説明

制御装置

【課題】変速ショックの発生を抑制しつつ、変速段の変更の実行が必要になった場合は、回生トルクの大きさによらずに、変速装置に変速段の変更を適切に実行させる。
【解決手段】回転電機が回生トルクを出力中に変速装置の変速段を変更する判定が行われた場合に、回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値以上であることを条件として変速段の変更を禁止する回生中変速禁止状態とし、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値未満となったときに回生中変速禁止状態を解除する回生中変速禁止判定部42と、回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間以上継続した場合に、回生中変速禁止判定部42による判定結果に関わらず、回生中変速禁止状態を解除する変速禁止解除判定部43と、を備える変速装置用の制御装置31。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を備え、当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより形成される複数の変速段を有すると共に、形成された各変速段の変速比で前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達する変速装置を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と回転電機とを駆動力源として備えるハイブリッド車両用の変速装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。この変速装置では、車両の減速時に、回転電機に回生トルクを出力させ、車両を減速させて車両の制動を行ないつつ、運動エネルギを電気エネルギとして回収し、燃費の向上を図っている。
【0003】
ところで、このような装置において、回生制動中に変速比を変更する必要性が生じる場合がある。例えば、同じ変速段が維持された状態で車速が減少していくと、変速装置の入力部材の回転速度も減少していき、入力部材に駆動連結されている内燃機関の回転速度も減少していく。そして、内燃機関の回転速度が、内燃機関の運転限界の回転速度に近づいた場合に、入力部材の回転速度を増加させるために、ダウンシフトを行う必要がある。また、加速が行われる場合に備えて、減少していく車速に応じて、適切な変速段にダウンシフトを行なう必要がある。また、車両の減速中であっても、運転者がシフトレバーを操作するなどして、アップシフトの要求があった場合には、アップシフトを行う必要がある。
【0004】
このような場合、特許文献1の技術では、回生トルクの出力による回生制動力が所定制動力よりも大きい場合は、変速ショックの発生を抑制するため、変速装置の変速段の変更を禁止している。従って、車速の減少などにより、変速段の変更が必要になった場合でも、回生トルクの大きさが所定の大きさよりも大きい状態が比較的長く継続した場合には、変速要求に応じて、変速段の変更を適切に実行できない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−226354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、発明が解決しようとする課題は、変速ショックの発生を抑制しつつ、変速段の変更の実行が必要になった場合は、回生トルクの大きさによらずに、変速装置に変速段の変更を適切に実行させることができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、内燃機関及び回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を備え、当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより形成される複数の変速段を有すると共に、形成された各変速段の変速比で前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達する変速装置を制御する制御装置の特徴構成は、前記回転電機が回生トルクを出力中に前記変速装置の変速段を変更する判定が行われた場合に、前記回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値以上であることを条件として前記変速段の変更を禁止する回生中変速禁止状態とし、前記回生トルクの絶対値が前記変速許容しきい値未満となったときに前記回生中変速禁止状態を解除する回生中変速禁止判定部と、前記回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間以上継続した場合に、前記回生中変速禁止判定部による判定結果に関わらず、前記回生中変速禁止状態を解除する変速禁止解除判定部と、を備える点にある。
【0008】
なお、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
また、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0009】
上記の特徴構成によれば、回生トルクの出力中に変速段を変更する判定が行われた場合には、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値未満に減少してから、変速段の変更を実行することができる。従って、変速動作に与える回生トルクの影響が小さい状態で変速制御を行うことができるので、変速ショックの発生を抑制できる。
また上記の特徴構成によれば、回生トルクの出力中に変速段を変更する判定が行われた後、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値未満に減少せず、変速段の変更を禁止する回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間以上継続した場合には、回生中変速禁止状態を解除して、変速段の変更を実行することができる。従って、変速段の変更が必要になった場合に、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値より大きい状態が比較的長く継続する場合であっても、禁止解除判定時間の経過により回生中変速禁止状態を解除して、変速段の変更を適切に実行させることができる。
【0010】
ここで、制御装置は、前記変速段の変更中における前記摩擦係合要素の係合圧と前記入力部材の回転変化との関係を学習し、次回以降の前記変速段の変更の際の制御に反映させる学習制御部と、前記変速禁止解除判定部が前記回生中変速禁止状態を解除したことにより前記変速段の変更を行った場合に、前記学習制御部による学習を禁止する学習禁止判定部と、を更に備える構成とすると好適である。
【0011】
変速段の変更中は、一般的に、摩擦係合要素の係合圧を調整することにより、入力部材の回転速度制御を行っている。このとき、上記の特徴構成に従い、変速禁止解除判定部が、禁止解除判定時間の経過により回生中変速禁止状態を解除して変速段の変更を開始させる場合には、変速許容しきい値より大きな絶対値の回生トルクが出力されている。この回生トルクは、入力部材の回転速度の変化率を変動させるため、回転速度制御に対する外乱となる。この外乱が生じている状態で、学習制御部による学習を実行すると、誤学習が生じ、次回以降の変速段変更の制御精度が悪化する恐れがある。この点、上記の構成では、禁止解除判定時間の経過により回生中変速禁止状態が解除されて変速段の変更を開始させた場合には、学習制御部による学習が禁止されるように構成されているので、誤学習の発生を防止して、制御精度を良好に維持することができる。
一方、回生中変速禁止判定部は、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値未満に減少した場合に、回生中変速禁止状態を解除して変速段の変更を開始させるので、この場合の変速段の変更中には、回生トルクの出力が低下している。そして、この場合には、学習制御部による学習は禁止されないので、学習結果を次回以降の変速段の変更の際の制御に反映させて制御精度を向上することができる。
従って、変速段の変更中の回生トルクの出力状況に応じて、誤学習を抑制しつつ学習を実行することができ、学習制御により変速段変更の制御精度を向上させることができる。
【0012】
ここで、前記禁止解除判定時間は、単位時間当たりの前記出力部材の回転速度の減少量である減速度の大きさが小さくなるに従って、長くなるように設定される構成とすると好適である。
【0013】
出力部材の減速度の大きさが小さくなると、変速段の変更を行う判定が行われてから、入力部材の回転速度が、内燃機関の運転限界の回転速度等との関係で決まる所定の回転速度に近づくまでの期間が延長する。上記の構成によれば、この期間の延長に適合して、出力部材の減速度の大きさが小さくなるに従って、禁止解除判定時間を延長できる。よって、出力部材の減速度の大きさが小さい場合は、回生トルクの出力中に、必要以上に早期化して、強制的に変速段の変更が実行されることを抑制でき、変速段の変更を限界まで延長できる。従って、回生トルクの出力中に回生中変速禁止状態の解除によって変速段の変更が実行される可能性を低減でき、制御精度のよい変速段の変更が実行される可能性を向上できる。
【0014】
ここで、前記回転電機が回生トルクを出力中に前記変速装置の変速段を変更する場合には、前記回生トルクの絶対値が前記変速許容しきい値未満となるように、前記回転電機の回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行う回生トルク減少制御部を更に備える構成とすると好適である。
【0015】
この構成によれば、回生トルクの出力中に変速段を変更する判定が行われた後、回生トルクの絶対値を減少させることができるので、当該判定後速やかに、変速段の変更を実行することができる。また、回生トルクの出力が低下している状態で、変速段の変更を実行することができるので、変速段変更の制御精度を向上することができると共に、制御方法を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の本実施形態に係る制御装置の処理に用いられるマップである。
【図4】本発明の本実施形態に係る制御装置の処理を説明するタイムチャートである。
【図5】本発明の本実施形態に係る制御装置の処理を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の本実施形態に係る制御装置の処理を示すタイムチャートである。
【図7】本発明の本実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る変速機制御装置31の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、車両用駆動装置1を搭載した車両は、駆動力源として内燃機関としてのエンジンE及び回転電機MGの双方を備えたハイブリッド車両とされている。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は電力の供給経路を示している。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置1は、概略的には、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源として備え、これらの駆動力源の駆動力をトルクコンバータTC及び変速装置TMを介して車輪Wへ伝達する構成となっている。変速装置TMは、エンジンE及び回転電機MGに駆動連結される入力部材としての中間軸Mと、車輪Wに駆動連結される出力部材としての出力軸Oと、複数の摩擦係合要素C1、B1・・・を備えると共に当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより形成される複数の変速段を備え、各変速段の変速比で中間軸Mの回転を変速して出力軸Oに伝達する。変速機制御装置31は、変速装置TMの制御を行う。また、この車両用駆動装置1は、トルクコンバータTCや変速装置TM等の各部に所定油圧の作動油を供給するための油圧制御装置PCを備えている。車両用駆動装置1は、入力軸I、中間軸M、出力軸Oのそれぞれの回転速度を検出する入力軸回転速度センサSe1、中間軸回転速度センサSe2、出力軸回転速度センサSe3を備えている。また、車両用駆動装置1は、エンジンEを制御するエンジン制御装置32、回転電機MGを制御する回転電機制御装置33を備えている。なお、変速機制御装置31が本発明における「制御装置」である。
【0018】
このような構成において、変速機制御装置31は、回転電機MGが回生トルクを出力中に変速装置TMの変速段を変更する判定が行われた場合に、回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値X1以上であることを条件として変速段の変更を禁止する回生中変速禁止状態とし、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満となったときに回生中変速禁止状態を解除する回生中変速禁止判定部42と、回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間X2以上継続した場合に、回生中変速禁止判定部42による判定結果に関わらず、回生中変速禁止状態を解除する変速禁止解除判定部43と、を備えている点に特徴を有している。以下、本実施形態に係る変速機制御装置31について、詳細に説明する。
【0019】
1.車両用駆動装置の駆動伝達系の構成
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置1の駆動伝達系の構成について説明する。図1に示すように、車両用駆動装置1は、車両駆動用の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置となっている。本実施形態では、回転電機MGは、エンジンEにベルト5により駆動連結されている。また、車両用駆動装置1は、トルクコンバータTCと変速装置TMとを備えており、当該トルクコンバータTC及び変速装置TMにより、駆動力源としてのエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0020】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。なお、エンジンEの出力回転軸が、クラッチを介して入力軸Iに駆動連結された構成としてもよく、或いはダンパ等の他の部材を介して入力軸Iに駆動連結された構成としてもよい。
【0021】
回転電機MGは、図示しないケースに固定されたステータMGbと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータMGaと、を有している。この回転電機MGのロータMGaの回転軸は、エンジンEの出力回転軸E0と一体的に回転するように駆動連結されている。本実施形態では、回転電機MGのロータMGaは、ベルト5により、エンジンEの出力回転軸E0に駆動連結されており、エンジンEの出力回転軸E0を介して、入力軸Iに駆動連結されている。回転電機MGは、不図示のインバータを介して蓄電装置としての高電圧バッテリ(不図示)に電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、高電圧バッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力を高電圧バッテリに蓄電する。なお、高電圧バッテリは蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。なお、以下では回転電機MGによる発電を回生と称し、発電中に回転電機MGが出力する負トルクを回生トルクと称する。
【0022】
入力軸Iには、トルクコンバータTCが駆動連結されている。トルクコンバータTCは、駆動力源としてのエンジンE及び回転電機MGに駆動連結された入力軸Iの回転駆動力を、中間軸Mを介して変速装置TMに伝達する装置である。このトルクコンバータTCは、入力軸Iに駆動連結された入力側回転部材としてのポンプインペラTCaと、中間軸Mに駆動連結された出力側回転部材としてのタービンランナTCbと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータTCcと、を備えている。そして、トルクコンバータTCは、内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラTCaと従動側のタービンランナTCbとの間で駆動力の伝達を行う。
【0023】
ここで、トルクコンバータTCは、ロックアップ用の摩擦係合要素として、ロックアップクラッチLCを備えている。このロックアップクラッチLCは、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとの間の回転速度差(滑り)を無くして伝達効率を高めるために、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとを一体回転させるように連結するクラッチである。従って、トルクコンバータTCは、ロックアップクラッチLCの係合状態では、作動油を介さずに、駆動力源(入力軸I)の駆動力を直接変速装置TM(中間軸M)に伝達する。本実施形態においては、このロックアップクラッチLCは、基本的には係合状態とされ、入力軸Iと中間軸Mとが一体回転する状態で動作する。従って、本実施形態では、入力軸Iと中間軸Mとは基本的には互いに等しい回転速度で回転する。ロックアップクラッチLCを含むトルクコンバータTCには、油圧制御装置PCにより調圧された作動油が供給される。
【0024】
トルクコンバータTCの出力軸としての中間軸Mには、変速装置TMが駆動連結されている。すなわち、中間軸Mは変速装置TMの入力軸として機能する。変速装置TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速装置TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・とを備えている。本例では、複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の係合要素である。これらの摩擦係合要素B1、C1、・・・は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能なクラッチ(ブレーキを含む、以下同様)とされている。このようなクラッチとしては、例えば湿式多板クラッチ等が好適に用いられる。ここで、変速比は、変速装置TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力部材の回転速度に対する入力部材の回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。
【0025】
摩擦係合要素は、その入出力部材間の摩擦により、入出力部材間でトルクを伝達する。伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができるトルクの最大値である。摩擦係合要素の入出力部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルクが伝達される。摩擦係合要素の入出力部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、伝達トルク容量の大きさを上限として、摩擦係合要素の入出力部材に作用するトルクを伝達する。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに応じて変化する。
【0026】
変速装置TMの各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素に供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0027】
図1には、複数の摩擦係合要素の一例として、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が模式的に示されている。複数の摩擦係合要素の係合又は解放を切り替えることにより、歯車機構が有する複数の回転要素の回転状態が切り替えられて、変速段の変更が行われる。
変速段の変更に際しては、変速前において係合している摩擦係合要素のうちの一つ(以下、解放側要素と称す)を解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つ(以下、係合側要素と称す)を係合させる、いわゆる架け替え変速が行われる。以下では、変速装置TMに形成されている変速段を、変速比が小さい高速段から変速比が大きい低速段へ移行させる(例えば、第四速段から第三速段)ダンウンシフトが行われる場合を説明する。
【0028】
変速装置TMは、各変速段について設定された所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速装置TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、ディファレンシャル装置DFを介して左右二つの車輪Wに分配されて伝達される。
【0029】
2.油圧制御系の構成
次に、上述した車両用駆動装置1の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、図示しないオイルパンに蓄えられた作動油を吸引し、車両用駆動装置1の各部に作動油を供給するための油圧源として、図1に示すように、機械式ポンプ23及び電動ポンプ24の二種類のポンプを備えている。機械式ポンプ23は、トルクコンバータTCのポンプインペラTCaを介して入力軸Iに駆動連結され、エンジンE及び回転電機MGの一方又は双方の回転駆動力により駆動される。電動ポンプ24は、ポンプ駆動用の電動モータ25の駆動力により動作するオイルポンプである。電動ポンプ24を駆動する電動モータ25は、低電圧バッテリ(不図示)と電気的に接続され、低電圧バッテリからの電力の供給を受けて駆動力を発生する。この電動ポンプ24は、機械式ポンプ23を補助するためのポンプであって、車両の停止中や低速走行中など、機械式ポンプ23から必要な油量が供給されない状態で動作する。
【0030】
また、油圧制御系は、機械式ポンプ23及び電動ポンプ24から供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、ロックアップクラッチLC、トルクコンバータTC、及び変速装置TMの複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される。
【0031】
3.制御装置の構成
車両用駆動装置1は、変速機制御装置31、エンジン制御装置32、及び回転電機制御装置33を備えている。各制御装置31〜33は、互いに情報の受け渡しを行い、協調して制御を行うことができるように構成されている。以下、各制御装置について説明する。
【0032】
3−1.エンジン制御装置
エンジン制御装置32は、エンジンEの動作制御を行う制御装置である。エンジン制御装置32は、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジンEを動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。そしてエンジン制御装置32は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するようにエンジンEを制御する。
【0033】
エンジン制御装置32は、エンジンEの出力トルクの情報を変速機制御装置31に伝達するように構成されている。エンジン制御装置32は、上記のトルク指令値をエンジンEの出力トルクの情報として伝達するようにしてもよいし、エンジンEが出力しているトルクを推定し、推定したトルクをエンジンEの出力トルクの情報として伝達するようにしてもよい。また、エンジン制御装置32は、アクセル開度センサSe4から検出したアクセル開度が小さい場合(例えば、スロットル全開時の開度の2.5%から3%の開度に対応するアクセル開度以下である場合)に、アイドリング運転条件が成立したと判定し、エンジンEの出力トルクを低下させるとともに、アイドリング運転条件の判定結果を変速機制御装置31に伝達するように構成されている。また、エンジン制御装置32は、アクセル開度センサSe4の故障を検出するなど重大な故障を検出した場合は、フェイルセーフモードが成立したと判定し、エンジンEの出力トルクを制限するなどのフェイルセーフ制御を行うとともに、フェイルセーフモードの成立を変速機制御装置31に伝達するように構成されている。
【0034】
3−2.回転電機制御装置
回転電機制御装置33は、回転電機MGの動作制御を行なう制御装置である。回転電機制御装置33は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機MGを動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機MGの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力とエンジン動作点とを考慮して決定される回転電機MGの制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、回転電機制御装置33は、回転電機動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように回転電機MGを制御する。本実施形態では、回転電機制御装置33は、減速時などの回生発電中には、トルク指令値を負に設定する。これにより、回転電機MGは正方向に回転しつつ負方向の回生トルクを出力して発電する。
【0035】
回転電機制御装置33は、回転電機MGが出力しているトルクを推定し、推定した回転電機MGの出力トルクの情報を変速機制御装置31に伝達するように構成されている。なお、回転電機制御装置33は、トルク指令値を回転電機MGの出力トルクの情報として伝達するようにしてもよい。また、回転電機制御装置33は、回生トルクの出力中に、変速機制御装置31から回生トルクの絶対値を減少させる指令である回生トルクの減少指令が伝達された場合は、回生トルクの絶対値が、例えばゼロまで、減少するように、回転電機MGのトルク指令値を変更して出力トルクを制御する。本実施形態では、回転電機制御装置33は、回生トルクの減少指令が伝達されてから予め設定された回生トルク減少期間で、回生トルクの絶対値を、ゼロまで徐々に減少させる制御を行う。
【0036】
3−3.変速機制御装置
次に、本実施形態に係る変速機制御装置31の構成について説明する。変速機制御装置31は、図2に示すように、変速装置TMの動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。この変速機制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、変速機制御装置31の各機能部41〜47が構成される。
【0037】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se5を備えており、各センサから出力される電気信号は変速機制御装置31に入力される。変速機制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。変速機制御装置31は、入力軸回転速度センサSe1の入力信号から、入力軸Iの回転速度を算出する。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するセンサである。変速機制御装置31は、中間軸回転速度センサSe2の入力信号から、中間軸Mの回転速度を算出する。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。変速機制御装置31は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号から、変速装置TMの出力側の回転速度を算出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、変速機制御装置31は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号から、車速を算出する。
また、アクセル開度センサSe4は、運転者により操作されるアクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。変速機制御装置31は、アクセル開度センサSe4の入力信号から、アクセル開度を算出する。シフト位置センサSe5は、シフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。変速機制御装置31は、シフト位置センサSe5からの入力情報に基づいて、「ドライブレンジ」、「セカンドレンジ」、「ローレンジ」等のいずれの走行レンジが運転者により指定されたかを検出する。
【0038】
図2に示すように、変速機制御装置31は、変速制御部41と、変速制御部41の下位の機能部として回生中変速禁止判定部42、変速禁止解除判定部43、回生トルク減少制御部44、学習制御部45、及び学習禁止判定部46を備えている。
【0039】
また、本実施形態では、変速機制御装置31は、ロックアップクラッチLCを制御する機能部であるロックアップクラッチ制御部47も備えている。ロックアップクラッチ制御部47は、油圧制御装置PCを介してロックアップクラッチLCに供給される油圧を制御することにより、ロックアップクラッチLCの係合又は解放を制御する。本実施形態では、ロックアップクラッチ制御部47は、減速時などの回生発電中には、ロックアップクラッチLCを係合状態に制御する。このように減速時などの回生発電中にロックアップクラッチLCが係合されることにより、車輪Wから回転電機MGに効率的に回転駆動力を伝達させて発電させることができる。
【0040】
3−3−1.変速制御部
変速制御部41は、変速装置TMの変速段を変更する変速制御を行う機能部である。変速制御部41は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速装置TMにおける目標変速段を決定し、目標変速段が変更された場合に変速段を変更すると判定する。そして、変速制御部41は、変速段を変更すると判定した後、油圧制御装置PCを介して変速装置TMに備えられた各摩擦係合要素B1、C1、・・・に供給される油圧を制御して、各摩擦係合要素の係合又は解放を行い、変速装置TMに形成される変速段を目標変速段に変更する。
【0041】
本実施形態では、変速制御部41は、不図示のメモリに格納された変速マップを参照し、目標変速段を決定する。変速マップは、アクセル開度及び車速と、変速装置TMにおける目標変速段との関係を規定したマップである。変速マップには複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されており、車速及びアクセル開度が変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速制御部41は、変速装置TMにおける新たな目標変速段を決定して変速段を変更すると判定する。また、変速制御部41は、シフト位置の変更があった場合も、目標変速段を変更して変速段を変更すると判定する場合がある。例えば、セカンドレンジ、又はローレンジに変更されたと検出した場合に、目標変速段が変更される場合がある。なお、ダウンシフトとは変速比の小さい変速段から変速比の大きい変速段への変更を意味し、アップシフトとは変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段への変更を意味する。
【0042】
変速制御部41は、新たな目標変速段に応じて複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・への供給油圧を制御することにより、変速装置TMにおける変速段を変更する。この際、変速制御部41は、解放側要素を解放させると共に、係合側要素を係合させる。例えば、ダウンシフトが行われる場合には、変速制御部41は、高速段を形成する摩擦係合要素の1つである解放側要素を解放させるとともに、低速段を形成する摩擦係合要素の1つである係合側要素を係合させるダウンシフト制御を行う。また、アップシフトが行われる場合には、変速制御部41は、低速段を形成する摩擦係合要素の1つである解放側要素を解放させるとともに、高速段を形成する摩擦係合要素の1つである係合側要素を係合させるアップシフト制御を行う。
【0043】
3−3−2.回生中コーストダウンシフト制御
以下では、変速段の変更として、ダウンシフトを行なう場合を例に説明する。なお、本発明に係る変速段の変更は、ダウンシフトを行なう場合に限定されず、アップシフトを行う場合も含まれる。
【0044】
変速制御部41は、アクセル開度がゼロに近い所定値以下の状態で車速が減少しながら走行している状態であるコースト走行時において、回転電機MGが回生トルクを出力中に、ダウンシフトを行うと判定した場合に、回生中コースト走行時のダウンシフト制御(回生中コーストダウンシフト制御)を行う。以下の実施形態では、この回生中コーストダウンシフト制御について詳細に説明する。
【0045】
変速制御部41は、例えば、ドライブレンジ、セカンドレンジ、又はローレンジの何れかの走行レンジが選択されており、且つエンジン制御装置32によりアクセル開度が所定値以下であってアイドリング運転条件が成立していると判定されており、且つ車速がゼロに近い所定値以上である場合に、コースト走行中であると判定する。また、変速制御部41は、回転電機制御装置33から伝達される回転電機MGの回生トルクの絶対値がゼロ付近の所定値、本実施形態では、変速許容しきい値X1以上である場合に、回転電機MGが回生トルクを出力中であると判定する。そして、変速制御部41は、コースト走行中と判定しており、且つ回転電機MGが回生トルクを出力中であると判定しており、且つ車速の低下によりダウンシフト線を跨ぐもしくはシフト位置が変更される等してダウンシフトを行うと判定した場合に、回生中コーストダウンシフト制御を行うと判定して、本発明に係る一連の回生中コーストダウンシフト制御のシーケンスを開始する。
【0046】
なお、変速制御部41は、ダウンシフトを行うと判定した場合において、アイドリング運転条件が成立していると判定されておらず、且つ車速が所定値以上である場合には、本発明に係る回生中コーストダウンシフト制御とは異なるパワーオンダウンシフト制御を行う。また、変速制御部41は、アクセル開度センサSe4が故障したと判定した場合、又は回転電機制御装置33から伝達される回転電機MGの出力トルクの信号がフェイルしたと判定した場合など、駆動装置に重大な不具合が生じたと判定した場合は、フェイルセーフモードが成立していると判定する。そして、変速制御部41は、フェイルセーフモードが成立していると判定した場合には、目標変速段を緊急変速段として予め設定された変速段(例えば、第四速段)に、強制的に固定するエマージェンシーモードに設定する。従って、変速制御部41は、フェイルセーフモードが成立している場合は、ダウンシフトを行うと判定した場合であっても、変速段を緊急変速段に固定している状態を維持し、ダウンシフト制御を行わない。
【0047】
コーストダウンシフト制御中に、回生トルクが出力されている場合は、変速制御部41は、その回生トルクを考慮して、係合及び解放する摩擦係合要素の油圧を制御する必要があるため、制御方法が複雑になるとともに精度良く制御することが容易でない。また、この場合は、回生トルクが出力されていない場合と制御方法を共通化できない。従って、本実施形態では、変速制御部41は、回生中コーストダウンシフト制御を行うと判定したときに、回生トルクが出力されている場合は、回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行うとともに、回生トルクの絶対値が十分減少するまでは、摩擦係合要素を係合及び解放させる油圧制御の開始を禁止して、コーストダウンシフト油圧制御の開始を禁止する。
【0048】
また、本実施形態では、回生トルクの絶対値を減少させる制御は、直接的には回転電機制御装置33により実行されるため、回生トルクの減少を開始してから十分に減少するまでの減少期間を変速制御部41により直接管理できない。そして、回転電機MGの挙動のバラツキや回転電機MGの特性変動などにより、回生トルクの減少が緩慢となって、上記の減少期間が予め設定した期間より延長した場合は、コーストダウンシフト油圧制御の開始が遅れて、変速期間が予め設定した期間より延長するという課題があった。そこで、本実施形態では、変速制御部41は、回生トルクの減少期間が設定期間より延長した場合には、コーストダウンシフト油圧制御開始の禁止を解除して、コーストダウンシフト油圧制御を開始する。これらの制御を行うため、変速制御部41は、以下で説明する機能部42〜46を備えている。
【0049】
回生中変速禁止判定部42は、回転電機MGが回生トルクを出力中にダウンシフトを行う判定が行われた場合に、回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値X1以上であることを条件としてダウンシフトを禁止する回生中変速禁止状態とする。本実施形態では、回生中変速禁止判定部42は、回生中コーストダウンシフト制御を行う判定が行われた場合に、回転電機制御装置33から伝達される回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上であるかの判定を開始し、変速許容しきい値X1以上であると判定している場合には、コーストダウンシフト油圧制御の開始を禁止する回生中変速禁止状態に設定する。なお、本実施形態では、回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値X1以上である場合に回生トルクの出力中と判定されるため、回生中コーストダウンシフト制御を行う判定が行われた場合に、回生中変速禁止判定部42は、回生中変速禁止状態に設定する。
【0050】
回生トルク減少制御部44は、回転電機MGが回生トルクを出力中にダウンシフトを行う場合に、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満となるように回転電機MGの回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行う。本実施形態では、回生トルク減少制御部44は、回生中コーストダウンシフト制御を行う判定が行われ、回生中変速禁止判定部42が回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値X1以上であると判定した場合に、回転電機制御装置33に、回生トルクの絶対値を減少させる指令を伝達する。そして、回転電機制御装置33は、上記したように、回生トルクの減少指令が伝達されてから予め設定された回生トルク減少期間で、回生トルクの絶対値を、ゼロまで徐々に減少させる制御を行う。
【0051】
回生トルク減少制御部44の減少指令により、回転電機制御装置33は回生トルクの絶対値を減少させる制御を行う。やがて、回生中変速禁止判定部42が、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満となったことを判定すると、当該回生中変速禁止判定部42は、回生中変速禁止状態を解除する。回生中変速禁止状態の解除を受けて、変速制御部41は、摩擦係合要素を係合及び解放させる油圧制御を開始して、コーストダウンシフト油圧制御を開始する。
【0052】
ところで、回生トルクの絶対値が緩やかに減少して回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1より大きい状態が長く継続すると、コーストダウンシフト油圧制御を開始できず、ダウンシフト要求に応えられない。そこで、そのような不都合を解消するために、以下で説明する変速禁止解除判定部43が備えられている。
【0053】
変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間X2以上継続した場合に、回生中変速禁止判定部42による判定結果に関わらず、回生中変速禁止状態を解除する。本実施形態では、変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態が設定されてから禁止解除判定時間X2経過したときに、未だ回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上であっても、回生中変速禁止状態を解除する。回生中変速禁止状態の解除を受けて、変速制御部41は、摩擦係合要素を係合及び解放させる油圧制御を開始して、コーストダウンシフト油圧制御を開始する。なお、本実施形態では、同じ変速許容しきい値X1を用いて、回生中コーストダウンシフト制御を行うと判定するとともに、回生中変速禁止状態を設定すると判定するので、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間は、回生中コーストダウンシフト制御を行う判定が行われてからの経過時間でもある。
【0054】
禁止解除判定時間X2は、単位時間当たりの出力軸Oの回転速度の減少量である減速度WOの大きさが小さくなるに従って、長くなるように設定される。本実施形態では、変速制御部41は、所定の演算周期毎に、出力軸Oの回転速度を取得し、今回取得した出力軸Oの回転速度VO0と、前回取得した出力軸Oの回転速度VO1と、演算周期ΔT1とに基づき、下記の式(1)により減速度WOを算出する。
WO=(VO1−VO0)/ΔT1・・・(1)
また、算出した減速度WO、あるいは検出した出力軸Oの回転速度に対してフィルタ処理を行った値を、減速度WO、あるいは出力軸Oの回転速度として、他の処理に用いるようにしてもよい。
【0055】
変速禁止解除判定部43は、減速度WOの大きさが小さくなるに従って禁止解除判定時間X2が長くなるように予め設定されている禁止解除判定時間X2の特性マップ(図3参照)と、算出した減速度WOとに基づき禁止解除判定時間X2を算出する。
この禁止解除判定時間X2の設定について、図4に基づき説明する。図4には、比較のために、減速度WOの大きさが比較的大きい場合と、減速度WOの大きさが比較的小さい場合との、2つの場合の例を示している。図4には、ダウンシフトを行うと判定が行われる車速に対応する出力軸Oの回転速度(変速実施判定回転速度)と、ダウンシフトを完了させる必要がある出力軸Oの最小限界の回転速度(変速完了回転速度)とを示している。出力軸Oの回転速度が、変速完了回転速度を下回ると、中間軸Mに駆動連結されたエンジンEの回転速度が運転限界の回転速度を下回る。そのため、出力軸Oの回転速度が、変速完了回転速度まで減少するまでに、ダウンシフトを完了させて、エンジンEの回転速度を増加させる必要がある。また、ダウンシフトを開始してからダウンシフトを完了するまでには変速時間がかかるため、ダウンシフトを開始する必要がある出力軸Oの回転速度(変速必要回転速度)は、ダウンシフトを完了する必要がある回転速度より高い回転速度となる。
【0056】
減速度WOの大きさが比較的大きい場合は、ダウンシフトを行うと判定が行われた時点(時刻t01)から、ダウンシフトを開始させる必要がある時点(時刻t02)までの期間が比較的短くなる。一方、減速度WOの大きさが比較的小さい場合は、ダウンシフトを行うと判定が行われた時点(時刻t01)から、ダウンシフトを開始させる必要がある時点(時刻t03)までの期間が比較的長くなる。従って、減速度WOの大きさが小さくなるに従って、回生中コーストダウンシフトを行うと判定が行われた時点から、コーストダウンシフトを開始させる必要がある時点までの期間が長くなり、この減速度WOの大きさに応じた期間の延長に適合するように、減速度WOの大きさが小さくなるに従って、長くなるように禁止解除判定時間X2が設定される。
【0057】
また、変速実施判定回転速度と、変速完了回転速度は、ダウンシフトを行う前の変速段に応じて変化するため、ダウンシフトを行うと判定が行われた時点からダウンシフトを開始させる必要がある時点までの期間は、ダウンシフトを行う前の変速段に応じて変化する。よって、変速禁止解除判定部43は、ダウンシフトを行う前の変速段に応じて、上述の禁止解除判定時間X2の設定を変更するようにしてもよい。例えば、変速禁止解除判定部43は、変速段毎に上述した禁止解除判定時間X2の特性マップを備えるように構成して、ダウンシフトを行う前の目標変速段に対応する禁止解除判定時間X2の特性マップと、算出した減速度WOとに基づき禁止解除判定時間X2を算出するようにしてもよい。
【0058】
もしくは、変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態の解除の判定を行うに際して、上記の禁止解除判定時間X2に加えて、出力軸Oの回転速度に関する所定の禁止解除判定速度に基づいて判定を行う構成としてもよい。この場合、禁止解除判定時間X2が経過したこと、及び出力軸Oの回転速度が禁止解除判定速度以下まで低下したことの一方又は双方の成立を条件として、回生中変速禁止判定部42による判定結果に関わらず、回生中変速禁止状態を解除するようにしてもよい。ここで、禁止解除判定速度としては、図4を用いて説明した、変速必要回転速度に設定されていると好適である。また、この場合も、禁止解除判定速度は、ダウンシフトを行う前の変速段に応じて設定されるようにしてもよい。
【0059】
変速制御部41は、ダウンシフト中における解放側要素の係合圧と中間軸Mの回転変化との関係を学習し、次回以降のダウンシフトの際の制御に反映させる学習制御部45を備えている。そして、変速制御部41は、変速禁止解除判定部43が回生中変速禁止状態を解除したことによりダウンシフト制御を行った場合に、学習制御部45による学習を禁止する学習禁止判定部46を備えている。
【0060】
まず、学習制御部45について概要を説明する。本実施形態では、変速制御部41は、コーストダウンシフト油圧制御を開始した後、解放側要素に供給される油圧及びそれに応じた係合圧を減少させて解放側要素を解放するとともに、係合側要素に供給される油圧及びそれに応じた係合圧を増加させて係合側要素の伝達トルク容量を増加させることにより、出力軸Oから中間軸Mに伝達されるトルクを増加させる。そして、出力軸Oから中間軸Mに伝達されるトルクにより、中間軸Mの回転速度を、ダウンシフト前の変速段に対応した目標回転速度から、ダウンシフト後の変速段に対応したより高い目標回転速度まで上昇させるダウンシフト中の回転速度制御を行っている。ここで、変速制御部41は、係合側要素の油圧を予め設定した部分係合圧に制御して中間軸Mに伝達されるトルクの大きさを調整することで、ダウンシフト中における中間軸Mの回転速度の変化率(回転加速度)が目標加速度に近づくようにしている。
【0061】
しかし、経年変化や生産バラツキにより、係合側要素における供給油圧と伝達トルク容量(係合圧)との関係特性などの特性の変動が生じた場合に、ダウンシフト中における中間軸Mの回転加速度が、目標加速度から変動する。この変動に対して、学習制御部45は、ダウンシフト中における中間軸Mの回転加速度を計測し、計測した回転加速度が目標加速度に近づくように、或いは計測した回転加速度が上限及び下限加速度の範囲内に収まるように、係合側要素の供給油圧を補正している補正量を更新するとともに、この補正量に基づき学習値を更新して記憶している。そして、学習制御部45は、記憶した学習値を次回以降のダウンシフトの際の補正量の初期値又は基準値にするなどして変速制御に反映させている。学習値は、ダウンシフト後の変速段毎に別変数として保持され、更新及び記憶される。ここで、補正量は、少なくとも積算的な演算を行なう積分演算の演算値を含み、学習値はこの積分演算値に基づき更新される。なお、本実施形態では、学習制御部45は、補正量と学習値を一致させて更新している。
【0062】
次に、学習禁止判定部46について説明する。変速禁止解除判定部43が、回生中変速禁止状態を解除した場合は、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満に減少する前であるため、ダウンシフト中にその絶対値が変速許容しきい値X1よりも大きい回生トルクが中間軸Mに伝達される。このように所定値以上の回生トルクが中間軸Mに伝達されると、中間軸Mの回転加速度が大きく変動(減少)する。この状態で、上記のように学習制御部45が学習値(補正量)を更新すると、不必要に学習値が変動(増加)して誤学習を生じる。そこで、学習禁止判定部46は、変速禁止解除判定部43により回生中変速禁止状態を解除したことによりコーストダウンシフト油圧制御を開始した場合は、当該コーストダウンシフト油圧制御においては学習制御部45による学習値(補正量)の更新を禁止する。
【0063】
なお、学習制御部45は、学習値の更新が禁止された場合も、係合側要素の補正量の更新については実行するように構成してもよい。すなわち、補正量の更新は実行するので、回生トルクの外乱により、中間軸Mの回転加速度が目標加速度から逸脱しても、中間軸Mの回転加速度を目標加速度に近づくようにフィードバック制御を行うことができる。一方、学習値の更新は実行しないので、回生トルクの外乱が生じていたダウンシフト中に更新された補正量を、次回以降のダウンシフトの際の制御に反映させない。よって、ダウンシフト中に回生トルクが出力されて、中間軸Mの回転加速度が目標加速度を下回る場合でも、大幅に遅延することなく、中間軸Mの回転速度をダウンシフト後の目標回転速度まで上昇させることができる。また、学習値の更新は実行しないので、回生トルクの外乱による誤学習を防止でき、次回以降のダウンシフトの際の制御精度の悪化を防止できる。
【0064】
3−3−3.回生中コーストダウンシフト制御のタイムチャート
次に、本実施形態に係る変速制御部41の処理について、図5、6に示すタイムチャートの例に基づき説明する。図5に示すタイムチャートは、回生中変速禁止判定部42が、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満となったときに回生中変速禁止状態を解除する場合の事例における処理を示している。図6に示すタイムチャートは、回変速禁止解除判定部43が、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1よりも大きいままで回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間X2以上継続した場合に、回生中変速禁止状態を解除する場合の事例における処理を示している。
【0065】
まず、図5に示すタイムチャートについて説明する。変速制御部41は、コースト走行中と判定しており、且つ回転電機MGが回生トルクを出力中であると判定しており、且つダウンシフトを行うと判定した場合に、回生中コーストダウンシフト制御を行うと判定する(時刻t21)。回生中変速禁止判定部42は、回生中コーストダウンシフト制御を行う判定が行われた場合、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上であるので、回生中変速禁止状態に設定する(時刻t21)。そして、回生中変速禁止状態が設定された場合に、変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間のカウントを開始する(時刻t21)。また、この場合に、回生トルク減少制御部44は、回転電機制御装置33に、回生トルクの絶対値の減少指令を伝達し(時刻t21)、回転電機制御装置33は、予め設定された回生トルク減少期間で、回生トルクの絶対値をゼロまで徐々に減少させていく(時刻t21以降)。
【0066】
図5に示す事例では、回転電機制御装置33は、予め設定された回生トルク減少期間から延長することなく、回生トルクの絶対値をゼロまで減少させている。従って、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間が禁止解除判定時間X2に到達する前に、回生中変速禁止判定部42は、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1(例えば、5N・m)未満になったと判定し、回生中変速禁止状態を解除する(時刻t22)。そして、変速制御部41は、回生中変速禁止状態が解除された場合、摩擦係合要素を係合及び解放させる油圧制御を開始して、コーストダウンシフト油圧制御を開始する。また、学習禁止判定部46は、回生中変速禁止判定部42が回生中変速禁止状態を解除したので、学習制御部45による学習値の更新を禁止しない。
【0067】
変速制御部41は、コーストダウンシフト油圧制御の開始後、解放側要素に供給する油圧の指令圧を減少させ、解放側要素を解放させる。一方、変速制御部41は、コーストダウンシフト油圧制御の開始後、係合側要素に供給する油圧の指令圧を、コーストダウンシフト制御用に予め設定された部分係合圧まで増加する。そして変速制御部41は、この部分係合圧を指令圧として、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、係合側要素に指令圧の作動油を供給する。部分係合圧は、ストロークエンド圧より高い油圧であって、中間軸Mの回転加速度が所定の目標加速度になるように予め設定された油圧である。本実施形態では、油温に応じて部分係合圧が設定されたマップが備えられており、当該マップと、検出した油温に基づき部分係合圧が設定される。なお、マップはダウンシフト後の変速段毎に設定されている。なお、部分係合圧には、学習制御部45による補正量(学習値)が含まれるものとする。また、本例では、回生ダウンシフト制御部41は、図5に示すように、作動油の供給開始後、所定期間、部分係合圧より高い指令圧を設定し、実圧の立ち上がりを早める制御を行っている。
【0068】
解放側要素が解放され、係合側要素に供給されている油圧がストロークエンド圧を上回り係合側要素が伝達トルク容量を持ち始めると、係合側要素の出力部材から入力部材に伝達トルク容量の正トルクが伝達され始める。すなわち、係合側要素の伝達トルク容量に比例した正トルクが出力軸Oから中間軸Mに伝達される。一方、エンジンE及び回転電機MGの駆動力源側から中間軸Mに回生トルク及びフリクショントルクなどの負トルクが伝達される。ここで、正トルクは、中間軸Mの回転速度を上昇させるように作用する方向のトルクであり、負トルクは、中間軸Mの回転速度を低下させるように作用する方向のトルクである。変速制御部41は、係合側要素の伝達トルク容量を制御することにより、出力軸Oから中間軸Mに伝達される正トルクの大きさを、駆動力源側から中間軸Mに伝達される負トルクの大きさよりも上回らせて、中間軸Mの回転速度をダウンシフト前の変速段に対応した目標回転速度からダウンシフト後の変速段に対応した目標回転速度まで増加させる。また、中間軸Mの回転加速度は、上回ったトルクである余剰トルクに比例し、中間軸Mと一体回転する部材のイナーシャ(慣性モーメント)に反比例する。よって、変速制御部41は、部分係合圧の大きさにより、余剰トルクの大きさを調整して、中間軸Mの回転加速度が目標加速度となるようにしている。
【0069】
ここで、ダウンシフト前の変速段に対応した目標回転速度は、解放側要素の入出力部材間の滑りがない状態での、中間軸Mの回転速度であり、出力軸Oの回転速度にダウンシフト前の変速段の変速比を乗算した回転速度となる。ダウンシフト後の変速段に対応した目標回転速度は、係合側要素の入出力部材間の滑りがなくなった状態での、中間軸Mの回転速度であり、出力軸Oの回転速度にダウンシフト後の変速段の変速比を乗算した回転速度となる。ダウンシフトは、変速比がより大きい変速段への変速であるため、ダウンシフト後の目標回転速度は、ダウンシフト前の目標回転速度より高くなっている。
【0070】
また、学習制御部45は、学習値の更新が禁止されていないので、ダウンシフト中(時刻t22〜t23)に、学習制御を実行する。
【0071】
変速制御部41は、中間軸Mの回転速度がダウンシフト後の目標回転速度付近に到達したと判定した後(時刻t23)に、係合側要素の指令圧を部分係合圧から完全係合圧まで次第に増加させる。変速制御部41は、係合側要素の指令圧を完全係合圧まで増加したとき(時刻t24)に、回生中コーストダウンシフト制御を終了する。また、このとき、回生トルク減少制御部44は、回生トルクの減少指令の解除を回転電機制御装置33に伝達し(時刻t24)、回転電機制御装置33は、回転電機制御装置33が決定したトルク指令値に従い、回生トルクの絶対値を増加させる。
【0072】
次に、図6に示すタイムチャートについて説明する。図6に示す事例では、回転電機MGの特性変動などの外乱要因が生じたことにより、回転電機制御装置33は、回生トルク減少指令が伝達された後、予め設定された回生トルク減少期間から延長して、回生トルクの絶対値をゼロまで減少させている(時刻t31〜t34)。この場合、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満になる前に、変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間が禁止解除判定時間X2以上になったと判定し、回生中変速禁止状態を解除する(時刻t32)。従って、コーストダウンシフト油圧制御の開始時点を、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上になる時点(時刻t33)より早めることができており、当該開始時点の延長を抑制することができている。そして、変速制御部41は、回生中変速禁止状態が解除された場合、摩擦係合要素を係合及び解放させる油圧制御を開始して、コーストダウンシフト油圧制御を開始する(時刻t32)。また、学習禁止判定部46は、変速禁止解除判定部43が回生中変速禁止状態を解除したので、学習制御部45による学習値の更新を禁止する。
【0073】
本事例では、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満になる前に、コーストダウンシフト油圧制御を開始しているので、コーストダウンシフト油圧制御を開始した後、比較的長い期間(時刻t32〜t34)、比較的大きな絶対値の回生トルクが出力されて、中間軸Mに伝達される。従って、出力される回生トルクの絶対値の大きさ分、中間軸Mの回転加速度が目標加速度から大きく減少する(時刻t32〜t34)。このとき、学習禁止判定部46により、学習制御部45による学習値の更新が禁止されているので、誤学習が生じることを防止できる。なお、ダウンシフト完了時点(時刻t36)で、学習値の更新を解除する。
【0074】
3−3−4.回生中コーストダウンシフト制御のフローチャート
次に、変速制御部41における制御の処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。まず、変速制御部41は、ダウンシフトを行うと判定した場合には(ステップ#01:Yes)、続いて、フェイルセーフモードが成立しているか判定する(ステップ♯02)。そして、フェイルセーフモードが成立している場合には(ステップ♯02:Yes)、変速制御部41は、エマージェンシーモードとして、変速段を緊急変速段に固定している状態を維持し、ダウンシフト制御を行わない(ステップ♯03)。一方、フェイルセーフモードが成立していない場合には(ステップ♯02:No)、変速制御部41は、アイドリング運転条件が成立しているか判定する(ステップ♯04)。そして、アイドリング運転条件が成立していない場合には(ステップ♯04:No)、変速制御部41は、本発明に係る回生中コーストダウンシフト制御とは異なるパワーオンダウンシフト制御を開始する(ステップ♯05)。
【0075】
一方、アイドリング運転条件が成立している場合には(ステップ♯04:Yes)、変速制御部41は、回生トルクが出力中であるか判定する(ステップ♯06)。回生トルクが出力中である場合には(ステップ♯06:Yes)、変速制御部41は、回生中コーストダウンシフト制御を行うと判定して、本発明に係る一連の回生中コーストダウンシフト制御のシーケンスを開始する。そして、回生中変速禁止判定部42は、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満であるか判定する(ステップ♯07)。回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上である場合には(ステップ♯07:No)、回生中変速禁止判定部42は、回生中変速禁止状態を設定する。そして、回生中変速禁止状態が設定されたので、変速禁止解除判定部43は、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間のカウントを開始する(ステップ♯09)。続いて、回生トルク減少制御部44は、回生トルクの減少指令を回転電機制御装置33に伝達する(ステップ♯10)。回転電機制御装置33は、回生トルクの減少指令が伝達された後、回生トルクの絶対値を減少させていく。回生トルクの絶対値が減少していき、回生中変速禁止判定部42が、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満になったと判定した場合には(ステップ♯11:Yes)、回生中変速禁止判定部42は、回生中変速禁止状態の設定を解除する(ステップ♯12)。続いて、学習禁止判定部46は、回生中変速禁止判定部42が回生中変速禁止状態の設定を解除したので、学習制御部45における学習値の更新を許可したままとする(ステップ♯13)。そして、変速制御部41は、コーストダウンシフト油圧制御を開始する(ステップ♯14)。
【0076】
一方、回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1以上である場合であっても(ステップ♯11:No)、変速禁止解除判定部43が、回生中変速禁止状態が設定されてからの経過時間が禁止解除判定時間X2以上になったと判定した場合には(ステップ♯15:Yes)、変速禁止解除判定部43は、ステップ♯11における回生中変速禁止判定部42による判定結果に関わらず、回生中変速禁止状態の設定を解除する(ステップ♯16)。続いて、学習禁止判定部46は、変速禁止解除判定部43が回生中変速禁止状態の設定を解除したので、学習制御部45における学習値の更新を禁止する(ステップ♯17)。そして、変速制御部41は、コーストダウンシフト油圧制御を開始する(ステップ♯14)。
【0077】
一方、回生中変速禁止判定部42及び変速禁止解除判定部43が回生中変速禁止状態の設定を解除せずに維持すると判定した場合には(ステップ♯11:No、及びステップ♯15:No)、回生中変速禁止状態の設定を解除すると判定されるまで、ステップ♯11及びステップ♯15の判定が繰り返し実行され、コーストダウンシフト油圧制御の開始が禁止される。なお、回生トルクが出力中でない場合(ステップ♯06:No)及び回生トルクの絶対値が変速許容しきい値X1未満であると判定された場合(ステップ♯07:Yes)には、学習制御部45における学習値の更新が許可されたままとするとともに(ステップ♯13)、コーストダウンシフト油圧制御の開始は禁止されることなくそのまま実行される(ステップ♯14)。
【0078】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態においては、変速制御部41が、変速段の変更として、ダウンシフトを行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部41が、シフト位置が「ローレンジ」から「セカンドレンジ」に変更されるなどして、アップシフトを行うと判定した場合においても、上記の実施形態において説明した各種の制御を適用することができる。すなわち、回生トルクの絶対値の大きさが変速許容しきい値X1より大きい間は回生中変速禁止状態とし、変速許容しきい値X1未満となった場合、又は変速許容しきい値X1より大きいままでも回生中変速禁止状態が禁止解除判定時間X2以上継続した場合に回生中変速禁止状態を解除する。当該解除により、アップシフトを行った場合は、学習制御部45による学習を禁止する。すなわち、変速制御部41は、アップシフト油圧制御の開始後、上記の実施形態と同様に係合側要素及び解放側要素の係合圧を制御して、中間軸Mの回転速度を変速前の目標回転速度から変速後の目標回転速度に減少させる回転速度制御を行なう。また、変速制御部41は、アップシフト中に、係合側要素の油圧を部分係合圧に制御し、中間軸Mの回転速度の変化率(回転加速度、ここでは回転減速度)を目標加速度(ここでは、目標減速度)に近づくように制御する。そして、学習制御部45は、アップシフト中においても、中間軸Mの回転加速度を計測し、係合側要素の係合圧の学習を行う。従って、変速段の変更としてアップシフトを実行する場合においても、回生トルクの絶対値が減少されることによりアップシフト中の回転速度制御への外乱を減少することができるなど、上記の実施形態におけるダウンシフトを実行する場合と同様に、本発明に係る各作用効果を奏する。
【0079】
(2)上記の実施形態においては、車両用駆動装置1は、変速機制御装置31、エンジン制御装置32、回転電機制御装置33を個別に備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機制御装置31が、エンジン制御装置32、及び回転電機制御装置33の何れか一方と統合され、又はこれらの双方と統合されて、備えられるようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、上記の実施形態における変速機制御装置31の各機能部を備えるものが本発明における「制御装置」に相当する。
【0080】
(3)上記の実施形態においては、回転電機MGの回転軸とエンジンEの出力回転軸E0とがベルト5により駆動連結される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、回転電機MGの回転軸と、エンジンEの出力回転軸E0とが、ベルト5以外の装置により駆動連結される構成とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。この場合は、回転電機MGの回転軸と、エンジンEの出力回転軸E0とが、同軸上に配置され、互いに直結されている構成としてもよい。あるいは、ベルト5と出力回転軸E0の間に、電磁クラッチなどのクラッチを備える構成としてもよい。
【0081】
(4)上記の実施形態においては、ロックアップクラッチLCが係合されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機制御装置31は、ダウンシフトを行っている場合は、ロックアップクラッチLCを解放するように制御することも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0082】
(5)上記の実施形態においては、アイドリング運転条件が成立した場合に、エンジンEの出力トルクが低下される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン制御装置32は、アイドリング運転条件が成立した場合であって、回生トルクが出力されている場合に、エンジンEへの燃料供給を停止するように制御することも本発明の好適な実施形態の一つである。また、この場合、ダウンシフトを行っている間も、燃料供給を停止した状態を維持するようにしてもよいし、ダウンシフトを行っている間は、燃料供給を行うようにしてもよい。
【0083】
(6)上記の実施形態においては、学習禁止判定部46が、変速禁止解除判定部43が回生中変速禁止状態を解除したことによりダウンシフトを行った場合に、学習制御部45による学習を禁止する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、学習禁止判定部46が、学習を禁止した場合であっても、コーストダウンシフト油圧制御の実行中に、回生トルクの絶対値が所定値、例えば、変速許容しきい値X1以下になった場合は、学習の禁止を解除して、解除した時点から学習値(補正量)の更新を行うようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0084】
(7)上記の実施形態においては、変速装置TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置であり、変速段の変更として、変速比の変更を行なうようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0085】
(8)上記の実施形態においては、回生トルク減少制御部44が、回転電機MGの回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行う場合に、回転電機制御装置33に回生トルクの減少指令を伝達し、回転電機制御装置33が、当該減少指令の伝達後、トルク指令値を変更して、回生トルクの絶対値を減少させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、回生トルク減少制御部44が、回転電機MGの回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行う場合に、回転電機制御装置33に、回転電機MGの回生トルクの絶対値を減少させるトルク指令値を伝達し、回転電機制御装置33が、伝達されたトルク指令値を用いて、回転電機MGの出力トルクを制御することも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0086】
(9)上記の実施形態においては、禁止解除判定時間X2は、減速度WOの大きさが小さくなるに従って、長くなるように設定される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、禁止解除判定時間X2は、減速度WOが所定の基準値よりも大きい場合は、減速度WOの大きさによらない一定値となるように設定されることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、内燃機関及び回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を備え、当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより形成される複数の変速段を有すると共に、形成された各変速段の変速比で前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達する変速装置を制御する制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
E:エンジン(内燃機関)
MG:回転電機
I:入力軸
M:中間軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)
W:車輪
E0:出力回転軸
DF:ディファレンシャル装置
TM:変速装置
PC:油圧制御装置
Se1:入力軸回転速度センサ
Se2:中間軸回転速度センサ
Se3:出力回転速度センサ
Se4:アクセル開度センサ
Se5:シフト位置センサ
X1:変速許容しきい値
X2:禁止解除判定時間
1:車両用駆動装置
5:ベルト
31:変速機制御装置
32:エンジン制御装置
33:回転電機制御装置
41:変速制御部
42:回生中変速禁止判定部
43:変速禁止解除判定部
44:回生トルク減少制御部
45:学習制御部
46:学習禁止判定部
47:ロックアップクラッチ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び回転電機に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の摩擦係合要素と、を備え、当該複数の摩擦係合要素の係合及び解放が制御されることにより形成される複数の変速段を有すると共に、形成された各変速段の変速比で前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達する変速装置を制御する制御装置であって、
前記回転電機が回生トルクを出力中に前記変速装置の変速段を変更する判定が行われた場合に、前記回生トルクの絶対値が所定の変速許容しきい値以上であることを条件として前記変速段の変更を禁止する回生中変速禁止状態とし、前記回生トルクの絶対値が前記変速許容しきい値未満となったときに前記回生中変速禁止状態を解除する回生中変速禁止判定部と、
前記回生中変速禁止状態が所定の禁止解除判定時間以上継続した場合に、前記回生中変速禁止判定部による判定結果に関わらず、前記回生中変速禁止状態を解除する変速禁止解除判定部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記変速段の変更中における前記摩擦係合要素の係合圧と前記入力部材の回転変化との関係を学習し、次回以降の前記変速段の変更の際の制御に反映させる学習制御部と、
前記変速禁止解除判定部が前記回生中変速禁止状態を解除したことにより前記変速段の変更を行った場合に、前記学習制御部による学習を禁止する学習禁止判定部と、
を更に備える請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記禁止解除判定時間は、単位時間当たりの前記出力部材の回転速度の減少量である減速度の大きさが小さくなるに従って、長くなるように設定される請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機が回生トルクを出力中に前記変速装置の変速段を変更する場合には、前記回生トルクの絶対値が前記変速許容しきい値未満となるように、前記回転電機の回生トルクの絶対値を減少させるための制御を行う回生トルク減少制御部を更に備える請求項1から3の何れか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17060(P2012−17060A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156742(P2010−156742)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】