(横軸)すなわち図7(a)〜(c)に示したような異なる位相値の領域相互の面積比の変化と基板に照射される光の強度(%)との関係を示している。
【0065】
図8から明らかなように、位相変調素子3の位相変調領域1ユニットにおける第1の位相値の部分と第2の位相値の部分との面積比を変えることで、位相変調素子3を通過する光の光強度を任意に設定可能である。なお、位相変調領域1ユニットの大きさは、図2および図3(a)により前に説明した単位範囲Cの大きさにより規定される。また、単位範囲Cの大きさは、結晶化装置のレンズ(照明光学系2)のNAと光源1から出射される光の波長λによって決まることは、前に説明した通りである。なお、位相変調素子3の位相変調領域1ユニットの第1の位相値部と第2の位相値部を構成する際の単位範囲C(図2および図3(a)参照)の大きさは、λ/NA以下に設定されなければならない。
【0066】
図8から明らかように、位相差θを、θ=60°(または300°)、θ=90°(または270°)、θ=120°(または240°)およびθ=180°のいずれかとした場合、図7(a)〜図7(c)により説明したデューティ比Dが50%となる場合を最小光強度として、デューティ比が0%から50%までの間は、次第に光強度が減少し、デューティ比が50%から100%までの間は、次第に光強度が増大することが認められる。
【0067】
この光強度の変化は、
Iを光強度
θを位相差
Dをデューティ比(位相値の異なる領域の面積比)
とするとき、以下に示す(F)式により
I=(2−2cosθ)D−(2−2cosθ)D+1 ・・・(F)
により説明される。
【0068】
従って、位相値変調型のマスクパターンMKを用いて基板上の半導体膜に、アライメントマークを形成する際の最適な露光光の光強度は、基板上の半導体膜の組成や厚さ等の半導体膜側の要因と、マスクパターンMKに与えられる位相差およびそのデューティ比Dに基づいて任意に設定される。
【0069】
次に、マークパターンMKを、ガラス基板上に、例えば光を遮光することのできる金属材料を、所定幅(面積)及び間隔(スペース)で配列する透過光量変調型とする例を説明する。
【0070】
図9に示すように、マークパターンMKは、位相値を異ならせる方法以外にも、光を遮光する金属薄膜を選択的に設けて、遮光部Ps(またはPt)と1ブロック(1単位)あたりで所定の面積となる非遮光部(すなわち透過部)Ss(またはSt)を配列することでも形成される。例えば、図10(a)〜図10(c)に示すように、1ブロック(1単位)あたりで、光が透過することを抑止する領域の面積すなわち遮光部Ps(またはPt)と非遮光部Ss(またはSt)との比率を変えることにより、図11により説明するように、マークパターンMKを透過する光の光強度を任意に設定できる。いうまでもなく、非遮光部と遮光部は、金属薄膜を選択的に設ける方法に応じて、任意に製造可能である。この場合、例えば、図10(b)を例に説明すると、非遮光部を互いに直交するスペースSsにより形成する場合は、遮光部Psがドット状となり、相互に直交するストライプ状の金属薄膜Stを設ける場合は、非遮光部Ptがドット状となる(透過部および遮光部のそれぞれは、逆転したパターンであるから、面積比のみを考慮すると、マークパターンMKは、2種類となる)。
【0071】
より詳細には、図10(a)〜図10(c)に示すように、1ユニット(すなわち上述したブロックを概ね4〜9ブロックとし、図2および図3(a)により前に説明した単位範囲Cに相当する)あたりの、光遮光部の面積/1ユニットの面積をデューティ比Dとすることで、図11を用いて以下に説明するように、位相変調素子のマークパターンMK部分を透過する光の光強度を任意に設定できる。なお、図10(a)は、ディーティ比Dがおおむね0%(全透過すなわち非遮光)の例を、図10(b)は、同Dがおおむね50%の例を、図10(c)は、同Dがおおむね100%(全遮光)の例を、それぞれ示している。
【0072】
図11は、図10(a)〜図10(c)を例に説明した光を遮光する金属薄膜を選択的に設け、遮光部と非遮光部の割合すなわちデューティ比Dをを変化させた際の位相変調素子3を通過する光の光強度の変化を説明している。なお、非遮光部の1ユニットの大きさは、図2および図3(a)により前に説明した単位範囲Cの大きさにより規定される。また、単位範囲Cの大きさは、結晶化装置のレンズ(照明光学系2)のNAと光源1から出射される光の波長λによって決まることは、前に説明した通りである。
【0073】
図11から明らかように、デューティ比Dが0%(全透過)、D=50%およびD=100%(全遮光)のいずれかとした場合、デューティ比Dが100%となる場合を最小光強度として、デューティ比が0%(全透過)から次第に光強度が減少されることが認められる。
【0074】
この光強度の変化は、
Iを光強度
Dをデューティ比(遮光面積/透過(非遮光)面積)
とするとき、以下に示す(G)式により
I=(1−D)=D−2D+1 ・・・(G)
により説明される。
【0075】
このように、光遮光型のマスクパターンMKを用いて基板上の半導体膜にアライメントマークを形成する際の最適な露光光の光強度は、基板上の半導体膜の組成や厚さ等の半導体膜側の要因と、マスクパターンMKの遮光面積/光透過面積の比(デューティ比)Dに基づいて任意に設定される。
【0076】
以下、図12(a)および図12(b)を用いて、図9および図10(a)〜(c)により説明した所定の光強度を提供可能な透過光量変調型パターンにより光強度が変化させた結果について説明する。
【0077】
例えば、大粒径の単結晶シリコン粒を結晶成長させるためには、例えば1J/cm程度のフルエンス(照射光)を必要とする。しかしながら、図12(b)に示すように、位相値を変化させる領域が無く、総ての光が透過可能な領域9bのみからなるパターンを用いた場合、図13に曲線bで示すように、半導体膜上に1J/cmのフルエンスの光が、そのまま照射される。従って、上述したアブレーションが生じて、アライメントマークとして認識できるパターンを形成することは困難である。これに対して、図12(a)に示すように、光が透過可能な領域9bに、所定比率(面積比)で位相値を変化させることのできる領域9aを設けることで、透過光量すなわち光強度を、任意に設定できる。図12(a)に示すパターンにおいて、例えばそのデューティ(非遮光部分の面積/全面積)を40%とした場合、光強度は、図13に曲線aで示すように、1J/cmのフルエンスの光の透過量を「1」として正規化した場合、概ね60%となることが、シミュレーションにより確認されている。
【0078】
図14(a)及び図14(b)は、図12(a)および図12(b)ならびに図13により説明した原理を用い、同一基板上の半導体膜に、同一の工程で、1J/cmのフルエンスの光を照射した結果の一例を示す拡大写真である。
【0079】
図14(a)に示されるように、位相変調素子として機能する所定の位相値の領域を有し、照射光のフルエンスを一定強度に制限できるパターンを用いて所定の強度の光を照射した場合、基板(検証サンプル)上に、元のパターンに対応するコントラストの差が形成されることが認められる。これに対し、同一の工程において、同一基板(検証サンプル)上に、非強度制限パターンすなわち位相変調素子としての機能を持たないパターンにより所定の強度の光を照射した場合、図14(b)に示すように、基板上の半導体膜が黒化して元のパターンが確認できない。このことは、基板上の半導体膜に、アブレーション(膜破壊)が生じたと考えることが妥当である。
【0080】
図15は、図14(a)の領域[A]部分を拡大したものである。なお、図15において、中央付近の背景の色の濃さが異なる部分が、図14(a)における背景の色の濃さが異なる境界部分に対応する。また、図15から明らかなように、基板上の半導体膜に形成されたパターンは、3μmピッチであり、アライメントマークとして利用可能なパターンであっても十分に解像可能であることが認められる。
【0081】
図16は、図14(a)に示したパターンを用いて基板上の半導体膜に形成したマークを周知のフォトリソグラフィ装置で検出した結果を示している。図16から、フォトリソグラフィ装置における通常の工程で処理するアライメント検出と同様の信号検出ができていることがわかる。
【0082】
すなわち、上述した本発明の原理を適用する(透過する照射光の強度または位相値を、例えば面積比の変化によって任意に設定可能なパターンを用いる)ことで、大粒径の単結晶シリコン粒を結晶成長させるとともに、アブレーションを生じさせることなく基板上の半導体膜にアライメントマークを形成することができる。
【0083】
以上説明したように、本発明の光変調素子を用いることにより、基板上の半導体膜に所定の強度分布(所定のフルエンス)の光を照射して半導体膜を構成する半導体を結晶成長させる際に、以降の工程において利用可能なアライメントマークを、同一の工程において形成できる。これにより、例えば結晶成長された半導体膜の結晶領域に対応して半導体能動素子等を形成する際のアライメントが容易になる。なお、アライメントマークは、位相変調素子に組み込まれるマークパターンの位置を変更することで、結晶を成長させる半導体膜の任意の位置に形成可能である。従って、本発明により、基板上の半導体膜の任意の位置にアライメントマークを設けることが後段の工程で形成される半導体能動素子等の特性に影響を及ぼすこともない。
【0084】
すなわち、本発明の光変調素子は、光を変調して所定の光強度分布を形成する二種類以上の光強度変調領域を有し、少なくとも一種類の光強度変調領域は二種類の基本パターンから構成される。第1の基本パターンは、遮光領域と透過領域の集合からなり、第2の基本パターンは、遮光領域のみ、もしくは第1の基本パターンに比較して遮光領域の面積の比率の大きな遮光領域と透過領域の集合からなることを特徴とする。
【0085】
この構成は、例えば図9ならびに図10(a)〜(c)に示したマークパターンMK(3)における個々のブロックの遮光部PsまたはPtと非遮光部すなわち光透過領域SsまたはSt、ならびにマークパターンMKが一体的に形成される光変調素子3として、説明される。
【0086】
また、本発明の光変調素子は、二種類以上の光強度変調領域を有し、少なくとも一種類の光強度変調領域が、異なる位相変調値を有する二種類以上の位相変調領域の集合からなる第1の基本パターンと、単一位相値の領域のみ、もしくは第1の基本パターンに比較してその面積率が異なる二種類以上の位相変調領域の集合からなる第2の基本パターンと、を有することを特徴とする。
【0087】
この構成は、例えば図2ならびに図7(a)〜(c)に示したマークパターンMK(3)における個々のブロックの第1の位相値φ1(またはDp)と第2の位相値φ2(またはLp)、ならびにマークパターンMKが一体的に形成される光変調素子3として、説明される。
【0088】
また、本発明は、非単結晶半導体膜に二種類以上の光強度分布の光を照射して非単結晶半導体膜を結晶化する結晶化方法において、
二種類以上の光強度分布を与えるための第1および第2の光強度分布領域のうちの第2の光強度分布領域は光強度の異なる2種類の領域から構成され、
第1の光強度分布領域の光強度の最大値をIとし、
第2の光強度分布領域の光強度を、大きな方からIおよびIとする際に、
> I > I
とすることを特徴とする結晶化方法である。
【0089】
また、均一な光強度分布を有する光が照射されることで非単結晶半導体膜にアブレーションが生じる最小の光強度をIとするとき、
> I > I
である。
【0090】
一方、均一な光強度分布を有する光が照射されることで非単結晶半導体膜が溶融する最小の光強度をIとするとき、
> I > I
である。
【実施例】
【0091】
図18(a)〜(f)は、本実施形態の結晶化装置を用いて結晶化された領域(被処理面)に電子デバイス(半導体能動素子)を作製する工程を示す工程断面図である。
【0092】
図18(a)に示すように、絶縁基板80(例えば、アルカリガラス、石英ガラス、プラスチック、もしくはポリイミド等)が、用意される。絶縁基板80上には、下地膜81(例えば、膜厚50nmのSiNあるいは膜厚100nmのSiO積層膜類)及び非晶質半導体膜82(例えば、膜厚50nm〜200nm程度のSi,Ge,SiGe等)及びキャップ膜(例えばSiO,SiON,SiOx,SiN等)83が、化学気相成長法やスパッタ法により成膜されている。次に、例えば図3(a)により前に説明したマークパターンMKが一体に形成されている位相変調素子3を介して、非晶質半導体膜82及びキャップ膜83の表面の一部または全部、例えば予め定められた領域にレーザ光E(例えばKrFエキシマレーザ光やXeClエキシマレーザ光)が照射される。
【0093】
位相変調素子3は、図17に示す通り、アライメントマークのためのマークパターンMKの他に、処理対象である基板6で結晶成長させるための位相シフトパターンSPが形成されている。
【0094】
図3(a)により前に説明したが、位相変調素子3は、結像光学系4の既に説明した点像分布範囲の直径(図3(a)に「C」で示す円)よりも光学的に幅の小さなライン部31とスペース部32からなるラインアンドスペースパターン30を有する。なお、単にラインアンドスペースパターンと呼称する場合、一般に透過領域と非透過領域の組を示すが、本発明では二種類の異なる位相の繰り返しをラインアンドスペースと表記する。
【0095】
図3(a)においては、斜線を施した各ライン部31は、第1の位相値φ1(例えば0度)を有し、斜線を付加しない空白として示した各スペース部32は、第2の位相値φ2(例えば180度)を有する。また、互いに隣接するライン部31の幅とスペース部32の幅との比、すなわち第1の位相値φ1の部分と第2の位相値φ2の部分とを一組としてピッチを示すとき、第1の位相値φ1の占める割合が矢印x方向に沿って変化している。
【0096】
具体的には、図3(a)に示す位相変調素子においてはラインアンドスペースパターン30の中央(位置30A)において、デューティ比(ライン部31の幅/ピッチ)が0%で、周辺に向かうにつれてデューティ比が5%ずつ増大するパターンが与えられている。なお、位相変調素子3の両側(位置30B)では、デューティ比は50%である。
【0097】
すなわち、図3(a)に示した位相変調素子3においては、位相値φ1の第1領域としてのライン部31と位相値φ2の第2領域としてのスペース部32との占有面積率が位置によって変化する位相分布を有する。
【0098】
以上のように、結像光学系4の点像分布範囲に光学的に対応する単位範囲Cに含まれるライン部31とスペース部32との占有面積率を、適宜変化させることで、基板6上での光強度分布を所定の大きさに制御することができる。
【0099】
具体的には、図3(a)に示したように、長手(矢印x)方向の中央付近を、実質的に第1の位相値φ1(0度)とし、矢印x方向の両端部に向けて、次第に第2の位相値φ2(180度)の領域の比が増えるようにラインアンドスペースパターン30を形成する。
【0100】
矢印zで示すように用紙表面(手前側)から裏面(奥側)方向に位相変調素子3を透過する入射光は、図3(b)に示すように、ラインアンドスペースパターン30の中央に対応する位置30Aを透過した場合に最も光強度が大きくなる。一方、ラインアンドスペースパターン30の両側に対応する位置30Bを透過した入射光の光強度は、最も小さくなる。すなわち、図3(a)に示したようなシフトパターンが与えられた位相変調素子3を用いることにより、長手(矢印x)方向に関して、アルファベットのVと逆さまにしたVが交互に並んだようなジグザグの光強度パターンの光強度分布が得られる。この場合、光強度のピークは、位相変調素子3において矢印x方向の概ね中央である位置30Aを透過する光により規定される。
【0101】
以上説明したように、図3(a)に示した位相変調素子3を用いることで、図3(b)に示すように、予め設定した位置において光強度分布の底部を作り、光強度分布の底部から周辺に向かって光強度が増大するような強度分布パターンの光を用いることで、大粒径の結晶を、結晶核から基板6の面方向(x方向)に沿って成長(ラテラル成長)させることができる。これにより、大粒径の結晶化半導体膜を生成することができる。
【0102】
特に、凹型パターンの中でも周辺に向かって線形的に光強度が増大するようなV字型パターンの光強度分布では周囲に向かう温度勾配も線形状になるので、結晶の成長が途中で停止することなく、さらに大粒径の結晶化半導体膜を生成することができる。また、図3(b)に示したように、余分な凹凸分布の光強度分布が発生しないため、上述したパターンの光強度分布を用いることにより、高い充填率で結晶粒をアレイ状に生成することができる。
【0103】
また、位相変調素子において中心から端部までの長さを5μmとすることは、以降の工程で形成される電子デバイス(半導体能動素子)、例えばTFT(薄膜トランジスタ)を10μmピッチで配列するために有益である。
【0104】
一方、マークパターンMKが設けられている領域を含む位相変調素子3を通過した光の強度は、図3(c)に示すように、マークパターンMKに対応する位置で、所定の光強度に設定される被処理基板上にマークを形成する。このとき、マークパターンMKを透過されるべき光の光強度は、マークパターンMKが位相変調型である場合には、図7(a)〜図7(c)および図8ならびに(F)式により説明した光強度に設定される。また、マークパターンMKを透過されるべき光の光強度は、マークパターンMKが光強度変調型(遮光型)である場合には、図10(a)〜図10(c)および図11ならびに(G)式により説明した光強度に設定される。
【0105】
なお、マークパターンMKは、後段の工程で形成される半導体能動素子等の特性に影響を及ぼすことのない任意の位置に形成することが望ましい。従って、図17に示した位相変調素子3に設けられるマークパターンMKは、被処理対象であるガラス基板6上で結晶成長のための結晶核が予定される位置および結晶核を中心として能動素子、例えばTFT(薄膜トランジスタ)が形成される領域に相当する範囲以外の位置に形成することが望ましい。このとき、位相シフトパターンSPやマークパターンMKの存在しない領域では、照射光は、強度変調されることなくそのままの光強度で処理されてしまうので、必要であれば、遮光膜等により遮光してもよい。
【0106】
レーザ光Eが基板80に照射されることで、図18(b)に示すように、基板80の半導体膜82が一旦溶融され、再び結晶される際に、大粒径の結晶を有する多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84が生成される。同時に、位相変調素子3に一体に設けられたマークパターンMKと対応する多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84の所定の位置に、アライメントマーク84Aが形成される。次に、図示しない読み取り(検出装置すなわちフォトリソグラフィ装置)により読み込まれたアライメントマーク84Aが基準とされて基板80の位置が特定される。続いて、ステージ5により保持された基板80が、図19により後段に説明するように基板80の平面方向に沿った2軸方向に移動される。
【0107】
この後、図18(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術により、多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84が、例えば薄膜トランジスタのチャネル領域、ソース領域、ドレイン領域等として用いられる半導体膜85および基板80上に残すべきアライメントマーク84Aとして、所定形状にパターニングされる。
【0108】
次に、図18(d)に示すように、半導体膜85及びアライメントマーク84Aの表面に、例えばゲート絶縁膜86として利用される膜厚20nm〜100nmのSiO膜が、化学気相成長法やスパッタ法等により成膜される。
【0109】
以下、図18(e)に示すように、ゲート絶縁膜86上に、シリサイドやMoWなどによりゲート電極87として利用される金属薄膜が所定厚さに形成され、マスキングおよびエッチングなどの一連の工程により、所定の形状にパターニングされる。続いて、ゲート電極87をマスクとして、例えばNチャネルトランジスタの場合にはP(リン)、Pチャネルトランジスタの場合にはB(ホウ素)等の不純物イオン88が注入される。その後、図示しないが、窒素雰囲気(例えば450℃で1時間)でアニール処理を行い、不純物を活性化して島状の半導体膜85にソース領域91、ドレイン領域92を形成する。なお、ゲート電極87をマスクとして用いたことにより不純物イオン88が注入されずに残った領域がチャネル90となることはいうまでもない。
【0110】
次に、図18(f)に示すように、例えば層間絶縁膜89が所定厚さに成膜され、図示しない工程により所定位置に、コンタクトホールが設けられる。コンタクトホールには、チャネル90でつながるソース91およびドレイン92と接続されるソース電極93およびドレイン電極94が接続される。
【0111】
以上の工程により、多結晶トランジスタあるいは単結晶化半導体に、薄膜トランジスタ(TFT)を形成することができる。
【0112】
なお、上述した工程により製造された多結晶トランジスタまたは単結晶化トランジスタは、液晶表示装置(ディスプレイ)やEL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどの駆動回路や、メモリ(SRAMやDRAM)やCPUなどの集積回路などに適用可能である。また、アライメントマーク84Aは、位相変調素子に組み込まれるマークパターンMKの位置が変更されることで、結晶を成長させる半導体膜の任意の位置に形成可能である。従って、本発明により、基板上の半導体膜の任意の位置にアライメントマークを設けることが後段の工程で形成される半導体能動素子等の特性に影響が及ぶこともない。
【0113】
次に、本実施形態の結晶化装置を用いて結晶化された領域を含む基材を表示装置、例えば液晶表示装置に適用した実施形態を説明する。
【0114】
図20は、上述した基板上の半導体膜にアライメントマークを形成すると同時に大粒径の単結晶シリコン粒を成長させる本発明が適用されることで、非晶質半導体膜の表面の所定の領域に、予めアライメントマークが形成された半導体膜を支持する透明な絶縁基板を用い、表示装置を形成する例を示している。なお、アライメントマークは、所定間隔、例えば以下に説明する画素単位や、任意数の画素をひとまとめにした基板処理単位に基づいて、任意個数設けることができる。
【0115】
まず、表示装置は、例えばアクティブマトリックス型の液晶表示装置200について説明する。液晶表示装置200は、互いに所定間隔で対向された一対の透明基体210,220、液晶層201、画素電極231、走査配線232、信号配線233、対向電極211、およびTFT230等を備えている。
【0116】
一対の透明基体210,220としては、例えばそれぞれにガラス基板を用いることができる。両透明基体210,220は、図示しないシール材により内部が気密となるように、接合されている。なお、少なくとも一方の基板には、例えば図3(a)により説明した位相変調素子により、非晶質半導体膜の表面の所定の領域に、予めアライメントマークが形成された半導体膜を有し、アライメントマークを用いて所定のパターンもしくは電極構造が形成されている。
【0117】
液晶層201は、一対の透明基体210,220の間のシール材により囲まれた領域に設けられている。
【0118】
一対の透明基体210,220のうちの一方の透明基体、例えば透明基体220の内面には、相互に直交する行方向および列方向にマトリックス状に設けられた複数の画素電極231と、複数の画素電極231とそれぞれ電気的に接続された複数のTFT230と、複数のTFT230と電気的に接続された走査配線232および信号配線233とが設けられている。
【0119】
走査配線232は、画素電極231の行方向に沿って、互いに平行に設けられている。走査配線232の一端は、透明基体220の所定の位置に設けられる図示しない複数の走査配線端子と、それぞれ接続されている。なお、それぞれの走査配線端子は、走査線駆動回路241に接続されている。
【0120】
信号配線233は、画素電極231の列方向に沿って、互いに平行に設けられている。信号配線233の一端は、透明基体220の所定の位置に設けられる図示しない複数の信号配線端子にそれぞれ、接続されている。なお、それぞれの信号配線端子は、信号線駆動回路242に接続されている。
【0121】
走査線駆動回路241および信号線駆動回路242は、それぞれ、液晶コントローラ243に接続されている。液晶コントローラ243は、例えば外部から供給される画像信号および同期信号を受け取り、画素映像信号Vpix、垂直走査制御信号YCT、および水平走査制御信号XCTを発生する。
【0122】
他方の透明基体210の内面には、複数の画素電極231に対向して膜状に設けられる透明な対向電極211が設けられている。また、透明基体210の内面には、複数の画素電極231と対向電極211とが互いに対向する画素部に対応させて、カラーフィルタを設けるとともに、画素部相互間に対応させて遮光膜を設けてもよい。
【0123】
一対の透明基体210,220の外側には、図示しない偏光板が設けられる。
【0124】
なお、透過型の液晶表示装置200では、透明基体220の背面に、図示しない面光源が設けられる。また、液晶表示装置200は、反射型であっても半透過反射型であってもよいことはいうまでもない。
【0125】
以上説明したように、この発明の光学素子によれば、被照射対象物に対して、所定特性の光強度分布の光を照射する際に、同時に任意の位置に特定のパターンの強度の光を照射できる。
【0126】
また、この発明の位相変調素子を用いることで、絶縁基板上に所定の厚さに堆積された半導体膜の任意の位置に結晶核を形成し、その結晶核から所定の方向に結晶を成長させるとともに、半導体膜の任意の位置にアライメントマークを、同一工程で形成できる。
【0127】
さらに、この発明の位相変調素子(光学素子)を用いた結晶化装置および結晶化方法により得られた結晶核から結晶をラテラル成長させて得られた大粒径の結晶化半導体膜を用いることで、高速動作が可能で、半導体特性の良好な半導体能動素子(デバイス)や液晶表示装置などを得ることができる。
【0128】
なお、この発明は、前記各実施の形態に限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々な変形もしくは変更が可能である。また、各実施の形態は、可能な限り適宜組み合わせて実施されてもよく、その場合、組み合わせによる効果が得られる。
【符号の説明】
【0129】
1…光源(エキシマレーザ装置)、2…照明光学系、3…位相変調素子(光学素子)、3a…基板、4…結像光学系、5…ステージ、6…基板、7…X−Y−Z−θコントローラ、MK…マークパターン、SP…シフトパターン、30…ラインアンドスペースパターン、31…ライン部、32…スペース部、AM…アライメントマーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板に設けられた非単結晶半導体膜に二種類以上の光強度分布のレーザ光を照射して非単結晶半導体膜を結晶化して結晶領域を形成するとともに前記結晶領域に対応してアライメントマークを形成する結晶化方法であって、
前記二種類以上の光強度分布のレーザ光に照射された前記非単結晶半導体膜を第1および第2の光強度分布領域のうちの第2の光強度分布領域は前記アライメントマークを形成するための光強度の異なる2種類の領域であり、
前記第1の光強度分布領域の光強度の最大値をIとし、
前記第2の光強度分布領域の光強度を、大きな方からIおよびIとすると各光強度の関係は、
> I > I
であり、
前記第2の光強度分布のうち、Iは前記非単結晶半導体膜に形成されるアライメントマークが消失する強度よりも小さく、Iは前記非単結晶半導体膜の結晶形態が変化するために必要な強度よりも小さいものであることを特徴とする結晶化方法。
【請求項2】
均一な光強度分布を有するレーザ光が照射されることで非単結晶半導体膜にアブレーションが生じる最小の光強度をIとするとき、
> I > I
であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。
【請求項3】
均一な光強度分布を有するレーザ光が照射されることで非単結晶半導体膜が溶融する最小の光強度をIとするとき、
> I > I
であることを特徴とする請求項1記載の結晶化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−139082(P2011−139082A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23893(P2011−23893)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【分割の表示】特願2004−232745(P2004−232745)の分割
【原出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】