説明

内燃機関の蒸発燃料処理装置

【課題】 内燃機関のアイドルストップ(自動停止)後における自動始動時に適切なパージ制御を実行してエミッション悪化を防止すること。
【解決手段】 内燃機関1の通常運転時のパージ制御では、内燃機関1の運転状態に応じてパージバルブ33が開閉され、キャニスタ30に蓄えられた蒸発燃料が内燃機関1の吸気通路2内に放出される。これに対して、内燃機関1のアイドルストップ中では、パージ制御ができないため、内燃機関1の状態を特定するアイドルストップ経過時間に応じてパージ制御におけるエバポ濃度学習値が補正され、また、アイドルストップ経過時間が所定値以上であるときには、パージ制御におけるエバポ濃度学習値が初期値に戻される。これにより、アイドルストップ後の自動始動直後であってもパージ制御におけるエバポ濃度学習値が適切に設定されるためエミッション悪化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクに発生する蒸発燃料をパージ制御する内燃機関の蒸発燃料処理装置に関するもので、特に、アイドル時に、内燃機関を自動停止させたのち自動始動させる所謂、アイドルストップ機能を備えた内燃機関に適用される内燃機関の蒸発燃料処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の蒸発燃料処理装置に関連する先行技術文献としては、特開2001−295688号公報にて開示されたものが知られている。
【0003】
このものでは、酸素センサからの出力値に基づき設定される空燃比フィードバック補正量が所定の領域となるようにパージ率を変化させ、このパージ率を変化させる前後におけるパージ率及び空燃比フィードバック補正量により蒸発燃料の濃度を検出する技術が示されている。
【特許文献1】特開2001−295688号公報(第2頁〜第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のものでは、アイドルストップ機能を備えた内燃機関のパージ制御については開示されていない。ここで、アイドルストップ機能を備えた内燃機関の自動停止後における自動始動直後では、蒸発燃料の濃度の学習値が自動停止前の通常運転時のパージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値と異なっており、適切なパージ制御が実行できなくて、エミッション悪化を生じるという不具合があった。
【0005】
そこで、この発明はかかる不具合を解決するためになされたもので、内燃機関の自動停止後における自動始動時に適切なパージ制御が実行でき、エミッション悪化を防止可能な内燃機関の蒸発燃料処理装置の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の内燃機関の蒸発燃料処理装置によれば、自動始動停止制御手段による内燃機関のアイドル時の自動停止中またはこの後における内燃機関の自動始動からの所定期間では、キャニスタに蓄えられた燃料タンクに発生する蒸発燃料が、パージ制御手段により内燃機関の運転状態に応じて吸気通路内に放出される通常運転時のパージ制御とは異なったパージ制御となるようパージ制御切換手段によって切換えられる。これにより、内燃機関のアイドル時の自動停止中では、実際のパージ制御は休止されるが、パージ制御の再開に備えた通常運転時と異なるパージ制御、また、自動停止後における自動始動からの所定期間では、通常運転時と異なるパージ制御に切換えられ、内燃機関の自動停止後における自動始動直後の所定期間であっても、適切なパージ制御が実行でき、エミッション悪化が防止されるという効果が得られる。
【0007】
請求項2の内燃機関の蒸発燃料処理装置におけるパージ制御切換手段では、自動始動停止制御手段による内燃機関の自動停止中に、内燃機関の状態に応じてパージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値が補正される。つまり、通常運転時でない内燃機関の自動停止中にあっては、その経過時間に応じて蒸発燃料の濃度が徐々に上昇することとなるため、それに見合うようにパージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値が補正される。これにより、内燃機関の自動停止後における自動始動直後に適切なパージ制御が実行できるという効果が得られる。
【0008】
請求項3の内燃機関の蒸発燃料処理装置におけるパージ制御切換手段では、内燃機関の状態を現す自動停止期間、油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つに応じて、パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値が補正される。つまり、内燃機関の状態を現すこれら各種パラメータのうち少なくとも1つによれば、内燃機関の自動停止中における蒸発燃料の濃度の学習値が的確に補正される。これにより、内燃機関の自動停止後における自動始動直後であっても適切なパージ制御が実行できるという効果が得られる。
【0009】
請求項4の内燃機関の蒸発燃料処理装置におけるパージ制御切換手段では、内燃機関の状態を現す自動停止期間、油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つが所定値以上であるときには、内燃機関の自動停止中における蒸発燃料の濃度の学習値が初期値に戻される。つまり、内燃機関の状態を現すこれら各種パラメータのうち少なくとも1つが所定値以上となるときには、パージ制御の再開時における蒸発燃料の濃度の学習値の信頼性がないとして、初期値に戻される。これにより、内燃機関の自動停止後における自動始動直後であってもエミッション悪化を防止したパージ制御が実行できるという効果が得られる。
【0010】
請求項5の内燃機関の蒸発燃料処理装置におけるパージ制御切換手段では、自動始動停止制御手段による内燃機関の自動停止後における自動始動復帰後の所定期間では、通常運転時のパージ制御とは異なり、パージ制御における蒸発燃料を含む空気のパージ率の単位時間当たりの増加率が、通常運転時よりも遅くなるよう設定される。つまり、通常運転時でない自動停止後の自動始動復帰後の所定期間にあっては、パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値の信頼性が低いことから、パージ率の増加率が安全性を考慮して通常運転時よりも遅く設定される。これにより、内燃機関の自動停止後における自動始動直後であってもエミッション悪化を防止したパージ制御が実行できるという効果が得られる。
【0011】
請求項6の内燃機関の蒸発燃料処理装置におけるパージ制御切換手段では、自動始動停止制御手段による内燃機関の自動停止後における自動始動復帰後の所定期間では、通常運転時のパージ制御とは異なり、パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習速度が、通常運転時よりも速くなるよう設定される。つまり、通常運転時でない自動停止後の自動始動復帰後の所定期間にあっては、なるべく速やかに正確な蒸発燃料の濃度の学習値を知ることができるようパージ制御における蒸発燃料の濃度の学習速度が通常運転時よりも速く設定される。これにより、内燃機関の自動始動後のパージ制御におけるエミッション悪化を防止しつつ、蒸発燃料の濃度の学習値が速やかに通常運転時に移行できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置が適用された内燃機関及びその周辺機器を示す概略構成図である。
【0014】
図1において、車両には複数気筒からなる内燃機関1が搭載され、この内燃機関1には吸気通路2と排気通路3とが接続されている。吸気通路2の上流側には空気を濾過するエアクリーナ4が配設され、このエアクリーナ4を介して空気が吸気通路2内に導入される。また、エアクリーナ4には吸気温センサ5が配設されており、この吸気温センサ5により吸気通路2内に導入される吸入空気の温度である吸気温が検出される。
【0015】
そして、エアクリーナ4の下流側には内燃機関1への吸入空気量を調節するためのスロットルバルブ6が配設されている。このスロットルバルブ6にはスロットル開度センサ7が配設されており、このスロットル開度センサ7によりスロットルバルブ6のスロットル開度が検出される。スロットルバルブ6の下流側の吸気通路2途中のサージタンク8には吸気圧センサ9が配設されており、吸気圧センサ9によりスロットルバルブ6の下流側の吸気圧が検出される。
【0016】
更に、燃料タンク20に貯留された液体燃料は、プレッシャレギュレータ(図示略)を内蔵したインタンク式の燃料ポンプ21にて汲出される。このため、燃料ポンプ21から吐出される液体燃料は、その燃圧が所定圧に調整されたのち燃料供給経路22を通り、途中、燃料フィルタ23にて濾過され、インジェクタ(燃料噴射弁)10から内燃機関1の各気筒の吸気ポート11側に向かって噴射供給される。このインジェクタ10から噴射供給された液体燃料と、吸気通路2内でスロットルバルブ6を通過しサージタンク8を経たのちの吸入空気とが混合された混合気は、内燃機関1の各気筒の吸気ポート11から吸気バルブ12が開状態となるタイミングにて各気筒の燃焼室13内に供給される。
【0017】
一方、燃料タンク20は蒸発燃料通路25を介してキャニスタ30と接続されている。このキャニスタ30内には活性炭からなる吸着体31が収納されている。このため、燃料タンク20内にて発生する蒸発燃料は逐次、キャニスタ30内の吸着体31に吸着保持される。そして、キャニスタ30内の吸着体31に吸着保持された蒸発燃料は、内燃機関1の運転状態に応じたパージバルブ33の開閉に伴って吸着体31から脱離され、キャニスタ30に接続されたパージ通路32及びパージバルブ33を通りサージタンク8の上流側に接続されたパージ通路34から吸気通路2内に導入される。なお、キャニスタ30に形成された大気孔35には閉塞バルブ36が配設され、必要に応じて閉塞バルブ36の開度が調整されることで大気孔35を通過しキャニスタ30内に導入される空気量が制御される。
【0018】
内燃機関1の各気筒の燃焼室13内に供給された混合気は、その頭頂部に配設された点火プラグ14によって所定の燃焼タイミングにて燃焼される。そして、燃焼後の排気ガスは燃焼室13内から排気バルブ15を介して排気通路3内に排出される。この排気通路3内には排気ガス中の酸素(O2 )濃度を検出するための酸素センサ16が配設されている。なお、17は内燃機関1の冷却水温を検出するための水温センサであり、18は内燃機関1の機関回転速度を検出するためのクランク角センサである。
【0019】
40はECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)であり、ECU40は、周知の各種演算処理を実行する中央処理装置としてのCPU、制御プログラムや制御マップ等を格納したROM、各種データ等を格納するRAM、B/U(バックアップ)RAM、入出力回路及びそれらを接続するバスライン等からなる論理演算回路として構成されている。
【0020】
このECU40にて、内燃機関1の運転状態を判定するため吸気温センサ5からの吸気温、スロットル開度センサ7からのスロットル開度、吸気圧センサ9からの吸気圧、酸素センサ16からの酸素濃度、水温センサ17からの冷却水温及びクランク角センサ18からの機関回転速度やその他の各種センサ信号等が読込まれる。そして、ECU40にて演算設定された制御信号に基づき液体燃料を噴射供給するためのインジェクタ10、液体燃料を吐出供給する燃料ポンプ21、蒸発燃料をパージ制御するためのパージバルブ33、キャニスタ30内に大気導入するための閉塞バルブ36等への通電が行なわれる。
【0021】
次に、本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置で使用されているECU40におけるアイドルストップ経過時間(アイドル時の自動停止期間)に応じたエバポ(Evaporative Emission:エバポエミッション;蒸発燃料)濃度学習値演算の処理手順を示す図2のフローチャートに基づき、図3を参照して説明する。ここで、図3は図2の処理に対応する各種制御量等の遷移状態を示すタイムチャートである。なお、このエバポ濃度学習値演算ルーチンは所定時間毎にECU40にて繰返し実行される。なお、キャニスタ30内のエバポ濃度は、図3に示すように、アイドルストップ実行フラグが「ON(オン)」である内燃機関1の自動停止期間に応じて徐々にリニアに上昇するものとする。
【0022】
図2において、まず、ステップS101にて、アイドルストップ実行条件が成立するかが判定される。ここで、アイドルストップ実行条件としては、ブレーキペダル踏込によりブレーキスイッチが「ON」、かつ車速が「0(零)〔km/h〕」等である。ステップS101では、アイドルストップ実行条件の成立により、アイドルストップ実行フラグが「OFF(オフ)」から「ON」となるまで待ってステップS102に移行する(図3に示す時刻t1 )。ステップS102では、アイドルストップ経過時間が内部タイマのカウントアップにより算出される。次にステップS103に移行して、アイドルストップ経過時間が予め設定された経過時間学習値クリア閾値αを越えているかが判定される。
【0023】
ここで、アイドルストップ実行開始直後では、当然のことながら、ステップS103の判定条件が成立せず、即ち、アイドルストップ経過時間は経過時間学習値クリア閾値α以下と短いためステップS104に移行する。ステップS104では、アイドルストップ経過時間が予め設定された経過時間補正開始閾値βを越えているかが判定される。なお、経過時間補正開始閾値βは経過時間学習値クリア閾値αより短く設定されている。ステップS104の判定条件が成立せず、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間補正開始閾値β以下と短いとき(図3に示す時刻t1 〜時刻t2 )にはステップS105に移行し、補正不要であるとしてアイドルストップ開始直前の学習値がそのままエバポ濃度学習値とされ、本ルーチンを終了する。
【0024】
一方、ステップS104の判定条件が成立、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間補正開始閾値βを越え長く経過時間学習値クリア閾値αより短いとき(図3に示す時刻t2 〜時刻t3 )にはステップS106に移行する。ステップS106では、アイドルストップ開始直前の学習値にそのときの経過時間補正量が加算されエバポ濃度学習値とされ、本ルーチンを終了する。なお、経過時間補正量は、図3に矢印幅にて示すように、アイドルストップ経過時間をパラメータとしてアイドルストップ経過時間が長くなるほど大きくなる特性を有するテーブル(図示略)に基づき算出される。
【0025】
一方、ステップS103の判定条件が成立、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値αを越え長いとき(図3に示す時刻t3 〜時刻t4 )にはステップS107に移行する。ステップS107では、アイドルストップ経過時間が長過ぎるとしてエバポ濃度学習値がリセット処理により初期値に戻されたのち、本ルーチンを終了する。
【0026】
次に、本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置で使用されているECU40におけるアイドルストップ経過時間に応じたアイドルストップ解除後にパージ率を増加する際のパージ速度設定の処理手順を示す図4のフローチャートに基づき、図5を参照して説明する。ここで、図5は図4の処理に対応する各種制御量等の遷移状態を示すタイムチャートである。なお、このパージ速度設定ルーチンは所定時間毎にECU40にて繰返し実行される。
【0027】
図4において、まず、ステップS201では、パージ実行条件が成立するかが判定される。ここで、パージ実行条件としては、内燃機関1の機関回転速度が低回転速度・低負荷領域、冷却水温が所定値以上、かつ空燃比F/B(フィードバック)制御の実行条件の成立等である。ステップS201では、パージ実行条件の成立により、パージ実行フラグが「OFF」から「ON」となるまで待ってステップS202に移行する。ステップS202では、パージバルブ制御処理として、パージバルブ33が全閉状態から例えば、徐々に開側となるように駆動され、これに伴って酸素センサ16からの出力値に基づく周知の空燃比F/B制御が実行される。
【0028】
次にステップS203に移行して、エバポ濃度学習実行条件が成立するかが判定される。ここで、エバポ濃度学習実行条件としては、パージ率が所定値(エバポ濃度学習実行パージ率)以上、燃料供給系の学習が完了、空燃比F/B補正量が所定値以下、かつ内燃機関1の機関回転速度及び負荷の状態が定常等である。なお、燃料供給系の学習とは、吸気圧センサ9やインジェクタ10等の燃料供給系の劣化等による空燃比ずれを抑制するための学習であり、この学習が完了していない状態ではパージのみに起因する空燃比ずれを検出できないこととなる。ステップS203では、エバポ濃度学習実行条件の成立により、エバポ濃度学習実行フラグが「OFF」から「ON」となるまで待ってステップS204に移行する。
【0029】
ステップS204では、アイドルストップ実行フラグが「ON」から「OFF」となり(図5に示す時刻t4 )、アイドルストップからの再始動であるかが判定される。ステップS204の判定条件が成立、即ち、アイドルストップからの再始動であるときにはステップS205に移行し、再始動以前におけるアイドルストップ実行フラグの「ON」から「OFF」までに対応するアイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値αを越えているかが判定される。ステップS205の判定条件が成立せず、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値α以下と短いときにはステップS206に移行する。
【0030】
ステップS206では、アイドルストップ経過時間が経過時間補正開始閾値βを越えているかが判定される。ステップS206の判定条件が成立せず、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間補正開始閾値β以下と短いときにはステップS207に移行し、上述のエバポ濃度学習値演算ルーチンにより、エバポ濃度学習値がアイドルストップ開始直前の学習値のままであるため、パージ率を増加する際のパージ速度が、図5の時刻t7 以降で実線にて示されるように、通常運転時の速い(傾きが大きい)定数γに設定される。
【0031】
一方、ステップS206の判定条件が成立、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間補正開始閾値βを越え長く経過時間学習値クリア閾値αより短いときにはステップS208に移行する。ステップS208では、上述のエバポ濃度学習値演算ルーチンにより、エバポ濃度学習値がアイドルストップ開始直前の学習値にアイドルストップ経過時間に応じた経過時間補正量が加算されているため、パージ率を増加する際のパージ速度が、図5の時刻t7 以降で破線にて示されるように、アイドルストップ経過時間をパラメータとして通常運転時より遅い(傾きが通常運転時より小さい)定数δに設定される。
【0032】
一方、ステップS204の判定条件が成立せず、即ち、アイドルストップからの再始動でないとき、またはステップS205の判定条件が成立、即ち、アイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値αを越え長いときにはステップS209に移行する。ステップS209では、上述のエバポ濃度学習値演算ルーチンにより、エバポ濃度学習値がクリアされ初期値に戻されているため、パージ率を増加する際のパージ速度が、図5の時刻t7 以降で二点鎖線にて示されるように、エミッション悪化を防止するよう最も遅い(傾きが最も小さい)定数εに設定される。
【0033】
ステップS207、ステップS208またはステップS209でそれぞれパージ速度が設定されたのちステップS210に移行し、周知のエバポ濃度学習処理が実行され、本ルーチンを終了する。なお、パージ制御により上述のパージ率を増加する際のパージ速度が速いほど素早く多量の蒸発燃料が内燃機関1の吸気通路2内に放出されることとなるため、図5に示すように、それに見合うように燃料F/B(フィードバック)値が小さく設定され、内燃機関1の吸気通路2内にインジェクタ10から噴射供給される燃料量が少なく設定されることとなる。
【0034】
このように、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置は、車両に搭載された内燃機関1のアイドル時に、所定の自動停止条件を満足するときには、内燃機関1を自動停止させると共に、この自動停止後に所定の自動始動条件を満足するときには、内燃機関1を自動始動させるよう制御するECU40にて達成される自動始動停止制御手段と、燃料タンク20に発生する蒸発燃料をキャニスタ30に蓄え、内燃機関1の運転状態に応じてパージバルブ33を開閉することにより、キャニスタ30に蓄えられた蒸発燃料を内燃機関1の吸気通路2内に放出するパージ制御を実行するECU40にて達成されるパージ制御手段と、前記自動始動停止制御手段による内燃機関1の自動停止中またはこの後における内燃機関1の自動始動からの所定期間では、これ以外の通常運転時と異なるパージ制御に切換えるECU40にて達成されるパージ制御切換手段とを具備するものである。
【0035】
また、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置のECU40にて達成されるパージ制御切換手段は、前記自動始動停止制御手段による内燃機関1の自動停止中では、内燃機関1の状態に応じてパージ制御におけるエバポ濃度学習値を補正するものである。そして、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置のECU40にて達成されるパージ制御切換手段は、内燃機関1の状態を現す自動停止期間であるアイドルストップ経過時間に応じて、パージ制御におけるエバポ濃度学習値を補正するものである。更に、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置のECU40にて達成されるパージ制御切換手段は、内燃機関1の状態を現す自動停止期間であるアイドルストップ経過時間が所定値としての経過時間学習値クリア閾値α以上であるときには、パージ制御におけるエバポ濃度学習値を初期値に戻すものである。
【0036】
つまり、内燃機関1の通常運転時においては、内燃機関1の運転状態に応じてパージバルブ33が開閉され、キャニスタ30に蓄えられた蒸発燃料が内燃機関1の吸気通路2内に放出されパージ制御が実行される。これに対して、内燃機関1がアイドルストップ中では、当然のことながら、通常運転時のパージ制御を実行することができないため、通常運転時と異なる制御として、内燃機関1の状態を特定する自動停止期間としてのアイドルストップ経過時間に応じてパージ制御におけるエバポ濃度学習値が補正され、また、アイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値α以上であるときには、パージ制御におけるエバポ濃度学習値が初期値に戻される。
【0037】
即ち、通常運転時でない内燃機関1のアイドルストップ中にあっては、そのアイドルストップ経過時間に応じてエバポ濃度が徐々に上昇することとなるため、それに見合うようにパージ制御におけるエバポ濃度学習値が補正される。また、アイドルストップ経過時間が経過時間学習値クリア閾値α以上と長くなるとエバポ濃度学習値の信頼性が低くなるため、パージ制御におけるエバポ濃度学習値が初期値に戻される。これにより、アイドルストップ後の自動始動直後であってもパージ制御におけるエバポ濃度学習値が適切に設定されるためエミッション悪化を防止することができる。
【0038】
更にまた、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置のECU40にて達成されるパージ制御切換手段は、前記自動始動停止手段による内燃機関1の自動停止後における自動始動からの所定期間では、パージ制御における蒸発燃料を含む空気のパージ率の単位時間当たりの増加率を、通常運転時よりも遅くするものである。加えて、本実施例の内燃機関の蒸発燃料処理装置のECU40にて達成されるパージ制御切換手段は、前記自動始動停止制御手段による内燃機関1の自動停止後における自動始動からの所定期間では、パージ制御におけるエバポ濃度の学習速度を、通常運転時よりも速くするものである。
【0039】
つまり、内燃機関1のアイドルストップ後における自動始動復帰後の所定期間では、通常運転時のパージ制御とは異なり、パージ制御における蒸発燃料を含む空気のパージ率の単位時間当たりの増加率であるパージ速度が、通常運転時よりも遅くなるよう設定され、また、パージ制御におけるエバポ濃度の学習速度が、通常運転時よりも速くなるよう設定される。
【0040】
即ち、通常運転時でないアイドルストップ後の自動始動復帰後の所定期間にあっては、パージ制御におけるエバポ濃度学習値の信頼性が低いことから、パージ速度が安全性を考慮して通常運転時よりも遅く設定され、なるべく速やかに正確なエバポ濃度学習値を知ることができるようパージ制御におけるエバポ濃度の学習速度が通常運転時よりも速く設定される。これにより、アイドルストップ後の自動始動後のパージ制御におけるエミッション悪化を防止しつつ、エバポ濃度学習値を速やかに通常運転時に移行させることができる。
【0041】
ところで、上記実施例では、内燃機関1の自動停止期間としてのアイドルストップ経過時間に応じてエバポ濃度学習値を補正しているが、本発明を実施する場合には、これに限定されるものではなく、この際のパラメータとしては、この他、内燃機関1の油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つによれば、上述の実施例と同様の作用・効果が期待できる。
【0042】
また、上記実施例では、内燃機関1の自動停止期間としてのアイドルストップ経過時間に応じてエバポ濃度学習値を初期値に戻しているが、本発明を実施する場合には、これに限定されるものではなく、この際のパラメータとしては、この他、内燃機関1の油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つによれば、上述の実施例と同様の作用・効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置が適用された内燃機関及びその周辺機器を示す概略構成図である。
【図2】図2は本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置で使用されているECUにおけるエバポ濃度学習値演算の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は図2の処理に対応する各種制御量等の遷移状態を示すタイムチャートである。
【図4】図4は本発明の一実施例にかかる内燃機関の蒸発燃料処理装置で使用されているECUにおけるパージ速度設定の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は図4の処理に対応する各種制御量等の遷移状態を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 内燃機関
2 吸気通路
20 燃料タンク
30 キャニスタ
33 パージバルブ
40 ECU(電子制御ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関のアイドル時に、所定の自動停止条件を満足するときには、前記内燃機関を自動停止させると共に、この自動停止後に所定の自動始動条件を満足するときには、前記内燃機関を自動始動させるよう制御する自動始動停止制御手段と、
燃料タンクに発生する蒸発燃料をキャニスタに蓄え、前記内燃機関の運転状態に応じてパージバルブを開閉することにより、前記キャニスタに蓄えられた蒸発燃料を前記内燃機関の吸気通路内に放出するパージ制御を実行するパージ制御手段と、
前記自動始動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止中またはこの後における前記内燃機関の自動始動からの所定期間では、これ以外の通常運転時と異なるパージ制御に切換えるパージ制御切換手段と
を具備することを特徴とする内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
前記パージ制御切換手段は、前記自動始動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止中では、前記内燃機関の状態に応じて前記パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
前記パージ制御切換手段は、前記内燃機関の状態を現す自動停止期間、油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つに応じて、前記パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値を補正することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
前記パージ制御切換手段は、前記内燃機関の状態を現す自動停止期間、油温、冷却水温、吸気温、外気温、燃焼温度、またはこれらの変化率、変化量、積算値のうち少なくとも1つが所定値以上であるときには、前記パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習値を初期値に戻すことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
前記パージ制御切換手段は、前記自動始動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止後における自動始動からの所定期間では、前記パージ制御における蒸発燃料を含む空気のパージ率の単位時間当たりの増加率を、前記通常運転時よりも遅くすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。
【請求項6】
前記パージ制御切換手段は、前記自動始動停止制御手段による前記内燃機関の自動停止後における自動始動からの所定期間では、前記パージ制御における蒸発燃料の濃度の学習速度を、前記通常運転時よりも速くすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の蒸発燃料処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−2574(P2006−2574A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176414(P2004−176414)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】