説明

内燃機関の制御装置

【課題】比較的簡素な構成で、減速後の再加速時における内燃機関の応答遅れを抑制しつつ加速ショックを低減することが可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】吸気通路6にスロットル弁13を備え、車両に走行用動力源として搭載される内燃機関1に適用され、車両のアクセルペダル15の開度変化に基づいてスロットル弁13を制御する内燃機関の制御装置において、車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、車両に対して減速が要求されていたときと比較してスロットル弁13より吸気の流れ方向下流の吸気通路6内の圧力が上昇するようにスロットル弁13を開弁させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気通路にスロットル弁を備え、車両に走行用動力源として搭載される内燃機関に適用される内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を減速させた後であり、かつ車両を再加速させるべく駆動力を増加させるようにアクセル開度を増大させるまでの間に変速比をロー側に変速させたり、スロットル開度を開いて吸排気弁の弁リフト量及び開閉タイミング制御のみにより内燃機関の出力を加減したりして車両を再加速させる際の応答遅れを防止する制御装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2007−270825号公報
【特許文献2】特開平9−9408号公報
【特許文献3】特開平10−9018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に車両の減速時は、スロットル弁が全閉に制御される。そのため、再加速前に変速比をロー側に変速させただけでは再加速時にスロットル弁の開弁が遅れ、内燃機関の出力が上昇するまでに時間がかかるおそれがある。また、スロットル弁を全閉にするとスロットル弁より下流の吸気通路の圧力が低下するため、再加速時にスロットル弁を急に開弁すると大量の吸気が一度に気筒内に流入し、内燃機関のトルクが急に上昇するおそれがある。この場合、車両が急加速したり加速時に発生するショック(以下、加速ショックと称することがある。)が大きくなるおそれがある。吸排気弁の弁リフト量及び開閉タイミング制御のみで内燃機関の出力を加減することにより、このような内燃機関の出力上昇の遅れや再加速時における内燃機関のトルクの急上昇を防止できるが、吸排気弁の弁リフト量及び開閉タイミングを制御可能な可変動弁機構が必要である。そのため、このような可変動弁機構を備えた内燃機関にしか適用できない。
【0005】
そこで、本発明は、比較的簡素な構成で、減速後の再加速時における内燃機関の応答遅れを抑制しつつ加速ショックを低減することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の制御装置は、吸気通路にスロットル弁を備え、車両に走行用動力源として搭載される内燃機関に適用され、前記車両のアクセルペダルの開度変化に基づいて前記スロットル弁を制御する制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、前記制御手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記車両に対して減速が要求されていたときと比較して前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させる再加速準備手段を備えていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の制御装置によれば、車両に対する減速要求が解除されると吸気通路内の圧力が上昇するようにスロットル弁が開弁されるので、再加速が要求される前にスロットル弁を予め開弁させておくことができる。そのため、その後再加速が要求された際にスロットル弁を運転者が要求した開度に速やかに開弁することができる。従って、内燃機関の応答遅れを抑制することができる。また、このようにスロットル弁より下流の吸気通路の圧力を予め上昇させておくことにより、再加速時にスロットル弁が開弁されても大量の吸気が一度に気筒に流入することを抑制できる。そのため、加速ショックを低減することができる。さらに、本発明ではスロットル弁で吸気通路の圧力を調整するため、可変動弁機構などを無駄に設ける必要がない。
【0008】
本発明の制御装置の一形態において、前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁の開度が、前記車両を加速させるべく前記スロットル弁が全開にされたときに前記車両の運転者に作用する前記車両の前後方向に関する加速度が目標加速度以下になるように設定された目標開度に調整されるように前記スロットル弁を開弁させてもよい(請求項2)。再加速時に運転者に最も大きい加速度が作用するのは再加速時にスロットル弁が全開にされた場合である。そこで、例えば加速時に運転者が不快に感じない加速度の上限を目標加速度とし、再加速時にスロットル弁が全開にされても運転者に作用する加速度がこの目標加速度以下になるように設定された目標開度に予めスロットル弁を開弁させておくことにより、運転者に不快感を生じさせることなく車両を再加速させることができる。
【0009】
本発明の制御装置の一形態において、前記制御手段は、前記車両に対する減速要求が解除された後に前記車両の運転者が前記車両を加速させるべく前記アクセルペダルを操作して前記スロットル弁を開弁させたときの前記スロットル弁の開度を学習値として記憶する学習手段をさらに備え、前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁の開度が、前記学習手段に記憶されている学習値に基づいて設定された目標開度に調整されるように前記スロットル弁を開弁させてもよい(請求項3)。この場合、過去に運転者が車両を再加速させたときのスロットル弁の開度が学習値として記憶されているので、減速要求が解除されたときのスロットル弁の開度を再加速時に運転者が要求すると予想される開度付近に調整することができる。この場合、再加速時にスロットル弁の開度を運転者が要求する開度にさらに速やかに調整できる。また、例えば目標開度をこの学習値より小さい開度にすることにより、再加速が要求される前にスロットル弁が無駄に大きく開弁されることを防止できる。
【0010】
本発明の制御装置の一形態において、前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させるとともに、前記スロットル弁の制御に伴って見込まれる前記内燃機関から前記車両の駆動輪に伝達されるトルクの上昇が相殺されるように前記内燃機関の補機が前記内燃機関に与える負荷、前記内燃機関の点火時期、及び前記内燃機関の気筒内に供給される燃料供給量の少なくともいずれか一つを変化させてもよい(請求項4)。この場合、内燃機関から駆動輪に伝達されるトルクの変化を抑制できるので、減速後に車両が無駄に加速されることを抑制できる。
【0011】
なお、本発明における「相殺」の概念には、スロットル弁の開弁によるトルクの上昇を完全に打ち消す場合に限らず、トルクの上昇を部分的又は不完全に打ち消す場合も含まれる。
【0012】
本発明の制御装置の一形態において、前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断し、前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させた後に、前記車両の速度が予め設定した判定速度以下になった場合、又は前記車両に対して再度減速が要求された場合、前記スロットル弁を全閉にしてもよい(請求項5)。判定速度として例えば十分に小さく、運転者が車両を停止させようとしていることを認識することが可能な速度を設定することにより、車両に対する再加速の要求が無いことを判断できる。また、車両に対してさらに減速が要求された場合も同様に再加速の要求が無いと推定できる。そこで、このような場合はスロットル弁を全閉にし、車両を速やかに減速させる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、車両に対する減速要求が解除された場合はスロットル弁を開弁させるので、再加速時における内燃機関の応答遅れを抑制できる。また、スロットル弁より下流の吸気通路の圧力を予め上昇させておくことができるので、加速ショックを低減できる。さらに、吸気通路の圧力はスロットル弁で制御するため、可変動弁機構など内燃機関に無駄な装置を設ける必要がない。そのため、比較的簡素な構成で実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関の要部を示している。図1の内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるものであり、複数(図1では1つのみを示す。)の気筒2を備えている。気筒2にはピストン3が往復動自在に挿入され、そのピストン3はコネクティングロッド4を介して不図示のクランク軸と連結されている。気筒2とピストン3の頂面との間には燃焼室5が形成され、その燃焼室5には吸気通路6及び排気通路7が接続されている。吸気通路6と燃焼室5との間は吸気弁8にて開閉され、排気通路7と燃焼室5との間は排気弁9にて開閉される。吸気弁8及び排気弁9は不図示の動弁機構にて開閉駆動される。この動弁機構はクランク軸にてカム軸を回転させ、そのカム軸に設けられているカムで吸気弁8及び排気弁9を開閉駆動する周知のものである。燃焼室5の上面略中央には点火プラグ10が設けられ、吸気弁8より外周側には気筒2内に燃料を噴射するためのインジェクタ11が設けられている。吸気通路6には、吸入空気量に対応した信号を出力するエアフローメータ12、及び吸入空気量を調整するためのスロットル弁13が設けられている。スロットル弁13は、アクチュエータ13aにより指定された開度に制御可能ないわゆる電子制御スロットル弁として構成されている。排気通路7には排気を浄化するための排気浄化触媒14が設けられている。排気浄化触媒14としては例えば三元触媒、吸蔵還元型NOx触媒等が用いられる。
【0015】
点火プラグ10、インジェクタ11、及びスロットル弁13の動作は、制御手段としてのエンジンコントロールユニット(以下、ECUと称する。)20にてそれぞれ制御される。ECU20は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成され、エンジン1に設けられた各種のセンサの出力信号に基づいてエンジン1の運転状態を制御する周知のものである。ECU20は、例えばエンジン1の負荷及び回転数に応じて気筒2に供給すべき燃料量を算出し、その算出した量の燃料が供給されるようにインジェクタ11の動作を制御する。また、ECU20は、車両が減速されている場合には気筒2に燃料が供給されないようにインジェクタ11の動作を禁止する、いわゆるフューエルカット制御を実行する。さらに、ECU20は、燃焼室5内の燃料混合気が適切な時期に燃焼するように点火プラグ10の動作を制御する。この他、ECU20はエンジン1の運転状態に基づいて設定された目標空燃比となる量の吸気が燃焼室5に吸入されるようにスロットル弁13の動作を制御する。ECU20には、エンジン1の運転状態及び車両の走行状態を検出するためのセンサとしてエンジン1の機関回転速度に対応する信号を出力するクランク角センサ21、アクセルペダル15の開度及びその変化量に対応した信号をそれぞれ出力するアクセル開度センサ22、ブレーキペダルが踏まれた場合に信号を出力するブレーキセンサ23、車両の速度に対応する信号を出力する車速センサ24、及びエアフローメータ12等が接続されている。この他にもECU20には各種センサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0016】
ECU20は、運転者から車両に対して加速が要求された場合、エンジン1のトルクを上昇させるときの単位時間当たりのトルクの変化量(以下、トルク勾配と称することがある。)が所定の目標値になるようにスロットル弁13の開度を制御する。加速時のトルク勾配が大きい場合、エンジン1のトルクを速やかに上昇させる、いわゆるトルクの立ち上がりを鋭くすることができるが、加速ショックが大きくなり運転者に不快感を与える。一方、加速時のトルク勾配が小さい場合は加速ショックを抑えることができるが、エンジン1のトルクの上昇が遅く、いわゆるトルクの立ち上がりが鈍くなる。そこで、ECU20は、加速時のトルク勾配が加速ショックを運転者が不快に感じない程度に抑えられ、かつエンジン1のトルクが速やかに上昇するトルク勾配となるようにスロットル弁13の開度を制御する。以下、この制御をトルク勾配調整制御と称することがある。
【0017】
この場合、車両に対して加速が要求されてからスロットル弁13の開弁を開始すると車両を加速させるために必要な時間が長くなる。また、再加速時にスロットル弁13が急に開弁されると大きな加速ショックが発生するおそれがある。そこで、ECU20は、運転者から車両に対して加速が要求されるよりも前にスロットル弁13より吸気の流れ方向下流の吸気通路6の圧力を上昇させるべくスロットル弁13を予め若干開弁させる再加速準備制御を実行する。ECU20は、車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合にこの再加速準備制御を実行する。なお、車両に対する減速要求は、ブレーキセンサ23の出力信号に基づいて判断され、運転者によるブレーキペダルの踏み込みが解除された場合、すなわちブレーキセンサ23から出力されていた信号が消えた場合に減速要求が解除されたと判断する。再加速準備制御においてECU20は、まずスロットル弁13の目標開度θを算出する。目標開度θは、この再加速準備制御でスロットル弁13を開弁させる開度である。
【0018】
図2〜図4を参照して目標開度θの設定方法について説明する。なお、図2はトルク勾配と加速ショック量との関係の一例を示す図であり、図3はトルク勾配と車両が定常で走行しているときのエンジン1のトルク(以下、定常時走行トルクと称することがある。)との関係の一例を示す図である。また、図4は、定常時走行トルクと目標開度との関係の一例を示す図である。目標開度θを設定する場合、ECU20はまず図2の関係を用いて運転者が不快に感じない加速ショック量の上限値ASに対応するトルク勾配ΔTを算出する。図2に示した関係は車両に応じて異なる。一方、運転者が許容可能な加速ショック量の上限値ASはほぼ一定である。そこで、予め実験や数値計算などで図2に示した関係を求めてECU20のROMにマップとして記憶させておく。そして、そのマップと加速ショック量の上限値ASとを用いてトルク勾配ΔTを算出すればよい。このようにトルク勾配ΔTを算出することにより、加速ショック量の上限値ASが本発明の目標加速度に相当する。
【0019】
次に図3の関係を用いて算出したトルク勾配ΔTから車両に対して加速が要求されてその加速が終了したときにエンジン1から出力されているべき定常時走行トルクTを推定する。図3から明らかなように図3の関係はスロットル弁13の開度に応じて変化するが、目標開度θを設定する時点では、まだ加速時にスロットル弁13がどの程度の開度まで開弁されるか不明である。加速ショックは加速時にスロットル弁13が全開にされた場合に最も大きくなる。そこで、定常時走行トルクを推定する場合、図3に示した関係のうちスロットル弁13が全開のときの関係である線L1を利用して定常時走行トルクTを推定する。なお、図3に示した関係も図2と同様に予め実験や数値計算などで求めてECU20のROMに記憶させておき、このマップとトルク勾配ΔTとを用いて定常時走行トルクTを推定すればよい。
【0020】
その後、図4の関係を用いて推定した定常時走行トルクTから目標開度θを算出する。なお、図4に示したようにこの関係はエンジン1の回転数に応じて変化する。そこで、まず目標開度θを算出しているときのエンジン1の回転数に基づいて使用すべき関係を決定し、次に決定した関係を用いて推定した定常時走行トルクTから目標開度θを算出する。なお、図4に示した関係はエンジン1及び車両に応じて異なる。そこで、予め実験や数値計算などで図4に示した関係を求めてECU20のROMにマップとして記憶させておき、そのマップと推定時走行用トルクT及びエンジン1の回転数とを用いて目標開度θを算出すればよい。
【0021】
目標開度θを算出した後、ECU20は、スロットル弁13の開度がこの目標開度θに調整されるようにスロットル弁13を開弁させる。また、ECU20は、スロットル弁13を目標開度θに開弁したことに伴って見込まれるエンジン1から車両の駆動輪に伝達されるトルクの上昇が相殺されるように点火プラグ10やインジェクタ11の動作を制御する。この制御では、例えば点火プラグ10の点火時期を遅角させたり、インジェクタ11から燃焼室5に供給される燃料量を減少させたりしてエンジン1のトルクの上昇を相殺する。また、エンジン1のトルクを利用して動作する補機、例えばエンジン1のトルクを利用して発電を行うオルタネータなどの発電量を増加させ、これによりエンジン1から車両の駆動輪に伝達されるトルクの上昇を相殺してもよい。このようにECU20は、再加速準備制御においてまず目標開度θを算出し、その後スロットル弁13を算出した目標開度θに調整するとともにそれに伴って見込まれる駆動輪に伝達されるトルクの上昇を相殺する制御を行う。
【0022】
図5は、ECU20が上述したトルク勾配調整制御、及び再加速準備制御を適宜のタイミングで実施するためにエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行するスロットル弁制御ルーチンを示すフローチャートである。図5を実行することによりECU20が本発明の再加速準備手段として機能する。
【0023】
図5の制御ルーチンにおいてECU20は、まずステップS11でエンジン1の運転状態及び車両の走行状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、エンジン1の回転数及び負荷、スロットル弁13の開度などが取得される。車両の走行状態としては、車速、アクセル開度、ブレーキペダルの操作状態などが取得される。次のステップS12においてECU20は、再加速準備制御が実行中か否か示すフラグが実行中であることを示すオンの状態か否か判断する。なお、このフラグの状態はECU20のRAMに記憶され、次回この制御ルーチンが実行されたときに使用される。また、このフラグの状態はECU20の停止時に消去され、ECU20の起動時にはオフの状態にリセットされる。フラグがオフであると判断した場合はステップS13に進み、ECU20は車両が減速中か否か判断する。この判断は、例えば車速及びブレーキセンサ23の出力信号を参照して判断すればよい。車両が減速中ではないと判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。一方、車両が減速中であると判断した場合はステップS14に進み、ECU20は車両に対する減速要求が解除されたか否か判断する。上述したようにこれはブレーキセンサ23の出力信号に基づいて判断すればよい。減速要求が解除されていないと判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。一方、減速要求が解除されたと判断した場合はステップS15に進み、ECU20は上述した再加速準備制御を実行する。続くステップS16においてECU20は、フラグをオンの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0024】
ステップS12が肯定判断された場合はステップS17に進み、ECU20は車両に対して加速が要求されたか否か判断する。これは例えばアクセル開度センサ22の出力信号に基づいて判断すればよく、アクセルペダル15が踏み込まれた場合に加速が要求されたと判断する。加速が要求されたと判断した場合はステップS18に進み、ECU20はトルク勾配調整制御を実行する。次のステップS19においてECU20は、フラグをオフの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0025】
一方、ステップS17で車両に対して加速が要求されていないと判断した場合はステップS20に進み、ECU20は再加速準備制御を中止すべき所定の制御中止条件が成立したか否か判断する。制御中止条件は、車両に対して再加速が要求されることが無いと予想される場合、言い換えると車両が停止すると予測される場合に成立したと判断される。具体的には、例えばブレーキペダルが再度踏み込まれてブレーキセンサ23の出力信号がオンの状態に切り替わった場合、又は車速が予め設定した判定速度α以下に低下した場合に車両が停止すると予測し、制御中止条件が成立したと判断する。なお、判定速度αとしては例えば十分に小さく、運転者が車両を停止させようとしていることを認識することが可能な速度が設定される。制御中止条件が不成立と判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、制御中止条件が成立したと判断した場合はステップS21に進み、ECU20はスロットル弁13を全閉にして再加速準備制御を中止する。その後、ECU20はステップS19でフラグをオフに切り替えて今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
図6は、図5の制御ルーチンを実行して再加速準備制御、及びトルク勾配調整制御を実行した場合におけるエンジン1の発生トルクの時間変化の一例を示している。なお、図6は上から順に、アクセルペダル15の開度の時間変化、ブレーキセンサ23の出力信号の時間変化、エンジン1の発生トルクの時間変化、エンジン1に補機として設けられているオルタネータの発電量の時間変化、及びスロットル弁13の開度の時間変化を示している。図6では、時刻t1においてアクセルペダル15の開度が0になり、エンジン1のトルクがアイドル運転時のトルクTIまで低下している。そして、時刻t2においてブレーキペダルが踏み込まれている。すなわち、時刻t2から車両に対して減速が要求されている。そのため、ECU20は、時刻t3から時刻t4までエンジン1に対してフューエルカット制御を実行している。そして、図6に示した例では時刻t5においてブレーキペダルの踏み込みが解除されて、ブレーキセンサ23の出力信号がオフに切り替わっている。すなわち。この時刻t5において車両に対する減速要求が解除されている。そこで、ECU20は、上述した再加速準備制御を実行してスロットル弁13を目標開度θまで開弁する。図6では、時刻t6においてスロットル弁13が目標開度θまで開弁されている。これにより、エンジン1のトルクが上昇するため、図6に示した例では時刻t6から時刻t7までエンジン1から車両の駆動輪に伝達されるトルクがほぼ一定になるようにオルタネータの発電量を増加させている。そして、時刻t7においてアクセルペダル15が踏み込まれ、車両に対して加速が要求されると、ECU20はトルク勾配調整制御を実行してエンジン1のトルクを運転者の要求しているトルクまで上昇させる。
【0027】
なお、図6には比較例として再加速準備制御を実行せずにトルク勾配調整制御を実行した場合のエンジン1のトルク変化を破線Bで示した。図6から明らかなように、再加速準備制御を実行せずにトルク勾配調整制御を実行すると、車両に対して加速が要求された際のトルク勾配が大きくなり、加速ショックが大きくなる。一方、図5の制御ルーチンを実行し、加速が要求される前に再加速準備制御を実行し、その後トルク勾配調整制御を実行することにより、トルク勾配を小さくしつつエンジン1のトルクを加速時に速やかに上昇させることができる。
【0028】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、車両に対する減速要求が解除されると再加速準備制御が実行されてスロットル弁13が目標開度θまで開弁されるので、その後車両に対して再加速が要求された場合にエンジン1の応答遅れを抑制しつつ加速ショックを低減することができる。また、再加速準備制御では、スロットル弁13の開弁に伴って見込まれるエンジン1から車両の駆動輪に伝達されるトルクの上昇が相殺されるように点火プラグ10、インジェクタ11、及びエンジン1の補機の動作を制御するので、減速時に車両が加速されることを抑制できる。さらに、制御中止条件が成立した場合は、再加速準備制御を中止するので、車両を速やかに減速させることができる。
【0029】
再加速準備制御における目標開度θの算出方法は上述した方法に限定されない。上述した方法では、再加速時にスロットル弁13が全開にされると仮定して目標開度θを算出したが、実際に再加速時にスロットル弁13が全開にされる場合は少ない。そこで、ECU20は、過去において車両を再加速させるべく運転者がアクセルペダル15を操作してスロットル弁13を開弁させたときのスロットル弁13の開度を学習値として記憶し、この学習値に基づいて目標開度θを設定してもよい。なお、学習値としては、例えば再加速が要求され、さらに車速が予め設定した判定速度β以上になった場合のスロットル弁13の開度が記憶される。これにより、運転者がアクセルペダル15を誤って操作したときの開度など誤った開度が記憶されることを防止できる。このように学習値を記憶することにより、ECU20が本発明の学習手段として機能する。
【0030】
学習値を用いた算出方法の場合、トルク勾配ΔTから定常時走行トルクTを推定する方法が上述した算出方法と異なる。具体的には、上述した方法では図3に示された関係のうちスロットル弁13が全開の場合の関係である線L1を利用したが、この算出方法では図3に示された関係のうち学習値に対応する関係を利用して定常時走行トルクTを推定する。例えば、学習値に対応する関係が図3の線L2の関係である場合は、この線L2の関係を用いてトルク勾配ΔTから定常時走行トルクTを推定する。この場合、過去に運転者が再加速時に操作したスロットル弁13の開度が目標開度θに反映されるので、再加速準備制御においてスロットル弁13が無駄に大きく開弁されることを防止できる。また、再加速時に運転者が要求すると予想される開度付近に調整できるので、再加速が要求された場合にスロットル弁13の開度を速やかに運転者が要求する開度に調整できる。
【0031】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明が適用される内燃機関は、火花点火内燃機関に限定されない。本発明はディーゼル内燃機関に適用してもよい。また、気筒内に直接燃料を噴射するいわゆる直噴式内燃機関の他に、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射式の内燃機関に本発明を適用してよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関の要部を示す図。
【図2】トルク勾配と加速ショック量との関係の一例を示す図。
【図3】トルク勾配と定常時走行トルクとの関係の一例を示す図。
【図4】定常時走行トルクと目標開度との関係の一例を示す図。
【図5】ECUが実行するスロットル弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図6】図5の制御ルーチンを実行した場合におけるエンジンの発生トルクの時間変化の一例を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1 内燃機関
2 気筒
6 吸気通路
13 スロットル弁
15 アクセルペダル
20 エンジンコントロールユニット(制御手段、再加速準備手段、学習手段)
θ 目標開度
α 判定速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路にスロットル弁を備え、車両に走行用動力源として搭載される内燃機関に適用され、前記車両のアクセルペダルの開度変化に基づいて前記スロットル弁を制御する制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記車両に対して減速が要求されていたときと比較して前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させる再加速準備手段を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁の開度が、前記車両を加速させるべく前記スロットル弁が全開にされたときに前記車両の運転者に作用する前記車両の前後方向に関する加速度が目標加速度以下になるように設定された目標開度に調整されるように前記スロットル弁を開弁させる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記車両に対する減速要求が解除された後に前記車両の運転者が前記車両を加速させるべく前記アクセルペダルを操作して前記スロットル弁を開弁させたときの前記スロットル弁の開度を学習値として記憶する学習手段をさらに備え、
前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁の開度が、前記学習手段に記憶されている学習値に基づいて設定された目標開度に調整されるように前記スロットル弁を開弁させる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断した場合、前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させるとともに、前記スロットル弁の制御に伴って見込まれる前記内燃機関から前記車両の駆動輪に伝達されるトルクの上昇が相殺されるように前記内燃機関の補機が前記内燃機関に与える負荷、前記内燃機関の点火時期、及び前記内燃機関の気筒内に供給される燃料供給量の少なくともいずれか一つを変化させる請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記再加速準備手段は、前記車両に対する減速要求が解除されたと判断し、前記スロットル弁より吸気の流れ方向下流の吸気通路内の圧力が上昇するように前記スロットル弁を開弁させた後に、前記車両の速度が予め設定した判定速度以下になった場合、又は前記車両に対して再度減速が要求された場合、前記スロットル弁を全閉にする請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−299654(P2009−299654A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157939(P2008−157939)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】