説明

半導体デバイス

【課題】低シート抵抗化、リーク電流の低減、および、オーミック電極の接触抵抗の低減を実現する。
【解決手段】基板と、基板上に設けられ第1の窒化物系化合物半導体からなるチャネル層と、チャネル層上に設けられたバリア層と、バリア層上に設けられた第1電極と、チャネル層の上方に設けられた第2電極とを備え、バリア層は、チャネル層上に設けられ第1の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物系化合物半導体からなる障壁層と、第2の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが小さい第3の窒化物系化合物半導体からなり量子準位が形成された量子準位層とを有する半導体デバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物系化合物半導体のGaN(窒化ガリウム)からなるチャネル層と、AlGaNからなるバリア層との間に、多層膜を挿入したHFET(ヘテロ接合電界効果型トランジスタ)が知られている(例えば、特許文献1)。多層膜は、GaNからなる層とAlNからなる層とを、量子準位を形成しない厚さで積層して形成される。
特許文献1 特開2005―354101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
厚さが2nmのAlNからなる層を、チャネル層とバリア層との間に形成することで、2次元電子ガスの分布が、バリア層に広がることを防止できるので、キャリアの移動度を高くできる。しかし、GaNからなるチャネル層、多層膜のAlNからなる層、多層膜のGaNからなる層、および、AlGaNからなるバリア層の間のヘテロ接合で結晶の転位が発生する。これにより、バリア層を貫通する転位の数が増える。転位は電流の経路となるから、バリア層上に形成された電極とチャネル層との間のリーク電流が増加する。
【0004】
また、チャネル層とバリア層との間に、AlNからなる層を挿入すると、バリア層上に形成するオーミック電極と、チャネル層との間のコンタクト抵抗が高くなる。以上のように、キャリアの移動度を高くすることによる低シート抵抗化と、リーク電流の低減、および、オーミック電極の接触抵抗の低減とを両立することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様においては、基板と、基板上に設けられ、第1の窒化物系化合物半導体からなるチャネル層と、チャネル層上に設けられたバリア層と、バリア層上に設けられた第1電極と、チャネル層の上方に設けられた第2電極とを備え、バリア層は、チャネル層上に設けられ、第1の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物系化合物半導体からなる障壁層と、障壁層上に設けられ、第2の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが小さい第3の窒化物系化合物半導体からなり、量子準位が形成された、量子準位層と、を有する半導体デバイスを提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るショットキーバリアダイオード(SBD)の断面図である。
【図2】バリア層のフォトルミネッセンススペクトルである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るSBDの断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るSBDの断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るHFETの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るSBD100(ショットキーバリアダイオード)の断面図である。SBD100は、基板110、バッファ層120、チャネル層130、バリア層140、絶縁層150、オーミック電極160、およびショットキー電極170を備える。
【0010】
チャネル層130は基板110の上方に設けられ、窒化物系化合物半導体からなる。チャネル層130は、GaNで形成してよい。チャネル層130は、不純物がドープされた、あるいは、ノンドープのGaNからなってよい。チャネル層130の厚さは、例えば1000nmである。バリア層140は、チャネル層130上に、障壁層142および量子準位層144が繰り返し積層されて形成される。障壁層142は、チャネル層130を形成する窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい窒化物系化合物半導体からなる。障壁層142は、AlNで形成してよい。量子準位層144は、障壁層142を形成する窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが小さい窒化物系化合物半導体からなる。量子準位層144は、GaNで形成してよい。
【0011】
チャネル層130上に、障壁層142が形成されてよい。チャネル層130とバリア層140との間のヘテロ接合によって、チャネル層130のバリア層140側の界面に2次元電子ガスが発生する。バンドギャップエネルギーの大きい障壁層142がチャネル層130上に接すると、チャネル層130の2次元電子ガスがバリア層140に広がることを防止できる。これにより、チャネル層130におけるキャリアの移動度を高くできる。
【0012】
障壁層142上に量子準位層144が形成される。障壁層142および量子準位層144の厚さが調整されて、障壁層142および量子準位層144によって井戸型ポテンシャルが形成されると、量子準位層144に量子準位が形成される。キャリアが量子準位層144に形成された量子準位を伝わるので、チャネル層130とオーミック電極160との間の接触抵抗が低くなる。また、障壁層142が薄く形成されることにより、障壁層142に形成される転移が少なくなる。これにより、ショットキー電極170とチャネル層130との間のリーク電流が小さくなる。さらに、障壁層142が薄く形成されるので、オーミック電極160とチャネル層130との間の接触抵抗が低くなる。
【0013】
基板110は、サファイア基板であってよい。また、基板110は、Si基板、SiC基板、GaN基板その他の、基板表面上に窒化物系化合物半導体層を形成することができる基板であってもよい。
【0014】
バッファ層120が、基板110とチャネル層130の間に設けられてよい。バッファ層120は、窒化物系化合物半導体からなる層であってよい。例えば、バッファ層120は、AlNからなる層、GaNからなる層、AlGaNからなる層、または、これらを積層した多層膜で形成される。バッファ層120の厚さは、例えば20nmである。基板110として、結晶性のよい窒化物系化合物半導体層を形成することができる基板を用いるときは、バッファ層120を省略して、基板110上にバッファ層120を形成してもよい。
【0015】
バッファ層120、チャネル層130、障壁層142、および、量子準位層144がMOCVD法で形成されてよい。例えば、チャネル層130または量子準位層144を形成する場合、基板110をMOCVD装置に設置し、トリメチルガリウム(TMGa)とアンモニア(NH)とを、MOCVD装置のチャンバーに導入して、GaNをエピタキシャル成長する。また、バッファ層120または障壁層142を形成する場合、トリメチルアルミ(TMAl)とNHとを、MOCVD装置のチャンバーに導入して、AlNをエピタキシャル成長する。
【0016】
他の実施形態として、バッファ層120、チャネル層130、障壁層142、および、量子準位層144の全部または一部がHVPE法(ハイドライド気相成長法)、あるいは、MBE法(分子線エピタキシー法)で形成されてもよい。また、障壁層142は、AlGa1−XN(0<X<1)で形成されてもよい。
【0017】
絶縁層150が、バリア層140上の一部に形成される。絶縁層150は、絶縁性物質からなる層であってよい。例えば、絶縁層150がシリコン酸化膜で形成される。また、絶縁層150は、シリコン窒化膜で形成されてもよい。バリア層140上の全面に絶縁性物質からなる層が形成され、次にオーミック電極160およびショットキー電極170が形成される部分の絶縁性物質からなる層が除去されて開口部を設けて、絶縁層150が形成されてよい。このとき、絶縁層150がCVD法およびフォトリソグラフィー法で形成されてよい。
【0018】
オーミック電極160が、バリア層140上の、絶縁層150が除去された部分に形成されてよい。オーミック電極160はチャネル層130とオーミック接合する材料で形成される。オーミック電極160の材料は、例えば、Tiを含む。オーミック電極160は、Tiからなる層、Alからなる層、およびAuからなる層をこの順に、バリア層140上に積層して形成してよい。
【0019】
ショットキー電極170が、バリア層140上の、絶縁層150が除去された部分に形成されてよい。オーミック電極160とショットキー電極170は所定の距離だけ離れて形成されてよい。ショットキー電極170はチャネル層130とショットキー接合する材料で形成される。ショットキー電極170の材料は、例えば、Niを含む。ショットキー電極170は、Niからなる層およびAuからなる層をこの順に、バリア層140上に積層して形成されてよい。オーミック電極160およびショットキー電極170は、リフトオフ法を用いて、スパッタリングで形成されることができるが、形成方法はこれに限定されない。
【0020】
表1に、SBD100のシート抵抗、キャリアの移動度、キャリア密度、コンタクト抵抗、およびリーク電流を示す。オーミック電極160およびショットキー電極170の電極面積は、それぞれ0.02mmとした。また、オーミック電極160とショットキー電極170との、電極間距離は0.01mmとした。コンタクト抵抗は、オーミック電極160を用いて、Transmission Line Model法により測定した。また、ショットキー電極170に−50Vの電圧を印加し、オーミック電極160とショットキー電極170との間に流れる電流をリーク電流として測定した。
【0021】
障壁層142および量子準位層144の厚さは、X線回折により測定した。表1において、繰り返し回数とは、障壁層142および量子準位層144の積層を繰り返す回数を示す。例えば、繰り返し回数が4とは、チャネル層130から絶縁層150に向かって、障壁層142と量子準位層144とが、それぞれ4層ずつ交互に積層されていることを示す。したがって、障壁層142の厚さと量子準位層144の厚さとを加えたものに、繰り返し回数をかけたものが、バリア層140全体の厚さとなる。
【0022】
【表1】

【0023】
試料番号1のように、障壁層142の厚さが2nmを超えると、コンタクト抵抗が高く、かつ、リーク電流が大きい。これは、障壁層142の一層の厚さが厚いので、抵抗が高く、転位が増加することによる。試料番号6のように、障壁層142の厚さが0.2nm以下であると、コンタクト抵抗が高く、かつ、リーク電流が大きい。AlNからなる障壁層142の厚さが、AlNが単位格子を形成しないほど薄くなると、原子配列の乱れを生じやすく、転移が発生しやすいからである。
【0024】
したがって、試料番号1から6を参照して、障壁層142の厚さは、0.2nmより大きく、2.0nm以下であることが好ましく、0.25nm以上、1.5nm以下であることが、より好ましい。このとき、量子準位層144の厚さは、0.6nm以上、6.0nm以下であることが好ましい。量子準位層144が薄すぎると、量子準位が形成されないからである。このため、障壁層142および量子準位層144を積層する繰り返しの回数は、4回以上、31回以下であることが好ましく、24回以下であることが、より好ましい。
【0025】
試料番号7のように、バリア層140が有する障壁層142の厚さの合計が、バリア層140の全体の厚さに対して9%より小さいと、シート抵抗が高い。バリア層140の全体の組成がGaNよりなので、チャネル層130のキャリア密度が低いことによる。試料番号11のように、バリア層140が有する障壁層142の厚さの合計が、バリア層140の全体の厚さに対して39%より大きいと、リーク電流が大きい。これは、AlNからなる障壁層142によって、欠陥が増えるからである。したがって、試料番号7から11を参照して、バリア層140が有する障壁層142の厚さの合計が、バリア層140の全体の厚さに対して9%以上、39%以下であることが好ましく、15%以上、35%以下であることがより好ましい。
【0026】
試料番号12のように、バリア層140の厚さが48nm以上では、コンタクト抵抗が高く、かつ、リーク電流が大きい。バリア層140が厚いので、バリア層の抵抗が高く、また、欠陥が多いからである。試料番号17のように、バリア層140の厚さが11nmより薄いと、シート抵抗が高い。これは、バリア層140が薄いので、チャネル層130に発生する2次元電子ガスの濃度が低いからである。したがって、試料番号12から17を参照して、バリア層140の厚さが11nm以上で48nmより薄いことが好ましく、15nm以上、40nm以下であることが、より好ましい。
【0027】
表2に、GaNからなる量子準位層144の厚さを1.6nm、AlNからなる障壁層142および量子準位層144を積層する繰り返しの回数を12回としたSBD100のシート抵抗、キャリアの移動度、キャリア密度、コンタクト抵抗、およびリーク電流を示す。障壁層142について、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142をのぞいて、他の障壁層142の厚さはすべて0.55nmで同一とした。チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さは、他の障壁層142の厚さと異なってよい。各試料における、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さを表2に示した。第1の実施形態に係るSBD100においては、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142はチャネル層130に接している。その他の条件および測定方法は表1の測定と同様とした。
【0028】
【表2】

【0029】
チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さが0.75nm以上、1nm以下のときに、シート抵抗が最も低く、これより厚さが薄いと、シート抵抗が高くなる。試料番号18のように、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さが0.25nmでは、シート抵抗がやや高い。障壁層142が薄いので、チャネル層130に発生する2次元電子ガスの濃度が低いからである。試料番号24のように、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さが2nm以上では、リーク電流が大きい。障壁層142が厚いので欠陥が多いからである。また、試料番号24では、移動度がやや低く、シート抵抗がやや高い。これは障壁層142が厚いために欠陥が多いことによる。したがって、チャネル層130に最も近い、最下部に形成された障壁層142の厚さが1.9nm以下であることが好ましく、0.25nm以上、1.5nm以下であることがより好ましく、0.5nm以上、1.25nm以下であることが、さらに好ましい。
【0030】
表3に、障壁層142の厚さを0.55nm、障壁層142および量子準位層144を積層する繰り返しの回数を12回としたSBD100のシート抵抗、キャリアの移動度、キャリア密度、コンタクト抵抗、およびリーク電流を示す。量子準位層144については、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144を除いて、他のすべての量子準位層144の厚さを1.60nmで同一とした。チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144の厚さは、他の量子準位層の厚さと異なってよい。各試料における最上部に形成された量子準位層144の厚さを表3に示した。第1の実施形態に係るSBD100においては、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144はオーミック電極160およびショットキー電極170に接している。その他の条件および測定方法は表1の測定と同様とした。
【表3】

【0031】
試料番号29のように、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144の厚さが15nm以上では、コンタクト抵抗が高い。量子準位層144が厚いからである。また、キャリア密度がやや低く、シート抵抗がやや高い。バリア層140の組成がGaNに近いので、チャネル層130の2次元電子ガスの濃度が低いからである。試料番号25から29を参照して、最上部に形成された量子準位層144の厚さが厚い方が結晶の欠陥が少ないので、リーク電流が小さい。したがって、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144の厚さが0.5nm以上、14nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、6nm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
実施形態1に係るSBD100において、チャネル層130の近くに形成された量子準位層144の厚さが、チャネル層130から離れて形成された他の量子準位層144の厚さより薄くてよい。量子準位層144が薄くなると、量子井戸の幅が狭くなるので、量子準位層144に形成される準位が高くなる。したがって、量子準位層144のコンダクションバンドの傾きが、表面に向けて緩やかになるから、リーク電流が小さい。例えば、量子準位層144のいずれか一層の厚さが、当該量子準位層144よりチャネル層130に近く下側に形成された他の量子準位層144のいずれか一層の厚さより厚い。量子準位層144の一層の厚さが、当該量子準位層144よりチャネル層130に近く下側に形成された他のいずれの量子準位層144の一層の厚さ以上であってよい。
【0033】
量子準位層144が、各層の厚さが同一である複数の量子準位層144を含む複数のグループに分かれ、当該複数のグループのうちの一つに含まれる量子準位層144の各層の厚さが、チャネル層130に近い他のグループに含まれる量子準位層144の厚さより厚くてもよい。あるいは、量子準位層144の各層の厚さがチャネル層130に近いほど薄くてもよい。量子準位層144の各層の厚さが、チャネル層130に近く下側に形成された量子準位層144から、遠くに形成された量子準位層144に向かって、直線的に厚くてもよい。あるいは、障壁層142を挟んで隣接する量子準位層144同士の厚さの差が、チャネル層130から絶縁層150へと上側に向かって徐々に大きくなってもよい。
【0034】
すべての障壁層142の厚さを同一としてよい。あるいは、チャネル層130の近くに形成された障壁層142の厚さが、チャネル層130から離れて形成された他の障壁層142の厚さより厚くてよい。これにより、障壁層142によるチャネル層130への2次元電子ガスの閉じ込め効果が大きくなるので、シート抵抗が小さくなる。例えば、障壁層142のいずれか一層の厚さが、当該障壁層142よりチャネル層130に近く下側に形成された他の障壁層142のいずれか一層の厚さより薄い。障壁層142の一層の厚さが、当該障壁層142よりチャネル層130に近く下側に形成された他のいずれの障壁層142の一層の厚さ以下であってよい。
【0035】
障壁層142が、各層の厚さが同一である複数の障壁層142を含む複数のグループに分かれ、当該複数のグループのうちの一つに含まれる障壁層142の各層の厚さが、チャネル層130に近い他のグループに含まれる障壁層142の厚さより薄くてもよい。あるいは、障壁層142の各層の厚さがチャネル層130に近いほど厚くてもよい。障壁層142の各層の厚さが、チャネル層130に近く下側に形成された障壁層142から、遠くに形成された障壁層142に向かって、直線的に薄くてもよい。また、量子準位層144を挟んで隣接する障壁層142同士の厚さの差が、チャネル層130から絶縁層150へと上側に向かって徐々に小さくなってもよい。
【0036】
表4に、量子準位層144の厚さの例を示す。表4に示した例において、すべての障壁層142の厚さを0.5nmで同一とし、障壁層142および量子準位層144を積層する繰り返しの回数を12回とした。表4においてaの列が、量子準位層144のうちでチャネル層130の最も近くに形成された量子準位層144の厚さを示す。aからlにいくにしたがって、この順に量子準位層144がチャネル層130から遠くなり、lの列が、量子準位層144のうちでチャネル層130から最も離れて形成された量子準位層144の厚さを示す。
【0037】
【表4】

【0038】
試料番号30、31および32のSBD100は、試料番号19のSBDに比べて、ショットキー電極170からチャネル層130へのリーク電流が50%小さい。これは、上記のように、量子準位層144のコンダクションバンドの傾きが緩やかになるからである。
【0039】
表5に障壁層142および量子準位層144の厚さの例を示す。表5に示した例において、障壁層142および量子準位層144を積層する繰り返しの回数は12回である。表5においてaの列が、障壁層142および量子準位層144のうちでチャネル層130に最も近くに形成された障壁層142および量子準位層144の厚さを示す。aからlにいくにしたがって、この順に障壁層142および量子準位層144がチャネル層130から遠くなり、lの列が、障壁層142および量子準位層144のうちでチャネル層130から最も離れて形成された障壁層142および量子準位層144の厚さを示す。すなわち、表5に示したSBD100において、チャネル層130上に厚さ0.75nmのAlNからなる障壁層142が形成され、厚さ3.0nmのGaNからなる量子準位層144上に絶縁層150、オーミック電極160およびショットキー電極170が形成される。
【0040】
【表5】

【0041】
試料番号33のSBD100は、試料番号19のSBDに比べて、ショットキー電極170からチャネル層130へのリーク電流が50%小さく、かつ、シート抵抗が5%低い。これは、上記で説明したように、量子準位層144のコンダクションバンドの傾きが緩やかで、かつ、障壁層142によるチャネル層130への2次元電子ガスの閉じ込め効果が大きいからである。
【0042】
図2は、波長266nmの紫外線励起によるバリア層140のフォトルミネッセンススペクトルである。白い四角が試料番号1、黒い丸が試料番号2、白い三角が試料番号4、バツ印が試料番号5、そして短い横線(−)が試料番号6のバリア層140に対応する。約3.4eVの発光ピークがGaNのバンド間遷移を示す。図2に示すように、バリア層140で3.4eVより高エネルギー側に発光ピークが観察された。これは、バリア層140が有する障壁層142および量子準位層144で井戸型ポテンシャルが形成され、量子準位層144に量子準位が形成されるからである。
【0043】
3.4eVより高エネルギー側の発光ピークは、障壁層142の厚さが薄くなるに従って強度が弱くなり、障壁層142が0.25nmより薄いとほぼ観察されない。障壁層142が薄すぎると量子準位が形成されないからである。また、3.4eVより高エネルギー側の発光ピークは、量子準位層144の厚さが薄くなるに従って、高エネルギー側に移動する。量子準位層144が薄いと、量子井戸の幅が狭く、量子準位が高いからである。試料番号2から4のSBD100では、量子準位層144に量子準位が形成されていることを示す。
【0044】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るSBD200の断面図である。図3において図1と同一の符号を付した要素は、図1において説明した要素と同一の機能および構成を有してよい。SBD200は、基板110、バッファ層120、チャネル層130、バリア層140、絶縁層150、オーミック電極160、およびショットキー電極170を備える。バリア層140は、チャネル層130上に、障壁層142および量子準位層144を積層して形成される。チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144がSBD200の端部で除去され、量子準位層144が除去された部分で絶縁層150が、障壁層142の中でもっともチャネル層130から離れて形成されている障壁層142上に形成されてよい。
【0045】
第2の実施形態に係るSBD200において、バリア層140が有する量子準位層144のうち、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144は、ショットキー電極170が形成される部分で除去されてよい。ショットキー電極170は、チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144が除去された部分に形成されて、障壁層142のなかでチャネル層から最も離れて形成された障壁層142上に形成されてよい。ショットキー電極170が障壁層142に接するので、ショットキーバリアを高くすることができる。これにより、ショットキー電極170からチャネル層130へのリーク電流を小さくすることができる。
【0046】
絶縁層150がバリア層140上に形成され、次にオーミック電極160を形成する部分の絶縁層150を除去して、バリア層140上にオーミック電極160が形成されてよい。オーミック電極160は例えばリフトオフ法で形成できる。
【0047】
絶縁層150、および、チャネル層130から最も離れて最上部に形成された量子準位層144が除去されて、除去された部分にショットキー電極170が形成されてよい。量子準位層144がGaNで形成され、障壁層142がAlNで形成されているときは、障壁層142をエッチングストップ層として、チャネル層130から最も離れて最上部に形成された量子準位層144が除去されてよい。量子準位層144が、塩素系のガスを用いたドライエッチングで除去されてよい。ショットキー電極170は例えばリフトオフ法で形成されてよい。
【0048】
ショットキー電極170は、バリア層140が有する障壁層142のうち、いずれか一つの障壁層142の表面上に形成されてよい。このとき、ショットキー電極170と、表面が接する障壁層142よりも上側に形成された量子準位層144、および障壁層142が存在するときは存在する障壁層142が、ショットキー電極170が形成される部分で除去されてよい。これにより、ショットキー接合のショットキーバリアの高さを調節することができる。
【0049】
図4は、本発明の第3の実施形態に係るSBD300の断面図である。図4において図1と同一の符号を付した要素は、図1において説明した要素と同一の機能および構成を有してよい。SBD300は、基板110、バッファ層120、チャネル層130、バリア層140、絶縁層150、オーミック電極160、およびショットキー電極170を備える。バリア層140は、チャネル層130上に、障壁層142および量子準位層144を積層して形成される。
【0050】
バリア層140は、ショットキー電極170が形成される部分で除去されてよい。ショットキー電極170はチャネル層130上の、バリア層140が除去された部分に形成されてよい。ショットキー電極170がチャネル層130に接するので、ショットキー電極170からチャネル層130へのリーク電流が、バリア層140の結晶欠陥の影響を受けない。したがって、リーク電流を小さくできる。チャネル層130から最も離れて、最上部に形成された量子準位層144がSBD200の端部で除去され、量子準位層144が除去された部分で絶縁層150が、障壁層142の中でもっともチャネル層130から離れて形成されている障壁層142上に形成されてよい。
【0051】
絶縁層150がバリア層140上に形成された後、オーミック電極160が形成される部分の絶縁層150を除去して、オーミック電極160がバリア層140上に形成されてよい。オーミック電極160は例えばリフトオフ法で形成できる。
【0052】
ショットキー電極170を形成する部分の、絶縁層150、および、バリア層140が除去されて、ショットキー電極170が形成されてよい。バリア層140が、塩素系のガスおよびアルゴンガスを用いたドライエッチングで除去されて、チャネル層130が露出されてよい。ショットキー電極170が、例えばリフトオフ法でチャネル層130上に形成される。
【0053】
図5は、本発明の第3の実施形態に係るHFET400(ヘテロ接合電界効果型トランジスタ)の断面図である。図5において図1と同一の符号を付した要素は、図1において説明した要素と同一の機能および構成を有してよい。HFET400は、基板110、バッファ層120、チャネル層130、バリア層140、絶縁層150、ソース電極410、ドレイン電極412、および、ゲート電極414を備える。バリア層140は、チャネル層130上に、障壁層142および量子準位層144を積層して形成される。
【0054】
絶縁層150は、ソース電極410、ドレイン電極412、およびゲート電極414を形成する部分で、除去されてよい。ソース電極410、ドレイン電極412、およびゲート電極414は、絶縁層150が除去された部分でバリア層140上に形成されてよい。ソース電極410およびドレイン電極412は、チャネル層130とオーミック接合する材料で形成されてよい。ソース電極410およびドレイン電極412の材料は、例えば、Tiを含む。オーミック電極160は、Tiからなる層、Alからなる層、およびAuからなる層をこの順にバリア層140上に積層して形成されてよい。
【0055】
ゲート電極414はチャネル層130とショットキー接合する材料で形成されてよい。ゲート電極414の材料は、例えば、Niを含む。ショットキー電極170は、Niからなる層およびAuからなる層をこの順に積層してバリア層140上に形成されてよい。ゲート電極414、ソース電極410およびドレイン電極412は、リフトオフ法を用いて、スパッタリングでバリア層140上に形成されることができるが、形成方法はこれに限定されない。
【0056】
チャネル層130と障壁層142とのヘテロ接合によって、チャネル層130のバリア層140側の界面には、2次元電子ガスが発生する。ゲート電極414の電位によって2次元電子ガスを制御する。
【0057】
ゲート電極414は、バリア層140が有する障壁層142のうち、いずれか一つの障壁層142の表面上に形成されてよい。このとき、ゲート電極414と、表面が接する障壁層142よりも上側に形成された量子準位層144、および障壁層142が存在するときは、ゲート電極414を形成する部分で除去されてよい。これにより、ゲート電極414のショットキー接合のショットキーバリアの高さを調節することができる。
【0058】
バリア層140がゲート電極414を形成する部分で除去され、ゲート電極414がチャネル層130上のバリア層140を除去した部分に形成されてよい。ゲート電極414がチャネル層130に接するので、ゲート電極414からチャネル層130へのリーク電流が、バリア層140の結晶欠陥の影響を受けない。これによりリーク電流を小さくすることができる。
【0059】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0060】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0061】
100 SBD、110 基板、120 バッファ層、130 チャネル層、140 バリア層、142 障壁層、144 量子準位層、150 絶縁層、160 オーミック電極、170 ショットキー電極、200 SBD、300 SBD、400 HFET、410 ソース電極、412 ドレイン電極、414 ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に設けられ、第1の窒化物系化合物半導体からなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられたバリア層と、
前記バリア層上に設けられた第1電極と、
前記チャネル層の上方に設けられた第2電極と、を備え
前記バリア層は、
前記チャネル層上に設けられ、前記第1の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物系化合物半導体からなる障壁層と、
前記障壁層上に設けられ、前記第2の窒化物系化合物半導体よりバンドギャップエネルギーが小さい第3の窒化物系化合物半導体からなり、量子準位が形成された、量子準位層と、が繰り返し積層されている
半導体デバイス。
【請求項2】
前記第2の窒化物系化合物半導体はAlNであり、
前記第3の窒化物系化合物半導体はGaNである請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記バリア層の厚さが15nm以上、40nm以下であり、
前記障壁層の各層の厚さが0.25nm以上、1.5nm以下である請求項1または2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記バリア層が有する障壁層の厚さの合計が、前記バリア層の厚さに対して15%以上である請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記バリア層が有する前記障壁層のうち、前記チャネル層に最も近い前記障壁層の厚さが0.5nm以上、1.5nm以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記バリア層が有する前記障壁層のうち、前記チャネル層に最も近い前記障壁層の厚さが、他の前記障壁層の厚さと異なる請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記バリア層が有する前記量子準位層のうち、前記チャネル層から最も離れて形成された前記量子準位層の厚さが0.5nm以上、10nm以下である請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記バリア層が有する前記量子準位層のうち、前記チャネル層から最も離れて形成された前記量子準位層の厚さが、他の前記量子準位層の厚さと異なる請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
前記量子準位層のいずれか一層の厚さが、前記チャネル層に近い他の前記量子準位層のいずれか一層の厚さより厚い請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項10】
前記量子準位層の一層の厚さが、前記チャネル層に近い他の前記量子準位層の一層の厚さ以上である請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項11】
前記量子準位層が、各層の厚さが同一である複数の前記量子準位層を含む複数のグループに分かれ、
前記複数のグループの一つに含まれる前記量子準位層の各層の厚さが、前記複数のグループの他の一つに含まれ、前記チャネル層に近い他の前記量子準位層の厚さより厚い請求項1から10のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項12】
前記量子準位層の各層の厚さが、前記チャネル層に近いほど薄い請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項13】
前記障壁層のいずれか一層の厚さが、前記チャネル層に近い他の前記障壁層のいずれか一層の厚さより薄い請求項1から12のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項14】
前記障壁層の一層の厚さが、前記チャネル層に近い他の前記障壁層の一層の厚さ以下である請求項1から13のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
前記第1電極が前記チャネル層にオーミック接続し、
前記第2電極が前記チャネル層にショットキー接続する、
請求項1から14のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項16】
前記バリア層上に設けられ、前記チャネル層にオーミック接続した第3電極をさらに備える請求項15に記載の半導体デバイス。
【請求項17】
前記第2電極が前記障壁層の表面に接して設けられた請求項15または16に記載の半導体デバイス。
【請求項18】
前記第2電極が前記チャネル層に接して設けられた請求項15または16に記載の半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−227227(P2012−227227A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91332(P2011−91332)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(510035842)次世代パワーデバイス技術研究組合 (46)
【Fターム(参考)】